特許第6335753号(P6335753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335753
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20180521BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20180521BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L5/00
   B60C1/00 A
   B60C1/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-217326(P2014-217326)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-84403(P2016-84403A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】三井 亮人
【審査官】 楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−238195(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/150852(WO,A1)
【文献】 特開2011−121908(JP,A)
【文献】 特開昭62−207211(JP,A)
【文献】 特開昭64−052879(JP,A)
【文献】 特開2003−103988(JP,A)
【文献】 特表2012−505281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08L 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、デキストリン及びイヌリンの中から選択された糖類と脂肪酸とがエステル結合してなる化合物少なくとも1種を0.1〜10質量部含有することを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸が少なくとも一つの分岐鎖を有する脂肪酸少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤにおいては、転がり抵抗の低減とウェットグリップ性の向上とがより高いレベルで要求されている。しかしながら、一般的に、ウェットグリップ性と転がり抵抗とは二律背反の関係にあり、両立させることは容易ではない。例えば、ウェットグリップ性を向上させるための手法として、充填剤とオイルの配合量を増やす手法があるが、これによると、転がり抵抗が悪化する傾向が生じる。
【0003】
本発明者はある種の多糖類脂肪酸エステルをゴム組成物に配合することにより、これらの問題が改善しうることに着目した。
【0004】
糖類や糖脂肪酸を、種々の目的のためにゴム組成物に使用することは従来から行われており、例えば特許文献1には、水中安定性及び経時安定性が高いエラストマー組成物を得るために、澱粉質材料のエステルの可塑剤を少なくとも5重量%、最大で40重量%含有させることが記載されている。また、特許文献2には、タイヤ用ゴム組成物において、破壊特性、ウェットグリップ及び発熱性や加工性を損なうことなく、耐摩耗性及び耐老化性を改良するために、単糖類、二糖類以上の多糖類並びにこれらの誘導体から選ばれた少なくとも一種の糖類0.1〜10重量部を含有させることが記載されている。さらに特許文献3には、タイヤの耐摩耗性を損なうことなく、ウェットグリップ性能及び省燃費性を向上させるために、タイヤ用ゴム組成物に糖類からなる複合体を含有させることが記載されている。
【0005】
しかしながら、デキストリン又はイヌリンの脂肪酸エステルを用いて、タイヤの転がり抵抗の低減とウェットグリップ性の向上とをバランス良く両立させるための具体的手段については、いずれの文献にも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2012−505281号公報
【特許文献2】特開平7−71481号公報
【特許文献2】特開2005−272507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、転がり抵抗及びウェットグリップ性を、多糖類脂肪酸エステルを用いることによりバランス良く向上させるゴム組成物を提供することを目的とする。また、これを用いてなる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記の課題を解決するために、ジエン系ゴム100質量部に対して、デキストリン及びイヌリンの中から選択された糖類と脂肪酸とがエステル結合してなる化合物少なくとも1種を0.1〜10質量部含有するものとする。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、上記脂肪酸は少なくとも一つの分岐鎖を有する脂肪酸少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0010】
