特許第6335324号(P6335324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6335324ジアルキルホスフィン酸塩の製造方法および製品
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  • 特許6335324-ジアルキルホスフィン酸塩の製造方法および製品 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335324
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ジアルキルホスフィン酸塩の製造方法および製品
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/30 20060101AFI20180521BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C07F9/30
   C09K21/12
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-556949(P2016-556949)
(86)(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公表番号】特表2017-513817(P2017-513817A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】CN2014074507
(87)【国際公開番号】WO2015149265
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】317004807
【氏名又は名称】中国科学院寧波材料技術与工程研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】516270773
【氏名又は名称】清遠市普塞▲フリン▼化学有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】姚 強
(72)【発明者】
【氏名】趙 月英
(72)【発明者】
【氏名】唐 天波
(72)【発明者】
【氏名】周 侃
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−179362(JP,A)
【文献】 特表2001−525327(JP,A)
【文献】 特開2011−006436(JP,A)
【文献】 特表2001−525328(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101891762(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103319524(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/30
C09K 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応釜にまずホスフィン酸および/またはその塩の総重量の0〜99%と、溶媒とを添加する工程(1)と、
反応釜にアルケンおよび開始剤が存在する状態で、ホスフィン酸および/またはその塩の総重量の1〜100%を反応系に連続して添加し、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩のモル含量が、その減少曲線において、反応系のリンの総モル含量の10%またはそれ以下になると、ホスフィン酸および/またはその塩の添加を停止し、ジアルキルホスフィン酸および/またはその塩を得る工程(2)と
を含む、ジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記ホスフィン酸塩が、ホスフィン酸のLi、Na、K、Mg、Ca、Ba、Fe、Zr、Al、Sn、Sr、Sb、Ge、Ti、Zn塩から成る群から選択される1種又は複数であることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記開始剤がアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、光開始剤から成る群から選択される1種又は複数であることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記開始剤の添加モル量が、ホスフィン酸および