(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶液が投入される装置本体と、該装置本体内に設けられ、当該溶液から溶質を晶析させるための晶析反応部と、前記装置本体内に設けられ、前記晶析反応部にて析出した溶質粒子が種晶表面に結晶化して形成される固形物粒子を溶液から沈降分離するための沈殿部と、該沈殿部と前記晶析反応部を仕切る円筒体とを具備し、
前記装置本体は、該装置本体内の上部に設けられた大径部、前記装置本体内の下部に設けられた小径部、及び、該小径部と前記大径部との間に形成された縮径部を有し、前記円筒体は、前記装置本体の前記大径部及び前記縮径部の内側に配設され、前記円筒体の下端部は、前記装置本体の前記小径部と前記縮径部との境界部分の近傍まで延在し、前記円筒体の下端部と前記装置本体の前記境界部分との間に形成される連絡開口部を介して、前記晶析反応部と前記沈殿部とは連通しており、
前記円筒体は、前記連絡開口部の開口面積を変化させる方向に移動可能であり、
前記円筒体が、周方向に回転可能であることを特徴とする晶析装置。
【背景技術】
【0002】
晶析装置は、例えば、アルミサッシ等の製造過程で排出されるアルカリエッチング廃液からアルミニウムを水酸化アルミニウムとして分離・除去してアルカリを回収する場合、フッ素を含む廃水からフッ素をフッ化カルシウムとして固定化・回収する場合、下水などからリン酸をリン酸ヒドロキシアパタイトやMAP(リン酸マグネシウムアルミニウム)として回収する場合などに用いられている。さらに、晶析装置は、石膏、硫酸ナトリウムなどの無機化合物や、アジピン酸、ペンタエリトリトールなどの有機化合物といった多くの様々な種類の物質や粒子を製造する場合、または、回収する場合にも使用されている。
【0003】
従来の晶析装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。この従来の晶析装置は、
図5に示すように、溶液から溶質を析出させるための晶析槽20と、この晶析槽20で析出した固形物粒子を沈降分離するための沈殿槽30を備えており、この目的の異なった2種類の水槽(晶析槽と沈殿槽)は移送配管40および返送配管41を介して連結されている。
【0004】
晶析槽20は、円筒状の槽であり、その内部には、下方向に拡径するドラフトチューブ21が配設されている。ドラフトチューブ21内には、溶液に下降流を生じさせる撹拌機22が配設されている。この下降流は、ドラフトチューブ21の下端部まで達した後に晶析槽20の底部で反転するため、ドラフトチューブ21と晶析槽20との間で上昇流となる。このため、溶液は、ドラフトチューブ21を上下方向に循環する。なお、この晶析槽20には、必要に応じて、溶液の温度を制御するための温度制御器(図示せず)が設けられている。
【0005】
沈殿槽30は、略円錐状の底部を有する槽であり、その内部には、固形分を集泥する掻寄機31が配設されている。また、沈殿槽30の上部内側には、溶液から固形物粒子を沈降分離して生成される上澄み液を受け入れる越流堰32が設けられており、この越流堰32には、越流した上澄み液を沈殿槽30外に排出するための上澄液排出管33が接続されている。
【0006】
移送配管40は、晶析槽20内で晶析反応が進行した溶液を沈殿槽30内に移送し、また、返送配管41は、沈殿槽30内で沈降して濃縮された固形物懸濁液を晶析槽20へ返送する。返送配管41には、ポンプ42及びバルブ43が設けられ、ポンプ42とバルブ43との間の移送配管41には、固形物懸濁液を次工程へ送るための分岐管44が設けられている。分岐管44には、バルブ45が設けられている。
【0007】
このような従来の晶析装置では、投入された溶液の種類などに応じて、晶析槽20内に反応剤等の薬剤の添加が行われ、その晶析槽20内の固形物懸濁液が移送配管40を介して沈殿槽30へ移送される。その沈殿槽30で沈降分離させて得られた上澄み液は、後処理や再利用のための次工程へ移送されるか、あるいは、系外へ排出される。また、沈降分離によって沈殿したスラリー状の固形物懸濁液は、沈殿槽30から引き抜かれ、その一部は、種晶として、返送配管41を介して常に晶析槽20へ戻されて晶析反応に再利用され、残りは、必要に応じて、分岐管42を介して脱水工程等の次工程に送られて固形物の脱水ケーキとして回収されるのが一般的である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による晶析装置の全体構成を示す部分断面図であり、
