特許第6335183号(P6335183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6335183-航空機用タイヤビード 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335183
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】航空機用タイヤビード
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   B60C15/06 K
   B60C15/06 C
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-544457(P2015-544457)
(86)(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公表番号】特表2016-501771(P2016-501771A)
(43)【公表日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】EP2013074925
(87)【国際公開番号】WO2014083090
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2016年11月21日
(31)【優先権主張番号】1261378
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】スシェ エリック
(72)【発明者】
【氏名】コン オリヴィエ
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−314507(JP,A)
【文献】 特開平03−125612(JP,A)
【文献】 特開平02−200504(JP,A)
【文献】 特開平04−328006(JP,A)
【文献】 特開平02−179514(JP,A)
【文献】 特開平07−172118(JP,A)
【文献】 特開平09−207526(JP,A)
【文献】 特開平11−011116(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0151843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用タイヤ(1)であって、
少なくとも1つの半径方向内部のビードフェース(4)を介してそれぞれリム(3)に接触するように構成された2つのビード(2)を有し、
前記2つのビード(2)を互いに連結する少なくとも1つのカーカス層(6)を備えたカーカス補強材(5)を有し、
前記カーカス層(6)は、各ビード(2)内でビードワイヤ(7)と呼ばれる中心(O)及び直径(D)の子午線断面を有する円周方向に延びる補強要素の周りに巻かれ、
各ビード(2)内において、前記ビードワイヤ(7)の半径方向内側に位置するカーカス補強材(5)の部分の半径方向内側で前記半径方向内部のビードフェース(4)まで延びる、前記ビードワイヤの下でクランプされる部分(8)を有し、
前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)は、前記半径方向内部のビードフェース(4)を介して前記リム(3)に接触するように構成されていて剪断剛性K1及び10%伸び率における弾性モジュラスM1を有する表面層(9)を含む、航空機用タイヤにおいて、
前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)は、前記表面層(9)の半径方向外側に且つ該表面層(9)に隣接して位置していて、前記表面層(9)の前記剪断剛性K1の少なくとも5倍に等しく且つ前記表面層(9)の前記剪断剛性K1の多くとも17倍に等しい剪断剛性K2を有する剛性層(10)を含み、
前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)は、前記剛性層(10)の半径方向外側に且つ該剛性層(10)に隣接して位置すると共に前記ビードワイヤ(7)の半径方向内側に位置した前記カーカス補強材(5)の部分の半径方向内側に且つ該カーカス補強材(5)の部分に隣接して位置していて、前記表面層(9)の前記剪断剛性K1の多くとも0.3倍に等しい剪断剛性K3を有し且つ前記表面層(9)の10%伸び率における前記弾性モジュラスM1の少なくとも0.5倍に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM3を有する変形可能層(11)を含む、航空機用タイヤ(1)。