/またはその塩の総モル量の0.1〜5%であることを特徴とする、請求項3に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記開始剤がアゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩から成る群から選択される1種又は複数であることを特徴とする、請求項4に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記開始剤が過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、過酸化ベンゾイル、過酸化ジtert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、過酢酸から成る群から選択される1種又は複数であることを特徴とする、請求項4に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項7】
前記アルケンが以下の構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【化1】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18のアルキル基もしくはシクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アルキル置換フェニル基、またはアルコキシカルボニル基である)。
【請求項8】
前記溶媒が有機カルボン酸、水、またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項9】
反応温度が20〜180℃であることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項10】
反応の圧力が0.1〜5MPaであることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項11】
前記工程(1)および/または前記工程(2)において、反応釜にホスフィン酸および/またはその塩を添加すると同時に、活性炭または木炭を添加することを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項12】
木炭または活性炭の使用量が、溶液の重量全体の0.01%〜5%であることを特徴とする、請求項11に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項13】
ホスフィン酸および/またはその塩の添加方式が、工程(1)でまず総重量の1〜99%を添加し、工程(2)で総重量の1〜99%を添加することを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項14】
ホスフィン酸および/またはその塩の添加方式が、工程(1)でまず総重量の60〜85%を添加し、工程(2)で総重量の15〜40%を添加することを特徴とする、請求項13に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項15】
工程(2)において、添加するホスフィン酸および/またはその塩を固体または溶液の状態で添加し、溶液の状態で添加するとき、使用する溶媒は反応系で使用する溶媒と同じであることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項16】
工程(2)において、すべてのホスフィン酸および/またはその塩を添加し終えた後、引き続きアルケンおよび開始剤を添加し、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩のモル含量が、反応系のリンの総モル含量の1%またはそれ以下になるまで反応させることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項17】
工程(1)において、Mg、Ca、Al、Zn、Ti、Sn、Zr、Fe塩でないホスフィン酸塩を添加するとき、工程(2)で生成されるジアルキルホスフィン酸および/またはその塩を、さらにMg、Ca、Al、Zn、Ti、Sn、Zr、Feの化合物と反応させて、対応するジアルキルホスフィン酸塩を製造することを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項18】
