特許第6336112号(P6336112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6336112低濃度で気化された過酸化水素による、大幅に強化された除染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336112
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】低濃度で気化された過酸化水素による、大幅に強化された除染方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20180528BHJP
   B64C 1/00 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/02 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/06 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/10 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/18 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/22 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/36 20060101ALN20180528BHJP
   A61L 101/44 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
   A61L2/20 106
   A61L2/20
   A61L2/20 100
   A61L2/20 104
   !B64C1/00 B
   A61L101:02
   A61L101:06
   A61L101:10
   A61L101:18
   A61L101:22
   A61L101:36
   A61L101:44
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-557979(P2016-557979)
(86)(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公表番号】特表2017-509408(P2017-509408A)
(43)【公表日】2017年4月6日
(86)【国際出願番号】US2015021191
(87)【国際公開番号】WO2015143008
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】14/660,233
(32)【優先日】2015年3月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/955,283
(32)【優先日】2014年3月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505214191
【氏名又は名称】ステリス インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィゲット、ポール エー
(72)【発明者】
【氏名】メイランダー、ティモシー ダブリュウ
(72)【発明者】
【氏名】マクヴェイ、イアン
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−033659(JP,A)
【文献】 特開平06−047084(JP,A)
【文献】 特表2007−524444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/
B64C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある区域に配置された物体を除染するための方法であって、
加熱されたキャリアガスを、第1の流体流路を通して前記区域に導入することで、前記区域を目標温度まで加熱し、
前記区域を前記温度まで加熱した後に、
前記区域の相対湿度が目標湿度レベルに到達するまで、第2の流体流路を通して前記区域に蒸気を供給し、かつ
前記区域における殺菌剤の濃度が目標殺菌剤濃度になるまで、第3の流体流路を通して、前記区域に、気化された殺菌剤を供給することで、
