(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される構成では、チェーンガイドがスプロケットカバーに覆われた状態で、スプロケットカバーのケースへの組立とともにチェーンガイドが配置されるため、チェーンのスプロケットに噛み合う部位とチェーンガイドとの間のクリアランスを視認しながら、チェーンガイドを配置することが困難であった。なお、変速機から駆動輪へ動力を伝達するための無端ループ状の伝動部材として、チェーンに代えてベルトが用いられる場合もある。
【0005】
そこで本発明は、スプロケットカバーの組立時、あるいはスプロケット及びそれに巻き掛けられる伝動部材のメンテナンス時といった作業時において、作業の精度及び効率を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る鞍乗型車両は、原動機ケースと、前記原動機ケースから車幅方向に突出する出力軸の一端部に回転自在に固定されたスプロケットと、前記スプロケットの歯部と噛み合い、前記スプロケットに連動して回転して車輪を駆動する無端ループ状の伝動部材と、前記伝動部材の前記スプロケットに噛み合う部位に径方向外方から対向し、前記原動機ケースの側壁部に固定されたガイド部材と、前記ガイド部材に着脱可能に取り付けられ、前記スプロケットを前記車幅方向の外方から覆うスプロケットカバーと、を備える。
【0007】
前記構成によれば、スプロケットカバーが取り付けられていない状態で、伝動部材のスプロケットに噛み合う部位とガイド部材との間のクリアランスを視認しながら、ガイド部材を原動機ケースに固定することができる。また、ガイド部材を原動機ケースから取り外すことなく、スプロケットカバーをガイド部材から取り外すことで、スプロケットにアクセスできるため、ガイド部材との位置関係を視認しながら、スプロケットをメンテナンスすることもできる。したがって、スプロケットカバーの組立時、あるいは伝動部材又はスプロケットのメンテナンス時といった作業時において、作業の精度及び効率を向上することができる。
【0008】
前記形態において、前記ガイド部材は、前記側壁部に固定されるケース固定部と、前記ケース固定部とは異なる部位で前記スプロケットカバーを固定するカバー固定部とを有し、前記カバー固定部は、前記側壁部から前記車幅方向に離間していてもよい。
【0009】
前記構成によれば、ガイド部材のカバー固定部は、ケース固定部と異なる位置で原動機ケースの側壁部から車幅方向に離間しているので、スプロケットカバーは、カバー固定部に固定されて、原動機ケースには直接固定されない。これにより、スプロケットカバーを原動機ケースに固定するためのボス部等をスプロケットカバー又は原動機ケースに確保する必要がなく、スプロケットカバー又は原動機ケースの車幅方向における寸法の大型化を防ぐことができる。
【0010】
前記形態において、前記ガイド部材は、前記スプロケットの中心軸を中心とする円弧形状であり、前記カバー固定部は、前記ガイド部材の周方向両端部にそれぞれ形成されていてもよい。
【0011】
前記構成によれば、円弧形状のガイド部材の周方向両端部において、カバー固定部がそれぞれ形成されることによって、ガイド部材に取り付けられるスプロケットカバーがそれぞれのカバー固定部に対応する位置で両端固定されるので、スプロケットカバーがガイド部材の一方の端部のみに形成されたカバー固定部で固定される場合と比べて、スプロケットカバーをガイド部材に対して安定に取付けることができる。
【0012】
前記形態において、前記ケース固定部及び前記カバー固定部は、それぞれ前記ガイド部材に複数形成されており、前記複数のカバー固定部の少なくとも1つは、前記少なくとも1つに最も近い前記ケース固定部よりも前記スプロケットの歯部から径方向外側に離れていてもよい。
【0013】
原動機ケースは、スプロケットと噛み合う伝動部材との干渉を防ぐ目的から、一部領域では車幅方向の幅を狭くしており、スプロケットカバーを固定する締結部材が挿通されるための肉厚を確保したボス部を設けにくい。前記構成によれば、ガイド部材のカバー固定部が、ケース固定部よりもスプロケットの歯部から径方向外側に離れていることにより、伝動部材と干渉しない位置でスプロケットカバーを固定することができる。
【0014】
前記形態において、前記スプロケットカバーを前記カバー固定部に着脱可能に固定するリベット部材を更に備えていてもよい。
【0015】
前記構成によれば、リベット部材を用いてスプロケットカバーをカバー固定部に固定することにより、ネジやボルト等の締結部材を用いる場合と比べて、部品の小型化と軽量化を図ることができる。更に、リベット部材を用いることにより、挟込力が過剰となることを防ぐことができ、スプロケットカバーの固定作業が容易になる。
【0016】
