【文献】
RAMASWAMY G. N., et al.,Uniformity and Softness of Kenaf Fibers for Textile Products,Textile Research Journal,1995年12月,Vol.65, No.12,pp.765-770
【文献】
OSSOLA M., et al.,Scouring of flax rove with the aid of enzymes,Enzyme and Microbial Technology,2004年 2月,Vol.34,pp.177-186
【文献】
CAO et al.,Screening of pectinase producer from alkalophilic bacteria and study on its potential application in degumming of ramie,Enzyme Microb. Technol.,1992年12月,vol.14,pp.1013-1016
【文献】
ZHENG at al.,Biobleaching effect of xylanase preparation from an alkalophilic Bacillus sp. on ramie fibers,Biotechnology Letters,2000年,vol.22,pp.1363-1367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境上の温暖化現象が問題となり、人間の着衣に対しても涼感に優れた素材が求められ、繊維市場において、天然素材であって、さらっとした感触を有する麻の人気が高まり、麻繊維の布としての需用は拡大している。
麻と同じ天然のセルロース繊維である綿繊維は、「ワタ」と呼ばれる植物の種に由来し、繊維自体は柔軟であり、紡糸性、加工性に優れている。他方、麻は、布の作製に使用される原料部位は、植物の葉や茎である。葉や茎はセルロースで形成され、リグニン等の成分が繊維間に存在しているため、繊維素材としての強度は高いものの、硬く、繊維表面が平滑であり、加工が困難であったり、加工して得られた布の感触がざらついて感触は悪化したりすることがある。
麻繊維等のセルロース繊維の感触を改良する技術としては、例えば、セルロース系繊維織物の表面をセルロース分解酵素で処理し、その後、強アルカリ水溶液で処理する方法が提案されている(例えば、特開平5−247852号公報参照)。
また、セルロース繊維布帛の改質方法として、セルロース繊維布帛の表面のみをセルロース分解酵素で処理する方法が提案され、セルロース繊維の例として麻が開示されている(例えば、特開平6−346375号公報参照)。
これらの技術は、麻等のセルロース繊維からなる織物表面の触感を改良することを課題とする技術であり、紡糸用糸等に適用する目的で繊維原料を加工する用途については考慮されていない。
【0003】
麻繊維は、高強度であるが剛直である。このため、麻繊維を紡糸し、得られた麻糸を用いて織物、編物を作製するために、織ったり編んだりする加工用の麻糸を紡糸しようとする場合、麻繊維は表面が平滑であるため、一般に使用される撚り糸を製造するための紡糸装置に掛かりにくく、紡糸時の繊維の歩留まりが低く、繊維の脱落や糸切れが起こり易く、生産性が低いという問題がある。また、麻繊維は剛直であるため、細径の撚り糸、糸の太さが一定の撚り糸等が得難く、従来の麻糸を使用した織物、編物の製造においても生産性が低下する要因となっている。
【0004】
麻等の植物の葉及び茎を割いて繊維原料にする方法は、歴史的には古代から行われている。その方法としては、麻繊維を細く裂き、セルロースの繊維細胞間のリグニン等の物質を除去して柔軟にするため、繊維を砧で叩いたり、漉いたりという物理的手段を適用する方法が古来行なわれていた。
近年でも、麻繊維を紡績する前に、麻繊維をローラー間で圧縮する等の方法がとられているが、十分な紡糸時の歩留まりを達成してはいないのが現状である。また、強アルカリや強酸によりセルロース繊維を処理すると柔軟性が付与されることが知られてはいるが、繊維の強度を著しく低下させるため、現実的ではない。
