特許第6334730号(P6334730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334730
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】追尾処理装置及び追尾処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20180521BHJP
   G01S 13/89 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   G01S13/66
   G01S13/89
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-561449(P2016-561449)
(86)(22)【出願日】2015年10月8日
(86)【国際出願番号】JP2015078625
(87)【国際公開番号】WO2016084498
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-241908(P2014-241908)
(32)【優先日】2014年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 弘行
(72)【発明者】
【氏名】中川 和也
【審査官】 大▲瀬▼ 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−052940(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/128852(WO,A1)
【文献】 特開2014−085274(JP,A)
【文献】 特開2014−102256(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0139361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/00−19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
追尾対象を追尾する処理を行う追尾処理部と、
前記追尾対象の予測位置が含まれるエリア内に存在する物標の混雑の度合いである混雑度を算出する混雑度算出部と、
を備え、
前記追尾処理部は、前記追尾対象を観測して得られた観測位置が存在すると推定される選別領域を特定する選別部を有し、
前記追尾処理部では、前記選別領域の面積が、前記混雑度の値が高いほど小さく設定されることを特徴とする、追尾処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の追尾処理装置において、
前記混雑度算出部は、前記エリア内に存在する前記物標の数としての物標数に基づいて前記混雑度を算出することを特徴とする、追尾処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の追尾処理装置において、
前記エリアが分割された複数のセルのそれぞれに存在する前記物標数をカウントし、前記複数のセル毎にカウントされた前記物標数を、
各前記セルに対応させて記憶するエコー分布生成部を更に備え、
前記混雑度算出部は、前記追尾対象の前記予測位置が含まれる前記セル内に存在する前記物標の前記混雑度を算出することを特徴とする、追尾処理装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の追尾処理装置において、
前記混雑度算出部は、複数のタイミングでの前記物標数に基づいて前記混雑度を算出することを特徴とする、追尾処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の追尾処理装置において、
前記混雑度算出部は、複数のタイミングでの前記混雑度に基づいて平滑混雑度を算出し、
前記追尾処理部は、前記混雑度算出部によって算出された前記平滑混雑度の値に応じて、前記追尾対象を追尾する処理を行うことを特徴とする、追尾処理装置。
【請求項6】
追尾対象を追尾する処理を行うステップと、
前記追尾対象の予測位置が含まれるエリア内に存在する物標の混雑の度合いである混雑度を算出するステップと、を含み、
前記追尾対象を追尾するステップは、前記追尾対象を観測して得られた観測位置が存在すると推定される選別領域を特定するステップを含み、
前記追尾対象を追尾するステップでは、前記選別領域の面積が、前記混雑度の値が高いほど小さく設定されることを特徴とする、追尾処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追尾対象を追尾する追尾処理装置及び追尾処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている追尾処理装置として、例えば特許文献1に開示される追尾処理装置では、追尾対象としてのターゲットの運動状態が推定され、当該運動状態に基づいてターゲットが追尾される。これにより、複数の物標の中から、追尾したい物標を精度よく検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−89056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のように追尾対象となるターゲットを追尾する場合、ターゲットの周囲の環境によっては、ターゲットを正確に追尾できない場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、周囲の環境によらず、追尾対象を正確に追尾することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するため、本発明のある局面に係る追尾処理装置は、追尾対象を追尾する処理を行う追尾処理部と、前記追尾対象の予測位置が含まれるエリア内に存在する物標の混雑の度合いである混雑度を算出する混雑度算出部と、を備え、前記追尾処理部は、前記混雑度算出部によって算出された前記混雑度の値に応じて、前記追尾対象を追尾する処理を行うことを特徴とする。
