(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.燃料電池システムの全体構成
図1において、電動車両1は、燃料電池およびバッテリを選択的に動力源とするハイブリッド車両であって、燃料電池システム2を搭載している。
【0014】
燃料電池システム2は、燃料電池3と、燃料給排部4と、空気給排部5と、制御部6と、動力部7とを備えている。
(1)燃料電池
燃料電池3は、液体燃料が直接供給および排出される、例えば、アニオン交換型燃料電池またはカチオン交換型燃料電池であって、電動車両1の中央下側に配置されている。
【0015】
燃料電池3に供給され、また、燃料電池3から排出される液体燃料としては、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジン(例えば、無水ヒドラジンや、ヒドラジン1水和物などの水加ヒドラジンなどを含む)などが挙げられる。
【0016】
なお、以下において、燃料電池3に供給される液体燃料を供給液、一方、燃料電池3から排出される液体燃料(燃料電池3に供給された液体燃料の反応生成物(窒素ガスなど)および反応生成水を含む)を排出液として、それぞれ区別する。
【0017】
燃料電池3は、電解質層8と、電解質層8の一方側に配置されたアノード9と、電解質層8の他方側に配置されたカソード10とを有する単位セル28(燃料電池セル)が、セパレータ(図示せず)を介して複数積層されたスタック構造に形成されている。つまり、電解質層8を介してアノード9およびカソード10が対向配置されてなる単位セル28が複数積層されている。なお、
図1では、積層される複数の単位セル28のうち、電動車両1の前後方向途中に配置される単位セル28だけを拡大して表わし、その他の単位セル28については簡略化して記載している。
【0018】
電解質層8は、例えば、アニオン成分が移動可能な層であり、アニオン交換膜またはカチオン交換膜を用いて形成されている。
【0019】
アノード9は、燃料側電極としてのアノード電極11と、アノード電極11に液体燃料(供給液)を供給するための燃料供給部材12とを有している。
【0020】
アノード電極11は、電解質層8の一方面に形成されている。アノード電極11の電極材料としては、例えば、触媒が担持された多孔質担体(触媒担持多孔質担体)などが挙げられる。
【0021】
燃料供給部材12は、セパレータとしても兼用され、ガス不透過性の導電性部材からなる。燃料供給部材12には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、燃料供給部材12は、溝の形成された表面がアノード電極11に対向接触されている。これにより、アノード電極11の一方面と燃料供給部材12の他方面(溝の形成された表面)との間には、アノード電極11全体に液体燃料(供給液)を接触させるための燃料供給路13が形成される。
【0022】
燃料供給路13には、液体燃料(供給液)をアノード9内に流入させるための燃料供給口15が一端側(下側)に形成され、液体燃料(排出液)をアノード9から排出するための燃料排出口14が他端側(上側)に形成されている。
【0023】
カソード10は、酸素側電極としてのカソード電極16と、カソード電極16に空気(酸素)を供給するための空気供給部材17とを有している。
【0024】
カソード電極16は、電解質層8の他方面に形成されている。
【0025】
カソード電極16の電極材料としては、例えば、アノード電極11の電極材料として例示した、触媒担持多孔質担体などが挙げられる。
【0026】
空気供給部材17は、セパレータとしても兼用され、ガス不透過性の導電性部材からなる。空気供給部材17には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、空気供給部材17は、溝の形成された表面がカソード電極16に対向接触されている。これにより、カソード電極16の他方面と空気供給部材17の一方面(溝の形成された表面)との間には、カソード電極16全体に空気を接触させるための空気流路としての空気供給路18が形成される。
【0027】
空気供給路18には、空気をカソード10内に流入させるための空気供給口19が他端側(上側)に形成され、空気をカソード10から排出するための空気排出口20が一端側(下側)に形成されている。
【0028】
また、このような燃料電池3において、複数の単位セル28をそれぞれ区分する1つのセパレータは、上記燃料供給部材12および上記空気供給部材17を兼ね備える。換言すると、セパレータは、その一方側面において、燃料供給部材12として作用するとともに、他方側面において、空気供給部材17として作用する。
(2)燃料給排部
燃料給排部4は、液体燃料を貯留するための燃料タンク22と、燃料タンク22から燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)へ供給液を供給する燃料供給経路としての燃料供給ライン30と、燃料供給ライン30に介在される濃度調整タンク47と、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)から排出液を排出する燃料排出経路としての燃料排出ライン31と、燃料排出ライン31から燃料供給ライン30へ排出液を輸送する還流経路としての還流ライン32とを備えている。
