特許第6335228号(P6335228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6335228-エチレン重合触媒 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335228
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】エチレン重合触媒
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/658 20060101AFI20180521BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C08F4/658
   C08F10/02
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-155004(P2016-155004)
(22)【出願日】2016年7月20日
(62)【分割の表示】特願2013-512639(P2013-512639)の分割
【原出願日】2011年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-20034(P2017-20034A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年8月15日
(31)【優先権主張番号】12/786,701
(32)【優先日】2010年5月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】チャン,マイン
(72)【発明者】
【氏名】ガロフ,トーマス
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−504398(JP,A)
【文献】 特開2004−210913(JP,A)
【文献】 特開昭58−138708(JP,A)
【文献】 特開平08−067711(JP,A)
【文献】 特開昭55−040745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4/60−4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物、マグネシウム化合物、アルコール、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物、およびマレアート誘導体の反応生成物を含む、エチレン重合で使用される固体触媒成分であって、
前記シロキサン混合物は、トリシロキサン、テトラシロキサン、ペンタシロキサンの1種又は複数種を含むことを特徴とする固体触媒成分
【請求項2】
前記チタン化合物が一般式:
TiX(OR)4−n
[式中、Rは、1から20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、Xはハロゲンであり、nは1から4である]を有する、請求項1に記載の固体触媒成分
【請求項3】
前記マグネシウム化合物がハロゲン化マグネシウム、アルコキシハロゲン化マグネシウム、アリールオキシハロゲン化マグネシウム、アリールオキシマグネシウム、またはマグネシウムのカルボン酸塩である、請求項1に記載の固体触媒成分
【請求項4】
前記アルコールが8から20個の炭素原子を含む、請求項1に記載の固体触媒成分
【請求項5】
前記マレアート誘導体が一般式(I):
【化1】
[式中、RおよびRは同じであるか、または異なり;およびRはそれぞれ、〜C20の直鎖アルキル、C〜C20分岐アルキル、またはC〜C20アルキルアリール基によって表される]を有する、請求項1に記載の固体触媒成分
【請求項6】
前記マレアート誘導体がマレイン酸ジアルキルである、請求項5に記載の固体触媒成分
【請求項7】
前記マレイン酸ジアルキルが、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジn−プロピル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジn−ブチル、マレイン酸ジイソブチル、マレイン酸ジn−ペンチル、マレイン酸ジイソペンチル、マレイン酸ジネオペンチル、マレイン酸ジn−ヘキシル、マレイン酸ジイソヘキシル、マレイン酸ジ−n−ヘプチル,マレイン酸ジ−イソ−ヘプチル,マレイン酸ジn−オクチル,マレイン酸ビス(2,2−ジメチルヘキシル)、マレイン酸ビス(2−エチルヘキシル)、マレイン酸ジn−ノニル、マレイン酸ジイソデシル、およびマレイン酸ビス(2,2−ジメチルヘプチル)からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載の固体触媒成分
【請求項8】
前記アルミニウムアルコキシドが一般式(II):
【化2】
[式中、R、R’およびR”は、12以下の炭素原子の同じ、または異なるヒドロカルビル基である]を有する、請求項1に記載の固体触媒成分
【請求項9】
前記アルミニウムアルコキシド化合物が、ジエトキシアルミニウムブトキシド、エトキシアルミニウムジブトキシド、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリn−プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、およびアルミニウムトリt−ブトキシドからなる群から選択される、請求項8に記載の固体触媒成分
【請求項10】
前記アルミニウムアルコキシドがアルミニウムトリイソプロポキシドである、請求項9に記載の固体触媒成分
【請求項11】
前記シロキサン混合物が更に、ポリシロキサンを含むことを特徴とする請求項1に記載の固体触媒成分
【請求項12】
前記シロキサン混合物がメチル基を有する、請求項11に記載の固体触媒成分
【請求項13】
前記シロキサン混合物が、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、およびポリメチルシロキサンの1種、又は複数種を含むことを特徴とする、請求項12に記載の固体触媒成分
【請求項14】
(i)請求項1に記載の前記固体触媒成分;および
(ii)有機アルミニウム化合物を含む、
エチレン重合に使用するための触媒系。
【請求項15】
前記有機アルミニウム化合物がアルキルアルミニウム化合物である、請求項14に記載の触媒系。
【請求項16】
エチレン重合に使用するための固体触媒成分を製造する方法であって、
(i)マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、およびシロキサン混合物をアルコール中へ添加し、混合物を形成するステップと;
(ii)前記混合物を加熱しマグネシウム溶液を形成するステップと;
