【文献】
Angew. Chem. Int. Ed.,2010年,49,pp.971-975
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、異なる酸化電位を有するフェノールを互いにカップリングさせることができ、かつ2つの異種フェノールからのビフェノールの収率が刊行物から公知である電気化学的方法を用いて達成されうるような収率を上回る電気化学的方法を提供すること、つまり、それにより2つの異種フェノールからビフェノールをより選択的に製造することであった。
【0011】
さらに、新規のビフェノールを合成することが望まれていた。
【0012】
前記課題は、請求項8に記載の方法により解決される。
【0013】
一般式(I)〜(III):
【化4】
[式中、
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
16、R
18、R
19、R
20、R
21、R
24は、−H、−アルキル、−O−アルキル、−O−アリール、−S−アルキル、−S−アリールから選択され;
R
8、R
15、R
17は、−アルキルを表し;
R
1、R
9、R
22、R
23は、−H、−アルキルから選択され;
かつ、R
3が−Meを表す場合には、R
1とR
2とが同時に−Hを表すことはないものとする]
のうちの1つによる化合物。
【0014】
アルキルは、1〜10個の炭素原子を有する非分岐状又は分岐状の脂肪族炭素鎖を表す。好ましくは、前記炭素鎖は1〜6個の炭素原子を有し、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。
【0015】
アリールは、好ましくは14個までの炭素原子を有する芳香族(炭化水素)基を表し、例えばフェニル(C
6H
5−)、ナフチル(C
10H
7−)、アントリル(C
14H
9−)を表し、好ましくはフェニルを表す。
【0016】
本発明の一実施形態においては、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
16、R
18、R
19、R
20、R
21、R
24は、−H、−アルキル、−O−アルキル、−O−アリールから選択される。
【0017】
本発明の一実施形態においては、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
16、R
18、R
19、R
20、R
21、R
24は、−H、−アルキルから選択される。
【0018】
本発明の一実施形態においては、R
4及びR
5は−Hを表す。
【0019】
本発明の一実施形態においては、R
3及びR
6は−アルキルを表す。
【0020】
本発明の一実施形態においては、R
11は−O−アルキルを表す。
【0021】
本発明の一実施形態においては、R
13は−アルキルを表す。
【0022】
本発明の一実施形態においては、R
19は−アルキルを表す。
【0023】
前記化合物に加えて、例えば上記化合物を製造することのできる方法も特許請求の範囲に記載されている。
【0024】
以下の方法工程:
a)溶媒又は溶媒混合物及び導電性塩を反応容器に充填する工程、
b)前記反応容器中に、
【化5】
を有する第一のフェノールを添加する工程、
c)前記反応容器中に、
【化6】
を有する第二のフェノールを添加する工程、
その際、
【化7】
が成り立つものとし、
その際、前記第二のフェノールを前記第一のフェノールに対して過剰に添加するものとし、かつ、前記溶媒又は溶媒混合物が、
【化8】
が10mV〜450mVの範囲内となるように選択されているものとする、
d)前記反応溶液に2つの電極を導入する工程、
e)前記電極に電圧を印加する工程、
f)前記第一のフェノールと前記第二のフェノールとをカップリングさせてビフェノールを得る工程
を含む、ビフェノールの電気化学的製造方法。
【0025】
ここで、前記方法工程a)〜d)は任意の順序で行われてよい。
【0026】
本発明の一態様は、前記反応の収率を
【化9】
により制御することができることである。
【0027】
本発明による方法を用いて、冒頭に記載した問題が解決される。効率的な反応実施のために、2つの反応条件が必要である:
− より高い酸化電位を有するフェノール(第二のフェノール)が過剰に添加されねばならないこと、及び
【化10】
が所定の範囲内になければならないこと。
【0028】
前記第一の条件が満たされない場合には、主生成物として、前記第一のフェノールの2分子からのカップリングによって生じるビフェノールが生じる。
【0029】
【化11】
が小さすぎる場合には、前記第二のフェノールの2分子からのカップリングにより生じるビフェノールの副生成物が極めて多量に生じる。それに対して、
【化12】
が大きすぎる場合には、前記第二のフェノールが極めて高過剰で必要となり、これにより前記反応は非経済的となる。
【0030】
本発明による方法に関して、前記双方のフェノールの絶対的な酸化電位を知ることは必ずしも必要であるわけではない。双方の酸化電位の互いの差が明らかであれば十分である。
