(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、油圧ショベル及びこれに備える2軸ピン型ロードセルを例にとり、図面を参照して説明する。
【0023】
図1に示すように、実施形態に係る油圧ショベル
(作業機械)100は、地面と接して走行する下部走行体102と、下部走行体102上に取り付けられた上部作業体103と、一端が上部作業体103に回動可能に取り付けられた作業装置106とから主に構成する。
【0024】
図1に記載の下部走行体102は、いわゆるクローラ式のものであり、地面に接する履体201と、履体201を駆動する駆動輪202と、履体201によって回転される従動輪203と、これらを支持する構造物204等で構成する。なお、下部走行体102は、複数の車輪を備えたいわゆるホイール式のものであっても良い。
【0025】
上部作業体103は、旋回装置を介して、或いは旋回装置を介さずに、下部走行体102の上部に取り付ける。上部作業体103には、所要の操作装置を備えた運転室104を設け、運転室104内には、図示しない所要の操作装置を備える。運転室104内に乗り込んだオペレータは、操作装置を用いて下部走行体102及び作業装置106の駆動を操作し、掘削等の作業を行う。
【0026】
作業装置106は、作業フロントとも呼ばれ、運転室104から見て上部作業体103の前方に取り付ける。
図1の例において、作業装置106は、回動軸140を介して上下方向にのみ回動自在であるように上部作業体103に取り付けたブーム110と、回動軸141を介して上下方向にのみ回動自在であるようにブーム110の先端に取り付けたアーム112と、回動軸142を介して上下方向にのみ回動自在であるようにアーム112の先端に取り付けたアタッチメント123から構成される。
【0027】
図1の例においては、アタッチメント123としてバケット123Aをアーム112の先端に取り付けている。バケット123Aには、一端がアーム112に連結されたリンク機構118の他端を、回動軸144を介して連結する。また、リンク機構118には、一端がアーム112に取り付けたアタッチメントシリンダ115のロッド側の端部を、回動軸145を介して連結する。アタッチメントシリンダ115は油圧シリンダであり、伸縮することで回動軸142を中心としてアタッチメント123を回動させる。
【0028】
図4は、バケット123Aを取り付けたアーム先端部の詳細図である。この図から明らかなように、
図1に示したリンク機構118は、アタッチメントシリンダ115のロッド側の先端部とバケット123Aの間に架け渡した第1リンク116と、アタッチメントシリンダ115のロッド側の先端部とアーム112の間に架け渡した第2リンク117を有している。第1リンク116は、一方側の端部において回動軸144を介してバケット123Aに回動可能に取り付け、他方側の端部において回動軸145を介してアタッチメントシリンダ115に回動可能に取り付ける。一方、第2リンク117は、一方側の端部において回動軸146を介してアーム112と回動可能に取り付け、他方側の端部において回動軸145を介してアタッチメントシリンダ115に回動可能に取り付ける。なお、リンク機構118としては、他の構成のものを備えることもできる。例えば、
図2のリンク機構118に、アタッチメントシリンダ115のロッド側の先端部と回動軸145の間に架け渡した第3のリンク部材と、アタッチメントシリンダ115のロッド側の先端部とアーム112の間に架け渡した第4のリンク部材とを追加してなる4節形のリンク機構を備えることができる。さらには、4つ以上のリンク部材の組合せからなるものを用いることもできる。
【0029】
なお、作業によっては、バケットに代えて、グラップル、カッタ、ブレーカ、マグネット等の他のアタッチメントを取り付けることもできる。
図3には、アタッチメント123としてマグネット123Bを備えたアーム先端部の図を示す。また、
図4には、アタッチメント123としてグラップル123Cを備えたアーム先端部の図を示す。これらの図から明らかなように、アーム112の先端部とアタッチメント123(マグネット123B及びグラップル123C)とは、回動軸144を介して連結する。
【0030】
図5に本実施形態の荷重計測装置150の概略構成図を示す。荷重計測装置150は、主に、状態量検出手段40と、演算装置160と、表示装置161とから構成する。
【0031】
状態量検出手段40は、作業機械100の所要の部分に備えたピン型ロードセル4a、4bと、ブーム角度センサ140aと、アーム角度センサ141aと、アタッチメント角度センサ142aをもって構成する。以下、実施の形態に係る状態量検出手段40を、アタッチメント123の姿勢を検出する姿勢検出装置と、アタッチメント123に加わる荷重を検出する荷重検出装置とに分けて説明する。