【0007】
(2)好ましくは、前記混雑度算出部は、前記エリア内に存在する前記物標の数としての物標数に基づいて前記混雑度を算出する。
【0008】
(3)更に好ましくは、前記追尾処理装置は、前記エリアが分割された複数のセルのそれぞれに存在する前記物標数をカウントし、前記複数のセル毎にカウントされた前記物標数を、各前記セルに対応させて記憶するエコー分布生成部を更に備え、前記混雑度算出部は、前記追尾対象の前記予測位置が含まれる前記セル内に存在する前記物標の前記混雑度を算出する。
【0009】
(4)好ましくは、前記混雑度算出部は、複数のタイミングでの前記物標数に基づいて前記混雑度を算出する。
【0010】
(5)好ましくは、前記混雑度算出部は、複数のタイミングでの前記混雑度に基づいて平滑混雑度を算出し、前記追尾処理部は、前記混雑度算出部によって算出された前記平滑混雑度の値に応じて、前記追尾対象を追尾する処理を行う。
【0011】
(6)好ましくは、前記追尾処理部では、前記追尾対象を観測して得られた観測位置に追尾フィルタ処理を施す際に用いられるゲインが、前記混雑度の値に応じて設定される。
【0012】
(7)好ましくは、前記追尾処理部は、前記追尾対象を観測して得られた観測位置が存在すると推定される選別領域を特定する選別部を有し、前記追尾処理部では、前記選別領域の面積が、前記混雑度の値に応じて設定される。
【0013】
(8)上記課題を解決するため、本発明のある局面に係る追尾処理方法は、追尾対象を追尾する処理を行うステップと、前記追尾対象の予測位置が含まれるエリア内に存在する物標の混雑の度合いである混雑度を算出するステップと、を含み、前記追尾対象を追尾する処理を行うステップでは、前記混雑度の値に応じて、該追尾対象を追尾する処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、周囲の環境によらず、追尾対象を正確に追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る追尾処理装置を含むレーダ装置のブロック図である。
図2】自船と、物標エコー像との関係を説明するための模式的な平面図である。
図3】物標エコー像(物標)に関して抽出されるデータを説明するためのデータ一覧表である。
図4】エコー検出部で検出された物標エコー像を示す模式的な平面図である。
図5】混雑度算出処理部の動作を説明するためのフローチャートである。
図6】エコー分布生成部によって生成されたエコー分布を模式的に示す図である。
図7】変形例に係る追尾処理装置の混雑度算出部によって算出される混雑度の算出方法について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る追尾処理装置3の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は、追尾対象として選択された物標を追尾する、追尾処理装置として広く適用することができる。以下では、追尾対象として設定されたターゲットを「追尾物標」という。また、以下では、図中同一または相当部分には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る追尾処理装置3を含む、レーダ装置1のブロック図である。本実施形態のレーダ装置1は、例えば、漁船等の船舶に備えられる舶用レーダである。レーダ装置1は、主に他船等の物標の探知に用いられる。また、レーダ装置1は、追尾物標として選択された物標を追尾することが可能に構成されている。レーダ装置1は、複数の追尾物標を、同時に追尾可能に構成されている。レーダ装置1は、追尾物標の運動状態を推定するように構成されている。本実施形態では、レーダ装置1は、上記運動状態として、追尾物標の平滑速度を算出する。平滑速度とは、追尾物標について推定される、進行方向及び進行速度を示すベクトルである。レーダ装置1は、追尾物標の平滑速度を、画面に表示する。尚、以下では、レーダ装置1が備えられている船舶を「自船」という。
【0018】
図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナユニット2と、追尾処理装置3と、表示器4と、を備えている。
【0019】
アンテナユニット2は、アンテナ5と、受信部6と、A/D変換部7と、を含んでいる。
【0020】
アンテナ5は、指向性の強いパルス状電波を送信可能なレーダアンテナである。また、アンテナ5は、物標からの反射波であるエコー信号を受信するように構成されている。即
ち、物標のエコー信号は、アンテナ5からの送信信号に対する、物標での反射波である。レーダ装置1は、パルス状電波を送信してからエコー信号を受信するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、物標までの距離rを検出することができる。アンテナ5は、水平面上で360°回転可能に構成されている。アンテナ5は、パルス状電波の送信方向を変えながら(アンテナ角度を変えながら)、電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船周囲の平面上の物標を、360°にわたり探知することができる。
【0021】
なお、以下の説明では、パルス状電波を送信してから次のパルス状電波を送信するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。以下では、あるスキャンのことを、「nスキャン」といい、nスキャンから1個前のスキャンのことを、「n−1スキャン」という。尚、nは自然数である。また、以下では、動作について特に説明なき場合、nスキャン時点におけるレーダ装置1の動作を説明する。
【0022】
