(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6334947
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】マイクロ波非平衡プラズマによる二酸化炭素の分解方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/40 20170101AFI20180521BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20180521BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C01B32/40ZAB
B01J19/08 E
H05H1/46 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-30235(P2014-30235)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155356(P2015-155356A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】城 康彰
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−256955(JP,A)
【文献】
特開2011−110446(JP,A)
【文献】
特開2003−027241(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/003164(WO,A2)
【文献】
国際公開第2013/175806(WO,A1)
【文献】
鎌田良基ほか,マイクロ波放電による二酸化炭素の分解および再資源化の検討,電気関係学会九州支部連合大会講演論文集(CD-ROM),2007年,vol.60th, no.06-2P-14,p.478
【文献】
須藤広雄ほか,マイクロ波プラズマを利用した二酸化炭素の改質反応,化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集,1998年,vol.31st, 第1分冊,p.282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00−32/991
H05H1/00−1/54
B01J10/00−12/02,14/00−19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000[Pa]未満に減圧した系内にマイクロ波を照射し、該マイクロ波の照射位置に二酸化炭素単体を投入することにより、触媒やガス化剤を用いることなく、投入した二酸化炭素を電離して一酸化炭素を少なくとも46%を上回る転化率で得ることを特徴とするマイクロ波非平衡プラズマによる二酸化炭素の分解方法。
【請求項2】
前記マイクロ波を700[W]で出力する場合、前記系内を200[Pa]に減圧し、前記マイクロ波を700[W]より低くして出力する場合、前記系内を200[Pa]から更に減圧することを特徴とする請求項1記載のマイクロ波非平衡プラズマによる二酸化炭素の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非平衡プラズマにより二酸化炭素を分解処理し、分解後の生成物として工業用原料として有用な一酸化炭素を高分解率で得ることのできる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料やプラスチックや化学繊維などの石油製品を燃やすと二酸化炭素が発生する。大気中の二酸化炭素濃度が増加すると、地表から放射された赤外線の一部が吸収されて温室効果をもたらす。この温室効果が近年の地球温暖化の主原因であると考えられている。
【0003】
この地球温暖化を防止するため、二酸化炭素の排出量抑制の必要性が国際的に叫ばれているが、我国では2050年までに温室効果ガスの排出量を60%から80%削減することを目標に設定し、低炭素社会の実現に向けて世界を牽引している。
【0004】
一方、平成23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震による原発事故によって、全国の原子力発電所は稼働停止に至り、電力の供給不足が現実的な問題として発生した。
【0005】
そこで、これまで稼働停止していた火力発電所を活用することで電力供給不足を補う対策が採られているが、火力発電所では化石燃料が使用されるので、二酸化炭素の発生量が増大してしまう。
【0006】
このような状況の中、二酸化炭素の処理技術として種々の方法が提案されている。例えば、火力発電所や工場などの排出源から効率よく二酸化炭素を回収し地中に埋設する方法(CCS: carbon dioxide capture and storage)や、下記特許文献1に記載されるように非熱プラズマ雰囲気中で二酸化炭素を炭素と酸素に分解する方法、下記特許文献2に記載されるプラズマ気相反応によって二酸化炭素を可燃性ガスに転化する方法、下記特許文献3に記載されるように誘電体バリア放電を利用して二酸化炭素を分解する方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2011−500309
【特許文献2】特開2003−27241
【特許文献3】特開2013−147411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した二酸化炭素を地中に埋設する方法は、二酸化炭素が非常に安定した物質であり、その分解が非常に困難であることから、分解することなく地中深くに埋設するという考えに基づいているが、この方法では二酸化炭素量は根本的に低減しておらず、また、処理費用も膨大となる。
【0009】
また、非熱プラズマ中で二酸化炭素を炭素と酸素に分解する方法やプラズマ気相反応によって二酸化炭素を可燃性ガスに転化する方法は、二酸化炭素量を根本的に低減することはできるが、二酸化炭素の分解に触媒やガス化剤が必要となり、設備構造が複雑化し、設備費用が増加する。
【0010】
一方、誘電体バリア放電を利用して二酸化炭素を分解する方法は、二酸化炭素量を根本的に低減でき、かつ、二酸化炭素の分解に触媒やガス化剤が必要ない利点を有するが、二酸化炭素の分解率が最高でも46%と低い問題点がある。
【0011】
そこで、本発明は触媒やガス化剤を使用することなく、二酸化炭素を高分解率で分解することのできる二酸化炭素の分解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、1000[Pa]未満に減圧した系内にマイクロ波を照射し、該マイクロ波の照射位置に二酸化炭素単体を投入することにより、触媒やガス化剤を用いることなく、投入した二酸化炭素を電離して一酸化炭素を
少なくとも46%を上回る転化率で得ることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
