特許第6335185号(P6335185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335185
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】新規デプシペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 11/02 20060101AFI20180521BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20180521BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 38/15 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20180521BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20180521BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20180521BHJP
【FI】
   C07K11/02
   C12P1/04 A
   C12N1/20 A
   A61K38/15
   A61K45/00
   A61P31/04
   A61P31/06
   !A61K35/74 E
   !A61K35/74 G
【請求項の数】29
【全頁数】78
(21)【出願番号】特願2015-545511(P2015-545511)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公表番号】特表2016-505547(P2016-505547A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】US2013072838
(87)【国際公開番号】WO2014089053
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月14日
(31)【優先権主張番号】61/732,894
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】US
【微生物の受託番号】NRRL  NRRL B-50868
(73)【特許権者】
【識別番号】513295261
【氏名又は名称】ノボバイオティック ファーマシューティカルズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ピープルズ, アーロン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ, ダラス
(72)【発明者】
【氏名】リン, ロシー ルーシー
(72)【発明者】
【氏名】ミレット, ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ニッティ, アントニー
(72)【発明者】
【氏名】スポーリング, エイミー
(72)【発明者】
【氏名】ステッドマン, ビクトリア アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】チバ, ジーン−イーブス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ラザリデス, リノス
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ, マイケル ケニオン
(72)【発明者】
【氏名】プールネック, カリーヌ ガエル
(72)【発明者】
【氏名】ルーイス, キム
(72)【発明者】
【氏名】エプスタイン, スラバ
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 Chem. Biol. (2004) vol.11, issue 8, p.1059-1070
【文献】 RICHARD H. BALTZ,NATURAL PRODUCT REPORTS,2005年12月 1日,V22,P717-741
【文献】 J. Mol. Biol. (2011) vol.412, issue 4, p.842-848
【文献】 Appl. Environ. Microbiol. (1998) vol.64, no.10, p.3939-3947
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 1/20
PubMed
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された式(I)の化合物
【化26】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]。
【請求項2】
前記化合物が、受託番号NRRL B−50868として寄託された細菌分離株ISO18629の天然産物である、請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記化合物が、受託番号NRRL B−50868として寄託された細菌分離株ISO18629から生成可能である、請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項4】
単離された式(II)の化合物
【化27】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記化合物が、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフトにおける少なくとも10個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記化合物が、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmのDMSO−d中の化学シフトにおける13C核磁気共鳴ピークを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項7】
前記化合物が、
(a)約1242.47g/molの分子量、
(b)図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、
(c)図2に示されているものと実質的に同じ炭素13核磁気共鳴スペクトル、
(d)図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、
(e)図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、(f)図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および
(g)図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトル
の少なくとも1つを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項8】
前記化合物が、
(a)約1242.47g/molの分子量、
(b)図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、
(c)図2に示されているものと実質的に同じ炭素13核磁気共鳴スペクトル、
(d)図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、
(e)図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、
(f)図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および
(g)図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトル
を特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩、あるいは請求項4に記載の化合物またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される賦形剤、キャリアまたは希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項10】
抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗原生動物剤、駆虫剤、抗新生物剤、免疫調節剤、抗高コレステロール血症剤およびそれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
式(I)の化合物
【化31】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、
好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で、受託番号NRRL B−50868として寄託された細菌分離株ISO18629を培養し、
それによって式(I)の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成するステップを含む方法。
【請求項12】
式(II)の化合物
【化32】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、
好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で、受託番号NRRL B−50868として寄託された細菌分離株ISO18629を培養し、
それによって式(II)の化合物またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成するステップを含む方法。
【請求項13】
式(I)の前記化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩、あるいは式(II)の前記化合物またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を単離するステップをさらに含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項11または12に記載の方法に従って調製された、式(I)の化合物またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩、あるいは式(II)の化合物またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項15】
障害の処置を必要としている被験体の障害を処置するための組成物であって、式(I)の化合物
【化35】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]を含む、組成物。
【請求項16】
障害の処置を必要としている被験体の障害を処置するための組成物であって、式(II)の化合物
【化36】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を含む、組成物。
【請求項17】
前記被験体が、哺乳動物、ヒト、動物および植物からなる群から選択される、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項18】
前記障害が、細菌によって引き起こされる、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項19】
前記細菌が、グラム陽性細菌である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記グラム陽性細菌が、Streptococcus、Staphylococcus、Enterococcus、Corynebacteria、Listeria、Bacillus、Erysipelothrix、Mycobacterium、Clostridium、and Actinomycetalesからなる群から選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記グラム陽性細菌が、メチシリン感受性およびメチシリン耐性ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus hominis、Staphylococcus saprophyticus、およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を含む)、グリコペプチド中程度感受性Staphylococcus aureus(GISA)、ペニシリン感受性およびペニシリン耐性連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenes、Streptococcus agalactiae、Streptococcus dysgalactiae、Streptococcus avium、Streptococcus bovis、Streptococcus lactis、Streptococcus sangius、Streptococcus anginosus、Streptococcus intermedius、Streptococcus constellatusおよびC群連鎖球菌、G群連鎖球菌、ならびにViridans streptococciを含む)、腸球菌(バンコマイシン感受性およびバンコマイシン耐性株、例えばEnterococcus faecalisおよびEnterococcus faeciumを含む)、Clostridium difficile、Clostridium clostridiiforme、Clostridium innocuum、Clostridium perfringens、Clostridium tetani、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansaii、Mycobacterium gordonae、Mycobacteria sporozoites、Listeria monocytogenes、Bacillus subtilis、Bacillus anthracis、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacterium sporozoites、Erysipelothrix rhusiopathiae、ならびにActinomyces israelliからなる群から選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記障害が、Bacillus anthracisの感染によって引き起こされる、請求項18に記載の組成物。
【請求項23】
前記細菌が、グラム陰性細菌である、請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
前記グラム陰性細菌が、Helicobacter pylori、Legionella pneumophilia、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、病原性Campylobacter sporozoites、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Enterobacter aerogenes、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Pasteurella multocida、Bacteroides sporozoites、Bacteriodes fragilis、Bacteriodes thetaiotaomicron、Bacteriodes uniformis、Bacteriodes vulgatus Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Leptospira、Escherichia coli、Salmonella enterica、Salmonella salamae、Salmonella arizonae、Salmonella diarizonae、Salmonella houtenae、Salmonella bongori、Salmonella indica、Salmonella Enteritidis、Salmonella typhiおよびCitrobacter freundiiからなる群から選択される、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
受託番号NRRL B−50868として寄託されたISO18629分離株の識別特徴を有する、細菌種を含む単離された培養物。
【請求項26】
感染因子の増殖を阻害するための組成物であって、式(I)の化合物
【化39】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]
を含む、組成物。
【請求項27】
前記感染因子が、インビトロで培養される、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
感染因子の増殖を阻害するための組成物であって、式(II)の化合物
【化40】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を含む、組成物。
【請求項29】
前記感染因子が、インビトロで培養される、請求項28に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2012年12月3日に出願した米国仮出願第61/732894号の利益を主張する。この出願の内容全体は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近年の医薬品の大きな業績として、疾患を引き起こす微生物に対する抗菌剤の開発およびその使用の成功が挙げられる。抗菌剤は、多くの生命を救い、多くの疾患および感染症の合併症を低減してきた。しかし、現在利用可能な抗菌剤は、かつてほどは有効でなくなっている。
【0003】
経時的に、多くの微生物が、公知の抗菌剤の抗菌作用を逃れるように発達してきており、近年、複数の抗菌剤に耐性がある微生物によって引き起こされる感染症が、世界的に増大している。世界旅行の利用率が増大し、容易になってきたため、世界中での薬物耐性微生物の急速な拡大が、深刻な問題になっている。地域社会においては、微生物の耐性は、薬物耐性病原体(例えば、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)、バンコマイシン耐性Enterococci(VRE))の院内感染、地域社会における抗生物質の使用による耐性出現(例えば、ペニシリン耐性およびキノロン耐性Neisseria gonorrheae)、旅行の結果による耐性病原体(例えば、抗生剤耐性Shigella)への感染、または動物に抗菌剤を使用し、その後耐性病原体がヒトに伝染した結果による耐性病原体(例えば、抗生物質耐性Salmonella)への感染から生じる場合がある。院内の抗生物質耐性は、通常は抗生物質の過剰使用から生じ、MRSA、VREおよび多剤耐性のグラム陰性桿菌(MDR−GNB)(例えば、Enterobacter、Klebsiella、Serratia、Citrobacter、PseudomonasおよびE.coli)について深刻な問題となっている。特に、細菌によるカテーテルに関係する血流感染、ならびに皮膚および軟組織感染症(SSTI)は、大きな問題になりつつある。
【0004】
細菌、ウイルス、真菌および寄生生物はすべて、公知の抗菌剤に対して耐性を発達させている。耐性は、通常は、(i)薬物の標的が変化し、その結果抗菌剤が結合しにくくなり、それによって感染症を制御する効果が低下すること、(ii)薬物浸透または該薬物の能動的流出が損なわれた結果として、該薬物がその標的に接近しにくくなること、および(iii)微生物によって産生される酵素によって、該薬物が酵素的に不活化されることの3つの機構から生じる。抗菌剤耐性によって微生物は生存しやすくなり、それにより身体から微生物感染症を排除しにくくなっている。このように微生物感染症との闘いが増々困難になっていることから、院内および他の実践場面における感染症発生の危険性が高まってきた。現在、結核、マラリア、淋病および小児期耳感染症などの疾患は、わずか数十年前よりも処置が困難になっている。薬物耐性は、抗生物質を利用しなければ感染症に罹患しやすくなっている重症疾患の患者を抱える病院にとっては、重大な問題である。残念ながら、こうした患者には、薬物耐性を生じる微生物を変化させるために、抗生物質を多量に使用することが選択される。これらの薬物耐性菌は、最も強力な抗生物質に対して耐性があり、感染しやすい入院患者が依然として犠牲になっている。入院患者の5〜10パーセントが入院中に感染症に罹患していること、およびこの危険性はここ数十年で確実に増大していることが報告されている。
【0005】
こうした問題に関して、微生物感染症および薬物耐性増大の問題と闘うために、新規な抗菌剤の必要性が高まっている。利用可能な薬物に対して病原体が耐性を発達させているため、再度抗菌薬の発見に取り組むことは非常に重要である。
【0006】
これまでに、合成化合物では天然抗生物質を置き換えることができず、組合せの合成、ハイスループットスクリーニング、先進医薬品化学、ゲノミクスおよびプロテオミクス、ならびに合理的薬物設計を組み合わせた研究でも、新規な種類の広域スペクトルの化合物を生成するには至っていない。新しい合成抗生物質を得る上での問題は、合成抗生物質が、多剤耐性ポンプ(MDR)によって細菌の外膜障壁を通して一様に送り出されるという事実に一部関連し得るということである。細菌の外膜は、両親媒性化合物に対する障壁であり(本質的にすべての薬物が両親媒性化合物である)、MDRは、この障壁を通して薬物を追い出す。進化により、この二重障壁/追い出し機構を大部分回避することができる抗生物質が生成されてはいるが、合成化合物は、ほとんどの場合、一様に成功に至っていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は、少なくとも部分的に、微生物感染症を含むいくつかの障害の処置に有用な新規なデプシペプチドを対象とする。
【0008】
一実施形態では、本発明は、単離された式(I)の化合物
【化1】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]
に関する。
