【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において用いた試料及び方法は下記に示す通りである。
【0076】
<患者及び組織サンプル>
109の癌組織(T)サンプル及び対応する107の非癌腎皮質組織(N)サンプルは、原発性の淡明細胞型腎明細癌を罹患している110人の患者から手術によって摘出された試料から得たものであり、Nサンプルには顕著な組織学的変化は認められていない。
【0077】
なお、これら患者は、術前の治療は受けておらず、国立がん研究センター病院にて腎摘出術を受けた患者である。79名の男性と31名の女性とからなり、平均年齢は62.8±10.3歳(平均±標準偏差、36〜85歳)である。
【0078】
また、サンプルの組織学的診断は、WHOの分類に従って行った(Eble,J.N.ら、「腎細胞癌 腫瘍WHO分類 病理学及び遺伝学 男性生殖器及び泌尿系の腫瘍」、2004年、IARC出版、Lyon、10〜43ページ、
図1 参照)。
【0079】
さらに、全ての腫瘍の組織学的異型度は「Fuhrman,S.A.ら、Am.J.Surg.Pathol.、1982年、6巻、655〜663ページ」に記載の基準に従って評価し、TNM分類は「Sobin,L.H.ら、国際対がん連合(UICC)、TNM悪性腫瘍の分類、第6版、2002年、Wiley−Liss、New York、193〜195ページ」に従って分類した。
【0080】
また、腎細胞癌の肉眼分類の基準として、肝細胞癌(HCC)において確立された基準を採用した(非特許文献4〜6 参照)。なお、タイプ3(多結節癒合型)HCCは、タイプ1(単結節型)及びタイプ2(単結節周囲増殖型)のHCCよりも、組織学的分化度は低く、肝内転移の発生率は高い(Kanai,T.ら、Cancer、1987年、60巻、810〜819ページ 参照)。
【0081】
血管侵襲の有無は、へマトキシリン−エオジン及びエラスチカ・ワン・ギーソン染色を施したスライドを顕微鏡にて観察することによって調べた。
【0082】
腎静脈の本幹における腫瘍血栓の有無は肉眼的観察によって調べた。なお、腎細胞癌は通常線維性被膜に囲まれ、その境界が明瞭となっている。また、腎細胞癌の癌細胞間に線維性間質は殆ど含まれていない。そのため、非癌上皮細胞や間質細胞を混在させることなく、外科試料から癌細胞を得ることができた。
【0083】
また、前記RCC患者と比較するため、原発性腎腫瘍を罹患していない患者29人から手術によって摘出された試料から、正常腎皮質組織(C1〜C29)29サンプルを得た。サンプルを得た原発性腎腫瘍を罹患していない患者は、18名の男性と11名の女性とからなり、平均年齢は61.4±10.8歳(平均±標準偏差、31〜81歳)である。また、これら患者のうち22人は、腎盂における尿路上皮癌のため腎摘出術を受けた患者であり、6人は腎臓周囲の後腹膜肉腫の切除と共に腎摘出術を受けた患者である。残り1名は、転移性胚細胞腫瘍のため大動脈周囲リンパ節摘出術を受けた患者であり、腎動脈を維持することが難しかったため、同時に腎摘出術も施された。
【0084】
今回の研究対象である全ての患者からは、書面によるインフォームドコンセントを得ている。また、本研究は、国立がん研究センターの倫理委員会の承認を受けて実施されたものである。
【0085】
<インフィニウムアッセイ>
前記患者から得た新鮮凍結組織サンプルを、フェノール−クロロホルムにて処理し、次いで透析を施すことによって、高分子量DNAを抽出した(Sambrook,J.ら、モレキュラークローニング:実験マニュアル 第3版、コールドスプリングハーバー出版、NY、6.14〜6.15ページ 参照)。
【0086】
そして、DNA500ngを、EZ DNAメチレーション−ゴールド(TM)キット(Zymo Research社製)を用い、バイサルファイト変換処理に供した。
【0087】
次いで、27578CpG部位におけるDNAメチル化状態を、インフィニウムヒトメチレーション27ビーズアレイ(Illumina社製)を用い、1CpGサイトの解像度にて解析した。このアレイには、NCBIデータベースに登録されている14475遺伝子(コンセンサスコーディング配列)の転写開始部位における近位プロモーター領域内に位置するCpGサイトが含まれている。また、平均して、1遺伝子あたり2つのサイトが選択され、さらに200以上の癌関連遺伝子及びインプリンティング遺伝子については1遺伝子あたり3〜20のCpGサイトが選択され、このアレイには搭載されている。また、各アレイには40のコントロールプローブが搭載されている。このコントロールプローブには、染色、ハイブリダイゼーション、伸長及びバイサルファイト変換のコントロール並びにネガティブコントロールが含まれている。
