(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照して実施形態にかかる車両用制御装置について説明する。
【0010】
図1は、鉄道車両に搭載された車両用制御装置100の概略構成を示している。車両用
制御装置100は、電力変換装置などの制御およびセンサの故障を検修する機能を有する
制御部10、架線13からパンタグラフ11を介して供給された交流電力を降圧する変圧
器20、この変圧器20で降圧された交流電力を直流電力へ変換するコンバータ30、そ
してコンバータ30で変換された直流電力を、電動機12を駆動するための3相交流電力
へ変換するインバータ40を主な構成としている。
【0011】
また、車両用制御装置100は、パンタグラフ11を介して受けた交流電力が変圧器2
0の1次コイルへ入力するのを遮断するための遮断器50、変圧器20の2次コイルとコ
ンバータ30との間に設けられた接触器51〜54、充電抵抗61と62、および電流検
出器81、コンバータ30とインバータ40との間に設けられた分圧コンデンサ71と7
2、放電抵抗63と64、および電圧検出器92と93、更にインバータ40と電動機1
2との間に設けられた電流検出器82を備えている。なお、分圧コンデンサ71と72お
よび電圧検出器92と93は、それぞれ互いに直列接続されており、更に、電圧検出器9
2と分圧コンデンサ71はコンバータ30とインバータ40との間の直流回路の正極と中
性点との間に、そして分圧コンデンサ72と電圧検出器92は前記直流回路の中性点と負
極との間に、それぞれ並列接続されている。
【0012】
また、変圧器20の3次コイルには電圧検出器91が設けられている。
【0013】
(第1の実施形態)
ここで、
図1と
図2を用いて上記構成の車両用制御装置100で実行される電圧検出器
92と93の検修動作について説明する。
【0014】
まず、運転台に設けられた起動スイッチがオンになると、制御部10は起動指令を受信
する。制御部10は、起動指令を受信したことに応じて、分圧コンデンサ71と72を充
電するために、遮断器50および接触器51と53を閉じる(ステップS11)。この結
果、架線13からパンタグラフ11が受けた交流電力は、変圧器20で降圧された後にコ
ンバータ30に供給される。そして、変圧器20からコンバータ30に入力された交流電
力は、直流電力に変換され、分圧コンデンサ71と72に供給される。
【0015】
このとき、変圧器20で降圧された交流電力は、接触器51と53それぞれに直列接続
されている充電抵抗61と62を介してコンバータ20に供給されることから、分圧コン
デンサ71と72には徐々にエネルギー(電荷)が蓄えられることになる。なお、分圧コ
ンデンサ71と72への充電が行われている間、制御部10からコンバータ30とインバ
ータ40へはゲート指令が出力されないため、スイッチング素子は全てオフとなっている
。
【0016】
分圧コンデンサ71と72への充電が開始、すなわち遮断器50および接触器51と5
3を閉じるように制御した後、制御部10は、電圧検出器92と93それぞれから入力さ
れる電圧値V
PとV
Nとの電圧差V
difを求め、この電圧差V
difと予め設定された閾値V
th
とを比較する(ステップS12)。なお、閾値V
thは、放電抵抗63と64の抵抗値の誤
差や電圧検出器の検出誤差を考慮して設定することが好ましい。また、電圧値V
PとV
Nは
、それぞれコンバータ30から直流側、すなわちインバータ40側への出力電圧が分圧コ
ンデンサ71と72によって分圧されたそれぞれの電圧値を示している。
【0017】
この比較の結果、電圧差V
difが閾値V
thより大きいことが検出されると(ステップS
12のYES)、制御部10は、電圧検出器92と93の少なくとも一方で検出された電
圧値が正しくない、または電圧検出器92と93の少なくとも一方が故障していると判定
する(ステップS13)。なお、電圧検出器92と93が共に正常であったとしても、ノ
イズ等の影響で検出される電圧値にばらつきが生じることが考えられることから、電圧差
V
difが閾値V
thより大きいことが瞬間的に検出されたとしても、「検出された電圧値が
正しくない」または「電圧検出器が故障している」と判定するのではなく、電圧差V
dif
が閾値V
thより大きい状態が一定時間継続した場合に「検出された電圧値が正しくない」
または「電圧検出器が故障している」と判定するようにしてもよい。
【0018】
制御部10は、「検出された電圧値が正しくない」または「電圧検出器が故障している
」と判定すると、コンバータ30へのゲート信号の出力を行わず、車両用制御装置100
