【実施例】
【0039】
実施例1:局所又は結膜下投与後の角膜創傷治癒
図2及び
図3にて、SLURP−1の瘢痕形成/眼創傷治癒活性を、ラットにおける脱上皮化モデルにおいて2つの投与経路を用いて比較した第1の実験のデータを報告する。第1の投与経路は、特に使用が容易であることから、角膜の水分保持に使用される眼製品で一般的な経路、すなわち点眼とする(局所適用)。この経路は外科的な全体の脱上皮化後0日目及び3日目に1日に付き6回の投与頻度にて使用した。同じ外科的処理の後、第2の動物群を異なる投与経路、すなわち結膜下経路にて処理した。この投与は0日目及び3日目に1日1回だけ実施した。
【0040】
両投与経路とも共通する特徴、すなわちSLURP−1適用量を有する:点眼を行う群は結膜下処理する群で使用される最高用量に相当する溶液で処理した。結膜下経路を介して投与されたプロダクトは、プロダクトが貯蔵される結膜タンクからゆっくりと放出され得ることから、創傷治療中により長時間に亘って利用可能であり、逆に局所投与処理では眼表面から急速に排出されることは容易に想定され得る。この仮定に従って、結膜下処理に用いる用量計画は局所処理に用いられる用量(5μg)から徐々に下げて50ngまでの範囲にした。
【0041】
図3Aに示されるように、両投与経路とも創傷治癒プロセスを加速することが可能であった。
【0042】
全体の脱上皮化後2日目において、50ngのSLURP−1の結膜下注射後の治癒速度はPBSの結膜下注射と比較して有意に高かった(p<0.05)(
図3B)。
【0043】
結膜下投与経路に関する瘢痕形成効果が、量が極めて多い局所投与に用いられる用量と比較して最低用量(50ng)にてより顕著なものであったことは予期せぬ発見であった。
【0044】
総投与量は同様の有効性の結果が得られる両投与経路計画において算出した(すなわち結膜下経路では1μg/mL及び局所経路では100μg/mL)。局所処理では、1mLの溶液当たり100μgの液滴50μLの投与を1日に付き6回、2つの別な日に行った。そのためこの処理群に使用される最終的な量は、6×2×5μg=60μgとなった。結膜下処理では、1μg/mLの溶液(50μL容量)を2回注射することにより、この経路により与えられる全体量は2×0.05μg=0.1μgとなった。同様の臨床的有効性をもたらす両投与量を比較すると、600という結膜下での量と局所での量との比が観察される。
【0045】
これは眼創傷治癒及び他の規定の臨床病態を治療するのにこのプロダクトではあまり一般的ではないこの特異的な投与経路によりプロダクトの有効性が劇的に増大することを明らかに支持している。
【0046】
より具体的には、この実験は、70%エタノールに浸した微小スポンジ及び15番の外科用メスを用いて外科用顕微鏡下で行う全角膜上皮の機械的切除を伴うものであった。次いで角膜を0.9%NaClで洗い流し、角膜の再上皮化に対する処理の効果を、脱上皮化後の5つの時点(それぞれT24h、T48h、T72h、T144h及びT168hに対応するD1、D2、D3、D6及びD7)で局所0.5%フルオレセインを用いて評価した。
【0047】
5匹6群の動物に以下の処理を行った:
群1:D0及びD3での50μLのビヒクルの結膜下注射
群2:D0及びD3での1μg/mL(50μL)のSLURP−1の結膜下注射(1投与当たり50ng)
群3:D0及びD3での10μg/mL(50μL)のSLURP−1の結膜下注射(1投与当たり500ng)
群4:D0及びD3での100μg/mL(50μL)のSLURP−1の結膜下注射(1投与当たり5μg)
群5:D0及びD3での100μg/mL(50μL)のSLURP−1の6回の局所点眼(1投与当たり5μg)
群6:処理なし
【0048】
各時点(D1、D2、D3、D6及びD7)において正面の顔写真を、コバルトブルーの生物顕微鏡光を用いて撮影し、角膜の緑色蛍光標識を用いることで、残存する潰瘍の形状及び面積を求めた(
図2)。治癒速度の経時変化を「対照」群(ビヒクル及び/又は何ら処理しない対照)とSLURP−1処理群とを比較するために各群についてグラフに提示する(
