特許第6335637号(P6335637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335637
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】歯磨組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20180521BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20180521BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61K8/86
   A61K8/60
   A61K8/34
   A61Q11/00
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-104728(P2014-104728)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-218150(P2015-218150A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】荒井 将人
(72)【発明者】
【氏名】成松 三四郎
(72)【発明者】
【氏名】川延 勇介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康彦
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−020253(JP,A)
【文献】 特開平02−264711(JP,A)
【文献】 特開昭59−029612(JP,A)
【文献】 特開2014−062074(JP,A)
【文献】 特開2013−001651(JP,A)
【文献】 特開2010−143889(JP,A)
【文献】 特開2006−335676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、及びアラントインジヒドロキシアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種
成分(B):エチレンオキサイドの平均付加モル数が20〜60モルであるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキル鎖の炭素鎖長が10〜18でありエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜40モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸の炭素鎖長が10〜22であるショ糖脂肪酸エステル、及びアルキル鎖の炭素鎖長が8〜16であるアルキルグリコシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の非イオン性界面活性剤、
成分(C):グリセリン
を含有し、
練歯磨組成物の全量に対する成分(B)の含有量が0.1質量%〜6質量%であり、
練歯磨組成物の全量に対する成分(C)であるグリセリンの含有量が38質量%〜50質量%であり、
25℃におけるpHが4.5〜5.9である、
練歯磨組成物。
【請求項2】
成分(A):アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、及びアラントインジヒドロキシアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種
成分(B):エチレンオキサイドの平均付加モル数が20〜60モルであるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキル鎖の炭素鎖長が10〜18でありエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜40モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸の炭素鎖長が10〜22であるショ糖脂肪酸エステル、及びアルキル鎖の炭素鎖長が8〜16であるアルキルグリコシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の非イオン性界面活性剤、
成分(C):グリセリン及びソルビトール
を含有し、
練歯磨組成物の全量に対する成分(B)の含有量が0.1質量%〜6質量%であり、
練歯磨組成物の全量に対する成分(C)の含有量が30質量%〜50質量%であり、
練歯磨組成物の全量に対する前記グリセリンの含有量が21質量%〜30質量%であり、
25℃におけるpHが4.5〜5.9である、
練歯磨組成物。
【請求項3】
成分(B)以外の界面活性剤を更に含む、請求項1又は2に記載の練歯磨組成物。
【請求項4】
成分(B)以外の界面活性剤がアニオン界面活性剤を少なくとも含む、請求項3に記載の練歯磨組成物。
【請求項5】
無機系粘結剤を更に含み、
練歯磨組成物の全量に対する無機系粘結剤の含有量が1質量%〜10質量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【請求項6】
無機系粘結剤が増粘性無水ケイ酸及びベントナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項5に記載の練歯磨剤組成物。
【請求項7】
増粘性無水ケイ酸の吸液量が1.6mL/g以上である、請求項6に記載の練歯磨剤組成物。
【請求項8】
有機系粘結剤を更に含み、