前記区域を除染し、
前記区域を除染するときに、前記加熱されたキャリアガスを、前記第1の流体流路を通してさらに前記区域に導入することで、除染するときの前記区域の温度を前記目標温度に維持し、
前記区域において所定の目標除菌量が達成されるまで、前記区域における前記目標温度と、前記目標殺菌剤濃度と、前記目標湿度とを維持することを特徴とする除染方法。
【請求項2】
目標殺菌剤濃度を25ppmから50ppmまでの範囲とし、目標温度を40℃から60℃までの範囲とし、目標湿度レベルを相対湿度で50%を超えたレベルとすることを特徴とする請求項1記載の除染方法。
【請求項3】
目標殺菌剤濃度を25ppmとすることを特徴とする請求項2記載の除染方法。
【請求項4】
物体としての航空機を除染することを特徴とする請求項1記載の除染方法。
【請求項5】
目標除菌量を2300ppm*min以下とすることを特徴とする請求項1記載の除染方法。
【請求項6】
殺菌剤として、気化された過酸化水素を用いることを特徴とする請求項1記載の除染方法。
【請求項7】
殺菌剤として、1種または2種以上の気化された殺菌剤を用いることを特徴とする請求項1記載の除染方法。
【請求項8】
気化された殺菌剤として、気化された過酸化水素と、過酢酸と、漂白剤と、アンモニアとのうちの1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項7記載の除染方法。
【請求項9】
殺菌剤として、1種または2種以上の気体の状態の殺菌剤を用いることを特徴とする請求項7記載の除染方法。
【請求項10】
気体の状態の殺菌剤として、オゾン、二酸化塩素、窒素酸化物、エチレンオキサイドのうちの1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項9記載の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2014年3月19日にアメリカ合衆国で出願された仮出願番号61/955,283の仮出願の利益を主張し、この仮出願の内容は本明細書に完全に取り込まれている。
本発明は、部屋および区域の消毒および不活性化に関する。
【背景技術】
【0002】
気化された過酸化水素(VHP[vaporized hydrogen peroxide])を使用することは、抗菌処理として確立されたものである。VHPは、環境(クリーンルームなど)の殺菌のために、動物研究所や医療環境などにおける敏感な機器の汚染状態の制御方法のための要素として広く用いられている。近年、VHPは、生物兵器による攻撃のあとの航空機に用いるための開発が検討されている。しかしながら、航空機の部品に求められる厳格な要求のために、VHP処理には、航空機部品、基材、接着剤、コーティングなどへの適合性に関する懸念が存在する。この点は、多数の従来からの金属製の部品に置き換えて複合材料が用いられている近代の第5世代の航空機に、特に当てはまる。
【0003】
近代の航空機の構造に用いられている材料は、それらが晒される温度や他の条件について、厳格な制限を有する。典型的には、航空機は82℃(華氏180度)を超える温度に晒されないようにすることが必要である(この温度は赤道下で太陽光が直接照射する場所に航空機が格納されたときに達する可能性のある温度である)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機の部品に対するVHPの適合性についての懸念に対処するために、航空機を、この航空機の材料についての無傷性を損なう可能性のある状況(熱応力など)に晒すことなく、生物的な除染を行うための代替方法が開発されている。本明細書で用いられる「除染」の語は、生物学的な汚染状態を不活性化することを意味するとともに、殺菌および消毒をも意味する。ただし、殺菌および消毒に限定されるものではない。このような手法の1つとして、生物学的な熱除染(BTD[Bio Thermal Decontamination])が挙げられる。BTD処理に際して、航空機は、この航空機を安全に格納するための上限の温度(すなわち、約82℃)か、それよりも低い温度に昇温され、かつ高湿度に晒される。この状態によって、蒸気殺菌の場合と同じ効果が達成され、細菌胞子を含む生物学的物質の不活性化が実現される。しかしながら、処理温度が低いため、一般的な蒸気殺菌サイクル(典型的には、120℃または130℃で動作されるオートクレーブ)と比べて、微生物の不活性化を効果的に行うために要する時間がきわめて長期となる(何日も掛かる)。