本発明のタイヤは、上記本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いてなるものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム組成物は、デキストリン又はイヌリンと脂肪酸とがエステル結合したエステル化合物を配合することで、転がり抵抗の低減とウェットグリップ性の向上とが両立したものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明で使用可能なジエン系ゴムとしては、各種天然ゴム(NR)、各種ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレンブタジエンゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)等が挙げられ、これらはいずれか一種を用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは、スチレンブタジエンゴム、各種ポリブタジエンゴムを用いる。また、これらのゴムとしては、アミノ基、アルコキシシラン基、ヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン等を導入した変性ジエンゴムも必要に応じて用いることができる。
【0014】
本発明で使用するデキストリン及びイヌリンの中から選択された糖類と脂肪酸とがエステル結合してなる化合物は、以下、「エステル化物」又は「多糖類脂肪酸エステル」と表記する。ここで「多糖類」とは単糖類が2個以上結合した結合したものをいい、いわゆるオリゴ糖も含むものとする。
【0015】
デキストリンとは、α−グルコース(ブドウ糖)がα−グリコシド結合によって重合した重合体であり、通常はデンプン又はグリコーゲンの加水分解によって得られる。グルコース単位数は一般には約3〜10000個の範囲内のものをいうが、本発明で使用するものは3〜1000個であるのが好ましく、3〜200個であるのがより好ましい。
【0016】
またイヌリンとは、フルクトース(果糖)がβ−グリコシド結合によって重合した重合体であり、植物界に存在するものは約2〜140個のフルクトースを含み、末端にグルコースが結合している。本発明で使用するものは、フルクトース単位数が3〜140個であるのが好ましい。また、末端構造は限定されないものとする。
【0017】
また脂肪酸とは、鎖状炭化水素の1価のカルボン酸であり、鎖状炭化水素は飽和又は不飽和のいずれでもよく、直鎖状でも分岐状でもよいが、後述するように分岐鎖を有することが好ましい。脂肪酸の炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。使用可能な脂肪酸の具体例としては、酢酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ピバリン酸、クロトン酸、ソルビン酸等が挙げられる。これら脂肪酸は、1種を単独で使用することもでき、2種以上の混合物を使用することもできる。
【0018】
上記脂肪酸は、転がり抵抗の低減においてより高い効果が得られる点から、少なくとも一つの分岐鎖を持つことが好ましい。少なくとも一つの分岐鎖を有する脂肪酸の例としては、イソステアリン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソベヘン酸等が挙げられる。
【0019】
上記デキストリン又はイヌリンと脂肪酸とのエステル化反応は公知の方法に従って行うことができ、また市販されている化合物を利用することもできる。
【0020】
上記エステル化物は1種を単独で使用することもでき、2種以上の混合物を使用することもできる。
【0021】
本発明のゴム組成物において、上記のようなデキストリン又はイヌリンと脂肪酸がエステル結合したエステル化物を配合することにより転がり抵抗が低減されるのは、オイルやゴム末端のような流動性の高い成分の運動が抑制されるためであると考えられる。
【0022】
ゴム組成物中の上記エステル化物の配合量は、転がり抵抗の低減とウェットグリップ性とのバランスの観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。
【0023】
本発明のゴム組成物には、ゴム分野で通常使用されている補強性充填剤を使用することができる。補強性充填剤の例としては、ゴム分野で通常使用されているカーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化チタン等が例示され、通常はカーボンブラック又はシリカが好ましく用いられる。
【0024】
上記補強性充填剤の配合量は特に限定されず、タイヤ部材の用途等によって適宜調整されるものであるが、カーボンブラックのみを使用する場合は、通常はゴム成分100質量部あたり30〜80質量部の範囲が好ましく、シリカを配合する場合は、通常はゴム成分100質量部あたり10〜120質量部の範囲が好ましい。またシリカを配合する場合、ゴム成分100質量部あたりカーボンブラックを5〜50質量部配合することが好ましく、シリカ/カーボンブラックの配合比率は1/20〜1/0.1が特に好ましい。
【0025】
上記補強性充填剤としてシリカを使用する場合は、シランカップリング剤を併用するのが好ましい。シランカップリング剤の種類は特に限定されず、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用されるものを使用することができ、例としてはスルフィドシラン、メルカプトシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の含有量はシリカに対して5〜15質量%が好ましい。
【0026】
本発明に係るゴム組成物には、上記エステル化物、補強性充填剤以外では、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を適宜配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。