【0088】
なお、前記バイサルファイト変換したDNAを自動的に処理するため、Evoロボット(Tecan社製)を用いた。また、インフィニウムアッセイキット(Illumina社製)を用いて、全ゲノム増幅処理を行った(Bibikova,M.ら、Epigenomics、2009年、1巻、177〜200ページ 参照)。
【0089】
そして、このようにして増幅したDNA断片と、前記アレイ上のプローブとをハイブリダイズした後、特異的にハイブリダイズしたDNAを1塩基伸長反応にて蛍光標識した。次いで、製造会社のプロトコールに従って、ビーズスキャンリーダー(Illumina社製)を用い、当該DNAを検出した。得られたデータは、ゲノムスタジオメチレーションソフトウェア(Illumina社製)を用いて、解析した。
【0090】
なお、各CpGサイトにおいて、蛍光シグナルの比率は、メチル化プローブ及び非メチル化プローブの合計に対するメチル化プローブの相対比を用い測定した。すなわち、所謂β値(範囲:0.00〜1.00)はCpGサイト個々におけるメチル化レベルを反映するものである。
【0091】
<統計解析>
前記インフィニウムアッセイにおいて、解析した組織サンプル全てに対し、コール率(call proportion、バックグランド以上のシグナルの検出におけるP値<0.01)が90%以下であったプローブは32個あった。このような低いコール率はプロープのCpGサイトにおける多型に起因しているかもしれないため、本アッセイにおいてはこれら32プローブを除外した。さらに、性特異的なメチル化のバイアスを回避するために、X染色体及びY染色体における全てのCpGサイトは除外した。その結果、常染色体上のCpGサイト26454が最終的な解析対象として残った。
【0092】
ロジスティックモデルにより、29のCサンプルと107のNサンプルとの間で、DNAメチル化レベルの有意な差を示すインフィニウムプローブを同定した。
【0093】
累積ロジットモデルにより、29のCサンプル、107のNサンプル及び109のTサンプルにおいて、Cサンプル、Nサンプル、Tサンプルと、DNAメチル化レベルが段階的に変化する(Ordered difference)プローブを同定した。
【0094】
1の患者由来の、Nサンプルと対応するTサンプルとの104のペアにおけるDNAメチル化状態の差を、ウィルコクソンの符号付順位和検定により調べた。
【0095】
q=0.01の誤検出率(FDR)を有意と見なした。
【0096】
DNAメチル化レベル(Δβ
T−N)に基づき、淡明細胞型腎細胞癌の患者について教師なし階層的クラスタリング(ユークリッド距離、ウォード法)を行った。
【0097】
患者のクラスターと臨床病理学的因子との相関は、ウィルコクソンの順位和検定及びフィッシャーの直接確率検定により調べた。
【0098】
各クラスターに属する患者の生存率曲線は、カプラン・マイヤー法により算出した。そして、ログランク検定により差を比較した。
【0099】
各クラスターにおいてDNA高メチル化又はDNA低メチル化を示すインフィニウムアッセイプローブの数と、各クラスターにおける平均DNAメチル化レベル(Δβ
T−N)とを、P<0.05を有意水準とするウィルコクソンの順位和検定によって調べた。
【0100】
クラスターを識別できるCpGサイトを、フィッシャーの直接確率検定及びランダムフォレスト法により同定した(Breiman,L.、Mach.Learn.、2001年、45巻、5〜32ページ 参照)。
【0101】
(実施例1)
<腎細胞癌発生におけるDNAメチル化の変化>
先ず、前記インフィニウムアッセイによって見出された代表的なCpGサイトについて、表9に示す条件にてパイロシークエンシング法を行うことにより確認した。その結果、
図2〜4に示す通り、各CpGサイトのDNAメチル化レベルに関し、定量性の高いパイロシークエンシング法による解析結果(
図2〜4の縦軸)と、インフィニウムアッセイによる解析結果(
図2〜4の横軸)との間には強い相関があった。
【0102】
【表9】
【0103】
このように、今回のインフィニウムアッセイのデータは信頼性の高いものであることが確認された。
【0104】
腎臓の前癌状態については、今まで殆ど論じられていない。しかしながら、本発明者らによって、非癌組織は、組織学的な顕著な変化は認められず、慢性炎症及びウィルスや病原性微生物の持続感染との関連も認められないものの、DNAメチル化が変化しているという観点から既に前癌段階にあるということが示唆されている(特許文献1及び非特許文献4〜7)。