前記ホスフィン酸塩がホスフィン酸アルミニウムであり、反応温度が60〜140℃であることを特徴とする、請求項1に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造方法。
【請求項19】
前記アルケンがエチレンであり、少なくとも総重量の1%のホスフィン酸アルミニウムを、反応過程において反応系に連続して添加し、モノアルキルホスフィン酸アルミニウムのモル含量が、その減少曲線において、10%またはそれ以下に低下するまで添加することを特徴とする、請求項18に記載のジアルキルホスフィン酸塩の製造工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃剤製造の技術分野に属し、具体的にジアルキルホスフィン酸塩の製造方法および製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアルキルホスフィン酸アルミニウムおよび亜鉛は、良好な熱安定性および難燃性を有するハロゲンフリー難燃剤であり、すでに臭素系難燃剤の代替物としてポリアミドおよびポリエステルの難燃に幅広く用いられている。これらは、各種方法により製造することができる。
【0003】
米国特許第6300516号明細書および米国特許第6355832号明細書には、ホスフィン酸またはそのアルカリ金属塩を一度に釜内に投入し、アゾ系開始剤の作用下で、アルケンと反応させて中間体であるジアルキルホスフィン酸またはそのアルカリ金属塩を製造し、その後、さらにアルミニウム塩と混合してジアルキルホスフィン酸アルミニウムを製造することが記載されている。この方法で製造された中間体であるジアルキルホスフィン酸/アルカリ金属塩は大量の長鎖アルキルホスフィン酸塩/アルカリ金属塩を含有しており、長鎖アルキルホスフィン酸/アルカリ金属塩の含量は7〜12%である。長鎖アルキルホスフィン酸塩の含量が多すぎると、エンジニアリングプラスチックの物理的性能に影響を及ぼすことがあり、バラツキが大きすぎる場合、製品の品質管理に影響を及ぼす。長鎖アルキルホスフィン酸塩の含量を10%より低く抑え、かつ安定させる必要がある。
【0004】
米国特許第7635785号明細書には、水を共同溶媒として用い、ホスフィン酸塩を一度に釜内に投入し、開始剤の作用下でアルケンと反応させて、ジアルキルホスフィン酸塩を製造することが記載されている。この製造方法は、長鎖アルキルホスフィン酸塩の含量を効果的に6%より低く抑える。しかし、エチレンの水への溶解度が低いため、この方法は高い圧力(20bar)を使用しなければ、満足する収率に達することができないことがある。高圧条件の使用は反応の危険性を増加させ、工業生産に不利である。
【0005】
中国特許出願第101891762号明細書には、ホスフィン酸ナトリウムを一度に釜内に投入し、光開始剤の作用下でエチレンと反応させて、ジエチルホスフィン酸ナトリウムを製造することが記載されている。この方法で製造したジエチルホスフィン酸ナトリウムは、2.5%モルまたはこれ以上のモノエチルホスフィン酸ナトリウムを含有しており、これから転化生成したジエチルホスフィン酸アルミニウムは、比較的高い含量のモノエチルホスフィン酸アルミニウムの混入が避けられない。モノエチルホスフィン酸アルミニウムの熱安定性は高くなく、製品のエンジニアリングプラスチックにおける応用が制限されている。
【0006】
中国特許出願第103319524号明細書には、ホスフィン酸ナトリウムを一度に釜内に投入し、金属錯体および開始剤の作用下において、溶媒中でアルケンと反応させてジアルキルホスフィン酸塩を製造することが記載されている。この方法はモノアルキルホスフィン酸塩の生成を避けられるが、遷移金属錯体を安定させるために、複数の有機溶媒を使用しており、生成物の精製および環境に対して、不利な影響を及ぼす。
【0007】
中国特許出願第103172670号明細書には、ホスフィン酸アルミニウムを一度に釜内に投入し、開始剤の作用下で、水を溶媒として用いてエチレンと反応させ、直接ジエチルホスフィン酸アルミニウムを製造することが記載されている。この方法は高圧反応が必要であり、安全面で危険が存在し、工業生産に不利である。
【0008】
現在、すでに報告されているジアルキルホスフィン酸またはその塩の製造方法はすべて、反応釜内に一度にホスフィン酸/塩を投入するものである。長鎖アルキルホスフィン酸塩の含量およびモノアルキルホスフィン酸塩の含量の制御において、不足が存在しており、改良が待たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US 6300516 B
【特許文献2】US 6355832 B
【特許文献3】US 7635785 B
