【文献】
Burkhardt, Rudolf et al.,Flameproofing agents based on tetrabromoxylene,Chemiker-Zeitung,1978年,vol.102 no.1,pp.11-18
【文献】
Lockner, Jonathan W. et al.,Practical radical cyclizations with arylboronic acids and trifluoroborates,Organic Letters Author manuscript [online],2012年10月21日,PMC2012,pp.1-8,SI-1,SI-7,SI-8,[retrieved on 2017.11.27], Retrieved from the Internet:<URL: http://pubmedcentralcanada.ca/pmcc/articles/PMC3193542/>
【文献】
Rueda-Zubiaurre, Ainoa et al.,Rational design of a non-basic molecular receptor for selective NH4+/K+ complexation in the gas phase,Chemistry - A European Journal ,2012年,vol.18 no.52,pp.16884-16889
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ペンタブロモベンジルブロミドの、塩化アルミニウム存在下でのトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン及びジフェニルエタンからなる群から選択される反応物とのフリーデル・クラフツアルキル化反応を含み、該ペンタブロモベンジルブロミドと該反応物との間のモル比が、少なくとも該反応物の6員芳香環の数
の2倍に等しい、請求項12に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子(例えば、ポリアミド、ポリプロピレン及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン組成物)中の難燃剤としての使用に適している、高分子量を有する、ペンタブロモベンジル部分を含有する、新規な種類の芳香族化合物を提供する。
【0002】
臭素化化合物は、難燃剤として極めて有効であることが知られており、多くの場合、それらは、合成材料の火災の危険性を低減するための、唯一の実行可能な選択肢を構成する。新規の、高分子量の高分子臭素化難燃剤を開発する必要性が、存在する。臭素化難燃剤の分子量が高くなればなるほど、その揮発性及び生体組織中の生物蓄積能力が低下すると仮定される。
【0003】
ペンタブロモベンジル部分を含む低分子量の化合物は、当技術分野で既知である。ペンタブロモベンジルアクリレート(EP 481126)、ペンタブロモベンジルテレフタレート(DE 33 20 333)及びペンタブロモベンジルテトラブロモフタレート(EP 47866)が、難燃性高分子組成物に有用であることが報告されている。さらに、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)が、可燃性材料中の難燃剤として使用されている。以下、ペンタブロモベンジル基は、時に、その分子構造:
【0004】
【化1】
【0005】
又はその分子式-CH
2C
6Br
5で表される。
【0006】
本発明は、ペンタブロモベンジル部分を含み、非常に満足できる難燃性を有する新規化合物を提供する。これらの化合物は、フリーデル・クラフツ触媒の存在下で、ペンタブロモンジルハライド、特にブロミドとの、種々の芳香族化合物の求電子的C−アルキル化を用いて調製される。本発明のペンタブロモベンジル基含有化合物は、高分子量(>1000)を有し、その臭素含有率は好ましくは70%以上であり、水に不溶であり、かつ、加水分解及び/又は分解に対して安定である。
【0007】
本発明の化合物は、式Ar(-CH
2C
6Br
5)
yを有し、式中、Arは、一つ以上の6員芳香環を含む構造を示し、該6員芳香環の少なくとも1つの炭素原子が-CH
2C
6Br
5基のベンジル炭素に結合していることを特徴とし、式中、本発明の化合物の-CH
2C
6Br
5基の数を示すyは、1以上である。
【0008】
