(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、高強度な杭体の需要が多いことから、鋼管コンクリート杭(SC杭;外殻鋼管付き高強度コンクリートパイル)が多く採用されている。鋼管コンクリート杭と基礎コンクリート等の基礎構造物とは、鋼管コンクリート杭における杭頭部の鋼管外周面にその周方向に沿って間隔を隔てて設けられる複数本の杭頭補強鉄筋を、基礎構造物に埋設することで、両者の連結構造が構築される。
【0003】
鋼管コンクリート杭は、強度が高いため、連結構造の強度も高く確保する必要がある。連結構造に太径の杭頭補強鉄筋を使用する場合には、当該太径の杭頭補強鉄筋を、杭頭部の鋼管外周面に対し、フレア溶接して接合することになる。このような接合方法では、溶接品質性能を確保することが難しく、そしてまた、鋼管の肉厚が薄い場合には、当該鋼管の溶け落ちが生じるおそれがあった。
【0004】
太径の杭頭補強鉄筋に代えて、杭頭補強鉄筋の本数を増加させて連結構造を構築する場合には、杭頭補強鉄筋同士の間隔が狭くなってしまう同時に、基礎構造物の鉄筋との取り合い部分で配筋同士が過密に錯綜することとなり、施工面で問題があった。
【0005】
このような課題に対し、杭頭部の鋼管外周面から離隔させた鋼管コンクリート杭側方に、杭頭補強鉄筋を配列するようにして、杭頭補強鉄筋同士の間隔を広く確保するようにした技術が知られている。
【0006】
特許文献1の「鉄筋接続具付のくい」は、くいの頭部の外周に接続具を取付け、接続具の上面に、螺旋状の節を形成した鉄筋を螺合する螺孔を設けている。各接続具は、鋼管くいの頭部に溶接される1枚のブラケットを介して、くいに取り付けられている。
【0007】
特許文献2の「杭頭接合構造」は、鋼管コンクリート杭または鋼管杭等の鋼管を使用した杭の杭頭部外周面に沿って複数の杭頭鉄筋接合部材を設けた杭頭接合構造であって、杭頭鉄筋を挿入して支持する筒状体と、一端側が筒状体をその両側から挟むような状態で設けられていると共に、他端側が鋼管の外周面に溶着された一対の接続板とで構成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、鋼管くいaと鉄筋bが離れているため、鉄筋bに引張力tが作用すると、
図8に示すように、ブラケットcを介して、鋼管くいaには曲げモーメントMが作用して局部的な面外曲げmが生じる。そのため、鋼管くいaの肉厚を厚くしなければならなかった。
【0010】
1枚のブラケットcで鉄筋bからの応力を伝達するため、当該ブラケットcは極厚になる。そのため、極厚なブラケットcと鋼管くいaの肉厚との差が大きくなり、溶接の際に、鋼管くいaの溶け落ちが生じるおそれがあり、溶接品質性能を確保することが難しかった。
【0011】
ブラケットcとその溶接部は、建築基準法の規定から、耐久性(防錆)の観点で、基礎コンクリート中に埋め込む必要がある。鋼管くいaにおける局部の面外曲げ抵抗耐力を増加させるために、鋼管くいaの高さ方向に沿うブラケットcの高さを大きくすると、基礎構造物に埋設しなければならない杭頭部分の高さが高くなってしまい、それに伴って、基礎構造物の高さも高くなってしまって、コストアップを招いてしまう。また、杭頭部分の基礎構造物への埋設高さが杭径寸法以上となれば、その杭頭部分で応力伝達がなされるため、そもそも鉄筋bによる連結構造は不要であった。
【0012】
特許文献2では、1本の杭頭鉄筋を、一対の接続板を介して、鋼管の外周面に溶着するようにしたことで、鋼管における局部の面外曲げ応力が分散し、伝達される応力を考慮しても、特許文献1の場合よりも、鋼管の肉厚や接続板の板厚を薄くすることができる。
【0013】
