【課題を解決するための手段】
【0029】
これらの目的は、本発明に従って、式F(CF
2)
y−(CH
2−CH
2O)
x+1H(VIII)(式中、yは10以下の整数であり、そしてy=6である式(VIII)の化合物が、組成物、好ましくは液体溶液に存在する式(VIII)の化合物の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、そしてより好ましくは100重量%を占め、xは1〜14の範囲の整数である)に相当する少なくとも1種の界面活性剤を含有する組成物、好ましくは液体溶液を光学物品上に適用することによって達成されてもよい。
【0030】
別の実施形態において、式(VIII)のxは2〜14の整数である。この記載は、以下、式(VIII)のxが1〜14の整数である実施形態に関して詳述されるが、以下の記載及び全ての記載される好ましい特徴は、式(VIII)のxが2〜14の整数である実施形態にも適用される。
【0031】
明細書の残りにおいて、界面活性剤液体溶液に関する実施形態がさらに詳細に記載される。
【0032】
好ましくは、yが6より大きい式(VIII)の化合物は、組成物に存在する化合物(VIII)の重量に対して、5重量%未満、好ましくは2重量%未満、そしてより好ましくは0重量%の量で存在する。好ましくは、液体溶液は、式VIII以外の界面活性剤を含まない。
【0033】
別の実施形態において、界面活性剤含有組成物は、y=10である式(VIII)のいずれの化合物も含まない。
【0034】
好ましくは、xが1〜4の範囲である式(VIII)の化合物は、組成物に存在する化合物(VIII)の重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%の量で存在する。
【0035】
好ましくは、xが1〜5の範囲である式(VIII)の化合物は、組成物に存在する化合物(VIII)の重量に対して、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%の量で存在する。
【0036】
当業者に周知であるように、(x、y)対によって定義された各フラクションに相当する重量は、質量分析と組み合わせたHPLCによって決定されてもよい。
【0037】
したがって、本発明は、第1のコーティングと、この第1のコーティングと直接接触する防曇コーティング前駆体コーティングとが提供された基材を含んでなる光学物品、好ましくは眼鏡用レンズであって、防曇コーティング前駆体コーティングが、
− 少なくとも1種のオルガノシラン化合物であって
○ ポリオキシアルキレン基と、
○ 少なくとも1個の加水分解性基を有する少なくとも1個のケイ素原子と
を有する、少なくとも1種のオルガノシラン化合物のグラフト化によって得られ、
− 好ましくは5nm以下の厚さを有し、
− 好ましくは10°より大きく、そして50°未満の水に対する静的接触角を有し、
そして上記で定義されたような組成物、好ましくは界面活性剤液体溶液を適用し、そして好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下の水に対する静的接触角を有する防曇コーティングを形成することによって得られるフィルムによってさらにコーティングされることを特徴とする、光学物品、好ましくは眼鏡用レンズに関する。
【0038】
本願において、基材/コーティング「上」であるか、又は基材/コーティング「上へ」堆積されたコーティングは、(i)基材/コーティングより上に配置され、(ii)基材/コーティングと必ずしも接触しているわけではなく、すなわち、1種又は複数種の中間体コーティングが基材/コーティングと問題のコーティングとの間に配置されてもよく(しかしながら、好ましくは上記基材/コーティングと接触している)、そして(iii)基材/コーティングを必ずしも完全に被覆するわけではないコーティングとして定義される。「層1が層2の下に位置する」場合、層2は層1より基板から遠くなることが意図される。
【0039】
本明細書に使用される場合、「防曇コーティング」は、そのようなコーティングによってコーティングされた透明レンズ基板が、上記コーティングが存在しない上記基材上に曇りが生じる条件下に置かれた場合、即座に、コーティングされたレンズを通して観察している観察者が、5メートル離れたところに配置された視力スケールで、>6/10の視力に達することを可能にするコーティングを意味するものとして意図される。コーティングの防曇特性を評価するためのいくつかの試験は、実験項に記載される。曇りが生じる条件下で、防曇コーティングは、それらの表面で曇りを示さず(理想的なケースで視覚的歪がない、又は視覚的歪があるが、上記測定条件で>6/10の視力がある)、或いはそれらの表面で曇りを示し得るが、それでもなお、曇りによって生じる視力への妨害にもかかわらず、上記測定条件で>6/10の視力を可能にし得る。非防曇コーティングは、曇りをもたらす条件に暴露される場合に>6/10の視力を可能にせず、そして一般に上記測定条件で凝縮した曇りを示す。
【0040】
本明細書に使用される場合、「防曇光学物品」は、上記で定義される「防曇コーティング」が提供された光学物品を意味するものとして意図される。
【0041】
したがって、親水性コーティングである本発明による防曇コーティング前駆体は、例えば実験項に記載されるブレス試験によって観察され得るいくらの防曇特性を有するとしても、本発明による防曇コーティングであるものとみなされない。実際に、この防曇コーティング前駆体は、上記測定条件で>6/10の視力を得ることが不可能である。
【0042】
本明細書に使用される場合、一時的な防曇コーティングは、式(VIII)の界面活性剤を含有する液体溶液の、上記防曇コーティングの前駆体コーティングの表面での適用後に得られる防曇コーティングを意味するものとして意図される。一時的な防曇コーティングの耐久性は、一般に、その表面で実行される拭き取り作業によって制限され、界面活性剤分子は、コーティングの表面に永続的に付着しないが、多少永続的な様式で単純に吸着される。
【0043】
本発明に従って調製された光学物品は、前面及び背面主要表面を有する基板、好ましくは透明の基板を含んでなり、上記主要表面の少なくとも1つは、その表面、好ましくは両主要表面に、好ましくはシラノール基を含んでなるコーティングが提供される。本明細書に使用される場合、基板の「背面」(一般に凹)という用語は、物品が使用される時に、着用者の目により近い表面を意味することが意図される。反対に、基板の「前面」(一般に凸)という用語は、物品が使用される時に、着用者の目から遠い表面を意味することが理解される。
【0044】
