(54)【発明の名称】ポジトロン放射断層撮影(Positron−EmissionTomography:PET)画像のタイムオブフライト(Time−Of−Flight:TOF)リストモード再構成のためのシステム行列を計算する方法及び装置
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポジトロン放射断層撮影(Positron-Emission Tomography:PET)画像のタイムオブフライト(Time-Of-Flight:TOF)リストモード再構成のためのシステム行列を計算する方法であって、前記方法は、
カウントデータを生成するためにPET検出器によってガンマ線を検出するステップと、
被検体減衰の効果を含むTOF幾何学的投影行列Gを決定するステップと、
画像空間における画像平滑化行列Rを推定するステップと、
TOFに基づく正規化因子を含む対角行列Dを取得するステップと、
システム行列HをH=DGRとして計算するステップと、
前記システム行列Hを用いて、前記カウントデータからPET画像を再構成するステップと
を含む、方法。
ポジトロン放射断層撮影(Positron-Emission Tomography:PET)画像のタイムオブフライト(Time-Of-Flight:TOF)リストモード再構成のためのシステム行列を計算する装置であって、前記装置は、
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
PET検出器によってガンマ線を検出することで生成されたカウントデータを取得するステップと、
被検体減衰の効果を含むTOF幾何学的投影行列Gを決定するステップと、
画像空間における画像平滑化行列Rを推定するステップと、
TOFに基づく正規化因子を含む対角行列Dを取得するステップと、
システム行列HをH=DGRとして計算するステップと、
前記システム行列Hを用いて、前記カウントデータからPET画像を再構成するステップと
を含む方法を実行する、装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
開示する実施形態およびそれに伴う利点の多くは、添付の図面と関連付けて考慮しながら以下の詳細な説明を参照してよりよく理解することにより、容易により完全に理解できるであろう。
【0014】
画像平滑化行列は、検出器平滑化行列を用いるよりも、幾何学的投影行列と組み合わせることで、別の独立に定義可能な要素に分解したモデルを生成することができる。画像に基づいて独立な要素に分解したモデルは、検出器平滑化操作を必要としないため、リストモードデータに直接的に効果がある。画像平滑化カーネルは、幾何学的投影行列の個々の選択に合わせて作ることができる。したがって、画像平滑化行列を前述の単純な幾何学的投影行列と組み合わせると、極めて実用的である。このような場合、平滑化カーネルは、観測データから雑音を抑制するだけでなく、LORサンプリング折返しアーチファクトを補正する。独立な要素に正確に分解する画像平滑化行列の取得が一般的に難しいため、画像に基づいて独立な要素に分解したモデルは、独立な要素に分解しないモデルに対する近似手段としてのみ役立つことができる。したがって、「組み込まれている」独立な要素への分解誤差が再構成精度にどのように影響するかを理解することが重要である。
【0015】
本明細書に開示する実施形態では、解析計算と測定データとを組み合わせる複合モデルが示されている。具体的には、本明細書に開示する独立な要素に分解したシステムモデルは、幾何学的投影行列と、解析計算から導出される画像平滑化行列と、測定データに基づく画像平滑化カーネルとからなる、3つの主要要素を含む。投影速度を上げるために、単純線積分に基づくLORモデルを用いて、幾何学的投影がオンザフライで実行される。解析画像平滑化カーネルは、全てのボクセル位置に対して個々に推定され、結晶透過および有限の結晶幅に起因する平滑化効果を補償することができる。また、解析画像平滑化カーネルは、空間的滑らかさおよび回転対称性を前提としていないため、単純な線積分モデルに起因する、空間的に様々なサンプリングアーチファクトも補償することができる。結晶内散乱に起因する平滑化効果と電子雑音に起因する結晶の位置ずれとをモデル化するために、測定に基づく画像平滑化カーネルが用いられる。点線源を数カ所でスキャンすれば十分であるように、測定に基づくカーネルに、回転対称性および滑らかさによる制約が課せられる。解析画像平滑化カーネルと測定に基づく画像平滑化カーネルとを組み合わることにより、少数の点線源スキャンで空間的に様々な応答を正確にモデル化できる。
【0016】