(iii)前記マグネシウム溶液をチタン化合物、次いでシロキサン混合物と接触させ、液状触媒中間体を形成するステップと;
(iv)前記液状触媒中間体を加熱し触媒中間粒子を形成するステップと;
(v)前記触媒中間粒子をマレアート誘導体と接触させ固体触媒成分を形成するステップとを含み、
前記シロキサン混合物は、トリシロキサン、テトラシロキサン、ペンタシロキサンの1種又は複数種を含むことを特徴とする、方法。
【請求項17】
(vi)−30℃から−10℃の温度に前記マグネシウム溶液を冷却するステップをさらに含み、ステップ(vi)がステップ(ii)と(iii)の間に行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記混合物が80℃から130℃の温度に加熱される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記液状触媒中間体が50℃から110℃の温度に加熱される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
(i)請求項14に従って前記触媒系を準備するステップと;
(ii)前記触媒系の存在下でエチレンを重合または共重合し、ポリマーまたはコポリマーを形成するステップと;
(iii)ポリマーまたはコポリマーを回収するステップとを含む、エチレンを重合または共重合する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にエチレン重合触媒成分に関する。特に、本発明は、チタン化合物、マグネシウム化合物、アルコール、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物およびマレアート誘導体の反応生成物を含む固体触媒成分(固体触媒要素;ならびに触媒成分および有機アルミニウム化合物を含む触媒系に関する。本発明はさらに、固体触媒要素および触媒系を製造する方法、触媒系を使用してエチレンを重合または共重合する方法、ならびに触媒系を使用して調製されたポリエチレンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは世界で最も普及しているプラスチックの1つである。ポリエチレンは、食料品店袋、シャンプー容器、玩具、管、容器、ドラム、および防弾服さえも製造するために使用される。そのような用途の広い材料として、これは、非常に単純な構造を有し、すべての市販ポリマーの中で最も単純である。具体的には、ポリエチレンは、異なるアルキル置換体を有する長鎖アルカンを含んでいる。他の長鎖アルキル分岐を有する長鎖アルカンは、低密度ポリエチレン(LDPE)と呼ばれる。多くの短鎖アルキル分岐を有する長鎖アルカンは、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)と呼ばれる。高密度ポリエチレン(HDPE)にはアルキル分岐がほとんどなく、高結晶化度および高密度を有するポリエチレンをもたらす。直鎖ポリエチレンは、一般に分岐ポリエチレンよりはるかに強固であるが、分岐ポリエチレンを製造し加工することは、通常より安くより容易である。
【0003】
チーグラー・ナッタ触媒系は、高い重合活性を用いて、HDPEおよびLLDPEを含む種々様々のエチレンポリマーを製造するために使用されている。最も広く使用されるチーグラー・ナッタ触媒系は、チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび、場合によって、電子供与体を含む。チーグラー・ナッタ触媒成分が液状マグネシウムハロゲン、液状チタン化合物および電子供与体から得られる場合特に、高い活性が示されることが知られている。
【0004】
チーグラー・ナッタ触媒は、より高い活性および様々なポリマー物性を有するポリエチレンを製造するために間断なく開発されている。例えば、米国特許第7,153,803号は、従来のチタン触媒において、アルキルシリケートおよびモノエステルの添加を開示している。結果として生じた固体チタン触媒成分は、触媒反応の活性を高める。この固体チタン触媒成分を使用して、より少量の水素が、より低分子量のポリエチレンを製造するのに使用される。
【0005】
本発明者らは、チーグラー・ナッタ触媒合成における添加剤として幾つかの有機化合物を試験し、触媒における特定の族の有機化合物の添加は、狭い分子量分布および他の別個のポリマー物性を有するポリエチレンを製造することができることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のいくつかの態様の基本的理解を提供するために、本発明の簡略化した要約を以下に提示する。この要約は本発明の広汎な概説ではない。それは、本発明の主要素および決定的な要素を特定することも、本発明の範囲を線引きすることも意図するものではない。むしろ、この要約の唯一の目的は、以後に提示されるさらに詳細な説明に対する前置きとして簡略化された形態で本発明の一部の概念を提示することである。
【0007】
本発明は、エチレン重合触媒成分、触媒系、固体触媒要素および系を製造する方法、ならびに触媒系の使用を含むエチレンを重合および共重合する方法を提供する。固体触媒要素は、マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、アルコール、シロキサン混合物、チタン化合物およびマレアート誘導体の反応生成物を含む。触媒系は、固体触媒要素および有機アルミニウム化合物を含む。エチレンを重合または共重合する方法は、エチレンまたはエチレンおよびコモノマーを触媒系と接触させるステップを伴う。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的、および関連する目的を達成するために、本発明は、以降に詳細に記載される特徴、および特に請求項に記載される特徴を含む。以下の記載と添付図面で、本発明の特定の例示的態様および実施例を詳細に説明する。しかしながら、これらは、本発明の原理を使用することができる様々な方法のほんの一部を示したにすぎない。本発明の他の目的、利点および新規の特徴は、図面を参照することにより、以下の詳細な説明から明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一態様によるエチレン重合系の高レベル概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、チタン化合物、マグネシウム化合物、アルコール、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物およびマレアート誘導体の反応生成物;固体触媒成分(固体触媒要素および有機アルミニウム化合物を含む触媒系;固体触媒成分(固体触媒要素および系を製造する方法;ならびに触媒系を使用して水素の存在下でエチレンを重合および共重合する方法に関する。触媒系は、高密度ポリエチレン(HDPE)および直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)を製造するのに特に適切である。
