特許第6335811号(P6335811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335811
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】クリアランスの調整方法
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/20 20060101AFI20180521BHJP
   F01L 1/46 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   F01L1/20 A
   F01L1/46 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-25125(P2015-25125)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-148270(P2016-148270A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウーン ホンチョン
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−157973(JP,A)
【文献】 特開平11−173123(JP,A)
【文献】 特開昭60−95108(JP,A)
【文献】 特開2006−328989(JP,A)
【文献】 米国特許第5445119(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/20
F01L 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のカムと当接可能なローラと、バルブのバルブステムに対してシムを介して当接するバルブ当接部と、を有するロッカアームにおいて、前記カムと前記ローラの間のクリアランスを調整するクリアランスの調整方法であって、
前記バルブ当接部に設けられた凹部に治具の突部を嵌合させた状態で、前記突部を回動中心として前記治具を前記バルブステム側に回動させ、前記治具の押圧部によって前記バルブステムに設けられた被押圧部を押圧することで、前記バルブステムを前記バルブ当接部から遠ざかる側に変位させ、前記バルブステムにおける前記バルブ当接部側の端部に取り付けられた前記シムと前記バルブ当接部との間に隙間を生じさせる隙間形成工程と、
前記隙間形成工程の後に行われ、前記シムを他のシムと交換するシム交換工程と、を備えるクリアランスの調整方法。
【請求項2】
前記被押圧部は、前記バルブステムに取り付けられるスプリングリテーナである請求項1に記載のクリアランスの調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリアランスの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンにおいて、カムからの押圧力をバルブに伝達するロッカアームを備えるものが知られている(例えば特許文献1)。ロッカアームは、カムに当接するローラ(回動部)を備えている。一般的に、エンジン停止時のカムとローラとの間には、所定のクリアランスが設定される。このクリアランスは、各部品の寸法誤差などによって製品毎に異なる。このため、クリアランスを所定の範囲内に設定するために、バルブステムにシムを取り付ける構成が知られている。シムはバルブステムとロッカアームの間に介在されるスペーサの機能を有しており、異なる厚さの複数のシムから、適切な厚さのシムを選択することで、カムとローラの間のクリアランスを調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−075482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の構成では、クリアランスを調整する際にシムを交換する必要があり、シムを交換するためには、カムやロッカアームをカムハウジングから取り外す必要がある。このため、カムやロッカアームを着脱する作業が必要となり、作業工数が増加してしまう。