特に、一実施形態では、ポジトロン放射断層撮影(Positron-Emission Tomography:PET)画像のタイムオブフライト(Time-Of-Flight:TOF)リストモード再構成のためのシステム行列を計算する方法が提供される。この方法は、(1)TOF幾何学的投影行列Gを決定するステップと、(2)画像空間における画像平滑化行列Rを推定するステップと、(3)ベクトルn
TOFに格納された、TOFに基づく正規化因子を含む対角行列D=diag{n
TOF}を取得するステップと、(4)システム行列HをH=DGRとして計算するステップとを含む。なお、被検体に基づく減衰効果は、LOR位置のみに依存しており、D行列に含まれてもよい。しかし、本実施形態では、Dではなく幾何学的投影行列Gの中に含める。したがって、H=DPおよびP=GRである。
【0017】
別の実施形態において、推定ステップは、RをR=AMとして推定するステップを含む。ここで、r
jはボクセルjおよびRの第j列におけるj番目の平滑化カーネルであり、Aは解析平滑化行列であり以下の式を用いA={α
j}として定義される。
【0019】
P
non−TOFは解析的に計算された非TOFシステム行列であり、e
jはj番目の単位ベクトルであり、G
non−TOFは非TOF幾何学的投影行列であり、Φはポワソン対数尤度関数であり、Mは測定に基づく平滑化行列である。
【0020】
別の実施形態において、方法は、任意の点線源スキャンデータ
yjについて以下の式の演算をおこなうことにより行列Mを計算するステップをさらに含む。
【0022】
ここで、x
jは再構成された点線源カーネル画像であり、diag{n
non−TOF}は、ベクトルn
non−TOFに格納された、非TOFに基づく正規化因子を対角成分が含む対角行列である。
【0023】
別の実施形態において、行列Mを計算するステップは、(1)パラメータセットを取得するために、再構成された点線源カーネル画像をパラメトリックモデルに当てはめるステップと、(2)複数の点線源について演算ステップと当てはめるステップとを繰り返して、対応する複数のパラメータセットを取得するステップと、(3)パラメータセットを用いて補間を実行することで各ボクセルjにおけるカーネル画像を取得し、取得したカーネル画像を用いて行列Mを形成するステップとを含む。
【0024】
別の実施形態において、推定ステップは、(1)r
jをボクセルjおよびRの第j列におけるj番目の平滑化カーネル画像とし、D
mは検出器正規化因子を含むとしたときに、システム行列H
m=D
mG
non−TOFと共に非TOFオーダーサブセット期待値最大化(Ordered-Subset Expectation-Maximization:OS−EM)アルゴリズムを用いて点線源スキャンデータを再構成することにより、r
jを推定するステップと、(2)パラメータセットp
jを取得するために、最小二乗推定を用いて、パラメトリックモデルを推定された平滑化カーネル画像r
jに当てはめるステップと、(3)複数の点線源ボクセルについて推定ステップと当てはめるステップとを繰り返して、対応する複数のパラメータセットを取得するステップと、(4)取得したパラメータセットを用いて補間を実行することで各ボクセルjにおけるカーネル画像を取得し、取得したカーネル画像を用いて行列Rを形成するステップとを含む。
【0025】
別の実施形態において、パラメトリックモデルは以下の式で表される。
【0027】
ここで、cは平滑化カーネルの全域振幅を示す拡大係数であり、φ(r|μ
r,σ
r1,σ
r2)は、平均値μ
rと左標準偏差σ
r1と右標準偏差σ
r2とを用い非対称ガウス分布としてパラメータ化した径方向の平滑化関数であり、Ψ(t|μ
t,σ
t)は平均値μ
tおよび標準偏差σ
tを用いてガウス分布としてパラメータ化した接線方向の平滑化関数であり、γ(z|μ
z,σ
z)は平均値μ
zおよび標準偏差σ
zを用いた軸方向の平滑化関数である。
【0028】
さらに、別の実施形態において、ポジトロン放射断層撮影(Positron-Emission Tomography:PET)画像のタイムオブフライト(Time-Of-Flight:TOF)リストモード再構成のためのシステム行列を計算する装置が提供される。この装置は、TOF幾何学的投影行列Gを決定し、画像空間における画像平滑化行列Rを推定し、TOFに基づく正規化因子を含む対角行列Dを取得し、システム行列HをH=DGRとして計算するように構成されたプロセッサを備える。
【0029】
理論上、結晶内散乱の影響、光子の非共直線性、位置範囲の影響が無視できるほど小さければ、正確なTOFシステム行列を解析的に計算することができる。TOF PET用に、時間差Δτで光子がボクセルjから放出され結晶対iによって検出される確率は、以下の式で得られる。
