(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336128
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】新規抗酸化剤
(51)【国際特許分類】
C07H 19/01 20060101AFI20180528BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20180528BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20180528BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20180528BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20180528BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20180528BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20180528BHJP
A23L 3/3544 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
C07H19/01CSP
A61K8/60
A61Q19/08
A61Q19/00
A61K31/7048
A61P39/06
!A23L33/10
!A23L3/3544
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-565860(P2016-565860)
(86)(22)【出願日】2014年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2014084769
(87)【国際公開番号】WO2016103530
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】株式会社サナス
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一浩
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 直人
【審査官】
三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−056574(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/049599(WO,A1)
【文献】
国際公開第2003/038107(WO,A1)
【文献】
吉永一浩、他,1,5‐アンヒドロ‐D‐フルクトースから機能性成分アスコピロンPへの加熱による変換,J. Appl. Glycosci.,日本,2005年,Vol.52 No.3,Page.287-291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 19/01
C07H 15/00−15/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【請求項2】
請求項1に記載の化合物からなる抗酸化剤。
【請求項3】
1,5−アンヒドロフルクトースを含有する粉末を100℃以上で加熱することを特徴とする上記請求項1に記載の式(III)で示される化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規化合物およびそ
れからなる抗酸化
剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な抗酸化剤(ラジカル消去剤)は自らが酸化されることにより、相手方の酸化を抑制する。抗酸化剤は酸化防止剤とも呼ばれ、食品や化粧品、医薬品、化学工業品などに幅広く産業的に利用されている。代表的な抗酸化剤としてはアスコルビン酸、ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、カテキン、クロロゲン酸などが挙げられる。食品工業における抗酸化剤の用途は脂質の劣化防止、酸化酵素による食品色調の変化の防止などである。また、抗酸化性はヒトの健康維持にも関連しており、ヒトの体内で発生する活性酸素を消去する働きがある。活性酸素は老化や発ガンなど多くの疾病の原因物質と考えられていることからヒトの健康維持に対しても抗酸化剤は有効であり、抗酸化剤を含有している食品が注目されている。化粧品分野では過酸化脂質が皮膚の柔軟性や弾力性を失いしわの原因であると考えられている。この過酸化脂質の生成には活性酸素が関与していることから、しわの防止目的などで化粧品に抗酸化剤が使用されている。