前記形態において、前記スプロケットカバーを前記ガイド部材とは異なる部材に固定するネジ締結部材を更に備え、前記スプロケットカバーは、前記ネジ締結部材が挿通されるネジ挿通部を更に有していてもよい。
【0017】
前記構成によれば、スプロケットカバーは、リベット部材によりガイド部材に固定される部分に加えて、ガイド部材と異なる部材にネジ締結部材により固定するネジ挿通部も有することにより、リベット部材を用いることによる部品の軽量化を実現しつつ、ネジ締結部材によって、スプロケットカバーの固定をより安定にすることができる。
【0018】
前記形態において、前記スプロケットカバーは、その上部にガイド部材よりも前記側壁部に向かって延びる延長部を有していてもよい。
【0019】
前記構成によれば、スプロケットカバーの上部と原動機ケースの側壁部との間の隙間が延長部によって覆われるので、スプロケットを駆動する伝動部材からスプロケットカバーの上方に伝動部材を潤滑するオイルが飛び散っても、スプロケットカバーの上部と原動機ケースの側壁部との間の隙間から外部に飛散することを防止できる。
【0020】
前記形態において、前記原動機ケースから前記車幅方向に突出する入力軸の内部を通るプッシュロッドと、前記プッシュロッドを押圧するピストンに油圧を伝達する流路を形成する油圧シリンダと、前記油圧シリンダを支持し前記原動機ケースに固定される金属製のホルダと、を更に備え、前記スプロケットカバーは、樹脂製であり、前記ホルダに重なるように配置されていてもよい。
【0021】
前記構成によれば、ピストンによってプッシュロッドを押圧するための油圧の流路を形成する油圧シリンダを支持するホルダが耐圧のためにダイキャストでスプロケットカバーと一体で製造されている場合と比較して、スプロケットカバーが金属製のホルダとは異なる樹脂材料によって成型され、別体でホルダに重なるように配置されているので、スプロケットカバーを軽量化でき、さらに製造コストも安くすることができる。また、例えば、ホルダを原動機ケースに固定したままスプロケットカバーを取り外すことができる構成として、メンテナンス作業性を向上させることも可能となる。
【0022】
前記形態において、前記スプロケットカバーは、その前部に切欠部を有し、前記ホルダは、前記スプロケットカバーの前記切欠部を閉鎖するように配置されてもよい。
【0023】
前記構成によれば、ホルダもスプロケットをカバーする役目を果たすため、ホルダ及びスプロケットカバーを効率良くレイアウトすることができる。
【0024】
前記形態において、前記伝動部材の回転軌跡は、上下一対の直線部と、前記一対の直線部の前後に連続する前後一対の半円部とを有する長円形状であり、前記切欠部は、前記一対の直線部のうち前記伝動部材が前方に向けて進む直線部の前方への仮想延長線と交差する領域に配置され、前記ホルダの側面視で前記仮想延長線と重なる位置の周縁部は、前記スプロケットカバーの前記切欠部の周縁部に外方から重ねられていてもよい。
【0025】
前記構成によれば、伝動部材の進行方向の下流側にあるホルダの周縁部が、伝動部材の進行方向の上流側にあるスプロケットカバーの切欠部の周縁部に対して外方から重ねられているため、伝動部材の回転軌跡の直線部から半円部に移行する領域において、伝動部材を潤滑するオイルが遠心力により前記仮想延長線に沿って飛び散っても、ホルダとスプロケットカバーとの間の隙間から外部にオイルが漏れることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、スプロケットカバーの組立時、あるいはスプロケット及びそれに巻き掛けられる伝動部材のメンテナンス時といった作業時において、作業の精度及び効率を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。なお、同一の又は対応する要素には全ての図を通じて同一の符号を付して重複する詳細説明を省略する。以下の説明における方向の概念は、鞍乗型車両に騎乗した運転者が見る方向を基準としている。なお、車幅方向は左右方向に相当する。
【0029】
[自動二輪車の構成]
図1は、実施形態に係る鞍乗型車両の一例である自動二輪車1の左側面図である。
図2は、
図1のスプロケットカバー31周辺の拡大図である。
図3は、
図1の油圧シリンダ21、ホルダ23及びスプロケットカバー31を取り外した図である。
図4は、
図2のIV−IV線断面図である。
図5は、
図1のホルダ23、ガイド部材28及びスプロケットカバー31の原動機ケース11への取付けを説明する分解斜視図である。以下では、主に
図1を参照しながら、適宜
図2〜5を参照して説明する。
【0030】
図1に示すように、自動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3と、前輪2と後輪3との間に配置される車体フレーム4とを備える。前輪2は、略上下方向に延びるフロントフォーク5の下端部にて回転可能に支持される。フロントフォーク5の上端部には左右へ延びるハンドル6がステアリングシャフト7を介して取り付けられている。後輪3は、スイングアーム8を介して車体フレーム4に支持されている。スイングアーム8は、その前端部において車体フレーム4に揺動可能に支持され、その後端部において後輪3の車軸3aを回転可能に支持する。