【0005】
このため、目的にかなった時間枠で(日にちでなく時間単位で)効果的な微生物の不活性化を達成するとともに、近代の航空機の材料に適合可能である除染プロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ある区域に配置される物体を除染するための方法が提供される。この方法は、前記区域を目標温度に加熱し、前記区域の湿度が目標湿度に達するまで前記区域に蒸気を導入し、前記区域の殺菌状態が目標殺菌状態に達するまで前記区域に殺菌剤を導入し、所定の目標除菌量が達成されるまで前記目標温度と目標殺菌状態と目標湿度とを維持する、というステップを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、BTD処理にVHPを組み合わせることにより、標準的なBTD処理と比べてかなりの低温かつ低湿度で、かつ従来のVHPプロセスと比べてかなりの低濃度で、微生物の不活性化が迅速に実現することが見出された。BTD処理にVHPを組み合わせることにより、サイクルタイムが、予期できないくらいに短縮化される。低温かつ低湿度の状態で(すなわち、航空機の材料の適合性の点で限界となる上限からはるかに遠ざかった条件において)処理することにより、処理された航空機の継続的な耐空性が保証される。
【0008】
本発明によれば、控えめな昇温と、低湿度と、低濃度のVHPとの組み合わせによって、従来のBTD処理に比べてより迅速に微生物の不活性化が可能となるという利点がある。これによって、日にち単位や週単位ではなく、時間単位での航空機の完全な除菌が可能となる。
【0009】
本発明の追加的な利点は、適度に上昇された温度と低湿度とのもとで処理が行われることによって、除菌システムを容易に操作することができる点にある。航空機の全体を収容するための十分に大きな除菌用収容体の中で高温高湿度の状況で処理することは、問題がある。このようなシステムはエネルギを大量に消費するうえに、温度や湿度を均一に分散させることが困難である。
本発明のさらなる利点は、近代的な航空機の材料との適合性がより向上した処理である点に存在する。
【0010】
本発明のさらなる利点は、低エネルギ消費化、収容構造の簡単化、絶縁の簡単化、殺菌剤の分散の容易化、除菌時間のかなりの迅速化、航空機の再稼働への迅速化を達成する、簡単化されたシステムにある。
【0011】
これらの利点、および他の利点は、以下の好適な実施の形態の記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の好ましい実施の形態の殺菌システムの概略図である。
図2】互いに独立した第1、第2、第3、第4の流体流路を備えた、本発明の他の実施の形態の殺菌システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特定の部品および部品の配列において物理的な形態を呈することができる。本発明の好適な実施の形態は、本発明の一部分を構成する明細書と図面において詳細に記載される。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態を示すだけであって、本発明を限定するためのものではない図面を、参照する。図1は、本発明の好ましい実施の形態の殺菌システム10を示す。本発明においては、気化された過酸化水素(VHP)を殺菌剤として用い、物品を消毒あるいは不活性化するために、VHPが湿度と組み合わされる。殺菌剤は、一種類または複数種類の気化された殺菌剤にて構成されることができるし、あるいは一種類または複数種類の気化された殺菌剤が、一種類または複数種類の気体の状態の殺菌剤と組み合わされることができる。例示であって限定するものではないが、気化された殺菌剤は、過酢酸、漂白剤、アンモニアのうちの1種または2種以上を含むことができる。また気体の状態の殺菌剤は、オゾン、二酸化塩素、窒素酸化物、エチレンオキサイドのうちの1種または2種以上を含むことができる。さらに、殺菌剤を、ここで参照するマクヴェィ氏(McVey)のアメリカ特許第8129579号明細書に開示された化学薬品のうちの1種または2種以上にて構成することができる。
【0015】
システム10は、殺菌、除染のための非屋外的な容器または領域12aを規定するところの、隔離部または部屋12を含む。殺菌または除菌されるべき物品は、隔離部または部屋12の内部に配置される。隔離部または部屋12は、航空機を収容するための十分な大きさを有するテントやその他の構造物とすることができる。