しかしながら、近年の鋼管コンクリート杭のさらなる高強度化によれば、杭頭補強鉄筋の本数を、さらに増加させなければならない。その際、杭鋼管外周面の周方向で隣り合う杭頭補強鉄筋を個々に杭鋼管に接続する「対の接続板」同士の間隔が狭まると、その間隔を十分に確保できる場合と比較して、やはり、杭鋼管の局部面外曲げ抵抗耐力が低下し、本来求められるべき、杭頭補強鉄筋の引張降伏に基づく連結構造における杭頭部の曲げ耐力が発揮される以前に、杭鋼管が面外曲げ降伏してしまうという、新たな課題が生じることとなっていた。
【0014】
図9は、特許文献2が開示している構成を対象として、杭頭補強鉄筋の間隔が狭まって「対の接続板」d同士の距離eが縮まった場合に、杭鋼管fの局部面外曲げ抵抗耐力が減少して、杭鋼管fが先行して面外曲げ降伏してしまう様子(図中、gで示す)を示すFEM解析の結果である。
【0015】
因みに、杭鋼管fの局部が面外曲げ降伏すると、鋼管コンクリート杭自体の曲げや引張・圧縮降伏耐力が低下し、杭体として、所定の性能を発揮できないこととなる。面外曲げ降伏が先行しないように、杭鋼管fの肉厚を厚くすることが考えられるが、このようにすると、連結構造を組み込むコストに加えて、杭鋼管f自体のコストもアップしてしまい、また、杭体の設計自体をし直すことにもなって、手間がかかってしまう。
【0016】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、杭頭部の杭鋼管外周面から離れた側方に配列された複数の杭頭補強鉄筋を当該杭鋼管に接合するようにした鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造を対象として、杭頭補強鉄筋を適正な本数に設定することを可能にして、杭鋼管の局部面外曲げ降伏の発生を防止することが可能な鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかる鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造は、杭鋼管で外周面が被覆された鋼管コンクリート杭の杭頭部を基礎コンクリートに接合する構造であって、上記杭頭部の上記杭鋼管の外周面に沿って等間隔で配列され、上記基礎コンクリート中に埋設される複数本の杭頭補強鉄筋と、該杭頭補強鉄筋の配列位置に合わせて、上記杭頭部の上記杭鋼管の外周面に沿って複数配設され、互いに向かい合う対の板状支持部分を有し、該板状支持部分の一端側の杭側接合端部分が、該杭鋼管の外周面に対し鉛直縦向きに溶接接合され、他端側の鉄筋側接合端部分が接合手段を介して鉛直縦向きの該杭頭補強鉄筋と接合される鋼製ブラケットとを備え、上記杭鋼管の引張降伏耐力(pTy)と上記杭頭補強鉄筋全本数(n)の引張降伏耐力(n×rTy)との関係が、上記鋼管コンクリート杭の外径及び該杭頭補強鉄筋が接合される上記ブラケットによる当該杭鋼管の面外曲げ抵抗耐力の減少率(α)を算入して、
α×pTy≧n×rTy …式(1)
但し、
0<α≦1
rTy≦cnQy(上記板状支持部分における鉛直方向最小断面での上記ブラケットのせん断耐力)
rTy≦cnMy/L0 (0<L0≦L)
(上記板状支持部分における水平方向任意位置L0の鉛直方向断面での上記ブラケットの曲げ耐力)
ここで、
L:上記ブラケットで連結される上記杭頭補強鉄筋の芯と上記杭鋼管の外周面との間の距離
を満足する(n)本の該杭頭補強鉄筋を設けて設計されることを特徴とする。
【0018】
前記減少率(α)は、
α={(400−D)/2600}+{H/(17×cnt)} …式(2)
但し、400≦D≦1200
ここで、
D:前記鋼管コンクリート杭の外径
H:前記ブラケットの前記杭側接合端部分の鉛直高さ寸法
cnt:前記ブラケットの前記各板状支持部分の一定の板厚
で算定されることを特徴とする。
【0019】
前記ブラケットの前記杭側接合端部分は、その鉛直高さ寸法(H)が、
L≦H<(D−β) …式(3)
ここで、
β:上記ブラケットの上記杭側接合端部分下端から地盤までの距離(被り厚)
であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造にあっては、杭頭部の杭鋼管外周面から離れた側方に配列された複数の杭頭補強鉄筋を当該杭鋼管に接合するようにした鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造を対象として、杭頭補強鉄筋を適正な本数に設定することができ、杭頭補強鉄筋の引張降伏に先行して杭鋼管の局部的な面外曲げ降伏が発生することを確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る鋼管コンクリート杭の杭頭接合構造が適用される鋼管コンクリート杭の杭頭部の一例を示す斜視図、
図2は、
図1に示した鋼管コンクリート杭の杭頭部における杭鋼管と杭頭補強鉄筋の接合部分の拡大側面図、
図3は、
図2中、A−A線矢視断面図、
図4は、
図2に示した杭頭部における杭鋼管と杭頭補強鉄筋についてFEM解析を行った結果と当該結果から得られた近似直線の近似式を表したグラフ図、
図5は、
図2に示した杭鋼管と杭頭補強鉄筋の接合部分の変形例を説明する説明図、
図6は、杭頭補強鉄筋を杭鋼管に接合する鋼製ブラケット及び接合手段の変形例を説明する説明図、
図7は、杭頭補強鉄筋や接合手段と鋼製ブラケットとの接合状態の変形例を説明するための説明図である。
【0023】
鋼管コンクリート杭1は周知であって、
図1〜
図3に示すように、杭頂面となる一端に円形の鋼製リング部材2が接合された管状の杭鋼管3内部に、中空円筒状の杭コンクリート4が形成されて、外周面が杭鋼管3で被覆された形態で地盤Gに打設される。
【0024】
鋼管コンクリート杭1の杭頭部1aは、図示しない基礎コンクリート等の基礎構造物に埋設される。杭頭部1aは、基礎構造物への埋設に際し、以下に説明する連結構造を介して、当該基礎構造物に接合される。
【0025】
鋼管コンクリート杭1の杭頭部1aを基礎構造物に接合する連結構造は主に、基礎構造物中に埋設される複数本の杭頭補強鉄筋5と、これら杭頭補強鉄筋5を個々に杭頭部1aに接合する鋼製ブラケット6とから構成される。杭頭補強鉄筋5は、ネジ節鉄筋の他、端部にネジが形成された竹節鉄筋や丸鋼など、鉄筋であればどのようなものであっても良い。
【0026】
杭頭補強鉄筋5は、鋼管コンクリート杭1における杭頭部1aの杭鋼管3の外周面から離れた側方に、当該外周面の周囲に沿って等間隔で配列される。これら杭頭補強鉄筋5は、鋼管コンクリート杭1の長さ方向である鉛直方向縦向きに立てて設けられる。杭頭補強鉄筋5は、鋼管コンクリート杭1の上部に構築される基礎構造物に埋設されることから、各杭頭補強鉄筋5は、それらの下端部分が杭頭部1aの杭鋼管3外周面に面するように、高さ位置が位置づけられる。
【0027】
鋼製ブラケット6は、杭頭補強鉄筋5の配列位置に合わせて、杭頭部1aの杭鋼管3の外周面に沿って複数配設される。鋼製ブラケット6は、2枚の平板状のブラケット片6aで構成される。これらブラケット片6aは、それらの板厚方向が杭鋼管3の周方向となるようにして、杭鋼管3の外周面の周方向に向かい合わせで配置され、これにより、互いに向かい合う対の板状支持部分6bが構成される。
【0028】
対の板状支持部分6bの間に、杭頭補強鉄筋5の下端部分が挿入され、当該下端部分は対の板状支持部分6bに接合されて支持される。杭鋼管3の外周面に当該外周面から側方へ迫り出されて配設されるブラケット6の各ブラケット片6aは、その一端側の杭側接合端部分6cが、杭鋼管3の外周面に対し鉛直縦向きに溶接接合wされ、これにより、ブラケット片6a(ブラケット6)は、鋼管コンクリート杭1に接合支持される。
【0029】
ブラケット6の各ブラケット片6aは、その他端側、すなわち外向き迫り出し端側の鉄筋側接合端部分6dが、接合手段を介して、鉛直縦向きの杭頭補強鉄筋5と接合される。
図1〜
