(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336273
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20180528BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20180528BHJP
F16D 65/22 20060101ALI20180528BHJP
F16D 121/02 20120101ALN20180528BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20180528BHJP
F16D 123/00 20120101ALN20180528BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20180528BHJP
F16D 125/48 20120101ALN20180528BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 G
F16D65/22
F16D121:02
F16D121:24
F16D123:00
F16D125:40
F16D125:48
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-265140(P2013-265140)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120416(P2015-120416A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】安井 誠
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−334575(JP,A)
【文献】
特表2001−510760(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/014952(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
B60T 13/74
F16D 65/22
F16D 121/02
F16D 121/24
F16D 123/00
F16D 125/40
F16D 125/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪におけるいずれか一方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて前記一方の左右輪に、作動液圧による制動力を付与する液圧式ブレーキ装置と、
前記前輪および前記後輪における他方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて前記他方の左右輪に電力による制動力を付与する電動式ブレーキ装置とを備え、
前記電動式ブレーキ装置が、駆動専用の電動モータと、この電動モータの出力に応じた値の制動力を車輪に対して負荷する制動力負荷機構と、前記電動モータを制御する制御装置とを有する車両用ブレーキ装置において、
運転者によるブレーキ操作の入力を検出するブレーキ操作入力検出手段を設け、
前記制御装置は、
車速検出手段で検出される車速が定められた車速以下であるか否かを判定する判定手段と、
この判定手段により前記定められた車速以下であると判定されたとき、前記ブレーキ操作入力検出手段のブレーキ操作入力があっても、前記ブレーキ操作入力の指令値に対して、通常時にブレーキ操作入力の指令値に対して前記電動モータに与える電流よりも小さくして前記電動モータの作動を抑制するかまたは停止させる制限を行う動作制限手段と、
前記判定手段により前記定められた車速以下であると判定され、前記動作制限手段が前記電動モータの制限を行ったとき、前記ブレーキ操作入力に応じて、前記電動モータの制限された制動力の不足分を補うように前記液圧式ブレーキ装置を作動させる液圧ブレーキ制御部と、を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用ブレーキ装置において、前記制動力負荷機構は、前記電動モータの回転を減速する減速機構と、この減速機構で出力される回転運動を直線運動に変換する直動機構とを有する車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の車両用ブレーキ装置において、前記車速検出手段は、車輪の回転、または、前記車輪に連動する原動機から前記車輪までの回転装置の回転を検出する回転センサ、加速度センサ、および全地球測位システムセンサの少なくともいずれか1つを含むセンサである車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