図2は
図1のA部を拡大して示す断面図であり、
図3は
図1に示した晶析装置の全体構成を、円筒体を上昇させた状態で示す部分断面図であり、
図4は
図3のA´部を拡大して示す断面図である。
【0020】
この実施の形態1による晶析装置は、水平面(図示せず)上に設置され、且つ溶液が投入される装置本体1と、この装置本体1内に投入された溶液から溶質を晶析させるための晶析反応部2と、この晶析反応部2にて析出した溶質粒子が種晶表面に結晶化して形成される固形物粒子を溶液から沈降分離するための沈殿部3と、この沈殿部3と晶析反応部2を仕切る円筒体4とから概略構成されている。
なお、晶析装置で処理される溶液としては、例えば、アルミサッシ等の製造過程で排出されるアルカリエッチング廃液、フッ素を含む廃水、リン酸を含む下水が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、晶析反応可能な溶液であれば、いかなるものであってもよい。
【0021】
装置本体1は、
図1及び
図3に示すように、円形状の天板部1aと、この天板部1aの中心軸と同軸に配設され、且つ天板部1aより小径の底部1bと、天板部1a側の上部に設けられた円筒状の大径部1cと、底部1b側の下部に設けられた円筒状の小径部1dと、この小径部1dと大径部1cとの間に形成された縮径部1eを備えた略円筒状の水槽である。この装置本体1の上部から下部に向けて形成された大径部1c、縮径部1e及び小径部1dは、いずれも天板部1a及び底部1bの中心軸と同軸になるように構成されている。なお、縮径部1eにおける傾斜角度は、例えば、沈殿部3内で沈降した固形物を晶析反応部2へ自然流下させる点を考慮して、垂直面に対して30度以下であることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0022】
円筒体4は、装置本体1の大径部1c及び縮径部1eの内側に配設されている。円筒体4の上端部4aは、装置本体1の天板部1aから上方に突出し、円筒体4の下端部4bは、装置本体1の小径部1dと縮径部1eとの境界部分の近傍まで延在している。円筒体4の内側は、晶析反応部2となっており、円筒体4と装置本体1の大径部1cおよび縮径部1eとの間は、沈殿部3となっている。また、円筒体4の下端部4bと、この下端部4bが近接する装置本体1の小径部1dと縮径部1eとの境界部分との間には、晶析反応部2と沈殿部3とを連絡する連絡開口部5が形成されており、この連絡開口部5を介して、晶析反応部2と沈殿部3とは、溶液が通過できるように、連通している。なお、連絡開口部5の開口面積は、円筒体4の径寸法と、円筒体4の下端部4bと上記境界部分との離間距離により決まるため、後述の位置設定手段(図示せず)によって当該離間距離を変えることで、連絡開口部5の開口面積を変化させることが可能である。
【0023】
また、円筒体4は、位置設定手段(図示せず)によって装置本体1内の所定位置に保持されるように吊り下げられ、且つ、必要に応じて、その所定位置から、例えば垂直上方向又は垂直下方向に移動できるように構成されている。位置設定手段(図示せず)は、装置本体1内の所定位置に円筒体4を保持することで、連絡開口部5の開口面積を維持し、また、必要に応じて、円筒体4を上下方向に移動させることで、円筒体4の下端部4bと上記境界部分との離間距離を変えて、連絡開口部5の開口面積を変化させることができる。このため、位置設定手段(図示せず)によって、連絡開口部5の開口面積を最適な範囲に設定することができる。例えば、沈殿部3内で沈降分離された固形物によって連絡開口部5及びその近傍にスケール(堆積物)が形成される前など、適切なタイミングで、連絡開口部5の開口面積を広くすることで、沈殿部3内で沈降分離された固形物を、連絡開口部5を介して、晶析反応部2の底部1bに流下させることができるとともに、連絡開口部5の閉塞を防止することができる。位置設定手段(図示せず)としては、例えば、ジャッキ装置やチェーンブロックを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