図3A)。各角膜の創傷治癒の経過観察を、創傷面積(A
t)、すなわち総角膜面積に対するフルオレセイン染色面積の比のコンピュータを用いた測定により行った。各時点について、治癒速度、すなわち(A
t0−A
t)/A
t0を算出した。結果は平均±SEMで表す。ANOVA検定の後に、ダネット多重比較検定又はノンパラメトリックマンホイットニー比較検定を、GraphPad Prism(GraphPad Software、米国、サンディエゴ)を用いて行った。
【0049】
このモデルは角膜血管新生を引き起こし、治癒プロセスを遅らせる輪部の(limbic)機能不全を誘導した。強度の中心潰瘍を呈した角膜は本研究から除外した。
【0050】
図3Bに示されるように全体の脱上皮化後2日目では、50ngのSLURP−1の結膜下注射後の治癒速度はPBSの結膜下注射(p<0.05 ダネット検定)及び対照(p<0.01 ダネット検定)と比較して有意に高い。SLURP−1の点眼後の治癒速度も対照より有意に高いが(p<0.05 ダネット検定)、PBS注射後とは有意差はない。
【0051】
図3Cに示されるように全体の脱上皮化後3日目では、SCJ 50ngのSLURP−1処理群及び点眼群の治癒速度は対照群より有意に高いが(p<0.05 ダネット検定)、PBSでの治療速度とは有意差はない。
【0052】
この観察結果から、SCJ手法(又はPBS)自体が角膜治癒を促す応答を誘導することが示唆される。
【0053】
血管新生に関して、新生血管は再上皮化プロセスの開始直後の各群において視認可能であった。角膜血管新生の定性的な経過観察では、SLURP−1処理群と対照との間に何らの違いも実証されなかった。このことはSLURP−1の治癒特性は血管新生促進作用には関連せず、角膜の透明性の回復を損なうものではないことを示す非常に重要な観察結果である。
【0054】
このことは、SLURP−1が結膜下投与及び点眼後に副作用のない、とりわけ輪部の(limbal)機能不全に関連する角膜血管新生のない、重要な角膜効果を示したことを意味しており、治癒効果は角膜の分化転換プロセスとは関係がないことが実証される。
【0055】
実施例2:較正された角膜脱上皮化モデルにおける局所投与又は結膜下投与後の角膜創傷治癒
治癒プロセスだけでなく、輪部の(limbic)機能不全についても示唆された、第1の角膜脱上皮化モデルにて得られた予試験結果に従って、アルコールにより誘導される脱上皮化の較正モデルを、SLURP−1の角膜治癒特性に着目するために第2の研究モデルとして選択した。この研究の目的は、対照と比較した試験タンパク質による再上皮化の増進を示す予試験結果を確認することと、このタンパク質により誘導される可能性のある用量応答を評価することとである。
【0056】
このモデルは、4mm径の輪状切開をもたらすトレフィンを用いて作り出した較正創傷を伴うものであった。このような微細な創傷の治癒は処置しなくても非常に早い(場合によってはおよそ2日間)。したがって投与は切開日に1度だけ行い、有効性は初めの48時間中に1日2回の検査により評価した。
【0057】
注射容量は第1の実験から調整し、用量は投与容量を2倍にし、溶液の濃度を半分にすることで同等のものにした。この異なる投薬は、角膜表面上での長期的なSLURP−1の存在をもたらす結膜下注射により生じるタンク中の保持時間を増大させることで、この標準モデルにて行われる特殊な投与を補うために選択された。
【0058】
この第2の実験モデルでは、SLURP−1の効果が確認された。すなわち、注射量の低い結膜下経路は、局所経路と比較して眼創傷治癒を加速するのに6倍〜60倍有効であった。
【0059】
より具体的には、角膜上皮創傷はHattori et alにより記載されるようにして得た[25]。要するに、全身麻酔及び局部麻酔の後、トレフィンを用いて、角膜上の中心に位置する4mm径の輪状切開を作製した。次いで、70%エタノールに浸しておいた4mm径の輪状濾紙を切開領域に5秒間置いた。5mL生理食塩水にて穏やかに洗浄することで、剥離した角膜上皮を取り出した。
【0060】