【0016】
湿度センサ14が、隔離部または部屋12の内部に設置される。湿度センサ14は、隔離部または部屋12の内部におけるキャリアガスの湿度に比例した可変電気信号を発生させることが可能である。
【0017】
気化された過酸化水素(VHP)のセンサ16が、隔離部または部屋12の内部に設置される。VHPセンサ16は、隔離部または部屋12の内部におけるVHPの濃度に比例した信号を発生させることが可能な、電気化学的なセルにて構成することができる。または、VHPセンサ16を、同様の信号を発生させる近赤外の分光光度計、あるいは、隔離部または部屋12の内部のVHPの濃度を検出する市販の他のセンサにて構成することができる。
【0018】
温度センサ18が、隔離部または部屋12の内部に設置される。温度センサ18は、隔離部または部屋12の内部におけるキャリアガスの温度に比例した可変電気信号を発生させることが可能である。
【0019】
システム10は、第1の流体流路「A」と、第2の流体流路「B」と、第3の流体流路「C」と、第4の流体流路「D」とを備える。第1の流体流路「A」は、隔離部または部屋12と、第1の流路22aとによって規定される。第1の流路22aの一端が、隔離部または部屋12に接続される。第1の流路22aの他端もまた隔離部または部屋12に接続される。これによって、隔離部または部屋12と、第1の流路22aとが、閉じたループ状の経路を形成する。
【0020】
第2の流体流路「B」は、隔離部または部屋12と、第1の流路22aの一部分と、第2の流路22bとによって規定される。第2の流路22bの一端が、分岐部24において第1の流路22aに接続される。第2の流路22bの他端は、隔離部または部屋12に接続される。これによって、隔離部または部屋12と、第1の流路22aの一部分と、第2の流路22bとが、閉じたループ状の経路を形成する。
【0021】
第3の流体流路「C」は、隔離部または部屋12と、第1の流路22aの一部分と、第3の流路22cとによって規定される。第3の流路22cの一端が、分岐部26において第1の流路22aに接続される。第3の流路22cの他端は、隔離部または部屋12に接続される。これによって、隔離部または部屋12と、第1の流路22aの一部分と、第3の流路22cとが、閉じたループ状の経路を形成する。
【0022】
第4の流体流路「D」は、隔離部または部屋12と、第1の流路22aの一部分と、第4の流路22dとによって規定される。第4の流路22dの一端が、分岐部28において第1の流路22aに接続される。第4の流路22cの他端は、隔離部または部屋12に接続される。これによって、隔離部または部屋12と、第1の流路22aの一部分と、第4の流路22dとが、閉じたループ状の経路を形成する。
【0023】
ヒータ32が、分岐部24と隔離部または部屋12との間における、隔離部または部屋12よりも上流側の第1の流路22aの部分に配置されている。ヒータ32は、第1の流体流路「A」に沿って流れるキャリアガスを加熱する。ヒータ32は、このヒータ32を通過するキヤリアガスを加熱するための電気的な要素を備えた従来のヒータにて構成することができる。ヒータ32と隔離部または部屋12との間における、隔離部または部屋12よりも上流側の第1の流路22aの部分に、第1のバルブ52が設けられている。第1のバルブ52は、第1の流路22aに沿ったキャリアガスの流れを調節する。第1のバルブ52は、可変流量弁である。
【0024】
蒸気発生器34が、第2の流路22bに設置されている。蒸気発生器34は、第2の流体流路「B」に沿って流れるキヤリアガスに蒸気を供給する。蒸気発生器34は、従来公知の蒸気発生器にて構成することができる。たとえば小さな隔離部または部屋12にはステリス社(STERIS Corporation)のSA32型蒸気発生器を用いることができ、大きな隔離部または部屋12には、クロマロックス社(Chromalox)の蒸気発生器を用いることができる。蒸気発生器34と隔離部または部屋12との間における第2の流路22bの部分に、第2のバルブ54が設けられている。第2のバルブ54は、第2の流路22bに沿ったキャリアガスの流れを調節する。第2のバルブ54は、可変流量弁である。
【0025】