【0031】
本発明のもう一つの態様は、
【化13】
が、使用される溶媒又は溶媒混合物により影響を受けうるということである。
【0032】
溶媒/溶媒混合物を所望の範囲内に好適に選択することによって、
【化14】
を変化させることができる。
【0033】
ベース溶媒として1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)から出発した場合には、小さすぎる
【化15】
を、例えばアルコールの添加によって高めることができる。一方で、大きすぎる
【化16】
を、水の添加によって低下させることができる。
【0034】
進行する反応シーケンスを、以下の図に示す:
【化17】
【0035】
まず、より低い酸化電位を有する化合物Aが、電子をアノードで放出する。前記化合物Aは正電荷に基づき極めて強い酸になり、かつ同時にプロトンが脱離する。そのようにして生じるラジカルは、引き続き、前記化合物Aよりも過剰に前記溶液中に存在している化合物Bと反応する。このカップリングにより生じるビフェノールAB−ラジカルは、電子をアノードで放出し、かつプロトンを溶媒に放出する。
【0036】
フェノールBが過剰に添加されていない場合には、フェノールA−ラジカルが第二のフェノールA−ラジカルと反応して相応するビフェノールAAが生成される。
【0037】
本発明による方法を用いて初めて、異なる酸化電位を有するフェノールを電気化学的に良好な収率でカップリングさせることができた。
【0038】
本方法の一変形においては、前記導電性塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、テトラ(C
1〜C
6−アルキル)−アンモニウム塩、1,3−ジ(C
1〜C
6−アルキル)イミダゾリウム塩又はテトラ(C
1〜C
6−アルキル)−ホスホニウム塩の群から選択される。
【0039】
本方法の一変形においては、前記導電性塩の対イオンは、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アルキル硫酸イオン、アリール硫酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アリールスルホン酸イオン、ハロゲン化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、アルキルリン酸イオン、アルキル炭酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロケイ酸イオン、フッ化物イオン及び過塩素酸イオンの群から選択される。
【0040】
本方法の一変形においては、前記導電性塩はテトラ(C
1〜C
6−アルキル)アンモニウム塩から選択され、かつ前記対イオンは硫酸イオン、アルキル硫酸イオン、アリール硫酸イオンから選択される。
【0041】
本方法の一変形においては、前記第二のフェノールは、前記第一のフェノールに対して少なくとも2倍の量で使用される。
【0042】
本方法の一変形においては、前記第一のフェノール対前記第二のフェノールの比は、1:2〜1:4の範囲内である。
【0043】
本方法の一変法においては、前記第一のフェノール又は前記第二のフェノールのいずれかが−O−アルキル基を有する。
【0044】
本方法の一変形においては、前記溶媒又は溶媒混合物は、
【化18】
が20mV〜400mVの範囲内、好ましくは30mV〜350mVの範囲内となるように選択されている。
【0045】
本方法の一変形においては、前記反応溶液はフッ素化化合物を含有しない。
【0046】
本方法の一変形においては、前記反応溶液は遷移金属を含有しない。
【0047】
本方法の一変形においては、前記反応溶液は、水素原子以外の脱離官能基を有する基質を含有しない。特許請求の範囲に記載した方法においては、水素原子以外のカップリング箇所での脱離基は、なしで行われることができる。
【0048】
本方法の一変形においては、前記反応溶液は有機酸化剤を含有しない。
【0049】
本方法の一変形においては、前記第一のフェノール及び前記第二のフェノールは、Ia、Ib、IIa、IIb、IIIa、IIIb:
【化19】
[式中、
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
16、R
18、R
19、R
20、R
21、R
24は、−H、−アルキル、−O−アルキルから選択され;
R
8、R
15、R
17は、−アルキルを表し;
R
1、R
9、R
22、R
23は、−H、−アルキルから選択される]
から選択されており、
ここで、以下の組合せ:
【化20】
が可能である。
【0050】
アルキルは、1〜10個の炭素原子を有する非分岐状又は分岐状の脂肪族炭素鎖を表す。好ましくは、前記炭素鎖は1〜6個の炭素原子を有し、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。
【0051】