図3に示した例では、接合手段は、ブラケット片6aの対の板状支持部分6b間に挟み込まれ、これらブラケット片6aの板状支持板部分6bに溶接接合w1されて設けられた断面六角形の筒体状のネジカプラ7に、杭頭補強鉄筋5に螺合されたナット8を締結することで構成される。ネジカプラ7の断面形態は四角形、円形など、どのような形態であっても良い。
【0030】
このネジカプラ7に、杭頭補強鉄筋5の下端部分が締結固定され、これにより、各杭頭補強鉄筋5が、ブラケット6を介して、鋼管コンクリート杭1における杭頭部1aの杭鋼管3外周面に接合される。ブラケット片6a同士の間隔は、ネジカプラ7の収まりが確保できればよい。
【0031】
以上によって連結構造が構成され、当該連結構造を介して、基礎構造物と鋼管コンクリート杭1(杭鋼管3)との間で応力伝達がなされる。ブラケット6(ブラケット片6a)の立面外形形状は、後述するように、杭頭補強鉄筋5が先行して引張降伏する構成であれば、どのような形状であっても良い。
【0032】
本実施形態は、この応力伝達構造において
図2等に示す寸法関係から、杭鋼管3の引張降伏耐力(pTy)と杭頭補強鉄筋5の全本数(n)の引張降伏耐力(n×rTy)との関係が、鋼管コンクリート杭1の外径(D)、並びに杭頭補強鉄筋5が接合されるブラケット6による当該杭鋼管3の面外曲げ抵抗耐力の減少率(α)を算入して、
α×pTy≧n×rTy …式(1)
但し、
0<α≦1
rTy≦cnQy(ブラケット片6a(板状支持部分6b)における鉛直方向最小断面でのブラケット6のせん断耐力)
rTy≦cnMy/L0 (0<L0≦L)
(ブラケット片6a(板状支持部分6b)における、杭頭補強鉄筋5の芯Cを起点とした水平方向任意位置(水平方向任意距離)L0(
図2参照)の鉛直方向断面でのブラケット6の曲げ耐力)
ここで、
L:ブラケット6(ブラケット片6a)で連結される杭頭補強鉄筋5の芯Cと杭鋼管3の外周面(溶接接合wされるブラケット6の杭側接合端部分6c)との間の距離
を満足する(n)本の杭頭補強鉄筋5を設けて設計されて、鋼管コンクリート杭1の杭頭接合構造が構成される。
【0033】
杭頭補強鉄筋5が複数本、少なくとも4本以上配置された鋼管コンクリート杭1の杭頭接合構造の場合、杭鋼管3外周面の周方向で隣り合う2組のブラケット6同士の間隔が近接することに伴う杭鋼管3の局部面外曲げ抵抗耐力の減少を生じさせることなく、個々の杭頭補強鉄筋5の強度を十分に発揮させるためには、杭鋼管3の引張降伏耐力(pTy)と複数(n)本の杭頭補強鉄筋5の引張降伏耐力の総和(n×rTy)のバランスを考慮することが重要であることを見出した。
【0034】
上記式(1)中、鉛直方向に関し、杭鋼管3の引張降伏耐力(pTy)、杭頭補強鉄筋5の引張降伏耐力(rTy)、対のブラケット片6aからなるブラケット6のせん断耐力(cnQy)、並びに杭鋼管3と溶接接合wされる杭側接合端部分6cにおける当該ブラケット6の曲げ耐力(cnMy)は、周知の一般式から、下記の通りである。
【0035】
(a)杭鋼管3の引張降伏耐力:pTy
pTy=pσy×pA
=pσy×π(D×pt−pt
2 )
pσy:杭鋼管3の引張降伏応力度
pA:杭鋼管3の断面積
D:杭鋼管3(鋼管コンクリート杭1)の外径
pt:杭鋼管3の肉厚
【0036】
(b)杭頭補強鉄筋5の引張降伏耐力:rTy
rTy=rσy×rA
=rσy×π×(rd
2 /4)
rσy:杭頭補強鉄筋5の引張降伏応力度
rA:杭頭補強鉄筋5の公称断面積
rd:杭頭補強鉄筋5の公称直径
【0037】
(c)ブラケット6のせん断耐力:cnQy
cnQy=cnτy×cnA
cnτy:ブラケット6(ブラケット片6a)のせん断降伏応力度
cnA:ブラケット6(ブラケット片6aの2枚分)の鉛直方向最小断面部分の断面積
【0038】
(d)ブラケット6の杭側接合端部分6cにおける曲げ耐力:cnMy
cnMy=cnσy×cnZ