【請求項2】
前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)は、前記ビードワイヤ(7)の前記子午線断面の前記中心(O)と垂直方向に整列状態にある前記ビードワイヤの下の半径方向厚さ(E)を有し、該半径方向厚さ(E)は、少なくとも2mmに等しく且つ多くとも3.5mmに等しい、請求項1記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項3】
前記表面層(9)、前記剛性層(10)及び前記変形可能層(11)は、前記ビードワイヤ(7)の前記子午線断面の前記中心(O)と垂直方向に整列状態にある前記ビードワイヤの下のそれぞれの半径方向厚さ(E1,E2,E3)を有し、
前記表面層(9)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E1)は、多くとも前記剛性層(10)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E2)に等しく、前記剛性層(10)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E2)は、多くとも前記変形可能層(11)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E3)に等しい、請求項1又は2記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項4】
前記表面層(9)は、少なくとも4N/mmに等しい剪断剛性K1を有する、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項5】
前記表面層(9)は、少なくとも5MPaに等しく且つ多くとも9MPaに等しい10%伸び率における弾性モジュラスM1を有するエラストマー材料で作られている、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項6】
前記表面層(9)は、前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E)の少なくとも0.125倍に等しい前記ビードワイヤの下の半径方向厚さ(E1)を有する、請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項7】
前記剛性層(10)は、前記表面層(9)の10%伸び率における弾性モジュラスM1の少なくとも15倍に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM2を有する材料で作られている、請求項1〜のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項8】
前記剛性層(10)は、前記表面層(9)の10%伸び率における弾性モジュラスM1の多くとも50倍に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM2を有する材料で作られている、請求項1〜のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項9】
前記剛性層(10)は、相互に平行であり且つエラストマー材料で被覆されたレインフォーサを含む織物で作られている、請求項1〜のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項10】
前記剛性層(10)の前記レインフォーサは、少なくとも1種類の繊維材料で作られている、請求項記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項11】
前記剛性層(10)の前記レインフォーサは、芳香族ポリアミド系の少なくとも1種類の繊維材料で作られている、請求項又は10記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項12】