【0032】
まず、姿勢検出装置について説明する。
図1に示すように、作業機械100は、アタッチメント123の姿勢を検出する姿勢検出装置として、ブーム角度センサ140aと、アーム角度センサ141aと、アタッチメント角度センサ142aを備えている。ブーム角度センサ140aは、上部作業体103に対するブーム110の回転角度(相対角度)を検出するもので、上部作業体103とブーム110の回動軸140に設ける。アーム角度センサ141aは、ブーム110に対するアーム112の回転角度(相対角度)を検出するもので、ブーム110とアーム112の回動軸141に設ける。アタッチメント角度センサ142aは、アーム112に対するアタッチメント123の回転角度(相対角度)を検出するもので、アーム112とアタッチメント123の回動軸142に設ける。ブーム角度センサ140a、アーム角度センサ141a及びアタッチメント角度センサ142aの検出値は、後述する演算装置160に入力し、水平面に対するアタッチメント123の姿勢の絶対角度θ(対地角度)の算出に用いる。
【0033】
次に、荷重検出装置について説明する。
図2に示すように、作業機械100は、アタッチメント123に加わる荷重を検出する荷重検出装置として、互いに直交する2軸方向の荷重を検出するピン型ロードセル4a、4bを有している。ピン型ロードセル4a、4bは、回動軸142及び回動軸144に設けた連結ピンに代えて設ける。ピン型ロードセル4a、4bは、回動軸142、144に相当する所要の形状及びサイズに形成されたピン本体に歪検出センサを設けることにより、ピン本体に作用する力を検出できるようになっている。ピン型ロードセル4a、4bの具体的な構成については後述する。ピン型ロードセル4aは、アタッチメント123と一体となって回転するように、回動軸142の設定位置において、アタッチメント123に固定する。一方、ピン型ロードセル4bは、アタッチメント123と一体となって回転するように、回動軸144の設定位置において、アタッチメント123に固定する。
【0034】
図6に示すように、アタッチメント123には、回動軸142、144を介してアーム112を連結するための2枚のリブ123a、123bが所要の間隔を隔てて対向に形成してある。アーム112とアタッチメント123は、アーム112の先端部を2枚のリブ123a、123bの間に配置した状態で、アーム112の先端部に開設された貫通孔及び2枚のリブ123a、123bに開設された貫通孔にピン型ロードセル4a、4bを貫通することにより回動自在に連結する。したがって、アタッチメント123に土砂等の負荷が加わった場合、ピン型ロードセル4a、4bには、
図6に白抜き矢印で示すように、アーム112との接触部では上向きの、アタッチメント123との接触部では下向きの力が作用し、アーム112とリブ123a、123bの隙間部分1A、1Bにせん断変形が生じる。このような理由から、ピン型ロードセル4a、4bとしては、この隙間部分1A、1Bに生じるせん断歪を検出するものを用いる。
【0035】
演算装置160は、図示しない中央処理装置及び記憶装置を有しており、状態量検出手段40の検出信号に基づいて、アタッチメント123に加わる荷重の大きさと方向を算出する。表示装置161は、演算装置160と接続されており、演算装置160が算出した荷重の大きさと方向を表示する。作業機械のオペレータは、この表示装置161に表示される力の大きさと方向を参照しながら、作業機械の運転を行うことができる。
【0036】
以下、
図7を用いて演算装置160で行われる具体的な演算方法について説明する。演算装置160は、角度センサ140a、141a、142aの検出信号に基づいてアタッチメント123の姿勢を検出すると共に、アタッチメント123の姿勢情報及びピン型ロードセル4a、4bの検出信号に基づいて、アタッチメント123に加わる荷重の大きさと方向を算出する。
【0037】
図7は、アタッチメント123に加わる力F
123と、ピン型ロードセル4aで検出される力F
142と、ピン型ロードセル4bで検出される力F
144との関係図である。基準座標系として、作業機械100の前後方向にX’軸を、鉛直方向にY’軸を設定する。また、アタッチメント123の座標系(アタッチメント座標系)として、回動軸142と回動軸144を結ぶ線分の方向にx軸を、このx軸に対して垂直な方向にy軸を設定する。ここで、アタッチメント123における点P
123に力F
123が作用したとき、回動軸142には力F
142が、回動軸144には力F
