(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336259
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20180528BHJP
E02D 5/72 20060101ALI20180528BHJP
E02D 5/56 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
E02D5/72
!E02D5/56
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-200247(P2013-200247)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-67951(P2015-67951A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】市村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩史
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−100836(JP,A)
【文献】
特開2006−057404(JP,A)
【文献】
特開2003−049426(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0021637(US,A1)
【文献】
特開2012−067492(JP,A)
【文献】
特開2001−193376(JP,A)
【文献】
特開平08−291683(JP,A)
【文献】
特開平04−020613(JP,A)
【文献】
特開2000−141358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/34
E02D 5/72
E02D 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面にコンクリート系材料の吐出口を有する鋼管を備え、この鋼管の先端部の外周面における円周方向の一部に外径側へ突出した螺旋状溝形成用刃体が設けられ、この螺旋状溝形成用刃体は四角錐台状であって底面が前記鋼管の外周面側を向き、かつ各錐面のうちの上向きとなる錐面は、地盤に回転貫入させる時に先行する側が低位となるように前記鋼管の円周方向に対して傾斜していることを特徴とする節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管において、前記螺旋状溝形成用刃体が、前記鋼管の外周面の円周方向1箇所にだけ設けられた節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体取付け鋼管において、前記螺旋状溝形成用刃体の各錐面うちの上向きとなる錐面は、前記鋼管の円周方向に対して角度を持つ節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体取付け鋼管において、前記鋼管の先端に、先端面に掘削用刃体を有する先端掘削刃が着脱可能に設けられた節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の基礎を支えるために地中に現場打ちで築造されるコンクリート系杭、特に外周面に螺旋状の節を有する節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱な地盤の上に建物を建てる場合、柱状改良工法、小口径鋼管杭を埋設する工法等により地盤を補強することが行われている。柱状改良工法は、地盤に杭孔を掘削しながら、掘削した土に固化材を混入して撹拌することにより、土を固化材で固めた柱状改良杭を築造する工法である。
【0003】
上記柱状改良工法に代わるものとして、特許文献1に、先端に掘削爪を有する掘削オーガにより地盤に杭孔を掘削し、その杭孔にセメント等からなる水硬性固化材液を充填しつつ、掘削オーガを地盤から引き上げることにより、水硬性固化材液が固化した置換コラムを築造する工法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、掘削バケットの胴部に拡翼板を設けて、軸部の外周に節部が形成された節付きコンクリート系杭を築造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−106253号公報
