特許第6334826号(P6334826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334826
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20180521BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 5/372 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08K5/29
   C08K5/13
   C08K5/372
   C08K5/49
   C08K3/22
   C08K5/09
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-538069(P2017-538069)
(86)(22)【出願日】2016年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2016075457
(87)【国際公開番号】WO2017038864
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2017年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-173500(P2015-173500)
(32)【優先日】2015年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501183161
【氏名又は名称】ウィンテックポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小佐野 恵市
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−021051(JP,A)
【文献】 特開平11−264418(JP,A)
【文献】 特開平06−320690(JP,A)
【文献】 特開平06−248167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08K 5/13
C08K 5/29
C08K 5/372
C08K 5/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂と、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.3質量部以上5.0質量部以下の割合のカルボジイミド化合物と、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.001質量部以上0.05質量部以下の割合のアルカリ化合物とを含み、
150℃のオートマチックトランスミッションフルードに250時間浸漬後の引張強度保持率が50%以上である、オートマチックトランスミッションフルードに接して使用される成形品を構成するためのポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含む、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、チオエーテル系酸化防止剤を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含む、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、リン系化合物を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含む、請求項1乃至のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が0.65dl/g以上1.20dl/g以下である、請求項1乃至のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基が30mmol/kg以下である、請求項1乃至のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
前記請求項1乃至のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成され、自動車用潤滑油に接して使用される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関し、より詳しくは、ATF等の自動車用潤滑油に接触した状態で使用される成形品を構成するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車(AT車)の変速機構を制御する電子部品を接続する部品として、ATコネクタがある。このATコネクタは、潤滑油の一種であるATF(オートマチックトランスミッションフルード)に常時浸漬された状態で使用される。
【0003】
ATFは、例えば150℃程度の、100℃を超える非常に高温の状態まで加温されるものであり、このATFに浸漬された状態で用いられるATコネクタ等の成形品としては、優れた耐熱性や耐加水分解性等を有することが条件とされる。また、ATFに限らず、その他の自動車用潤滑油である、エンジンオイルやブレーキオイル、ギアオイル等においても、非常に高温状態に保持されるため、同様に、それら自動車用潤滑油に接して使用される成形品では、耐熱性や耐加水分解性等の面で厳しい環境に置かれる。
【0004】
そのため、従来、ATF等の自動車用潤滑油に接して設けられる成形品としては、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)やポリアミド樹脂等により構成されていた(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、ATF等の自動車用潤滑油についても性能向上のための研究が盛んに行われ、より高温となるものや、性能向上のために種々の添加剤を配合したものが開発されるようになり、そのATF等に接して使用される成形品においても、より一層に優れた性能が求められている。
【0006】
その中でも、ATF等の高温の自動車用潤滑油に長時間接した状態であっても、成形品を構成する成分の分解が生じずに、強度の低下が生じない、いわゆる耐ATF性が求められている。なお、耐ATF性については後で詳述する。
【0007】
さて、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的特性や、その他の物理的、化学的性質に優れており、また加工性が良好であるがゆえに、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子部品等の広範な用途に使用されている。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂にガラス繊維等の繊維状充填剤を配合した樹脂組成物により、強化成形品とすることで、耐熱性と強度を向上させることも行われている。
【0008】