好ましくは、Arは、一つの6員芳香環、又は二つの、好ましくは縮合していない、6員芳香環を含み、かつ、yは、少なくともAr中の6員芳香環の数の2倍に等しい。Arを構成する6員芳香族環は、それぞれ、例えば、アルキル基によって置換されていてもよいことに注目すべきである。Arが2つの6員芳香環からなる場合、これらの環は、アルキレン鎖、-O-又は-S-からなる群から選択される橋で接続されていてもよく、又は該環が一緒に縮合していてもよい。
【0009】
より具体的には、本発明は、式(I)
【0010】
【化2】
【0011】
で示されるような、複数のペンタブロモベンジル部分を含む、新規の芳香族高分子量高分子化合物及び/又はそのような化合物の混合物を提供する。
【0012】
式(I)において、Rは、H又は直線状若しくは枝分れ脂肪族鎖であり、n+m・nがyと等しくなるように、nは独立して1〜3の整数であり、好ましくは2又は3であり、mは0又は1であり、kは、1〜3の整数であり、Xは、存在しない、O、S、又は、例えば、1〜10個の炭素原子を含むアルキレン基である、直線状若しくは枝分れアルキレンである。
【0013】
本発明の化合物は、AlCl
3、AlBr
3、GaCl
3、FeCl
3、SnCl
4、SbCl
3、ZnCl
2、CuCl
2及びHF、好ましくはAlCl
3のような適切なフリーデル・クラフツ触媒(ルイス酸)の存在下、上述したような、ペンタブロモベンジルハライド、特にペンタブロモベンジルブロミド(1−(ブロモメチル)−2,3,4,5,6−ペンタブロモベンゼンと化学的に命名され、本明細書ではPBBBrと略記する。)を、少なくとも一つの6員芳香環を含有する出発物質と反応させることによって調製される。したがって、本発明の別の態様は、ペンタブロモベンジルハライドの、フリーデル・クラフツ触媒の存在下での一つ以上の6員芳香環を含有する反応物とのフリーデル・クラフツアルキル化反応を含む方法である。そのように形成されたAr(-CH
2C
6Br
5)
y生成物において、芳香族環の炭素原子及びペンタブロモベンジル基のベンジル炭素の間に少なくとも1つの結合が存在する。
【0014】
ペンタブロモベンジルブロミド出発物質に関して、ICL-IPによって市販及び製造されており、又は、当技術分野で知られている方法(例えば、US 6,028,156及びUS 7,601,774)によって、下記のスキーム(US 7,601,774を参照)に描かれているように、例えば、ハロゲン化溶媒中、元素状臭素を使用し、例えば、AlCl
3などのルイス酸触媒の存在下、トルエンを芳香族臭素化してペンタブロモトルエン(本明細書中では5-BTと略記する。)を形成し、次いでこれを、元素状臭素及び、例えば、アゾビスイゾブチロニトリルのようなラジカル源を用いてベンジル炭素で臭素化することを含む合成経路に従って、調製することができる。
【0015】
【化3】
【0016】
芳香族置換反応、すなわち、本発明のような求電子性C−アルキル化を起こす出発物質に関して、それは、1つの6員芳香環又は2つの、好ましくは非縮合の、6員芳香環を含む。好ましくは、反応物は式(II)
【0017】
【化4】
【0018】
で表される。
【0019】
式(II)において、Rは、H又は直線状若しくは枝分れ脂肪族鎖であり、mは、0又は1であり、kは、1〜3の整数であり、Xは、存在しない、O、S、例えば、1〜10個の炭素原子を含むアルキレン基である、直線状若しくは枝分れアルキレンである。
【0020】
式IIの例示的な出発物質は、
トルエン(式中、R=CH
3、k=1、m=0);
キシレン(式中、R=CH
3、k=2、m=0);
エチルベンゼン(式中、R=C
2H
5、k=1、m=0);
ジフェニルエーテル(式中、R=H、X=O、m=1);
ジフェニルメタン(式中、R=H、X=CH
2、m=1);及び、
ジフェニルエタン(式中、R=H、X=(CH
2)
2、m=1)
を含む。
【0021】
本発明によるフリーデル・クラフツアルキル化反応は、一般に、例えば、ジクロロメタン、ジブロモメタン(DBM)、ブロモクロロメタン及びジクロロエタン(DCE)からなる群から好ましくは選択される、ハロゲン化脂肪族炭化水素等の溶媒又は溶媒の混合物中で行われる。2つの反応物のモル比は、好適には、6員芳香環上の所望の置換度を満たすように調整される。一般に、出発物質中に存在する6員芳香環それぞれに対し、2個以上、好ましくは3個の-CH
2C
6Br
5基が付加することが望まれている。触媒、例えば、AlCl
3の量は、PBBBrの量に対して、好ましくは0.5% wt/wt〜2% wt/wtの間である。この反応は、無水条件下で行われる。
【0022】