=cnσy×cnT×(H
2 /6)
cnσy:ブラケット6(ブラケット片6a)の曲げ降伏応力度
cnZ:ブラケット6(ブラケット片6aの2枚分)の断面係数
cnT:ブラケット6(ブラケット片6aの2枚分)の板厚
H:ブラケット6(ブラケット片6a)の杭側接合端部分6cの鉛直高さ寸法
【0039】
そしてさらに、後述する解析結果から、杭鋼管3(鋼管コンクリート杭1)の外径(D)が大きくなると、杭鋼管3外周面が円弧状から平坦状に近づくことに起因して、面外曲げ抵抗耐力が減少すること、また、ブラケット6の各ブラケット片6aの板厚(cnt)に対するブラケット6(ブラケット片6a)の杭側接合端部分6cにおける鉛直方向寸法(H)の比(H/cnt)が大きくなるほど、面外曲げ抵抗耐力が増加することを見出し、杭鋼管3の外径(D)及び杭鋼管3に接合され、杭頭補強鉄筋5と接合されるブラケット6による当該杭鋼管3の面外曲げ抵抗耐力の減少率(α)なる係数を設定し、これにより鋼管コンクリート杭1の杭頭補強構造を設計することとした。
【0040】
減少率(α)は、0<α≦1である。減少率(α)が「0」以下(α≦0)であることはなく、また、減少率(α)が「1」よりも大きいとは、選定されて考慮すべき杭鋼管3の性能を越えて杭頭補強鉄筋5の引張降伏耐力(rTy)を検討することとなって、不合理だからである。
【0041】
(A)式(1):杭頭補強鉄筋5の設置本数(n)について
杭頭補強鉄筋5の引張降伏耐力の総和(n×rTy)は、杭鋼管3の引張降伏耐力(pTy)について減少率(α)倍以下に設定される。杭頭補強鉄筋5の先行降伏を確保して当該杭頭補強鉄筋5の性能を設計通りに発揮させるため、杭頭補強鉄筋5の1本当たりの引張降伏耐力(rTy)については、(イ)ブラケット6の上記せん断耐力(cnQy)以下とし、かつ、(ロ)ブラケット6の上記水平方向任意位置(L0)における曲げ耐力(cnMy/L0)以下とされる。
【0042】
これにより、ブラケット6が降伏することなく、杭頭補強鉄筋5に作用する応力は杭鋼管3に確実に伝達される。
【0043】
(B)式(2):減少率(α)について
減少率(α)は具体的には、
α={(400−D)/2600}+{H/(17×cnt)} …式(2)
但し、400≦D≦1200
ここで、
D:鋼管コンクリート杭1の外径
H:ブラケット6(ブラケット片6a)の杭側接合端部分6cの鉛直高さ寸法
cnt:ブラケット片6a(板状支持部分6b)の一定の板厚
で算定される。
【0044】
減少率(α)の定量的検討は、FEM解析の結果に基づいて行った。このFEM解析は、杭頭補強鉄筋5が降伏したときと、杭鋼管3が局部面外曲げ降伏したときとの杭頭補強鉄筋5の本数、換言すれば、ブラケット6同士の間隔の臨界値を見出すことを目的とする。
【0045】
FEM解析は、市場に流通されている鋼管コンクリート杭1のほぼすべてを占めている外径(D)の範囲(D=φ400〜1200)であって、最小のものと、最大のもの、並びにその中間のもの(φ600,φ1000)を選出し、杭頭補強鉄筋5の本数を異ならせる以外、その他の条件は同一として行った。
【0046】
表1には、FEM解析に際して選定した杭鋼管3(鋼管コンクリート杭1)、ブラケット6、杭頭補強鉄筋5の各仕様が示されている。
【0050】
杭鋼管3の外径(D)が例えばφ400である場合、杭頭補強鉄筋5がn=7本の場合には、杭頭補強鉄筋5が引張降伏(判定:鉄筋降伏)し、(n+1)=8本の場合には、杭鋼管3が面外曲げ降伏(判定:鋼管降伏)する。解析結果によれば、このときの減少率(α)(=n×rTy/pTy:結果α)は、n=7本のとき、0.87であり、n=8本のとき、0.99であった。杭鋼管3の外径がφ600,1000,1200の場合についても、同様に解析を行っていて、その結果が示されている。
【0051】