【0011】
本発明のエチレン重合のための固体触媒要素は、マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、およびシロキサン混合物をアルコール中へ添加し混合物を形成すること;
混合物を加熱しマグネシウム溶液を形成すること;マグネシウム溶液をチタン化合物と、次いでシロキサン混合物と接触させ液状触媒中間体を形成すること;液状触媒中間体を加熱し触媒中間体粒子を形成すること;ならびに触媒中間体粒子をマレアート誘導体と接触させ固体触媒要素を形成することにより得られる。
【0012】
本発明の一態様は、マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物、およびアルコールの反応からマグネシウム溶液を形成することである。概して言えば、マグネシウム溶液は、高温(室温より高い)で、アルコールおよび場合によって、不活性希釈剤の存在下で少なくとも1種のマグネシウム化合物、少なくとも1種のアルミニウムアルコキシド、および少なくとも1種のシロキサン混合物を接触させることによって製造される。
【0013】
マグネシウム溶液の、および究極的には固体触媒要素の調製に使用されるマグネシウム化合物は、例えば、還元性を有するマグネシウム化合物および還元性を有しないマグネシウム化合物を含む。還元性を有しないマグネシウム化合物の具体例は、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウムおよびフッ化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウムおよびオクトキシ塩化マグネシウムなどのアルコキシハロゲン化マグネシウム;フェノキシ塩化マグネシウムおよびメチルフェノキシ塩化マグネシウムなどのアリールオキシハロゲン化マグネシウム;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n−オクトキシマグネシウムおよび2−エチルヘキソキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム;フェノキシマグネシウムおよびジメチルフェノキシマグネシウムなどのアリールオキシマグネシウム;ラウリン酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムのカルボン酸塩;金属のマグネシウム;および水素化マグネシウムを含むが、これらに限定されない。これらのマグネシウム化合物は液体または固体の状態であってもよい。
【0014】
還元性を有するマグネシウム化合物は、例えば、下記式(I)によって表される有機マグネシウム化合物であり、
MgR2−n (I)
式中、nは0≦n<2の数であり;Rは水素、1〜約20の炭素原子のアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基であり;nが0の場合、2個のRは互いに同じであっても異なっていてもよく、Xはハロゲンである。
【0015】
還元性を有する有機マグネシウム化合物の具体例は、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウムおよびオクチルブチルマグネシウムなどのジアルキルマグネシウム化合物;エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウムおよびアミル塩化マグネシウムなどのモノアルキルマグネシウムモノハライド;ブチルエトキシマグネシウム、エチルブトキシマグネシウムおよびオクチルブトキシマグネシウムなどのアルキルマグネシウムアルコキシド;ならびにブチルマグネシウム水素化物などの他の化合物を含むが、これらに限定されない。これらのマグネシウム化合物は、液体または固体の状態であってもよい。
【0016】
還元性を有しないマグネシウム化合物は、別々には、または触媒成分を調製する時点では還元性を有するマグネシウム化合物に由来する化合物であってもよい。これは、例えば、ポリシロキサン化合物、ハロゲン含有シラン化合物、ハロゲン含有アルミニウム化合物、エステルまたはアルコールなどの化合物と還元性を有するマグネシウム化合物との接触により影響を受ける。還元性を有しない上記マグネシウム化合物に加えて、本発明において使用されるマグネシウム化合物はまた、別の金属との錯化合物もしくは複化合物、または別の金属化合物との混合物であってもよい。
【0017】
本発明の一態様において、還元性を有しないマグネシウム化合物が使用される。本発明の別の態様において、塩化マグネシウム、アルコキシ塩化マグネシウムおよびアリールオキシ塩化マグネシウムなどのハロゲン含有マグネシウム化合物が使用される。
【0018】
マグネシウム溶液を調製するのに使用されるアルミニウムアルコキシドは、下記一般式(II)によって表され、
【化1】
式中、R、R’およびR”は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、またはt−ブチルなどの、12以下の炭素原子の同じ、または異なるヒドロカルビル基である。
【0019】
上記式の具体例は、ジエトキシアルミニウムブトキシド、エトキシアルミニウムジブトキシド、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリn−プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、およびアルミニウムトリt−ブトキシドを含むが、これらに限定されない。
【0020】
シロキサンは、主鎖にシロキサン結合(SiO−)を有する化合物である。例としては、アルキルジシロキサン、ハロゲン置換アルキルジシロキサン、1,3−ジハロアルキルジシロキサン、および1,3−ジハロフェニルジシロキサンなどのジシロキサンを含む。ジシロキサンの具体例は、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン、1,3−ジブロモテトラメチルジシロキサン、クロロメチルペンタメチルジシロキサン、および1,3−ビス(クロロメチル)テトラメチルジシロキサンを含むが、これらに限定されない。
【0021】