練歯磨剤組成物の全量に対する有機系粘結剤の含有量が0.5質量%〜3質量%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アラントイン及びその誘導体は、細胞の機能を活性化するとともに抗炎症効果や抗潰瘍作用を有する有用な有効成分であることが知られている。一方で、アラントイン及びその誘導体は加水分解しやすい性質を有しているため、その安定性は極めて悪い。そのため、各分野においてアラントイン及びその誘導体の安定性を向上させるために種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アラントインとともに、有機酸又は無機酸、アミノ酸、これらのアルカリ金属塩又はこれらの2以上の組み合わせを含む水性製剤において、アラントインを安定に水性基材に配合せしめることができることが記載されている。特許文献2には、アラントインを含む液体口腔用組成物において、クエン酸とクエン酸塩、クエン酸とアルカリ剤、又はクエン酸塩と酸との組み合わせが、高温保温時のアラントイン加水分解抑制効果を有することが記載されている。特許文献3には、アラントインを含有する透明液体口腔用組成物において、乳酸を配合することによりアラントインの安定性を保持するpH領域内にpHを維持することができることが記載されている。
【0004】
歯刷子等のアプリケーターに乗せて口腔清掃を行う用途で用いられる歯磨剤には、適度な粘性を要し曳糸性を抑制すると共に、ペーストの固化を抑制し分散性を保持することが求められる。このような使用性を保持するため、従来より歯磨剤には、ソルビトール等の粘稠剤が配合されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−159317号公報
【特許文献2】特開2010−143889号公報
【特許文献3】特開2013−1651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、歯磨剤にアラントイン又はその誘導体を配合すると、アラントイン又はその誘導体の安定性が十分ではないという問題があった。特許文献1〜3に記載の水性製剤及び液剤のように、酸を配合して歯磨剤のpHを調整したとしても、アラントイン又はその誘導体の安定性は十分に改善されず、その原因は不明であった。
【0007】
本発明の目的は、アラントイン及びその誘導体の安定性を保つことができ、使用感も損なわれない歯磨組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その過程で、アラントイン又はその誘導体の安定性低下には、従来知見であるpHだけでなく、粘稠剤としてのソルビトール及びグリセリンの含有量がかかわっていることを見出した。しかし、ソルビトール及びグリセリンをアラントインとともに含有した歯磨組成物においてpHを調整しただけでは、口角部への炎症(口角炎)が発生するおそれが高まることが明らかとなった。口角炎の発症機序は明らかではないが、グリセリンの保湿作用により、歯磨組成物に含まれるpH6以下の酸性組成が口角部に残存しやすくなることに起因して発症するものと推測される。
【0009】
この問題点を解消するため本発明者らは更に検討した結果、歯磨組成物に非イオン性界面活性剤を添加し、かつ各成分の配合比を調整することで、アラントイン及びその誘導体の安定性を確保しつつ、口角炎の発症を抑制することができ、苦味の発生も抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明は、下記〔1〕を提供する。
〔1〕成分(A):アラントイン及び/又はその誘導体、
成分(B):ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の非イオン性界面活性剤、
成分(C):グリセリン、又は、グリセリン及びソルビトール
を含有し、
歯磨組成物の全量に対する成分(C)の含有量が30質量%〜50質量%であり、
歯磨組成物の全量に対する前記グリセリンの含有量が15質量%〜50質量%であり、
25℃におけるpHが4〜6.5である、
歯磨組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アラントイン及び/又はその誘導体を安定して含有するとともに、口角炎発症及び苦味の発生が抑制され、これにより使用感に優れた歯磨組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯磨組成物は、成分(A)〜(C)を含有する。各成分について以下順次説明する。
【0013】
[成分(A)]
成分(A)は、アラントイン及び/又はその誘導体である。
【0014】
アラントインの誘導体としては、例えば、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウムが挙げられる。
【0015】
アラントイン及びその誘導体は、公知のスキームに従って合成されたものでもよいし、市販品でもよい。
【0016】
成分(A)としては、アラントイン、アラントインの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を選択し、使用することができる。
【0017】
本発明の歯磨組成物における成分(A)の含有量は、歯磨組成物全量に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましい。これにより、成分(A)の安定化効果を確認することができるとともに、歯周病疾患抑制効果が十分に発現され得る。
【0018】
成分(A)の含有量の上限は、歯磨組成物全量に対して0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。これにより、苦味の発生を抑制することができる。