【0031】
[原動機]
自動二輪車1には、駆動輪を回転駆動する動力源の一例としてエンジン(原動機)9が前輪2と後輪3との間に搭載されている。エンジン9は、ピストンを往復可能に収容したシリンダブロック10と、シリンダブロック10の下端部に接続されるクランクケース11(原動機ケース)とを備えている。クランクケース11は、車幅方向に延びるクランクシャフト12を回転可能に支持する。クランクシャフト12にはコンロッドを介してピストンが接続され、ピストンはシリンダブロック10の内部で往復運動する。クランクシャフト12は、ピストンの往復運動を回転運動に変える。クランクシャフト12の回転は、後述する変速機15や伝動部材26等を経由して、後輪3に伝達される。
【0032】
本実施形態では、自動二輪車1は、エンジン9の一例として並列多気筒エンジンを搭載している。並列多気筒エンジンを搭載した自動二輪車1においては、シリンダが車幅方向に複数並ぶ。クランクケース11は、クランクシャフト12を中心にクランクケース11の合わせ面11aで上下に分割される上下割りで構成されており(
図3参照)、合わせ面11aにおいてボルトにより一体に固定されている。クランクケース11が上下に分割されることから、
図3に示すように、合わせ面11aはクランクケース11の側壁部11bに形成される。クランクケース11は、例えば金型に溶融した金属(アルミ合金等)を圧入して鋳造するダイキャストにより製造される。なお、本実施形態におけるクランクケース11は、クランクシャフト12を回転可能に支持するケースと、後述する変速機15を収容するケースとが一体で製造されたものである。
【0033】
エンジン9には、その動力を変速して後輪3に伝達するための変速機15が接続されている。変速機15は、クランクケース11に収容されている。変速機15は、クランクシャフト12の回転が伝達される入力軸16と、入力軸16の回転が変速ギアを介して伝達される出力軸17とを有する。入力軸16及び出力軸17の一端部(例えば、左端部)は、クランクケース11から車幅方向に突出する。出力軸17の一端部には、スプロケット18が固定されている。これにより、クランクシャフト12の回転は変速機15によって変速され、スプロケット18に出力される。以下の説明では、出力軸17の一端部に固定されたスプロケット18を駆動スプロケット18と呼ぶ。駆動スプロケット18の外周には、複数の歯部18aが形成されている(
図3参照)。
【0034】
[クラッチ]
ところで、自動二輪車1の車体の右側でクランクケース11の内部にはクラッチ(図示せず)が配置されている。クラッチは、クランクシャフト12の回転を変速機15に接続あるいは切断する。自動二輪車では、一般的に多板式のクラッチがクランクケース11に収容されている。多板式のクラッチは、重なり合う複数のクラッチプレート(クラッチプレート及びフリクションプレート)で動力を伝える。具体的に、クラッチには、クラッチスプリングが備えられており、平常時、クラッチは、そのスプリングの力によりクランクシャフト12に結合されたクラッチプレートを、変速機15の入力軸16に結合されたプレッシャープレートに押圧している。これにより、クラッチは、クランクシャフト12の回転を変速機15に接続している。クラッチを切断するためには、クラッチスプリングにより押圧している方向とは逆方向にプレッシャープレートを押す必要がある。
【0035】
本実施形態の自動二輪車1は、油圧によりクラッチを切断する機構を有する。ハンドル6の左端には、運転者の左手により把持されるグリップの前方にクラッチレバー(図示せず)が設けられている。クラッチレバーには油圧力を発生するマスターシリンダが設けられている。運転者がクラッチレバーを握ると、マスターシリンダから発生する油圧が油圧ホースを経て、油圧シリンダ21に送られる。油圧シリンダ21は、複数の第1ネジ締結部材22によりホルダ23に固定されている(
図2参照)。ホルダ23は、クランクケース11に固定されている。
【0036】
油圧シリンダ21の内部には、ピストン24が配置されている。油圧シリンダ21には、ピストン24に油圧を伝達する流路が形成されている。ホルダ23は耐圧のため、ダイキャストにより製造される金属製の部材である。
【0037】
ピストン24は、
図5に示す入力軸16の内部を通るプッシュロッド25の他端に連結される。油圧シリンダ21に送られた油圧により、ピストン24が作動し、プッシュロッド25を右側に押圧することによって、クラッチの接続が解除される。これにより、変速機15に伝達するクランクシャフト12の回転が切断される。なお、クラッチは多板式のクラッチではなく、単板式のクラッチであってもよい。
