特許第6335118号(P6335118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335118
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】腎細胞癌の予後予測方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20180521BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】62
(21)【出願番号】特願2014-514703(P2014-514703)
(86)(22)【出願日】2013年4月30日
(86)【国際出願番号】JP2013062650
(87)【国際公開番号】WO2013168644
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2016年4月27日
(31)【優先権主張番号】61/646044
(32)【優先日】2012年5月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 弥栄
(72)【発明者】
【氏名】新井 恵吏
(72)【発明者】
【氏名】田 迎
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−063413(JP,A)
【文献】 特表2009−519039(JP,A)
【文献】 特表2008−535853(JP,A)
【文献】 特表2011−525114(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/032721(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/148983(WO,A1)
【文献】 KAWAI, Y. et al.,"Methylation level of the RASSF1A promoter is an independent prognostic factor for clear-cell renal carcinoma.",ANNALS OF ONCOLOGY,2010年 8月,Vol.21, No.8,P.1612-1617
【文献】 VAN VLODROP, I.J.H. et al.,"Prognostic significance of Gremlin1 (GREM1) promoter CpG island hypermethylation in clear cell renal cell carcinoma",THE AMERICAN JOURNAL OF PATHOLOGY,2010年 2月,Vol.176, No.2,P.575-584
【文献】 ARAI, E. et al.,"Genetic and epigenetic alterations during renal carcinogenesis.",INTERNATIONAL JOURNAL OF CLINICAL AND EXPERIMENTAL PATHOLOGY,2010年12月13日,Vol.4, No.1,P.58-73
【文献】 ARAI, E. et al.,"Single-CpG-resolution methylome analysis identifies clinicopathologically aggressive CpG island methylator phenotype clear cell renal cell carcinomas.",CARCINOGENESIS,2012年 8月,Vol.33, No.8,P.1487-1493,E-Pub, May-18-2012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法であって、
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、FAM150AのCpGサイトから選択される少なくとも一のCpGサイトのDNAメチル化レベルを検出する工程、及び
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルを高メチル化状態であると認めた場合に、前記被験体予後不良群に分類する工程、
を含み、かつ前記FAM150AのCpGサイトが、配列番号:4に記載の塩基配列における26番目及び30番目のCpGサイトである、方法(但し、医師による判断行為を除く)。
【請求項2】
工程(b)において、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2のCpGサイトから選択される少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを、更に検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2のCpGサイトが、配列番号:10に記載の塩基配列における6、9、10及び11番目のCpGサイト、配列番号:7に記載の塩基配列における1、4、5及び6番目のCpGサイト、配列番号:12に記載の塩基配列における8番目のCpGサイト、配列番号:9に記載の塩基配列における11、12、27、28、29、35及び40番目のCpGサイト、配列番号:13に記載の塩基配列における10、26、28、29及び31番目のCpGサイト、並びに、配列番号:1に記載の塩基配列における12、21、22、23、24、25、26、30及び31番目のCpGサイトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法であって、
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、配列番号:4に記載の塩基配列における26番目及び30番目のCpGサイト、配列番号:10に記載の塩基配列における6、9、10及び11番目のCpGサイト、配列番号:7に記載の塩基配列における1、4、5及び6番目のCpGサイト、配列番号:12に記載の塩基配列における8番目のCpGサイト、配列番号:9に記載の塩基配列における11、12、27、28、29、35及び40番目のCpGサイト、配列番号:13に記載の塩基配列における10、26、28、29及び31番目のCpGサイト、並びに、配列番号:1に記載の塩基配列における12、21、22、23、24、25、26、30及び31番目のCpGサイト全てのDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルを高メチル化状態であると認めた場合に、前記被験体予後不良群に分類する工程、
を含む方法(但し、医師による判断行為を除く)。
【請求項5】
工程(b)が、工程(a)で調製したゲノムDNAをバイサルファイト処理し、前記CpGサイトのDNAメチル化レベルを検出する工程である、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の方法に用いるための、少なくとも15塩基の鎖長を有する、下記(a)〜(d)に記載のいずれかであるオリゴヌクレオチド
(a)配列番号:4に記載の塩基配列における26番目及び30番目のCpGサイトからなる群から選択される少なくとも一のCpGサイトを挟み込むように設計された一対のプライマーセット
(b)配列番号:4に記載の塩基配列における26番目及び30番目のCpGサイトからなる群から選択される少なくとも一のCpGサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズするプライマー又はプローブ
(c)GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2のCpGサイトから選択されるCpGサイトを挟み込むように設計された、少なくとも一対のプライマーセットと、(a)に記載の一対のプライマーセットとの組み合わせ
(d)GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2のCpGサイトから選択されるCpGサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズする、少なくとも一のプライマー又はプローブと、(b)に記載のプライマー又はプローブとの組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAメチル化レベルを検出することを含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出するための方法に関する。また、本発明は、前記方法に用いられるオリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
腎細胞癌(RCC)は、労働人口に属する壮年期にもしばしば発生し、腎摘除術で根治する症例群が大勢をなす反面、急速に遠隔転移を来す症例群も明らかに存在し、両者の臨床経過には大きな差違がある。さらに、転移しても免疫療法・分子標的治療薬等が奏功する症例が知られている。再発の可能性が高い症例は密に経過観察して再発を早期に診断し、後療法を追加すれば予後が改善できる可能性がある。しかし、病理組織学的に低異型度で最もありふれた組織型である淡明細胞型RCCに属しながら急速に遠隔転移を来す症例が経験され、既存の臨床病理学的因子等による予後予測は困難である。
【0003】
淡明細胞型RCCは、VHL腫瘍抑制遺伝子の不活性化を特徴とすることがよく知られている。また、RCCの体系的なリシークエンシング及びエクソン解析が、癌ゲノムアトラス計画、癌ゲノムプロジェクト及び他の国際的取り組みにおいて、実施されている。そして、このような取り組みによって、腎細胞癌発生には、ヒストンH3リジン36メチルトランスフェラーゼであるSETD2、ヒストンH3リジン4デメチラーゼであるJARID1C(KDM5C)、ヒストンH3リジン27デメチラーゼであるUTX(KDM6A)、SWI/SNFクロマチンリモデリング因子であるPBRM1等のヒストン修飾遺伝子の不活性化が寄与していることが明らかになっている(非特許文献1〜3)。さらに、RCCにおいて、NF2遺伝子の非同義変異及びMLL2遺伝子の欠失型変異も報告されている(非特許文献1)。しかしながら、このような遺伝子変異は、前述のRCCにおける臨床経過の差異等(臨床病理学的な多様性)を完全に説明できるものではない。
【0004】
癌の発生過程において、ジェネティックな事象のみならず、エピジェネティックな事象が認められており、これら双方の事象が、様々な組織において互いに関連しながら臨床病理学的な多様性を招いている。また、DNAメチル化の変化は、ヒト癌における主要なエピジェネティック変化の一つであると考えられている。
【0005】
実際、RCCに関し、メチル化特異的PCR(MSP)、COBRA(バイサルファイトと制限酵素との併用による解析)及び細菌人工染色体(BAC)アレイに基づくメチル化CpGアイランド増幅法(BAMCA法)による解析によって、本発明者らは、RCC患者から得た非癌腎皮質組織は、DNAメチル化状態の変化に関連した前癌段階に既にあることを示している(特許文献1及び非特許文献4〜7)。さらに、BAMCA法によるゲノムワイドな解析によって、前癌段階にある非癌腎皮質組織のDNAメチル化の変化は、同一患者の対応するRCCに受け継がれていることも明らかにし、RCC症例の予後を予測する方法を開発することに成功している(特許文献1及び非特許文献6)。
【0006】
しかしながら、BAMCA法によるDNAメチル化状態の評価手技は煩雑であり、さらには、かかるBAMCA法によるRCC症例の予後予測においては、発明当時BACクローンでカバーできる染色体領域が極めて限られていたので、真に診断能力の高いメチル化CpGサイトが同定されていなかった。
【0007】
また、癌におけるDNAメチル化に関し、大腸癌及び胃癌等において、症例の臨床病理学的因子と相関するCpGアイランドのDNAメチル化亢進が蓄積する癌の形質(CIMP)の存在が明らかになっている(非特許文献8〜11)。
【0008】
しかしながら、腎細胞癌においては、CIMP陽性形質と腎細胞癌との関連は未だ明らかになっていないと考えられている(非特許文献12)。実際、個々の腫瘍におけるメチル化CpGの数が、期待されるポアソン分布とは異なる分布を示すという知見に基づき、腎細胞癌の一部はCIMPを示す可能性が推定されていたものの、腎臓において、CIMP陽性腎細胞がんの存在は確定しておらず、特徴となる明確なCpGサイトは同定されていない(非特許文献13)。
