特許第6334917号(P6334917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334917
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20180521BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20180521BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180521BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   B41M5/00 100
   C09D11/30
   B41J2/01 501
   B41M5/00 120
   B41M5/52 110
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-272134(P2013-272134)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-123737(P2015-123737A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓之
(72)【発明者】
【氏名】竹野 泰陽
(72)【発明者】
【氏名】若林 裕樹
【審査官】 樋口 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−072354(JP,A)
【文献】 特開2008−074887(JP,A)
【文献】 特開2013−023546(JP,A)
【文献】 特開2011−052174(JP,A)
【文献】 特開2013−189598(JP,A)
【文献】 特開2012−246460(JP,A)
【文献】 特開2011−224943(JP,A)
【文献】 特開2011−057991(JP,A)
【文献】 特開2012−251062(JP,A)
【文献】 特開2010−202845(JP,A)
【文献】 特開2012−144698(JP,A)
【文献】 特開2010−260956(JP,A)
【文献】 特開2003−335052(JP,A)
【文献】 特開2010−090271(JP,A)
【文献】 特開2010−046918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/00,5/50−5/52
B41J2/01−2/215
C09D11/00−13/00
C08F6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録用水系インクを用いて記録媒体に記録するインクジェット記録方法であって、
該水系インクが、顔料(ただし、自己分散型顔料を除く)を含有する水不溶性ポリマー粒子Aと、水不溶性ポリマー粒子Bと、有機溶媒Cと、水とを含有し、
該水不溶性ポリマー粒子Bが、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有し、該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、水不溶性ポリマー粒子Bの全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、
該水不溶性ポリマー粒子Bのガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、水系インク中の該水不溶性ポリマー粒子Bの含有量が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、
該有機溶媒Cが、沸点90℃以上の種以上の有機溶媒を含有し、その沸点が、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で230℃以下であり、
該有機溶媒C中の、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上の含有量が80質量%以上であり、
該記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量が、0g/m以上10g/m以下である、インクジェット記録方法。
【請求項2】
水不溶性ポリマー粒子Bが、水不溶性ポリマー粒子Bの製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]が反応途中において少なくとも1回増大して製造された共重合体である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
水不溶性ポリマー粒子Bが、(メタ)アクリル酸と、炭素数1〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
水不溶性ポリマー粒子Bに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー粒子B〕が、0.3以上4.0以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子Aを構成する水不溶性ポリマーaが、イオン性モノマー(a−1)由来の構成単位、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)由来の構成単位、及び下記式(1)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)由来の構成単位から選ばれる1種以上を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は水素原子が炭素数1以上9以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示し、mは平均付加モル数を示し、2以上100以下の数である。)
【請求項6】
(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有する、インクジェット記録用水系インクに含有される水不溶性ポリマー粒子の製造方法であって、
該水不溶性ポリマー粒子のガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、
該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、該水不溶性ポリマー粒子の全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、
該水不溶性ポリマー粒子の製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]を、反応途中において少なくとも1回増大して製造する、水不溶性ポリマー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録用水系インクに含有される水不溶性ポリマー粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、インクジェット記録方式において、着色剤として顔料を用い、バインダーとして樹脂微粒子を用いるインクジェット記録用インクが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐摩擦性、吐出性等に優れた水性インクジェットインクとして、親水性1官能エチレン性不飽和単量体と、水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下である疎水性1官能エチレン性不飽和単量体とを乳化重合してなる官能基含有樹脂微粒子を含む水性インクジェットインクが開示されている。
特許文献2には、インクジェットインクに用いられる分散安定性に優れたラテックス微粒子として、特定のバルク密度と特定の表面誘電率を有するラテックス微粒子が開示されている。
【0004】
また一方で、上記従来の普通紙、コピー紙と呼ばれる高吸収性記録媒体への印刷に加えて、オフセットコート紙のような低吸液性のコート紙、又はポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂等の非吸液性樹脂のフィルムを用いた商業印刷向けの記録媒体への印刷が求められてきている。
これら低吸収性、非吸収性の記録媒体上にインクジェット記録方法で印字を行った場合、液体成分の吸収が遅い、又は吸収されないため記録媒体の乾燥に時間がかかり、印字初期の擦過性が劣ることが知られている。
これらの課題を解決するために、インク吸液層を有する記録媒体を用いるインクジェット記録方法が提案されている。
例えば、特許文献3には、用紙対応力が広く、印刷物の耐擦性にも優れるインクジェット記録方法として、顔料を含有する塗工層を塗布した低吸水性で紙面pHが8以上の記録媒体に、粒子状の色材とエマルジョン樹脂及び界面活性剤を含有するpH8以上のインクを印字するインクジェット記録方法が開示されており、乾燥装置を備えた記録装置も提案されている。
しかし、記録媒体や記録装置からの改善は、コストや消費電力等の問題があるため、インク組成からのインクジェット記録方法の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−12253号公報
【特許文献2】特表2006−524269号公報
【特許文献3】特開2008−260279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、インク組成の改善により、耐摩擦性や吐出性等を改善しようとするものであるが、乾燥性や耐摩擦性等を向上させるために印刷後に加熱処理工程を必要としている。その実施例では、水性インキをアート紙上に塗布し、100℃で3分加熱することによって評価用インキ塗膜を得て、この塗膜を用いて耐摩擦性等を評価し、フィルターのろ過速度でインキの吐出性を評価している。このように、特許文献1に記載の技術は、耐摩擦性、吐出性の点において満足し得るものではない。
本発明は、低吸水性の記録媒体に印字した際に、耐擦過性と吐出性に優れるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録用インクに含有される水不溶性ポリマー粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、顔料と、水不溶性ポリマー粒子Bと、有機溶媒Cとを含有する水系インクに着目し、水不溶性ポリマー粒子Bを構成する親水性アニオン性モノマー由来の構成単位の含有量、及び水系インク中の水不溶性ポリマー粒子Bの含有量を特定範囲に調整し、特定の沸点を有する有機溶媒Cと組み合わせる等した特定の水系インクを用いることにより、前記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]インクジェット記録用水系インクを用いて記録媒体に記録するインクジェット記録方法であって、該水系インクが、顔料と、水不溶性ポリマー粒子Bと、有機溶媒Cと、水とを含有し、
該水不溶性ポリマー粒子Bが、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有し、該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、水不溶性ポリマー粒子Bの全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、該水不溶性ポリマー粒子Bのガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、水系インク中の該水不溶性ポリマー粒子Bの含有量が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、
該有機溶媒Cが、沸点90℃以上の1種以上の有機溶媒を含有し、その沸点が、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で250℃以下であり、
該記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量が、0g/m2以上10g/m2以下である、インクジェット記録方法。
【0008】
[2](メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有する、インクジェット記録用水系インクに含有される水不溶性ポリマー粒子であって、
該水不溶性ポリマー粒子のガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、
該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、該水不溶性ポリマー粒子の全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、
該水不溶性ポリマー粒子の製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]を、反応途中において少なくとも1回増大して製造された、水不溶性ポリマー粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低吸水性の記録媒体に印字した際に、耐擦過性と吐出性に優れるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録用インクに含有される水不溶性ポリマー粒子を提供することができる。