144が作用したとする。
【0038】
このとき、回動軸142に設けられ、アタッチメント123に固定されているピン型ロードセル4aは、回動軸142に作用する力F
142を、x軸方向の力F
142xと、y軸方向の力F
142yとして検出し、演算装置160に出力する。同様に、回動軸144に設けられ、アタッチメント123に固定されているピン型ロードセル4bは、回動軸144に作用する力F
144を、x軸方向の力F
144xと、y軸方向の力F
144yとして検出し、演算装置160に出力する。
【0039】
演算装置160はアタッチメント123に作用する力F123のx軸方向成分F
123x及びy軸方向成分F
123yを、F
142x、F
142y、F
144x、F
144yを用いて、下記の(1)式で算出する。
【数1】
【0040】
演算装置160は、水平面(x軸方向)に対するアタッチメント123の角度θ(
図7参照)を、ブーム角度センサ140a、アーム角度センサ141a及びアタッチメント角度センサ142a(姿勢検出装置)の検出値に基づいて算出する。そして、演算装置160は、上記の角度θと上式から算出されたF
123x、F
123yを用いて、アタッチメント123に加わる力F
123のX’軸方向成分F
123X’とY’軸方向成分F
123Y’を、下記の(2)式で算出する。これにより、演算装置160は、アタッチメント123に作用する力F
123の大きさと方向を算出することができる。
【数2】
【0041】
次に、実施の形態に係るピン型ロードセル4a、4bの詳細について説明する。
図8に示すように、実施の形態に係るピン型ロードセル4は、ピン本体1と、ピン本体1の軸方向に設けたピン穴2と、ピン本体1に発生する歪を検出する歪検出部材20と、歪検出部材20の検出信号から当該ピン型ロードセル4に作用する荷重を算出する荷重算出部30とから構成する。荷重算出部30は、歪検出部材20の検出信号を取り込む入力部31と、歪検出部材20の検出値からピン本体1に加わる2軸方向の荷重Fx、Fyを算出する算出部32と、算出部32が算出した2軸方向の荷重Fx、Fyを演算装置160(
図5参照)に出力する出力部33とから構成する。なお、ピン型ロードセル4は、ピン型ロードセル4a、4bの総称である。
【0042】
ピン本体1は、例えばS45C等の構造用炭素鋼を用いて、外観形状を円柱状に形成する。ピン本体1の外周の所定位置、即ち、
図6に示したせん断歪発生部1A、1Bに相当する部分には、凹部を形成してある。ピン穴2は、ピン本体1と同心で、ピン本体1の軸方向に設けた穴であり、ピン本体1を貫通する貫通孔とすることもできるし、ピン本体1の両端から少なくとも
図6のせん断歪発生部1A、1Bに相当する部分まで達するように設けた半貫通孔とすることもできる。
【0043】
歪検出部材20は、ピン本体1の歪量を検出する複数の歪センサ201〜204、211〜214をもって構成され、これらの各歪センサ201〜204、211〜214は、せん断変形発生部1A、1Bにおけるピン穴2の内壁面に設けられる。ここで、歪センサ201〜204、211〜214としては、一般に広く使用されている金属抵抗式歪ゲージや、単結晶シリコン基板に不純物を導入した不純物拡散抵抗を用いた半導体歪センサ等を用いることができる。
【0044】
実施の形態に係る歪検出部材20及び荷重算出部30の詳細を説明する前に、従来のピン型ロードセルにおいて、作用する荷重の方向が変化する際に発生する計測誤差の発生原理及び発生する誤差の傾向について説明する。本発明は以下に示す誤差に関する考察をもとになされたものであり、以下に示す原理で発生する誤差を回避する構成を有する。
【0045】
なお、従来例に係るピン型ロードセルとしては、説明を容易にするため、
図9に示すように、ピン本体1におけるせん断変形発生部1A、1Bのそれぞれに対応するピン穴壁面の同一円周上に、90°ピッチで4枚の歪センサ201a、202a、203a、204aを取り付けたものを例にとって説明する。対向に配置した歪センサ201aと202a及び歪センサ203aと204aは、それぞれ一対の歪センサ対を構成する。このように、
図9に示した従来例に係るピン型ロードセルは、2枚を一対とする2対の歪センサ対を、互いに直交するように配置してなる。
【0046】