の起動を中止する(ステップS14)。
【0019】
一方、電圧差V
difが閾値V
thより大きい値を示さない場合、制御部10は電圧検出器
92と93が正常であると判定する(ステップS15)。
【0020】
以上に説明した制御部10が実行するステップS12〜ステップS15の処理は、分圧
コンデンサ71と72の充電が完了するまで続けられる。具体的には、制御部10は、電
圧検出器92と93から得た電圧値V
PとV
Nが所定の値を示し、分圧コンデンサ71と7
2の充電が完了したことを検知すると、接触器52と54を閉じる制御を行うので、この
制御を行うまで続けられる。
【0021】
そこで、制御部10は、接触器52と54を閉じるための制御を行っていなければ(ス
テップS16のNO)、ステップS12〜ステップS15の処理を継続し、接触器52と
54を閉じるための制御を行うと(ステップS16のYES)、電圧検出器92と93に
対する検修動作を終了する(ステップS17)。
【0022】
このように、第1の実施形態では、車両用制御装置100を起動した後である通常の運
用の中で電圧検出器92と93を検修することができるため、検修するための専用回路や
テストモードを設ける必要がなくなり、また、通常の運用が行われているときでも、車両
用制御装置100の再起動が行われるごとに検修を行うことができるので、検修のために
通常の運用をいったん中止する必要もなくなる。
【0023】
ところで、電圧検出器92と93に対する検修を、遮断器50および接触器51と53
が閉じられてから接触器52と54が閉じられるまでの間に限っている。これは、接触器
52と54が閉じられた後は、制御部10からコンバータ30にゲート信号が出力される
が、その際、制御部10は電圧検出器92と93で検出した電圧値V
PとV
Nに基づき、分
圧コンデンサ71と72で均等に分圧されるようゲート信号を調整してしまい、接触器5
2と54が閉じられた後は、正しく電圧検出器92と93を検修できないことを考慮した
ためである。
【0024】
なお、電圧検出器52と54の検修を接触器52と54が閉じられるまでとするのでは
なく、制御部10がコンバータ30に対してゲート信号を出力するまでとしてもよい。
【0025】
また、上記説明では、電圧検出器92と93が故障していると判定された場合、制御部
10は、コンバータ30へのゲート指令の出力を行わないとしているが、ゲート指令の出
力は行い、運転台に設けられている警報ランプ等を用いて運転士に通知を行うとしてもよ
い。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、
図1と
図3を用いて車両用制御装置100で実行される電流検出器81の検修動
作について説明する。
【0027】
まず、第1の実施形態と同様、運転台に設けられた起動スイッチがオンになると、制御
部10は起動指令を受信する。制御部10は、起動指令を受信したことに応じて、分圧コ
ンデンサ71と72を充電するために、遮断器50および接触器51と53を閉じる(ス
テップS21)。この結果、架線13からパンタグラフ11が受けた交流電力は、変圧器
20で降圧された後にコンバータ30に供給される。そして、変圧器20からコンバータ
30に入力された交流電力は、直流電力に変換されて分圧コンデンサ71と72に供給さ
れる。
【0028】
制御部10は、遮断器50および接触器51と53を閉じると、電圧検出器92と93
から入力される電圧値V
PとV
Nが0より大きい値を示しているか判定する(ステップS2
2)。なお、上記では、制御部10は、電圧値V
PとV
Nが0より大きい値を示しているか
判定しているが、これに代え、予め定めた0より大きい値である閾値V
th2と比較し、こ
の閾値V
th2より大きいかで判定してもよい。
【0029】
制御部10は、電圧検出器92と93から入力される電圧値V
PとV
Nが0である場合は
(ステップS22のNO)、電流検出器81の検修を実行せず、電圧値V
PとV
Nが0より
大きくなるまで待機する。
【0030】
一方、制御部10は、電圧検出器92と93から入力される電圧値V
PとV
Nが0より大
きいと判定すると、電流検出器81から入力される電流値I
detと予め設定された閾値I
t
hとを比較する(ステップS23)。これは、分圧コンデンサ71と72への充電が開始
され、電圧検出器92と93で0より大きな電圧値が検出されている場合は、コンバータ
30の変圧器20側に交流電流が流れるはずであることを考慮したためである。なお、閾
値I
thは、電流検出器の検出誤差を考慮して設定することが好ましい。