VHP発生器36が、第3の流路22cに設置されている。VHP発生器36は、第3の流体流路「C」に沿って流れるキヤリアガスに、気化された過酸化水素を供給する。VHP発生器36は、たとえば小さな隔離部または部屋12にはステリス社の STERIS VHP 1000 ARD VHP 発生システム や、ステリス社の一般的なVHP発生器などを用いることができる。VHP発生器36と隔離部または部屋12との間における第3の流路22cの部分に、第3のバルブ56が設けられている。第3のバルブ56は、第3の流路22cに沿ったキャリアガスの流れを調節する。第3のバルブ56は、可変流量弁である。
【0026】
分解装置38が、第4の流路22dに設置されている。分解装置38は、第4の流体流路「D」に沿って流れるキャリアガスに含まれる過酸化水素(H)を分解する。分解装置38は、VHPに接触したときにこのVHPを分解する材料にて形成された触媒式の分解装置にて構成することができる。分解装置38と隔離部または部屋12との間における第4の流路22dの部分に、第4のバルブ58が設けられている。第4のバルブ58は、第4の流路22dに沿ったキャリアガスの流れを調節する。第4のバルブ58は、可変流量弁である。
【0027】
モータ46によって駆動されるブロワ44が、隔離部または部屋12と分岐部28との間の位置における隔離部または部屋12よりも下流側の第1の流路22aの部分に設けられている。ブロワ44は、キャリアガスを、第1の流体流路「A」と、第2の流体流路「B」と、第3の流体流路「C」と、第4の流体流路「D」とに沿って同時に循環させるように構成されている。大きな隔離部または部屋12に対して、ブロワ44は、キヤリアガスを1000立方フィート/分(CFM)から2000立方フィート/分(CFM)までの流量で送給する。ブロワ44よりも上流側の位置における第1の流路22aの部分には、フィルタ48が設置されている。フィルタ48は、第1の流路22aを通って循環するキャリアガスから塵埃および、または砕片を濾し取るよう機能する。
【0028】
制御システム100が、殺菌システム10の動作を制御する。制御システム100は、コントローラ110を備える。コントローラ110は、モータ46と、バルブ52、54、56、58と、ヒータ32と、蒸気発生器34と、VHP発生器36との動作を制御する。コントローラ110は、湿度センサ14と、VHPセンサ16と、温度センサ18とをモニタする。コントローラ110は、システム・マイクロプロセッサまたはマイクロ・コントローラであって、システム10の動作を制御するようにプログラムされたものによって構成されている。コントローラ110は、第1のバルブ52と第2のバルブ54と第3のバルブ56と第4のバルブ58とに電子信号を供給することで、第1のバルブ52と第2のバルブ54と第3のバルブ56と第4のバルブ58との開度を制御する。この開度によって、第1のバルブ52と第2のバルブ54と第3のバルブ56と第4のバルブ58とは、第1の流体流路「A」と、第2の流体流路「B」と、第3の流体流路「C」と、第4の流体流路「D」とに沿って流れるキャリアガスの流量をそれぞれ制御する。
【0029】
入力ユニット112が設けられてコントローラ110に接続され、それによって殺菌システム10のユーザが操作パラメータを入力できるように構成されている。入力ユニット112は、システム10のユーザによる入力データまたは入力情報をコントローラ110に伝えることができる何らかの装置によって構成することができる。そのような装置の限定的でない例示として、キーパッド、キーボード、タッチスクリーン、タッチスイッチを挙げることができる。
【0030】
同様に出力ユニット114がコントローラ110に接続されている。出力ユニット114は、殺菌システム10のユーザにコントローラ110から情報を伝達できるように構成されている。出力ユニット114の限定的でない例示として、プリンタ、ディスプレイ画面、LEDディスプレイを挙げることができる。コントローラ110は、システム10が、望ましい処理状況を維持するための所定の運転状態となるように、プログラムされている。
[システムの動作]
【0031】
殺菌システム10の動作にもとづいて、本発明をさらに説明する。典型的な殺菌、除染サイクルは、加熱相と、除染相と、通気相とを含む。殺菌、除染のサイクルを開始する前において、動作パラメータをコントローラに供給するために入力ユニット112が用いられる。動作パラメータとしては、加熱相、除菌相、通気相における目標温度、目標VHP濃度、除染相における目標湿度、さらに通気相における目標VHP濃度を挙げることができる。
【0032】
(加熱相)
