【文献】
Felix Zijlstra, et al.,"Does the quantitative assessment of coronary artery dimensions predict the physiologic significance of a coronary stenosis?",Circulation,American Heart Association, Inc.,1987年,Vol. 75, No. 6,p. 1154-1161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
心臓に関する複数時相の画像のデータに描出された複数の冠動脈を抽出し、当該抽出された各冠動脈に描出された少なくとも1つの狭窄部位を抽出する第1抽出ユニットと、
前記抽出された複数の冠動脈の組織血流量に基づいて、前記抽出された各冠動脈の圧較差を計算する計算ユニットと、
前記画像に描出された虚血領域を抽出する第2抽出ユニットと、
前記抽出された虚血領域を前記抽出された各冠動脈と支配域とを関係付ける支配マップに照会することにより当該虚血領域の責任血管を特定する第1特定ユニットと、
前記特定された責任血管内の狭窄部位に対応した前記圧較差に基づいて責任狭窄を特定する第2特定ユニットと、
前記特定された責任狭窄が描出された画像を、当該責任狭窄を示す情報と共に表示する表示ユニットと、
を具備する医用画像処理装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、虚血性心疾患では、冠動脈の閉塞や狭窄等により、心筋への血流が阻害され、血液の供給が不足もしくは途絶えることにより、心臓に障害が生じる。症状としては、主に前胸部、時に左腕や背中に痛みや圧迫感を感じる。虚血性心疾患の患者に対しての治療法は、大きく分けると、バイパス手術、PCI(カテーテル手術)、薬物療法の3つに分類される。
【0003】
バイパス手術は、
図20に示すように、狭くなっていたり閉塞していたりする血管に対して他の血管を繋げることにより、その血管を介して虚血となっている部位により多くの血液が流れるようにしてやる治療法である。
【0004】
PCIは、
図21,
図22に示すように、細い管状構造の治療器具を閉塞や狭窄を起こしている血管に直接挿入して強制的に血管を広げる治療法である。
【0005】
薬物療法は、心臓の虚血を改善したり、血栓ができるのを予防したりする治療法である。
【0006】
医師がこれら3つの治療法のうちのどの治療法を選択するかの指標として、FFR(Fractional Flow Reserve)がある。
【0007】
狭窄の進行度の評価は、一般的に、プレッシャーワイヤーを直接血管に挿入して行う。プレッシャーワイヤーは、
図23に示すように挿入され、狭窄部の前後の圧力P
in,P
outを計測する。
【0008】
ここで、FFRはP
out/P
inで定義され、この値が0.8より低いと医師はPCIを治療法として選択し、この値が0.8より高いと医師は薬物療法を治療法として選択する。しかしながら、プレッシャーワイヤーを用いた圧力P
in,P
outの計測は侵襲的であるため、非侵襲的な計測法及びFFRの推定法が望まれている。
【0009】
そこで、近年、流体解析を用いたシミュレーションベースのFFRの推定法が考案されている。既存のシミュレーションは3D画像を用いてのシミュレーションである。このようなシミュレーションベースのFFRの推定法の基本概念としては、モダリティから取得される血管の形状と、血液等のもつ粘性値等の物理パラメータとをインプットとして、例えばCFD(Computational Fluid Dynamics)で用いられるナビエストークスの式を用いてFFRを推定(計算)する。
【0010】
このような3Dシミュレーションでの問題点は多大な計算時間を要することである。そのため、FFRを用いて治療法を選択するまでにも時間を要し、一刻を争うときには不向きであるという不都合が生じる。そこで、改善策として、3D画像を用いてのシミュレーションを2D近似することで、シミュレーションに要する時間を大幅に削減する手法がある。
【0011】
これによりFFRをシミュレーションベースで素早く計算することが可能となり、医師はFFRをより有効的な指標として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係る医用画像処理装置を含む医用画像処理システムの構成例を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態に係るテリトリーマップ記憶部に記憶されるテリトリーマップの一例を示す模式図である。
【