【0029】
なお、燃料供給ライン30と燃料排出ライン31との間には、燃料電池3が介在されており、また、燃料排出ライン31と還流ライン32との間には、気液分離器23(後述)が介在されている。
【0030】
燃料タンク22は、燃料電池3よりも後方、電動車両1の後側に配置されている。燃料タンク22には、液体燃料として、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジンなどが貯蔵されている。
【0031】
燃料供給ライン30は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料タンク22に接続されるとともに、下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)に接続されている。
【0032】
濃度調整タンク47は、上記した液体燃料に耐性のある材質から形成され、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料供給ライン30に介在されている。
【0033】
また、濃度調整タンク47には、シール材(ガスケットなど)を介して、還流ライン32(後述)の下流側端部が接続されており、詳しくは後述するが、還流ライン32を介して、排出液が供給される。これにより、濃度調整タンク47において、燃料タンク22から輸送された液体燃料(1次供給液)と、燃料電池3から排出された排出液とが、適宜の割合で混合され、燃料電池3に供給される液体燃料(2次供給液)の濃度が、調整される。
【0034】
また、燃料供給ライン30の流れ方向途中において、濃度調整タンク47の上流側には、第1供給ポンプ33および燃料供給弁34が設けられている。
【0035】
第1供給ポンプ33としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。第1供給ポンプ33は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、第1供給ポンプ33に入力され、コントロールユニット29(後述)が、第1供給ポンプ33の駆動および停止を制御する。
【0036】
また、燃料供給弁34は、燃料供給ライン30を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。また、燃料供給弁34は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、燃料供給弁34に入力され、コントロールユニット29(後述)が、燃料供給弁34の開閉を制御する。
【0037】
このような第1供給ポンプ33の駆動、および、燃料供給弁34の開閉により、燃料タンク22から、液体燃料(1次(高濃度)供給液)が、濃度調整タンク47へ供給される。
【0038】
また、燃料供給ライン30の流れ方向途中において、濃度調整タンク47の下流側には、第2供給ポンプ35が設けられている。
【0039】
第2供給ポンプ35としては、上記した公知の送液ポンプが用いられる。第2供給ポンプ35は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、第2供給ポンプ35に入力され、コントロールユニット29(後述)が、第2供給ポンプ35の駆動および停止を制御する。
【0040】
このような第2供給ポンプ35の駆動により、液体燃料(2次(低濃度)供給液)が、濃度調整タンク47から燃料電池3に供給される。
【0041】
燃料排出ライン31は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)に接続されるとともに、下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、気液分離器23に接続されている。
【0042】
このような燃料排出ライン31により、排出液が燃料電池3から排出され、気液分離器23に輸送される。
【0043】
気液分離器23は、例えば、中空の容器からなり、その下部には、気液分離器23の内外を流通させる底部流通口24が2つ形成されている。
【0044】
また、気液分離器23の上部には、気液分離器23の内外を流通させる上部流通口25が1つ形成されている。
【0045】
気液分離器23は、燃料電池3よりも電動車両1の前後方向後方、かつ、電動車両1の上下方向上方において、2つの底部流通口24が、それぞれ、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料排出ライン31および還流ライン32(後述)に接続されている。
【0046】
上部流通口25には、気液分離器23で分離されたガス(気体)を排出するためのガス排出管26が接続されている。ガス排出管26は、シール材(ガスケット)を介して上部流通口25に接続されている。また、ガス排出管26の途中には、ガス排出弁27が設けられている。
【0047】