【特許文献4】CN 101891762 B
【特許文献5】CN 103319524 B
【特許文献6】CN 103172670 B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既存の技術的欠点および不足を克服するため、本発明の目的は、長鎖アルキルホスフィン酸/塩およびモノアルキルホスフィン酸/塩の含量を簡単に抑え、反応時間を大幅に短縮したジアルキルホスフィン酸塩の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明はさらに、ジエチルホスフィン酸塩難燃剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ジアルキルホスフィン酸塩の製造方法は、
反応釜にまず、ホスフィン酸および/またはその塩の総重量の0〜99%と、溶媒とを添加する工程(1)と、
反応釜にアルケンおよび開始剤が存在する状態で、ホスフィン酸および/またはその塩の総重量の1〜100%を反応系に連続して添加し、添加過程において、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩のモル含量が、その減少曲線において、反応系のリンの総モル含量の10%またはそれ以下になると、追加するホスフィン酸および/またはその塩の添加を停止し、ジアルキルホスフィン酸および/またはその塩を得る工程(2)と、を含む。
【0013】
その中に、前記ホスフィン酸塩は、ホスフィン酸のLi、Na、K、Mg、Ca、Ba、Fe、Zr、Al、Sn、Sr、Sb、Ge、Ti、Zn塩から成る群から選択される1種又は複数である。より好ましくは、Li、Na、K塩である。
【0014】
前記開始剤はアゾ系、過酸化物系、光開始剤から成る群から選択される1種又は複数である。開始剤の添加量は、実際の需要により確定することができ、添加モル量は一般的にホスフィン酸および/またはその塩の総モル量の0.1〜5%、より好ましくは0.3〜4%である。
【0015】
前記アゾ系開始剤は、陽イオン型および/または非陽イオン型アゾ系開始剤である。
【0016】
好ましい開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩から成る群から選択される1種又は複数である。
【0017】
前記過酸化物系開始剤は、好ましくは無機過酸化物および有機過酸化物のラジカル開始剤であり、特に好ましくは過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、過酢酸から成る群から選択される1種又は複数である。
【0018】
前記アルケンは以下の構造を有する。
【0019】
【化1】
(式中、R〜Rは同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1〜18のアルキル基もしくはシクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アルキル置換フェニル基、またはアルコキシカルボニル基である)。
【0020】
好ましいアルケンは、直鎖または側鎖を有するαアルケンであり、好ましいαアルケンはエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、イソペンテン、ヘキセン、イソヘキセン、オクテン、イソオクテン、ドデセン、イソドデセン、2,4,4−トリメチルペンテン異性体混合物である。
【0021】
同様に適用されるのは、以下の構造を有する環状アルケンであり、特にシクロペンテン、シクロヘキセンまたはシクロオクテンである。
【0022】
【化2】
【0023】
反応は好ましくは溶媒中で行う。好ましい溶媒は有機カルボン酸、水、またはそれらの混合物である。
【0024】
反応は好ましくは20〜180℃で行う。特に好ましい反応温度は60〜150℃であり、より特に好ましい反応温度は80〜130℃である。
【0025】
反応は好ましくは0.1〜5MPaで行う。常圧で気体であるアルケンに対して好ましい圧力は0.1〜3MPaであり、特に好ましくは0.2〜1MPaであり、より特に好ましくは0.3〜0.6MPaである。
【0026】
アルケンの溶解度を向上させ、反応速度を向上させるため、好適として、ホスフィン酸および/またはその塩を添加すると同時に、活性炭または木炭を添加する。木炭または活性炭の使用量は、溶液の重量全体の0.01%〜0.5%である。木炭が多すぎるとろ過が困難になり、木炭が少なすぎると反応速度の向上が顕著でない。
【0027】