前記マイクロ波を700[W]で出力する場合、前記系内を200[Pa]に減圧し、前記マイクロ波を700[W]より低くして出力する場合、前記系内を200[Pa]から更に減圧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、
1000[Pa]未満に減圧した系内にマイクロ波を照射するだけで、触媒やガス化剤を一切使用することなく、二酸化炭素の分解が
高分解率で可能となる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、
マイクロ波の出力が700[W]の場合、系内を200[Pa]に減圧することで、高効率で二酸化炭素単体を一酸化炭素に電離するとともに、マイクロ波の出力を700[W]より低くし消費電力を抑制する場合は、系内を200[Pa]より更に減圧することで、より一層、二酸化炭素の分解率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による二酸化炭素の分解方法を実現するための処理装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について
図1を用いて説明する。
図1は本発明による二酸化炭素の分解方法を実現するための処理装置Aを示している。
【0018】
処理装置Aは、マイクロ波発振器1と、マイクロ波導波管2と、二酸化炭素の供給管3と、内部にプラズマを発生させる反応管4と、反応管4内の気圧を調整する真空ポンプ5と、反応管4内の気圧を測定する圧力計6によって概略構成されている。
【0019】
マイクロ波導波管2は、マイクロ波発振器1が発振したマイクロ波の反射を吸収して、マイクロ波が発振器1内に戻ることを防止するアイソレータ7と、マイクロ波の強度を調べるパワーモニタ8と、マイクロ波を共振させることで、反応管4内のプラズマ形成部Xにマイクロ波の焦点を合わせるスタブチューナ9を備えている。
【0020】
二酸化炭素の供給管3は、反応管4内に供給する二酸化炭素の量を調節するマスフローコントローラ10を備えている。
【0021】
反応管4は、マイクロ波導波管2によって導かれるマイクロ波を通過可能とする透明の中空石英管からなり、その上端には、二酸化炭素の供給管3のみを貫通させて、反応管4内部を外気と遮断する上側封止栓11が取り付けられている。
【0022】
反応管4の下端には、真空ポンプ5に接続される気圧調整管12のみ接続した下端封止栓13が取り付けられており、反応管4の外周には、反応管4内に照射されたマイクロ波が反応管4外部に漏洩することを防止するマイクロ波漏洩防止網14が取り付けられている。
【0023】
真空ポンプ5の後段には、反応管4内の気体(酸素や一酸化炭素)をサンプリングポート15又は排気管16に切り換えて排出する切換弁17が取り付けられている。
【0024】
つづいて、上記の如く構成した処理装置Aを用いて二酸化炭素を分解する方法について説明する。二酸化炭素を分解処理する場合、
図1に示す供給管3から二酸化炭素単体を供給する。二酸化炭素の供給量はマスフローコントローラ10によって調整し、所定供給量に調節された二酸化炭素は、上側封止栓11を貫通する供給管3内を通って反応管4内に供給される。
【0025】
次に、真空ポンプ5を起動して、下側封止栓13に接続される気圧調整管12を介して、反応管4内を真空引きして減圧する。このとき、反応管4内の気圧は圧力計6を利用して1000[Pa]未満(例えば200[Pa])に調整する。
【0026】
つづいて、マイクロ波発振器1を起動して所定の出力(例えば700[W])のマイクロ波を出力すると、マイクロ波は導波管2からアイソレータ7を介してパワーモニタ8に伝播し、パワーモニタ8によって入射電力が検出される。このとき、アイソレータ7は反射したマイクロ波を吸収して、マイクロ波発振器1を保護することは前述した通りである。なお、反射したマイクロ波の電力はパワーモニタ8によって検出される。
【0027】
導波管2内を通過したマイクロ波はスタブチューナ9によって共振され、反応管4のプラズマ形成部Xにおいてマイクロ波が最大量消費されるように、反応管4に照射される。
【0028】
照射されたマイクロ波は、透明石英管からなる反応管4を透過して反応管4内に入射し、反応管4内に供給されている二酸化炭素に照射される。二酸化炭素は反応管4内のプラズマ形成部Xにおいて電離してプラズマ化される。
【0029】
このとき発生するプラズマは、反応管4内が1000[Pa]未満に減圧されているので、グロー放電によって生じる。グロー放電は、コロナ放電と比較してより広範囲で安定した放電であり、アーク放電と比較して低エネルギーで生じさせることができる。
【0030】
このようにして二酸化炭素をプラズマ化することにより、二酸化炭素は酸素と一酸化炭素に分解される。このときの一酸化炭素への転化率は、前述したように、反応管4内を1000[Pa]未満に減圧する限り高い数値を維持することができる。
【0031】
特に、マイクロ波の出力を700[W]とし、反応管4内を200[Pa]に減圧した場合の二酸化炭素の分解率は95%と非常に高い分解率を実現することができる。また、マイクロ波の出力を低くしても、反応管4内を更に減圧することによって、分解率をより一層高めることが可能となる。
【0032】
分解生成された酸素と一酸化炭素は、反応管4内から気圧調整管12内を通って排出され、切換弁17を操作することにより適宜、サンプリングポート15より採取してガスの性状を分析したり、排気管16から取り出して工業用原料として利用することができる。特に一酸化炭素は、アルコールやグリコール類,カルボン酸類(ギ酸,酢酸等)などの製造原料として利用することが可能である。
【0033】
また、二酸化炭素の分解過程において、カーボン等の析出はほとんどなく、反応管4の内周面に煤が付着してマイクロ波の入射を妨げる問題もない。
【0034】
さらに、プラズマの形成に反応ガスとして希ガスが必要ないので、二酸化炭素の分解を廉価に実現することができる。
【0035】
以上説明したように、本発明のマイクロ波非平衡プラズマによる二酸化炭素の分解方法は、分解に際して触媒やガス化剤が一切必要ないので、処理装置の設備構造が複雑化することを防止し,装置コストを低減することができる。
【0036】
また、二酸化炭素の分解率(一酸化炭素への転化率)は従来の分解方法と比較して非常に高くできるので非常に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
二酸化炭素の分解処理に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 マイクロ波発振器
2 マイクロ波導波管
3 二酸化炭素の供給管
4 反応管
5 真空ポンプ
6 圧力計
7 アイソレータ
8 パワーモニタ
9 スタブチューナ
10 マスフローコントローラ
11 上側封止栓
12 気圧調整管
13 下側封止栓
14 マイクロ波漏洩防止網
15 サンプリングポート
16 排気管
17 切換弁
A 処理装置
X プラズマ形成部