殺菌、除染サイクルがまず開始されたときに、コントローラ110は加熱相を開始する。コントローラ110は、第1のバルブ52を開位置に設定するとともに、第2のバルブ54と第3のバルブ56と第4のバルブ58とを閉位置に設定する。またコントローラ110は、ブロワ44を運転するためにモータ46を駆動させることで、第1の流体流路「A」に沿ってキャリアガスを循環させる。加熱相において、ヒータ32は、隔離部または部屋12におけるキャリアガスの温度が上昇するように加熱エネルギが供給される。加熱相の間にわたって、温度センサ18は、隔離部または部屋12におけるキャリアガスの実際の温度に比例した信号をコントローラ110に送る。隔離部または部屋12の温度が、加熱相における目標温度に到達したなら、コントローラ110は加熱相を終了する。本発明によれば、加熱相における目標温度は、約40℃から約60℃までの範囲であり、好ましくは約45℃から約55℃までの範囲である。
【0033】
(除染相)
加熱相に引き続いて、除染相が開始される。第1のバルブ52は開状態に維持され、コントローラ110は、第2のバルブ54と第3のバルブ56とを開位置に変更させて、キヤリアガスが第2の流体流路「B」と第3の流体流路「C」とに沿って流れるようにする。モータ46の速度は、第1の流体流路「A」と第2の流体流路「B」と第3の流体流路「C」とに沿って所要の流れが起こるように調節される。コントローラ110は、第1のバルブ52と第2のバルブ54と第3のバルブ56との開度を制御して、各流路においてシステムの正確な動作のために求められるキヤリアガスの流量を変化させる。
【0034】
コントローラ110は、蒸気発生器34とVHP発生器36とを活性化させて、蒸気と、気化された過酸化水素とをそれぞれ隔離部または部屋12に送給する。特に、蒸気発生器34は第2の流体流路「B」に蒸気を送給し、その蒸気はキャリアガスによって隔離部または部屋12の容器または領域12aに運搬される。蒸気発生器34は、隔離部または部屋12に直接接続された構成とすることもできる。それによって、配管構造を簡単化することができるとともに、蒸気が隔離部または部屋12に到達する前に凝縮する危険性を低減することができる。同様に、VHP発生器36は、気化された過酸化水素(VHP)を第3の流体流路「C」に送給することができ、VHPはキャリアガスによって隔離部または部屋12の容器または領域12aに運搬される。
【0035】
除染相の期間にわたって、湿度センサ14は隔離部または部屋12の湿度のレベルに比例した信号をコントローラ110に送り、VHPセンサ16は隔離部または部屋12におけるVHPの濃度に比例した信号をコントローラ110に送り、温度センサ18は隔離部または部屋12の温度に比例した信号をコントローラ110に送る。除染相の期間にわたって、コントローラ110は、周期的に、湿度センサ14にて測定される実際の湿度レベルを目標湿度と比較し、VHPセンサ16にて測定される実際のVHP濃度を目標VHP濃度と比較し、温度センサ18にて測定される実際の温度を目標温度と比較する。本発明によれば、目標湿度は相対湿度で少なくとも約50%であり、好ましくは相対湿度で約60%を超えた範囲である。湿度が高いと除染プロセスの間における微生物の不活性化率を増大させることができるが、湿度が高くなると隔離部または部屋12の内部で凝縮が増加する可能性が高くなる。凝縮が起こると、隔離部または部屋12の中の物体を適切に消毒することの妨げとなることがある。このため、湿度のレベルを、凝縮が生じるレベル未満に保つことが望ましい。コントローラ110は、ヒル氏(Hill)のアメリカ特許第8007717号明細書に記載されているようにプログラムされる。アメリカ特許第8007717号明細書には、殺菌、除染処理の間における凝縮の発生を防止するために殺菌剤の濃度を調節する制御方法が詳細に記載されている。
【0036】
本発明のための目標VHP濃度は、約25ppmから約50ppmまでの範囲である。本発明においては、25ppmの近傍での処理によって、本発明に基づく材料との適合性が最大化される。
【0037】
