(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
流動パラメータのモデルを決定するために前記特徴ベクトルを処理する際に前記プロセッサが隠れマルコフモデリングまたは人工ニューラルネットワークモデリングを実行する、請求項1に記載の装置。
流動パラメータのモデルを決定するために前記特徴ベクトルを処理する際に前記プロセッサが、隠れマルコフモデリングおよび人工ニューラルネットワークモデリングを実行し、および/または、
前記プロセッサがさらに、前記特徴ベクトル処理する前記ステップを実行するためにトレーニングモデルを形成し、随意に、
前記プロセッサがさらに、前記形成されたトレーニングモデルを前記メモリに格納する、請求項1に記載の装置。
前記コンピュータのデータメモリが、実際の多相流条件のデータベースを格納し、流動パラメータのモデルを決定するために前記特徴ベクトルを処理する前記ステップが、前記データベースから実際の多相流条件データに基づいて実行される、請求項8に記載のコンピュータ実施方法。
流動パラメータのモデルを決定するために前記特徴ベクトルを処理する前記ステップが、隠れマルコフモデリングまたは人工ニューラルネットワークモデリングを備える、請求項8に記載のコンピュータ実施方法。
流動パラメータのモデルを決定するために前記特徴ベクトルを処理する前記ステップが、隠れマルコフモデリングおよび人工ニューラルネットワークモデリングを備え、および/または、
前記特徴ベクトルを処理する前記ステップを実行するためにトレーニングモデルを形成する前記ステップをさらに含み、および/または、
前記形成されたトレーニングモデルを前記コンピュータの前記メモリに格納する前記ステップをさらに含み、および/または、
前記多相流の流動パラメータの前記決定されたモデルを、表示のため提供する前記ステップをさらに含む、請求項8に記載のコンピュータ実施方法。
データ処理システムに、前記データ処理システムのプロセッサにおいて、流れ導管における流体の多相流の流動パラメータを、前記多相流からの音響放射および前記コンピュータのデータベースに格納された前記導管における流動様式データの音響モデルに基づいて、判断させるためのコンピュータ動作可能命令を、非一時的コンピュータ読込み可能媒体に格納したデータストレージデバイスであって、前記データストレージデバイスに格納された前記命令が、前記データ処理システムのプロセッサに請求項8〜13の何れかに記載のコンピュータ実施方法を実行させるデータストレージデバイス。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[音響放射]
本発明によれば、多相流における音響放射は、炭化水素油およびガス、水、ならびに砂の混合物の流れの表面内および/または表面上に生じる音響エネルギーの物理現象として定義する。音響放射は、1KHz〜100MHzの広い周波数範囲での弾性エネルギーの自発的放出に起因するが、ほとんどの放出エネルギーは、1kHz〜1MHzの周波数範囲内である。音響放射は、
(a)気泡の形成、破壊、および融合、
(b)乱流および渦による乱流雑音、
(c)多相流における液体、気体、および固体の相互作用、
(d)高流量渦から生じる広帯域乱流エネルギー、
(e)キャビテーション、フラッシング、および再循環に起因する間欠的および過度的なエネルギー変化および変動、
など、多数の原因で発生すると考えられる。
【0022】
さまざまな流動様式の気泡サイズおよび気泡分布の関数として、多相流から放出された音や高周波数弾性エネルギーの調査が数多くなされている。ガスの気泡形成、破壊、融合、ならびに多相流内の多様な相の相互作用が直接的な要因となり、音響エネルギーとして多相流から放出されることがわかっている。さらに音響エネルギーは、異なる多相流動様式、流速、および流れ内の固形分量によっても変化する。本発明は、音響エネルギーデータを感知し、そのデータを処理して仮想流れモデリングを提供する。
【0023】
