特許第6336029号(P6336029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336029
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】糖の電解脱炭酸方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/02 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   C25B3/02
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-501037(P2016-501037)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公表番号】特表2016-517474(P2016-517474A)
(43)【公表日】2016年6月16日
(86)【国際出願番号】US2014022689
(87)【国際公開番号】WO2014164523
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/777,890
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508233548
【氏名又は名称】ダイナミック フード イングリディエンツ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】DYNAMIC FOOD INGREDIENTS CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】スタップリー,ジョナサン,エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジェンダーズ,デイヴィッド,ジェイ.
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−526131(JP,A)
【文献】 特表2007−530597(JP,A)
【文献】 特開昭50−059316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 − 9/20
C25B 13/00 − 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電極室間一価カチオン移動用のカチオン交換膜により分割された2つの電極室を備えた電気化学セルを準備する工程と、
ここで、上記2つの電極室は、陰極液と、陰極とを含む第1電極室、及び、炭水化物酸と、陽極液と、陽極とを含む第2電極室を備え、上記炭水化物酸は、一価カチオン塩として少なくとも10%が中和されたものであり、
上記セルに電流を供給し、陽極液中のアルデヒド炭水化物及び陰極液中の水酸化物イオンを生成する工程と
上記陰極液から上記カチオン交換膜を透過して上記陽極液へ上記水酸化物イオンの移動を生じさせる工程と、
ここで、上記カチオン交換膜は、上記水酸化物イオンを透過可能で上記炭水化物酸に対する上記一価カチオンの比率を少なくとも部分的に維持するものであり、
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム及び水酸化アンモニウムからなる一群から選択されるカチオン水酸化物を上記陽極液に添加する工程とを備え、
上記カチオン交換膜を透過する一価カチオン移動の電流効率は、90%未満であり、
上記炭水化物酸に対する上記一価カチオンの比率は、脱炭酸のための炭水化物酸の中和を維持するものであり、
上記陰極液は、水を含むことを特徴とする電気化学セルにおける炭水化物酸の脱炭酸方法。
【請求項2】
上記分割セル内での上記炭水化物酸の脱炭酸において、上記水酸化物イオンおよび上記一価カチオンは上記陰極液で一価カチオン水酸化物を生成し、上記一価カチオン水酸化物は陽極液に添加されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
上記炭水化物酸に対する上記一価カチオンの比率は、2セットの電解セル内に炭水化物酸溶液を同時に循環させることにより少なくとも部分的に維持され、一方のセルは上記カチオン交換膜により分割された2つの電極室を有する上記電気化学セルであり、他方のセルは非分割セルであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
