特許第6335211号(P6335211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイメック・ヴェーゼットウェーの特許一覧 ▶ カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァンの特許一覧

<>
  • 特許6335211-薄膜固体電池の製造方法 図000002
  • 特許6335211-薄膜固体電池の製造方法 図000003
  • 特許6335211-薄膜固体電池の製造方法 図000004
  • 特許6335211-薄膜固体電池の製造方法 図000005
  • 特許6335211-薄膜固体電池の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335211
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】薄膜固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20180521BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180521BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20180521BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/052
   H01M10/0562
   H01M4/70 Z
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-91077(P2016-91077)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-22085(P2017-22085A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2017年2月14日
(31)【優先権主張番号】15166443.0
(32)【優先日】2015年5月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(73)【特許権者】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ノウハ・ラビエド
(72)【発明者】
【氏名】アルフォンソ・セプルベダ・マルケス
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・フェレーケン
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−509720(JP,A)
【文献】 特開2011−9221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜固体リチウムイオン電池の製造方法であって、
薄膜固体リチウムイオン電池は、第1の電極層、固体電解質層、および第2の電極層を備え、この製造方法は、
第1の電極の材料組成物を含む第1のリチウムフリー層および電解質の材料組成物を含む第2のリチウムフリー層を有する原始の層構造体を、基板上に積層するステップと、
前記積層するステップの後に、リチオ化処理を実行するステップとを有し、
リチオ化処理を実行するステップは、第1のリチウムフリー層および第2のリチウムフリー層にリチウムを取り込むことにより、第1の電極層および固体電解質層を含む積層体を形成することを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
原始の層構造体は、第2の電極の材料組成物を含む第3のリチウムフリー層を有し、
リチオ化処理を実行するステップは、第3のリチウムフリー層にリチウムを取り込むことにより、第1の電極層、固体電解質層、および第2の電極層を含む積層体を形成することを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
リチオ化処理を実行するステップは、リチウム組成物を含む層を原始の層構造体上に積層した後に熱処理を実行することにより、原始の層構造体のリチウム組成物と前記リチウムフリー層との間の固相反応を誘導することを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
リチウム組成物を含む層は、LiO層またはLiCO層であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
リチウム組成物を含む層を原始の層構造体上に積層するステップは、液相プロセスを用いて前記層を形成することを含むことを特徴とする請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