【0009】
かかる状況から、腎細胞癌においても、RCCの臨床病理学的因子と強く相関しCpGアイランドにおけるDNAメチル化が蓄積する形質(CIMP)の存在を示し、CIMPのマーカーとなるCpG部位を同定して、簡便かつ極めて感度及び特異性高くRCCの予後を予測することのできる方法が希求されてはいるものの、実用化されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−63413号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dalgliesh,G.L.ら、Nature、2010年、463巻、360〜363ページ
【非特許文献2】van Haaften,G.ら、Nat.Genet.、2009年、41巻、521〜523ページ
【非特許文献3】Varela,I.ら、Nature、2011年、469巻、539〜542ページ
【非特許文献4】Arai,E.ら、Clin.Cancer Res.、2008年、14巻、5531〜5539ページ
【非特許文献5】Arai,E.ら、Int.J.Cancer、2006年、119巻、288〜296ページ
【非特許文献6】Arai,E.ら、Carcinogenesis、2009年、30巻、214〜221ページ
【非特許文献7】Arai,E.ら、Pathobiology、2011年、78巻、1〜9ページ
【非特許文献8】Issa,J.P.、Nat.Rev.Cancer,、2004年、4巻、988〜993ページ
【非特許文献9】Toyota,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999年、96巻、8681〜8686ページ
【非特許文献10】Shen,L.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2007年、104巻、18654〜18659ページ
【非特許文献11】Toyota,M.ら、Cancer Res.、1999年、59巻、5438〜5442ページ
【非特許文献12】Morris,M.R.ら、Genome Med.、2010年、2(9):59
【非特許文献13】McRonald,F.E.ら、Mol.Cancer、2009年、8:31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
簡便かつ極めて感度及び特異性高く、腎細胞癌の予後不良リスクを決定するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、1CpG解像度インフィニウムアレイを用い、29の正常腎皮質組織(C)サンプル、淡明細胞型腎細胞癌(clear cell RCC)の患者より得られた107の非癌腎皮質組織(N)サンプル及び109の癌組織(T)サンプルについて、メチローム解析を行った。その結果、NサンプルのDNAメチル化レベルは、Cサンプルと比較して、4830CpGサイトにおいて既に変化していることが明らかになった。さらに、NサンプルにおいてDNAメチル化の変化が生じており、それらの変化がTサンプルに引き継がれ亢進しているサイト、801CpGサイトを同定し、この801CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルに基づき、教師なし階層的クラスタリング解析を行った。その結果、腎細胞癌はクラスターA(n=90)とクラスターB(n=14)とに分けられることを見出した。そして、このクラスターBには、臨床病理学的に悪性度の高い腫瘍が集積しており、またこのクラスターBに属する患者の無癌生存率(無再発生存率)及び全体的な生存率(全生存率)は、クラスターAに属する患者のそれらよりも有意に低いことも見出した。すなわち、クラスターBに属する腎細胞癌は、CpGアイランドにおけるDNA高メチル化の蓄積によって特徴付けられ、CpGアイランドメチル化形質(CIMP)陽性癌であることを明らかにした。
【0014】
さらに、FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2遺伝子のCpGサイトにおけるDNA高メチル化は、腎細胞癌におけるCIMPの特徴であることも初めて見出した。
【0015】
なお、特許文献1及び非特許文献6に示す、DNAメチル化の有無を調べることによって、腎細胞癌の予後予測に有効であると同定された腎細胞癌関連領域(70のBACクローン)には、今回同定された17遺伝子のCpGサイトは一つも含まれていなかった。
【0016】
また、これら17遺伝子のCpGサイトにおける高メチル化状態は、インフィニウムアレイを用いた解析以外の方法(パイロシークエンシング法及び質量分析計を用いたDNAメチル化解析法)においても検出できることも確認し、本発明を完成するに至った。本発明は、より詳しくは、以下のものである。
<1> 下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、FAM150AのCpGサイトから選択される少なくとも一のCpGサイトのDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法
<2> 前記FAM150AのCpGサイトが、配列番号:4に記載の塩基配列における26番目及び30番目のCpGサイトである、<1>に記載の方法。
<3> 工程(b)において、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2のCpGサイトから選択される少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを、更に検出する、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 前記GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2のCpGサイトが、配列番号:10に記載の塩基配列における6、9、10及び11番目のCpGサイト、配列番号:7に記載の塩基配列における1、4、5及び6番目のCpGサイト、配列番号:12に記載の塩基配列における8番目のCpGサイト、配列番号:9に記載の塩基配列における11、12、27、28、29、35及び40番目のCpGサイト、配列番号:13に記載の塩基配列における10、26、28、29及び31番目のCpGサイト、並びに、配列番号:1に記載の塩基配列における12、21、22、23、24、25、26、30及び31番目のCpGサイトである、<3>に記載の方法。
<5> 下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、配列番号:1に記載の塩基配列における21、22、23、24、25、26、30及び31番目のCpGサイトからなる群から選択される少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法。
<6> 下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、配列番号:9に記載の塩基配列における11及び12番目のCpGサイトからなる群から選択される少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法。
<7> 下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、配列番号:10に記載の塩基配列における10及び11番目のCpGサイトからなる群から選択される少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法。
<8> 下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、配列番号:13に記載の塩基配列における26番目のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法。
<9> 下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、配列番号:4に記載の塩基配列における26番目及び30番目のCpGサイト、配列番号:10に記載の塩基配列における6、9、10及び11番目のCpGサイト、配列番号:7に記載の塩基配列における1、4、5及び6番目のCpGサイト、配列番号:12に記載の塩基配列における8番目のCpGサイト、配列番号:9に記載の塩基配列における11、12、27、28、29、35及び40番目のCpGサイト、配列番号:13に記載の塩基配列における10、26、28、29及び31番目のCpGサイト、並びに、配列番号:1に記載の塩基配列における12、21、22、23、24、25、26、30及び31番目のCpGサイトからなる群から選択される少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法。
<10> 工程(b)において、前記CpGサイト全てのDNAメチル化レベルを検出する、<9>に記載の方法。
<11> 工程(b)が、工程(a)で調製したゲノムDNAをバイサルファイト処理し、前記CpGサイトのDNAメチル化レベルを検出する工程である、<1>〜<10>のうちのいずれか一に記載の方法。
<12> <1>〜<11>のうちのいずれか一に記載の方法に用いるための、少なくとも12塩基の鎖長を有する、下記(a)〜(b)に記載のいずれかであるオリゴヌクレオチド
(a)前記遺伝子群から選択される遺伝子の少なくとも一のCpGサイトを挟み込むように設計された一対のプライマーセット
(b)前記遺伝子群から選択される遺伝子の少なくとも一のCpGサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズするプライマー又はプローブ。
【発明の効果】
【0017】
腎細胞癌の予後不良リスクを、簡便かつ極めて感度及び特異性高く決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】淡明細胞型腎細胞癌患者に由来する、非癌腎皮質組織(N)と腫瘍性組織(T)との組織学的差異を示す顕微鏡写真である。すなわち、Nは主に近位尿細管からなる。一方、Tには胞状構造が認められ、また、腫瘍細胞の細胞質は脂質及びグリコーゲンにて充満されており、はっきりとした細胞膜にて囲まれている。さらに、腫瘍細胞の核は、円形状をとる傾向にあり、細かい顆粒状の均一に分散されたクロマチンを伴っていることを示す顕微鏡写真である。
図2】ZFP42遺伝子のCpGサイトに関し、インフィニウムアッセイによって検出されたDNAメチル化レベル(β値)と、パイロシークエンシングによって検出されたDNAメチル化レベルとの相関を示すグラフである。
図3】ZFP154遺伝子のCpGサイトに関し、インフィニウムアッセイによって検出されたDNAメチル化レベル(β値)と、パイロシークエンシングによって検出されたDNAメチル化レベルとの相関を示すグラフである。
図4】ZFF540遺伝子のCpGサイトに関し、インフィニウムアッセイによって検出されたDNAメチル化レベル(β値)と、パイロシークエンシングによって検出されたDNAメチル化レベルとの相関を示すグラフである。
図5】淡明細胞型腎細胞癌の患者104人の801プローブ(CpGサイト)における癌組織(T)と非癌組織(N)とのDNAメチル化レベルの差(ΔβT−N)を、教師なし階層的クラスタリングすることによって、クラスターA(n=90)及びクラスターB(n=14)にサブクラスター化できたことを示す図である。なお、前記801プローブにおけるDNAメチル化は、前癌段階にて変化が生じており、引き続き腎細胞の癌化に寄与していることが考えられる。
図6】淡明細胞型腎細胞癌の患者(クラスターAに属する患者及びクラスターBに属する患者)に関し、術後の無再発生存率の経時的変化を示すグラフである。
図7】淡明細胞型腎細胞癌の患者(クラスターAに属する患者及びクラスターBに属する患者)に関し、術後の全生存率の経時的変化を示すグラフである。
