【実施例1】
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る弾性表面波デバイスを示す上面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A間の断面図である。なお、
図1(a)においては、保護膜14を透視して図示している。
図1(a)及び
図1(b)のように、圧電基板10上に、IDT20と、弾性表面波の伝搬方向でIDT20の両側に位置する反射器12と、が設けられている。圧電基板10は、例えばニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウム等の圧電材料を用いることができる。IDT20及び反射器12は、例えばアルミニウム又は銅等の金属で形成されることができる。IDT20は、1組の櫛型電極22を含む。1組の櫛型電極22それぞれは、複数の電極指24と、複数のダミー電極指26と、複数の電極指24及び複数のダミー電極指26が接続されるバスバー28と、を含む。複数のダミー電極指26は、例えば複数の電極指24の間に設けられている。1組の櫛型電極22それぞれの電極指24は、例えば互い違いに配置されている。
【0021】
バスバー28の一部を除き、IDT20及び反射器12を覆って保護膜14が設けられている。保護膜14は、例えば酸化シリコン等の誘電体膜を用いることができる。保護膜14の厚さは、例えばIDT20の厚さの1/10程度である。保護膜14で覆われていないバスバー28上には、金属膜16が設けられている。
【0022】
1組の櫛型電極22のうちの一方の櫛型電極22の電極指24と他方の櫛型電極22のダミー電極指26とは、それぞれの先端が向かい合っており、その間に隙間30が設けられている。IDT20を覆う保護膜14は、隙間30にも埋め込まれている。保護膜14上に、隙間30を覆って、複数の電極指24が並んだ第1方向に延在した帯状の付加膜18が設けられている。付加膜18の厚さは、例えば保護膜14の厚さよりも薄い。実施例1では、付加膜18が、1組の櫛型電極22の最も外側に位置する電極指24の一方から他方にかけて延在している場合を例に説明する。また、付加膜18は、隙間30を覆っているが、電極指24が延在する第2方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26には重ならずに設けられている場合を例に説明する。付加膜18は、例えば酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化シリコン、窒化アルミニウム、炭化シリコン、酸化チタン、シリコン、及びダイヤモンドのいずれかを含む膜又はチタン(Ti)、金(Au)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、及びモリブデン(Mo)のいずれかを含む金属膜を用いることができる。
【0023】
次に、実施例1に係る弾性表面波デバイスの製造方法について説明する。
図2(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性表面波デバイスの第1の製造方法を示す断面図である。
図2(a)のように、圧電基板10上に金属膜を形成した後、例えば露光技術及びエッチング技術を用いて金属膜を加工し、電極指24、ダミー電極指26、及びバスバー28を有する1組の櫛型電極22からなるIDT20と反射器12とを形成する。電極指24の先端とダミー電極指26の先端との間には隙間30が形成される。
【0024】
図2(b)のように、例えばスパッタ法を用いて、保護膜14を全面堆積する。
図2(c)のように、例えば露光技術及びエッチング技術を用いて、金属膜16を形成すべき領域の保護膜14を除去する。
図2(d)のように、レジスト膜32を全面に形成した後、付加膜18を形成すべき領域のレジスト膜32を除去して、開口を形成する。
【0025】
図3(a)のように、例えばスパッタ法を用いて、付加膜18を全面堆積する。
図3(b)のように、レジスト膜32をリフトオフによって除去して、付加膜18をパターニングする。付加膜18をリソグラフィー技術に基づく工程により形成できるため、付加膜18と隙間30とを例えば0.1μm以下の精度で位置合せでき、電極指24とダミー電極指26とに対する付加膜18の被覆量を管理値内に制御することができる。