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、作業工数を低減させることが可能なクリアランスの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、車両のカムと当接可能なローラと、バルブのバルブステムに対してシムを介して当接するバルブ当接部と、を有するロッカアームにおいて、前記カムと前記ローラの間のクリアランスを調整するクリアランスの調整方法であって、前記バルブ当接部に設けられた凹部に治具の突部を嵌合させた状態で、前記突部を回動中心として前記治具を前記バルブステム側に回動させ、前記治具の押圧部によって前記バルブステムに設けられた被押圧部を押圧することで、前記バルブステムを前記バルブ当接部から遠ざかる側に変位させ、前記バルブステムにおける前記バルブ当接部側の端部に取り付けられた前記シムと前記バルブ当接部との間に隙間を生じさせる隙間形成工程と、前記隙間形成工程の後に行われ、前記シムを他のシムと交換するシム交換工程と、を備えることに特徴を有する。本発明では、治具を用いて、シムとバルブ当接部との間に隙間を生じさせることができる。これにより、ロッカアームやカムを取り外すことなく、シムの交換(着脱)を行うことができ、作業工数を低減させることができる。
【0007】
また、前記被押圧部は、前記バルブステムに取り付けられるスプリングリテーナであるものとすることができる。スプリングリテーナを押圧することで、専用の被押圧部を設ける必要がなく、より簡易な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業工数を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用エンジンを示す断面図
図2】隙間形成工程を示す断面図
図3】シム交換工程を示す断面図
図4】交換後のシムを取り付けた状態の車両用エンジンを示す断面図
図5】ロッカアームを示す断面図(図1のV−V線で切断した図に対応)
図6】隙間形成工程におけるロッカアームを示す断面図
図7】シム交換工程におけるロッカアームを示す断面図
図8】バルブ当接部を示す断面図(図5のVIII−VIII線で切断した図に対応)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を図1ないし図8によって説明する。本実施形態の車両用エンジン5は、図1に示すように、シリンダヘッド1と、シリンダヘッド1の上部に取り付けられるカムハウジング17と、動弁装置20と、を少なくとも備えている。シリンダヘッド1には、吸気ポート3を開閉する吸気バルブ10と、排気ポートを開閉する排気バルブ(図示せず)と、がそれぞれ取り付けられている。以下、吸気バルブ10及びこの吸気バルブ10を開閉する吸気側の動弁装置20について、詳しく説明する。なお、排気バルブおよび排気側の動弁装置については、吸気側と同様の構成であり、詳細は記載しない。
【0011】
吸気バルブ10は、円板状の弁部材11と、この弁部材11の上面から上方に延びる丸棒状のバルブステム12と、を備えている。弁部材11は、シリンダヘッド1に設けられてシリンダ(図示せず)の内部空間と連通する吸気通路2に配され、シリンダと吸気通路2とを連通する吸気ポート3を開閉可能となっている。バルブステム12は、吸気通路2の外壁を貫通しており、弁部材11側とは逆側の端部が外側(図1の上側)に突出している。
【0012】
バルブステム12の上端付近には、円板状のスプリングリテーナ13が取り付けられている。シリンダヘッド1の外面(上面)とスプリングリテーナ13との間には、バルブスプリング14が自然長よりも圧縮された状態で組み込まれている。このバルブスプリング14の弾性力によって、吸気バルブ10は、ロッカアーム40側(図1の上側)に付勢され、弁部材11が吸気ポート3を閉塞するように付勢されている。
【0013】
動弁装置20は、吸気バルブ10の開閉を行うものとされる。動弁装置20は、カム31を有するカムシャフト30と、ロッカアーム40と、ピボット50とを備えている。ロッカアーム40は、カム31の回転に従って揺動し、カム31の回転運動を上下運動に変換して吸気バルブ10に伝達する部材である。ピボット50は、ロッカアーム40の揺動支点を支える部材であり、例えば、カムハウジング17に取り付けられている。
【0014】
カムシャフト30は、中空の丸棒であって、バルブステム12の先端からやや離れた位置に、バルブステム12に対して垂直に配置され、カムハウジング17とカムキャップ(図示せず)との間で回動可能に支持されている。カムシャフト30には、カム31が固定されている。カム31は、正面視略卵形状をなす板状のカムであって、カムシャフト30を挿通するためのシャフト孔32を備えている。シャフト孔32は、カム31の一方の板面から他方の板面まで貫通する貫通孔である。カム31は、カムシャフト30に固定され、カムシャフト30と共に回転可能となっている。カム31は、回転中心(シャフト孔32の中心)から外周面までの距離が一定の円形であるベース円部33と、回転中心(シャフト孔32の中心)から外周面までの距離がベース円部33よりも大きなカムノーズ部(図示せず)とを有している。
