(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2に記載の転てつ機の動作状態の監視方法において、さらに、保守区等の係員が、比較の結果に対応する転てつ機の転換負荷波形や転換動作を観察した結果、問題がない旨の正常確認信号が保守区等から入力された場合は、コンピュータによりその正常確認信号に基づき、その比較の結果をもたらした比較対象データを基準データに繰り入れることを特徴とする監視方法。
請求項1,2または3に記載の転てつ機の動作状態の監視方法において、学習データから基準データを作成する方法は、前記学習データから平均値μと標準偏差σを算出し、平均値μから標準偏差σ又は−σだけ離れた位置に二つの仮想転換負荷(μi+σi),(μi−σi)を設定して、上側の仮想転換負荷(μi+σi)を基準データの上限判定値Dmax、下側の仮想転換負荷(μi−σi)を基準データの下限判定値Dminに設定する平均化処理法であることを特徴とする監視方法。
請求項1,2または3に記載の転てつ機の動作状態の監視方法において、学習データから基準データを作成する方法は、学習データから最大値(Vmax)と最小値(Vmin)を算出し、その最大値(Vmax)に余裕値(α)を加算したもの(Vmax+α)を上限判定値とし、最小値(Vmin)から余裕値(α)を減算したもの(Vmax−α)を下限判定値とする判断テーブルを、基準データとする統計処理法であることを特徴とする監視方法。
請求項1,2または3に記載の転てつ機の動作状態の監視方法において、学習データから基準データを作成する方法は、転換時データを学習して得られる学習データに対して転てつ機の転換動作のストロークの所定微小区間ごとに所定の面積を有するテクスチャー画像を平面投影して基準データとしての判定ゾーンを作成する図形マッピング処理法であることを特徴とする監視方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来方法においては、
図19の転換動作の時間範囲における電流の変化(転換負荷波形)を記録するのみであって、その変化が正常であるか否かは、記録された転換負荷波形が閾値TLを超えたか否かで判断する。したがって、たとえば、
図19にdで示すように、転換動作後の反位密着時の転換負荷が閾値TLを超えることがあっても、これは転換動作の範囲外に単に記録されるだけであるため、注目されないことがある。したがって、
図19のdの転換負荷が閾値TLを超えても、それは、転てつ機の密着調整の不良によるものか、他の原因によるものかを判断することは不可能である。
【0009】
また、閾値TLのみが動作状態良否の判断基準であるため、閾値TLを超えない範囲で転換負荷波形が変化したような場合には、状態変化を検知できるとは限らない。たとえば、
図20にeで示すように、閾値TLより小さい範囲での状態変化は検出不可能である。
【0010】
一方、閾値の設定を一定値ではなく、動作かんストローク毎に変化させる手法も考えられるが、分岐器・転てつ機毎に適正な閾値は異なるため、閾値を場所毎に適正に設定することは、実運用上の課題がある。
【0011】
このように、従来は、閾値を超えない範囲で発生する動作状態変化の検知と、状態変化の判断基準となる閾値の設定との2つに問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、
上記の問題に鑑み、閾値を超えない範囲で発生する動作状態変化の検知と、状態変化の判断基準となる閾値の設定との2つに問題を同時に解決することができる、
すなわち、監視対象装置の動作状態良否判断基準の自動設定、装置毎の個別設定および良否判断の適正化を行うことができる監視方法およびその監視方法を用いる監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明による監視方法は、(A)
実運用時に転てつ機からその動作状態の特性を表す転換時データを抽出し、(B)その抽出された転換時データから転てつ機の正常な動作状態を集積・学習して、その学習データを生成し、(C)その学習データから基準データを作成し、(D)その後に抽出される転換時データを基準データと比較し
て、動作状態の良否を判定することを特徴とする。
【0014】
本発明による監視方法は、他の側面においては、下記の手順からなることを特徴とする。
(a)
実運用時に転てつ機からその動作状態の特性を表す転換時データを抽出し、抽出した転換時データをコンピュータにより時間軸正規化して保存する。時間軸正規化は、環境変化による影響を排除するために行う。