図8】インフィニウムアッセイの検出対象とした26454個の全てのプローブに対し、淡明細胞型腎細胞癌患者の非癌組織(Nサンプル)と該患者の癌組織(Tサンプル)とでDNAメチル化レベルの差(ΔβT−Nの絶対値)が0.1以上認められたプローブの割合を示すグラフである。図中、「全症例」は解析した淡明細胞型腎細胞癌患者全ての結果を示し、「A」は解析した淡明細胞型腎細胞癌患者の内、クラスターAに属する淡明細胞型腎細胞癌患者を示し、「B」は解析した淡明細胞型腎細胞癌患者の内、クラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者を示す。バーはSD(標準偏差)を示し、「NS」は有意差が認められないことを示す(図9〜12において同じ)。
図9】インフィニウムアッセイの検出対象とした26454個の全てのプローブに対し、NサンプルとTサンプルとでDNAメチル化レベルの差(ΔβT−Nの絶対値)が0.2以上認められたプローブの割合を示すグラフである。
図10】インフィニウムアッセイの検出対象とした26454個の全てのプローブに対し、NサンプルとTサンプルとでDNAメチル化レベルの差(ΔβT−Nの絶対値)が0.3以上認められたプローブの割合を示すグラフである。
図11】インフィニウムアッセイの検出対象とした26454個の全てのプローブに対し、NサンプルとTサンプルとでDNAメチル化レベルの差(ΔβT−Nの絶対値)が0.4以上認められたプローブの割合を示すグラフである。
図12】インフィニウムアッセイの検出対象とした26454個の全てのプローブに対し、NサンプルとTサンプルとでDNAメチル化レベルの差(ΔβT−Nの絶対値)が0.5以上認められたプローブの割合を示すグラフである。
図13】クラスターAに属する代表的な淡明細胞型腎細胞癌患者(ケース1〜4)に関し、腎細胞癌組織(Tサンプル)におけるDNAメチル化レベル(β値)と、非癌腎組織(Nサンプル)のそれらとの対応付けを行った結果を示す、散布図である。
図14】クラスターBに属する代表的な淡明細胞型腎細胞癌患者(ケース5〜8)に関し、腎細胞癌組織(Tサンプル)におけるDNAメチル化レベル(β値)と、非癌腎組織(Nサンプル)のそれらとの対応付けを行った結果を示す、散布図である。図中の丸で囲んでいる部分は、DNAメチル化レベルがNサンプルにおいて低く、DNA高メチル化の程度が対応するNサンプルと比較してTサンプルの方が顕著であるプローブの分布を示す。
図15】表14に示す、CpGアイランドメチル化形質(CIMP)の特徴となる16プローブ(16CpGサイト)のDNAメチル化レベルと、前記クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者との対応を示す図である。図中、黒く塗りつぶされた箇所は、ΔβT−Nが0,4を超えていることを示す。
図16】クラスターAとクラスターBとの間で顕著にDNAメチル化レベル(ΔβT−N)が異なっていた869プローブ(FDR[q=0.01])を用い、ランダムフォレスト解析を行った結果を示すグラフである。図中、折れ線は上から順に、スパム(3)、アウトオブバッグ(OOB)、ノンスパム(1)を示す。横軸は木(tree)の数を示し、縦軸は推測誤差(Error)を示す。
図17】クラスターAとクラスターBとの間で顕著にDNAメチル化レベル(ΔβT−N)が異なっていた869プローブ(FDR[q=0.01])を用い、ランダムフォレスト解析を行った結果を示すプロット図である。図中、横軸はGini係数の平均値(MeanDecreaseGini)を示し、縦軸はインフィニウムアッセイに用いたプローブ(CpGサイト)を示す。
図18】クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者におけるSLC13A5遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化レベルを、MassARRAYによって解析した結果を示すグラフである。なお図中、SLC13A5_10「CpG_40」は、インフィニウムアッセイによってもクラスターBにおいて高いDNAメチル化レベルが検出されたCpGサイト(プローブID:cg22040627、NCBIデータベース Genome Build 37上の位置:17番染色体6617030)である。
図19】クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者におけるRIMS4遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化レベルを、MassARRAYによって解析した結果を示すグラフである。
図20】クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者におけるPCDHAC1遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化レベルを、MassARRAYによって解析した結果を示すグラフである。
図21】クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者におけるZNF540遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化レベルを、MassARRAYによって解析した結果を示すグラフである。
図22】クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者におけるTRH遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化レベルを、MassARRAYによって解析した結果を示すグラフである。
図23】クラスターA又はクラスターBに属する淡明細胞型腎細胞癌患者におけるPRAC遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化レベルを、MassARRAYによって解析した結果を示すグラフである。
図24】カットオフ値(診断閾値)を満たすCpGサイトの数によって、クラスターA又はクラスターBに淡明細胞型腎細胞癌患者を分別した結果を示すグラフである。カットオフ値については表19〜27を参照のこと。また、この分別において指標としたCpGサイトは、表19〜27に記載のAUCが0.95より大きいCpGサイト23箇所(32のCpGサイト)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記(a)〜(c)の工程を含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法を提供する。
(a)被験体の腎臓組織由来のゲノムDNAを調製する工程、
(b)工程(a)で調製したゲノムDNAについて、FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2からなる遺伝子群から選択される遺伝子の少なくとも一のCpGサイトのDNAメチル化レベルを検出する工程、
(c)工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定する工程、
を含む方法。
【0020】
本発明において「腎細胞癌」とは、腎臓の尿細管上皮細胞が癌化したものであり、その病理学的特徴から、淡明細胞型、顆粒細胞型、色素嫌性型、紡錘型、嚢胞随伴型、嚢胞由来型、嚢胞性型、乳頭状型に分類される癌である。また、本発明にかかる「被験体」としては、例えば、腎摘出術等によって腎細胞癌の治療が施された患者が挙げられる。
【0021】
本発明にかかる「腎細胞癌の予後不良リスク」とは、例えば、被験体の予後(腎摘出術等)の生存率が低いことが挙げられ、より具体的には、後述の図6に示すように、術後500日経過後の無再発生存率(無癌生存率)が50%以下となることが挙げられ、後述の図7に示すように術後1500日経過後の全生存率(全体的な生存率)が70%以下となることが挙げられる。
【0022】
本発明において「CpGサイト」とは、シトシン(C)とグアニン(G)との間がホスホジエステル結合(p)している部位のことを意味し、「DNAメチル化」とは前記CpGサイトにおいて、シトシンの5位の炭素がメチル化されている状態のことを意味する。「DNAメチル化レベル」とは、検出の対象とする特定のCpGサイトにおいてメチル化されている割合を意味し、例えば、検出の対象とする特定のCpGサイトにおける、全シトシン数(メチル化シトシン及び非メチル化シトシン)に対するメチル化シトシン数の比率にて表わすことができる。
【0023】
本発明にかかる「腎臓組織由来のゲノムDNAの調製」は特に制限はなく、フェノールクロロホルム処理法等の公知の手法を適宜選択して用いることより、行うことができる。
【0024】
かかる方法によりゲノムDNAが調製される腎臓組織としては、例えば、腎摘出術等において採取したそのままの腎臓組織、腎摘出術等において採取した後凍結した腎臓組織、腎摘出術等に際して採取した後ホルマリン固定及びパラフィン包埋を施した腎臓組織が挙げられる。これらの腎臓組織においては、本発明の検出方法に供するまで、腎臓組織中のゲノムDNAの分解等を抑制し、また後述のDNAメチル化レベルを検出する工程において、より効率良くバイサルファイト処理、PCR等を行えるという観点から、凍結した腎臓組織を用いることが望ましい。
【0025】
また、後述の実施例において示す通り、本発明者らは、インフィニウムアッセイにより、17遺伝子(FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2)の18CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出することによって、予後不良の腎細胞癌(CIMP陽性腎細胞癌)と比較的良好な腎細胞癌とを明確に判別できることを明らかにしている。さらに、質量分析計を用いたDNAメチル化解析法によって、かかるCpGサイトを含むCpGアイランド全域においても、予後不良の腎細胞癌において高メチル化状態が続いていることを明らかにしている。
【0026】
従って、本発明にかかる「CpGサイト」とは、他の遺伝子よりも、前記17遺伝子群の少なくとも1の遺伝子に近い位置に存在するCpGサイトを意味し、好ましくは、他の遺伝子よりも前記遺伝子に近い位置に存在するCpGアイランド中の少なくとも1のCpGサイトであり、より好ましくは、前記17遺伝子群のプロモーター領域に位置する少なくとも1のCpGサイトであり、特に好ましくは、基準ヒトゲノム配列である、NCBIデータベース Genome Build 37上の位置が、表1〜4に記載の染色体番号及び染色体上の位置である少なくとも1のCpGサイトである。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
また、本発明において典型的には、FAM150AはRefSeq ID:NP_997296で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、GRM6はRefSeq ID:NP_000834で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZNF540はRefSeq ID:NP_689819で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZFP42はRefSeq ID:NP_777560で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZNF154はRefSeq ID:NP_001078853で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、RIMS4はRefSeq ID:NP_892015で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、PCDHAC1はRefSeq ID:NP_061721で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、KHDRBS2はRefSeq ID:NP_689901で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ASCL2はRefSeq ID:NP_005161で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、KCNQ1はRefSeq ID:NP_000209で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、PRACはRefSeq ID:NP_115767で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、WNT3AはRefSeq ID:NP_149122で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、TRHはRefSeq ID:NP_009048で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、FAM78AはRefSeq ID:NP_203745で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZNF671はRefSeq ID:NP_079109で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、SLC13A5はRefSeq ID:NP_808218で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、NKX6−2はRefSeq ID:NP_796374で特定されるタンパク質をコードする遺伝子である。
