(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
陽子ビームは、加速器により、ターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速されて、前記ターゲットとの原子核反応により中性子を生成し、
前記ターゲットは、金属製である、
請求項2に記載の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【背景技術】
【0002】
原子科学の発展に従って、コバルト60、線形加速器、電子ビームなどの放射線療法は、すでにがん治療の主な手段の一つとなった。しかし、従来の光子または電子療法は、放射線そのものの物理的条件の制限で腫瘍細胞を殺すとともに、ビーム経路上の数多くの正常組織に損傷を与える。また、腫瘍細胞により放射線に対する感受性の度合いが異なっており、従来の放射線療法では、放射線耐性の高い悪性腫瘍(例、多形神経膠芽腫(glioblastoma multiforme)、黒色腫(melanoma))に対する治療効果が良くない。
【0003】
腫瘍の周囲の正常組織への放射線損傷を軽減するすために、化学療法(chemotherapy)における標的療法が、放射線療法に用いられている。また、放射線耐性の高い腫瘍細胞に対し、現在では生物学的効果比(relative biological effectiveness, RBE)の高い放射線源が積極的に開発されている(例えば、陽子線治療、重粒子治療、中性子捕捉療法など)。このうち、中性子捕捉療法は、上記の2つの構想を結びつけたものである。例えば、ホウ素中性子捕捉療法では、ホウ素含有薬物が腫瘍細胞に特異的に集まり、高精度な中性子ビームの制御と合わせることで、従来の放射線と比べて、より良いがん治療オプションを提供する。
【0004】
ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy, BNCT)はホウ素(
10B)含有薬物が熱中性子に対し大きい捕獲断面積を持つ特性を利用し、
10B(n,α)
7Li中性子捕捉と核分裂反応により
4Heと
7Liという2種の重荷電粒子を生成する。
図1と
図2は、それぞれホウ素中性子捕捉の反応概略図と
10B(n,α)
7Li中性子捕捉の原子核反応式を示す。2種の重荷電粒子は平均エネルギーが2.33MeVであり、高い線エネルギー付与(Linear Energy Transfer, LET)及び短い射程という特徴を持つ。α粒子の線エネルギー付与と射程はそれぞれ150 keV/μm、8μmであり、
7Li重荷粒子の場合、それぞれ175 keV/μm、5μmである。2種の粒子の合計射程が細胞のサイズに近いので、生体への放射線損害を細胞レベルに抑えられる。ホウ素含有薬物を選択的に腫瘍細胞に集め、適切な中性子源と合わせることで、正常組織に大きな損害を与えないで腫瘍細胞を部分的に殺せる。
【0005】
ホウ素中性子捕捉療法の効果は、腫瘍細胞のある箇所でのホウ素含有薬物の濃度と熱中性子数によって決まるので、2次元放射線癌治療(binary cancer therapy)とも呼ばれる。このことから見れば、ホウ素含有薬物の開発の他に、中性子源の放射フラックスと品質の向上も、ホウ素中性子捕捉療法にとって非常に重要である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
中性子捕捉療法は効果的ながん治療の手段として、近年ではその適用が増加しており、そのうち、ホウ素中性子捕捉療法が最も一般的なものとなった。ホウ素中性子捕捉療法に用いられる中性子は原子炉または加速器で供給できる。本発明の実施形態は加速器ホウ素中性子捕捉療法(Accelerated-based Boron Neutron Capture Therapy)を例とする。加速器ホウ素中性子捕捉療法の基本モジュールは、一般的に荷電粒子(陽子、デューテリウム原子核など)の加速に用いられる加速器、ターゲット、熱除去システム及びビーム整形アセンブリを含む。加速後の荷電粒子と金属ターゲットとの作用により中性子が生成され、必要な中性子収率及びエネルギー、提供可能な加速荷電粒子のエネルギー及び電流、及び、金属ターゲットの物理的・化学的特性などにより、適切な原子核反応が選定される。よく検討されている原子核反応は
7Li(p,n)
7Be及び
9Be(p,n)
9Bであり、この両方はすべて吸熱反応でエネルギー閾値がそれぞれ1.881MeVと2.055MeVである。ホウ素中性子捕捉療法の理想的中性子源はkeVエネルギーレベルの熱外中性子なので、理論的には、エネルギーが閾値よりやや高い陽子によるリチウムターゲットへの衝撃で、比較的低いエネルギーの中性子が生成され、あまり多くの減速処理を要しないで臨床適用が可能になる。しかし、リチウム(Li)及びベリリウム(Be)の2種のターゲットは、閾値エネルギーの陽子と作用する断面が大きくないので、十分な中性子束を確保するために、一般的には比較的高いエネルギーを持つ陽子で原子核反応を引き起こされる。