本発明によれば、「仮想計測(virtual metering)」または「仮想多相計測(virtual multiphase metering)」という用語は、本明細書に記載の計測技術/技法を指し、能動的および直接的な流れ測定方法または装置を用いず多様な流動パラメータを測定するものである。流動パラメータは、本発明に従い以下に説明する通り、圧力、温度、音響放射などの受動測定値群から決定する。
【0024】
[ハードウェアアーキテクチャ]
図1に示すように、本発明による多相流仮想モデリング用の装置Mは、計測対象の炭化水素/水混合物の多相流24が発生しているパイプ、配管、または他の流れ導管22に取り付けるトランスデューサとして、音響放射センサまたはマイクロホンを含む。流れ導管22は、ダウンホール、トップサイドおよび表面の用途で公知の、炭化水素輸送の探査、製造に利用する導管であってもよい。
【0025】
トランスデューサ20は、周波数1kHz〜1MHzを有する多相流から生じる多相流音響放射信号を受信し、そのような流れから音響放射を取得する。Vallen Systems製のAE1045SまたはMistras Group Ltd.製の広帯域AEセンサWSAなどの市販の音響放射センサ/トランスデューサを使用できる。必要に応じて、他の市販のトランスデューサを使用できることを理解されたい。センサは、1KHzから2〜3MHzの周波数範囲で利用可能である。
【0026】
音響放射センサ20で取得した信号は、多相流音響情報とランダム背景音響ノイズとが組み合わせられている。結合剤を適用してセンサ20を流管22に結合する。通常、グリセロールまたは油性の結合剤を使用する。音響放射センサ20は、音響信号を電気信号に変換し、電気信号はフロントエンドプリプロセッサPのプリアンプ26を用いて増幅される。プリアンプ26からの増幅信号は感知した音響放射を表し、適切なフィルタ28でフィルタリングされ、高分解能シグマデルタアナログ−デジタル、すなわち、A/Dコンバータ30でデジタル化した音響放射信号に変換される。
【0027】
A/Dコンバータ30からの変換されたデジタル音響放射信号は、データプロセッサDが受信する。データプロセッサDは、プログラムされたパーソナルコンピュータ(すなわち、PC)であってもよく、専用の特定用途デジタル信号プロセッサ(すなわち、DSP)であってもよい。データプロセッサDは、ラップトップコンピュータ、タブレット、または他の適切なデジタルデータ処理装置などの適切な処理およびメモリ容量を有する任意の従来型プロセッサであってもよい。
【0028】
データプロセッサDは、多相計測(MPM)ソフトウェアモジュール32を含み、音響信号を処理、分析、および分類し、測定結果を提供する。生データ、音響モデル、および測定結果は、以後の分析のためにデータベースとしてメモリに格納できる。モジュール32からの処理結果は、34で示すように適切なディスプレイやプロッタでの分析に利用可能である。または後述するように、別のコンピュータに送信して調査、分析するため、無線通信モジュールに転送できる。
【0029】
上述したように、装置Mは必要に応じて、出力ディスプレイおよび/またはユーザインターフェースを含むことができる。例えば、表面または坑口設置の場合、装置Mは、計測結果を表示する出力ディスプレイを含むことができる。
【0030】
装置Mは、システム内に何らかの修正が必要な場合には、ユーザインターフェースも含むことができる。例えば、データプロセッサDにアクセスし、必要に応じて多相計測ソフトウェアモジュール32またはフロントエンドモジュール40を更新するユーザインターフェースが挙げられる。またユーザインターフェースを利用して、メモリ38内の音響モデル42、プログラムコード36、またはトレーニングデータ90に対してアクセスおよび/または更新も可能である。
【0031】
プロセッサDは、コンバータ28からのデジタル化音響放射信号にアクセスして、本発明の処理ロジックおよび方法論を実行する。本発明の処理ロジックおよび方法論は、一連のコンピュータ実行可能命令として実行することができる。この命令は、コンピュータ読込み可能媒体であるメモリ38(