受信部6は、アンテナ5で受信したエコー信号を検波して増幅する。受信部6は、増幅したエコー信号を、A/D変換部7へ出力する。A/D変換部7は、アナログ形式のエコー信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータ)に変換する。ここで、上記エコーデータは、アンテナ5が受信したエコー信号の強度(信号レベル)を特定するデータを含んでいる。A/D変換部7は、エコーデータを、追尾処理装置3へ出力する。
【0023】
追尾処理装置3は、複数の物標の中から選択された物標を追尾物標として特定し、当該追尾物標を観測して得られた観測位置に追尾フィルタ処理を施すことで、追尾物標を追尾する追尾処理を行うように構成されている。より具体的には、追尾処理装置3は、追尾物標の平滑速度、及び追尾物標の推定位置(平滑位置)等を算出するように構成されている。
【0024】
追尾処理装置3は、CPU、RAM及びROM(図示せず)等を含むハードウェアを用いて構成されている。また、追尾処理装置3は、ROMに記憶された追尾処理プログラムを含む、ソフトウェアを用いて構成されている。
【0025】
上記追尾処理プログラムは、本発明に係る追尾処理方法を、追尾処理装置3に実行させるためのプログラムである。上記ハードウェアとソフトウェアとは、協働して動作するように構成されている。これにより、追尾処理装置3を、信号処理部9、エコー検出部10、及び追尾処理部11等として機能させることができる。追尾処理装置3は、1スキャン毎に、以下に説明する処理を行うように構成されている。
【0026】
追尾処理装置3は、信号処理部9と、エコー検出部(検出部)10と、追尾処理部11と、混雑度算出処理部20と、を有している。
【0027】
信号処理部9は、フィルタ処理等を施すことにより、エコーデータに含まれる干渉成分と、不要な波形データとを除去する。また、信号処理部9は、物標エコー像に関するエコーデータの特徴情報の検出を行うように構成されている。信号処理部9は、処理したエコーデータをエコー検出部10へ出力する。
【0028】
エコー検出部10は、物標エコー像の検出と、物標エコー像に関するエコーデータの特徴情報の検出とを行うように構成されている。即ち、エコー検出部10は、物標エコー像検出部と、特徴情報抽出部とを含んでいる。信号処理部9及びエコー検出部10によって、物標の特徴情報を検出するための検出部が構成されている。
【0029】
エコー検出部10は、信号処理部9からエコーデータを読み出すときの読出しアドレスに基づいて、当該エコーデータに対応する位置までの距離rを求める。また、アンテナ5からエコー検出部10へは、当該アンテナ5が現在どの方向を向いているか(アンテナ角度θ)を示すデータが出力されている。以上の構成で、エコー検出部10は、エコーデータを読み出す際には、当該エコーデータに対応する位置を、距離rとアンテナ角度θとの極座標で取得することができる。
【0030】
エコー検出部10は、エコーデータに対応する位置に物標が存在するか否かを検出するように構成されている。エコー検出部10は、例えば、エコーデータに対応する位置の信号レベル、即ち、信号強度を判別する。エコー検出部10は、信号レベルが所定のしきいレベル値以上である位置には、物標が存在していると判別する。
【0031】
次いで、エコー検出部10は、物標が存在している範囲を検出する。エコー検出部10は、例えば、物標が存在している一まとまりの領域を、物標エコー像が存在している領域として検出する。このようにして、エコー検出部10は、エコーデータを基に、物標エコー像を検出する。この物標エコー像の外郭形状は、物標の外郭形状と略合致する。但し、エコーデータに含まれるノイズ等に起因して、この物標エコー像の外郭形状と、物標の外郭形状とは、わずかに異なる。次に、エコー検出部10は、エコーデータを用いて、物標エコー像に関連する特徴情報を抽出する。
【0032】
図2は、自船100と、物標エコー像120との関係を説明するための模式的な平面図である。図2では、物標エコー像120は、矩形の像として例示されている。また、図2では、物標エコー像120によって特定される物標130が示されている。図2では、物標130の外郭形状は、物標エコー像120と合致した状態で表示されている。
【0033】
図1及び図2に示すように、極座標系では、自船100の位置としての自船位置M1を基準として、自船位置M1からの直線距離が、距離rとして示され、自船位置M1周りの角度が、角度θとして示される。本実施形態では、自船位置M1は、アンテナ5の位置に相当する。エコー検出部10は、物標エコー像120の代表点Pの抽出に際しては、自船位置M1を中心とする、リング状部分の一部形状の像110を用いる。この像110は、第1直線111、第2直線112、第1円弧113、及び第2円弧114によって囲まれた領域の像である。
【0034】
第1直線111は、物標エコー像120の後縁120aのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1と、を通る直線である。第2直線112は、物標エコー像120の前縁120bのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1と、を通る直線である。第1円弧113は、物標エコー像120のうち自船位置M1から最も近い部分120cを通る円弧である。第1円弧113の曲率中心点は、自船位置M1である。第2円弧114は、物標エコー像120のうち自船位置M1から最も遠い部分120dを通る円弧である。第2円弧114は、第1円弧113と同心である。
【0035】
図3は、物標エコー像120(物標130)に関して抽出されるデータを説明するためのデータ一覧表である。図2及び図3に示すように、本実施形態では、信号処理部9及びエコー検出部10は、協働して、物標エコー像120(物標130)について、下記12個のデータを、特徴情報データとして抽出する。即ち、エコー検出部10は、エコーデータ、及び物標エコー像120の画像データを基に、下記12個のテキストデータを抽出する。本実施形態では、12個のテキストデータとは、フラグのデータ201と、距離rpのデータ202と、終了角度θeのデータ203と、角度幅θwのデータ204と、最前縁距離rnのデータ205と、最後縁距離rfのデータ206と、面積ar(形状情報)