その他の工業分野でも塗料の色調の安定化、高分子合成時のラジカル制御、金属のサビ防止、ゴム・プラスチックの劣化防止など、身の回りの幅広い分野で抗酸化剤が使用されている。食品はヒトに口から摂取され、化粧品は直接にヒトの肌に塗布されることから、これらの用途で使用される抗酸化剤は当然に安全・安心な素材であることが要求される。また、その他の用途でも製造された製品がヒトに接する機会が多い、例えばプリンターのインクに使用された抗酸化剤はヒトの肌に触れる機会が多く、また、印刷物が間違って口の中に入る危険性を否定できない。プラスチック類では、それが食器として食品に接したり、ボールペンやパソコンのキーボードとしてヒトに接したりすることが当然起こりうる。このように抗酸化剤が使用された製品は我々の身近なところで利用されており、これら抗酸化剤にはヒトや環境に対して安全・安心な素材であることが求められる。
【0003】
一方、これらの製造工程や製品と環境との関係を考えると、製造工程からは廃棄物が排出されるが、この廃棄物に原料として使用された抗酸化剤が含まれることが予想される。また、製造された製品が何かの誤りで環境中に排出されることも予想される。このような状況を想定した場合、これらの製品の製造に使用される抗酸化剤は環境に対する毒性が無く、微生物に容易に分解される物質であることが望まれる。また、物質生産の原料は石油ではなく植物起源など再生可能な原料へと近年変化している現状がある。このような観点から抗酸化剤も再生可能な原料から製造されるのが望ましく、さらにはその原料が食品であることが安全の観点から重要視される。
【0004】
澱粉から合成される天然の抗酸化剤としては1,5−D−アンヒドロフルクトース(1,5−AF)が知られている(非特許文献1参照)。1,5−AFは澱粉やグリコーゲンなどのα‐1、4−グルカンをα‐1、4−グルカンリアーゼで分解することにより製造でき、この1,5−AFは食品保存の抗酸化剤としての使用できることが知られている(特許文献1参照)。また、1,5−AFは抗菌性を示すことが知られており(特許文献2参照)、さらにこの1,5−AFを加熱することでその抗菌性が高まることも知られている(特許文献3参照)。さらに、1,5−AF水溶液を加熱することでアスコピロンP(APP)が合成されることも報告されており(非特許文献2参照)、このAPPも抗酸化性、抗菌性を示し食品保存に有効な化合物であり、そのそれらの活性はいずれも1,5−AFより強いことが知られている(非特許文献2参照)。このようなことから、1,5−AFの加熱による抗菌性及び抗酸化性の向上と、1,5−AFの加熱でアスコピロンPが生成することとは何らかの関連性を有しているものと推察される。また、1,5−AFを強アルカリ環境にするとアスコピロンP、アスコピロンMなどを経由して最終的にサッカリン酸へと変化することも報告されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−133102号公報
【特許文献2】特開2002−128791号公報
【特許文献3】WO01/056408
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Applied Glycoscience,VOL.46No.4,pp.439−444(1999)
【非特許文献2】Journal of Applied Glycoscience,VOL.52,Page,pp.287−291,(2005)
【非特許文献3】Studies on the Degradation of Some Pentose and of 1、5−Anhdro−D−Frucotose,The Product of the Starch−Degrading Enzyme a−1,4−Glucan Lyase“Phd Thesis,The Swedish University of Agricultural Sciences,Sweden,page 1−34,1995)
【発明の概要】
【0007】
このような背景の中、本発明の目的とするところは再生可能な食品に由来する抗酸化剤として有用な新規化合物およびそ
れからなる抗酸化
剤を提供することにある。
本発明の他の目的は安全で安心な新規化合物およびそ
れからなる抗酸化
剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、下記式(I)
【0009】
【化1】
【0010】
で示される基本骨格を有す
る下記式(II)で表される新規化合物が
後述する式(III)で表わされる化合物として提供されることによって達成される。
【0011】
【化2】
【0012】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第
2に、本発明の新規化合物
からなる抗酸化
剤により達成される。
【0013】
さらに、本発明の上記目的および利点は、第