反応は、一般に、PBBBr(及び、室温で固体である場合には、第二の反応物も。)の完全な溶解を可能にする加熱下で、溶媒中で2つの反応物を混合し、続けて触媒を添加することによって行われる。フリーデル・クラフツアルキル化反応は、臭化水素の発生を伴う。それから、反応混合物の温度は、例えば、40℃〜90℃へ上げられ、反応は完了に達する。生成物は、反応溶媒に実質的に不溶であり、ほぼ瞬時に沈殿する。一般に、反応時間は2〜8時間である。反応の終了は、PBBBrの完全な消費(その消失はガスクロマトグラフィー分析によって決定してもよい。)又は臭化水素の発生の停止によって示される。
【0023】
したがって、本発明はまた、式IIの反応物のフリーデル・クラフツアルキル化における、アルキル化試薬としてのペンタブロモベンジルハライドの使用にも関連する。好ましい実施形態において、本発明は、ペンタブロモベンジルハライド、例えば、ブロミドの、塩化アルミニウムの存在下でのトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン及びジフェニルエタンからなる群から選択される反応物とのフリーデル・クラフツアルキル化反応を含み、該ペンタブロモベンジルブロミドと該反応物のモル比が、少なくとも該反応物の6員芳香環の数の2倍に等しい方法を提供する。
【0024】
生成物は、従来技術によって反応混合物から単離される。反応混合物は重亜硫酸ナトリウム(SBS)溶液及び水によって繰り返し洗浄され、それによって過剰な触媒は失活させられる。次いで、固形物はろ過によって液相から分離される。次いで、生成物は、ジクロロメタン中、加熱下で少なくとも1時間処理(スラリー化)され得、続いてそのスラリーは冷却され、固形生成物はろ過により回収され、かつ、必要に応じて洗浄され、乾燥される。
【0025】
一般的に、本発明による、芳香族化合物のペンタブロモベンジルブロミドとのフリーデル・クラフツアルキル化は、いくつかの異性体及び同族体[同族体とは、同族列Ar(CH
2C
6Br
5)
y(式中、y=1、2、3及び3+3mまでで、m+1は、Ar中の六員環の数である。)を意味する]からなる、生成物混合物の形成をもたらす。生成物混合物の組成は、臭素の割合に基づいておおよそ決定することができる。したがって、6員芳香環に結合したペンタブロモベンジル基の数を示す変数yは、生成物混合物のペンタブロモベンジル平均置換度を示す、整数でない数字となり得る。例えば、トルエンのペンタブロモベンジルブロミドとのフリーデル・クラフツアルキル化を制御して、例えば、式C
6H
2.4(CH
3)(CH
2C
6Br
5)
2.6と同定し得る生成物混合物に相当する、約76%という高い臭素含有率を有する生成物を得ることができるが、それは、C
6H
2(CH
3)(CH
2C
6Br
5)
3が混合物における主要な同族体であるが、より低い同族体、例えば、C
6H
3(CH
3)(CH
2C
6Br
5)
2、及び、場合によってはC
6H
4(CH
3)(CH
2C
6Br
5)もまた、混合物中に存在することを示す。以下で詳細に説明する簡略化表記法によれば、化合物C
6H
2.4(CH
3)(CH
2C
6Br
5)
2.6はトリス(ペンタブロモベンジル)トルエンと命名される。しかし、以下に報告された実験結果は、得られた生成物混合物が、難燃剤として有用であることを示していることに注意すべきである。反応由来の生成物混合物が該難燃性を呈するという事実を考えると、混合物を個々の成分に分離する必要はない。同様に、単一の所望の成分を優先するために、反応条件を制御する必要はない。反応条件を変化させることにより、最大のペンタブロモベンジル基を含む生成物が得られる。
【0026】
本発明のAr(CH
2C
6Br
5)
y化合物の1つの好ましい種類において、Arは、トルエンである。この種類の化合物は、式I(式中、m=0、RはCH
3であり、kは1である。)で表され、すなわち、ペンタブロモベンジル置換トルエン、特にトリス(ペンタブロモベンジル)トルエンである。
【0027】
本発明のAr(CH
2C
6Br
5)
y化合物の他の好ましい種類において、Arは、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン及びジフェニルエタンからなる群から選択される。この種類の化合物は、式I(式中、m=1、RはHである。)で表される。より具体的には、この好ましい種類はまた、本明細書中で式III
【0028】
【化5】
【0029】
(式中、Xは、-O-、-CH
2-及び-CH
2-CH
2-からなる群から選択され、該化合物は、芳香環(ジフェニルオキシド又はジフェニルアルカン部分)の炭素原子及び-CH
2C
6Br
5基のベンジル炭素の間に結合を有し、n1とn2は、独立して、1、2又は3であり、好ましくは2又は3であり、その結果、化合物の臭素含有率は、好ましくは60%、例えば、60〜78重量%の範囲である。)により同定される。より好ましいのは、式III(式中、Xは-CH