測定された湿度レベルと、VHP濃度と、温度とに基づいて、コントローラ110は、ヒータ32と蒸気発生器34とVHP発生器36との動作を調節するとともに、隔離部または部屋12における目標湿度と目標VHP濃度と目標温度とを維持するために、第1のバルブ52と第2のバルブ54と第3のバルブ56との開度を調節する。たとえば、コントローラ110は、隔離部または部屋12の温度が目標温度となった場合に、ヒータ32を停止させるとともに第1のバルブ52を閉位置へ移動させるようにプログラムされる。またコントローラ110は、隔離部または部屋12の温度が目標温度を下回った場合には、第1のバルブ52を第1の流体流路「A」のキャリアガスの流量を増加させる位置に移動させて、第1の流体流路「A」に沿って搬送されるキャリアガスを加熱するヒータ32を動作させるように、プログラムされている。コントローラ110は、同様の手法によって、隔離部または部屋12の湿度レベルとVHP濃度を調節するように、蒸気発生器34とVHP発生器36と第2のバルブ54と第3のバルブ56との動作を制御するようにプログラムされている。
【0038】
除染相は、所定の「除染量」が得られるまで継続される。「除染量」の語は、ヒル氏(Hill)のアメリカ特許第8007717号明細書で用いられている「生物量の減少」の語と同義である。アメリカ特許第8007717号明細書には、隔離部または部屋12において測定されたVHP濃度と湿度レベルとに基づいて「生物量の減少」の「量」を所定量とするための制御方法が詳細に記載されている。
【0039】
(通気相)
除染相が完了した後に、通気相が開始される。コントローラ110は、ヒータ32と蒸気発生器34とVHP発生器36とを停止させて、隔離部または部屋12の加熱と、隔離部または部屋12への蒸気およびVHPの導入とを停止させる。そしてコントローラ110は、第4のバルブ58を開位置に移動させて、キャリアガスが第4の流体流路「D」に沿うとともに分解装置38を通って流されるようにする。コントローラ110は、第1のバルブ52、第2のバルブ54、第3のバルブ56を開位置に維持して、キャリアガスが第1の流体流路「A」と第2の流体流路「B」と第3の流体流路「C」とに沿っても流されるようにする。
【0040】
通気相は、隔離部または部屋12のVHP濃度が目標VHP濃度を下回るか、または許容可能な閾値(約1ppm)を下回るまで、実行される。気化された過酸化水素が触媒式の分解装置38によって最後まで分解されるまで、ブロワ44が、キャリアガスを、第1の流体流路「A」と第2の流体流路「B」と第3の流体流路「C」と第4の流体流路「D」とに同時に循環させ続けることを、理解することができる。
【0041】
図2には、本発明の他の実施の形態の殺菌システム210が示される。システム210における構成要素であってシステム10の構成要素と同様のものには、同様の符号が付されている。システム210は、上述のシステム10に類似するが、第1の流体流路「A」と第2の流体流路「B」と第3の流体流路「C」と第4の流体流路「D」とが相互に独立である点がシステム10と相違する。特に、それぞれの流体流路は、互いに分離した流路と、互いに分離したブロワとを備えて、キャリアガスをそれぞれの流路に沿って流すことができるようにされている。第1の流体流路「A」は、モータ246aによって駆動されるブロワ244aを備える。第2の流体流路「B」は、モータ246bによって駆動されるブロワ244bを備える。第3の流体流路「C」は、モータ246cによって駆動されるブロワ244cを備える。第4の流体流路「D」は、モータ246dによって駆動されるブロワ244dを備える。第1の流体流路「A」と第2の流体流路「B」と第3の流体流路「C」と第4の流体流路「D」のうちの1つ以上が、それらの流路を循環されるキャリアガスから塵埃を除去するためのフィルタを備えた構成とすることができる。コントローラ110(図示せず)が、システム210の構成要素の動作を制御する。システム210の動作は、上記において詳述したように、あらゆる点でシステム10の動作と同様である。しかし、システム210における4つの独立した流体流路では、小さめのブロワを使用することができるとともに、各流体流路のより独立した制御を行うことができる。
【0042】
(試験)
以下に、本発明の処理を実証するためになされた試験の概略を説明する。試験は、テストチャンバにて行われ、このテストチャンバは、このテストチャンバにVHPを供給するためのVHP 1000 ARD(ステリス社製)に接続された。テストチャンバは、このテストチャンバに蒸気を供給するための、SA32型蒸発器を改造したもの(ステリス社製)にも接続された。テストチャンバ内のキヤリアガスを加熱するためのスペースヒータが配置された。
【0043】