【0032】
本発明における、「DNAメチル化レベルを検出する方法」としては、特定のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを定量できる方法であればよく、公知の方法を適宜選択して行うことができる。かかる公知の方法としては、例えば以下に示す第一〜第七の方法が挙げられる。
【0033】
第一の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAに重亜硫酸塩(バイサルファイト)処理を施す。なお、このバイサルファイト処理によって、非メチル化シトシン残基はウラシルに変換されるが、メチル化シトシン残基は変換されない(Clark SJら、Nucleic Acids Res、1994年、22巻、2990〜7ページ 参照)。次いで、このようにバイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型として、全ゲノム増幅を行い、酵素による断片化(通常300〜600bp程度の断片化)を行い、一本鎖に解離させる。
【0034】
また第一の方法において、バイサルファイト処理によって変換されたゲノムDNAにハイブリダイズするプローブであって、該プローブの3’末端の塩基は、前記CpGサイトのシトシンに相補的な塩基となっているプローブを調製する。すなわち、該CpGサイトがメチル化されている場合には、プローブの3’末端の塩基はグアニンとなり、該CpGサイトがメチル化されていない場合には、プローブの3’末端の塩基はアデニンとなる。
【0035】
そして、このような前記CpGサイトに相補的な3’末端の塩基のみ異なる2種類のプローブと、前記断片化ゲノムDNAとをハイブリダイズさせ、蛍光標識した塩基存在下、1塩基伸長反応を行う。その結果、前記CpGサイトがメチル化されている場合には、3’末端の塩基がグアニンであるプローブ(メチル化検出用プローブ)に蛍光標識した塩基が取り込まれることになり、一方、前記CpGサイトがメチル化されていない場合には、3’末端の塩基がアデニンであるプローブ(非メチル化検出用プローブ)に蛍光標識した塩基が取り込まれることになるため、メチル化検出用プローブ及び/又は非メチル化検出用プローブが発する蛍光の強度からDNAメチル化レベルを算出することができる。
【0036】
また、かかる第一の方法においては別の態様として、前記メチル化検出用プローブ及び非メチル化検出用プローブの代わりに、バイサルファイト処理によって変換されたゲノムDNAにハイブリダイズするプローブであって、該プローブの3’末端の塩基は前記CpGサイトのグアニンに相補的な塩基となっているプローブを用いてもよい。そして、かかるプローブと、前記断片化ゲノムDNAとをハイブリダイズさせ、蛍光物質にて標識したグアニン及び/又は該蛍光物質とは異なる蛍光色素にて標識したアデニンの存在下、1塩基伸長反応を行う。その結果、前記CpGサイトがメチル化されている場合には、当該プローブに蛍光標識したグアニンが取り込まれることになり、一方、前記CpGサイトがメチル化されていない場合には、当該プローブに蛍光標識したアデニンが取り込まれることになるため、前記プローブに取り込まれた各蛍光物質が発する蛍光の強度からDNAメチル化レベルを算出することができる。
【0037】
第一の方法としては、例えば、ビーズアレイ法(例えば、インフィニウム(登録商標)アッセイ)が挙げられる。
【0038】
また、かかる第一の方法において、DNAメチル化レベルの検出対象とする前記CpGサイトとしては、好ましくは、基準ヒトゲノム配列であるNCBIデータベース Genome Build 37上の位置が、第8染色体53,478,454位、第5染色体178,422,244位、第19染色体38,042,472位、第4染色体188,916,867位、第19染色体58,220,662位、第20染色体43,438,865位、第5染色体140,306,458位、第6染色体62,995,963位、第11染色体2,292,004位、第11染色体2,466,409位、第17染色体46,799,640位、第19染色体58,220,494位、第1染色体228,194,448位、第3染色体129,693,613位、第9染色体134,152,531位、第19染色体58,238,928位、第17染色体6,617,030位及び第10染色体134,599,860位からなる群から選択される少なくとも1のCpGサイトである。また、本発明にかかる第一の方法においては、前記18CpGサイトのうち少なくとも一のサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出することが好ましいが、予後不良リスクの検出における、感度又は特異性をより向上させることができるという観点から、複数のCpGサイト(例えば、2サイト、5サイト、10サイト、15サイト)をDNAメチル化レベルの検出対象とすることがより好ましく、前記18CpGサイト全てをDNAメチル化レベルの検出対象とすることが特に好ましい。
【0039】
第二の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次いで、バイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型とし、前記CpGサイトを少なくとも一つ含むDNAを、T7プロモーターを付加したプライマーで増幅する。次いで、RNAに転写し、RNaseにより塩基特異的な切断反応を行う。そして、かかる切断反応産物を質量分析計にかけ、質量測定を行う。
【0040】
そして、質量測定によって得られたメチル化シトシン残基由来の質量(シトシンの質量)と、非メチル化シトシン残基由来の質量(ウラシルの質量)とを比較し、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを算出する。
【0041】
第二の方法としては、例えば、質量分析計を用いたDNAメチル化解析法(例えば、MassARRAY(登録商標)、Jurinke Cら、Mutat Res、2005年、573巻、83〜95ページ 参照)が挙げられる。
【0042】
また、かかる第二の方法において、DNAメチル化レベルの検出対象とする前記CpGサイトとして、好ましくは、配列番号:1〜16に記載の塩基配列に含まれる少なくとも1のCpGサイトであり、予後不良リスクの検出における、感度又は特異性をより向上させることができるという観点から、より好ましくは、後述のROC曲線下面積(AUC)が0.90より大きい、下記表5〜8に記載のCpGサイト群のうちの少なくとも1のCpGサイトであり、さらに好ましくは、下記表5〜8に記載のAUCが0.95より大きいCpGサイト群のうちの少なくとも1のCpGサイトであり、当該AUCが0.95より大きいCpGサイト群全てをDNAメチル化レベルの検出対象とすることが特に好ましい。
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
なお、表5〜8に記載の「染色体番号」及び「染色体上の位置」は、基準ヒトゲノム配列である、NCBIデータベース Genome Build 37上の位置を示す。「標的遺伝子名_プライマーセット名_CpGサイト」は、後述の質量分析計を用いたDNAメチル化解析(実施例5)にて、表17及び18に記載のプライマーセットを用いて増幅したPCR産物中のCpGサイトの順番を示す。「AUC値」、「カットオフ値」、「特異度」、「感度」及び「1−特異度」については、後述の実施例5参照のこと。
【0048】
第三の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。なお、このバイサルファイト処理によって、非メチル化シトシン残基はウラシルに変換されるが、下記伸長反応(シークエンス反応)においてはウラシルはチミンとして示される。次いで、このようにバイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型として、前記CpGサイトを少なくとも一つ含むDNAを増幅する。そして、増幅したDNAを一本鎖に解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAのうち、片鎖のみを分離する。そして、前記CpGサイトの塩基の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行い、その際に生成されるピロリン酸を酵素的に発光させ、発光の強度を測定する。このようにして得られたメチル化シトシン残基由来の発光の強度(シトシンの発光強度)と、非メチル化シトシン残基由来の発光の強度(チミンの発光強度)とを比較し、例えば、下記式によって前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベル(%)を算出する。
DNAメチル化レベル(%)=シトシンの発光強度×100/(シトシンの発光強度+チミンの発光強度)。
【0049】
第三の方法としては、例えば、パイロシークエンシング法(登録商標、Pyrosequencing)(Anal. Biochem. (2000)10:103−110 参照)等が挙げられる。
【0050】
第四の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次に、DNA二重鎖間に挿入されると蛍光を発するインターカレーターを含む反応系において、前記バイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型として、前記CpGサイトを少なくとも1つ含むヌクレオチドを増幅する。次いで、前記反応系の温度を変化させ、前記インターカレーターが発する蛍光の強度の変動を検出する。前記CpGサイトを少なくとも1つ含むヌクレオチドの融解曲線を、メチル化・非メチル化対照検体を鋳型とする増幅産物の融解曲線と比較し、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを算出する。
【0051】
第四の方法としては、例えば、メチル化感受性高解像能融解曲線分析(methylation−sensitive high resolution melting:MS−HRM、Wojdacz TKら、Nat Protoc.、2008年、3巻、1903〜8ページ 参照)が挙げられる。
【0052】
第五の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次に、前記CpGサイトがメチル化されている場合に増幅可能なプライマーセット、及び前記CpGサイトがメチル化されていない場合に増幅可能なプライマーセットを調製する。そして、前記バイサルファイト処理したゲノムDNAを鋳型とし、前記CpGサイトを少なくとも1つ含むヌクレオチドを、これらのプライマーセットを用いて各々増幅する。そして、得られた増幅産物の量、すなわちメチル化CpGサイト特異的な増幅産物の量、及び非メチル化CpGサイト特異的な増幅産物の量を比較することにより、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを算出する。
【0053】