【0009】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、単離された細菌種の天然産物である。例えば、いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、単離された細菌分離株ISO18629の天然産物である。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、細菌種から生成可能である。例えば、いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、細菌分離株ISO18629から生成可能である。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、単離された式(II)の化合物
【化2】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩に関する。
【0011】
いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、単離された細菌種の天然産物である。例えば、いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、単離された細菌分離株ISO18629の天然産物である。いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、細菌種から生成可能である。例えば、いくつかの実施形態では、式(II)の化合物は、細菌分離株ISO18629から生成可能である。
【0012】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における少なくとも10個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmのDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。
【0013】
さらに別の実施形態では、本発明は、約1242.47g/molの分子量、図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、図2に示されているものと実質的に同じ炭素13核磁気共鳴スペクトル、図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、または図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトルの少なくとも1つを特徴とする式(I)の化合物に関する。さらに別の実施形態では、本発明の教示は、約1242.47g/molの分子量、図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、図2に示されているものと実質的に同じ炭素13核磁気共鳴スペクトル、図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトルを特徴とする式(I)の化合物に関する。
【0014】
一実施形態では、本発明は、単離された式(III)の化合物
【化3】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩に関する。
【0015】
各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである。
【0016】
また、任意の炭素または水素は、それぞれ13CまたはHで置き換えられていてもよい。
【0017】
一実施形態では、本発明は、単離された式(IV)の化合物
【化4】
[式中、Xは、NH、OまたはSである]
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩に関する。
【0018】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の化合物、例えば、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、および薬学的に許容される賦形剤、キャリアまたは希釈剤を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の化合物のいずれかを含む医薬組成物は、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗原生動物剤、駆虫剤、抗新生物剤、免疫調節剤、抗高コレステロール血症剤およびそれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含むことができる。
【0019】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(I)の化合物
【化5】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培養物中で細菌分離株ISO18629を培養し、それによって式(I)の化合物を生成するステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、上記方法は、培養物から式(I)の化合物を単離するステップをさらに含む。
【0020】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法に従って調製された式(I)の化合物に関する。
【0021】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(II)の化合物
【化6】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培養物中で細菌分離株ISO18629を培養し、それによって式(II)の化合物を生成するステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、上記方法は、培養物から式(II)の化合物を単離するステップをさらに含む。
【0022】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法に従って調製された式(II)の化合物に関する。
【0023】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(III)の化合物
【化7】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、変数は、上に記載されている]
を生成する方法であって、好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培養物中で細菌分離株ISO18629を培養し、それによって式(III)の化合物を生成するステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、13CまたはHは、好気条件下で、13Cおよび/またはHで標識された標識炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培養物中で細菌分離株ISO18629を培養し、それによって、13CまたはHを含有する式(III)の化合物を生成することによって、式(III)の化合物に組み込むことができる。例えば、13Cおよび/またはHで標識されたアミノ酸を使用してもよい。いくつかの実施形態では、上記方法は、培養物から式(III)の化合物を単離するステップをさらに含む。
【0024】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法に従って調製された式(III)の化合物に関する。
【0025】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(IV)の化合物
【化8】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、Xは、NH、OまたはSである]
を生成する方法であって、好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培養物中で細菌分離株ISO18629を培養し、それによって式(IV)の化合物を生成するステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、上記方法は、培養物から式(IV)の化合物を単離するステップをさらに含む。
【0026】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法に従って調製された式(IV)の化合物に関する。
【0027】
さらに別の実施形態では、本発明は、ISO18629の識別特徴を有する、細菌種を含む単離された培養物に関する。
【0028】
本発明はまた、障害の処置を必要としている被験体、例えばヒトの障害を処置する方法に関する。上記方法は、本明細書に記載の治療有効量の化合物、例えば、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を被験体に投与し、それによって被験体の障害を処置するステップを含む。いくつかの実施形態では、被験体は、哺乳動物、ヒト、動物または植物である。特定の一実施形態では、被験体は、ヒトである。特定の実施形態では、障害は、限定されるものではないが、細菌、真菌、ウイルス、原生動物、蠕虫、寄生生物、およびそれらの組合せなどの外的病原因子によって引き起こされる。
【0029】
特定の実施形態では、上記感染体は、細菌である。1つの実施形態では、上記細菌は、グラム陽性菌である。グラム陽性菌の非限定的な例には、Streptococcus、Staphylococcus、Enterococcus、Corynebacteria、Listeria、Bacillus、ErysipelothrixおよびActinomycetesが挙げられる。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、以下の1種または複数種による感染症を処置するのに使用される:Helicobacter pylori、Legionella pneumophilia、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansaii、Mycobacterium gordonae、Mycobacteriaスポロゾイト、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、化膿性Streptococcus(A群Streptococcus)、化膿性Streptococcus agalactiae(B群Streptococcus)、Streptococcus dysgalactia、Streptococcus faecalis、Streptococcus bovis、Streptococcus pneumoniae、病原性Campylobacterスポロゾイト、Enterococcusスポロゾイト、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Bacillus anthracis、Bacillus subtilis、Escherichia coli、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacteriumスポロゾイト、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringens、Clostridium tetani、Clostridium difficile、Enterobacter aerogenes、Klebsiella pneumoniae、Pasturella multocida、Bacteroides thetaiotamicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus、Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、LeptospiraおよびActinomyces israelli。特に、上記グラム陽性菌はBacillus anthracisである。
【0030】
別の実施形態では、上記細菌は、グラム陰性菌である。グラム陰性菌の非限定的な例には、Helicobacter pylori、Legionella pneumophilia、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、病原性Campylobacter sporozoites、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Enterobacter aerogenes、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Pasteurella multocida、Bacteroides sporozoites、Bacteriodes fragilis、Bacteriodes thetaiotaomicron、Bacteriodes uniformis、Bacteriodes vulgatus Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Leptospira、Escherichia coli、Salmonella enterica、Salmonella salamae、Salmonella arizonae、Salmonella diarizonae、Salmonella houtenae、Salmonella bongori、Salmonella indica、Salmonella Enteritidis、Salmonella typhiおよびCitrobacter freundiiが挙げられる。
【0031】
他の実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、ウイルス障害を処置するのに有用であり得る。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって処置することができる感染性ウイルスの非限定的な例には、レトロウイルス科(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、例えばHIV−1(HTLV−III、LAVまたはHTLV−III/LAVとも呼ばれる)またはHIV−III;および他の分離株、例えばHIV−LP;ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);カリシウイルス科(Calciviridae)(例えば、胃腸炎を引き起こす株);トガウイルス科(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(Flaviridae)(例えば、デング熱ウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(例えば、コロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(例えば、エボラウイルス);パラミクソウイルス科(例えば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルス);ブニヤウイルス科(Bungaviridae)(例えばハンタンウイルス、ブニヤ(bunga)ウイルス、フレボウイルスおよびナイロウイルス);アレナウイルス科(出血熱ウイルス);レオウイルス科(例えば、レオウイルス、オルビウイルス(orbiviurses)およびロタウイルス);ビルナウイルス科;ヘパドナウイルス科(例えば、B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(パルボウイルス);パポバウイルス科(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(ほとんどのアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス);ポックスウイルス科(例えば、痘瘡ウイルス、ワクチニアウイルス、ポックスウイルス);ならびにイリドウイルス科(例えば、アフリカブタ熱ウイルス);ならびに未分類ウイルス(例えば、海綿状脳症の病原体、デルタ肝炎の病原体(B型肝炎ウイルスの欠損サテライトであると考えられる)、非A型、非B型肝炎の病原体(クラス1=内部伝播型、クラス2=親から伝えられた、すなわち、C型肝炎);ノーウォークおよび関連ウイルス、ならびにアストロウイルス)が挙げられる。特定の実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルスまたは単純ヘルペスウイルスを処置するのに使用される。
【0032】
さらなる他の実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、原生動物によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる原生動物の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Trichomonas vaginalis、Giardia lamblia、Entamoeba histolytica、Balantidium coli、Cryptosporidium parvumおよびIsospora belli、Trypansoma cruzi、Trypanosoma gambiense、Leishmania donovaniおよびNaegleria fowleriが挙げられる。
【0033】
特定の実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、蠕虫によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる蠕虫の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Schistosoma mansoni、Schistosoma cercariae、Schistosoma japonicum、Schistosoma mekongi、Schistosoma hematobium、Ascaris lumbricoides、Strongyloides stercoralis、Echinococcus granulosus、Echinococcus multilocularis、Angiostrongylus cantonensis、Angiostrongylus constaricensis、Fasciolopis buski、Capillaria philippinensis、Paragonimus westermani、Ancylostoma dudodenale、Necator americanus、Trichinella spiralis、Wuchereria bancrofti、Brugia malayiおよびBrugia timori、Toxocara canis、Toxocara cati、Toxocara vitulorum、Caenorhabiditis elegansおよびAnisakis種が挙げられる。
【0034】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、寄生生物によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる寄生生物の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Plasmodium falciparum、Plasmodium yoelli、Hymenolepis nana、Clonorchis sinensis、Loa loa、Paragonimus westermani、Fasciola hepaticaおよびToxoplasma gondiiが挙げられる。特定の実施形態では、上記寄生生物は、マラリア原虫である。
【0035】
いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物は、真菌によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる真菌の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis、Candida albicans、Candida tropicalis、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida dubliniensis、Candida lusitaniae、Epidermophyton floccosum、Microsporum audouinii、Microsporum canis、Microsporum canis var. distortum Microsporum cookei、Microsporum equinum、Microsporum ferrugineum、Microsporum fulvum、Microsporum gallinae、Microsporum gypseum、Microsporum nanum、Microsporum persicolor、Trichophyton ajelloi、Trichophyton concentricum、Trichophyton equinum、Trichophyton flavescens、Trichophyton gloriae、Trichophyton megnini、Trichophyton mentagrophytes var. erinacei、Trichophyton mentagrophytes var. interdigitale、Trichophyton phaseoliforme、Trichophyton rubrum、Trichophyton rubrum downy strain、Trichophyton rubrum granular strain、Trichophyton schoenleinii、Trichophyton simii、Trichophyton soudanense、Trichophyton terrestre、Trichophyton tonsurans、Trichophyton vanbreuseghemii、Trichophyton verrucosum、Trichophyton violaceum、Trichophyton yaoundei、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavusおよびAspergillus clavatusが挙げられる。さらに別の実施形態では、本発明は、感染因子の増殖を阻害する方法であって、該因子を、本明細書に記載の化合物、例えば、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物と接触させ、それによって該感染因子の増殖を阻害するステップを含む方法に関する。
