特許第6336104号(P6336104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6336104無方向性電磁鋼板組成物、無方向性電磁鋼板製品の製造方法および無方向性電磁鋼板製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336104
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板組成物、無方向性電磁鋼板製品の製造方法および無方向性電磁鋼板製品
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20180528BHJP
   H01F 1/18 20060101ALI20180528BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20180528BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180528BHJP
【FI】
   C23C22/00 B
   H01F1/18
   C09D163/00
   C09D7/12
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-555436(P2016-555436)
(86)(22)【出願日】2014年11月26日
(65)【公表番号】特表2016-540901(P2016-540901A)
(43)【公表日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】KR2014011419
(87)【国際公開番号】WO2015080463
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0145660
(32)【優先日】2013年11月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン−ウ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ホン−ジョ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ビョン−チョル
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/100354(WO,A1)
【文献】 特開2011−012296(JP,A)
【文献】 特開平11−193475(JP,A)
【文献】 特開2001−220683(JP,A)
【文献】 特開2000−034580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
H01F 1/12−1/38
H01F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、
リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、
前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、分子量が5,000〜50,000である、無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項2】
前記第1組成物中の無機ナノ粒子の含有量は、第1組成物100重量%に対して、1〜60重量%である、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項3】
前記第1組成物は、
水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、またはZnOの無機ナノ粒子を含み、
前記無機ナノ粒子の含有量は、第1組成物100重量%に対して、
1〜40重量%のSiO、5〜30重量%のTiO、または3〜60重量%のZnOである、請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項4】
前記第1組成物は、
水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、またはZnOの無機ナノ粒子を含み、
前記無機ナノ粒子の粒径は、
3〜50nmのSiO、20〜100nmのTiO、または30〜100nmのZnOである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂は、軟化点(Tg)が70〜120℃である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂は、固形分の含有量が10〜50重量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項8】
前記無機添加物の含有量は、無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物100重量%に対して、1〜50重量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項9】
前記無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物は、リン酸(HPO)、または水酸化ナトリウム(NaOH)の無機添加物を含み、
前記無機添加物の含有量は、無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物100重量%に対して、
3〜50重量%のリン酸、または1〜10重量%の水酸化ナトリウムである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物。
【請求項10】