【0038】
クランクケース11の入力軸16の内部及び油圧シリンダ21の内部を通るプッシュロッド25は、前後方向においてチェーン26と対向している(
図5参照)。また、プッシュロッド25の外周は、筒状のスリーブ体40により覆われる。スリーブ体40は、プッシュロッド25と同軸上で、かつ、車幅方向において、クランクケース11と油圧シリンダ21との間に配置される。また、スリーブ体40は、車幅方向両端部にフランジ40a,40bを有する。
【0039】
クランクケース11には、スリーブ体40のフランジ40aと嵌合する嵌合部11dが形成され、油圧シリンダ21には、フランジ40bと嵌合する嵌合部21aが形成されている。本実施形態では、クランクケース11の嵌合部11dとして、クランクケース11の側壁部11bに車幅方向内側に凹む凹部が形成されており、油圧シリンダ21の嵌合部21aとして、油圧シリンダ21の車幅方向内側の側面に、車幅方向内側に向けて突出する凸部が形成されている。
【0040】
プッシュロッド25の外周がスリーブ体40により覆われ、クランクケース11の嵌合部11d及び油圧シリンダ21の嵌合部21aにスリーブ体40のフランジ40a,40bが嵌合されることにより、プッシュロッド25と前後方向に対向するチェーン26に付着した埃や水滴等の異物が遠心力により飛散しても、プッシュロッド25の外周、プッシュロッド25と入力軸16との隙間及びプッシュロッド25と油圧シリンダ21との隙間がスリーブ体40により覆われているので、クランクケース11の内部及び油圧シリンダ21の内部に異物が侵入することを防ぐ。
【0041】
[伝動部材]
次に、変速機15から出力された回転の後輪3への伝達について説明する。駆動スプロケット18には、無端ループ状の伝動部材26が噛み合っている。本実施形態において、伝動部材26は、チェーンである。チェーン26は、駆動スプロケット18の歯部18aに噛み合っている(
図3参照)。チェーン26は、駆動スプロケット18に連動して回転する。後輪3の車軸3aには従動スプロケット27が取り付けられている。変速機15から出力された回転である駆動スプロケット18の回転は、チェーン26及び従動スプロケット27を介して、後輪3に伝達される。このように、チェーン26は駆動スプロケット18及び従動スプロケット27の間に巻き掛けられている。
【0042】
図1に示すように、チェーン26の回転軌跡200は、上下一対の直線部200a,200bと、一対の直線部の前後に連続する前後一対の半円部200cとを有する長円形状である。なお、チェーン26には摩耗等を防止するために潤滑用のオイルが注油されている。
【0043】
[ガイド部材]
チェーン26は、使用過程において伸びが発生し得る。また、駆動スプロケット18の歯部18aも摩耗するおそれがある。このようにチェーン26あるいは駆動スプロケット18の歯部18aが摩耗すると、チェーン26が駆動スプロケット18の歯部18aと正しく噛み合わず、チェーン26が駆動スプロケット18の歯部18aを乗り越えて、駆動スプロケット18から外れる現象が発生し得る。この現象を防止するために、ガイド部材28がチェーン26の駆動スプロケット18に噛み合う部位に径方向外方から対向して配置される(
図3参照)。以下の説明では、ガイド部材28をチェーンガイドと呼ぶ。チェーンガイド28は、駆動スプロケット18の中心軸を中心とする略円弧形状である。本実施形態では、チェーンガイド28は、金属製の部材である。
【0044】
図3に示すように、チェーンガイド28は、側壁部11bに固定される複数のケース固定部28a,28b,28cと、ケース固定部28a,28b,28cとは異なる部位で後述するスプロケットカバー31が固定される複数のカバー固定部28d,28eとを有する。ケース固定部には、チェーンガイド28の上部に位置する第1ケース固定部28aと、チェーンガイド28の前部に位置する第2ケース固定部28bと、チェーンガイド28の下部に位置する第3ケース固定部28cとが含まれる。
【0045】
チェーンガイド28を側壁部11bに固定するために、第1ケース固定部28a及び第2ケース固定部28bには第2ネジ締結部材29(
図2参照)が挿通され、第3ケース固定部28cには第3ネジ締結部材30が挿通される。例えば、第3ケース固定部28cに挿通された第3ネジ締結部材30は、側壁部11bから車幅方向外側に突出するボス部11cに挿通される(
図4参照)。ボス部11cの内周には第3ネジ締結部材30が螺合するためのネジ溝が設けられている。第1ケース固定部28a及び第2ケース固定部28bに挿通された第2ネジ締結部材29も同様に、側壁部11bのボス部に挿通されている。
【0046】