なお、本発明において、「低吸水性」とは、低吸収性、非吸収性を含む概念であり、記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量が、0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録用水系インク(以下、単に「水系インク」ともいう)を用いて低吸水性の記録媒体に記録する方法であって、該水系インクが、顔料と、水不溶性ポリマー粒子B(以下、単に「ポリマー粒子B」ともいう)と、有機溶媒Cと、水とを含有し、
該水不溶性ポリマー粒子Bが、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有し、該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、水不溶性ポリマー粒子Bの全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、該水不溶性ポリマー粒子Bのガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、水系インク中の該水不溶性ポリマー粒子Bの含有量が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、
該有機溶媒Cが、沸点90℃以上の1種以上の有機溶媒を含有し、その沸点が、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で250℃以下であることを特徴とする。
なお、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味するものであり、水と一種以上の有機溶媒との混合溶媒を含む。
また、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリレート)」とは、それぞれ、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。以下においても同様である。
【0011】
本発明のインクジェット記録方法によれば、記録(印字)間欠後のインク吐出性に優れ、低吸水性の記録媒体において印字後の耐擦過性に優れた印字物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
水不溶性ポリマー粒子Bは、低吸水性の記録媒体上でポリマー粒子B同士が相互融着し、顔料粒子を連結したポリマー層を形成することで耐擦過性を発現すると考えられる。本発明において、ポリマー粒子Bをインク中に1質量%以上含有することで印字面に含まれる顔料粒子を連結するバインダーとして働き、耐擦過性が向上し、4.0質量%以下含有することでインクノズル面での乾燥条件下でポリマー粒子Bの相互作用によるインクの増粘が抑制され、記録(印字)間欠後でも吐出性が良好であると考えられる。
また、ポリマー粒子Bを構成する(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の量が1.0質量%以上で該(b−1)由来の構成単位による水和層の広がりにより、該ポリマー粒子B同士が融着し十分な強度が得られ、耐擦過性が発現すると考えられる。一方、該(b−1)由来の構成単位の量が6.0質量%以下でポリマー粒子B同士の適度な融着が維持され、吐出性が良好であると考えられる。
また、ポリマー粒子Bのガラス転移温度(Tg)が10℃以上90℃以下で適度の流動性と融着性を有することになり、吐出性と耐擦過性が両立できると考えられる。
また、有機溶媒Cとして沸点の加重平均値が250℃以下のものを用いるために、有機溶媒Cとポリマー粒子Bの相互作用により、吐出までのポリマー粒子Bによる粘度増加を抑制でき、吐出後は低吸水性の記録媒体上での有機溶媒C自身の乾燥速度が速いため、吐出後から短時間で耐擦過性が向上すると考えられる。
【0012】
さらに、ポリマー粒子Bの製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]を、反応途中において少なくとも1回増大して製造することにより、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が多く含まれる部分が生じ、その部分がポリマー粒子Bの表面近傍に存在することとなって、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位による該ポリマー粒子B表面での負電荷反発が増えるため、ポリマー粒子B同士の分散安定が促進され、インクノズル面が乾燥した条件下においても水系インクが増粘しにくくなり、吐出性が更に向上すると考えられる。
【0013】
<インクジェット記録用水系インク>
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録用水系インクは、顔料と、ポリマー粒子Bと、有機溶媒Cと、水とを含有する。
【0014】
[顔料]
本発明に用いられる顔料は特に制限はなく、自己分散型顔料、水溶性ポリマーで分散された顔料、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子等の形態で用いることができる。
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、赤色、青色、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0015】
〔自己分散型顔料〕
本発明において用いることができる自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接、又は炭素数1〜12のアルカンジイル基等の他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。顔料を自己分散型顔料とするには、例えば、親水性官能基の必要量を、常法により顔料表面に化学結合させればよい。自己分散型顔料の市販品としては、CAB−O−JET 200、同300、同352K、同250C、同260M、同270Y、同450C、同465M、同470Y、同480V(キャボット社製)やBONJET CW−1、同CW−2(オリヱント化学工業株式会社製)、Aqua−Black 162(東海カーボン株式会社製)、SDP−100、SDP−1000、SDP−2000(SENSIENT社製)等が挙げられる。自己分散型顔料は、水に分散された水分散体として用いることが好ましい。
【0016】
〔水溶性ポリマーで分散された顔料〕
水溶性ポリマーで分散された顔料は、前記顔料を水溶性ポリマーで分散した水分散体であることが好ましい。水溶性ポリマーは、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸を含む、カルボキシル基を有する共重合体が挙げられる。用いられる水溶性ポリマーの市販品としては、JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRL683、JONCRYL60J等が挙げられる。
水溶性ポリマーで分散された顔料は、水溶性ポリマーを溶解した水に顔料を添加し、剪断応力を与えて分散させた顔料を含む水分散体として用いることが好ましい。剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。
【0017】
〔顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子〕
本発明に用いられる顔料は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子A」ともいう)として用いることがより好ましい。
顔料含有ポリマー粒子Aの形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーaにより粒子が形成されていればよい。例えば、該水不溶性ポリマーaに顔料が内包された粒子形態、該水不溶性ポリマーa中に顔料が均一に分散された粒子形態、該水不溶性ポリマー粒子aの表面に顔料が露出された粒子形態、及びこれらの混合物の形態も含まれる。
【0018】
(水不溶性ポリマーa)
顔料含有ポリマー粒子Aを構成する水不溶性ポリマーaは、顔料を水系媒体中に分散させ、分散を安定に維持するために用いられる。
水不溶性ポリマーaは、イオン性モノマー(a−1)由来の構成単位、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)由来の構成単位、及び後述する式(1)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)由来の構成単位から選ばれる1種以上を含有することが好ましく、これらの構成単位の内の2種以上を含有することがより好ましく、前記3種を含有することが更に好ましい。
水不溶性ポリマーaは、例えば、イオン性モノマー(a−1)、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)、及び後述する式(1)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)を、公知の方法により付加重合して得ることができる。
【0019】
〔イオン性モノマー(a−1)〕
イオン性モノマー(a−1)は、後述する「顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体」(以下、「顔料水分散体」ともいう)の製造の際に、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーaのモノマー成分として用いられる。
イオン性モノマー(a−1)としては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられるが、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、及び吐出性を向上させる観点から、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等から選ばれる1種以上が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0020】
カチオン性モノマーとしては、不飽和3級アミン含有ビニルモノマー及び不飽和アンモニウム塩含有ビニルモノマーから選ばれる1種以上が挙げられる。
不飽和3級アミン含有モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアリールアミン、ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。
不飽和アンモニウム塩含有モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート四級化物等が挙げられる。
カチオン性モノマーの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
上記例示のイオン性モノマー(a−1)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
〔芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)〕
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点から用いられる。
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)としては、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマーから選ばれる1種以上が挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、上記と同様の観点から、スチレン、2−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、上記と同様の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、上記と同様の観点から、数平均分子量は好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは3,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは9,000以下、更に好ましくは8,000以下である。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される値である。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーとしては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)としては、上記と同様の観点から、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマーから選ばれる2種以上を併用することがより好ましく、スチレン又はベンジル(メタ)アクリレートと、スチレン系マクロモノマーとを併用することが更に好ましい。