置において、前記動作制限手段は、前記ブレーキ操作入力検出手段のブレーキ操作入力に対する通常時の前記電動モータへ入力する電流に対して、前記電動モータへ入力する電流を定められた比率で小さくする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置において、前記動作制限手段は、前記電動モータのモータ出力が定められた値を超えないように制限する車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置において、前記動作制限手段は、前記電動モータのモータ出力を零とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置において、前記液圧式ブレーキ装置は、前記電動式ブレーキ装置の制限された制動力の分だけ増幅させる作動をする車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用ブレーキ装置に関し、液圧式ブレーキ装置と電動式ブレーキ装置とを搭載した車両で、徐行または停車中の電動式ブレーキ装置の作動音を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪に制動力を付与して車両を制動する車両用制動装置としては、油圧ブレーキと電動ブレーキとを併用したものが知られている(特許文献1、2)。
また電動ブレーキの消費電力削減のための制御方法が提案されている(特許文献3、特願2013−000994)。これらの電動ブレーキキャリパには、通常、モータ、減速機、直動機構から構成される電動アクチュエータが装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3927357号公報
【特許文献2】特開2004−155390号公報
【特許文献3】特開2006−231954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
典型的な電動ブレーキは、モータから減速機を介して直動機構でブレーキパッドをディスクロータに押し付けている。一般的に、減速機には歯車機構が使用される。この場合、ブレーキペダルの操作すなわちモータの回転を速く作用させる程、歯車のバックラッシによる歯打ち等の作動音が大きくなる。車両走行中であれば、エンジン等、車両の他の作動部品の音やタイヤノイズ、車両の風切り音等の影響で電動ブレーキの音は目立たない。
【0005】
一方、徐行中や停止中に電動ブレーキを作動させる場合、上記の周囲の音が小さくなるため、電動ブレーキの作動音が目立ってくる。徐行中や停止中での騒音は、車内の運転者はもちろんのこと車外の歩行者にも、耳障りな音となる問題があった。
さらに、停止中や、パーキングブレーキを作動させた駐車中であっても、運転者は、車両を制動させる意図はなくても不用意または無意識にブレーキペダルを踏んでペダル踏力を変化させることもある。なお、現行の油圧式ブレーキでは音は殆んど発生しない。
【0006】
この発明の目的は、特に電動ブレーキの作動音が目立ってくる低速時や停止時の作動音を抑えることができる車両用ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の車両用ブレーキ装置は、前輪45,45および後輪43,43におけるいずれか一方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて前記一方の左右輪に、作動液圧による制動力を付与する液圧式ブレーキ装置A1,A1と、
前記前輪45,45および前記後輪43,43における他方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて前記他方の左右輪に電力による制動力を付与する電動式ブレーキ装置A2,A2とを備え、
前記電動式ブレーキ装置A2が
、駆動専用の電動モータ2と、この電動モータ2の出力に応じた値の制動力を車輪に対して負荷する制動力負荷機構42と、前記電動モータ2を制御する制御装置9とを有する車両用ブレーキ装置において、
運転者によるブレーキ操作の入力を検出するブレーキ操作入力検出手段31aを設け、
前記制御装置9は、
車速検出手段44で検出される車速が定められた車速以下であるか否かを判定する判定手段41と、
この判定手段41により前記定められた車速以下であると判定されたとき、前記ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力があって
も、前記ブレーキ操作入力の指令値に対して、通常時にブレーキ操作入力の指令値に対して前記電動モータ2に与える電流よりも小さくして前記電動モータ2の作動を抑制するかまたは停
止させる制限を行う動作制限手段49
と、
