特許第6335095号(P6335095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335095
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】プログラム及び運転曲線作成装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 27/00 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   B61L27/00 H
   B61L27/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-214232(P2014-214232)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-78748(P2016-78748A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】武内 陽子
(72)【発明者】
【氏名】森本 大観
(72)【発明者】
【氏名】小川 知行
【審査官】 平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−267223(JP,A)
【文献】 特開2012−016148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車線路に電力を供給する変電所の位置が設定された所与の走行区間を走行する複数の電気車それぞれの運転曲線をコンピュータに作成させるためのプログラムであって、
前記変電所の位置と、シミュレーション時刻における前記電気車それぞれの位置、速度および運転操作情報を含む各電気車の走行情報とを用いて、各電気車が前記電車線路に電気的に接している箇所の電圧である節点電圧を求める節点電圧算出手段、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の前記節点電圧を用いて当該電気車の引張力曲線を算出し、当該引張力曲線を用いて当該電気車の運転曲線を作成する処理を、前記シミュレーション時刻における走行位置を始点として、前記走行区間の線路形状の変化点、運転操作が切り替わる切替点、および、所定の単位走行距離毎、に実行することで、当該電気車の当該始点以降の運転曲線を作成する運転曲線作成手段、
前記運転曲線作成手段により作成された前記電気車それぞれの運転曲線のうち、前記シミュレーション時刻から次のシミュレーション時刻までの運転曲線部分を採用することと、前記シミュレーション時刻を前記次のシミュレーション時刻に更新することと、新たなシミュレーション時刻における前記電気車それぞれの走行情報を、採用した当該電気車の運転曲線部分から求めることと、前記節点電圧算出手段および前記運転曲線作成手段を機能させることと、を繰り返し実行する管理手段、
として前記コンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項2】
前記節点電圧算出手段は、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の所与の仮節点電圧と、前記シミュレーション時刻における当該電気車の速度および運転操作情報とを用いて、当該電気車が前記電車線路に電気的に接している箇所の電流である節点電流を求める節点電流算出手段と、
前記変電所の位置と、前記電気車それぞれの前記シミュレーション時刻における位置と、前記電気車それぞれの前記節点電流とを用いて、各電気車の暫定節点電圧を算出する暫定節点電圧算出手段と、
を有し、前記仮節点電圧と前記暫定節点電圧との差が所定の収束条件を満たさない場合には、前記暫定節点電圧を新たな前記仮節点電圧として再度、前記節点電流算出手段および前記暫定節点電圧算出手段を実行することを、前記収束条件を満たすまで繰り返し実行し、前記収束条件を満たした前記暫定節点電圧を前記シミュレーション時刻における節点電圧として決定
前記管理手段は、
前記節点電圧算出手段によって前記シミュレーション時刻における節点電圧が決定した後に、前記シミュレーション時刻における節点電圧に基づいて前記運転曲線作成手段を機能させ、前記シミュレーション時刻から前記次のシミュレーション時刻までの運転曲線部分の前記採用を行う、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