2-CH
2-である。)の、70重量%以上、例えば、70〜78重量%の範囲の臭素含有率を有する化合物である。特に好ましい本発明の化合物は、本明細書に示されている、ペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンとヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンである。上で説明しているように、式IIIの生成物は、実際は、様々な-CH
2C
6Br
5の同族体の混合物からなる。本明細書で使用される簡略化表記法では、分子当たりの-CH
2C
6Br
5基の平均数を示す同族体に従って、混合物は、命名される。例えば、平均数が4.0の場合、混合物はテトラキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンと命名される。分子当たりのペンタブロモベンジル基の平均数は、通常、帯分数であり、その場合、平均数は、切り上げられる、すなわち、次の整数へと端数を丸められる。したがって、ペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンという用語は、混合物中、分子当たり平均4〜5のペンタブロモベンジル基を有する、ペンタブロモベンジル置換ジフェニルエタン分子からなる混合物(4<平均値≦5)を示している。同様に、ヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンという用語は、混合物中、分子当たり平均5〜6のペンタブロモベンジル基を有する、ペンタブロモベンジル含有ジフェニルエタン分子からなる混合物(5<平均≦6)を示している。したがって、本発明の化合物の命名に使用される表記法は、ar臭素化ジフェニルオキシド及びジフェニルエタンの命名に適用される、従来の表記法に類似している。
【0030】
本発明の化合物は、可燃性材料中の難燃剤として有用である。したがって、本発明の別の態様は、可燃性材料(例えば、高分子)と式Ar(-CH
2C
6Br
5)
yの本発明の新規化合物とを含む、難燃性処方物である。具体的には、本発明の化合物は、ポリアミド、ポリプロピレン共重合体及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン中で試験され、良好な活性を示すことが見出された。
【0031】
本発明の処方物は、難燃性有効量の本発明の新規な化合物Ar(CH
2C
6Br
5)
y、特に式I及び式IIIの化合物を含む。プラスチック材料の燃焼特性は、アンダーライター・ラボラトリーズ(Underwriter Laboratories)の規格UL 94によって指定された方法に従って、定量化可能である。UL 94等級はV-0、V-1及びV-2である。V-0等級と指定された材料は、より燃焼性が低いと考えられる。臭素を少なくとも5wt%、好ましくは10wt%含有する本発明による高分子組成物は、一般に、UL 94垂直燃焼試験を満足する(全ての臭素含有量はAr(CH
2C
6Br
5)
y化合物によって供給される)。
【0032】
他の従来型の添加剤も、高分子処方物中に含めることができる。例えば、新規なAr(CH
2C
6Br
5)
y難燃剤と協働して、高分子の可燃性を抑制することができる無機化合物(典型的には金属酸化物)もまた、処方物中に好ましく存在する。一般的に「無機協力剤」と考えられる、適した無機化合物の好ましい例は、三酸化アンチモンである。
【0033】
本発明の新規のAr(CH
2C
6Br
5)
y化合物で難燃化することができる例示的な高分子は、ナイロン66[ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)]の様なポリアミドを含む。したがって、本発明の他の態様は、ポリアミド及び本発明の難燃剤、特に、式I又はIIIの化合物、そして具体的には、ペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタン及びヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンからなる群から選択される化合物を含む難燃性処方物である。
【0034】