アリールは、好ましくは14個までの炭素原子を有する芳香族(炭化水素)基を表し、例えばフェニル(C
6H
5−)、ナフチル(C
10H
7−)、アントリル(C
14H
9−)を表し、好ましくはフェニルを表す。
【0052】
本発明の一変形においては、R
3が−Meを表す場合には、R
1とR
2とが同時に−Hを表すことはない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】カップリング反応を実施することのできる反応装置を示す。
【
図2】カップリング反応をより大規模で実施することのできる反応装置を示す。
【
図3】添加したメタノール量に対するp−置換体の酸化電位のプロットを示す。
【
図4】添加したメタノール量に対するm−置換体の酸化電位のプロットを示す。
【
図5】添加したメタノール量に対する2,4−二置換フェノールの酸化電位のプロットを示す。
【
図6】添加したメタノール量に対する3,4−二置換フェノールの酸化電位のプロットを示す。
【0054】
以下、本発明を実施例及び図面をもとに詳説する。
【0055】
図1は、上記カップリング反応を実施することのできる反応装置を示す。前記装置は、ニッケルカソード(1)及びケイ素上のホウ素ドープダイヤモンド(BDD)からのアノード(5)を含む。前記装置は冷却ジャケット(3)を用いて冷却可能である。ここで、矢印は冷却水の流れ方向を示す。反応室はテフロン栓(2)により密閉されている。反応混合物は、マグネチックスターラーバー(7)により混合される。アノード側で、前記装置はスクリュークランプ(4)及びシール(6)により密閉されている。
【0056】
図2は、上記カップリング反応をより大規模で実施することのできる反応装置を示す。前記装置は2つのガラスフランジ(5’)を含んでおり、これは、スクリュークランプ(2’)及びシールによって、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)で被覆された担体材料又は当業者に公知の他の電極材料からなる電極(3’)に圧力をかけるのに用いられる。反応室にはガラススリーブ(1’)を介して還流冷却器が備えられてよい。反応混合物は、マグネチックスターラーバー(4’)により混合される。
【0057】
図3に、添加したメタノール量に対するp−置換体の
【化21】
の依存性をプロットした。
【0058】
図4に、添加したメタノール量に対するm−置換体の
【化22】
の依存性をプロットした。
【0059】
図5に、添加したメタノール量に対する2,4−二置換フェノールの
【化23】
の依存性をプロットした。
【0060】
図6に、添加したメタノール量に対する3,4−二置換フェノールの
【化24】
の依存性をプロットした。
【0061】
分析
クロマトグラフィー
「フラッシュクロマトグラフィー」による予備液体クロマトグラフィー分離を、1.6barの最高圧で、デューレン在Macherey-Nagel GmbH & Co社製シリカゲル60 M(0.040〜0.063mm)上で行った。非加圧分離を、ダルムシュタット在Merck KGaA社製シリカゲルGeduran Si 60(0.063〜0.200mm)上で実施した。溶離液として使用した溶媒(酢酸エチルエステル(工業用)、シクロヘキサン(工業用))は、ロータリーエバポレーターでの蒸留により予め精製しておいた。
【0062】
薄層クロマトグラフィー(TLC)のために、ダルムシュタット在Merck KGaA社製 PSC使用準備済みプレートシリカゲル60 F254を使用した。R
f値を、使用した溶離液混合物と関連付けて示す。TLCプレートの発色のために、浸漬試薬としてセリウム−リンモリブデン酸溶液を使用した。セリウム−リンモリブデン酸試薬:水200mL中のリンモリブデン酸5.6g、硫酸セリウム(IV)四水和物2.2g及び濃硫酸13.3g。
【0063】
ガスクロマトグラフィー(GC/GCMS)
生成物混合物及び純物質のガスクロマトグラフィー試験(GC)を、日本国在島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2010を用いて行った。米国在Agilent Technologies社製石英キャピラリーカラムHP-5(長さ:30m;内径:0.25mm;共有結合固定相の膜厚:0.25μm;キャリアガス:水素;インジェクター温度:250℃;ディテクター温度:310℃;プログラム:「ハード」法;開始温度50℃で1分間、加熱速度:15℃/分、最終温度290℃で8分間)で測定した。生成物混合物及び純物質のガスクロマトグラフィーマススペクトル(GCMS)を、前記ガスクロマトグラフGC-2010と日本国在島津製作所製質量分析計GCMS-QP2010とを組み合わせて用いて記録した。米国在Agilent Technologies社製石英キャピラリーカラムHP-1(長さ:30m;内径:0.25mm;共有結合固定相の膜厚:0.25μm;キャリアガス:水素;インジェクター温度:250℃;ディテクター温度:310℃;プログラム:「ハード」法;開始温度50℃で1分間、加熱速度:15℃/分、最終温度290℃で8分間;GCMS:イオン源温度:200℃)で測定した。