カバー固定部には、チェーンガイド28の周方向両端部28f,28gにそれぞれ1つ形成される第1カバー固定部28dと第2カバー固定部28eとが含まれる。第1カバー固定部28d及び第2カバー固定部28eは、クランクケース11の側壁部11bから車幅方向に離間している(
図4参照)。第1カバー固定部28dは、第1ケース固定部28aよりも駆動スプロケット18の歯部18aから径方向外側に離れている。また、第1カバー固定部28dは、第1ケース固定部28aよりも後方に配置されている。更に、第1カバー固定部28dが形成されたチェーンガイド28の周方向の一端部28fは、車幅方向から見てクランクケース11の合わせ面11aと重なる位置に配置されている。
【0047】
[スプロケットカバー]
チェーンガイド28には、駆動スプロケット18を車幅方向の外方から覆うスプロケットカバー31が着脱可能に取り付けられる。スプロケットカバー31は、樹脂材料により成型される。スプロケットカバー31の樹脂材料は、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastic:ガラス繊維強化樹脂)等の繊維強化樹脂であってもよい。スプロケットカバー31は、リベット部材32によって、クランクケース11に固定されたチェーンガイド28の第1カバー固定部28d及び第2カバー固定部28eに取付けられる。このように、スプロケットカバー31は、車体組立の際に、チェーンガイド28とは別体で取り付けられる。
【0048】
また、スプロケットカバー31は、第4ネジ締結部材34によって、ホルダ23に固定される。なお、車幅方向において、スプロケットカバー31における第4ネジ締結部材34が挿通される部分(ネジ挿通部31d)とホルダ23との間には、カラー35が配置されている(
図5参照)。カラー35には、第4ネジ締結部材34が挿通される。
【0049】
図2及び
図5に示すように、スプロケットカバー31は、駆動スプロケット18を覆う本体部31aと、リベット部材32が挿通されるリベット固定部31b,31cと、第4ネジ締結部材34が挿通されるネジ挿通部31dと、延長部31eと、切欠部31fとを有する。スプロケットカバー31の延長部31e以外の部分(本体部31a、リベット固定部31b,31c、ネジ挿通部31d、切欠部31f)は、チェーンガイド28よりも車幅方向外側に配置される。
【0050】
リベット固定部31bは、第1カバー固定部28dに対応する位置に設けられ、リベット固定部31cは、第2カバー固定部28eに対応する位置に設けられる。本実施形態では、リベット部材32は樹脂製のプッシュリベットである。
図4に示すように、リベット部材32の車幅方向の内方の先端部は、クランクケース11の側壁部11bから車幅方向に離間している。なお、プッシュリベットを用いて、スプロケットカバー31をチェーンガイド28に取り付ける以外に、例えば、チェーンガイド28のカバー固定部28d,28eにウェルディングナット、ゴムナット、ポップナット等のナット部材を取り付けておき、当該ナット部材にボルトをねじ込むことによって、スプロケットカバー31をチェーンガイド28に取り付けてもよい。
【0051】
延長部31eは、スプロケットカバー31の上部、すなわち、本体部31aの上部に位置するリベット固定部31bから、チェーンガイド28よりも側壁部11bに向かって延びている。延長部31eには、延長部31eに対向するように側壁部11bに向かって延びるガイド部31gが設けられている。延長部31eとガイド部31gとの間には、線状部材19が配線されている。ガイド部31gは、チェーン26と接触しないように線状部材19を保持することにより、線状部材19をガイドしている。
【0052】
線状部材19は、センサケーブル及び油圧チューブの少なくとも1つである。センサケーブルは、例えば、変速機15の変速位置を検出するギヤポジションセンサのケーブル、サイドスタンドの位置を検出するサイドスタンドセンサのケーブル、運転者の操作によって変速位置がシフトチェンジされた際にシフト操作子に加わる荷重を検出するロードセル(荷重センサ)等のセンサのケーブル、及び、後輪回転数を検出する速度センサのケーブルの少なくとも1つである。油圧チューブは、例えば、後輪ブレーキにブレーキ動力としての圧油を導く油圧チューブである。
【0053】
切欠部31fは、スプロケットカバー31の前部、すなわち、本体部31aの前部に、駆動スプロケット18側の端部が駆動スプロケット18から離れる向きに切り欠かれてなる。切欠部31fは、チェーン26の回転軌跡200のチェーン26が前方に向けて進む直線部200aの前方への仮想延長線VLと交差する領域に配置される。
【0054】
また、本体部31aには、駆動スプロケット18の歯部18aのうちチェーン26の回転軌跡200とは異なる位置の歯部18aを車幅方向の外方から視認可能な位置に開口部31hが形成されている。
【0055】
[ホルダ、チェーンガイド及びスプロケットカバーの固定]
