【0023】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明では、静止漏れを抑制するため、リップの上側半周に溝を付ける。スリンガーにはネジ溝を付けず、ゴムリップを付与する。
(2)静止時の流体漏れは、液面が到達する可能性のある下側半周部分から発生する。そのため、ネジ溝を半周のみに彫り、静止時に下側半周に溝がなければ静止漏れは起こらない。しかし、スリンガーは回転しどこで止まるかは分からないため、ネジ溝のない半周を常に下側に保つことはできない。したがって、回転しないリップ側の上側半周にネジ溝を付けることにする。
(3)さらに、スリンガーにもゴムリップを付与することで、静止時の隙間を完全になくし、密封流体が漏れないようにする。回転時には遠心力によってスリンガーに付けたゴムリップが浮き上がり隙間ができるため、大気側の空気が密封流体側へ送られる効果と、一度漏洩してしまった密封流体を機内側へ戻す作用は維持される。
【実施例】
【0024】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。
【0026】
当該実施例に係る密封装置1は、ハウジング(シールハウジング)51とこのハウジング51に設けた軸孔52に挿通する回転軸61との間で機内側(油側)Aの密封流体(油)が機外側(大気側)Bへ漏洩しないようにシールする密封装置(エンジン用オイルシール)1である。図示するように軸孔52および回転軸61はその中心軸線0を水平方向に向けて設定されている。また回転軸61の回転停止時、密封流体は軸孔52内にて所定の高さ位置まで充満し、具体的には、回転軸61の中心軸線0の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置まで充満するものとされている。図ではこのときの液面水位を符号Hで示している。
【0027】
密封装置1は、回転軸61の外周に装着されるスリンガー11と、ハウジング51の軸孔52内周に装着されるリップシール部材21との組み合わせにより構成されている。
【0028】
スリンガー11は、金属等の剛材製であって、回転軸61の外周面に固定(嵌合)されるスリーブ部12と、このスリーブ部12の一端(機内側端部)に設けられたフランジ部13とを一体に有し、更にフランジ部13の機外側端面13aにゴム状弾性体よりなる回転側リップ14が設けられている。フランジ部13の機外側端面13aにネジ溝は設けられておらず、よってフランジ部13の機外側端面13aは平滑面とされている。
【0029】
一方、リップシール部材21は、ハウジング51の軸孔52内周面に固定(嵌合)される金属等の剛材よりなる取付環22と、この取付環22に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体23とを有し、このゴム状弾性体23によって、スリンガー11における回転側リップ14の先端部に摺動可能に密接するシールリップ(端面リップ)24と、スリンガー11に対し非接触の油回収リップ25と、スリンガー11におけるスリーブ部12の外周面に摺動可能に密接するダストリップ26が一体に設けられている。油回収リップ25はシールリップ24の機外側Bに配置され、ダストリップ26は油回収リップ25の更に機外側Bに配置されている。回転側リップ14はその基端部から先端部へかけて径寸法が徐々に拡大するテーパー状(漏斗状)のサイドリップとされ、シールリップ24もその基端部から先端部へかけて径寸法が徐々に拡大するテーパー状(漏斗状)のサイドリップとされているので、シールリップ24はその先端部が回転側リップ14の先端部の内周面に密接するものとされている。
【0030】
また、フランジ部13の機外側端面13aまたは回転側リップ14の内周面と軸方向に対向するシールリップ24の対向面24aに、回転軸61の回転時に遠心力によるポンピング作用を発揮することにより密封流体を外周側(機内側A)へ向けて押し戻す作用を発揮するネジ溝27が設けられている。上記したようシールリップ24はその基端部から先端部へかけて径寸法が徐々に拡大するテーパー状(漏斗状)のサイドリップとされているので、ネジ溝27はシールリップ24の内周面に設けられている。
【0031】
また、このネジ溝27は
図2に示すように、シールリップ24の対向面24aにおいて、回転軸61の回転停止時に密封流体が軸孔52内にて充満する所定の高さ位置よりも上方の部位のみに設けられており、当該実施例では上記したように密封流体は回転軸61の中心軸線0の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置まで充満するので、ネジ溝27はシールリップ24の対向面24aのうち円周上上半分の領域のみに設けられている。