【0036】
特定の一実施形態では、上記感染因子は、インビトロで培養される。
【0037】
本発明を、以下の詳細な記載および図によってさらに例示する。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
単離された式(I)の化合物
【化26】

またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]。
(項目2)
細菌分離株ISO18629の天然産物である、項目1に記載の化合物。
(項目3)
細菌分離株ISO18629から生成可能である、項目1に記載の化合物。
(項目4)
単離された式(II)の化合物
【化27】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
(項目5)
36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフトにおける少なくとも10個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする、項目1に記載の化合物。
(項目6)
36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmのDMSO−d中の化学シフトにおける13C核磁気共鳴ピークを特徴とする、項目1に記載の化合物。
(項目7)
(a)約1242.47g/molの分子量、
(b)図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、
(c)図2に示されているものと実質的に同じ炭素13核磁気共鳴スペクトル、
(d)図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、
(e)図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、(f)図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および
(e)図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトル
の少なくとも1つを特徴とする、項目1に記載の化合物。
(項目8)
(a)約1242.47g/molの分子量、
(b)図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、
(c)図2に示されているものと実質的に同じ炭素13核磁気共鳴スペクトル、
(d)図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、
(e)図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、(f)図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および
(e)図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトル
を特徴とする、項目1に記載の化合物。
(項目9)
単離された式(II)の化合物
【化28】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
(項目10)
単離された式(III)の化合物
【化29】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである]。
(項目11)
単離された式(IV)の化合物
【化30】

[式中、Xは、NH、OまたはSである]
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩。
(項目12)
項目1、4、10または11に記載の化合物、および薬学的に許容される賦形剤、キャリアまたは希釈剤を含む医薬組成物。
(項目13)
抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗原生動物剤、駆虫剤、抗新生物剤、免疫調節剤、抗高コレステロール血症剤およびそれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、項目12に記載の医薬組成物。
(項目14)
式(I)の化合物
【化31】

またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、
好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で細菌分離株ISO18629を培養し、
それによって式(I)の化合物を生成するステップを含む方法。
(項目15)
式(II)の化合物
【化32】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、
好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で細菌分離株ISO18629を培養し、
それによって式(II)の化合物を生成するステップを含む方法。
(項目16)
式(III)の化合物
【化33】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである]
を生成する方法であって、
好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で細菌分離株ISO18629を培養し、
それによって式(III)の化合物を生成するステップを含む方法。
(項目17)
式(IV)の化合物
【化34】

[式中、Xは、NH、OまたはSである]
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法であって、
好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で細菌分離株ISO18629を培養し、
それによって式(IV)の化合物を生成するステップを含む方法。
(項目18)
式(I)、(II)、(III)または(IV)の前記化合物を単離するステップをさらに含む、項目14、15、16または17に記載の方法。
(項目19)
項目14、15、16または17に記載の方法に従って調製された、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物。
(項目20)
障害の処置を必要としている被験体の障害を処置する方法であって、該被験体に、有効量の式(I)の化合物
【化35】

またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]を投与し、それによって該被験体の該障害を処置するステップを含む方法。
(項目21)
障害の処置を必要としている被験体の障害を処置する方法であって、該被験体に、有効量の式(II)の化合物
【化36】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を投与し、それによって該被験体の該障害を処置するステップを含む方法。
(項目22)
障害の処置を必要としている被験体の障害を処置する方法であって、該被験体に、有効量の式(III)の化合物
【化37】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩[式中、各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RaおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである]を投与し、それによって該被験体の該障害を処置するステップを含む方法。
(項目23)
障害の処置を必要としている被験体の障害を処置する方法であって、該被験体に、有効量の式(IV)の化合物
【化38】

[式中、Xは、NH、OまたはSである]またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を投与し、それによって該被験体の該障害を処置するステップを含む方法。
(項目24)
前記被験体が、哺乳動物、ヒト、動物および植物からなる群から選択される、項目20、21、22または23に記載の方法。
(項目25)
前記障害が、細菌、真菌、ウイルス、原生動物、蠕虫、寄生生物、およびそれらの組合せからなる群から選択される病原体によって引き起こされる、項目20、21、22または23に記載の方法。
(項目26)
前記病原体が、細菌である、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記細菌が、グラム陽性細菌である、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記グラム陽性細菌が、Streptococcus、Staphylococcus、Enterococcus、Corynebacteria、Listeria、Bacillus、Erysipelothrix、Mycobacterium、Clostridium、and Actinomycetalesからなる群から選択される、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記グラム陽性細菌が、メチシリン感受性およびメチシリン耐性ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus hominis、Staphylococcus saprophyticus、およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を含む)、グリコペプチド中程度感受性Staphylococcus aureus(GISA)、ペニシリン感受性およびペニシリン耐性連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenes、Streptococcus agalactiae、Streptococcus dysgalactiae、Streptococcus avium、Streptococcus bovis、Streptococcus lactis、Streptococcus sangius、Streptococcus anginosus、Streptococcus intermedius、Streptococcus constellatusおよびC群連鎖球菌、G群連鎖球菌、ならびにViridans streptococciを含む)、腸球菌(バンコマイシン感受性およびバンコマイシン耐性株、例えばEnterococcus faecalisおよびEnterococcus faeciumを含む)、Clostridium difficile、Clostridium clostridiiforme、Clostridium innocuum、Clostridium perfringens、Clostridium tetani、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansaii、Mycobacterium gordonae、Mycobacteria sporozoites、Listeria monocytogenes、Bacillus subtilis、Bacillus anthracis、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacterium sporozoites、Erysipelothrix rhusiopathiae、ならびにActinomyces israelliからなる群から選択される、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記障害が、Bacillus anthracisの感染によって引き起こされる、項目25に記載の方法。
(項目31)
前記細菌が、グラム陰性細菌である、項目26に記載の方法。
(項目32)
前記グラム陰性細菌が、Helicobacter pylori、Legionella pneumophilia、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、病原性Campylobacter sporozoites、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Enterobacter aerogenes、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Pasteurella multocida、Bacteroides sporozoites、Bacteriodes fragilis、Bacteriodes thetaiotaomicron、Bacteriodes uniformis、Bacteriodes vulgatus Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Leptospira、Escherichia coli、Salmonella enterica、Salmonella salamae、Salmonella arizonae、Salmonella diarizonae、Salmonella houtenae、Salmonella bongori、Salmonella indica、Salmonella Enteritidis、Salmonella typhiおよびCitrobacter freundiiからなる群から選択される、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記病原体が、ウイルスである、項目25に記載の方法。
(項目34)
前記ウイルスが、レトロウイルス科、ピコルナウイルス科、カリシウイルス科、トガウイルス科、フラビウイルス科、コロナウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、アレナウイルス科、レオウイルス科、ビルナウイルス科、ヘパドナウイルス科、パルボウイルス科、パポバウイルス科、アデノウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科およびイリドウイルス科からなる群から選択される、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、および単純ヘルペスウイルスからなる群から選択される、項目33に記載の方法。
(項目36)
前記病原体が、原生動物である、項目25に記載の方法。
(項目37)
前記原生動物が、Trichomonas vaginalis、Giardia lamblia、Entamoeba histolytica、Balantidium
coli、Cryptosporidium parvumおよびIsospora belli、Trypansoma cruzi、Trypanosoma gambiense、Leishmania donovaniおよびNaegleria fowleriからなる群から選択される、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記病原体が、蠕虫である、項目25に記載の方法。
(項目39)
前記蠕虫が、Schistosoma mansoni、Schistosoma cercariae、Schistosoma japonicum、Schistosoma mekongi、 Schistosoma hematobium、Ascaris lumbricoides、Strongyloides stercoralis、Echinococcus granulosus、Echinococcus multilocularis、Angiostrongylus cantonensis、Angiostrongylus constaricensis、Fasciolopis buski、Capillaria philippinensis、Paragonimus westermani、Ancylostoma dudodenale、Necator americanus、Trichinella spiralis、Wuchereria bancrofti、Brugia malayiおよびBrugia timori、Toxocara canis、Toxocara cati、Toxocara vitulorum、Caenorhabiditis elegansおよびAnisakis種からなる群から選択される、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記病原体が、寄生生物である、項目25に記載の方法。
(項目41)
前記寄生生物が、Plasmodium falciparum、Plasmodium yoelli、Hymenolepis nana、Clonorchis sinensis、Loa loa、Paragonimus westermani、Fasciola hepaticaおよびToxoplasma gondiiからなる群から選択される、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記寄生生物が、マラリア寄生生物である、項目40に記載の方法。
(項目43)
前記病原体が、真菌である、項目25に記載の方法。
(項目44)
前記真菌が、Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis、Candida albicans、Candida tropicalis、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida dubliniensis、Candida lusitaniae、Epidermophyton floccosum、Microsporum audouinii、Microsporum canis、Microsporum canis var. distortum Microsporum
cookei、Microsporum equinum、Microsporum ferrugineum、Microsporum fulvum、Microsporum gallinae、Microsporum gypseum、Microsporum nanum、Microsporum persicolor、Trichophyton ajelloi、Trichophyton concentricum、Trichophyton equinum、Trichophyton flavescens、Trichophyton gloriae、Trichophyton megnini、Trichophyton mentagrophytes var. erinacei、Trichophyton mentagrophytes var. interdigitale、Trichophyton phaseoliforme、Trichophyton rubrum、Trichophyton rubrum downy strain、Trichophyton rubrum granular strain、Trichophyton schoenleinii、Trichophyton simii、Trichophyton soudanense、Trichophyton terrestre、Trichophyton tonsurans、Trichophyton vanbreuseghemii、Trichophyton verrucosum、Trichophyton violaceum、Trichophyton yaoundei、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavusおよびAspergillus clavatusからなる群から選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
ISO18629分離株の識別特徴を有する、細菌種を含む単離された培養物。
(項目46)
感染因子の増殖を阻害する方法であって、該因子を、式(I)の化合物
【化39】

またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]
と接触させ、それによって該感染因子の増殖を阻害するステップを含む方法。
(項目47)
前記感染因子が、インビトロで培養される、項目46に記載の方法。
(項目48)
感染因子の増殖を阻害する方法であって、該因子を、式(II)の化合物
【化40】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩と接触させ、それによって該感染因子の増殖を阻害するステップを含む方法。
(項目49)
前記感染因子が、インビトロで培養される、項目48に記載の方法。
(項目50)
感染因子の増殖を阻害する方法であって、該因子を、式(III)の化合物
【化41】

またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩
[式中、各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである]
と接触させ、それによって該感染因子の増殖を阻害するステップを含む方法。
(項目51)
前記感染因子が、インビトロで培養される、項目50に記載の方法。
(項目52)
感染因子の増殖を阻害する方法であって、該因子を、式(IV)の化合物
【化42】

[式中、Xは、NH、OまたはSである]またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩と接触させ、それによって該感染因子の増殖を阻害するステップを含む方法。
(項目53)
前記感染因子が、インビトロで培養される、項目52に記載の方法。
【0038】
本発明の上記および他の目的、その様々な特徴、ならびに本発明自体は、以下の記載を添付の図と一緒に読むことにより、より完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、ISO18629の増殖株から単離された化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d中)の概略図である。
図2図2は、ISO18629の増殖株から単離された化合物の炭素13核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d中)の概略図である。
図3図3は、ISO18629の増殖株から単離された化合物のCOSY核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d中)の概略図である。