【0031】
この比較の結果、電流値I
detが閾値I
thより大きいことが検出されないと(ステップ
S23のNO)、制御部10は、電流検出器81が故障していると判定する(ステップS
24)。なお、電流検出器81が正常であったとしても、ノイズ等の影響で検出される電
流値にばらつきが生じることが考えられることから、電圧差V
difが閾値V
th以下の状態
が瞬間的に検出されたとしても、電流検出器が故障していると判定するのではなく、電圧
値I
detが閾値I
th以下の状態が一定時間継続した場合に電流検出器が故障していると判
定するようにしてもよい。
【0032】
そして、制御部10は、電流検出器が故障していると判定すると、コンバータ30への
ゲート信号の出力を行わず、車両用制御装置100の起動を中止する(ステップS25)
。
【0033】
一方、電流値I
detが閾値I
thより大きい値を示している場合(ステップS26のYES
)、制御部10は電流検出器81が正常であると判定する(ステップS26)。
【0034】
以上に説明した制御部10が実行するステップS23〜ステップS26の処理は、分圧
コンデンサ71と72の充電が完了するまで続けられる。つまり、電圧検出器92と93
から得た電圧値V
PとV
Nが所定の値を示し充電が完了すると、変圧器20に交流電流が流
れなくなるためである。
【0035】
そこで、制御部10は、接触器52と54を閉じるための制御を行っていなければ(ス
テップS27のNO)、ステップS23〜ステップS26の処理を継続し、接触器52と
54を閉じるための制御を行うと(ステップS26のYES)、電流検出器81に対する
検修動作をいったん終了する(ステップS28)。
【0036】
このように、第2の実施形態では、車両用制御装置100を起動した後である通常の運
用の中で電流検出器81を検修することができるため、検修するための専用回路やテスト
モードを設ける必要がなくなり、また、通常の運用が行われているときでも、車両用制御
装置100の再起動が行われるごとに検修を行うことができるので、検修のために通常の
運用をいったん中止する必要もなくなる。
【0037】
なお、上記説明では、電流検出器81が故障していると判定された場合、制御部10は
、コンバータ30へのゲート指令の出力を行わないとしているが、ゲート指令の出力は行
い、運転台に設けられている警報ランプ等を用いて運転士に通知を行うとしてもよい。
【0038】
(第3の実施形態)
次に、
図1、
図4及び
図5を用いて車両用制御装置100で実行される電流検出器81
の検修動作について説明する。
【0039】
この第3の実施形態は、分圧コンデンサ71と72への充電が完了した後、制御部10
がコンバータ30とインバータ40それぞれに対してゲート信号を出力して電動機12を
駆動している状態のときに、制御部10によって実行される電流検出器81に対する検修
に関するものである。
【0040】
制御部10には、運転台に設置されているマスターコントローラによって選択された力
行ノッチ・制動ノッチの情報が通知されるため、制御部10はこの通知に基づき、力行ノ
ッチのうち最大ノッチが選択されているか確認する(ステップS31)。
【0041】
この確認で、力行最大ノッチが選択されていない場合(ステップS31のNO)、制御
部10は、電流検出器81の検修を行わない。
【0042】
一方、力行最大ノッチが選択されていることが確認できると(ステップS31のYES
)、制御部10は、電流検出器82で検出された電流値に基づいて演算した電動機12の
回転速度が定パワー領域に入っているか確認を行う(ステップS32)。
【0043】
ここで、定パワー領域について説明する。
図5は、力行最大ノッチのときにインバータ
40から出力される電流値I、電圧値Vと電動機12の回転速度との関係を纏めたもので
ある。電動機12の回転速度が上がるにつれ、電流値Iが減少し、電圧値Vは増加するが
、電動機12の回転速度がFR
1に達すると、それ以降は回転速度が大きくなっても電流
値Iと電圧値Vは一定の値を示すようになる。このように、電流値Iと電圧値Vが一定の
値を示す回転速度エリアが定パワー領域となる。
【0044】
電動機12の回転速度が定パワー領域にない場合(ステップS32のNO)、すなわち
、電動機12の回転速度がFR
1より小さいとき、制御部10は、電流検出器81に対す
る検修は行わず、ステップS31とステップS32の確認処理を継続する。
【0045】
一方、ステップS32で、制御部10が電動機12の回転速度が定パワー領域に入った
ことを確認すると(ステップS32のYES)、電流検出器81から入力された電流値I