【特許文献2】特許第4838215号
【特許文献3】特開2010−59603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の柱状改良工法は、次のような問題がある。
・現場の土と固化材を現場で混合撹拌するため、現場の土質、攪拌方法等により、築造された柱状改良杭の品質にばらつきが生じる。
・固化不良や撹拌不良による強度不足を回避するために、多量の固化材スラリーを注入する必要がある場合があり、環境への負荷が大きい。
・土質によっては、六価クロム等の有害な物質が溶出する可能性がある。事前に六価クロム等が溶出するか否かを試験して、溶出が無いことを確認することは可能であるが、それには費用と期間を要する。
【0007】
小口径鋼管杭を埋設する工法は、次のような問題がある。
・小口径鋼管杭の先端を比較的硬い地盤(一般的にN値>10)に支持させる必要があるため、地盤によっては適用できない場合がある。
・小口径鋼管杭の腐食による劣化が懸念される。そのため、予め腐食しろを見込んで設計している。
【0008】
特許文献1の工法は、現場の土を固化材と混合させないので、従来の柱状改良工法の各問題が生じない。しかし、特許文献1の方法は、水硬性固化材液が固化して形成された置換コラムの外周面が節の無い円筒形であるため、置換コラムの外周面と周囲の地盤とのせん断抵抗があまり大きくなく、その分、置換コラム径を大きくしなければならない。
【0009】
その点、特許文献2のコンクリート節杭の掘削方法によると、掘削バケットの胴部に拡翼板を設けたことにより、節付きのコンクリート系杭が築造される。節付きのコンクリート系杭は、杭の節部が地盤に食い込むことで、杭周面のせん断抵抗が増大する。そのため、小さい杭径であっても、大きい杭周面抵抗力が得られる。
【0010】
しかし、特許文献2のコンクリート節杭の掘削方法は、杭の軸部掘削と節部掘削とを別工程で行うため、掘削の作業効率が悪いという問題がある。また、掘削バケットに設けられた拡翼板は外径側へ大きく突出した形状であるため、拡翼板で掘削される土が内径側へ移動し易く、一部の土が先に掘削された杭の軸部内に入り込む可能性がある。その場合、杭孔の壁面の形状が乱れ、杭の支持力が低下する。
【0011】
この発明の目的は、現場の土の状態に影響されることなく品質の安定した地盤補強用の節付きコンクリート系杭を現場打ちで効率良く築造することができる節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管は、先端面にコンクリート系材料の吐出口を有する鋼管を備え、この鋼管の先端部の外周面
における円周方向の一部に外径側へ突出した螺旋状溝形成用刃体
が設け
られ、この螺旋状溝形成用刃体は
四角錐台状であって底面が前記鋼管の外周面側を向き、かつ各錐面のうちの上向きとなる錐面は、地盤に回転貫入させる時に先行する側が低位となるように前記鋼管の円周方向に対して傾斜していることを特徴とする。
【0013】
この構成の刃体付き鋼管を使用した節付き現場打ちコンクリート系杭の築造は、以下のように行う。
コンクリート系材料の吐出口が閉じた状態にある刃体付き鋼管を、先端が下向きとなるように支持した状態で、所定の回転貫入方向に回転させつつ押し下げる。これにより、刃体付き鋼管が地盤に貫入して杭孔を形成すると共に、螺旋状溝形成用刃体により杭孔の周囲に螺旋状溝を形成する。螺旋状溝形成用刃体は、底面が前記鋼管の外周面に接する平面に沿う四角錐台形であるため、土を外径側へ押しやる。これにより、後で鋼管を地盤から引き抜くときに、杭孔および螺旋状溝内に土が入ることを防いでいる。また、刃体付き鋼管が地盤に貫入する際に周囲の土を外径側へ押し付けて締め固める。螺旋状溝形成用刃体の各錐面のうちの上向きとなる錐面は、刃体付き鋼管を地盤に回転貫入させる時に先行する側が低位となるように鋼管の円周方向に対して傾斜しているため、螺旋状溝形成用刃が回転することにより、刃体付き鋼管全体に対して下向きへの推進力が働く。このため、間隔が一定した規則的な形状の螺旋状溝が形成され易い。
【0014】