(b)係員が、目前の転てつ機の転換動作から、または、転てつ機より抽出され処理されて出力する転換負荷波形から、転換動作が正常であると判断したときはその旨をコンピュータに入力する。
(c)転換動作が正常である旨が入力された場合の転換時データを学習データとして、コンピュータによりその学習データから基準データを作成し、保存する。
(d)
転てつ機の転換時ごとに抽出される転換時データを比較対象データとして基準データと比較する。
(e)その比較の結果を出力する。
【0015】
好ましい実施の形態では、上記手順に加えて、(f)保守区等の係員が、比較の結果に対応する転てつ機の転換負荷波形や転換動作を観察した結果、問題がない旨の正常確認信号が保守区等から入力された場合は、コンピュータによりその正常確認信号に基づき、その比較の結果をもたらした比較対象データを基準データに繰り入れる。
【0016】
上記監視方法において、学習データから基準データを作成する方法には、前記学習データから平均値μと標準偏差σを算出し、平均値μから標準偏差σ又は−σだけ離れた位置に二つの仮想転換負荷(μi+σi),(μi−σi)を設定して、上側の仮想転換負荷(μi+σi)を基準データの上限判定値Dmax、下側の仮想転換負荷(μi−σi)を基準データの下限判定値Dminに設定する平均化処理法を用いることができる。
【0017】
また、学習データから基準データを作成する方法には、学習データから平均値を算出することに代えて、学習データから最大値(Vmax)と最小値(Vmin)を算出し、その最大値(Vmax)に余裕値(α)を加算したもの(Vmax+α)を上限判定値とし、最小値(Vmin)から余裕値(α)を減算したもの(Vmax−α)を下限判定値とする判断テーブルを、基準データとする統計処理法を用いることができる。
【0018】
さらに、学習データから基準データを作成する方法には、転換時データを学習して得られる学習データに対して
転てつ機の転換動作のストロークの所定微小区間ごとに所定の面積を有するテクスチャー画像を平面投影して基準データとしての
判定ゾーンを作成する図形マッピング処理法を用いることができる。
【0019】
本発明による上記監視方法を用いる監視装置は、(i)
実運用時に転てつ機から転換時データを抽出する転換時データ抽出手段と、(ii)転換時データ抽出手段により抽出された転換時データの時間軸を正規化する時間軸正規化手段と、(iii)転てつ機の目前の転換動作または転換負荷波形の観察によりその転換動作が正常である旨の入力に基づいて、時間軸が正規化された転換時データを学習データとして保存する学習データ生成手段と、(iv)学習データから基準データを作成して記憶する基準データ作成手段と、(v)転換時データ抽出手段により転換時データが抽出されるごとに、時間軸が正規化された転換時データを比較対象データとして基準データと照合する照合手段と、(vi)照合の結果、比較対象データが基準データの範囲外にあると判定した場合に、その判定情報を出力する出力手段と、を有していることを特徴とする。
【0020】
好ましい実施の形態では、上記に加えて、(vii)出力手段が差異のデータを出力しないときは、照合手段において基準データと照合された転換時データを基準データに繰り入れる基準データ繰入手段を有している。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、
転てつ機の動作状態良否判断基準の自動設定、装置毎の個別設定および良否判断の適正化を行うことができる監
視方法およびその監視方法を用いる監視装置を提供することができる。また、転てつ機の状態変化の予兆を早期に検知できるため、障害発生に至る前の適切なタイミングで状態変化の要因の探索や処置が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一般的思想を説明する概念図である。
【
図2】本発明の監視方法の基本的手順の流れを示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る監視装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】
図3の演算処理部の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図3の演算処理部の機能を説明するブロック図である。
【
図6】転換時データの抽出方法を説明する図である。
【
図7】転換時データの時間軸正規化を説明する図である。
【
図9】時間軸正規化後の転換負荷波形と基準データ作成との関係を示す図である。