処理はD0(角膜脱上皮化時)にて1回の結膜下注射又は6回の点眼により右目のみに行った。4匹〜6匹5群の動物に以下の処理を行った:
群1:D0での0.5μg/mL(100μL)のSLURP−1の結膜下注射(1投与当たり50ng)
群2:D0での5μg/mL(100μL)のSLURP−1の結膜下注射(1投与当たり500ng)
群3:D0での50μg/mL(100μL)のSLURP−1の結膜下注射(1投与当たり5μg)
群4:D0での100μg/mL(50μL)のSLURP−1の6回の点眼(1投与当たり5μg)
群5:D0でのビヒクルの結膜下注射(100μL)
【0061】
右眼の角膜を、生物顕微鏡を用いて検査した。右眼の角膜にそれぞれ、0.5%のフルオレセイン(Novartis pharma S.A.S)1滴を与え、コバルトブルー光を用いて検査した。デジタル写真を、双眼鏡を通して撮影した。較正された角膜脱上皮化モデルにおける治癒経過観察中、角膜を、0日目、1日目午前(T23h)、1日目午後(T28h)、2日目午前(T47h)及び2日目午後(T56h)にて検査した(
図4)。
【0062】
デジタル写真を、画像化ソフトウェア(Adobe Photoshop)を用いて分析した。各眼及び各時点について、残存する潰瘍の面積を総角膜面積と比較した。治癒速度の経時変化を対照(ビヒクル及び/又は何ら処理しない対照)とSLURP−1処理群とを比較するために各群についてグラフに提示する。結果は平均±SEMで表す。ANOVA検定の後に、ダネット多重比較検定又はノンパラメトリックマンホイットニー比較検定を、GraphPad Prism(GraphPad Software、米国、サンディエゴ)を用いて行った。
【0063】
対照群及びSLURP−1処理群における角膜創傷の閉鎖の経時変化を
図5Aに示す。T0h〜T47hで算出された治癒速度を比較すると、500ng及び5μgのSLURP−1のSCJ注射により、点眼群又はPBS結膜下投与群と比較して治癒速度が有意に増大した(
図5B)。50ngのSCJ注射群では有意な効果が観察されなかったことから、用量応答効果が存在していた。さらにT47hにて、全体的に治癒した角膜の数は、対照群と比較して(6つのうち3つの角膜)、500ng又は5μgのSLURP−1の結膜下注射で処理した群のいずれにおいても多く(
図5C)、500ng(5つのうち4つの角膜)と5μg(5つのうち5つの角膜)との間にも注目すべき違いがあった。
【0064】
実施例3:ヒト角膜上皮細胞株hTCEpiでのSLURP−1による創傷閉鎖アッセイ
細胞移動をモニタリングするのに使用される創傷閉鎖アッセイは、Platypus TechnologiesのOris Cell Migration Assay−Collagen I Coatedである。細胞播種密度は倒立顕微鏡を用いて視覚的に求めた。100マイクロリットルを最適細胞播種密度で試験ウェルにピペッティングし、加湿チャンバー(37℃、5% CO2)内にて1時間〜4時間インキュベートして、細胞を付着させた。サイトカラシンDを陽性対照として使用した。
【0065】
実験はSLURP−1量を増大させて3回繰返し行った。試験量は、0μg/ml(陰性対照)、1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、15μg/ml、25μg/ml及び50μg/mlとした。24時間後、プレート上の創傷領域は異なる程度で治癒した。
図6に見ることができるように、10μg/mlのSLURP−1で処理した細胞が最適創傷治癒を示した。
【0066】
上記データの分析より、本発明が達成することができる利点が明らかである。
【0067】
特に、SLURP−1の特定濃度と特定の投与経路との間の効果的な関連性により、治癒速度の加速、及びより早い創傷領域の低減、特に感染からの眼表面の保護に関して最適な結果が得られる。
【0068】
さらに、SLURP−1の治癒特性は血管新生促進作用には関連せず、角膜の透明性の回復を損なうものではない。
【0069】
参考文献
【表1】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】