トリシロキサン、テトラシロキサン、およびペンタシロキサンは、3、4および5個のシロキサン結合をそれぞれ含む化合物である。トリシロキサン、テトラシロキサンおよびペンタシロキサンの具体例は、l,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサン、1,7−ジクロロオクタメチルテトラシロキサン、1,5−ジブロモヘキサメチルトリシロキサン、1,7−ジブロモオクタメチルテトラシロキサン、3−クロロメチルヘプタメチルトリシロキサン、3,5−ビス(クロロメチル)オクタメチルテトラシロキサン、3,5,7−トリス(クロロメチル)ノナメチルペンタシロキサン、3−ブロモメチルヘプタメチルトリシロキサン、3,5−ビス(ブロモメチル)オクタメチルテトラシロキサン、および3,5,7−トリス(ブロモメチル)ノナメチルペンタシロキサンを含むが、これらに限定されない。一実施形態において、トリシロキサン、テトラシロキサンおよびペンタシロキサンはメチル基を含む。
【0022】
ポリシロキサンはポリマーで、下記一般式(III)によって表すことができる。
【0023】
【化2】
【0024】
前述の一般式において、nは2から30,000までの平均重合度を表す。RからRのほとんどはメチル基を表す。フェニル基、水素原子、10から20の炭素数を有する高級脂肪酸残基、エポキシ含有基または1から10の炭素数を有するポリオキシアルキレン基が、RからRの幾つかを置換していてもよい。前述の一般式によって表される化合物は、RおよびRがそれぞれメチル基である環状ポリシロキサンを形成してもよい。
【0025】
ポリシロキサンは、シリコーン油として一般に知られている。これは、鎖状、部分水素化された環状、または変性されたポリシロキサンであり、25℃で2〜10,000cSt、好ましくは3〜500cStの粘度を有し、室温で液体または粘性がある。
【0026】
鎖状構造のポリシロキサンの具体例は、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジクロロポリシロキサン、およびジブロモポリシロキサンを含むが、これらに限定されない。部分的に水素化されたポリシロキサンの具体例は、10〜80%の水素化度を有するメチル水素ポリシロキサンを含む。
【0027】
環状ポリシロキサンの具体例は、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン、および2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンを含むが、これらに限定されない。変性されたポリシロキサンの具体例は、高級脂肪酸基置換ジメチルシロキサン、エポキシ基置換ジメチルシロキサン、およびポリオキシアルキレン基置換ジメチルシロキサンを含むが、これらに限定されない。
【0028】
一実施形態において、シロキサン混合物は、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、ポリメチルシロキサン、およびその混合物からなる群から選択される。
【0029】
マグネシウム溶液を調製するのに使用されるアルコールは、約8から約20の炭素原子を含んでいる。アルコールの具体例は、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、6−メチル−2−ヘプタノール、4−メチル−3−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデシルアルコール、ウンデセノール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソプロピルベンジルアルコール、α,α−ジメチルベンジルアルコール、オクタデシルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、およびナフトールを含むが、これらに限定されない。
【0030】
マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物およびアルコールは、任意の順序で合わせることができる(4つすべてを一度に;最初にマグネシウム化合物およびアルコールを合わせ、続いて、シロキサン混合物およびアルミニウムアルコキシドを添加;または最初にシロキサン混合物、アルミニウムアルコキシド、およびアルコールを合わせ、続いてマグネシウム化合物を添加)。
【0031】
溶解されたマグネシウム化合物をより十分に分散させるために、不活性希釈剤は、場合によって、マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物およびアルコールを含有する混合物へ添加することができる。不活性希釈剤は、それがマグネシウム化合物の分散を容易にし得る限り、通常、芳香族炭化水素またはアルカンであってもよい。芳香族炭化水素の例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、シメン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエンおよびその誘導体を含むが、これらに限定されない。アルカンの例は、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、テトラデカン、ドデカン、ケロシン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタンなどの、約3から約30の炭素を有する直鎖、分岐または環状のアルカンを含む。これらの不活性希釈剤は、単独でまたは併用で使用されてもよい。
【0032】
マグネシウム化合物、アルミニウムアルコキシド、シロキサン混合物、アルコール、および不活性希釈剤の混合物は、場合によって、室温または室温以上で適切な時間加熱される。一実施形態において、混合物は、65℃以上の温度に約15分から約8時間加熱される。別の実施形態において、混合物は約80℃から約130℃温度に約30分から約5時間加熱される。また別の実施形態において、混合物は、約100℃から約120℃の温度に約1時間から約4時間加熱される。
【0033】
適切な量のアルコールがマグネシウム化合物を溶解するために使用される。一実施形態において、アルコールとマグネシウム化合物のモル比は、約3:1から約20:1である。別の実施形態において、アルコールとマグネシウム化合物のモル比は、約3:1から約10:1である。また別の実施形態において、アルコールとマグネシウム化合物のモル比は、約3:1から約5:1である。
【0034】
一実施形態において、不活性希釈剤が、結果として得られるマグネシウム溶液のマグネシウムの濃度が約0.3から約1モル/リットルとなるような量で使用される。
【0035】
マグネシウム溶液において、アルミニウム/マグネシウム(原子比率)は、約0.01から約1であり、シリコン/マグネシウム(原子比率)は約0.1から約3である。一実施形態において、アルミニウム/マグネシウム(原子比率)は約0.02から約0.7であり、シリコン/マグネシウム(原子比率)は約0.2から約2.5である。別の実施形態において、アルミニウム/マグネシウム(原子比率)は約0.03から約0.6であり、シリコン/マグネシウム(原子比率)は約0.3から約1.0である。