上記炭水化物酸は、アラボン酸、D−グルコン酸、メチル−D−グルクロン酸配糖体、D−グルクロン酸、及び、D−ガラクチュロン酸からなる一群から選択されることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記炭水化物酸はアラボン酸であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
上記炭水化物酸は上記陰極液中で生成された水酸化物イオンを用いることにより生成されることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、"METHODS FOR THE ELECTROLYTIC DECARBOXYLATION OF SUGARS"を発明の名称とする2013年3月12日付け米国暫定的特許出願第61/777,890号の優先権を主張し、その全体を参考文献として本願明細書に援用する。
【0002】
本発明は、糖酸を電解的に脱炭酸し、アルカリ金属又は水酸化アンモニウム溶液を電気的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
糖酸の電解脱炭酸は、特許文献1〜3に記載されているように、キシリトール及びエリスリトールの製造に用いられている。例えば、特許文献2は、エリスローズを得るための特定の中和範囲−アラボン酸に対するアルカリ金属カチオンの比率−のD又はL−アラボン酸水溶液の電解脱炭酸を開示している。特許文献2では、カチオン交換樹脂及び電気透析法を用いてアルカリ金属アラボン酸塩をプロトン化体に変換することにより、溶液中でアラボン酸の中和が維持される。また、これらの特許文献には、陽極で消費されるアラボン酸を交換するために、反応の進行中に未中和化アラボン酸を反応溶液に追加することが記載されている。
【0004】
電解セルは多くの異なる形態に構成されてもよい。しかしながら、特定レベルの中和を維持するために、炭化水素酸電解脱炭酸のこれまで開示された全ての例示は単室型セル内で実施される。中和が少なすぎると、導電性及び反応効率性が著しく低下し、一方、中和が多すぎると、反応が非効率になり、製造が不安定になる。また、無機アニオンの存在は、電極寿命、反応効率性及び下流製品精製効率に有害である。その結果、反応物中和の程度を制御するための非試薬酸の添加は望ましくない。
【0005】
アルカリ金属塩としてしばしば糖酸が生成されることから、カチオン交換樹脂、電気透析又は未中和化炭水化物酸の添加による炭水化物酸のアルカリ金属塩のさらなる変換を用いることなく、糖酸中和を維持するための費用対効果の高い方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公報第2009/7598374号
【特許文献2】米国特許公報第2011/7955489号
【特許文献3】米国特許公報第2011/0180418号
【特許文献4】米国特許第4,125,559号
【特許文献5】米国特許第5,831,078号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Dubourg and P. Naffa, "Oxydation des hexoses reducteur par l'oxygene en milieu alcalin," Memoires Presentes a la Societe Chimique, p. 1353
【非特許文献2】Bright T. Kusema, Betiana C. Campo, Paivi Maki-Arvela, Tapio Salmi, Dmitry Yu. Murzin, "Selective catalytic oxidation of arabinose-A comparison of gold and palladium catalysts" Applied Catalysis A: General 386 (2010): 101-108
【非特許文献3】Ivana Dencic, Jan Meuldijk, Mart Croon, Volker Hesse, "From a Review of Noble Metal versus Enzyme Catalysts for Glucose Oxidation Under Conventional Conditions Towards a Process Design Analysis for Continuous-flow Operation," Journal of Flow Chemistry 1 (August 2011): 13-23