【0019】
なお、本発明において、歯磨組成物中の各成分の含有量は、特に断らない限り、組成物を製造する際の各成分の仕込み量を基準とするものである。
【0020】
[成分(B)]
成分(B)は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の非イオン性界面活性剤である。
【0021】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の平均付加モル数は、20モル以上であることが好ましい。上限は100モル以下であることが好ましく、60モル以下であることがより好ましい。
【0022】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが有するアルキル鎖の炭素鎖長は、10以上であることが好ましい。上限は、18以下であることが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイドの平均付加モル数は、5以上であることが好ましい。上限は40以下であることが好ましい。
【0023】
ショ糖脂肪酸エステルが有する脂肪酸の炭素鎖長は、10以上であることが好ましい。上限は、22以下であることが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルのうちショ糖脂肪酸モノエステル(ショ糖に脂肪酸が1つエステル結合した化合物)の割合は、50モル%以上であることが好ましい。上限は特に制限はなく、100モル%以下であればよい。
【0024】
アルキルグリコシドが有するアルキル鎖の炭素鎖長は、8以上であることが好ましい。上限は、16以下であることが好ましい。
【0025】
成分(B)は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が20モル〜100モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、炭素鎖長が10〜18のアルキル鎖を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5モル〜40モルのポリオキシエチレンアルキルエーテル、炭素鎖長が10〜22の脂肪酸を有し、1つの脂肪酸をエステル化したモノエステルの割合が50モル%〜100モル%であるショ糖脂肪酸エステル、及び炭素鎖長が8〜16のアルキル鎖を有するアルキルグリコシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。これにより、味を損なわずに良好な口角炎抑制効果を得ることができる。
【0026】
成分(B)の中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキルグリコシドよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、味の点からポリオキシエチレン硬化ヒマシ油であることがより好ましい。
【0027】
本発明の歯磨組成物における成分(B)の含有量は、歯磨組成物全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。これにより、口角炎の発症を抑制することができる。
【0028】
成分(B)の含有量の上限は、歯磨組成物全量に対して、6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。これにより、苦味を抑制し、良好な使用性を発揮することができる。
【0029】
[成分(C)]
成分(C)は、グリセリン、又は、グリセリン及びソルビトールである。
【0030】
本発明の歯磨組成物における成分(C)の含有量は、歯磨組成物全量に対して、30質量%以上であり、通常は35質量%以上であることが好ましい。これにより、十分な成分(A)安定化効果を得ることができる。
【0031】
成分(C)の含有量の上限は、歯磨組成物全量に対して、50質量%以下であり、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。これにより、口角炎の発症を抑制することができる。
【0032】
本発明の歯磨組成物における、成分(C)であるグリセリンの含有量は、歯磨組成物全量に対して、15質量%以上であり、20質量%以上であることが好ましい。これにより、十分な成分(A)安定化効果を得ることができる。
【0033】
グリセリンの含有量の上限は、歯磨組成物全量に対して、50質量%以下であり、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。これにより、口角炎の発症を抑制することができる。
【0034】
成分(C)がグリセリン単独である場合、本発明の歯磨組成物におけるグリセリンの含有量は、30質量%以上であることが好ましい。上限は50質量%以下であることが好ましい。
【0035】
成分(C)がグリセリンとソルビトールの組み合わせである場合、本発明の歯磨組成物におけるグリセリンの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。上限は35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
成分(C)がグリセリンとソルビトールの組み合わせである場合の本発明の歯磨組成物におけるソルビトールの含有量は、歯磨組成物全量に対して、15質量%以上であることが好ましく、上限は、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが好ましい。これにより、十分な成分(A)安定化効果を得ることができる。