晶析反応部2には、円筒体4の内側に、垂直下方向に拡径するドラフトチューブ6が配設されている。ドラフトチューブ6の上端部は、装置本体1内の溶液の液面よりも下側になるように設定されており、その下端部は、装置本体1の底部1b近傍まで延在するように設定されている。このため、ドラフトチューブ6の上端部と液面との間、及び、下端部と装置本体1の底部1bとの間には、それぞれ、溶液が流通可能となる流路が形成されている。
【0025】
また、晶析反応部2には、撹拌機7が設けられている。撹拌機7は、ドラフトチューブ6の上部内側に回転可能に配設された撹拌羽根7aと、この撹拌羽根7aを支持する回転軸7bと、装置本体1の天板部1aの中心部に配設され、回転軸7bを回転させる回転モータ7cとから概略構成されている。この撹拌機7は、撹拌羽根7aを回転させることによって、ドラフトチューブ6内の溶液に下降流を生じさせ、この下降流がドラフトチューブ6の下端部まで達した後に装置本体1の底部1bで反転するため、ドラフトチューブ6と円筒体4との間の晶析反応部2に上昇流を生じさせることができる。この上昇流は、
図2に示すように、円筒体4の内側の晶析反応部2をそのまま上昇する主流と、この主流の一部が、連絡開口部5を介して沈殿部3へ流入する分岐流とに分かれる。このような撹拌機7は、例えば、回転モータ7cを、撹拌羽根7aの回転数を制御できる軸流式のものとしてもよい。この場合、撹拌羽根7aの回転数を増減させることで、さらに晶析反応部2から連絡開口部5を介して沈殿部3への分岐流の溶液量を適当に制御することもできる。
【0026】
なお、撹拌機7の撹拌羽根7aの回転数の制御と、上述した位置設定手段(図示せず)による円筒体4の移動量を連動させるように構成してもよい。この場合、例えば、撹拌羽根7aの回転数を増加させながら、必要に応じて、円筒体4の上方向への移動量を増加させて連絡開口部5の開口面積を広くすることにより、晶析反応部2から連絡開口部5を介して沈殿部3への分岐流の溶液量を一時的に増加させることができる。この分岐流の溶液量の一時的な増加によって、連絡開口部5やその近傍に堆積する可能性のある固形物を除去し、沈殿部3内の上方へ押し戻すことができるので、連絡開口部5へのスケーリングの形成を防止して、連絡開口部5の閉塞を防止することができる。このとき、固形物の押戻しによって、沈殿部3では、一時的に沈降分離に乱れが生じるが、固形物の押戻しの停止後、時間の経過と共に、沈降分離が回復する。
【0027】
沈殿部3内には、装置本体1の大径部1cの内側に、晶析反応部2にて析出した溶質粒子が種晶表面に結晶化して形成される固形物粒子を溶液から沈降分離して生成される上澄み液を受け入れる越流堰8が設けられており、この越流堰8には、越流した上澄み液を装置本体1外に排出するための上澄液排出管9が接続されている。なお、上澄み液は、例えば、溶液がアルミサッシ等の製造過程で排出されるアルカリエッチング廃液である場合、アルカリ液として回収され、再利用される。
【0028】
装置本体1の天板部1aには、溶液を晶析反応部2内へ投入するための溶液投入口(図示せず)と、投入される溶液の種類によって必要となる反応剤を晶析反応部2内へ投入するための反応剤投入口(図示せず)が設けられている。なお、反応剤の投入が必要となる溶液としては、例えば、リン酸を含む溶液である。一方、アルミサッシ等の製造過程で排出されるアルカリエッチング廃液など、アルミニウムを溶質として含有する溶液である場合には、反応剤の投入は必要ない。
【0029】
装置本体1の底部1b近傍の小径部1dには、晶析反応部2における晶析反応の進行に伴って生成される固形物懸濁液を排出し、例えば、脱水工程へ移送するための懸濁液排出管10が設けられており、この懸濁液排出管10には、固形物懸濁液の排出量を調整するバルブ11が備えられている。このバルブ11の開閉タイミングは、固形物懸濁液中の固形物濃度などによって適宜決められることが望ましい。
【0030】
また、上述した晶析装置には、装置本体1に、溶液から溶質を晶析させるために、溶液の温度を所定温度に制御する温度制御器(図示せず)や溶液のpHを検出するpH検出器(図示せず)が備えられていてもよい。