図3】第1の実施形態に係る医用画像処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態に係る冠動脈解析部による解析結果の一例を示す模式図である。
【
図5】第1の実施形態に係る心筋解析部による解析結果の一例を示す模式図である。
【
図6】同実施形態に係る表示部により表示される責任血管の3次元画像の一例を示す模式図である。
【
図7】第1の実施形態に係る表示部により表示される責任血管の2次元画像の一例を示す模式図である。
【
図8A】第1の実施形態に係る表示部により表示される責任血管の2次元画像であって、治療の優先度を示唆する2次元画像の一例を示す模式図である。
【
図8B】第1の実施形態に係る表示部により表示される責任血管の2次元画像であって、治療の優先度を示唆する2次元画像の一例を示す模式図である。
【
図9】第1の実施形態に係る表示部により表示される責任血管の2次元画像であって、側副血管の存在を示唆する2次元画像の一例を示す模式図である。
【
図10】第1の実施形態に係る表示部により表示される責任血管の2次元画像であって、カテーテル・ステントのサイズを示唆する2次元画像の一例を示す模式図である。
【
図11】第2の実施形態に係る医用画像処理装置を含む医用画像システムの構成例を示す模式図である。
【
図12】第2の実施形態に係る医用画像処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図13】第2の実施形態に係るマーカ発生部により発生させる梗塞責任血管の輪郭を表すマーカの一例を示す模式図である。
【
図14】第2の実施形態に係るマーカ発生部により発生させるFFR値の遷移を表すマーカの一例を示す模式図である。
【
図15】第2の実施形態に係る表示部により表示される梗塞責任血管の2次元画像の一例を示す模式図である。
【
図16】第2の実施形態に係る表示部により表示される梗塞責任血管の3次元画像の一例を示す模式図である。
【
図17】第2の実施形態に係る医用画像処理装置の別の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図18】第3の実施形態に係る医用画像処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図19】第3の実施形態に係る表示部により表示される梗塞責任血管の3次元画像の一例を示す模式図である。
【
図20】バイパス手術の原理を説明するための模式図である。
【
図21】血管狭窄に対するカテーテル手術の原理を説明するための模式図である。
【
図22】バルーンカテーテル手術の原理を説明するための模式図である。
【
図23】冠動脈へのプレッシャーワイヤーの挿入法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置を含む医用画像処理システムの構成例を示す模式図であり、
図2は同実施形態に係るテリトリーマップ記憶部に記憶されるテリトリーマップの一例を示す模式図である。
図1に示す医用画像処理システム1は、医用画像処理装置10と、CT(Computed Tomography)装置20及びPACS(Picture Archiving and Communication System)30とが、例えばLAN(Local Area Network)や公衆電子通信回線等のネットワーク40を介して通信可能に接続されたシステムである。このため、医用画像処理装置10には、CT装置20及びPACS50との通信を可能にする通信インターフェース103が設けられている。
【0020】
医用画像処理装置10は、
図1に示すように、画像記憶部101、テリトリーマップ記憶部102、通信インターフェース103、制御部104、心臓領域抽出部105、心筋解析部106、冠動脈解析部107、責任血管特定部108、FFR計算部109、責任狭窄特定部110、マーカ発生部111及び表示部112を備えている。以下に、医用画像処理装置10を構成する各部101乃至112の機能について詳細に説明する。
【0021】
画像記憶部101は、制御部104の下でCT装置20又はPACS50から送信された処理画像としての当該被検体の心臓を含む胸部領域に関する複数時相にわたる時系列の3次元造影CT画像データ(以下、単にボリュームデータと表記)を記憶する記憶装置である。
【0022】
テリトリーマップ記憶部102は、
図2に示すように、冠動脈と各冠動脈により栄養供給がなされる支配域との関係を定義するテリトリーマップ(以下、支配マップと表記)を記憶する記憶装置である。
【0023】
心臓領域抽出部105は、ボリュームデータから心輪郭抽出処理等により心臓領域を抽出する。
【0024】