のデータ207と、代表点Pの座標データ208と、エコーレベルecのデータ209と、隣接距離(物標の周囲の状態を特定する情報)adのデータ210と、ドップラーシフト量dsのデータ211と、時刻tmのデータ212と、である。
【0036】
上記のフラグは、例えば、物標エコー像120について、所定の状態であるか否か、等を特定するフラグである。このフラグは、「1」又は「0」等に設定されるように構成されている。
【0037】
距離rpは、自船位置M1から物標エコー像120の代表点Pまでの直線距離である。本実施形態では、代表点Pは、像110の中心点である。終了角度θeは、物標エコー像120の検出が終わった時点における、前述のアンテナ角度θである。角度幅θwは、物標エコー像120について、自船位置M1回りの角度方向の幅である。角度幅θwは、第1直線111と第2直線112とがなす角度でもある。最前縁距離rnは、物標エコー像120の部分120cと、自船位置M1との距離である。最後縁距離rfは、物標エコー像120の部分120dと、自船位置M1との距離である。面積arは、リング状部分の一部形状の像110における面積であり、本実施形態では、物標エコー像120の面積として扱われる。
【0038】
エコーレベルecは、物標エコー像120を特定するエコー信号の、強度を示している。この強度は、物標エコー像120を特定するエコー信号のピーク強度であってもよいし、当該エコー信号の強度の平均値であってもよい。本実施形態では、隣接距離adは、例えば、隣接する2つの物標エコー像120間の距離である。ドップラーシフト量dsは、例えば、アンテナ5から放射されたパルス信号の周波数と、物標エコー像120によって特定される物標130で反射したエコー信号の周波数と、の差である。ドップラーシフト量dsを基に、物標エコー像120によって特定される物標130と、自船100との相対速度を求めることが可能である。時刻tmは、物標エコー像120を検出した時点の時刻である。尚、エコー像120のデータは、予備のデータ領域を含んでいてもよい。本実施形態では、信号処理部9及びエコー検出部10は、各物標エコー像120について、上記12個の特徴情報を抽出する。これら12個の特徴情報は、何れも、数値によって表される情報である。
【0039】
エコー検出部10で検出された複数の物標エコー像120の一例を、図4に示している。図4は、エコー検出部10で検出された、物標エコー像120を示す模式的な平面図である。図4では、一例として、nスキャン時点における4つの物標エコー像120(121,122,123,124)を示している。図4では、物標エコー像120(121,122,123,124)の形状は、それぞれ、物標130(131,132,133,134)の形状と合致している。
【0040】
物標エコー像121によって特定される物標131,物標エコー像122によって特定される物標132,及び物標エコー像123によって特定される物標133は、例えば、小型船舶である。物標エコー像124によって特定される物標134は、例えば、大型船舶である。エコー検出部10は、nスキャン時点において、代表点Pとして、物標エコー像121の代表点P1(n)と、物標エコー像122の代表点P2(n)と、物標エコー像123の代表点P3(n)と、物標エコー像124の代表点P4(n)と、を検出している。以下では、物標131が、追尾物標140である場合を例に説明する。
【0041】
図1図4に示すように、エコー検出部10は、各物標エコー像120についての特徴情報データ201〜212を、追尾処理部11及び混雑度算出処理部20へ出力する。
【0042】
[混雑度算出処理部の構成]
図5は、混雑度算出処理部20の動作を説明するためのフローチャートである。以下では、図1及び図5等を参照しながら、混雑度算出処理部20の構成及び動作を説明する。
【0043】
混雑度算出処理部20は、追尾物標140の予測位置Xp(n)周辺に存在する物標の混雑の度合い(混雑度)を算出するように構成されている。混雑度算出処理部20は、エコー分布生成部21と、混雑度算出部22と、を有している。混雑度算出処理部20には、詳しくは後述するように追尾処理部11によって算出された追尾物標のnスキャン時における予測位置Xp(n)が入力される。
【0044】
図6は、エコー分布生成部21によって生成されたエコー分布を模式的に示す図である。以下では、図6に示すxy座標上における位置が(x,y)であるセルBにnスキャン時に含まれる物標の数(物標数)を、N(x,y,n)として説明する。例えば、図6を参照して、N(1,5,n)=3である。なお、図6では、カウントされた物標数を、黒のドットで図示している。また、以下では、座標系がxy座標である例を挙げて説明するが、これに限らず、rθ座標系を用いることもできる。
【0045】
エコー分布生成部21は、エコー検出部10によって検出された各物標130の分布を生成する。具体的には、エコー分布生成部21では、図6を参照して、海上における所定のエリアAが格子状に分割された複数のセルBのそれぞれに存在する物標130の数が、セルB毎にカウントされる(図5のステップS1)。このとき、各セルBに対応して平滑物標数(詳しくは後述する)が記憶されていない場合(ステップS2のNo)、エコー分布生成部21は、セルB毎にカウントされた物標130の物標数を、平滑物標数として各セルBに対応させて記憶する(ステップS3)。なお、エリアAとしては、例えば一例として、一辺が64マイルの正方形状の領域を挙げることができる。また、セルBとしては、例えば一例として、一辺が0.5マイルの正方形状の領域を挙げることができる。なお、本実施形態では、セルB毎に物標数をカウントする例を挙げて説明しているが、これに限らず、例えば一例として、各セルBに含まれる物標の面積を合計した値を、上述した物標数の代わりに用いてもよい。