図5に示すように、ホルダ23、チェーンガイド28及びスプロケットカバー31はクランクケース11の側壁部11bの外方から固定される。まず、チェーンガイド28が、駆動スプロケット18と噛み合うチェーン26の部位に対して、クリアランスを視認しながら位置決めされた後、チェーンガイド28の第3ケース固定部28cが第3ネジ締結部材30により側壁部11bに固定される。その後、第1ネジ締結部材22により油圧シリンダ21が固定されたホルダ23が、第2ネジ締結部材29によって側壁部11bに固定される。その際、第2ネジ締結部材29はチェーンガイド28の第1ケース固定部28a及び第2ケース固定部28bにも挿通される。即ち、第2ネジ締結部材29はホルダ23及びチェーンガイド28を共締めする。
【0056】
ホルダ23及びチェーンガイド28が側壁部11bに固定された後、スプロケットカバー31がリベット部材32によって、チェーンガイド28に取り付けられる。リベット部材32は、第1カバー固定部28d及び第2カバー固定部28eに挿通される。また、スプロケットカバー31は、第4ネジ締結部材34によりチェーンガイド28とは異なる部材であるホルダ23にも固定されている。
図2に示すように、ホルダ23は、スプロケットカバー31の切欠部31fを閉鎖するように配置されている。なお、スプロケットカバー31をクランクケース11から取り外す際は、ホルダ23及びチェーンガイド28がクランクケース11に取り付けられた状態で、リベット部材32及び第4ネジ締結部材34を外すことで、スプロケットカバー31をチェーンガイド28から取り外す。
【0057】
図6は、ホルダ23及びスプロケットカバー31の配置関係を示す概略断面図である。
図2及び
図6に示すように、ホルダ23の側面視で仮想延長線VLと重なる位置の周縁部23a(以下、ホルダ23の周縁部23aと呼ぶ)は、スプロケットカバー31の切欠部31fの周縁部31i(以下、スプロケットカバー31の周縁部31iと呼ぶ)に外方から重ねられている。
図6では、ホルダ23の周縁部23aは、スプロケットカバー31の周縁部31iと隙間を設けて配置されているが、隙間はなくてもよい。
【0058】
上述したように、チェーン26の回転軌跡200は長円形状である。チェーン26に注油された潤滑用のオイルもチェーン26の回転に連動して、同じ回転軌跡で運動する。ここで、チェーン26が回転軌跡200の直線部200aから半円部200cに移行する領域においては、運動方向が変更されるため、半円部200cに移行する前まで直線部200aを運動してきたオイルは遠心力により仮想延長線VLに沿って飛び散るおそれがある。しかし、
図6に示すように、ホルダ23の周縁部23aがスプロケットカバー31の周縁部31iに外方から重なるように配置されたとき、ホルダ23とスプロケットカバー31との間の隙間から外部へとつながる経路は、オイルが仮想延長線VLに沿って飛び散る方向とは逆向きの方向に形成されている。これにより、仮想延長線VLに沿って飛び散るオイルが外部に漏れることを抑制する。
【0059】
[効果]
以上のように構成された鞍乗型車両の一例である自動二輪車1は、以下の効果を奏する。
【0060】
スプロケットカバー31は、車体組立の際に、チェーンガイド28と別体で固定される。これにより、チェーンガイド28をクランクケース11に固定してから、チェーンガイド28にスプロケットカバー31を着脱可能に取り付けることができる。
【0061】
スプロケットカバー31が、上述の通り、クランクケース11に固定されたチェーンガイド28に着脱可能に取り付けられることにより、スプロケットカバー31が取り付けられていない状態で、チェーン26の駆動スプロケット18に噛み合う部位とチェーンガイド28との間のクリアランスを視認しながら、チェーンガイド28をクランクケース11に固定することができる。
【0062】
また、チェーンガイド28をクランクケース11から取り外すことなく、スプロケットカバー31をチェーンガイド28から取り外すことで、駆動スプロケット18にアクセスできるため、チェーンガイド28との位置関係を視認しながら、駆動スプロケット18をメンテナンスすることもできる。したがって、スプロケットカバー31の組立時、あるいは駆動スプロケット18又はチェーン26のメンテナンス時といった作業時において、作業の精度及び効率を向上することができる。
【0063】
更に、チェーンガイド28をスプロケットカバー31とは別体でクランクケース11に固定してから、チェーンガイド28にスプロケットカバー31を取り付けることにより、チェーンガイド28をスプロケットカバー31に固定した状態で、スプロケットカバー31をクランクケース11に取り付ける構成と比較して、各部品の寸法公差が大きくても、チェーンガイド28を高精度に位置決めしてから車両組立を行うことができる。
【0064】