図2)にプログラムコード36として格納してもよく、従来のハードディスクドライブ、電子的読出し専用メモリ、コンピュータディスケット、または磁気テープ、光学ストレージデバイス、もしくは他の適切なデータストレージデバイスの形態で格納してもよい。
【0032】
本明細書の
図5、
図6、
図7、
図10のフローチャートは、コンピュータプログラムソフトウェアで実施する本発明による処理のロジックの構造を示す。当業者は、本フローチャートが、本発明に従い機能する集積回路の論理回路といった、コンピュータプログラムコード要素の構造を示すことを理解するであろう。したがって、本発明はその好ましい実施形態において、図示に対応する一連の機能ステップを実行するようデジタルデータ処理装置に命令する形式でプログラムコード要素を表現する機械部材で実施されることは明らかである。
【0033】
後述するように、多相計測ソフトウェアモジュール32は、トレーニング可能である。本発明の一実施形態では、流動様式の統計的モデル化のためのフレームワークとして隠れマルコフモデリング(HMM)を使用する。隠れマルコフモデルは、一連の記号または数量を出力する統計モデルである。隠れマルコフモデルは、自動的にトレーニングされ、計算上実行可能である。
【0034】
多相音響信号は、連続ランダムノイズを有する非線形信号であるが、本発明によれば、多相音響信号を短時間の定常信号または線形信号と考える。したがって、本発明では、センサ20で感知し、デジタルフォーマットに変換した音響放射信号は、特定の持続時間、通常50〜200msの小さなセグメントに分割またはセグメント化される。本発明の目的のため、音響放射信号は各時間セグメント内で線形と仮定する。各静止セグメントに対して特徴ベクトルを計算し、隠れマルコフモデルを作成し、特徴ベクトルを使用してトレーニングする。連続ランダムノイズの存在による変動性に対処するために、流れタイプの各々に隠れマルコフモデルを作成し、ラボラトリ流れループセットアップおよび/またはフィールドデータから収集した大量の音響トレーニングデータを使用してトレーニングする。
【0035】
[多相計測モジュール]
多相計測ソフトウェアモジュール32(
図2)は、ソフトウェアで実行され、フロントエンドモジュール40から前処理および特徴計算のための流れデータを受け取り、格納された流動様式データの包括的なモデルライブラリまたはデータベース42からのデータも受け取る。モデルライブラリ42内に格納されたデータは、多種の流れタイプに対するラボラトリおよびフィールドデータから得た音響モデルの形態をとり、44で概略的に示す多相流動様式モデル、46で示す砂含有量、および48で示す流量を含む。多相計測ソフトウェアモジュール32は、音響パターンを認識し、流動様式、流速、および固形分といった多様なパラメータを識別するデコーダとして構成される。
【0036】
フロントエンドモジュール40は、特定の流れセグメントの音響観測を提供する。音響観測は、流れの音響特性を表すと考えられる特徴ベクトルである。音響信号から特徴ベクトルを抽出し、トレーニングや検出を行う。前処理段階で連続的な音響放射音響信号を分割し、50〜200msのオーバラップセグメントに分割し、各セグメントに対してウィンドウ関数(窓関数)処理を実行する。ウィンドウ関数処理は、エッジのエネルギーを低減し、各セグメントのエッジの不連続性を減少させるために実行する。例えば、この目的のためにハミング窓を使用できる。ハニンやブラックマンを含む他のウィンドウ関数も使用できる。前処理の後、各セグメントに対して特徴計算を実行する。
【0037】
重要な音響特性としては、周波数分布、優勢周波数帯、周波数帯の優勢エネルギーが挙げられる。多相流からの音響放射は非定常処理であるため、標準的な信号処理技術は分析に適さない。特徴ベクトルとしてケプストラム係数を使用することもできる。ケプストラム係数は、信号の対数振幅スペクトルのフーリエ解析の結果である。対数振幅スペクトルが規則的に間隔をあけた高調波を多く含む場合、スペクトルのフーリエ解析は、基本周波数である高調波の間の間隔に対応するピークを示す。重要な音響特性を表す、ウェーブレット変換などの他のパラメータを使用して、特徴ベクトルを計算することもできる。
