(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334850
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】コンクリート養生シートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
E04G21/02 104
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-119443(P2013-119443)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-237925(P2014-237925A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(73)【特許権者】
【識別番号】507282314
【氏名又は名称】ニッシントーア・岩尾株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177493
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 修
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】白岩 誠史
(72)【発明者】
【氏名】庄野 昭
(72)【発明者】
【氏名】新居 秀一
(72)【発明者】
【氏名】森 孝太
【審査官】
金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−188486(JP,A)
【文献】
特開2007−046270(JP,A)
【文献】
特開2011−202454(JP,A)
【文献】
特開2013−245526(JP,A)
【文献】
特開2001−048676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性を有するプラスチック樹脂製の不織布シートの片面に、不透水性のプラスチック製シートを接合し、且つ、 前記不織布シートとプラスチック製シートとの接合体の一端部において、不織布シート側に、その端部から一定の距離を取って添着された、多数孔を有する散水ホースを備えて成り、当該散水ホースにより給水手段からの水を前記プラスチック製シートと養生コンクリート間の前記不織布シート内に散水できるようにした、ことを特徴とするコンクリート養生シート。
【請求項2】
前記プラスチック製の不織布シートと不透水性のプラスチック製シートの接合が、接着剤によるものである請求項1に記載のコンクリート養生シート。
【請求項3】
前記プラスチック樹脂製の不織布シートが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、又はナイロンのいずれかの不織布か、これらから選ばれた2以上の接合物のシートであり、これらに前記不透水性のプラスチック製シートであるポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリブタジエンテレフタレートのいずれかの不透水性のプラスチック製シートか、これらから選ばれた2以上の接合物のシートをラミネート加工したものである請求項1又は2に記載のコンクリート養生シート。
【請求項4】
前記プラスチック製の不織布シートが20g/m2〜100g/m2の範囲で、その片面に、20μm〜70μmの範囲の不透水性のプラスチック製シートを接合した請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリート養生シート。
【請求項5】
ロールに巻き取られた親水化剤を混入したプラスチック製の不織布を、冷却ロールとニップロール間に送出し、該各ロール間にある前記プラスチック製の不織布に相溶性のある溶融状態のプラスチック樹脂を溶着することで、プラスチック樹脂製の不織布に不透水性のプラスチック製シートを接合し、前記不織布シートとプラスチック製シートとの接合体の一端部において、不織布シート側に、その端部から一定の距離を取って多数孔を有する散水ホースを配線ステッカーと粘着部材で添着して配置する、ことを特徴とするコンクリート養生シートの製造方法。
【請求項6】
前記プラスチック製の不織布と不透水性のプラスチック製シートの接合が、前記溶着に代えて、これらを接着剤により接合したものである請求項5に記載のコンクリート養生シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの養生、特に養生コンクリートの表面に張り付けて養生するコンクリートの養生シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在用いられている養生方法として、水平面の湿潤養生と鉛直面の湿潤養生がある。
【0003】
まず、水平面の湿潤養生には、養生するコンクリート面に直接散水する直接散水法と、養生コンクリートの周囲に型枠を設置し、その中に水を溜めて実施する湛水による給水養生法がある。しかし、これらの養生法は、水の蒸発を防ぐことができないために、散水が不経済であり、また水を溜める堰を設けて適量の水を補給しなければならないという問題がある。
【0004】
そのために、1〜2cm厚程度の不織布で水を保水する給水マットを用いる方法もあるが、マット表面からの水の蒸発を防ぐことができず、適宜水の補給が必要であり、またマットに水が含まれて重量が大きくなり、移動と施工時の敷き均し工事が不便であり、これを解決するためには一度乾燥させて重量を軽減させてから運搬・施工していた。
【0005】
さらに、ビニールシートでコンクリート表面を覆って水の蒸発を防ぐ封かん養生法があるが、シートそのものに保水性能がないために、常に給水を行なう必要があり、またシート自体が軽量であるために乾燥すると風により養生コンクリート表面からシート剥離が生じるという不都合があった。
【0006】