チェーンガイド28のカバー固定部28d,28eは、ケース固定部28a,28b,28cと異なる位置でクランクケース11の側壁部11bから車幅方向に離間しており、スプロケットカバー31はカバー固定部28d,28eに固定されて、クランクケース11には固定されない。これにより、スプロケットカバー31をクランクケース11に固定するためのボス部をスプロケットカバー31又はクランクケース11に設ける必要がなく、スプロケットカバー31又はクランクケース11の車幅方向における寸法の大型化を防ぐことができる。また、クランクケース11にボス部を設ける必要がないことにより、鋳造(ダイキャスト)によって製造されているクランクケース11において、鋳造時に溶湯(金型に注いだ溶融した金属)の流動性が低下することを抑制できる。
【0065】
更に、チェーンガイド28のカバー固定部28d,28eが側壁部11bから車幅方向に離間していることにより、クランクケース11にスプロケットカバー31を固定するためのボス部を設ける必要がないため、スプロケットカバー31の形状が設計変更されて、チェーンガイド28への取り付け位置が変更になった場合においても、クランクケース11の形状は共通のままで、チェーンガイド28のカバー固定部28d,28eを形成する位置を変更するだけでよい。したがって、スプロケットカバー31の取り付け位置が変更するごとに、クランクケース11を設計変更して製造する必要がないため、コストを低減することができる。
【0066】
略円弧形状のチェーンガイド28の周方向両端部28f,28gに、第1カバー固定部28dあるいは第2カバー固定部28eがそれぞれ形成されることにより、スプロケットカバー31が、第1カバー固定部28d及び第2カバー固定部28eのそれぞれに対応する位置で両端固定されるので、スプロケットカバー31が、一方のカバー固定部のみに固定される場合と比べて、スプロケットカバー31をチェーンガイド28に対して安定に取り付けることができる。
【0067】
クランクケース11は、チェーン26との干渉を防ぐため、チェーン26と車幅方向に対向するクランクケース11の一部領域(特に後部)において車幅方向の幅を狭くしている。そのため、クランクケース11の後部においては、締結部材が挿通されるための肉厚を確保するように車幅方向外側に突出するボス部を設けにくい。チェーンガイド28の第1カバー固定部28dは、第1ケース固定部28aよりも駆動スプロケット18の歯部18aから径方向外側に離れている。これにより、第1カバー固定部28dは、駆動スプロケット18の歯部18aと噛み合うチェーン26から径方向に離れており、チェーン26と干渉しない位置でスプロケットカバー31を固定することができる。
【0068】
また、第1カバー固定部28dは第1ケース固定部28aよりも後方に配置されており、即ち、クランクケース11の後部に対応する位置に配置されるので、チェーン26と干渉するおそれがあるクランクケース11の後部にスプロケットカバー31を固定するためのボス部を設けることなく、スプロケットカバー31をチェーンガイド28に取り付けることができる。
【0069】
また、クランクケース11は上下割りで構成されているため、合わせ面11aが側壁部11bに形成される。合わせ面11aにネジ溝を有するボス部を設けると、上下に分割されたクランクケース11において、ボス部も上下に分割されるため、クランクケース11を合わせ面11aで固定する際に、ネジ溝も精度よく整合しなければならず、作業性が悪化する。本実施形態では、チェーンガイド28の第1カバー固定部28dが形成されるチェーンガイド28の周方向の一端部28fが、車幅方向から見て合わせ面11aに重なるような位置に設けられていることにより、合わせ面11aにボス部を設ける必要がないため、スプロケットカバー31の固定位置を効率よくレイアウトすることができ、作業性も向上することができる。
【0070】
また、スプロケットカバー31は、その上部に位置するリベット固定部31bから、チェーンガイド28よりも側壁部11bに向かって延びる延長部31eを有することにより、延長部31eがスプロケットカバー31の上部と側壁部11bとの間の隙間を覆っているので、チェーン26を潤滑するオイルがスプロケットカバー31の上方に飛び散っても、外部に漏れることを防ぐことができる。また、スプロケットカバー31の延長部31e以外の部分(本体部31a、リベット固定部31b,31c、ネジ挿通部31d)は、チェーンガイド28よりも車幅方向外側に位置している。これにより、オイルの外部への飛散を効果的に防止しつつ、延長部31e以外の部分の車幅方向の寸法が大型化することを抑制できる。
【0071】
また、スプロケットカバー31の本体部31aに開口部31hが形成されることにより、スプロケットカバー31を軽量化しつつ、駆動スプロケット18の歯部18aの形状をスプロケットカバー31の外側から確認することができる(