従って、現在流通している麻繊維製品は、麻繊維からなる糸の不均一さに起因する独特の感触を特徴とするものが多く、綿のように柔軟で汎用性の高い麻の撚り糸や麻布の提供が望まれている。
【0005】
麻繊維を改質する方法として、麻繊維を、セルロース分解酵素を含有する処理液で処理することで、麻繊維のセルロース間に存在するペクチン、リグニン等を除去する方法が提案され、この処理により、皮膚刺激性が少なく、紡績性に優れた麻繊維を得ることができると開示されている(例えば、特開平1−139874号公報参照)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
[紡糸用麻繊維の製造方法]
本発明の一実施形態である紡糸用麻繊維の製造方法は、セルロース分解酵素及びグリコシド結合を加水分解する酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素と、アルカリ剤と、水と、を含有する処理液(以下、処理液と称することがある)に、原料麻繊維を浸漬し、60℃〜100℃の温度条件下で、30分間〜60分間保持する浸漬処理工程(以下、浸漬処理工程と称することがある)と、浸漬処理された麻繊維を水洗する水洗工程(以下、水洗工程と称することがある)と、水洗された麻繊維を乾燥する乾燥工程(以下、乾燥工程と称することがある)と、を含む。
なお、本明細書において「原料麻繊維」とは、紡糸用麻繊維の製造方法における各処理を施す前の、紡糸用麻繊維の原料である麻繊維を指す。
【0013】
本実施形態の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
本実施形態の製造方法により、麻繊維を、セルロースを分解しうるセルロース分解酵素及びグリコシド結合を加水分解する酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素とアルカリ剤を含む処理液を加温し、加温した処理液に浸漬処理することにより、麻繊維を、セルロースを分解しうる酵素のみを含有する処理液に浸漬した場合に比較し、アルカリ剤が処理液の浸透促進剤として機能し、麻繊維が膨潤して水分が浸透しやすくなる。処理液が繊維を膨潤させるに伴い、繊維間に水分と共に酵素が浸入して留まることにより、セルロース間に存在するリグニン等も膨潤して除去されやすい状態となり、繊維が柔軟になる。処理した繊維を水洗し、乾燥することで、セルロース間に存在したリグニン等が除去され、セルロース間の空隙が固定化される。このため、麻繊維の表面においては、セルロース間のリグニン等が除去された箇所には微細な起毛が生成される。また、繊維の中心部では、微細な中空部が形成され、フィブリル化が進行することになり、浸漬処理工程後の水洗、乾燥に伴って、繊維に捩れが生じる。このため、表面に起毛があり、柔軟で捩れのある、紡糸装置に掛かり易い麻繊維が製造されるものと推定される。
なお、本実施形態は上記推定機構には何ら制限されない。
【0014】
以下、本実施形態の紡糸用麻繊維の製造方法について、工程順に説明する。
<浸漬処理工程>
本実施形態の紡糸用麻繊維の製造方法では、原料麻繊維を以下に示すセルロース分解酵素及びグリコシド結合を加水分解する酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素と、アルカリ剤と、水と、を含む処理液に浸漬処理する。
(麻繊維)
通常、麻繊維とは、苧麻と亜麻を指すが、本明細書における麻繊維はこれら狭義の麻繊維に限定されない。
本実施形態の紡糸用麻繊維の製造方法を適用しうる原料麻繊維としては、いずれの麻繊維でもよい。本明細書における麻繊維は、例えば、以下に示す植物麻に由来する麻繊維のいずれをも包含する意味で用いられる。
具体的には、例えば、桑科アサ属大麻(cannabis sativa、ヘンプとも称される)、アマ科アマ属亜麻(Linum usitatissimum)、イラクサ科苧麻(ちょま、Boehmeria nivea var. nipononivea、ラミー、カラムシとも称される)、アオイ科フヨウ属ケナフ(Hibiscus cannabinus、洋麻(ヨウマ)とも称される)、シナノキ科シナソ属コウマ(Corchorus capsularis)、シナノキ科シナソ属アイマツナド(Corchorus olitorius)、バショウ科バショウ属マニラアサ(Musa textilis)、アオイ科アンバリ麻、ガンボ麻、ボンベイ麻、リュウゼツラン科リュウゼツラン属サイザル麻(Agave sisalana)、