【0031】
ここで、α
0iは、検出器結晶および形状効率性効果を考慮しない場合の、i番目のLORについての被検体減衰効果の割合に相当し、κ
σはタイミングウインドウ関数である。ここで、タイミングウインドウ関数は、標準偏差がσに等しいガウス関数でモデル化される。ベクトルw
Δriはタイミングウインドウ中心の空間座標であり、ベクトルu
jはボクセルjの空間座標である。||−||は標準ユークリッド距離である。V
0およびV
1はLOR
iを形成する2つの結晶の容積測定領域を示す。ベクトルv
0およびベクトルv
1はこれら2つの結晶それぞれのサンプル点である。α
diは、ベクトルv
0およびベクトルv
1の関数である光子透過による検出器側の減衰の割合に相当する。b
j(・)は、ボクセルjの関数の基底であり、L(ベクトルv
0,ベクトルv
1)はベクトルv
0およびベクトルv
1によって規定される線である。
【0032】
なお、タイミングウインドウ関数がない場合は、式(1)は非TOFの場合に対する確率になる。したがって、TOF LORは、タイミングウインドウ関数によって重み付けされた非TOF LORにほぼ等しい。また、タイミングウインドウ関数をオンザフライで計算することができる一方で、対応するTOF投影を実行するために、非TOF LORを事前計算することもできる。
【0033】
正確なTOF LORは、1行ずつ格納され、P
TOFで示される正確なシステム行列を形成することができる。本実施形態では、P
TOFは以下の形に分解される。
【0035】
ここでG
TOFはTOF幾何学的投影行列であり、Rは画像平滑化行列である。全ての因子が不明という前提の、全く「盲目的な」やり方で独立な要素への分解を行ってもよいが、簡単にするためにG
TOFが与えられることが多く、Rは推定される。高速再構成のために、G
TOFは線積分モデルを用いてモデル化される。
【0036】
投影速度を上げるために、G
TOFにおけるLORを体積積分ではなく線積分によって単純に計算してもよい。
【0038】
ここで、L
iは結晶対iを結ぶ線である。一般的に用いられる立方体のボクセルを想定し、線とボクセルとが交差する長さを用いて積分値を求めたものを、
図1(a)に示す。シドンの方法またはその種の別の方法により、ゼロ以外のボクセルの計算を効率的に行うことができる。しかし、高速近似では、積分値が交差する長さそのものである必要はない。
【0039】
一実施形態において、ブレゼンハムの方法に基づく別の線投影が用いられる。
図1(b)は2次元の例を示しており、これを3次元に拡張することは容易である。
図1(b)に示すように、ブレゼンハムの方法は、シドンの方法よりもゼロ以外が少なくて済む。また、ゼロ以外の数は、レイトレーサが「途切れない」デジタル線を作るための最小必要要件を形成するもので、画像分割の数に等しいが、画像の最大寸法より大きくはならない。このことは、ブレゼンハムのレイトレーサにより最速の投影速度が得られることを示している。
【0040】
特に
図1(a)は、サイズ4×4の画像を通過してAからBに移動するシドンのレイトレーサを2次元的に示したものである。グレーのピクセルは、線に沿ったゼロ以外のボクセルを示す。グレーの濃さは、線ABがボクセルと交差する長さに比例する。すなわち、色が濃いほど長さが長い。
図1(b)は、ブレゼンハムの方法によりAからBまでの線が生成される様子を示す。まず、画像が線ABの傾きに従って分割される。2次元の場合、線の傾きkに基づいて複数の列または行に画像を分割できる。|k|<1の場合、画像は複数の列に分割され、そうでない場合は複数の行に分割される。この例では、画像は4つの列に分割される。各列は、(点線で示すように)ボクセルの中心を通る線分として見ることができる。線ABがこれらの線分と交差する点は、解析的に計算される。交差する点に最も近い各列のボクセルは、取り上げられ、値が割り当てられる。この値は、線ABと横軸との間の角度の余弦の逆数として計算される。これら全てのボクセルは、同じ色をしていれば同じ値を有する。
【0041】
r
jをボクセルjにおける平滑化カーネルとする。一実施形態において、r
jは以下の式を解くことにより推定される。
【0043】
ここで、Φはポワソン対数尤度関数であり、e
jはj番目の単位ベクトル(すなわち、ボクセルjにおける点線源)である。小さいタイミングビンを用いる場合、TOFシステム行列のサイズは非常に大きくなり得る。しかし、TOFはPET空間分解能に影響しないため、非TOFシステム行列を用いて以下のように推定することができる。
【0045】