【
図10】時間軸を正規化された転換時データの全データの格納状態を示す図である。
【
図11】正規化された転換時データから基準データを作成する場合の平均化を説明する図である。
【
図12】正規化された転換時データの偏移を説明する図である。
【
図13】
図12のxi断面における分布が正規分布であることを示す図である。
【
図14】
図13の正規分布におけるデータ通過量を説明する図である。
【
図15】転換負荷波形におけるストローク比xiにおける基準データの分布を示す図である。
【
図16A】学習データから基準データを作成する方法が平均化処理法である場合の学習データから算出された平均値の一例を表示する表示画面の図である。
【
図16B】
図16Aの平均値から算出された基準データの上限判定値および下限判定値を示す表示画面の図である。
【
図16C】
図16Bに変化状態が正常な場合の比較対象データがオーバーレイされた例を示す表示画面の図である。
【
図16D】
図16Bに変化状態が異常な場合の比較対象データがオーバーレイされた例を示す表示画面の図である。
【
図17A】学習データから基準データを作成する方法が統計処理法である場合の学習データの一例を示す表示画面の図である。
【
図17B】
図17Aの学習データから統計処理法により得られた基準データの上限判定値および下限判定値を示す表示画面の図である。
【
図17C】
図17Bに変化状態が正常な場合の比較対象データがオーバーレイされた例を示す図である。
【
図17D】
図17Bに変化状態が異常な場合の比較対象データがオーバーレイされた例を示す表示画面の図である。
【
図18A】学習データから基準データを作成する方法がマッピング処理法である場合のマッピング処理がなされる前の学習データの一例を示す表示画面の図である。
【
図18B】
図18Aの学習データにマッピング処理がなされて作成された基準データの一例を示す表示画面の図である。
【
図18C】
図18Bの基準データに比較対象データがオーバーレイされた例を示す表示画面の図である。
【
図18D】
図18Cの比較対象データが基準データに繰り入れられて、新たな基準データ(学習データ)が生成された例を示す表示画面の図である。
【
図18E】
図18Dの表示画面に他の比較対象データがオーバーレイされた例を示す図である。
【
図18G】
図18Fの基準データに転てつ機のストロークにおける変化程度が通常より大きい場合の比較対象データがオーバーレイされた例を示す図である。
【
図18H】転てつ機のストロークの末端における密着時の転換力が特に大きい場合の比較対象データ(転換時データ)の一例を示す図である。
【
図18J】転換動作直前の負荷ゼロの区間b(
図19参照)が通常よりも短い場合の比較対象データ(転換時データ)の一例を示す図である。
【
図19】従来の転てつ機の監視方法における問題点を説明する図である。
【
図20】従来の転てつ機の監視方法における他の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
上述したように、転てつ機および分岐器の動作状態を評価する指標として、転換負荷の大きさや、電気転てつ機の動作電流・電圧がある。転換負荷(もしくは動作電流・電圧。以下、同じ。)は、分岐器や転てつ機、付属装置等の設置環境によって差異があるが、正常な設備状態であれば、転換動作ごとの動作かんストロークに対する負荷の大きさの変化は小さく、転換負荷波形の再現性は高い。
【0025】
本発明は、上記の点に着目してなされたものであり、一般的発明概念は、
図1の概念図に示すように、電気転てつ機Aの転換時の転換負荷のデータ(以下、これを「転換時データ」という。)から転てつ機や分岐器の正常時の動作状態を監視装置Bに学習させ、その学習データから動作状態の変化を評価するための基準データを作成し、その後の転換時データを基準データと比較して動作状態の良否を判定するようにしたことである。
【0026】
本発明の具体的発明概念は、
図2に示すように、(A)
実運用時に転てつ機から転換時データを抽出し、(B)その抽出された転換時データから転てつ機の正常な動作状態を集積・学習して、その学習データを生成し、(C)その学習データから基準データを作成し、(D)その後に抽出される転換時データを基準データと比較して、
動作状態の良否を判定することである。少なくとも、基準データの作成処理と、新たな転換時データと基準データとの比較処理、および判定処理は、監視装置
Bにおいて実行される。
【0027】