図4のグラフ図は、上記解析結果の数値をプロットしたものである。縦軸は、(n×rTy/pTy(=α))であり、横軸は、鋼管コンクリート杭1の外径(D)である。○は杭頭補強鉄筋5が引張降伏した場合であり、×は杭鋼管3が面外曲げ降伏した場合である。そして、×のプロットを越えない○のプロットに関する線形の近似直線を求めた。
【0052】
図中、この近似直線より上側(×側)となるような値(減少率(α))を採用した場合には、杭頭補強鉄筋5よりも先に杭鋼管3の局部が面外曲げ降伏することとなり、鋼管コンクリート杭1に所定の性能を発揮させることができない。
【0053】
グラフに現れた結果に基づいて、線形の近似直線の近似式(式(2))を作成した。作成にあたっては、上述した減少率(α)に影響する鋼管コンクリート杭1の外径(D)と、ブラケット片6aの板厚(cnt)に対する、ブラケット6(ブラケット片6a)の杭側接合端部分6cにおける鉛直高さ寸法(H)の比(H/cnt)を考慮していて、式(2)の第1項は、鋼管コンクリート杭1の外径(D)の影響に対応し、第2項は、ブラケット6に関する比率の影響に対応する。ここで、第1項については、鋼管コンクリート杭1の最小の外径(D)であるφ400の場合に、「0」となるようにした。つまり、杭鋼管3の外周面が一番円弧状を呈するφ400の減少率(α)については、板状支持部分6bの板厚(cnt)と杭側接合端部分6cの鉛直高さ寸法(H)との比率の関係で評価することができる。
【0054】
当該式(2)を満足する減少率(α)である限り、杭頭補強鉄筋5が先行して引張降伏して、当該杭頭補強鉄筋5の強度を十分に発揮させることができ、杭鋼管3の面外曲げ降伏が抑制される。表2中、項目「α(式(2))」は、当該近似式に表1の数値を当てはめた場合の計算上の結果である。式(2)を適用することにより、鋼管コンクリート杭1の外径(D)、杭鋼管の肉厚(pt)、ブラケット6の諸元、並びに杭頭補強鉄筋5の諸元を考慮に入れた具体的な減少率(α)を確定することができる。
【0055】
上記近似式(式(2))は、杭鋼管3の各種肉厚(pt)それぞれについても同様にFEM解析を行った結果、これら各種肉厚(pt)に対しても同一の式(2)を適用し得ることが確認された。
【0056】
(C)式(3):ブラケット6の杭側接合端部分6cの鉛直高さ寸法(H)について
ブラケット6(ブラケット片6a)の杭側接合端部分6cの鉛直高さ寸法(H)は、
L≦H<(D−β) …式(3)
ここで、
β:ブラケット6の杭側接合端部分6c下端から地盤Gまでの距離(被り厚)
とされる。
【0057】
ブラケット6(ブラケット片6a)の降伏耐力は、杭頭補強鉄筋5との関係において、杭頭補強鉄筋5の降伏耐力以上であって、かつブラケット6の杭側接合端部分6cの溶接接合w部分は、杭鋼管3や杭頭補強鉄筋5が降伏等しても、破壊を生じない強度に設定される。また、ブラケット6やその溶接接合w部分は前述したように、鋼管コンクリート杭1が打ち込まれて埋設される地盤Gから所定の被り厚(β)を確保した状態で基礎コンクリート中に埋め込む必要がある。被り厚(β)は通常、60mmとされる。
【0058】
(H)<(D−β)の条件については、鉛直高さ寸法(H)が、鋼管コンクリート杭1の外径(D)から被り厚(β)を差し引いた値以上、すなわち、杭頭部1aの基礎コンクリートへの埋設高さ(H+β)が当該外径(D)以上である場合には、鋼管コンクリート杭1自体で基礎コンクリートからの曲げ応力の伝達が可能であって、杭頭補強鉄筋5を配設する必要はないからである。
【0059】
他方、(L)≦(H)の条件については、鉛直高さ寸法(H)は、ブラケット6における杭頭補強鉄筋5の芯Cから杭鋼管3の外周面(ブラケット6の杭側接合端部分6c)までの距離(L)以上であることが必要であるからである。(L)>(H)の場合には、ブラケット6の杭側接合端部分6cに生じる曲げ応力が過大となり、杭鋼管3の局部的な面外曲げ降伏を助長するおそれがある。