【0046】
一方、各セルBに対応して平滑物標数が記憶されている場合(ステップS2のYes)、エコー分布生成部21は、各セルBに対応して記憶されている平滑物標数Ns(x,y,n−1)と、直近の物標数N(x,y,n)とに基づいて、平滑物標数Ns(x,y,n)を算出する(ステップS4)。具体的には、エコー分布生成部21は、以下で示す式(1)に基づいて、平滑物標数Ns(x,y,n)を算出する。
【0047】
Ns(x,y,n)=a・N(x,y,n)+(1−a)・Ns(x,y,n−1)…(1)
【0048】
なお、aは、0<a≦1で表される係数であり、例えば一例として0.9である。
【0049】
そして、エコー分布生成部21は、それまでに各セルBに対応して記憶されていた平滑物標数Ns(x,y,n−1)を、直近で算出した平滑物標数Ns(x,y,t)に置き換えて記憶する(ステップS5)。
【0050】
混雑度算出部22は、追尾物標140の予測位置Xp(n)が含まれるセルBの平滑物標数Ns(x,y,n)を用い、混雑度C(n)を算出する(ステップS6)。混雑度C(n)は、平滑物標数Ns(x,y,n)を変数とする任意の関数、すなわち、C(n)=f(Ns(x,y,n))と表すことができる。この式の一例として、例えば、C(n)=Ns(x,y,n)、を挙げることができる。そして、混雑度算出部22は、過去に算出された上記セルBの混雑度であって該セルBに対応して記憶されている平滑混雑度C
s(n−1)と、直近で算出した混雑度C(n)とに基づいて、平滑混雑度Cs(n)を算出する(ステップS7)。具体的には、混雑度算出部22は、以下の式(2)に基づいて、平滑混雑度Cs(n)を算出する。そして、混雑度算出部22は、それまで記憶されていた平滑混雑度Cs(n−1)を、直近で算出した平滑混雑度Cs(n)に置き換えて記憶する(ステップS8)。
【0051】
Cs(n)=a・C(n)+(1−a)・Cs(n−1)−1…(2)
【0052】
但し、この式の算出結果が0未満となる場合には、Cs(n)の値は0として設定される。また、aは、0<a≦1で表される係数であり、例えば一例として0.9である。
【0053】
混雑度算出部22で算出された平滑混雑度Cs(n)は、追尾処理部11に通知される(ステップS9)。追尾処理部11は、詳しくは後述するが、混雑度算出部22から通知された平滑混雑度Cs(n)の値に応じた追尾処理を行う。
【0054】
追尾処理部11は、複数の物標130のなかから、追尾物標140を特定し、且つ、当該追尾物標140の追尾処理を行うように構成されている。追尾物標140は、例えば、表示器4に表示された、複数の物標130を示すシンボル等を基に、オペレータによって選択される。オペレータによる、追尾物標140の選択指令は、例えば、オペレータが操作装置(図示せず)を操作することにより、発せられる。本実施形態では、追尾処理部11は、特に説明無き限り、X−Y座標系を基準に、処理を行うように構成されている。
【0055】
追尾処理部11は、nスキャン時点(最新のスキャン時点)における、追尾物標140の平滑速度Vs(n)を算出するように構成されている。また、追尾処理部11は、平滑速度Vs(n)を表示器4に表示させるように、構成されている。
【0056】
追尾処理部11は、特徴情報メモリ12と、選別部13と、関連付け部14と、運動推定部15と、を有している。
【0057】
特徴情報メモリ12は、信号処理部9及びエコー検出部10から出力されたデータを蓄積するように構成されている。特徴情報メモリ12は、(n−T)スキャン時点から、nスキャン時点までの各時点における、全ての物標エコー像120について、特徴情報データ201〜212を蓄積している。尚、定数Tは、予め設定されている値であり、例えば、数十程度である。
【0058】
選別部13は、エコー選別処理を行うように構成されている。具体的には、選別部13は、nスキャン時点(最新のスキャン時点)において、観測位置Xo(n)(追尾物標140の追尾代表点)が存在すると推定される領域を特定する。
【0059】
具体的には、選別部13は、追尾物標140について、運動推定部15で算出された予測位置Xp(n)の座標データを参照する。即ち、選別部13は、nスキャン時点において、追尾代表点Pが存在していると推定される予測位置Xp(n)の座標データを取得する。選別部13は、当該予測位置Xp(n)を中心とする選別領域S(n)を設定する。この選別領域S(n)は、例えば、上記予測位置Xp(n)を中心とする円状の領域である。関連付け部14は、この選別領域S(n)内を検索する。
【0060】
ここで、選別部13は、混雑度算出部22によって算出された平滑混雑度Cs(n)の値に応じて、選別領域S(n)の範囲を決定する。具体的には、選別部13は、例えば一例として、平滑混雑度Cs(n)が所定の閾値N以下の場合、選別領域S(n)の半径
をr1として設定する。一方、選別部13は、平滑混雑度Cs(n)が所定の閾値Nを超える場合、選別領域S(n)の半径を、r1よりも小さいr2として設定する。
【0061】
関連付け部14は、上記選別領域S(n)内に存在する1つ又は複数の物標エコー像の追尾代表点Pのなかから、追尾物標140の観測位置Xo(n)を、過去の追尾ターゲット情報(エコー面積、位置誤差等)から算出される各追尾代表点Pの尤度に基づき特定する。
【0062】
具体的には、例えば、関連付け部14は、各追尾代表点Pについて複数の尤度Lh(n=1,2,…)を算出し、これらの尤度Lhを合成した結合尤度が最も高い追尾代表点Pを、追尾物標140の観測位置Xo(n)として運動推定部15へ出力している。なお、上述した尤度Lhとは、各追尾代表点Pが、追尾物標の追尾代表点Pである尤もらしさを示す度合いであって、追尾物標の特徴量と、選別領域S(n)内に存在する各物標の特徴量とに基づいて算出される。ここでの特徴量としては、例えば一例として、物標のエコー面積が挙げられる。
【0063】