detと予め設定された想定電流値I
preとの電流差I
difを計算し(ステップS33)、こ
の求めた電流差I
difが予め設定された閾値I
th2と比較する(ステップS34)。なお、
想定電流値I
preとは、架線13の定格架線電圧における定パワー領域の電流設定値(図
5の電動機12の回転速度がFR
1より大きいときの電流値I)から求められる定格2次
電流値と実際の架線13の電圧から演算される値である。
【0046】
ステップS34の比較の結果、電流差I
difが予め設定された閾値I
th2より小さい場合
(ステップS34のYES)、制御部10は、電流検出器81が正常であると判定する(
ステップS35)。
【0047】
一方、電流差I
difが予め設定された閾値I
th2以上であるときは(ステップS34のN
O)、制御部10は、電流検出器81が故障していると判定する(ステップS36)。
【0048】
このように、第3の実施形態では、車両用制御装置100を起動した後である通常の運
用の中で電流検出器81を検修することができるため、検修するための専用回路やテスト
モードを設ける必要がなくなる。
【0049】
また、第3の実施形態では、電流検出器81が故障していると判定された場合、制御部
10はコンバータ30とインバータ40を停止させるのではなく、例えば、運転台に設け
られている警報ランプ等を用いて運転士に通知を行う。
【0050】
(第4の実施形態)
次に、
図1と
図6を用いて車両用制御装置100で実行される電圧検出器91の検修動
作について説明する。
【0051】
第4の実施形態では、第1の実施形態または第2の実施形態で説明している分圧コンデ
ンサ71と72への充電が完了し、更に、接触器52と54が制御部10によって閉じら
れた後の処理に関するものであるため、接触器52と54が制御部10によって閉じられ
る以前の処理に関する説明は省略する。なお、第1の実施形態および第2の実施形態で実
施している電圧検出器92と93並びに電流検出器81の検修は、この実施の形態におい
ては必須のものではない。
【0052】
分圧コンデンサ71と72への充電が完了すると、制御部10は接触器52と54を閉
じるように制御することから、この制御が行ったかを確認する(ステップS41)。そし
て、接触器52と54を閉じると(ステップS41のYES)、制御部10は、変圧器2
0の3次コイルに接続された電圧検出器91で検出され、入力された電圧値V
detのピー
ク値V
P-detを求め、更に、制御部10は、電圧検出器92と93で検出され、入力され
た電圧値V
PとV
Nとを加算してコンバータ30とインバータ40との間の直流回路の電圧
値V
dcを求める(ステップS42)。
【0053】
制御部10は、求めたピーク値V
P-detと直流回路の電圧値V
dcとを用い、この2つの
値の差分値V´
difを演算する(ステップS43)。
【0054】
差分値V´
difが演算されると、制御部10は、予め設定された閾値V
th3と差分値V´
difとを比較する(ステップS44)。この結果、差分値V´
difが閾値V
th3より小さい
場合(ステップS44のYES)、制御部10は、電圧検出器91が正常であると判定す
る(ステップS45)。このように電圧検出器91が正常であると判定されると、制御部
10は、コンバータ30のゲートスタート、すなわち、コンバータ30に対してゲート信
号を出力するタイミングになったか判定し(ステップS46)、まだゲート信号を出力す
るタイミングになっていない場合は(ステップS46のNO)、ステップS42に戻って
電圧検出器91の検修を継続する。
【0055】
一方、差分値V´
difが閾値V
th3以上である場合(ステップS44のNO)、制御部1
0は、電圧検出器91が故障していると判定し(ステップS47)、コンバータ30への
ゲート信号の出力を行わず、車両用制御装置100の起動を中止する(ステップS48)
。
【0056】
このように、第4の実施形態では、車両用制御装置100を起動した後である通常の運
用の中で電圧検出器91を検修することができるため、検修するための専用回路やテスト
モードを設ける必要がなくなり、また、通常の運用が行われているときでも、車両用制御
装置100の再起動が行われるごとに検修を行うことができるので、検修のために通常の
運用をいったん中止する必要もなくなる。
【0057】
なお、上記説明では、電圧検出器91が故障していると判定された場合、制御部10は
、コンバータ30へのゲート指令の出力を行わないとしているが、ゲート指令の出力は行
い、運転台に設けられている警報ランプ等を用いて運転士に通知を行うとしてもよい。