キャナビス、ニュージランドアマ、リュウゼツラン科マオラン(Phormium tenax)、チャイナグラス、シナノキ科シナソ属タイワンツナソ(シマツナソとも称される、Corohorus Olitorius)等が挙げられる。
また、コウマ或いはシマツナソから得られる麻繊維であるジュートも、本明細書における麻繊維に含まれる。
既述の麻繊維のなかでも、工業的スケールでの生産性、原料の入手容易性の観点から、ヘンプ、ラミー、亜麻等に本実施形態の製造方法を適用することが好ましい。
【0015】
本実施形態の紡糸用繊維の製造方法は、剛直なセルロース繊維であるシチトウイ、芭蕉、バナナの葉、月桃の葉、茎、パピルス、カポックコウゾ、ミツマタ、ガンピ、柳、竹、ハスの樹皮、茎、葉等から得られる繊維等にも有効ではあるが、特に麻繊維に用いることで、生産性の向上効果が著しい。
【0016】
植物から麻繊維を得る方法には特に制限はなく、公知の方法を適用できる。通常は、原料となる植物(麻)を、水、及び酸等の薬品を含有する水溶液に浸漬し、繊維筋を取り出し、水洗、乾燥して麻繊維を得る。
【0017】
(麻繊維の前処理)
本実施形態の製造方法においては、原料麻繊維を、まず、加工を容易にするために長さ2cm〜20cm程度に切断する。長さは原料として用いる麻繊維の特性に応じて適宜決定すればよく、2cm〜15cm程度に切断することが好ましい。
原料麻繊維の長さは、例えば、ヘンプであれば、8cm〜12cm程度、ラミーであれば、3cm〜6cm程度、アマであれば、2cm〜5cm程度がより好ましいが、これに制限されるものではない。
本実施形態の製造方法によれば、長繊維の原料麻繊維を用いても柔軟性、加工性を向上できる。このため、従来は、3.5cm〜5.5cmの長さの原料麻繊維を用いることが多かったところ、例えば、7cm〜13cmの長さに切断された原料麻繊維も好適に使用しうる。一般に、繊維長が長いほど、麻繊維に起因する皮膚刺激がより効果的に抑制され、且つ、紡糸装置への適用性がより向上する。
【0018】
切断された原料麻繊維は、水に浸漬し、その後、セルロース分解酵素等と、アルカリ剤と、水と、を含有する処理液に浸漬する。
原料麻繊維は、処理液に浸漬する前に予め洗浄してもよく、原料麻繊維の汚れを除去するために水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ剤を含有する水溶液(以下、アルカリ剤含有水溶液と称することがある)に浸漬し、その後、水洗処理してもよい。原料麻繊維の前処理に使用するアルカリ剤含有水溶液は、繊維に付着した汚れを除去することを目的とするため、濃度は3質量%〜10質量%であることが好ましい。洗浄を目的とする原料麻繊維のアルカリ剤含有水溶液への浸漬は、アルカリ剤含有水溶液を加温せず、水溶液の調製に用いられた水の温度である10℃〜25℃前後の温度で行なってもよく、アルカリ剤含有水溶液を80℃程度の温度まで加温して行ってもよい。浸漬時間は、水溶液を加温しない場合には、40分間〜120分間程度であることが好ましく、加温した場合には、20分間〜40分間程度であることが好ましい。
【0019】
以下、浸漬処理工程に用いられる、セルロース分解酵素等と、アルカリ剤と、水と、を含有する処理液に含まれる成分について説明する。
(セルロース分解酵素、及び、グリコシド結合を加水分解する酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素)
浸漬処理工程に使用される処理液は、セルロース分解酵素、及び、グリコシド結合を加水分解する酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素(以下、セルロース分解酵素等とも称する)を含有する。
処理液の調製に用いる酵素としては、以下に挙げるものが好ましい。
