(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1〜3を参照して、本発明の第1実施形態に係る転倒防止装置100について説明する。転倒防止装置100は、地震等による家具や家電等の物品の転倒を防止する装置である。以下では、物品として家具10を例にとって説明する。
【0012】
図1及び2に示すように、転倒防止装置100は、家具10に接触可能な物品側ベース部1と、天井11に接触可能な天井側ベース部2と、物品側ベース部1と天井側ベース部2との間に介装されたダンパ3と、を備える。
【0013】
物品側ベース部1は、底面が家具10の頂面10aに面接触する基部1aと、ダンパ3に連結される連結部1bと、を備える、同様に、天井側ベース部2も、底面が天井11に面接触する基部2aと、ダンパ3に連結される連結部2bと、を備える。物品側ベース部1は、物品に接触すると共にダンパ3に連結されるものであれば、どのような形状のものであってもよい。同様に、天井側ベース部2は、天井11に接触すると共にダンパ3に連結されるものであれば、どのような形状のものであってもよい。
【0014】
図3に示すように、ダンパ3は、作動油(作動流体)が封入されたシリンダ31と、シリンダ31に摺動自在に挿入されシリンダ31内を2つの圧力室であるロッド側圧力室32と反ロッド側圧力室33に区画するピストン34と、一端部がピストン34に連結され他端部がシリンダ31の外部へと延在するロッド35と、を備える。
【0015】
シリンダ31の底部にはブラケット36が設けられ、ブラケット36と物品側ベース部1の連結部1bとはピン51を介して回動自在に連結される。ロッド35の先端部にはブラケット37が設けられ、ブラケット37と天井側ベース部2の連結部2bとはピン52を介して回動自在に連結される。このように、シリンダ31と物品側ベース部1はピン51を介して回動自在に連結され、ロッド35と天井側ベース部2はピン52を介して回動自在に連結される。つまり、ダンパ3は、両端部のそれぞれがブラケット36及びブラケット37を介して物品側ベース部1と天井側ベース部2に回動自在に連結される。
【0016】
シリンダ31の端部に形成された開口部は、ロッド35を支持するロッドガイド38にて封止される。ロッド35は、ロッドガイド38を摺動自在に挿通する。ロッド35の外周面とシリンダ31の内周面との間には、環状のシール部材39がロッドガイド38と並んで設けられる。
【0017】
ピストン34には、ダンパ3の伸縮動作に伴うロッド側圧力室32と反ロッド側圧力室33との間の作動油の流れに抵抗を付与して減衰力を発生する減衰力発生部としてのオリフィス40が設けられる。
【0018】
また、ピストン34には、ダンパ3の伸長動作に伴うロッド側圧力室32と反ロッド側圧力室33との間の作動油の流れのみを許容する逆止弁41が設けられる。つまり、逆止弁41は、ロッド側圧力室32から反ロッド側圧力室33への作動油の流れのみを許容する。したがって、ダンパ3の伸長動作時に発生する減衰力は、収縮動作時と比較して小さい。
【0019】
ダンパ3は、シリンダ31内に圧縮ガスとしての窒素ガス42が封入され、窒素ガス42のガス圧によって伸長方向に作用するばね力を有する。つまり、本実施形態では、ダンパ3を伸長方向に付勢する付勢手段としてガスばねが用いられる。ダンパ3は、ロッド側圧力室32に面するピストン34の受圧面積と反ロッド側圧力室33に面するピストン34の受圧面積との差によって、伸長方向のばね力を発生する。ダンパ3が
図3に示す向きとなるように転倒防止装置100を設置した場合には、
図3に示すように、窒素ガス42は上方へと移動してロッド側圧力室32に封入されることになる。一方、ダンパ3が
図3に示す向きとは180度逆向きとなるように転倒防止装置100を設置した場合には、窒素ガス42は上方へと移動して反ロッド側圧力室33に封入されることになる。
【0020】
転倒防止装置100を家具10と天井11の間に設置する際には、ダンパ3のばね力に抗してダンパを収縮させた状態で、家具10と天井11の間に転倒防止装置100を挿入する。そして、家具10と天井11の間でガス圧によってダンパ3を伸長させ、物品側ベース部1の基部1aを家具10に面接触させると共に、天井側ベース部2の基部2aを天井11に面接触させる。ダンパ3は窒素ガス42のガス圧によって伸長方向に作用するばね力を有するため、物品側ベース部1と天井側ベース部2はダンパ3のばね力によって互いに離れる方向に付勢されて家具10と天井11に押し付けられる。このようにして、転倒防止装置100は、家具10と天井11の間にしっかりと固定される(
図2参照)。
【0021】
次に、
図4を参照して、転倒防止装置100の動作について説明する。
【0022】