関連付け部14では、各尤度Lhに対応して閾値Na(n=1,2,…)が設定されている。そして、関連付け部14は、追尾代表点Pの各尤度Lhを対応する閾値Naと比較し、その比較結果に応じて、その追尾代表点Pが、追尾物標の追尾代表点Pの候補となり得るか否かを判定する。具体的には、関連付け部14は、選別領域S(n)内に存在するある追尾代表点Pにおける尤度Lhが閾値Na以上の場合、当該追尾代表点Pを、追尾物標の追尾代表点Pの候補になり得る追尾代表点であると判定する。一方、前記ある追尾代表点Pにおける尤度Lhが閾値Na未満の場合、当該追尾代表点Pを、追尾物標の追尾代表点Pの候補から除外する。
【0064】
ここで、関連付け部14は、平滑混雑度Cs(n)の値に応じて上記閾値Naの値を決定する。具体的には、関連付け部14は、例えば、平滑混雑度Cs(n)が所定の閾値N以上の場合、閾値Naの値を高くする。一方、平滑混雑度Cs(n)が所定の閾値N未満の場合、閾値Naの値を低くする。
【0065】
運動推定部15は、X−Y座標系において、追尾物標140の追尾処理を行うように構成されている。本実施形態では、運動推定部15は、地球の表面に対する向きが一定である座標系を用いて、追尾物標140の追尾処理を行う。
【0066】
運動推定部15は、観測誤差(アンテナ5が回転する際に発生するぶれ等に起因する誤差)の影響を平滑化するために設けられている。本実施形態では、運動推定部15は、追尾フィルタ処理として、α−βフィルタ処理を行う。運動推定部15は、追尾物標140の予測位置Xp(n)と、平滑位置Xs(n)と、平滑速度Vs(n)と、を算出するように構成されている。
【0067】
具体的には、運動推定部15は、下記式(3)、(4)、(5)を演算する。
予測位置Xp(n)=Xs(n−1)+T×Vs(n−1)…(3)
平滑位置Xs(n)=Xp(n)+α{Xo(n)−Xp(n)}…(4)
平滑速度Vs(n)=Vs(n−1)+(β/T){Xo(n)−Xp(n)}…(5)
【0068】
尚、平滑位置Xs(n)は、nスキャン時点における、予測位置Xp(n)と、観測位置Xo(n)とに関連付けられた位置を示す。平滑位置Xs(n)は、nスキャン時点において、追尾物標140の追尾代表点P1が到達していると推定される位置を示す。また、平滑速度Vs(n)は、nスキャン時点における、追尾代表点P1の推定速度を示して
いる。
【0069】
また、Tは、運動推定部15が前回の平滑処理を行ってから上記の平滑処理を行うまでに経過した時間であり、1スキャンに要する時間に相当する。また、αは、平滑位置Xs(n)を算出するために用いられるゲインである。βは、平滑速度Vs(n)を算出するために用いられるゲインである。
【0070】
ゲインαは、X軸方向の成分αx、及びY軸方向の成分αyを有している。ゲインαは、ゲインα(αx,αy)としても表現できる。成分αxは、上記式(4)において、X軸方向の成分を算出する際に用いられる。成分αyは、上記式(4)において、Y軸方向の成分を算出する際に用いられる。
【0071】
また、ゲインβは、X軸方向の成分βx、及びY軸方向の成分βyを有している。ゲインβは、ゲインβ(βx,βy)としても表現できる。成分βxは、上記式(5)において、X軸方向の成分を算出する際に用いられる。また、成分βyは、上記式(5)において、Y軸方向の成分を算出する際に用いられる。
【0072】
平滑位置Xs(n)は、予測位置Xp(n)と、観測位置Xo(n)と、を結ぶ線分LS1上に位置する。
【0073】
上記の構成によると、ゲインαが小さいほど、平滑位置Xs(n)は、予測位置Xp(n)に近くなる。また、ゲインβが小さいほど、平滑速度Vs(n)の変化量は、小さくなる。このため、運動推定部15での算出結果は、平滑化された度合いが大きくなり、追尾物標140の観測誤差に起因するばらつき量が小さくなる。但し、追尾物標140の追尾代表点P1の変針運動を、運動推定部15の演算結果に反映させる際の応答は、ゲインα,βが小さいほど、遅くなる。
【0074】
一方、ゲインαが大きいほど、平滑位置Xs(n)は、観測位置Xo(n)に近くなる。また、ゲインβが大きいほど、平滑速度Vs(n)を平滑化する度合いは、小さくなる。このため、運動推定部15は、追尾物標140の追尾代表点P1の変針運動を、追尾フィルタ処理において、応答性よく反映できる。このため、運動推定部15は、追尾物標140の変針運動に対する追従性を高めることができる。尚、変針運動とは、追尾物標140の向きを変える運動をいう。但し、ゲインα,βが大きいほど、平滑位置Xs(n)及び平滑速度Vs(n)について、スキャン時点毎の変動量が大きくなってしまう。
【0075】
そして、運動推定部15は、混雑度算出部22から通知された平滑混雑度Cs(n)の値に応じて、ゲインα,βの値を設定する。ゲインα,βは、閾値N〜N(0<N<N<N)と平滑混雑度Cs(n)との関係性に応じて、例えば一例として、以下のように表すことができる。
【0076】
α=β=0(N<Cs(n)の場合)
α=0.5α、β=0.5β(N<Cs(n)≦Nの場合)
α=α、β=β(N<Cs(n)≦Nの場合)
α=1.5α、β=1.5β(Cs(n)≦Nの場合)
但し、α及びβは、所定の定数である。
【0077】
上述のように、平滑混雑度Cs(n)に応じてゲインα,βの値を設定することにより、以下のような効果を得ることができる。
【0078】
平滑混雑度が非常に高い場合(本実施形態の場合、N<Cs(n))、追尾物標の予
測位置付近に多数の物標が存在すると推測される。この場合、関連付け部14による関連付け処理を行う際に、追尾対象が、本来追尾したい物標から他の物標に乗り移ってしまう可能性(いわゆる乗り移りが生じる可能性)が高くなる。よって、このように乗り移りの可能性が高い状況下においては、ゲインα及びβを0に設定していわゆる予測追尾を行うことにより、追尾対象の乗り移りを防止できる。なお、予測追尾とは、平滑位置Xs(n)を算出する際に観測位置Xo(n)を考慮せず、予測位置Xp(n)を平滑位置として算出する追尾のことである。
【0079】