【0105】
この点に関し、今回のインフィニウムアッセイの結果を、ロジスティックモデルによって解析した結果、4830のプローブにおいて、NサンプルのDNAメチル化レベルは、Cサンプルのそれらと比較して既に変化していることが明らかになった(FDR q=0.01,表10の(a) 参照)。
【0106】
さらに、DNAメチル化の変化が腎細胞癌自体に受け継がれていることを明らかにするため、累積ロジットモデルにより、Cサンプル、Nサンプル、Tサンプルと、DNAメチル化レベルが段階的に変化するプローブを同定した。その結果、このようにDNAメチル化レベルが段階的に変化するプローブは11089個あった(FDR q=0.01,表10の(b) 参照)。
【0107】
また、癌化に強く寄与するDNAメチル化の変化を明らかにするため、NサンプルとTサンプルとの104のペアを、ウィルコクソンの符号付順位和検定により調べた。その結果、Nサンプルと、対応する腎細胞癌との間で有意差が認められたプローブは10870個あった(FDR q=0.01,表10の(c) 参照)。
【0108】
【表10】
【0109】
以上の結果から、癌に至る過程にてDNA低メチル化も観察されたものの、腎細胞癌発生のきわめて初期の段階において、DNA高メチル化はしばし生じていることが明らかになった。
【0110】
また、表10の(a)、(b)及び(c)に記載の基準全てを満たす、すなわち、DNAメチル化が既に非癌段階にて明らかに変化しており、さらにそれらの変化が腎細胞癌に引き継がれ亢進しているプローブを801個同定した。
【0111】
(実施例2)
<腎細胞癌のエピジェネティッククラスタリング>
前記801プローブにおけるDNAメチル化レベル(Δβ
T−N)を用い、教師なし階層的クラスタリングをした結果、淡明細胞型腎細胞癌の患者104人を、クラスターA(n=90)及びクラスターB(n=14)にサブクラスター化できることが明らかになった(
図5 参照)。なお、前述の通り、前記801プローブにおけるDNAメチル化は、前癌段階にて変化が生じており、引き続き腎細胞の癌化に寄与していることが考えられる。
【0112】
次に、これらクラスターA及びBに属する淡明細胞型腎細胞癌における臨床病理学的因子及びTNMステージについて調べた。得られた結果を表11に示す。
【0113】
【表11】
【0114】
なお、表11の「P値」において、下線が付してあるものは「P<0.05」であり、(b)が付してある数値は、ウィルコクソンの順位和検定によるものであり、(c)が付してある数値は、フィッシャーの直接確率検定によるものである。また、(d)が付してある臨床病理学的因子については、腫瘍が不均一である場合に、面積的に優勢な領域における所見が示してあり、(e)が付してある臨床病理学的因子については、腫瘍が不均一である場合に、腫瘍において最も侵襲性の高い特徴が示してある。
【0115】
また、これらクラスターA及びBに属する患者の生存率についても調べた。生存率を分析した期間は42〜4024日間(平均1821日間)である。得られた結果(カプラン・マイヤー生存率曲線)を
図6及び7に示す。
【0116】
表11に示した結果から明らかなように、淡明細胞型腎細胞癌の直径、前述の肉眼分類による、単結節周囲増殖型(タイプ2)又は多結節癒合型(タイプ3)の出現頻度、血管侵襲の頻度、腎静脈における腫瘍血栓形成の頻度、浸潤性増殖の頻度、腫瘍壊死及び腎盂への浸潤の頻度、組織学的異型度並びにTNM分類による病期、これらの点において、クラスターBはクラスターAよりも大きかった(又は高かった)。なお表11に示す通り、腎細胞癌のエピジェネティッククラスタリングは、患者の性別、年齢によるものではないことは明白である。
【0117】
また、
図6及び7に示した結果から明らかなように、クラスターBに属する患者の無再発生存率(無癌生存率)及び全生存率(全体的な生存率)は、クラスターAに属する患者のそれらよりも有意に低かった(無癌生存率のP値は4.16×10
−6であり、全体的な生存率のP値は1.32×10
−2である)。
【0118】
(実施例3)
<腎細胞癌のDNAメチル化プロファイル>
次に、26454個の全てのプローブに対し、対応するNサンプルよりもTサンプルにおいてDNA高メチル化が認められたプローブの割合を、そのDNA高メチル化の差の程度(Δβ
T−N>0.1、0.2、0.3、0.4又は0.5)毎に分析した。また、26454個の全てのプローブに対し、対応するTサンプルよりもNサンプルにおいてDNA低メチル化が認められたプローブの割合を、そのDNA低メチル化の差の程度(Δβ