【0060】
式(3)を適用することにより、ブラケット6(ブラケット片6a)で連結される杭頭補強鉄筋5の芯Cと杭鋼管3の外周面(溶接接合wされるブラケット6の杭側接合端部分6c)との間の距離(L)及び鋼管コンクリート杭1の基礎構造物への埋設状態を考慮に入れた具体的なブラケット6の杭側接合端部分6cの鉛直高さ寸法(H)を確定することができる。
【0061】
(D)その他
ブラケット6におけるブラケット片6aそれぞれの板厚(cnt)、並びに杭頭補強鉄筋5の公称直径(rd)は共に、杭鋼管3の肉厚(pt)以上とする。本実施形態のように、対の板状支持部分6bの間においてネジカプラ7等の接合手段を介して杭頭補強鉄筋5を接合する構造では、基礎構造物を構築するコンクリートCAがこれら部材で囲まれた内部にも回り込んで充填される構造となる。
【0062】
充填されたコンクリートCAは、板状支持部分6bや杭頭補強鉄筋5による拘束効果によってその強度が増大することから、杭鋼管3における局部的な面外曲げの変形を抑制する作用を発揮する。このような作用が確実に発揮されるコンクリート拘束効果を得るために、ブラケット片6aの板厚(cnt)及び杭頭補強鉄筋5の公称直径(rd)は、杭鋼管3の肉厚(pt)以上に設定される。
【0063】
杭鋼管3の局部的な面外曲げ変形を抑制する効果が大きいのは、杭鋼管3の外周面に面した位置にある杭頭補強鉄筋5であるので、(rd)>(pt)に設定することが望ましく、これにより、杭鋼管3の局部的な面外曲げ変形がさらに抑制される。
【0064】
本実施形態に係る鋼管コンクリート杭1の杭頭接合構造では、杭頭部1aの杭鋼管3の外周面に沿って等間隔で配列され、基礎コンクリート中に埋設される複数本の杭頭補強鉄筋5と、杭頭補強鉄筋5の配列位置に合わせて、杭頭部1aの杭鋼管3の外周面に沿って複数配設され、互いに向かい合う対の板状支持部分6bを有し、板状支持部分6bの一端側の杭側接合端部分6cが、杭鋼管3の外周面に対し鉛直縦向きに溶接接合wされ、他端側の鉄筋側接合端部分6dがネジカプラ7などの接合手段を介して鉛直縦向きの杭頭補強鉄筋5と接合される鋼製ブラケット6とを備えて、杭頭部1aの杭鋼管3外周面から離れた側方に配列した複数の杭頭補強鉄筋5を当該杭鋼管3に接合するようにした鋼管コンクリート杭1の杭頭接合構造を対象とする場合に、杭鋼管3の引張降伏耐力(pTy)と杭頭補強鉄筋5の全本数(n)の引張降伏耐力(n×rTy)との関係が、鋼管コンクリート杭1の外径(D)及び杭頭補強鉄筋5が接合されるブラケット6による、当該杭鋼管3の面外曲げ抵抗耐力の減少率(α)を算入して、上記式(1)を満足する(n)本の杭頭補強鉄筋5を設けて設計されるので、杭鋼管3の外径(D)に対応した適正な本数に杭頭補強鉄筋5を設定することができ、換言すれば、杭頭部1aにおける杭鋼管3外周面周りに、ブラケット6同士の適正な間隔を確保することができ、杭鋼管3の局部面外曲げ降伏の発生を適切に防止することができる。
【0065】
そして、杭鋼管3の局部面外曲げ降伏を防止することができるので、鋼管コンクリート杭1自体の曲げや引張・圧縮降伏耐力の低下を防ぐことができ、これにより鋼管コンクリート杭1として、所定の性能を発揮させることができる。
【0066】
また、上記構成であれば、面外曲げ降伏が先行しないように、杭鋼管3の肉厚(pt)を厚くすることに比し、杭鋼管3自体のコストアップを防止できるので、鋼管コンクリート杭1の設計変更が不要であって、簡便かつ適切に鋼管コンクリート杭1の杭頭接合構造を設計することができる。
【0067】
図5は、
図2に示した杭鋼管3と杭頭補強鉄筋5の接合部分の変形例を説明する説明図である。
図5(A)は、上述した断面六角形のネジカプラ7に代えて、断面円形のネジカプラ7を用いた場合が示されている。