完全なRを形成するには、全てのボクセル位置における点線源スキャンが必要であり、非実用的である。代わりに、横断面方向の画像平滑化行列および軸方向の画像平滑化行列の2つの小さいサイズの行列を推定することができる。幾何学的対称性を用いることで、点線源収集およびカーネル推定の量を低減することができる。
【0046】
なお、ポワソン対数尤度関数は、r
jに関して凸状であるため、目的関数を最大にする一意のハット付きのr
jが存在する。しかし、独立な要素に分解したモデル自体が正確ということにはならない。独立な要素への分解の精度に影響を及ぼす因子として、G
TOFの選択がある。式(2)の線形モデルでは、理論上、P
TOFの範囲がG
TOFの範囲内にあるなら、すなわち、P
TOFの列がG
TOFの列空間に属するなら(G
TOF内に吸収され得るため正規化行列は無視する)、独立な要素への分解は正確となり得る。ほとんどの場合、特に、G
TOFが単純な線積分モデルによって計算される場合、この範囲条件は当てはまらない。
【0047】
平滑化行列が取得されると、追加補正を行って正規化因子D=diag{n
TOF}を推定する。これは円柱線源スキャンで行うことができる。具体的には、高精度モデルおよび独立な要素に分解したモデルを用いることにより、2つの円柱投影像が生成される。これら2つのスキャンの比率をn
TOF正規化ベクトルとする。結晶効率、タイミングウインドウに応じた補正、被検体減衰因子等の別の因子も、この正規化ベクトルに一緒にまとめることができる。最後に、独立な要素への分解が正確でないことも考えられるため、オーダーサブセット(Ordered-Subset:OS)期待値最大化(Expectation-Maximization:EM)再構成アルゴリズムにおける感度マップを計算する必要がある。この計算は、独立な要素に分解されたモデルそのものに基づいて、すなわち、想定される全ての投影ビン位置において1回、独立な要素に分解したシステム行列をR
TG
TOFTn
TOFで画像に逆投影することにより行われる。ここで、上付き文字Tは行列の転置を示す。
【0048】
上記の方法をテストするために、シミュレーション検討を実施した。独立な要素に分解されたモデルにより、非常によく似た画像解像度、障害コントラストの復元、およびバックグラウンドノイズが正確なシステム行列モデルとして得られることが、検討の結果から示された。さらに、他の行列を独立な要素に分解することも可能である。独立な要素に分解された平滑化行列が、対応する幾何学的行列を用いて正しくモデル化されていれば、異なる幾何学的投影行列でも非常によく似た結果が得られる。つまり、より単純な幾何学的投影行列を用いて画像再構成を高速化できるということである。
【0049】
一実施形態において、独立な要素に分解されたシステムモデルを用いる、リストモードに基づくTOF PET画像再構成方法を検討した。一実施形態において、独立な要素に分解されたモデルは、主に幾何学的投影行列と画像平滑化行列とを含んでいるので、検出器応答の必要性がないためリストモードデータ処理に適している。高速計算のために、独立な要素に分解されたモデルにより、単純な幾何学的投影行列を用いてオンザフライで計算できるようになる。画像平滑化行列は、選択された幾何学的投影行列に基づいて推定する必要がある。シミュレーション検討において、独立な要素に分解したモデルを高精度モデルと比較した。独立な要素に分解されたモデルの再構成速度が高精度モデルに基づく場合よりも1桁速くなる一方で、その性能が空間分解能およびノイズ特性の点で高精度モデルに匹敵することが、定量的解析により明らかになった。また、この結果は、シドンの方法が幾何学的投影のオンザフライ計算のための唯一の選択肢ではないことを示している。ブレゼンハムの方法はさらに高速であり、一旦対応する画像平滑化行列を推定すれば、その性能もシドンの方法に完全に匹敵する。独立な要素に分解されたモデルの効率を、画像サンプリングレートを変化させることにより調査した。コントラストの復元をより優れたものにするために、より小さいボクセルサイズを用いる必要があることがわかった。さらに、より小さいボクセルサイズを使用すると、モデルの精度も改善することができる。しかし、ボクセルサイズが小さくなるにつれ、再構成の雑音に対する感度が上がり、バックグラウンドの変動性が高まることになる。したがって、モデル精度と画像品質との間でトレードオフをしなければならない。
【0050】
一実施形態において、画像平滑化行列の推定は複数の点線源の測定を要し、解析的な計算されたシステム行列に基づくシミュレートされた点線源スキャンが用いられる。この解析画像平滑化カーネルは、全てのボクセル位置に対して個々に推定することができ、また結晶透過および有限の結晶幅に起因する平滑化効果を補償することができる。また、空間的滑らかさや回転対称性が前提とされていないため、解析画像平滑化カーネルは、単純な線積分モデルに起因する、空間的に様々なサンプリングアーチファクトも補償することができる。しかし、結晶内散乱に起因する平滑化効果および電子雑音に起因する結晶の位置ずれをモデル化するものではない。