さらに、かかる第五の方法においては別の態様として、先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次に、前記CpGサイトがメチル化されている場合にハイブリダイズすることが可能なヌクレオチドを有し、レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。また、前記CpGサイトがメチル化されていない場合にハイブリダイズすることが可能なヌクレオチドを有し、前記レポーター蛍光色素とは異なるレポーター蛍光色、及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。そして、バイサルファイト処理したゲノムDNAに前記オリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせ、さらに前記オリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズしたゲノムDNAを鋳型として前記CpGサイトを含むヌクレオチドを増幅する。そして、前記増幅に伴うオリゴヌクレオチドプローブの分解により、前記レポーター蛍光色素が発する蛍光を検出する。このようにして検出されたメチル化シトシンCpGサイト特異的なレポーター蛍光色素が発する蛍光の強度と、非メチル化シトシンCpGサイト特異的なレポーター蛍光色素が発する蛍光の強度とを比較することによって、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを算出する。
【0054】
第五の方法としては、例えば、TaqManプローブ(登録商標)を用いたMethyLight法等のメチル化特異的定量PCR法(methylation−specific polymerase chain reaction(MS−PCR) using real−time quantitative PCR)が挙げられる。
【0055】
第六の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次いで、バイサルファイト変換された前記CpGサイトを含むヌクレオチドを鋳型として、直接シークエンシング反応を行う。そして、決定された塩基配列に基づく蛍光強度、すなわちメチル化シトシン残基由来の蛍光強度(シトシンの蛍光強度)と、非メチル化シトシン残基由来の蛍光強度(チミンの蛍光強度)とを比較することによって、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを算出する。
【0056】
さらに、かかる第六の方法においては別の態様として、先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次いで、バイサルファイト変換された前記CpGサイトを含むヌクレオチドをPCR反応等によってクローンニングする。そして、得られた複数のクローンニング産物の塩基配列を各々決定し、メチル化シトシンCpGサイト特異的な塩基配列を有するクローニング産物の個数と、非メチル化シトシンCpGサイト特異的な塩基配列を有するクローニング産物の個数とを比較することによって、前記CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを算出する。
【0057】
第六の方法としては、例えば、バイサルファイト直接シークエンシング(bisulfite direct sequencing)、バイサルファイトクローニングシークエンシング(bisulfite cloning sequencing)が挙げられる(Kristensen LSら、Clin Chem、2009年、55巻、1471〜83ページ 参照)。
【0058】
第七の方法は、次の原理に基づく方法である。先ず、前記ゲノムDNAにバイサルファイト処理を施す。次いで、バイサルファイト変換された前記CpGサイトを含むヌクレオチドを鋳型として、前記CpGサイトを含む領域をPCRにて増幅する。次いで、増幅したDNA断片を、該CpGサイトがメチル化されている場合とされていない場合とで配列が異なる箇所を認識する制限酵素で処理する。そして、電気泳動することによって分画された、メチル化CpGサイトに由来する制限酵素断片と非メチル化CpGサイトに由来する制限酵素断片とのバンドの濃さを定量的に解析することにより、該CpGサイトのDNAメチル化レベルを算出することができる。
【0059】
第七の方法としては、例えば、COBRA(バイサルファイトと制限酵素との併用による解析)が挙げられる。
【0060】
以上、本発明の「DNAメチル化レベルを検出する方法」として好適に用いることのできる方法を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。また上述の通り、DNAメチル化レベルを検出するに際し、被験体から調製されたゲノムDNAは、さらにバイサルファイト処理に供される。従って、本発明の腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法として、前記工程(b)が、前記工程(a)で調製したゲノムDNAをバイサルファイト処理し、前記CpGサイトのDNAメチル化レベルを検出する工程である方法もとり得る。
【0061】
本発明において、工程(b)で検出したDNAメチル化レベルから、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定するための指標は、当業者であれば適宜DNAメチル化レベルを検出する方法に合わせて設定することができる。例えば後述の実施例に示すような、各CpGサイトに対し、受信者操作特性(ROC)解析を行い、感度(陽性率)及び特異度を求め、さらに感度及び特異度の和が最大となるDNAメチル化レベルを前記指標(カットオフ値、診断閾値)として設定することができ、検出したDNAメチル化レベルが該カットオフ値より高ければ、その被験体を予後不良群に分類することができる。
【0062】
また本発明においては、腎細胞癌の予後不良リスクの検出における、感度又は特異性をより向上させることができるという観点から、DNAメチル化レベルのみならず、前記カットオフ値より高値を示すCpGサイトの数を、前記被験体が予後不良群に分類されるか否かを決定するための指標としてもよい。例えば、後述の実施例において示すように、本発明にかかるCpGサイト23箇所において、前記カットオフ値を満たす箇所が15以上である場合にその被験体を予後不良群に分類することができる(後述の図24 参照)。
【0063】
このように、本発明によれば、組織学的観察等の既存の分類基準では検知し得ない、腎摘除術後の腎細胞癌の予後不良リスクを判定することができる。腎細胞癌の治療方法としては腎摘除術が第一選択であるが、転移・再発を早期に発見できれば、それらに対して免疫療法や分子標的治療薬等の奏効が期待できる。
【0064】
従って、本発明は、本発明の方法により予後不良群に分類された被験体に、分子標的治療薬を投与する工程及び/又は免疫療法を施す工程を含む、腎細胞癌の治療方法を提供することもできる。
【0065】
また、本発明により腎摘除術の対象となる大多数の腎細胞癌症例において、予後不良群に分類された患者にはより精密な転移・再発スクリーニングを行い、その場合には早期発見により治療成績を向上させ得ると期待され、一方で、予後不良群には分類されなかった患者では転移・再発スクリーニングの負担を軽減させることができる。
【0066】
本発明は、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法に用いるための、少なくとも12塩基の鎖長を有する、下記(a)〜(b)に記載のいずれかであるオリゴヌクレオチドを提供する
(a)前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトを挟み込むように設計された一対のプライマーであるオリゴヌクレオチド
(b)前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズするプライマー又はプローブであるオリゴヌクレオチド。
【0067】
かかる(a)前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトを挟み込むように設計された一対のプライマーとしては、例えば、バイサルファイト変換された前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトを含むDNAを増幅することができるプライマー(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー(フォワードプライマー及びリバースプライマー))が挙げられる。当該プライマーは、前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトの両側のバイサルファイト変換された各ヌクレオチドにハイブリダイズするプライマーである。
【0068】
また、(b)前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズするプライマーとしては、例えばバイサルファイト変換された前記CpGサイトの塩基の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行うことができるプライマー(シークエンシングプライマー)が挙げられる。さらに、(b)前記CpGサイト群から選択される少なくとも1つのサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズするプローブとしては、例えばバイサルファイト変換された前記CpGサイトを含むヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ(いわゆるTaqManプローブ)が挙げられる。
【0069】
また、本発明のオリゴヌクレオチドの鎖長は少なくとも12塩基であるが、好ましくは少なくとも15塩基、より好ましくは少なくとも20塩基である。
【0070】
特定のヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドは、当該特定のヌクレオチドに相補的な塩基配列を有するが、ハイブリダイズする限り完全に相補的でなくともよい。これらのオリゴヌクレオチドの配列は、バイサルファイト変換された又はされていない前記CpGサイトを含む塩基配列に基づき、当業者であれば公知の手法により、例えば、後述の実施例に示すように、MassARRAY法プライマーデザインソフトウエア EpiDesigner(http://www.epidesigner.com、SEQUENOM社製)、パイロシークエンシングアッセイデザインソフトウェアver.1.0(QIAGEN社製)等を用いて、適宜設計することができる。また、本発明にかかる「CpGサイトを含む」とは、CpGサイト全部、すなわちシトシン及びグアニン両方を含むことのみならず、その一部(シトシン、グアニン、又は非メチル化シトシンがバイサルファイト変換された後のウラシル若しくはチミン)を含むものであってもよい。
【0071】
本発明のオリゴヌクレオチドとしては、後述の実施例に示すように、質量分析計を用いたDNAメチル化解析法においては、配列番号:17〜48に記載の塩基配列からなる群より選択されるプライマーが好ましい(表17及び表18 参照)。また、後述の実施例に示すように、パイロシークエンシングにおいて、本発明のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号:49〜57に記載の塩基配列からなる群より選択されるプライマーが好ましい(表9 参照)。
【0072】
さらに、本発明は、前記オリゴヌクレオチドを含む、腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法に用いるためのキットも提供することができる。
【0073】
前記オリゴヌクレオチドの標品において、前記オリゴヌクレオチドは、必要に応じて固定化されていてもよい。例えば、インフィニウムアッセイによって検出する場合は、ビーズに固定されたプローブを用いることができる。また前記オリゴヌクレオチドは、必要に応じて標識されていてもよい。例えば、パイロシークエンシング法によって検出する場合は、ビオチン標識したプライマーを用いることができ、TaqManプローブ法によって検出する場合は、レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素を標識したプローブを用いることができる。
【0074】