セルロース分解酵素としては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼなどが知られており、公知のセルロース分解酵素はいずれも使用しうる。
グリコシド結合を加水分解する酵素は、セルロース中のグリコシド結合を加水分解する機能を有し、セルロース分解酵素と同様の働きをする酵素であり、例えば、アミラーゼ、サッカラーゼ、マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼなどが挙げられる。
これらの中でも、効果の観点から、セルロース分解酵素等としてのセルラーゼが好ましい。
セルラーゼは、例えば、セルアシッド、バイオアシッド(以上、商品名、サービステックジャパン社)などの市販品としても入手可能である。
【0020】
(アルカリ剤)
浸漬処理工程に用いられる処理液はアルカリ剤を含有する。
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム、石灰等が挙げられる。
【0021】
浸漬処理工程においては、処理液にセルロース分解酵素等とアルカリ剤とを含有することで、酵素の繊維への浸透性が良好となる。また、繊維表面では、アルカリ剤の機能に起因してリグニン等の溶解性がより向上するため、セルロース分解酵素等の機能と相俟って、得られた麻繊維は柔軟なものとなり、中心部に空隙を多く含み、表面に微細な起毛を有する、紡糸に適する物性の麻繊維が得られる。
原料麻繊維のセルロースは剛直な物性を有するために、セルロース分解酵素等のみを含む処理液では、紡糸に適する物性の麻繊維は得難い。しかしながら、本実施形態の製造方法によれば、セルロース分解酵素等とアルカリ剤との併用により、紡糸に好適な物性を有する麻繊維を製造することができる。
【0022】
(溶媒)
酵素処理液の溶媒としては水を用いることが好ましい。溶媒としては、水のみを用いてもよい。溶媒である水に、繊維の柔軟化を目的として、さらに、クエン酸等を、全溶媒に対し2質量%〜10質量%含有させることができる。
【0023】
(処理液の調製)
処理液は、原料麻繊維に対して質量比で5倍〜20倍の溶媒を容器に入れ、セルロース分解酵素、及び、グリコシド結合を加水分解する酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素とアルカリ剤とを添加し、良く撹拌してから、液温を60℃〜100℃となるように加温して調製することができる。
処理液には、セルロース分解酵素等を1種又は2種以上含有させることができる。
処理液中の酵素の総含有量は、原料繊維100質量部に対して3質量部〜10質量部であることが好ましく、原料繊維100質量部に対して3質量部〜5質量部であることがより好ましい。
【0024】
処理液には、アルカリ剤を1種又は2種以上含有させることができる。
処理液中のアルカリ剤の含有量としては、処理液のpHが9以上となる量を含有させることが好ましく、処理液のpHが11以上13以下となる含有量とすることがより好ましい。
アルカリ剤の含有量が上記範囲において、繊維の強度を低下させることなく、好ましい処理効果が得られる傾向にある。
処理液のpHは、使用するアルカリ剤の種類と量により調整してもよく、また、pH調整剤を用いて調整してもよい。
処理液のpHは公知のpHメーターで測定することができる。pHメーターとしては、pHメーター HM−30R(商品名、東亜ディーケーケー社)などを用いることができる。
本明細書における処理液のpHは、25℃にて測定した値を用いている。
【0025】
(添加剤)
処理液には、酵素、アルカリ剤及び溶媒としての水に加え、本実施形態の効果を損なわない範囲において、目的に応じて種々の添加剤を含有させてもよい。
【0026】
(浸漬処理)
所望により洗浄等の前処理を行なった麻繊維を、調製した処理液に浸漬する。
浸漬は、処理液の液温を60℃〜100℃の温度条件に維持したまま、切断した麻繊維を30分間〜60分間浸漬することにより行なう。
効果の観点からは、浸漬時の処理液の液温は、80℃〜100℃であることがより好ましい。浸漬時間は、35分間〜50分間であることがより好ましい。