【0038】
多種の流れタイプの各々に音響モデルを形成し、多相流仮想モデリング装置Mで多種の流動パラメータおよび砂の存在を測定する。各種の流れタイプに正確な音響モデル(隠れマルコフモデル)を構築するために、ラボラトリ流れループからトレーニングデータを取得し、実際のフィールドを使用する。大量のトレーニングデータを収集し蓄積することが有益であり、好ましい。
【0039】
隠れマルコフモデルは、本質的に、状態s
1、s
2、s
3、s
4、s
5(
図3)と状態間の遷移確率a
11、a
12、a
22、a
23、a
33、a
34、a
44、a
45、a
55のセットで定義される確率論的処理をモデル化する。各状態は、定常的な確率処理を記述し、ある状態から別の状態への遷移は、その処理がその特性を時間的にどのように変化させるかを記述する。各状態s
1、s
2、s
3、s
4、s
5は通常、統計的出力分布を有し、b
1からb
5で概略的に示すガウス確率分布関数で表し、観測した各特徴ベクトルに確度および分布を提供する。好ましくはいわゆるBaum−Welch(バウム=ウェルチ)アルゴリズムを使用して、特定の流動様式の隠れマルコフモデルの各種パラメータをトレーニングデータから推定する。
【0040】
隠れマルコフモデルは、
として正式に定義され、
ここで、
Aは遷移配列であり、ある状態から他の状態への遷移確率を格納し、
Bは観測確率配列であり、その状態から生成される観測の確率を格納し、
πは状態の初期確率配列である。
【0041】
[隠れマルコフモデルを用いた各流れタイプに対する音響モデルの構築]
隠れマルコフモデルレコードを使用し、各流れタイプに音響モデルを構築する本発明による方法を
図5のフローチャートHに概略的に示す。ステップ50でトレーニングセットを記録する。トレーニングセットは、各5〜10秒の持続時間の特定の流れタイプを表す50以上の音響放射信号からなる。音響モデルの精度向上のため、トレーニングデータセットのサイズおよび個々の音響放射信号の長さを増やすことができる。音響放射信号は、ラボラトリ流れループおよび/または実際のフィールドから取得できる。目的用途に応じて、表面またはダウンホール条件から取得したデータをメモリに格納して使用することもできる。
【0042】
ステップ52では、隠れマルコフモデルのアーキテクチャを定義する。通常、状態の数が5から20のleft−right型隠れマルコフモデルを使用する。必要に応じて、別の状態数を使用できる。状態数は、単一の音響放射信号内の各セグメントの長さおよびセグメントの数により変化する。ErgodicまたはParallelなどの異なるトポロジを伴う隠れマルコフモデルも使用できる。
【0043】
ステップ54では、上記の手順を用いて各トレーニング信号に対して特徴ベクトルを計算する。ステップ56で、状態の確率を初期化する。第1の状態に対する初期確率は1であり、残りの状態は0とみなされる。各遷移確率は、0で初期化され、最後の遷移は1で初期化される。
【0044】
各状態の統計的出力分布はガウス分布である。ステップ58の一部として、完全トレーニング音響放射トレーニングデータセット内のすべての特徴ベクトルの大域平均および分散を計算する。次いで、ステップ58ですべてのガウス分布(すなわち、すべての状態出力分布)を求めた平均および分散で初期化する。
【0045】
隠れマルコフモデルの全パラメータを初期化した後、後述するように好ましくはBaum−Welchアルゴリズムでパラメータ(A,B,λ)を最適化し、トレーニングデータで隠れマルコフモデルをトレーニングする。
【0046】
[パラメータ最適化アルゴリズム]