平滑混雑度がやや高い場合(本実施形態の場合、N<Cs(n)≦N)、追尾物標の予測位置付近には比較的多数の物標が存在すると推測される。この場合、関連付け部14による関連付け処理を行う際に、乗り移りが生じる可能性がやや高くなる。よって、このように乗り移りの可能性がやや高い状況下においては、ゲインα及びβをやや低い値(本実施形態の場合、α=0.5α、β=0.5β)に設定して、いわゆる予測追尾に近い追尾処理を行うことにより、追尾対象の乗り移りの可能性を抑えつつ、追尾物標の変針運動にもある程度対応可能な追尾処理を行うことができる。
【0080】
一方、平滑混雑度が0に近い値の場合(本実施形態の場合、Cs(n)≦N)、追尾物標の予測位置付近にはほとんど物標が存在していない、又は追尾物標の予測位置付近には物標が存在していないと推測される。この場合には、上述のような乗り移りの危険性が非常に低いため、ゲインα及びβの値を通常時よりも大きな値(α=1.5α、β=1.5β)に設定することにより、追尾物標の変針運動に対する追従性を高める追尾処理を行うことができる。
【0081】
なお、平滑混雑度がN<Cs(n)≦Nの場合、ゲインα及びβの値は、追尾対象の乗り移りのリスク低減、及び追尾物標に対する追従性の確保、の双方のバランスのとれた値(α=α、β=β)に設定される。
【0082】
運動推定部15は、上述のように平滑混雑度に応じて適切に設定されたゲインα,βを用いて算出した各データを、選別部13、混雑度算出処理部20、及び表示器4へ出力する。具体的には、運動推定部15は、予測位置Xp(n)の座標データを、選別部13及び混雑度算出処理部20へ出力する。選別部13では、当該データは、(n+1)スキャン時点における選別処理に用いられる。一方、混雑度算出処理部20では、当該データは、混雑度の算出対象となるセルBを特定するために用いられる。また、運動推定部15は、平滑位置Xs(n)、及び平滑速度Vs(n)を特定するデータを、表示器4へ出力する。
【0083】
表示器4は、例えばカラー表示可能な液晶ディスプレイである。表示器4は、各物標エコー像120の画像データを用いて、表示画面に、各物標エコー像120を表示する。また、表示器4は、平滑速度Vs(n)を、画像として表示する。これにより、表示器4の表示画面には、追尾物標140(物標エコー像121)について、平滑速度Vs(n)を示す画像が表示される。レーダ装置1のオペレータは、表示器4に表示されたレーダ映像を確認することにより、追尾物標140の運動状態を確認することができる。
【0084】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る追尾処理装置3では、追尾処理部が、追尾物標140の予測位置Xp(n)が含まれるエリア(本実施形態の場合、セルB)内に存在する物標の混雑度(本実施形態の場合、平滑混雑度Cs(n))に応じて、追尾処理を行っている。こうすると、追尾対象が本来追尾したい物標から他の物標に乗り移ってしまう可能性(乗り移りの可能性)に応じて、追尾処理を適切に制御することができる。具体的には、本実施形態の場合、乗り移りの可能性が高い状況下、すなわち平滑混雑度Cs(n)が高い
状況下においては予測追尾を行っているため、乗り移りを防止することができる。一方、乗り移りの可能性が低い状況下、すなわち平滑混雑度Cs(n)が低い状況下においては、追尾物標の変針運動に対する追従性が高い追尾処理を行っている。
【0085】
従って、追尾処理装置3によれば、周囲の環境によらず、追尾対象を正確に追尾できる。
【0086】
また、追尾処理装置3では、追尾物標140の予測位置Xp(n)が含まれるエリア内に存在する物標の物標数に基づいて混雑度(平滑混雑度Cs(n))を算出しているため、混雑度を適切に算出することができる。
【0087】
また、追尾処理装置3では、所定のエリアAが分割された複数のセルBのうち、追尾対象の予測位置Xp(n)が含まれるセルBの混雑度(平滑混雑度Cs(n))が算出されている。これにより、追尾対象が含まれる比較的限られた領域を対象として算出された混雑度に基づいて追尾対象の追尾が行われるため、より正確に追尾対象を追尾できる。
【0088】
また、追尾処理装置3によれば、複数のタイミングでの物標数に基づいて混雑度を算出することができる。こうすると、例えば一例として、そのエコー強度が物標として算出される閾値前後となるような物標、の物標数が時間的に平均化されるため、混雑度がタイミング毎に大きく変動してしまうことを抑制できる。
【0089】
また、追尾処理装置3によれば、複数のタイミングでの混雑度に基づいて平滑混雑度を算出することができる。こうすると、上述の場合と同様、そのエコー強度が物標として算出される閾値前後となるような物標、の物標数に基づいて算出される混雑度が時間的に平均化されるため、混雑度がタイミング毎に大きく変動してしまうことを抑制できる。
【0090】
また、追尾処理装置3では、追尾フィルタ処理を施す際に用いられるゲインα及びβが、平滑混雑度Cs(n)の値に応じて設定されている。具体的には、乗り移りが発生する可能性が高い場合(平滑混雑度Cs(n)が高い場合)には、ゲインα及びβが低い値に設定される。これにより、いわゆる予測追尾が行われるため、追尾対象が本来追尾したい物標から他の物標に乗り移ってしまう可能性を低減できる。一方、乗り移りが発生する可能性が低い場合(平滑混雑度Cs(n)が低い場合)には、ゲインα及びβが高い値に設定される。これにより、追尾物標の変針運動に対する追従性が高い追尾処理を行うことができる。
【0091】
また、追尾処理装置3では、選別領域S(n)の面積が、平滑混雑度Cs(n)の値に応じて設定される。具体的には、乗り移りが発生する可能性が高い場合(平滑混雑度Cs(n)が高い場合)には、選別領域S(n)の面積が小さく設定される。これにより、追尾対象となり得る物標の候補を絞り込むことができるため、乗り移りの危険性を低減できる。一方、乗り移りが発生する可能性が低い場合(平滑混雑度Cs(n)が低い場合)には、選別領域S(n)の面積が大きく設定される。これにより、大きく変針した追尾物標についても追尾対象となり得る物標の候補とすることができるため、追尾物標の変針運動に対する追従性が高い追尾処理を行うことができる。