基板は集電体を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
基板は非平面状の基板であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項8】
基板は複数のマイクロ柱状物を有することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
原始の層構造体は、リチウムフリーであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項10】
原始の層構造体は、第1のリチウムフリー層と第2のリチウムフリー層との間にリチウム組成物を含む層を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項11】
原始の層構造体は、第2のリチウムフリー層と第3のリチウムフリー層との間にリチウム組成物を含む層を有することを特徴とする請求項2〜8のいずれか1または請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願開示内容は、薄膜固体リチウムイオン電池のハーフセルおよびセル等の薄膜固体電池のハーフセルおよびセルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜リチウムイオン電池、とりわけ薄膜固体リチウムイオン電池等の薄膜電池に対する関心はますます高まっている。薄膜電池は、必要な電圧および容量を供給するために直列および/または並列に接続された複数の電気化学セルで構成されている。電池は、主として電解質で隔離された陰極電極および陽極電極とを備え、電解質はこれら電極間でイオンが移動することを可能にするものである。
【0003】
薄膜電池を製造するために、たとえばスパッタリング等の物理気相成長法やゾルゲル法等の溶媒を用いた方法を用いることができる。こうした電池の異なる構成要素(陽極電極、電解質、陰極電極)は、一般には水熱粉末合成法等を用いて個別に作製される。複合材料は、ボールミル粉砕で誘導される固相反応を用いて作製することができる。こうした方法は時間のかかる方法である。いくつかの熱処理では、粉末形態を有する所望材料の前駆体を入手する必要がある。こうした前駆体は、電池の個々の構成要素を作製するための基本となるものである。また目標とする化学量論的な組成を有する混合粉末を得るためには、分散、撹拌、および/または乾燥等の追加的な方法ステップが必要である。
【0004】
携帯可能な家電製品に内蔵されるリチウムイオン系電池を実現するときの1つの課題は、CMOSプロセスとはプロセス上の互換性が欠如していることである。一般に、CMOSプロセスにおいてリチウム(Li)を含む成分が存在すると、さまざまな汚染(混成)の問題が生じやすくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願開示内容は、薄膜固体リチウムイオン電池のハーフセルおよびセル等の薄膜固体電池のハーフセルおよびセルを製造する方法を提供することを目的とし、この製造方法は既知の製造方法より簡便で、より短時間で実施される。
【0006】
本願開示内容は、薄膜固体リチウムイオン電池のハーフセルおよびセルを製造する方法を提供することを目的とし、この製造方法はCMOSプロセス等のシリコン加工プロセスと互換性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願開示内容は、薄膜固体リチウムイオン電池のハーフセルおよびセルを製造する方法に関し、薄膜固体リチウムイオン電池は、第1の電極層、固体電解質層、および第2の電極層を備える。本願開示内容に係る製造方法は、第1の電極の材料組成物を含む第1のリチウムフリー層および電解質の材料組成物を含む第2のリチウムフリー層を有する原始の層構造体を、基板上に積層するステップと、前記積層するステップの後に、リチオ化処理を実行するステップとを有する。リチオ化処理は、第1のリチウムフリー層および第2のリチウムフリー層にリチウムを取り込むことにより、第1の電極層および固体電解質層を含む電池ハーフセル積層体を形成することを含む。
【0008】
原始の層構造体は、第2の電極の材料組成物を含む第3のリチウムフリー層を有してもよい。リチオ化処理を実行するステップは、第3のリチウムフリー層にリチウムを取り込み、第2の電極層に変換することにより、第1の電極層、固体電解質層、および第2の電極層を含む積層体を形成することを含む。
【0009】
本願開示内容の実施形態において、第1のリチウムフリー層および/または第2のリチウムフリー層および/または第3のリチウムフリー層は、2つまたはそれ以上の副層(サブ層)を含んでもよい。
【0010】