ガス排出弁27は、ガス排出管26を開放して気液分離器23内の圧力を開放するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。ガス排出弁27は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号がガス排出弁27に入力され、コントロールユニット29(後述)が、ガス排出弁27の開閉を制御する。
【0048】
還流ライン32は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、気液分離器23に接続されるとともに、下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、濃度調整タンク47の上壁に接続されている。
【0049】
これにより、燃料排出ライン31内を輸送される排出液が、気液分離器23および還流ライン32を介して、濃度調整タンク47に輸送される。そして、濃度調整タンク47内において、燃料タンク22から輸送された液体燃料(1次供給液)と混合され、濃度調整された後、供給液(2次供給液)として、燃料電池3に戻ることにより、アノード9を循環するクローズドライン(閉流路)が形成される。
(3)空気給排部
空気給排部5は、燃料電池3(カソード10)に対して空気を供給する空気供給経路としての空気供給ライン41と、カソード10から排出される空気を外部に排出するための空気排出ライン42とを備えている。
【0050】
空気供給ライン41は、その一端側(上流側)が大気中に開放され、他端側(下流側)が空気供給口19に接続されている。空気供給ライン41の途中には、空気供給ポンプ43が介在されており、また、その下流側には、空気供給弁44が設けられている。
【0051】
また、空気供給ポンプ43は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されており、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、空気供給ポンプ43に入力され、コントロールユニット29(後述)が、空気供給ポンプ43の駆動および停止を制御する。
【0052】
空気供給弁44は、空気供給ライン41を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。
【0053】
また、空気供給弁44は、それぞれ、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されており、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、空気供給弁44に入力され、コントロールユニット29(後述)が、空気供給弁44の開閉を制御する。
【0054】
また、空気供給ライン41は、空気供給ポンプ43および空気供給弁44の下流側において、濃度調整タンク47内を通過するように配設されている。
【0055】
そして、濃度調整タンク47内において、空気供給ライン41は、水分を液体燃料(排出液)から分離し、空気供給ライン41内に導入するための水分離手段としての水分離器45を備えている。
【0056】
水分離器45は、
図2に示すように、例えば、水分離膜の中空糸からなり、具体的には、水分離膜からなる中空糸(中空糸膜)の束として、形成されている。
【0057】
水分離膜は、排出液中に含まれる液体燃料の反応生成物や、未反応の液体燃料などを遮断する一方、反応生成水(水分)を透過させる膜であって、特に制限されないが、例えば、孔径が1nm以下の炭素膜などが挙げられる。水分離膜の孔径は、例えば、1nm以下、好ましくは、0.5nm以下であり、通常、0.3nm以上である。
【0058】
また、このような水分離膜からなる中空糸(中空糸膜)の内径は、例えば、200μm以上、好ましくは、250μm以上であり、例えば、400μm以下、好ましくは、350μm以下である。
【0059】
そして、このような水分離膜からなる中空糸を、複数(例えば、500〜2500本)束ねることにより、集合筒状の水分離器45が得られる。
【0060】
また、水分離器45としては、上記した中空糸に限定されず、図示しないが、例えば、複数の貫通孔(パス)を備える略円筒形のハニカムセラミック担体と、その貫通孔(パス)の内周壁面を被覆する水分離膜とからなる水分離ユニット(例えば、サブナノセラミック膜フィルター(日本ガイシ製))などを用いることもできる。
【0061】
そして、水分離器45は、
図2に示されるように、濃度調整タンク47内において、空気供給ライン41に介在されるように配置されている。
【0062】
より具体的には、水分離器45は、濃度調整タンク47内において、単数または複数(
図2では3つ)配置されており、図示しない液体燃料(排出液と1次供給液との混合液)に浸漬されている。なお、水分離器45が複数備えられる場合には、図示しないが、空気供給ライン41が、濃度調整タンク47の上流側において分岐され、各分岐ラインに水分離器45が介在される。このとき、各水分離器45は、濃度調整タンク47内において、互いに水平方向に間隔を隔てて並列配置される。また、空気供給ライン41の各分岐ラインは、濃度調整タンク47の下流側において集合される。
【0063】