【0037】
[グリセリン/成分(B)]
成分(B)の含有量に対するグリセリンの含有量の質量比率(以下、グリセリン/(B)と略記する。)は6以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましい。これにより、苦味を抑制することができる。上限は、400以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましい。これにより、十分な口角炎の発症を抑制することができる。
【0038】
[pH]
本発明の歯磨組成物の25℃におけるpHは、4以上であり、4.5以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。これにより口角炎の発症を抑制することができる。
【0039】
pHの上限は、6.5であり、6以下であることが好ましい。これにより、十分な成分(A)安定化効果を得ることができる。
【0040】
pHの調整方法は特に限定されないが、歯磨組成物にpH調整剤を含有させてpHを調整することが好ましい。pH調整剤としては、例えば酸性成分としては、クエン酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸、グルコン酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタミン酸等の有機酸、塩基性成分としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも酸としては有機酸を用いることが好ましく、クエン酸を用いることがより好ましい。また、有機酸を用いる場合、有機酸に加え有機酸塩を用いることが好ましく、中でもクエン酸とクエン酸ナトリウムを組み合わせることがより好ましい。
【0041】
[水]
本発明の歯磨組成物は、通常、水を含む。
【0042】
本発明の歯磨組成物が水を含む場合、水の含有量は、歯磨組成物全量に対して、20質量%以上であり、25質量%以上であることが好ましい。上限は、歯磨組成物全量に対して、50質量%以下であり、45質量以下%であることが好ましく、41質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、水の含有量は、歯磨組成物における総水分量を意味する。
【0044】
本発明の歯磨組成物の剤形は特に限定されず、ペースト状、液状等が例示される。前記剤形に調製された歯磨組成物は、練歯磨、液状歯磨、ジェル状歯磨等の各種歯磨製品とすることができる。本発明の好ましい製品形態は、練歯磨である。
【0045】
本発明の歯磨組成物は、上記各成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲において、歯磨組成物に使用し得る公知の添加成分(薬理学的に許容される担体)を含有していてもよい。かかる添加成分としては、例えば、研磨剤、粘結剤、成分(C)以外の粘稠剤(湿潤剤)、成分(B)以外の界面活性剤、甘味剤、防腐剤、香料、着色剤、成分(A)以外の薬用成分、pH調整剤、溶剤が挙げられ、剤型に応じて適宜選択し得る。以下に添加成分の具体例を示すが、本発明の歯磨組成物が含有してもよい成分は、これらに制限されるものではない。
【0046】
研磨剤としては、例えば、無水ケイ酸、結晶性シリカ、非晶性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート等のシリカ系研磨剤、ゼオライト、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム2水和物、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、第三リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第四リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる。これらのうち、無水ケイ酸とリン酸水素カルシウムが好ましく、無水ケイ酸がより好ましい。
【0047】
研磨剤である無水ケイ酸の吸液量は、通常0.5mL/g〜2.0mL/gであり、好ましくは0.7mL/g〜1.5mL/gである。これにより、十分な研磨効果を発揮することができる。
【0048】
本発明において吸液量は、以下の方法により測定した値である。即ち、試料1gをガラス板上に量りとり、ビュレットを用いて42.5質量%グリセリン水溶液を滴下しながらヘラで液が均一になるように混合する。試料が1つの塊となり、ヘラでガラス板よりきれいにはがれるようになったときを終点とし、試料1.0gに対して要したグリセリン水溶液量を吸液量(mL/g)として表す。
【0049】
研磨剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。研磨剤を配合する場合、その配合量は、歯磨組成物全体の2質量%〜40質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。
【0050】
粘結剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等の有機系粘結剤、増粘性無水ケイ酸、ベントナイト等の無機系粘結剤等が挙げられる。
【0051】
増粘性無水ケイ酸の吸液量は、1.6mL/g以上であることが好ましく、1.6mL/g〜3mL/gであることがより好ましい。
【0052】