一方、鉛直面の湿潤養生として、型枠内にコンクリートを打設して養生する型枠養生法がある。しかし、型枠内にコンクリートを打設した後では給水ができないため、予め余分の水を含ませておく必要があり、また型枠を養生中残置するために、養生時間が掛かり、その間型枠も他に転用できず、数多くの在庫が必要であった。
【0007】
また、型枠を早く脱型してから養生コンクリートの表面にビニールシート等を掛けて水の蒸発を防ぐ封かん養生法も施工されているが、シートそのものに保水性能がなく、軽量のために風等により剥離し易いという欠点がある。
【0008】
さらに、本出願人による下記の先行文献として、コンクリート面にメッシュの浸水物を添付した不透水シートを、負圧によりコンクリートに密着させて保水物に水を添加させる給水養生装置とその方法がある。ただ、これは運搬が容易で、養生も優れたものであるものの、コンクリート面に添付した浸水物に給水し、吸引する装置を設置するために設備費用と、設置に時間と手間が掛かるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−202454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を解決せんとするもので、簡易な構造によるも、以下の性能を全て満足させるコンクリートの養生シートとその製造方法を提供するものである。
a)保水性:シートが養生水を給水して保水できる性能がある。
b)乾燥防止性:コンクリート表面や養生水の蒸発を防ぎ、乾燥を防止する性能がある。
c)形状追随性:ハンチや開口部、箱抜き等の対象構造物の細かな形状への追随性もある。また、養生中の面において、足場等の仮設物を設置する時に、シートと足場間を隙間なく養生することができる性能も存する。
d)耐久性:繰返し転用する耐久性もある。
e)移動性:養生中のシートを他の場所に移動する時の移動の便利性もある。
f)施工性:施工時に養生シートを容易に設置できる。
g)効果の確実性:従来の養生方法では、コンクリート面の乾燥、シートの剥離、シート設置時にできる隙間等の不都合が生じることが考えられ、養生の効果が確実に担保できない場合があるが、本発明はこのような欠点も存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決したものであり、その請求項1の発明は、親水性を有するプラスチック樹脂製の不織布シートの片面に、該プラスチック製の不織布シートと不透水性のプラスチック製シートを接合
し、且つ、前記不織布シートとプラスチック製シートとの接合体の一端部において、不織布シート側に、その端部から一定の距離を取って
添着された、多数孔を有する散水ホースを
備えて成り、当該散水ホースにより給水手段からの水を前記プラスチック製シートと養生コンクリート間の前記不織布シート内に散水できるようにした、ことを特徴とするコンクリート養生シートであり、これにより後述する発明の効果が得られる。ここで、接合とは、互いに相溶性を有する不織布と不透水性のプラスチック製シートを溶着するか、請求項2のように接着剤等で接合したものも含む。
【0012】
また、請求項3の発明は、前記請求項1において、不透水性のプラスチック製シートとプラスチック樹脂製の不織布とは、互いに相溶性を有する別体のものを熱融着するか、接着剤で接着したものであり、前記プラスチック樹脂製の不織布がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、又はナイロンのシートか、これらの接合シートで、前記不透水のプラスチック製シートがポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリブタジエンテレフタレートのシートか、これらの接合シートが、コストが安価で、強度も備わり、取り扱い上も好ましい。
【0013】
つぎに、請求項4の発明は、前記請求項1又は2のいずれかにおいて、プラスチック製の不織布シートが20g/m
2〜100g/m
2の範囲で、その片面に20μm〜70μmの不透水性のプラスチックシートを接合したもので、これらにより薄膜で取り扱いが簡単な養生シートを得ることができる。なお、前記不織布シートが20g/m
2未満であるとコンクリートの養生時の給水が不織布シートに万遍なく行き渡らないか、行き渡りに時間が掛かり、100g/m
2超であると、本発明の養生シートがコンクリート面から離脱する虞がある。また、不透水性のプラスチックシート20μm未満であれば、そのシートに穴が開き、70μm超の場合にはコスト高で、養生コンクリート面への貼り付けも十分でなくなる。
【0014】
さらに、請求項5の発明は、前記請求項1乃至3のいずれかにおいて、コンクリート養生シートの一端部には、水道栓等の給水手段からの水を不透水性のプラスチックシートと養生するコンクリート間に、散水できるようにした多数孔を有する散水ホースを配置して、養生シートの全面に最適な給水を施すことができる。
【0015】
そして、本発明の請求項6は、このようにしてロールに巻き取られた親水化剤を混入したプラスチック製の不織布を、冷却ロールとニップロール間に送出し、これに前記各ロール間で前記プラスチック製の不織布と相溶性のある溶融状態のプラスチック樹脂をシート状にした不透水性のプラスチック製のシートと溶着して送り出して接合
し、前記不織布シートとプラスチック製シートとの接合体の一端部において、不織布シート側に、その端部から一定の距離を取って多数孔を有する散水ホースを配線ステッカーと粘着部材で添着して配置するといった、比較的簡素な設備で多量にコンクリートの養生シートを仕上げることができるようにしたものである。
なお、請求項7として、前記親水性を有するプラスチック製の不織布と不透水性のプラスチック製のシートとの接合が、前記溶着に代えて、接着剤により接合することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンクリート養生シートを使用するには、養生するコンクリートと不透水性のプラスチック製シート間にあるプラスチック樹脂製の不織布に水を供給して行きわたらせ、ゴム製の水切り具等でコンクリート面の養生シート上を一方から他方に沿って押圧していくと、前記不織布内に存在する空気が養生シートの外部に押し出されることで、前記不透水層とコンクリート面間を表面張力によって張着して不透水層とコンクリート間で不織布中の保水性が保たれ、簡単で効率的にコンクリートの養生が図れる。