図4図4は、ISO18629の増殖株から単離された化合物のDEPT−135核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d中)の概略図である。
図5図5は、ISO18629の増殖株から単離された化合物のHSQC核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d中)の概略図である。
図6図6は、ISO18629の増殖株から単離された化合物のHMBC核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d中)の概略図である。
図7図7は、高分子の合成に対する式(II)の化合物の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、一般に、新規なデプシペプチド、これらの新規なデプシペプチドを調製する方法、新規なデプシペプチドを含む医薬組成物、および様々な障害、例えば細菌感染症を処置または阻害するために新規なデプシペプチドを使用する方法に関する。本発明は、他の抗生物質に耐性の株を含む、多くの細菌病原体、特にグラム陽性病原体に対して広範な活性を有する新規な抗生物質に関する。本明細書に開示の化合物は、好ましい生体利用能を有しており、毒性が低い。
【0041】
定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で用いられるいくつかの用語を、ここにまとめる。別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書の基または用語に対して提供される最初の定義は、別段指定されない限り、本明細書を通して個々にまたは別の基の一部としてその基または用語に適用される。
【0042】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書では、その冠詞の文法的な対象の1つまたは複数(すなわち少なくとも1つ)を指すために使用される。例えば、「1つの(an)要素」は、1つの要素または1つより多くの要素を意味する。
【0043】
用語「または」は、本明細書では、文脈から別段明らかに示されない限り、用語「および/または」を指すために使用され、用語「および/または」と交換可能に使用される。
【0044】
用語「実質的に同じ」は、本明細書では、比較される2つの対象が、ある共通の特徴のうちの少なくとも90%を共有することを意味するために使用される。特定の実施形態では、上記2つの対象は、ある共通の特徴のうちの少なくとも95%を共有する。特定の他の実施形態では、上記2つの対象は、ある共通の特徴のうちの少なくとも99%を共有する。
【0045】
用語「単離された」は、本明細書では、その天然環境で会合している他の物質を実質的に含まない、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を指すために使用される。例えば、単離された化合物は、夾雑物(例えば、細胞物質、該化合物が得られる細胞由来の夾雑物、化学的に合成される場合には化学的前駆体もしくは他の化学物質)を実質的に含まないものであってよい。他の材料を実質的に含まないとは、一般に、例えば約30%未満、または20%、または15%、または10%、または5%、または2%(乾燥重量で)の不純物を指す。いくつかの実施形態では、単離された化合物は、実質的に純粋である。いくつかの実施形態では、上記細胞由来の汚染物質または化学的前駆体を約10%未満(乾燥重量で)有する化合物の調製物は、実質的に純粋であるとみなされる。他の実施形態では、上記細胞由来の汚染物質または化学的前駆体を(乾燥重量で)約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、約1%未満で有する化合物の調製物は、実質的に純粋であるとみなされる。
【0046】
別段指定されない限り、未充足の原子価を有する任意のヘテロ原子は、該原子価を満たすのに十分な水素原子を有すると推測される。
【0047】
用語「加熱」には、それに限定されるものではないが、従来の加熱(例えば、電気加熱、蒸気加熱、ガス加熱等)、ならびにマイクロ波加熱による加温が含まれる。
【0048】
用語「薬学的に許容される賦形剤、キャリアまたは希釈剤」は、本明細書で使用される場合、対象医薬品を、身体のある臓器または一部から身体の別の臓器または一部に運搬または輸送することに関与する、液体または固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料(encapsulating material)などの薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを意味する。それぞれのキャリアは、製剤の他の成分と適合性があり、患者にとって有害でないという意味で、「許容される」ものでなければならない。
【0049】
被験体に関する用語「処置すること」は、該被験体の障害の少なくとも1つの症状を改善することを指す。処置することは、障害または状態を治癒することまたはそれを改善することであり得る。
【0050】
用語「障害」は、本明細書では、文脈から別段明らかに示されない限り、疾患、状態または疾病という用語を示すために使用され、これらの用語と交換可能に使用される。
【0051】
用語「微生物」は、本明細書では、細菌、ウイルス、原生動物または真菌などの生物、特に疾患を伝染させる生物を示すために使用される。
【0052】
句「薬学的に許容される」は、本明細書では、良好な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒト、動物および植物の組織と接触させて使用するのに適しており、妥当な利益/リスク比に相応した化合物、材料、組成物および/または剤形を指すために用いられる。
【0053】
本明細書を通して、基およびその置換基は、安定な部分および化合物を提供するように選択することができる。
【0054】
本発明の化合物
一実施形態では、本発明は、単離された式(I)の化合物
【化9】
およびその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体、または薬学的に許容される塩
[式中、各立体中心(「*」で示される)は、RまたはS配置のいずれかであり得る]
に関する。したがって、「式(I)の化合物」という句が本明細書で使用される場合、この句は、その鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体、および薬学的に許容される塩を含むことを意味する。本発明のデプシペプチド化合物およびその塩は、それらの互変異性体の形態で(例えば、アミドまたはグアニジンとして)存在し得る。本明細書では、このようなすべての互変異性体の形態が、本発明の一部として意図される。式(I)の化合物、例えば細菌分離株ISO18629から単離された化合物は、「NOVO26」と呼ぶこともできる。いくつかの実施形態では、本発明の教示は、立体異性体の混合物に関する。他の実施形態では、本発明の教示は、特に、式(I)の化合物の単一の立体異性体に関する。
【0055】
特定の一実施形態では、本発明は、特に、式(II)の化合物
【化10】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩である、式(I)の化合物の単一の立体異性体に関する。
【0056】
本発明のデプシペプチド化合物の、鏡像異性形態およびジアステレオマー形態を含むあらゆる立体異性体(例えば、様々な置換基上の不斉炭素に起因して存在し得るもの)は、本発明の範囲内にあることが意図される。一実施形態では、式(I)の化合物は、混合物である。しかしあるいは、式(I)の化合物は、実質的に他の立体異性体を含まない単一の立体異性体である(例えば、特定の活性を有する純粋なまたは実質的に純粋な光学異性体として)。特定の一実施形態では、式(I)の化合物は、式(II)によって表される単一の立体異性体である。いくつかの実施形態では、本発明は、約10%未満(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約5%未満(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約2%未満(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約1%未満(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約5%(乾燥重量で)〜約10%(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約1%(乾燥重量で)〜約5%(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約1%(乾燥重量で)〜約10%(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、約5%(乾燥重量で)〜約10%(乾燥重量で)の他の異性体が存在する状態の、単一の立体異性体に関する。無関係な化合物は、2%未満(乾燥重量で)を構成する。他の実施形態では、本発明の教示は、立体異性体の混合物を対象とする。式(I)の化合物のキラル中心は、IUPAC1974推奨によって定義されている通り、SまたはR配置を有することができる。立体異性体形態は、例えば、ジアステレオマー誘導体の分別結晶化、分離もしくは結晶化、またはキラルカラムクロマトグラフィーによる分離などの物理的方法によって分割することができる。個々の光学異性体は、限定されるものではないが、例えば、光学的に活性な酸を用いて塩を形成した後に結晶化するなどの従来の方法を含む任意の適切な方法によって、立体異性体の混合物から得ることができる。
【0057】
本発明のデプシペプチド化合物は、それらを調製した後に、例えば単離し精製して、90%以上(乾燥重量で)の重量の量を含有する組成物を得ることができ、次にその組成物は、本明細書に記載の通り使用され、または製剤化される。本発明のデプシペプチド化合物は、それらを調製した後に、例えば単離し精製して、95%以上(乾燥重量で)の重量の量を含有する組成物を得ることができ、次にその組成物は、本明細書に記載の通り使用され、または製剤化される。本発明のデプシペプチド化合物は、それらを調製した後に、例えば単離し精製して、約90%(乾燥重量で)〜約95%(乾燥重量で)の重量の量を含有する組成物を得ることができ、次にその組成物は、本明細書に記載の通り使用され、または製剤化される。本発明のデプシペプチド化合物は、それらを調製した後に、例えば単離し精製して、約85%(乾燥重量で)〜約95%(乾燥重量で)の重量の量を含有する組成物を得ることができ、次にその組成物は、本明細書に記載の通り使用され、または製剤化される。本発明のデプシペプチド化合物は、それらを調製した後に、例えば単離し精製して、約95%(乾燥重量で)〜約99%(乾燥重量で)の重量の量を含有する組成物を得ることができ、次にその組成物は、本明細書に記載の通り使用され、または製剤化される。
【0058】
本発明の化合物のあらゆる立体配置異性体が、混合物、または純粋なもしくは実質的に純粋な形態のいずれかで意図される。
【0059】
一実施形態では、本発明は、単離された式(III)の化合物
【化11】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩に関する。
【0060】
各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである。また、任意の炭素または水素は、それぞれ13CまたはHで置き換えられていてもよい。一実施形態では、本発明は、単離された式(III)の化合物、またはその鏡像異性体、ジアステレオマー(diasteromer)、互変異性体、もしくは薬学的に許容される塩に関する。
【0061】
用語「アルキル」は、1〜12個の炭素原子、例えば1〜6個の炭素原子を含有する直鎖または分枝鎖のアルカン(炭化水素)ラジカルを指す。例示的な「アルキル」基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、イソブチル ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、2,2,4−トリメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル等が含まれる。
【0062】
用語「アルケニル」は、2〜12個の炭素原子および少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有する直鎖または分枝鎖の炭化水素ラジカルを指す。例示的なこのような基には、エテニルまたはアリルが含まれる。
【0063】
用語「アルキニル」は、2〜12個の炭素原子および少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する直鎖または分枝鎖の炭化水素ラジカルを指す。例示的なこのような基には、エチニルが含まれる。
【0064】
用語「シクロアルキル」は、1〜4個の環および環1個当たり3〜8個の炭素を含有する完全に飽和の環式炭化水素基を指す。例示的なこのような基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等が含まれる。
【0065】
用語「シクロアルケニル」は、1〜4個の環および環1個当たり3〜8個の炭素を含有する部分的に不飽和の環式炭化水素基を指す。例示的なこのような基には、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等が含まれる。
【0066】
用語「アリール」は、1〜5個の芳香族環を有する環式の芳香族炭化水素基、特にフェニル、ビフェニルまたはナフチルなどの単環式または二環式基を指す。アリール基の芳香族環は、2つ以上の芳香族環を含有する場合(二環式等)、単一の点において連結していてもよく(例えば、ビフェニル)、または縮合していてもよい(例えば、ナフチル、フェナントレニル等)。
【0067】
一実施形態では、本発明は、単離された式(IV)の化合物
【化12】
[式中、Xは、NH、OまたはSである]
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩に関する。特定の一実施形態では、XはNHである。あるいは、XはOである。あるいは、XはSである。一実施形態では、本発明は、単離された式(IV)の化合物、またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体、もしくは薬学的に許容される塩に関する。
【0068】
いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、細菌種の天然産物である。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、細菌種から単離された天然産物である。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、細菌分離株ISO18629の天然産物である。例えば、いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、細菌分離株ISO18629の細菌培養物に由来する。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、細菌分離株ISO18629から単離された天然産物である。
【0069】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における少なくとも5個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における少なくとも7個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における少なくとも10個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmから選択されるDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における少なくとも12個の13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmのDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における13C核磁気共鳴ピークを特徴とする。特定の実施形態では、化学シフトは、500MHzマグネットを使用して得られた核磁気共鳴スペクトルから記録される。化学シフトは、本明細書では+/−0.2ppmの誤差内で記録される。
【0070】
さらなる実施形態では、本発明は、約1242.47g/molの分子量、図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、図2に示されているものと実質的に同じ13C核磁気共鳴スペクトル、図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、または図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトルの少なくとも1つを特徴とする式(I)の化合物に関する。別の実施形態では、本発明は、上記の特徴の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは少なくとも6つを特徴とする式(I)の化合物に関する。またさらなる一実施形態では、本発明は、約1242.47g/molの分子量、図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、図2に示されているものと実質的に同じ13C核磁気共鳴スペクトル、図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトルを特徴とする式(I)の化合物に関する。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明は、36.3ppm、36.5ppm、36.9ppm、37.4ppm、52.1ppm、52.2ppm、52.7ppm、53.5ppm、55.7ppm、56.1ppm、56.4ppm、56.7ppm、57.3ppm、57.8ppm、57.9ppm、61.8ppmおよび71.1ppmのDMSO−d中の化学シフト(+/−0.2ppm)における13C核磁気共鳴ピークを特徴とする、細菌分離株ISO18629の単離された天然産物に関する。特定の実施形態では、本発明は、約1242.47g/molの分子量、図1に示されているものと実質的に同じプロトン核磁気共鳴スペクトル、図2に示されているものと実質的に同じ13C核磁気共鳴スペクトル、図3に示されているものと実質的に同じCOSY核磁気共鳴スペクトル、図4に示されているものと実質的に同じDEPT−135核磁気共鳴スペクトル、図5に示されているものと実質的に同じHSQC核磁気共鳴スペクトル、および/または図6に示されているものと実質的に同じHMBC核磁気共鳴スペクトルを特徴とする、細菌分離株ISO18629の単離された天然産物に関する。
【0072】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の本発明の化合物、および薬学的に許容される賦形剤、キャリアまたは希釈剤を含む医薬組成物に関する。特定の実施形態では、組成物は、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗原生動物剤、駆虫剤、抗新生物剤、免疫調節剤、抗高コレステロール血症剤およびそれらの組合せから選択される薬剤をさらに含む。
【0073】
本発明のデプシペプチド化合物は、塩を形成することができ、これも本発明の範囲に含まれる。本明細書における本発明の化合物への参照は、別段指定されない限り、その化合物の塩への参照を含むと理解される。用語「塩(複数可)」は、本明細書で用いられる場合、無機酸および/もしくは有機酸を用いて形成される酸性塩を指す。薬学的に許容される(すなわち、非毒性の生理的に許容される)塩が好ましいが、例えば調製中に用いることができる単離または精製ステップにおいて、他の塩も有用である。本発明の化合物の塩は、媒体(例えば、塩が沈殿する媒体)中または水性媒体または水性および有機性の媒体中で、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、ある量の(例えば当量(equivalent amount)の)酸と反応させ、その後凍結乾燥させることによって形成することができる。
【0074】
アミンまたはグアニジンなどが挙げられるがこれらに限定されない塩基性部分を含有する本発明のデプシペプチド化合物は、様々な有機酸および無機酸と塩を形成することができる。例示的な酸付加塩には、酢酸塩(酢酸またはトリハロ酢酸、例えばトリフルオロ酢酸を用いて形成されるものなど)、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ヒドロキシエタンスルホン酸塩(例えば、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩(例えば、2−ナフタレンスルホン酸塩)、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニルプロピオン酸塩(例えば、3−フェニルプロピオン酸塩)、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩(硫酸を用いて形成されるものなど)、スルホン酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、例えばトシル酸塩、ウンデカン酸塩等が含まれる。
【0075】
本発明の化合物を調製する方法
さらに別の実施形態では、本発明は、式(I)の化合物
【化13】
またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法に関する。
【0076】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(II)の化合物
【化14】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法に関する。
【0077】
一実施形態では、本発明は、式(III)の化合物
【化15】
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法に関する。
【0078】