学習データから基準データを作成する方法には、次の3つの方法のいずれかを用いることが可能である。その1は平均化処理法であり、その2は統計処理法であり、その3はマッピング処理法である。
【0028】
平均化処理法は、正常な動作状態を表す複数の転換時データを学習して得られる学習データから平均値μと標準偏差σを算出し、平均値μから標準偏差σ又は−σだけ離れた位置に二つの仮想転換負荷(μi+σi),(μi−σi)を設定して、上側の仮想転換負荷(μi+σi)を基準データの上限判定値Dmax、下側の仮想転換負荷(μi−σi)を基準データの下限判定値Dminに設定するものである。
【0029】
統計処理法は、正常な動作状態の転換時データを学習して得られる学習データから平均値の算出をすることに代えて、学習データから最大値(Vmax)と最小値(Vmin)を算出し、その最大値(Vmax)に余裕値(α)を加算したもの(Vmax+α)を上限判定値とし、最小値(Vmin)から余裕値(α)を減算したもの(
Vmin−α)を下限判定値とする判断テーブルを、基準データとするものである。
【0030】
そして、マッピング処理法は、転換時データを学習して得られる学習データに対して転てつ機の転換動作のストロークの所定微小区間ごとに所定の面積を有するテクスチャー画像を平面投影
して基準データ
としての判定ゾーンを作成するものである。
【0031】
<第1の実施の形態> (平均化処理法)
続いて、まず、第1の実施の形態、すなわち、基準データを作成する方法に平均化処理法を用いる場合の実施の形態について説明する。以下には、主として本発明に係る監視方法を使用する監視装置について説明し、その中で、併せて監視方法を説明する。
【0032】
図3に示すように、監視装置Bは、コンピュータで構成されていて、演算処理部1と、記憶部2と、入力部3と、出力部4とを有する。監視装置Bの演算処理部1には、電気転てつ機Aから出力される転換時データが入力される。
【0033】
演算処理部1は、CPU(Central Proce
図5のステップS
図5のステップSing Unit)で構成されていて、本発明の目的を達成するため、
図4に示すように、転換時データ抽出手段11と、時間軸正規化手段12と、学習データ生成手段13と、基準データ作成手段14と、照合手段15と、出力手段16とを含む。好ましい実施態様では、基準データ繰入れ手段17が付加される。
【0034】
図5は、第1の実施の形態の場合における上記各手段11〜17による処理内容を時系列的に示す機能ブロック図である。以下に、各処理について順次説明する。
【0035】
[転換時データの抽出]
転換時データ抽出手段11は、電気転てつ機Aが転換動作を行うときにその電気転てつ機Aに設けてある計測器、たとえば電流計(もしくは電圧計)が出力する電流値(もしくは電圧値。以下、同じ。)を内容とする転換時データd1を抽出(
図5のステップ
図5のステップS1)して、記憶部2の第1メモリ2aに保存する(
図5のステップ
図5のステップS2)。
【0036】
電気転てつ機Aから吸い上げた転換時データd1を保守区等の集中監視装置および電気通信回線を経て、監視装置Bの演算処理部1に入力するようにしてもよい。
【0037】
また、監視装置Bが定常的に監視動作を行うときは、電気転てつ機Aが転換動作を行うたびに、その電気転てつ機Aから転換時データd1を吸い上げ(
図5のステップS1)、電気通信回線を経て直接に監視装置Bの入力部3を介して演算処理部1に入力する(
図5のステップS2)。
【0038】
転換時データd1の抽出手法の一例を
図6に示す。電気転てつ機の場合、トングレールの転換動作は、腕金具101とナット102,103が接触しない瞬間の後に腕金具101とナット102が接触した時点で開始する。
図6の転換負荷波形Wの中の丸1は、定位(反位)密着状態となっている点、丸2は、変化率が一定以下となる点(負荷ゼロ区間の開始点)、丸3は、変化率が一定以上となる点(負荷ゼロ区間の終了点)である。したがって、腕金具101とナット102,103の接触がなく、転換負荷の変化率が低くなる区間(
図6の丸2と丸3の間)を検出することによって、トングレールの動作開始を判断することが可能である。
【0039】
こうして、転換時データd1を抽出するには、
図6の丸1を検出し、次に丸2を探し、その後、丸3を探して、丸3以後の波形分のデータを転換時データd1として抽出する。
【0040】
発条転てつ機は、腕金具とナットが常時接触状態にあるため、電気転てつ機と同じ手法をとることは困難であるが、割出転換時および復帰動作終了時に負荷の変化率が大きく、また、復帰動作時に負荷の変化率が小さい傾向にある。そのため、割出転換終了後から復帰動作終了までの復帰動作(転換)時のデータを抽出することが可能である。