溶液が、例えば、アルミサッシ等の製造過程で排出されるアルカリエッチング廃液など、アルミニウムを溶質として含有する溶液である場合、温度制御器(図示せず)によって、溶液の温度を、アルミニウムを固形物として析出させるのに適した温度に制御することができる。温度制御器(図示せず)としては、例えば、装置本体1内の溶液の温度を検出するための温度検出手段(図示せず)と、当該溶液を直接的又は間接的に加熱できるヒータ(図示せず)を備えていることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、溶液が、リン酸を含む下水など、リンを溶質として含有する溶液である場合、pH検出器(図示せず)を利用して溶液のpHを例えば8.0±0.2に調整することができる。なお、アルカリエッチング廃液である場合、当該廃液が苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を含み、pH14程度になっているため、pHを制御する必要はない。
【0032】
ここで、連絡開口部5の開口面積の調整について、さらに詳述する。
連絡開口部5の開口面積は、上述したように、円筒体4の下端部4bと上記境界部分との離間距離に応じて決まる。この離間距離は、晶析反応部2での晶析反応の進行具合と沈殿部3での沈降分離の進行具合とのバランスを維持するために確保すべき、連絡開口部5を通過する溶液の液量、つまり、晶析反応部2から沈殿部3への溶液の供給液量と、沈殿部3から晶析反応部2への沈殿物(種晶)の供給液量によって決められることが望ましい。
【0033】
晶析反応部2から沈殿部3への溶液の供給液量は、連絡開口部5を通過する上昇流の流速と、その通過時間によって決まる。上昇流の流速は、晶析反応部2内の軸流式の撹拌機7の回転数に決まる。このため、同じ回転数の条件下では、上記離間距離を短くして開口面積を小さくすれば、上昇流は速くなるものの、その上昇流による溶液の供給液量が減少し、逆に、当該離間距離を長くして開口面積を大きくすれば、上昇流は遅くなるものの、その上昇流による溶液の液量が増加する。このため、上昇流の流速は、沈殿部3での沈降分離に必要な液量の溶液を、晶析反応部2から沈殿部3へ供給できる程度の下限速度と、沈殿部3での沈降分離を妨げず、且つ晶析反応部2での晶析反応に支障が生じない程度の上限速度との範囲で適宜選択される。上昇流の流速が下限速度を下回ると、溶液の供給液量が少なくなりすぎて、沈殿部3内で沈降分離される液量が不足し、沈降分離を有効に行うことができなくなるため、処理効率が低下するという不都合が生じる。一方、上昇流の流速が上限流速を上回ると、溶液の供給液量が多くなりすぎて、沈殿部3での沈降分離を妨げるとともに、その一方で、晶析反応部2での固形物の滞留時間(晶析反応時間)が短くなり、比較的小さな粒径にしか成長していない固形物が沈殿部3へ移行してしまうため、晶析反応部2での晶析反応を十分に進行させることができなくなるという不都合が生じる。この場合の通過時間は、上述した事情を考慮したときに過不足のない供給液量で、溶液を晶析反応部2から沈殿部3へ送るのに必要な時間であり、晶析反応部2での晶析反応の段階や沈殿部3での沈降分離の状況に応じて適宜決められることが望ましい。
【0034】
また、沈殿部3から晶析反応部2への沈殿物(種晶)の供給液量は、晶析反応部2へ自然流下する沈殿物(種晶)の液量に相当する液量であることが望ましい。この場合、沈殿物(種晶)の粒径や性状を考慮した上で、沈殿物(種晶)を通過させることができる程度に連絡開口部5の開口面積を確保することが求められる。例えば、沈殿物(種晶)の粒径が上記離間距離寸法よりも大きい場合や沈殿物(種晶)の粘性が高い場合には、必要に応じて、連絡開口部5の開口面積を広くするように調整する。
【0035】
次に、動作について説明する。
先ず、溶液は、溶液投入口(図示せず)から装置本体1内の晶析反応部2内に投入されると、晶析反応部2と沈殿部3が連絡開口部5を介して連通されているため、その連絡開口部5を介して、沈殿部3内にも流入する。
【0036】
次に、撹拌機7を駆動して撹拌羽根7aを回転させることで、晶析反応部2内の溶液を撹拌する。溶液は、
図1及び
図3に示すように、ドラフトチューブ6内で下降流となり、
図1乃至
図3に示すように、ドラフトチューブ6と円筒体4との間の晶析反応部2内で上昇流となり、ドラフトチューブ6の上端部まで達したところで、ドラフトチューブ6内に流入して、再び、下降流となる。このため、溶液の流れは、ドラフトチューブ6を上下方向に周回する循環流となる。この循環流のうち、上昇流の一部は、連絡開口部5を介して、晶析反応部2から沈殿部3内へ流入する。沈殿部3内では、溶液中の固形物が沈降分離され、その沈殿部3で沈降した固形物は、連絡開口部5を介して、晶析反応部2へ自然流下する。