【0036】
本発明において使用される固体触媒要素は、少なくとも1種のチタン化合物、少なくとも1種の内部電子供与体、および上記のマグネシウム溶液からの反応生成物を含む非常に活性な触媒成分である。
【0037】
固体触媒要素の調製において使用されるチタン化合物は、例えば、化学式(IV)によって表される四価チタン化合物を含み、
【化3】
式中、Rは炭化水素基、好ましくは1から約20の炭素原子を有するアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、かつ0≦g≦4である。チタン化合物の具体例は、TiCl、TiBrおよびTiIなどのチタンテトラハライド;Ti(OCH)Cl、Ti(OC)Cl、Ti(O−n−C)Cl、Ti(OC)BrおよびTi(O−i−C)Brなどのアルコキシチタントリハライド;Ti(OCHCl、Ti(OCCl、Ti(O−n−CClおよびTi(OCBrなどのジアルコキシチタンジハライド;Ti(OCHCl、Ti(OCCl、Ti(O−n−CClおよびTi(OCBrなどのトリアルコキシチタンモノハライド;ならびにTi(OCH、Ti(OCおよびTi(O−n−Cなどのテトラアルコキシチタンを含むが、これらに限定されない。これらの中でも、ハロゲン含有チタン化合物、特にチタンテトラハライドが、いくつかの事例において好ましい。これらのチタン化合物は、個々に、または炭化水素化合物もしくはハロゲン化炭化水素の溶液において使用されてもよい。
【0038】
一実施形態において、固体触媒要素の調製に、内部電子供与体は使用されない。別の実施形態において、固体触媒要素の調製に、内部電子供与体、例えば、シロキサンおよびポリカルボン酸エステルなどの酸素含有電子供与体が使用される。先に記載されたシロキサンおよびシロキサン混合物は、固体触媒要素を製造するために電子供与体として使用することができる。
【0039】
ポリカルボン酸エステルの例は、下記化学式(V)によって表されるマレアート誘導体を含み、
【化4】
式中、RおよびRは、同じであるかまたは異なり、C〜C20直鎖アルキル、C〜C20分岐アルキル、またはC〜C20アルキルアリール基をそれぞれ表す。
【0040】
マレアート誘導体の具体例は、マレイン酸エチルメチル、マレイン酸メチル(イソプロピル)、マレイン酸エチル(n−プロピル)、マレイン酸エチル(n−ブチル)、マレイン酸エチル(イソブチル)、マレイン酸n−ブチル(イソヘキシル)、マレイン酸n−ブチル(2−エチルヘキシル)、マレイン酸n−ペンチルヘキシル、マレイン酸n−ペンチル(イソヘキシル)、マレイン酸イソペンチル(ヘプチル)、マレイン酸n−ペンチル(2−エチルヘキシル)、マレイン酸n−ペンチル(イソノニル)、マレイン酸イソペンチル(n−デシル)、マレイン酸n−ペンチルウンデシル、マレイン酸イソペンチル(イソヘキシル)、マレイン酸n−ヘキシル(2,2−ジメチルヘキシル)、マレイン酸n−ヘキシル(2−エチルヘキシル)、マレイン酸n−ヘキシル(イソノニル)、マレイン酸n−ヘキシル(n−デシル)、マレイン酸n−ヘプチル(2−エチルヘキシル)、マレイン酸n−ヘプチル(イソノニル)、マレイン酸n−ヘプチル(ネオデシル)、およびマレイン酸2−エチルヘキシル(イソノニル)を含むが、これらに限定されない。
【0041】
一実施形態において、マレアート誘導体はマレイン酸ジアルキルである。マレイン酸ジアルキルの具体例は、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジn−プロピル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジn−ブチル、マレイン酸ジイソブチル、マレイン酸ジn−ペンチル、マレイン酸ジイソペンチル、マレイン酸ジネオペンチル、マレイン酸ジn−ヘキシル、マレイン酸ジイソヘキシル、マレイン酸ジn−ヘプチル,マレイン酸ジイソヘプチル,マレイン酸ジn−オクチル,マレイン酸ビス(2,2−ジメチルヘキシル)、マレイン酸ビス(2−エチルヘキシル)、マレイン酸ジn−ノニル、マレイン酸ジイソデシル、およびマレイン酸ビス(2,2−ジメチルヘプチル)を含むが、これらに限定されない。
【0042】
内部電子供与体を使用する際に、出発物質としてそれらを直接使用する必要はなく、固体触媒要素を調製する間に電子供与体に変換可能な化合物も、出発物質として使用することができる。
【0043】
実施例に従う固体触媒要素を製造する実施形態において、液体混合物を形成するために、場合によって不活性希釈剤の存在下で、液体チタンテトラハライドなどのチタン化合物はマグネシウム溶液と接触する。接触の温度は約−30℃から約−10℃の範囲にある。マグネシウム溶液を調製するために使用される前述の不活性希釈剤が使用されてもよい。液体混合物は、約10℃から約50℃の温度に加熱される。シロキサン混合物などの内部電子供与体化合物を液体混合物へ添加し、液状触媒中間体を形成することができる。チタン化合物は、液状触媒中間体を加熱することによって固体が沈澱することができる十分な量が使用される。
【0044】
液状触媒中間体は加熱され、約50℃から約100℃の範囲の温度で約30分から約2時間保持されてもよい。次いで、液状触媒中間体は触媒中間粒子に変換することができる。触媒中間粒子は濾過によって分離し、次いで、追加の不活性希釈剤と混合し、スラリーを形成することができる。
【0045】
マレアート誘導体などの内部電子供与体が触媒中間粒子を含有するスラリーと接触させてもよい。接触時間は約10から約120分の範囲にある。接触温度は50℃から約100℃の範囲にある。粗の触媒粒子は、液体が濾過された後、得られる。
【0046】
何らかの副生物を除去するために、粗の触媒粒子は不活性希釈剤でさらに洗浄されてもよい。本明細書において使用される不活性希釈剤は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびその他の炭化水素であってもよい。
【0047】
不活性希釈剤で粗の触媒粒子を洗浄することによって、抽出可能なチタン化合物は粗の触媒粒子から除去することができる。その結果、生じた固体触媒粒子/固体触媒要素は、抽出可能なチタン化合物を実質的に含んでいない。一実施形態において、固体触媒粒子に含まれるチタンが約2000ppm以下になるまで、粗の触媒粒子は不活性希釈剤で繰り返し洗浄される。別の実施形態において、粗の触媒粒子は、固体触媒粒子に含まれるチタンが約1000ppm以下になるまで、不活性希釈剤で繰り返し洗浄される。また別の実施形態において、固体触媒粒子に含まれるチタンが約500ppm以下になるまで、粗の触媒粒子は不活性希釈剤で洗浄される。一実施形態において粗の触媒粒子は、約3回以上かつ7回以下、不活性希釈剤で洗浄することができる。