【0041】
[転換時データの時間軸の正規化]
前述のようにして転換時データ抽出手段11により抽出され、記憶部2の第1メモリ2aに記憶された転換時データd1は、
図7のように、時間軸正規化手段12によりトングレールの動作量(ストローク)に対する負荷の大きさとして、転換時間が異なるデータを比較可能な形に変換される。すなわち、
図7の(a)(b)のように、転換時間には環境条件により長い場合と短い場合があるので、原始データのままでは比較が困難である。しかし、いずれの場合も、可動レールは、決まった距離(ストローク)だけ移動する。そこで、時間軸正規化手段12は、原始データ(
図7のW1,W2)を共通なストローク比に基づいて加工し、
図7の(c)にW1’,W2’で示すように時間軸を変換して正規化し(
図5のステップS3)、その時間軸が正規化された転換時データd2を記憶部2の第2メモリ2bに保存する(
図5のステップS4)。
【0042】
転換時データ抽出手段11により抽出された転換時データd1と、時間軸正規化手段12により時間軸が正規化された転換時データd2とを識別するため、以後、前者を「生の転換時データ」、後者を「正規化転換時データ」と言う場合がある。
【0043】
[転換動作の確認・学習]
転換時データ抽出手段11により転換時データd1を抽出するときの電気転てつ機Aの転換動作を検査者の目前等で行ない、その検査者がその動作状態は正常であると判断した場合は、入力部3から演算処理部1に、当該電気転てつ機の動作状態は正常である旨の確認信号を入力する(
図5のステップS5)。上記の動作は、
転換時データd1を記憶部2の第1メモリ2aに蓄積し、後から確認信号を入力する方法でも良い。そして、動作状態が正常である旨の確認信号が入力された時の正規化転換時データd2は、学習データ生成手段13により学習データd3として記憶部2の第3メモリ2cに保存される(
図5のステップS6,
図5のステップS7)。学習データd3は、確認信号が入力されるたびに蓄積される。
【0044】
[基準データの作成・保存]
上記演算処理部1による転換時データ抽出(
図5のステップS1)および時間軸正規化(
図5のステップS2)の処理は、電気転てつ機の転換動作ごとに行われる。しかし、学習データ生成処理(
図5のステップS6)は、通常の保守期間ごとに行なわれてもよい。また、転てつ機Aと監視装置Bの間に記憶装置を設けて、転換動作とは別に一括して実施しても構わない。
【0045】
演算処理部1の基準データ作成手段14は、学習データd3を用いて基準データd4を作成し(
図5のステップS8)、これを記憶部2の第4メモリ2dに保存する(
図5のステップS9)。この基準データd4は、その後に転てつ機Aから抽出され、時間軸正規化された転換時データd2と比較する分布を作成するためのデータである。
【0046】
以下に、基準データd4の作成方法について詳しく説明する。転てつ機Aの計測器から得られる計測値(生の転換時データd1)はアナログ信号であるので、転換時データd1を監視装置Bの記憶部2に記憶したり、演算処理部1により時間軸の正規化処理を行ったり、転換時データd1から基準データd4を作成したりすることはできない。そこで、実際は、アナログ信号をデジタル信号に変換した後に、時間軸正規化処理および基準データ作成処理を行っている。
【0047】
図9は、時間軸正規化後の転換時データd2(転換負荷波形)を模式的に示す。転てつ機の転換動作ごとに入力されるこのような転換時データd2は、サンプル番号ごとに、ストローク比ごとに転換負荷が解析され、
図10に示すような転換時データリストが作成されて保存される。
図10において、最左列の数値はサンプル番号を、最上行の数値はストローク比を表す。
【0048】
そして、監視装置Bの操作者は、転換時データリストの中から正常と思われる転換負荷波形を有する転換時データd2のサンプル番号を選択して入力部3に入力し、基準データ作成の対象とされる転換時データd2を決定する。上述したように、学習データ生成手段13は、このようにして選択された転換時データd2を学習データd3とする。基準データ作成手段14は、
図11に模式的に示すように、学習データd3から、一定単位、たとえば、0.05のストローク比区間ごとの平均値(平均転換負荷)を算出して、
図8に例示するような平均値データを作成し、これを記憶部2に保存する。基準データ作成手段14は、その各平均値に後述される所定の標準偏差を加減算して一定の幅を有する基準データd4を作成し、その基準データd4を記憶部2の第4メモリ2dに記憶する(