本発明において、追加するホスフィン酸および/またはその塩を、反応が開始してすぐに反応釜内に連続して投入することも、反応が一定時間経過した後、連続して投入することもできる。好適として、ホスフィン酸および/またはその塩の添加方式は、工程(1)でまず総重量の1〜99%を添加し、工程(2)で総重量の1〜99%を添加する。より好適として、工程(1)でまず総重量の60〜85%を添加し、工程(2)で総重量の15〜40%を添加する。
【0028】
追加するホスフィン酸および/またはその塩を、固体または溶液の状態で添加することができる。好ましくはホスフィン酸および/またはその塩の溶液であり、その好ましい溶媒は、反応系で最初に使用する溶媒と同じである。ホスフィン酸塩が該溶媒に溶解しない場合、固体の状態で連続して添加する。
【0029】
追加するホスフィン酸および/またはその塩を、開始剤と混合して添加することも、それぞれの原料添加口からそれぞれ添加することもできる。
【0030】
追加するホスフィン酸および/またはその塩の添加は、モノアルキルホスフィン酸またはその塩のモル含量が、その減少曲線において、反応系のリンの総モル含量の10%またはそれ以下のとき停止することができる(図1を参照)。好ましくは、モノアルキルホスフィン酸またはその塩のモル含量が8%以下まで低下、より好ましくは、モノアルキルホスフィン酸またはその塩のモル含量が5%以下まで低下、特に好ましくはモノアルキルホスフィン酸またはその塩のモル含量が3%まで低下すると、ホスフィン酸またはその塩の添加を停止する。
【0031】
モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩の含量は、リンの核磁気共鳴スペクトルにより便利に確定することができる。それ(ら)の含量は一般的に、反応時間の増加に伴って開始から次第に増加するが、最大値は、一般的に反応系のリンの総モル含量の55〜70%であり、その最大値に達した後、一方向に次第に低下し始める。図1を参照。
【0032】
好適として、反応は、すべてのホスフィン酸および/またはその塩を添加し終えた後、引き続きアルケンおよび開始剤を添加し、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩のモル含量が、反応系のリンの総モル含量の1%またはそれ以下になるまで反応させることを選択することができる。
【0033】
好適として、生成されたジアルキルホスフィン酸および/またはその塩を、さらにMg、Ca、Al、Zn、Ti、Sn、Zr、Feの化合物と反応させて、対応するジアルキルホスフィン酸塩を製造することを選択することができる。最初に選択した塩と、最終目標生成物の金属塩の種類が同じである場合、この工程を省略することができる。
【0034】
本発明の方法によって、長鎖アルキルホスフィン酸および/またはその塩と、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩の含量を非常に確実に制御することができ、なおかつ反応時間は、ホスフィン酸および/またはその塩を一度に投入する方式で、アルケンと反応させるのに必要な時間より短くなる。その理由は次のように推測される。
【0035】
ジアルキルホスフィン酸/塩の反応は2段階に分けられ、1段階目はモノアルキルホスフィン酸/塩の生成であり、この段階の反応は通常の反応である。2段階目はモノアルキルホスフィン酸/塩をフリーラジカルの作用下で、アルケンに付加して求核フリーラジカルであるフリーラジカル中間体Iを生成する。連鎖反応を形成するため、モノアルキルホスフィン酸/塩におけるP−HのHを奪わなければならない。しかし、アルキル基の電子供与効果のため、モノアルキルホスフィン酸/塩のPの求電子性が低下することにより反応Cが困難になり、モノアルキルホスフィン酸/塩の転化率の低下を起こし、反応Dの長鎖アルキルホスフィン酸/塩が生成される機会が生じる。ホスフィン酸/塩の存在下、このような状況は変わる。ホスフィン酸/塩は良好な水素原子の供給者であり、フリーラジカル中間体Iはホスフィン酸/塩から容易に水素原子を引き抜き、ジアルキルホスフィン酸/塩およびフリーラジカルIIが生成される。フリーラジカルIIは、フリーラジカルをモノアルキルホスフィン酸/塩に転移させて新たに反応を起こし、新たにホスフィン酸/塩が生成される。この過程において、ホスフィン酸/塩はフリーラジカル移動剤および触媒として使用され、反応過程は下式に示す通りである。ホスフィン酸/塩のこのようなフリーラジカル移動剤の機能は、反応の後期、特に反応系で95%以上のホスフィン酸/塩が反応によりなくなってから、効果が非常に明らかである。ホスフィン酸/塩を追加することにより反応を加速させることができ、長鎖アルキルホスフィン酸/塩およびモノアルキルホスフィン酸/塩の含量を確実に制御する。