ところが、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた物理的、化学的性質を有する一方で、特に上述のATF等の自動車用潤滑油に接した状態で高温環境下に曝されると、分解が著しくなって強度の低下をもたらす可能性がある。そのため、例えば上述したようなATF等の自動車用潤滑油に長時間接して用いる成形品を構成する樹脂として用いられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−343408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた物理的、化学的性質等を有するポリブチレンテレフタレート樹脂を用いて、ATF等の高温の自動車用潤滑油に接して使用される成形品に好適な、優れた耐ATF性を有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂にカルボジイミド化合物を配合させた樹脂組成物から構成される成形品では、ATF等の自動車用潤滑油に長時間接触した状態であっても、強度の低下等を効果的に抑制する作用があることの知見が得られ、ATコネクタ等の自動車用潤滑油に接して用いられる成形品を構成する樹脂組成物として新たな用途を見出して、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂と、カルボジイミド化合物とを含み、150℃の自動車用潤滑油に250時間浸漬後の引張強度保持率が50%以上である、自動車用潤滑油に接して使用される成形品を構成するためのポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記カルボジイミド化合物の含有量が、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5.0質量部以下である、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、アルカリ化合物を0.001質量部以上0.05質量部以下の割合で含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、チオエーテル系酸化防止剤を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、更に、リン系化合物を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が0.65dl/g以上1.20dl/g以下である、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0019】
(8)本発明の第8の発明は、第1乃至第7のいずれかの発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基が30mmol/kgである、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0020】
(9)本発明の第9の発明は、第1乃至第8のいずれかの発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成され、自動車用潤滑油に接して使用される成形品である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、その成形品がATF等の高温の自動車用潤滑油に接して使用される状態であっても、強度の低下等を抑制することができ、その用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更が可能である。
【0023】
≪1.ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物≫
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)カルボジイミド化合物とを含むものである。この樹脂組成物は、自動車用潤滑油に接して使用される特別な用途の成形品を構成するためのものである。
【0024】
具体的に、自動車用潤滑油としては、ATF(オートマチックトランスミッションフルード)が挙げられ、そのATFに接触した状態で用いられる成形品として、ATコネクタが挙げられる。その他、自動車用潤滑油としては、エンジンオイル、ブレーキオイル、ギアオイル等が挙げられる。これらのATFを代表例とする自動車用潤滑油には、オイル成分のほかに、種々の添加剤(薬剤成分)が含まれている。例えば、その薬剤成分としては、酸化防止剤、清浄分散剤、消泡剤、防錆剤、腐食防止剤、粘度向上剤、流動点硬化剤、油性向上剤、摩耗防止・極圧剤、着色剤等が挙げられる。このような点で、鉱物油や合成油等のオイル成分のみからなる一般的な潤滑油とは区別される。
【0025】
ATF等の自動車用潤滑油は、非常に高温(例えば100℃を超える温度)の状態となるものであり、しかも上述のように種々の薬剤成分を含んでいる。そのため、例えば、ATFに浸漬した状態で使用される成形品においては、その高温環境下、且つ、種々の添加剤成分が接触する環境下により、その成形品を構成する樹脂が分解しやすくなり、強度の低下等をもたらす。
【0026】
本発明者らは、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対してカルボジイミド化合物を添加してなる樹脂組成物であれば、その樹脂組成物を成形して得られる成形品において、種々の薬剤成分を含有し、また高温状態となるATF等の自動車用潤滑油に接触した状態で用いられた場合であっても、樹脂成分の分解が抑制され、強度等が低下することを効果的に防ぐことができることを見出した。
【0027】
ここで、本明細書においては、高温状態となるものであって種々の薬剤成分を含有する自動車用潤滑油に成形品が接して使用されても、その成形品を構成する樹脂成分の分解等を防いで強度の低下等を抑制できる特性を、「耐ATF性」と称する。なお、ATF以外の自動車用潤滑油に対する同様の性質についても、同様の用語を用いて表現する場合があるが、自動車用潤滑油の中でもATFは特に多くの添加剤を含み、かつ高温環境下に曝されるため、このATFに接して用いられる成形品にはより高いレベルの耐性が要求される。
【0028】
具体的に、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形して得られる成形品では、150℃の自動車用潤滑油に250時間に亘って浸漬させたときの浸漬前後の引張強度保持率が50%以上となる。このように、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐ATF性に優れているものであり、ATF等の自動車用潤滑油に接触した状態で使用される成形品を構成するための樹脂組成物として新たな用途が見出されたものである。以下、各構成成分について具体的に説明する。
【0029】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明に係る樹脂組成物の基礎樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成誘導体(低級アルコールエステル等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート系重合体である。
【0030】
ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、ホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限られず、例えば、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75〜95モル%程度)の割合で含有する共重合体であってもよい。
【0031】
ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、特に限定されないが、その末端カルボキシル基量が30meq/kg以下のものであることが好ましく、25meq/kg以下のものであることがより好ましい。ここで、末端カルボキシル基量については、例えば、以下のようにして測定することができる。すなわち、ポリブチレンテレフタレートの粉砕試料をベンジルアルコール中において215℃の温度条件で10分間溶解した後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定を行うことによって測定することができる。