【0037】
晶析反応部2での反応初期段階では、溶液中の固形物には未だ粒径が小さなものが多いため、固形物の比重は小さい。この溶液を晶析反応部2から沈殿部3内へ流入させても、沈殿部3において、固形物は比較的沈降させづらい場合が多い。このような状況では、沈殿部3での固液分離がうまく進まず、上澄液排出管9から、上澄み液とともに固形物の一部が流出して、固形物の回収率の低下や次工程での悪影響を招く可能性がある。
【0038】
このような場合、円筒体4を装置本体1の内壁(小径部1dと縮径部1eとの境界部分)に近づけるよう下方向に移動させて晶析反応部2と沈殿部3の連絡開口部5の開口面積を小さくすることによって、晶析反応部2から沈殿部3への上昇流による溶液の液量を絞り、種晶が沈殿部3内に流入するのを防いで、種晶を晶析反応部2の中にとどませることができ、晶析反応時間を延ばすことができる。
このようにすることで、晶析反応部2での結晶化を進めて種晶粒度を大きくすることができる。種晶粒度が大きくなってきたら、連絡開口部5を徐々に広くした上で、その連絡開口部5を介して、種晶を含む固形物を晶析反応部2から沈殿部3へ導くことで、沈殿部3において、良好に沈降分離を行うことができる。そして、沈殿部3にて沈降分離して得られた沈殿物は、上述したように、
図4に示すように、連絡開口部5を通って晶析反応部2へ自然流下させ、種晶として機能する。一方、沈降分離後の上澄み液は、沈殿部3から越流堰8をオーバーフローして上澄液排出管9を通って次工程に移送される。
【0039】
また、長期にわたる晶析反応においては、晶析反応部2と沈殿部3を連通する連絡開口部5及びその近傍のところに析出した溶質が徐々に蓄積してスケール(堆積物)になってしまうことが起こり得る。そのまま対策をせずに運転を継続すると、蓄積したスケール(堆積物)が徐々に大きく成長することによって、連絡開口部5の開口面積が徐々に減少してしまい、最悪の場合には、連絡開口部5を閉塞させてしまう可能性がある。
このような場合でも、
図3及び
図4に示すように、晶析装置を停止させることなく、晶析反応部2と沈殿部3を仕切っている円筒体4を引き上げることで、適度な連絡開口部5の開口面積を確保して、運転を継続していくことができる。
【0040】
実施の形態1による晶析装置によれば、装置本体1内に設けた円筒体4によって、装置本体1内に晶析反応部2と沈殿部3を設け、連結開口部5を介して、晶析反応部2と沈殿部3とを連通させた構成を有する。このため、例えば、
図5に示す従来の晶析装置における晶析槽20と沈殿槽30を連絡する配管(返送配管41や分岐管44)やバルブ(バルブ43やバルブ45)を省略し、且つ、実質的に晶析槽20と沈殿槽30の一体化が図られることになるので、晶析装置を小さくコンパクトに形成できて設備費のコスト削減ができる。つまり、従来の晶析装置における晶析槽20での晶析反応では、晶析槽20への流入液流量と、沈殿槽30から種晶として返送されてくる固形物流体(返送液)の流量を合わせた流量を考慮して実滞留時間(実晶析反応時間)を適正に定める必要があった。これに対して、この実施の形態1による晶析装置では、基本的に返送液流量を考慮する必要が無いため、流入液流量のみを考慮した実滞留時間(実晶析反応時間)を適正に定めることができる。このため、晶析反応部2をコンパクトにできる。その結果、装置全体をコンパクトにすることができるようになって経済的メリットを享受できるとともに、晶析装置の設置面積を小さくすことができるので、省スペース化を図ることができるようになる。
【0041】
実施の形態1による晶析装置では、上述したように、従来の晶析装置における晶析槽と沈殿槽との間の返送配管等の配管、バルブ及びポンプを用いる必要がない。このため、例えば、
図5に示す従来の晶析装置における沈殿槽30から晶析槽20へ、種晶の補給として固形物の一部を返送する過程において、固形物が返送配管41、分岐管44、バルブ43、45の内部にスケーリングしたり、閉塞したりするトラブルを解消でき、さらに、晶析槽20へ返送するためのポンプ42が固形物によって摩耗してしまい、ポンプ寿命が短くなるという欠点も解消できる。これらによって、晶析装置の運転費やメンテナンス費の削減に貢献できる。
また、実施の形態1による晶析装置では、晶析反応部2から引き抜く固形物懸濁液は、