本発明のキットにおいては、前記オリゴヌクレオチドの標品以外の標品を含むことができる。このような標品としては、バイサルファイト変換に必要な試薬(例えば、亜硫酸水素ナトリウム溶液等)、PCR反応に必要な試薬(例えば、デオキシリボヌクレオチドや耐熱性DNAポリメラーゼ等)、インフィニウムアッセイに必要な試薬(例えば、蛍光物質にて標識されたヌクレオチド)、MassARRAYに必要な試薬(例えば、塩基特異的な切断反応を行うためのRNase)、パイロシークエンシングに必要な試薬(例えば、ピロリン酸の検出のためのATPスルフリラーゼ、アデノシン−5’−ホスホ硫酸、ルシフェラーゼ、及びルシフェリンや、一本鎖DNAを分離するためのストレプトアビジン等)、MS−HRM法に必要な試薬(例えば、DNA二重鎖間に挿入されると蛍光を発するインターカレーター等)が挙げられる。また、前記標識の検出に必要な試薬(例えば、基質や酵素、陽性対照や陰性対照、あるいは試料(被験体の腎臓臓組織由来のゲノムDNA等)の希釈や洗浄に用いる緩衝液等)が挙げられる。また、キットには、その使用説明書を含めることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において用いた試料及び方法は下記に示す通りである。
【0076】
<患者及び組織サンプル>
109の癌組織(T)サンプル及び対応する107の非癌腎皮質組織(N)サンプルは、原発性の淡明細胞型腎明細癌を罹患している110人の患者から手術によって摘出された試料から得たものであり、Nサンプルには顕著な組織学的変化は認められていない。
【0077】
なお、これら患者は、術前の治療は受けておらず、国立がん研究センター病院にて腎摘出術を受けた患者である。79名の男性と31名の女性とからなり、平均年齢は62.8±10.3歳(平均±標準偏差、36〜85歳)である。
【0078】
また、サンプルの組織学的診断は、WHOの分類に従って行った(Eble,J.N.ら、「腎細胞癌 腫瘍WHO分類 病理学及び遺伝学 男性生殖器及び泌尿系の腫瘍」、2004年、IARC出版、Lyon、10〜43ページ、図1 参照)。
【0079】
さらに、全ての腫瘍の組織学的異型度は「Fuhrman,S.A.ら、Am.J.Surg.Pathol.、1982年、6巻、655〜663ページ」に記載の基準に従って評価し、TNM分類は「Sobin,L.H.ら、国際対がん連合(UICC)、TNM悪性腫瘍の分類、第6版、2002年、Wiley−Liss、New York、193〜195ページ」に従って分類した。
【0080】
また、腎細胞癌の肉眼分類の基準として、肝細胞癌(HCC)において確立された基準を採用した(非特許文献4〜6 参照)。なお、タイプ3(多結節癒合型)HCCは、タイプ1(単結節型)及びタイプ2(単結節周囲増殖型)のHCCよりも、組織学的分化度は低く、肝内転移の発生率は高い(Kanai,T.ら、Cancer、1987年、60巻、810〜819ページ 参照)。
【0081】
血管侵襲の有無は、へマトキシリン−エオジン及びエラスチカ・ワン・ギーソン染色を施したスライドを顕微鏡にて観察することによって調べた。
【0082】
腎静脈の本幹における腫瘍血栓の有無は肉眼的観察によって調べた。なお、腎細胞癌は通常線維性被膜に囲まれ、その境界が明瞭となっている。また、腎細胞癌の癌細胞間に線維性間質は殆ど含まれていない。そのため、非癌上皮細胞や間質細胞を混在させることなく、外科試料から癌細胞を得ることができた。
【0083】
また、前記RCC患者と比較するため、原発性腎腫瘍を罹患していない患者29人から手術によって摘出された試料から、正常腎皮質組織(C1〜C29)29サンプルを得た。サンプルを得た原発性腎腫瘍を罹患していない患者は、18名の男性と11名の女性とからなり、平均年齢は61.4±10.8歳(平均±標準偏差、31〜81歳)である。また、これら患者のうち22人は、腎盂における尿路上皮癌のため腎摘出術を受けた患者であり、6人は腎臓周囲の後腹膜肉腫の切除と共に腎摘出術を受けた患者である。残り1名は、転移性胚細胞腫瘍のため大動脈周囲リンパ節摘出術を受けた患者であり、腎動脈を維持することが難しかったため、同時に腎摘出術も施された。
【0084】
今回の研究対象である全ての患者からは、書面によるインフォームドコンセントを得ている。また、本研究は、国立がん研究センターの倫理委員会の承認を受けて実施されたものである。
【0085】
<インフィニウムアッセイ>
前記患者から得た新鮮凍結組織サンプルを、フェノール−クロロホルムにて処理し、次いで透析を施すことによって、高分子量DNAを抽出した(Sambrook,J.ら、モレキュラークローニング:実験マニュアル 第3版、コールドスプリングハーバー出版、NY、6.14〜6.15ページ 参照)。
【0086】
そして、DNA500ngを、EZ DNAメチレーション−ゴールド(TM)キット(Zymo Research社製)を用い、バイサルファイト変換処理に供した。
【0087】
次いで、27578CpG部位におけるDNAメチル化状態を、インフィニウムヒトメチレーション27ビーズアレイ(Illumina社製)を用い、1CpGサイトの解像度にて解析した。このアレイには、NCBIデータベースに登録されている14475遺伝子(コンセンサスコーディング配列)の転写開始部位における近位プロモーター領域内に位置するCpGサイトが含まれている。また、平均して、1遺伝子あたり2つのサイトが選択され、さらに200以上の癌関連遺伝子及びインプリンティング遺伝子については1遺伝子あたり3〜20のCpGサイトが選択され、このアレイには搭載されている。また、各アレイには40のコントロールプローブが搭載されている。このコントロールプローブには、染色、ハイブリダイゼーション、伸長及びバイサルファイト変換のコントロール並びにネガティブコントロールが含まれている。
【0088】
なお、前記バイサルファイト変換したDNAを自動的に処理するため、Evoロボット(Tecan社製)を用いた。また、インフィニウムアッセイキット(Illumina社製)を用いて、全ゲノム増幅処理を行った(Bibikova,M.ら、Epigenomics、2009年、1巻、177〜200ページ 参照)。
【0089】
そして、このようにして増幅したDNA断片と、前記アレイ上のプローブとをハイブリダイズした後、特異的にハイブリダイズしたDNAを1塩基伸長反応にて蛍光標識した。次いで、製造会社のプロトコールに従って、ビーズスキャンリーダー(Illumina社製)を用い、当該DNAを検出した。得られたデータは、ゲノムスタジオメチレーションソフトウェア(Illumina社製)を用いて、解析した。
【0090】
なお、各CpGサイトにおいて、蛍光シグナルの比率は、メチル化プローブ及び非メチル化プローブの合計に対するメチル化プローブの相対比を用い測定した。すなわち、所謂β値(範囲:0.00〜1.00)はCpGサイト個々におけるメチル化レベルを反映するものである。
【0091】
<統計解析>
前記インフィニウムアッセイにおいて、解析した組織サンプル全てに対し、コール率(call proportion、バックグランド以上のシグナルの検出におけるP値<0.01)が90%以下であったプローブは32個あった。このような低いコール率はプロープのCpGサイトにおける多型に起因しているかもしれないため、本アッセイにおいてはこれら32プローブを除外した。さらに、性特異的なメチル化のバイアスを回避するために、X染色体及びY染色体における全てのCpGサイトは除外した。その結果、常染色体上のCpGサイト26454が最終的な解析対象として残った。
【0092】
ロジスティックモデルにより、29のCサンプルと107のNサンプルとの間で、DNAメチル化レベルの有意な差を示すインフィニウムプローブを同定した。
【0093】
累積ロジットモデルにより、29のCサンプル、107のNサンプル及び109のTサンプルにおいて、Cサンプル、Nサンプル、Tサンプルと、DNAメチル化レベルが段階的に変化する(Ordered difference)プローブを同定した。
【0094】
1の患者由来の、Nサンプルと対応するTサンプルとの104のペアにおけるDNAメチル化状態の差を、ウィルコクソンの符号付順位和検定により調べた。
【0095】
q=0.01の誤検出率(FDR)を有意と見なした。
【0096】
DNAメチル化レベル(ΔβT−N)に基づき、淡明細胞型腎細胞癌の患者について教師なし階層的クラスタリング(ユークリッド距離、ウォード法)を行った。
【0097】
患者のクラスターと臨床病理学的因子との相関は、ウィルコクソンの順位和検定及びフィッシャーの直接確率検定により調べた。
【0098】
各クラスターに属する患者の生存率曲線は、カプラン・マイヤー法により算出した。そして、ログランク検定により差を比較した。
【0099】
各クラスターにおいてDNA高メチル化又はDNA低メチル化を示すインフィニウムアッセイプローブの数と、各クラスターにおける平均DNAメチル化レベル(ΔβT−N)とを、P<0.05を有意水準とするウィルコクソンの順位和検定によって調べた。
【0100】
クラスターを識別できるCpGサイトを、フィッシャーの直接確率検定及びランダムフォレスト法により同定した(Breiman,L.、Mach.Learn.、2001年、45巻、5〜32ページ 参照)。
【0101】
(実施例1)
<腎細胞癌発生におけるDNAメチル化の変化>
先ず、前記インフィニウムアッセイによって見出された代表的なCpGサイトについて、表9に示す条件にてパイロシークエンシング法を行うことにより確認した。その結果、図2〜4に示す通り、各CpGサイトのDNAメチル化レベルに関し、定量性の高いパイロシークエンシング法による解析結果(図2〜4の縦軸)と、インフィニウムアッセイによる解析結果(図2〜4の横軸)との間には強い相関があった。
【0102】
【表9】
【0103】
このように、今回のインフィニウムアッセイのデータは信頼性の高いものであることが確認された。
【0104】
腎臓の前癌状態については、今まで殆ど論じられていない。しかしながら、本発明者らによって、非癌組織は、組織学的な顕著な変化は認められず、慢性炎症及びウィルスや病原性微生物の持続感染との関連も認められないものの、DNAメチル化が変化しているという観点から既に前癌段階にあるということが示唆されている(特許文献1及び非特許文献4〜7)。
【0105】
この点に関し、今回のインフィニウムアッセイの結果を、ロジスティックモデルによって解析した結果、4830のプローブにおいて、NサンプルのDNAメチル化レベルは、Cサンプルのそれらと比較して既に変化していることが明らかになった(FDR q=0.01,表10の(a) 参照)。
【0106】
さらに、DNAメチル化の変化が腎細胞癌自体に受け継がれていることを明らかにするため、累積ロジットモデルにより、Cサンプル、Nサンプル、Tサンプルと、DNAメチル化レベルが段階的に変化するプローブを同定した。その結果、このようにDNAメチル化レベルが段階的に変化するプローブは11089個あった(FDR q=0.01,表10の(b) 参照)。
【0107】
また、癌化に強く寄与するDNAメチル化の変化を明らかにするため、NサンプルとTサンプルとの104のペアを、ウィルコクソンの符号付順位和検定により調べた。その結果、Nサンプルと、対応する腎細胞癌との間で有意差が認められたプローブは10870個あった(FDR q=0.01,表10の(c) 参照)。
【0108】
【表10】
【0109】
以上の結果から、癌に至る過程にてDNA低メチル化も観察されたものの、腎細胞癌発生のきわめて初期の段階において、DNA高メチル化はしばし生じていることが明らかになった。
【0110】
また、表10の(a)、(b)及び(c)に記載の基準全てを満たす、すなわち、DNAメチル化が既に非癌段階にて明らかに変化しており、さらにそれらの変化が腎細胞癌に引き継がれ亢進しているプローブを801個同定した。
【0111】
(実施例2)
<腎細胞癌のエピジェネティッククラスタリング>
前記801プローブにおけるDNAメチル化レベル(ΔβT−N)を用い、教師なし階層的クラスタリングをした結果、淡明細胞型腎細胞癌の患者104人を、クラスターA(n=90)及びクラスターB(n=14)にサブクラスター化できることが明らかになった(図5 参照)。なお、前述の通り、前記801プローブにおけるDNAメチル化は、前癌段階にて変化が生じており、引き続き腎細胞の癌化に寄与していることが考えられる。
【0112】
