(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記転舵力発生手段による転舵力が、運転者によるステアリング(2)の回転操作に伴って生じる回転力、又は、ステアリング(2)の回転操作に伴って作動する転舵用アクチュエータ(31)による回転力のいずれかである請求項1に記載の車両。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態において、車両1の駆動輪のステアリング装置には、前後左右すべての車輪wのホイール内にインホイールモータMを装着している。インホイールモータMを備えたことにより、様々な走行パターンが可能となる。
【0019】
図1は、この発明に係る車両1のイメージ図を示す。超小型モビリティで2人乗車(横並び二人乗り)の車体を示している。車両1はステアリング2の操作によって、ステアリングシャフト3を介して車輪wを転舵できるようになっている。ただし、この発明は、超小型モビリティに限定されるものではなく、通常車両にも適応可能である。
【0020】
図2は、第一実施形態の車両1の駆動系を示す平面略図である。この実施形態は、前輪の左右輪(FL、FR)及び後輪の左右輪(RL、RR)にタイロッド12、22を介して、それぞれステアリング装置10、20を連結させたものである。
【0021】
前輪用の本案のステアリング装置10は、転舵力発生手段による転舵力で、ピニオン軸61(
図10参照)を軸周りに回転することで通常転舵が可能となる。この転舵力発生手段による転舵力として、運転者によるステアリング2の回転操作(一般車両(
図2(a)参照))に伴って生じる回転力、又はステアリング2の回転操作に伴って作動する転舵用アクチュエータ31(ステアバイワイヤ方式(
図2(b)参照))による回転力のいずれかとすることができる。これらの回転力をピニオン軸61に入力して、対のラックバーを同時に移動することにより、左右車輪wを同時に転舵することができる。
【0022】
また、後輪用の本案のステアリング装置20は、ステアリング2の回転操作に伴って作動する転舵用アクチュエータ31(ステアバイワイヤ方式(同図(b)参照))による回転力をピニオン軸61(
図10参照)に入力し、このピニオン軸61を軸周りに回転することで通常転舵が可能となる。後輪用のステアリング装置20においても、対のラックバーを同時に移動することにより、左右車輪wを同時に転舵することができる。
図2は、前後輪に本案のステアリング装置10、20を採用した4輪転舵装置を備えた車両1を示している。前後輪いずれのステアリング装置10、20も、その基本構成は同じである。この発明のステアリング装置を、前輪又は後輪のどちらかのみに装備する車両も採用可能であるし、あるいは、この発明のステアリング装置を後輪のみに装備し、前輪には通常の一般的なステアリング装置を装備する車両も採用可能である。
【0023】
本図においては、全車輪wにインホイールモータMを採用した構成について示しているが、前輪の2輪のみ、又は後輪の2輪のみ、インホイールモータMを採用した構成とすることもできる。
【0024】
前輪と後輪の各ステアリング装置10、20には、左右の車輪wを転舵するために2つのラックバーが備えられている。以下、前輪及び後輪共に、車両の前後方向に対して左側の車輪wに接続されるラックバーを第一ラックバー53と、右側の車輪wに接続されるラックバーを第二ラックバー54と称する。なお、
図2において紙面左向きの矢印が示している方向が、車両の前方方向となる。後の
図3〜
図6においても同様である。
図10等において示すように、2つのラックバー53、54の間には、各ラックバー53、54に噛合する同期ギア55が設けられている。この同期ギア55は、
図11等において示すように、同期ギアボックス66によって保持されている。
【0025】
前輪又は後輪の左右の車輪wには、
図2に示すように、それぞれタイロッド12、22を介して各ラックバー53、54の接続用部材11、21がヒンジ接続されている。タイロッド12、22と車輪wとの間には、適宜ナックルアーム等の各種部材が介在する。
【0026】
図7は、インホイールモータMが収容された車輪wとタイロッド12、22との接続状態を示す。すべての車輪wは、それぞれ車両のフレームに支持されたアッパーアームUAとロアアームLAの先端に備えられたボールジョイントBJの中心線を結んだキングピン軸Pを中心軸として、転舵が可能となっている。インホイールモータMは、車体内側から車輪wに向かって、モータ部101、減速機102、車輪用軸受103を順番に直列に配置することによって構成される。
【0027】
第一ラックバー53と第二ラックバー54は、