前記判定手段41により前記定められた車速以下であると判定され、前記動作制限手段49が前記電動モータ2の制限を行ったとき、前記ブレーキ操作入力に応じて、前記電動モータ2の制限された制動力の不足分を補うように前記液圧式ブレーキ装置A1,A1を作動させる液圧ブレーキ制御部46と、を有することを特徴とする。
前記「定められた車速以下」は、試験やシミュレーション等により定められ、例えば、徐行速度以下または停車中に設定される。
前記「電動モータ2の作動を抑制する」とは、前記定められた車速より大きい車速時(通常時)における電動モータ2へ入力する電流に対して、低い電流を電動モータ2に入力して同電動モータ2の作動を制限することを意味する。
【0008】
この構成によると、判定手段41は、車速検出手段44で検出される車速が定められた車速以下であるか否かを常時判定する。動作制限手段49は、判定手段41により前記定められた車速以下であると判定されたとき、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力があっても電動モータ2の作動を抑制するかまたは停止する。この場合、主に、液圧式ブレーキ装置A1,A1が、前記一方の左右輪に作動液圧による制動力を付与することで制動する。徐行時または停車中の制動力は、前記一方の左右輪のみで十分確保できるためである。このように、油圧式ブレーキ装置A1と電動式ブレーキ装置A2とが併用される車両において、電動式ブレーキ装置A2の作動音が目立ってくる低速時や停止時の作動自体を抑えることによって、ブレーキの制動力にほとんど影響なく作動音を小さくすることができる。
【0009】
前記制動力負荷機構42は、前記電動モータ2の回転を減速する減速機構3と、この減速機構3で出力される回転運動を直線運動に変換する直動機構4とを有するものとしても良い。この場合、運転者のブレーキ操作に応じて電動モータ2を回転させ、減速機構3は、この電動モータ2の回転を減速する。直動機構4は、減速機構3で出力される回転運動を直線運動に変換して、ブレーキロータ6に対して押圧部材7を当接離隔させる。動作制限手段49は、定められた車速以下のとき、電動式ブレーキ装置A2の作動を抑えることで、減速機構3のバックラッシに起因する作動音を小さくすることができる。
【0010】
前記車速検出手段44は、車輪の回転、または、前記車輪に連動する原動機から前記車輪までの回転装置の回転を検出する回転センサ、加速度センサ、および全地球測位システムセンサの少なくともいずれか1つを含むセンサであっても良い。
【0011】
前記動作制限手段49は、前記ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力に対する通常時の前記電動モータ2へ入力する電流に対して、前記電動モータ2へ入力する電流を定められた比率で小さくしても良い。
前記「通常時」とは、前記定められた車速より大きい車速時であり、電動モータへの動作制限を行わない状態を言う。
前記定められた比率は、試験やシミュレーション等により定められ、例えば、減速機構3等の作動音を小さくでき、且つ、液圧式ブレーキ装置A1により必要十分な制動力を確保することができるような比率に設定される。
この場合、定められた車速以下のとき、ブレーキ操作に応じて、液圧式ブレーキ装置A1による制動力と電動式ブレーキ装置A2による制動力との比率を木目細かく調整することができる。したがって、運転者のブレーキ操作時の操作フィーリングに違和感がないようにできる。
【0012】
前記動作制限手段49は、前記電動モータ2のモータ出力が定められた値を超えないように制限しても良い。前記「定められた値」は、実車試験やシミュレーション等により設定される。この場合、徐行時または停車中において、電動式ブレーキ装置A2の作動音をより確実に小さくすることができる。
【0013】
前記動作制限手段49は、前記電動モータ2のモータ出力を零としても良い。この場合、液圧式ブレーキ装置A1のみによって前記一方の左右輪を制動することができ、また制御装置9の演算処理負荷の軽減を図ることができる。
【0014】
前記液圧式ブレーキ装置A1は、ブレーキペダル32の操作に応じた通常の作動をするものとしても良い。
前記液圧式ブレーキ装置A1は、前記電動式ブレーキ装置A2の制限された制動力の分だけ増幅させる作動をするものとしても良い。このように電動式ブレーキ装置A2が制限された場合であっても、その制限された分、液圧式ブレーキ装置A1を増幅させて作動することで、総制動力を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の車両用ブレーキ装置は、前輪および後輪におけるいずれか一方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて前記一方の左右輪に、作動液圧による制動力を付与する液圧式ブレーキ装置と、前記前輪および前記後輪における他方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて前記他方の左右輪に電力による制動力を付与する電動式ブレーキ装置とを備え、前記電動式ブレーキ装置が