【0032】
末端カルボキシル基量が30meq/kgを超えるポリブチレンテレフタレート樹脂を用いると、後述するカルボジイミド化合物の添加量を如何に制御しても、耐ATF性の効果が低下することがある。また、湿熱環境下で加水分解による強度低下が大きくなることがある。
【0033】
また、末端カルボキシル基量の下限値としては、特に限定されないが、一般的に5meq/kg未満のものは製造が困難であり、また5meq/kg未満のものでは、後述する充填剤との反応が十分に進まず、ポリブチレンテレフタレート樹脂と充填剤との界面での密着が不十分となり十分な機械的強度が得られないことがある。このことから、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量としては、5meq/kg以上が好ましく、10meq/kg以上がより好ましい。
【0034】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)としては、特に限定されないが、0.65dL/g以上1.20dL/g以下であることが好ましく、0.75dL/g以上1.0dL/g以下であることがより好ましい。固有粘度が0.65dL/g以上であれば、十分な耐ATF性が得られやすく、固有粘度が1.20dL/g以下であれば、その樹脂組成物に基づく成形品に必要な成形時の流動性が得られやすい。なお、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、所望とする固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂となるようにしてもよい。例えば、固有粘度が1.00dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と、固有粘度が0.70dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることで、0.90dL/g以下の固有粘度を実現してもよい。なお、固有粘度については、例えば、o−クロロフェノール中において温度35℃の条件で測定できる。
【0035】
ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等などのC6〜C12アリールジカルボン酸等)、脂肪族ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4〜C16アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のC5〜C10シクロアルキルジカルボン酸等)、又はそれらのエステル形成誘導体等が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
その中でも、好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)として、芳香族ジカルボン酸成分(特に、イソフタル酸等のC6〜C10アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸成分(特に、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6〜C12アルキルジカルボン酸)が挙げられる。
【0037】
1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分〔例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオールなどのC2〜C10アルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリオキシC2〜C4アルキレングリコール等)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオール等〕、芳香族ジオール成分〔ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族アルコール、ビスフェノールAなどのC2〜C4アルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体など)等〕、又はそれらのエステル形成誘導体等が挙げられる。これらのグリコール成分も、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
その中でも、特に好ましいグリコール成分(コモノマー成分)として、脂肪族ジオール成分(特に、C2〜C6アルキレングリコール、ジエチレングリコールなどのポリオキシC2〜C3アルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール)が挙げられる。
【0039】
上述した化合物をモノマー成分とした重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート系重合体は、いずれもポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成するポリブチレンテレフタレート樹脂成分として好適に使用することができる。また、ホモポリブチレンテレフタレート重合体と、ポリブチレンテレフタレート共重合体との併用も有用である。
【0040】
(B)カルボジイミド化合物
本発明に係る樹脂組成物においては、上述したポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、カルボジイミド化合物を配合してなることを特徴としている。このようにカルボジイミド化合物を含有させることにより、その成形品に優れた耐ATF性を付与することができ、例えば100℃を超える高温状態となるATF等の自動車用潤滑油に接触して使用されても、樹脂成分等の分解を抑制して、強度の低下等を防ぐことができる。
【0041】
カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物等が挙げられ、いずれも使用できるが、その中でも、耐ATF性、耐加水分解性がより優れているという点で芳香族カルボジイミド化合物が好ましい。
【0042】
具体的に、脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等が挙げられる。また、脂環族カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等が挙げられる。これらの単官能の脂肪族カルボジイミド化合物や脂環族カルボジイミドの他に、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートから選ばれる1種又は2種以上を脱炭酸縮合反応させることにより合成することができる多官能カルボジイミドを使用してもよい。
【0043】
また、芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−p−メトキシフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド化合物が挙げられる。これらの中でも、特に、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)、及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。なお、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
また、カルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、分子量が2000以上のものを使用することが好ましい。分子量が2000未満のものであると、溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合などにガスや臭気が発生するおそれがある。