図3(c)のように、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、バスバー28上に金属膜16を形成する。以上のような工程を含んで、実施例1に係る弾性表面波デバイスを製造することができる。
【0026】
図4(a)から
図4(d)は、実施例1に係る弾性表面波デバイスの第2の製造方法を示す断面図である。まず、
図2(a)及び
図2(b)で説明した工程を実施して保護膜14を全面堆積した後、
図4(a)のように、付加膜18を形成すべき領域に開口を有するレジスト膜34を形成する。その後、例えばスパッタ法を用いて、付加膜18を全面堆積する。
図4(b)のように、レジスト膜34をリフトオフによって除去して、付加膜18をパターニングする。
【0027】
図4(c)のように、例えば露光技術及びエッチング技術を用いて、金属膜16を形成すべき領域の保護膜14を除去する。
図4(d)のように、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、バスバー28上に金属膜16を形成する。以上のような工程を含んで、実施例1に係る弾性表面波デバイスを製造することができる。
【0028】
図5(a)から
図5(c)は、実施例1に係る弾性表面波デバイスの第3の製造方法を示す断面図である。まず、
図2(a)から
図2(c)で説明した工程を実施して、金属膜16を形成すべき領域の保護膜14を除去する。その後、
図5(a)のように、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、バスバー28上に金属膜16を形成する。
【0029】
図5(b)のように、付加膜18を形成すべき領域に開口を有するレジスト膜36を形成する。その後、例えばスパッタ法を用いて、付加膜18を全面堆積する。
図5(c)のように、レジスト膜36をリフトオフ法によって除去して、付加膜18をパターニングする。以上のような工程を含んで、実施例1に係る弾性表面波デバイスを製造することができる。
【0030】
図6は、実際に作製した実施例1に係る弾性表面波デバイスの上面を観察した際の模式図の例である。なお、
図6では、上面の一部のみを図示している。
図6のように、付加膜18は、隙間30に形成された部分の幅に対して、第1方向で隙間30に隣接する電極指24上に形成された部分の幅が太くなる場合がある。なお、後述の
図15(c)から
図15(e)のように、幅が一定となる場合もある。ここで、以下において、電極指24の先端及びダミー電極指26の先端から付加膜18の第2方向における端までの間隔38をオーバーラップ長と称すこととする。言い換えると、隙間30の第2方向における両端と付加膜18の第2方向における端との間隔38をオーバーラップ長と称すこととする。
【0031】
次に、発明者が行った実験について説明する。発明者は、実施例1の弾性表面波デバイスを作製し、アドミタンス特性、放射コンダクタンス特性、及びQ特性の測定を行った。作製した実施例1の弾性表面波デバイスの具体的構成を表1に示す。
【表1】
表1のように、圧電基板10に、42°Yカットのタンタル酸リチウム(LiTaO
3)基板を用いた。IDT20及び反射器12は、厚さ193nmのアルミニウム膜とした。保護膜14に、厚さ20nmの酸化シリコン(SiO
2)膜を用い、付加膜18に、厚さ6nmの酸化タンタル(Ta
2O
5)膜を用いた。
【0032】
また、弾性表面波デバイスで励振される弾性表面波の波長λを2μmとした。IDT20の電極指24の対数は116対とし、反射器12の電極指の本数は40本とした。電極指24及びダミー電極指26のデューティ比を50%とした。電極指24とダミー電極指26との間の隙間30の間隔を0.175λ(λは弾性表面波の波長、以下同様)とした。ダミー電極指26の長さを2.0λとした。
【0033】