有機系粘結剤は、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。無機系粘結剤は、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。粘結剤は、有機系粘結剤及び無機系粘結剤の組み合わせであってもよく、組み合わせであることが好ましい。
【0053】
有機系粘結剤を用いる場合、その含有量は、通常、歯磨組成物全量に対して0.5質量%〜3質量%である。無機系粘結剤を用いる場合、その含有量は、1質量%〜10質量%であることが好ましく、1質量%〜7質量%であることがより好ましく、2質量%〜6質量%であることが更に好ましい。これにより、十分な成分(A)安定化効果を得ることができ、口腔内分散性を発揮することができる。
【0054】
成分(C)以外の粘稠剤(湿潤剤)としては、例えば、キシリトール、マルチトール、エリスリトール等の糖アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。粘稠剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。粘稠剤を用いる場合、その総含有量(成分(C)との合計)は、本発明の効果を妨げない範囲で定めることができ、歯磨組成物全量に対して、通常、30質量%〜70質量%である。
【0055】
成分(B)以外の界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。
【0056】
アニオン界面活性剤としては、例えば、N−アシルアミノ酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩などが挙げられる。これらのうち、汎用性の点では、N−アシルアミノ酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩などが好ましい。味及び発泡性の点では、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウムなどが好ましい。口角炎抑制効果が向上する点では、ラウロイルメチルタウリンナトリウムがより好ましい。
【0057】
成分(B)以外のノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、脂肪酸アルキロールアミド、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤が挙げられる。両性界面活性剤の具体例としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやヤシ油脂肪酸アミドアルキルベタインが挙げられる。
【0059】
界面活性剤は、1種単独でもよいし2種以上の組み合わせでもよい。界面活性剤を用いる場合、その総含有量(成分(B)との合計)は、本発明の効果を妨げない範囲で定めることができ、歯磨組成物全量に対して0.1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0060】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、グリチルリチン、ソーマチン、パラチノース(登録商標)、マルチトール、キシリトール、アラビトール等が挙げられる。甘味剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。甘味剤を用いる場合、含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0061】
防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。防腐剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。防腐剤を用いる場合、その含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0062】
香料としては、口腔用製剤に使用可能な通常の香料成分を、単独で、又は複数組み合わせた香料組成物として、使用することができる。香料の含有量は、歯磨組成物全量に対して0.00001質量%〜3質量%であることが好ましい。
【0063】
着色剤としては、例えば、ベニバナ赤色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、シソ色素、紅麹色素、赤キャベツ色素、ニンジン色素、ハイビスカス色素、カカオ色素、スピルリナ青色素、タマリンド色素等の天然色素や、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等の法定色素、リボフラビン、銅クロロフィンナトリウム、酸化チタン、二酸化チタン等が挙げられる。歯磨組成物が着色剤を含有する場合、その含有量は、歯磨組成物全量に対して0.00001質量%〜3質量%であることが好ましい。
【0064】
薬用成分としては、成分(A)以外の成分、すなわち例えば以下の成分が挙げられる:モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第1スズ、フッ化ストロンチウム等のフッ化物;塩酸クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の殺菌又は抗菌剤;ピロリン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の縮合リン酸塩、ゼオライト、リン酸一水素ナトリウムやリン酸三ナトリウム等のリン酸塩等の歯石予防剤;トラネキサム酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、β−グリチルレチン酸、ε−アミノカプロン酸、オウバクエキス等の抗炎症剤;塩化ナトリウム等の収斂剤;硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム等の知覚過敏抑制剤;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、塩酸ピリドキシン、トコフェロール酢酸エステル等のビタミン等が挙げられる。薬用成分は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。薬用成分を使用する場合、その含有量は、それぞれの薬用成分について薬剤学的に許容できる範囲で適宜設定することができる。