リチオ化処理を実行するステップは、たとえばリチウム組成物を含む層を原始の層構造体上に積層した後に熱処理を実行することにより、原始の層構造体のリチウム組成物と前記リチウムフリー層との間の固相反応を誘導することを含んでもよい。リチウム組成物を含む層は、たとえばLiO層、LiCO層、またはLi金属層であってもよく、本願開示内容はこれに限定されない。リチウム組成物を含む層は、たとえばスピンコート法等の液相プロセスを用いて形成してもよいし、原子層堆積法(ALD)または物理気相成長法(PVD)等の他の手法を用いて形成してもよい。
【0011】
基板は集電体を含んでもよく、原始の層構造体は集電体上に積層してもよい。集電体は、たとえばTiN、Pt、またはNiであってもよいが、本願開示内容はこれに限定されない。
【0012】
基板は平面状の基板であってもよいが、非平面状の基板であってもよい。たとえば非平面状の基板は、たとえば複数のマイクロ柱状物等、複数の3次元特徴物または3次元構造体を有してもよい。基板は、たとえば高アスペクト比の柱状物アレイ(たとえば集電体層が被膜されたシリコン柱状物)であってもよい。柱状物は、0.5μm〜10μmの径を有し、1μm〜20μmの間隔を有し、10μm〜200μmの高さを有してもよいが、本願開示内容はこれに限定されない。複数の3次元マイクロ構造体を有する基板を用いると、バッテリ容量が増大するという利点が得られる。
【0013】
本願開示内容に係る実施形態において、原始の層構造体は、リチウムフリーであってもよい。こうした実施形態において、第2のリチウムフリー層は、第1のリチウムフリー層の上に積層され、第1のリチウムフリー層に直截的に物理的に接触する。こうした実施形態では、第3のリチウムフリー層は、第2のリチウムフリー層の上に積層され、第2のリチウムフリー層に直截的に物理的に接触する。
【0014】
本願開示内容に係る実施形態において、リチウム組成物を含む層を原始の層構造体に積層してもよい。たとえばLiO層またはLiCO層等のリチウム組成物を含む層を、原始の層構造体の第1のリチウムフリー層と第2のリチウムフリー層との間に内在させてもよい。たとえばLiO層またはLiCO層等のリチウム組成物を含む層を、原始の層構造体の第2のリチウムフリー層と第3のリチウムフリー層との間に内在させてもよい。
【0015】
本願開示内容に係る製造方法の利点は、電池ハーフセルまたは電池セルを作製するための数多くのプロセスステップを、先行技術のものと比較して削減することができる点にある。本願開示内容に係る製造方法に基づいて、たとえば電池ハーフセルまたは電池セルを作製するプロセスは、単一の(1回の)アニール処理または熱処理のみを必要とする。さらに、粉末合成法等を用いて異なる組成物を提供する既知の手法と比較して、さほど複雑でなく、より短時間で電極層および電解質層の材料組成物を準備することができる。
【0016】
本願開示内容に係る実施形態の利点は、この製造方法はCMOS製造プロセスと互換性がある点にある。より具体的には、原始の層構造体がリチウムフリーである実施形態において、シリコン製造プロセスまたはCMOS製造プロセス環境で、リチウム汚染(混成)のリスクを負うことなく、原始の層構造体を積層することができる。シリコン製造プロセスまたはCMOS製造プロセス環境で原始の層構造体を積層すると、高い品質で均一な薄膜層、すなわち完全に確立されたマイクロ電子工学を用いて、十分に制御された均一の厚みを有する薄膜層を積層できるという利点がある。このときCMOS製造プロセス環境で薄膜電池ハーフセルの生産性を向上させる道が開かれる。原始の層構造体を積層した後のみに、リチウムを取り込む必要が生じた時点で、シリコンまたはCMOS製造プロセス環境外でデバイスがさらに処理される(積層後のリチオ化処理)。
【0017】
本願開示内容に係る製造方法の利点は、数nmまたは数十nmのオーダの厚みを有する薄膜を利用できる点にある。この薄膜は、従前の方法では数μmのオーダの厚みを有する薄膜より実質的に薄い。薄膜層を利用することの利点は、リチウムイオンの拡散経路長が低減され、電池の反復的利用性能が改善される点にある。
【0018】
既存の固体電池と比較して、薄膜層を用いるさらなる利点は、用いられる材料の量を低減することができ、薄膜電池の全体的なコストに対する実質的な効果を得ることができる点にある。
【0019】
本願開示内容に係る製造方法において、スピンコート法、電気化学的堆積、または蒸着等の低コスト積層プロセスを用いて、層構造体の各層を形成することかできる。低コスト積層プロセスを用いることの利点は、電池の全体的なコストが低減される点にある。
【0020】
固体電池の既存の製造方法によれば、まず電極および電解質に対して異なる材料を粉末形態で準備していた。こうした方法は、一般に、潜在的に有害な物質を含む。本願開示内容に係る製造方法の利点は、粉末材料を準備する際の安全に対するリスクを最小限に抑えることができる点にある。
【0021】