電車線路に電力を供給する変電所の位置が設定された所与の走行区間を走行する複数の電気車それぞれの運転曲線を作成する運転曲線作成装置であって、
前記変電所の位置と、シミュレーション時刻における前記電気車それぞれの位置、速度および運転操作情報を含む各電気車の走行情報とを用いて、各電気車が前記電車線路に電気的に接している箇所の電圧である節点電圧を求める節点電圧算出手段と、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の前記節点電圧を用いて当該電気車の引張力曲線を算出し、当該前記引張力曲線を用いて当該電気車の運転曲線を作成する処理を、前記シミュレーション時刻における走行位置を始点として、前記走行区間の線路形状の変化点、運転操作が切り替わる切替点、および、所定の単位走行距離毎、に実行することで、当該電気車の当該始点以降の運転曲線を作成する運転曲線作成手段と、
前記運転曲線作成手段により作成された前記電気車それぞれの運転曲線のうち、前記シミュレーション時刻から次のシミュレーション時刻までの運転曲線部分を採用することと、前記シミュレーション時刻を前記次のシミュレーション時刻に更新することと、新たなシミュレーション時刻における前記電気車それぞれの走行情報を、採用した当該電気車の運転曲線部分から求めることと、前記節点電圧算出手段および前記運転曲線作成手段を機能させることと、を繰り返し実行する管理手段と、
を備えた運転曲線作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転曲線を作成する運転曲線作成装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、列車の運行計画を作成するための運転曲線を、コンピュータを用いて効率的に作成する装置が知られている。運転曲線は、速度制限を守りつつ運用車両の性能の範囲内で走行時分が最短となるように作成されるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−4869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気車は、力行時には電車線路から取り込んだ電力を用いて電動機を駆動し、回生ブレーキ時には、電動機を発電機として使用して発生した回生電力を電車線路に戻している。従って、列車の多寡や、直近の変電所からの距離、近隣の列車が力行・惰行・ブレーキの何れの運転状態か等によって、当該列車が電気的に接続している電車線路の節点電圧(電車線路が架線であれば架線電圧であり、パンタ点電圧と呼ばれる。)が変動する。節点電圧が低下すれば、電動機による引張力が低下するため、同じ運転操作を実施した場合でも,通常時と比べて加速力が低下する。しかし、従来の運転曲線の作成においては、変動する各列車の走行情報(位置や速度等)や節点電圧は考慮されていなかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の電気車それぞれの走行情報や節点電圧を考慮した、より実運用に近いかたちの運転曲線を作成することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
電車線路に電力を供給する変電所の位置が設定された所与の走行区間を走行する複数の電気車それぞれの運転曲線をコンピュータに作成させるためのプログラムであって、
前記変電所の位置と、シミュレーション時刻における前記電気車それぞれの走行情報とを用いて、各電気車が前記電車線路に電気的に接している箇所の電圧である節点電圧を求める節点電圧算出手段、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の前記節点電圧を用いて当該電気車の引張力曲線を求める引張力曲線算出手段、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の前記引張力曲線を用いて、前記シミュレーション時刻における走行位置を始点とする当該電気車の運転曲線を作成する運転曲線作成手段、
前記運転曲線作成手段により作成された前記電気車それぞれの運転曲線のうち、前記シミュレーション時刻から次のシミュレーション時刻までの運転曲線部分を採用することと、前記シミュレーション時刻を前記次のシミュレーション時刻に更新することと、新たなシミュレーション時刻における前記電気車それぞれの走行情報を、採用した当該電気車の運転曲線部分から求めることと、前記節点電圧算出手段、前記引張力算出手段および前記運転曲線作成手段を機能させることと、を繰り返し実行する管理手段、