【0051】
別の実施形態において、TOFシステム行列が再びP
TOFとして表される。上記式(2)と同様に、H=DP
TOFが再びP
TOF=G
TOFRの形に分解される。ここで、D=diag{n
TOF}は、ベクトルn
TOFに格納された、TOFに基づく正規化因子を含む対角行列であり、G
TOFはTOF幾何学的投影行列であり、Rは画像平滑化行列である。G
TOFが最初に決定されてから、Rおよび関連する正規化行列が推定される。高速再構成のために、G
TOFは線積分モデルを用いてモデル化される。
【0052】
ここで、HはM×Nのシステム行列であり、その要素h
jiは、画像ボクセルiにおいて放出された事象が結晶対jにおいて検出される可能性を示し、i=1,・・・,Nで、j=1,・・・,Mである。G
TOFは、スキャナおよびASVアルゴリズム等の被検体幾何形状による光子検出の確率を示すM×Nの行列である。またG
TOFは、TOF再構成のためのTOF平滑化カーネルを含む。Dは、検出器正規化因子を含むために用いることができるM×Mの対角行列である。Rは、画像−空間PSF平滑化カーネルを表すN×Nの帯行列である。
【0053】
画像−空間分解能モデルのために、r
jを、ボクセルjおよびRの第j列におけるj番目の平滑化カーネルとする。タイミングウインドウはシフトに対して不変であると仮定することにより、非TOF点線源測定値y
jを用いてr
jが以下のように推定される。
【0055】
ここで、Φはポワソン対数尤度関数である。なお、式(6)において、実際の点線源測定値が用いられるので、検出器正規化の影響をモデル化するためにdiag{n
non−TOF}が含まれる。
【0056】
実際には、完全なRを形成するために、全てのボクセル位置における点線源スキャンが必要であるが、現実的に取得することはできない。
【0057】
図3は、本実施形態におけるシステム行列Hを計算する方法を示す。
【0058】
ステップ300において、対角行列D=diag{n
TOF}を上記のように計算する。
【0059】
ステップ310において、TOF幾何学的投影行列G
TOFを計算する。
【0060】
ステップ320において、実際の点線源スキャンから直接Rを推定するのではなく、解析的に計算されたシステム行列を用いて、{α
j}で定義される解析平滑化行列Aを最初に推定する。
【0062】
ここで、P
non−TOFは解析的に計算された正確なシステム行列であり、e
jはj番目の単位ベクトルである。事前に計算されたP
non−TOFを用いて、全てのボクセル位置について平滑化カーネルが推定される。理論上、P
TOFを用いて画像平滑化カーネルを取得すればよいが、小さいタイミングビンサイズを用いる場合、P
TOFのサイズは非常に大きくなり得る。TOFはPET空間分解能に影響を及ぼさないので、計算および記憶装置のコストを削減するために、ここでは非TOFシステム行列を用いる。
【0063】
ステップ330において、実際の点線源スキャンに基づき第2の平滑化カーネルを推定する。点線源スキャンデータをy
jとすると、点線源は次の式を用いて再構成される。
【0065】
次に、取得したカーネル画像を、パラメトリックモデルに当てはめる。少数の点線源を用いて画像再構成領域全体をサンプリングし、各点線源再構成のために一連のパラメータを取得する。カーネルパラメータは空間領域にわたって滑らかに変化すると仮定することにより、あらゆる空間位置において補間によりカーネルを取得する。これらのカーネルは、Mで表される測定に基づく平滑化行列を形成する。
【0066】
ステップ340において、平滑化行列Rを以下の式として生成する。
【0068】
ステップ350において、システム行列Hを、DG
TOFRとして決定する。
【0069】
このTOF再構成方法の性能を、GATEに基づくモンテカルロシミュレーションを用いて評価した。40個の検出器ブロックと直径600mmの画像再構成領域を有する東芝のTOF PETスキャナをシミュレートした。プロンプトを生成して、TOFリストモードデータに変換した。タイミング分解能は450psで、タイミングビンサイズは16psであった。画像再構成は、真のTOF事象のみに基づくものとした。
【0070】