【非特許文献4】A.P. Markusse, B.F.M. Kuster, J.C. Schouten, "Platinum catalysed aqueous methyl-d-glucopyranoside oxidation in a multiphase redox-cycle reactor," Catalysis Today 66 (2001) 191-197
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、陰極室内におけるアルカリ金属水酸化物溶液又は水酸化アンモニウム溶液の電解生成を伴った費用対効果の高い炭水化物酸の電気的脱炭酸方法を含む。本発明は、炭水化物酸を含む溶液を提供し、二室型電気化学セルの陽極室内で炭水化物酸を電気的に脱炭酸し、陰極室内でアルカリ金属水酸化物溶液又は水酸化アンモニウム溶液を発生することにより糖酸を脱炭酸する方法を提供する。電極室はカチオン交換膜により分離されている。反応が進むにつれ、脱炭酸された炭水化物酸の一分子毎又は放出された酸素分子に対しておよそ2つのアルカリ金属イオンがカチオン交換膜を横切って移動し、陽極液から陰極液に移され、電荷バランスが保持される。
【0009】
第1実施形態においては、陰極液のアルカリ金属水酸化物濃度は十分高く維持され、カチオン膜は、陰極液から陽極液にカチオン膜を横切る水酸化物イオンの逆移動を誘導するように選択される。この実施形態においては、アルカリ金属水酸化物生成の電流効率は100%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは75%未満である。特別な実施形態においては、炭水化物酸はアラボン酸である。
【0010】
第2実施形態においては、適切な中和を維持するために、陽極液にアルカリ金属水酸化物を添加する。好ましくは、好適なレベルの炭水化物酸中和を維持するために、陰極室内で生成されたアルカリ金属水酸化物を炭水化物脱炭酸の陽極液に添加する。特別な実施形態においては、炭水化物酸はアラボン酸である。
【0011】
第3実施形態においては、2セットの電解セル内に同時に反応溶液を循環させることにより、炭水化物酸のナトリウム比率が維持されるアルドースを得るために、陽極表面で炭水化物酸の脱炭酸が生じる。一方のセルはカチオン膜により分割されたセルであり、他方のセルは非分割セルである。特別な実施形態においては、炭水化物酸はアラボン酸である。
【0012】
第4実施形態においては、アルカリ酸化により適切な炭水化物開始材料から炭水化物酸反応物が得られる。好ましくは、その後の炭水化物酸反応物のアルカリ酸化において、陰極室内で生成されたアルカリ金属が用いられる。例えば、D−アラボン酸は、アルカリ水溶液中の酸素ガスによりD−グルコースを酸化することによって調製され、L−アラボン酸は、アルカリ水溶液中の酸素ガス及び白金族金属触媒によりL−アラビノースを酸化することによって調製され、メチル−α−D−グルクロン酸配糖体は、アルカリ水溶液中の酸素ガス及び白金族金属触媒によりメチル−α−D−グルコシドを酸化することによって調製され、D−グルコン酸塩は、アルカリ水溶液中の酸素ガス及び白金族金属触媒によりD−グルコースを酸化することによって調製される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここに用いられている用語「炭水化物酸」は、いずれかのアルドン酸、ウロン酸及びアルダル酸を意味する。
【0014】
「アルドン酸」は、一般式HOCH[CH(OH)]C(=O)OH(nは1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは4〜7のいずれかの整数)を有するいずれかのポリヒドロキシ酸化合物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。例えば、アルドン酸は、アルデヒド官能基(例えばD−グルコン酸)の酸化によりアルドースから誘導される。
【0015】
「ウロン酸」は、一般式O=CH[CH(OH)]C(=O)OH(nは1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは4〜7のいずれかの整数)を有するいずれかのポリヒドロキシ酸化合物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。例えば、ウロン酸は、第1級アルコール官能基(例えばD−グルクロン酸)の酸化によりアルドースから誘導される。
【0016】