図4(a)は、家具10の頂面10aと天井11の間に転倒防止装置100が設置され、地震等により家具10が揺れている状態を示す図である。
図4(b)は、家具10の頂面10aと天井11の間に比較例としての転倒防止装置101が設置され、地震等により家具10が揺れている状態を示す図である。
【0023】
図4(a)に示すように、ダンパ3は物品側ベース部1と天井側ベース部2との間に回動自在に連結されているため、家具10が揺れると、物品側ベース部1とダンパ3は家具10の動きに追従する。また、家具10の揺れに伴って家具10の頂面10aと天井11との間隔が変化する。ダンパ3はその間隔の変化に応じて伸縮作動して減衰力を発生するため、ダンパ3の揺れが抑制される。
【0024】
このように、家具10が揺れた場合には、物品側ベース部1とダンパ3が家具10の動きに追従すると共に、ダンパ3は家具10の揺れに伴う伸縮動作によって減衰力を発生するため、転倒防止装置100は、家具10と天井11の間から外れることなく、かつ家具10と天井11を損傷することもなく、家具10の揺れを抑制して家具10の転倒を効果的に防止する。
【0025】
また、ピストン34にはロッド側圧力室32から反ロッド側圧力室33への作動油の流れのみを許容する逆止弁41が設けられているため、ダンパ3の伸長動作時の減衰力はさほど大きくなく、ダンパ3は素早く伸長動作する。したがって、家具10の頂面10aと天井11との間隔が大きくなるダンパ3の伸長動作時であっても、天井側ベース部2が天井11から離れてしまうことがない。よって、家具10と天井11の間からの転倒防止装置100の外れが、より効果的に防止される。
【0026】
図4(b)に示すように、比較例としての転倒防止装置101は、ロッド60が物品側ベース部1と天井側ベース部2との間に回動不能に連結されたものである。転倒防止装置101は、家具10の動きに追従できないため、家具10が揺れると家具10と天井11の間から外れるおそれがある。また、家具10の頂面10aと天井11との間隔が狭くなる際に、転倒防止装置101は家具10と天井11の間で大きな圧縮力を受けるため、転倒防止装置101が折れたり、家具10と天井11が損傷したりするおそれがある。このように、転倒防止装置101では、家具10の転倒を効果的に防止することができない。
【0027】
図5に家具10の転倒試験結果を示す。
【0028】
図5は、試験機にてsin波を発生させて転倒試験を行なった結果である。
図5(a)は転倒防止装置を用いない場合の結果であり、
図5(b)は転倒防止装置101を用いた場合の結果であり、
図5(c)は転倒防止装置100を用いた場合の結果である。
図5(a),(b),(c)において、左側の縦軸は家具10の上部変位量、右側の縦軸は試験機の変位量(sin波の振幅)、横軸は時間である。
【0029】
転倒試験は、安全のため、家具10の上部変位量が700mm以上にはならないように家具10を支持して試験を行った。上部変位量が700mmに達すると、家具10は転倒している状況の変位量である。
図5(a)に示すように、転倒防止装置を用いない場合には家具10の上部変位量は約8秒で最大の700mmに達し、
図5(b)に示すように、転倒防止装置101を用いた場合には家具10の上部変位量は約15秒で最大の700mmに達した。これに対して、
図5(c)に示すように、転倒防止装置100を用いた場合には、家具10はほとんど変位しなかった。
【0030】
図5に示す転倒試験結果からわかるように、転倒防止装置100は、家具10の揺れを抑制して家具10の転倒を効果的に防止可能であることが確認された。
【0031】
以上の第1実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0032】
ダンパ3は家具10の揺れに伴う伸縮動作によって減衰力を発生するため、家具10の揺れが抑制される。また、ダンパ3は物品側ベース部1と天井側ベース部2に回動自在に連結されるため、家具10の揺れに追従する。よって、家具10の転倒を効果的に防止することができる。
【0033】
<第2実施形態>
図6に示すように、転倒防止装置100の設置方法としては、ダンパ3を鉛直方向に対して傾斜させて設置するのが望ましい。つまり、物品側ベース部1と天井側ベース部2は、水平方向にずれて配置される。転倒防止装置100をこのように設置することによって、家具10の転倒をより効果的に防止することができる。以下では、転倒防止装置100の傾斜設置について詳しく説明する。
【0034】