T−N<−0.1、−0.2、−0.3、−0.4又は−0.5)毎に分析した。得られた結果を
図8〜12に示す。
【0119】
図8〜12に示した結果から明らかなように、際立ったDNA低メチル化(Δβ
T−N<−0.5)を示したプローブは、クラスターAよりもクラスターBの方が僅かに集積していた。しかしながら、クラスターA及びクラスターBにおいて、DNA低メチル化の発生頻度に統計的な有意な差は認められなかった(Δβ
T−N<−0.1、−0.2、−0.3又は−0.4)。一方、DNA高メチル化を示したプローブは、DNA高メチル化の差の程度に関係なく、クラスターAよりもクラスターBの方に顕著に集積していた(Δβ
T−N>0.1、0.2、0.3、0.4又は0.5)。
【0120】
従って、クラスターBに属する腎細胞癌はDNA高メチル化の蓄積によって特徴付けられることが明らかになった。
【0121】
また、クラスターA及びクラスターBに関し、これらの間でDNAメチル化レベルにおいて顕著な差があった上位61のプローブを表12及び13に示す。なお、表12及び13の「ターゲットID」は、Illumina社によって、インフィニウムヒトメチレーション27ビーズアレイの全プローブに付与された番号を示し、「染色体番号」及び「染色体上の位置」は、基準ヒトゲノム配列である、NCBIデータベース Genome Build 37上の位置を示す(以下、プローブに関する表に関する標記において同じ)。「CpGアイランド」の「Y」はそのプローブがCpGアイランドに位置していることを示し、「N」はそのプローブがCpGアイランドに位置していないことを示す(表14及び15においても同じ)。さらに「遺伝子領域」は、そのプローブがエクソン(Exon)、イントロン(Intron)又は転写開始部位の上流(TSS)に位置していることを示す。さらに、「P値」はウィルコクソンの順位和検定により算出された値を示す。
【0122】
【表12】
【0123】
【表13】
【0124】
全26454個のプローブの内、CpGアイランドに位置していたプローブは19246個、72.8%であったにも関わらず、前記61個のプローブの内、クラスターBに属する腎細胞癌においてDNA高メチル化を示すCpGアイランドに位置するプローブは60個、98.4%もあった(Δβ
T−N>0.097、表12及び13)。なお、前記61個プローブの内、残り1個のプローブは非CpGアイランドに位置し、DNA低メチル化を示すものであった(クラスターBにおいて、Δβ
T−N>−0.425±0.096)。
【0125】
実施例2及び3に示した結果から、クラスターBは臨床病理学的形質とよく相関しており、CpGアイランドにおける高頻度のDNA高メチル化によって特徴付けられることが明らかになった。
【0126】
なお、クラスターBに属する腎細胞癌のかかる特徴は、よく研究されている他の臓器(例えば、大腸及び胃)のCpGアイランドメチル化形質(CIMP)陽性の癌のそれと似ている(非特許文献8〜11)。すなわち、本1CpG解像メチローム解析によって、CIMP陽性の腎細胞癌がクラスターBとして初めて同定された。
【0127】
(実施例4)
<CIMP陽性腎細胞癌を特徴付けるCpGサイトの同定>
クラスターA及びBに各々属する代表的な腎細胞癌患者に関し、腎細胞癌組織(Tサンプル)におけるDNAメチル化レベル(β値)と、非癌腎組織(Nサンプル)のそれらとの対応付けを行った。得られた結果を散布図として
図13及び14に示す。なお、
図13に示すCase:1〜4はクラスターAに属する代表的な腎細胞癌患者の例であり、
図14に示すCase:5〜8はクラスターBに属する代表的な腎細胞癌患者の例である。
【0128】
図13及び14に示した結果から明らかなように、DNAメチル化レベルがNサンプルにおいて低く、DNA高メチル化の程度が対応するNサンプルと比較してTサンプルの方が顕著であるプローブは、クラスターBのみにはっきりと存在しており、クラスターAにおいては認められなかった。
【0129】
この結果に基づき、クラスターBに属する腎細胞癌とクラスターAに属するそれらとを区別するため、全てのNサンプルにおける平均β値が0.2未満であり、0.4を超えるΔβ
T−Nの出現頻度がクラスターAと比してクラスターBの方か顕著に高い(P<1.98×10
−6、フィッシャーの直接確率検定)プローブに着目した。
【0130】