図8に示すように、各ステアリング装置10、20において、車両の直進方向(前後方向)に対して左右方向に伸びるラックケース(ステアリングシリンダ)50内に収容されている。ラックケース50は車両1の図示しないフレーム(シャーシ)に支持されている。
【0028】
ラックケース50の車両1への取付けは、例えば、ラックケース50に設けられたフランジ部50aを介して、車両1のフレームに直接又は間接的にネジ固定とすることができる。
【0029】
第一ラックバー53と第二ラックバー54は、ラックケース50内を車両の直進方向に対して左右同方向に同距離だけ同時に移動可能である。この動作は、運転者が行うステアリング2の操作に基づき、通常転舵用アクチュエータ31の動作によって行われる。この動作により、通常走行時、左右車輪を左右同方向に同時に転舵させることができる。
【0030】
このステアリング装置10、20には、ラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定する固定機構67が設けられている。この固定機構67は、固定用アクチュエータ69を内蔵している。この固定用アクチュエータ69を作動させ、この作動に伴って押え部(図示せず)を同期ギアボックス66に押し付けることによって、フレームに固定されたラックケース50に対し、同期ギアボックス66を固定することができる。このように同期ギアボックス66を固定することによって、この直進状態の場合のみならず、ステアリング2をいかなる角度操作した場合においても、左右の車輪転舵角度を同じにすることができる。
【0031】
図9に示すピニオン軸61は、ステアリングシャフト3(一般車両の場合(
図2(a)参照))、もしくは、ステアリング2の回転動作によって作動するモータなどのアクチュエータ31(ステアバイワイヤ方式の場合(
図2(b)参照))に接続される。このピニオン軸61には一体もしくは一体に回転可能に結合された第一ピニオンギア62があり、第一ピニオンギア62に噛合される第一ラックバー53と、第二ピニオンギア65に噛合させる第二ラックバー54を備える。この2つのラックバー53、54は互いに平行に伸びている。
【0032】
また、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を回転方向に結合及び分離が可能とする連結機構63を備えている。
図9(a)は分離した状態、
図9(b)は結合した状態を示している。
【0033】
また、ステアリング装置10、20は、
図10に示すように、それぞれラックバー動作手段60を備えている。ラックバー動作手段60は、車両の直進方向に対する左右方向、すなわち、ラックの伸縮する方向(ラックの歯の並列する方向)に沿って、第一ラックバー53と第二ラックバー54を互いに反対方向(相反する方向)へ同距離だけ同時に移動させる機能を有する。
【0034】
ラックバー動作手段60は、
図10に示すように、対のラックバー53、54の互いに対向するラックギア、すなわち、第一ラックバー53の同期用ラックギア53aと第二ラックバー54の同期用ラックギア54aにそれぞれ噛み合う第一同期ギア55を備える。
【0035】
第一同期ギア55は、ラックバー53、54のラックの歯の並列方向に沿って一定の間隔で並列する三つのギア55a、55b、55cからなる。
図9で示した連結機構63による第一及び第二ピニオンギア62、65の連結を分離状態としつつ、第一ラックバー53をラックバー動作手段60から入力された駆動力によって、そのラックの歯の並列方向に対して一方向へ動かすと、その動きが第二ラックバー54の他方向への動きに変換される。
【0036】
なお、
図10、
図11に示すように、第一同期ギア55の隣り合うギア55a、55b間、ギア55b、55c間には、それぞれ、第二同期ギア56を構成するギア56a、56bが配置されている。第二同期ギア56は、第一ラックバー53の同期用ラックギア53aや第二ラックバー54の同期用ラックギア54aには噛み合わず、第一同期ギア55にのみ噛み合っている。第二同期ギア56は、第一同期ギア55の3つのギア55a、55b、55cを、同方向に同角度だけ動かすためのものである。この第二同期ギア56によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、スムーズに相対移動することが可能となる。
【0037】
また、
図9に示すように、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、同期用ラックギア53a、54aとは別に、それぞれ転舵用ラックギア53b、54bを備えている。
【0038】