図5に示す従来の晶析装置における沈殿槽30で沈降濃縮された固形物懸濁液よりも固形物濃度が低い。これにより、例えば、脱水工程行きの懸濁液排出管10やバルブ11などにおける閉塞やスケーリングのトラブルが起きにくいという副次的効果も得られる。
【0042】
さらに、実施の形態1による晶析装置では、連絡開口部5の開口面積を変化させることで、晶析反応部2から沈殿部3への溶液の移動量や沈殿部3から晶析反応部2への固形物の自然流下の流量を適切に制御することができる。
【0043】
なお、実施の形態1では、位置設定手段(図示せず)による円筒体4の移動方向を、垂直上方向又は垂直下方向とした場合を例として説明したが、連絡開口部5の開口面積を必要な開口面積に変化させることができるのであれば、垂直上方向又は垂直下方向に限定されるものではない。例えば、円筒体4を斜め上方又は斜め下方に移動させることで、結果として、螺旋方向に移動させてもよい。この場合、位置設定手段(図示せず)に、円筒体4をその周方向に回転させる手段を付加した上で、円筒体4を螺旋方向に移動させることで、連絡開口部5に形成される可能性のあるスケール(堆積物)に対してせん断力を付与することができるので、スケールの分解や剥離を促進し、スケールをさらに効率よく除去することができる。
【0044】
実施の形態1では、懸濁液排出管10を装置本体1の小径部1dに設けた構成を例として説明したが、この構成に代えて、沈殿部3の下部に懸濁液排出管10を設けてもよい。沈殿部3の下部に懸濁液排出管10を設けた場合、沈殿部3内から固形物懸濁液を排出することができる。あるいは、装置本体1の底部1b近傍の小径部1dに設けた懸濁液排出管10に、沈殿部3の下部からの分岐管(図示せず)を接続した構成としてもよい。このような分岐管(図示せず)を設けた場合、装置本体1の底部1b及び沈殿部3の下部の両方から固形物懸濁液を排出することができる。
【0045】
実施の形態1による晶析装置は、一つの独立した一槽式の晶析装置であるが、このような構成の晶析装置を、必要に応じて、二つ以上配置して、全体として一つの晶析システムを構築してもよい。このような晶析システムでは、各晶析装置において、それぞれ、晶析反応及び沈降分離を行うことができるので、単体の晶析装置よりも多量の溶液を並列的に処理することができる。各晶析装置で得られた固形物懸濁液は、共通の経路を経て、脱水工程等の次工程へ送られる。なお、この晶析システムには、必要に応じて、各晶析装置内の晶析反応部2内の温度やpHを同一条件にするため、温度やpH等の条件を制御するための制御装置(図示せず)を備えてもよい。また、この晶析システムでは、各晶析装置を互いに横置き又は縦置きにしてもよく、あるいは横置きと縦置きを組み合わせてもよい。このような配置構成は、晶析システムの設置面積や設置状況などに応じて適宜選択されることが望ましい。ここでいう設置状況とは、例えば、設置面が階上と階下に分かれている場合をいうものとする。
【0046】
本発明に係る晶析装置の実施態様は、以下のとおりである。
(1)溶液が投入される装置本体と、該装置本体内に設けられ、当該溶液から溶質を晶析させるための晶析反応部と、前記装置本体内に設けられ、前記晶析反応部にて析出した溶質粒子が種晶表面に結晶化して形成される固形物粒子を溶液から沈降分離するための沈殿部と、該沈殿部と前記晶析反応部を仕切る円筒体とを具備し、
前記装置本体は、該装置本体内の上部に設けられた大径部、前記装置本体内の下部に設けられた小径部、及び、該小径部と前記大径部との間に形成された縮径部を有し、前記円筒体は、前記装置本体の前記大径部及び前記縮径部の内側に配設され、前記円筒体の下端部は、前記装置本体の前記小径部と前記縮径部との境界部分の近傍まで延在し、前記円筒体の下端部と前記装置本体の前記境界部分との間に形成される連絡開口部を介して、前記晶析反応部と前記沈殿部とは連通していることを特徴とする晶析装置。
(2)前記円筒体は、前記連絡開口部の開口面積を変化させる方向に移動可能であることを特徴とする実施態様項(1)に記載の晶析装置。
(3)前記円筒体の移動方向は、垂直方向であることを特徴とする実施態様項(2)に記載の晶析装置。
(4)前記装置本体内の前記晶析反応部に設けられ、垂直下方向に拡径するドラフトチューブと、該ドラフトチューブ内に下降流を生じさせ、且つ該ドラフトチューブ外に上昇流を生じさせる撹拌機を具備したことを特徴とする実施態様項(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の晶析装置。