図7は、実施例1の弾性表面波デバイスのアドミタンス特性と放射コンダクタンス特性の測定結果を示す図である。実施例1の測定結果を実線で示している。なお、比較のために、付加膜18が設けられていない点以外は、実施例1と同じ構成をした比較例1の弾性表面波デバイスに対しても測定を行い、測定結果を点線で示している。
図7のように、実施例1と比較例1とで、アドミタンス特性はほとんど変わらない結果であった。一方、放射コンダクタンス特性については、実施例1は、比較例1に比べて、共振周波数frから反共振周波数faにかけて低下する結果となった。
【0034】
図8は、実施例1の弾性表面波デバイスのQ特性の測定結果を示す図である。
図8のように、実施例1は、比較例1に比べて、共振周波数frと反共振周波数faとの間におけるQ値が改善された結果となった。例えば、比較例1では、共振周波数fr近傍でQ値が小さくなることが生じていたのに対し、実施例1では、このようなことが生じない結果となった。
【0035】
図7及び
図8の結果から、付加膜18を設けることで、弾性波を閉じ込める効果が得られ、その結果、共振周波数frから反共振周波数faにかけて、放射コンダクタンスの低下とQ値の改善とが得られることが分かった。
【0036】
次に、発明者は、付加膜18の形状によってQ特性等が変化するかを確認する実験を、実施例1の変形例1から変形例3の弾性表面波デバイスを用いて行なった。
図9(a)から
図9(c)は、実施例1の変形例1から変形例3に係る弾性表面波デバイスを示す上面図である。なお、
図9(a)から
図9(c)では、櫛型電極22の一部と付加膜18とだけを図示しているが、その他の構成は、実施例1の
図1(a)及び
図1(b)と同じである。
図9(a)のように、変形例1は、付加膜18を、隙間30からダミー電極指26まで覆う形状とした。
図9(b)のように、変形例2は、付加膜18を、隙間30からバスバー28の一部まで覆う形状とした。
図9(c)のように、変形例3は、付加膜18を、隙間30からバスバー28全体まで覆う形状とした。このような変形例1から変形例3の弾性表面波デバイスと実施例1の弾性表面波デバイスを、付加膜18に厚さ24nmのTa
2O
5膜を用いた点以外は、表1と同じ構成で作製した。
【0037】
図10は、実施例1及び実施例1の変形例1から変形例3の弾性表面波デバイスのQ特性の測定結果を示す図である。実施例1、変形例1から変形例3の測定結果をそれぞれ実線、一点鎖線、二点鎖線、破線で示している。なお、比較のために、付加膜18が設けられていない点以外は同じ構成をした比較例1の弾性表面波デバイスに対しても測定を行い、測定結果を点線で示している。
図10のように、実施例1の場合にQ値が最も大きくなる結果となった。これは、隙間30以外の箇所に付加膜18を設けると、弾性波の閉じ込め効果を弱めてしまう場合があることを示唆している。また、付加膜18に厚さ24nmのTa
2O
5膜を用いた場合では、変形例1から変形例3は、比較例よりも、Q値が低い結果となった。
【0038】
図11は、実施例1及び実施例1の変形例1から変形例3の弾性表面波デバイスの電気機械結合係数の測定結果を示す図である。
図11の左側縦軸は電気機械結合係数の測定値を示し、右側縦軸は比較例1の値に対する変化率を示している。
図11のように、実施例1及び変形例1から変形例3の全てが、比較例1よりも電気機械結合係数の値が小さくなる結果となった。また、実施例1、変形例1、変形例2、変形例3の順に、電気機械結合係数の値が低下していく結果となった。これは、弾性波エネルギーの伝搬には寄与しない付加膜18を広範囲に設けることが、電気機械結合係数の低下に繋がったものと考えられる。
【0039】
次に、発明者は、実施例1及び実施例1の変形例1から変形例3の弾性表面波デバイスに対して、Q値が最も大きくなる付加膜18の最適な厚さを求める実験を行った。その結果、実施例1では、Ta
2O
5膜の厚さを6nmとした場合、変形例1から変形例3では、Ta
2O
5膜の厚さを4nmとした場合が、Q値が最も大きくなった。
図12は、付加膜の厚さを最適にした場合における実施例1及び実施例1の変形例1から変形例3の弾性表面波デバイスのQ特性の測定結果を示す図である。
図12のように、付加膜18の膜厚を最適化することで、実施例1及び実施例1の変形例1から変形例3の全てで、比較例1よりも、共振周波数frと反共振周波数faとの間におけるQ値が改善された結果となった。また、実施例1のQ値が最も大きくなり、次いで、変形例1のQ値が大きくなる結果となった。