第一ラックバー53と第二ラックバー54は、それぞれ、別体で形成された同期用ラックギア53a、54aと前記転舵用ラックギア53b、54bを、ボルト軸等の固定手段で一体に固定したものとしてよい。
【0039】
転舵用ラックギア53b、54bは、各ラックバー53、54を、車両1のフレームに対して、前記ラックの歯の並列方向に沿って移動させるための駆動力の入力手段として機能する。
【0040】
図11(a)に示す状態(直進状態)から、
図11(b)に示す状態(後で説明する横方向移動モードの状態)へと移動するためには、連結機構63を分離した後、ラックバー動作手段60からの駆動力の入力により、第一ラックバー53を一方向に移動する。すると、第二ラックバー54には、第一ラックバー53と第二ラックバー54の両方に噛合している第一同期ギア55を介してその力が伝達され、この第二ラックバー54は、第一ラックバーと逆方向に同距離だけ同時に移動する。
【0041】
直進状態においては(
図11(a)参照)、直進状態のタイヤ(ラックバー)位置で連結機構63が噛合することで、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65が回転固定される。そして、ステアリング2を回転させてステアリングシャフト3を回転すると、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、フレームに取り付けられたラックケース50内を左右同方向に同距離だけ同時に移動する。
【0042】
また、横方向移動モードの状態においては(
図11(b)参照)、連結機構63が分離され第一ラックバー53と第二ラックバー54は、同期ギアボックス66内の同期ギア55にそれぞれ噛合している。この同期ギア55の噛合によって、それぞれのラックバー53、54は、同期ギアボックス66に対して逆方向に同距離移動する。ここで、同期ギアボックス66をフレームに固定されたラックケース50に対して固定しておくと、左右車輪w(タイヤ)の接地面に傾斜や摩擦状態の違い等があっても、同期ギアボックス66に対して、対のラックバー53、54を左右反対方向に同距離だけ同時に移動することができる。したがって、それぞれのラックバー53、54にタイロッド12、22を介して接続される左右の車輪wは常に同じ角度で移動(転舵)されることとなる。
【0043】
次に、ラックバー動作手段60の作用について説明する。
【0044】
前輪のステアリング装置10のラックバー動作手段60は、運転者が行うステアリング2の回転動作に伴って直接回転する第一回転軸(ピニオンギア軸)61を備える(
図9参照)。このように、運転者が行うステアリング2の回転動作に伴って第一回転軸61を直接回転させる代わりに、運転者が行うステアリング2の回転動作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって、又は、車両1が備えるモード切替手段42の操作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって、第一回転軸61側へ回転が伝達されるように切り替えることもできる。
【0045】
後輪のステアリング装置20のラックバー動作手段60は、同じく、運転者が行うステアリング2の回転動作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって、又は、車両1が備えるモード切替手段42の操作に連動して動作するモード切替用アクチュエータ32の駆動力によって回転する第一回転軸61と、その第一回転軸61に一体回転可能に取り付けられる第一ピニオンギア62とを備える。モード切替用アクチュエータ32の動作軸からステアリングシャフト3を介して、第一回転軸61側へ回転が伝達されるようになっている(
図9参照)。
【0046】
ラックバー動作手段60は、第一回転軸61と一体もしくは結合された第一ピニオンギア62と、第一回転軸61と同一直線上に配置される第二回転軸64と、その第二回転軸64に一体回転可能に取り付けられた第二ピニオンギア65を備える。
【0047】
図8は、ステアリング装置10、20の全体を示す外観斜視図である。前部カバー52と後部カバー51との間に、第一ラックバー53や第二ラックバー54が収容されている。なお、図示されていないが、タイロッド12、22取り付け部からラックケース50(ケース前部51、ケース後部52)にかけて、可動部への異物の侵入を防止するためのブーツが備えられている。第一回転軸61は、モード切替用アクチュエータ32の動作軸に、図示しないステアリングジョイントを介して接続される。
【0048】
第一ピニオンギア62は、
図9に示すように、第一ラックバー53の転舵用ラックギア53bに噛み合い、第二ピニオンギア65は第二ラックバー54の転舵用ラックギア54bに噛み合うようになっている。