刃体付き鋼管を地盤に貫入したら、刃体付き鋼管の鋼管内にモルタル、生コンクリート、セメントミルク等のコンクリート系材料を充填する。そして、鋼管の先端面を開いた状態にして、刃体付き鋼管を地盤から引き抜くことによって、杭孔および螺旋状溝に鋼管内のコンクリート系材料を流し込む。コンクリート系材料が硬化することで、節付きコンクリート系杭となる。
【0015】
この刃体付き鋼管を使用して節付き現場打ちコンクリート系杭を築造すると、従来の柱状改良工法のように、現場の土と固化材を混合撹拌することがないので、現場の土の状態に影響されることなく、常に品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができる。土質によって六価クロム等の有害な物質が溶出する心配もない。
【0016】
また、この刃体付き鋼管を使用した節付き現場打ちコンクリート系杭の築造方法は、刃体付き鋼管を地盤に回転貫入させるという1工程の作業で、杭孔および螺旋状溝を同時に形成することができるため、作業効率が良い。さらに、杭孔の周囲の土が鋼管によって周囲に押しやられて地盤が締め固められることに加えて、築造されたコンクリート系杭は、外周面に螺旋状の節を有するため、杭の表面積が大きく、杭周面のせん断抵抗が大きい。このことから、コンクリート系杭の杭周面抵抗力が大きくとれる。
【0017】
コンクリート系杭の杭周面抵抗力が大きいと、以下の利点がある。
・杭径を小さくすることが可能となり、材料費の削減を図ることができる。
・コンクリート系杭の材料が少なくて済み、環境負荷を低減することができる。
・杭先端をN値が比較的小さな地盤に支持させることができるため、杭長を短くすることができる。
【0018】
この発明において、前記螺旋状溝形成用刃体
は、前記鋼管の外周面の円周方向1箇所にだけ設け
られているのが良い。
螺旋状溝形成用刃体を円周方向1箇所にだけ設けると、螺旋状溝形成用刃体による掘削力のバランスが良く、杭孔および螺旋状溝を良好に形成することができる。また、刃体付き鋼管の貫入回転速度と押し下げ速度の関係を調整することで、任意のピッチで螺旋状溝を形成することができる。
【0019】
この発明において、前記螺旋状溝形成用刃体の各錐面うちの上向きとなる錐面は、前記鋼管の円周方向に対して角度を持つのが好ましい。
前記上向きとなる錘面の鋼管の円周方向に対する好ましい角度は、地盤に対する刃体付き鋼管の貫入速度および引抜き速度によって異なる。一般的には、貫入速度および引抜き速度が速いほど角度を大きくし、貫入速度および引抜き速度が遅いほど角度を小さくする。
【0020】
この発明において、前記鋼管の先端に、先端面に掘削用刃体を有する先端掘削刃
が着脱可能に設け
られていても良い。
先端面に掘削用刃体を有する先端掘削刃を設けると、掘削用刃体により地盤を下方に掘削することで、刃体付き鋼管を地盤に効率良く回転貫入することができる。刃体付き鋼管を所定の深さまで貫入させた後、鋼管から掘削用刃体が分離され、鋼管のみが引き上げられて、掘削用刃体は杭孔の底に残されることとなる。先端掘削刃を設ける場合、鋼管の開口した先端面を吐出口とすることで、鋼管の先端に先端掘削刃が装着されているときに吐出口が閉じた状態となり、装着されていないときに吐出口が開いた状態となる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管は、先端面にコンクリート系材料の吐出口を有する鋼管を備え、この鋼管の先端部の外周面
における円周方向の一部に外径側へ突出した螺旋状溝形成用刃体
が設け
られ、この螺旋状溝形成用刃体は
四角錐台状であって底面が前記鋼管の外周面側を向き、かつ各錐面のうちの上向きとなる錐面は、地盤に回転貫入させる時に先行する側が低位となるように前記鋼管の円周方向に対して傾斜しているため、現場の土の状態に影響されることなく品質の安定した地盤補強用の節付きコンクリート系杭を現場打ちで効率良く築造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかる節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管の正面図、(B)はその側面図である。
【
図2】(A)は同刃体付き鋼管の下部の破断正面図、(B)はそのIIB−IIB断面図である。
【
図3】(A)は同刃体付き鋼管の刃体取付け筒体の正面図、(B)はその平面図である。
【
図4】(A)は同刃体付き鋼管の先端掘削刃の平面図、(B)はその正面図、(C)はその底面図である。