【0064】
融点
融点を、マインツ在HW5社製融点測定器SG 2000を用いて測定し、補正を行わなかった。
【0065】
元素分析
元素分析を、マインツ在ヨハネス・グーテンベルク大学有機化学研究所分析部において、ハーナウ在Foss-Heraeus社製vario EL Cubeで行った。
【0066】
質量分析法
全てのエレクトロスプレーイオン化分析(ESI+)を、マサチューセッツ州ミルフォード在Waters Micromass社製 QTof Ultima 3で行った。EIマススペクトル及び高分解能EIスペクトルを、ブレーメン在ThermoFinnigan社製 MAT 95 XL型二重収束型装置で測定した。
【0067】
NMR分光法
NMR分光法による試験を、カールスルーエ在Bruker, Analytische Messtechnik社製 AC 300型又はAV II 400型の多核磁気共鳴分光計で行った。溶媒としてCDCl
3を使用した。
1H−スペクトル及び
13C−スペクトルを、非重水素化溶媒の残留含分に従って、米国在Cambridge Isotopes Laboratories社のNMR Solvent Data Chartによってキャリブレーションした。
1H−シグナル及び
13C−シグナルの帰属を、部分的にH−H COSY、Η−Η NOESY、H−C HSQC及びH−C HMBC−スペクトルを用いて行った。化学シフトをδ値としてppmで示す。NMRシグナルの多重度に関しては、以下の略称を用いた:s(シングレット)、bs(ブロードシングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、m(マルチプレット)、dd(ダブルダブレット)、dt(ダブルトリプレット)、tq(トリプルカルテット)。全てのカップリング定数Jを、含まれる結合の数と共にヘルツ(Hz)で示した。シグナル帰属において示した番号は構造式中に示した位置番号に対応しているが、これはIUPAC命名法に準拠する必要のないものである。
【0068】
全般的作業規定
カップリング反応を、
図1に示されているような装置内で実施した。
【0069】
【化25】
を有する第一のフェノール5mmolと、
【化26】
を有する第二のフェノール15mmolとを、以下の第1表に示されている量の1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)及びMeOH中に又はギ酸及びMeOH中に溶解させる。電解を定電流で行う。反応混合物を撹拌し、かつ砂浴を用いて50℃に加熱する間に、電解セルの外側ジャケットをサーモスタットで約10℃に調温する。電解の終了後に、セル内容物をトルエンと共に50mL丸底フラスコ内に移し、溶媒を、減圧下にロータリーエバポレーターで50℃で200〜70mbarで除去する。未反応出発物質を、ショートパス蒸留を用いて回収する(100℃、10
-3mbar)。
【0070】
【化27】
【0071】
合成
ビフェノールの合成を、上記の全般的作業規定に従い、かつ
図1に示されているような反応装置内で行った。
【0072】
2,2’−ジヒドロキシ−4’,5−ジメチル−5’−(メチルエチル)−3−メトキシビフェニル
【化28】
【0073】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び3−メチル−4−(メチルエチル)フェノール2.28g(15mmol、3.0当量)をHFIP 33mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液9:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0074】
収量:716mg(50%、2.5mmol)
【化29】
【0075】
2,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジメチル−3−メトキシビフェニル
【化30】
【0076】
4−メチルグアイアコール1.66g(12mmol、1.0当量)及び4−メチルフェノール3.91g(36mmol、3.0当量)をHFIP 65mL及びMeOH 14mL中に溶解させ、MTES 1.63gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0077】
収量:440mg(36%、1.8mmol)
【化31】
【0078】
2,5’−ジヒドロキシ−4’,5−ジメトキシ−2’−メチルビフェニル
【化32】
【0079】
4−メチルグアイアコール1.66g(12mmol、1.0当量)及び4−メトキシフェノール4.49g(36mmol、3.0当量)をHFIP 80mL中に溶解させ、MTES 1.63gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0080】