【0049】
さらに、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65との間に、互いに結合及び分離が可能な連結機構63を備えている。連結機構63は、第一回転軸61と第二回転軸64とを相対回転可能な状態(分離状態)と相対回転不能な状態(結合状態)とに切り替える機能を有する。
【0050】
連結機構63は、
図9に示すように、第二回転軸64側の固定部63bと、第一回転軸61側の移動部63aを備える。移動部63aは、図示しないバネ等の弾性部材によって固定部63b側へ押し付けられ、連結機構63の固定部63b側の凹部63dに、移動部63a側の凸部63cが結合することで、両回転軸61、64が一体で回転可能となっている。なお、凹凸の形成部位を反対にして、固定部63b側に凸部63cを、移動部63a側に凹部63dを設けてもよい。
【0051】
図示しないプッシュソレノイドなどの駆動源からの外部入力によって、連結機構63の固定部63bに対して、移動部63aを軸方向に移動させることで、固定部63bと移動部63aとの連結を分離し、第一回転軸61と第二回転軸64とは独立して回転可能な状態となる。すなわち、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65は、それぞれが独立して回転可能となる(前記分離状態)。
図9(a)は、連結機構63の分離状態を示し、
図9(b)はその結合状態を示している。
【0052】
連結機構63の分離により第一ピニオンギア62、第二ピニオンギア65が相対回転可能なとき、第一ピニオンギア62は第一ラックバー53に噛合しており、第二ピニオンギア65は第二ラックバー54に噛合している。さらに、第一ラックバー53と第二ラックバー54は、第一同期ギア55によって噛合されている。このため、第一ピニオンギア62に入力された回転で、第一ラックバー53がラックの歯の並列方向、すなわち、車両の左右方向に沿って横方向(一方向)へ移動する。第一ラックバー53が横方向に移動することで、第一同期ギア55が回転し、第二ラックバー54が第一ラックバー53と反対方向(他方向)へ同距離だけ同時に移動する。このとき第二ピニオンギア65は第二ラックバー54の移動により自由に回転している。
【0053】
このように、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65とを連結機構63により結合状態と分離状態に切り替えることで、対のラックバー53、54が一体に左右方向へ動く状態と、別々に反対方向へ動く状態との切り替えが容易に可能となる。
【0054】
すなわち、連結機構63が、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を介して、第一ラックバー53と第二ラックバー54を結合した状態で、運転者が行うステアリング2の回転動作に連動して動作する通常転舵用アクチュエータ31の駆動力によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54を車両の直進方向に対して左右同方向へ同距離だけ同時に動かすことにより、左右車輪wをキングピン軸P(
図7参照)周りに同方向へ同時に転舵させることができる。このとき、第一ラックバー53と第二ラックバー54が一体に動くことにより、第一同期ギア55は回転していない。
【0055】
また、連結機構63が、第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を分離した状態で、第一ラックバー53と第二ラックバー54を車両の直進方向に対して左右反対方向へ同距離だけ同時に動かすことにより、左右車輪をキングピン軸P(
図7参照)周りに逆方向へ、すなわち、互いに相反する方向へ同時に転舵させることができる。
【0056】
すなわち、この実施形態では、通常運転時のステアリング2の操作による回転が、ステアリングシャフト3の回転を通じて第一回転軸61に入力されるようになっている。ラックバー動作手段60は、通常運転時(連結機構63が結合状態)に、第一ラックバー53と第二ラックバー54を同方向に同距離だけ同時に移動させる手段としても機能している。
【0057】
また、モード切替時には、モード切替用アクチュエータ32の駆動力が、ピニオンギア62、65の回転を通じてそれぞれのラックバー53、54に入力されるようになっている。なお、モード切替用アクチュエータ32の駆動力がピニオンギア62の回転を通じてそれぞれのラックバー53、54に入力される際は、そのステアリングシャフト3の回転がステアリング2に伝達されないようにしてもよいし、その伝達を許容するようにしてもよい。