【0017】
また、不織布の凹凸が、コンクリート表面における微細な凹凸にも対応でき、水による養生シートの密着性が良い。
【0018】
本発明者らは、本発明と従来品とを比較したものを、表1のコンクリート水平面への適用性と、表2のコンクリートの鉛直面への適用性とに分けて実験した。その結果によると、本発明は従来技術に較べて、表に示す性能と歩掛りのあらゆる項目について、全て良好な結果が得られた。
【0019】
【表1】
【表2】
【0020】
上記表1と2によれば、養生コンクリートの水平面も鉛直面も簡易な方法で給水養生ができ、型枠の早期脱型が要求される工程の厳しい現場でも、工程に悪影響を与えることなく、養生コンクリートの良好な品質が確保できる。
【0021】
本発明のコンクリート養生シートを、養生コンクリート上に掛け、別途用意した給水装置から不透水性のプラスチック製シートとコンクリート面間の、プラスチック製の不織布に水を供給し、不透水性のプラスチック製シート上からゴム製の水切り具を養生コンクリートの中央から周辺に移動するだけで、不織布中にある空気を粗方脱気することができ、養生シートは水の表面張力により養生コンクリート面上に貼り付けられ、工事に必要な人員や設備が省ける。
【0022】
本発明の養生シートは、比較的薄いために、通常紙に使用するはさみやカッターにより養生面に合わせた形状に切断することで、現場に合わせて隙間無く養生シートを貼り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のコンクリート養生シートをコンクリート表面に付着した一部縦断面図である。
【
図2】本発明のコンクリート養生シートに散水ホースを付加した部分説明図である。
【
図3】養生するコンクリート表面に本発明を貼着する実験説明図である。
【
図4】本発明のコンクリート養生シートの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のコンクリート養生シートは、親水性を有するプラスチック樹脂製の不織布と、その片面に不透水性のプラスチック製シートを接合したコンクリート養生シートと、そのコンクリート養生シートに多数孔を有する散水ホースを取り付けたもの、及びその製造方法を提供する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明である養生シートA、すなわち親水化剤としてグリセリンを混入したPETとPPを積層した50g/m
2のプラスチック樹脂製の不織布シート2に30μmのPEである不透水性のプラスチック製シート3を重ねたものを養生コンクリート1の表面に添加し、その上で前記プラスチック樹脂製の不織布シート2中に養生水4を入れ貼り合せて接合物にしたものである。
ここで、前記プラスチック樹脂製の不織布2は、各メーカーの周知技術を用いることができるが、中でも前工程としてバーストファイバー法とトウ開繊法の組み合せによる積層延展法を用いた不織布(ユニセルKK製)を採用した。なお、この他に水流結合法(スパンレース法)、スパンボンド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、又はニードルパンチ法を用いて不織布を製造することもできる。
【0026】
また、上記したように、本発明のコンクリート養生シートAには、養生コンクリート1に貼り合わせて不織布シート2中に水を散布して貼合するが(
図1)、この場合、
図2に示すように、コンクリート養生シートAにおける不織布シート2側の一端部から少し置いた距離5を取って、散水するための多数孔7を一定間隔に設けた散水ホース6を配線ステッカーと粘着テープ(図示せず)で添着しておき、給水装置(図示せず)からの養生水を散水ホース6を通して多数孔7から不織布2内へ万遍なく散布することにより、コンクリートを養生する。
【実施例2】
【0027】
つぎに、本発明のコンクリート養生シートAを製造する方法を
図4により説明する。
ロール状に巻き取られた親水化剤を混入したPETとPPを積層した不織布2を引き出し、冷却ロール8と、これと間隙を調整することができるニップロール9間に送る。この工程と同時に、容器に入れた溶融したPE樹脂を不透水性のシートとし、前記した冷却ロール8とニップロール9間にあるPEの不織布2の片面に溶着した層状にラミネートし、これらを本発明の製品10として巻き取る。
【0028】
このようにして出来た本発明のコンクリート養生シートAをコンクリートの養生に用いるには、
図3に示すように、コンクリート1の養生面に、プラスチック製の不織布シート2側を付着し、散水ホース6に水を供給して、コンクリート1と不透水のプラスチックシート3間の不織布シート2内に養生水を行き渡らせ、別途用意したゴム製の水切り具30を用いて不織布シート2内に残在する空気をシート外に排出することで、コンクリート養生シートAを十分にコンクリート1面に貼着することができる。
なお、散水ホース6からの給水は、コンクリートの容積やコンクリート製造時における急結剤の投入等に応じた多数孔7の口径と間隔配分により、所要時間を区切った間欠散水をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のコンクリート養生シートは、コンクリートの養生に用いられることになるが、その場合にもコンクリートの水平面はもちろん垂直面等の傾斜面においても十分に貼り付けられ、水を供給することで、コンクリート面に十分に貼りつけて使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 コンクリート
2 プラスチック製の不織布シート
3 不透水性のプラスチック製シート
4 養生水
6 散水ホース