図10に、従来例に係るピン型ロードセル4のせん断変形発生部1Aを拡大して示す。この図から明らかなように、一対の歪センサ201aと202aは、荷重点1Cと支持点1Dの中間位置1E(計測点)に相当する部位に取り付ける。なお、図示は省略するが、他の一対の歪センサ203aと204aも、荷重点1Cと支持点1Dの中間位置1E(計測点)に相当する部位に取り付ける。歪センサ201a、202aは、計測点の近傍における軸方向に対して45°方向の伸縮を検出し、これら2枚の歪センサ201a、202aの出力値の差をせん断歪として出力する。同様に、歪センサ203a、204aは、計測点の近傍における軸方向に対して45°方向の伸縮を検出し、これら2枚の歪センサ203a、204aの出力値の差をせん断歪として出力する。ピン型ロードセル4の断面形状が変化せず、歪センサ201a〜204aに対してせん断変形のみが作用する場合、ピン型ロードセル4は、これに作用する荷重のセンサ設置面に対応した方向成分に応じたせん断歪を検出する。
【0047】
このピン型ロードセル4に対し、歪センサ201aと202aの設置方向を0°とするθ方向(
図9参照)から大きさFの荷重が作用した時、0°方向に備えられた歪センサ対(201a、202a)と90°方向に備えられた歪センサ対(203a、204a)の出力値Sx及びSyは、理論的には下記の(3)式で表される関係にある。
【数3】
【0048】
ここで、1/αは歪センサの荷重に対する感度を表す定数である。x軸方向の力Fx、y軸方向の力Fyは、各センサ対の出力値Sx、Syに、αを乗ずることにより算出できる。また、荷重の大きさは、Fx、Fyを用いて、下記の(4)式で算出できる。
【数4】
【0049】
しかしながら、実際には、荷重を受けたとき、ピン穴2やピン取付部の寸法公差等の影響によりピン型ロードセル4の断面形状が
図11に示すように変形するので、ピン型ロードセル4は、これに作用する荷重に応じたせん断歪のみならず、断面形状の変形に起因する歪も検出する。
図11(a)は荷重点1C、
図11(b)は計測点1E、
図11(c)は支持点1Dにおける断面形状の変形の拡大図である。これらの図から明らかなように、荷重点1C及び支持点1Dでは、荷重の影響により、上下非対称な変形となる。各点における断面形状に着目すると、荷重点1Cでは上部が小さく下部が大きい形状となり、逆に支持点1Dでは上部が大きく下部が小さい形状となる。このような場合には、歪センサ200の検出値にはせん断変形による歪に加えて、上記の非対称な変形によって発生する歪が含まれる。また、この非対称な断面形状の変形による歪は、荷重作用方向とセンサ位置の関係によって異なるため、荷重作用方向によって非対称な断面形状の変形による影響の大きさは変化し、ある荷重作用方向において校正した歪センサの校正値を用いて荷重値を算出すると、荷重作用方向が変化した際に計測誤差が生じる。
【0050】
図12(a)に、荷重作用方向を0°から360°まで変化させたときのx軸方向及びy軸方向の荷重の理論値及び算出値の傾向を示す。また、
図12(b)に横軸を荷重作用方向、縦軸を荷重の大きさの算出値とするグラフ図を示す。これらの図から明らかなように、荷重計測誤差は、荷重作用方向によって変化し、45°、135°、225°、315°で特に大きくなる傾向がある。また、荷重算出値は、0°、90°、180°、270°で最小値を取る傾向がある。つまり、0°方向及び90°方向の荷重を用いて導出した歪センサ校正結果を用いる場合には、誤差は常に正方向に発生する。荷重計測誤差の大きさは、ピンの剛性、即ち、ピンの材質や外径、ピン穴径によって異なり、ピン穴径が小さい場合には減少する。一方、荷重作用方向と誤差の大きさとの関係は常に上記と同様の傾向を示す。
【0051】
上述したように、荷重によりピン本体1の断面形状が上下非対称に変形する場合には、ピン本体1の0°方向に備えられた歪センサ対(201a、202a)と90°方向に備えられた歪センサ対(203a、204a)の出力値Sx、Syを用いても、ピン本体1に作用する荷重F及びその作用方向を正確に求めることができない。ピン本体1に作用する荷重F及びその作用方向を正確に求めるためには、ピン本体1の断面形状の非対称な変形の影響に起因する荷重計測誤差を除去する必要がある。
【0052】
本発明のピン型ロードセルは、上述の知見に基づいて創作されたものであり、以下に記載の構成を有する。本発明のピン型ロードセルによれば、ピン本体1の断面形状変形の影響を除去でき、荷重の作用方向によらず、作用する荷重の大きさ及びその作用方向を高精度に検出できる。
【0053】
図13(a)は、
図8のA−A’断面図であり、
図13(b)は、せん断変形発生部1Aに設置される各歪センサの構成と配置とを示す図である。
図13(a)、(b)に示す2軸ピン型ロードセル4は、歪検出部材20として、検出方向が異なる2個を1組とする4組の歪センサを備えると共に、せん断変形発生部1A、1Bに対応するピン穴2の壁面の円周上に、2組の歪センサをそれぞれ対向に配置している。
【0054】
即ち、