【0048】
一実施形態において、固体触媒要素は、約5.0から約9.0重量%のチタン、約10から約15重量%のマグネシウム、ならびに約5から約40重量%のシロキサン混合物およびマレアート誘導体の内部電子供与体を含んでいる。別の実施形態において、固体触媒要素は約5から約30重量%の内部電子供与体を含んでいる。また別の実施形態において、固体触媒要素は約10から約25重量%の内部電子供与体を含んでいる。
【0049】
触媒系は固体触媒要素に加えて少なくとも1種の有機アルミニウム化合物を含んでいてもよい。分子中に少なくとも1個のアルミニウム炭素結合を有する化合物は、有機アルミニウム化合物として使用することができる。有機アルミニウム化合物の例は、下記化学式(VI)の化合物を含む。
【0050】
【化5】
【0051】
式(VI)において、Rは、1から約20の炭素原子を有する炭化水素基を通常表し、Xはハロゲン原子を表し、かつ0<n≦3である。
【0052】
式(VI)によって表される有機アルミニウム化合物の具体例は、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムおよびトリヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;トリイソプレニルアルミニウムなどのトリアルケニルアルミニウム;ジエチル塩化アルミニウム、ジブチル塩化アルミニウムおよびジエチル臭化アルミニウムなどのジアルキルハロゲン化アルミニウム;エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリドおよびエチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリドおよびブチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライド;ジエチルアルミニウム水素化物およびジブチルアルミニウム水素化物などのジアルキルアルミニウム水素化物;ならびにエチルアルミニウム二水素化物およびプロピルアルミニウム二水素化物などのその他の部分的に水素化されたアルキルアルミニウムを含むが、これらに限定されない。
【0053】
有機アルミニウム化合物は、本発明の触媒系において、アルミニウムとチタンのモル比(固体触媒要素からの)が約1から約100となる量で使用される。別の実施形態において、触媒系のアルミニウムとチタンのモル比は、約2から約70である。また別の実施形態において、触媒系のアルミニウムとチタンのモル比は、約2.5から約40である。
【0054】
本発明によるエチレンの重合は、上記の触媒系の存在下で任意の適切な方法で実施される。概して言えば、適切な条件下で通常水素の存在下に、上記の触媒系にエチレンを接触させて所望のポリエチレン生成物を形成する。
【0055】
重合では通常、有機アルミニウム化合物の少なくとも一部と組み合わせて固体触媒要素を用いる。一実施形態において、エチレンと上記触媒系成分を不活性炭化水素媒体に添加し、穏やかな条件下でエチレンを重合させることによって重合を実施する。
【0056】
不活性炭化水素媒体の具体例には、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンおよびケロシンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンおよびメチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素;塩化エチレンおよびクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、ならびにその混合物が挙げられる。本発明において、不活性炭化水素媒体の一部または全部に代えて液状のオレフィンを使用してもよい。
【0057】
本発明の方法において、エチレンの重合は気相、懸濁相、または液相において遂行することができる。一実施形態において、重合がスラリー反応様式で遂行される場合、前述の不活性炭化水素が反応溶媒として使用されてもよい。別の実施形態において、反応温度で液体であるポリエチレンが代替として、反応溶媒として使用されてもよい。また別の実施形態において、反応温度で液体である不活性炭化水素およびエチレンは反応溶媒として使用されてもよい。
【0058】
一実施形態において、エチレン重合は、望ましくは、触媒系の固体触媒要素のグラム当たり約2kg〜約60kgのポリエチレンが形成されるように実施される。別の実施形態において、重合は、望ましくは、チタン触媒成分のグラム当たり約5kg〜約30kgのポリエチレンが形成されるように実施される。
【0059】
一実施形態において、本発明の重合は、重合ゾーンの容積のリットル当たりのTi原子として計算して約0.001〜約0.75ミリモルの量の固体触媒要素、および固体触媒要素中のチタン原子のモル当たり約1から約100モルの量の有機アルミニウム化合物を含有する触媒系を使用する。別の実施態様において、重合は、重合ゾーンの容積のリットル当たりのTi原子として計算して約0.005〜約0.5ミリモルの量の固体触媒要素、および固体触媒要素中のチタン原子のモル当たり約5〜約50モルの量の有機アルミニウム化合物を含有する触媒系を用いる。
【0060】
重合時の水素の使用は、得られるポリマーの分子量の制御を促進し、それに寄与し、得られるポリマーは高い、かつ/または制御可能なメルトフローレートを有する。この場合、本発明の方法によると、触媒系の活性は減少しない。
【0061】
一実施形態において、本発明の重合温度は約0℃〜約200℃である。別の実施形態において、本発明の重合温度は、約20℃〜約180℃である。一実施形態において、重合圧は、通常、およそ大気圧から約100kg/cmである。別の実施形態において、重合圧は、通常約2kg/cmから約50kg/cmである。重合は、バッチ式、半連続式または連続式に実施してもよい。重合は、異なった反応条件下で2以上の段階にて実施してもよい。
【0062】
そのようにして得られたポリエチレンは、エチレンのホモポリマー、エチレンおよびアルファオレフィンのランダムコポリマー、またはエチレンおよびアルファオレフィンのブロックコポリマーであってもよい。本発明の方法によって得られたポリエチレンは、粒子サイズ分布、粒子直径およびかさ密度において優れ、得られたポリエチレンは狭い組成物分布を有する。
【0063】
本発明の一態様において、式HC=CHRによって表されるアルファオレフィン化合物とのエチレンのコポリマーを含むエチレンコポリマーが提供され、ここで、Rは、C〜C20の直鎖、分岐または環状アルキル基、またはC〜C20アリール基、C〜C20の直鎖、分岐または環状ジエンである。