3に、1,5−アンヒドロフルクトースを含有する粉末を100℃以上で加熱することを特徴とする上記式(II)で示される化合物
が後述する式(III)で表わされる化合物として製造される製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物は澱粉を原料として調製できる新規な化合物であり、優れた抗酸化作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】式(II)で示される化合物の
13CNMRスペクトルである。
【
図2】式(II)で示される化合物のHSQCスペクトルである。
【
図3】式(II)で示される化合物のHSQCスペクトルである。
【
図4】式(II)で示される化合物の
1HNMRスペクトルである。
【
図5】式(II)で示される化合物の
1HNMRスペクトルである。
【
図6】式(II)で示される化合物の
1HNMRスペクトルである。
【
図7】式(II)で示される化合物のCOSYスペクトルである。
【
図8】式(II)で示される化合物のCOSY相関である。
【
図9】式(II)で示される化合物のHMBCスペクトルである。
【
図10】式(II)で示される化合物のHMBCスペクトルである。
【
図11】式(II)で示される化合物のHMBCスペクトルである。
【
図12】式(II)で示される化合物のHMBCスペクトルである。
【
図13】式(II)で示される化合物のHMBC相関である。
【
図14】式(II)で示される化合物のNOESYスペクトルである。
【
図15】式(II)で示される化合物のNOESYスペクトルである。
【
図16】式(II)で示される化合物のFT−1Rスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)1,5−AFから新規抗酸化剤の調製
上記式(II)で示される新規化合物を以後、物質Xと表記する。1,5−AF凍結乾燥粉末は既報の論文(Journal of Applied Glycoscience,VOL.46No.4,pp.439−444(1999)参照)に従って調製した。調製した1,5−AF凍結乾燥粉末の純度は示差屈折計を検出器とする高速液体クロマトグラフィーで調べた。分離カラムには三菱化学MCI GEL CK08Sを用い溶離液には水を使いカラム温度は40℃、流速1ml/分で、試料は水で溶解し糖度計の読み値がBx0.8とし室温で一夜放置した後に試料100μLを高速液体クロマトグラフに注入し分析した。得られたクロマトグラムは単純面積百分率で解析した。その結果、この試料の純度は97.0%であった。次に1,5−AF凍結乾燥粉末1gを100ml容ガラスビーカーに計り取り上部をアルミホイルで覆い100℃以上、好ましくは100〜300℃の温度、具体的には120℃に設定した加圧滅菌器に入れ加熱した。加熱開始時の温度が27℃で120℃に到達するまでに25分間、その後120℃で60分間、120℃から60℃まで40分間加熱した。加熱後の試料を加熱殺菌器から取り出し−25℃の冷凍庫で保管した。加熱後それに9mlの精製水を加え、物質Xを含む分離原液とした。この分離原液の分析は、それに精製水を加え希釈し高速液体クロマトグラフィーで分析した(分析条件、分離カラム:三菱化学MCI GEL CK08S:スチレンとジビニルベンゼンとの架橋度8%の共重合体であり且つナトリウムが結合したスルホン基をイオン交換基とする強酸性イオン交換樹脂を充填剤、カラム温度:40℃)この条件で示差屈折計による検出で標準のマルトースの保持時間が9.2分、グルコースが11.3分であるときに、物質Xの保持時間が17.4分であった。またフォトダイオードアレイ検出器で物質Xを検出すると294nm付近に吸収のピークを示した。この物質Xの精製は分離原液をこの高速液体クロマトグラフィーに供し保持時間17.4分の成分を回収し、回収後にすぐに最終濃度1mMになるようにエチレンジアミン四酢酸を加え、その後、屈折率計の読み値がBx10になるまで濃縮し、再度、高速液体クロマトグラフィーで目的画分を分離し、すぐに凍結し、その後、凍結乾燥し物質Xの白色粉末を得た。
次に、様々な分析によるこの物質Xの固有物性を示す。
【0017】
(2)核磁気共鳴(NMR)測定
物質Xの凍結乾燥粉末約8mgを採取し、重水650μLに溶解し二次元NMR(Correlated SpectroscopyY:COSY,Nuclear Overhauser Enhancement and Exchange SpectroscopyY:NOESY,Heteronuclear Single Quantum Correlation:HSQC,Heteronuclear Multiple Bond Correlation:HMBC)を行った。
