【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき、本発明について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0034】
(第1の実施例)
図1は、本発明の第1の実施例を説明するための模式図であって、縦型SiC−MOSFETの単位セル構造の断面図を示す。
図中の1は、4Hポリタイプで1×10
19cm
−3以上の窒素がドーピングされたn型−SiC半導体基板(導電性半導体基板)であって、厚さは350μmである。2はSiC半導体基板1の表面側に形成されたホモエピタキシャル層(導電性半導体層)であって、1×10
16cm
−3の窒素がドーピングされ、厚さは10μmである。3はホモエピタキシャル層2の表面側に4×10
18cm
−3のアルミニウムが深さ0.5μmまでドーピングされたp型層(pウェル)である。4は、同じくホモエピタキシャル層2の表面側に1×10
20cm
−3の窒素を深さ約0.3μmまでドーピングしたn型の層である。5は厚さ約30nmのシリコン酸化膜の金属絶縁層(絶縁体)であり、また、その上には厚さ1μmのアルミニウム金属(金属導体)を付与して電極6が形成されており、本発明に係る第1電極(ゲート電極)に相当する。8は、3のp型層の上に形成された厚さ1μmのアルミニウム金属の電極であり、第2電極(ソース電極)に相当し、隣接する6の電極とは厚さ0.5μmのシリコン酸化物7で層間絶縁されている。ゲート電極6を介して左右対称にあるソース電極8間のピッチは15μmとし、
図1に示したセルの幅は30μmとした。
【0035】
更に、9はSiC半導体基板1の裏面に設けられたニッケル金属からなるショットキー接合となる電極であって、本発明に係る第3電極(ドレイン電極)に相当する。すなわち、ドレイン電極9とSiC半導体基板1との間にショットキーダイオード12を形成している。このドレイン電極9の上には厚さが1μmであって、外部電極と接合するためのアルミニウム電極10が積層されている。この
図1に示した第1の実施例に係る単位セルの奥行きは30μmであって、上面からとらえて正方形を成しており、これらのセルを連続させて同一のSiC半導体基板面内に多数構成し、個々の電極を並列接続して、全体としては3mm角のサイズでデバイス・1チップを構成した。以上の構成で耐電圧が約1kV、定格電流が18A程度のSiC−MOSFETとなった。
【0036】
次に、本素子(3mm角のデバイス・1チップ)の動作を
図2の簡易回路図を用いて説明する。破線11で囲まれた内部が
図1で示した本発明のSiC−MOSFETである。図中のローマ字はそれぞれD(ドレイン電極)、G(ゲート電極)、S(ソース電極)に相当する。12はMOSFETと順方向を一致させ直列に挿入されたショットキーバリアダイオードを示し、先に述べた9のニッケル金属からなるドレイン電極で形成される部分を示す。14はシリコンのファストリカバリーダイオード(FRD)からなる転流ダイオードであり、
図1のSiC−MOSFETの外付けとなる素子である。
【0037】
一般に耐圧が1kV程度のFRDの順方向内部抵抗は数百mΩと小さく、(転流ダイオードの内部抵抗×通電電流の瞬時値の最大値の積)≦(SiC−MOSFETのボディダイオードの閾値電圧+第3電極の逆方向耐電圧)を満足する条件の実現のためには、大電流の通電が必要となるが、長時間の通電は素子や配線の温度上昇につながり実験上の困難が生じることから、ここでは、本発明の効果を知るために、1Ωの抵抗値を有する抵抗器13を転流ダイオード12と直列に付加して、転流ダイオードの疑似的な内部抵抗とした。
【0038】
本SiC−MOSFETの順方向(ドレインーソース間)に電流を流す場合は、ドレイン電極Dをプラス、ソース電極Sをグランドとし、ゲートGにプラスの電圧を印可することで、順方向(ドレインーソース間)に電流が流れる。この場合、ショットキーバリアダイオード12も順方向の電圧印加となるため、通電可能である。順方向電流を遮断する場合はゲート電圧をOFF(閾値電圧以下)にする。
【0039】
ゲート電圧をOFFにした状態で、逆方向(ソースSがプラス)の電圧を印加すると、ショットキーバリアダイオード12の逆方向となり、整流作用で電流は流れない。この作用により、MOSFET内部のボディダイオードを電流は通過することなく、転流ダイオード14に電流が流れる。SiC−MOSFETに逆電圧を印可する前と後で、MOSFETの特性の変化をみるため、SiC−MOSFETの順方向特性を観察した。具体的にはMOSFETに順方向電圧を印可し、ゲート電圧をONとして、ドレイン電流I