各R〜Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、C(=O)RおよびS(=O)から選択され、各Rは、独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールであり、各Rは、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアリールである。また、任意の炭素または水素は、それぞれ13CまたはHで置き換えられていてもよい。
【0079】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(IV)の化合物
【化16】
[式中、Xは、NH、OまたはSである]
またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を生成する方法に関する。
【0080】
上記方法は、好気条件下で、炭素、窒素および無機塩の同化可能な供給源を含む培地中で細菌分離株ISO18629を培養(cultivating)または培養(culturing)し、アッセイ可能な量の式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を生成できるようにするステップを含む。細菌分離株ISO18629を培養するための具体的な条件は、以下の実施例の節に記載されている。
【0081】
特定の実施形態では、上記方法は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を単離するステップをさらに含む。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、発酵ブロスを遠心分離する(例えば、10,000rpmで20分間遠心分離する)ことによって単離され得る。次に、遠心分離から得た上清を、逆相ポリマー樹脂(例えば、HP−20、三菱)上に吸着させる。カラムを水および80%水性アセトンで洗浄した後、化合物をアセトンで溶出する。次に、このアセトン抽出物を乾燥させると(例えば、減圧下で)、濃いオレンジ色の油が残る。次に、この油にヘキサンを添加し、次に混合物を超音波処理し、遠心分離する。次に、上清をデカントし、残りの残渣を減圧下で乾燥させる。この残渣をDMSOに溶解させ、精製する。精製は、RP−HPLCによって分取C−18カラム(HO/AcN(0.1%TFA含有)、35分かけて10〜100%)で実現することができる。次に、化合物を含有する画分を、凍結乾燥させてもよい。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を単離するための具体的な条件は、以下の実施例の節に記載されている。
【0082】
いくつかの実施形態では、上記方法は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約75%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。他の実施形態では、そのプロセスは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約80%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。他の実施形態では、そのプロセスは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約85%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。他の実施形態では、そのプロセスは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約90%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。他の実施形態では、そのプロセスは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約95%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。他の実施形態では、そのプロセスは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約97%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。他の実施形態では、そのプロセスは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、少なくとも約99%の純度(乾燥重量で)まで単離するステップをさらに含む。
【0083】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法に従って調製された式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物に関する。
【0084】
式(II)の化合物、例えばNOVO26は、ISO18629分離株によって生成される。細菌分離株ISO18629は、Agricultural Research Service Culture Collection(NRRL)、National Center for Agricultural Utilization Research、Agricultural Research Service、U.S.Department of Agriculture、1815 North University Street、Peoria、Illinois 61604に、2013年9月6日に寄託されており、NRRL受託番号B−50868を割り当てられた。この寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約の条項の下で維持される。この寄託は、単に当業者に利便性をもたらすものとみなされ、米国特許法第112条の下に要求されていることを承認するものではない。
【0085】
ISO18629は、メーン州の陸生土壌から、米国特許第7,011,957号に記載の「培養できない」微生物を単離する技術を使用して単離された。この技術では、半透過膜でシールされ、したがって微生物の細胞には透過性がないが、環境に由来する構成成分の拡散には透過性がある増殖チャンバを利用する。ISO18629の16S rDNA遺伝子のヌクレオチド配列は、BLASTアライメントによってGenBankヌクレオチド収集と比較すると、Burkholderiales細菌YT0099(受託番号AB362826−1)に最も密接に関係している(97.4%の類似性)ことが示された。
【0086】
上記グロースチャンバは、本発明の時点で「培養不可能な」微生物の増殖、純粋培養への単離、および特性決定を可能にするように設計される。この所望の結果は、上記チャンバ内の状態が上記微生物の自然環境と同一ではないとしても、かなり類似していることから、達成され得る。かかるチャンバの1つのバージョンは、固体基材、例えばガラスもしくはシリコン製のスライドまたはナイロンもしくはステンレス鋼製のワッシャーから形成され、この基材上には、2つの丈夫な膜、例えばポリカーボネートまたは他の不活性な材料に挟まれたオリフィスが接着されている。上記膜は、例えば0.025μm〜0.03μmの孔径を有し、この孔径は、上記チャンバ内にすべての微生物を保持するのに十分に小さいが、上記環境からの構成成分が該チャンバ内へと拡散し、廃棄産物が該チャンバから出て拡散できるのに十分大きい。1つの膜によって上記基材の底部上を封止した後、上記チャンバを、適切な増殖培地中の細胞懸濁液で部分的に充填する。
【0087】
本発明の化合物は、例えば以下の方法を使用して、細菌分離株ISO18629から単離することができる。細菌分離株は、適切な支持物上で増殖させることができる。次に、コロニーをホモジナイズし、それを使用して、接種ブロス(seed broth)に接種することができる。発酵させた後、次に種培養物を使用して、生成ブロス(production broth)に接種することができる。任意選択でさらに発酵させた後、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、例えば、遠心分離および分取HPLCを使用してブロスから回収することができる。式(II)の化合物を生成するための具体的な例示的な方法は、以下の実施例の節でさらに詳細に論じられる。
【0088】
あるいは、本開示の化合物は、合成することができる。例えば、スキーム1は、式(III)のグアニジン置換化合物を合成する1つの非限定的な方法を示す。
【化17】
スキーム2は、式(III)のアミン置換化合物を合成する非限定的な代表例である。
【化18】
スキーム3は、式(III)のアルコール置換化合物を合成する非限定的な方法を提示している。
【化19】
【0089】
スキーム4は、式(IV)の化合物を合成する代表的な方法である。
【化20】
【0090】
本発明の化合物を用いた処置の方法
本発明はまた、病原体の増殖を阻害する方法を提供する。上記方法は、上記病原体を、有効量の1つまたは複数の式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物と接触させ、それによって該化合物によって処理していない病原体の増殖と比較して、該病原体の増殖を阻害するステップを含む。特定の実施形態では、上記方法は、該化合物によって処理していない病原体の増殖と比較して、該病原体の増殖を低減する。他の場合には、この処理は、上記病原体の死滅をもたらす。病原体の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、細菌、真菌、ウイルス、原生動物、蠕虫、寄生生物およびその組合せが含まれる。これらの方法は、インビボまたはインビトロで実施することができる。
【0091】
特定の細菌に対する式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物の抗菌活性は、阻害域のモニタリングおよび最小阻害濃度(MIC)アッセイなどのインビトロアッセイによって評価することができる。式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物の抗真菌活性は、例えばSanatiら, A new triazole, voriconazole (UK−109,496), blocks sterol biosynthesis in Candida albicans and Candida krusei, Antimicrob. Agents Chemother., 1997 November; 41(11): 2492−2496に記載の通り、所望の真菌病原体(Candida albicansおよびAspergillus種など)の生存率を求めることによって決定することができる。式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物の抗ウイルス特性は、例えばインフルエンザのノイラミニダーゼの阻害をモニターすることによって、またはTisdale M., Monitoring of viral susceptibility: new challenges with the development of influenza NA inhibitors, Rev. Med. Virol., 2000 Jan−Feb;10(1):45−55に記載の通りウイルス生存率をアッセイすることによって決定することができる。式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物の抗原生動物活性は、Katiyar et al., Antiprotozoal activities of benzimidazoles and correlations with beta−tubulin sequence, Antimicrob. Agents Chemother., 1994 September; 38(9): 2086−2090に記載の通り、Trichomonas vaginalisおよびGiardia lambliaなどの寄生原生動物の生存率を求めることによって決定することができる。式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物の駆虫活性は、例えばMolgaard P.ら、Traditional herbal remedies used for the treatment of urinary schistosomiasis in Zimbabwe, J. Ethnopharmacol., 1994 Apr; 42(2):125−32に記載の通り、Schistosoma mansoni、Schistosoma cercariaeおよびCaenorhabditis elegansなどの線虫の生存率に対する上記化合物の効果を求めることによって決定することができる。
【0092】
他の実施形態では、本発明は、被験体に、有効量の本明細書に記載の1つまたは複数のデプシペプチド化合物を投与することによって、障害の処置を必要としている被験体の障害(例えば、病原体感染)を処置する方法を対象とする。特定の実施形態では、上記障害は、それに限定されるものではないが、細菌、真菌、ウイルス、原生動物、蠕虫、寄生生物またはその組合せなどの病原体によって引き起こされる。
【0093】
いくつかの実施形態では、上記障害は、細菌によって引き起こされる。本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して有用であり得る。特に、障害は、グラム陽性細菌によって引き起こされる。あるいは、障害は、グラム陰性細菌によって引き起こされる。グラム陽性菌の非限定的な例には、Streptococcus、Staphylococcus、Enterococcus、Corynebacteria、Listeria、Bacillus、ErysipelothrixおよびActinomycetesが挙げられる。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、以下の1種または複数種による感染症を処置するのに使用される。Helicobacter pylori、Legionella pneumophilia、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansaii、Mycobacterium gordonae、Mycobacteriaスポロゾイト、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、化膿性Streptococcus(A群Streptococcus)、化膿性Streptococcus agalactiae(B群Streptococcus)、Streptococcus dysgalactia、Streptococcus faecalis、Streptococcus bovis、Streptococcus pneumoniae、病原性Campylobacterスポロゾイト、Enterococcusスポロゾイト、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Bacillus anthracis、Bacillus subtilis、Escherichia coli、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacteriumスポロゾイト、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringens、Clostridium tetani、Clostridium difficile、Enterobacter aerogenes、Klebsiella pneumoniae、Pasturella multocida、Bacteroides thetaiotamicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus、Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、LeptospiraおよびActinomyces israelli。特定の実施形態では、本明細書に記載の化合物は、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)またはバンコマイシン耐性Entercocci(VRE)による感染症を処置するのに有用である。MRSAにより、米国では年間およそ19,000人が死亡している。これらの死亡のほとんどは、院内感染MRSA(HA−MRSA)に起因するが、実際には、市中感染MRSA(CA−MRSA)の方が病原性が高く、まだ健康な個体にとっても致死的となる可能性があることが公知である。CA−MRSAの毒性(virulence)は、部分的に、フェノール可溶性モジュリンまたはPSMペプチドの発現に起因する。したがって、CA−MRSAを処置するには、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、それに限定されるものではないがPSMペプチドなどの毒性因子の発現および/または活性をモジュレートする薬剤と組み合わせて使用することができる。特定の実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物は、Borelia burgdorferi、Treponema pallidiumおよびTreponema pertenueなどのスピロヘータを処置するのに使用することができる。
【0094】
特定の一実施形態では、グラム陽性細菌は、Staphylococcus(例えば、S.aureus種、S.epidermidis種、S.warneri種およびS.haemolyticus種を含む)、Streptococcus(例えば、S.viridans種、S.pneumoniae種、S.agalactiae種、およびS.pyogenes種を含む)、Bacillus(例えば、B.anthracis種およびB.subtilis種を含む)、Clostridium(例えば、C.difficile種を含む)、Propionibacterium(例えば、P.acnes種を含む)、Enterococcus(例えば、E.faecium種、E.faecalis種、バンコマイシン耐性E.faecium種、およびバンコマイシン耐性E.faecalis種を含む)、およびMycobacterium(例えば、M.smegmatis種およびM.tuberculosis種を含む)から選択される。本明細書に記載の化合物は、これらの細菌によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。このような障害の例として、急性の細菌性皮膚および皮膚組織感染症、C.difficileに関連する下痢、炭疽、敗血症、ボツリヌス中毒、尿路感染症、菌血症、細菌性心内膜炎、憩室炎、髄膜炎、肺炎、および結核が挙げられる。
【0095】
特定の一実施形態では、グラム陰性細菌は、Haemophilus(例えば、H.influenzae種を含む)、Klebsiella(例えば、K.pneumoniae種を含む)、Pseudomonas(例えば、P.aeruginosa種を含む)、Escherichia(例えば、E.coli種を含む)、Yersinia(例えば、Y.pestis種を含む)、Neisseria(例えば、N.gonorrhoeae種を含む)、Bacteriodes(例えば、B.fragilis種を含む)、Proteus(例えば、P.mirabilis種およびP.vulgaris種を含む)、Enterobacter(例えば、E.cloacae種およびE.aerogenes種を含む、Serratia(例えば、S.marcescens種を含む)、Acinetobacter(例えば、A.baumannii種を含む)、およびMoraxella(例えば、M.catarrhalis種を含む)から選択される。特定の一実施形態では、グラム陰性細菌は、Haemophilus、特にH.influenzae、またはMoraxella、特にM.catarrhalis種である。本明細書に記載の化合物は、これらの細菌によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。このような障害の例として、インフルエンザ、菌血症、肺炎、急性の細菌性髄膜炎、淋病、尿路感染症、気道感染症、カテーテルに関連する菌血症、創傷感染症、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、および喉頭炎が挙げられる。他の実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、ウイルス障害を処置するのに有用であり得る。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって処置することができる感染性ウイルスの非限定的な例には、レトロウイルス科(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、例えばHIV−1(HTLV−III、LAVまたはHTLV−III/LAVとも呼ばれる)またはHIV−III;および他の分離株、例えばHIV−LP;ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);カリシウイルス科(Calciviridae)(例えば、胃腸炎を引き起こす株);トガウイルス科(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(Flaviridae)(例えば、デング熱ウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(例えば、コロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(例えば、エボラウイルス);パラミクソウイルス科(例えば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルス);ブニヤウイルス科(Bungaviridae)(例えばハンタンウイルス、ブニヤ(bunga)ウイルス、フレボウイルスおよびナイロウイルス);アレナウイルス科(出血熱ウイルス);レオウイルス科(例えば、レオウイルス、オルビウイルス(orbiviurses)およびロタウイルス);ビルナウイルス科;ヘパドナウイルス科(例えば、B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(パルボウイルス);パポバウイルス科(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(ほとんどのアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス);ポックスウイルス科(例えば、痘瘡ウイルス、ワクチニアウイルス、ポックスウイルス);ならびにイリドウイルス科(例えば、アフリカブタ熱ウイルス);ならびに未分類ウイルス(例えば、海綿状脳症の病原体、デルタ肝炎の病原体(B型肝炎ウイルスの欠損サテライトであると考えられる)、非A型、非B型肝炎の病原体(クラス1=内部伝播型、クラス2=親から伝播した、すなわち、C型肝炎);ノーウォークおよび関連ウイルス、ならびにアストロウイルス)が挙げられる。特定の実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物は、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルスおよび単純ヘルペスウイルスを処置するのに使用される。