【0092】
また、追尾処理装置3では、関連付け部14で用いられる閾値Naの値が、平滑混雑度Cs(n)の値に応じて設定される。乗り移りが発生する可能性が高い場合(平滑混雑度Cs(n)が高い場合)には、閾値Naの値が大きく設定される。これにより、追尾対象となり得る物標の候補を絞り込むことができるため、乗り移りの危険性を低減できる。一方、乗り移りが発生する可能性が低い場合(平滑混雑度Cs(n)が低い場合)には、閾値Naの値が小さく設定される。これにより、大きく変針した追尾物標についても
追尾対象となり得る物標の候補とすることができるため、追尾物標の変針運動に対する追従性が高い追尾処理を行うことができる。
【0093】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0094】
(1)上記実施形態では、あるスキャン時にカウントされた物標数を、各スキャンに対応する物標数としているが、これに限らない。具体的には、各スキャン時にカウントされた物標数と、当該スキャン前後の他のスキャン時にカウントされた物標数とを平均化した値を、前記各スキャンに対応する物標数としてもよい。
【0095】
(2)上記実施形態では、ゲインα,βの値を、平滑混雑度Cs(n)の値と閾値N〜Nの値との関係性に応じて段階的に設定したが、この限りでない。具体的には、ゲインα,βの値が平滑混雑度Cs(n)の値に応じて線形的に変化するように、ゲインα,βの値を設定してもよい。ゲインα,βの値は、例えば一例として、以下のように表すことができる。
【0096】
α=ν・α
β=ν・β
但し、N<Cs(n)の場合、ν=0であり、N≧Cs(n)の場合ν=1−(Cs(n)−N)/(N−N)である。また、α及びβは、所定の定数である。
【0097】
ゲインα,βを上述した式を用いて設定することにより、平滑混雑度Cs(n)の値がN以上となる場合におけるゲインα,β値を、平滑混雑度Cs(n)の値に応じて線形的に変化させることができる。これにより、ゲインα,β値を、平滑混雑度Cs(n)の値に応じてより適切に設定することができる。
【0098】
また、上記実施形態では、選別領域S(n)の範囲を、平滑混雑度Cs(n)の値と閾値Nとの関係性に応じて段階的に設定したが、この限りでない。具体的には、上述した場合と同じように、選別領域S(n)の範囲が平滑混雑度Cs(n)の値に応じて線形的に変化するように、選別領域S(n)の範囲を設定してもよい。
【0099】
(3)図7は、変形例に係る追尾処理装置の混雑度算出部22によって算出される混雑度の算出方法について説明するための模式図である。図7では、複数のセルB(図6参照)のうち、追尾物標の予測位置Xp(n)付近のセルBを示している。上記実施形態では、追尾物標の予測位置Xp(n)が含まれるセルBにおける平滑物標数Ns(n)を、混雑度C(n)として算出したが、これに限らない。本変形例では、混雑度C(n)を、線形補完を用いて算出している。
【0100】
本変形例では、混雑度算出部22が混雑度C(n)を算出する際、複数のセルBに対応して記憶されている平滑物標数Ns(n)のうち、以下に示す条件を満たすセルBの平滑物標数Ns(n)が用いられる。具体的には、混雑度C(n)は、図7を参照して、各中心点CP〜CPで囲まれる正方形状の領域内に予測位置Xp(n)が含まれる4つのセルB(図7では、B〜B)のそれぞれに対応して記憶される平滑物標数Ns(n)(図7では、Ns(n)〜Ns(n))を用いて、以下の式(6)によって算出される。そして、本変形例の混雑度算出部22は、上記実施形態の場合と同様、それまで記憶されていた平滑混雑度C(n−1)を、直近で算出した平滑混雑度C(n)に置き換えて記憶する。
【0101】
C(n)=Ns'(n)・ωy+Ns"(n)・(1−ωy)…(6)
【0102】
但し、Ns'(n)=Ns(n)・(1−ωx)+Ns(n)・ωx、Ns"(n)=Ns(n)・(1−ωx)+Ns(n)・ωx、である。なお、ωxは、CPからCPまでの距離(すなわち、CPからCPまでの距離)に対する、CPからXp(n)までの距離のx軸方向成分(すなわち、CPからXp(n)までの距離のx軸方向成分)の比、である。また、ωyは、CPからCPまでの距離(すなわち、CPからCPまでの距離)に対する、CPからXp(n)までの距離のy軸方向成分(すなわち、CPからXp(n)までの距離のy軸方向成分)の比、である。
【0103】
上述のように算出された平滑混雑度C(n)は、上記実施形態の場合と同様、追尾処理部11に通知される。そして、追尾処理部11は、上記実施形態の場合と同様、平滑混雑度C(n)の値に応じた追尾処理を行う。
【0104】
以上のように、本変形例に係る追尾処理装置によれば、上述した実施形態に係る追尾処理装置の場合と同様、周囲の環境によらず、追尾対象を正確に追尾できる。
【0105】
そして、本変形例に係る追尾処理装置によれば、線形補完を用いて混雑度を算出しているため、物標の混雑度をより正確に算出することができる。
【0106】
(4)上記実施形態では、追尾物標の予測位置Xp(n)が含まれるセルBにおける平滑物標数Ns(x,y,n)を、混雑度C(n)として算出したが、これに限らない。具体的には、平滑物標数を算出せずに、nスキャン時における物標数N(x,y,n)を、混雑度C(n)として算出してもよい。
【0107】
(5)上記実施形態及び変形例では、平滑混雑度(又は混雑度)に応じて、選別領域S(n)の範囲、ゲインα,βの値、及び閾値Naの値を制御していたが、これに限らず、これらのうちの少なくとも1つが、混雑度に応じた変数として制御されればよい。
【符号の説明】
【0108】
1 レーダ装置
3 追尾処理装置
11 追尾処理部
22 混雑度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7