心筋解析部106は、造影剤濃度に対応するCT値による閾値処理等により、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域から心筋領域を抽出する。また、心筋解析部106は、心筋パフュージョン解析、つまり、抽出した心筋領域内の画素毎又は局所毎に造影剤に関する時間濃度曲線を生成し、その時間濃度曲線に基づいて画素毎又は局所毎に造影剤が流入してから流出するまでの期間に移動する血流の量を算出する。
【0025】
例えば、CT装置を用いた撮影では非イオン性造影剤を患者へ注入し、CT値の変化から臓器の灌流情報を描出することができる。このため、CTパフュージョン解析では、例えば、512×512ピクセルで構成されたCT画像(ボリュームデータ)の経時変化を各画素におけるCT値の変化から測定し、血流量等を数値化することができる。このようにして、複数時相のCT画像から臓器の灌流情報(例えば、血流量)を表す1枚のカラーマップが生成される。
【0026】
更に、心筋解析部106は、算出した血流量の空間分布から閾値処理により虚血領域を特定する。
【0027】
冠動脈解析部107は、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域から複数の冠動脈を抽出し、更に、当該抽出した各冠動脈から少なくとも1つの狭窄部位を抽出する。具体的には、冠動脈解析部107は、冠動脈の血管芯線や血管内壁等に沿って、冠動脈の解剖学的構造やプラーク性状の分析を行い、冠動脈に関するボリュームデータを抽出する、つまり、冠動脈ならびにその冠動脈の内壁に位置する狭窄部位を抽出する。なお、プラーク性状の具体例としては、脂質量、血清コレステロール濃度、硬さ、石灰化度、繊維性被膜(Thin-cap)の厚さ、及びFFR値(但し、本実施形態では、FFR値はFFR計算部109により算出されるものとする)等が挙げられる。
【0028】
責任血管特定部108は、心筋解析部106により特定された虚血領域に対して、テリトリーマップ記憶部102に記憶された支配マップを照会することにより、虚血領域へ本来的に栄養供給責任を有している血管(以下、責任血管と表記)を特定する。
【0029】
FFR計算部109は、冠動脈解析部107により抽出された各狭窄部位に対応するFFRの値をシミュレーションベースで計算する。具体的には、まずFFR計算部109は、冠動脈解析部107により抽出された狭窄部位毎に、心筋解析部106により生成されたカラーマップに基づいて、各狭窄部位の下流の少なくとも一つの位置において組織血流量と、各狭窄部位の上流の少なくとも一つの位置において組織血流量とを算出する。そして、FFR計算部109は、算出した狭窄部位の下流の組織血流量を、算出した狭窄部位の上流の組織血流量で除算することで、少なくとも狭窄部位を含む各位置におけるFFR値を算出する。なお、本実施形態では、FFR計算部109は、上記のような計算手法によりFFR値を算出するものとしたが、FFR値の計算手法はこれに限定されるものでなく、各狭窄部位に対応したFFR値を算出可能であれば、FFR計算部109で用いるFFR値の計算手法として適宜適用可能である。
【0030】
責任狭窄特定部110は、冠動脈解析部107により抽出された狭窄部位のうち、責任血管特定部108により特定された責任血管の内壁に位置する狭窄部位(以下、責任狭窄と表記)、つまり、責任狭窄候補の中からFFR値が閾値未満である狭窄部位を責任狭窄として特定する。
【0031】
マーカ発生部111は、責任血管特定部108により特定された責任血管や、責任狭窄特定部110により特定された責任狭窄、FFR計算部109により算出されたFFR値、ならびに冠動脈解析部107により抽出された責任狭窄候補等を表すマーカのデータを発生する。これらマーカは、ボリュームデータからレンダリング等により生成された3次元画像や、断面変換(Multi-Planar Reconstruction)により生成された2次元画像に重畳させて、表示部112に表示される。なお、マーカ発生部111から発生したマーカを重畳させる画像としては、CT装置20によるボリュームデータに由来する画像には限定されず、例えばX線診断装置等、他のモダリティから取得される画像であってもよい。
【0032】
ここで、本実施形態に係る医用画像処理装置10の動作の一例について、
図2,
図4乃至
図7の模式図と、
図3に示すフローチャートとを参照しながら説明する。
【0033】
始めに、制御部104は、通信インターフェース103を介して、CT装置20又はPACS50から胸部領域に関する複数時相にわたる時系列のボリュームデータの入力を受け付けると、当該入力を受け付けたボリュームデータを画像記憶部101に書込む(ステップS1)。