そして、このようなプローブにおいて、16プローブ(15遺伝子:FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A及びZNF671)は、クラスターBに属する14の腎細胞癌の内6以上(42.8%以上)の腎細胞癌において、0.4を超えるΔβ
T−Nを示した。一方、クラスターAに属する90の腎細胞癌の内、前記16プローブが0.4を超えるΔβ
T−Nを示した腎細胞癌は2個以下(2.2%以下)であった(表14 参照)。
【0131】
【表14】
【0132】
また、
図15に示した結果から明らかなように、クラスターAとクラスターBとの間で前記16CpGサイトにおけるDNAメチル化レベル(Δβ
T−N)は完全に異なっていた。
【0133】
さらに、クラスターAとクラスターBとの間で顕著にDNAメチル化レベル(Δβ
T−N)が異なっていた869プローブ(FDR[q=0.01])を用い、ランダムフォレスト解析を行った(
図16及び17 参照)。その結果、クラスターAとクラスターBとを識別することのできる上位4プローブをさらに同定した(表15 参照)。
【0134】
【表15】
【0135】
なお、前記15遺伝子と、ランダムフォレスト解析によって見出されたクラスターAとクラスターBとを識別することのできる上位4遺伝子とは、2遺伝子(FAM150A及びGRM6)は重複していた。
【0136】
従って、これら17遺伝子(FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2)におけるCpGサイトは、CIMP陽性腎細胞癌、例えばクラスターBに属する腎細胞癌の特徴とみなすことができる。すなわち、前記17遺伝子のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを検出することによって、腎細胞癌患者の予後不良リスクを検出できることが明らかになった。
【0137】
また、これら遺伝子の発現量を定量的RT−PCRによって解析した結果、DNA高メチル化によりこれら遺伝子の発現が抑制されていることが明らかになった(表16 参照)。
【0138】
【表16】
【0139】
従って、前癌段階において生じているDNAメチル化の変化は、遺伝子発現レベルの変化を介して、腎細胞癌の悪性度及び患者の予後を決定していることが示された。
【0140】
(実施例5)
<質量分析計による、腎細胞癌におけるDNAメチル化レベルの検出>
前記インフィニウムアッセイとは異なるメチル化DNA検出方法、マスアレイ法(MassARRAY法)にて、前記17遺伝子のCpGサイトについてのDNAメチル化レベル検出の有効性を確認した。
【0141】
MassARRAY法は、バイサルファイト処理後のDNAを増幅し、RNAに転写し、さらにRNAaseにより塩基特異的に切断した後、質量分析計によって、メチル化DNA断片と非メチル化DNA断片との分子量の差を検出する方法である。
【0142】
先ず、インフィニウムアレイのプローブ部位である前記CpGサイトを含むCpGアイランドに対し、EpiDesigner(SEQUENOM社製、MassARRAY用プライマー設計ソフト)を用いてMassARRAYのプライマー設計を行った。
【0143】
なお、MassARRAYにおけるPCR標的配列は100〜500bp程度とやや長いので、前記CpGサイト周辺の多数のCpG部位のDNAメチル化レベルを合わせて評価することができる。
【0144】
また、PCRにおけるバイアスの影響を排除するため、1プライマーセット当たり、DNAポリメラーゼ3種とアニール温度4段階程度の条件との組み合わせを平均して試行し、定量性の良好な至適PCR条件を決定した。
【0145】
そして、PCR標的配列に含まれ解析対象となる全てのCpG部位について、採用したPCR条件で定量性が良好であることを確認し、CIMP陰性腎細胞癌88検体とCIMP陽性腎細胞癌14検体とにおいて、MassARRAY解析を実施した。
【0146】
すなわち先ず、前述のインフィニウムアッセイ同様に、各サンプルからゲノムDNAを抽出し、バイサルファイト変換した後、PCRにて増幅して、インビトロ転写反応を行った。次いで、得られたRNAをRNaseAによりウラシルの部位で特異的に切断し、各サンプルのゲノムDNAのメチル化の有無に応じた長さの異なる断片を生成した。そして、得られたRNA断片を、一塩基の質量の差異を検出できるMALDI−TOF MAS(SEQUENOM社製、MassARRAY Analyzer 4)にかけ、質量分析を行った。得られた質量分析結果を、解析ソフトウェア(EpiTYPER、SEQUENOM社製)を用いて、リファレンス配列にアラインメントし、メチル化DNAに由来するRNA断片と非メチル化DNAに由来するRNA断片との質量の比から、メチル化レベルを算出した。