ポリアミドベースの処方物は、少なくとも30%、例えば、40%〜70% wt%のポリアミドを含む。ポリアミド処方物は、更に、補強充填剤、すなわち、ガラス繊維を含み、これらは通常、ポリアミドマトリックスとの相溶性を向上させるために、当技術分野で公知の方法により、使用前にプレコートされる。その様な改質された種類のガラス繊維は、例えば、PPGから市販されているGFチョップバンテージ(Chop Vantage)3660である。ガラス繊維は、2μから20μの範囲の直径の繊維を含み、2〜10ミリメートル、例えば、3〜4.5ミリメートルの範囲の長さの小片の形状で利用される。例えば、ポリアミドを補強する為に利用されるガラス繊維の主成分は、アルミノホウケイ酸塩であり;このようなタイプのガラスは、E−ガラスとして知られている。ガラス繊維の濃度は、ポリアミド組成物の総重量の5%〜40%である。
【0035】
ポリアミド、補強充填剤、式Ar(CH
2C
6Br
5)
yの臭素含有化合物及び三酸化アンチモンに加え、本発明のポリアミド処方物は、更に、潤滑剤、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノール又は亜リン酸塩型)、顔料、UV安定剤及び熱安定剤を含んでもよい。上に挙げたそれぞれの従来の添加剤の濃度は、典型的には、0.05〜10 wt%の範囲内である。
【0036】
ポリアミド組成物は、例えば、混合温度が200〜300℃の範囲である、共混練機又は二軸押出機における、成分の溶融混合によって製造される。例えば、ポリアミド、式Ar(CH
2C
6Br
5)
yの臭素含有難燃剤及び従来の添加物(ガラス繊維は除く。)は、ドライブレンドされ、その混合物は、押出機のど口(throat)に供給される。ガラス繊維は、例えば、下流において、最後に加えられる。
【0037】
以下に報告された実験結果は、本発明の新規のAr(CH
2C
6Br
5)
y化合物が、ポリプロピレン共重合体の可燃性を低減するのに良好な活性を示すことを意味する。したがって、本発明の別の態様は、ポリプロピレン共重合体又は耐衝撃性改質ポリプロピレン、及び本発明の難燃剤、特に式I又はIIIの化合物、具体的にはペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタン及びヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンからなる群から選択される化合物を含む、難燃性処方物である。
【0038】
ポリプロピレン処方物は、好ましくはポリプロピレン共重合体を50 wt%以上(処方物の総重量に対して)、例えば、50〜85 wt%の量で含む。本発明において使用できる、適切なポリプロピレン耐衝撃性共重合体は、本質的にポリプロピレン単独重合体成分である第1のブロック(又は相)と、エチレンプロピレン共重合体成分である第2のブロック(又は相)を含むブロック共重合体の形態であり得る。ポリプロピレン耐衝撃性共重合体は、当技術分野で既知の条件下での、逐次重合反応によって製造される。最初の反応は、単独重合体成分を生成し、第二の反応は、共重合体成分を生成する。したがって、共重合成分は、単独重合体成分のマトリックス内に化学的に組み込まれている。ブロック共重合体の形態の、異なるグレードのポリプロピレン耐衝撃性共重合体が市販されている(イスラエルのカーメルオレフィン(Carmel Olefin)、キャプリーン(Capilene)(登録商標)SE 50E、TR 50及びSL50の名称)。耐衝撃性改質ポリプロピレンは、ポリプロピレン単独重合体とゴムを混合することで調製することができる。
【0039】
本発明の化合物を使用して、充填剤を含まない、又は、充填剤を含有する、いずれのポリプロピレンベースの処方物の可燃性も低減することができる。充填剤、例えば、タルクを使用する場合、その濃度は、処方物の総量に対して10〜20 wt%の範囲であることが好ましい。ポリプロピレン処方物中に取り込むことができる他の添加剤は、上述の通りであり、例えば、三酸化アンチモンである。
【0040】
本発明の新規なAr(CH
2C
6Br
5)
y化合物は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)の可燃性を低減するのにも良好な活性を示す。したがって、本発明の別の態様は、ABS及び本発明の難燃剤、特に式I又はIIIの化合物、具体的にはペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタン及びヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンからなる群から選択される化合物を含む、難燃性処方物である。
【0041】