【0034】
続いて、心臓領域抽出部105は、制御部104の下で拍動が比較的少ない特定時相のボリュームデータを処理画像として画像記憶部101から読出し、当該ボリュームデータから心臓領域を抽出する(ステップS2)。
【0035】
次に、冠動脈解析部107は、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域を対象にして冠動脈解析処理を実行する(ステップS3,S4)。具体的には、冠動脈解析部107は、冠動脈の血管芯線や血管内壁等に沿って、冠動脈の解剖学的構造やプラーク性状の分析を行い、冠動脈ならびにその冠動脈の内壁に位置する狭窄部位を抽出する。その後、冠動脈解析部107は、例えば、
図4(a),
図4(b)に示すように、冠動脈の解剖学的構造を心臓形態画像に重畳させて3次元画像g1又は2次元画像g2として表示部112に表示させる。なお、
図4(a),
図4(b)に示す画像g1,g2を表示部112に表示させるタイミングは、操作者が任意に設定可能である、つまり、処理途中に表示させてもよいし、処理結果と共に表示させてもよい。
【0036】
続いて、心筋解析部106は、造影剤濃度に対応するCT値による閾値処理により、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域から心筋領域を抽出する(ステップS5)。
【0037】
次に、心筋解析部106は、抽出した心筋に限定してCTパフュージョン解析処理を実行する(ステップS6,S7,S8)。具体的には、心筋解析部106は、時系列のボリュームデータに基づいて、抽出した心筋領域内の画素毎又は局所毎に造影剤に関する時間濃度曲線を生成する。その後、心筋解析部106は、それら時間濃度曲線に基づいて画素毎又は局所毎に造影剤が流入してから流出するまでの期間に移動する血流量を算出する。これにより、例えば
図5に示すように、血流量の空間分布を示すカラーマップg3が生成される。そして、心筋解析部106は、生成したカラーマップg3、つまり、算出した血流量の空間分布に基づいて、所定の血流量未満の領域を虚血領域として特定する。
【0038】
続いて、責任血管特定部108は、心筋解析部106により特定された虚血領域に対して、
図2に示すように、テリトリーマップ記憶部102に記憶されている支配マップを照会することにより、責任血管を特定する(ステップS9)。
【0039】
次に、FFR計算部109は、責任血管特定部108により特定された責任血管の内壁に位置する狭窄部位毎に、心筋解析部106により生成されたカラーマップg3に基づいて、各狭窄部位の下流の組織血流量と、各狭窄部位の上流の組織血流量とを算出する。そして、FFR計算部109は、算出した狭窄部位の下流の組織血流量を、算出した狭窄部位の上流の組織血流量で除算することで、少なくとも狭窄部位を含む各位置におけるFFR値を算出する(ステップS10)。
【0040】
続いて、責任狭窄特定部110は、FFR計算部109により算出されたFFR値が閾値未満である狭窄部位を責任狭窄として特定する(ステップS11)。
【0041】
しかる後、表示部112は、例えば
図6,7に示すように、マーカ発生部111により発生した責任血管、責任狭窄、ならびにFFR値を表すマーカをボリュームデータに由来した3次元画像g4又は2次元画像g5に重畳させて表示する(ステップS12)。
【0042】
以上説明した一実施形態によれば、CT装置20によるボリュームデータから心臓領域、心筋領域、冠動脈及び狭窄部位を抽出可能な心臓領域抽出部105、心筋解析部106及び冠動脈解析部107と、心筋解析部106による処理結果に基づいて責任血管を特定する責任血管特定部108と、冠動脈解析部107、責任血管特定部108及びFFR計算部109による処理結果に基づいて責任狭窄を特定する責任狭窄特定部110と、責任血管や責任狭窄に関するマーカをボリュームデータに由来した3次元画像又は2次元画像に重畳表示させる表示部112とを備えた構成により、例えば、
図6に示すように、責任狭窄と支配域との対応関係を医師に対して視覚的に示すことができる、ひいては、ヒューマンエラーの可能性を低減させることができる。
【0043】
また、本実施形態では、FFR計算部109がシミュレーションベースでFFR値を算出する、つまり、プレッシャーワイヤー等、侵襲性をもつものを用いないため、検査時に患者にかかる負担を低減させることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、表示部112が表示する画像の一例として
図6,7を示したが、表示部112が表示する画像はこれらに限定されるものでなく、例えば、
図8A,