さまざまの発明の態様による特定の目的および利点について上記説明した。当然に、理解されるように、本願開示内容に係る実施形態が、これらのすべての目的および利点を必ずしも実現する必要はない。すなわち、たとえば当業者ならば理解されるように、本願開示内容は、本願で教示または示唆された1つまたは一群の目的または利点を実現または最適化するように具現化され、または実施され、必ずしも本願で教示または示唆された他の目的または利点を実現する必要はない。さらに理解されるように、この要約は、単なる具体例であり、本願開示内容の範囲を限定するものではない。本願開示内容の特徴および利点に加え、処理の構成および方法の両方に関し、本願開示内容は、添付図面を参照しながら、以下の詳細な説明を参照することにより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本願開示内容に係る薄膜固体電池のハーフセルの製造方法を概略的に示す。
図2】本願開示内容に係る薄膜固体電池のハーフセルの製造方法を概略的に示す。
図3】本願開示内容に係る薄膜固体電池のセルの製造方法を概略的に示す。
図4】本願開示内容に係る薄膜固体電池のセルの製造方法を概略的に示す。
図5】本願開示内容に係る薄膜固体電池のハーフセルの製造方法を概略的に示す。 特許請求の範囲に記載された参照符号は、本願開示内容の範囲を限定するものと解釈すべきではない。異なる図面において付された同一の参照符号は、同一または類似の構成要素を参照するものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の詳細な説明において、本願開示内容および特定の実施形態における実施の態様が十分に理解されるように、数多くの特別の詳細内容について説明する。しかし理解されるように、本願開示内容は、こうした特別の詳細内容でなくても実施することができる。他の実施例において、本願開示内容を明確とするために、既知の方法、手順、および技術について詳細には説明しない。
【0024】
所定の図面を参照しながら、特定の実施形態に関連して本願開示内容を説明するが、本願開示内容は、これらの実施形態および図面によって限定されるものではなく、特許請求項の範囲によってのみ規定される。添付図面は、概略的なものに過ぎず、限定的なものではない。図中、いくつかの構成要素の寸法は、分かりやすくするために、誇張され、同一縮尺で描写されていない。寸法および相対的な寸法は、本願開示内容の実際の態様のものに必ずしも一致しない。
【0025】
さらに明細書および特許請求の範囲に記載の「第1の」、「第2の」および「第3の」等の用語は、類似の構成要素を区別するために用いられものであって、必ずしも連続のまたは時系列の順序を示すものではない。こうした用語は、適当な状況において置換可能であり、本願開示内容の実施形態は、記載または図示された順序以外の順序で実行することができる。
【0026】
特許請求の範囲に記載の「備える(comprising)」の記載は、その記載の後に列挙された手段に限定されるものと解釈すべきではなく、他の構成要素またはステップを排除するものではない。参照された特徴、完成体、ステップ、または構成要素の存在を特定するものと解釈する必要があり、1つまたはそれ以上の他の特徴、完成体、ステップ、構成要素、またはこれらの組合せの存在または追加を排除するものではない。すなわち「構成要素AおよびBを備えたデバイス」と表現された特許請求の範囲は、構成要素AおよびBのみからなるデバイスに限定してはならない。
【0027】
本願開示内容の文脈において、電池のハーフセルは、単一の電極層および電解質層を備え、具体的には、陽極層および電解質層、または陰極層および電解質層を備える。
【0028】
本願開示内容の文脈において、電池のセルは、2つの電極層とその間にある電解質層とを備えた構造体であり、陽極層/電解質層/陰極層の積層体を備えた構造体である。
【0029】
第1の電極層と固体電解質層とを備えた薄膜固体リチウムイオン電池ハーフセルを製造する方法が提供される。本願開示内容に係る方法において、まず原始(initial,当初または初期段階)の層構造体を基板上に積層させ、原始の層構造体は、第1の電極材料組成を含む第1のリチウムフリー層(リチウムを含まない層)と、電解質材料組成を含む第2のリチウムフリー層とを備える。その後、リチオ化ステップを実行することにより、第1および第2の層にリチウム(Li)を取り込んで(注入して)、第1の電極層および固体電解質層の電池ハーフセル積層体を形成する。
【0030】
さらに、第1の電極層と、固体電解質層と、第2の電極層とを備えた、薄膜固体リチウムイオン電池セルを製造する方法が提供される。電池ハーフセルの製造方法と比較すると、電池セルの製造方法において、基板上に積層された原始の層構造体は、第2の電極材料組成を含む第3のリチウムフリー層をさらに備える。リチオ化ステップを実行することにより、第3の層にリチウムを取り込む(注入する)ことにより、第3の層を第2の電極層に変換する。リチオ化ステップを実行することにより、第1の電極層と、固体電解質層と、第2の電極層とを備えた電池セル積層体を形成し、固体電解質層は、第1の電極層と第2の電極層との間に狭持されている。