本発明のABS組成物は、好ましくは、50 wt%以上(処方物の総重量に対して)のABS、例えば、50〜85 wt%のABSを含む。本発明の文脈における用語ABSは、該高分子の組成及び製造方法とは関係なく、(必要に応じて置換された)スチレン、アクリロニトリル及びブタジエンに相当する構造単位を含む共重合体及び三元重合体を意味する。ABSの特性及び組成は、例えば、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, Volume 16, pages 72-74 (1985)に記載されている。MFIが1〜50 g/10分間(ISO 1133に従って、220℃/10 kgで測定。)のABSが使用される。
【0042】
本発明に従うABS組成物はまた、1種以上の、ポリテトラフルオロエチレン(略称PTFE)などのドリップ防止剤を、0.025と0.4 wt%との間の好ましい量、0.025と0.3 wt%との間のより好ましい量、および0.05と0.2 wt%との間のさらにより好ましい量で含む。PTFEは、例えば、US 6,503,988に記載されている。
【0043】
ABS処方物に取り入れることができる他の添加剤は、上記の通りであり、例えば、三酸化アンチモンである。特に、本発明の化合物、特に、式IIIの化合物、具体的には、ペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタン及びヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンは、処方物の総重量に対して、例えば、1.8 wt%未満のSb
2O
3の様な、少量の三酸化アンチモンの存在下でも、ABSにおいて優れた有用性を示す。上記に特定されるような、式IIIの化合物及び三酸化アンチモンを含むABS処方物で、式IIIの化合物及び三酸化アンチモンの重量比が、5:1以上、好ましくは7:1以上のものは、本発明の別の態様を形成する。
【0044】
上記のプラスチック処方物は、当技術分野で既知の方法により、容易に調製される。それぞれの量に応じ、処方物の種々の成分は、一緒に混合される。成分は、例えば、ヘンシェルミキサーなどの適切な混合機を用いて、まずドライブレンドし得る。次に、例えば、二軸押出機を使用することにより、得られた混合物を処理し、配合して、均一なペレットを形成し得る。得られたペレットは、乾燥され、射出成形などのような、物品を成型する工程への供給に適している。その他の混合及び成型技術も適用することができる。高分子処方物から成形された物品は、本発明の別の態様を形成する。
【0045】
(実施例1)
(トルエンのPBBBrとの反応)
DBM(200 ml)、PBBBr(62.2 g、0.11 mol)及びトルエン(3.7 g、0.04 mol)を、機械的撹拌機、温度計、冷却器及びN
2注入口を備えた500 mlフラスコに入れた。混合物を、70℃でPBBBrが溶解するまで加熱した。AlCl
3(0.7 g、0.005 mol)を添加し、HBrの活発な生成が開始した。混合物を、PBBBrが消失するまで(GCによる)、80℃で6時間加熱した。反応混合物を、各洗浄に20分かけて、水で3回(3x120 ml)およびSBS(1.5 ml、〜28%水溶液)で洗浄した。その後、固形分をろ過し、DCM(2×200 ml)を用いて40℃で1時間(各再スラリー毎)再スラリー化した。反応混合物を20℃に冷却し、固形分をろ過し、150℃で24時間、オーブンで減圧下乾燥し、PBBBrを基準として、〜75%の収率に相当する、42.7 gを得た。元素分析によると、臭素含有率は、トルエン分子当たり〜2.7のPBBBr分子に相当する、約76%(パラボム)である。本実施例の生成物は、式C
6H
2.3(CH
3)(CH2C
6Br
5)
2.7で表され、トリス(ペンタブロモベンジル)トルエンと命名される。
【0046】
(実施例2)
(トルエンのPBBBrとの反応)
PBBBr(56.6 g、0.1 mol)、トルエン(4.6 g、0.05 mol)、AlCl
3(2.8 g、0.02 mol)及び溶媒としてジクロロエタン(200 ml)を使用した以外は実施例1の手順を繰り返した。生成物の重量は、〜86%の収率に相当する49.5 gであった。臭素の含有率は約75.0%である。
【0047】
(実施例3)
(ジフェニルオキシドのPBBBrとの反応)
PBBBr(169.8 g、0.3 mol)、トルエンの代わりにジフェニルオキシド(8.5 g、0.05 mol)及びAlCl
3(2.8 g、0.02 mol)を使用した以外は実施例1の手順を繰り返した。生成物の重量は、〜75%の収率に相当する115.7 gであった。臭素含有率は約78%である。
【0048】
(実施例4)
(ジフェニルメタンのPBBBrとの反応)
PBBBr(68 g、0.12 mol)、トルエンの代わりにジフェニルメタン(3.3 g、0.02 mol)及びAlCl