図5のステップS9)。
【0049】
[基準データとの照合]
基準データ作成手段14により作成された基準データd4が第4メモリ2dに記憶されると、その後に転てつ機Aから抽出され、時間軸正規化され、第2メモリ2bに記憶される転換時データd2は、転換ごとに照合手段15により基準データd4と比較される(
図5のステップS10)。以後、比較される正規化転換時データd2を比較対象データという場合がある。
【0050】
図12は、選択された4個のサンプル番号の転換負荷波形であるとする。この4つの波形のあるストローク比、たとえば断面xiにおける各波形の偏差値の分布を取ってみると、
図13に示すように正規分布になることが確認された。他の断面における各波形の偏差値の分布も同様である。
【0051】
そこで、比較対象データd2と基準データd4との一致度合を定量的に示す指標として、「ズレ度」の概念を導入した。ズレ度の概念を
図14を参照しながら説明するる。ストロークのある区間iにおけるズレ度Ziは、式(1)および
図14に示すように、正規分布となる基準データd4に対して、転換ごとの比較対象データ(転換時データd2)の近似度合いを表示するものである。
【0053】
式(1)において、μiは区間iにおける基準データ群の平均値、σiは区間iにおける基準データ群の標準偏差、xiは区間iにおける比較対象データの転換負荷を示す。
【0054】
図14に示す正規分布となる場合、標準偏差σiが1σ(ずれ度Z=20に相当)である場合に、その範囲に含まれるデータ量(転換負荷)は全体の68.2%であり、標準偏差σiが2σ(ずれ度Z=40に相当)である場合は全体の95.5%であることが知られている。
【0055】
この知見に基づき、本実施の形態においては、動作状態が正常であるときの転換時データの集積、すなわち、学習データd3から平均値μiと標準偏差σiを算出する。
【0056】
図16A〜
図16Dは、
図3の出力部4が表示装置である場合に、その表示装置の表示内容を例示する図面である。
【0057】
図16Aに例示するように、平均化処理により得られた転換負荷の平均値Da(μi)に対して、
図16Bに例示するように、0〜1.0のストロークの全区間において転換負荷の平均値μiから標準偏差σi又は−σiだけ離れた位置に二つの仮想転換負荷(μi+σi),(μi−σi)を設定して、上側の仮想転換負荷(μi+σi)を基準データd4の上限判定値Dmax、下側の仮想転換負荷(μi−σi)を基準データd4の下限判定値Dminに設定している。上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間は、動作状態の変化の許容範囲を表す。
【0058】
そして、実運用時の転てつ機から抽出される転換時データd2(比較対象データ)を基準データd4と比較する時は、
図16Cに示すように、その比較対象データd2を
図16Bの表示画面上にオーバーレイ表示する。その比較対象データd2が上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在するか否かで、転てつ機Aの動作状態の変化を検知する。
【0059】
図16Cは、比較対象データd2が基準データd4の上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在する例を示す。このように比較対象データd2が基準データd4の上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在する場合は、その時の転てつ機Aの動作状態は正常であると判定される。
【0060】
これに対し、
図16Dは、比較対象データd2が上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在せず、上限判定値Dmaxを超えた例を示す。このように比較対象データd2が基準データd4の上限判定値Dmaxを超えた場合は、その時の転てつ機Aの動作状態は異常であると判定される。
【0061】
上述のように、比較対象データd2が上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在するか否かで、転てつ機Aの動作状態の良否を容易に判定することができる。
【0062】
図14の標準偏差±1σは、単なる一例である。場合によっては、標準偏差は±2σや±3σが適正値であることが考えられる。どの程度が適正なのかは、今後の検証により明らかとなるであろう。
【0063】