(5)前記撹拌機は、撹拌羽根の回転数の制御が可能な回転モータを有する軸流撹拌機であることを特徴とする実施態様項(4)に記載の晶析装置。
(6)前記装置本体は、溶液の温度を制御する温度制御器を備えていることを特徴とする実施態様項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の晶析装置。
(7)前記装置本体に投入される溶液は、溶質としてアルミニウムを含有するものであることを特徴とする実施態様項(6)に記載の晶析装置。
(8)前記装置本体は、溶液のpHを検出するpH検出器を備えていることを特徴とする実施態様項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の晶析装置。
(9)前記装置本体に投入される溶液は、溶質としてリンを含有するものであることを特徴とする実施態様項(8)に記載の晶析装置。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
以下の実施例1及び比較例1では、いずれも、アルミサッシ製造におけるエッチング工程から排出されるアルカリエッチング廃液を処理対象液とし、これに対して晶析反応を行って、そのエッチング廃液中に溶解しているアルミニウムイオンを水酸化アルミニウムの固形物として沈降分離した。
なお、実施例1及び比較例1において、T−NaOHとは、溶液中の全Na成分をNaOHに換算して表したトータル(全)苛性ソーダ濃度をいい、T−Alとは、晶析した水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)分を除いた、溶液中のトータル(全)アルミニウム濃度をいう。ここで、T−Alにおいて、晶析した水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)分を除いた理由は、仮に除かなければ、晶析した水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)分をT−Alにも含めることになるため、その分が重複するからである。これらのT−NaOH及びT−Alは、周知の中和滴定法により求めた。
このため、流入液T−NaOHとは、流入液中のトータル(全)苛性ソーダ濃度をいい、流入液T−Alとは、流入液中のトータル(全)アルミニウム濃度をいい、上澄み液T−NaOHとは、上澄み液中のトータル(全)苛性ソーダ濃度をいい、上澄み液T−Alとは、上澄み液中のトータル(全)アルミニウム濃度をいう。
【0049】
比較例1.
この比較例1では、
図5に示す従来の晶析装置の実設備を用いた。但し、この実設備は、4槽の晶析槽20と1槽の沈殿槽30を有するタイプのものである。この実設備における、各晶析槽20の最大直径は4.5mであり、その設置面積は15.9m
2であり、沈殿槽30の最大直径は8.6mであり、その設置面積は58.1m
2であった。このため、実設備の総設置面積は、配管やバルブ等の設置面積を除くと、121.7m
2であった。
比較例1における運転条件として、エッチング廃液の晶析槽20への単位時間当たりの流入液量を25m
3/時間とし、固形物懸濁液の沈殿槽30から各晶析槽20への単位時間当たりの返送液量を12.5m
3/時間とした。このため、晶析槽20への単位時間当たりの全流入液量は37.5m
3/時間となった。また、流入液T−NaOHは111g/Lであり、流入液T−Alは29g/Lであった。なお、運転開始時に、必要な種晶を晶析槽20内に投入した。
比較例1では、上記の運転条件下、連続運転して、晶析槽20内のエッチング廃液を50℃の液温に維持しながら、晶析反応及び沈降分離を行った。沈殿槽30内の上澄み液T−NaOHは112g/Lであり、上澄み液T−Alは20g/Lであった。また、晶析槽20内での固形物濃度は120g/Lであり、沈殿槽30内での固形物濃度は240g/Lであった。
このような結果から、比較例1では、沈殿槽30内の上澄み液中に、流入液よりも高濃度のNaOHと流入液よりも低濃度のアルミニウムを含めることができたことから、十分にアルカリを回収し、且つアルミニウムを効率よく沈降分離することができたことが分かった。また、比較例1では、晶析槽20内の液中の固形物濃度よりも沈殿槽30内の液中の固形物濃度が格段に高いことも分かった。
【0050】
実施例1.