図8Bに示すような画像g6,g7が表示されるとしてもよい。
図8A,
図8Bは、FFR計算部109により算出されたFFR値に基づいて、狭窄部位の治療の優先度を順位付し、この処理結果をマーカとして重畳した画像g6,g7の一例を示す。ここでは、治療の優先度が高い狭窄部位ほど狭窄部位を示すマーカ(丸印)が大きくなっている。また、
図8Aでは、優先度の他に、冠動脈解析部107によるプラーク性状の分析結果を示す棒グラフをマーカとして重畳した画像g6の一例を示す。なお、
図8Aに示す画像g6には、プラーク性状の分析結果の他に、血液の性質等をマーカとして更に重畳させてもよい。また、責任血管が複数存在する場合、複数の責任血管にわたって狭窄部位の治療の優先度を順位付した後に、この処理結果をマーカとして重畳した画像を表示部112に表示させることもできる。
【0045】
また、本実施形態に係る医用画像処理装置10によれば、責任血管特定部108による支配マップ照会時に、ある動脈が供給すべき領域の一部に対して別の動脈の領域が張り出しているか否かを検出し、別の動脈の領域が張り出していることが検出された場合に、側副血管による血液供給の可能性があることを示唆することもできる。一般に、側副血管が存在するとFFR値の信頼性は低下するため、例えば、
図9に示すように、側副血管の存在を示唆する画像g8を表示部112に表示させることで、よりヒューマンエラーの可能性を低減させることができる。
【0046】
更に、本実施形態に係る医用画像処理装置10によれば、責任狭窄特定部110により責任狭窄を特定した後に、ボリュームデータに由来する2次元画像から責任狭窄の断面の径や長さを測定し、この測定結果に基づいて最適なカテーテル・ステントのサイズを示唆することもできる。具体的には、例えば、
図10に示すように、最適なカテーテル・ステントのサイズを示唆する画像g9を表示部112に表示させることで、よりヒューマンエラーの可能性を低減させることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る医用画像処理装置10によれば、心筋解析部106により虚血領域が複数個所存在する旨が示された場合に、ボリュームデータから心筋の厚み等を測定し、この測定結果に基づいて壊死している心筋の支配領域に対応する血管は責任血管として特定しないといった設定を付加することも可能である。
【0048】
更に、本実施形態に係る医用画像処理装置10によれば、表示部112により所望の3次元画像を表示したときに、マウスやキーボード、タッチパネル等の図示しない入力インターフェースから責任血管や責任狭窄を選択する旨の入力を受け付けると、当該選択された責任血管や責任狭窄が観察しやすい角度に3次元画像を自動で回転させることも可能である。
【0049】
[第2の実施形態]
図11は第2の実施形態に係る医用画像処理装置を含む医用画像処理システムの構成例を示す模式図である。
図11に示す医用画像処理システム1は、医用画像処理装置10と、CT(Computed Tomography)装置20、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置30、核医学診断装置40及びPACS(Picture Archiving and Communication System)50とが、例えばLAN(Local Area Network)や公衆電子通信回線等のネットワーク60を介して通信可能に接続されたシステムである。このため、医用画像処理装置10には、CT装置20、MRI装置30、核医学診断装置40及びPACS50との通信を可能にする通信インターフェース103が設けられている。
【0050】
医用画像処理装置10は、
図11に示すように、画像記憶部101、テリトリーマップ記憶部102、通信インターフェース103、制御部104、心臓領域抽出部105、心筋解析部106、冠動脈解析部107、責任血管特定部108、FFR計算部109、マーカ発生部111及び表示部111を備えている。第1の実施形態で示した医用画像処理装置1と異なる構成についてのみ、以下説明する。
【0051】
画像記憶部101は、制御部104の下でCT装置20又はPACS50から送信された処理画像としての当該被検体の心臓を含む胸部領域に関する複数時相にわたる時系列の3次元造影CT画像データを記憶する記憶装置である。
【0052】
テリトリーマップ記憶部102は、
図2に示すように、冠動脈と各冠動脈により栄養供給がなされる支配域との関係を定義するテリトリーマップを記憶する記憶装置である。
【0053】
心臓領域抽出部105は、ボリュームデータから心輪郭抽出処理等により心臓領域を抽出する。
【0054】