図13(a)、(b)に示す2軸ピン型ロードセル4は、歪検出部材20としてせん断変形発生部1Aに対応するピン穴2の壁面に、互いに対向に配置された2対4組の歪センサ201、202、203、204を備える。各組の歪センサ201、202、203、204は、
図13(b)に示すように、検出方向が異なる2個の歪センサ(201aと201b)、(202aと202b)、(203aと203b)、(204aと204b)からなる。
図13(a)に示すように、歪センサ組201と202、203と204は対向するように設けられ、それぞれ歪センサ対を形成する。なお、
図13(a)では、2つの歪センサ対(201、202)と(203、204)とが直交するように、0°方向に(201、202)を、90°方向に(203、204)を備える例を示したが、2つの歪センサ対の設置位置は必ずしも0°方向及び90°方向である必要はなく、ピン穴2の内壁の円周上の任意の位置に配置して良い。但し、荷重作用方向がいかなる場合も十分な出力値を得るためには、歪センサ対を45°以上離した位置に配置することが望ましい。
【0055】
歪センサ組201、202、203、204は、
図13(b)に示すように、それぞれ、ピン軸方向に対して45°方向の歪を検出する歪センサ(201a、202a、203a、204a)とピン軸方向の歪を検出する歪センサ(201b、202b、203b、204b)とから構成する。つまり、せん断変形発生部1Aに対応するピン穴2の内壁面におけるピン軸方向に対して45°方向の歪を検出する歪センサと、せん断変形発生部1Aに対応するピン穴2の内壁面におけるピン軸方向の歪を検出する歪センサをもって1組の歪センサとし、これを接着等の方法を用いて4つの歪検出位置に取り付ける。
【0056】
せん断変形発生部1Bについてもこれと同様であり、
図8に示すように、せん断変形発生部1Bに対応するピン穴2の壁面に、歪センサ211(211a、211b)、212(212a、212b)、213(213a、213b)、214(214a、214b)の4組を備える。
【0057】
荷重算出部30は、マイクロコンピュータ等から構成され、歪検出部材20の検出信号を入力する入力部31と、歪検出部材20の検出信号を用いてピン本体1に加わる荷重を算出する算出部32と、算出された2軸方向の荷重Fx、Fyを出力する出力部34を有する。
【0058】
算出部32では、歪検出部材20を構成する歪センサのうち、同一の検出方向を持つ歪センサを用いて、歪検出方向ごとに荷重算出値を算出し、算出された複数の荷重算出値と、校正情報としてあらかじめ導出された、歪検出方向ごとの荷重算出値間の相関情報とを用いて、算出された荷重値に含まれるピン本体1の断面形状変化の影響を除去し、ピン本体1に作用する荷重値を算出する。
【0059】
以下、算出部32における荷重算出方法の詳細を説明する。
【0060】
まず、歪検出部材20の検出信号を用いて、歪センサの歪検出方向ごとに荷重値を算出する。
図13(b)に示した例では、歪センサ201a、202a、203a、204aは、ピン軸方向に対して45°方向の歪を検出し、歪センサ201b、202b、203b、204bは、ピン軸方向の歪を検出する。そして、歪センサ201a、202a、203a、204aの検出値を用いて荷重算出値Faを算出し、歪センサ201b、202b、203b、204bの検出値を用いて荷重算出値Fbを算出する。
【0061】
具体的には、まず、対向に設置された歪センサ201aと202aの出力値の差分より歪出力値S
201Aを算出し、歪センサ203aと204aの出力値の差分より歪出力値S
203Aを算出する。同様に、歪センサ201bと202bの出力値の差分より歪出力値S
201Bを算出し、歪センサ203bと204bの出力値の差分より歪出力値S
203Bを算出する。次に、歪検出方向がピン軸方向に対して45°方向の歪センサを用いた荷重算出値Faを歪出力値S
201A、S
203Aから算出し、歪検出方向がピン軸方向の歪センサを用いた荷重算出値Fbを歪出力値S
201B、S
203Bから算出する。
図13(a)のように、歪センサ201と202を0°方向に、歪センサ203と204を90°方向に設けた場合、荷重算出値Fa、Fbは、下記の(5)式で算出できる。
【数5】
ここで、Fax、Fbxはx軸方向の荷重算出値、Fay、Fbyはy軸方向の荷重算出値、Fa、Fbは荷重の大きさを意味する。また、α及びβは、各歪検出方向の歪センサ出力を力次元に変換する歪センサの校正値である。
【0062】
歪センサ201と歪センサ202をθ1方向に、歪センサ203と204をθ2方向に設けた場合、荷重算出値Fa、Fbは、下記の(6)式で算出される。なお、以降の演算は、センサ組の設置位置に関わらず、同様であるため、歪センサ201と歪センサ202を0°方向に、歪センサ203と204を90°方向に設ける例を用いて説明する。