【0036】
【化3】
【0037】
本発明は、ホスフィン酸および/またはその塩を追加する方法により、アルケンの反応媒体への溶解度を高めることもできる。ホスフィン酸および/またはその塩はアルケンに対して塩析効果を有するため、従来の一度に添加する方式は、アルケンの溶媒に対する溶解度を低下させる。反応過程でホスフィン酸および/またはその塩を滴加する場合、アルケンの反応媒質に対する溶解度は最初から高くなり、反応を加速させることができ、これにより反応時間が短縮される。
【0038】
ホスフィン酸および/またはその塩の追加を終えると、反応が終了するまで保温段階に入ることもでき、引き続き開始剤を投入して、アルケンの存在下で、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩の含量が要求に達するまで反応させることもできる。
【0039】
反応で得られる混合物から溶媒を除去し、水を添加し、適した範囲までpH値を調整し、この範囲において必要なジアルキルホスフィン酸塩を沈殿させることができる。その後、金属化合物を添加し、対応するジアルキルホスフィン酸塩を沈殿させる。最初に使用した塩イオンと、目標生成物の塩イオンが同じである場合、該工程でpH値を調整した後、ジアルキルホスフィン酸塩生成物を直接獲得することができる。
【0040】
本発明の1つの好ましい実施案は、有機酸溶媒、水またはそれらの混合溶媒の存在下、ホスフィン酸および/またはその塩の総量の0〜99%をまず反応釜内に添加し、その後残りのホスフィン酸および/またはその塩および開始剤とアルケンとを反応釜に同時に連続して投入し、反応温度を60〜140℃に制御する。モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩のモル含量が、反応系のリンの総モル含量の10%またはそれ以下になると、ホスフィン酸および/またはその塩の添加を停止するが、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩のモル含量が、反応系のリンの総モル含量の1%またはそれ以下になるまで、開始剤およびアルケンを引き続き添加し続ける。有機酸を除去し、水を添加し、目標のジアルキルホスフィン酸塩を沈殿させるのに必要な範囲までpH値を調整する。Mg、Ca、Ba、Fe、Zr、Sn、Sr、Sb、Ge、Ti、Znなどの水溶性の塩を添加し、ジアルキルホスフィン酸塩の沈殿を得る。その後、ろ過、水洗、乾燥を行う。
【0041】
本発明の2つ目の好ましい実施案は、水を溶媒とし、ホスフィン酸アルミニウムの総重量の0〜99%をまず反応釜内に添加し、ホスフィン酸アルミニウムの総重量の1〜100%および開始剤とアルケンとを同時に反応釜に投入し、反応温度を60〜140℃に制御する。モノアルキルホスフィン酸アルミニウムのモル含量が、反応系のリンの総モル含量の10%またはそれ以下になると、ホスフィン酸アルミニウムの添加を停止するが、モノアルキルホスフィン酸アルミニウムのモル含量が、反応系のリンの総モル含量の1%またはそれ以下になるまで、開始剤およびアルケンを引き続き添加し続ける。得られたジアルキルホスフィン酸アルミニウムのろ過、水洗、乾燥を行う。
【0042】
本発明は、特にジエチルホスフィン酸アルミニウムの製造方法にも関する。該製造方法は、エチレン、過酸化物開始剤、および酢酸の存在下、少なくとも総重量の1%のホスフィン酸ナトリウムを、反応過程において反応系に連続して添加し、モノエチルホスフィン酸ナトリウムのモル含量が10%またはそれ以下に低下するまで添加する。その後、エチレンおよび過酸化物の存在下、モノエチルホスフィン酸ナトリウムが反応系のリンの総モル含量の1%以下になるまで反応させる。酢酸を真空除去し、水を添加し、pHを3に調整する。その後、硫酸アルミニウム水溶液と混合して、ジエチルホスフィン酸アルミニウムを生成する。
【0043】
本発明はさらに、ジエチルホスフィン酸塩難燃剤を提供する。前記ジエチルホスフィン酸塩難燃剤は、上記の各種方法で製造される。該難燃剤は複数種の高分子材料に用いることができ、例えば前記高分子材料はポリアミド、ポリエステル、ナイロン6、ナイロン6/6、ポリアルケン、エポキシ樹脂のうちの1つまたは複数でよい。
【発明の効果】
【0044】
既存技術と比較して、本発明の有益な効果を具体的に示す。