【0058】
さらに、モード切替用アクチュエータ32の役割を、通常転舵用アクチュエータ31が兼ねることも可能である。すなわち、通常転舵用アクチュエータ31が、モード切替時において、ステアリングシャフト3を介して第一回転軸61に回転を入力するようにしてもよい。
【0059】
また、モード切替用アクチュエータ32は、ステアリングの左右に配置されたインホイールモータMの駆動力によってその役割をすることも可能である。さらに、これら通常転舵用アクチュエータ31、モード切替用アクチュエータ32、若しくは左右のインホイールモータMのいずれか、もしくは、いくつかの転舵操作力を用いて、転舵させることも可能である。
【0060】
以下、これらの各構成からなるステアリング装置を、車両に装着した場合のいくつかの走行モードについて説明する。
【0061】
(通常走行モード)
図2(a)(b)に示す直進状態の車輪位置で、前輪のステアリング装置10のラックケース50によって保持された第一ラックバー53と第二ラックバー54を一体移動可能な状態、つまり
図9の第一ピニオンギア62と第二ピニオンギア65を互いに結合又は分離が可能な連結機構63が結合した状態とする。すると、車両のフレームに取り付けられたラックケース50内の対のラックバー53、54は、左右の同方向に同距離だけ同時に移動する。
【0062】
ステアリング装置10が、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力又はステアリング2の操作によって、直進方向に対して左右方向に動くことで、第一ラックバー53と第二ラックバー54も同方向に同距離だけ同時に移動して、
図3に示すように、前輪の左右車輪wを所定の角度に同時に転舵する。
図3は、右に転舵した場合を示す。すなわち、2つのラックバー53、54を連結機構によって完全に一体動作可能とすることで、通常の車両と同等の走行が可能となる。通常走行モードでは、運転者のステアリング2の操作により、前輪のステアリング装置10を通じて、直進、右折、左折、その他、各場面に応じた必要な転舵が可能である。
【0063】
(小回りモード)
小回りモードを
図4に示す。
図3に示す前輪のステアリング装置10の動作に加え、後輪のステアリング装置20のラックケース内50の第一ラックバー53と第二ラックバー54を同方向に同距離移動可能な状態、つまり
図9の連結機構63が結合した状態とする。前輪と同じく、車両のフレームに取り付けられたラックケース50内の対のラックバー53、54は、左右方向に同方向に同距離だけ同時に移動する。
【0064】
後輪のステアリング装置20が、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力によって、直進方向に対して第一ラックバー53と第二ラックバー54が左右同方向に同距離だけ同時に動いて、
図4に示すように、後輪の左右車輪wを所定の角度に同時に転舵する。このとき、後輪と前輪とは逆位相に転舵しており(図中において、前輪が右転舵、後輪は左転舵)、通常走行モード時よりもより回転半径の小さい小回りが可能となる。なお、
図4では、後輪と前輪とが逆位相に同角度分だけ転舵した状態を示しているが、前後で転舵角度を相違させてもよい。
【0065】
(その場回転モード)
その場回転モードを
図5に示す。固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66をその直進時に設定される位置で固定するとともに、連結機構63(
図9参照)を分離することで、ラックケース50内の第一ラックバー53と第二ラックバー54は別々に動作可能となる。このとき、モード切替用アクチュエータ32からピニオンギア62の入力によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54に介在して設けた第一同期ギア55の作用により、両ラックバー53、54は互いに相反する方向に同距離だけ同時に移動し、左右車輪wは逆方向に同時に転舵する。このように、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定することによって、タイヤの接地面の傾斜や摩擦状態の違い等があっても、対のラックバー53、54を、固定された同期ギアボックス66を基準として、左右反対方向に同距離だけ同時に移動することができる。このため、左右車輪wを速やかに目標とする車輪角度とすることができ、舵角制御を安定的に行うことができる。
【0066】
第一ラックバー53と第二ラックバー54を互いに逆方向に同距離だけ同時に移動させ、