心筋解析部106は、造影剤濃度に対応するCT値による閾値処理等により、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域から心筋領域を抽出する。また、心筋解析部106は、MRI装置30による遅延造影(late gadolinium enhancement)や、核医学診断装置40による糖代謝測定等により、抽出した心筋領域のうち壊死している心筋領域、つまり、心筋梗塞に寄与する心筋梗塞領域を特定する。
【0055】
更に、心筋解析部106は、心筋パフュージョン解析、つまり、抽出した心筋領域内の画素毎又は局所毎に造影剤が流入してから流出するまでの期間に移動する血流の量を算出する。例えば、CT装置20を用いた撮影では非イオン性造影剤を患者へ注入し、CT値の変化から臓器の灌流情報を描出することができる。このため、CTパフュージョン解析では、例えば、512×512ピクセルで構成されたCT画像(ボリュームデータ)の経時変化を各画素におけるCT値の変化から測定し、血流量等を数値化することができる。このようにして、複数時相のCT画像から臓器の灌流情報(例えば、血流量)を表す1枚のカラーマップが生成される。
【0056】
即ち、心筋解析部106は心筋梗塞領域を特定するだけでなく、例えば、算出した血流量の空間分布から閾値処理により血流低下部位、つまり、虚血領域を特定することもできる。
【0057】
冠動脈解析部107は、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域から複数の冠動脈を抽出し、更に、当該抽出した各冠動脈から少なくとも1つの狭窄部位を抽出する。具体的には、冠動脈解析部107は、冠動脈の血管芯線や血管内壁等に沿って、冠動脈の解剖学的構造やプラーク性状の分析を行い、冠動脈に関するボリュームデータを抽出する、つまり、冠動脈ならびにその冠動脈の内壁に位置する狭窄部位を抽出する。なお、プラーク性状には、脂質量、血清コレステロール濃度、硬さ、石灰度及び繊維性被膜(Thin-cap)の厚さ等が含まれる。
【0058】
責任血管特定部108は、心筋解析部106により特定された心筋梗塞領域に対して、テリトリーマップ記憶部102に記憶された支配マップを照会することにより、心筋梗塞領域へ本来的に栄養供給責任を有している血管(以下、梗塞責任血管と表記)を特定する。
【0059】
なお、心筋解析部106により心筋梗塞領域に代えて虚血領域が特定されている場合、責任血管特定部108は、心筋解析部106により特定された虚血領域に対して、テリトリーマップ記憶部102に記憶された支配マップを照会することにより、虚血領域へ本来的に栄養供給責任を有している血管(以下、虚血責任血管と表記)を特定する。
【0060】
FFR計算部109は、冠動脈解析部107により抽出された各冠動脈上の狭窄部位を少なくとも含む複数の位置に関するFFR値をシミュレーションベースで計算する。具体的には、まずFFR計算部109は、心筋解析部106により生成されたカラーマップに基づいて、冠動脈内の狭窄部位の下流側の少なくとも一つの位置において組織血流量と、冠動脈内の狭窄部位の上流の少なくとも一つの位置において組織血流量とを算出する。そして、FFR計算部109は、算出した狭窄部位の下流の組織血流量を、算出した狭窄部位の上流の組織血流量で除算することで、少なくとも狭窄部位を含む各位置におけるFFR値を算出する。なお、ここでは、冠動脈内の1つの狭窄部位に対応したFFR値を算出する場合について説明したが、例えば、冠動脈全体のFFR値を算出する場合、冠動脈内の最も上流に位置する狭窄部位の上流の組織血流量を基準値として固定し、他の複数箇所の組織血流量(但し、FFR計算部109が冠動脈内の複数箇所の組織血流量を算出しているものとする)を変数とすることで、FFR計算部109は、当該複数箇所に対応したFFR値、つまり、冠動脈全体のFFR値を算出することができる。
【0061】
マーカ発生部111は、責任血管特定部108により特定された梗塞責任血管(又は、虚血責任血管)や、FFR計算部109により算出されたFFR値を表すマーカ(マーク)のデータを発生する。これらマーカは、ボリュームデータからレンダリング等により生成された3次元画像や、断面変換(Multi-Planar Reconstruction)により生成された2次元画像に重畳させて、表示部111に表示される。なお、マーカ発生部111から発生したマーカを重畳させる画像としては、CT装置20によるボリュームデータに由来する画像には限定されず、例えばX線診断装置等、他のモダリティから取得される画像であってもよい。
【0062】
ここで、本実施形態に係る医用画像処理装置10の動作の一例について、
図2,
図13乃至
図16の模式図と、