画像平滑化行列を推定するために、周知の方法を用いて、解析的で正確なシステム行列を事前に計算した。また、幾何学的投影行列も事前計算してから、平滑化行列Aを推定した。GATEにおいて11の点線源スキャンをシミュレートすることで、測定に基づく平滑化行列Mを推定した。Mは、横断面内の平滑化のみに限定した。再構成した各点線源を2次元ガウス関数に当てはめた。回転に対して不変であると仮定して、補間によってM全体を取得した。なお、フル解像度モデルRは、Aと回転に対して不変ではないMとの積である。
【0071】
定量的検討のために解析用IECファントムを用い、合計2億2千万個の真のTOF事象を収集した。オーダーサブセットリストモードEMアルゴリズムを用いて、20個のサブセットでデータを再構成した。
図2(a)〜2(c)は、それぞれ(a)無解像度モデル、(b)解析モデル、(
c)フル解像度モデルを示す。明らかに、解像度モデルは、雑音効果を抑制することにより画像品質を向上させることができる。視覚的には、AとMとを組み合わせるフル解像度モデルで、最高の結果が得られた。
【0072】
各範囲についてバックグラウンドの変動性に対するコントラストの復元を評価することにより、定量的に比較した。同じコントラスト復元率を維持しながらバックグラウンドの変動性を低減することで、予測通り、TOFの方が非TOFよりも性能が優れていた。解像度モデルを含めることは、より高いコントラスト復元にとって不可欠である。測定に基づく平滑化カーネルを用いることにより、コントラストをさらに向上させることができる。
【0073】
本実施形態では、リストモードに基づくTOF PET画像再構成のための複合画像空間分解能モデルについて説明している。この結果によると、複合モデルは、少数の点線源スキャンに基づいて画像領域の平滑化効果をモデル化する効率的な方法となり得る。さらに、GPUで加速することにより高速再構成も実現できる。
【0074】
別の実施形態において、イメージングFOVにおける様々な位置で点線源を測定することにより、R行列が推定される。
【0075】
図4は、本実施形態におけるシステム行列Hを計算する方法を示す。
ステップ400において、対角行列D=diag{n
TOF}を上記のように計算する。
ステップ410において、TOF幾何学的投影行列G
TOFを計算する。
【0076】
ステップ420において、任意のピクセル位置iについて、R行列の第i列は、ピクセルiを中心とした平滑化3次元画像であり、PSF画像と呼ばれる。非TOF OS−EMアルゴリズムをシステム行列H
m=D
mG
non−TOFと共に用いて、測定した点線源を再構成することにより、このPSF画像を推定する。ここで、D
m行列は検出器正規化因子のみを有する。また、点線源再構成のためにランダム補正を実行するが、散乱補正は必要ない。
【0077】
ステップ430において、統計ノイズを除去するために、画像の径方向、接線方向、軸方向の3つの分離可能な1次元関数を用いて、推定したPSF画像をそれぞれ以下のようにパラメータ化する。
【0079】
ここで、cはPSF平滑化カーネルの全域振幅を示す拡大係数である。φ(r|μ
r,σ
r1,σ
r2)は、平均値μ
rと左標準偏差σ
r1と右標準偏差σ
r2とを用い非対称ガウス分布としてパラメータ化した径方向の平滑化関数である。Ψ(t|μ
t,σ
t)は平均値μ
tおよび標準偏差σ
tを用いてガウス分布としてパラメータ化した接線方向の平滑化関数である。同様に、γ(z|μ
z,σ
z)は平均値μ
zおよび標準偏差σ
zを用いた軸方向の平滑化関数である。なお、一般的に、パラメータ化されたPSFカーネル関数は、ガウス分布である必要はないが、推定されるPSF画像に適合する任意の関数とすることができる。例えば、指数関数の多項式または積算を用いることができる。例えば、最小二乗(Least-Square:LS)推定を用いて、任意の点線源位置について推定されたPSF画像に対して、パラメータの当てはめを行う。
【0080】
OS−EMアルゴリズムの反復回数は、推定されるPSF画像の形状およびノイズ特性に影響するため、PSF画像のパラメータにも影響する。十分な点線源の測定回数が必要であり、OS−EMのために最適な反復回数およびサブセット数も必要であり、またはこれらのPSFパラメータのために事前の平滑化が必要な場合もある。
【0081】
ステップ440において、複数の点線源ボクセルについて上記の推定ステップ(420)および当てはめステップ(430)を繰り返して、対応する複数のパラメータセットp
jを取得する。
【0082】
ステップ450において、取得したパラメータセットを用いて補間を実行して、各ボクセルjにおけるカーネル画像を取得し、取得したカーネル画像を列ベクトルとして用いて行列Rを形成する。
【0083】