【0064】
アルファオレフィン化合物の具体例は、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−l−ブテン、1−デセン、1−ドデセン、ビニルシクロヘキサン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどを含むが、これらに限定されない。
【0065】
さらに、ビニル化合物、他の不飽和化合物およびポリエン化合物もまた、エチレンと共重合することができる。コモノマーは、スチレン、置換スチレン、アリルベンゼン、置換アリルベンゼン、ビニルナフタレン、置換ビニルナフタレン、アリルナフタレンおよび置換アリルナフタレンなどの芳香族ビニル化合物;ビニルシクロペンタン、置換ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、置換ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、置換ビニルシクロヘプタンおよびアリルノルボルナンなどの脂環式ビニル化合物;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセンおよび2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレンなどのシクロオレフィン;ならびに、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、4−トリメチルシリル−1−ブテン、6−トリメチルシリル−1−ヘキセン、8−トリメチルシリル−1−オクテンおよび10−トリメチルシリル−1−デセンなどの不飽和シラン化合物を含むが、これらに限定されない。2種以上の上記コモノマーはエチレンと共重合することができる。
【0066】
本触媒系で製造されたこのエチレンコポリマーは、通常、約10重量%以下のコモノマーを含んでいる。別の実施形態において、本触媒系で製造されたエチレンコポリマーは、5重量%以下のコモノマーを含んでいる。
【0067】
本発明の触媒系の使用により得られたポリエチレンは、非常に少量の非晶質ポリマー成分、および、したがって少量の炭化水素可溶成分を有する。したがって、この結果として生じたポリマーから成型されたフィルムは、低い表面粘着性を有しかつフィッシュアイを有さない。
【0068】
一実施形態において、本発明の触媒系の触媒活性(触媒のグラム当たり製造されたポリマーのキログラムとして測定して)は、少なくとも約10である。
【0069】
本発明の触媒/方法は比較的狭い分子量分布を有するポリエチレンの生産をもたらす。一実施形態において、本発明の触媒系で製造されたポリエチレンポリマーのM/Mは、約3〜約9である。別の実施形態において、本発明の触媒系で製造されたポリエチレンポリマーのM/Mは、約3〜約7である。また別の実施形態において、本発明の触媒系で製造されたポリエチレンポリマーのM/Mは、約3〜約5である。
【0070】
本発明の触媒/方法は、いくつかの事例において、約0.001〜約3,000dg/分のメルトフローインデックス(MI)を有するポリエチレンの生産をもたらすことができる。一実施形態において、ポリエチレン生成物は約0.005〜約1,000dg/分のMIを有する。別の実施形態において、ポリエチレン生成物は、約0.02〜約10dg/分のMIを有する。MIはASTM標準D 1238に従って測定される。
【0071】
本明細書に記載のポリエチレンポリマーに得られる他の有用な物理的性質は、ASTM標準D1238によって求められるI21.6/I2.16のメルトインデックス比(MIR)を含む。I21.6は、21.6kgの荷重下で190℃でポリマー測定したメルトインデックスであり、I2.16は、2.16kgの荷重下で190℃でポリマー測定したメルトインデックスである。より低いMIRはより狭い分子量分布を示す。
【0072】
本発明によれば、狭い分子量分布を有する所望のポリエチレンポリマーは高収率で得ることができるが、望まれない広い分子量分布ポリエチレンは減少させることができる。チタンの単位量当たり得られるポリマーの量が大きいので、重合後触媒を除去する作業は省略することができる。
【0073】
本発明に従って触媒系を使用することは、高い触媒効率、均一かつ大きい粒子サイズ、および低い微粉含有率を同時に有する触媒を与える。
【0074】
本発明は、優れた溶融流動性、成形性、良好な水素応答、サイズ、形状、サイズ分布に対する良好な制御、ならびにより狭い分子量分布、および/または良好な作業性のうちの1つまたは複数を有するエチレンポリマーおよびコポリマー製造することができる。本発明に従って触媒系によって調製されたエチレンポリマーおよびコポリマーを使用して、ブロー成形、射出成形、押し出し成形などによって様々な形態の物品を製造することができる。Tダイ法およびインフレーション加工法によってフィルムを調製することもまた適切である。
【0075】
使用することができる多不飽和化合物への言及がない場合も、重合の方法、触媒系の量および重合条件について、上記実施形態と同じ記載が適用できることは理解されるはずである。
【0076】
オレフィンを重合する系の例がここに記載される。図1を参照して、エチレンを重合する系10の高レベル概略図を示す。入口12を用いて、触媒系成分、エチレン、水素ガス、流動性媒体、pH調整剤、界面活性剤およびその他の任意の添加剤を反応器14に導入する。1つの入口のみを示すが、多数の入口が用いられることが多い。反応器14はエチレンを重合させるのに使用することができる任意の適切な手段である。反応器14の例には、単一反応器、2以上の反応器の組、スラリー反応器、固定床反応器、気相反応器、流動気体反応器、揺動床反応器、ループ反応器、多重ゾーン循環反応器などが挙げられる。一旦重合が完了すると、またはポリエチレンが製造されると、回収器18につながる出口16を介してポリマー生成物を取り出す。回収器18には、下流処理、例えば、加熱、押出し、成形などが含まれてもよい。
【0077】
図1に示していないが、系および反応器を、場合によって連続的または間欠的な検査に基づくフィードバックにより、任意選択の記憶および制御装置を備えたプロセッサーを用いて、制御することができる。例えば、プロセッサーを、反応器、入口、出口、反応器に連結した検査/測定系などの1つまたは複数に接続し、反応に関して前もって設定したデータに基づいて、および/または反応中生成される検査/測定データに基づいて重合過程を監視および/または制御することができる。制御装置は、プロセッサーによって指示されるとおり、バルブ、流速、系に入る材料の量、反応の条件(温度、圧力、反応時間など)などを制御することができる。プロセッサーは、重合過程および/または重合過程に関与する系の種々の状況に関するデータを含有する記憶装置を含有してもよく、またはそれに連結されてもよい。