3(1.4 g、0.01 mol)を使用した以外は実施例1の手順を繰り返した。生成物の重量は、〜68%の収率に相当する41.8 gであった。臭素含有率は約77.4%である。
【0049】
(実施例5)
(ジフェニルエタンのPBBBrとの反応)
トルエンの代わりにジフェニルエタン(3.65 g、0.02 mol)を使用した以外は実施例1の手順を繰り返した。生成物の重量は、〜63%の収率に相当する35.6 gであった。臭素含有率は約77%である。
【0050】
(実施例6)
(ジフェニルエタンのPBBBrとの反応)
溶媒としてジクロロエタンを使用する以外は実施例5の手順を繰り返した。生成物の重量は、〜83%の収率に相当する46.7 gであった。臭素含有率は約77%である。生成物はヘキサキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンである。
【0051】
(実施例7)
(ジフェニルエタンのPBBBrとの反応)
DCE(1600 ml)、PBBBr(805.6 g、1.42 mol)とジフェニルエタン(57.70 g、0.317 mol)を機械的撹拌機、温度計、冷却器及びN
2注入口を備えた2000 mlのガラス製反応器に入れた。混合物を加熱して70℃にし、AlCl
3(4.5 g、0.17 mol)を〜3時間掛けて少しずつ加えた。次いで、PBBBrが消失(GCにより)するまで、混合物を65〜75℃でさらに1時間加熱した。反応混合物を〜60℃の水で3回(3x1000 ml)及びSBS(20 ml、〜28%の水溶液)で洗浄し、それぞれの洗浄に20分を掛けた。その後、その固形分を40〜50℃でろ過し、200 mlのDCEで洗浄し、オーブン中、減圧下、150℃で20時間乾燥させ、〜98%の収率に相当する、738 gを得た。臭素含有率は〜75%であった。生成物は、ペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンである。
【0052】
(実施例8及び9(本発明)並びに10(比較))
(ポリアミド66のV-0等級難燃性処方物)
実施例1及び実施例7の生成物を、下記の手順に従ってナイロン組成物中の難燃剤(FR)として試験した。市販の高分子難燃剤であるFR-803Pもまた、比較のために試験した。
【0053】
(組成物を調製するために使用した成分)
ナイロン組成物を調製するために使用した材料を、表1にまとめる。
【0054】
【表1】
【0055】
(組成物及び試験試料の調製)
配合はL/D=32の二軸同時回転押出機ZE25(ベルストフ(Berstorff))で行った。PA66ペレット(真空オーブン中において80℃で一晩乾燥させた。)、難燃剤、アクラワックスC、イルガノックスB1171及びステアリン酸カルシウムを、ザルトリウス社(Sartorius)の準分析用秤で秤量し、続いてビニール袋内で、手での混合を行った。混合物を、その後、フィーダN
O1を介して供給した。ガラス繊維をフィーダN
O3を介して、横送り装置を経由して、押出機の第5セクションに供給した。配合条件は表2に示されている。押し出したストランドを水浴中で冷却し、ペレット化した。得られたペレットを80℃で一晩真空乾燥した。
【0056】
【表2】
【0057】
乾燥したペレットを、アーブルグ社(Arburg)のオールラウンダー(Allrounder) 500-150を用いて、1.6厚さの試験試料に射出成形した。射出成形の条件は下の表3にまとめられている。
【0058】
【表3】
【0059】
試料を、23℃で少なくとも48時間慣らした後、以下に概説する試験に供した。
【0060】
(試験)
(燃焼試験)
燃焼試験は、厚さ1.6 mmの試料に垂直燃焼を適用し、アンダーライターズ・ラボラトリーズの規格UL 94に従って実施した。
【0061】
(機械的特性)
衝撃強度は、タイプ5102(ツヴィック(Zwick))振り子衝撃試験機を使用して、ASTM D-256に従い、アイゾットノッチ試験を用いて測定した。引張特性(引張強度、引張弾性率、降伏点伸び及び破断時伸び)は、ASTM D-638(試験速度は5 mm/分であり、タイプ2ダンベルを使用した。)に従い、ツヴィック/ロエル(Zwick/Roell) Z010材料試験機を用いて測定した。
【0062】
(熱的特性)
HDT(熱変形温度;これは、高分子試料が特定の負荷の下で変形する温度である。)を、荷重18.5 kg/cm
2、加熱速度2℃/分でASTM D-648-72に従って測定した。MFI(メルトフローインデックス)を、ASTM D1238に従って測定した。試験した組成物及び結果は表4に記載されている。