図2参照)。更に、開口部31hのような開口を設けていないスプロケットカバーでは、自動二輪車の走行時にスプロケットカバーの内側に配置されている駆動スプロケット及びチェーンが高速回転することにより発生する振動音が外部に開放されないため、スプロケットカバーの内部において、こもり音が発生する。しかし、スプロケットカバー31に開口部31hを設けることによって、振動音が外部に開放されるため、こもり音の発生を防止することができる。
【0072】
また、リベット部材32を用いてスプロケットカバー31をカバー固定部28d,28eに固定することにより、ネジやボルト等の締結部材を用いる場合と比べて、部品の小型化と軽量化を実現することができる。更に、リベット部材32を用いて、スプロケットカバー31をカバー固定部28d,28eに固定することによって、挟込力が過剰となることを防ぐことができ、スプロケットカバー31の固定作業が容易になる。なお、本実施形態では、リベット部材32を樹脂製のプッシュリベットとしたため、スプロケットカバー31の固定作業がより容易になると共に部品の軽量化を図ることができる。
【0073】
また、スプロケットカバー31は、リベット部材32によりチェーンガイド28に固定される部分に加えて、ホルダ23に第4ネジ締結部材34により固定されることにより、リベット部材32を用いることによる部品の軽量化を実現しつつ、第4ネジ締結部材34によってホルダ23に固定されることで、スプロケットカバー31をより安定に固定することができる。
【0074】
クランクケース11の入力軸16の内部及び油圧シリンダ21の内部を通るプッシュロッド25は、チェーン26と前後方向において対向している。また、プッシュロッド25と同軸上で、かつ、車幅方向において、クランクケース11と油圧シリンダ21との間には、筒状のスリーブ体40が配置されている。スリーブ体40は、プッシュロッド25の外周を覆っており、スリーブ体40の車幅方向両端部に形成されたフランジ40a,40bが、クランクケース11の嵌合部11d及び油圧シリンダ21の嵌合部21aに嵌合している。これにより、チェーン26に付着した埃や水滴等の異物が遠心力により飛散しても、プッシュロッド25の外周、プッシュロッド25と入力軸16との隙間及びプッシュロッド25と油圧シリンダ21との隙間がスリーブ体40により覆われているので、クランクケース11の内部及び油圧シリンダ21の内部に異物が侵入することを防ぐことができる。
【0075】
また、スプロケットカバー31が金属製のホルダ23とは異なる樹脂材料によって成型されていることにより、ホルダがスプロケットカバーと一体で耐圧のためにダイキャストで製造されている場合と比較して、スプロケットカバー31がホルダ23とは別体でホルダ23に重なるように配置されているので、スプロケットカバー31を軽量化でき、さらに製造コストも安くすることができる。また、例えば、ホルダ23をクランクケース11に固定したままスプロケットカバー31を取り外すことができる構成として、メンテナンス作業性を向上させることも可能となる。
【0076】
また、ホルダ23は、スプロケットカバー31の切欠部31fを閉鎖するように配置されていることにより、ホルダ23も駆動スプロケット18をカバーする役割を果たすため、ホルダ23及びスプロケットカバー31を効率よくレイアウトすることができる。
【0077】
また、チェーン26の進行方向の下流側にあるホルダ23の周縁部23aが、チェーン26の進行方向の上流側にあるスプロケットカバー31の切欠部31fの周縁部31iに対して外方から重ねられているため、チェーン26の回転軌跡の直線部から半円部に移行する領域において、チェーン26を潤滑するオイルが遠心力により仮想延長線VLに沿って飛び散っても、ホルダ23とスプロケットカバー31との間の隙間から外部にオイルが漏れることを防ぐことができる。
【0078】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加又は削除することができる。前述の実施形態では、原動機としてエンジン9を備えた自動二輪車について説明したが、原動機はエンジンに限らず電気モータであってもよいし、車両は自動二輪車1に限らず、例えば、ATV(All Terrain Vehicle:不整地走行車両)、小型運搬車等であってもよい。また、前述の実施形態では、変速機15の出力軸に駆動スプロケットが固定されていたが、変速機を搭載していない鞍乗型車両においては、駆動源であるエンジン又は電気モータの出力軸に駆動スプロケットが固定されてもよい。また、前述の実施形態では、油圧式のクラッチのリリース(解除)機構が搭載されていたが、クラッチレバーからワイヤーやロッドで操作力を伝達する機械式のクラッチのリリース(解除)機構が搭載されていてもよい。
【0079】
また、前述の実施形態では、伝動部材26として、駆動スプロケット18及び従動スプロケット27の間にチェーン26が巻き掛けられていたが、チェーン26に代えて、ベルトが巻き掛けられていてもよい。