【0045】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、カルボジイミド化合物の配合量としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上5.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3.0質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上2.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0046】
カルボジイミド化合物の配合量が0.01質量部未満であると、本発明の目的とする耐ATF性が十分に得られない可能性がある。また、耐加水分解性の効果も十分に得られない。一方で、配合量が5.0質量部を超えると、それ以上の耐ATF性の向上効果は少なく、流動性の低下や、コンパウント時や成形加工時にゲル成分や炭化物の生成が起こりやすくなり、引張り強度や曲げ強さ等の機械特性が低下する場合がある。また、カルボジイミド化合物に由来するイソシアネートガスの発生量が増加し、作業環境の悪化を招く可能性がある。
【0047】
(C)酸化防止剤
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、添加剤として、酸化防止剤を配合することができる。具体的に、酸化防止剤として、(C−1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及び/又は、(C−2)チオエーテル系酸化防止剤を配合する。
【0048】
(C−1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
具体的に、本発明に係る樹脂組成物においては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合させることが好ましい。カルボジイミド化合物と共に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合させることにより、耐ATF性を向上させることができる。
【0049】
ここで、上述したように、ポリブチレンテレフタレート樹脂にカルボジイミド化合物を配合した樹脂組成物においては、カルボジイミド化合物の配合量を増加させても、所定の割合を超えるとそれ以上の耐ATF性の向上は期待できなくなる。ところが、そのメカニズムは定かではないが、樹脂組成物において、カルボジイミド化合物と共にヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合させることにより、そのカルボジイミド化合物の配合量に応じて、耐ATF性を向上させることができる。
【0050】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、単環式ヒンダードフェノール化合物、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物等を用いることができる。
【0051】
より具体的に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、C2−10アルキレンビス(t−ブチルフェノール)[例えば、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)など]、トリス(ジ−t−ブチル−ヒドロキシベンジル)ベンゼン[例えば、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなど]、C2−10アルカンジオール−ビス[(ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート[例えば、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など]、ジ又はトリオキシC2−4アルカンジオール−ビス(t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート[例えば、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など]、C3−8アルカントリオール−ビス[(ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、C4−8アルカンテトラオールテトラキス[(ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート][例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など]、長鎖アルキル(ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート[例えば、n−オクタデシル−3−(4’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ステアリル−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。その中でも、特に、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが好適に用いられる。なお、これらのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0052】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上0.7質量部以下であることがより好ましい。配合量が0.01質量部未満であると、耐ATF性の向上効果が十分に得られない可能性がある。一方で、配合量が1.0質量部を超えると、それ以上の耐ATF性の向上効果は得られず、流動性の低下等を引き起こす可能性がある。
【0053】
(C−2)チオエーテル系酸化防止剤
また、酸化防止剤として、チオエーテル系酸化防止剤を配合させることができる。上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤と同様に、本発明に係る樹脂組成物においては、カルボジイミド化合物と共にチオエーテル系酸化防止剤を配合させることによって、カルボジイミド化合物の配合量に応じて耐ATF性を向上させることができる。
【0054】
なお、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤とを組み合わせて配合させることがより好ましく、これにより、より一層に耐ATF性を向上させることができる。
【0055】
チオエーテル系酸化防止剤は、分子構造中に少なくとも1個のチオエーテル結合を有する化合物である。具体的に、チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ジ長鎖アルキルチオジプロピオネート(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートなど)、テトラキス[メチレン−3−(長鎖アルキルチオ)プロピオネート]アルカン(例えば、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンなど)等が挙げられる。なお、長鎖アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状C8−20アルキル基等が例示できる。これらのチオエーテル系酸化防止剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