として前記コンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0007】
他の発明として、
電車線路に電力を供給する変電所の位置が設定された所与の走行区間を走行する複数の電気車それぞれの運転曲線を作成する運転曲線作成装置であって、
前記変電所の位置と、シミュレーション時刻における前記電気車それぞれの走行情報とを用いて、各電気車が前記電車線路に電気的に接している箇所の電圧である節点電圧を求める節点電圧算出手段と、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の前記節点電圧を用いて当該電気車の引張力曲線を求める引張力曲線算出手段と、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の前記引張力曲線を用いて、前記シミュレーション時刻における走行位置を始点とする当該電気車の運転曲線を作成する運転曲線作成手段と、
前記運転曲線作成手段により作成された前記電気車それぞれの運転曲線のうち、前記シミュレーション時刻から次のシミュレーション時刻までの運転曲線部分を採用することと、前記シミュレーション時刻を前記次のシミュレーション時刻に更新することと、新たなシミュレーション時刻における前記電気車それぞれの走行情報を、採用した当該電気車の運転曲線部分から求めることと、前記節点電圧算出手段、前記引張力算出手段および前記運転曲線作成手段を機能させることと、を繰り返し実行する管理手段と、
を備えた運転曲線作成装置を構成しても良い。
【0008】
この第1の発明等によれば、所与の走行区間を走行する複数の電気車それぞれの走行情報や節点電圧を考慮した複数の列車それぞれの運転曲線の作成が実現される。すなわち、各電気車の節点電圧の算出と、節点電圧を用いた引張力曲線の算出と、引張力曲線を用いた運転曲線の作成と、がシミュレーション時刻を更新しながら繰り返される。このため、所与の走行区間を走行する複数の電気車それぞれの運転曲線を、より実運用に近いかたちで作成することができる。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明のプログラムであって、
前記電気車の前記走行情報には、位置、速度および運転操作情報が含まれ、
前記節点電圧算出手段は、
前記電気車それぞれについて、当該電気車の所与の仮節点電圧と、前記シミュレーション時刻における当該電気車の速度および運転操作情報とを用いて、当該電気車が前記電車線路に電気的に接している箇所の電流である節点電流を求める節点電流算出手段と、
前記変電所の位置と、前記電気車それぞれの前記シミュレーション時刻における位置と、前記電気車それぞれの前記節点電流とを用いて、各電気車の暫定節点電圧を算出する暫定節点電圧算出手段と、
を有し、前記仮節点電圧と前記暫定節点電圧との差が所定の収束条件を満たすまで前記節点電流算出手段および前記暫定節点電圧算出手段を繰り返し実行し、前記収束条件を満たした前記暫定節点電圧を前記シミュレーション時刻における節点電圧として決定する、
プログラムである。
【0010】
この第2の発明によれば、各電気車の節点電圧は、電気車それぞれについての仮節点電圧を用いた節点電流の算出と、変電所の位置と各列車の位置及び節点電流とを用いた各列車の暫定節点電圧の算出とを、仮節点電圧と暫定節点電圧とが所定の収束条件を満たすまで繰り返し実行し、収束条件を満たしたときの暫定節点電圧として算出される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】運転曲線の作成対象となる対象区間の一部の例を示す図。
図2】運転曲線の作成の概要図。
図3】運転曲線作成装置の機能構成図。
図4】運転曲線作処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[概要]
本実施形態の運転曲線作成装置1は、対象区間を走行している複数の列車10それぞれの運転曲線を作成する。図1に、運転曲線の作成対象となる対象区間の一部の例を示す。運転曲線の作成対象となる列車10は電気車である。本実施形態では、電車線路は架線20とし、各列車10はパンタグラフにより電車線路と電気的に接している。従って本実施形態では、列車10と架線20との電気的な節点をパンタ点と呼ぶ。また、架線20には、所定の給電位置から変電所30によって電力が供給されており、給電位置(変電所30)は所定間隔長を超えない間隔で設けられている。図1には駅Aと駅Bの駅間を示しており、4本の列車10が当該駅間に在線している。運転曲線作成装置1は、この4本の列車10を含む、対象区間を走行する全列車の運転曲線を作成することができる。