【0147】
本解析に用いたプライマーの配列と該プライマーのセットを用いて増幅されたPCR産物の配列を、表17及び18並びに配列表に示す。得られた結果の一部について
図18〜23に示す。
【0148】
【表17】
【0149】
【表18】
【0150】
図18〜23に示した結果から明らかなように、MassARRAYの解析対象とした全ての領域に関し、先のインフィニウムアレイを用いた解析結果同様に、前記CpGサイトのDNAメチル化レベルを検出することによってクラスターBに属する予後不良の腎細胞癌(CIMP陽性群)と、クラスターAに属する予後が良好である腎細胞癌(CIMP陰性群)とを判別できることが確認された。さらに、MassARRAY解析によって、1CpGサイトのみならず、それを含むCpGアイランド全域(例えば、インフィニウムプローブ部位であるCpGサイトの前後1500bpに亘る領域)においても、CIMP陽性群において高メチル化状態が続いていることが明らかになった。
【0151】
従って、プロモーター全域の高メチル化状態により強固なサイレンシングの起こっている領域の1CpGサイトが、実施例4において同定されていたことが明らかになった、すなわち、前記18CpGサイトに限らず、前記17遺伝子のCpGアイランドに位置する少なくとも1のCpGサイトのDNAメチル化レベルを検出すれば、腎細胞癌の予後不良リスクを検出できることが明らかになった。
【0152】
また、かかるMassARRAY法により、前述のインフィニウムアッセイにて既にCIMP陽性群に分類されている14症例とCIMP陰性例88症例において、14遺伝子の312CpGサイトにおけるDNAメチル化レベルを定量した。そして、その結果に基づき、受信者操作特性(ROC)解析を行い、各CpGサイト単独でCIMP陽性群をCIMP陰性群から見分けるときの「感度(陽性率)」、「特異度」及び「1−特異度(偽陽性率)」を求めた。さらに、得られたこれらの値からROC曲線を作製し、AUC(area under the curve、ROC曲線下面積)を算出した。また、各CpGサイトに対しては、「感度+特異度」が最大となるようにカットオフ値(診断閾値)を設定した。前記MassARRAY解析において定量的に解析を行うことができたCpGサイトについて得られた結果を表19〜27に示す。なお、表19〜27において、近接しており且つMassARRAY法の特性によりまとめてDNAメチル化レベルが測定される複数のCpGサイトについては1箇所としてまとめて記載している。また、これら表の「標的遺伝子名_プライマーセット名_CpGサイト」は、表17及び18に記載のプライマーセットを用いて増幅したPCR産物中のCpGサイトの順番を示す。なお、表23の記載において、SLC13A5_10_CpG_44とSLC13A5_13_CpG_1とは、異なるプライマーセットによって増幅された領域における44番目のCpGサイトと1番目のCpGサイトとを各々示すが、ゲノム上の位置(NCBIデータベース Genome Build 37上の位置)は17番染色体の6617077とする、同一のCpGサイトである。
【0153】
【表19】
【0154】
【表20】
【0155】
【表21】
【0156】
【表22】
【0157】
【表23】
【0158】
【表24】
【0159】
【表25】
【0160】
【表26】
【0161】
【表27】
【0162】
表19〜27に示した結果から明らかなように、診断能力の大きなCpGサイトが、インフィニウムプローブ部位である前記CpGサイトに加えて、各CpGアイランドに多数存在することがわかった。すなわち、AUC>0.9であるCpGサイト数は141サイトあり、AUC>0.95であるCpGサイト数は32サイトあった。
【0163】
また、MassARRAY法においては、例えば「FAM150A_14_CpG_13.14.15」のようにCGCGCGと連続するCpGサイトでは全体で1個の計測値が与えられるので、前記AUC>0.9である141サイトは、AUC算出の根拠になる計測値としては90個に相当する。また同様に、前記AUC>0.95である32サイトは、AUC算出の根拠になる計測値としては23計測値に相当する。
【0164】
また、
図24に示した結果から明らかなように、AUCが0.95より大きいCpGサイト23箇所(23計測値)を指標として用いることによって、CIMP陽性群とCIMP陰性群とを明確に区別することができた。