【0040】
図10及び
図12のように、弾性波の閉じ込め効果によって大きなQ値を得る観点から、付加膜18は隙間30から第2方向に大きく延在してないことが好ましいことが分かる。そこで、発明者は、
図6で説明したオーバーラップ長とQ値及び電気機械結合係数との関係を調べる実験を行った。具体的には、付加膜18の電極指24側及びダミー電極指26側のオーバーラップ長を共に0.0λ、0.1λ、0.2λ、0.4λ、0.6λとした実施例1、実施例1の変形例4、変形例5、変形例6、変形例7の弾性表面波デバイス及び
図9(a)に示した実施例1の変形例1の弾性表面波デバイスを、付加膜18に厚さ24nmのTa
2O
5膜を用いた点以外は、表1と同じ構成で作製し、Q特性及び電気機械結合係数を測定した。
【0041】
図13は、実施例1及び実施例1の変形例4、変形例5の弾性表面波デバイスのQ特性の測定結果を示す図である。実施例1、変形例4、変形例5の測定結果をそれぞれ実線、一点鎖線、二点鎖線で示している。なお、比較のために、付加膜18が設けられていない点以外は同じ構成をした比較例1の弾性表面波デバイスに対しても測定を行い、測定結果を点線で示している。
図13のように、共振周波数frと反共振周波数faとの間におけるQ値は、実施例1、変形例4、変形例5の順に小さくなる結果となった。つまり、オーバーラップ長が増加するほど(付加膜18が第2方向に延在するほど)Q値が小さくなることが確認できた。
【0042】
表2は、比較例1、実施例1、実施例1の変形例4から変形例7、実施例1の変形例1の弾性表面波デバイスの電気機械結合係数の測定結果を示す表である。表2のように、実施例1、変形例4から変形例7、及び変形例1の全てが、比較例1よりも電気機械結合係数の値が小さくなり、実施例1、変形例1、変形例4、変形例5、変形例6、変形例7の順に低下していく結果となった。つまり、オーバーラップ長が増加するほど電気機械結合係数は低下していく結果となった。また、オーバーラップ長が0.2λの変形例5では、比較例1に対して、電気機械結合係数が0.25%程度低下した。この程度の低下では、フィルタ特性にほとんど影響を与えないが、0.5%以上の低下では、フィルタの帯域が狭まるか、帯域中央でのインピーダンス整合状態が劣化してミスマッチロスが増加することが懸念される。表2によれば、電気機械結合係数の低下が0.5%未満となるオーバーラップ長は0.4λ以下となる。このことから、オーバーラップ長は0.4λ以下であることが好ましく、0.2λ以下であることがより好ましく、0.1λ以下であることがさらに好ましい。なお、変形例1は、
図9(a)のように、付加膜18をダミー電極指26まで被覆したものだが、電気機械結合係数の低下は僅かである。ダミー電極指26側へのオーバーラップはQ値改善は阻害するものの電気機械結合係数の劣化への影響は小さい。これより電気機械結合係数の劣化は、ダミー電極指26側へのオーバーラップよりも電極指24側へのオーバーラップが影響することが分かる。このことから、電極指24側へのオーバーラップ長は0.4λ以下であることが好ましく、0.2λ以下であることがより好ましく、0.1λ以下であることがさらに好ましい。
【表2】
【0043】
以上のように、実施例1及びその変形例によれば、1組の櫛型電極22のうちの一方の櫛型電極の電極指24の先端と他方の櫛型電極のダミー電極指26の先端との間の隙間30を覆い、第1方向に延在した帯状の付加膜18が設けられている。これにより、共振周波数frから反共振周波数faにかけて、放射コンダクタンスを低下させ、Q値を向上させることができる。したがって、このような弾性表面波デバイスをフィルタに用いることで、挿入損失を改善できることが分かる。
【0044】
付加膜18は、弾性波の閉じ込め効果によって大きなQ値を得る観点から、隙間30から第2方向に大きく延在していないことが好ましい。また、付加膜18を広範囲に設けないことで、周波数ずれの影響を小さくできる。例えば、付加膜18は、