図5(B)は、断面円形のネジカプラ7が用いられ、かつ、対の板状支持部分6bの間隔が、杭側接合端部分6cへ向かうにつれて次第に広がる形態に形成された2枚のブラケット片6aを採用した場合が示されている。このような変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0068】
図6は、杭頭補強鉄筋5を杭鋼管3に接合する鋼製ブラケット6及び接合手段の変形例を説明する説明図である。上記実施形態では、接合手段として、2枚のブラケット片6a間にネジカプラ7を挟み込み、このネジカプラ7に、杭頭補強鉄筋5に螺合したナット8を締結する構成を採用し、これにより杭頭補強鉄筋5をブラケット6に接合するようにしている。
【0069】
これに代えて、
図6(A)では、接合手段として、2枚のブラケット片6aに対し、それらの上方及び下方からプレートピース9を一対接合し、これらプレートピース9の孔部9aに挿入される杭頭補強鉄筋5に対し、上下二方向からナットを螺合して当該プレートピース9に締結する構成としている。
【0070】
図6(B)では、ブラケット6を2枚のブラケット片6aで構成することに代えて、折曲成形により対の板状支持部分6bが形成されるU字状の単一板材のブラケット6で構成した場合である。U字状に限らず、V字状やコ字状であっても良く、また、接合手段は、
図2や
図5に示したネジカプラ7を用いたものであっても、
図6(A)に示した上下一対のプレートピース9を用いたものであっても良い。
【0071】
図6(C)は、
図6(B)の単一板材で形成したブラケット6の杭側接合端部分6c周辺を狭めるように絞り成型したものである。接合手段は、
図6(B)の場合と同様、ネジカプラ7を用いたものであっても、上下一対のプレートピース9を用いたものであっても良い。
【0072】
図6(D)は、
図2や
図5に示したように、ブラケット片6a間にネジカプラ7を挟み込む形態に代えて、挟み込まずに、2枚のブラケット片6aの鉄筋側接合端部分6d先端にネジカプラ7を溶接接合したものである。これらいずれの変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0073】
図7は、杭頭補強鉄筋5や接合手段と鋼製ブラケット6との接合状態の変形例を説明するための説明図である。
図7に示した変形例の構成は、杭頭補強鉄筋5とブラケット6との間に、間隙Sがあっても、板状支持部分6bを介して、杭頭補強鉄筋5から杭鋼管3への応力伝達が可能であることを示している。
【0074】
図7(A)は、
図6(A)の上下一対のプレートピース9を接合手段に利用した場合に、ネジ節鉄筋である杭頭補強鉄筋5及び2枚のブラケット片6aの板状支持部分6bで、その内部に充填されるコンクリートCAが拘束される。
【0075】
図7(B)は、ネジカプラ7を接合手段とした場合に、杭頭補強鉄筋5に螺入されるナット8の締結作用で当該ナット8がブラケット片6aに係合され、これによりネジカプラ7がブラケット片6aに支持固定されることで、ネジカプラ7及び2枚のブラケット片6aの板状支持部分6bで、その内部に充填されるコンクリートCAが拘束される。
【0076】
図7(C)は、
図6(B)に示したブラケット6に対し、上下一対のプレートピース9を接合手段とした場合に、異形鉄筋である杭頭補強鉄筋5及びU字形状等のブラケット6の対の板状支持部分6bで、その内部に充填されるコンクリートCAが拘束される。
【0077】
図7(D)は、ネジ節鉄筋である杭頭補強鉄筋5の四隅を2枚のブラケット片6aに対し、当該ブラケット片6aとの間に間隙Sがある状態で溶接接合するようにし、この溶接接合を接合手段とした場合であって、ネジ節鉄筋である杭頭補強鉄筋5及び2枚のブラケット片6aの板状支持部分6bで、その内部に充填されるコンクリートCAが拘束される。これらいずれの変形例にあっても、杭頭補強鉄筋5とブラケット6の間に間隙Sが生じる構造を採用しても、必要な応力伝達を確保することができる。