水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、分子量が5,000〜50,000である、無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を用意する段階と、
前記無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を無方向性電磁鋼板の一面または両面に塗布する段階と、
前記塗布された無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階と、
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階と
を含む、無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項11】
前記塗布された無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階は、
200〜600℃の温度で行われるものである、請求項10に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項12】
前記塗布された無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階は、
5〜40秒間行われるものである、請求項10または11に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項13】
前記塗布された無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階において、
コーティング層の厚さは、0.5〜10μmである、請求項10〜12のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項14】
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、
1〜1000Nの圧力で行われるものである、請求項10〜13のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項15】
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、
120〜300℃で行われるものである、請求項10〜14のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項16】
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、
5〜180分間行われるものである、請求項10〜15のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項17】
前記塗布された無方向性電磁鋼板接着コーティング組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階において、
前記コーティング層内の無機物の比率は、0.05〜0.6重量%である、請求項10〜16のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項18】
記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である、請求項10〜17のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板製品の製造方法。
【請求項19】
複数の無方向性電磁鋼板と、
前記複数の無方向性電磁鋼板の間に位置する絶縁層とを含み、
前記絶縁層は、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、
前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、分子量が5,000〜50,000である、
無方向性電磁鋼板製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無方向性電磁鋼板組成物、無方向性電磁鋼板製品の製造方法および無方向性電磁鋼板製品に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、圧延板上の全方向に磁気的性質が均一な鋼板で、モータ、発電機の鉄心、電動機、小型変圧器などに幅広く使用されている。
【0003】
無方向性電磁鋼板は、打抜加工後、磁気的特性の向上のために応力除去焼鈍(SRA)を実施しなければならないものと、応力除去焼鈍による磁気的特性効果より熱処理に伴う経費損失が大きい場合に応力除去焼鈍を省略するもの、の2つの形態に区分される。また、無方向性電磁鋼板は、駆動モータ、家電、大型モータ需要先で区分して使用されている。
【0004】
絶縁被膜の形成は、製品の仕上げ製造工程に相当する過程であって、通常、渦電流の発生を抑制させる電気的特性のほか、所定の形状に打抜加工後、多数を積層して鉄心に作る時、金型の摩耗を抑制する連続打抜加工性と、鋼板の加工応力を除去して磁気的特性を回復させる応力除去焼鈍過程後に鉄心鋼板間の密着しない耐粘着(sticking)性および表面密着性などが要求される。
このような基本的な特性のほか、コーティング溶液の優れた塗布作業性と、配合後長時間使用可能な溶液安定性なども要求される。
無方向性絶縁被膜は、積層される鉄板間の層間絶縁を主な目的としている。しかし、小型電動機器の使用が拡大するにつれ、絶縁性だけでなく、加工性、溶接性、耐食性に有利な被膜性能を主な物性として評価するようになり、最近では、鋼板表面の品質も使用特性に影響を与えるにつれ、表面品質に優れた電磁鋼板が要求されている。
【0005】