、駆動専用の電動モータと、この電動モータの出力に応じた値の制動力を車輪に対して負荷する制動力負荷機構と、前記電動モータを制御する制御装置とを有する車両用ブレーキ装置において、運転者によるブレーキ操作の入力を検出するブレーキ操作入力検出手段を設け、前記制御装置は、車速検出手段で検出される車速が定められた車速以下であるか否かを判定する判定手段と、この判定手段により前記定められた車速以下であると判定されたとき、前記ブレーキ操作入力検出手段のブレーキ操作入力があって
も、前記ブレーキ操作入力の指令値に対して、通常時にブレーキ操作入力の指令値に対して前記電動モータに与える電流よりも小さくして前記電動モータの作動を抑制するかまたは停
止させる制限を行う動作制限手段と
、前記判定手段により前記定められた車速以下であると判定され、前記動作制限手段が前記電動モータの制限を行ったとき、前記ブレーキ操作入力に応じて、前記電動モータの制限された制動力の不足分を補うように前記液圧式ブレーキ装置を作動させる液圧ブレーキ制御部と、を有するため、特に電動ブレーキの作動音が目立ってくる低速時や停止時の作動音を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る車両用ブレーキ装置の構成を概略示す図である。
【
図2】同車両用ブレーキ装置の電動式ブレーキ装置の断面図である。
【
図3】同電動式ブレーキ装置の減速機構の拡大断面図である。
【
図4】同車両用ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
【
図5】ペダル踏力とモータ投入電流との関係を示す図である。
【
図6】同電動式ブレーキ装置の制御動作を段階的に示すフローチャートである。
【
図7】この発明の他の実施形態に係る車両用ブレーキ装置のペダル踏力とモータ投入電流との関係を示す図である。
【
図8】この発明のさらに他の実施形態に係る車両用ブレーキ装置のペダル踏力とモータ投入電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第1の実施形態に係る車両用ブレーキ装置を
図1ないし
図6と共に説明する。以下の説明は、車両用ブレーキ装置の制御方法についての説明も含む。
図1に示すように、この車両用ブレーキ装置は、左右の前輪45,45に制動力を付与する液圧式ブレーキ装置A1,A1と、左右の後輪43,43に制動力を付与する電動式ブレーキ装置A2,A2と、これらブレーキ装置A1,A2をそれぞれ制御する制御装置9とを有する。
【0018】
この車両用ブレーキ装置を搭載した車両には、電気制御ユニットであるECU31が設けられている。制御装置9は、上位制御手段であるECU31と、油圧ブレーキ制御
部(液圧ブレーキ制御部)46と、電動ブレーキ制御部47とを有する。油圧ブレーキ制御部46は、ブレーキペダル32の操作に応じて図示外のマスターシリンダ内に油圧を発生させて同油圧を図示外の各車輪シリンダに供給することで、左右の前輪45,45に制動力を付与する。なおマスターシリンダ内に発生する油圧を検出する油圧センサ48(
図4)を設け、後述する電動式ブレーキ装置A2の制御に用いても良い。
【0019】
電動ブレーキ制御部47は、ECU31から与えられるトルク指令による減速指令に従い、電流指令に変換して電動式ブレーキ装置A2,A2の各電動モータ2(
図2)を個別に制御するインバータ装置33,33を有する。
図2に示すように、電動式ブレーキ装置A2は、ハウジング1と、電動モータ2と、この電動モータ2の出力に応じた値の制動力を車輪に対して負荷する制動力負荷機構42と、電動モータ2を制御する制御装置9とを有する。制動力負荷機構42は、電動モータ2の回転を減速する減速機構3と、直動機構4と、ロック機構5と、ブレーキロータ6と、ブレーキパッド7とを有する。
【0020】
ハウジング1の開口端に、径方向外方に延びるベースプレート8が設けられ、このベースプレート8に電動モータ2が支持されている。ハウジング1内には、電動モータ2の出力によりブレーキロータ6、この例ではディスクロータ6に対して制動力を負荷する直動機構4が組み込まれている。ハウジング1の開口端およびベースプレート8の外側面は、カバー10によって覆われている。
【0021】
直動機構4について説明する。