前記剛性層(10)は、前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E)の少なくとも0.375倍に等しい前記ビードワイヤの下の半径方向厚さ(E2)を有する、請求項1〜11のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項13】
前記剛性層(10)は、少なくとも前記ビードワイヤ(7)の直径(D)に等しく且つ多くとも前記ビードワイヤ(7)の直径(D)の2倍に等しい軸方向幅(L)を有する、請求項1〜12のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項14】
前記変形可能層(11)は、多くとも前記表面層(9)の10%伸び率における弾性モジュラスM1に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM3を有するエラストマー材料で作られている、請求項1〜13のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項15】
前記変形可能層(11)は、前記ビードワイヤの下でクランプされる前記部分(8)の前記ビードワイヤの下の前記半径方向厚さ(E)の少なくとも0.5倍に等しい前記ビードワイヤの下の半径方向厚さ(E3)を有する、請求項1〜14のうちいずれか一項に記載の航空機用タイヤ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性として高い圧力、大きな負荷(荷重)及び高い速度の条件下で使用される航空機用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用タイヤのサイズが所与の場合、圧力及び負荷条件は、特にTRA規格と通称されているタイヤ・リム協会規格で定められている。参考までに言えば、航空機用タイヤのインフレーション圧力は、通常、少なくとも9barに等しく、これに対応して加わる負荷は、タイヤの撓みが少なくとも30%に等しいようなものである。タイヤの撓みは、定義上、タイヤがTRA規格で定められている圧力及び負荷条件下において、無負荷インフレート状態から静的負荷インフレート状態への移行を行っているときのその半径方向変形量又は半径方向高さの変化量である。
【0003】
高速条件は、航空機の離陸又は着陸段階の際に360km/hという高い場合のある速度を意味している。
【0004】
本発明は、特に、タイヤビード、即ち、2つのサイドウォールによってトレッドにそれぞれ連結されたタイヤの部分に関し、かかる部分は、タイヤとタイヤが取り付けられるリム又は取り付けリムとの間の機械的連結部となる。タイヤ及びその取り付けリムによって形成される組立体は、取り付け型組立体と呼ばれている。
【0005】
タイヤは、回転軸線に関して回転対称を呈する幾何学的形状を有しているので、その幾何学的形状をその回転軸線を含む子午面内に描くことができる。所与の子午面において、半径方向、軸方向及び円周方向は、それぞれ、回転軸線に垂直な方向、回転軸線に水平な方向及び子午面に垂直な方向を指している。以下において、「半径方向内側」及び「半径方向外側」は、それぞれ、「半径方向において回転軸線に近い」及び「半径方向において回転軸線から遠い」を意味している。「軸方向内側」及び「軸方向外側」は、それぞれ、「軸方向において赤道面に近い」及び「軸方向において赤道面から遠い」を意味し、赤道面は、回転軸線に垂直であり且つトレッドの中間を通る平面である。
【0006】
ラジアルタイヤは、トレッドの半径方向内側に位置したクラウン補強材及びクラウン補強材の半径方向内側に位置したカーカス補強材を含む補強材を有する。
【0007】
航空機用のラジアルタイヤのカーカス補強材は、例えば欧州特許第1,381,525号明細書に記載されているように、少なくとも1つのカーカス層を含む。
【0008】
カーカス層は、エラストマー材料で被覆されていて、相互に平行であり且つ円周方向と実質的に90°に等しい角度、即ち、85°〜95°の角度をなす補強要素又はレインフォーサ(reinforcer)で構成されている。レインフォーサは、通常、好ましくは脂肪族ポリアミド及び/又は芳香族ポリアミドで作られた紡績繊維フィラメントで構成されたコードである。
【0009】
カーカス層は、各ビード内において、折り返し部(又は巻き上げ部)を形成するようタイヤの内側から外側に向かって、通常は金属で作られると共に実質的に円形子午線断面を有していてビードワイヤと呼ばれている円周方向補強要素周りに巻かれた場合、上へ曲げられていると呼ばれ、折り返し部の端は、ビードワイヤの半径方向最も外側の箇所の半径方向外側に位置する。上へ曲げられるカーカス層は、一般に、タイヤの内部キャビティの最も近くに位置し、従って、サイドウォール内で内側に向かって軸方向最も遠くに位置したカーカス層である。