図9(a)のように、第2方向において、一方の櫛型電極22の電極指24の先端から他方の櫛型電極22のダミー電極指26のバスバー28側の端までの範囲内で帯状に延在していることが好ましい。これにより、表2及び
図12のように、電気機械結合係数の劣化を抑制しつつ、Q値を向上させることができる。
【0045】
表2で説明したように、電気機械結合係数の劣化を抑制しつつ、Q値を向上させる観点から、オーバーラップ長は0.4λ以下の場合が好ましい。したがって、付加膜18は、第2方向で隙間30の両側に位置する電極指24の先端及びダミー電極指26の先端から0.4λ以下の範囲内で電極指24及びダミー電極指26の少なくとも一方を覆って帯状に延在していることが好ましい。また、付加膜18は、電極指24の先端及びダミー電極指26の先端から0.2λ以下の範囲内で電極指24及びダミー電極指26の少なくとも一方を覆って帯状に延在していることがより好ましく、0.1λ以下の範囲内で電極指24及びダミー電極指26の少なくとも一方を覆って帯状に延在していることがさらに好ましい。
【0046】
付加膜18は、
図14(a)から
図14(c)に示す場合でもよい。
図14(a)から
図14(c)は、実施例1の変形例8から変形例10に係る弾性表面波デバイスを示す上面図である。
図14(a)及び
図14(c)のように、付加膜18は、第2方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26の少なくとも一方に重なって帯状に延在していてもよい。
図14(b)及び
図14(c)のように、付加膜18は、第2方向で隙間30の両側に位置する電極指24の先端及びダミー電極指26の先端の少なくとも一方と間隔を有して帯状に延在していてもよい。間隔は、例えば0.4λ以下の場合が好ましく、0.3λ以下の場合がより好ましく、0.2λ以下の場合がさらに好ましい。このように、付加膜18は、隙間30の少なくとも一部を覆い、第1方向に延在して設けられた帯状であればよい。
【0047】
図15(a)から
図15(e)は、実際に作製した実施例1の変形例8に係る弾性表面波デバイスの上面を観察した模式図の例である。なお、
図15(a)から
図15(e)は、上面の一部のみを図示している。
図15(a)及び
図15(b)のように、付加膜18は、隙間30に形成された部分の幅に対して、第1方向で隙間30に隣接する電極指24上に形成された部分の幅が太くなる場合もあるし、
図15(c)から
図15(e)のように、幅がほぼ一定となる場合がある。なお、このことは、付加膜18が第2方向で隙間30の両側に位置する電極指24及びダミー電極指26に重ならない場合でも起こる。
【0048】
付加膜18は、弾性波を閉じ込める観点から、
図1(a)及び
図1(b)のように、1組の櫛型電極22の最も外側に位置する電極指24の一方から他方にかけて延在している場合が好ましい。しかしながら、この場合に限らず、
図16(a)及び
図16(b)に示す場合でもよい。
図16(a)及び
図16(b)は、実施例1の変形例11及び変形例12に係る弾性表面波デバイスを示す上面図である。
図16(a)のように、付加膜18は、最も外側に位置する電極指24の一方から他方にかけて延在してなく、途中で一部が途切れている場合でもよい。
図16(b)のように、付加膜18は、1組の櫛型電極22の中央部分で、2つ以上の隙間30に跨って延在して設けられている場合でもよい。
【実施例3】
【0052】
実施例3は、実施例1の弾性表面波デバイスをフィルタに用いた例である。
図18は、実施例3に係るラダー型フィルタを示す回路図である。
図18のように、実施例3のラダー型フィルタは、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に直列に接続された複数の直列共振器S1〜S4と、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に並列に接続された複数の並列共振器P1、P2と、を備える。直列共振器S1〜S4及び並列共振器P1、P2の少なくとも1つを、実施例1の弾性表面波共振器とすることができるが、実施例3では、直列共振器S1〜S4に、実施例1の弾性表面波デバイスを用いた場合を例に説明する。
【0053】