【0031】
リチオ化ステップは、たとえば原始の層構造体の上に、リチウム成分を含む層を積層するステップと、原始の層構造体の複数の層に存在する成分とリチウム成分との間の固相反応を誘導するためのアニール(焼きなまし)ステップとを有する。アニール温度およびアニールステップの期間は、実験により決定することができる。アニール温度は、たとえば400℃〜800℃の間の範囲であってもよい。アニールステップ期間は、数分〜数時間の間の範囲であり、たとえば5分〜10時間の間の範囲、または10分〜4時間の間の範囲であってもよく、本願開示内容はこれに限定されるものではない。
【0032】
本願開示内容に係る実施形態において、原始の層構造体は全体的にリチウムフリーである(リチウムを含まない)。他の実施形態において、原始の層構造体にリチウム成分を含む層を加えてもよく、たとえば第1のリチウムフリー層と第2のリチウムフリー層との間、および/または第2のリチウムフリー層と第3のリチウムフリー層(もしあれば)との間にリチウム成分を含む層を加えてもよい。
【0033】
本願開示内容に係る方法を用いて、リチウムイオン・マイクロ電池のハーフセル積層体およびセル(全体セル)積層体を作製することができ、異なる層は、数ナノメートルまたは数十ナノメートルの厚みを有する薄膜構造体であり、本願開示内容は、この厚みに限定されるものではない。
【0034】
層構造体を構成する各層を形成するために、たとえば電気化学堆積法、スピンコート法、または蒸着法等の低コスト積層技術を用いることができ、本願開示内容は、これに限定されるものではない。
【0035】
本願開示内容に基づく方法は、電極層/電解質層の界面を最適化する手法を提供することができる。たとえばスピネル型構造を有する電解質材料を形成するようにアニール条件を選択することができる。こうしたスピネル型の電解質材料と、スピネル型の電極材料(リチウムマンガン酸化物(LMO)またはリチウムチタン酸化物(LTO))とを組み合わせると、すべてのスピネル型の固体電池の界面抵抗を小さくし、イオン伝導率を改善することかできる。本願開示内容に係る方法は、特定のアニール処理を行い、材料の結晶欠陥を制御することにより、固体電池のイオン伝導率を増大させることができる。
【0036】
図1および図2は、本願開示内容に係る薄膜固体電池のハーフセルの製造方法を概略的に示す。図1に示す具体例において、原始の層構造体はリチウムフリーの(リチウムを含まない)層構造体である。
【0037】
本願開示内容に係る方法100は、まず原始の層構造体20を基板10の上に積層する(図1(a)および図2のステップ101)。原始の層構造体20は、図1に示す具体例ではリチウムを含まない。リチウムフリーの層構造体20は、第1の電極の材料組成物を含む第1のリチウムフリー層21と、電解質の材料組成物を含む第2のリチウムフリー層22とを備える。第1の電極の材料組成物は、金属酸化物等の酸化物であってもよいが、本願開示内容を限定するものではない。第1の電極の材料組成物は、好適には、高い導電性を有し、化学的に安定しており、充電/放電時の膨張容量が無視できる程度に小さい。電解質の材料組成物は、たとえばタンタル酸化物、アルミニウム酸化物、またはシリコン酸化物等の酸化物であり、本願開示内容は、これに限定されるものではない。基板10は、たとえば集電体(電気コレクタ)を含んでもよい。
【0038】
第1のリチウムフリー層21および第2のリチウムフリー層22は、典型的には5nm〜250nmの範囲、たとえば20nm〜150nmの範囲の厚みを有し、本願開示内容は、これに限定されるものではない。第1のリチウムフリー層21および/または第2のリチウムフリー層22は、異なる複数の副層(サブ層)で構成され、すなわち異なる複数の副層からなる層構造体を有してもよい。
【0039】
第1のリチウムフリー層21は、第1の電極の材料組成物を含み、第1の電極の材料組成物は、後の製造工程において(リチオ化処理により)第1の電極層を形成するための原始材料である。すなわち第1のリチウムフリー層21の組成物は、電池ハーフセル内の第1の電極層の組成物とは異なる。同様に、第2のリチウムフリー層22の組成物は、電解質の材料組成物を含み、電解質の材料組成物は、後の製造工程において(リチオ化処理により)固体電解層を形成するための原始材料である。すなわち第2のリチウムフリー層22の組成物は、電池ハーフセル内の固体電解層の組成物とは異なる。
【0040】