【数6】
【0063】
次に、荷重算出値Fa、Fbと、校正情報としてあらかじめ導出された歪検出方向ごとの荷重算出値FaとFbの相関情報とを用いて、荷重算出値に含まれるピン本体1の断面形状変化の影響を除去し、せん断変形発生部1Aに作用する荷重F1Ax、F1Ayを算出する。
【0064】
上述のように、実際にピン本体1に作用する荷重の大きさが変化しない場合においても、ピン本体1の断面形状が非対称に変形した場合には、その影響により、荷重作用方向を変化させた際に、荷重算出値Fa、Fbが変動する。ピン本体1の断面形状変化の影響を詳細に検討した結果、荷重作用方向による荷重算出値の変動は、ピン軸に対して45°方向の歪を検出する歪センサの出力値から算出したFaと、ピン軸方向の歪を検出する歪センサの出力値から算出したFbとで同様の傾向を示すことが確認された。
【0065】
図14に、荷重の作用方向を変化させた際の、荷重算出値Fa、Fbの算出結果を示す。
図14(a)、(b)に示すように、荷重の作用方向を変化させた際の変動の大きさは荷重算出値FaとFbで異なるものの、荷重算出値Fa、Fbはいずれも、荷重の作用方向が0°、90°、180°、270°で最小値を取り、45°、135°、225°、315°で最大値を取る傾向がある。荷重算出値Fa、Fbの最小値からのずれ分が、断面変形の影響分である。
【0066】
図14(c)は、せん断変形発生部1Aに作用する荷重の大きさを変えた際の、荷重算出値FaとFbの相関を示している。この図に示されるように、作用した荷重の大きさによらず、荷重の作用方向を変化させた際の荷重算出値Fa、Fbの最小値は、いずれも、せん断変形発生部1Aに作用する荷重の大きさどおりの値となる。また、荷重算出値Faにおける最小値からのずれ分、すなわち、断面形状変化の影響分と、荷重算出値Fbにおける最小値からのずれ分とは線形の関係にあり、その比例係数は、荷重の大きさを変えた場合にも変化しないことが確認できる。断面形状変化の影響の大きさは、荷重の作用方向によって変化するため、荷重作用方向θの関数として表すことができ、せん断変形発生部1Aに作用する荷重の大きさF1Aと、荷重算出値Fa、Fbとの関係は下記の(7)式で表わすことができる。
【数7】
【0067】
断面変形の影響を表す関数δ(θ)及び係数γは、ピン型ロードセル4の校正試験によって導出できる。
図13に示すセンサ配置とする場合には、
図14(a)、(b)に示されるように、断面形状変化の影響の大きさを表す関数δ(θ)は0°、90°において0となり、45°において最大値となる、周期が90°の周期関数である。δ(θ)の形式としては、例えば、下記の(8)式で表される例が考えられる。
【数8】
【0068】
(7)式において、荷重算出値Fa、Fbは歪センサの出力値から算出される値であり、この2つの式を用いれば、せん断変形発生部1Aに作用する荷重の大きさF1Aと荷重作用方向θ1Aを算出することができる。具体的には、F1Aは下記の(9)式で算出される。
【数9】
【0069】
また、断面変形の影響分は下記の(10)式で算出される。
【数10】
【0070】
荷重作用方向θ1Aは、δ(θ)の逆関数に上式で算出されるδ(θ1A)の値を代入して算出される値と、x軸方向の荷重算出値Faxとy軸方向の荷重算出値Fayを用いて算出されるtan
−1(Fay/Fax)から導出できる。
【0071】
上述の演算を行った後、荷重算出部30は、算出した荷重の大きさF1Aと荷重作用方向θ1Aとを用いて、せん断変形発生部1Aに作用するx軸方向の荷重F1Axとy軸方向の荷重F1Ayを下記の(11)式で算出する。
【数11】
【0072】
せん断変形発生部1Bについても、これと同様の演算を行い、せん断変形発生部1Bに作用する荷重F1Bx、F1Byを算出する。荷重算出部30は、ピン型ロードセル4に作用する荷重を、下記の(12)式で、せん断変形発生部F1Aにおいて検出された荷重値とせん断変形発生部F1Bにおいて検出された荷重値の和として算出し、荷重算出値F1x、F1yとして出力する。
【数12】
【0073】
また、ピン型ロードセル4に作用する荷重の大きさF1は、下記の(13)式で算出される。
【数13】
【0074】
以下に、本実施の形態に係るピン型ロードセル4の効果について述べる。
【0075】
本実施の形態に係るピン型ロードセル4は、検出方向が異なる複数の歪センサを同一箇所に設置し、それらの各出力値の関係を用いて、ピン本体1の断面形状の非対称な変形の影響を除去するため、従来例に係るピン型ロードセルを用いた場合と比べて、荷重算出値の誤差を大幅に抑制することができる。