収量:2.05g(66%、7.9mmol)
【化33】
【0081】
2,2’−ジヒドロキシ−3−メトキシ−3’,5,5’−トリメチル−ビフェニル
【化34】
【0082】
4−メチルグアイアコール0.70g(6mmol、1.0当量)及び2,4−ジメチルフェノール2.08g(17mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液9:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を薄黄色の固形物として得る。
【0083】
収量:663mg(45%、2.5mmol)
【化35】
【0084】
2,2’−ジヒドロキシ−3−メトキシ−5−メチル−4’−(ジメチルエチル)ビフェニル
【化36】
【0085】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び3−tert−ブチルフェノール2.25g(15mmol、3.0当量)をHFIP 33mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0086】
収量:808mg(63%、3.1mmol)
【化37】
【0087】
2,2’−ジヒドロキシ−4’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル、及び2,4’−ジヒドロキシ−2’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル
4−メチルグアイアコール0.70g(5mmol、1.0当量)及び3−メチルフェノール1.65g(15mmol、3.0当量)をHFIP 33mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、2つのクロスカップリング生成物を無色の固形物として得る。
【0088】
2,2’−ジヒドロキシ−4’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル(副生成物)
【化38】
【0089】
2,4’−ジヒドロキシ−2’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル(主生成物)
【化39】
【0090】
2,2’−ジヒドロキシ−3−メトキシ−4’,5,5’−トリメチルビフェニル
【化40】
【0091】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び3,4−ジメチルフェノール1.83g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液9:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0092】
収量:688mg(52%、2.6mmol)
【化41】
【0093】
2,2’−ジヒドロキシ−5’−イソプロピル−3−メトキシ−5−メチルビフェニル
【化42】
【0094】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び4−イソプロピルフェノール2.05g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を褐色の油として得る。
【0095】
収量:0.53g(39%、1.9mmol)
【化43】
【0096】
2,2’−ジヒドロキシ−3−メトキシ−5−メチル−5’−tert−ブチルビフェニル
【化44】
【0097】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び4−tert−ブチルフェノール2.26g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を帯黄色の油として得る。
【0098】
収量:0.48g(34%、1.7mmol)
【化45】
【0099】
2,2’−ジヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−5−メチル−3−メトキシビフェニル
【化46】
【0100】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び2,4−ジ−tert−ブチルフェノール3.12g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液9:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0101】
収量:0.41g(24%、1.2mmol)
【化47】
【0102】
2,2’−ジヒドロキシ−3’,5−ジメチル−3−メトキシ−5’−tert−ブチルビフェニル
【化48】