【0032】
すなわち、比較例として
図3に示すようにネジ溝27が仮に全周360度に亙って設けられると、その円周上において下半分の領域ではネジ溝27が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態となるため、この円周上の下半分領域においてシールリップ24の外周側からネジ溝27を経由してシールリップ24の内周側へ密封流体が侵入しやすいことになる。これに対し当該実施例では
図2に示すように、ネジ溝27が円周上の上半分領域のみに設けられて下半分の領域には設けられていないため、ネジ溝27が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態とはならない構成とされている。
【0033】
図2および
図3において、矢印eは回転軸61の回転方向を示している。ネジ溝27は図面上では4条ネジとして描かれている。
【0034】
上記構成の密封装置1においては、回転軸61の回転時、シールリップ24がスリンガー11の回転側リップ14に摺動可能に密接することにより基本的なシール機能が発揮されるほか、回転軸61と共に回転するスリンガー11がフランジ部13および回転側リップ14による流体振り切り作用を発揮し、更にシールリップ24に設けられたネジ溝27がフランジ部13および回転側リップ14との相対回転に伴う流体ポンピング作用を発揮するため、シールリップ24および回転側リップ14間を通過する流体があってもこれを外周側(機内側A)へ戻すことが可能とされ、よって優れたシール機能が発揮される。
【0035】
また、回転軸61の回転が停止すると遠心力が消失し、これに伴って上記流体振り切り作用および流体ポンピング作用が一時停止するため、一部の密封流体がネジ溝27を伝って機内側Aからシールリップ24および油回収リップ25間の空間41へ流出する懸念があるところ、当該実施例では上記したようにネジ溝27がシールリップ24の対向面24aにおいて回転軸61の回転停止時に密封流体が軸孔52内にて充満する所定の高さ位置よりも上方の部位のみに設けられているため、円周上一部のネジ溝27が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態が発生しない。したがってネジ溝27を伝って密封流体がシールリップ24の外周側から内周側へ静止漏れするのを抑制することができる。
【0036】
また、スリンガー11におけるフランジ部13の機外側端面13aに回転側リップ14が設けられてこの回転側リップ14に対し静止側のシールリップ24が密接するため、この密接はリップ14,24同士が密接するものとされている。したがって弾性変形可能なリップ14,24同士が密接するため、シールリップ24が金属等の剛材製フランジ部13に密接する場合と比較してスキマが生じにくく、よって静止漏れが発生するのを一層有効に抑制することができる。
【0037】
なお、回転軸61の回転停止時に密封流体が軸孔52内にて充満する所定の高さ位置についてはその具体例を上記したように、回転軸61の中心軸線0の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置としたが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば他の例として、回転軸61の下端部の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置などとすることもできる。ここに回転軸61の下端部とは、中心軸線0を水平方向に向けて設定された回転軸61の外周面における円周上の下端部のことを云う。そしてこの場合には上記実施例対比で、シールリップ24の対向面24aにおいてネジ溝27を形成する領域が増えネジ溝27を形成しない領域が減るため、ネジ溝27による流体ポンピング作用を増強することができる。
【0038】
また、回転側リップ14については
図4に示すように、回転軸61の回転停止時に回転側リップ14が遠心力により弾性変形してシールリップ24から離れる構造であっても良く、この場合には回転側リップ14がシールリップ24から離れたときに両リップ14,24間に間隙cが形成され、間隙cによる流路が形成される。したがってネジ溝27による流体ポンピング作用が発揮されたときにこの流路を通って機外側Bの空気(大気)が多量に機内側Aへ流れ込むため(矢印f)、この空気の流れに乗せるかたちにて密封流体を機内側Aへ戻すことが可能とされる。したがってネジ溝27によるポンピング作用、延いてはシール性が高められることになる。