【0010】
カーカス層は、各ビード内において、このカーカス層がタイヤの外側から内側に向かって、全体としてビードワイヤの半径方向最も外側の箇所の半径方向内側に位置した端までビードワイヤ周りに巻かれた場合、内へ曲げられていると呼ばれる。内へ曲げられるカーカス層は、一般に、タイヤの外面の最も近くに位置するカーカス層であり、従って、サイドウォール内において軸方向最も外側に位置するカーカス層である。
【0011】
各タイヤビードとリムとの機械的連結は、本質的には、2つの接触面によって達成される。第1の接触面又はビードワイヤの下に位置する接触面は、ビードの半径方向内部フェースとタイヤが取り付けられてインフレートされたときにビードの半径方向位置を固定するようになった実質的に軸方向のリム部分又はリムシートとの間でビードワイヤの半径方向内側に形成される。第2の接触面は、ビードの軸方向外側フェースとタイヤが取り付けられてインフレートされたときにビードの軸方向位置を固定するようになった実質的に半径方向のリム部分又はリムフランジとの間でビードワイヤの軸方向外側に形成される。ビードとフランジとの接触面、特にビードワイヤの下での接触のための表面は、高い圧力下に置かれるゾーンである。
【0012】
各ビード内において、ビードワイヤの半径方向内側に位置するカーカス補強材部分の半径方向内側には、即ち、ビードワイヤに対して半径方向最も内側に位置するカーカス層の半径方向内側には、ビードワイヤの下でクランプ又は固定される部分と呼ばれるビードの一部分が配置され、この部分は、ビードの半径方向内部フェースを介してリムシートと接触状態にある。ビードワイヤの下でクランプされるこの部分は、タイヤのビードとリムシートとの間に働くクランプ力又は固定力を定める。これらクランプ力は、ビードワイヤの下でクランプされる部分の厚さ及びこの部分の構成材料の機械的性質に依存する。
【0013】
ビードワイヤの下でクランプされる部分は、表面層と呼ばれる少なくとも1つの層を含み、この表面層は、ビードの軸方向内部フェースを介してリムシートに接触するようになっており、通常、エラストマー材料で作られている。
【0014】
硬化後、エラストマー材料は、機械的特性として、引張試験によって求められた引張応力/歪特性を有する。この引張試験は、当業者によって、公知の方法に従って、例えば、国際規格ISO37に準拠して、そして国際規格ISO471により定められた通常温度(23±2℃)及び湿度(50±5%相対湿度)条件下において、試験片について実施される。エラストマー材料に関し、試験片の10%伸び率について測定された引張応力は、10%伸び率における弾性モジュラス(弾性率)Mと呼ばれ、メガパスカル(MPa)で表される。剪断モジュラス(剪断剛性率)Gは、非圧縮性エラストマー材料を特徴付けるポアソン比が0.5であると仮定して、10%伸び率における弾性モジュラスMの1/3に等しい値として定められる。剪断モジュラスGは、MPa又はN/mm2で表される。mmで表された厚さE及び1mm2に等しい単位表面積Sを有していて剪断モジュラスGのエラストマー材料で作られた層の剪断剛性Kは、剪断モジュラスGと単位表面積Sの積を厚さEで除算した値に等しい。したがって、剪断剛性Kは、N/mmで表される。
【0015】
ビードワイヤの下でクランプされる部分の表面層のエラストマー材料は、通常、少なくとも5MPaに等しく且つ多くとも9MPaに等しい10%伸び率における弾性モジュラスを有する。
【0016】
航空機用の取り付け型組立体の場合、リムは、所与の回数、例えば12000サイクルの離陸及び着陸サイクルをもたらすよう寸法決めされている。リムは、定期的に、典型的には500サイクルごとに点検される。リムは、タイヤのビードとの接触面について損傷が観察されるので、通常これがその理論的寿命の終わりに達する前に、例えばその寿命の半ばで、即ち、約6000サイクル後に時期尚早に使用を中止してもう使わないようにされる。したがって、これにより、リムの使用に関して経済的な損失が生じる。
【0017】