【0027】
浸漬時に麻繊維と酵素とを十分に接触させ、繊維間への処理液の浸透を促進させるため、処理液を撹拌しながら浸漬することが好ましい。
そのような観点から、麻繊維の浸漬処理は、撹拌装置の付いた容器又は装置を用いて行なうことが好ましい。浸漬時の温度条件を維持しつつ、撹拌を行えるとの観点から、浸漬処理に公知の染色機であるワッシャー機、パドル機、オーバーマイヤー機等を用いることも好ましい態様である。
また、処理液に対し、気体を供給してバブリングを行うことで麻繊維への処理液の浸透を促進することもできる。
浸漬処理は、温度調節機能が付いた容器、或いは装置を用いて行なうことも好ましい態様ではあるが、特にこれには限定されない。処理液の温度調節は、容器外部からの加熱、投げ込みヒータなどよる加熱等の公知の方法により行なうことができる。
【0028】
<水洗工程>
処理液への浸漬を行なった麻繊維は、処理液を入れた容器から取り出して水洗工程に付す。
水洗工程で用いる水洗液は、水のみであってもよく、所望により水に加え、公知の添加剤を含むものであってもよい。
水洗工程における水は、水道水を使用してもよい。
水洗工程では、麻繊維を十分に水洗して、繊維表面や繊維中の空隙に残存する処理液、アルカリ剤等を除去する。
水洗工程に使用する水洗液は、界面活性剤を含有することができる。水洗液が界面活性剤を含有することで、繊維間に残存する成分を除去する洗浄効果がより向上する。界面活性剤を含有する水洗液にて洗浄した後、さらに、界面活性剤を含有しない水洗液を用いて水洗し、繊維から界面活性剤を除去することが好ましい。
水洗は、流水により行なってもよく、水を入れた容器中で撹拌して行なってもよい。水洗を容器中で行なう場合には、少なくとも1回〜2回、水を換えて行なうことが好ましい。
【0029】
<後処理工程>
水洗工程の後、処理液が除去された麻繊維を後述する乾燥工程に付す。
乾燥を行なう前に、後処理工程を行うことが好ましく、後処理工程を行なうことで、酵素により膨潤することで形成された麻繊維の空隙や起毛状態が固定化され、紡糸により適する物性を有する麻繊維を得ることができる。
後処理は、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム及びシアヌール酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、後処理剤と称することがある)と、水と、を含有する後処理液に、水洗した麻繊維を浸漬し、液温を60℃〜100℃に維持しながら、20分間〜50分間保持することにより行なわれる。
ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びシアヌール酸ナトリウムは、染料安定化剤として公知であり、市販品としても入手可能である。
後処理液には、後処理剤を1種のみ含んでもよく、2種含んでもよい。
後処理液における後処理剤の総含有量は、2質量%〜10質量%であることが好ましく、2質量%〜4質量%であることがより好ましい。
【0030】
後処理工程の作用は明確ではないが、以下のように推定される。
浸漬処理工程を経た麻繊維に、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム及びシアヌール酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を適用することで、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、シアヌール酸ナトリウムが有する酸性基が、麻繊維に含まれる水分と水素結合性の相互作用を形成し、膨潤により形成された麻繊維内の空隙、麻繊維表面の起毛に結合してその形態を効果的に保持するものと考えている。
後処理工程を経た麻繊維は、水洗して後処理液を除去し、乾燥工程に付す。
【0031】
<乾燥工程>
酵素処理液への浸漬処理工程、水洗工程、及び所望により行なわれる後処理工程を経た麻繊維を乾燥して、紡糸用麻繊維を得る。
繊維の乾燥は常法により行なうことができる。乾燥に用いる装置としては、例えば、公知のネットやベルトを使用したバンド型乾燥機、繊維用タンブラー乾燥機、赤外線を用いた非接触型ドーム式乾燥機、電子レンジ等の電磁波による乾燥機等を用いることができる。