本発明ではBaum−Welchアルゴリズムを使用して、未知の隠れマルコフモデルパラメータ(A,B,π)を最適化することが好ましい。Baum−Welchアルゴリズムは、一般化期待値最大化(GEM)アルゴリズムの特別な場合である。Baum−Welchアルゴリズムは、Forward−Backwardアルゴリズムに基づく推定方法である。アルゴリズムの簡単な説明を以下に示すが、詳細な数学的記述は、「A maximization technique occurring in the statistical analysis of probabilistic functions of Markov chains」(Baum1970)および「Hidden Markov Models and the Baum−Welch Algorithm」、IEEE Information Theory Society Newsletter,Dec.2003で確認することができる。
【0047】
トレーニングデータセットO
trainingを使用して隠れマルコフモデルパラメータλ
aを構築およびトレーニングするためには、観測を行うλ
aに対するモデルパラメータは以下の通りとなり、ここでO
trainingは、特定の流れに対する音響放射特徴ベクトル(観測シーケンス)を多数(≧50)を含む。
【0048】
最適化は、フローチャートC(
図6)で概略的に示すシーケンスで実行する。ステップ60に示すように、モデルパラメータ(A,B,π)は、上述のように初期化される。状態遷移確率は、ステップ62で初期化され、状態確率は、ステップ64で初期化される。状態の平均および分散は、ステップ66で初期化される。次いで、ステップ68で各観察シーケンスO
training(n)がモデルを通して実行され、各モデルパラメータの期待値を推定する。
【0049】
ステップ70でモデルパラメータは、確率P(O
training(n)|λ
a)が最大になるように調整または変更される。本手順は、すべてのモデルパラメータが最適値に収束することをステップ72が示すまで全トレーニングデータに対して繰り返され、ステップ74でデータセット内の全信号を処理したと示すまで繰り返される。
【0050】
したがって、全流れタイプに音響モデル(隠れマルコフモデル)を生成すると、自動検出モジュール32(
図2)が音響モデルを使用し、統計的検索アルゴリズムを使用してリアルタイムで多相流音響放射信号を検出および識別できる。
【0051】
[多相流計測および砂検出]
フローチャートF(
図7)は、多相流計測および砂検出のための方法論を概略的に示す。センサ20で多相流音響放射信号を感知する。予め増幅した後、感知した信号をフィルタリングし、A/Dコンバータ30でデジタル信号に変換する。デジタル信号は、ステップ80に示すように、多相計測デコーダモジュール32が取得する。ソフトウェアフロントエンド40は、ステップ82で信号を分割し、ステップ84で、各セグメントに対する特徴ベクトルを計算する。音響放射信号の一連の代表的な特徴ベクトルは、ステップ86でデコーダ32に送られる。デコーダ32は、多種の流れタイプの音響モデル(隠れマルコフモデル)トレーニングデータの包括的なライブラリ90(
図2)も利用できる。
【0052】
ステップ92でビタビアルゴリズム(Viterbi algorithm)を使用して、現在観察されている音響放射信号が属する最も可能性の高い音響モデルを見つける。多種の流れタイプに対する音響モデル(λ
1,λ
2...)のライブラリと受信音響放射特徴ベクトルO
receivedとが与えられ、全流れタイプに対して隠れマルコフモデルモデルが与えられた場合、観察された特徴ベクトルの確度はビタビ処理で以下のように計算する。
【0053】
ビタビアルゴリズムは、動的プログラミングアルゴリズムであり、一連の観測されたイベントを結果として生じる、隠れ状態の最も可能性の高いシーケンス(ビタビ経路)を見つけるアルゴリズムである。ビタビアルゴリズムの簡単な説明を以下に示す。アルゴリズムの詳細は、G.D.Forney,Jr.,「The Viterbi Algorithm」,Proc.IEEE,vol.61,pp.268−278,March 1973およびL.R.Rabiner,「A Tutorial on Hidden Markov Models and Selected Applications in Speech Recognition」,Proc.IEEE,vol.77,pp.257−286,Feb.1989で確認することができる。