【0015】
ロッカアーム40は、カム31の回転軸と直交する方向(図1の左右方向)に長い形状をなし、カム31とバルブステム12との間に配されている。ロッカアーム40は、ローラ49と、ローラ49を回転可能に保持するアーム本体41と、を備えている。アーム本体41の一端部は、ピボット50に揺動可能に支持される揺動支点部42とされる。一方、アーム本体41の他端部は、シム15を介して吸気バルブ10に当接するバルブ当接部44とされる。
【0016】
シム15は、例えば、円柱状をなしており、シム15の裏面には、図8に示すように、バルブステム12の上端部が嵌合される凹部16が形成されている。凹部16にバルブステム12の上端部を嵌合させることで、シム15がバルブステム12の上端部に取り付けられる構成となっている。シム15は、バルブステム12とバルブ当接部44の間に介在されるスペーサ部材である。シム15は、厚さの異なる複数のシムのうち、適切なものが選択される。シム15の厚さを調整することで、カム31とローラ49の間のクリアランスS1を調整することができる。なお、本実施形態のようなバルブステム12に取り付けられるシム15は、ステムキャップとも呼ばれる。
【0017】
揺動支点部42は、ピボット50の先端形状に倣う形状をなしており、その下面には、球状凹部43(図1において破線で示す)が形成されている。球状凹部43には、ピボット50の先端部51が嵌合される。バルブ当接部44の下面は、図8に示すように、シム15の上面に当接するバルブ受け面45とされる。バルブ受け面45は、シム15側にわずかに突き出す曲面とされる。
【0018】
アーム本体41は、図5に示すように、ローラ49を挟む形で配される一対の側壁部46、46を有している。各側壁部46は、ローラ49の回転軸に対して垂直に配されている。一対の側壁部46、46の間には、支持軸47が渡されている。支持軸47の両端部は、各側壁部46に形成された貫通孔48にそれぞれ圧入されている。支持軸47には、ニードルベアリングなどの軸受(図示略)を介してローラ49が回転自在に装着されている。ローラ49の上端は、側壁部46の上面よりも高い位置に配されている。これにより、ローラ49は、その上端において、カム31の外周面に当接するものとされる。
【0019】
本実施形態では、カム31のベース円部33がローラ49に対向している状態(ベース状態)では、吸気バルブ10はバルブスプリング14の付勢力により上方向に付勢され、閉状態(弁部材11が吸気ポート3を塞いだ状態)となる。また、カム31のカムノーズ部がローラ49に当接している状態(リフト時)には、カム31によりロッカアーム40が押し下げられる。これに伴い、バルブ当接部44により、吸気バルブ10が押し下げられ、吸気バルブ10が開状態となる。
【0020】
ローラ49とカム31との間には、クリアランスS1(バルブクリアランス、図1参照)が設定されており、エンジン動作時の各部品(バルブステム12など)の熱膨張などに対応することが可能となっている。仮に、クリアランスS1が小さすぎると、バルブステム12が熱膨張した際に、弁部材11がわずかに開いてしまう。一方、クリアランスS1が大きすぎると、ローラ49とカム31が当接した際に異音が生じ易くなる。このため、クリアランスS1は、所定の数値範囲内で設定される。しかしながら、クリアランスS1は、カム31やロッカアーム40の寸法誤差に起因して変動するため、所定の数値範囲内となるように調整する必要がある。本実施形態では、シム15の厚さを変更することで、クリアランスS1の値を変えることができる。
【0021】
次に、シム15を交換し、クリアランスS1を調整するための構成について説明する。本実施形態では、専用の治具60(工具)を用いて、クリアランスS1の調整作業を行う。治具60は、図2に示すように、略L字状をなし、その一端部は、作業者に把持される把持部61とされる。治具60の他端部は、ロッカアーム40に係止する係止部62とされる。係止部62の一部は、ロッカアーム40側に突き出す突部63とされる。一方、ロッカアーム40の一対の側壁部46、46において、シム15側の端部には、凹部46Aがそれぞれ形成されている。凹部46Aは、図1及び図5に示すように、側壁部46の側面に形成され、下側且つロッカアーム40の一端側(図1の右側)に開口するものとされる。突部63は、2つの凹部46Aのうち、いずれか一方に対して嵌合可能となっている。凹部46Aの奥面46A1は、円弧状をなし、突部63の外面は、これに倣う円弧状をなしている。