また、水分離器45は、図示しないが、空気供給ライン41および濃度調整タンク47に対して着脱可能に設けられており、必要に応じて、空気供給ライン41および濃度調整タンク47から取り外し、洗浄および交換が可能とされている。
【0064】
そして、これにより、濃度調整タンク47よりも上流側において、空気供給ライン41内を流れる空気が、濃度調整タンク47内において、水分離器45(中空糸膜)内に供給される。
【0065】
このとき、水分離器45は液体燃料に浸漬されているため、水分離器45の周囲の液体燃料に含まれる水分(排出液中の反応生成水)が、水蒸気化され、水分離器45の膜(水分離膜)を通過することにより、液体燃料から分離される(浸透気化法)。そして、水蒸気は、水分離器45内に導入されることにより、空気と混合される。これにより、空気が加湿される。
【0066】
なお、水分離器45が複数設けられる場合には、液体燃料に含まれる水分(排出液中の反応生成水)の量に応じて、使用される水分離器45の数を決定することができる。
【0067】
すなわち、液体燃料に含まれる水分の量が多い場合には、より多く(例えば、全て)の水分離器45を用い、また、液体燃料に含まれる水分の量が少ない場合には、その水分の量に応じて、水分離器45の使用数を減少させることができる。
【0068】
なお、水分離器45の使用数を減少させる方法は、特に制限されず、例えば、空気供給ライン41における各水分離器45の上流側に開閉弁を設け、それらを開閉させることなどによって、空気の流路を制限し、所望の水分離器45(中空糸膜)内のみに、空気を通過させる方法などが挙げられる。
【0069】
また、水分離器45(中空糸膜)内を通過した空気は、空気供給ライン41(濃度調整タンク47よりも下流側の空気供給ライン41)を介して、燃料電池3に供給される。
【0070】
空気排出ライン42は、その一端側(上流側)が空気排出口20に接続され、他端側(下流側)がドレンとされる。
(4)制御部
制御部6は、コントロールユニット29を備えている。
【0071】
コントロールユニット29は、電動車両1における電気的な制御を実行するユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)であり、CPU、ROMおよびRAMなどを備えるマイクロコンピュータから構成されている。
【0072】
制御部6では、詳しくは後述するが、例えば、第1供給ポンプ33、第2供給ポンプ35などの駆動および停止や、燃料供給弁34やガス排出弁27、空気供給弁44などの開閉などを、適宜制御する。
(5)動力部
動力部7は、燃料電池3から出力される電気エネルギーを電動車両1の駆動力として機械エネルギーに変換するためのモータ37と、モータ37に電気的に接続されるインバータ38と、モータ37による回生エネルギーを蓄電するための動力用バッテリ40と、DC/DCコンバータ36とを備えている。
【0073】
モータ37は、燃料電池3よりも前方、電動車両1の前側に配置されている。モータ37としては、例えば、三相誘導電動機、三相同期電動機など、公知の三相電動機が挙げられる。
【0074】
インバータ38は、モータ37と燃料電池3との間に配置されている。インバータ38は、燃料電池3で発電された直流電力を交流電力に変換する装置であって、例えば、公知のインバータ回路が組み込まれた電力変換装置が挙げられる。また、インバータ38は、配線により、燃料電池3およびモータ37にそれぞれ電気的に接続されている。
【0075】
動力用バッテリ40としては、例えば、定格電圧が100V程度のニッケル水素電池や、リチウムイオン電池など、公知の二次電池が挙げられる。また、動力用バッテリ40は、インバータ38と燃料電池3との間の配線に接続され、これにより、燃料電池3からの電力を蓄電可能、かつ、モータ37に電力を供給可能とされている。
【0076】
DC/DCコンバータ36は、動力用バッテリ40と燃料電池3との間に配置されている。DC/DCコンバータ36は、燃料電池3の出力電圧を昇降圧する機能を有し、燃料電池3の電力および動力用バッテリ40の入出力電力を調整する機能を有している。
【0077】
そして、DC/DCコンバータ36は、コントロールユニット29と電気的に接続されており(
図1の破線参照)、これにより、コントロールユニット29から出力される出力制御信号の入力に応じて、燃料電池3の出力(出力電圧)を制御する。
【0078】
また、DC/DCコンバータ36は、配線により、燃料電池3および動力用バッテリ40にそれぞれ電気的に接続されているとともに、配線の分岐により、インバータ38に電気的に接続されている。
【0079】
これにより、DC/DCコンバータ36からモータ37への電力は、インバータ38において直流電力から三相交流電力に変換され、三相交流電力としてモータ37に供給される。
2.燃料電池システムによる発電
上記した燃料電池システム2では、コントロールユニット29の制御により、燃料供給弁34が開かれ、第1供給ポンプ33および第2供給ポンプ35が駆動されることにより、燃料タンク22に貯留される液体燃料(供給液)が、燃料供給ライン30および濃度調整タンク47を介して、アノード9に供給される。一方、空気供給弁44が開かれ、空気供給ポンプ43が駆動されることにより、空気が空気供給ライン41を介してカソード10に供給される。なお、燃料供給弁34は、液体燃料が所定量供給された後に閉じられる。