【0078】
所与の特性の任意の数字または数的範囲に関して、1つの範囲の数字またはパラメーターは、同じ特性の異なる範囲の別の数字またはパラメーターと組み合わせて、ある数的範囲を作成してもよい。
【0079】
操作の実施例以外、または他に指示されない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される、成分、反応条件などの量を指すすべての数、値および/または表現は、すべての事例において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。
【0080】
以下の実施例は本発明を説明する。以下の実施例ならびに明細書および特許請求の範囲のどこかで示されない限り、部および比率はすべて重量によるものであり、温度はすべて摂氏での度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0081】
実施例1
無水塩化マグネシウム12.0g、ヘキサン200ml、2−エチルヘキサノール60ml、Syltherm XLT、1.9gおよびアルミニウムトリイソプロポキシド(Al(OiPr))0.43gを、N下で1リットルBuchi反応器に装填した。Syltherm XLTは、Dow Chemicalsの製品であり、オクタメチルトリシロキサン36%、デカメチルテトラシロキサン28%、ドデカメチルペンタシロキサン17%およびポリジメチルシロキサン17%〜20%を含んでいた。反応器撹拌速度を300rpmに設定し、次いで、120℃に加熱し1.5時間保持し、マグネシウム溶液を形成した。
【0082】
上記に調製したマグネシウム溶液33.2gおよびヘキサン15.8gを、N下で250mlBuchi反応器に装填した。反応器は、200rpmの撹拌速度で−20℃に冷却した。次いで、TiCl86.4gを反応器にゆっくり添加し、その間、反応器温度は−15℃未満に維持し、15分間−15℃に保持した。次いで、反応器温度は21℃に上げ、Syltherm XLT、0.44gを反応器に添加した。反応器は21℃で15分間保持し、次いで、90℃に加熱し、1時間保持した。反応器は、50℃に冷却し、撹拌を止めた。次いで、液体を濾過した。
【0083】
ヘキサン53gを反応器に添加し、次いで、マレイン酸ジエチル0.25gおよびヘキサン3gの混合物を反応器に添加した。撹拌速度は200rpmに設定した。反応器は80℃に加熱し、1時間保持した。次いで、撹拌を止め、液体は濾過した。400rpmおよび60℃10分間の撹拌をしながら、反応器内の固体をヘキサン65mlで洗浄した。次いで、液体は濾過した。ヘキサン洗浄はさらに3回反復した。触媒はヘキサンスラリーとして放出した。
【0084】
エチレン重合は1ガロンの反応器で行った。反応器を窒素下で100℃で1時間パージした。室温で、ヘプタン中の25重量%トリエチルアルミニウム(TEAL)0.6mlを反応器に添加した。次いで、ヘキサン1500mlを添加し、上記で調製した触媒10mgを反応器に添加した。反応器をHで60.0psigに加圧し、次いで、エチレンで116psigに装填した。反応器は80℃に加熱し、2時間保持した。ホールドの端部で、反応器から放出し、ポリマーを回収した。
【0085】
実施例2
マレイン酸ジエチル0.50gを触媒合成において添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0086】
実施例3
マレイン酸ジエチル0.70gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0087】
実施例4
マレイン酸ジエチル0.85gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0088】
実施例5
マレイン酸ジエチル1.00gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0089】
実施例6
マレイン酸ジエチル1.20gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0090】
実施例7
マレイン酸ジエチル1.35gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0091】
実施例8
マレイン酸ジメチル1.50gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0092】
実施例9
マレイン酸ジエチル2.00gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0093】
実施例10
マレイン酸ジブチル1.00gを添加した以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0094】
実施例11
マレイン酸ジブチル1.50gを添加した以外、触媒を実施例10と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0095】
比較例
電子供与体を添加しなかったこと以外、触媒を実施例1と同じ条件下に合成した。エチレン重合は実施例1と同じ条件下に行った。
【0096】
触媒および重合の特定の態様は表1中に記載されている。触媒活性は触媒のグラム当たりのポリエチレンのキログラムによって測定される。MIは、ASTM D 1238に従ってg/10分で測定されたメルトフローインデックスである。MIRは、ASTM−1238条件によって2.16kgおよび21.6kg190℃で求められるI21.6/I2.16を指す。
【0097】
【表1】
【0098】
結果は、実施例1〜11のMIR値が比較例のMIR値よりはるかに小さいことを示す。これらのデータは、本発明の結果として得られたポリエチレンがより狭い分子量分布を有することを実証する。
【0099】
開示された情報を記載する目的で成分または方法論の考えられる限りの組み合わせを記載することは、当然、可能ではないが、当業者は、開示された情報の多数のさらなる組み合わせや置き換えが可能であることを認識することができる。したがって、開示された情報は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内に入るそのような変更、改変および修飾をすべて包含することが意図される。さらに、用語「包含する」(includes)、「有する」(has)、「伴う」(involve)またはその変形が、詳細な説明または特許請求の範囲のいずれかで使用される程度に、そのような用語は、特許請求の範囲における遷移句として用いられる場合に解釈される意味での「含むこと」(comprising)と同様に、包括的な意味を有するように意図される。
図1