1HNMRにおける化学シフトの内部標準物質として[2,2,3,3−d4]sodium3−3−(trimethylsilyl)propanoate(以下、TSP−d4)を少量加えた。
NMRは下記表1に記載の測定条件で行った。
【0019】
1HNMR,
13CNMR及びHSQC測定の結果として、
図1に
13CNMRスペクトルを示した。低磁場側(化学シフト値の大きい方)から順にシグナルについてA〜Lまでの番号をつけた、
図2、
図3にHSQCスペクトルを示した。HSQCスペクトルから、直接結合する
13C−
1Hのペアーを確定した。
図4から
図6に
1HNMRスペクトルを示した。
1Hシグナルには、直接結合する
13Cシグナルに小文字で記載した。結果を下記表2にまとめて示した。
【0021】
(3)COSY、HMBC測定
図7にCOSYスペクトルを示した。その結果、メチレン同士の相関を除くと、
図8に示す相関が観測された。
図9から
図12にHMBCスペクトルを示した。HMBCスペクトルを解析は
図13に示すように上記式(II)の構造を支持する結果であった。表3に観測された相関をまとめた。
【0023】
(4)NOESY測定
NOESYスペクトルを
図14及び
図15に示す。
【0024】
(5)精密質量測定及びMS/MS測定
試料の測定前にトリフルオロ酢酸ナトリウム標準液(TFANa標準溶液)の測定を実施して質量軸の公正を行った。試料は0.24mgを水5μLに溶解し、下記表4に示す条件で精密質量測定を実施した。
【0026】
精密質量を測定した結果、m/z271.0643、m/z289.0952、m/z306.1160、m/z311.0758、m/z599.1436といったイオンが検出された。この実測値(m/z599.1436以外)と分子式C12H16O8の理論値を比較したところ、下記表5に示すようにm/z289.0952、m/z306.1160、m/z311.0758の3つについては理論値との差が−2.3mDaから3.4mDaであり、m/z271.0643は理論値との差が−16.9mDaであった。
【0028】
ESI−MS/MS測定はイオンの強度が強かったm/z271及びm/z311をプリカーサイオンとして行った。この結果、下記表6のプロダクトイオンが観測された。
【0030】
(6)FT−IR測定
試料1.16mgを秤量後、KBr200.4mgとめのう乳鉢で混合し、ディスクを形成し下記表7の条件で測定した。
【0032】
FT−IRスペクトルを
図16に示した。主な吸収帯については以下に帰属した。
3423.3cm
−1:O−H伸縮振動
2932.4〜2888.3cm
−1:C−H伸縮振動
1663.1〜1620.8cm
−1:C=O伸縮振動(カルボニル由来)
1448.1〜1368.5cm
−1:C−H変角振動
1182.0〜1082.8cm
−1:C−O−C(エーテル由来)伸縮振動
以上の解析結果から、下記式(II)の構造式が明らかとなった。
組成式はC12O8H16 ,分子量は288である。
【0034】
立体構造の考察(NOESY測定など)
立体構造を考察するために、結合定数及びNOESYスペクトルについて解析した。
下記式(III)に示すように各炭素をAからLとした場合、Fに結合するヒドロキシメチル基はエカトリアルに、Gに結合する水酸基はアキシャルに、Dに結合する水酸基はエカトリアルに、また、BCAKEからなる環は他の二つの環に対してかなり立った状態にあると推測された。
【0036】
(8)抗酸化活性測定
前記の方法で調製した物質Xの抗酸化性を調べるために、ポリフェノールオキシダーゼ阻害活性を求めた。阻害活性の測定は次の方法で行った。
100mMのリン酸(KH2PO4)−水酸化カリウム緩衝液(pH 6.5)を2ml、水0.2ml、酵素液0.5ml(Laccase 0.2mg/ml SIGMA:from Rhus vernificera 120U/mg)を混合し30℃で1分加温した。それに、Syringaldazin(0.216mM、メタノールで溶解)を0.3ml加え、再度30℃で放置し酵素反応させ、10分後、530nmの吸光度を測定した。酵素の阻害反応では水の代わりに評価する試料を入れ、未添加時の酵素活性を比較することでの阻害活性を求めた。阻害活性は酵素活性を50%阻害するときの阻害剤の濃度(質量/体積)で求め、抗酸化活性はアスコルビン酸の活性を100とした時の相対活性で示した。
その結果、物質Xの阻害活性を濃度比で表すとアスコルビン酸を100とすると33であり、アスコルビン酸よりはアスコルビン酸に匹敵するような強い抗酸化剤であることが分った。
物質Xの基本骨格は構造式(I)のように示される。この構造名をネオサナス(Neosunus)と命名した。
【0038】
基本骨格は上記に示すとおりであり、この基本骨格から新規物質Xは6,10−ヒドロキシ−8−ヒドロキシメチルネオサナス(6,10-hydroxy−8−hydroxymethylneosunus)である。