「アルダル酸」は、一般式HO(O=)C[CH(OH)]C(=O)OH(nは1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは4〜7のいずれかの整数)を有するいずれかのポリヒドロキシ酸化合物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。例えば、アルダル酸は、アルデヒド官能基及び第1級アルコール官能基(例えばD−グルカル酸)の酸化によりアルドースから誘導される。
【0017】
ここに用いられている「アラビノン酸」は、化学式C10を有するアルドン酸炭水化物、並びにその立体異性体、誘導体、類似体及び塩を意味する。特記がない限り、ここでの「アラビノン酸」の詳述は、限定されることなく、D−(−)−アラビノン酸、L−(+)−アラビノン酸、D(−)−アラビノン酸、D−アラビノン酸、L−アラビノン酸並びにD(−)−アラビノン酸及びメソ−アラビノン酸を含むことを意図する。アラビノン酸はアラボン酸及びアラビノン酸としてもみなされる。
【0018】
「グルコン酸」は、化学式C12を有するアルドン酸炭水化物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。特記がない限り、ここでの「グルコン酸」の詳述は、D−グルコン酸、D−(−)−グルコン酸、D(−)−グルコン酸を意味することを意図する。
【0019】
「D−グルクロン酸」は、化学式C10を有するウロン酸炭水化物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。特記がない限り、ここでの「D−グルクロン酸」の詳述は、限定されることなく、D−(−)−グルクロン酸、D−グルクロン酸、(α)−D−グルクロン酸、(β)−D−グルクロン酸及び(α,β)−D−グルクロン酸を含むことを意図する。
【0020】
「メチル−D−グルクロン酸配糖体」は、化学式C12を有するウロン酸炭水化物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。特記がない限り、ここでの「メチル−D−グルクロン酸配糖体」の詳述は、限定されることなく、1−o−メチル−(α)−D−グルコピラノシドウロン酸、1−o−メチル−(β)−D−グルコピラノシドウロン酸及び1−o−メチル−(α,β)−D−グルコピラノシドウロン酸を含むことを意図する。
【0021】
「D−ガラクチュロン酸」は、化学式C10を有するウロン酸炭水化物、並びにその誘導体、類似体及び塩を意味する。特記がない限り、ここでの「D−ガラクチュロン酸」の詳述は、限定されることなく、D−(−)−D−ガラクチュロン酸、D−ガラクチュロン酸、(α)−D−ガラクチュロン酸、(β)−D−ガラクチュロン酸及び(α,β)−D−ガラクチュロン酸を含むことを意図する。
【0022】
「エリトロース]は、化学式Cを有するアルドース(テトロース)炭水化物、並びにその立体異性体、誘導体、類似体及び塩を意味する。特記がない限り、ここでの「エリトロース」の詳述は、限定されることなく、D−(−)−エリスロース、L(+)−エリスロース、D(−)−エリスロース、D−エリスロース、L−エリスロース並びにD(−)−エリスロース及びメソ−エリスロースを含むことを意図する。D−エリスロース構造(1)のフィッシャープロジェクトは以下に示される。
【0023】
【化1】

ここで用いられている「脱炭酸」は、化学反応または物理的工程によりカルボキシル基(−COOH)の除去を意味する。脱炭酸反応の典型的な生成物は、二酸化炭素(CO)又は蟻酸を含む。
【0024】
用語「電気化学の」は、電気導電体(電極)及びイオン導電体(電解質)の界面で生じる化学反応を意味する。電気化学反応は、2つの導電材料(又は単一導電材料の2つの部位)間の電位差を引き起こし、又は、外部電圧の付加により発生する。一般的には、電気化学は、酸化反応及び還元反応が空間的に分離される状態を取り扱う。
【0025】
ここで用いられている用語「電解の」は、1つ以上の化学結合が切れる電気化学的酸化又は還元反応を意味する。ここで用いられている電解反応は、陰極又は陽極との相互作用の結果として生じる反応を意味する。
【0026】