また、無方向性電磁鋼板は、現在、政府の低炭素政策に足並みをそろえた高効率モータの開発による高級化の波に乗っており、高級化へ進むほど、電磁鋼板の表面には高機能性(高絶縁性、高耐熱性、高耐食性)が要求されている。
より具体的には、渦電流損失(Eddy Current Loss)を最小化することでモータの性能を極大化可能な無方向性電磁鋼板の層間絶縁性は必須項目である。無方向性電磁鋼板に優れた絶縁性を確保するためには、コーティング厚さを増加させる方法が最も一般的な方法である。しかし、コーティング厚さが増加する場合、無方向性電磁鋼板で要求される溶接性、耐熱性、SRA前/後の密着性および占積率(Stacking Factor)などの特性に劣るという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
改善された特性を有する無方向性電磁鋼板組成物、無方向性電磁鋼板製品の製造方法および無方向性電磁鋼板製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態では、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である無方向性電磁鋼板組成物を提供する。
前記第1組成物中の無機ナノ粒子の含有量は、第1組成物100重量%に対して、1〜60重量%であってもよい。
前記第1組成物は、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、またはZnOの無機ナノ粒子を含み、前記無機ナノ粒子の含有量は、第1組成物100重量%に対して、1〜40重量%のSiO、5〜30重量%のTiO、または3〜60重量%のZnOであってもよい。
前記第1組成物は、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、またはZnOの無機ナノ粒子を含み、前記無機ナノ粒子の粒径は、3〜50nmのSiO、20〜100nmのTiO、または30〜100nmのZnOであってもよい。
前記エポキシ樹脂は、分子量が1,000〜50,000であってもよい。
前記エポキシ樹脂は、軟化点(Tg)が70〜120℃であってもよい。
前記エポキシ樹脂は、固形分の含有量が10〜50重量%であってもよい。
前記無機添加物の含有量は、無方向性電磁鋼板組成物100重量%に対して、1〜50重量%であってもよい。
前記無方向性電磁鋼板組成物は、リン酸(HPO)、または水酸化ナトリウム(NaOH)の無機添加物を含み、前記無機添加物の含有量は、無方向性電磁鋼板組成物100重量%に対して、3〜50重量%のリン酸、または1〜10重量%の水酸化ナトリウムであってもよい。
【0008】
本発明の他の実施形態では、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含む無方向性電磁鋼板組成物を用意する段階と、前記無方向性電磁鋼板組成物を無方向性電磁鋼板の一面または両面に塗布する段階と、前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階と、前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階とを含む無方向性電磁鋼板製品の製造方法を提供する。
前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階は、200〜600℃の温度で行われてもよい。
前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階は、5〜40秒間行われてもよい。
前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階において、コーティング層の厚さは、0.5〜10μmであってもよい。
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、1〜1000Nの圧力で行われてもよい。
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、120〜300℃で行われてもよい。
前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、5〜180分間行われてもよい。
前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階において、前記コーティング層中の無機物の比率は、0.05〜0.6重量%であってもよい。
前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂であってもよい。
【0009】
本発明のさらに他の実施形態では、複数の無方向性電磁鋼板と、前記複数の無方向性電磁鋼板の間に位置する絶縁層とを含み、前記絶縁層は、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である無方向性電磁鋼板製品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
熱可塑性接着樹脂(例えば、エポキシ樹脂)に無機ナノ粒子を置換し、これに無機物を溶解させることで、優れた高温接着性と高温耐オイル(oil)性を有する組成物およびこれを用いた無方向性電磁鋼板製品を製造することができる。
これにより、既存の締結方法(例えば、溶接、クランピング、インターロッキング、アルミニウムダイキャスティングまたはリベッティング)を省略することで、駆動モータの効率を向上させるだけでなく、既存のモータが有する振動と騒音の問題を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1によるコーティング層の断面をFIB(Focus Ion Beam)で加工した後、TEMで撮った写真である。