図12のフローチャートとを参照しながら説明する。
【0063】
但し、ここでは、画像記憶部101には、CT装置20又はPACS50からの胸部領域に関する複数時相にわたる時系列のボリュームデータが予め記憶されているものとする。また、ここでは、心臓領域抽出部105が、制御部104の下で拍動が比較的少ない特定時相のボリュームデータを処理画像として画像記憶部101から読出し、当該ボリュームデータから心臓領域を既に抽出しているものとする。
【0064】
始めに、冠動脈解析部107は、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域を対象にして冠動脈解析処理を実行する(ステップS21)。具体的には、冠動脈解析部107は、冠動脈の血管芯線や血管内壁等に沿って、冠動脈の解剖学的構造やプラーク性状の分析を行い、冠動脈ならびにその冠動脈の内壁に位置する狭窄部位を抽出する。
【0065】
続いて、心筋解析部106は、造影剤濃度に対応するCT値による閾値処理により、心臓領域抽出部105により抽出された心臓領域から心筋領域を抽出する。その後、心筋解析部106は、MRI装置30による遅延造影や、核医学診断装置40による糖代謝測定等により、抽出した心筋領域のうち壊死している心筋領域、つまり、心筋梗塞に寄与する心筋梗塞領域を特定する(ステップS22,S23,S24)。
【0066】
次に、責任血管特定部108は、心筋解析部106により特定された心筋梗塞領域に対して、テリトリーマップ記憶部102に記憶された支配マップを照会することにより、冠動脈解析部107により抽出された各冠動脈から梗塞責任血管を特定する(ステップS25)。
【0067】
続いて、マーカ発生部111は、責任血管特定部108により特定された梗塞責任血管を表すマーカのデータを発生させる(ステップS26)。具体的には、マーカ発生部111は、例えば
図13に示すように、梗塞責任血管の輪郭を表すマーカm1を発生させる。
【0068】
次に、FFR計算部109は、冠動脈解析部107により抽出された冠動脈毎に、冠動脈全体のFFR値を算出する(ステップS27)。
【0069】
続いて、マーカ発生部111は、FFR計算部109により算出された各冠動脈に対応したFFR値を表すマーカを発生させる(ステップS28)。具体的には、マーカ発生部111は、例えば
図14に示すように、各冠動脈のFFR値の遷移を表すマーカm2を発生させる。
【0070】
しかる後、表示部111は、例えば
図15に示すように、マーカ発生部111により発生した梗塞責任血管を表すマーカm1と各冠動脈のFFR値の遷移を表すマーカm2とをボリュームデータに由来した2次元画像g1に重畳させて表示する(ステップS29)。なお、表示部111が表示する画像は、上記2次元画像g1だけでなく、例えば
図16に示すように、ボリュームデータに由来した3次元画像g2や、他のモダリティから取得される画像にマーカを重畳させた画像であってもよい。
【0071】
なお、上記動作例の説明では、責任血管特定部108が梗塞責任血管を特定する場合について説明したが、例えば
図17のフローチャートに示すように、責任血管特定部108が虚血責任血管を特定する場合においても、医用画像処理装置10は、CT装置20又はMRI装置30による心筋パフュージョン解析や、核医学診断装置40によるSPECT検査等により虚血領域を特定して(ステップS22’,S23’,S24’)、当該特定した虚血領域から虚血責任血管を特定し(ステップS25’)、当該特定した虚血責任血管を表すマーカを発生させる(ステップS26’)こと以外は、上記動作例と同様に動作する。
【0072】
以上説明した第2の実施形態によれば、CT装置20によるボリュームデータから心臓領域、心筋領域、冠動脈、狭窄部位及び心筋梗塞領域を抽出可能な心臓領域抽出部105、心筋解析部106及び冠動脈解析部107と、心筋解析部106による処理結果に基づいて梗塞責任血管を特定する責任血管特定部108と、梗塞責任血管や、FFR計算部109により算出されたFFR値を表すマーカをボリュームデータに由来した2次元画像又は3次元画像に重畳表示させる表示部111とを備えた構成により、梗塞責任血管を表すマーカが重畳表示された部分のFFR値の信頼度が低い旨を医師に対して提示することができる。
【0073】
また、本実施形態では、FFR計算部109がシミュレーションベースでFFR値を算出する、つまり、プレッシャーワイヤー等、侵襲性をもつものを用いないため、検査時に患者にかかる負担を低減させることができる。
【0074】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態に係る医用画像処理装置について、上記した