d、ドレイン−ソース間電圧V
dSを測定した。その結果を
図5に示す。SiC−MOSFETに逆電圧を印可する前の実線a、逆電圧を1時間程度印加した後の特性を破線a’で示したが、特段の変化は見られなかった。
【0040】
次に、
図3に示した従来のSiC−MOSFETについて、比較参照用に説明する。この
図3に示したSiC−MOSFETは、
図1とほぼ同様な構成であるが、異なる部分はショットキー金属となるニッケル金属9を有さずに、アルミウム金属10−1をSiC半導体基板1に直接蒸着させてドレイン電極としており、ゲート電極6及びソース電極8を含めて全ての電極がオーミック接合となるように熱処理が施されている点である。
【0041】
この従来のSiC−MOSFETの動作について、
図4の簡易回路図を用いて説明する。本発明のSiC−MOSFETとの違いは、
図2の12に相当するダイオードが存在しないことである。順方向に電流を流す場合は、本発明の場合と同様にドレイン電極Dをプラス、ソース電極Sをグランドとし、ゲート電極Gにプラス電圧を印可すると、順方向に電流が流れる。順方向電流を遮断する場合はゲート電圧GをOFF(閾値電圧以下)にする。
【0042】
ゲート電圧GをOFFにした状態で、逆方向(ソース電極がプラス、ドレイン電極がソース電圧以下)の電圧を段階的に印加すると、電圧が低い場合は、MOSFET内部のボディダイオードを電流は通過することなく、外付けの転流ダイオード14に電流が流れるが、電流値が約2Aあたりから徐々にボディダイオードにも転流していることが電流プローブ等による観察で観測された。転流ダイオード14の内部抵抗が2A通電時で0.5Ω、直列の抵抗器が1Ωであったため、ソース−ドレイン間には約3Vの電位差が生じていたことになるが、この電位差が炭化ケイ素のPN接合順電圧降下である3Vを上回ったため、電流がSiC−MOSFETのボディダイオードへも並行して流れたものと考えられる。更に10A通電させ、その際の電圧を一定にして、数時間の通電を行ったところ、流れる電流値は徐々に低下していった。これは、SiC−MOSFETのボディダイオードが通電と共に劣化し、回路全体の抵抗が増したことが原因と考えられる。
【0043】
また、従来のSiC−MOSFETに逆電圧を印可する前と後で、SiC−MOSFETの特性の変化をみるため、
図3に示したSiC−MOSFETの順方向特性を観察した。具体的にはSiC−MOSFETに順方向電圧を印可し、ゲート電圧をONとして、ドレイン電流I
d、ドレイン−ソース間電圧V
dSを測定した。その結果を
図6に示す。SiC−MOSFETに逆電圧を印可する前を実線b、逆電圧を1時間程度印加した後の特性を破線b’で示したが、ボディダイオード通電後はSiC−MOSFETの順方向I−V特性は抵抗値が上がり、明らかな劣化が観測された。
【0044】
次に、
図1で示した本発明のSiC−MOSFETの製造方法について、
図7(7-1〜7-6)を用いて説明する。
4Hポリタイプで1×10
19cm
−3以上の窒素がドーピングされたn型−SiC半導体基板1の上に、CVD装置にて、1600℃以上の温度で1×10
16cm
−3の窒素がドーピングされた厚さ10μmのホモエピタキシャル成長を行い、エピタキシャル層2を形成した。
【0045】
次に、p型層3を形成するためにCVD法により、マスク材となるSiO
2膜16をエピタキシャル層2の表面に厚さ1μmで蒸着した(
図7-1)。次に、フォトリソグラフでパターンを形成し、エッチングを行うことでSiO
2膜16にp型層3部分に相当する開口部を設けた(
図7-2)。そして、p型層となる部分3には不純物をアルミニウムとして、加速エネルギーを100keV〜200keVとしたイオンインプランテーション(イオン注入)にて500℃以上の温度で注入した(
図7-3)。なお、18は、上記エッチングにより残されたSiO
2膜を示す。また、19は、イオンインプランテーションした個所を示す。
【0046】
次いで、SiO
2膜18のマスクをいったん除去後、再度SiO
2でマスクを行い、n型層4を形成するため部分的にマスクを除去して開口部を設け、高濃度の窒素を不純物として、加速エネルギーを100keV〜200keVとしたイオンインプランテーションにて注入し、n型層4を形成した。マスクを除去後、アルゴンガス雰囲気の中で1600℃で20分間のアニールを実施し、p型層3、及びn型層4を活性化した後、1200℃で2時間の熱酸化を行い、ゲート酸化膜に相当するSiO
2酸化層5を付与した(
図7-4)。
【0047】
次に、通常のフォトリソ工程にて、ゲート電極に相当するアルミウム電極6を形成した。更に、ゲート電極6とソース電極8との層間の絶縁層(シリコン酸化物7)となるSiO