【0013】
さて、各列車10は、力行時には架線20から取り込んだ電力を用いて主電動機を駆動して走行するが、そのパンタ点電圧は、直近の変電所30からの距離に応じて電圧降下する。また、近隣の列車10が力行・惰行・ブレーキの何れの状態であるか、何れのノッチを使用しているか等によってもパンタ点電圧は変動する。また、各列車10は、回生ブレーキ時には、主電動機を発電機として使用し発生した回生電力を架線20に戻す。但し、近隣に他の列車10が存在しなければ回生失効が生じ得る。
【0014】
このように、各列車10それぞれの走行位置や速度、運転操作情報(力行・惰行・ブレーキの何れの状態か、ノッチ段数は何れとしているかなど)、パンタ点電圧(節点電圧)は時々刻々と様々に変化し得る。以下では、走行位置、速度、運転操作情報のことを包括して走行情報と称する。
【0015】
パンタ点電圧が変化することは当該列車10の引張力曲線に影響し、引張力曲線は運転曲線に影響する。つまり、実運用においては、複数の列車10が同時並行で運行しているために各列車10のパンタ点電圧が流動的かつ相互に影響し合って変化し、各列車10の運転曲線に影響を与えているのである。
【0016】
このため、本実施形態では、シミュレーション時刻tを少しずつ進め、各列車10の走行情報を用いてパンタ点電圧を算出した上で、各列車10の運転曲線を当該列車10のパンタ点電圧を考慮して作成する。対象区間にM本の列車が走行しているとすると、1)当該シミュレーション時刻tにおける各列車i(i=1,2,・・,M)の走行情報を用いて各列車iのパンタ点電圧Vi(t)を算出する処理、2)各列車iについて、パンタ点電圧Vi(t)を用いて引張力曲線Ci(t)を算出し、この引張力曲線Ci(t)を用いて運転曲線Ri(t)を作成する処理、3)次のシミュレーション時刻t+Δtにおける各列車10の走行情報を求める処理、をシミュレーション時刻tを少しずつ進めながら1)〜3)を繰り返し実行することで各列車iの運転曲線を作成する。
【0017】
なお、2)においては、時間Δtとは無関係な計算単位である距離Δsを設定し、線路形状の変化点および運転操作の切替点に加えて、距離Δs毎に運転曲線を作成する。これにより、1)電流・電圧の収束計算に適した計算単位である時間Δtと,2)運転曲線の計算に適した計算単位である距離Δsと、の2つの計算単位を考慮することによって、双方の計算部に必要な粒度を保ちながらシミュレーションすることが可能となる。
【0018】
より詳細に説明する。図2は、運転曲線作成装置1が実行する運転曲線作成処理のシミュレーション時刻tにおける処理内容を説明するための図である。運転曲線作成装置1は、図2に示す処理を、シミュレーション時刻tを少しずつ進めながら繰り返し実行することで、各列車iの運転曲線Riを同時並行に作成していく。先ず、シミュレーション時刻tでの各列車iのパンタ点電流Ii(t)を、速度vi(t)と、ノッチNi(t)と、所与の仮のパンタ点電圧pVi(t)とを用いて算出する。括弧書きのtは、シミュレーション時刻tにおける値であることを示している。パンタ点電流Ii(t)の算出方法としては、例えば次のような方法を採用できる。すなわち、速度vi(t)やノッチNi(t)、バッテリのSOC(State Of Charge:充電率)に応じて、主電動機や電気補機といった列車iの搭載機器それぞれの入力電力(要求電力)や出力電力(回生電力)を算出する。次いで、各搭載機器の間の電力の供給関係を定めた機器モデルから、架線からの供給を必要とする電力である集電装置電力を算出する。そして、算出した集電装置電力と、所与の仮のパンタ点電圧pVi(t)とから、パンタ点電流Ii(t)を算出する。パンタ点電流Ii(t)には、架線20から電力を取り込む方向と、架線20に電力を返す方向とのプラス/マイナスの方向がある。
【0019】