複数の生物学的インジケータ(BI’s)が、それぞれの試験の対数減少を決定するために、テストチャンバ内に設置された。この生物学的インジケータは、メサ・ラブス社(Mesa Labs)によって製造されたトライスケール バチルス チューリンゲンシス バイオロジカル インジケータ(Tri scale Bacillus thuringiensis Biological Indicators)であった。それぞれの試験においては、チャンバ内におけるさまざまな位置に6つの生物学的インジケータが設置された。すなわち、チャンバの壁部にテープ留めされるか、またはチャンバの中央部において紐によって吊り下げられるようにして設置された。
【0044】
それぞれの試験において、チャンバは密閉され、チャンバ内の温度は、スペースヒータを用いて目標温度まで上昇された。目標温度に達したなら、蒸気とVHPとが、SA32型蒸発器とVHP 1000 ARDとを用いてそれぞれ噴射され、湿度とVHP濃度とが所要の設定値まで上昇された。サイクルにおけるVHPの総量が算出され、目標総量が達成されたなら通気相が開始された。
【0045】
(試験結果)
表1は、弱い生物学的な熱除染(BTD[Bio Thermal Decontamination])と少量のVHPとによって、材料との適合性を保ったうえで効果的な殺菌、除染を行えることについての試験結果を含む。表1における対数減少の「検出限界未満」は、下記の試験においては、4log未満である。上述の生物学的インジケータについて用いた接種源の場合の最大の対数減少は、7.20である。
【0046】
【表1】
【0047】
最初の試験(すなわち、試験番号1、2、3、4)は、VHP濃度50ppmの条件で行われた。これらの結果から、湿度が対数減少に大きな影響を及ぼしていることが示されている。たとえば、密閉チャンバの中の湿度レベルが50%から80%に増大すると、対数減少が大きく増大している。すなわち、4log未満から6.3に増大している(試験1、試験2を参照)。それ以後のすべての試験は、VHP濃度25ppmの条件で実施された。なぜなら、この試験の目標が、VHPが低濃度の場合の効率を決定することにあったためである。
【0048】
大部分の試験において、すべての生物学的インジケータが完全に不活性化したため(すなわち、すべての生物学的インジケータについて成長が認められなかったため)、集められたデータについての詳細な統計的解析を行っても、確定的なものにはならないであろうと認められる。しかしながら、データの検討結果から、次のことが考察される。
【0049】
試験番号9、11、15の比較から(表2を参照)、湿度を増加させると対数減少に大きな影響が及ぼされることが示される。試験番号9(湿度40%)では、対数減少は検出限界未満である。しかし、湿度が高く(すなわち65%)、かつ除染量のレベルが低い場合(試験番号11)には、6を超えた対数減少が達成されている。同様のことが、試験番号5と試験番号6との間においても観察された。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表4は、対数減少についての温度の重要性を示す。試験番号11および13は、それぞれ43℃および34℃で試験された。そして、試験番号11の除染量(1295ppm*min)が試験番号13の除染量(1800ppm*min)よりも十分に低いにもかかわらず、同一の対数減少を示している。換言すると、試験番号11および13は、所定の対数減少に関して、殺菌、除染処理の際の温度が増大すると所要の除染量が低減することを示している。
【0053】
【表4】
【0054】
表5は、いくつかの試験番号についてのサイクルタイムを示している。表5に示されるように、これらの試験番号についてのサイクルタイムは、84分以下である。すなわち、生物学的な熱除染(BTD)の処理のためのサイクルタイム(日にちのオーダー)よりもはるかに短い時間となっている。
【0055】
【表5】
【0056】
このように本発明によれば、たとえば近代的な航空機のような物体を、実用的な時間枠内で(日にちではなく時間単位で)、また航空機の部品に適合した手法で、効果的に除染するための方法が提供される。
【0057】
上記の説明は、本発明の特定の実施の形態についてのものである。この実施の形態は、説明のためだけのものである。そして、本発明の精神と範囲とから逸脱することなしに、当業者によって幾多の変更および変形が実施可能である。すべてのこのような変更および変形は、特許請求の範囲の記載かそれと均等な範囲に含まれる限り、本発明の範囲に含まれるものである。
図1
図2