【0054】
特徴ベクトル(観測シーケンス)O
received、および隠れマルコフモデルλ
1が与えられると、ビタビアルゴリズムはモデルにおける最適な状態シーケンスQ={q
1,q
2,q
3...}を再帰的に決定する。最適化された状態シーケンスは、この状態シーケンスのデータおよび確率が計算できることを最もよく説明するものであり、したがって、P(O
received|λ
1)が計算される。このアルゴリズムは、観測シーケンスが与えられれば、最良経路(または、モデル内の最良状態シーケンス)が他のどの経路よりもはるかに高い確率P(O
received|λ
1)≒P(O
received,δ|λ
1)であるという仮定に基づいており、ここで、δは最良経路である。すべてのステップで、1つの経路のみが格納され、残りは破棄される。最適状態シーケンスは、バックトラッキングにより再構築できる。
【0055】
観測される音響放射信号の推定値は、1つまたは複数の音響モデルに対して高くなる可能性がある。例えば、スラグ流および低砂量の両方の音響モデルで確率値が高い場合は、砂の含量が低い状態で多相流がスラッギングしていることを表す。したがって、デコーダ出力から流動様式、流速範囲、および砂量等の重要な流動パラメータを求めることができる。
【0056】
実際のダウンホールまたは表面状態での計測におけるランダムノイズおよび変動の影響を軽減するために、トレーニング条件と認識条件との不一致を減らす必要がある。これは、実際のフィールドデータをトレーニングデータとして使用することにより実現できる。また音響モデル(隠れマルコフモデルパラメータ)は、特定の計測条件により最適化できる。さらに、雑音スペクトル特性は音響放射の雑音スペクトル特性より定常的と予想されるため、スペクトル領域でスペクトル減算を適用すると雑音を補正(compensate)できる。
【0057】
ステップ92で最も確率の高い音響モデルが決定されると、その結果は、ステップ94で測定結果34(
図1および
図2)として利用可能になる。
【0058】
[人工ニューラルネットワークを使用する音響モデリング]
図8は、本発明による多相流モデリングの別の実施形態を示し、人工ニューラルネットワーク(ANN)で多相流モデルが構築する。人工ニューラルネットワークすなわちANNモジュール100は、モジュールPで信号前処理およびアナログ−デジタル変換した後、デジタル入力信号を受け取り、
図2で説明のフロントエンドモジュール40で特徴計算を行う。
【0059】
以下で説明するように、ANNモジュール100は、多数の簡易処理ニューロン状の処理要素(ノード)を好適に含む。すなわち、処理要素(ノード)間に多数の重み付き接続を好適に含む。ANNモジュール100はまた、人工ニューラルネットワーク方法に従い、この接続を介して知識の分散表示を取得する。ここで知識は、学習処理を介してモジュール100のネットワークで取得される。
【0060】
図8に示す本発明による人工ニューラルネットワークに基づく多相流計測は、バックプロパゲーション(誤差逆伝播)アルゴリズムと共に使用して学習させる多層フィードフォワードニューラルネットワークであることが好ましい。
【0061】
人工ニューラルネットワークモジュール100のより詳細な構造を
図9に示す。入力層に適切な数のノード102を設ける。ノード数は、特徴ベクトルの数や各ベクトルの長さにより異なる。信号セグメントの特徴ベクトル104は、上述した
図5の手順で計算する。人工ニューラルネットワークモジュール100には、適切な数の出力ノード106(
図9)も設ける。出力ノードの数は、多相流のモデルに構築する流れタイプやパラメータの数により決定する。隠れ層にも適切な数のノード108を設ける。ノード108の数は、入力ノード102および出力ノード106の数により異なる。隠れ層ノードは、非線形シグモイド活性化関数ニューロンの形をとる。
【0062】