2をCVD法により堆積した後、フォトリソ工程にて、ゲート電極6の両端に当たる部分にソース電極8を設けるために余分な層間絶縁層を取り除いた。その後、アルミニウムを蒸着堆積し、ソース電極8を形成した。ここで、ソース電極のオーミック接続を確保するために、アルゴンガス雰囲気の中で500℃で5分間のアニールを実施した(
図7-5)。最後にSiC半導体基板1の裏面にニッケル金属9を蒸着してドレイン電極を形成した後、アルミニウム電極10を蒸着にて積層させた。
【0048】
以上の工程により、
図1に示した本発明のSiC−MOSFETを製造した。ちなみに、
図3で示した従来のSiC−MOSFETについてもほぼ同様なプロセスで製造したが、異なる点はニッケル金属9を用いずに、SiC半導体基板1の裏面にアルミニウム電極10を直接蒸着し、最終工程でソース電極、ドレイン電極のオーミック接続を形成するため、アルゴンガス雰囲気の中で500℃、5分間のアニールを実施した点である。なお、上記の製造法は、本発明を実現するための一例に過ぎず、製造にあたっては多数のプロセス手順、組み合わせが存在するが、本発明のSiC−MOSFETを実現するための製造上のポイントは、熱処理等でドレイン電極に設けたショットキー金属がSiC半導体基板1と完全なオーミック接合とならないように工程を組む点にある。
【0049】
(第2の実施例)
図8は、本発明の第2の実施例を説明するための模式図であり、縦型SiC−MOSFETの単位セル構造の断面図を示す。図中、21は4Hポリタイプで5×10
18cm
−3以上の窒素がドーピングされたn型−SiC半導体基板(導電性半導体基板)であって、厚さは300μmである。22はSiC半導体基板21の表面に形成されたホモエピタキシャル層であって、5×10
15cm
−3の窒素がドーピングされ、厚さは30μmである。23はホモエピタキシャル層22の表面側に5×10
18cm
−3のアルミニウムが深さ0.7μmまでドーピングされたp型層(pウェル)であり、24は、同じくホモエピタキシャル層22の表面側に1×10
20cm
−3の窒素を深さ約0.3μmまでドーピングしたn型の層である。25は厚さ約50nmのSiO
2の絶縁層(絶縁体)であって、その上に厚さ1μmのアルミニウム金属26を付与して、第1電極(ゲート電極)が形成されている。28は23のp型層の上に形成された厚さ1μmのアルミニウム金属の電極であり、第2電極(ソース電極)に相当し、隣接する26のゲート電極とは厚さ1μmのシリコン酸化物27で層間絶縁されている。ゲート電極26を介したソース電極間ピッチは15μmとし、
図8に示したセルの幅は30μmとした。
【0050】
また、29は、SiC半導体基板1の裏面に設けられたアルミニウム金属からなるショットキー接合となる電極であって、本発明に係る第3電極(ドレイン電極)に相当する。そして、
図8に示したセルの奥行きは30μmであって、上面からとらえて正方形を成しており、これらのセルをSiC基板面内に多数構成し、個々の電極を並列接続して、全体として5mm角でワンチップを構成した。以上の構成で耐電圧が2.5kV、定格電流が40A程度のSiC−MOSFETを構成した。
【0051】
本実施例においても、先の実施例と同様、転流ダイオードを付与してSiC−MOSFETの逆方向電圧を加えて電流を流したが、ボディダイオードの抵抗、MOSFETの順方向I−V特性に特段の変化は見られなかった。製造方法については、
図3で説明した従来のSiC−MOSFETとほぼ同様であるが、異なる点はソース電極28のアルミニウムは蒸着後、500℃で3分間、アルゴンガス雰囲気で熱処理を実施したが、ドレイン電極29のアルミニウム金属の蒸着後は、熱処理を実施しなかった点にある。本実施例のように同じ電極金属であっても熱処理の有無、あるいは熱処理温度や時間の加減によりオーミック接合とショットキー接合とを造り分けることが可能である。本質的なポイントは金属と導電性半導体基板との間にオーミック接合となる合金層を高温化で生成しないことである。
【0052】
以上の実施例では、現状、良質なp型SiC半導体基板の入手が困難であったため、nチャネルMOSFETの実施例にて説明したが、p型SiC半導体基板をベースとしたpチャネルMOSFETであっても原理的には適用可能である。また、MOSFET構造は横型であっても適用は可能であるが、高耐圧大電力用としては縦型構造が好ましい。また、ショットキー接合となる金属であれば、第3電極(ドレイン電極)を形成する金属は単一の組成である必要はなく、例えば、チタンとアルミニウムとの合金組成などであってもよい。