原始の層構造体20を積層した後、リチオ化ステップ102(図2)が実施される。リチオ化ステップ102は、図1(b)に示すように、リチウム組成物を含む層30をリチウムフリー層構造体20の上に積層するステップの後、アニールするステップまたは熱処理するステップを含む。アニールステップは、リチウム組成物と、層構造体20の材料組成物(第1の電極の材料組成物と電解質の材料組成物)との間の固相反応を含む。この熱処理ステップを1回行うことにより、図1(c)に概略的に示すように、固体薄膜電池用のハーフセルとして適当な電極層41および電解質層42が形成される。そしてリチウム組成物の未反応材料は、洗い流すことができる。
【0041】
本願開示内容の方法において、第1の電極の材料組成物として、たとえば酸化チタンまたは酸化マンガンを用いてもよい。電気化学堆積法を用いて、原始の層構造体20の一部としてのγ−MnO層(γ型二酸化マンガン層、第1のリチウムフリー層21)を形成することができる。リチオ化ステップ102を実行することにより、MnO層21は、固体電池用の(ハーフ)セルの陰極層として用いられるのに適したLiMn層に変換される。
【0042】
本願開示内容の方法において、電解質の材料組成物として、たとえばTa(五酸化タンタル)を用いてもよい。蒸着法を用いて、原始の層構造体20の一部としてのTaからなる薄膜を形成することができる。リチオ化ステップ102を実行することにより、Ta層22は、固体電池用の(ハーフ)セルの固体電解層として用いられるのに適したLiTaO層に変換される。
【0043】
本願開示内容の方法において、第2のリチウムフリー層22は、複数の副層(サブ層)からなる層構造体を有してもよい。たとえばAl層およびSiO層を含む層構造体を蒸着させて、原始の層構造体20の一部としての第2のリチウムフリー層22を形成することができる。リチオ化ステップ102を実行することにより、Al層およびSiO層を含む第2のリチウムフリー層22は、固体電池用の(ハーフ)セルの固体電解質層として用いられるのに適したLi4−2XAlSiO層に変換される。たとえばNi層、Ge層、およびNi層を含む層構造体を蒸着させて、原始の層構造体20の一部としての第2のリチウムフリー層22を形成することができる。リチオ化ステップ102を実行することにより、GeおよびNiを含む第2のリチウムフリー層22は、固体電池用の(ハーフ)セルの固体電解質層として用いられるのに適したLiNiGe層に変換される。
【0044】
本願開示内容の方法において、固相反応を用いて、リチオ化ステップを実行して、たとえばγ−MnO層をLiMn層に、Ta層をLiTaO層に、および/またはAl層/SiO層をLi4−2XAlSiO層に変換するためには、Li組成物が必要である。図1(b)に示すように、たとえばLi組成物を含む層30が原始の層構造体20の上に積層される。Li含有層30は、たとえばLiO層またはLiCO層であってもよい。LiO層は、たとえば低コストの積層技術である電気沈殿法を用いて形成してもよいが、本願開示内容はこれに限定されるものではない。Li含有層30を積層するために用いられる別の低コストの手法は、スピンコート法である。たとえば水性リチウム前駆体をスピンコーティングすることにより、LiCO層を積層することができる。
【0045】
固相反応プロセスを用いて、薄膜電解質層および薄膜電極層の個別の形成に関する実験を行った。固相反応プロセスを用いて、LiTaO固体電解質層およびLi4−2XAlSiO固体電解質層を形成し、固相反応プロセスを用いたLiTi12層の形成について検討した。本願開示内容に基づいて複数の層構造体20に追加的な材料(組成物)を取り込む(注入する)ための基本データとして、層の厚み、温度、およびアニール時間等のプロセスパラメータの条件を最適化するために、以下の個々の固相反応プロセスに対する実験を行った。
【0046】
たとえば、電解質層の材料組成物を含むリチウムフリー層を基板上に積層し、リチウム含有層をリチウムフリー層上に積層した後、熱処理を加えて、固体電解質層を形成する実験を行った。
【0047】
40nm厚のTa層をSi/SiO/TiN/Pt基板上に熱蒸着させた。スピンコート法を用いて、Ta層の上面に34nm厚のLiCO層を積層した。この層構造体に対して、空気雰囲気中で20分間のアニール処理を行った。異なるサンプルに対して、異なるアニール温度(450℃、550℃、および750℃)を用いた。測定されたX線回折パターンは、熱処理温度が550℃および750℃であるとき、純粋相で結晶質のLiTaO層であることを示した。450℃でアニール処理されたサンプルは、LiTaOの回折ピークを示さず、材料が非結晶質であることを示した。450℃でアニール処理された層に対して、最良のイオン導電率は2×10−9S/cmであった。
【0048】