【0096】
いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物は、真菌によって引き起こされる障害を処置するのに有用であり得る。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる真菌の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis、Candida albicans、Candida tropicalis、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida dubliniensis、Candida lusitaniae、Epidermophyton floccosum、Microsporum audouinii、Microsporum canis、Microsporum canis var. distortum Microsporum cookei、Microsporum equinum、Microsporum ferrugineum、Microsporum fulvum、Microsporum gallinae、Microsporum gypseum、Microsporum nanum、Microsporum persicolor、Trichophyton ajelloi、Trichophyton concentricum、Trichophyton equinum、Trichophyton flavescens、Trichophyton gloriae、Trichophyton megnini、Trichophyton mentagrophytes var. erinacei、Trichophyton mentagrophytes var. interdigitale、Trichophyton phaseoliforme、Trichophyton rubrum、Trichophyton rubrum downy strain、Trichophyton rubrum granular strain、Trichophyton schoenleinii、Trichophyton simii、Trichophyton soudanense、Trichophyton terrestre、Trichophyton tonsurans、Trichophyton vanbreuseghemii、Trichophyton verrucosum、Trichophyton violaceum、Trichophyton yaoundei、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavusおよびAspergillus clavatusが挙げられる。
【0097】
さらなる他の実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、原生動物によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる原生動物の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Trichomonas vaginalis、Giardia lamblia、Entamoeba histolytica、Balantidium coli、Cryptosporidium parvumおよびIsospora belli、Trypansoma cruzi、Trypanosoma gambiense、Leishmania donovaniおよびNaegleria fowleriが挙げられる。
【0098】
特定の実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、蠕虫によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる蠕虫の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Schistosoma mansoni、Schistosoma cercariae、Schistosoma japonicum、Schistosoma mekongi、Schistosoma hematobium、Ascaris lumbricoides、Strongyloides stercoralis、Echinococcus granulosus、Echinococcus multilocularis、Angiostrongylus cantonensis、Angiostrongylus constaricensis、Fasciolopis buski、Capillaria philippinensis、Paragonimus westermani、Ancylostoma dudodenale、Necator americanus、Trichinella spiralis、Wuchereria bancrofti、Brugia malayiおよびBrugia timori、Toxocara canis、Toxocara cati、Toxocara vitulorum、Caenorhabiditis elegansおよびAnisakis種が挙げられる。
【0099】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のデプシペプチド化合物は、寄生生物によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物によって阻害することができる寄生生物の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、Plasmodium falciparum、Plasmodium yoelli、Hymenolepis nana、Clonorchis sinensis、Loa loa、Paragonimus westermani、Fasciola hepaticaおよびToxoplasma gondiiが挙げられる。特定の実施形態では、上記寄生生物は、マラリア原虫である。
【0100】
他の実施形態では、上記デプシペプチド化合物は、該化合物によって処置しない場合の感染体の増殖と比較して、該感染体の増殖を阻害するのに使用される。感染体の非限定的な例には、それに限定されるものではないが、細菌、真菌、ウイルス、原生動物、蠕虫、寄生生物およびその組合せが挙げられる。上記デプシペプチド化合物は、上記感染体をインビボまたはインビトロで阻害するのに使用することができる。
【0101】
本発明の化合物を含む薬学的組成物
本発明はまた、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物の少なくとも1つ(またはその鏡像異性体、ジアステレオマー、互変異性体、または薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物)、および薬学的に許容されるキャリアを含む薬学的組成物を提供する。これらのデプシペプチド組成物は、被験体(例えば、ヒトなどの哺乳動物)への投与に適している。この薬学的組成物は、障害を処置するのに使用することができる。このような障害の非限定的な例は、上に提示されており、そして病原体(例えば最近)による感染を包含する。
【0102】
1つの実施形態では、上記デプシペプチド化合物は、薬学的に許容されるキャリア中で投与される。当該分野で公知の任意の適切なキャリアを使用することができる。本発明の化合物を効率的に可溶化するキャリアが好ましい。キャリアには、それに限定されるものではないが、固体、液体、または固体と液体の混合物が挙げられる。上記キャリアは、カプセル、錠、小球(pill)、粉末、ロゼンジ、懸濁液、乳濁液またはシロップの形態をとることができる。上記キャリアは、香味剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、結合剤、安定剤、錠剤崩壊剤および封入材料として作用する物質を含むことができる。句「薬学的に許容される」は、本明細書では、良好な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適しており、妥当な利益/リスク比に相応した化合物、材料、組成物および/または剤形を指すために用いられる。
【0103】
薬学的に許容されるキャリアとして働くことができる材料の非限定的な例には、以下が挙げられる。(1)糖、例えばラクトース、グルコースおよびスクロース、(2)デンプン、例えばトウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン、(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース、(4)粉末化トラガント、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤、例えばカカオバターおよび坐剤ワックス、(9)油、例えばピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油、(10)グリコール、例えばプロピレングリコール、(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール、(12)エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル、(13)寒天、(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム、(15)アルギン酸、(16)発熱物質を含まない水、(17)等張食塩水、(18)リンガー溶液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、ならびに(21)医薬製剤で用いられる他の適合性のある非毒性の物質。
【0104】
上記製剤は、好都合には単位剤形で提示することができ、薬学分野で周知の任意の方法によって調製することができる。単一剤形を生成するためにキャリア材料と組み合わせることができる活性成分の量は、中でも処置を受ける被験体、特定の投与モード、処置される特定の状態に応じて変わることになる。単一剤形を生成するためにキャリア材料と組み合わせることができる活性成分の量は、一般に治療効果をもたらす化合物の量である。一般にこの量は、100%のうち、活性成分が約1パーセント〜約99パーセント、好ましくは約5パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは約10パーセント〜約30パーセントの範囲である。
【0105】
これらの製剤または組成物の調製方法は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を、上記キャリアおよび必要に応じて1つまたは複数の補助成分と会合させるステップを含む。一般に、上記製剤は、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物を、液体キャリアまたは適時に分割される固体キャリアまたはその両方と、均一かつ十分に会合させ、次に必要な場合、その生成物を成形することによって調製される。
【0106】
経口投与用の固体剤形(例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤等)では、上記活性成分は、1つまたは複数の追加の成分、例えばクエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、および/または以下の成分のいずれかと混合される:充填剤または増量剤、例えばそれに限定されるものではないが、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールおよび/またはケイ酸;結合剤、例えばそれに限定されるものではないが、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアカシアゴム;保湿剤、例えばそれに限定されるものではないが、グリセロール;崩壊剤、例えばそれに限定されるものではないが、寒天、炭酸カルシウム、バレイショデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のシリケートおよび炭酸ナトリウム;溶解遅延剤、例えばそれに限定されるものではないが、パラフィン;吸収促進剤、例えばそれに限定されるものではないが、四級アンモニウム化合物;湿潤剤、例えばそれに限定されるものではないが、セチルアルコールおよびグリセロールモノステアレート;吸収剤、例えばそれに限定されるものではないが、カオリンおよびベントナイト粘土;滑沢剤、例えばそれに限定されるものではないが、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムおよびその混合物;ならびに着色剤。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合、上記薬学的組成物は、緩衝剤を含むこともできる。軟質および硬質充填ゼラチンカプセルにおける充填剤としては、ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用する、類似のタイプの固体組成物を用いることもできる。
【0107】
散剤では、上記キャリアは、微粉砕された固体であり、これは有効量の微粉砕した薬剤と混合される。散剤およびスプレー剤は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含有することができる。スプレー剤はさらに、クロロフルオロ炭化水素などの通例の噴霧剤、ならびにブタンおよびプロパンなどの揮発性非置換炭化水素を含有することができる。
【0108】
全身性経口投与用の錠剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、糖(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール)、セルロース(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、ガム(例えば、アラビアゴム、トラガント)などの当技術分野で公知の1つまたは複数の賦形剤を、1つまたは複数の崩壊剤(例えば、トウモロコシ、デンプンまたはアルギン酸、結合剤、例えばゼラチン、コラーゲンまたはアカシアゴムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルク)、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(disintegrant)(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム)、表面活性剤および/または分散剤と一緒に含むことができる。錠剤は、必要に応じて1つまたは複数の補助成分と共に圧縮または成型することによって生成され得る。
【0109】
液剤、懸濁剤、乳剤またはシロップ剤では、有効量の上記デプシペプチド化合物を、滅菌水または有機溶媒、例えば水性プロピレングリコールなどのキャリアに溶解または懸濁させる。上記化合物をデンプン水溶液もしくはカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液、または当技術分野で公知の適切な油に分散させることによって、他の組成物を生成することもできる。その液体剤形は、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えば、それに限定されるものではないが、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにその混合物などの、当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤を含有することができる。
【0110】
経口組成物は、不活性希釈剤以外に、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味剤、香味剤、着色剤、賦香剤、ならびに保存剤などのアジュバントを含むこともできる。
【0111】
懸濁剤は、活性な上記化合物に加えて、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天およびトラガント、ならびにその混合物などの懸濁化剤を含有することができる。
【0112】
直腸または膣投与のための薬学的組成物の製剤は、坐剤として提示することができ、その坐剤は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の1つまたは複数の化合物を、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコール、坐剤ワックスまたはサリチレートを含む1つまたは複数の適切な非刺激性の賦形剤またはキャリアと混合することによって調製することができ、その坐剤はまた、室温で固体であり、体温で液体になり、したがって上記直腸または膣腔内で融解し、上記薬剤を放出する。膣投与用に適した製剤には、当技術分野で適していることが公知のキャリアを含有する、ペッサリー製剤、タンポン製剤、クリーム製剤、ゲル製剤、ペースト製剤、発泡体製剤またはスプレー製剤も含まれる。
【0113】
式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物の局所または経皮投与用の剤形には、散剤、スプレー剤、軟膏、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、液剤、点滴剤、パッチおよび吸入剤が挙げられる。活性な上記デプシペプチド化合物は、無菌条件下で薬学的に許容されるキャリアと、かつ必要な場合には任意の保存剤、緩衝剤または噴霧剤と混合することができる。
【0114】
軟膏、ペースト剤、クリーム剤およびゲル剤は、活性な化合物に加えて、動物性および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクならびに酸化亜鉛、またはその混合物などの賦形剤を含有することができる。
【0115】
経皮パッチは、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物を身体に制御送達するという追加の利点を有する。かかる剤形は、適切な媒体に上記薬剤を溶解または分散させることによって生成され得る。皮膚への上記薬剤流動を増大するために、吸収促進剤を使用することもできる。かかる流動の速度は、速度制御膜を提供するか、または上記デプシペプチド化合物をポリマーマトリックスもしくはゲルに分散させることによって制御することができる。
【0116】
上記デプシペプチド化合物は、このような処置を必要としている被験体に有効量で投与される。句「有効量」は、本明細書で使用される場合、動物において何らかの所望の効果をもたらすのに有効な、式(I)、(II)、(III)もしくは(IV)の化合物または式(I)、(II)、(III)もしくは(IV)の化合物を含む組成物の量を意味する。薬剤が、治療効果を達成するのに使用される場合、「有効量」を含む実際の用量は、それに限定されるものではないが、処置される特定の状態、疾患の重症度、患者の大きさおよび健康状態、投与経路を含むいくつかの条件に応じて変わることが認識されている。熟練した医療従事者であれば、医療分野で周知の方法を使用して、適切な用量を容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、有効量は、障害の処置を必要としている被験体における障害を処置することに有効な量である。さらに、上記デプシペプチド化合物の有効量は、微調整することによって、かつ/または2種以上のデプシペプチド化合物を投与することによって、またはデプシペプチド化合物を第2の薬剤(例えば、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、NSAID、DMARDS、ステロイド等)と一緒に投与することによって低減または増大できることを、当業者は理解されよう。有効量は、例えば経験的に、相対的に少ない量で開始し、段階的に増分すると同時に有益な効果(例えば、症状の低減)を評価することによって、決定することができる。実際の有効量は、当技術分野で標準的な方法を使用して、用量/応答アッセイによって確立される(Johnsonら、Diabetes、42巻:1179頁(1993年))。当業者に公知の通り、上記有効量は、上記デプシペプチド化合物の生体利用能、生物活性および生分解性に応じて決まる。
【0117】
いくつかの実施形態では、有効量は、被験体の障害の症状を低減することができる量である。したがって、この量は、処置を受ける被験体ごとに変わることができる。例えば、上記デプシペプチド化合物の有効量は、体重1kg当たり約1μg〜約100mgを占めることができる。一実施形態では、上記化合物の有効量は、体重1kg当たり約1μg〜約50mgを占める。さらなる一実施形態では、上記化合物の有効量は、体重1kg当たり約10μg〜約10mgを占める。1つまたは複数のデプシペプチド化合物または薬剤は、キャリアと組み合わされる場合には、約1重量パーセント〜約99重量パーセントの量で存在することができ、その残りは薬学的に許容されるキャリアから構成される。いくつかの実施形態では、有効量は、1用量当たり約1mg〜約10g、例えば1用量当たり約10mg〜約1gである。上に列挙した範囲の値および範囲の中間値は、本発明の教示によって包含されるものとする。
【0118】
デプシペプチド化合物の投与は、1時間ごと、毎日、毎週、毎月、毎年行うことができ、または単回事象であってもよい。さらに投与は、1日から1年またはそれを超える期間行うことができる。いくつかの実施形態では、投与は、一定期間、例えば約1週間、2週間、3週間、1カ月間、3カ月間、6カ月間または1年間にわたって毎日投与することを指す。いくつかの実施形態では、投与は、一定期間、例えば約1カ月、3カ月、6カ月、1年またはそれを超える期間にわたって毎週投与することを指す。