損傷は、ビードワイヤの下の接触面においてリムシート上に見受けられる。「ピッティング(pitting )」と呼ばれるこの損傷は、長軸が2mmという長い場合があり、短軸が0.5mmという長い場合がある実質的に楕円形の形をした表面欠陥であり、かかる表面欠陥の深さは、潜在的に0.5mmという大きなものである。最大許容可能サイズの欠陥は、臨界サイズ欠陥又は臨界欠陥と呼ばれる。臨界サイズを超えると、欠陥は、許容できないものとみなされ、もしかかる欠陥が生じた場合、リムは、使用を中止してもう使わないようにされなければならない。
【0018】
これら欠陥又は「ピット」は、「ホイールピッティング」の公知の現象の結果である。「ホイールピッティング」は、すりへりによる局所リム摩耗の現象である。「ピット」は、高い圧力を受けるビードワイヤの下の接触面においてリムシート上に現れる。ピットは、ビードの半径方向内部フェースとリムシートとの間に捕捉されて研磨剤として作用する粒子の擦れ合い結果である。これら粒子は、塗装リム被膜又は外部汚染物の局所損傷の結果である場合がある。これら粒子は、損傷をもたらす目的という意味では、十分に硬いことが必要である。これら粒子は、リムシート上におけるビードの半径方向内部フェースの滑りによってこれに沿って引っ張られる。高い圧力と滑りの組み合わせこそがリムの局所摩耗を生じさせる。滑りの長さ及び滑りの速度は、リムの局所摩耗に影響を及ぼす。注目されなければならないこととして、滑りは、本質的に、子午面内において軸方向に、そして二次的に円周方向において起こる。タイヤを斜めにすることは、タイヤの赤道面とタイヤの移動方向とのなす角度が非ゼロである角度をもたらすことを特徴としており、このようにタイヤを斜めにすることにより、ビードの下における接触面内での圧力及び滑りが増加するので、上述の現象が目立つことになる。
【0019】
「ホイールピッティング」現象を抑制するため、ビードとリムシートとの間の摩擦の減少を利用した技術的解決手段がリムレベルかタイヤレベルかのいずれかで模索されている。リムに関する限り、適当な製品を用いてリムを潤滑するか摩擦係数の低いリム被膜を用いるかのいずれかによって摩擦を減少させることができる。タイヤに関する限り、表面層に関して、ビードをリムに対して圧縮させたときに表面層から浸出され、従って、リムを潤滑する油を含むエラストマー材料を選択することによって摩擦を減少させることができる。また、摩擦係数の低い被覆材料をビードに追加することによってタイヤ側に関する摩擦を減少させることができる。最後に、ビードワイヤをリムシートに対してクランプする力を減少させることは又、ビードとリムシートとの接触圧力が減少するので摩擦を減少させるのに役立ちうる。リム及びタイヤにそれぞれ関する上述の技術的解決手段は、単独で又は組み合わせて利用可能である。かかる技術的手段は全て、ビードとリムシートとの摩擦力の減少度が大きすぎるという作用効果によりタイヤがそのリム上で回転する恐れを増大させるという不利益を持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】欧州特許第1,381,525号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者は、リムの寿命を延ばし、従って、リムが使用中止になる前に使用できるサイクルの数を増大させるために臨界欠陥又は「ピット」がリムシート上に生じる速度を減少させるという目的の達成に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、航空機用タイヤであって、
‐少なくとも1つの半径方向内部のビードフェースを介してそれぞれリムに接触するようになった2つのビードを有し、
‐2つのビードを互いに連結する少なくとも1つのカーカス層を備えたカーカス補強材を有し、
‐カーカス層は、各ビード内で、ビードワイヤと呼ばれる中心O及び直径Dの子午線断面を有する円周方向補強要素周りに巻かれ、
‐各ビード内でビードワイヤの下でクランプ又は固定され、ビードワイヤの半径方向内側に位置したカーカス補強材部分の半径方向内側で半径方向内部のビードフェースまで延びる部分を有し、
‐ビードワイヤの下でクランプされる部分は、半径方向内部のビードフェースを介してリムに接触するようになっていて剪断剛性K1を有する表面層を含み、
‐ビードワイヤの下でクランプされる部分は、表面層の半径方向外側に且つこの表面層に隣接して位置していて表面層の剪断剛性K1の少なくとも5倍に等しい剪断剛性K2を有する剛性層を含み、