続いて、各列車iのパンタ点電流Ii(t)及び位置Pi(t)をもとに、各列車iの暫定パンタ点電圧Vi’(t)を算出する。すなわち、各列車iと各変電所との位置関係をモデル化したき電等価回路を生成し、各列車iのパンタ電流Ii(t)を代入して回路方程式を解くことで、各列車iの暫定パンタ点電圧Vi’(t)を算出する。そして、算出した暫定パンタ点電圧Vi’(t)が所定の収束条件を満たすかを判定する。収束条件は、暫定パンタ点電圧Vi’(t)が、仮のパンタ点電圧pVi(t)と一致したとみなせる条件であり、「暫定パンタ点電圧と仮のパンタ点電圧との電圧差ΔViが所定電圧以内である」ことである。収束条件を満たさないならば、暫定パンタ点電圧Vi’(t)を新たな仮のパンタ点電圧pVi(t)として、再度、パンタ点電流Iiの算出、及び、暫定パンタ点電圧Vi’(t)の算出を、収束条件を満たすまで繰り返す。収束条件を満たすならば、暫定パンタ点電圧Vi’(t)を、シミュレーション時刻tでのパンタ点電圧Vi(t)と決定する。
【0020】
続いて、各列車iについて、パンタ点電圧Vi(t)から運転曲線Ri(t)を作成する。すなわち、列車iのパンタ点電圧Vi(t)から引張力曲線Ci(t)を算出し、算出した引張力曲線Ci(t)を用いて運転曲線Ri(t)を作成する。引張力曲線Ci(t)は、ノッチ毎に算出する。また、運転曲線の作成はどのような方法でも良いが、例えば、制限速度を守りつつ、列車iとして運用される車両の性能の範囲内で、走行時分が最短となるように作成する。
【0021】
次いで、運転曲線Ri(t)から次のシミュレーション時刻(t+Δt)における列車iの走行情報を算出する。ここでは、ノッチNi(t+Δt)、速度vi(t+Δt)、位置Pi(t+Δt)等を算出する。また、運転曲線Ri(t)のうち、シミュレーション時刻(t)から次のシミュレーション時刻(t+Δt)までの間の運転曲線部分を決定として保存する。そして、シミュレーション時刻を次のシミュレーション時刻に更新して上述した処理を繰り返し行う。
【0022】
[機能構成]
図3は、運転曲線作成装置1の機能構成図である。図3によれば、運転曲線作成装置1は、操作部102と、表示部104と、通信部106と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成されるコンピュータシステムである。
【0023】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等で構成される入力装置であり、ユーザの操作入力に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等で構成される表示装置であり、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。通信部106は、例えば無線通信モジュール、ルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で構成される通信装置であり、外部装置との間でデータ通信を行う。
【0024】
処理部200は、例えばCPU等の演算装置で構成され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102からの入力データ等に基づいて各種演算処理を行うとともに、運転曲線作成装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行う。また、処理部200は、管理部202と、パンタ点電圧算出部204と、引張力算出部210と、運転曲線算出部212とを有し、運転曲線作成プログラム302に従った運転曲線作成処理(図4参照)を実行する。
【0025】
管理部202は、シミュレーション時刻tを所定の時間間隔Δtずつ進めながら、パンタ点電圧算出部204による各列車iのパンタ点電圧Vi(t)の算出と、引張力算出部210による各列車iの引張力曲線Ci(t)の算出と、運転曲線算出部212による各列車iの運転曲線Ri(t)の算出と、を繰り返し実行させることで、所与の初期時刻t0から終了時刻teまでの期間の各列車iの運転曲線Riを作成する。最終的な各列車iの運転曲線Riとしては、シミュレーション時刻t毎に、当該シミュレーション時刻t以降の部分を、新たに算出した運転曲線Ri(t)で更新することを繰り返すことで、運転曲線Riを求めることとしてもよいし、シミュレーション時刻t毎に、運転曲線Ri(t)のうちのシミュレーション時刻tと次の時刻t+Δtの間の運転曲線部分を採用することを繰り返し、採用した運転曲線部分をつなげることで運転曲線Riを求めることとしてもよい。
【0026】
パンタ点電圧算出部204は、パンタ点電流算出部206と、暫定パンタ点電圧算出部208とを有し、シミュレーション時刻tにおける各列車iのパンタ点電圧Vi(t)を算出する。
【0027】