次に、これらクラスターA及びBに属する淡明細胞型腎細胞癌における臨床病理学的因子及びTNMステージについて調べた。得られた結果を表11に示す。
【0113】
【表11】
【0114】
なお、表11の「P値」において、下線が付してあるものは「P<0.05」であり、(b)が付してある数値は、ウィルコクソンの順位和検定によるものであり、(c)が付してある数値は、フィッシャーの直接確率検定によるものである。また、(d)が付してある臨床病理学的因子については、腫瘍が不均一である場合に、面積的に優勢な領域における所見が示してあり、(e)が付してある臨床病理学的因子については、腫瘍が不均一である場合に、腫瘍において最も侵襲性の高い特徴が示してある。
【0115】
また、これらクラスターA及びBに属する患者の生存率についても調べた。生存率を分析した期間は42〜4024日間(平均1821日間)である。得られた結果(カプラン・マイヤー生存率曲線)を図6及び7に示す。
【0116】
表11に示した結果から明らかなように、淡明細胞型腎細胞癌の直径、前述の肉眼分類による、単結節周囲増殖型(タイプ2)又は多結節癒合型(タイプ3)の出現頻度、血管侵襲の頻度、腎静脈における腫瘍血栓形成の頻度、浸潤性増殖の頻度、腫瘍壊死及び腎盂への浸潤の頻度、組織学的異型度並びにTNM分類による病期、これらの点において、クラスターBはクラスターAよりも大きかった(又は高かった)。なお表11に示す通り、腎細胞癌のエピジェネティッククラスタリングは、患者の性別、年齢によるものではないことは明白である。
【0117】
また、図6及び7に示した結果から明らかなように、クラスターBに属する患者の無再発生存率(無癌生存率)及び全生存率(全体的な生存率)は、クラスターAに属する患者のそれらよりも有意に低かった(無癌生存率のP値は4.16×10−6であり、全体的な生存率のP値は1.32×10−2である)。
【0118】
(実施例3)
<腎細胞癌のDNAメチル化プロファイル>
次に、26454個の全てのプローブに対し、対応するNサンプルよりもTサンプルにおいてDNA高メチル化が認められたプローブの割合を、そのDNA高メチル化の差の程度(ΔβT−N>0.1、0.2、0.3、0.4又は0.5)毎に分析した。また、26454個の全てのプローブに対し、対応するTサンプルよりもNサンプルにおいてDNA低メチル化が認められたプローブの割合を、そのDNA低メチル化の差の程度(ΔβT−N<−0.1、−0.2、−0.3、−0.4又は−0.5)毎に分析した。得られた結果を図8〜12に示す。
【0119】
図8〜12に示した結果から明らかなように、際立ったDNA低メチル化(ΔβT−N<−0.5)を示したプローブは、クラスターAよりもクラスターBの方が僅かに集積していた。しかしながら、クラスターA及びクラスターBにおいて、DNA低メチル化の発生頻度に統計的な有意な差は認められなかった(ΔβT−N<−0.1、−0.2、−0.3又は−0.4)。一方、DNA高メチル化を示したプローブは、DNA高メチル化の差の程度に関係なく、クラスターAよりもクラスターBの方に顕著に集積していた(ΔβT−N>0.1、0.2、0.3、0.4又は0.5)。
【0120】
従って、クラスターBに属する腎細胞癌はDNA高メチル化の蓄積によって特徴付けられることが明らかになった。
【0121】
また、クラスターA及びクラスターBに関し、これらの間でDNAメチル化レベルにおいて顕著な差があった上位61のプローブを表12及び13に示す。なお、表12及び13の「ターゲットID」は、Illumina社によって、インフィニウムヒトメチレーション27ビーズアレイの全プローブに付与された番号を示し、「染色体番号」及び「染色体上の位置」は、基準ヒトゲノム配列である、NCBIデータベース Genome Build 37上の位置を示す(以下、プローブに関する表に関する標記において同じ)。「CpGアイランド」の「Y」はそのプローブがCpGアイランドに位置していることを示し、「N」はそのプローブがCpGアイランドに位置していないことを示す(表14及び15においても同じ)。さらに「遺伝子領域」は、そのプローブがエクソン(Exon)、イントロン(Intron)又は転写開始部位の上流(TSS)に位置していることを示す。さらに、「P値」はウィルコクソンの順位和検定により算出された値を示す。
【0122】
【表12】
【0123】
【表13】
【0124】
全26454個のプローブの内、CpGアイランドに位置していたプローブは19246個、72.8%であったにも関わらず、前記61個のプローブの内、クラスターBに属する腎細胞癌においてDNA高メチル化を示すCpGアイランドに位置するプローブは60個、98.4%もあった(ΔβT−N>0.097、表12及び13)。なお、前記61個プローブの内、残り1個のプローブは非CpGアイランドに位置し、DNA低メチル化を示すものであった(クラスターBにおいて、ΔβT−N>−0.425±0.096)。
【0125】
実施例2及び3に示した結果から、クラスターBは臨床病理学的形質とよく相関しており、CpGアイランドにおける高頻度のDNA高メチル化によって特徴付けられることが明らかになった。
【0126】
なお、クラスターBに属する腎細胞癌のかかる特徴は、よく研究されている他の臓器(例えば、大腸及び胃)のCpGアイランドメチル化形質(CIMP)陽性の癌のそれと似ている(非特許文献8〜11)。すなわち、本1CpG解像メチローム解析によって、CIMP陽性の腎細胞癌がクラスターBとして初めて同定された。
【0127】
(実施例4)
<CIMP陽性腎細胞癌を特徴付けるCpGサイトの同定>
クラスターA及びBに各々属する代表的な腎細胞癌患者に関し、腎細胞癌組織(Tサンプル)におけるDNAメチル化レベル(β値)と、非癌腎組織(Nサンプル)のそれらとの対応付けを行った。得られた結果を散布図として図13及び14に示す。なお、図13に示すCase:1〜4はクラスターAに属する代表的な腎細胞癌患者の例であり、図14に示すCase:5〜8はクラスターBに属する代表的な腎細胞癌患者の例である。
【0128】
図13及び14に示した結果から明らかなように、DNAメチル化レベルがNサンプルにおいて低く、DNA高メチル化の程度が対応するNサンプルと比較してTサンプルの方が顕著であるプローブは、クラスターBのみにはっきりと存在しており、クラスターAにおいては認められなかった。
【0129】
この結果に基づき、クラスターBに属する腎細胞癌とクラスターAに属するそれらとを区別するため、全てのNサンプルにおける平均β値が0.2未満であり、0.4を超えるΔβT−Nの出現頻度がクラスターAと比してクラスターBの方か顕著に高い(P<1.98×10−6、フィッシャーの直接確率検定)プローブに着目した。
【0130】
そして、このようなプローブにおいて、16プローブ(15遺伝子:FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A及びZNF671)は、クラスターBに属する14の腎細胞癌の内6以上(42.8%以上)の腎細胞癌において、0.4を超えるΔβT−Nを示した。一方、クラスターAに属する90の腎細胞癌の内、前記16プローブが0.4を超えるΔβT−Nを示した腎細胞癌は2個以下(2.2%以下)であった(表14 参照)。
【0131】
【表14】
【0132】
また、図15に示した結果から明らかなように、クラスターAとクラスターBとの間で前記16CpGサイトにおけるDNAメチル化レベル(ΔβT−N)は完全に異なっていた。
【0133】
さらに、クラスターAとクラスターBとの間で顕著にDNAメチル化レベル(ΔβT−N)が異なっていた869プローブ(FDR[q=0.01])を用い、ランダムフォレスト解析を行った(図16及び17 参照)。その結果、クラスターAとクラスターBとを識別することのできる上位4プローブをさらに同定した(表15 参照)。
【0134】
【表15】
【0135】
なお、前記15遺伝子と、ランダムフォレスト解析によって見出されたクラスターAとクラスターBとを識別することのできる上位4遺伝子とは、2遺伝子(FAM150A及びGRM6)は重複していた。
【0136】
従って、これら17遺伝子(FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2)におけるCpGサイトは、CIMP陽性腎細胞癌、例えばクラスターBに属する腎細胞癌の特徴とみなすことができる。すなわち、前記17遺伝子のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出することによって、腎細胞癌患者の予後不良リスクを検出できることが明らかになった。
【0137】
また、これら遺伝子の発現量を定量的RT−PCRによって解析した結果、DNA高メチル化によりこれら遺伝子の発現が抑制されていることが明らかになった(表16 参照)。
【0138】
【表16】
【0139】
従って、前癌段階において生じているDNAメチル化の変化は、遺伝子発現レベルの変化を介して、腎細胞癌の悪性度及び患者の予後を決定していることが示された。
【0140】
(実施例5)
<質量分析計による、腎細胞癌におけるDNAメチル化レベルの検出>
前記インフィニウムアッセイとは異なるメチル化DNA検出方法、マスアレイ法(MassARRAY法)にて、前記17遺伝子のCpGサイトについてのDNAメチル化レベル検出の有効性を確認した。
【0141】
MassARRAY法は、バイサルファイト処理後のDNAを増幅し、RNAに転写し、さらにRNAaseにより塩基特異的に切断した後、質量分析計によって、メチル化DNA断片と非メチル化DNA断片との分子量の差を検出する方法である。
【0142】
先ず、インフィニウムアレイのプローブ部位である前記CpGサイトを含むCpGアイランドに対し、EpiDesigner(SEQUENOM社製、MassARRAY用プライマー設計ソフト)を用いてMassARRAYのプライマー設計を行った。
【0143】
なお、MassARRAYにおけるPCR標的配列は100〜500bp程度とやや長いので、前記CpGサイト周辺の多数のCpG部位のDNAメチル化レベルを合わせて評価することができる。
【0144】
また、PCRにおけるバイアスの影響を排除するため、1プライマーセット当たり、DNAポリメラーゼ3種とアニール温度4段階程度の条件との組み合わせを平均して試行し、定量性の良好な至適PCR条件を決定した。
【0145】
そして、PCR標的配列に含まれ解析対象となる全てのCpG部位について、採用したPCR条件で定量性が良好であることを確認し、CIMP陰性腎細胞癌88検体とCIMP陽性腎細胞癌14検体とにおいて、MassARRAY解析を実施した。
【0146】
すなわち先ず、前述のインフィニウムアッセイ同様に、各サンプルからゲノムDNAを抽出し、バイサルファイト変換した後、PCRにて増幅して、インビトロ転写反応を行った。次いで、得られたRNAをRNaseAによりウラシルの部位で特異的に切断し、各サンプルのゲノムDNAのメチル化の有無に応じた長さの異なる断片を生成した。そして、得られたRNA断片を、一塩基の質量の差異を検出できるMALDI−TOF MAS(SEQUENOM社製、MassARRAY Analyzer 4)にかけ、質量分析を行った。得られた質量分析結果を、解析ソフトウェア(EpiTYPER、SEQUENOM社製)を用いて、リファレンス配列にアラインメントし、メチル化DNAに由来するRNA断片と非メチル化DNAに由来するRNA断片との質量の比から、メチル化レベルを算出した。
【0147】
本解析に用いたプライマーの配列と該プライマーのセットを用いて増幅されたPCR産物の配列を、表17及び18並びに配列表に示す。得られた結果の一部について図18〜23に示す。
【0148】
【表17】
【0149】
【表18】
【0150】
図18〜23に示した結果から明らかなように、MassARRAYの解析対象とした全ての領域に関し、先のインフィニウムアレイを用いた解析結果同様に、前記CpGサイトのDNAメチル化レベルを検出することによってクラスターBに属する予後不良の腎細胞癌(CIMP陽性群)と、クラスターAに属する予後が良好である腎細胞癌(CIMP陰性群)とを判別できることが確認された。さらに、MassARRAY解析によって、1CpGサイトのみならず、それを含むCpGアイランド全域(例えば、インフィニウムプローブ部位であるCpGサイトの前後1500bpに亘る領域)においても、CIMP陽性群において高メチル化状態が続いていることが明らかになった。
【0151】