【0080】
アノード9では、液体燃料が、アノード電極11と接触しながら燃料供給路13を通過する。一方、カソード10では、空気が、カソード電極16と接触しながら空気供給路18を通過する。
【0081】
そして、各電極(アノード電極11およびカソード電極16)において電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、液体燃料がメタノールである場合には、下記式(1)〜(3)の通りとなる。
(1) CH
3OH+6OH
−→CO
2+5H
2O+6e
−(アノード電極11での反応)
(2) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (カソード電極16での反応)
(3) CH
3OH+3/2O
2→CO
2+2H
2O (燃料電池3全体での反応)
すなわち、メタノールが供給されたアノード電極11では、メタノール(CH
3OH)とカソード電極16での反応で生成した水酸化物イオン(OH
−)とが反応して、二酸化炭素(CO
2)および水(H
2O)が生成するとともに、電子(e
−)が発生する(上記式(1)参照)。
【0082】
アノード電極11で発生した電子(e
−)は、図示しない外部回路を経由してカソード電極16に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e
−)が、電流となる。
【0083】
一方、カソード電極16では、電子(e
−)と、外部からの供給もしくは燃料電池3での反応で生成した水(H
2O)と、空気供給路18を流れる空気中の酸素(O
2)とが反応して、水酸化物イオン(OH
−)が生成する(上記式(2)参照)。
【0084】
そして、生成した水酸化物イオン(OH
−)が、電解質層8を通過してアノード電極11に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
【0085】
また、例えば、液体燃料がヒドラジンである場合には、下記式(4)〜(6)の通りとなる。
(4) N
2H
4+4OH
−→N
2+4H
2O+4e
− (アノード電極11での反応)
(5) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (カソード電極16での反応)
(6) N
2H
4+O
2→N
2+2H
2O (燃料電池3全体での反応)
このようなアノード電極11およびカソード電極16での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池3全体として、上記式(3)または上記式(6)で表わされる反応が生じて、燃料電池3に起電力が発生する。
【0086】
そして、発生した起電力が、配線を介して、DC/DCコンバータ36に送電され、動力部7では、インバータ38およびモータ37、および/または、動力用バッテリ40に送電される。そして、モータ37では、インバータ38により三相交流電力に変換された電気エネルギーが電動車両1の車輪を駆動させる機械エネルギーに変換される。一方、動力用バッテリ40では、その電力が充電される。
【0087】
また、燃料給排部4では、アノード9から排出される液体燃料(未反応の液体燃料、反応生成物および反応生成水含む排出液)が、燃料排出ライン31を通過して上流側の底部流通口24から気液分離器23に流入する。気液分離器23では、水位が上部流通口25よりも下方位置に保持される液体燃料の液溜まり39が、気液分離器23の中空部分に生じるとともに、液溜まり39に含まれるガス(気体)が液溜まり39の上方空間へ分離される。その一方で、液溜まり39の一部が、下流側の底部流通口24から還流ライン32に流出する。
【0088】
還流ライン32に流出する液体燃料(未反応の液体燃料、反応生成物および反応生成水含む排出液)は、濃度調整タンク47に流入され、その濃度調整タンク47内において、燃料タンク22から供給される液体燃料と混合された後、再び燃料供給口15から燃料供給路13に流入する。
【0089】
このようにして、液体燃料が、クローズドライン(還流ライン32、濃度調整タンク47、燃料供給ライン30、燃料排出ライン31、気液分離器23および燃料供給路13)を循環する。なお、気液分離器23で分離された気体は、ガス排出弁27が開かれることにより、ガス排出管26を介して外部へ排出される。
3. 水の分離
上記したように、燃料電池システム2では、燃料電池3のアノード9から排出される液体燃料(未反応の液体燃料、反応生成物および反応生成水含む排出液)が、還流ライン32および燃料供給ライン30を介して、燃料電池3に還流され、再利用される。
【0090】
しかし、式(1)〜(6)として示したように、燃料電池3による発電では、その発電反応において水が生じるため、排出液には、水が含有される。すなわち、排出液においては、液体燃料の濃度が低下している。そのため、排出液をそのまま燃料電池3に還流して用いると、発電効率の低下を惹起する場合がある。
【0091】
これに対して、上記の燃料電池システム1では、燃料電池3から排出される排出液に含有される水を分離し、還流される液体燃料の濃度を調整(増加)することができる。