この実施例1では、
図1乃至
図4に示す本発明の実施の形態1による晶析装置と同一構成を有し、且つ当該晶析装置の実設備のサイズより小型の晶析装置(以下、小型試験機という)を用いた。この小型試験機の最大直径は1.2mであった。
実施例1では、比較例1と同一のアルカリエッチング廃液及び種晶を用いたが、この実施例1で用いた小型試験機では、比較例1で用いた従来の晶析装置の実設備と完全に同一の条件で、晶析反応及び沈降分離を行うことができない。このため、小型試験機におけるエッチング廃液の晶析反応部2への単位時間当たりの全流入液量を、比較例1の場合の1000分の1に設定し、0.0375m
3/時間とした。そして、実施例1では、その全流入液量以外の運転条件を比較例1と同様にし、液温50℃のエッチング液に対して、晶析反応及び沈降分離を行った。なお、実施例1では、必要に応じて、晶析反応部2と沈殿部3とを連通させる連絡開口部5の開口面積を変化させた。
【0051】
実施例1では、上記の運転条件下、連続運転したところ、上澄み液T−NaOH及び上澄み液T−Alは比較例1と同程度であり、また、晶析反応部2内での固形物濃度は比較例1における晶析槽20内での固形物濃度と同程度であった。なお、沈殿部3内での固形物濃度を測定していないが、沈殿部3内の固形物懸濁液は連絡開口部5を介して晶析反応部2内に自然流下するため、沈殿部3内での固形物濃度は晶析反応部2内での固形物濃度と同程度であると考えられる。
このような結果から、実施例1でも、比較例1と同様に、沈殿部3内の上澄み液中に、流入液よりも高濃度のNaOHと流入液よりも低濃度のアルミニウムを含めることができたことから、十分にアルカリを回収し、且つアルミニウムを効率よく沈降分離することができたことが分かった。つまり、実施例1で用いた小型試験機でも、比較例1で用いた従来の晶析装置の実設備と遜色のない処理性能が得られることが分かった。その一方で、実施例1では、比較例1における沈殿槽30内の高濃度の固形物懸濁液が発生することがない。
【0052】
次に、上述したように、実施例1で用いた小型試験機と比較例1で用いた従来の晶析装置の実設備とが略同様の処理性能を有することができるので、従来の晶析装置の実設備に代えて、本発明の実施の形態1による晶析装置を用いることができる。
そこで、実施例1で用いた小型試験機のサイズを、比較例1で用いた従来の晶析装置の実設備における全流入液量(37.5m
3/時間)を受け入れることが可能なレベルまで拡大し、実設備として使用可能な晶析装置を設計した。この晶析装置の実設備は、実施の形態1による晶析装置を4槽有するタイプのものである。この4槽タイプの晶析装置(晶析システム)の総設置面積は、101.4m
2であった。この晶析システムの総設置面積は、比較例1で用いた従来の晶析装置の実設備の総設置面積(121.7m
2)の約83%に相当し、従来よりも約17%もの削減を達成できることが分かった。
【0053】
なお、このような総設置面積の比較では、従来の晶析装置の実設備における配管やバルブ等の設置面積を除いたため、これらの配管やバルブ等の設置面積を上記総設置面積の比較に加味していない。そこで、加味した場合を検討すると、4槽タイプの晶析システムの総設置面積は、従来の晶析装置の実設備の総設置面積よりも約20%以上も省スペース化を図ることができ、コンパクトに、且つ安価に製造できるといえる。