【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、被処理物に含まれる放射性セシウムを加熱処理により分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮方法であって、被処理物の光学的塩基度
(光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)、但し、γi=1.36(χi−0.26)、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度)と放射性セシウムの揮散率との正の相関関係に基づいて、
予め組成分析により求めた被処理物の光学的塩基度が所定値以上になるように、被処理物に
必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する光学的塩基度調整工程と、光学的塩基度調整助剤が添加された被処理物を1200℃から1700℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、前記分離工程で揮散分離された放射性セシウムを捕集する捕集工程と、を含む点にある。
【0015】
上述した特許文献4は、スラグの溶融温度を調整する指標として従来用いられていた塩基度(CaO/SiO
2の比)を調整する考え方の範疇に入り、スラグを溶融させることなく放射性セシウムを揮散させる考え方であるが、このような指標はAl
2O
3,Fe
2O
3,Na
2O,K
2O等の他の組成、或いは被処理物に添加される他の助剤の影響を受けると、もはや放射性セシウムの揮散量を調整できないという問題が内包されていた。そのような状況下で、本願発明者らは、鋭意試験研究を重ねた結果、被処理物の組成のばらつき等にかかわらず、被処理物を加熱処理することによって得られる溶融スラグの光学的塩基度と加熱処理によって被処理物から揮散する放射性セシウムの揮散率との間に正の相関があり、光学的塩基度が高いほど放射性セシウムの揮散率が高くなるという新知見を得た。
【0016】
光学的塩基度はDuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0017】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0018】
光学的塩基度を調整することにより溶融スラグの酸化物骨格構造が脆弱になり、放射性セシウムの酸化物骨格構造からの拘束力が低下して、揮散しやすい状態になると考えられる。
【0019】
そこで、光学的塩基度調整工程で、予め被処理物に光学的塩基度調整助剤を添加して被処理物の加熱処理後の光学的塩基度が所定値以上になるように調整し、分離工程で、被処理物を1200℃から1700℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離し、捕集工程で、揮散分離された放射性セシウムを捕集することによって、保管管理する必要がある放射性セシウムを分離濃縮して大幅に減容化でき、放射性セシウムが分離除去されたスラグを産業用資源として有効利用できるようになる。
【0020】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、
前記光学的塩基度調整工程において、前記分離工程後の被処理物の光学的塩基度が所定値以上になるように、前記分離工程の加熱処理によって揮散する光学的塩基度調整助剤の量を勘案して被処理物に必要量の光学的塩基度調整助剤が添加される点にある。
【0021】
必要量の光学的塩基度調整剤を過不足なく添加でき、加熱処理の被処理物の光学的塩基度がセシウムの揮散に適した値に調整されるようになる。
【0022】
同第
三の特徴構成は、同請求項
3に記載した通り、上述した第一
または第二の特徴構成に加えて、前記光学的塩基度調整工程で添加される光学的塩基度調整助剤は、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、マグネシウム化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、鉛化合物の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
【0023】
上述した光学的塩基度調整助剤としてアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、マグネシウム化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、鉛化合物、例えば酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素、ホウ砂、ホウ酸、酸化第一鉄、四酸化三鉄、酸化第二鉄、一酸化鉛、二酸化鉛等から選択される単一または複数の物質が好適に利用できる。
【0024】
同第
四の特徴構成は、同請求項
4に記載した通り、上述の第一
から第三の何れかの特徴構成に加えて、被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加工程をさらに含み、前記光学的塩基度調整工程で添加される光学的塩基度調整助剤の添加量に基づいて、前記塩素系助剤添加工程で添加される塩素系助剤の添加量が設定される点にある。
【0025】
塩素系助剤添加工程で被処理物に塩素系助剤を添加すると、塩素系助剤に含まれる塩素とセシウムが結合して比較的沸点が低い塩化セシウムが生成されるため、被処理物中の放射性セシウムをより効率よく揮散させることができるようになる。しかし、塩素系助剤を添加することによって装置が腐食する虞もあるため、無制限に塩素系助剤を添加することは困難である。そこで、放射性セシウムの揮散率を上昇させる効果のある光学的塩基度調整助剤の添加量に基づいて塩素系助剤の添加量を設定すれば、塩素系助剤の過剰添加を抑制しながら効率的に放射性セシウムを揮散分離することができるようになる。
【0026】
同第
五の特徴構成は、同請求項
5に記載した通り、上述の第
四特徴構成に加えて、前記塩素系助剤添加工程で被処理物に添加される塩素系助剤は、無機塩化物、塩酸、塩素系プラスチック、焼却飛灰、溶融飛灰の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
【0027】
被処理物に添加する塩素系助剤として、無機塩化物、塩酸、塩素系プラスチック、焼却飛灰、溶融飛灰を好適に用いることができ、塩素系プラスチック廃棄物や焼却飛灰を用いれば省資源化に資するようになる。
【0028】
同第
六の特徴構成は、同請求項
6に記載した通り、上述の第一から第
五の何れかの特徴構成に加えて、被処理物の加熱処理後の光学的塩基度が0.53以上になるように、前記光学的塩基度調整工程で添加される光学的塩基度調整助剤の添加量が調整される点にある。
【0029】
被処理物の加熱処理後の光学的塩基度が0.53以上になるように光学的塩基度調整助剤を添加すれば、被処理物中の放射性セシウムの揮散率が非常に高くなる。
【0030】
同第
七の特徴構成は、同請求項
7に記載した通り、上述の第一から第
五の何れかの特徴構成に加えて、前記分離工程は、被処理物を1200℃から1400℃で溶融して溶融スラグから放射性セシウムを揮散分離する工程である点にある。
【0031】