【0065】
溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノールなどの炭素原子数3以下の低級アルコール等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明は勿論、かかる実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「%」は、別途明示のない限り、「質量%」を意味する。
【0067】
[実施例及び比較例に使用した主な原料]
<成分(A)>
アラントイン(パーマケムアジア社製)
アラントインクロルヒドロキシアルミニウム(パーマケムアジア社製、商品名「アルクロキサ」)
アラントインジヒドロキシアルミニウム(パーマケムアジア社製、商品名「アルジオキサ」)
【0068】
<成分(B)>
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油(エチレンオキサイドの平均付加モル数:20、メーカー名:日光ケミカルズ、商品名「NIKKOL HCO−20」)
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(エチレンオキサイドの平均付加モル数:60、メーカー名:メーカー名:日光ケミカルズ、商品名「NIKKOL HCO−60」)
ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数:5、メーカー名:ライオンケミカル)
アルキルグリコシド(アルキル鎖の炭素鎖長:8、メーカー名:ライオン)
(比較例)ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(メーカー名:デグサ、商品名「TEGO BETAIN」)
【0069】
<成分(C)>
85%グリセリン(ライオンケミカル社製)
70%ソルビトール(ロケット社製)
【0070】
<その他の成分>
下記以外の成分については、外原規規格品を用いた。
無水ケイ酸(研磨性、吸液量1.0mL/g)(多木化学社製)
無水ケイ酸(増粘性、吸液量2.5mL/g)(DSLジャパン社製、商品名「カープレックス」)
【0071】
[実施例1〜22、24、26及び27、参考例23及び25、並びに比較例1〜9]
上述の成分を用いて、表1〜6に示す配合量に従って下記調製方法により、歯磨組成物(練歯磨)を調製した。なお、表1〜6に示す各成分の配合量は、85%グリセリン及び70%ソルビトールを除いて、純分換算した値(AI)である。85%グリセリン及び70%ソルビトールについての純分換算した値(AI)も表に示した。各配合量の単位は質量%である。
【0072】
(歯磨組成物の調製方法)
(1)精製水中に成分(A)、成分(C)、フッ化ナトリウム、サッカリンナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、無水ケイ酸(増粘性)、酸化チタンを常温で混合溶解させた(混合物X)。
(2)プロピレングリコール中にカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムを常温で分散させた(混合物Y)。撹拌中の混合物X中に、酸化チタン及び混合物Yを添加混合して、混合物Zを調製した。
(3)混合物Z中に、香料、成分(B)、ラウリル硫酸ナトリウム、研磨剤をニーダー(宮川商店製)を用いて常温で混合し、減圧(5.3kPa)による脱泡を行い、歯磨組成物を得た。
【0073】
調製した歯磨組成物について、下記手順に従って、口腔内におけるアラントイン分解抑制効果、口角炎抑制効果(実施例1〜6及び比較例1〜2)、口角への刺激感のなさ(実施例7〜22、24、26及び27、参考例23及び25、並びに比較例3〜9)、及び苦味のなさ(実施例7〜22、24、26及び27、参考例23及び25、並びに比較例3〜9)を評価した。評価結果を表1〜6に示す。
【0074】
(1)アラントイン分解抑制効果の評価方法
50℃で2週間保存後の歯磨組成物について、下記試験条件に従いHPLCを用いてアラントイン濃度を測定した。各サンプルの製造直後のアラントイン濃度を100%とした際の残存率を算出し、次の基準に従いアラントインの分解抑制効果を判定した。
【0075】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:Inertsil NH2(4.6mmφ×250mm)
カラム温度:35℃
移動相:アセトニトリル/リン酸塩緩衝溶液混液(4:1)
リン酸塩緩衝溶液:リン酸二水素アンモニウム5.75gを水750mLに溶かし、リン酸を加えpH2.5に調整した後、水を加え1,000mLとした。
【0076】
<使用機器>
ポンプ:日本分光(株) PU−980
試料導入部:協和精密(株) KSP−100X
検出器:日本分光(株) UV−970
カラム恒温槽:(株)センシュー科学 SCC−2100
流量:1mL/min