図5に示すように、前後4つの車輪wすべての中心軸がほぼ車両中心を向く位置で、連結機構63を結合固定させる。このとき、4つの車輪wすべての中心軸がほぼ車両中心を向いているため、それぞれの車輪wに備えられたインホイールモータMの駆動力によって、車両中心がその場所で一定の状態(又はほぼ移動しない状態)を維持しながら向きを変える、いわゆるその場回転が可能となる。また、ラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定した状態で保持したままとすることで、安定したその場回転が可能となる。
【0067】
図5では、それぞれの車輪wにインホイールモータMを装備しているが、少なくとも1つの車輪wにインホイールモータMが装備され、その一つのインホイールモータMが作動すれば、その場回転が可能である。
【0068】
(横方向移動モード)
横方向移動モードを
図6に示す。その場回転モードと同様に、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66をその直進時の位置で固定するとともに、連結機構63(
図9参照)を分離することで、ラックケース50内の第一第一ラックバー53と第二ラックバー54は別々に動作可能となる。このとき、モード切替用アクチュエータ32からピニオンギア62の入力によって、第一ラックバー53と第二ラックバー54に介在して設けた第一同期ギア55の作用により、両ラックバー53、54は互いに相反する方向に同距離だけ同時に移動し、左右車輪wは逆方向に同時に転舵する。このように、固定機構67によってラックケース50に対して同期ギアボックス66を固定することによって、タイヤの接地面の傾斜や摩擦状態の違い等があっても、対のラックバー53、54を左右反対方向に同距離だけ同時に移動することができる。このため、左右車輪wを速やかに目標とする車輪角度とすることができ、舵角制御を安定的に行うことができる。
【0069】
前後4つの車輪wすべてが直進方向に対して90度の方向(車両の直進方向に対する左右方向)へ向くように、モード切替用アクチュエータ32から第一ピニオンギア62への回転の入力によって、ステアリング装置10、20内の第一ラックバー53と第二ラックバー54を反対方向へ同距離だけ同時に移動させる。そして、車輪wが前記90度となった位置で連結機構63(
図9参照)を結合させて、対のラックバー53、54を固定する。
【0070】
このとき、その場回転モード時とは異なり、同期ギアボックス66をラックケース50に固定した状態を解除することで、ステアリング装置10、20のラックケース50内の第一ラックバー53と第二ラックバー54を、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力又はステアリング2の操作によって、直進方向に対して一体に左右方向へ同時に移動させて、車輪wの向き(タイヤ角度)を微調整することが可能となる。
【0071】
図6は、横方向移動モードでの前後輪のステアリング装置10、20の位置関係と、車輪wの向きを示す。その場回転モード時に比べて、さらに、対のラックバー53、54が外側に張り出しており、タイロッド12、22の車輪wへの接続部が、車両の幅方向に対して最も外側に位置する走行モードである。この横方向移動モードにおいても、通常転舵用アクチュエータ31の駆動力又はステアリング2の操作によって、車輪wの向き(タイヤ角度)を微調整することが可能である。
【0072】
(その他の走行モード)
その他の走行モードとして、例えば、電子制御ユニット(ECU)40が、車両1が高速走行中であることを認識した時は、ECU40の出力に基づき、アクチュエータドライバ30が、後輪のモード切替用アクチュエータ32に指令して、後輪の左右輪w(RL、RR)を、平行状態よりも前方側がわずかに閉じた状態(トーイン状態)に設定する。これにより、安定した高速走行が可能となる。
【0073】
このトー調整は、ECU40による車速や車軸にかかる荷重などの走行状態の判断に基づき自動的に行われるようにしてもよいし、運転室に設けられたモード切替手段42からの入力に基づいて行われるようにしてもよい。モード切替手段42を運転者が操作することで、走行モードの切り替えを行うことができる。モード切替手段42は、例えば、運転者が操作できるスイッチ、レバー、ジョイスティック等であってもよい。
【0074】
(モードの切り替え)
なお、前述の各走行モードの切り替え時についても、適宜、このモード切替手段42を使用する。車室内にあるモード切替手段42を操作することで、通常走行モード、その場回転モード、横方向移動モード、小回りモード等を選択することができる。スイッチ操作等で切り替えが可能とすれば、より安全な操作が可能である。