人工ニューラルネットワークモジュール100は、メモリ38に格納した大量のトレーニングデータセットとバックプロパゲーションアルゴリズムを使用してトレーニングされる。トレーニングデータセットは、各流れタイプに対して50個以上の音響放射信号を含むべきである。人工ニューラルネットワーク100がトレーニングされると、隠れマルコフモデルで説明したのと同じ手順で多相流計測に使用できる。
【0063】
[人工ニューラルネットワークの構築]
フローチャートN(
図10)は、多相流計測および砂検出のための人工ニューラルネットワークを構築する方法論を概略的に示す。ステップ110では、各5〜10秒の特定の流れを表す少なくとも50の音響放射信号からなるトレーニングセットを記録する。記録した音響放射信号は、ラボラトリ流れループおよび/または実際のフィールドデータから取得できる。目的用途に応じて表面またはダウンホール条件から取得したデータを使用できる。
【0064】
ステップ112に示すように、適切な時間長のセグメントに信号を分割する。ステップ114では、ステップ54で説明した手順で各トレーニング信号に対して特徴ベクトルを計算する。ステップ116では、ステップ114で得た特徴ベクトルを人工ニューラルネットワークモジュール100に提供する。
【0065】
人工ニューラルネットワークが作成されると、好ましくは適切なバックプロパゲーションアルゴリズムを用いて、ステップ118の一部としてトレーニングされる。そのようなモジュール100のバックプロパゲーションアルゴリズムの例は、「Parallel Distributed Processing:Explorations in the Microstructure of Cognition」(Rumelhart and McClelland、1986)に含まれる。ステップ118で、トレーニング信号から算出した特徴ベクトル104もトレーニング入力として提供し、対応する流れタイプを出力として人工ニューラルネットワーク(教師あり学習)に提示する。各流れタイプに対してトレーニングセットを使用して本処理を繰り返す。より詳細な記述は、Alpaydin,Ethem,「Introduction to Machine Learning」(2nd ed.).Cambridge,Mass.:MIT Press,2010で確認できる。
【0066】
バックプロパゲーションアルゴリズムはその名の通り、エラーが出力ノードから入力ノードへと逆方向に伝播する。技術的に言えば、バックプロパゲーションは、ネットワークの修正可能な重みに関して、ネットワークエラーの勾配を計算する。
【0067】
[人工ニューラルネットワークモデリングによる計測]
人工ニューラルネットワークモデリングによる計測では、音響放射トランスデューサが作動し、パイプまたは導管22の計測対象の炭化水素/水混合物の多相流から多相流音響放射信号を受信する。音響放射信号は、上述したように、ハードウェアフロントエンドモジュールPで予め増幅し、フィルタリングし、デジタル信号に変換する。
【0068】
次いで、モジュールPからのデジタル信号は、多相計測ソフトウェアモジュール32が受信または収集する。デジタル信号の処理を
図10に概略的に示す。ステップ112に示すように、ソフトウェアフロントエンド40は、信号を分割またはセグメント化し、各セグメントに対する特徴ベクトルを計算する。
【0069】
ステップ116に示すように、音響放射信号の一連の代表的な特徴ベクトルが、入力として、データストレージまたはメモリから人工ニューラルネットワークモジュール100に送信される。ステップ118で人工ニューラルネットワーク処理を実行し、計測結果および流動パラメータを決定する。ステップ120で計測結果の出力が形成され、出力ノード106から表示分析および評価が可能になる。計測結果はデータメモリに格納され、さらなる使用および分析に用いることができる。
【0070】
[位相感知検出フロントエンド]
図1に示す装置Aは、フィルタ28で一定量のプレフィルタリングを行うが、完全な多相流音響放射の広帯域測定を使用し記述する。このため、音響放射スペクトルが高レベルの信号対雑音比を有する状況では、高Q測定を含める必要があり得る。このことは、以下により実行できる。すなわち、