‐ビードワイヤの下でクランプされる部分は、剛性層の半径方向外側に且つこの剛性層に隣接して位置すると共にビードワイヤの半径方向内側に位置したカーカス補強材部分の半径方向内側に且つこのカーカス補強材部分に隣接して位置していて表面層の剪断剛性K1の多くとも0.3倍に等しい剪断剛性K3を有する変形可能な層を含むことを特徴とする航空機用タイヤによって達成された。
【0023】
基準とみなされる先行技術のタイヤは、各ビード内に、少なくとも1つの表面層を含むビードワイヤの下でクランプ又は固定される部分を有するが、本発明のタイヤは、各ビード内において、少なくとも3つの半径方向に重ね合わされた層のスタックを含むビードワイヤの下でクランプされる部分を有する。
【0024】
半径方向最も内側の層は、半径方向内部のビードフェースを介してリムシートに接触するようになった表面層である。
【0025】
表面層の半径方向外側に且つこの表面層に隣接して、剛性層が配置される。剛性層は、表面層の剪断剛性K1の少なくとも5倍に等しい剪断剛性K2を有する層を意味している。
【0026】
剛性層の半径方向外側に且つこの剛性層に隣接して、変形可能層が配置される。変形可能層は、表面層の剪断剛性K1の多くとも0.3倍に等しい剪断剛性K3を有する層を意味している。変形可能層も又、ビードワイヤの半径方向内側に位置したカーカス補強材部分の半径方向内側に且つこのカーカス補強材部分に隣接して位置している。
【0027】
本発明を支える本質的な技術的思想は、ビードワイヤの内部に半径方向に生じる大きな変形量及びリムシートの半径方向の外部付近で生じる僅かな変形量により、ビードの軸方向内部フェースとリムシートとのインターフェースのところでのビードワイヤの下の接触面上に生じる機械的力に反作用するという技術的思想である。換言すると、剛性層と変形可能層との間で前記内部に向かって半径方向に減少する剪断剛性の勾配を作ることにより、変形は、ビードとリムシートとの間のインターフェースのところではなく、本質的にビードワイヤの半径方向内側に局所化される。この結果、このインターフェースの滑り又は変形長さが減少し、従って、リムシート上における欠陥又は「ピッティング」の開始が遅れる。
【0028】
ビードワイヤの下でクランプされる部分は、有利には、ビードワイヤの子午線断面の中心Oと垂直方向に整列状態にあるビードワイヤの下の半径方向厚さを有し、この半径方向厚さは、少なくとも2mmに等しく且つ多くとも3.5mmに等しい。ビードワイヤの下のこの厚さの範囲は、ビードをリムシートにクランプする力の最適値に対応しており、かかる最適値により、タイヤをそのリムに取り付けることができると共にタイヤが使用中にそのリム上で回転することがないようになる。
【0029】
表面層、剛性層及び変形可能層がビードワイヤの子午線断面の中心Oと垂直方向整列関係をなした状態で、ビードワイヤの下でそれぞれの半径方向厚さを有する状態で、表面層のビードワイヤの下の半径方向厚さは、多くとも、剛性層のビードワイヤの下の半径方向厚さに等しく、剛性層のビードワイヤの下の半径方向厚さは、多くとも、変形可能層のビードワイヤの下の半径方向厚さに等しい。換言すると、厚さがビードワイヤの下でクランプされる部分を構成する層中で前記内部に向かって半径方向に増大する厚さの勾配が存在する。
【0030】
表面層は、一般に、少なくとも4N/mmに等しい剪断剛性K1を有し、この剪断剛性は、約0.45mmのビードワイヤの下の通常の最大半径方向厚さ及び5MPaオーダの10%伸び率における最小弾性モジュラスM1に相当している。
【0031】
また、表面層は、少なくとも5MPaに等しく且つ多くとも9MPaに等しい10%伸び率における弾性モジュラスM1を有するエラストマー材料で作られることが有利である。弾性モジュラスM1は、使用中における表面層の機械的安定性を保証するのに足るほど高いことが必要である。さらに、これは、先行技術におけるこの位置で通常用いられるエラストマー材料である。
【0032】
表面層は、有利には、ビードワイヤの下でクランプされる部分のビードワイヤの下の半径方向厚さの少なくとも0.125倍に等しいビードワイヤの下の半径方向厚さを有する。この最小厚さにより、表面層の半径方向圧縮度又は換言するとその圧潰を最小限に抑えることができ、しかも接触面内における運動が剛性層の運動によって定められるようにすることができる。また、この最小厚さの実現により、剛性層がリムシートと直に接触することがなくなり、従って、すり減りの恐れがなくなるので、剛性層の機械的健全性を保証することができる。最後に、この最小厚さは、技術的に製造可能な最小値に一致する。
【0033】