パンタ点電流算出部206は、シミュレーション時刻tにおける各列車iのパンタ点電流Ii(t)を算出する。すなわち、列車iそれぞれについて、シミュレーション時刻tにおける速度vi(t)やノッチNi(t)等に応じて、列車iの搭載機器それぞれの入力電力(要求電力)や出力電力を算出し、各搭載機器の間の電力の供給関係を示した機器モデルから、架線からの供給を必要とする電力の総和を算出する。そして、算出した必要電力と、所与の仮のパンタ点電圧pVi(t)とから、パンタ点電流Ii(t)を算出する。ここで、各列車の搭載機器の種類は、車両データ310として記憶されている。また、各機器の種類毎の特性や各機器の電力の供給関係は、機器モデルデータ308として記憶されている。
【0028】
暫定パンタ点電圧算出部208は、シミュレーション時刻tにおける各列車iの暫定パンタ点電圧Vi’(t)を算出する。すなわち、各列車iのパンタ点電流算出部206によって算出されたパンタ点電流Ii(t)、及び、位置Pi(t)をもとに、各列車iと各変電所との位置関係をモデル化したき電等価回路を生成し、この回路方程式を解くことで、各列車iの暫定パンタ点電圧Vi’(t)を算出する。ここで、対象線区における変電所の位置(詳細には、架線への給電位置)や容量などは、変電所データ306として記憶されている。
【0029】
そして、パンタ点電圧算出部204は、暫定パンタ点電圧算出部208によって算出されたシミュレーション時刻tにおける列車iの暫定パンタ点電圧Vi’(t)が、所定の収束条件を満たすかを判定する。収束条件は、「暫定パンタ点電圧Vi’(t)と、パンタ点電流算出部206がパンタ点電流Ii(t)の算出に用いた仮のパンタ点電圧pVi(t)との電圧差ΔViが所定電圧以内である」ことである。
【0030】
収束条件を満たさないならば、暫定パンタ点電圧算出部208によって算出された暫定パンタ点電圧Vi’(t)を新たな仮のパンタ点電圧pVi(t)として、再度、パンタ点電流算出部206によるパンタ点電流Ii(t)の算出、暫定パンタ点電圧算出部208による暫定パンタ点電圧Vi’(t)の算出を行う。収束条件を満たすならば、暫定パンタ点電圧算出部208によって算出された暫定パンタ点電圧Vi’(t)を、当該列車iのパンタ点電圧Vi(t)とする。
【0031】
パンタ点電圧算出部204が算出したシミュレーション時刻tにおける各列車iのパンタ点電圧Vi(t)は、パンタ点電圧データ314として記憶される。
【0032】
引張力算出部210は、シミュレーション時刻tにおける各列車iの引張力曲線Ci(t)を算出する。すなわち、列車iそれぞれについて、パンタ点電圧算出部204によって算出されたパンタ電圧Vi(t)に応じて、ノッチ毎の引張力曲線Ci(t)を算出する。引張力算出部210が算出したシミュレーション時刻tにおける各列車iの引張力曲線Ci(t)は、引張力曲線データ316として記憶される。
【0033】
運転曲線算出部212は、シミュレーション時刻tにおける各列車iの運転曲線Ri(t)を算出する。すなわち、列車iそれぞれについて、当該列車iの車両性能と引張力曲線Ci(t)とから、定められた線路条件を満たすように、当該列車iの位置Pi(t)を始点とする運転曲線Ri(t)を作成する。ここで、線路条件は、走行する軌道の曲率や勾配、制限速度であり、線路データ304として記憶されている。また、各列車iの車両性能は、車両データ310として記憶されている。運転曲線算出部212が算出したシミュレーション時刻tにおける各列車iの運転曲線Ri(t)は、運転曲線データ318として記憶される。
【0034】
記憶部300は、処理部200が運転曲線作成装置1を統合的に制御するための諸機能を実現するためのシステムプログラムや、本実施形態を実現するためのプログラムやデータ等を記憶するとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、操作部102からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、運転曲線作成プログラム302と、線路データ304と、変電所データ306と、機器モデルデータ308と、車両データ310と、パンタ点電流データ312と、パンタ点電圧データ314と、引張力曲線データ316と、運転曲線データ318とが記憶される。
【0035】
[処理の流れ]
図4は、運転曲線作成処理を説明するフローチャートである。この処理は、処理部200が運転曲線作成プログラム302を実行することで実現される。
【0036】