【
図6】
図1ないし
図5に示す刃体付き鋼管を用いて行う節付き現場打ちコンクリート系杭の築造方法の各過程の説明図である。
【
図7】同刃体付き鋼管を地盤に回転貫入するときの初期段階の各過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一実施形態にかかる節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管について図面と共に説明する。
図1に示すように、この刃体付き鋼管1は、鋼管10と、この鋼管10の先端(
図1では下端)に着脱可能に取り付けられる先端掘削刃20とでなる。
【0024】
鋼管10は、鋼管本体11の先端に刃体取付け筒体12を一体に固定してなる。
図2に示すように、鋼管本体11の先端フランジ部11aと刃体取付け筒体12の上端フランジ部12aとをボルト13およびナット14で互いに結合することで、鋼管本体11に刃体取付け筒体12が固定される。前記両フランジ部11a,12aには、上下に貫通する貫通孔11b,12bがそれぞれ設けられている。この実施形態の刃体取付け筒体12は下端が開口しており、この下端開口部が請求項で言う吐出口19となる。この例では、鋼管本体11および刃体取付け筒体12は、同外径かつ同肉厚とされている。刃体取付け筒体12の先端内周面の円周方向複数箇所(例えば2箇所)には、先端掘削刃20の取付け用となるブロック状の突起13が内径側へ突出して設けられている。
【0025】
図3に示すように、刃体取付け筒体12の外周面における円周方向の1箇所に、外径側へ突出した螺旋状溝形成用刃体15が設けられている。この螺旋状溝形成用刃体15は、底面が刃体取付け筒体12の外周面に接する平面16に沿う四角錐台形である。この実施形態の場合、四角錐台の上面および底面の形状が長方形である。螺旋状溝形成用刃体15の上面の長手方向の長さをa、同短手方向の長さをb、底面の長手方向の長さをc、同短手方向の長さをd、螺旋状溝形成用刃体15の高さをHとした場合、a>b、c>d、b≧Hの各関係が成り立つように、各寸法a,b,c,d,Hを定める。
【0026】
また、螺旋状溝形成用刃体15の長手方向の中心軸17は、鋼管10の円周方向に対して角度を持っている。つまり、各錐面15a,15b,15c,15dのうちの上向きとなる錐面15aは、刃体付き鋼管1を所定の回転貫入方向Aに回転させて地盤に回転貫入させる時に先行する側が低位となるように鋼管10の円周方向に対して傾斜している。前記上向きとなる錘面15aの鋼管10の円周方向に対する好ましい角度αは、地盤に対する刃体付き鋼管1の貫入速度および引抜き速度によって異なる。一般的には、貫入速度および引抜き速度が速いほど角度αを大きくし、貫入速度および引抜き速度が遅いほど角度αを小さくする。具体的には、角度αは、30°ないし60°の範囲である。
【0027】
図4、
図5に示すように、先端掘削刃20は、全体が鋳造または鍛造による鋼製の一体成形品からなる。先端掘削刃20は、外径寸法が鋼管10および刃体取付け筒体12とほぼ同じで、反先端側に刃体取付け筒体12の先端部に嵌り込み可能な円筒状の立ち上がり部21aが形成された掘削刃本体21を有する。刃体取付け筒体12の先端部に立ち上がり部21aが嵌り込んだ状態では、
図2(A)のように、刃体取付け筒体12の先端面14が掘削刃本体21の立ち上がり部21aに隣接する段面21bに当接する。このように、刃体取付け筒体12の中に先端掘削刃20の立ち上がり部21aが入り込んで連結され、刃体取付け筒体12と立ち上がり部21aとの間にほとんど隙間が生じない。
【0028】
図4(B),(C)において、掘削刃本体21の先端面は円すい状面21cとされ、この円すい状面21cに2条の掘削用刃体22が設けられている。2条の掘削用刃体22は、それぞれ先端掘削刃20の軸心O2を通る直径線Lを挟む両側に隣接して同直径線Lと平行に設けられている。詳しくは、一方の掘削用刃体22は、直径線方向の一方の外周側の位置から、軸心O2を越えて、軸心O2ともう一方の外周側の位置との間の中間位置まで延びている。もう一方の掘削用刃体22は、直径線方向のもう一方の外周側の位置から、軸心O2を越えて、軸心O2と前記一方の外周側の位置との間の中間位置まで延びている。
【0029】