【0103】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び2−メチル−4−tert−ブチルフェノール2.47g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を帯黄色の油として得る。
【0104】
収量:0.69g(46%、2.3mmol)
【化49】
【0105】
2,2’−ジヒドロキシ−3−メトキシ−5−メチル−5’−(1−メチルエチル)ビフェニル
【化50】
【0106】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び4−イソプロピルフェノール2.05g(15mmol、3.0当量)及びMTES 0.68gをHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を褐色の油として得る。
【0107】
収率:39%、527mg、1.9mmol
【化51】
【0108】
2,2’−ジヒドロキシ−3−メトキシ−5−メチル−4’−(メチルエチル)ビフェニル
【化52】
【0109】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)及び3−イソプロピルフェノール2.065g(15mmol、3.0当量)及びMTES 0.68gをHFIP 33mL中に溶解させ、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を褐色の油として得る(収率:52%、705mg、2.6mmol)。
【0110】
【化53】
【0111】
2,2’−ジヒドロキシ−4’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル、及び2,4’−ジヒドロキシ−2’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル
4−メチルグアイアコール0.28g(2mmol、1.0当量)及び3−メチルフェニル1.22g(6mmol、3.0当量)及びMTBS 0.77gをHFIP 25mL中に溶解させ、この電解質をビーカー型電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、2つのクロスカップリング生成物を無色の粘稠な油として得た。
【0112】
2,2’−ジヒドロキシ−4’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル(副生成物)
【化54】
【0113】
2,4’−ジヒドロキシ−2’,5−ジメチル−3−メトキシビフェニル(主生成物)
【化55】
【0114】
2,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジメチル−3’−(1,1−ジメチルエチル)−3−メトキシビフェニル
【化56】
【0115】
4−メチルグアイアコール0.69g(5mmol、1.0当量)、4−メチル−2−tert−ブチルフェノール2.47g(15mmol、3.0当量)及びMTES 0.68gをHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(シクロヘキサン:酢酸エチルエステル)中で精製し、生成物を黄色の油として得る(収率:36%、545mg、1.8mmol)。
【0116】
【化57】
【0117】
試験結果
第1表に、収率及び選択率を示す:
【表1-1】
【0118】
【表1-2】
【0119】
第1表は、構造的に異なる様々なフェノールが、上記の方法により直接的クロスカップリングを生じうることを示している。
【0120】
比較試験
本発明による条件下に行った第一の試験列(VR1)において、前記全般的作業規定に、
【化58】
を有する第一のフェノール0.757mmol及び
【化59】
を有する第二のフェノール2.271mmolを溶解させるという変更を加えた。
【0121】
比較試験として、第二の試験列(VR2)を実施した。ここで、前記全般的作業規定に、
【化60】
を有する第一のフェノール0.757mmol及び
【化61】
を有する第二のフェノール0.757mmolを溶解させるという変更を加えた。従って、比較試験においては、双方のフェノールが同一分だけ存在していた。
【0122】
【表2】
【0123】
第2表から、本発明によらない条件の場合、すなわち第二の試験列(VR2)においては、本発明による試験条件下での第一の試験列(VR1)よりも明らかに劣悪な収率しか得られなかったことが明らかに読み取れる。
【0124】
溶媒の影響
【表3】
【0125】
示した双方のフェノールに関して、測定系においてそれぞれその酸化電位を測定した。ここで、この測定を1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)及びメタノール(MeOH)中で行い、その際、メタノール(MeOH)の量を変化させた(データは体積%)。
【0126】
【化62】
【0127】
前記比較列は、メタノールの添加により、
【化63】
を顕著に高めることができることを明確に示している。