図15に、本実施の形態に係るピン型ロードセル4を用いた場合の荷重方向に応じた荷重算出値と、従来例に係るピン型ロードセルを用いた場合の荷重方向に応じた荷重算出値とを比較して示す。この図から明らかなように、従来例においては荷重作用方向が45°、135°、225°、315°付近の場合に大きな誤差が発生していたが、本実施の形態の構成では、そのような荷重作用方向においても誤差を小さく保つことができ、荷重作用方向によらず高精度な計測ができていることがわかる。また、本実施の形態のピン型ロードセル4では、ピン穴2に制約を設けることなく、上述の結果が得られており、ピンの外径が小さい場合にも、高精度な荷重計測が可能である。
【0076】
また、上述のように本実施の形態に係る作業機械は、荷重の作用方向が時々刻々と変化した場合においても、回動軸(ピン型ロードセル)に作用する荷重の大きさ及び方向を高精度に検出可能な荷重検出装置を備えたため、いかなる場合においても、アタッチメント123に作用する荷重の大きさ及び方向を高精度に検出することができる。
【0077】
アタッチメント123に加わる荷重F123はピン型ロードセルの検出値より(1)式及び(2)式を用いて算出されるが、このとき、2つのピン型ロードセルの出力値を合成するため、それぞれの出力値F142x、F142y、F144x、F144yに含まれる誤差の正負によっては算出される荷重値の誤差がピン型ロードセルで発生する誤差よりも大きくなる。つまり、2軸ピン型ロードセル4a、4bに求められる計測精度は、アタッチメント荷重計測に要求される精度よりも高い。一方、
図8に示した従来例のピン型ロードセルでは、荷重作用方向が変化した場合にピン型ロードセルの出力値が大きな誤差を含み、作業機械1
00のアタッチメント123の荷重計測に適用した場合には、アタッチメント123に作用する荷重は姿勢や作業によって時々刻々と変化するため、作業中にアタッチメント荷重を正確に計測することができない。一方、本実施の形態に示すような、荷重作用方向がいかなる場合においてもピンに作用する荷重の大きさ及び方向を高精度に検出可能なピン型ロードセル4を用いて荷重計測装置を構成した場合には、荷重の作用方向によらず、アタッチメント123に作用する荷重を高精度に計測することが可能となり、作業者あるいは作業管理者が作業機械の状態を正確に把握することできる。これにより、作業及び作業管理の効率向上が期待できる。
【0078】
以下、本発明に係る2軸ピン型ロードセル及びこれを備える作業機械の他の実施形態を列挙する。
【0079】
上記の実施形態では、歪検出部材20としてピン穴2の壁面に歪センサを備えたが、せん断歪検出部材20は、せん断変形発生部1A、1Bに発生する歪を検出できれば良く、
図16に示すように、ピン本体1の外周に形成された凹部内に歪センサ201〜204、211〜214を備えても良いし、
図17に示すように、ピン穴2内に歪検出ブロック220を挿入し、当該検出ブロック220の表面に歪センサ201〜204、211〜214を備えても良い。いずれの場合においても、歪センサの配置方法及び荷重算出部30における荷重算出方法は上記の実施の形態と同様とすれば良い。
【0080】
上記の実施形態では、ピン型ロードセル4の歪検出部材20として、各せん断歪発生部に検出方向の異なる複数の歪センサから構成される歪センサ組を周方向に2対4組設ける例を示したが、2対4組はピン
本体1に加わる2軸方向の荷重を検出するための最小構成であり、さらに多くのセンサ対を備えても良い。センサ対が多い場合には、荷重算出部30において、非対称な断面変形の影響が比較的小さい2対を選択した上で、上述の荷重算出演算を行えばよい。センサ対を多く配置することによって、非対称な断面変形の影響のより小さいセンサを用いて荷重を算出することが可能となり、荷重算出のさらなる高精度化が可能である。
【0081】
上記の実施形態では、ピン型ロードセル4の歪検出部材20を構成する歪センサ組を、歪検出部1A、1Bのそれぞれについて、ピン本体1の軸方向の歪を検出する歪センサ(201b、202b、203b、204b)、(211b、212b、213b、214b)と、ピン本体1の軸方向に対して45°方向の歪を検出する歪センサ(201a、202a、203a、204a)、(211a、212a、213a、214a)の組み合わせから構成したが、これは歪センサ組を最少の歪センサ(2つ)から構成する際の最良の組合せであって、2つの歪センサの組み合わせは、これに限定されるものではない。例えば、