理論上、全イメージングFOV中の全ての画像ピクセル位置においてR行列が必要であるが、実用上、イメージングFOVを横断的に円のくさび形(ここで、くさび角度=360°/モジュール数)に縮小、または径方向の線にまで縮小し、またスキャナの幾何学的対称性を用いてスキャナの軸方向長さの半分だけ伸ばすことも可能である。また、ピクセル距離は、画像再構成において使用可能な最小のピクセルサイズと同等である。あるいは、後者の要件を緩めることも可能で、またPSF測定を直接行わない点について補間を用いることもできる。
【0084】
ステップ460において、システム行列HをDG
TOFRとして決定する。
【0085】
パラメータ化したR行列を計算する際は、PSF TOF−ASV−LM−OSEM再構成を以下のように実行する。(1)放射画像の初期推定を取得し、(2)R行列を用いてOS−EM感度画像を計算する。次に、各繰り返しにおいて、(a)放射画像を空間変異型R行列で平滑化し、(b)標準のTOF−ASV−LM−OSEMの順投影および逆投影を実行して補正画像を取得し、(c)補正画像をR
Tで平滑化し、(d)放射画像を平滑化補正画像および感度画像で更新し、(e)プリセットした反復回数分(a)〜(d)を繰り返す。
【0086】
上記の実施形態は、従来の方法よりもいくつかの点で優れている。まず、再構成された画像の空間分解能および障害コントラストの復元が向上している。さらに、開示した実施形態は、サイノグラムまたは投影空間再構成よりも、リストモードPET再構成に適した設計になっている。特に、リストモード再構成用に容易には入手できそうにない隣接する投影ビンを見つけることを、開示した実施形態は必要としない。
【0087】
図5は、本実施形態と共に用いることができる例示的PETハードウェア構成を示す。
図5において、光電子増倍管135および140がライトガイド130の上に配置され、シンチレーション結晶105からなるアレイがライトガイド130の下に配置されている。シンチレーション結晶125からなる第2のアレイが、シンチレーション結晶105に対向して、ライトガイド115と光電子倍増管195および110とに重ねて配置される。
【0088】
図5において、ガンマ線が被検体から放出されると、ガンマ線は互いにほぼ180°反対方向に進む。ガンマ線は、シンチレーション結晶100および120において同時に検出される。そして、既定制限時間内にシンチレーション結晶100および120においてガンマ線が検出されると、シンチレーション事象が特定される。こうして、ガンマ線タイミング検出システムは、シンチレーション結晶100および120においてガンマ線を同時に検出する。しかし、単に簡単にするために、シンチレーション結晶100に関するガンマ線検出について説明する。当業者には自明であるが、本明細書に記載のシンチレーション結晶100についての説明は、シンチレーション結晶120におけるガンマ線検出にも同様に適用できる。
【0089】
各光電子増倍管110、135、140、195はそれぞれ、データ収集装置150に接続されている。データ収集装置150は、光電子倍増管からの信号を処理するように構成されたハードウェアを含む。データ収集装置150は、ガンマ線の到達時間を測定する。データ収集装置150は、システムクロック(図示せず)に対する識別パルスの時間を符号化する2つの出力(1つはPMT135/140の組み合わせ用であり、1つはPMT110/195の組み合わせ用である)を生成する。タイムオブフライトPETシステムでは、データ収集装置150が、一般的に15〜25psの精度でタイムスタンプを生成する。データ収集装置は、各PMTの信号(データ収集装置150からの4つの出力)の大きさを測定する。
【0090】
データ収集装置の出力は、処理のためにCPU170に送られる。その処理は、データ収集装置の出力からエネルギーおよび位置と、事象毎に出力されたタイムスタンプから到達時間とを推定する処理からなり、エネルギー、位置、および時間の推定の精度を改善するために、事前の校正に基づき、多くの補正ステップの適用を含んでもよい。
【0091】
さらに、CPU170は、PET画像再構成を実行するように構成される。これには、図
3および
4に示すフローチャートおよび上記内容に従ってランダム事象を推定するタイムオブフライト(Time-Of-Flight:TOF)リストモード再構成のために、システム行列を計算する方法を実行することも含まれる。
【0092】
当業者には自明であるが、CPU170は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、または複合プログラマブル論理回路(Complex Programmable Logic Device:CPLD)等の個別論理ゲートとして実装することができる。FPGAまたはCPLDの実装は、VHDL