【0022】
〔式(1)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)〕
式(1)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点から用いられる。
【0023】
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は水素原子が炭素数1以上9以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示し、mは平均付加モル数を示し、2以上100以下の数である。)
【0024】
上記式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基であるが、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、メチル基が好ましい。
2は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基が更に好ましく、メチル基がより更に好ましい。
上記式(1)において、mは、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、そして、mは、好ましく50以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。
上記式(1)で表されるモノマー(a−3)としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等から選ばれる1種以上が挙げられるが、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
商業的に入手しうる式(1)で表されるモノマーの具体例としては、NKエステルTM−20G、同23G、同40G、同60G、同90G、同230G、同450G、同900G(以上、新中村化学工業株式会社社製)、PE−200(日油株式会社製)、ライトエステルMTG(共栄社化学株式会社社製)、ライトエステル041MA(共栄社化学株式会社社製)等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる水不溶性ポリマーaは、本発明の目的を損なわない範囲において、前記のモノマー(a−1)、(a−2)及び(a−3)以外のモノマー由来の構成単位を含有することができる。
他のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等のシリコーン系マクロモノマー等が挙げられる。
【0026】
水不溶性ポリマーa製造時における、前記モノマー(a−1)、(a−2)及び(a−3)のモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)、又は水不溶性ポリマーa中における前記モノマー(a−1)、(a−2)及び(a−3)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点から、次のとおりである。
イオン性モノマー(a−1)を含有する場合、その含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)を含有する場合、その含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは37質量%以上、より更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは84質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは74質量%以下、より更に好ましくは70質量%以下である。
また、モノマー(a−2)としてスチレン系マクロモノマーを含む場合、スチレン系マクロモノマーは、スチレン系モノマー及び/又は芳香族基含有(メタ)アクリレート等のモノマー(a−2)の他のモノマーと併用することが好ましい。スチレン系マクロモノマーの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0027】
親水性ノニオン性モノマー(a−3)を含有する場合、その含有量は、好ましくは13質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは38質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
また、モノマー(a−1)、(a−2)及び(a−3)を含有する場合、〔(a−1)成分/[(a−2)成分+(a−3)成分]〕の質量比は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、更に好ましくは0.30以下である。
【0028】
(水不溶性ポリマーaの製造)
水不溶性ポリマーaは、前記モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる有機溶媒aに制限はないが、後述する顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトン、アルコール、エーテル及びエステルから選ばれる1種以上の化合物が好ましく、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、アゾ化合物がより好ましく、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノール等がより好ましい。
【0029】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマーaは、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒aを後述する有機溶媒bとして用いるために、そのままポリマー溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマーa溶液の固形分濃度は、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、そして、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0030】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーaの重量平均分子量は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましく、20,000以上が更に好ましく、30,000以上がより更に好ましい。また、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点から、150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。なお、水不溶性ポリマーaの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
〔顔料含有ポリマー粒子Aの製造〕
顔料含有ポリマー粒子Aは、水系インクの生産性を向上させる観点から、顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体(顔料水分散体)として製造することが好ましい。
顔料水分散体は、以下の工程(1)及び工程(2)を有する方法により得ることができる。
工程(1):水不溶性ポリマーa、有機溶媒b、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、分散処理物を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散処理物から前記有機溶媒bを除去して、顔料水分散体を得る工程
【0032】
<工程(1)>
工程(1)は、水不溶性ポリマーa、有機溶媒b、顔料、及び水を含有する混合物(顔料混合物)を分散処理して、分散処理物を得る工程である。
工程(1)では、まず、水不溶性ポリマーa、有機溶媒b、顔料、水、及び必要に応じて、中和剤、界面活性剤等を混合し、顔料混合物を得ることが好ましい。加える順序に制限はないが、水不溶性ポリマーa、有機溶媒b、中和剤、水、及び顔料はこの順に加えることが好ましい。
【0033】
(有機溶媒b)
工程(1)で用いる有機溶媒bに特に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数4以上8以下のケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料への濡れ性、水不溶性ポリマーaの溶解性、及び水不溶性ポリマーaの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
有機溶媒bに対する水不溶性ポリマーaの質量比[水不溶性ポリマーa/有機溶媒b]は、顔料への濡れ性、及び水不溶性ポリマーaの顔料への吸着性を向上させる観点から、0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましく、そして、0.70以下が好ましく、0.60以下がより好ましく、0.50以下が更に好ましい。
【0034】
(中和剤)
本発明においては、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、中和剤を用いることができる。中和剤を用いる場合、顔料水分散体のpHが好ましくは7以上、より好ましくは7.5以上になるように、そして、pHが好ましくは11以下、より好ましくは9.5以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。
有機アミンとしては、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
中和剤は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアが好ましく、水酸化ナトリウムとアンモニアを併用することがより好ましい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、上記の観点から、3質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0035】
有機溶媒bに対する中和剤水溶液の質量比[中和剤水溶液/有機溶媒b]は、水不溶性ポリマーaの顔料への吸着性とポリマーの中和を促進して顔料分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、粗大粒子の低減、水系インクの吐出性を向上させる観点から、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上が更に好ましく、そして、0.50以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。
中和剤及び中和剤水溶液は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
水不溶性ポリマーaの中和度は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、粗大粒子の低減、水系インクの吐出性を向上させる観点から、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましく、そして、300モル%以下が好ましく、200モル%以下がより好ましく、150モル%以下が更に好ましい。
また、水不溶性ポリマーaの水への分散性を向上する観点から、このうちアルカリ金属の水酸化物による中和度が30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましく、そして、150モル%以下であることが好ましく、125モル%以下がより好ましく、100モル%以下であることが更に好ましい。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーaのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0036】
(顔料混合物中の各成分の含有量等)
顔料の含有量は、顔料水分散体の分散安定性及び系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、顔料混合物中、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、14質量%以上が更に好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
水不溶性ポリマーaの含有量は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、顔料混合物中、2.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上が更に好ましく、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8.0質量%以下が更に好ましい。