【0020】
理想的なターゲットには、中性子収率が高く、生成した中性子のエネルギー分布が熱外中性子エネルギー領域(後ほど詳細に説明)に近く、強い透過性のある放射線をあまり多く生成せず、安全かつ簡単で操作しやすく、耐高温性を持つなどの特性が必要とされるが、実際にすべての要件を満たす原子核反応は見つからないので、本発明の実施形態ではリチウムターゲットを採用する。ただし、この分野の技術者がよく知っていることとして、ターゲットの材料に、上記の金属材料を除くその他の金属材料を採用できる。
【0021】
熱除去システムの要件は、選定された原子核反応により異なる。例えば、
7Li(p,n)
7Beの場合、金属ターゲット(リチウム)の低い融点と低い熱伝導率により、熱除去システムの要件は
9Be(p,n)
9Bより厳しくなる。本発明の実施形態では、
7Li(p,n)
7Beの原子核反応を採用する。
【0022】
ホウ素中性子捕捉療法の中性子源は原子炉或いは加速器による荷電粒子とターゲットとの原子核反応によるものであり、生成するのはすべて混合放射線場である。即ち、ビームは低エネルギーから高エネルギーまでの中性子及び光子を含む。深部腫瘍のホウ素中性子捕捉療法について、熱外中性子を除くその他の放射線の含有量が多ければ多いほど、正常組織での非選択的線量沈着の割合も大きくなるので、これらの不必要な線量を引き起こす放射線をできる限り低減する必要がある。エアビームの品質要素の他、中性子による人体における線量分布をさらに理解するために、本発明の実施形態は、人間の頭部組織の人工器官を用いて線量を算出し、そして人工器官におけるビームの品質要素を中性子ビーム設計の参考とする。後ほど詳細に説明する。
【0023】
国際原子力機関(IAEA)は臨床ホウ素中性子捕捉療法に用いられる中性子源について、エアビームの品質要素に関する5提案を出している。この5提案は異なる中性子の長所と短所を比較するために利用できる他、中性子生成経路の選定及びビーム整形アセンブリの設計をする時の参考として利用できる。この5提案は次の通りである。
・熱外中性子束(epithermal neutron flux) > 1 x 10
9 n/cm
2s
・高速中性子汚染(fast neutron contamination) < 2 x 10
-13 Gy-cm
2/n
・光子汚染(photon contamination) < 2 x 10
-13 Gy-cm
2/n
・熱中性子束と熱外中性子束との比(thermal to epithermal neutron flux ratio) < 0.05
・中性子流とフラックスとの比(epithermal neutron current to flux ratio) > 0.7
注:熱外中性子エネルギー領域は0.5eV〜40keVであり、熱中性子エネルギー領域は0.5eVより小さく、高速中性子エネルギー領域は40keVより大きい。
【0024】
1.熱外中性子束:
中性子束と腫瘍におけるホウ素含有薬物の濃度とで臨床治療の時間が決まる。腫瘍におけるホウ素含有薬物の濃度が十分に高ければ、中性子束への要求を緩められる。それに対し、腫瘍におけるホウ素含有薬物の濃度が低ければ、高フラックスの熱外中性子で腫瘍に十分な線量を与える必要がある。IAEAの提案では、熱外中性子束について、平方センチメートル当たり1秒の熱外中性子が10
9個より多いことを求めている。既存のホウ素含有薬物にとって、このフラックスでの中性子ビームで治療時間を大体1時間以内に抑えられる。短い治療時間で、位置決めと快適さの改善、及び、腫瘍におけるホウ素含有薬物の限られた滞留時間の効果的利用に貢献できる。
【0025】
2.高速中性子汚染:
高速中性子は、正常組織への不必要な線量を引き起こすので、汚染とみなされる。この線量と中性子エネルギーとには、正の相関関係があるので、中性子ビームの設計において、できる限り高速中性子の含有量を減らす必要がある。高速中性子汚染は、単位熱外中性子束に伴う高速中性子の線量と定義される。IAEAは、高速中性子汚染を2 x 10
-13 Gy-cm
2/nより小さくすることを推奨している。
【0026】
3.光子汚染(γ線汚染):
γ線は強い透過性の放射線に属し、非選択的にビーム経路にあるすべての組織で線量沈着を引き起こすので、γ線の含有量を減らすことも中性子ビームの設計の必要条件である。γ線汚染は、単位熱外中性子束に伴うγ線の線量と定義される。IAEAは、γ線汚染を2 x 10
-13 Gy-cm
2/nより小さくすることを推奨している。
【0027】
4.熱中性子束と熱外中性子束との比:
熱中性子は、減衰速度が速く、透過性も弱く、人体に入ると大部分のエネルギーが皮膚組織に沈着するので、黒色腫など皮膚腫瘍にホウ素中性子捕捉療法の中性子源として熱中性子を使用する場合以外、例えば脳腫瘍などの深部腫瘍の場合、熱中性子の含有量を減らす必要がある。IAEAは、熱中性子束と熱外中性子束との比を0.05より小さくすることを推奨している。
【0028】
5.中性子流とフラックスとの比:
中性子流とフラックスとの比は、ビームの方向性を示す。その比が大きいほど、ビームの前向性が強くなる。強い前向性を持つ中性子ビームでは、中性子の発散による周辺の正常組織への線量を減らせる他、治療可能デプス及び位置決め姿勢の柔軟性を向上させることができる。IAEAは、中性子流とフラックスとの比を0.7より大きくすることを推奨している。
【0029】
人工器官で組織内の線量分布を取得され、正常組織及び腫瘍の線量−デプス曲線により、人工器官におけるビーム品質要素が導き出される。以下の3つのパラメータは異なる中性子ビーム療法の治療効果の比較に利用できる。
【0030】
1.効果的治療デプス:
腫瘍線量は最大正常組織線量と等しいデプスである。このデプスより後ろでは、腫瘍細胞が受ける線量は最大正常組織線量より小さいので、ホウ素中性子捕捉上の優位性がなくなる。このパラメータは中性子ビームの透過性を示し、効果的治療デプスが大きいほど、治療可能な腫瘍のデプスが深くなる。単位はcmである。
【0031】
2.効果的治療デプスの線量率:
即ち、効果的治療デプスにおける腫瘍線量率であり、最大正常組織線量率と等しい。正常組織で受け取る総線量は、与えられ得る腫瘍総線量に影響する要因であるので、このパラメータで治療時間が決まる。効果的治療デプスの線量率が大きいほど、腫瘍に一定の線量を与える必要な照射時間が短くなる。単位はcGy/mA-minである。
【0032】
3.効果的治療線量比:
脳表面から効果的治療デプスまでに、腫瘍と正常組織とが受け取る平均線量の比は効果的治療線量比と呼ばれる。平均線量は線量−デプス曲線の積分により算出できる。効果的治療線量比が大きいほど、当該中性子ビームの治療効果がよくなる。
【0033】
ビーム整形アセンブリの設計における比較根拠として、IAEAによるエアビームの品質要素の5提案、及び上記の3つのパラメータの他に、本発明の実施形態では、中性子ビーム線量のパフォーマンスの優劣を評価するための以下のパラメータを利用する。
1.照射時間≦30min(加速器で使用する陽子流は10mA)
2.30.0RBE-Gy治療可能なデプス≧7cm
3.最大腫瘍線量≧60.0RBE-Gy
4.最大正常脳組織線量≦12.5RBE-Gy
5.最大皮膚線量≦11.0RBE-Gy
注:RBE(Relative Biological Effectiveness)は生物学的効果比であり、光子及び中性子による生物学的効果が異なるため、等価線量を算出するために、上記の線量に異なる組織の生物学的効果比を掛ける。
【0034】
中性子源の放射フラックス及び品質を向上させるように、本発明の実施形態は、中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリの改良に関するものであり、好ましいものとして、加速器ホウ素中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリの改良に関するものである。
図3に示すように、本発明の第1実施形態の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ10は、ビーム入口11と、ターゲット12と、ターゲット12に隣接する減速部13と、減速部13の周囲に配置される反射体14と、減速部13に隣接する熱中性子フィルター15と、ビーム整形アセンブリ10内において設置されている放射線遮蔽体16と、ビーム出口17と、を備える。ターゲット12とビーム入口11から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、中性子により中性子ビームが形成され、中性子ビームは1つの主軸Xを定義する。減速部13により、ターゲット12からの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速される。反射体14は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、主軸Xから逸れた中性子を主軸Xに導く。熱外中性子束を向上させるために減速部13と反射体14の間に隙間通路18が設けられる。熱中性子フィルター15は、治療時の表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられる。放射線遮蔽体16は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子との遮蔽に用いられる。
【0035】
好ましくは、ターゲット12は金属で製作される。加速器ホウ素中性子捕捉療法では、陽子ビームは、加速器により、陽子ビームがターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速され、ターゲット12との
7Li(p,n)
7Be原子核反応により中性子を生成する。ビーム整形アセンブリ10は、中性子を熱外中性子エネルギー領域に減速し、かつ、熱中性子及び高速中性子の含有量を低減する。減速部13は、高速中性子が作用する断面が大きくかつ熱外中性子が作用する断面が小さい材料で製作される。言い換えれば、減速部13は、高速中性子が主に作用し、熱外中性子がほとんど作用しない断面を有する材料で製作される。好ましいものとして、減速部13は、D