図15は、ある比較対象データのストローク比xiにおける基準データの分布の例を示す。この例では、丸1の基準データの場合は、偏差量σ1が小さく、ズレ度Z1は大きいが、丸2の基準データの場合は、偏差量σ2が大きく、ズレ度Z2は小さい。
【0064】
しかし、比較対象データを基準データと比較したときに、その差異を
図3の出力部4(表示部)に
図15の右側に示されるような波形と偏差量σ1、σ2で表示されても、ズレの大きさを容易に判断することができない。
【0065】
数式(1)の中の「20」は、そのズレの大きさを容易に判断できるように付加した係数である。すなわち、一例として、係数を偏差量σが0であるとき、つまり、比較対象データが基準データ群の平均値μと一致するときは0、偏差量σがμ±1σであるときは20、偏差量σがμ±2σであるときは40と定めた。
【0066】
そして、転換ごとに照合手段14により行われる照合の結果が、0、20または40のズレ度として出力部4に表示され、または印刷される。
【0067】
たとえば、ズレ度Ziが20を示す場合は、転換時データd2の68.2%が平均値μと現在の値の範囲内にあることを示す。ズレ度Ziが小さい場合は転換時データの平均値μに近く、同じような傾向のデータであることを示す。一方、ズレ度Ziが大きい場合は、転換時データの平均値μから乖離している傾向のデータであることを示す。
【0068】
上記の電気転てつ機Aの動作状態の監視において、ズレ度Ziが大きいと判断されたときは、直ちにその電気転てつ機の動作状態に異常が発生したことを意味するものではない。ズレ度Ziが電気転てつ機Aの動作状態に疑念を抱くほど大きい場合は、保守員は速やかに当該電気転てつ機の転換動作を目視確認し、または抽出された転換負荷波形を観察して、問題があれば必要な対処をすることとなる。
【0069】
そして、問題がないと確認された場合は、その旨を入力部3から入力する(
図5のステップS9)と、基準データ繰入手段16によりその時の学習データd3が新たな基準データd4として繰り入れられる(
図5のステップS10)ことが好ましい。これにより、同様事象による検知出力(ズレ度Ziが大きいと判断されたときの出力)を回避することができる。
【0070】
また、問題がなかった学習データd3を基準データd4として繰り入れることにより、演算処理部1は学習を繰り返し行い、監視精度の向上を絶えず行うことができる。
【0071】
現状では、本方法による監視の実地検証の例が少ないので、比較対象データの基準データからの偏差量がどの程度の場合に、電気転てつ機の動作状態に異常が発生したと判断することができるかは明記することができない。しかし、ある路線または各路線の全電気転てつ機について検証を重ねていけば、基準データの作成基準や偏差量の判断基準及びズレ度の適正な設定などが可能となり、監視装置自体で(人間が介在せずに)電気転てつ機の動作状態の異常判断が可能になる。しかし、危険状態の発生を未然に防止する観点からは、上記の状態変化を検知するだけでも、十分に目的を達成することができる。
【0072】
なお、N
図5のステップS形電気転てつ機における転換動作データについて、ストローク比ごとの転換負荷の大きさを確認した結果、正規分布であることを確認した。したがって、これらの箇所において、ズレ度は基準に対する乖離度合いを示す指標として用いることが可能である。
【0073】
<第2の実施の形態> (統計処理法)
次に、上記学習データd3から基準データd4を作成する方法として統計処理法を用いる場合について説明する。
【0074】
上述した平均化処理法においては、学習データd3から平均値と標準偏差を算出し、平均値と標準偏差から基準データd4の上限判定値Dmaxと下限判定値Dminを決定した。これに対し、統計処理法では、学習データから平均値を算出せずに、
図17Aに例示する学習データd3の統計処理によりその最大値Vmaxと最小値Vminを算出する。そして、
図17Bに示すように、その最大値Vmaxに余裕値αを加算したもの(Vmax+α)を基準データd4の上限判定値Dmaxとし、最小値Vminから余裕値αを減算したもの(Vmax−α)を基準データd4の下限判定値Dminとする。この場合も、上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間が、動作状態の変化の許容範囲を表す。
【0075】
実運用時に転てつ機Aから抽出される転換時データd2(比較対象データ)を基準データd4と比較する時は、その比較対象データd2が