有利には、剛性層は、表面層の剪断剛性K1の多くとも17倍に等しい剪断剛性K2を有する。剪断剛性のこの値を超えると、剛性層が損傷する恐れが高くなる。
【0034】
剛性層は、表面層の10%伸び率における弾性モジュラスM1の少なくとも15倍に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM2を有する材料で作られている。弾性モジュラスの比M2/M1は、剛性層がビードとリムシートとの接触面内における運動の減少への効果的な寄与をなすのに足るほど高いことが必要である。
【0035】
有利には、剛性層は、表面層の10%伸び率における弾性モジュラスM1の多くとも50倍に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM2を有する材料で作られる。弾性モジュラス比M2/M1のこの値を超えると、剛性層が損傷する恐れが高くなる。
【0036】
好ましい一実施形態によれば、剛性層は、相互に平行であり且つエラストマー材料で被覆されたレインフォーサを含む織物で作られる。材料のこの選択は、剛性層の構成材料に望ましい弾性モジュラスのレベルを達成する上で必要である。慣例的に用いられているエラストマー材料は、これ自体では、これら弾性モジュラスのレベルを達成することができない。さらに、互いに平行なレインフォーサを備えるようにする選択により、材料が異方性であり、即ち、これがレインフォーサの方向であるか考慮対象のレインフォーサに垂直な方向であるかに応じて異なる弾性率を有するようにすることができる。さらに、レインフォーサは、円周方向と、0°〜90°、好ましくは0°に近い角度をなし、このことは、レインフォーサが実質的に円周方向に差し向けられていることに対応している。
【0037】
好ましい実施形態の一変形形態によれば、剛性層のレインフォーサは、少なくとも1種類の繊維材料で作られる。繊維レインフォーサは、軽量化及び安全性の理由で航空機用タイヤの分野において金属製のレインフォーサよりも好ましい。
【0038】
より好ましくは、剛性層のレインフォーサは、芳香族ポリアミド系の少なくとも1種類の繊維材料で作られる。芳香族ポリアミド、例えばアラミドは、剛性層について望ましい剪断剛性のレベルを達成することができる高い弾性モジュラスを有する。
【0039】
剛性層は、ビードワイヤの下でクランプされる部分のビードワイヤの下の半径方向厚さの少なくとも0.375倍に等しいビードワイヤの下の半径方向厚さを有する。この最小半径方向厚さにより、剛性層の構成材料としての繊維織物の使用が可能である。
【0040】
剛性層は、少なくともビードワイヤの直径に等しく且つ多くともビードワイヤの直径の2倍に等しい軸方向幅を有する。剛性層は、最も高い機械的応力を受けるビードワイヤの下でクランプされる部分の少なくとも一部上で軸方向に延びることが必要であり、これは、実質的に、ビードワイヤの直径の1倍と2倍との間の軸方向幅に相当している。加うるに、剛性層は、ビードワイヤ周りに軸方向内側に向かって巻かれることもなく外側に向かって軸方向に巻かれることもない実質的に軸方向の層である。
【0041】
変形可能層は、有利には、多くとも表面層の10%伸び率における弾性モジュラスM1に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM3を有するエラストマー材料で作られる。定義上、変形可能層は、ビードワイヤの下でクランプされる部分が形成される少なくとも3つの層のうちで最も低い剪断剛性K3を有することが必要である。いずれの場合であっても、変形可能層を構成するエラストマー材料の10%伸び率における弾性モジュラスM3は、特に変形可能層及び表面層のそれぞれの構成材料が経済的選択の理由で同一である場合、表面層を構成するエラストマー材料の10%伸び率における弾性モジュラスよりも低く、場合によってはこれに等しいことが必要である。
【0042】
好ましくは、変形可能層は、表面層の10%伸び率における弾性モジュラスM1の少なくとも0.5倍に等しい10%伸び率における弾性モジュラスM3を有するエラストマー材料で作られる。この弾性モジュラスM3は、好ましくは、表面層のエラストマー材料の弾性モジュラスよりも著しく低く、例えば、この弾性モジュラスの半分のオーダのものであることが必要である。しかしながら、変形可能層が損傷するのを阻止するため、この弾性モジュラスは、低すぎてはならない。
【0043】