【0022】
次に、クリアランスS1を調整するための調整方法について説明する。本実施形態では、シム15として、基準となる所定厚さのシムをバルブステム12の上端部に取り付けておき、この状態におけるクリアランスS1をゲージなどを用いて測定する。
【0023】
(隙間形成工程)
次に、作業者は、図2に示すように、凹部46Aに治具60の突部63を嵌合させた状態で、治具60の把持部61を把持しつつ、突部63を回動中心として治具60をバルブステム12側(図2の時計回り)に回動させる。これにより、治具60の角部64(押圧部)によってバルブステム12のスプリングリテーナ13(被押圧部)が下方に押圧され、バルブスプリング14を圧縮させつつ、バルブステム12がバルブ当接部44から遠ざかる側に変位する。これにより、シム15とバルブ当接部44との間に隙間S2が生じる(図6参照)。なお、この状態では、ローラ49がカム31に押圧された状態となっている。
【0024】
(シム交換工程)
続いて、シム15をバルブステム12から取り外し、測定したクリアランスS1とクリアランスS1の目標値との差に基づいて選択されたシム(他のシム、符号15Bを付す)をバルブステム12に取り付ける(図3参照)。その後、図4及び図7に示すように、治具60を凹部46Aから取り外すと、治具60によるスプリングリテーナ13の押圧が解除され、バルブスプリング14が弾性復帰する。これにより、バルブステム12が上方に変位し、シム15Bがバルブ当接部44のバルブ受け面45に当接した状態となる。これにより、シム15の交換作業が完了する。図6に示すように、シム15Bの厚さ(詳しくは凹部16の底面からシム15Bの上面までの厚さD2)は、シム15の厚さ(詳しくは凹部16の底面からシム15の上面までの厚さD1)と異なる値で設定されている。例えば、シム15Bとして、シム15の厚さD1よりも厚さD2が大きいものを取り付けることで、図4に示すように、ローラ49とカム31との間のクリアランスS1をより小さくすることができる。なお、クリアランスS1は、例えば、0.2〜0.3mmの範囲内となるように調整されるが、この値に限定されるものではない。また、クリアランスS1がゼロとなるように調整してもよい。
【0025】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、治具60を用いて、シム15とバルブ当接部44との間に隙間S2を生じさせることができる。これにより、ロッカアーム40やカム31をカムハウジング17から取り外すことなく、シム15の取り付けや取り外しを行うことができ、作業工数を低減させることができる。
【0026】
また、本実施形態では、治具60によって、バルブステム12に取り付けられたスプリングリテーナ13を押圧するものとしている。スプリングリテーナ13を押圧することで、専用の被押圧部を設ける必要がなく、より簡易な構成とすることができる。また、本実施形態では、治具60の把持部61が力点、突部63が支点、角部64が作用点となるから、作業者は、バルブステム12をより小さい力で変位させることができる。
【0027】
また、本実施形態では、治具60の突部63を凹部46Aに嵌合させた状態で治具60を回動させている。これにより、治具60をロッカアーム40側に確実に固定させた状態で回動作業を行うことができる。また、凹部46Aの奥面46A1及び突部63の表面は円弧状をなしている。これにより、突部63を中心として、治具60を回動させやすく、作業性をより高くすることができる。
【0028】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、吸気バルブ10を開閉する動弁装置20について、クリアランスの調整方法を例示したが、これに限定されない。本発明の調整方法は、例えば、排気バルブ側の動弁装置について適用することも可能である。
(2)上記実施形態では、治具60として、L字状をなすものを例示したが、これに限定されない。治具60として、例えば、長手状をなすものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10…吸気バルブ(バルブ)、12…バルブステム、13…スプリングリテーナ(被押圧部)、15…シム、15B…シム(他のシム)、31…カム、40…ロッカアーム、44…バルブ当接部、46A…凹部、49…ローラ、60…治具、63…突部、64…角部(治具の押圧部)、S1…クリアランス、S2…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8