2O、AlF
3、フルエンタル(Fluental)、CaF
2、Li
2CO
3 、MgF
2やAl
2O
3のうちの少なくとも1種で製作される。反射体14は中性子の反射性が高い材料で製作される。好ましいものとして、反射体14は、PbまたはNiのうちの少なくとも1種で製作される。熱中性子フィルター15は、熱中性子が作用する断面が大きい材料で製作される。好ましいものとして、熱中性子フィルター15は、
6Liで製作され、熱中性子フィルター15とビーム出口17との間に空気通路19が設けられる。放射線遮蔽体16は、光子遮蔽体161と中性子遮蔽体162とを含む。好ましいものとして、放射線遮蔽体16は鉛(Pb)で製作され、中性子遮蔽体162はポリエチレン(PE)で製作される。
【0036】
減速部13は、互いに隣接する反対向きの2つのテーパ部を含む。具体的には、減速部13の外面は、第1のテーパ部と、第1のテーパ部と隣接する第2のテーパ部とを含む。第1のテーパ部の先細り方向は、第2のテーパ部の先細り方向と反対である。
図3に示すように、減速部13の左側は、左側に向かって次第に小さくなるテーパ状であり、減速部13の右側は、右側に向かって次第に小さくなるテーパ状である。2つのテーパ部は互いに隣接する。好ましいものとして、減速部13の左側は左側に向かって次第に小さくなるテーパ状とするが、右側をその他の形状(例えば、柱状など)とし、テーパ部に隣接する形に設置することもできる。反射体14は減速部13の周囲に密接に配置され、減速部13と反射体14の間に隙間通路18が設けられる。いわゆる隙間通路18は、固体材料が充填されず、中性子ビームが容易に通過できる空のスペースである。当該隙間通路18は、空気通路或いは真空通路にすることができる。減速部13に隣接して設置される熱中性子フィルター15は、薄い
6Li材料で製作される。放射線遮蔽体16におけるPbで製作した光子遮蔽体161は、反射体14と一体に設置でき、或いは別々に設置することもできる。また、放射線遮蔽体16におけるPEで製作した中性子遮蔽体162は、ビーム出口17に近い箇所に設置することができる。熱中性子フィルター15とビーム出口17との間に空気通路19が設けられ、継続的に主軸Xから逸れた中性子を主軸Xに導き熱外中性子ビーム強度を高めることができる。人工器官Bをビーム出口17から約1cm離れた箇所に設置する。この分野の技術者がよく知っていることとして、光子遮蔽体161はその他の材料で製作可能であり、光子を遮蔽する役割を果たせばよく、また、中性子遮蔽体162もその他の材料で製作可能であり、別の箇所に設置でき、漏れた中性子を遮蔽する役割を果たせばよい。
【0037】
隙間通路を設けたビーム整形アセンブリと、隙間通路を設けないビーム整形アセンブリとの違いを比較するために、それぞれ
図4及び
図5のように、減速部を隙間通路に充填する第2実施形態と、反射体を隙間通路に充填する第3実施形態とを示す。
図4において、ビーム整形アセンブリ20は、ビーム入口21と、ターゲット22と、ターゲット22に隣接する減速部23と、減速部23の周囲に配置される反射体24と、減速部23に隣接する熱中性子フィルター25と、ビーム整形アセンブリ20内において設置されている放射線遮蔽体26と、ビーム出口27と、を備える。ターゲット22とビーム入口21から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、中性子により中性子ビームが形成され、中性子ビームは1つの主軸X1を定義する。減速部23により、ターゲット22からの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速される。反射体24は、熱外中性子ビーム強度を高めるために主軸X1からずれた中性子を主軸X1に導く。減速部23は互いに隣接する反対向きの2つのテーパ部を有する。具体的には、減速部23の外面は、第1のテーパ部と、第1のテーパ部と隣接する第2のテーパ部とを含む。第1のテーパ部の先細り方向は、第2のテーパ部の先細り方向と反対である。減速部23の左側は、左側に向かって次第に小さくなるテーパ状であり、減速部23の右側は、右側に向かって次第に小さくなるテーパ状である。2つのテーパ部は互いに隣接する。熱中性子フィルター25は、治療時の表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられる。放射線遮蔽体26は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられる。
【0038】
好ましいものとして、第2実施形態のターゲット22、減速部23、反射体24、熱中性子フィルター25及び放射線遮蔽体26は、第1実施形態と同様とすることができる。放射線遮蔽体26は、鉛(Pb)で製作した光子遮蔽体261、及び、ポリエチレン(PE)で製作した中性子遮蔽体262を含み、当該中性子遮蔽体262はビーム出口27に設置することができる。熱中性子フィルター25とビーム出口27との間には、空気通路28が設けられる。人工器官B1は、ビーム出口27から約1cm離れた箇所に設置される。