【0063】
【表4】
【0064】
(実施例11〜13)
(ポリプロピレン耐衝撃性共重合体のV-2及びV-0等級難燃性処方物)
実施例7の生成物である、ペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンを、以下に記載の手順に従って、ポリプロピレン耐衝撃性共重合体の組成物中で試験した。
【0065】
(組成物を調製するために使用した成分)
ポリプロピレン組成物を調製するために使用した材料を表5にまとめている。
【0066】
【表5】
【0067】
(組成物及び試験試料の調製)
成分を予め混合し、ベルソトルフのL/D=32の二軸同時回転押出機ZE25のポートに、定量フィーダ#2を介して供給した。具体的な条件は表6に示されている。
【0068】
【表6】
【0069】
製造したストランドを、アクラパックシステム株式会社(Accrapak Systems Ltd.)のペレタイザー750/3でペレット化した。得られたペレットを、空気循環オーブン中、80℃で3時間乾燥した。乾燥したペレットを、表7にまとめたように、アーブルグ社のオールラウンダー500−150を用いて、試験試料に射出成形した。
【0070】
【表7】
【0071】
試料を23℃で1週間慣らし、そして以下に概説する試験に供した。
【0072】
(試験)
(燃焼試験)
燃焼試験は、厚さ1.6 mmの試験片に垂直燃焼を適用し、アンダーライターズ・ラボラトリーズの規格UL 94に従って実施した。
【0073】
(機械的特性)
衝撃強度は、タイプ5102(ツヴィック)振り子衝撃試験機を使用して、ASTM D−256-81に従い、アイゾットノッチ試験を用いて測定した。引張特性(引張強度、引張弾性率、破断時伸び)は、ASTM D−638-95(v=5、試験速度 10 mm/分)に従い、ツヴィック/ロエルZ010材料試験機を用いて測定した。
【0074】
(熱的特性)
HDT(熱変形温度;これは、高分子試料が特定の負荷の下で変形する温度である。)は、荷重1820 kPa、加熱速度120℃/時間でASTM D−648-72に従って測定した。装置は、ダベンポート・ロイド・インストゥルメンツ(Davenport, Lloyd instruments)のHDT/Viact-plusである。MFI(メルトフローインデックス)は、ASTM D1238(230℃/2.16 kg)に従って測定した。装置はサーモハケ(Thermo Hake)のメルトフリクサー(Meltflixer) 2000である。試験した組成物及び結果は、表8に記載されている。
【0075】
【表8】
【0076】
(実施例14)
(ABSのV-0等級難燃性処方物)
実施例7の生成物であるペンタキス(ペンタブロモベンジル)ジフェニルエタンは、以下に記載の手順に従って、ABSの組成物中で試験した。
【0077】
(組成物を調製するために用いた成分)
ABSの組成物を調製するために使用した材料は、表9にまとめられている。
【0078】
【表9】
【0079】
(組成物及び試験試料の調製)
配合は、ベルストフ社のL/D=32の二軸同時回転押出機ZE25で実施した。具体的な条件を表10に示す。
【0080】
【表10】
【0081】
製造したストランドを、アクラパックシステム株式会社のペレタイザー750/3でペレット化した。得られたペレットを、循環空気オーブン中、80℃で3時間乾燥した。乾燥したペレットを、表11にまとめたように、アーブルグ社のオールラウンダー500-150を用いて、試験試料に射出成形した。
【0082】
【表11】
【0083】
試料を23℃で1週間慣らし、そして以下に概説する試験に供した。
【0084】
(試験)
(燃焼試験)
燃焼試験は、厚さ1.6 mmの試料に垂直燃焼を適用し、アンダーライターズ・ラボラトリーズの規格UL 94に従って実施した。
【0085】
(機械的特性)
衝撃強度は、ASTM D-256-81に従い、アイゾットノッチ試験を用いて測定した。引張特性(引張強度、引張弾性率、破断時伸び)は、ASTM D-638-95(v=50 mm/分)に従い、ツヴィック/ロエルZ010材料試験機を用いて測定した。
【0086】
(熱的特性)
HDTは荷重1820 kPa、加熱速度120℃/時間でASTM D-648-72に従って測定した。装置は、ダベンポート・ロイド・インストゥルメンツのHDT/Vicat-plusである。MFI(メルトフローインデックス)はASTM D1238(200℃/5 kg)に従って測定した。装置はサーモハケのメルトフリクサー2000である。試験した組成物及び結果は、表12に記載されている。
【0087】
【表12】