乾燥温度は、雰囲気温度として90℃〜180℃程度が好ましい。電磁波による直接加熱乾燥の場合には、麻繊維の温度が約100℃に加熱される。
麻繊維は絶乾状態まで乾燥する必要はなく、保存、或いは、紡糸装置に適用するのに支障のない程度の乾燥状態とすればよい。
【0032】
本実施形態の紡糸用麻繊維の製造方法により得られた麻繊維は、繊維間に存在する微細な空隙に起因して捩れが生じ、柔軟で、且つ、表面に多数の微細な起毛を有する。
このため、汎用の紡糸装置に適用した場合、繊維の脱落が抑制され、生産性よく麻繊維の撚り糸を得ることができる。
得られた紡糸用麻繊維は、常法に従い、カーデイングして、スライバーにしてから、紡糸装置に供される。
【0033】
<紡糸用麻繊維>
上述した本実施形態の紡糸用麻繊維の製造方法により得られた紡糸用麻繊維は、原料麻繊維に比較して繊維径が細くなり、捩れがあり、繊維表面に微細な起毛を有する。
即ち、本実施形態の紡糸用麻繊維は、原料麻繊維に含まれていたリグニンなどが除去されることで合一していた細い繊維が分離した形状となり、原料麻繊維に比較して繊維径が細い繊維が観察される。また、繊維間に存在する微細な空隙に起因して捩れが生じ、伸縮性が付与され、柔軟で、且つ、表面に多数の微細な起毛を有するために、汎用の紡糸装置に適用した場合、繊維の脱落が抑制され、生産性よく、均一な太さの撚り糸が形成される。
即ち、本実施形態の紡糸用麻繊維は、繊維間に存在する微細な空隙に起因して捩れが生じ、伸縮性が付与され、柔軟で、且つ、表面に多数の微細な起毛を有するために、汎用の紡糸装置に適用した場合、繊維の脱落が抑制され、生産性よく、均一な太さの撚り糸が形成される。
【0034】
紡糸用麻繊維の形状、外観、断面は、光学顕微鏡により観察することができる。光学顕微鏡により観察する際の倍率としては、300倍〜1500倍の倍率が好ましいが、特にこの倍率に制限されない。
例えば、紡糸用麻繊維の全体を観察する場合には、倍率300倍〜400倍程度で観察することが好適であり、表面の起毛状態、断面などの部分を観察する場合には、倍率1,000倍〜1,500倍程度で観察することが好適である。
本実施形態の紡糸用麻繊維の観察に用いた光学顕微鏡写真は、地方独立行政法人東京都産業技術研究センター 墨田支所 生活技術開発セクターに委託して撮影したものである。
【0035】
本実施形態の紡糸用麻繊維は、従来にない柔軟性を有することから、従来の麻繊維に比較して細番手の均一な撚り糸を容易に得ることができる。
このため、従来、麻繊維で形成することが困難であった薄手で柔軟な被服、下着、スカーフ等の種々の最終製品への応用が可能となった。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0037】
[実施例1]
ヘンプを長さ10cmに切断した処理用の原料麻繊維100gを準備した。
水酸化ナトリウム25質量%水溶液を用いて、pH11のアルカリ性の前処理液を調製し、前処理液に原料麻繊維100gを入れ、90℃にて45分間浸漬して汚れを除去した。アルカリ性の前処理液から麻繊維を取りだし、十分に水洗し、乾燥した。
【0038】
ステンレス製容器に水2kgを入れ、セルラーゼ(セルアシドVS−2:商品名、サービステックジャパン社)4g、水酸化ナトリウム25質量%水溶液4gを入れてよく攪拌し、処理液を調製した。処理液のpHをpHメーター(HM−30R:商品名、東亜ディーケーケー社)で測定したところ、25℃におけるpHは11であった。
処理液を60℃に昇温し、処理液中に、アルカリ性の前処理液で処理して汚れを除去した原料麻繊維100gを浸漬し、60℃に液温を維持し、撹拌しながら30分間保持した。
その後、麻繊維を処理液から取りだし、流水にて水洗し、軽く絞った後、20dのナイロンメッシュの袋に入れ、タンブラー乾燥機にて45分間乾燥し、実施例1の紡糸用麻繊維を得た。
【0039】
目視での観察及び触感を官能評価したところ、加工前のヘンプ繊維(原料麻繊維)に比較し、得られた実施例1の紡糸用麻繊維は、ソフトで嵩高性があり、感触が向上していることが確認された。