最後に、変形可能層は、ビードワイヤの下でクランプされる部分のビードワイヤの下の半径方向厚さの少なくとも0.5倍に等しいビードワイヤの下の半径方向厚さを有する。この最小厚さにより、損傷することのない変形可能層の十分な変形性の実現が可能である。
【0044】
本発明の特徴及び他の利点は、図1の助けにより良好に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明のタイヤビードの子午線断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、縮尺通りには描かれていない。要素の全てが必ずしも図示されているわけではない。
【0047】
図1は、少なくとも1つの半径方向内部ビードフェース4を介してリム3に接触するようになった航空機用タイヤ1のビード2を示している。ビード2内において、カーカス補強材5を構成する2つのカーカス層6がそれぞれ、中心O及び直径Dの子午線断面を有するビードワイヤ7周りに外側に向かって内側から及び内側に向かって外側から巻かれている。ビードワイヤの下でクランプされる部分8は、ビードワイヤ7の半径方向内側に位置するカーカス補強材5の部分の半径方向内側で半径方向内部ビードフェース4まで延びている。
【0048】
ビードワイヤの下でクランプされる部分8は、内側から外側まで半径方向に延びる3つの層、即ち、表面層9、剛性層10、及び変形可能層11を含み、これら3つの層は、ビードワイヤ7の子午線断面の中心Oと垂直方向に整列状態をなし、ビードワイヤの下でそれぞれの半径方向厚さE1,E2,E3を有している。ビードワイヤの下でクランプ又は固定される部分8は、ビードワイヤの下のそれぞれの半径方向厚さE1,E2,E3の合計に等しいビードワイヤの下の半径方向厚さEを有する。図示の実施形態では、表面層9のビードワイヤの下の半径方向厚さE1は、剛性層10のビードワイヤの下の半径方向厚さE2よりも小さく、この半径方向厚さE2はそれ自体、変形可能層11のビードワイヤの下の半径方向厚さE3よりも小さい。加うるに、剛性層10は、ビードワイヤ7の直径Dよりも大きな軸方向幅Lを有する。
【0049】
本発明は、特に、旅客機に用いられるサイズ46×17.0R20の半径方向カーカス補強材を有する航空機用タイヤについてなされたものであり、この航空機用タイヤの公称圧力は、15.9barであり、その公称負荷は、20642daNであり、その最高速度は、378km/hである。
【0050】
検討対象の実施例では、表面層は、10%伸び率において8MPaに等しい弾性モジュラスM1を有すると共にビードワイヤの下の0.4mmの半径方向厚さE1を有するエラストマー材料で作られている。剛性層は、織物で構成され、この織物の円周方向に差し向けられたレインフォーサは、120MPaに等しい弾性モジュラスを有するアラミド系の芳香族ポリアミドで作られ、この剛性層は、ビードワイヤの下の1.1mmに等しい半径方向厚さE2を有している。最後に、変形可能層は、10%伸び率において4MPaに等しい弾性モジュラスM3及びビードワイヤの下の1.5mmに等しい半径方向厚さE3を有するエラストマー材料で作られている。したがって、ビードワイヤの下でクランプされる部分は、3mmに等しいビードワイヤの下の全半径方向厚さEを有している。
【0051】
検討対象の実施例では、有限要素法の計算による数値シミュレーション結果の示すところによれば、ビードの半径方向内部フェースとリムシートとの接触面内における運動は、先行技術の基準タイヤと比較して、本発明によるタイヤについてかなり減少した。さらに、先行技術によるタイヤ及び本発明のタイヤを含む取り付け型組立体の比較試験結果の示すところによれば、リムシート上で観察される欠陥の数が著しく減少した。
【0052】
本発明は、3つの層を含むビードワイヤの下でクランプされる部分には限定されない。本発明は、3つより多い層を含むビードワイヤの下でクランプされる部分に及ぶものと推定でき、これら層のうちの少なくとも2つは、剛性層の半径方向外側に位置する少なくとも2つの変形可能な層が半径方向外側に向かって減少する剪断剛性の勾配を構成する限り、即ち、これら層が半径方向に見てビードワイヤの近くに位置するので、変形可能である。また、表面層が剛性層の繊維レインフォーサを被覆しているコンパウンド中に組み込まれるのに足るほど薄い場合、3つの層のスタックを適宜2つの層に減らすことができ、この場合、繊維レインフォーサの半径方向内側に位置した剛性層の被覆コンパウンドは、表面層として働く。
図1