【0027】
以上よりなるゴム組成物は、タイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムとして用いることができ、このゴム組成物を、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、タイヤを形成することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下で示す配合割合は、特にことわらない限り質量基準(「質量部」、「質量%」等)とする。
【0029】
[実施例・比較例]
下記表1に示す配合(特に示した以外は質量部)に従い、まず硫黄、加硫促進剤を除く成分を混合し、次いで硫黄と加硫促進剤を添加混合して、タイヤ用ゴム組成物を調製した。表1中の各配合物の詳細は以下の通りである。
【0030】
・S−SBR:ランクセス(株)製 VSL5025−0HM
・BR:宇部興産(株)製 BR150B
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製 ニップシールAQ(BET:200m2/g)
・シランカップリング剤:エボニック・デグサ製社 Si69
・カーボンブラック:三菱化学(株)製 ダイアブラックN341
・オイル:昭和シェル石油(株)製 エキストラクト4号S
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製 亜鉛華1号
・老化防止剤:住友化学(株)製 アンチゲン6C
・ステアリン酸:花王(株)製 ルナックS20
・ワックス:日本精蝋(株)製 OZOACE0355
・デキストリン:ナカライテスク(株)製 デキストリン
・パルミチン酸:ナカライテスク(株)製 パルミチン酸
・スクロース脂肪酸エステル:三菱化学フーズ(株)製 S−570
・多糖類脂肪酸エステル1:千葉製粉(株)製 レオパールISL2(ステアリン酸イヌリン)
・多糖類脂肪酸エステル2:千葉製粉(株)製 レオパールKL2(パルミチン酸デキストリン)
・多糖類脂肪酸エステル3:千葉製粉(株)製 レオパールMKL2(ミリスチン酸デキストリン)
・多糖類脂肪酸エステル4:千葉製粉(株)製 レオパールTT2((パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン)
・多糖類脂肪酸エステル5:下記製造方法により得られたイソステアリン酸デキストリン
・硫黄:鶴見化学工業(株)製 5%油処理微粉末硫黄
・加硫促進剤:住友化学(株)製 ソクシノールCZ
【0031】
[多糖類脂肪酸エステル5の製造]
デキストリン21.4gをジメチルホルムアミド71g、3−メチルピリジン62gからなる混合溶媒に70℃で分散させ、イソステアリン酸クロライド120gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、反応温度を80℃として5時間反応させた。反応液をメタノールに沈殿させてから濾過し、固形分をメタノールで洗浄後、乾燥して淡黄色の樹脂状物質の粉体を得た。
【0032】
得られた各ゴム組成物について、転がり抵抗(発熱性)及びウェットグリップ性を以下の方法で測定した。各ゴム組成物を150℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
転がり抵抗(発熱性):JIS K6394に準じて、東洋精機(株)製粘弾性試験機を用いて、温度60℃、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み±1%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、転がり抵抗(低発熱性能)の指標として一般に用いられているものであり、この指数が小さいほどtanδが小さく、従って転がり抵抗が小さく、即ち低発熱性能に優れ、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
【0034】
ウェットグリップ性:温度を0℃に変え、その他は低発熱性能の評価と同様にして、損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能の指標として一般に用いられているものであり、この指数が大きいほどtanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示された結果から分かるように、比較例2のようにデキストリンを添加した場合、転がり抵抗は改善するが、ウェットグリップ性が悪化する。比較例3のように脂肪酸を添加した場合や、比較例4のように多糖類と脂肪酸を別々に添加した場合、転がり抵抗は低下し、ウェットグリップ性の改良も見られない。比較例5のように、デキストリン又はイヌリンではなく低分子量の糖の脂肪酸エステルを添加した場合、転がり抵抗が悪化する。比較例6のように多糖類脂肪酸エステルを過剰に添加した場合、転がり抵抗は改善するが、ウェットグリップ性が悪化する。
【0037】
これに対し、各実施例では、ゴムの発熱特性及びウェットグリップ性をバランスよく向上させることができた。特に分岐鎖を持つ脂肪酸からなる多糖類脂肪酸エステルを添加した実施例5及び10では、分岐鎖を持たない脂肪酸からなる多糖類脂肪酸エステルを使用した他の実施例よりも、転がり抵抗の改良がより顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
発明のゴム組成物は、乗用車、ライトトラック、トラック、バス等の各種タイヤに用いることができる。