図2】実施例1によるコーティング層内に溶解している無機添加物の分布を示すTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、これは例として提示されるものであり、これによって本発明が制限されず、本発明は後述する請求の範囲の範囲によってのみ定義される。
【0013】
本発明の一実施形態では、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である無方向性電磁鋼板組成物を提供する。
【0014】
前記本発明の一実施形態に係る組成物は、膜に形成する時、被膜の耐油性、密着性、耐食性、絶縁性、一枚コア間の接着力、耐スクラッチ性、耐候性、溶接性、および/または高温耐油性に優れている。
【0015】
前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換されていてもよいし、また、前記エポキシ樹脂は、分子量が1,000〜50,000であってもよい。
前記分子量の範囲に関連してエポキシ分子量が1,000未満の場合、硬化性が低下することがあり、強度などの塗膜物性が低下することがある。また、エポキシ樹脂の分子量が50,000を超える場合、エポキシ樹脂内の相(phase)分離が生じることがあり、無機ナノ粒子との相溶性が低下することがある。
より具体的には、前記エポキシ樹脂は、5,000〜30,000の分子量を有してもよい。
また、前記エポキシ樹脂の軟化点(Tg)は、70〜120℃であってもよいし、固体分率(固形分の含有量)は、10〜50重量%であってもよい。
【0016】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノールとエポキシドとの組み合わせの形態で構成されているが、水分散状態で存在するために、構造式の一部分が極性グループで置換されていてもよいし、水分散状態で析出、沈殿のような相分離がない安定した形態を有することができる。より具体的には、前記エポキシ樹脂は、ビスフェノールA(BPA)とエピクロルヒドリン(ECH)の比率を変化させながら分子量を調節し、耐熱接着性を向上させるために、エポキシ基が3個以上の多官能性を有する形態を使用できる。
【0017】
上記で言及した熱可塑性樹脂に高温接着性と高温耐油性を確保するために、前記熱可塑性樹脂にコロイダル状態の無機ナノ粒子を置換させて、有/無機複合組成物の形態に改質させることができる。
【0018】
前記コロイダル状態の無機ナノ粒子は、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせであってもよい。前記無機ナノ粒子の粒径は、3〜100nmであってもよい。
前記無機ナノ粒子の粒径は、3〜50nmのSiO、20〜100nmのTiO、または30〜100nmのZnO(より具体的には、10〜60nmのZnO)であってもよい。前記範囲を満足する場合、時間、費用、および粒子の大きさにより発生し得る弱い境界層を最小化する側面で有利であり得る。
【0019】
また、前記第1組成物内の無機ナノ粒子の含有量は、第1組成物100重量%に対して、1〜60重量%であってもよい。より具体的には、前記無機ナノ粒子の含有量は、第1組成物100重量%に対して、1〜40重量%のSiO、5〜30重量%のTiO、または3〜60重量%のZnO(より具体的には、20〜60重量%のZnO)であってもよい。前記範囲を満足する場合、耐熱性および/または接着性のバランスを維持することができる。
【0020】
上述した有/無機複合組成物の形態に改質された樹脂組成物の高温接着性および高温耐油性を極大化するために、溶解性の良い無機添加物を前記組成物に溶解させることができる。
前記無機添加物は、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0021】
より具体的には、前記無機添加物の含有量は、無方向性電磁鋼板組成物100重量%に対して、1〜50重量%であってもよい。より具体的な例を挙げると、前記無機添加物の含有量は、無方向性電磁鋼板組成物100重量%に対して、3〜50重量%のリン酸、または1〜10重量%の水酸化ナトリウムであってもよい。前記範囲を満足する場合、無機添加物の析出問題、耐熱性および/または耐油性の側面で有利であり得る。
【0022】
前記本発明の一実施形態に係る組成物は、溶液安定性、コーティング作業性などに優れるだけでなく、被膜への形成時、表面特性(例えば、耐食性、絶縁性、密着性など)が改善でき、高温接着性および高温耐油性が改善できる。
【0023】
本発明の他の実施形態では、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含む無方向性電磁鋼板組成物を用意する段階と、前記無方向性電磁鋼板組成物を無方向性電磁鋼板の一面または両面に塗布する段階と、前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階と、前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階とを含む無方向性電磁鋼板製品の製造方法を提供する。
【0024】
前記無方向性電磁鋼板組成物については、上述した本発明の一実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階は、200〜600℃の温度で行われてもよい。
より具体的には、前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階は、5〜40秒間行われてもよい。
より具体的には、前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階において、コーティング層の厚さは、0.5〜10μmであってもよい。