有機溶媒bの含有量は、顔料への濡れ性及び水不溶性ポリマーaの顔料への吸着性を向上させる観点から、顔料混合物中、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、そして、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましい。
水の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、顔料混合物中、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、そして、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下が更に好ましい。
【0037】
水不溶性ポリマーaに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマーa〕は、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、0.4以上が好ましく、1以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましく、そして、9以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。
【0038】
(顔料混合物の分散)
工程(1)において、更に顔料混合物を分散して分散処理物を得る。分散処理物を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程(1)の予備分散における温度は、0℃以上が好ましく、そして、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下が更に好ましく、分散時間は0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、そして、30時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましい。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0039】
工程(1)の本分散における温度は、0℃以上が好ましく、そして、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下が更に好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、60MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましく、130MPa以上が更に好ましく、そして、200MPa以下が好ましく、180MPa以下がより好ましく、170MPa以下が更に好ましい。
また、パス回数は、好ましくは3回以上、より好ましくは5回以上、更に好ましくは7以上であり、そして、好ましくは30回以下、より好ましくは25回以下、更に好ましくは15回以下である。
【0040】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた分散処理物から前記有機溶媒bを除去して、顔料水分散体を得る工程である。有機溶媒bの除去は、公知の方法で行うことができる。
有機溶媒bを除去する過程で凝集物が発生することを抑制し、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、有機溶媒bを除去する前に、工程(1)で得られた分散処理物に水を添加して、水に対する有機溶媒bの質量比(有機溶媒b/水)を調整することが好ましい。
(有機溶媒b/水)の質量比は、好ましくは0.08以上、より好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.20以下である。
また、質量比(有機溶媒b/水)を調整した後の顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、有機溶媒bを除去する過程で凝集物の発生を抑制する観点、及び顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。なお、上記顔料水分散体に含有される水の一部が有機溶媒bと同時に除去されてもよい。
【0041】
工程(2)において用いられる有機溶媒bの除去装置としては、回分単蒸留装置、減圧蒸留装置、フラッシュエバポレーター等の薄膜式蒸留装置、回転式蒸留装置、攪拌式蒸発装置等が挙げられるが、効率よく有機溶媒bを除去する観点から、回転式蒸留装置及び攪拌式蒸発装置が好ましい。回転式蒸留装置の中では、ロータリーエバポレーター等の回転式減圧蒸留装置が好ましく、撹拌式蒸発装置の中では、撹拌槽薄膜式蒸発装置等が好ましい。
有機溶媒bを除去する際の分散処理物の温度は、用いる有機溶媒bの種類によって適宜選択できるが、減圧下、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
このときの圧力は、0.01MPa以上が好ましく、0.02MPa以上がより好ましく、0.05MPa以上が更に好ましく、そして、0.5MPa以下が好ましく、0.2MPa以下がより好ましく、0.1MPa以下が更に好ましい。
有機溶媒bを除去するための時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、5時間以上が更に好ましく、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、10時間以下が更に好ましい。
有機溶媒bの除去は、固形分濃度が、好ましく10質量%以上、より好ましくは20質量%以上になるまで行うことが好ましく、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下になるまで行うことが好ましい。
【0042】
得られた濃縮物は、好ましくは、遠心分離処理を行い、液層部分と固形部分とに分離し、液層部分を回収する。回収された液層部分は、主として、顔料含有ポリマー粒子Aが水中に分散した分散体であり、固形部分は、主として、分散不良や凝集により生成した粗大粒子からなる固形分である。従って、この液層部分から顔料水分散体を得ることができる。
得られた顔料水分散体は、乾燥を防止する観点及び腐敗を防止する観点から、グリセリン等の保湿剤や防腐剤、防黴剤等を添加することが好ましい。
得られた顔料水分散体中の有機溶媒bは実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒bの量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましい。
得られた顔料含有ポリマー粒子Aの顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量以下%がより好ましい。
【0043】
得られた顔料含有ポリマー粒子Aの顔料水分散体は、顔料と水不溶性ポリマーaの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子Aの平均粒径は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点から、40nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、80nm以上が更に好ましく、そして、150nm以下が好ましく140nm以下がより更に好ましい。
なお、顔料含有ポリマー粒子Aの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、顔料含有ポリマー粒子Aを用いた水系インク中の顔料含有ポリマー粒子Aの平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0044】
〔水不溶性ポリマー粒子B〕
本発明で用いられる水系インクは、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の耐擦過性を向上させる観点から、水不溶性ポリマー粒子B(ポリマー粒子B)を含有する。ポリマー粒子Bは、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、着色剤を含有しないことが好ましい。また、ポリマー粒子Bは、水系インクの生産性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bを含む分散体として用いることが好ましい。
本発明の水不溶性ポリマー粒子Bは、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有する、インクジェット記録用水系インクに含有される水不溶性ポリマー粒子であって、
該水不溶性ポリマー粒子のガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、
該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、該水不溶性ポリマー粒子の全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、
該水不溶性ポリマー粒子の製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]を、反応途中において少なくとも1回増大して製造された、水不溶性ポリマー粒子である。
【0045】
(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位を与えるモノマーとしては、アクリル酸、及びメタクリル酸が挙げられ、メタクリル酸が好ましい。
(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の含有量は、耐擦過性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bの全構成単位中、1.0質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは1.8質量%以上であり、そして、6.0質量%以下であり、好ましくは5.8質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは5.3質量%以下である。
なお、構成単位中の含有量は、ポリマー粒子Bを製造する際のモノマーの仕込み量から計算することができる。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を与えるモノマーとしては、アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族基を含有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1〜22のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸(イソ又はターシャリー)ブチル、(メタ)アクリル酸(イソ)アミル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸(イソ)オクチル、(メタ)アクリル酸(イソ)デシル、(メタ)アクリル酸(イソ)ドデシル、(メタ)アクリル酸(イソ)ステアリル等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを表す。
また、芳香族基を含有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を与えるモノマーの中では、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位の含有量は、耐擦過性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bの全構成単位中、耐擦過性を向上する観点から、好ましくは94.0質量%以上、より好ましくは94.5質量%以上であり、そして、99.0質量%以下であり、好ましくは98.0質量%以下である。
(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位の合計の含有量は、耐擦過性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bの全構成単位中、好ましくは95.0質量%以上、より好ましくは96.0質量%以上、更に好ましくは98.0質量%以上であり、そして、100.0質量%以下である。
(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位に対する(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の質量比[(b−1)/(b−2)]は、耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.04以上であり、そして、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.10以下である。
【0048】