【0119】
本発明はまた、少なくとも1つの式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物を含むキットを提供する。上記キットは、少なくとも1つの容器を含有することができ、これらの材料の使用を指導する指示を含むこともできる。別の実施形態では、キットは、問題の障害を処置するために使用される薬剤を、被験体が炎症性疾患を有しているかどうかを決定するために存在し得る上記の材料と共に、またはそれなしに含むことができる。
【0120】
本発明の医薬組成物の投与
本明細書に記載の式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物を含む本発明の製剤の投与方法は、当技術分野で周知のいくつかの方法のいずれかによって行うことができる。これらの方法には、局所投与または全身投与が含まれる。例示的な投与経路には、経口、非経口、経皮、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内(例えば、ネブライザー、吸入器、エアロゾルディスペンサ)、眼内(例えば、結膜炎の処置用)、耳内(例えば、耳の感染症の処置用)、結腸直腸、直腸、膣内、およびその任意の組合せが挙げられる。さらに、中枢神経系には、脳室内および髄腔内注入を含む任意の適切な経路によって、本発明の薬学的組成物を導入することが望ましい場合がある。脳室内注入は、例えばOmmayaリザーバーなどのリザーバーに取り付けた脳室内カテーテルによって容易になる場合がある。導入方法は、再充填可能なまたは生分解性デバイス、例えばデポーによって提供することもできる。さらに投与は、デバイス、移植片、ステントまたは人工器官をコーティングすることによって行うこともできることが意図される。式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物はまた、カテーテルが体内に挿入される任意の状況で、カテーテルをコーティングするのに使用することができる。
【0121】
別の実施形態では、対象の上記デプシペプチド化合物は、他の薬剤との併用療法の一部として投与することができる。併用療法とは、既に投与した治療化合物が体内でまだ有効である間に第2の化合物が投与されるように、2種以上の異なる治療用化合物を組み合わせる任意の投与形態を指す(例えば、2種の化合物が、患者において同時に有効であると、そこには、上記2種の化合物の相乗効果が含む場合がある)。例えば、異なる治療用化合物を、同じ製剤または別個の製剤のいずれかにより、同時または逐次的に投与することができる。したがって、このような処置を受ける個体は、異なる治療用化合物の複合効果を有することができる。
【0122】
例えば、デプシペプチド化合物は、他の公知の抗生物質と併用することができる。式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物は、逐次的に、または実質的に同時に投与することができる。薬物に対する耐性を生じる上記病原体の能力を低減するのに、抗生物質を変更することは有益であり得る。抗生物質の非限定的な例には、ペニシリン(例えば、天然ペニシリン、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、抗シュードモナスペニシリン、アミノペニシリン)、テトラサイクリン、マイクロライド(例えば、エリスロマイシン)、リンコサミド(例えば、クリンダマイシン)、ストレプトグラミン(例えば、Synercid)、アミノグリコシド、およびスルホンアミドが挙げられる。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物は、それに限定されるものではないが、フェノール可溶性モジュリンなどの毒性因子を標的にする化合物と併用して使用される。いくつかの実施形態では、式(I)、(II)、(III)または(IV)のデプシペプチド化合物は、上記病原体の排出ポンプを標的にする化合物と併用して使用される。
【0123】
本発明の化合物の医薬組成物を含むキットおよび製造品
また本発明の範囲には、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、または薬学的に許容されるその塩、およびそれを使用するための指示を含むキットが含まれる。用語「キット」は、本明細書で使用される場合、病原体によって引き起こされる障害を処置するための、本発明の式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物と共に投与する構成成分を含む、パッケージ産物を指す。キットは、好ましくは、キットの構成成分を保持する箱または容器を含む。箱または容器には、ラベルまたは食品医薬品局が承認したプロトコルが添えられる。箱または容器は、好ましくは、プラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、またはプロピレンの入れ物に含有されている本発明の構成成分を保持する。入れ物は、キャップ付き管もしくはボトル、または本発明の化合物を含有する溶液を、例えば被験体の耳もしくは目に滴下投与するのに適した点滴器を含有するボトルであり得る。キットはまた、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を投与するための指示を含み得る。特定の一実施形態では、キットは、(a)式(I)、(II)または(III)の化合物または薬学的に許容されるその塩を含む、容器に入れられた医薬組成物、および(b)医薬組成物を使用する方法を記載している指示を含むことができる。
【0124】
キットは、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗原生動物剤、駆虫剤、抗新生物剤、免疫調節剤、抗高コレステロール血症剤およびそれらの組合せなどのもう1つの追加の試薬をさらに含有することができる。キットは、典型的に、キットの内容物の所期の使用を示すラベルを含む。ラベルという用語は、キット上もしくはキットと共に供給され、または他の方法でキットに添える任意の記載資料または記録資料を含む。
【0125】
本発明はまた、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物の液体製剤で充填された、1つまたは複数の容器を含む医薬用パックまたはキットを提供する。一実施形態では、本発明の液体製剤で充填された容器は、プレフィルドシリンジである。特定の一実施形態では、本発明の製剤は、無菌溶液として、単回投与用のバイアルに製剤化される。例えば、製剤は、目標体積1.2mLを有する3ccのUSPタイプIのホウケイ酸コハク色バイアル(West Pharmaceutical Services−Part番号6800−0675)で供給され得る。このような容器(複数可)には、必要に応じて、医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する行政機関によって規定された形態の通知であって、ヒトへの投与のための製造、使用または販売に関する該機関による承認を反映する通知が付随し得る。
【0126】
当業者に公知の任意のプレフィルドシリンジは、本発明の液体製剤と組み合わせて使用することができる。使用できるプレフィルドシリンジは、例えば限定されるものではないが、PCT公開第WO05032627号、同第WO08094984号、同第WO9945985号、同第WO03077976号、米国特許US6792743、同US5607400、同US5893842、同US7081107、同US7041087、同US5989227、同US6807797、同US6142976、同US5899889、米国特許出願公開US20070161961A1、同US20050075611A1、同US20070092487A1、同US20040267194A1、同US20060129108A1に記載されている。プレフィルドシリンジは、様々な材料から製造され得る。一実施形態では、プレフィルドシリンジは、ガラスシリンジである。別の実施形態では、プレフィルドシリンジは、プラスチックシリンジである。当業者には、上記シリンジの製造に使用される材料の性質および/または質は、該シリンジ内に保存される化合物製剤の安定性に影響を及ぼし得ることが理解される。例えば、シリンジチャンバの内表面に沈着したケイ素系滑沢剤は、化合物製剤における粒子の形成に影響を及ぼし得ると理解される。一実施形態では、プレフィルドシリンジは、シリコーン系滑沢剤を含む。一実施形態では、プレフィルドシリンジは、シリコーン系の内容物を含む(comprises baked on silicone)。別の実施形態では、プレフィルドシリンジは、シリコーン系滑沢剤を含まない。また当業者には、シリンジバレル、シリンジ先端キャップ、プランジャーまたはストッパーから製剤に浸出する少量の汚染要素が、製剤の安定性に影響を及ぼし得ることが理解される。例えば、製造プロセス中に導入されたタングステンは、製剤の安定性に有害な影響を及ぼし得ると理解される。一実施形態では、プレフィルドシリンジは、500ppbを超えるレベルのタングステンを含むことができる。別の実施形態では、プレフィルドシリンジは、低タングステンシリンジである。別の実施形態では、プレフィルドシリンジは、約500ppb〜約10ppb、約400ppb〜約10ppb、約300ppb〜約10ppb、約200ppb〜約10ppb、約100ppb〜約10ppb、約50ppb〜約10ppb、約25ppb〜約10ppbのレベルのタングステンを含むことができる。
【0127】
本発明はまた、パッケージされ、ラベルを付された完成した医薬製品を包含する。この製造品は、ガラスバイアル、プレフィルドシリンジ、または気密シールされる他の容器などの適切な入れ物または容器内に、適切な単位剤形を含む。一実施形態では、単位剤形は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を含む、非経口投与に適した、微粒子を含まない無菌溶液として提供される。別の実施形態では、単位剤形は、式(I)、(II)、(III)または(IV)の化合物、または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を含む、再構成するのに適した無菌の凍結乾燥粉末として提供される。
【0128】
一実施形態では、単位剤形は、静脈内、筋肉内、鼻腔内、経口、局所または皮下送達に適している。したがって、本発明は、各送達経路に適した無菌溶液を包含する。本発明はさらに、再構成するのに適した無菌の凍結乾燥粉末を包含する。
【0129】
いかなる医薬製品においても同様に、パッケージ用材料および容器は、保存および出荷中に製品の安定性を保護するように設計される。さらに、本発明の製品は、医師、技師または患者に、当該の疾患または障害を適切に防止または処置する方法、ならびに医薬品を投与する方法および頻度を通知する、使用のための指示または他の情報材料を含む。換言すれば、製造品は、限定されるものではないが、実際の用量、モニタリング手順、および他のモニタリング情報を含む投与レジメンを示すまたは示唆する指示手段を含む。
【0130】
具体的には、本発明は、パッケージ用材料、例えば箱、ボトル、管、バイアル、容器、プレフィルドシリンジ、噴霧器、吸入器、静脈内(i.v.)バッグ、エンベロープ等、ならびにそのパッケージ用材料内に含められる本発明の化合物の少なくとも1つの単位剤形を含む製造品を提供し、ここで化合物は、抗生物質を含有する液体製剤を含む。パッケージ用材料は、化合物を使用して、疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状を防止、処置および/または管理し得る方法を示す指示手段を含む。
【0131】
本発明は、いかなる方式でも限定的なものと解釈されるべきではない以下の実施例によって、さらに例示される。本願を通して、様々な特許文書、特許出願文書、および刊行物を参照する。これらの特許文書、特許出願文書、および刊行物の開示全体は、本明細書において参照によって本願に組み込まれる。特許文書、特許出願文書および刊行物と、本開示との間に任意の矛盾が存在する場合には、本開示が優先する。
【実施例】
【0132】
(実施例1)式(II)の化合物の調製
細菌分離株(ISO18629)を、0.125g/Lのカゼイン消化物、0.1g/Lのバレイショデンプン、1g/Lのカザミノ酸を含み、10%R4(100%R4は、10g/リットルのグルコース、1g/リットルの酵母抽出物、0.1g/リットルのカザミノ酸、3g/リットルのL−プロリン、10g/リットルのMgCl.6H、4g/リットルのCaCl 2HO、0.2g/リットルのKSO、5.6g/リットルのTES 0.56%、1mLの微量元素のすべてを水道水で合計1リットルにし、1.0MのNaOHでpH7.0に調整したものである)を補充した、2%バクトアガー上で増殖させ、1つのコロニーをホモジナイズし、それを使用して250mLフラスコ中BP接種ブロス(15g/リットルのグルコース、10g/リットルの麦芽抽出物、10g/リットルの可溶性デンプン、5g/リットルの酵母抽出物、10g/リットルのカザミノ酸、0.05g/リットルの炭酸カルシウムを、水道水で合計1リットルにした)40mlに接種した。28℃(250rpm)で4日間発酵させた後、種培養物12.5mLを使用して、2.5%接種材料(v/v)でR4生成ブロス0.5Lに接種した。28℃で(180rpm)7日間発酵させた後、回収した。
【0133】
発酵ブロスを、10,000rpmで20分間、遠心分離した。上清を、逆相ポリマー樹脂(HP−20、三菱)上に吸着させた。カラムを水および80%水性アセトンで洗浄した後、化合物をアセトンで溶出した。このアセトン抽出物を減圧下で乾燥させると、濃いオレンジ色の油が残った。次に、この油にヘキサンを添加し、次に混合物を超音波処理し、遠心分離した。次に、上清をデカントし、残りの残渣を減圧下で乾燥させた。この残渣をDMSOに溶解させ、RP−HPLCによって分取C−18カラム(HO/AcN(0.1%TFA含有)、35分かけて10〜100%(10−100% can over 35 minutes))で精製した。式(I)または(II)の化合物を含有する画分を、凍結乾燥させると、白色粉末が残った。
【0134】
式(II)の化合物の2次元構造を、H、13C、COSY、DEPT−135、HSQCおよびHMBC NMR実験方法によって決定した。それらは、それぞれ図1〜6に認めることができる。構造の13C帰属は、以下の通りである。
【表1】
【0135】
さらに、この構造をMS/MSによって確認した。
【0136】
【表2】
【0137】
表2にあるすべてのフラグメントは、NMRデータに基づいて提唱された2次元構造と一致している。
【0138】
化合物の3次元構造を決定するために、標準的なMarfey分析を用いた。Marfey標準の調製は、スキーム5に示した条件を使用して、Bhusan, R.; Brueckner, H. Amino Acids 2004年、27巻、247頁(その教示が参照によって本明細書に組み込まれる)から導出される通り、式IIの化合物の構造に存在すると考えられるすべてのアミノ酸とL−FDLAとのアレイ方式による反応によって達成された。
【化21】
【0139】
使用したアミノ酸は、L−イソロイシン、D−イソロイシン、L−アロ−イソロイシン、D−アロ−イソロイシン、L−セリン、D−セリン、L−グルタミン酸、D−グルタミン酸、N−メチル−L−フェニルアラニン、N−メチル−D−フェニルアラニン、L−アラニン、D−アラニン、L−スレオニン、D−スレオニン、L−アロ−スレオニン、D−アロ−スレオニン、およびエンデュラシジジン(enduracididine)のすべての4つのジアステレオマーであった。さらに、下記の通り合成されたL−およびL−アロ−エンデュラシジジンと、D−およびD−アロ−エンデュラシジジンの2つの別個の混合物のMarfey標準を調製した。式(II)の化合物の加水分解の後、ペプチドフラグメントを単離することにより、さらなるMarfey分析を可能にして、イソロイシンおよびセリンの立体化学および位置を決定した。
【0140】
主ジアステレオマーとしての(2S,4R)と副ジアステレオマーとしての(2S,4S)の6:1混合物
【化22】
【0141】
無水メタノール(30mL)中(2S,4R)−2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−4−ヒドロキシ−5−ニトロ−ペンタン酸tert−ブチルエステル(2.3g、6.9mmol)に、室温および窒素雰囲気下で、ギ酸アンモニウム(4.4g、69mmol)および10%パラジウム炭素(735mg、0.7mmol)を添加した。反応物を40℃まで1時間加熱し、冷却し、セライトで濾過した。濾液を真空中で濃縮して、油性残渣を得、それを酢酸エチルに溶解した。有機層を重炭酸ナトリウムの飽和水溶液で洗浄し、それを酢酸エチルで逆抽出した。合わせた酢酸エチル層を合わせ、疎水性フリットによって乾燥させ、真空中で濃縮した。得られた油を、すぐに無水アセトニトリルに溶解し、室温および窒素雰囲気下で、1−H−(ピラゾール)−1−N−tertブトキシカルボニルカルボキサミジン(2.1g、10.4mmol)を添加した。反応物を20時間撹拌した後、真空中で濃縮した。残渣を、シリカゲルクロマトグラフィーによって、イソヘキサン/酢酸エチル(5/1)を溶出液として使用して精製して、標題化合物を粘性油として得た(2.1g、56%、Boc−Asp−OtBuから3ステップ)。LCMS (m/z) = 547.3 [M+H], Tr = 3.45 min. 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.39 − 1.55 (m, 36H), 1.81 − 2.01 (m, 2H), 3.37 − 3.49 (m, 1H), 3.56 − 3.66 (m, 1H), 3.88 − 4.01 (m, 1H), 4.19 − 4.30 (m, 1H), 5.19 − 5.30 (m, 1H), 5.38 − 5.52 (m, 1H), 8.67 − 8.78 (m, 1H), 11.45 (s, 1H)。
【0142】
(S)−5−((S)−2−tert−ブトキシカルボニル−2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−エチル)−2−[(E)−tert−ブトキシカルボニルイミノ]−イミダゾリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(主ジアステレオマーと副ジアステレオマーとしての(2S,4R)との6:1混合物)
【化23】
【0143】
(2S,4R)−2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−4−ヒドロキシ−5−ニトロ−ペンタン酸tert−ブチルエステル(900mg、1.7mmol)の無水ジクロロメタン(63mL)溶液を−78℃に冷却し、窒素雰囲気下でN−N’−ジイソプロピルエチルアミン(1.5mL、8.2mmol)を添加した。この後、温度を−76℃未満に維持しながら、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.3mL、1.8mmol)を滴下添加した。添加した後、反応物を−78℃で4時間撹拌し、次に0℃に温め、重炭酸ナトリウムの飽和水溶液でクエンチした。有機層を分離し、1MのHClで洗浄し(1回)、疎水性フリットによって乾燥させ、真空中で濃縮した。残渣を、シリカゲルクロマトグラフィーによって、イソヘキサン/酢酸エチル(1/2、次に0/1)を溶出液として使用して精製して、標題化合物を粘性油として得た(740mg、85%)。LCMS (m/z) = 529.5 [M+H], Tr = 2.38 min. 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.38 − 1.66 (m, 36H), 1.87 − 2.02 (m, 1H), 2.14 − 2.34 (m, 1H), 3.60 − 3.84 (m, 1H), 3.91 − 4.09 (m, 1H), 4.21 − 4.35 (m, 1H), 4.38 − 4.60 (m, 1H), 5.09 − 5.29 (m, 1H)。
【0144】
(2S,4S)−エンデュラシジジントリフルオロ酢酸塩(主ジアステレオマーと副ジアステレオマーとしての(2S,4R)との6:1混合物)
【化24】
【0145】
(S)−5−((S)−2−tert−ブトキシカルボニル−2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−エチル)−2−[(E)−tert−ブトキシカルボニルイミノ]−イミダゾリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(740mg、1.4mmol)のトリフルオロ酢酸(20mL)および水(7mL)溶液を、室温で20時間撹拌した。反応物を真空中で濃縮し、得られた残渣をトルエンから共蒸発させた(3回)。粘性油を真空状態で24時間乾燥させ、得られた固体を、ジエチルエーテル中で研和した。固体を濾過し、乾燥させて、標題化合物をオフホワイト色の固体として得た(600mg、83%)。LCMS (m/z) = 173.3 [M+H], Tr = 0.22 min. 1H NMR (300 MHz, D2O) δ 1.99 − 2.13 (m, 1H), 2.20 − 2.33 (m, 1H), 3.34 − 3.43 (m, 1H), 3.83 (t, J = 9.8 Hz, 1H), 3.96 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 4.17 − 4.31 (m, 1H)。
【0146】
(2R,4R)−エンデュラシジジントリフルオロ酢酸塩(主ジアステレオマーと副ジアステレオマーとしての(2R,4S)との6:1混合物)
【化25】
【0147】
(2S,4S)−エンデュラシジジントリフルオロ酢酸塩と同様にして、主ジアステレオマーとしての(2R,4R)−エンデュラシジジントリフルオロ酢酸塩と副(2R,4S)ジアステレオマーとの6:1ミックスを調製した。
【0148】
(実施例2)抗菌スペクトル
実施例1に従って調製した式(II)の化合物を、細菌種のパネルに供した。上記化合物の抗菌スペクトルを、表3に示す。10%血清を添加しても、最小阻害濃度(MIC)に対して効果がなかった。表3に提示のデータによって示される通り、上記化合物は、耐性株を含むグラム陽性病原体に対して優れた活性を有する。また上記化合物は、ほとんどのグラム陰性細菌に対して効力が小さいが、H.influenzaeに対しては良好な活性を有しており、これにより、気道感染症を処置できる可能性が開ける。