ダンパ3は、天井側ベース部2に連結されるブラケット37が物品側ベース部1に連結されるブラケット36よりも家具10の背面10bが沿う壁12から離れる位置に配置されることによって、鉛直方向に対して傾斜して配置される。具体的には、ダンパ3は、天井側ベース部2が物品側ベース部1よりも家具10の背面10bが沿う壁12から離れる位置に配置される。このようにして物品側ベース部1と天井側ベース部2を水平方向にずらして配置することによって、家具10が揺れて家具10の上部側が壁12から離れる方向に傾いた場合には、ダンパ3の伸長方向に作用するばね力は家具10の傾きを抑える方向、つまり家具10を元の位置に戻そうとするように作用するため、家具10の転倒がより効果的に防止される。一方、家具10が揺れて家具10の上部側が壁12に近づく方向に傾いた場合には、家具10は壁12に当接するため転倒しない。物品側ベース部1と天井側ベース部2を、
図6とは逆方向に配置した場合には、つまり、物品側ベース部1を天井側ベース部2よりも壁12から離れる位置に配置した場合には、ダンパ3の伸長方向に作用するばね力が、家具10の揺れを助長する方向に作用するため好ましくない。なお、家具10が壁12に沿って設置されない場合であっても、ダンパ3を家具10と天井11の間に傾斜して配置すれば、家具10の転倒をより効果的に防止することができる。その場合には、ダンパ3の鉛直方向に対する傾斜方向は、どの方向に傾斜させてもよい。
【0035】
鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度α(
図6参照)を変化させて転倒防止装置100を設置した場合の転倒試験結果を
図7に示す。
図7(a)は傾斜角度αが15度の場合の結果であり、
図7(b)は傾斜角度αが20度の場合の結果であり、
図7(c)は傾斜角度αが25度の場合の結果である。
図7(a),(b),(c)において、左側の縦軸は家具10の上部変位量、右側の縦軸は試験機の変位量、横軸は時間である。なお、
図7は、試験機にて震度7の揺れを発生させて転倒試験を行った結果である。
【0036】
図7(a),(b),(c)からわかるように、傾斜角度が15,20,25度のいずれの場合においても、家具10はほとんど変位せず転倒しなかった。また、傾斜角度15,20,25度のなかでは、傾斜角度20度の場合が家具10の変位が一番小さい結果となった。
【0037】
図7に示すように、鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度α(
図6参照)は、15度以上25度以下が好ましい。傾斜角度が15度未満の場合には、家具10が大きく傾き家具10の上部側が壁12から遠ざかった際には、ダンパ3の伸長方向のばね力が家具10をさらに傾かせるように作用するおそれがある。一方、鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度αを15度以上に設定すると、家具10が大きく傾き家具10の上部側が壁12から遠ざかった場合でも、ダンパ3の伸長方向に作用するばね力は家具10を元の位置に戻そうとするように作用する。そのため、鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度αは、15度以上に設定するのが好ましい。また、傾斜角度が25度を超える場合には、ダンパ3の伸長方向のばね力の水平方向成分が、物品側ベース部1と家具10の頂面10aとの摩擦力或いは天井側ベース部2と天井11との摩擦力よりも大きくなり、物品側ベース部1或いは天井側ベース部2が滑って転倒防止装置100が家具10と天井11の間から外れるおそれがある。一方、鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度αを25度以下に設定すると、ダンパ3の伸長方向のばね力の水平方向成分が、物品側ベース部1と家具10の頂面10aとの摩擦力或いは天井側ベース部2と天井11との摩擦力よりも小さくなるため、物品側ベース部1或いは天井側ベース部2が滑ることがない。そのため、鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度αは、25度以下に設定するのが好ましい。
【0038】
このように、家具10の揺れを効果的に防止するように転倒防止装置100を機能させるためには、ダンパ3の傾斜角度が重要である。以下では、転倒防止装置100を家具10と天井11の間に設置する際に、ダンパ3の傾斜角度を15度以上25度以下の最適範囲内に容易に設定するための方法について説明する。
【0039】
図8に、物品側ベース部1近傍の拡大図を示す。
図8に示すように、物品側ベース部1の連結部1bには、鉛直方向に対するダンパ3の取り付け角度を示す表示部70が付される。表示部70は、ダンパ3の傾斜角度の最適範囲、具体的には15度以上25度以下の範囲を示す。表示部70は、連結部1bのピン51を中心とするダンパ3の傾斜角度α(