ここで用いられている「誘導体」は、親化合物と構造的に類似であり、親化合物から(実際に又は論理的に)誘導可能な化合物の化学的又は生物学的改良物を意味する。誘導体は親化合物の異なる化学的又は物理的特性を有してもよく、又は、有さなくともよい。例えば、誘導体は、親化合物と比較して、より親和性であってもよく、又は、変更された反応性を有してもよい。脱炭酸(すなわち改良)は、所望の目的のために分子の機能を十分に変更していない分子(例えば官能基の変更)内の1ヶ所以上の置換を含んでもよい。全ての溶媒和化合物、例えば水和物又は付加物(例えばアルコール付加物)、活性代謝物、及び、親化合部の塩を説明するために、用語「誘導体」を用いてもよい。調製される塩のタイプは化合物内の特定部位の性質に依存する。例えば、カルボキシル基のような酸性官能基は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩、並びに、4級アンモニウムイオンを有する塩、アンモニアとトリエチルアミン、エタノールアミン又はトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミンのような生理学的に許容される有機アミンとを有する酸付加塩)を形成する。塩基性官能基は、例えば塩酸、硫酸又は燐酸のような無機塩或いは酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸のような有機カルボン酸を有する酸付加塩を形成する。例えば塩基性窒素原子上のカルボキシル基のような塩基性塩と酸性塩とを同時に含有する化合物は双性イオンとして存在する。当業者に公知な通例の方法、例えば溶媒又は希釈液中の無機又は有機酸又は塩基と化合物を組み合わせることにより、或いは、カチオン交換又はアニオン交換による他の塩から、塩が得られる。
【0027】
ここで用いられている「類似体」は、構造的に類似であるが、(異なる元素の原子により一原子の置換又は特異的な官能基の存在のように)組成が僅かに異なる化合物を意味するが、親化合物から誘導されても、されなくてもよい。「誘導体」は「類似体」と異なり、親化合物は「誘導体」を発生する開始材料であり、親化合物は「類似体」を発生する開始材料として用いる必要はない。
【0028】
ここに挙げられたいずれの濃度範囲、パーセンテージ範囲又は比率範囲は、特記されない限り、その範囲内のいずれかの整数の濃度、パーセンテージ又は比率、並びに、整数の10分の1、100分の1のような分数を含むことを理解されるであろう。また、ポリマーサブユニット、サイズ又は厚さのようないずれかの物理的態様に関するここに挙げられた数値範囲は、特記されない限り、挙げられた範囲内のいずれかの整数を含むことを理解されるであろう。上記及びその他で用いられた用語「a」及び「an」は、列挙された構成要素の「1つ以上」を意味する。例えば、「a」ポリマーは1つのポリマー又は2つ以上のポリマーの混合物を意味する。ここで用いられているように用語「約」は適切な目的又は機能の現実的ではない差を意味する。
【0029】
電気化学脱炭酸
電気化学セルにおいて炭水化物酸を電気的に脱炭酸する工程を以下に記載する。反応基材の電気化学酸化脱炭酸のステップは反応基材上で実施される。ある実施形態においては、この方法は、炭水化物酸反応物を電解脱炭酸し、炭水化物を生成するステップを含む。
【0030】
反応物は、電極に接触するように配置される溶液として供給される。溶液は反応物及び溶媒を含む。反応物は、攪拌及び/又は加熱を含むいずれかの適切な方法により溶媒中に溶解される。溶媒は、反応物が所望の程度に溶解できるいずれかの溶媒である。好ましくは溶媒は水である。
【0031】
一実施形態においては、電解脱炭酸ステップの生成物である炭水化物を生成し得る好適な炭水化物酸は反応物として用いられる。一実施形態においては、反応物は、反応物の適切な誘導体、類似体及び塩は勿論のこと、アラボン酸である。炭水化物酸反応物の誘導体及び類似体を含む好適な反応物は、エリスロース及びエリスロースに変換されえる中間物質のいずれかを生成する電気的脱炭酸工程の実施により分子の反応性が実質的に変更しない化学構造を有する反応物を含む。
【0032】
脱炭酸反応は電気化学的に実施される。ある態様においては、溶液中における反応物の電解脱炭酸は、所望の生成物又は所望の生成物に実質的に変換され得る中間物質を提供する。ある実施形態においては、反応物は、D−又はL−アラボン酸のようなアラボン酸であり、生成物はD−又はL−エリスロースのようなエリスロースである。
【0033】
ある実施形態においては、酸の少なくとも10%は中和され、すなわちその対応塩として存在する。例えば、酸反応溶液は、同等に中和された反応酸の1つ以上の約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100%で提供される。ある実施形態においては、少なくとも1つのリボン酸又はアラボン酸反応物の10〜100%が中和される。
【0034】