この範囲を満足する場合、前記コーティング層の優れた表面特性(例えば、絶縁性、耐食性、密着性など)を有することができる。
【0025】
また、前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、1〜1000Nの圧力で行われてもよい。
より具体的には、前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、120〜300℃で行われてもよい。
より具体的には、前記コーティング層上に他の無方向性電磁鋼板を積層させた後、熱融着する段階は、5〜180分間行われてもよい。
前記範囲を満足する場合、コーティング層内における無機ナノ粒子および/または無機添加物の均一な分布によって耐熱性が改善でき、積層された層間の高温接着力と高温(約150℃)耐油性が改善できる。
【0026】
また、より具体的には、前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を硬化してコーティング層を形成させる段階において、前記コーティング層中の無機物の比率は、0.05〜0.6重量%であってもよい。この場合、目的の耐熱性および/または耐油性を得ることができる。
【0027】
本発明のさらに他の実施形態では、複数の無方向性電磁鋼板と、前記複数の無方向性電磁鋼板の間に位置する絶縁層とを含み、前記絶縁層は、水溶性エポキシ樹脂、および、SiO、TiO、ZnO、またはこれらの組み合わせである無機ナノ粒子を含む第1組成物と、リン酸(HPO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、またはこれらの組み合わせである無機添加物とを含み、前記無機ナノ粒子は、前記水溶性エポキシ樹脂の末端置換基に置換され、前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が3個以上の多官能性エポキシ樹脂である無方向性電磁鋼板製品を提供する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
図1は、実施例1によるコーティング層の断面をFIB(Focus Ion Beam)で加工した後、TEMで撮った写真である。図1では、下記のような無方向性電磁鋼板組成物を用意した。
【0030】
Epoxy−SiO系有/無機複合Compositeに、リン酸(HPO)および水酸化ナトリウム(NaOH)を溶解した。使用されたEpoxy接着樹脂の分子量は約2万であり、Epoxy接着樹脂に置換されたSiOであり、粒子の大きさはそれぞれ10nmであり、粒子の重量%は10重量%である。溶解したリン酸(HPO)および水酸化ナトリウム(NaOH)は、Epoxy−SiO系有/無機複合Composite100重量%に対比して、それぞれ3重量%および5重量%である。
【0031】
無方向性電磁鋼板(50X50mm)を供試片とし、前述した組成物を用意された各供試片に一定厚さ約5.0μm塗布した後、前記塗布された無方向性電磁鋼板組成物を500℃で15秒間硬化した。
【0032】
図1から明らかなように、コーティング層内に無機ナノ粒子が均一に分布しており、コーティング層内に無機ナノ粒子がコーティング層内で結合(cohesion)または凝集(aggregation)現象なしにコーティング層全体にわたって一定に分布していることが分かる。
【0033】
図2は、実施例1によるコーティング層内に溶解している無機添加物の分布を示すTEM写真である。無機物内に含まれている成分(Na、P)もコーティング層内に均一に分布していることが分かる。
【0034】
上記で言及した無機ナノ粒子と無機添加物のコーティング層内への均一な分布は、接着樹脂の耐熱性(Heat Resistance)を向上させ、これによって接着溶液の高温接着力を環境にやさしい自動車(HEV、EV)の駆動モータで要求されるレベル以上に満足させることができる。
【0035】
実施例2
下記表1のように、有/無機複合無方向性電磁鋼板組成物に無機ナノ粒子を置換させる前の分子量に応じたコーティング後の表面状態と常温および高温接着力を測定した。
【0036】
【表1】
【0037】
バーコーター(Bar Coater)を用いて、用意された無方向性電磁鋼板の両面に、前記表1で用意した組成物を約5μmの厚さに塗布し、乾燥温度600℃で15秒間硬化後、常温でゆっくり冷却した。
コーティングされた試片を一定の大きさ(50mmX50mm)に切断後、高さ30mmに積層して、加圧力200N下、熱融着温度および時間をそれぞれ200℃、30分間維持させた。
前記条件で熱融着されたサンプルを、引張力測定装置を用いて接着力を測定した。使用した引張力測定装置は、上記で用意されたサンプルを熱融着後、JIGで固定後、常温および高温で引張力を測定する装置である。
この時測定された値は、積層されたサンプルの界面のうち最小接着力を有する界面が脱落する値である。前記条件で常温でも同様の実験を繰り返し、接着力の程度を判断した。
【0038】
前記表1から明らかなように、塗布されたコーティング層の表面は、分子量が高いほど、表面に斑点および縞などの欠陥が発生する傾向を示しており、一般に、接着樹脂の分子量が増加するほど、接着力は増加した。150℃での高温接着力は劣っており、分子量が低い場合、接着力は非常に劣っていた。
【0039】
下記表2では、エポキシ系有/無機複合組成物溶液に置換されている無機ナノ粒子の種類、大きさおよび置換量に応じた組成物の安定性、常温/高温接着力および高温耐油性を測定した。
【0040】
【表2】
【0041】
比較例として、分子量が約3万の水溶性エポキシ接着樹脂を使用したところ、100%エポキシ接着樹脂の場合、接着溶液の安定性と常温接着力には優れているものの、高温接着力と高温耐油性が非常に劣っていることが分かる。
【0042】