直動機構4は、減速機構3で出力される回転運動を直線運動に変換して、ブレーキロータ6に対してブレーキパッド7を当接離隔させる機構である。この直動機構4は、スライド部材11と、軸受部材12と、環状のスラスト板13と、スラスト軸受14と、転がり軸受15,15と、回転軸16と、キャリア17と、すべり軸受18,19とを有する。ハウジング1の内周面に、円筒状のスライド部材11が、回り止めされ且つ軸方向に移動自在に支持されている。スライド部材11の内周面には、径方向内方に所定距離突出し螺旋状に形成された螺旋突起11aが設けられている。この螺旋突起11aに、後述する複数の遊星ローラ20が噛合している。
【0022】
ハウジング1内におけるスライド部材11の軸方向一端側に、軸受部材12が設けられている。この軸受部材12は、径方向外方に延びるフランジ部と、ボス部とを有する。ボス部内に転がり軸受15,15が嵌合され、これら各軸受15,15の内輪内径面に回転軸16が嵌合されている。よって回転軸16は、軸受部材12に軸受15,15を介して回転自在に支持される。
【0023】
スライド部材11の内周には、前記回転軸16を中心
に回転可能なキャリア17が設けられている。キャリア17は、軸方向に互いに対向して配置されるディスク17a,17bを有する。軸受部材12に近いディスク17bをインナ側ディスク17bといい、ディスク17aをアウタ側ディスク17aという場合がある。一方のディスク17aのうち、他方のディスク17bに臨む側面には、この側面における外周縁部から軸方向に突出する間隔調整部材17cが設けられる。この間隔調整部材17cは、複数の遊星ローラ20の間隔を調整するため、円周方向に間隔を空けて複数配設されている。これら間隔調整部材17cにより、両ディスク17a,17bが一体に設けられる。
【0024】
インナ側ディスク17bは、回転軸16との間に嵌合されたすべり軸受18により、回転自在に支持されている。アウタ側ディスク17aには、中心部に軸挿入孔が形成され、この軸挿入孔にすべり軸受19が嵌合されている。アウタ側ディスク17aは、すべり軸受19により回転軸16に回転自在に支持される。回転軸16の端部には、スラスト荷重を受けるワッシャが嵌合され、このワッシャの抜け止め用の止め輪が設けられる。
【0025】
キャリア17には、複数のローラ軸21が周方向に間隔を空けて設けられている。各ローラ軸21の両端部が、ディスク17a,17bにわたって支持されている。すなわちディスク17a,17bには、それぞれ長孔から成る軸挿入孔が複数形成され、各軸挿入孔に各ローラ軸21の両端部が挿入されてこれらローラ軸21が径方向に移動自在に支持される。複数のローラ軸21には、これらローラ軸21を径方向内方に付勢する弾性リング22が掛け渡されている。
【0026】
各ローラ軸21に、遊星ローラ20が回転自在に支持され、各遊星ローラ20は、回転軸16の外周面と、スライド部材11の内周面との間に介在される。複数のローラ軸21に渡って掛け渡された弾性リング22の付勢力により、各遊星ローラ20が回転軸16の外周面に押し付けられる。回転軸16が回転することで、この回転軸16の外周面に接触する各遊星ローラ20が接触摩擦により回転する。遊星ローラ20の外周面には、前記スライド部材11の螺旋突起11aに噛合する螺旋溝が形成されている。
【0027】
キャリア17のインナ側ディスク17bと、遊星ローラ20の軸方向一端部との間には、ワッシャおよびスラスト軸受が介在されている。ハウジング1内において、インナ側ディスク17bと軸受部材12との間には、環状のスラスト板13およびスラスト軸受14が設けられている。
【0028】
減速機構3について説明する。
図3に示すように、減速機構3は、電動モータ2の回転を、回転軸16に固定された出力ギヤ23に減速して伝える機構であり、複数のギヤ列を含む。この例では、減速機構3は、電動モータ2のロータ軸2aに取付けられた入力ギヤ24の回転を、ギヤ列25,26,27により順次減速して、回転軸16の端部に固定された出力ギヤ23に伝達可能としている。
【0029】
ロック機構5について説明する。
ロック機構5は、直動機構4の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能に構成されている。前記減速機構3に、ロック機構5が設けられている。ロック機構5は、ケーシング(図示せず)と、ロックピン29と、このロックピン29をアンロック状態に付勢する付勢手段(図示せず)と、ロックピン29を切換え駆動するアクチュエータであるリニアソレノイド30とを有する。前記ケーシングは、ベースプレート8に支持され、このベースプレート8には、ロックピン29の進退を許すピン孔が形成されている。
【0030】
リニアソレノイド30によりロックピン29を進出させて、ギヤ列26における出力側の中間ギヤ28に形成された係止孔に係合し、中間ギヤ28の回転を禁止することで、ロック状態にする。リニアソレノイド30をオフにすると、前記付勢手段による付勢力により、ロックピン29を前記ケーシング内に退入させて前記係止孔から離脱させ、中間ギヤ28の回転を許すことで、ロック機構5をアンロック状態にする。
【0031】