樹脂組成物において、チオエーテル系酸化防止剤の配合量としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上0.7質量部以下であることがより好ましい。配合量が0.01質量部未満であると、耐ATF性の向上効果が十分に得られない可能性がある。一方で、配合量が1.0質量部を超えると、それ以上の耐ATF性の向上効果は得られず、流動性の低下等を引き起こす可能性がある。
【0057】
(D)アルカリ化合物
また、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、添加剤として、アルカリ化合物を配合することができる。
【0058】
上述した酸化防止剤と同様に、樹脂組成物において、カルボジイミド化合物と共にアルカリ化合物を配合させることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対してカルボジイミド化合物を単独で配合した場合は所定の割合以上で頭打ちになる耐ATF性を、より向上させることができる。
【0059】
アルカリ化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の有機酸塩、無機酸塩、酸化物、水酸化物、水素化物、又はアルコラート等が挙げられる。
【0060】
より具体的に、アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、二カリウム塩、二リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
【0061】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0062】
これらのアルカリ化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルカリ化合物は、上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤やチオエーテル系酸化防止剤と併せて用いることが好ましく、これにより、相乗作用に基づいて、より一層に耐ATF性を高めることができる。
【0063】
アルカリ化合物の配合量としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上0.05質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上0.03質量部以下であることがより好ましい。配合量が0.001質量部未満であると、耐ATF性の向上効果が十分に得られない可能性がある。一方で、配合量が0.05質量部を超えると、それ以上の耐ATF性の向上効果は得られず、流動性の低下等を引き起こす可能性がある。
【0064】
(E)リン系化合物
また、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、添加剤として、リン系化合物(リン含有化合物)を配合することができる。このように、リン系化合物を配合させることにより、耐ATF性を向上させることができる。
【0065】
より具体的に、リン系化合物としては、例えば、ホスファイト類[例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2−t−ブチルフェニル)フェニルホスファイトなどのモノ乃至トリス(分岐鎖状C3−6アルキル−フェニル)ホスファイト;ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイトなどの脂肪族多価アルコールの(分岐鎖状C3−6アルキル−アリール)ホスファイト等]、ホスフォナイト類[例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト等]、ホスフェート類[例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートなどのトリフェニルホスフェート系化合物等]、リン酸塩(例えば、第一リン酸カルシウム、第一リン酸ナトリウム一水和物などのアルカリ、又はアルカリ土類金属リン酸塩(又はその水和物)などのリン酸金属塩等)が挙げられる。
【0066】
これらのリン系化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、リン系化合物は、上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤やアルカリ化合物と共に、併せて用いることが好ましく、これにより、相乗作用に基づいて、より一層に耐ATF性を高めることができる。
【0067】
樹脂組成物において、リン系化合物の配合量としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上0.1質量部以下であることがより好ましい。配合量が0.01質量部未満であると、耐ATF性の向上効果が十分に得られない可能性がある。一方で、配合量が1.0質量部を超えると、それ以上の耐ATF性の向上効果は得られず、流動性の低下等を引き起こす可能性がある。
【0068】
(F)充填剤
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、添加剤として、充填剤を配合することができる。樹脂組成物において、充填剤を配合することにより、機械的強度や剛性を高めることができる。
【0069】
充填剤としては、繊維状充填剤、又は、板状、粉状、球状等の非繊維状充填剤が挙げられる。
【0070】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられる。その中でも、ガラス繊維を用いることが好ましい。
【0071】
具体的に、ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。また、ガラスの種類に関しても特に限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好適に用いられる。
【0072】
また、繊維状充填剤と樹脂との界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された繊維状充填剤を好適に用いることができる。このような繊維状充填剤に用いられるアミノシラン化合物やエポキシ化合物としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0073】
また、非繊維状充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム等が挙げられ、その中でも、タルク、マイカが好ましい。
【0074】
樹脂組成物において、充填剤の配合量としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。配合量がこのような範囲であれば、成形性を損なわずに機械的特性を向上させることができる。
【0075】
(G)その他
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、上述した添加剤のほか、更にその目的に応じて所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の物質を添加することができる。例えば、ポリブチレンテレフタレート以外の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂、耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、流動性向上剤、結晶化促進剤、結晶核剤、エポキシ化合物等の耐加水分解性向上剤、滑剤、離型剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【0076】