図18に示すように、ピン本体1の周方向の歪を検出する歪センサ(201c、202c、203c、204c)、(211c、212c、213c、214c)と、ピン本体1の軸方向に対して45°方向の歪を検出する歪センサ(201a、202a、203a、204a)、(211a、212a、213a、214a)の組み合わせから構成することもできる。なお、歪センサ組は2方向以上の歪を検出できるように構成すれば良く、歪センサの検出方向は、上述の構成に限定されることなく、自由に決定することができる。歪センサの検出方向が異なる場合においても、荷重算出部30における荷重算出方法は上記の実施の形態と同様とすれば良い。
【0082】
上記の実施形態では、ピン型ロードセル4の歪検出部材20を構成する歪センサ組が、各設置位置における2方向の歪を検出する例を示したが、これは、ピンの非対称な断面変形の影響を除去し、荷重方向によらず高精度な荷重計測を行うための最小構成であり、より多くの方向の歪を検出するように構成しても良い。例えば、
図19に示すように、各設置位置における3方向の歪を検出するように歪センサ組を構成することが考えられる。このように構成することによって、各設置位置におけるあらゆる方向の歪を算出することが可能となり、荷重算出のさらなる高精度化が可能である。
【0083】
また、上記の実施形態では、歪センサ組を構成する2つの歪センサを対向に配置する構成としたが、
図20(a)、(b)に示すように、2つの歪センサを同一面の同一位置に互いに直交するように配置しても良い。この場合には、各せん断歪発生部の周方向に、上述の歪センサ組を2組以上設ければ良い。また、ピン本体1に加わる曲げ等の影響が少ない場合には、歪センサ組を対向面に設ける、あるいは、同一面の同一位置に歪センサ組を互いに直交するように配置することなく、
図21に示すように、検出方向の異なる複数の歪センサから構成される歪センサ組を周方向に2組設けるように構成することもできる。このように構成することにより、歪センサ組設置位置を減少させることが可能であり、より簡易に製作することが可能である。さらに、上記の実施形態では、ピン型ロードセル4の歪検出部材20を構成する歪センサ組を、ピン本体1の軸方向に対して45°方向の歪を検出する歪センサ(201a、202a、203a、204a)、(211a、212a、213a、214a)と、ピン本体1の軸方向の歪を検出する歪センサ(201b、202b、203b、204b)、(211b、212b、213b、214b)又はピン本体1の周方向の歪を検出する歪センサ(201c、202c、203c、204c)、(211c、212c、213c、214c)とから構成したが、各歪センサは、必ずしもこれらの方向の歪を検出しなくてはならないものではなく、
図22に示すように、ピン本体1の軸方向に対して45°方向、ピン本体1の軸方向及びピン本体1の周方向から偏倚した方向に配置してもよい。
【0084】
また、上記の実施形態では、姿勢検出手段として、ブーム角度センサ140aと、アーム角度センサ141aと、アタッチメント角度センサ142aとを備える例を示したが、各回動軸に角度センサを設ける代わりに、アタッチメント123の水平面に対する絶対角度を検出する他の装置を用いても良い。例えば、ブームシリンダ、アームシリンダ、アタッチメントシリンダに、それぞれの伸縮を計測するストロークセンサを設ける例や、アタッチメント123に傾斜角を検出する傾斜角センサを設ける例が考えられる。このような構成にすることによって、回動軸に角度センサを設けるのが困難な場合においても、アタッチメント123の姿勢情報を得ることができる。さらに、上記の実施形態では、油圧ショベルを例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、ブルドーザ、ロードローラ、ホイールローダ、ダンプトラック、クレーンなどの他の作業機械にも適用できる。
【0085】
また、上記の実施形態では、ピン型ロードセル4を用いてアタッチメント123に作用する荷重の大きさ及び方向を検出する場合を例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、例えば上部作業体10
3とブーム110の連結部又はブーム110とアーム112の連結部など、他の部位に作用する荷重の大きさ及び方向をピン型ロードセルを用いて検出することも、勿論可能である。
【0086】
また、上記の実施形態では、ピン型ロードセル4を作業機械のアタッチメント荷重計測に用いる例を示したが、本発明のピン型ロードセル4は、単に作業機械に適用できるだけでなく、機械一般の荷重検出に広く適用することができる。
【0087】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。