(VHSIC Hardware Description Language)、Verilog、またはその他のハードウェア記述言語でコード化してもよく、またそのコードを直接FPGAもしくはCPLD内の電子メモリの中に、または別の電子メモリとして、格納してもよい。さらに電子メモリは、ROM
(Read Only Memory)、EPROM
(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM
(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性のものでもよい。また電子メモリは、スタティックまたはダイナミックRAM
(Random Access Memory)などの揮発性のものでもよい。また、FPGAまたはCPLDと電子メモリとの間の相互作用のみならず電子メモリを管理するために、マイクロコントローラやマイクロプロセッサ等の処理装置を設けてもよい。
【0093】
あるいは、CPU170は、上記の電子メモリや、ハードディスクドライブ、CD
(Compact Disc)、DVD
(Digital Versatile Disc)、フラッシュドライブ等の既知の記憶媒体のいずれかに格納されている一連のコンピュータ可読命令として実装してもよい。さらに、コンピュータ可読命令は、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、もしくはオペレーティングシステムの構成要素、またはこれらの組み合わせとして提供され、米国Intel社製のXeonプロセッサまたは米国AMD社製のOpteronプロセッサ等の処理装置、ならびにMicrosoft VISTA
(登録商標)、UNIX
(登録商標)、Solaris、LINUX
(登録商標)、およびApple MAC−OS等の当業者に知られているオペレーティングシステムと連動して実行される。
【0094】
一旦CPU170で処理されると、処理された信号は、電子記憶装置180に記憶され、かつ/または、ディスプレイ145に表示される。当業者には自明であるが、電子記憶装置180は、ハードディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVDドライブ、フラッシュドライブ、RAM、ROM等の当技術分野で知られている電子記憶装置でもよい。ディスプレイ145は、LCD
(Liquid Crystal Display)ディスプレイ、CRT
(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED
(Organic Light Emitting Diode)、LED
(Light Emitting Diode)等の当技術分野で知られているディスプレイとして実装してもよい。このように、本明細書に示した電子記憶装置180およびディスプレイ145の記載は例示にすぎず、決して本実施形態の進歩の範囲を制限するものではない。
【0095】
また、
図5は、ガンマ線検出システムを他の外部装置および/またはユーザーと接続するインタフェース175を含む。例えば、インタフェース175は、USB
(Universal Serial Bus)インタフェース、PCMCIA
(Personal Computer Memory Card International Association)インタフェース、イーサネット(登録商標)インタフェース等の当技術分野で知られているインタフェースであってよい。また、インタフェース175は、有線または無線であってもよく、キーボードやマウス等のユーザーと対話するための当技術分野で知られているヒューマンインタフェース装置を含んでよい。
【0096】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、TOF PETデータのリストモード再構成を高精度に行うことができる。
【0097】
特定の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、単なる例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実際、本明細書で説明した新規の方法およびシステムは、様々な別の形態で実施されることが可能である。さらには、発明の要旨を逸脱しない範囲で、本明細書で説明した方法およびシステムの形態において種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、添付の特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。