≪2.ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製方法≫
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、従来の樹脂組成物の調製法と同様にして、一般に用いられる設備と方法により容易に調製することができる。
【0077】
具体的には、例えば、樹脂組成物を構成する各成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数台使用してもよい。また、全ての成分をホッパーから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0078】
押出機により練り込んでペレット化する場合、押出機中での樹脂温度が好ましくは240℃〜300℃、より好ましくは250℃〜270℃となるように押出機シリンダー温度を設定する。樹脂温度が240℃より低いと、ポリブチレンテレフタレート樹脂とカルボジイミド化合物との反応が不十分となり、耐ATF性や耐加水分解性が十分に発揮されない可能性がある。一方で、樹脂温度が300℃を超えると、樹脂の分解が生じやすくなるおそれがある。
【0079】
また、樹脂組成物を構成する(B)カルボジイミド化合物については、樹脂をマトリックスとするマスターバッチとして配合することもできる。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチが好適に用いられるが、他の樹脂によりマスターバッチとして調製されたものを使用してもよい。具体的に、例えばポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチの場合、その樹脂の配合量やカルボジイミド化合物の配合量が所定の範囲内になるように調整すればよい。また、マスターバッチは、溶融混練時に予め投入し、均一ペレットとしてもよい。
【0080】
≪3.ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の特性≫
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、その樹脂組成物を成形して得られる成形品に対して優れた耐ATF性を付与する。すなわち、例えば100℃を超える高温状態となり、種々の薬剤成分を含有するATF等の自動車用潤滑油に浸漬等で接した状態で使用されても、その成形品を構成する樹脂の分解を抑制して、強度の低下等を効果的に防ぐことができる。
【0081】
より具体的には、150℃に加温した自動車用潤滑油に250時間浸漬した前後における、引張強度保持率が50%以上になるという優れた耐ATF性を奏する。なお、引張強度は、ISO527に準拠した引張試験を行って測定することができる。
【0082】
このように、本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、高温状態となり、また種々の薬剤成分を含有するATF等の自動車用潤滑油に接した状態で使用される成形品、例えばATコネクタ等の成形品に特に有用である。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
実施例1〜14、比較例1〜6
[樹脂組成物の作製、成形品の製造]
下記表1〜表2に示す成分を秤量した後ドライブレンドし、30mmφ2軸押出機(株式会社日本製鋼所製,TEX−30)を用いて溶融混練し、ペレットを作製した(シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュー回転数150rpm)。
【0085】
次いで、作製したペレットを射出成形機(日鋼製J55AD)に投入して、ISO引張り試験片を作製した。
【0086】
ここで、樹脂組成物の構成成分としては、以下の通りのものを用いた。
(A)ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂
・(A−1)ウィンテックポリマー株式会社製、固有粘度0.83、末端カルボキシル基量14meq/kg
・(A−2)ウィンテックポリマー株式会社製、固有粘度1.14、末端カルボキシル基量8meq/kg
(B)カルボジイミド化合物
・(B−1)芳香族カルボジイミド化合物;ラインケミージャパン株式会社製、スタバックゾールP400
・(B−2)脂肪族カルボジイミド化合物;日本紡績株式会社製、カルボジライトLA−1
(C)酸化防止剤
・(C−1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤;BASFジャパン株式会社製、IRGANOX1010
・(C−2)チオエーテル系酸化防止剤;株式会社ADEKA製、アデカスタブ AO−412S
(D)アルカリ化合物
・(D−1)酢酸カリウム;和光純薬工業株式会社製
(E)リン系化合物
・(E−1)有機ホスファイト化合物;株式会社ADEKA製、アデカスタブ PEP36
(F)繊維状充填剤
・(F−1)ガラス繊維;日本電気硝子株式会社製、ECS03−T127
【0087】
[成形品の評価]
・ATF浸漬後の引張強度
製造した成形品を、150℃のATF(日産自動車株式会社製、マチックD)に96時間、250時間、500時間、750時間浸漬し、それぞれの浸漬時間後における引張強度(MPa)を測定した。また、ATF浸漬前の引張強度も併せて測定した。なお、引張強度は、ISO527に準拠した引張試験を行って測定した。
【0088】
そして、ATF浸漬前の引張強度に対する各浸漬時間後における引張強度保持率(%)を算出した。
【0089】
・プレッシャークッカー(PCT)試験後の引張強度
製造した成形品を、プレッシャークッカー試験機を用いて121℃、100%RH条件下に、下記表1及び表2に示す各時間で暴露した。各暴露時間後に、ISO527に準拠した引張試験を行って引張強度を測定した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
表1に示すように、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対してカルボジイミド化合物を配合させた実施例の樹脂組成物では、その射出成形品を高温のATFに長時間浸漬させた状態であっても、強度の低下を抑制することができ、優れた耐ATF性を示した。また、実施例5〜14の結果に示されるように、カルボジイミド化合物と共に、酸化防止剤やアルカリ化合物等を更に配合させることで、耐ATF性を向上させることができることが分かった。
【0093】
また、実施例7〜14の結果に示されるように、カルボジイミド化合物と共に、酸化防止剤及びリン系化合物を配合させた樹脂組成物に比べて、更にアルカリ化合物を併用することで(実施例11〜14)、耐ATF性がカルボジイミド化合物の配合量に応じて向上することが分かった。
【0094】
これらの結果から、実施例のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ATF等の自動車用潤滑油に接して使用される成形品としての特別な用途に、特に有用であることが分かった。
【0095】
一方で、表2の比較例の結果に示すように、カルボジイミド化合物を添加しないポリブチレンテレフタレート樹脂組成物では、高温のATFに長時間浸漬させることにより、強度が著しく低下した。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、酸化防止剤やアルカリ化合物を添加したとしても(例えば比較例4〜6の結果を参照)、耐ATF性は得られず、カルボジイミド化合物の添加が耐ATF性に重要であることが分かった。