本発明は、少なくとも1%のホスフィン酸および/またはその塩が、ホスフィン酸および/またはその塩とアルケンとの反応過程において添加される。該方法で製造されたジアルキルホスフィン酸および/またはその塩は、長鎖アルキルホスフィン酸および/またはその塩と、モノアルキルホスフィン酸および/またはその塩の含量が非常に確実に制御されるだけでなく、反応時間はホスフィン酸および/またはその塩を一度に投入する方式の反応時間より短く、さらに総収率が高く、生成物の純度が高い特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、モノアルキルホスフィン酸/塩の含量の反応時間に伴う変化であり、その中に縦座標はモルパーセント、横座標は反応時間(時間)である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0046】
実施例1
ホスフィン酸ナトリウム一水和物1009g(9.52mol)、酢酸3333g、および活性炭15gを10Lのほうろう反応釜に添加して密閉し、撹拌下で窒素ガスを用いて2回置換する。エチレンを0.3MPaに設定された減圧器を介して反応釜に通し、反応釜の圧力計が0.3MPaを示すまで続ける。加熱装置を起動し、反応混合物が100℃まで加熱されると、引き続き反応釜の圧力が0.5MPaに達するまでエチレンを通す。ホスフィン酸ナトリウム一水和物505g(4.76mol)および過安息香酸tert−ブチル50.1g(0.258mol)が酢酸2592g中に溶けて得られた溶液を、13時間内に定量ポンプを用いて定速で反応釜に投入し、15分間保温し、ジエチルホスフィン酸ナトリウム−酢酸混合溶液が得られる。
【0047】
31P−NMR分析(モル%)
ジエチルホスフィン酸ナトリウム:84.9%
エチルブチルホスフィン酸ナトリウム:4.7%
エチルホスフィン酸ナトリウム:7.2%
エチルホスホン酸ナトリウム:1.1%
ホスフィン酸ナトリウム:1.3%
その他:0.8%
【0048】
実施例2
ホスフィン酸ナトリウム一水和物1262g(11.906mol)、酢酸5kgを10Lのほうろう反応釜に添加して密閉し、撹拌下で窒素ガスを用いて2回置換する。エチレンを0.3MPaに設定された減圧器を介して反応釜に通し、反応釜の圧力計が0.3MPaを示すまで続ける。加熱装置を起動し、反応混合物が100℃まで加熱されると、引き続き反応釜の圧力が0.5MPaに達するまでエチレンを通す。ホスフィン酸ナトリウム一水和物227.84g(2.15mol)および過安息香酸tert−ブチル62.02g(0.319mol)が酢酸1101g中に溶けて得られた溶液を、15時間内に定量ポンプを用いて定速で反応釜に投入する。反応温度を110℃まで上昇させ、引き続き過安息香酸tert−ブチル5.07g(0.026mol)が酢酸111.7g中に溶けて得られた溶液を、定量ポンプを用いて2時間内に反応釜に投入し、15分間保温する。冷却して放置し、ジエチルホスフィン酸ナトリウム−酢酸混合溶液8478gが得られる。エチレン吸収量は804g(理論値の102%)である。
【0049】
31P−NMR分析
【0050】
【表1】
【0051】
実施例3
ホスフィン酸ナトリウム一水和物1000g(9.434mol)、酢酸5kgを10Lのほうろう反応釜に添加して密閉し、撹拌下で窒素ガスを用いて2回置換する。エチレンを0.3MPaに設定された減圧器を介して反応釜に通し、反応釜の圧力計が0.3MPaを示すまで続ける。加熱装置を起動し、反応混合物が100℃まで加熱されると、引き続き反応釜の圧力が0.5MPaに達するまでエチレンを通す。ホスフィン酸ナトリウム一水和物396.6g(3.742mol)および過安息香酸tert−ブチル42.93g(0.221mol)が酢酸1322g中に溶けて得られた溶液を、11時間40分間内に定量ポンプを用いて定速で反応釜に投入する。反応温度を110℃まで上昇させ、引き続き過安息香酸tert−ブチル9.35g(0.048mol)が酢酸178g中に溶けて得られた溶液を、定量ポンプを用いて2.5時間内に反応釜に投入する。室温まで冷却して反応釜を減圧し、ジエチルホスフィン酸ナトリウム−酢酸混合溶液8520gが得られる。
【0052】
31P−NMR分析
ジエチルホスフィン酸ナトリウム:90.08%
エチルブチルホスフィン酸ナトリウム:8.01%
エチルホスフィン酸ナトリウム:0.45%
エチルホスホン酸ナトリウム:1.1%
ホスフィン酸ナトリウム:0%
その他:0.36%
エチレン吸収量は758.8g(理論値の103%)
【0053】