各掘削用刃体22の直径線方向外周側端は、先端側に突出した外刃部22aとされ、他端は外刃部22aよりも先端側に突出した内刃部22bとされている。外刃部22aの直径線方向外側面22aaおよび内刃部22bの直径線方向外側面22baは、いずれも軸心O2に沿う面である。よって、外刃部22aおよび内刃部22bの先端は正面視で鋭角に形成され、地中に食い込み易くなっている。各掘削用刃体22は、直径線Lと直交する方向に一定の幅を有し、直径線Lと直交する方向のどの箇所でも掘削刃本体20に対する高さは同じである。
【0030】
また、
図4(A),(B)、
図5に示すように、掘削刃本体21には、前記立ち上がり部21aよりも反先端側に突出した複数(例えば2つ)のフック状体23が設けられている。フック状体23は、掘削刃本体21の立ち上がり部21aよりも内周側の位置から立ち上がり部21aよりも反先端側へ延びる回転受け部23aと、この回転受け部23aの反先端側端から円周方向に屈曲した分離規制部23bとからなる。
【0031】
刃体取付け筒体12への先端掘削刃20の取付けは、次のように行う。すなわち、刃体取付け筒体12の先端側に先端掘削刃20を配置し、かつ刃体取付け筒体12と先端掘削刃20の各軸心O1,O2を揃えた状態で、先端掘削刃20を刃体取付け筒体12の側へ相対移動させて、刃体取付け筒体12の先端部に先端掘削刃20の立ち上がり部21aを嵌め込む。このとき、刃体取付け筒体12の突起13と、先端掘削刃20のフック状体23の回転受け部23aとは、互いに軸方向位置が合っている。この状態で、刃体取付け筒体12に対して先端掘削刃20を反掘削回転方向(反A方向)に回転させることで、突起13の側面に回転受け部23aの面F1が当接すると共に、突起13の反先端面に分離規制部23bの面F2が係止する。これにて取付け完了で、
図2のようになる。刃体取付け筒体12の先端部に先端掘削刃20の立ち上がり部21aを嵌め込まれているので、先端掘削刃20をぐらつくことなく安定して取り付けることができる。
【0032】
この構成の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の刃体付き鋼管を使用したコンクリート系杭の築造方法を、
図6と共に説明する。
【0033】
まず、同図(A)のように、自走可能な作業車両2等に搭載された回転機構付きの杭打ち装置3に、刃体付き鋼管1を先端掘削刃20が下側となるように支持させる。刃体付き鋼管1の鋼管10は、上端を杭打ち装置3の昇降ヘッド4に固定して取付けておいても良い。
【0034】
次いで、同図(B)のように、刃体付き鋼管1を回転貫入方向(A方向)に回転させつつ押し下げる。これにより、先端掘削刃20の各掘削用刃体22により地盤30を下方に掘削して、刃体付き鋼管1が地盤30に貫入して杭孔31を形成すると共に、螺旋状溝形成用刃体15により杭孔31の周囲に螺旋状溝32を形成する。刃体取付け筒体12から先端掘削刃20へ突起13およびフック状体23を介して回転力が伝達される。
【0035】
各掘削用刃体22により地盤30を掘削する際、
図7(A),(B)のように、先に内刃部22bが地盤30に食い込み、その後で、
図7(C)のように、外刃部22aが地盤30に食い込む。このように先端掘削刃20の軸心O2に近い内刃部22bが先に地盤30に食い込むため、掘削刃取付け鋼管1の先端部を側方に振れ動かす力が小さい。外刃部22aが地盤30に食い込むときに、掘削刃取付け鋼管1の先端部を側方に振れ動かす力が作用するが、内刃部22bの軸心O2に沿う直径線方向外側面22baが地盤30の掘削済み周面H1と水平方向においてしっかりと係合し、この係合作用によって、掘削刃取付け鋼管1の先端部の振れ動きが防がれる。また、外刃部22aの直径線方向外側面22aaも軸心O2に沿う面であるので、
図7(D)のように、外刃面22aが一旦地盤に食い込んでしまえば、外刃部22aの直径線方向外側面22aaが掘削済み周面H2と係合して、掘削刃取付け鋼管1の先端部が側方に振れ動くのが防がれる。こうして、掘削刃取付け鋼管1の回転貫入初期段階において、掘削刃取付け鋼管1の先端部が側方に振れ動くことが防がれ、掘削刃取付け鋼管1を安定して地盤30に貫入させることができる。
【0036】