【0077】
<判定基準>
◎:95%以上100%以下
○:90%以上95%未満
×:90%未満
【0078】
(2)口角炎抑制効果の評価方法
歯磨組成物の80質量%水溶液を調製し、その0.1mLをモルモット(Std:Hartley、雌)の前歯部歯肉及び下唇部粘膜に2時間間隔で1日4回、4日間連続投与した。1〜4日目の口角部粘膜を目視にて観察し、異常なしを0点、軽度の退色や硬化を1点、退色や硬化によるひび割れを2点、出血や潰瘍形成を3点として評価した。
【0079】
4日間の最大評点を用い、以下の基準で口角炎抑制効果とした。
【0080】
<判定基準>
◎:0点
○:1点
×:2点以上
【0081】
(3)口角への刺激感のなさの評価方法
4名のモニタが歯磨組成物を歯ブラシを用いて口角に塗布し、3分後に水ですすいだ後の刺激感を下記基準により評価した。4名の評価点の平均を下記判定基準に分類した。なお、口角への刺激感を強く感じる場合には、口角炎が発症する可能性が高く、口角に刺激感を感じる程度であれば、口角炎が発症する可能性は低い(口角炎抑制効果を有する)と判断することができる。
【0082】
<評価基準>
4点:口角に刺激感を全く感じない
3点:口角にやや刺激感を感じる
2点:口角に刺激感を感じる
1点:口角に非常に刺激感を感じる
【0083】
<判定基準>
◎:平均点3.5点以上
○:平均点3.0点以上3.5点未満
△:平均点2.0点以上3.0点未満
×:平均点2.0点未満
【0084】
(4)苦味のなさの評価方法
4名のモニタが歯磨組成物を歯ブラシに乗せ、口腔内を洗浄した際の味を下記評価基準により評価した。4名の評価点の平均を下記判定基準に分類した。
【0085】
<評価基準>
4点:苦味を全く感じない
3点:苦味をやや感じる
2点:苦味を感じる
1点:苦味を非常に感じる
【0086】
<判定基準>
◎:平均点3.5点以上
○:平均点3.0点以上3.5点未満
△:平均点2.0点以上3.0点未満
×:平均点2.0点未満
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
(表1〜6の脚注)
*:純分換算した値を示した。
【0094】
表1から、次のことが分かる。実施例1〜4の歯磨組成物は、アラントイン分解抑制効果及び口角炎抑制効果のいずれの評価にも優れていた。これに対して、成分(B)を含まない比較例1及び成分(C)の含有量が50%を上回る比較例2では、口角炎抑制効果が劣っていた。
【0095】
表2〜6から、次のことが分かる。実施例5〜22、24、26及び27、並びに、参考例23及び25の歯磨組成物は、アラントイン分解抑制効果に優れ、苦味も生じにくく、口角への刺激感も程度差はあるが弱い傾向にあった。これに対して、成分(B)を含まない比較例3、成分(B)の代わりにヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインを含む比較例4、成分(C)及びグリセリンの含有量が50質量%を超える比較例6、及びpHが4未満である比較例8では、口角への刺激感が強かった。グリセリンの含有量が15質量%未満である比較例5、成分(C)の含有量が30質量%未満である比較例7、及びpHが6.5を超える比較例9では、アラントイン分解抑制効果が劣っていた。
【0096】
これらの結果は、本発明の歯磨組成物は、成分(A)安定化効果、及び口角炎抑制効果に優れ、苦味も生じにくいことを示している。
【0097】
[実施例28]練歯磨
以下の組成の練歯磨組成物を調製した。
アラントイン 0.1
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油 1.8
85%グリセリン 45
クエン酸 0.7
イソプロピルメチルフェノール 0.1
ラウロイルサルコシンナトリウム 0.2
クエン酸ナトリウム 0.6
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
香料 1.2
無水ケイ酸(研磨性) 10
無水ケイ酸(増粘性) 5
ポリアクリル酸ナトリウム 0.5
キサンタンガム 0.6
アルギン酸ナトリウム 0.4
サッカリンナトリウム 0.2
ポリエチレングリコール4000 0.4
プロピレングリコール 3.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
パラオキシ安息香酸ブチル 0.01
酸化チタン 0.1
フッ化ナトリウム 0.21
水 残
計 100.0質量%
総水分量:37質量% pH:5.6
【0098】
上記の歯磨組成物は、アラントイン分解抑制効果及び口角炎抑制効果のいずれの評価にも優れていた。
【0099】
[実施例29]練歯磨
以下の組成の練歯磨組成物を調製した。
アラントイン 0.1
アルキルグリコシド 2.0
85%グリセリン 25
70%ソルビトール 35
クエン酸 0.8
塩化セチルピリジニウム 0.1
塩酸ピリドキシン 0.2
クエン酸ナトリウム 0.6
香料 1.2
無水ケイ酸(研磨性) 15
無水ケイ酸(増粘性) 3
ヒドロキシエチルセルロース 1.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.5
ポリエチレングリコール400 4.0
サッカリンナトリウム 0.2
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
パラオキシ安息香酸ブチル 0.01
酸化チタン 0.1
フッ化ナトリウム 0.21
水 残
計 100.0質量%
総水分量:25質量% pH:5.6
【0100】
上記の歯磨組成物は、アラントイン分解抑制効果及び口角炎抑制効果のいずれの評価にも優れていた。