次に、発明者が行った実験について説明する。発明者は、実施例3のラダー型フィルタとして、以下の構成をしたラダー型フィルタを作製した。即ち、表1の構成をした実施例1の弾性表面波デバイスを直列共振器S1〜S4に用い、付加膜18を設けず且つIDT20の電極指24の対数を80対とした点以外は表1の構成をした弾性表面波デバイスを並列共振器P1、P2に用いた。そして、作製した実施例3のラダー型フィルタの通過特性及び反射特性を測定した。なお、比較のために、直列共振器S1〜S4に、付加膜18が設けられていない弾性表面波デバイスを用いた点以外は、実施例3のラダー型フィルタと同じ構成をした比較例2のラダー型フィルタに対しても同様の測定を行った。
【0054】
図19(a)は、実施例3のラダー型フィルタの通過特性及び反射特性の測定結果を示す図、
図19(b)は、
図19(a)の通過帯域における通過特性を拡大した図である。なお、
図19(b)においては、リターンロスも挿入損失に影響を及ぼすことから、リターンロスを0(即ち、リターンロスの影響なし)とした通過特性を示している。実施例3の測定結果を実線で、比較例2の測定結果を点線で示している。
図19(a)のように、実施例3と比較例2とは、おおよそ同じ様な特性となっているため、付加膜18を設けた弾性表面波デバイスを用いることによる特性変化は小さいことが分かる。また、
図19(b)のように、実施例3は、比較例2に対して、通過帯域における挿入損失が改善していることから、付加膜18を設けた弾性表面波デバイスを用いることで、挿入損失を改善できることが分かる。
【0055】
このように、付加膜18を備えた実施例1の弾性表面波デバイスをフィルタに用いることで、挿入損失を改善する効果が得られる。また、付加膜18を設けても、そのオーバーラップ長を制御することで共振器の電気機械結合係数の低下を抑制することができるため、通過帯域及び通過帯域外の抑圧特性もほぼ同一特性に維持される。これより、付加膜18を設けていない状態で既に設計完了した構造に対して、設計変更することなしにただ付加膜18を設けるだけで挿入損失を改善する効果が得られる。なお、実施例3では、直列共振器S1〜S4にのみ実施例1の弾性表面波デバイスを用い、並列共振器P1、P2には用いていないが、勿論、並列共振器P1、P2にも実施例1の弾性表面波デバイスを用いてもよい。実施例3では、直列共振器S1〜S4にのみ実施例1の弾性表面波デバイスを用いているため、
図19(b)のように、通過帯域の中央より高周波側の挿入損失が改善しているが、並列共振器P1、P2に実施例1の弾性表面波デバイスを用いることで、通過帯域の中央より低周波側の挿入損失の改善効果が得られることが言える。これは、実施例1の弾性表面波デバイスでは、
図8等のように、共振周波数frと反共振周波数faとの間の全周波数領域でQ値が改善しているためである。
【0056】
実施例1の弾性表面波デバイスの製造方法として、
図2(a)から
図5(c)で、3つの製造方法(第1から第3の製造方法)を説明した。そこで、第1から第3の製造方法のいずれを用いても、挿入損失を改善できることを確認するため、各製造方法によって作製した実施例1の弾性表面波デバイスを直列共振器S1〜S4に用い、通過特性と反射特性を測定した。
図20(a)から
図20(c)は、第1から第3の製造方法による弾性表面波デバイスを用いたラダー型フィルタの通過特性の測定結果を示す図である。
図20(a)から
図20(c)においては、
図19(b)と同様に、リターンロスを0として示している。
図20(a)から
図20(c)のように、第1から第3の製造方法のいずれを用いても、挿入損失に関して同様な改善効果が得られることが分かる。
【0057】
実施例3では、直列共振器S1〜S4に実施例1の弾性表面波デバイスを用いた場合を例に示したが、直列共振器S1〜S4及び並列共振器P1、P2の少なくとも1つに実施例1、実施例1の変形例、及び実施例2の弾性表面波デバイスを用いてもよい。また、実施例3では、ラダー型フィルタの場合を例に示したが、ラダー型フィルタに限らず、隙間30を有する構造を有する多重モード型フィルタ等、その他のフィルタの場合でもよい。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。