【0039】
図5において、ビーム整形アセンブリ30は、ビーム入口31と、ターゲット32と、ターゲット32に隣接する減速部33と、減速部33の周囲に配置される反射体34と、減速部33に隣接する熱中性子フィルター35と、ビーム整形アセンブリ30内において設置されている放射線遮蔽体36と、ビーム出口37と、を備える。ターゲット32とビーム入口31から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、中性子により中性子ビームが形成され、中性子ビームは1つの主軸X2を定義する、減速部33によりターゲット32からの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速される。反射体34は、熱外中性子ビーム強度を向上させるため主軸X2から逸れた中性子を主軸X2に導く。減速部33は互いに隣接する反対向きの2つのテーパ部を有する。具体的には、減速部33の外面は、第1のテーパ部と、第1のテーパ部と隣接する第2のテーパ部とを含む。第1のテーパ部の先細り方向は、第2のテーパ部の先細り方向と反対である。減速部33の左側は左側に向かって次第に小さくなるテーパ状であり、減速部33の右側は右側に向かって次第に小さくなるテーパ状である。2つのテーパ部は互いに隣接する。熱中性子フィルター35は、治療時の表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられる。放射線遮蔽体36は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられる。
【0040】
好ましいものとして、第3実施形態のターゲット32、減速部33、反射体34、熱中性子フィルター35及び放射線遮蔽体36は、第1実施形態と同様とすることができる。放射線遮蔽体36は、鉛(Pb)で製作した光子遮蔽体361、及び、ポリエチレン(PE)で製作した中性子遮蔽体362を含み、当該中性子遮蔽体362はビーム出口37に設置することができる。熱中性子フィルター35とビーム出口37との間には、空気通路38が設けられる。人工器官B2は、ビーム出口37から約1cm離れた箇所に設置される。
【0041】
次にMCNPソフト(アメリカロスアラモス国立研究所(LosAlamos National Laboratory)が開発したモンテカルロ法を元にした、複雑な三次元形状における中性子、光子、荷電粒子または結合中性子/光子/荷電粒子輸送問題の算出のためのユニバーサルパッケージ)を用いたこの3つの実施形態についてのシミュレーション結果である。
【0042】
表1は、この3つの実施形態でのエアビームの品質要素のパフォーマンスを示す(下表における各名詞の単位は同上なので、ここでは説明しない。以下同じ)。
【0044】
表2は、この3つの実施形態での線量のパフォーマンスを示す。
【0046】
表3は、この3つの実施形態での中性子ビーム線量のパフォーマンスの優劣を評価するパラメータのシミュレーション結果を示す。
【0048】
注:上記の3つの表から見れば、ビーム整形アセンブリの減速部と反射体との間に隙間通路を設けると、その中性子ビームによる治療効果が最も良い。
【0049】
リチウムターゲットからの中性子は比較的高い前向的平均エネルギーを示す特性を持つ。
図6に示すように、中性子の散乱角度が0°〜30°となる場合、平均中性子エネルギーは約478keVであるが、中性子の散乱角度が30°〜180°となる場合、平均中性子エネルギーはわずか290keVである。ビーム整形アセンブリの幾何学的形状を変更することにより、前向き中性子と減速部との多くの衝突を実現するとともに、横向き中性子が少ない衝突でビーム出口に到着すると、理論的には中性子の減速を最適化し、効果的に熱外中性子束を向上させることができる。次にビーム整形アセンブリの幾何学的形状に手をつけ、ビーム整形アセンブリの異なる幾何学的形状により、熱外中性子束への影響を評価する。
【0050】
図7は第4実施形態のビーム整形アセンブリの幾何学的形状を示す。ビーム整形アセンブリ40は、ビーム入口41と、ターゲット42と、ターゲット42に隣接する減速部43と、減速部43の周囲に配置される反射体44と、減速部43に隣接する熱中性子フィルター45と、ビーム整形アセンブリ40内において設置されている放射線遮蔽体46と、ビーム出口47と、を備える。ターゲット42とビーム入口41から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成される。減速部43により、ターゲット42からの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速される。反射体44は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、逸れた中性子を元の方向に導く。減速部43は柱状である。好ましいものとして、減速部43は円柱状である。熱中性子フィルター45は、治療時の表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられる。放射線遮蔽体46は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられる。熱中性子フィルター45とビーム出口47との間に空気通路48が設けられる。