先ず、管理部202が、シミュレーション時刻tを初期時刻t0に設定する(ステップS1)。また、対象の各列車iについて、位置Pi、速度Vi、及び、ノッチNiを、初期時刻t0における初期位置Pi0、初期速度vi0、初期ノッチNi0に初期設定する(ステップS3)。
【0037】
次いで、各列車iを順に対象としたループAの処理を行う。ループAでは、パンタ点電流算出部206が、対象列車iについて、仮のパンタ点電圧pVi(t)、速度vi(t)、及び、ノッチNi(t)から、シミュレーション時刻tにおけるパンタ点電流Ii(t)を算出する(ステップS5)。全ての列車iを対象としたループAを終了すると、暫定パンタ点電圧算出部204が、各列車iのパンタ点電流Ii(t)、及び、位置Pi(t)と、対象線区における変電所による給電位置とから、列車iそれぞれの暫定パンタ点電圧Vi’(t)を算出する(ステップS7)。
【0038】
続いて、パンタ点電圧算出部204が、算出された各列車iの暫定パンタ点電圧Vi’(t)が収束条件を満たすかを判定する。収束条件を満たさないならば(ステップS9:NO)、列車iそれぞれについて、暫定パンタ点電圧Vi’(t)を新たな仮のパンタ点電圧pVi(t)とした後(ステップS13)、ステップS5に戻る。収束条件を満たすならば(ステップS9:YES)、列車iそれぞれについて、暫定パンタ点電圧Vi’(t)をパンタ点電圧Vi(t)として決定する(ステップS11)。
【0039】
続いて、各列車iを順に対象としたループBの処理を行う。ループBでは、引張力算出部210が、対象列車iのノッチNi(t)、速度vi(t)、及び、パンタ点電圧Vi(t)から、引張力曲線Ci(t)を生成する(ステップS15)。次いで、運転曲線算出部212が、対象列車iについて、引張力曲線Ci(t)を用いて、位置Pi(t)以降の運転曲線Riを生成する(ステップS17)。そして、管理部202が、生成された運転曲線Ri(t)から、次のシミュレーション時刻t+Δtにおける位置Pi(t+Δt)、速度vi(t+Δt)、及び、ノッチNi(t+Δt)を算出する(ステップS19)。ループBの処理はこのように行われる。
【0040】
全ての列車iを対象としたループBを終了すると、管理部202が、シミュレーション時刻tが終了時刻teに達したかを判定する。終了時刻teに達していないならば(ステップS21:NO)、管理部202が、シミュレーション時刻tを次のシミュレーション時刻t+Δtに更新した後(ステップS25)、ステップS5に戻る。終了時刻teに達したならば(ステップS21:YES)、作成した各列車iの運転曲線Riを表示部104に表示出力する等した後(ステップS23)、本処理を終了する。
【0041】
[作用効果]
このように、本実施形態の運転曲線作成装置1によれば、シミュレーション時刻tを初期時刻t0から終了時刻teまで、時間Δtずつ進めながら、列車iそれぞれのパンタ点電圧Vi(t)の算出と、パンタ点電圧Vi(t)を用いた引張力曲線Ci(t)の算出と、引張力曲線Ci(t)を用いた運転曲線Ri(t)の算出と、が繰り返される。これにより、所与の走行区間を走行する複数の列車それぞれの走行状況や位置に応じた架線電圧の変動を考慮した、実運用時に近いかたちの各列車の運転曲線を作成することができる。
【0042】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、電車線路を架空式として説明したが、走行レールの側方に設けられた導電レールを集電靴がしゅう動する第三軌条式や、走行路側壁などに設けられた導電体を集電子がしゅう動する剛体複線式などとしてもよい。
【0044】
また、シミュレーション時刻tをΔt時間毎にすすめるとしたが、運転曲線算出部212によって算出された運転曲線Riを参照して、今回のシミュレーション時刻tから次のシミュレーション時刻t+Δtまでの間に、ノッチ等の運転操作の変化点があるのであれば、当該変化点の時刻を次のシミュレーション時刻としても追加してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 運転曲線作成装置
102 操作部、104 表示部、106 通信部
200 処理部
202 管理部
204 パンタ点電圧算出部
206 パンタ点電流算出部、208 暫定パンタ点電圧算出部
210 引張力算出部、212 運転曲線算出部
300 記憶部
302 運転曲線作成プログラム
304 線路データ、306 変電所データ
308 機器モデルデータ、310 車両データ
312 パンタ点電流データ、314 パンタ点電圧データ
316 引張力曲線データ、318 運転曲線データ
図1
図2
図3
図4