ポリマー粒子Bのガラス転移温度は、耐擦過性を向上させる観点から、10℃以上であり、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上、より更に好ましくは45℃以上であり、そして、90℃以下であり、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、より更に好ましくは78℃以下である。ポリマー粒子Bのガラス転移温度は、(メタ)アクリル酸(b−1)以外のモノマー、例えば(b−2)の種類や構成の比率を調整することにより所望の値に調整することができる。
なお、ポリマーBのガラス転移温度は、実施例記載の方法により測定される。
【0049】
ポリマー粒子Bは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
(ポリマー粒子Bの合成)
ポリマー粒子Bは、(メタ)アクリル酸(b−1)及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)の混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。例えば、重合法としては、好ましくは乳化重合法や懸濁重合法等が挙げられ、より好ましくは乳化重合法である。
重合の際には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸塩や水溶性アゾ重合開始剤等が挙げられ、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が好ましい。
重合の際には、界面活性剤を用いることが出来る。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられ、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0050】
さらに、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の耐擦過性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bの製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]を、反応途中において少なくとも1回増大して製造することが好ましい。
例えば、重合温度に保持し、重合開始剤と溶媒とが入った反応容器内に、前記モル比[(b−1)/(b−2)]がある比率のモノマー混合物を導入した後に、そのモル比よりも大きな値のモノマー混合物を導入して変化させる方法が挙げられる。具体的には、(i)(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)を混合した水分散体、又は、(ii)別々に調製した(メタ)アクリル酸(b−1)の水分散体と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)の水分散体の滴下を同時に開始し、それぞれのモル比が、所定範囲となるように滴下流量(質量部/分)を変化させて所定時間滴下する方法等が挙げられる。
なお、モノマー滴下容器にモノマーの一部を仕込み、残りのモノマー又は残りのモノマー混合液を、一定の速度で反応系に滴下させる方法は、前記モル比を反応途中において少なくとも1回増大される方法には該当しない。
【0051】
モル比[(b−1)/(b−2)]を増大させる方法として、該モル比を段階的ないし断続的に変化させる方法が挙げられ、変化させる回数は、1回以上であり、好ましくは10回以下、より好ましくは5回以下、更に好ましくは3回以下である。この方法のように反応途中で一回でもモル比を増大させることにより、得られるポリマー粒子Bは、一定のモル比[(b−1)/(b−2)]で反応させて得られる共重合体よりも、ポリマー粒子B表面の(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の割合が大きいポリマー粒子Bが生成し、該ポリマー粒子B表面での負電荷反発が増え、その結果、ポリマー粒子B同士の分散安定が促進されると考えられる。
前記モル比を連続的に変化させる場合は、直線的な変化、指数関数的な変化、その他の変化の何れでもよいが、変化の度合いは1分間あたり好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.0009以上であり、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下である。
また、前記モル比は、変化前後のモル比の差〔変化後モル比−変化前モル比〕の少なくとも何れかが0.01以上0.4以下の範囲にあることが好ましい。また、前記したようにモル比の変化は種々の態様があるが、何れの場合も、前記モル比[(b−1)/(b−2)]の変化量(最大値と最小値の差)が、好ましく0.03以上、より好ましく0.05以上、更に好ましくは0.06以上であり、そして、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.08以下である。
【0052】
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマーBは、インクへの配合性の観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、水を分散媒とするポリマー分散体として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマーB溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子Aとインクに配合する観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0053】
(ポリマー粒子Bの重量平均分子量)
本発明で用いられるポリマー粒子Bの重量平均分子量は、低吸水性の媒体に印字した際に耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上、更に好ましくは500,000以上であり、好ましくは2,500,000以下、より好ましくは1,000,000以下である。
(ポリマー粒子Bの平均粒径)
また、ポリマー粒子Bを含有する分散体中又は水系インク中のポリマー粒子Bの平均粒径は、水系インクの保存安定性、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字濃度を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは130nm以下である。
なお、ポリマー粒子Bの重量平均分子量と平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
【0054】
(ポリマー粒子Bの市販の分散体)
市販のポリマー粒子Bの分散体としては、例えば、「Neocryl A1127」(DSM NeoResins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル樹脂、「WBR−2018」「WBR−2000U」(大成ファインケミカル株式会社製)等のウレタン樹脂、「SR−100」、「SR102」(以上、日本エイアンドエル株式会社製)等のスチレン−ブタジエン樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル538」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン−アクリル樹脂及び「ビニブラン701」(日信化学工業株式会社製)等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
ポリマー粒子Bの形態としては、ポリマー粒子Bを水中に分散した分散体が挙げられ、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有していてもよい。ポリマー粒子Bの分散体は、インクジェットノズルから吐出されたインク液滴を記録媒体に定着させ、耐擦過性を向上させるための、定着エマルジョンとしても作用する。
ポリマー粒子Bを含有する分散体中のポリマー粒子Bの含有量は、ポリマー粒子Bの分散安定性、インク配合時の利便性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、そして、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が更に好ましい。
【0055】
〔有機溶媒C〕
有機溶媒Cは、ポリマー粒子による粘度増加を抑制し、水系インクの吐出性を向上させる観点から用いられる。
有機溶媒Cは、沸点90℃以上の1種以上の有機溶媒を含有し、有機溶媒Cの沸点は、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で250℃以下である。有機溶媒Cとして、2種以上の有機溶媒を用いる場合は、沸点の異なる複数の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0056】
有機溶媒Cの沸点の加重平均値は、インクジェットノズル中でのインクの乾燥を防止する観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、そして、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の乾燥性を早め、耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは240℃以下、より好ましくは235℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
沸点の低い有機溶媒ほど、特定の温度における飽和蒸気圧が高く、蒸発速度も速くなる。また、特定の温度における蒸発速度が速い有機溶媒の割合が多いほど、特定の温度における混合有機溶媒の蒸発速度は速くなる。したがって、有機溶媒Cの沸点の加重平均値は、混合溶媒の蒸発速度の指標となる。
【0057】
有機溶媒Cとして使用する化合物は、例えば、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられ、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、多価アルコールがより好ましい。多価アルコールは多価アルコールの概念に含まれる複数を混合して用いることができ、多価アルコールアルキルエーテルも同様に複数を混合して用いることができる。
有機溶媒C中の、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、実質的に100質量%が更に好ましく、100質量%がより更に好ましい。
【0058】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4ブタンジオール(沸点230℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点196℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(沸点178℃)、1,2,4−ブタントリオール(沸点190℃)、1,2,3−ブタントリオール(沸点175℃)、ペトリオール(沸点216℃)等が挙げられる。また、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることができる。これらの中では、低吸水性の記録媒体に印字する際に、吐出性、耐擦過性を向上させる観点から、プロピレングリコール及びジエチレングリコールが好ましい。
【0059】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点122℃)、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点160℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点158℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点133℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点227℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点90℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点100℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。また、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点276℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることができる。これらの中では、低吸水性の記録媒体に印字する際に、吐出性、耐擦過性を向上させる観点から、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0060】