【0051】
図8は第5実施形態のビーム整形アセンブリの幾何学的形状を示す。ビーム整形アセンブリ50は、ビーム入口51と、ターゲット52と、ターゲット52に隣接する減速部53と、減速部53の周囲に配置される反射体54と、減速部53に隣接する熱中性子フィルター55と、ビーム整形アセンブリ50内において設置されている放射線遮蔽体56と、ビーム出口57と、を備える。ターゲット52とビーム入口51から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、中性子により中性子ビームが形成され、中性子ビームは1つの主軸X3を定義する。減速部53により、ターゲット52からの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速される。反射体54は、熱外中性子ビーム強度を高めるために主軸X3から逸れた中性子を主軸X3に導く。減速部53の外面は、円筒部と、円筒部に隣接するテーパ部とを有する。減速部53の左側は柱状であり、減速部53の右側は右側に向かって次第に小さくなるテーパ状であり、両者は互いに隣接する。熱中性子フィルター55は、治療時の表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられる。放射線遮蔽体56は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられる。
【0052】
好ましいものとして、第5実施形態のターゲット52、減速部53、反射体54、熱中性子フィルター55及び放射線遮蔽体56は第1実施形態と同様とすることができる。放射線遮蔽体56は、鉛(Pb)で製作した光子遮蔽体561、及び、ポリエチレン(PE)で製作した中性子遮蔽体562を含み、当該中性子遮蔽体562はビーム出口57に設置することができる。熱中性子フィルター55とビーム出口57との間に空気通路58が設けられる。人工器官B3は、ビーム出口57から約1cm離れた箇所に設置される。
【0053】
次にMCNPソフトを用いて行われた、第2実施形態の2つのテーパ体を含む減速部、第4実施形態の柱体を含む減速部、及び第5実施形態の柱体+テーパ体を含む減速部についてのシミュレーション結果を示す。
【0054】
表4は、この3つの実施形態でのエアビームの品質要素のパフォーマンスを示す。
【0056】
表5は、この3つの実施形態での線量のパフォーマンスを示す。
【0058】
表6は、この3つの実施形態での中性子ビーム線量のパフォーマンスの優劣を評価するパラメータのシミュレーション結果を示す。
【0060】
注:上記の3つの表から見れば、減速部が少なくとも1つのテーパ体(テーパ部)を含むと、その中性子ビームによる治療効果が比較的良い。
【0061】
本発明の実施例に記載されている「柱体」または「柱状」は、図面に示されている方向に沿って一方側から他方側までその外輪郭の全体的な流れがほとんど変わらない構造である。外輪郭にある1つの輪郭線は線分であってよく、例えば、円柱状の対応する輪郭線や、大きな曲率を有する線分に近い円弧や、大きな曲率を有する球体状の対応する輪郭線であってもよい。外輪郭の表面全体はなめらかでもよく、なめらかでなくてもよい。例えば、円柱状または大きな曲率を有する球体状の表面に凹凸部があってもよい。
【0062】
本発明の実施例に記載されている「テーパ体」または「テーパ状」は、図面に示されている方向に沿って一方側から他方側までその外輪郭の全体的な流れが段々と小さくなる構造である。外輪郭にある1つの輪郭線は線分であってよく、例えば、円錐状の対応する輪郭線や、円弧や、球体状の対応する輪郭線であってもよい。外輪郭の表面全体はなめらかでもよく、なめらかでなくてもよい。例えば、円錐状または球体状の表面に凹凸部があってもよい。
【0063】
本発明に係る中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリは、上記の実施例に記載されている内容と添付図面に示している構造に限定されない。本発明に基づき行われる、部材の材料、形状及び位置に対する明らかな置換えまたは変更については、すべて本発明の保護対象とする。
【0064】
<付記>
(付記1)
ビーム入口と、ターゲットと、前記ターゲットに隣接する減速部と、前記減速部の周囲に配置される反射体と、前記減速部に隣接する熱中性子フィルターと、放射線遮蔽体と、ビーム出口と、を備え、
前記ターゲットと前記ビーム入口から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、前記中性子により中性子ビームが形成され、前記中性子ビームは1つの主軸を定義し、