エポキシ接着樹脂が有する高温接着性と高温耐油性に劣るという限界を克服するために、本発明の一実施形態は、コロイダル状態の無機ナノ粒子を置換させた組成物形態の接着溶液を提案したのである。
【0043】
前記表2から明らかなように、エポキシ−SiO系組成物の場合、無機ナノ粒子の大きさと置換量に関係なく溶液安定性と常温接着力に優れているものの、高温接着力は、無機ナノ粒子が大きいほど、および/または置換させたSiOの量が多いほど劣る傾向を示している。
【0044】
また、高温耐油性は全般的に劣り、特に無機ナノ粒子の大きさが大きいほど、および/または置換させた無機ナノ粒子の量が多いほどより劣る傾向を示している。
【0045】
これは、無機ナノ粒子の大きさが大きいほど、試片と試片との間の境界面に、相対的に大きな粒子によって弱い境界層が形成され、この弱い境界層を通して、高温(約150〜170℃)時に界面にオイル(oil)が侵入して、界面間の接着性を顕著に劣らせるという理由からであると考えられる。
【0046】
エポキシ−TiO系組成物およびエポキシ−ZnO系組成物は、エポキシ−SiO系組成物に比べて溶液安定性と常温接着力にやや劣るものの、全般的に優れた特性を持っている。しかし、高温接着力および高温耐油性は、相対的に大きな無機ナノ粒子の大きさと置換量の多さにより、エポキシ−SiO系組成物に比べてより劣る傾向を示している。
【0047】
下記表3は、上記で言及した3種類の有/無機複合組成物(Epoxy−SiO系、Epoxy−TiO系、Epoxy−ZnO系)の高温接着性および高温耐油性を極大化するために、一定量の水酸化ナトリウム(NaOH)および/またはリン酸(HPO)を前記組成物に溶解した後の特性を評価した結果である。
【0048】
【表3】
【0049】
前記表2による組成物に、酸化ナトリウム(NaOH)またはリン酸(HPO)を、前記全体組成物100重量%に対比して、前記表3のそれぞれの含有量だけ投入した。
使用されたエポキシ樹脂の分子量は約3万であり、前記エポキシ樹脂に置換されたSiO、TiOおよびZnOの粒子の大きさはそれぞれ25nm、20nmおよび10nmであり、粒子の含有量は、無機添加物を投入する前の全体エポキシ樹脂100重量%に対して、それぞれ20重量%、15重量%および30重量%である。
【0050】
コーティング後の、無方向性電磁鋼板の基本表面特性(絶縁性、耐食性、密着性など)は優れており、また、加工性(スリッティング性または打抜性)にも優れていた。
前記表3から明らかなように、溶液安定性は、水酸化ナトリウム(NaOH)またはリン酸(HPO)の溶解量が多いほど劣る傾向を示している。
常温接着力は、置換された無機粒子の種類および大きさに関係なく全般的に優れていたが、水酸化ナトリウム(NaOH)またはリン酸(HPO)の溶解量が増加するほど劣る傾向を示している。これは、コーティング層内における接着樹脂の量が無機ナノ粒子および無機添加物に比べて相対的に小さいからである。
高温接着力と高温耐油性は、類似する特性を示しており、エポキシ−SiO系組成物の場合、溶解した水酸化ナトリウム(NaOH)またはリン酸(HPO)の量が1〜15重量%の時、2つの特性とも優れていた。
【0051】
また、エポキシ−TiO系組成物とエポキシ−ZnO系組成物の場合も同様に、溶解した水酸化ナトリウム(NaOH)またはリン酸(HPO)の量が適正レベルの時、2つの特性とも優れていた。これにより、溶解した水酸化ナトリウム(NaOH)またはリン酸(HPO)だけでなく、置換させた無機ナノ粒子の大きさおよび量とも関連があることが分かる。
【0052】
一般に、全体に置換および溶解した無機物(無機ナノ粒子、無機添加物)の量が小さすぎると、溶液内に含まれている接着樹脂の比率が相対的に低くて耐熱性が劣り、高温接着力と高温耐油性に劣ることがある。
一方、無機物(無機ナノ粒子、無機添加物)の量が多すぎると、無機物によって耐熱性は良くなるものの、溶液内に含まれている接着樹脂の比率が相対的に低く、高温接着力と高温耐油性に劣ることがある。
全組成物内の無機物の含有量は、0.05〜0.6重量%の場合が好適であり得る。ただし、これに制限されるわけではない。
【0053】
前記溶液安定性は、無機ナノ粒子が置換された有/無機複合組成物または無機添加物が溶解した有/無機複合組成物を、撹拌機によって30分間強く撹拌した後、混合した溶液を30分間維持する。その後、被膜組成物内における沈殿やゲル(Gel)現象の有/無を判断した。
【0054】
前記常温および高温接着力は、片面に一定厚さに塗布したサンプルを積層後、一定条件下、熱融着をした後、常温および高温(150℃)で接着力測定装置によって測定した。常温での測定値が、接着力が2.0MPa以上の時に非常に優れる、1.0MPa以上の時に優れる、0.5MPa以上の時に普通、0.5MPa以下の時に劣ると表現した。一方、高温での接着力は、1.0MPa以上の時に非常に優れる、0.5MPa以上の時に優れる、0.3MPa以上の時に普通、0.3MPa以下の時に劣ると表現した。
【0055】
前記高温耐油性は、熱融着されたサンプルを、高温(170℃)のATF(Automatic Transmission Fluid)オイル(oil)に3時間以上維持した後、ゆっくり冷却させて、常温での表面状態および接着力を測定した。表面状態を観察した時、オイルが一枚コア(core)間の界面に侵入したり、接着コーティング層がATFオイルによって溶けてはならない。耐油性の判断基準として、高温ATF実験を経たサンプルの接着力が1.0MPa以上の時に非常に優れる、0.5MPa以上の時に優れる、0.3MPa以上の時に普通、0.3MPa以下の時に劣ると表現した。
【0056】
本発明は、上記の実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。そのため、以上に述べた実施例は全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1
図2