別の実験では、原子層堆積法を用いて、25nm厚のAl層をSi/SiO/TiN/Pt基板上に積層した。スパッタリング法を用いて、10nm厚のSiO層をAl層の上面に積層した後、34nm厚のLiCO層をSiO層の上面に積層した。次に、空気雰囲気中でサンプルに対してアニール処理を行った。異なるサンプルに対して、異なるアニール時間(20秒間、120分間、600分間)で処理したところ、Li4−2XAlSiO層の結晶質位相が得られた。アニール時間が120分間であるとき、最良の結晶質位相が得られた。このサンプルのイオン導電率は、7.3×10−11S/cmであった。
【0049】
本願開示内容に係る方法を用いると、1回のリチオ化ステップで電池ハーフセルまたは電池セルを作製することができる。
【0050】
たとえばLiMn陰極層およびLiTaO電解質層を含むハーフセルは、MnO層(第1のリチウムフリー層21)およびTa層(第2のリチウムフリー層22)を含む原始のリチウムフリー層構造体20を積層した後(図2、ステップ101)、リチウムフリー層構造体20の上にLiO層またはLiCO層(Li組成物を含む層30)を積層して、1回の熱処理を行い、固相反応を誘導するリチオ化ステップを実行する(図2、ステップ102)ことにより形成することができる。
【0051】
択一的な手法によれば、図5に示すように、原始の層構造体20内にリチウム組成物を含む層31を組み込んでもよい。LiMn陰極層およびLiTaO電解質層を含むハーフセルは、図5(a)に示すように、たとえばMnO層(第1のリチウムフリー層21)、リチウム組成物を含む層31、Ta層(第2のリチウムフリー層22)を含む原始のリチウムフリー層構造体20を積層した後(図2、ステップ101)、原始の層構造体20の上にLiO層またはLiCO層(Li組成物を含む層30、図5(b))を積層して、1回の熱処理を行い、固相反応を誘導するリチオ化ステップを実行する(図2、ステップ102)ことにより形成することができる。この1回の熱処理により、図5(c)に示すように、電極層41および電解質層42を含む電池ハーフセル積層体を形成することができる。
【0052】
原始の層構造体20が、図5に示す実施形態に対応して、70nm厚のMnO層、34nm厚のLiCO層、40nm厚のTa層、および34nm厚のLiCO層から構成されるように形成して、実験を行った。この層構造体に対して、空気雰囲気中、450℃で20分間のアニール処理を行い、LiMn陰極層およびLiTaO電解質層を含む積層体を形成した。
【0053】
別の実験では、100nm厚のMnO層、50nm厚のLiCO層、33nm厚のNi/Ge/Ni層、および50nm厚のLiCO層から構成されるように層構造体を形成した。この層構造体に対して、空気雰囲気中、400℃で180分間のアニール処理を行い、LiMn電極層およびLiNiGe電解質層を含み、10−9S/cmのイオン導電率を有する積層体を形成した。
【0054】
図3および図4は、本願開示内容に係る固体薄膜電池セルの製造方法を概略的に示すものである。図3に示す具体例において、原始の層構造体はリチウムフリー層構造体である。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、リチウム組成物を含む層を原始の層構造体に組み込んでもよい。
【0055】
本願開示内容に係る方法200によれば、図3および図4に示すように、まず原始の層構造体20を基板10の上に積層し(図4、ステップ1)、原始の層構造体20は、図3に示す具体例ではリチウムを含まない。原始のリチウムフリー層構造体20は、第1の電極の材料組成物を積層した第1のリチウムフリー層21と、電解質の材料組成物を積層した第2のリチウムフリー層22と、第2の電極の材料組成物を積層した第3のリチウムフリー層23とを有する(図3(a))。第1の電極の材料組成物および第2の電極の材料組成物は、酸化物、たとえばチタン酸化物またはマンガン酸化物等の金属酸化物であってもよいが、本願開示内容は、これに限定されるものではない。第1および第2の電極の材料組成物は、好適には、高い導電性を有し、化学的に安定しており、充電/放電時の膨張容量が無視できる程度に小さい。電解質の材料組成物は、たとえばタンタル酸化物、アルミニウム酸化物、またはシリコン酸化物等の酸化物であってもよいが、本願開示内容は、これに限定されるものではない。基板10は、たとえば集電体(電気コレクタ)を含んでもよい。
【0056】
第1のリチウムフリー層21、第2のリチウムフリー層22、および第3のリチウムフリー層23は、典型的には5nm〜250nmの範囲、たとえば20nm〜150nmの範囲の厚みを有するが、本願開示内容は、これに限定されるものではない。第1のリチウムフリー層21、第2のリチウムフリー層22、および/または第3のリチウムフリー層23は、異なる複数の副層(サブ層)で構成され、すなわち異なる複数の副層からなる層構造体を有してもよい。
【0057】