【0149】
【表3】
【0150】
さらに現在まで、式(II)の化合物に耐性を有するS.aureusの変異体は同定されていない。データは、耐性頻度が<10−10であることを示している(4×MICで試験した)。17日間の連続継代の後、検出可能な耐性は観測されなかった。
【0151】
次に、式(II)の化合物を、リネゾリド、バンコマイシン、およびダプトマイシン耐性/低感受性株を含む255の当代の臨床分離株に対して試験した(ミズーリ州カラマズーのMicromyxで)。これらの実験の結果を、以下の表4〜6にまとめる。
【0152】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0153】
【表5】
【0154】
【表6】
【0155】
式(II)の化合物を、Southern Research InstituteのBL−3施設内で10種類のB.anthracis分離株に対して試験した。スクリーニングは、微量希釈(96ウェル)ブロスに基づく最小阻害濃度(MIC)アッセイを使用して達成し、このスクリーニングには、Bacillus anthracisの以下の分離株:NR−36、NR−38、NR−41、NR−46、NR−411、NR−412、NR−413、NR−414、NR−415、およびNR−3838が含まれていた。最初に、0.05%Tween−80を含有する第1のMueller−Hintonブロスを、各ウェルに添加した。その後、0.05%Tween−80を含有するMueller−Hintonブロスで希釈した試験化合物を、所期の出発濃度の2倍で適切なウェルに添加し(0.1mL/ウェル)、プレートにわたって2倍連続希釈して合計12種類の濃度(128〜0.06μg/mL)にした。次に、プレートに、0.05%Tween−80を含有するMueller−Hintonブロスで希釈した目標の濃度1.0×10CFU/mLの病原体を接種し(0.1ml/ウェル)、終夜インキュベートした(16〜20時間)。インキュベーションの後、プレートを視覚的に読み取り、個々のウェルを、部分的に清澄である(partial clearing)か、または完全に清澄であるか、濁度について採点した。試験を二連で実施し、各試験プレートには、以下の対照、i)培地だけ(無菌対照)、ii)培地中の生物(負の対照)、およびiii)ドキシサイクリン(正の対照)が含まれていた。MICを、生物の増殖を視覚的に阻害した薬物の最低濃度(μg/mL)として記録する(表3)。上記化合物は、活性が高く、ブロスMIC90=0.125μg/mL〜≦0.06μg/mLであり、比較対象の薬物ドキシサイクリンよりも良好な結果を出した(表7参照)。
【0156】
【表7】
【0157】
(実施例3)細胞傷害活性、溶血活性、DNA結合、hERG阻害、チトクロムP450阻害活性、遺伝毒性、血漿安定性、タンパク質結合
細胞傷害活性
NIH3T3マウス胚線維芽細胞(ATCC CRL−1658、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地中)およびHep−G2(ATCC HB−8065TM、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地中)の培養物を、空気中5%CO2、37℃の加湿状態で3日間増殖させた。培養物をトリプシン処理し、計数し、無菌96ウェル平底プレートのウェルに播種した(NIH3T3については1500個の細胞/ウェル/100μL、およびHep−G2については4000個の細胞/ウェル/100μL)。24時間後、各ウェルの培地を新鮮な培地100μL(実施例1に従って調製した0.8μg/mL〜100μg/mLの式(II)の化合物の2倍連続希釈物を含有しており、化合物対照は含有してない)で置き換え、空気中5%CO2、37℃の加湿状態で2時間インキュベートした。空気中5%CO2、37℃の加湿状態でさらに48時間インキュベートした後、レポーター(Promega CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assay)20μLを細胞に添加した。2時間インキュベートした後、プレートを、Spectramax Plus Spectrophotometerを使用して490nmで読み取った。生存細胞は、レポーターを還元できるが、死滅細胞は還元できない。結果は、式(II)の化合物を100μg/mLまでの濃度で試験して2日間インキュベートした後、NIH3T3およびHep−G2の生存能が喪失しなかったことを示した。
【0158】
溶血活性
新鮮なヒト赤血球を、遠心分離した後に上部相が透明になる(目視で赤色が検出不可能になる)まで、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。ペレットを、PBS中、最終OD600が24になるまで再懸濁し、無菌96ウェルU底プレートのウェルに添加した(1ウェル当たり99μL)。式(II)の化合物を、0.05%Tweenを補充した水で2倍連続希釈し、それぞれの濃度から1μLをウェルに添加して、0.003〜200μg/mLの範囲の試験最終濃度の式(II)の化合物を得た。37℃で1時間経過した後、細胞を、1000×gにおいて4℃で5分間遠心分離する。上清10μLを取り出し、90μL/ウェルのPBSに添加する(96ウェルプレート内)。ウェル内の内容物を混合し、プレートを、Spectramax Plus Spectrophotometerを使用して450nmで読み取る。結果は、式(II)の化合物を200μg/mLまでの濃度で試験して1時間インキュベートした後、検出可能な溶血がなかったことを示した。
【0159】
DNA結合
式(II)の化合物を、0.05%Tweenを補充した水で2倍連続希釈した(2.5mg/mLから4.9μg/mLの濃度)。体積3μlの連続濃度の式(II)の化合物を、(a)せん断したサケ精子DNA6μl(10mg/mL、20ゲージ針のシリンジに20回通過させることによってせん断した)または(b)水6μLに添加した。対照化合物も同様に処理した。アクチノマイシンDは、DNAに結合することが公知なので陽性対照化合物として使用し、バンコマイシンは、DNAに結合しないことが公知なので、陰性化合物として使用した。十分に混合した後、体積7.5μLを増殖Staphylococcus aureus NCTC8325細胞の菌叢上にスポットした。スポットの周りの増殖阻害帯を、37℃で16時間増殖させた後に測定する。阻害帯サイズの減少は、DNAとの結合により抗菌活性が喪失したことを示す。例えば、アクチノマイシンD1μgの活性は、DNA50μgの存在によって排除されたが、バンコマイシンの活性に対するDNAの効果はなかった。結果は、DNAの存在(6.6μg/μL)により、式(II)の化合物の増殖阻害の喪失がなかったことを示したが、このことは、式(II)の化合物がDNAに結合しないことを示している。
【0160】
hERG阻害
また式(II)の化合物は、インビトロパッチクランプアッセイにおいて、hERGに対してごくわずかな阻害を呈した[IC50>100μg/mL(約1,000×MIC)]。
【0161】
簡潔には、本実験を、専用の384ウェルプレート(PatchPlate(商標))で、同時に48個の単細胞の電気生理測定を自動的に実施するIonWorks(商標)HT機器(Molecular Devices Corporation)で実施した。使用した細胞は、hERGを安定にトランスフェクトしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であった。単細胞懸濁液を、細胞外溶液(カルシウムおよびマグネシウムを含むダルベッコリン酸緩衝食塩水、pH7〜7.2)で調製し、一定分量をPatchPlate(商標)の各ウェルに自動的に添加する。次に、プレートの下に真空を適用して電気的シールを形成することによって、細胞を、各ウェルの底部の小孔の上に置いた。細胞内溶液(HEPESでpH7.2に緩衝化した)を充填したすべてのウェルに共通の単一区画を介して真空を適用した。各シールの耐性を、細胞内区画内の共通の接地電極を介して測定し、個々の電極を、上部ウェルのそれぞれに入れた。細胞への電気的アクセスは、PatchPlate(商標)の下に穿孔剤のアンホテリシンを循環させ、次に化合物適用前のhERG電流を測定することによって実現した。電極を細胞外区画内に置き、保持電位−80mVを15秒間印加した。次に、脱分極ステップを+40mVまで5秒間適用することによって、hERGチャネルを活性化し、次に、−50mVで4秒間クランプしてhERGテール電流を誘発した後、0.3秒間で−80mVに戻した。
【0162】
次に、試験化合物を、PatchPlate(商標)の上部ウェルに様々な濃度(0.008、0.04、0.2、1、5および25μM)で添加した。試験化合物を、300秒間細胞と接触させたままにした後、化合物適用前の走査と同様に、同じ電圧ステッププロトコルを使用して電流を記録した。確立されたhERG阻害剤であるキニジンが、陽性対照として含まれていた。
【0163】
化合物適用後の電流を、化合物適用前の電流の百分率として表し、化合物ごとに濃度に対してプロットした。濃度依存性阻害が観測された場合、データを以下の等式にフィットさせ、IC50値を算出する。
y=ymax−ymin+ymin
1+(x/x50)s
式中、y=(化合物適用後の電流/化合物適用前の電流)×100、x=濃度、x50=電流を50%阻害するのに必要な濃度(IC50)、s=グラフの勾配。
【0164】
【表8】
【0165】
チトクロムP450阻害活性
次に、式(II)の化合物を、チトクロムP450阻害活性について試験した。簡潔には、肝ミクロソームを、37℃において10μMおよび30μMの化合物と共にトリプリケートでインキュベートした。ビヒクルまたは参照阻害剤を含有する対照インキュベーションを、試験薬剤と並行して実施した。最終アッセイは、50mMリン酸カリウム緩衝液、pH7.4中に、試験薬剤、示された濃度のプローブ基質、2mMのNADPH、3mMのMgClを含有していた。ミクロソームの最終濃度は、0.5mg/mLであった。最終アッセイにおける最大溶媒濃度を≦0.5%にして、溶媒によるチトクロムの阻害を最小限に抑えた。最後にNADPHを添加して、アッセイを開始した。10分間のインキュベーションの最後に、内部標準を含有するアセトニトリルを添加することによってアッセイを停止し、試料を遠心分離し、上清中のプローブ代謝産物の量を、LC/MS/MSによって決定した。以下のプローブ基質、プローブ代謝産物および対照阻害剤を使用して、アッセイを実施し、検証した(表9)。
【0166】
【表9】
【0167】
式(II)の化合物の試験結果を、表10に示す。
【表10】
【0168】
対照化合物は、予想通りの結果を出した(表11)。
【表11】
【0169】
要約すると、10μM(約40×MIC)の式(II)の化合物は、試験した6種類のCYPイソ酵素のうち5種類に対して16%未満の阻害を示し、CYP2D6に対して32.9%の阻害を示した。
【0170】
遺伝毒性
次に、式(II)の化合物を、標準のインビトロ微小核試験で遺伝毒性の潜在性について試験した。簡潔には、インビトロ微小核試験では、細胞傷害性を評価し、遺伝毒性の発癌物質の試験に十分に許容されているモデルである微小核を定量化するための蛍光細胞画像化を用いる。上記アッセイは、CHO−K1細胞をアロクロールで処置したラット肝臓S9画分の存在または非存在下で用いて実施し、化合物を10点濃度範囲(0.004、0.01、0.04、0.1、0.4、1.0、4.0、10、40、100μM)にわたってデュプリケートで試験した。インビトロ微小核試験において、式(II)の化合物では100μMまで(約400×MIC)遺伝毒性は観測されなかった(+/−S9)。
【0171】
以下のエンドポイント:サルモネラ変異原性、E.coli変異原性、マウスリンパ腫、インビトロ染色体異常、およびインビボ微小核から構成された一連の予測モデルに対してコンピューターで評価すると、式(II)の化合物では、遺伝毒性の潜在性が観測されなかった。この計算評価は、Leadscope(登録商標)Model ApplierおよびLeadscope(登録商標)Toxicity Databases(オハイオ州コロンバスのLeadscope Inc.)を使用して実施した定量的構造活性相関予測に基づいて行った。簡潔には、遺伝的毒性QSARモデルは、米国食品医薬局(FDA)医薬品評価研究センター(CDER)においてInformatics and Computational Safety Analysis Staff(ICSAS)によって構築された。このモデルは、Leadscope Prediction Data Miner(PDM)ソフトウェアを使用し、すべてのデフォルト設定を使用して構築された。QSARモデルのほとんどは、公開情報から構築されたものであり、モデル説明の一部としてトレーニングセット構造および結論を含んでいる。QSARモデルは、構造的特徴および8つの算出された特性を含む分子記述子でトレーニングされる。構造的特徴には、Leadscopeデフォルト階層特徴(Leadscope特徴)と、デフォルト設定で作成された予測スキャフォールドが含まれる[4、5]。8つの算出された特性は、親分子量、aLogP、極性表面積、水素結合アクセプター、水素結合ドナー、回転結合の数、およびLipinskiスコア(規則違反計数(rule violation count))である。
【0172】
血漿安定性
次に、式(II)の化合物を、血漿安定性について試験した。最初に、トリプル四重極質量分析計につないだHPLCを使用して、血漿中の式(II)の化合物を検出するために、感度の良い生体分析方法を開発した。血漿試料を、様々な濃度の式(II)の化合物でスパイクし、アセトニトリルで抽出し、LC/MS/MSによって分析した。血漿中の定量下限は、8.5ng/mLであった。次に式(II)の化合物を、5μMにおいて、37℃で異なる血漿試料(マウス、ラット、ヒトおよびイヌ)と共に二連でインキュベートした。いくつかの時点(0、20、40、80、120分)で、一定分量を各実験反応から取り出し、3容の氷冷した停止溶液(プロプラノロール、ジクロフェナクまたは他の内部標準を含有するメタノール)と混合した。停止した反応物を、氷上で少なくとも10分間インキュベートした。次に、試料を遠心分離して、沈殿したタンパク質を除去し、上清をLC/MS/MSによって分析して、残っている元の化合物(parent)を定量した。要約すると、式(II)の化合物は、試験したすべての種の血漿において、長い(≧150分)血漿内半減期を呈した。
【0173】
タンパク質結合
次に、式(II)の化合物を、平衡透析によってタンパク質結合について試験した。簡潔には、最初に、上記化合物を5μMでラット血漿と共にインキュベートした。次に、この混合物を、RED Device(Pierce)(8,000MWカットオフの透析膜)により、製造者の指示に従って5%ブドウ糖(D5W)に対して透析し、振とう機上でインキュベートした。インキュベーションの最後に、血漿側およびD5W側の両方から一定分量を収集し、等量のD5Wを血漿試料に添加し、等体積の血漿をD5W試料に添加した。内部標準を含有するメタノール(3容)を添加してタンパク質を沈殿させ、薬剤を放出させた。遠心分離した後、上清を新しいプレートに移し、LC/MS/MSによって上記化合物を分析した。要約すると、上記化合物は、82〜85%の血漿タンパク質結合を呈した。
【0174】
(実施例4)ミクロソームの安定性
次に、式(II)の化合物の代謝安定性を、ラット肝ミクロソーム(カリフォルニア州Invitrogen/Life Technologies)において、該化合物の消失を2時間かけてモニターすることによって測定した。上記化合物を、ミクロソームと共にインキュベートし、試料を、0、0.5時間、1時間および2時間目に採取した。試料を、S.aureusの増殖阻害によって、LC/MSにより試験した。2時間後、上記化合物はごくわずかに減少したが、陽性対照として使用したベラパミルは、予測されたその代謝産物に分解した。2時間にわたって、上記化合物では、抗菌活性の有意な低下や大規模な代謝産物の生成は観測されなかった。
【0175】
(実施例5)作用の特異性
実施例1に従って調製した式(II)の化合物の作用の機序および特異性を洞察するために、S.aureusを用いて高分子の合成研究を実施した。トリチウム標識したチミジン、ウリジン、ロイシン、またはN−アセチル−グルコサミンの、DNA、RNA、タンパク質、またはペプチドグリカンへの組込みをそれぞれ測定し、生合成率に対する上記化合物の効果を調査した。結果は、式(II)の化合物が、バンコマイシンに匹敵する強さでペプチドグリカンの合成を阻害したことを示した(図7参照)。
【0176】
(実施例6)マウス敗血症の研究
式(II)の化合物を、マウス敗血症保護アッセイで臨床分離株S.aureus MRSA ATCC 33591に対して試験して(教示の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、Frimodt-Moller, N.、Knudsen, J.D.およびEspersen, F.(1999年)The mouse peritonitis/sepsis model. In: Zak, O.、Sande, M.A.編 Handbook of animal model infection San Diego: Academic Press、127〜136頁参照)、そのインビボ生体利用能および、48時間後の感染マウスの50%生存率(PD50)をもたらす保護用量を評価した。CD−1雌性マウスを、感染後48時間以内に少なくとも90%の死亡率を実現する濃度である細菌懸濁液(3.28×10CFU/マウス)0.5mLで、腹腔内注射によって感染させた。感染の1時間後に、マウスを静脈内単回投与により上記化合物で処置した。結果を表12に示す。式(II)の化合物は、0.19mg/kgの優れたPD50を示し、これはバンコマイシンのPD50と比較しても非常に有益である。
【0177】
【表12】
【0178】
要約すると、上記化合物は、マウス敗血症保護モデルにおいて、バンコマイシン(約2.75mg/kg)と比較して、0.19mg/kgの優れた50%保護用量を示した。上記化合物は、0.5mg/kgの用量で完全な保護をもたらした。
【0179】
(実施例7)インビボ効率:マウス大腿感染モデル
次に、実施例1で調製した式(II)の化合物を、好中球減少マウスの大腿感染モデルにおいてMRSAに対して試験した。このモデルは、病原体に対する薬物の効果を測定するための優れた系であり、宿主免疫系のほとんどが排除されている。このモデルは、PK/PDパラメータを決定して投与量を推定するために広く使用されている。このモデルは、上記化合物の抗菌スペクトルに基づく潜在的な臨床適応である急性の細菌性皮膚および皮膚組織感染症(ABSSSI)の良好なモデルでもある。
【0180】
雌性CD−1マウスを、シクロホスファミドを用いて、感染の4日前および1日前に2回連続で用量150mg/kgおよび100mg/kgを送達して、事前に処置して好中球減少にした。細菌を、滅菌食塩水に再懸濁させ、625nmにおいてOD0.1に調整した(感染接種材料:2.8×10CFU/マウス)。マウスに、接種材料を体積0.1mLで右大腿に注射した。感染の2時間後に、マウスに、1、2.5、5、10、または20mg/kgの式(II)の化合物を静脈内注射により単回投与して処置した。4匹のマウスを、用量濃度ごとに処置した。感染マウスの1つの群を安楽死させ、大腿を、処置時間対照(T=Rx)として働くCFUのために処理した。感染の26時間後に、マウスをCO吸入によって安楽死させた。右大腿を無菌で除去し、秤量し、ホモジナイズし、連続希釈し、トリプチケースソイ寒天上に蒔いた。プレートを、5%COにおいて37℃で終夜インキュベートし、大腿1グラム当たりのCFUを決定した(表13参照)。
【0181】
【表13】
【0182】
式(II)の化合物は、単回IV注射により2.5mg/kg以上で投与すると、病原体負荷を著しく低減した。
【0183】
また式(II)の化合物を、大腿感染効率モデル(好中球減少マウス)において、感染因子としてMRSAを用いて試験した。20、10、5、または2.5mg/kg(水中単回iv用量)で投与すると、出発の感染負荷からlogCFUがより大きく低減したことが観測された。感染は、1mg/kgでは静的であった。
【0184】
上記のデータにより、作用の安全性および魅力的な態様と共に、耐性発現が少ないことが実証され、この特徴によって、式(II)の化合物は、治療薬の開発に魅力的な手本となる。
【0185】
(実施例8)インビボ効率:マウス肺炎モデル
次に、式(II)の化合物を、免疫適格性マウス肺炎モデルにおいてStreptococcus pneumoniaeに対して評価して、急性呼吸器感染症を処置する該化合物の潜在性を決定した。簡潔には、CD−1マウスに、Streptococcus pneumoniae ATCC6301(UNT012−2)を鼻腔内により感染させた(1.5×10CFU/マウス)。上記化合物を、感染の24時間および36時間後に、0.5〜10mg/kg/用量の範囲の用量で静脈内送達した。感染の48時間後に、処置したマウスを安楽死させ、肺を無菌で取り出し、CFU力価のために処理した。
【0186】
表14に示されている通り、式(II)の化合物は、このモデルにおいて非常に有効であり、10mg/kg/用量で48時間目にほぼ6logCFUの低減を示した。式(II)の化合物の用量反応関係を、評価した濃度範囲にわたって観測した。1、2および3log10CFUの低減を実現するのに必要な式(II)の化合物の量を算出すると、それぞれ0.27、0.48および0.75mg/kg/用量であった[Graph Pad Prizm(ver.5.0f)を使用した]。式(II)の化合物の静的用量は、<0.5mg/kg/用量であると推定された。
【表14】
【0187】
追跡研究では、式(II)の化合物の用量反応関係を、評価した濃度範囲(10、5.0、2.5、1.0および0.5mg/kgのBID)にわたって観測した。1、2および3log10CFUの低減を実現するのに必要な式(II)の化合物の用量を決定すると、それぞれ0.27、0.48および0.75mg/kg/用量であった。式(II)の化合物の静的用量は、<0.5mg/kg/用量であると推定された。
【0188】
均等論
当業者は、通常の実験方法と同様の実験方法を使用して、本明細書に具体的に記載した特定の実施形態の数々の均等物を認識し、確認することができる。このような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7