従って、プロモーター全域の高メチル化状態により強固なサイレンシングの起こっている領域の1CpGサイトが、実施例4において同定されていたことが明らかになった、すなわち、前記18CpGサイトに限らず、前記17遺伝子のCpGアイランドに位置する少なくとも1のCpGサイトのDNAメチル化レベルを検出すれば、腎細胞癌の予後不良リスクを検出できることが明らかになった。
【0152】
また、かかるMassARRAY法により、前述のインフィニウムアッセイにて既にCIMP陽性群に分類されている14症例とCIMP陰性例88症例において、14遺伝子の312CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを定量した。そして、その結果に基づき、受信者操作特性(ROC)解析を行い、各CpGサイト単独でCIMP陽性群をCIMP陰性群から見分けるときの「感度(陽性率)」、「特異度」及び「1−特異度(偽陽性率)」を求めた。さらに、得られたこれらの値からROC曲線を作製し、AUC(area under the curve、ROC曲線下面積)を算出した。また、各CpGサイトに対しては、「感度+特異度」が最大となるようにカットオフ値(診断閾値)を設定した。前記MassARRAY解析において定量的に解析を行うことができたCpGサイトについて得られた結果を表19〜27に示す。なお、表19〜27において、近接しており且つMassARRAY法の特性によりまとめてDNAメチル化レベルが測定される複数のCpGサイトについては1箇所としてまとめて記載している。また、これら表の「標的遺伝子名_プライマーセット名_CpGサイト」は、表17及び18に記載のプライマーセットを用いて増幅したPCR産物中のCpGサイトの順番を示す。なお、表23の記載において、SLC13A5_10_CpG_44とSLC13A5_13_CpG_1とは、異なるプライマーセットによって増幅された領域における44番目のCpGサイトと1番目のCpGサイトとを各々示すが、ゲノム上の位置(NCBIデータベース Genome Build 37上の位置)は17番染色体の6617077とする、同一のCpGサイトである。
【0153】
【表19】
【0154】
【表20】
【0155】
【表21】
【0156】
【表22】
【0157】
【表23】
【0158】
【表24】
【0159】
【表25】
【0160】
【表26】
【0161】
【表27】
【0162】
表19〜27に示した結果から明らかなように、診断能力の大きなCpGサイトが、インフィニウムプローブ部位である前記CpGサイトに加えて、各CpGアイランドに多数存在することがわかった。すなわち、AUC>0.9であるCpGサイト数は141サイトあり、AUC>0.95であるCpGサイト数は32サイトあった。
【0163】
また、MassARRAY法においては、例えば「FAM150A_14_CpG_13.14.15」のようにCGCGCGと連続するCpGサイトでは全体で1個の計測値が与えられるので、前記AUC>0.9である141サイトは、AUC算出の根拠になる計測値としては90個に相当する。また同様に、前記AUC>0.95である32サイトは、AUC算出の根拠になる計測値としては23計測値に相当する。
【0164】
また、図24に示した結果から明らかなように、AUCが0.95より大きいCpGサイト23箇所(23計測値)を指標として用いることによって、CIMP陽性群とCIMP陰性群とを明確に区別することができた。
【産業上の利用可能性】
【0165】
以上説明したように、本発明によれば、前記17遺伝子(FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2)の少なくとも一のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出することによって、予後不良の腎細胞癌(CIMP陽性腎細胞癌)と比較的良好な腎細胞癌とを明確に分類することが可能となる。
【0166】
かかるDNAメチル化レベルの、予後不良群と良好群との差違は大きいので、病院の検査室等ですでに普及しているPCR法等(例えば、メチル化特異的定量PCR法、COBRA法)でも容易に検出できる。また、腎細胞癌手術検体から、患者に余分な侵襲を加えることなく、予後診断用のゲノムDNAを豊富に抽出できる。従って、本発明の腎細胞癌の予後不良リスクを検出する方法は、治療成績の向上を目指した方法として、臨床分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0167】
配列番号:17
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたSLC13A5_MA_10フォワードプライマー)
配列番号:18
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたSLC13A5_MA_10リバースプライマー)
配列番号:19
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたSLC13A5_MA_13フォワードプライマー)
配列番号:20
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたSLC13A5_MA_13リバースプライマー)
配列番号:21
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたSLC13A5_MA_15フォワードプライマー)
配列番号:22
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたSLC13A5_MA_15リバースプライマー)
配列番号:23
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたFAM150A_MA_14フォワードプライマー)
配列番号:24
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたFAM150A_MA_14リバースプライマー)
配列番号:25
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたGRM6_MA_8フォワードプライマー)
配列番号:26
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたGRM6_MA_8リバースプライマー)
配列番号:27
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZFP42_MA_2フォワードプライマー)
配列番号:28
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZFP42_MA_2リバースプライマー)
配列番号:29
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZFP42_MA_5フォワードプライマー)
配列番号:30
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZFP42_MA_5リバースプライマー)
配列番号:31
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたRIMS4_MA_9フォワードプライマー)
配列番号:32
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたRIMS4_MA_9リバースプライマー)
配列番号:33
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたTRH_MA_8フォワードプライマー)
配列番号:34
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたTRH_MA_8リバースプライマー)
配列番号:35
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZNF540_MA_17フォワードプライマー)
配列番号:36
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZNF540_MA_17リバースプライマー)
配列番号:37
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたPCDHAC1_MA_5フォワードプライマー)
配列番号:38
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたPCDHAC1_MA_5リバースプライマー)
配列番号:39
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたPRAC_MA_2フォワードプライマー)
配列番号:40
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたPRAC_MA_2リバースプライマー)
配列番号:41
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZNF671_MA_8フォワードプライマー)
配列番号:42
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたZNF671_MA_8リバースプライマー)
配列番号:43
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたWNT3A_MA_9フォワードプライマー)
配列番号:44
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたWNT3A_MA_9リバースプライマー)
配列番号:45
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたKHDRBS2_MA_19(rev)フォワードプライマー)
配列番号:46
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたKHDRBS2_MA_19(rev)リバースプライマー)
配列番号:47
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたASCL2_MA_8フォワードプライマー)
配列番号:48
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(MassARRAYアッセイに用いたASCL2_MA_8リバースプライマー)
配列番号:49
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用ZFP42フォワードプライマー)
配列番号:50
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用いたZFP42リバースプライマー)
配列番号:51
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用いたZFP42シークエンシングプライマー)
配列番号:52
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用ZFP154フォワードプライマー)
配列番号:53
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用いたZFP154リバースプライマー)
配列番号:54
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用いたZFP154シークエンシングプライマー)
配列番号:55
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用ZFP540フォワードプライマー)
配列番号:56
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用いたZFP540リバースプライマー)
配列番号:57
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列(パイロシークエンシング用いたZFP540シークエンシングプライマー)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]