図17Bの表示画面上にオーバーレイ表示され、その比較対象データd2が上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在するか否かで、転てつ機Aの動作状態の良否が判定されることは、平均化方法の場合と同じである。
【0076】
図17Cは、比較対象データd2が基準データd4の上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在する例を示す。これに対し、
図17Dは、比較対象データd2が上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在しない例を示す。このように、比較対象データd2が上限判定値Dmaxと下限判定値Dminの間に存在するか否かで、転てつ機Aの動作状態の良否を容易に判定することができる。
【0077】
<第3の実施の形態> (マッピング処理法)
続いて、上記学習データd3から基準データd4を作成する方法としてマッピング処理法を用いる場合について説明する。
【0078】
このマッピング処理法は、学習データd3に対してマッピング処理を行って、基準データとしての判定ゾーンを作成するものである。
図18Aの転換負荷波形が学習データd3であるとすると、マッピング処理では、
図18Bに例示するように、その学習データd3に、転換動作のストロークの一定単位、たとえば、0.05のストローク比区間ごとに一定の面積を有するテクスチャーTを平面投影して、連続するテクスチャーT・・・により基準データd4となる判定ゾーンを作成する。
【0079】
テクスチャーTの大きさ(面積)は、学習データd3からの変位の許容範囲を規定するものである。したがって、テクスチャーTの形状は、
図18Bに例示された円形に限らず、正方形、その他の多角形でもよい。
【0080】
監視装置Bの運用時に転てつ機Aから抽出され、時間軸正規化をされた転換時データ(比較対象データ)d2は、第2の実施の形態においては、
図18Bの基準データd4(判定ゾーン)と照合される。その場合、
図18Cに例示するように、その比較対象データd2の一部、たとえば転換動作のストロークの終端付近(d2’)が判定ゾーン(基準データd4)の外側に存在しているとする。その場合、係員による転てつ機Aの動作状態の観察の結果、正常であると判明した場合は、入力部3の操作により正常確認信号が入力されると、
図18Dに例示するように、判定ゾーンd4の外側に存在している比較対象データd2またはその一部(d2’)が基準データd4に繰り入れられる。そして、その分、学習により基準データd4が拡大される。
【0081】
転換動作のストロークの他の区間において、基準データd4を若干超える変化が生じた場合も、その変化が観察の結果、正常である場合は、
図18Dに示された基準データd4への繰り入れと同様の処理がなされる。
【0082】
図18Eは、転換動作のストロークの中の転換動作開始時点及びストロークの終端付近において基準データd4を若干超える変化が生じた場合に、基準データd4への繰り入れがなされて、学習により基準データd4が拡大された例を示す。
【0083】
図18Fは、以上の学習の結果として拡大された基準データd4の一例を示す。
図18Gは、
図18Fの拡大された基準データd4が得られた後に新たに抽出された比較対象データd2を示す。この例では、比較対象データd2が
図18Gの学習結果による基準データd4を超えているので、その時の転てつ機Aの動作状態は異常であると判定される。
【0084】
図18Hは、比較対象データd2が転換動作のストロークの終端付近において顕著に大きな転換力を示した場合の図である。この比較対象データd2が学習結果による基準データd4と比較されると、
図18Iに示すように、比較対象データd2はストロークの終端付近において明らかに基準データd4の上側に超えている。したがって、この比較対象データd2が抽出された時の転てつ機Aの動作状態は異常であると判定される。
【0085】
図18Jは、転換動作直前の負荷ゼロの区間b(
図19参照)が通常よりも短い場合の比較対象データ(転換時データ)の一例を示す図であり、
図18Kは、
図18Jの比較対象データが
図18Fの基準データにオーバーレイされた例を示す図である。
【0086】
<他の実施の形態>
上述の演算処理部1は、転てつ機Aの監視装置Bに組み込まれた例について説明されたが、監視装置Bではなく、監視装置の現場端末(転てつ機等近傍の装置)または表示端末(保守区等に設置するデータ表示装置)のどちらかに組み込んで実施することも可能である。また、オフラインのデータ処理装置として利用することも可能である。