【0128】
【化64】
【0129】
使用した基質のサイクリックボルタンメトリー測定により、
【化65】
が、フェノールの電気化学的クロスカップリングの選択率及び収率と相関関係にあることが判明した。より大きな電位差は、より良好な収率及び改善された選択率をもたらす。
【0130】
【表4】
【0131】
図3に、添加したメタノール量に対するp−置換体の
【化66】
の依存性をプロットした。HFIP中でのメタノール濃度の増大に伴って、ほぼ全てのp−置換フェノールの
【化67】
の低下が認められる。イソプロピル誘導体だけは、15%を越えると約50mVだけわずかに増加する。
【0132】
第4表は、最大限の
【化68】
が有利であることを示している。項目1は、純HFIP中よりもHFIP/MeOH系中において、
【化69】
が10mVだけ大きいことを示しており、それによってクロスカップリング生成物の形成への卓越した選択率がもたらされる。項目2においても、例えばホモカップリング生成物のような副生成物が生じる:ここで、
【化70】
は、ホモカップリングを回避するには小さすぎるものと考えられる。副反応によって、項目3に示されているように収率の劇的な低下が生じうる。ここで、HFIP/MeOH中の
【化71】
がわずか−0.05Vであることによって、クロスカップリング生成物の形成量が急激に落ち込む。
【0133】
【表5】
【0134】
図4に、添加したメタノール量に対するm−置換体の
【化72】
の依存性をプロットした。相応するm−置換誘導体の場合、3−メチルフェノールや3−メトキシフェノールは類似の挙動を示す。例えばイソプロピルやtert−ブチルのような、より大きな基の場合には、
【化73】
の推移はより複雑である。この場合、結果的に、約13%v/v MeOHから
【化74】
が連続的に増加している。
【0135】
第5表は、項目1において、純HFIPにおいても18%のMEOH含分を伴う場合であっても、最適な
【化75】
が認められなかったことを示している。どちらの場合にも副生成物が生じ、またGC生成物積分値から、クロスカップリング生成物が比較的少量しかないことが推測される。項目2は、
【化76】
収率が低下することを示している。ここで、最適なのは
【化77】
の場合であるものと考えられる。項目3において、限界値は
【化78】
であることが裏付けられる。ここではクロスカップリング生成物は形成されないが、それに対して、
【化79】
がわずかにより大きい場合には、純HFIPにおいて、痕跡量の所望のビフェノールが単離可能である。
【0136】
【表6】
【0137】
第6表は、それぞれの基質クラスに対する
【化80】
の依存性を示す。これにより、反応の選択率に対する
【化81】
の大きさの重要性が裏付けられる。
【0138】
【化82】
【0139】
図5に、添加したメタノール量に対する2,4−二置換フェノールの
【化83】
の依存性をプロットした。2,4−二置換フェノールは、誤差の範囲内で、メタノール濃度の増加に伴って酸化電位の明らかな低下を示している。
【0140】
【表7】
【0141】
第7表は、
【化84】
の複雑性を表している。置換パターンによっては、
【化85】
によってもすでに生成物形成に対する明らかな選択性が生じる場合がある。総じて、同様に、反応の選択率に対する
【化86】
の大きさの重要性が裏付けられる。項目1は、2,3−ジメチルフェノールを用いたカップリングの際に、純HFIPにおいてホモカップリング生成物の割合が高いことを示す。このことは、双方の反応パートナーの酸化電位がほぼ同一であることによって説明がつく。MeOHを添加した場合に初めて、
【化87】
が生じる。これによって初めて非対称性の生成物の生成が可能となる。使用したフェノールの酸化電位の差が低下すると、生成物形成が抑制される(項目2、純HFIP)。3−(1,1−ジメチルエチル)−4−メトキシフェノールの場合(項目3)には、生成物は全く形成されない。何故ならば、この最後に挙げたフェノール誘導体はまず最初に酸化されてしまい、クロスカップリングが不可能であるためである。
【0142】
【化88】
【0143】
図6に、添加したメタノール量に対する3,4−二置換フェノールの
【化89】
の依存性をプロットした。3,4−ジメチルフェノールを除いては、ここでも、全てのフェノールの
【化90】
の一様な低下が認められる。電子欠乏性誘導体は、約18%v/vメタノールからほぼ一定して電位が低下している。
【0144】
【表8】
【0145】
双方の電位の差が大きすぎる
【化91】
場合には、明らかに、使用した4−メチルグアイアコールの電気化学的燃焼が生じる。
【0146】
実施した試験から、溶媒又は溶媒混合物が
【化92】
に影響を及ぼしうることが証明された。さらに、
【化93】
が、カップリングの特性や結果に明らかに影響を及ぼすことが示された。従って、異なる酸化電位を有する2つのフェノールのカップリング反応を、溶媒又は溶媒混合物の相応する選択により制御できるということが言える。