(a)単一のロックインアンプチャネルであって、チューニング可能な高Qフィルタを有し、測定した電圧レベルがフィルタの中間点周波数でのノイズの振幅を表すロックインアンプチャネル、または
(b)複数のロックインアンプの配列であって、各々が異なる周波数に同調され、各々がフィルタの中間点周波数での音の振幅に対応するDC電圧を出力するロックインアンプの配列、
により実行できる。
【0071】
両方の場合で、ロックインアンプのフロントエンドからの出力が、時間依存性多相流音響放射のフーリエ変換の量子化近似となる。量子化近似は音スペクトルとして補間や直接処理が可能で、逆フーリエ変換を実行して時間依存挙動を再構成したり、または単に直接処理したりできる。
【0072】
トレーニング位相の間、ロックインアンプフィルタの固定周波数を音スペクトル内の関連周波数に調整し、信号回復を最大化し、ノイズおよび反響などの他のメカニズムを最小限にできる。
【0073】
ロックインアンプは、標準の集積回路部品を使用して組み立てることができる。有限または無限インパルス応答フィルタを使用するフロントエンドデジタル信号処理を介するか、または調整可能なアナログフィルタを介して、可変周波数フィルタを実現できる。
【0074】
隠れマルコフモデルまたは人工ニューラルネットワークに基づく計測を用いると、プロセッサDとして働くPC/DSPに信号処理およびパターン認識技術を実装するので、システムのハードウェアアーキテクチャに影響を与えないことに留意されたい。したがって、本発明による多相流計測は、以下の3つの可能な構成を有することができる。
(a)隠れマルコフモデルに基づく音響モデリングに基づく多相計測システム、
(b)人工ニューラルネットワークに基づく音響モデリングに基づく多相計測システム、又は
(c)隠れマルコフモデルおよび人工ニューラルネットワークに基づく音響モデリングの両方に基づく多相計測システム。
【0075】
本システムのさらなる実施形態で装置Mは、データの精度向上のため、1つまたは複数のセンサ測定(差圧測定を含む)と統合できる。装置Mは無線通信モジュールと統合し、以下の機能を可能にする。
(a)表面または坑口付近用途の場合、中央位置(central location)にデータを送信し、遠隔操作を可能にする、又は
(b)ダウンホール用途の場合、表面または坑口にデータを送信する。
【0076】
したがって、本発明は、海上または陸上のトップサイドとしての表面用途、および恒久的または回収可能システムの一部として展開可能なダウンホールに設置可能な多相流計測ソリューションを提供する。本システム特性により、計測システムをコンパクトにパッケージングできる。
【0077】
したがって、本発明は、高度な信号処理技術および自動学習手順を使用して、多相流の音響変化を統計的にモデル化し、正確な多相計測を可能にする、異なるアプローチを利用する。本発明は、音響放射に基づいており、弾性エネルギーの放出は、多相流から生じる炭化水素油およびガス、水、ならびに砂の混合物の流れの表面内および/または表面上で生じる。
【0078】
本発明は、低コスト、非放射性、超低電力、および小型である。本発明は、パイプ壁の貫通を必要とせず、したがって流れを妨げない点で、侵入型ではない。本発明はまた、流体および/またはパイプ壁を通過するように生成される音響または無線周波数(RF)励起信号を必要としない。本発明は、当該事項の平均的な知識を有する者が、本明細書において本発明で言及された結果を再現し得ることができるように十分に記載されているが、本明細書の発明の主題である技術分野の当業者は、本明細書での要求において記載されない変更を実行し、これらの変更を、決定された構造に、またはその製造処理において、適用することができ、添付の特許請求の範囲においてクレームされた事項を必要とし、そのような構造は、本発明の範囲内に包含されるものとする。
【0079】
添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、上記で詳細に説明した本発明の改善および修正が可能であることに留意されたい。