図4は、この車両用ブレーキ装置における電動式ブレーキ装置の制御系のブロック図である。ECU31はブレーキ操作入力検出手段31aを有し、このブレーキ操作入力検出手段31aは、運転者によるブレーキ操作の入力を検出する。例えば、ブレーキ操作入力検出手段31aは、ブレーキペダル32の動作量に応じて変化するセンサ32aの出力、または、油圧センサ48の出力を検出する。ECU31は、センサ32aまたは油圧センサ48の出力に応じて減速指令を生成する。ECU31にインバータ装置33が接続され、インバータ装置33は、各電動モータ2に対して設けられたパワー回路部34と、このパワー回路部34を制御するモータコントロール部35とを有する。
【0032】
モータコントロール部35は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。モータコントロール部35は、ECU31から与えられる減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部34のPWM制御部34aに電流指令を与える。パワー回路部34は、電源36の直流電力を電動モータ2の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ34bと、このインバータ34bを制御するPWM制御部34aとを有する。電動モータ2は、3相の同期モータ等からなる。インバータ34bは、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWM制御部34aは、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0033】
モータコントロール部35は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部37を有している。モータ駆動制御部37は、ECU31から与えられるトルク指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部34のPWM制御部34aに電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部37は、インバータ34bから電動モータ2に流すモータ電流値を電流検出手段38から得て、電流フィードバック制御を行う。またモータ駆動制御部37は、電動モータ2のロータの回転角を回転角度センサ39から得て、ロータ回転角に応じた効率的なモータ駆動が行えるように、PWM制御部34aに電流指令を与える。
【0034】
この実施形態では、モータコントロール部35に、次の判定手段41と、動作制限手段49とを設けている。判定手段41は、車速検出手段44で検出される車速が定められた車速以下(例えば、時速20km/h以下)であるか否かを判定する。動作制限手段49は、判定手段41により前記定められた車速以下であると判定されたとき、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力があっても電動モータ2の作動を抑制するかまたは停止する。車速検出手段44として、例えば、車輪の回転を検出する回転角度センサ(回転センサ)が適用される。
【0035】
モータ駆動制御部37からPWM制御部34aに与える電流指令に、前記動作制限手段49が制限を加えることで、PWM制御部34aはモータコイル(図示せず)の導通時間のPWMデューティ比を制御する。前記PWMデューティ比は、スイッチング周期に対するパルスのオン時間を表す。したがって、定められた車速以下のとき、ブレーキ操作入力があっても電動モータ2の作動が抑制または停止される。この場合、液圧式ブレーキ装置A1(
図1)が左右の前輪45,45に作動液圧による制動力を付与することで制動する。
【0036】
図5は、ペダル踏力とモータ投入電流との関係を示す図である。以下、
図4も適宜参照しつつ説明する。判定手段41により定められた車速より大きいと判定された通常時においては、
図5の一点鎖線で示すように、ブレーキペダル32の動作量つまりペダル踏力が大きくなる程、電動モータ2への投入電流は大きくなり、電動モータ2の作動が制限等されることはない。この場合、電動式ブレーキ装置による制動力と、液圧式ブレーキ装置による制動力とが共にフルに作用する。
【0037】
判定手段41により定められた車速以下と判定されたとき、
図5の実線で示すように、ペダル踏力が大きくなる程、モータ投入電流は大きくなるものの、ペダル踏力に対するモータ投入電流の傾きが前記通常時よりも低くなり、電動モータ2の作動が一定の割合で制限される。すなわち動作制限手段49は、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力に応じて、電動モータ2のモータ出力を定められた比率(b/a)で小さくする。
【0038】