図6参照)の範囲を示すものであり、ユーザが視認し易い位置に取り付けられる。
【0040】
一方、物品側ベース部1に回動自在に連結されるダンパ3には、ダンパ3の軸線方向に沿って目印71が付される。目印71は、物品側ベース部1の連結部1bに回動自在に連結されるダンパ3のブラケット36に取り付けられる。
【0041】
転倒防止装置100を家具10と天井11の間に設置する際には、ダンパ3に付された目印71が物品側ベース部1に付された表示部70の範囲内に位置するようにダンパ3を傾斜させて設置する。このように、ダンパ3に付された目印71と物品側ベース部1に付された表示部とを一致させるだけで、ダンパ3の傾斜角度を最適範囲内に容易に設定することができる。
【0042】
表示部70と目印71は、天井側ベース部2の連結部2bとダンパ3のブラケット37に付すようにしてもよい。また、物品側ベース部1の連結部1bとダンパ3のブラケット36に付すと共に、天井側ベース部2の連結部2bとダンパ3のブラケット37にも付すようにしてもよい。このように、表示部70は、物品側ベース部1の連結部1b及び天井側ベース部2の連結部2bの少なくとも一方に付され、目印71は、ダンパ3のブラケット36及びブラケット37の少なくとも一方に付される。
【0043】
次に、
図9を参照して、治具80を用いてダンパ3の傾斜角度を最適範囲内に設定する方法について説明する。
図9(a),(b),(c)は、それぞれダンパ3が治具80に当接した状態の正面図、平面図、側面図である。
【0044】
治具80は、所定の間隔を空けて鉛直方向に延びる一対の脚部81a,81bと、一対の脚部81a,81bに亘って支持され転倒防止装置100を家具10と天井11の間に設置する際に鉛直方向に対するダンパ3の取り付け角度を設定する傾斜角設定部82と、を備える。
【0045】
図9(c)に示すように、一対の脚部81a,81bは、その間隔が物品側ベース部1の基部1aの幅と同等に形成される。
【0046】
傾斜角設定部82は、鉛直方向に延びて形成され物品側ベース部1の連結部1bの側面に当接可能な鉛直面82aと、鉛直方向に対して傾斜して形成されダンパ3のシリンダ31の外周面が当接可能な傾斜面82bと、を有する。傾斜面82bの傾斜角度は、ダンパ3の傾斜角度の最適範囲内の角度に設定される。本実施形態では、傾斜面82bは鉛直方向に対して20度傾斜して形成される。
【0047】
転倒防止装置100を家具10と天井11の間に設置する際には、まず、ダンパ3が傾斜せずに直立した状態で、一対の脚部81a,81bにて物品側ベース部1の基部1aを挟むと共に、傾斜角設定部82の鉛直面82aが物品側ベース部1の連結部1bの側面に当接するようにして、治具80を家具10の頂面10a上に載置する。
【0048】
次に、ダンパ3を治具80に向けて傾け、シリンダ31の外周面を傾斜角設定部82の傾斜面82bに当接させる(
図9に示す状態)。傾斜面82bは鉛直方向に対して20度傾斜して形成されるため、治具80に当接したダンパ30は、鉛直方向に対して20度傾斜した状態となる。この状態で、治具80を取り外す。
【0049】
このように、治具80の傾斜面82bにシリンダ31の外周面を当接させることによって、ダンパ3の傾斜角度を最適範囲内に容易に設定することができる。
【0050】
以上の第2実施形態のように、ダンパ3を鉛直方向に対して傾斜させて転倒防止装置100を家具10と天井11の間に設置することによって、家具10の転倒を効果的に防止することができる。また、鉛直方向に対するダンパ3の傾斜角度を15度以上25度以下に設定することによって、家具10の転倒をより効果的に防止することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0052】
例えば、上記実施形態は、ダンパ3は、天井側ベース部2が物品側ベース部1よりも家具10の背面10bが沿う壁12から離れる位置に配置されることによって、鉛直方向に対して傾斜して配置されるものである。これに代えて、
図10に示すように、天井側ベース部2の基部2aの幅を物品側ベース部1の基部1aの幅よりも大きく形成した上で、天井側ベース部2の基部2a及び物品側ベース部1の基部1aを壁12に接触させて配置することによって、ダンパ3を鉛直方向に対して傾斜して配置するようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、シリンダ31内に圧縮ガスを封入することにとって、ダンパ3が伸長方向に作用するばね力を有する構成とした。シリンダ31に圧縮ガスを封入する代わりに、反ロッド側圧力室33に付勢手段としてのスプリングを圧縮して設けるようにしてもよい。このように構成しても、ダンパ3は伸長方向に作用するばね力を有する。