含窒素複素環化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)、2−ピロリドン(沸点245℃)、1,3−ジメチルイミダゾリジノン(沸点220℃)、ε−カプロラクタム(沸点136℃)等が挙げられる。
アミドとしては、例えば、ホルムアミド(沸点210℃)、N−メチルホルムアミド(沸点199℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)等が挙げられる。
アミンとしては、例えば、モノエタノ−ルアミン(沸点170℃)、ジエタノールアミン(沸点217℃)、トリエタノールアミン(沸点208℃)トリエチルアミン(沸点90℃)等が挙げられる。
含硫黄化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)等が挙げられる。また、スルホラン(沸点285℃)及びチオジグリコール(沸点282℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることができる。
【0061】
これらの中でも、低吸水性の記録媒体に印字する際に、吐出性、耐擦過性を向上させる観点から、多価アルコール2種以上の併用、多価アルコールアルキルエーテル2種以上の併用、及び多価アルコール1種以上と多価アルコールアルキルエーテル1種以上の併用が好ましく、多価アルコール類種以上の併用、及び多価アルコール1種以上と多価アルコールアルキルエーテル1種以上の併用がより好ましく、多価アルコール2種以上の併用が更に好ましく、プロピレングリコールとジエチレングリコールとの併用がより更に好ましい。
プロピレングリコール及びジエチレングリコールの合計の水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際に、吐出性、耐擦過性を向上させる観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、23質量%以上が更に好ましく、また、同様の観点から、55質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0062】
〔その他の成分〕
水系インクには、通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
【0063】
〔水系インクの製造方法〕
本発明に用いられる水系インクは、顔料水分散体、ポリマー粒子B、水、有機溶媒C、及び必要に応じて界面活性剤等を混合し、攪拌することによって得ることができる。
混合時の顔料水分散体及び水不溶性ポリマーBの凝集を抑制する観点から、混合する際の混合順はこの順に混合することが望ましい。
【0064】
〔水系インクの組成〕
(顔料の含有量)
顔料の水系インク中の含有量は、高吸収性の媒体に印字した際に印字濃度を向上させる観点、及び低吸水性の記録媒体に印字した際の紙面上での乾燥性を早め、印字濃度を向上させる観点から、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際のドット径を大きくし、印字濃度を向上させる観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましい。顔料水分散体の水系インクへの配合量は、顔料の含有量が前記範囲となるように決定することができる。
【0065】
(顔料含有ポリマー粒子Aの含有量)
顔料水分散体を用いる場合、顔料含有ポリマー粒子Aの水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の紙面上での乾燥性を早め、耐擦過性及び印字濃度を向上させる観点から、1.4質量%以上が好ましく、2.8質量%以上がより好ましく、4.2質量%以上が更に好ましい。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際のドット径を大きくし、印字濃度を向上させる観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、21質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、8.4質量%以下が更に好ましい。
【0066】
(水不溶性ポリマーaの含有量)
顔料水分散体を用いる場合、水不溶性ポリマーaの水系インク中の含有量は、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の耐擦過性を向上させる観点から、0.4質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.2質量%以上が更に好ましい。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際のドット径を大きくし、印字濃度を向上させる観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、6質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、2.4質量%以下が更に好ましい。
【0067】
(ポリマー粒子Bの含有量)
本発明で用いられる水系インク中のポリマー粒子Bの含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の耐擦過性を向上させる観点から、1.0質量%以上であり、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.4質量%以上、更に好ましくは1.6質量%以上、より更に好ましくは1.8質量%以上であり、そして、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の耐擦過性を向上させる観点から、4.0質量%以下であり、好ましくは3.8質量%以下、より好ましくは3.6質量%以下、更に好ましくは3.2質量%以下、より更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0068】
(質量比〔顔料/水不溶性ポリマー粒子B〕)
水不溶性ポリマー粒子Bに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー粒子B〕は、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の乾燥性を早め、耐擦過性、印字濃度を向上させる観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.5以下である。
【0069】
(有機溶媒Cの含有量)
有機溶媒Cの水系インク中の含有量は、インクの吐出性を向上させる観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、28質量%以上が更に好ましい。また、水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の乾燥性を早め、耐擦過性を向上させる観点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。
【0070】
(水の含有量)
水の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字する際に、印字濃度、吐出性、耐擦過性を向上させる観点、及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、水系インク中、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。また、インクの吐出性を向上させる観点から、75質量%以下が好ましい。顔料、ポリマー粒子B、有機溶媒C及び水以外の他の成分をインク中に含有する場合は、水の含有量の一部を他の成分に置き換えて含有することができる。
【0071】
〔インク物性〕
水系インクの32℃の粘度は、水系インクの吐出性を向上させる観点から、2.0mPa・s以上が好ましく、3.0mPa・s以上がより好ましく、5.0mPa・s以上が更に好ましい。また、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、12mPa・s以下が好ましく、9.0mPa・s以下がより好ましく、7.0mPa・s以下が更に好ましい。
なお、32℃におけるインクの粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
水系インクのpHは、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点及び低吸水性の記録媒体に印字した際に、ドット径の広がり、印字濃度、耐擦過性を向上させる観点から、7.0以上が好ましく、8.0以上がより好ましく、8.5以上が更に好ましい。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、9.5以下が更に好ましい。なお、pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0072】
〔インクジェット記録方法〕
本発明のインクジェット記録方法は、上記で得られた水系インクを公知のインクジェット記録装置を用いて、記録媒体にインクを飛翔させ、印字、画像を記録する。
インクジェット記録装置としては、サーマル式及びピエゾ式があるが、本発明においては、ピエゾ式がより好ましい。
本発明で用いる記録媒体の吸水量は、該記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量として0g/m2以上10g/m2以下である。
なお、前記の吸水量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0073】
本発明で用いる記録媒体としては、低吸収性のコート紙及びフィルムが挙げられる。
コート紙としては、例えば、汎用光沢紙「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、接触時間100m秒における吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m2)、多色フォームグロス紙(王子製紙株式会社製、104.7g/m2、吸水量5.2g/m2)、UPM Finesse Gloss(UPM社製、115g/m2、吸水量3.1g/m2)、UPM Finesse Matt(UPM社製、115g/m2、吸水量4.4g/m2)、TerraPress Silk(Stora Enso社製、80g/m2、吸水量4.1g/m2)、LumiArt(Stora Enso社製、90g/m2)等が挙げられる。
フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、必要に応じてコロナ処理等の表面処理を行っていてもよい。
一般的に入手できるフィルムとしては、例えば、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート、厚み125μm、吸水量2.3g/m2)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル、吸水量1.4g/m2)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0074】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のインクジェット記録方法、及びインクジェット記録用水系インクに含有される水不溶性ポリマー粒子を開示する。
<1> インクジェット記録用水系インクを用いて記録媒体に記録するインクジェット記録方法であって、
該水系インクが、顔料と、水不溶性ポリマー粒子Bと、有機溶媒Cと、水とを含有し、
該水不溶性ポリマー粒子Bが、(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有し、該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、水不溶性ポリマー粒子B(ポリマー粒子B)の全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、
該水不溶性ポリマー粒子Bのガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、水系インク中の該水不溶性ポリマー粒子Bの含有量が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、
該有機溶媒Cが、沸点90℃以上の1種以上の有機溶媒を含有し、その沸点が、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で250℃以下であり、
該記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量が、0g/m2以上10g/m2以下である、インクジェット記録方法。
【0075】
<2> 顔料が、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子A)の形態である、前記<1>に記載のインクジェット記録方法。
<3> 顔料含有ポリマー粒子Aが、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーaにより粒子が形成されている、前記<1>又は<2>に記載のインクジェット記録方法。