第1のリチウムフリー層21は、第1の電極の材料組成物を含み、第1の電極の材料組成物は、後の製造工程において(リチオ化処理により)第1の電極層を形成するための原始材料である。すなわち第1のリチウムフリー層21の組成物は、電池セル内の第1の電極層の組成物とは異なる。同様に、第2のリチウムフリー層22は、電解質の材料組成物を含み、電解質の材料組成物は、後の製造工程において(リチオ化処理により)固体電解層を形成するための原始材料である。すなわち第2のリチウムフリー層22の組成物は、電池セル内の固体電解層の組成物とは異なる。同様に、第3のリチウムフリー層23は、第2の電極の材料組成物を含み、第2の電極の材料組成物は、後の製造工程において(リチオ化処理により)第2の電極層を形成するための原始材料である。すなわち第3のリチウムフリー層23の組成物は、電池セル内の第2の電極層の組成物とは異なる。
【0058】
原始の層構造体20を積層した後、リチオ化ステップ202(図4、ステップ201)が実施される。リチオ化ステップ202は、図3(b)に示すように、リチウム組成物を含む層30をリチウムフリー層構造体20の上に積層するステップの後、アニールするステップまたは熱処理するステップを含む。アニールステップは、リチウム組成物と層構造体20の材料組成物(第1の電極の材料組成物と電解質の材料組成物)との間の固相反応を含む。この熱処理ステップを1回行うことにより、図3(c)に概略的に示すように、固体薄膜電池用のセルとして適当な第1の電極層41、電解質層42、および第2の電極層43が形成される。そしてリチウム組成物の未反応材料は、洗い流すことができる。
【0059】
択一的な手法(図示せず)によれば、原始の層構造体20内にリチウム組成物を含む層31を組み込んでもよい。たとえば第1のリチウムフリー層21と第2のリチウムフリー層22との間、および/または第2のリチウムフリー層22と第3のリチウムフリー層23との間に、リチウム組成物を含む層を積層してもよい。
【0060】
本願開示内容に係る方法の利点は、それぞれの層がピンホールを含むことなく、良好な結晶性を有する点にある。稠密充填された均質な等角膜を得ることができる。
【0061】
たとえば電極層と電解質層との間、異なる層の間の界面を調製して、リチウムイオンの導電経路を改善または改良するために積層工程を最適化することができる。たとえば、電極層と電解質層との間の小さい格子不整合を補償するように、組成物が漸進的に変化する層を用いて、電極層と電解質層との間の界面を調整してもよい。異なる層の間の差異が著しい界面ではなく、電極層と電解質層との間がより緩慢に移行するようにしてもよい。たとえば、電極層と電解質層との間で滑らかな界面を得るために、たとえば両者の間のNi含有量を徐々に変化させて調整することにより、LMO(LiMn)電極層およびLMNO(LiNiMn)電解質層を形成することかができる。
【0062】
本願開示内容に係る方法を用いて、さまざまな用途に用いられる任意のスピネル型固体薄膜電池を製造することができる。リチウムマンガン酸化物(LMO,LiMn)およびリチウムチタン酸化物(LTO,LiTi12)は、スピネル構造を有する陽電極材料および負電極材料であり、電池の電極材料として広く知られ、用いられている。たとえばLiNiGe、LiMgTiO、またはLi4−2XAlSiO等の他のより複雑な系も検討することができる。
【0063】
上記説明したものと同じ手法を用いて、3次元マイクロ構造薄膜構成物を形成することができる。平坦な表面を用いる代わりに、3次元の特徴または3次元のマイクロ構造体を用いることができる。たとえば、3次元の柱状アレイを有する基板を用いて、基板の表面積およびバッテリ容量を増大させることができる。
【0064】
上記説明は、本願開示内容の特定の実施形態について詳述するものである。しかし理解されるように、上記説明がいかに詳細に至るものであっても、本願開示内容は数多くの手法で実施することができる。本願開示内容の特定の特徴または態様を記述する際に用いた特別の用語は、これが関連する本願開示内容の特徴または態様のすべての特定の特性を含むものと限定して再定義されるものではない。
【0065】
本願開示内容の要約と同様、上述の詳細な説明は、デバイスの製造方法に焦点を当てるものであるが、本願開示内容は、同様に、上述の任意の実施形態に係る方法を用いて得られたデバイスに関するものである。
【0066】
上述の詳細な説明は、さまざまな実施形態に適用されたときの本発明の新規の特徴を図示し、記述し、そして指摘するものであるが、理解されるように、当業者ならば、本発明の範疇を逸脱することなく、デバイスまたはプロセスの態様および詳細における種々の省略、置換、および変更が実施可能である。
【符号の説明】
【0067】
10…基板、20…原始の層構造体、21…第1のリチウムフリー層、22…第2のリチウムフリー層、23…第3のリチウムフリー層、30,31…リチウム組成物を含む層、41…第1の電極層、42…電解質層、43…第2の電極層。
図1
図2
図3
図4
図5