図11を用いて説明する。本実施形態は、第2の実施形態に示す医用画像処理装置10に、冠動脈内の狭窄部位が治療対象狭窄であるか又は治療非対象狭窄であるかを判定する機能を付加したものである。なお、以下では、
図18のフローチャートと
図19の模式図とを参照しながら、第2の実施形態とは異なる機能についてのみ説明する。つまり、ステップS21乃至S28の処理は、上記した第2の実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略し、以下では、ステップS30乃至S36の処理について主に説明する。
【0075】
冠動脈解析部107は、ステップS21の処理において抽出した狭窄部位毎に、当該狭窄部位が梗塞責任血管内に位置する狭窄であるか否かを判定する(ステップS30)。
【0076】
ステップS30の処理による判定の結果が梗塞責任血管内に位置する狭窄である旨を示す場合(ステップS30のYes)には、心筋解析部106は、ステップS24の処理において特定した心筋梗塞領域内に生存心筋が有るか否かを判定する(ステップS31)。具体的には、心筋解析部106は、MRI装置30による遅延造影等から当該心筋梗塞領域が心筋の厚さの半分にまで到達しているか否かを判定し、当該判定の結果が到達している旨を示す場合には生存心筋が無いとみなし、当該判定の結果が否を示す場合には生存心筋が有るとみなす。なお、ステップS31の処理による判定の結果が否を示す場合(ステップS31のNo)には、後述するステップS35の処理に進む。
【0077】
ステップS31の処理による判定の結果が生存心筋が有る旨を示す場合(ステップS31のYes)には、マーカ発生部111は、生存心筋が有る梗塞責任血管を表すマーカと治療対象狭窄を表すマーカとを発生させる(ステップS32)。具体的には、マーカ発生部111は、例えば
図19に示すように、生存心筋が有る梗塞責任血管の輪郭を表すマーカm3と、治療対象狭窄を表すマーカm4とを発生させる。
【0078】
ここで、ステップS30の処理による判定の結果が否を示す場合(ステップS30のNo)には、冠動脈解析部107は、ステップS27の処理において算出された各冠動脈のFFR値のうち当該狭窄部位に対応したFFR値が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS33)。
【0079】
ステップS33の処理による判定の結果が閾値以下である旨を示す場合(ステップS33のYes)には、マーカ発生部111は、治療対象狭窄を表すマーカを発生させる(ステップS34)。即ち、マーカ発生部111は、
図19に示したマーカm4に相当するマーカを発生させる。
【0080】
ステップS33の処理による判定の結果が否を示す場合(ステップS33のNo)には、マーカ発生部111は、治療非対象狭窄を表すマーカを発生させる(ステップS35)。具体的には、マーカ発生部111は、例えば
図19に示すように、治療非対象狭窄を表すマーカm5を発生させる。
【0081】
しかる後、表示部111は、マーカ発生部111により発生した梗塞責任血管を表すマーカm1、各冠動脈のFFR値の遷移を表すマーカm2、生存心筋が有る梗塞責任血管を表すマーカm3、治療対象狭窄を表すマーカm4、及び治療非対象狭窄を表すマーカm5をボリュームデータに由来した3次元画像g3に重畳させて表示する(ステップS36)。なお、表示部111が表示する画像は、上記3次元画像g3だけでなく、ボリュームデータに由来した2次元画像や、他のモダリティから取得される画像にマーカを重畳させた画像であってもよい。また、梗塞責任血管を表すマーカm1と生存心筋が有る梗塞責任血管を表すマーカm3との両方が画像上の同じ位置に重畳される場合、マーカm3が優先的に表示されるものとする。
【0082】
以上説明した第3の実施形態によれば、心筋梗塞領域に生存心筋が有るか否かや、冠動脈内の狭窄部位が治療対象狭窄であるか又は治療非対象狭窄であるかを判定する心筋解析部106及び冠動脈解析部107と、生存心筋が有る梗塞責任血管を表すマーカや、治療対象狭窄を表すマーカ、ならびに治療非対象狭窄を表すマーカをボリュームデータに由来した3次元画像や2次元画像に重畳表示させる表示部111とを備えた構成により、第1の実施形態に比べて、より多くの情報を医師に対して提示することができる。
【0083】
以上説明した第2及び第3の実施形態の少なくとも一方によれば、FFR値の信頼度が低い旨や、生存心筋の有無、ならびに狭窄部位が治療するに適した狭窄であるか否かを医師に対して提示することができるため、ヒューマンエラーの可能性を低減させることができる。
【0084】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。