図1Aは、処理前の原料麻繊維をマイクロスコープで拡大した写真である。
図1Bは、実施例1において得られた麻繊維をマイクロスコープで拡大した写真である。マイクロスコープの観察により、麻繊維が解繊されて原料麻繊維よりも細径の繊維に分かれた状態となり、直線的であった繊維が、捩れを生じていることがわかる。
また、得られた紡糸用麻繊維を光学顕微鏡(倍率400倍)で観察した。
図2Aは、処理前の原料麻繊維を、光学顕微鏡を倍率400倍として撮影した写真であり、
図2Bは、実施例1において得られた紡糸用麻繊維を、光学顕微鏡を倍率400倍として撮影した写真である。
処理前の原料麻繊維が平滑で直線的であるのと比較して、実施例1で得た紡糸用麻繊維では、膨潤により繊維集合体としての径は大きくなり、割糸、裂糸により、原料麻繊維よりも細径の繊維が観察され、それぞれの細径繊維の表面には起毛及び亀裂が観察された。
【0040】
[比較例1]
実施例1において用いた、処理液において、水酸化ナトリウム25質量%水溶液4gを添加せず、酵素と水とを含有する処理液を調製した。
水酸化ナトリウムを含有しない処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1の紡糸用麻繊維を得た。
【0041】
目視での観察及び触感を官能評価したところ、加工前の原料麻繊維に比較し、得られた比較例1の麻繊維は、若干柔らかさが増しているが、大きな変化は見られなかった。
光学顕微鏡で倍率400倍にて観察したところ、繊維の側面における起毛、繊維の膨潤、亀裂及び細径繊維の増加のいずれにおいても、実施例1における紡糸用麻繊維と比較して劣るものであった。
【0042】
[実施例2]
ヘンプを長さ10cmに切断した処理用の原料麻繊維100gを準備した。
ステンレス製容器に水2kgを入れ、セルラーゼ(セルアシドVS−2:商品名、サービステックジャパン社)4g、水酸化ナトリウム25質量%水溶液4gを入れてよく攪拌し、実施例1と同じ処理液を調製した。
処理液を60℃に昇温し、処理液中に準備した原料麻繊維100gを浸漬し、60℃に液温を維持し、撹拌しながら30分間保持した。
【0043】
浸漬後、ヘンプをステンレス製容器から引き上げ、ステンレス製容器に入っている処理液を除き、容器を水洗した後、ステンレス製容器に新たな水500gと、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム2gと、を入れ、十分に撹拌して後処理液を調製した。
後処理液中に、処理液から引き上げたヘンプを入れ、液温を60℃に加温して温度を60℃に維持しながらで20分浸漬し、後処理を行なった。
【0044】
後処理工程後、ヘンプを流水にて水洗し、軽く絞った後、20dのナイロンメッシュの袋に入れ、タンブラー乾燥機にて45分間乾燥し、実施例2の紡糸用麻繊維を得た。
得られた麻繊維を光学顕微鏡(倍率:400倍)で観察したところ、繊維の側面では、割糸、裂糸による表面の起毛が観察された。また、糸の断面の観察では、繊維に中空部が形成され、加工前の原料繊維よりも細径の繊維からなる集合体の状態となっており、繊維の集合体の周縁は、原料麻繊維の繊維径よりも膨らんでいることが確認された。
また、実施例1の紡糸用麻繊維と、実施例2の紡糸用麻繊維と、を対比したところ、糸の断面径は実施例2の紡糸用麻繊維の方が大きく、後処理工程を行なうことで、繊維内の空隙がより拡大されたものと考えられる。
【0045】
この結果、後処理工程を行なうことで、酵素処理液による浸漬処理工程により膨潤した繊維の形状が、より良好な状態で維持されることがわかる。これは、後処理液により、セルロース繊維の膨張した部分に水素結合性の相互作用が形成されることで、脱水し、乾燥した後も繊維の空隙や起毛の形状が保持された状態となるためと考えられる。
【0046】
2014年7月31日に出願された日本国特許出願2014−156921号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的に、かつ、個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。