前記減速部により、前記ターゲットからの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速され、
前記減速部の外面は、少なくとも1つのテーパ部を含み、
前記反射体は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、前記主軸から逸れた前記中性子を前記主軸に導き、
前記熱中性子フィルターは、治療時に表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられ、
前記放射線遮蔽体は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられる、
第1観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0065】
(付記2)
第1観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
加速器ホウ素中性子捕捉療法に更に適用される、
第2観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0066】
(付記3)
第2観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
陽子ビームは、加速器により、ターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速されて、前記ターゲットとの原子核反応により中性子を生成し、
前記ターゲットは、金属製である、
第3観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0067】
(付記4)
第1観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記熱外中性子エネルギー領域は、0.5eV〜40keVであり、
熱中性子エネルギー領域は、0.5eVより小さく、
高速中性子エネルギー領域は、40keVより大きく、
当該ビーム整形アセンブリは、熱中性子及び高速中性子の含有量を低減し、
前記減速部は、高速中性子が主に作用し、熱外中性子がほとんど作用しない断面を有する材料で製作され、
前記反射体は、中性子の反射性が高い材料で製作され、
前記熱中性子フィルターは、熱中性子が作用する断面を有する材料で製作される、
第4観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0068】
(付記5)
第4観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記減速部は、D
2O、AlF
3、フルエンタル、CaF
2、Li
2CO
3、MgF
2及びAl
2O
3のうちの少なくとも1種で製作される、
第5観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0069】
(付記6)
第4観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記反射体は、PbまたはNiのうちの少なくとも1種で製作される、
第6観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0070】
(付記7)
第4観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記熱中性子フィルターは、
6Liで製作され、
前記熱中性子フィルターと前記ビーム出口との間には、空気通路が設けられる、
第7観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0071】
(付記8)
第1観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記放射線遮蔽体は、光子遮蔽体と中性子遮蔽体とを含む、
第8観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0072】
(付記9)
第1観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記減速部の前記外面は、柱状部を含み、
前記テーパ部は、前記柱状部と隣接する、
第9観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。
【0073】
(付記10)
第1観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
前記減速部の前記外面は、第1の前記テーパ部と、前記第1の前記テーパ部と隣接する第2の前記テーパ部とを含み、前記第1の前記テーパ部の先細り方向は、前記第2の前記テーパ部の先細り方向と反対である、
第10観点の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。