<4> 水不溶性ポリマーaが、イオン性モノマー(a−1)由来の構成単位、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)由来の構成単位、及び前記式(1)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)由来の構成単位から選ばれる1種以上を含有する、前記<1>〜<3>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<5> ポリマー粒子Bが、ポリマー粒子Bの製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]が反応途中において少なくとも1回、好ましくは10回以下、より好ましくは5回以下、更に好ましくは3回以下増大して製造された共重合体である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<6> 前記モル比[(b−1)/(b−2)]の変化前後の差〔変化後モル比−変化前モル比〕の少なくとも何れかが、0.01以上0.4以下の範囲である、前記<5>に記載のインクジェット記録方法。
<7> 前記モル比[(b−1)/(b−2)]の変化量(最大値と最小値の差)が、好ましく0.03以上、より好ましく0.05以上、更に好ましくは0.06以上であり、そして、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.08以下である、前記<5>又は<6>に記載のインクジェット記録方法。
【0076】
<8> (メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の含有量が、ポリマー粒子Bの全構成単位中、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは1.8質量%以上であり、そして、好ましくは5.8質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは5.3質量%以下である、前記<1>〜<7>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<9> (メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の含有量が、ポリマー粒子Bの全構成単位中、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは1.8質量%以上であり、そして、好ましくは5.8質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは5.3質量%以下である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<10> (メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位の合計の含有量が、ポリマー粒子Bの全構成単位中、好ましくは95.0質量%以上、より好ましくは96.0質量%以上、更に好ましくは98.0質量%以上であり、そして、100.0質量%以下である。より更に好ましくは100.0質量%以下である、前記<1>〜<9>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<11> (メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位に対する(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位の質量比[(b−1)/(b−2)]が、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.04以上であり、そして、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.10以下である、前記<1>〜<10>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【0077】
<12> ポリマー粒子Bのガラス転移温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上、より更に好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、より更に好ましくは78℃以下である、前記<1>〜<11>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<13> ポリマー粒子Bが、(メタ)アクリル酸と、好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であり、好ましくは(メタ)アクリル酸と、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体である、前記<1>〜<12>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<14> ポリマー粒子Bの重量平均分子量が、好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上、更に好ましくは500,000以上であり、好ましくは2,500,000以下、より好ましくは1,000,000以下である、前記<1>〜<13>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<15> ポリマー粒子Bを含有する分散体中又は水系インク中のポリマー粒子Bの平均粒径が、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは130nm以下である、前記<1>〜<14>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【0078】
<16> 有機溶媒Cの沸点の加重平均値が、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは235℃以下、更に好ましくは230℃以下である、前記<1>〜<15>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<17> 有機溶媒Cが、好ましくは多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上を含有し、より好ましくは多価アルコール2種以上の併用、多価アルコールアルキルエーテル2種以上の併用、又は多価アルコール1種以上と多価アルコールアルキルエーテル1種以上の併用であり、更に好ましくは多価アルコール類2種以上の併用、又は多価アルコール1種以上と多価アルコールアルキルエーテル1種以上の併用であり、更に好ましくは多価アルコール2種以上の併用であり、より更に好ましくはプロピレングリコールとジエチレングリコールとの併用である、前記<1>〜<16>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【0079】
<18> 顔料の水系インク中の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である、前記<1>〜<117>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<19> 顔料含有ポリマー粒子Aの水系インク中の含有量が、好ましくは1.4質量%以上、より好ましくは2.8質量%以上、更に好ましくは4.2質量%以上であり、そして、好ましくは21質量%以下、より好ましくは14質量%以下、更に好ましくは8.4質量%以下である、前記<1>〜<18>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<20> 水不溶性ポリマーaの水系インク中の含有量が、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であり、そして、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは2.4質量%以下である、前記<1>〜<19>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<21> ポリマー粒子Bの水系インク中の含有量が、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.4質量%以上、更に好ましくは1.6質量%以上、より更に好ましくは1.8質量%以上であり、そして、好ましくは3.8質量%以下、より好ましくは3.6質量%以下、更に好ましくは3.2質量%以下、より更に好ましくは3.0質量%以下である、前記<1>〜<20>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<22> 不溶性ポリマー粒子Bに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー粒子B〕が、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.5以下である、前記<1>〜<21>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
<23> 有機溶媒Cの水系インク中の含有量が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは28質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である、前記<1>〜<22>のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【0080】
<24> (メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(b−2)由来の構成単位を含有する、インクジェット記録用水系インクに含有される水不溶性ポリマー粒子であって、
該水不溶性ポリマー粒子のガラス転移温度が10℃以上90℃以下であり、
該(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位が、該水不溶性ポリマー粒子の全構成単位中、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、
該水不溶性ポリマー粒子の製造時に反応系に導入される(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]を、反応途中において少なくとも1回増大して製造された、水不溶性ポリマー粒子。
【実施例】
【0081】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0082】
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として、予め重量平均分子量が単分散で特定されているポリスチレンを用いて測定した。
(2)ガラス転移温度
示差走査熱量計(Q100、ティー・エイ・インスルメント・ジャパン社製)を用いて、試料を200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に、試料を昇温速度10℃/分で昇温し、200℃まで測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とした。該ピーク温度をガラス転移温度とした。
【0083】
(3)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプレピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
(4)顔料含有ポリマー粒子A及びポリマー粒子Bの平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10-3質量%(固形分濃度換算)で行った。
【0084】
(5)インクのpH
pH電極「6337−10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F−71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃におけるインクのpHを測定した。
(6)インクの粘度
E型粘度計「TV−25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃にて粘度を測定した。
【0085】
(7)記録媒体と純水との接触時間100m秒における記録媒体の吸水量
自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msにおける転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
「Spiral Method」
Contact Time : 0.010〜1.0(sec)
Pitch (mm) : 7
Length Per Sampling (degree) : 86.29