【0092】
具体的には、この燃料電池システム2では、燃料電池3から燃料排出ライン31に排出された排出液は、気液分離器23を介して、濃度調整タンク47に供給される。
【0093】
このとき、濃度調整タンク47内に配置される水分離器45の内部には、空気が流れているため、水分離器45の周囲の液体燃料中の水分が水蒸気化され、水分離器45の外膜(水分離膜)を通過する。これにより、液体燃料から水分が分離される(浸透気化法)。
【0094】
このようにして水分が分離された液体燃料(すなわち、高濃度の液体燃料)は、
図1に示すように、燃料供給ライン30を介して、再び燃料電池3に供給される。
【0095】
このように液体燃料から水分を分離することにより、液体燃料の濃度を調整(増加)することができ、発電効率の向上を図ることができる。
【0096】
また、燃料電池システム2においては、式(1)〜(6)として示したように、水酸化物イオンなどのイオンが電解質層8を通過する。一方、電解質層8がイオン導電性を備えるためには、電解質層8が十分に湿潤している必要がある。
【0097】
この点、上記の燃料電池システム2では、燃料電池3から排出される排出液に含有される水分を回収し、その水分を用いて、電解質層8を湿潤させることができる。
【0098】
すなわち、上記のように排出液から分離された水分(水蒸気)は、水分離器45内に導入されることにより、水分離器45内を通過する空気と混合され、空気が加湿される。
【0099】
加湿された空気は、上記したように、空気供給ポンプ43の駆動によって、空気供給ライン41を介してカソード10に供給される。このとき、水分はカソード10を透過し、電解質層8を湿潤させる。
【0100】
このように液体燃料から分離された水分(水蒸気)を用いて空気を加湿することにより、電解質層8を湿潤させることができ、発電効率の向上を図ることができる。
4.作用効果
このような燃料電池システム2では、濃度調整タンク47において、液体燃料(排出液)に含まれる水分が、空気供給ライン41に介在される水分離器45によって分離され、液体燃料の濃度が調整される。そして、濃度が調整された液体燃料が、燃料電池3に還流される。
【0101】
そのため、本発明の燃料電池システムによれば、液体燃料を、より効率よく利用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0102】
そのため、このような燃料電池システム2によれば、液体燃料を、より効率よく利用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0103】
また、このような燃料電池システム2では、液体燃料(排出液)から分離された水分は、空気供給ライン41内に導入されるため、より多くの水分を含んだ空気が、燃料電池3に供給される。その結果、燃料電池3の導電性の向上を図ることができ、発電効率の向上を図ることができる。
【0104】
この点、空気供給ライン41内の空気を加湿するため、別途、加湿器などを備える場合には、水タンクなどが搭載されるため、燃料電池システム2の体積が大きくなる。
【0105】
一方、上記した燃料電池システム2によれば、加湿器を用いることなく空気に水分を含有させることができるため、加湿器を用いる場合に比べ、燃料電池システム2の体積を減少させ、省スペース化を図ることができる。
【0106】
また、上記した燃料電池システム2によれば、排出液に含有される水分が水蒸気として分離され、水蒸気として空気供給ライン41に供給されるため、より効率よく空気を加湿することができる。
【0107】
また、上記した燃料電池システム2において、燃料電池3から排出された排出液は、燃料電池3において加熱されている。そのため、排出液中の水分をより少ないエネルギーで水蒸気として回収することができ、低エネルギー化および低コスト化を図ることができる。
【0108】
さらに、上記した燃料電池システム2では、水分が水蒸気として分離されるため、排出液の熱エネルギーを気化熱として放出させ、排出液を冷却することができる。そのため、排出液をより低温状態で再び燃料電池3に供給することができ、発電効率の向上を図ることができる。
【0109】
それに加えて、上記した燃料電池システム2では、燃料電池3から排出される排出液(水分を含有した低濃度液体燃料)から、水分が回収され、高濃度液体燃料として還流ライン32に還流されるため、燃料タンク22からの液体燃料の供給量や供給頻度を低減することができ、より効率よく液体燃料を利用することができる。
【0110】
なお、上記した説明では、燃料電池3に空気を供給するための空気供給ライン41を用いて、水分離器45に空気を供給し、反応生成水を含む液体燃料から水を分離したが、例えば、水分離器45に空気を供給するための第2空気供給ライン(図示せず)を、空気供給ライン41とは別途設けることもできる。そのような場合には、第2空気供給ライン(図示せず)を介して水分離器45に空気を供給し、反応生成水を含む液体燃料から水を分離することができる。また、例えば、水分離器45内を、公知の減圧装置によって減圧することにより、反応生成水を含む液体燃料から水を分離することもできる。