図6は、この電動式ブレーキ装置の制御動作を段階的に示すフローチャートである。本処理開始後、ステップS1において、ブレーキ操作入力検出手段31aは、ブレーキペダル32の動作量に応じて変化するセンサ32a、または、油圧センサ48の出力があったか否かを検出する。いずれのセンサ出力も検出されなかったとき(ステップS1:NO)、ステップS1に戻る。
【0039】
センサ出力があったとき(ステップS1:YES)、車速検出手段44で車速を検出する(ステップS2)。次に、判定手段41は、検出される車速の閾値判定を行う(ステップS
3)。検出される車速Vが前記定められた車速(閾値)より大きいと判定されると(ステップS3:YES)、電動ブレーキの通常時の制御を実行し(ステップS4)、リターンする。ステップS3において、車速Vが閾値以下と判定されると(ステップS3:NO)、動作制限手段49により電動モータ2の作動を抑制する制御を行う(ステップS5)。その後リターンする。
【0040】
作用効果について説明する。
動作制限手段49は、判定手段41により車速Vが前記定められた車速以下であると判定されたとき、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力があっても電動モータ2の作動を抑制する。動作制限手段49は、前記定められた車速以下のとき、電動式ブレーキ装置A2の作動を抑えることで、減速機構3のバックラッシに起因する作動音を小さくすることができる。
【0041】
この場合、主に、液圧式ブレーキ装置A1が左右の前輪45,45に作動液圧による制動力を付与することで制動する。徐行時または停車中の制動力は、左右の前輪45,45のみで十分確保できるためである。このように、油圧式ブレーキ装置A1と電動式ブレーキ装置A2とが併用される車両において、電動式ブレーキ装置A2の作動音が目だってくる低速時や停止時の作動自体を抑えることによって、ブレーキの制動力にほとんど影響なく作動音を小さくすることができる。
【0042】
動作制限手段49は、定められた車速以下のとき、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力に応じて、電動モータ2のモータ出力を定められた比率で小さくする。この場合、ブレーキ操作に応じて、液圧式ブレーキ装置A1による制動力と電動式ブレーキ装置A2による制動力との比率を木目細かく調整することができる。したがって、運転者のブレーキ操作時の操作フィーリングに違和感がないようにできる。
【0043】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0044】
図7に示すように、動作制限手段49は、判定手段41により前記定められた車速以下であると判定されたとき、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力があっても、電動モータ2のモータ出力が定められた値を超えないように制限しても良い。このようにペダル踏力に対してモータ投入電流の上限をカットする場合、徐行時または停車中において、電動式ブレーキ装置A2の作動音をより確実に小さくすることができる。
【0045】
図8に示すように、動作制限手段49は、判定手段41により前記定められた車速以下であると判定されたとき、ブレーキ操作入力検出手段31aのブレーキ操作入力があっても、電動モータ2のモータ出力を「零」としても良い。この場合、液圧式ブレーキ装置A1,A1のみによって左右の前輪45,45を制動することができ、また制御装置9の演算処理負荷の軽減を図ることができる。
【0046】
液圧式ブレーキ装置A1は、電動式ブレーキ装置A2の制限された制動力の分だけ増幅させる作動をするものとしても良い。このように電動式ブレーキ装置A2が制限された場合であっても、その制限された分、液圧式ブレーキ装置A1を増幅させて作動することで、総制動力を維持することができる。
車速検出手段44は、例えば、車輪に連動する原動機から前記車輪までの回転装置(例えば、ディファレンシャルやハブベアリング)の回転を検出する回転センサを適用しても良い。車速検出手段44として加速度センサを適用し、この加速度センサで検出される加速度を積分して車速を求めても良い。また車速検出手段44として、全地球測位システム(GPS)センサを適用し、このセンサにより得られるこの車両の位置および時間の変化から車速を演算しても良い。
左右の前輪45,45に電動式ブレーキ装置A2,A2を適用し、左右の後輪43,43に液圧式ブレーキ装置A1,A1を適用しても良い。
【符号の説明】
【0047】
2…電動モータ
3…減速機構
4…直動機構
9…制御装置
31a…ブレーキ操作入力検出手段
39…回転角度センサ
41…判定手段
42…制動力負荷機構
43…後輪
45…前輪
49…動作制限手段
A1…液圧式ブレーキ装置
A2…電動式ブレーキ装置