一態様においては、pH又は中和パーセントは、例えばカチオン交換膜を備えた分割電解セルを用い、陽極液にアルカリ金属水酸化物を添加することにより、反応を通して望ましい範囲内に提供及び/又は維持される。他の態様においては、pH又は中和パーセントは、例えば一方のセルはカチオン交換膜を備えた分割電解セルであり、他方のセルは一室型セルである2セットの電解セルを通して陽極液を同時に通過することにより、反応を通して望ましい範囲内に提供及び/又は維持される。反応炭水化物酸溶液は、分離された反応物の所望の濃度を提供するために適切なpHを有することができる。アラボン酸反応物を含む反応物溶液のために、脱炭酸反応中のpHを3.0〜6.0の間とすることができる。
【0035】
任意に、残りの反応物は、例えばカチオン交換クロマトグラフィー樹脂を用いて開始材料を生成物から分離することにより再利用される。炭水化物塩の部分的脱炭酸溶液は、開始炭水化物塩(例えばアラボン酸)及び生成物(例えばエリスロース)の両者を含むことができる。部分的反応溶液は、反応物と生成物のクロマトグラフィー分離用のイオン交換樹脂ビーズのベッド又はカラムを通過させる。
【0036】
電解装置
炭水化物酸反応物の電気化学脱炭酸は、カチオン交換膜により分割された二室型電解セルを用いて実施される。電気化学脱炭酸は、反応物が脱炭酸される陽極とともに炭水化物酸含有溶液を含むことにより実施される。反応材料と陽極との接触は脱炭酸を誘発し、二酸化炭素及び生成炭水化物を発生する。
【0037】
セルは陽極を備える。陽極は、グラファイト、熱分解炭素、含浸又は充填グラファイト、ガラス状炭素、炭素布又は白金のようないずれかの適切な材料から形成される。ある実施形態においては、陽極は、反応物酸の酸化が生じる炭素反応表面を備えることが好ましい。一実施形態においては、陽極表面は、グラファイト箔可撓性のような高結晶性グラファイト材料を含む。陽極反応表面を形成するために、白金又は金のような他の材料も用いられる。一実施形態においては、反応炭水化物酸は、アラボン酸であり、陽極反応表面形成エリスロースで又は近傍で酸化される。
【0038】
セルは、還元が電気化学セル内で生じる陰極を備える。陰極は、ステンレス鋼又はニッケルのような所望のレベルの電気伝導性を有する好適な材料から形成される。一実施形態においては、陽極における脱炭酸反応は以下のようである。
アラボン酸−2e → エリスロース+CO+2H
反対の電極反応は以下のようである。
2HO+2e → 2OH+H
一般的に、陽極でOガスの生成のためにいくらかの電流が失われる。
【0039】
セルは、陽極液及び陰極液並びに電極室を分けるカチオン選択膜も備える。膜は例えば不均質又は均質膜を含む。後者はスルホン酸又はカルボン酸イオン交換基を有するポリマー膜である。ポリマーは炭化水素系又はフルオロカーボン系である。例としては、Nafion(R) 115(DuPont(登録商標) Fuel Cell)膜は、選択的にカチオンを移動するパーフルオロスルホン酸膜である。
【0040】
一態様においては、水は陰極の表面又は表面近傍で水酸化物イオン及び水素ガスに還元される。還元工程としては、アルカリ金属カチオンがカチオン交換膜を横切って陽極液から陰極液に通過し、水酸化物に反対のイオンとして作用し、アルカリ金属水酸化物溶液を生じる。電気化学セルは、電気的に単極又は双極のいずれかの形態に構成される。単極形態においては、電気的接触は各電極において形成される。双極形態においては、各電極は陰極及び陽極を有し、電気的接続は、複数の電極を備えたセル積層体の端部に配置された電極においてのみ形成される。
【0041】
炭水化物のアルカリ酸化
他の態様においては、炭水化物酸はアルカリ酸化により好適な炭水化物開始材から得られる。一実施形態においては、(例えば特許文献4及び5に記載されているように)炭水化物酸は、アルカリ水溶液中で酸素ガスとともにグルコース又はフルクトースを含む開始材料を酸化することにより調製されるアラボン酸である。開始材料はグルコース、フルクトース又はこれらの混合物を含み、開始材料は、約30〜100℃の間の温度の水溶液中においてアルカリ金属水酸化物を加熱することにより水溶液中でアルカリ金属水酸化物及び酸素ガスと反応される。開始材料は、様々なリング形状(ピラノース及びフラノース)で存在するD−グルコース、D−フルクトース又はD−マンノースのようなD−ヘキソース、並びに、(α)−D−グルコピラノース及び(ベータ)−D−グルコピラノースのような様々なジアステレオマーである。開始材料は、例えばD−ヘキソースの分子当たり2〜5等価のアルカリ金属の量を用いて、理論量又は過剰のアルカリ金属水酸化物と反応される。例えばアルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。酸素は理論量で又は過剰に用いられることが好ましいが、D−ヘキソース開始材料の分子当たりの1〜20分子のOであることが好ましい。反応は約1〜50バールの圧力下約30℃で行われる。反応は適切な溶媒中において連続的又はバッチ式に実施されてもよい。