比較的低い温度で溶融処理することで、加熱に要する燃料費等の運転コストを低減でき、加熱処理に用いる炉壁等の耐火物の焼損を回避して設備コストを低減できるようになる。
【0032】
同第
八の特徴構成は、同請求項
8に記載した通り、上述の第
七の特徴構成に加えて、前記光学的塩基度調整工程で添加される光学塩基度調整助剤は、被処理物の溶融温度を降下させる融点降下剤としての機能を備えている点にある。
【0033】
光学塩基度調整助剤が同時に融点降下剤として機能するので、放射性セシウムの揮散率を高めながらも被処理物の溶融温度が低下し、燃料費等の運転コストをより低減できるようになる。
【0034】
同第
九の特徴構成は、同請求項
9に記載した通り、上述の第一から第
八の何れかの特徴構成に加えて、被処理物が、土壌、下水汚泥、浚渫汚泥、一般廃棄物、産業廃棄物、農業系バイオマス、木質系バイオマス、草本系バイオマス若しくはそれらの焼却残さから選択される単一または複数の物質である点にある。
【0035】
放射性セシウムで汚染された土壌、雨水に溶けた放射性セシウムが流入する下水処理場の下水汚泥、放射性セシウムが沈降した海や河川等の浚渫汚泥、稲わらや樹木の葉や表皮、草等のバイオマス、そしてそれらが最終的に集積される一般廃棄物、産業廃棄物には比較的高濃度の放射性セシウムが濃縮されている。このような被処理物に本発明を適用することにより、放射性セシウムを効果的に分離濃縮して減容でき、大規模な保管スペースを確保しなくても厳重な管理下で長期にわたり保管することができ、除染されスラグとなった被処理物を様々な資源として安全に再利用することができるようになる。
【0036】
本発明による放射性セシウム分離濃縮装置の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項
10に記載した通り、被処理物に含まれる放射性セシウムを加熱処理により分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮装置であって、被処理物の光学的塩基度
(光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)、但し、γi=1.36(χi−0.26)、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度)と放射性セシウムの揮散率との正の相関関係に基づいて、
予め組成分析により求めた被処理物の光学的塩基度が所定値以上になるように、被処理物に
必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する光学的塩基度調整装置と、光学的塩基度調整助剤が添加された被処理物を溶融して放射性セシウムを揮散分離する溶融炉と、前記溶融炉で揮散分離された放射性セシウムを含む飛灰を捕集する集塵機と、を備えている点にある。
【0037】
同第二の特徴構成は、同請求項11に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記光学的塩基度調整装置は、前記溶融炉で溶融された被処理物の光学的塩基度が所定値以上になるように、前記溶融炉で揮散する光学的塩基度調整助剤の量を勘案して被処理物に必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する点にある。
【0038】
同第
三の特徴構成は、同請求項
12に記載した通り、上述の第一
または第二の特徴構成に加えて、被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加装置をさらに備え、前記光学的塩基度調整装置で添加される光学的塩基度調整助剤の添加量に基づいて、前記塩素系助剤添加装置で添加される塩素系助剤の添加量が設定される点にある。
【0039】
同第
四の特徴構成は、同請求項
13に記載した通り、上述の第一
から第三の何れかの特徴構成に加えて、被処理物が、土壌、下水汚泥、浚渫汚泥、一般廃棄物、産業廃棄物、農業系バイオマス、木質系バイオマス、草本系バイオマス若しくはそれらの焼却残さから選択される単一または複数の物質である点にある。
【0040】
本発明による放射性セシウム除去方法の特徴構成は、特許請求の範囲の請求項
14に記載した通り、被処理物に含まれる放射性セシウムを加熱処理により除去する放射性セシウム除去方法であって、被処理物の光学的塩基度
(光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)、但し、γi=1.36(χi−0.26)、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度)と放射性セシウムの揮散率との正の相関関係に基づいて、
予め組成分析により求めた被処理物の光学的塩基度が所定値以上となるように、被処理物に
必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する光学的塩基度調整工程と、光学的塩基度調整助剤が添加された被処理物を1200℃から1700℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、を含む点にある。
【0041】
上述の構成によれば、被処理物から放射性セシウムを除去して被処理物を有効利用できるようになる。
【0042】
同第二の特徴構成は、同請求項15に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記光学的塩基度調整工程において、前記分離工程後の被処理物の光学的塩基度が所定値以上になるように、前記分離工程の加熱処理によって揮散する光学的塩基度調整助剤の量を勘案して被処理物に必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する点にある。
【0043】
本発明による放射性セシウム除去装置の特徴構成は、特許請求の範囲の請求項
16に記載した通り、被処理物に含まれる放射性セシウムを加熱処理により除去する放射性セシウム除去装置であって、被処理物の光学的塩基度
(光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)、但し、γi=1.36(χi−0.26)、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度)と放射性セシウムの揮散率との正の相関関係に基づいて、
予め組成分析により求めた被処理物の光学的塩基度が所定値以上となるように、被処理物に
必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する光学的塩基度調整装置と、光学的塩基度調整助剤が添加された被処理物を1200℃から1700℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離する分離装置と、を備えている点にある。
【0044】
同第二の特徴構成は、同請求項17に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記光学的塩基度調整装置は、前記分離装置で加熱された被処理物の光学的塩基度が所定値以上になるように、前記分離装置で揮散する光学的塩基度調整助剤の量を勘案して被処理物に必要量の光学的塩基度調整助剤を添加する点にある。