また、この実施形態では、掘削刃本体21の先端面が円すい状面21cとされているため、掘削された土が円すい状面21cに沿って先端掘削刃20の外周側へ案内される。これにより、掘削刃取付け鋼管1が回転貫入により地盤30にスムーズに貫入されてゆく。しかも、掘削用刃体22で掘削された土が先端掘削刃20の外周側へ案内されることで、掘削刃付き鋼管1の外周側の土が掘削刃付き鋼管1の外周部で密に圧縮されて、地盤30が締め固められる。
【0037】
さらに、螺旋状溝形成用刃体15は、底面が鋼管10の外周面に接する平面16(
図3)に沿う四角錐台形であるため、土を外径側へ押しやる。これにより、後で鋼管10を地盤30から引き抜くときに、杭孔31および螺旋状溝32内に土が入ることを防いでいる。また、刃体付き鋼管1が地盤30に貫入する際に周囲の土を外径側へ押し付けて締め固める。螺旋状溝形成用刃体15の上向きとなる錐面15aは回転貫入時に先行する側が低位となるように傾斜しているため、螺旋状溝形成用刃15が回転することにより、刃体付き鋼管1全体に対して下向きへの推進力が働く。このため、間隔が一定した規則的な形状の螺旋状溝32が形成され易い。
【0038】
螺旋状溝形成用刃体15を刃体付き鋼管1の外周面の円周方向1箇所にだけ設けたことにより、螺旋状溝形成用刃体15による掘削力のバランスが良い。そのため、杭孔31および螺旋状溝32を良好に形成することができる。また、螺旋状溝形成用刃体15が円周方向に1個だけであると、刃体付き鋼管1の貫入回転速度と押し下げ速度の関係を調整することで、任意のピッチで螺旋状溝32を形成することができる。
【0039】
刃体付き鋼管1を地盤30に貫入したら、
図6(C)のように、鋼管10内にセメントミルク等のコンクリート系材料Sを充填する。コンクリート系材料Sとして、セメントミルクの代わりに、モルタルまたは生コンクリートを用いても良い。
【0040】
そして、鋼管10を反回転貫入方向(反A方向)回転させつつ引き上げる。これにより、鋼管10から先端掘削刃20が分離され、先端掘削刃20は杭孔31の底に残されたまま、鋼管10のみが地盤30から引き抜かれる。鋼管10から先端掘削刃20が分離されることで、刃体取付け筒体12の先端開口部からなる吐出口19が開き、鋼管10内のコンクリート系材料Sが杭孔31および螺旋状溝32に流し込まれる。流し込まれたコンクリート系材料Sを、バイブレーター等を用いて締め固めても良い。鋼管10を完全に引き抜いたなら、コンクリート系材料Sの杭頭部Saを平滑に均す。これにより施工が完了する。コンクリート系材料Sが硬化することで、現場打ちコンクリート系杭33となる。
【0041】
この刃体付き鋼管1を使用して節付き現場打ちコンクリート系杭を築造すると、従来の柱状改良工法のように、現場の土と固化材を混合撹拌することがないので、現場の土の状態に影響されることなく、常に品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができる。土質によって六価クロム等の有害な物質が溶出する心配もない。
【0042】
また、この刃体付き鋼管1を使用して節付き現場打ちコンクリート系杭を築造すると、刃体付き鋼管1を地盤30に回転貫入させるという1工程の作業で、杭孔31および螺旋状溝32を同時に形成することができるため、作業効率が良い。さらに、杭孔31の周囲の土が鋼管10によって周囲に押しやられて地盤30が締め固められることに加えて、築造されたコンクリート系杭33は、外周面に螺旋状の節を有するため、杭の表面積が大きく、杭周面のせん断抵抗が大きい。このことから、コンクリート系杭の杭周面抵抗力が大きくとれる。
【0043】
コンクリート系杭33の杭周面抵抗力が大きいと、以下の利点がある。
・杭径を小さくすることが可能となり、材料費の削減を図ることができる。
・コンクリート系杭33の材料が少なくて済み、環境負荷を低減することができる。
・杭先端をN値が比較的小さな地盤に支持させることができるため、杭長を短くすることができる。
【0044】
この実施形態では、鋼管10とは別に刃体取付け筒体12を設け、この刃体取付け筒体12に螺旋状溝形成用刃体15を取り付けているが、刃体取付け筒体12は設けずに、鋼管10に螺旋状溝形成用刃体15を直接取り付けても良い。
【符号の説明】
【0045】
1…刃体付き鋼管
10…鋼管
12…刃体取付け筒体
15…螺旋状溝形成用刃体
15a…上向きとなる錐面
19…吐出口
20…先端掘削刃
22…掘削用刃体
30…地盤
31…杭孔
32…螺旋状溝
33…コンクリート系杭
S…セメントミルク