【0042】
また、(D−フルクトースのような)フルクトースは、非特許文献1に記載されているようにアルカリ水溶液中における酸素ガスとの反応によりD−アラボン酸に変換される。炭水化物酸は、アルドース及びアルドジドの貴金属触媒アルカリ酸化によっても得られる。特異的な実施形態においては、炭水化物酸は、アルカリ水溶液中の酸素ガス及び貴金属触媒を用いたD−又はL−アラビノースのような開始材料の酸化により調製され得るアラボン酸である(非特許文献2参照)。
【0043】
グルコン酸は、例えば非特許文献3に記載されているように、アルカリ水溶液中の酸素ガス及び貴金属触媒を用いたグルコースの酸化により調製される。メチル−D−グルクロノピラノシドは、例えば非特許文献4に記載されているように、アルカリ水溶液中の酸素ガス及び貴金属触媒を用いたグルコースの酸化により調製される。
【0044】
炭水化物酸反応物の調製に用いられるアルカリ金属水酸化物は、炭水化物酸の先の又は同時の脱炭酸の間にここに記載された電解セルの陰極室において生成される。
【実施例】
【0045】
以下の実施例は本発明のさまざまな態様の説明を考慮されるものであり、付記された請求項により規定された本発明の趣旨を限定すると解釈されるべきではない。
【0046】
実施例1
0.12mの陽極、0.12mの陰極、電極室を分割する膜、及び、電極と両側の膜との間でプラスチック製のメッシュを助長する乱流を用いて、プレート及びフレームタイプの電気化学セルを調製した。陽極はグラファイト箔であり、陰極はNickel200のシートであった。膜はカチオン交換膜FumaTechFKBであった。陽極及び陰極は、電極表面を横切る溶液フローを分配するポリエチレンフローフレーム内で密閉される。電気化学セルを通る陽極液フローは、陽極を横切る7cm/秒の直線フロー速度で制御され、陰極液フロー速度は整合するように設定される。セルへの電力は、150mA/cmの電流密度の外部電源により供給される。開始陽極液は、100%中和され、ナトリウム塩形態の2.5Mアラボン酸溶液からなる。アラボン酸(陽極液タンク内のpH5.15)の所望の中和を維持するために、陽極液タンクに水酸化ナトリウムを送り込んだ。陰極液は、脱イオン水の添加により電気分解を通して(+/−0.2Mに)維持された濃度である1.89M水酸化ナトリウムであった。
【0047】
電荷の402アンペア時間が経過するまで電気分解を行い、測定されたエリスロース及び水酸化ナトリウム形成の電流効率はそれぞれ91%及び87%であった。
【0048】
実施例2
以下の実施例は、陰極液水酸化ナトリウム濃度をパラメータ変更した以外実施例1と同様のセル及び電気分解を用いた。脱イオン水の添加により陰極液濃度を4.4〜4.7M水酸化ナトリウムに維持した。電荷の402アンペア時間が経過するまで電気分解を継続した。測定されたエリスロース形成の電流効率は87%であった。陰極液中における水酸化ナトリウム生成の電流効率は64%であった。この水酸化物の逆移動は、(2M水酸化ナトリウム陰極液を用いた際の6.7モルと比較して)陽極液中和を3.3モルに維持するのに要される苛性添加剤の量を低減した。
【0049】
実施例3
以下の実施例は実施例1と同様のセル及び電気分解を用いた。この実験においては、脱イオン水の添加により陰極液濃度を5M水酸化ナトリウムに維持した。実施例1に記載された設定を用いて、アラボン酸の脱炭酸の間に陰極液として生成された5.3M水酸化ナトリウムの添加によりアラボン酸の中和を維持した。エリスロース形成の電流効率は92%であった。
【0050】
実施例4
2.5MD−グルコン酸、2.5MD−グルクロン酸及び2.5MD−ガラクチュロン酸からなる陽極液に対して、実施例1の方法を繰り返した。この方法により、D−グルコン酸を脱炭酸し、100%の電流効率でD−アラビノースを得た。この方法により、D−グルクロン酸を脱炭酸し、49%の電流効率でキシロ−ペント−1,5−ジオースを得た。この方法により、D−ガラクチュロン酸を脱炭酸し、20%の電流効率でL−アラビノ−1,5−ジオースを得た。
【0051】
実施例5
5.4Mの水酸化ナトリウムを生成するために、実施例2の方法を用いた。D−グルコースの20重量%溶液100gを、ガスシャフトタービンを備えた高圧反応容器内に入れた。容器を酸素でパージし、45℃に維持しつつ酸素圧50バーとした。25分間反応を進めた後、実施例2の水酸化ナトリウム0.244モルを72分以上かけて添加した。この反応により、17gのアラボン酸ナトリウムを得た。