Start Radius (mm) : 20
End Radius (mm) : 60
Min Contact Time (ms) : 10
Max Contact Time (ms) : 1000
Sampling Pattern (1 - 50) : 50
Number of Sampling Points (> 0) : 19
「Square Head」
Slit Span (mm) : 1
Slit Width (mm) : 5
【0086】
製造例I(水不溶性ポリマーa1溶液の製造)
2つの滴下ロート1及び2を備えた反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー溶液」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65)、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
次に、表1の「滴下モノマー溶液1」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液1を得、滴下ロート1内に入れて、窒素ガス置換を行った。また、表1の「滴下モノマー溶液2」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液2を得、滴下ロート2内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら77℃に維持し、滴下ロート1中の滴下モノマー溶液1を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで滴下ロート2中の滴下モノマー溶液2を2時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を77℃で0.5時間攪拌した。
次いで前記の重合開始剤(V−65)1.1部をメチルエチルケトン47.3部に溶解した重合開始剤溶液を調製し、該混合溶液に加え、77℃で0.5時間攪拌することで熟成を行った。前記重合開始剤溶液の調製、添加及び熟成を更に12回行った。次いで反応容器内の反応溶液を80℃に1時間維持し、固形分濃度は36.0%になるようにメチルエチルケトン8456部を加えて水不溶性ポリマーa1溶液を得た。水不溶性ポリマーa1の重量平均分子量は67,000であった。
なお、表1中のモノマーの詳細は下記のとおりである。
・スチレン系マクロマー:AS−6(S)、東亜合成株式会社製(有効分濃度50質量%、数平均分子量6000)
・NKエステルTM−40G:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数=4)、新中村化学工業株式会社社製
【0087】
【表1】
【0088】
製造例II−1(顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体の製造)
製造例Iで得られた水不溶性ポリマーa1溶液(固形分濃度36.0%)178.7部を、メチルエチルケトン(MEK)45部と混合し、水不溶性ポリマーa1のMEK溶液を得た。容積が2Lのディスパーに該水不溶性ポリマーa1のMEK溶液を投入し、1400rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水511.4部、5N水酸化ナトリウム水溶液22.3部、及び25%アンモニア水溶液1.7部を添加して、水酸化ナトリウムによる中和度が78.8モル%、アンモニアによる中和度が21.2モル%となるように調整し、0℃の水浴で冷却しながら、1400rpmで15分間撹拌した。
次いでカーボンブラック(キャボット社製、商品名:モナーク717)150部を加え、6400rpmで1時間撹拌した。得られた顔料混合物をマイクロフルイダイザー「M−7115」(Microfluidics社製)を用いて150MPaの圧力で9パス分散処理し、分散処理物(固形分濃度は25.0%)を得た。
前記工程で得られた分散処理物324.5部を2Lナスフラスコに入れ、イオン交換水216.3部を加え(固形分濃度15.0%)、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーター」(N−1000S、東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50r/minで、32℃に調整した温浴中にて、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPaに下げて固形分濃度25%になるまで濃縮した。
得られた濃縮物を500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(himac CR22G、日立工機株式会社製、設定温度20℃)を用いて7000rpmで20分間遠心分離した後、液層部分を1.2μmのフィルター(MAP-010XS、ロキテクノ社製)で濾過した。
上記で得られたろ液300部(顔料52.5部、水不溶性ポリマーa1 22.5部)にプロキセルLVS(アーチケミカルズジャパン株式会社製、防黴剤、有効分20%、水80%)0.68部を添加し、更に固形分濃度が22.0%になるようにイオン交換水40.23部を添加し、室温で1時間攪拌して顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体(顔料水分散体;平均粒径95nm)、pH9.0)を得た。
【0089】
製造例II−2(顔料含有ポリマー粒子A−2〜5の水分散体の製造)
製造例II-1において使用したカーボンブラック(モナーク717)を、シアン顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Blue 6338JC)、マゼンタ顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Red 6114JC)、イエロー顔料(山陽色素株式会社製、商品名: Fast Yellow 7414)に変更した以外は、製造例II-1と同様にして、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子A−2(シアン)、A−3(マゼンタ)、A−4(イエロー)の水分散体を得た。
【0090】
製造例III−1〜III−9(ポリマー粒子B−1〜9の水分散体の製造)
滴下ロートを備えた反応容器内に、表2の「初期仕込みモノマー溶液」に示すモノマー、ラテムルE−118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王株式会社製、界面活性剤)、重合開始剤である過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)、イオン交換水を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。また、表2の「滴下モノマー溶液」に示すモノマー、界面活性剤、重合開始剤、イオン交換水を混合して、滴下モノマー溶液を得、滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら室温から80℃に30分かけて昇温し、80度に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌した。次いで200メッシュでろ過し、ポリマー粒子B−1〜9を得た。ポリマー粒子B−1〜9の重量平均分子量は500,000〜1,000,000の範囲にあった。
【0091】
【表2】
【0092】
実施例I−1(ポリマー粒子B-10の水分散体の製造)
2つの滴下ロート3及び4を備えた反応容器内に、表2の「初期仕込みモノマー溶液」に示すモノマー、界面活性剤、重合開始剤、イオン交換水を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
一方、表3の「滴下モノマー溶液B−10−2」に示すモノマー、界面活性剤、重合開始剤、イオン交換水を混合して、滴下モノマー溶液を得、滴下ロート3内に入れて、窒素ガス置換を行った。また、表3の「滴下モノマー溶液B−10−3」に示すモノマー、界面活性剤、重合開始剤、イオン交換水を混合して、滴下モノマー溶液を得、滴下ロート4内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら室温から80℃に30分かけて昇温し、80℃に維持したまま、滴下ロート3中の滴下モノマー溶液を1.5時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで、滴下ロート4中の滴下モノマー溶液を1.5時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌した。次いで200メッシュでろ過し、ポリマー粒子B−10の水分散体を得た。ポリマー粒子B−10の重量平均分子量は500,000であった。なお、(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリル酸エステル(b−2)とのモル比[(b−1)/(b−2)]の増大は1回であり、変化前後のモル比の差〔変化後モル比−変化前モル比〕は0.06である。
【0093】
【表3】
【0094】
実施例II−1(水系インク1の製造)
顔料含有ポリマー粒子A−1の水分散体、及びポリマー粒子B−10の水分散体(固形分40質量%、平均粒径100nm)を用いて、水系インク1を調製した。インク中に顔料4質量%、ポリマー粒子B−11を2質量%となるようにイオン交換水を加えた後、pH8.5〜10.0となるよう1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、以下の組成の水系インク1を得た。
<組成>
顔料含有ポリマー粒子A−1の水分散体(固形分22質量%) 26.0部
水不溶性ポリマー粒子Bの水分散体(固形分40質量%) 5.0部
ジエチレングリコール 20.0部
プロピレングリコール 10.0部
サーフィノール104PG−50(日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤のプロピレングリコール溶液、有効分50%) 2.0部
エマルゲン120(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)2.0部
1N水酸化ナトリウム水溶液 0.5部
イオン交換水 34.5部
得られた混合液を前記1.5μmフィルターで濾過し、インク1を得た。
なお、有機溶媒Cの沸点は、以下の計算式により、有機溶媒Cの含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で225℃と算出される。
[〔ジエチレングリコールの含有量(質量%)×ジエチレングリコールの沸点(246℃)〕+〔プロピレングリコールの含有量(質量%)×プロピレングリコールの沸点(188℃)〕]/[ジエチレングリコールの含有量(質量%)+プロピレングリコールの含有量(質量%)]=[0.2×246℃〕+〔(0.1+0.01)×188℃〕]/[0.2+0.1+0.01]=225℃
【0095】
実施例II−2〜II−7、比較例II−1〜II−9(水系インク2〜16の製造)
実施例II−1において、顔料含有ポリマー粒子A、及びポリマー粒子B、有機溶媒の添加量や種類を変更した以外は、実施例II−1と同様にして、水系インク2〜17を得た。
【0096】
<水系インクの耐擦過性、吐出性の評価>
上記で得られた水系インク1〜16について、以下の方法により、耐擦過性と吐出性を評価した。結果を表4に示す。
【0097】
(1)印字物の作製
市販のインクジェットプリンター(株式会社トライテック製、ピエゾ方式)に、実施例II−1〜II−7、及び比較例II−1〜II−9で得られた水系インクを充填し、23℃、相対湿度50%で、汎用光沢紙「UPM FINESSE GLOSS」(UPM株式会社製、吸水量3.1g/m2)に、「30kHz、印刷速度75m/分」の条件にて、それぞれA4ベタ画像(単色)の印字を行い、23℃、相対湿度50%の条件下で24時間放置して乾燥させた光沢紙印字物を得た。
(2)耐擦過性評価
前記(1)で得られた光沢紙印刷物上に、普通紙(ゼロックス4200)を巻きつけた450gのおもりを乗せ、往復10回こすった。おもりに巻きつけた紙の色が付着した面の印字濃度を5点平均で評価した。印字濃度は、光学濃度計「SpectroEye」(グレタグマクベス社製)を用いて、測定モード(ANSI,Pap、Pol)にて測定した。値が大きいほど、耐擦過性が不良なことを示している。
(3)吐出性の評価
前記(1)と同じインクジェットプリンターにて印字後30分間、ノズル面を保護することなく放置し、再度、全てのノズルから吐出したかどうか判別できるパターンを紙上に印字をした際のノズルのノズル欠け(正常に吐出していないノズル)数をカウントし、以下の評価基準により吐出性を評価した。閉塞数が少ないほど吐出性が良好である。
(評価基準)
A:ノズル欠けなし
B:ノズル欠け1〜2
C:ノズル欠け3〜5
D:ノズル欠け6以上
【0098】
【表4】
【0099】
表4から、実施例II−1〜II−7の水系インクは、比較例II−1〜II−9の水系インクに比べて、吐出耐久性に優れ、長期に亘って記録しても印字濃度の低下を抑制できることが分かる。