実施例3のNa塩の代わりに、ホスフィン酸のLi、K、Mg、Ca、Ba、Fe、Zr、Al、Sn、Sr、Sb、Ge、Ti、Zn塩であるホスフィン酸塩をそれぞれ用いて実施例3の反応を行うと、似た結果を得ることができる。最終的に得られるジエチルホスフィン酸ナトリウム−酢酸混合溶液中のエチルホスフィン酸塩のモルパーセント含量は0.5%より低く、エチルブチルホスフィン酸塩のモルパーセント含量は10%より低い。
【0054】
過安息香酸tert−ブチルの代わりに、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、過酸化ベンゾイル、過酸化ジtert−ブチル、過酢酸をそれぞれ用いて実施例3の反応を行う。実験により、開始剤の種類が生成物の品質に与える影響は大きくなく、反応時間はいずれも15時間以下であることが証明された。
【0055】
実施例4
1)ジエチルホスフィン酸ナトリウムの製造
ホスフィン酸ナトリウム一水和物1000g(9.434mol)、酢酸5kg、および活性炭5gを10Lのほうろう反応釜に添加して密閉し、撹拌下で窒素ガスを用いて2回置換する。エチレンを0.3MPaに設定された減圧器を介して反応釜に通し、反応釜の圧力計が0.3MPaを示すまで続ける。加熱装置を起動し、反応混合物が100℃まで加熱されると、引き続き反応釜の圧力が0.5MPaに達するまでエチレンを通す。ホスフィン酸ナトリウム一水和物366.9g(3.461mol)および過安息香酸tert−ブチル38.76g(0.2mol)が酢酸1223g中に溶けて得られた溶液を、10時間40分間内に定量ポンプを用いて定速で反応釜に投入する。エチレン吸収の重量により計算すると、このときのエチルホスフィン酸ナトリウムの濃度は10%より低い。反応温度を110℃まで上昇させ、引き続き過安息香酸tert−ブチル5.49g(0.028mol)が酢酸177g中に溶けて得られた溶液を、定量ポンプを用いて2.5時間内に反応釜に投入する。室温まで冷却して反応釜を減圧し、ジエチルホスフィン酸ナトリウム−酢酸混合溶液8567gが得られる。
【0056】
31P−NMR分析
ジエチルホスフィン酸ナトリウム:89.02%
エチルブチルホスフィン酸ナトリウム:8.82%
エチルホスフィン酸ナトリウム:0.57%
エチルホスホン酸ナトリウム:1.21%
ホスフィン酸ナトリウム:0%
その他:0.38%
エチレン吸収量は744.8g(理論値の103%)
【0057】
2)ジエチルホスフィン酸アルミニウムの製造
上記溶液から33.3グラム取り、酢酸を真空除去して、10%水溶液を調製し、pH値を3に調整する。これを濃度が6%の硫酸アルミニウム水溶液にゆっくりと滴加し、0.5時間撹拌、反応させ、白色固体を生成する。ろ過して、水600mlで洗浄、沈殿させ、130℃で10時間乾燥させ、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが得られる。収率は86.6%である。
【0058】
工程2)において、必要により、Mg、Ca、Ba、Fe、Zr、Sn、Sr、Sb、Ge、Ti、Znなどの水溶性の塩と置換して、目標のジエチルホスフィン酸塩を得ることを選択することができる。
【0059】
応用例1
ナイロン66(35%のガラス繊維を含む)を110℃の真空乾燥機で4時間乾燥させ、その後70部(特に説明がない場合、いずれも重量部である)を取り、実施例4の方法で製造されたジエチルホスフィン酸アルミニウム30部と混合し、Brabenderトルクレオメータにおいて270℃で3分間混練りする。乾燥後、290℃でプレス加硫装置を用いて加工し、難燃重合体の成形品を得る。その後、万能試料作製装置で100mm×13mm×3.2mmのサイズの試料に裁断し、GB/T2408−2008の基準に基づいて、AG5100B水平−垂直燃焼試験装置で測定を行う。結果はUL94燃焼クラスのV−0に達することを表わす。
【0060】
比較例1(比較実験)
実施例2を参照にするが、ホスフィン酸ナトリウムを反応開始前にすべて反応釜内に添加し、反応過程では、開始剤の添加およびエチレンを通すことのみ行う。残りの過程は実施例2と同じである。エチレン吸収量により反応の進行状況を追跡し、核磁気共鳴により確定する。32時間後に反応を停止する。
【0061】
31P−NMR分析
【0062】
【表2】
【0063】
このことから、反応過程で、ホスフィン酸ナトリウムの総量の1〜100%を反応液に連続して添加すると、反応を開始してすぐにホスフィン酸ナトリウムをすべて添加するより、必要な反応時間が大幅に短縮され、なおかつ得られるモノアルキルホスフィン酸ナトリウムの含量がより低いことがわかる。
図1