【0075】
通常走行モードにおいて、前輪のステアリング装置10では、ステアリング2の回転操作に伴うセンサ41からの情報に基づき、ECU40が各ラックバー53、54の左右方向への必要な動作量を算出し出力する。その出力に基づき、前輪の通常転舵用アクチュエータ31に指令して、各ラックバー53、54を収容するラックケース50を左右方向へ一体に移動させ、左右車輪wを必要方向へ必要角度だけ転舵する。
【0076】
例えば、モード切替手段42を操作し、その場回転モードを選択すれば、車両1の中心部に回転中心を持つように、前後輪のステアリング装置10、20を通じて4輪wを転舵させることができる。この操作は、車両1の停車中のみ許可される。このとき、2つのラックバー53、54の左右方向への相対移動量は、ECU40が算出し出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が前後輪のモード切替用アクチュエータ32に指令して転舵が行われる。
【0077】
また、モード切替手段42を操作し、横方向移動モードを選択すれば、4輪wの舵角が90度になるように、前後輪のステアリング装置10、20を通じて4輪wを転舵させることができる。このとき、2つのラックバー53、54の左右方向への相対移動量は、同じく、ECU40が算出し出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が前後輪のモード切替用アクチュエータ32に指令して転舵が行われる。このとき、通常転舵用アクチュエータ31は、必要に応じて動作しない状態に設定してもよいし、通常転舵用アクチュエータ31の動作を許可することで、その動作により転舵角の微調整も可能である。
【0078】
さらに、モード切替手段42を操作し、小回りモードを選択すれば、前輪と後輪は逆位相に転舵され、小回りが可能となるように設定できる。このとき、後輪のステアリング装置20において、対のラックバー53、54を収容したラックケース50の左右方向への移動量は、ステアリング2の操作等に基づいて、同じく、ECU40が算出し出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が前後輪の通常転舵用アクチュエータ31、モード切替用アクチュエータ32に指令して転舵が行われる。前輪のステアリング装置10の制御は、通常走行モードと同じである。
【0079】
このように、前後輪のステアリング装置10、20では、運転席のステアリング2の操舵角、若しくは、操舵トルク等を検出するセンサ41からの情報や、モード切替手段42からの入力に基づき、ECU40がラックバー53、54の左右方向への必要な動作量を出力する。あるいは、ECU40自身による走行状態の判断に基づき、対のラックバー53、54の必要な移動量を出力する。その出力に基づき、アクチュエータドライバ30が、通常転舵用アクチュエータ31やモード切替用アクチュエータ32を通じて前後輪を所定の向きに左右同時に転舵することができる。
【0080】
この実施形態では、後輪のステアリング装置20の制御は、運転者が行うステアリング操作やモード切替の操作を電気信号に置き換えて転舵するステアバイワイヤ方式を採用している。
【0081】
前輪のステアリング装置10として、後輪と同様、通常転舵用アクチュエータ31、モード切替用アクチュエータ32を用いたステアバイワイヤ方式としてもよいが、特に、通常転舵用アクチュエータ31として、運転者が操作するステアリング2、又は、ステアリングシャフト3に連結されたモータ等を備え、そのモータ等が、ステアリングシャフト3の回転によるラックバー53、54の左右方向の移動に必要なトルクを算出しアシストする構成としてもよい。このとき、モード切替用アクチュエータ32については後輪と同様である。
【0082】
なお、前輪のステアリング装置10の通常走行モードにおける転舵に使用する機構として、機械的なラックピニオン機構等を用いた一般的なステアリング装置を採用してもよい。
【0083】
上記に記載した種々の運転モードは例であり、それ以外にも、これらの機構を用いた様々な制御が可能となる。
【0084】
この発明では、転舵力発生手段と、ステアリング装置10、20と、を備え、ステアリング装置10、20が左右車輪wに接続され、この左右車輪wを転舵するタイロッド12、22と、対のラックバー53、54と、ラックバー動作手段60と、を備え、転舵力発生手段の転舵力によって、対のラックバー53、54の両方を同時に移動するようにした車両1を構成した。このようにすることで、左右車輪wが常に同時に転舵するため、例えば4輪のうち1輪のみ誤作動により転舵する状況が生じず、車両1の走行安定性が損なわれるのを防止することができる。