本発明による物品は、スクリーン、自動車産業若しくは構造産業のための窓、又は鏡などの曇りの形成に遭遇し得るいずれの光学物品でもあってよいが、好ましくは光学レンズ、より好ましくは眼鏡用の眼用レンズ、又は光学若しくは眼用レンズのためのブランクである。
【0045】
これは、眼鏡レンズと対照的に曇り形成の課題に本質的に直面しない生きている組織と接触する眼内レンズ又はコンタクトレンズなどの物品を除く。
【0046】
本発明によると、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングを、裸の基板、すなわち、コーティングされていない基板の主要表面の少なくとも1面上、又はすでに1種若しくは複数種の官能性コーティングによってコーティングされた基板の主要表面の少なくとも1面上に形成してもよい。
【0047】
本発明による光学物品の基板は、鉱物又は有機ガラス、例えば、熱可塑性又は熱硬化性プラスチック材料であってよい。
【0048】
特に好ましい基板の種類には、ポリ(チオウレタン)、ポリエピスルフィド及びアルキレングリコールビスアリルカルボネートの重合又は(共)重合から生じる樹脂が含まれる。これらは、例えば、PPG Industries(ORMA(登録商標)lenses、ESSILORから)によって商標名CR−39(登録商標)で販売されている。
【0049】
いくつかの用途において、基板の主要表面が、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングの堆積の前に、1種又は複数種の官能性コーティングによってコーティングされることが好ましい。従来から光学部品で使用されているこれらの官能性コーティングは、限定されることなく、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティング、極性コーティング、フォトクロミックコーティング又は着色コーティング、特に耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性層によってコーティングされた耐衝撃性プライマー層であってよい。
【0050】
その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、好ましくは、耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティング上に堆積される。耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティングは、眼用レンズの分野で耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティングとして従来から使用されるいずれの層であってもよい。
【0051】
耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティングは、好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート又はシランをベースとする硬質コーティングであって、一般に、一度硬化されたコーティングの硬度及び/又は屈折率を増加させる意図の1種又は複数種の無機充填剤を含んでなる。本明細書に使用される場合、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートである。
【0052】
耐摩耗性コーティング及び/又は耐ひっかき性硬質コーティングは、好ましくは、少なくとも1種のアルコキシシラン、及び/又は例えば塩酸溶液による加水分解によって得られるそれらの加水分解物と、任意に縮合及び/又は硬化触媒及び/又は界面活性剤とを含んでなる組成物から製造される。
【0053】
本発明で推薦されるコーティングとしては、欧州特許第0614957号明細書、米国特許第4,211,823明細書及び米国特許第5,015,523号明細書に記載されるものなどのエポキシシラン加水分解物をベースとするコーティングが含まれる。
【0054】
耐摩耗性コーティング及び/又は耐ひっかき性コーティングの厚さは、一般に、2〜10μm、好ましくは3〜5μmで変化する。
【0055】
耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティングの堆積の前に、最終製品においてその後の層の耐衝撃性及び/又は接着力を改善するプライマーコーティングを基板上に適用することが可能である。
【0056】
このコーティングは、眼用レンズなどの透明なポリマー材料の物品に従来から使用されるいずれかの耐衝撃性プライマー層であることができる。
【0057】
好ましいプライマー組成物は、参照によって本明細書に組み込まれる国際公開第2011/080472号パンフレットに記載されるものから選択されてもよい。
【0058】
好ましいプライマー組成物は、ポリウレタンをベースとする組成物、並びにラテックス、特にポリウレタン型ラテックス及びポリ(メタ)アクリルラテックスをベースとする組成物、並びにそれらの組み合わせである。プライマー層は、一般に、硬化後に、0.2〜2.5μm、好ましくは0.5〜1.5μmの範囲の厚さを有する。
【0059】
ここで、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングを説明する。本明細書に使用される場合、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、本来その表面にシラノール基を有するコーティング、又は表面活性化処理の後にシラノール基が生じるコーティングを意味するものとして意図される。したがって、このコーティングは、シロキサン又はシリカをベースとするコーティング、例えば、限定されないが、シリカベース層、ソルゲルコーティング、アルコキシシランなどのオルガノシラン種をベースとするもの、又はシリカコロイドをベースとするコーティングである。好ましくはその表面にシラノール基を含んでなる第1のコーティングは、特に耐摩耗性及び/又は耐ひっかき性コーティングであってもよく、或いは、好ましい実施形態に従って、外層がその表面にシラノール基を有する単層反射防止コーティング又は多層反射防止コーティングであってよい。本明細書に使用される場合、コーティングの外層は、基板から最も遠い層を意味するものとして意図される。
【0060】
コーティングの表面においてシラノール基を生じさせるため、又はそれらの割合を少なくとも増加させるための表面活性化処理は、真空下で一般に実行される。これはエネルギー及び/又は反応実体による衝撃であってよく、例えば、イオンビーム(「Ion Pre−Cleaning」若しくは「IPC」)又は電子ビーム、コロナ放電処理、イオン破砕、UV処理、又は一般に酸素若しくはアルゴンプラズマを使用する真空下でのプラズマ処理であってよい。酸又は塩基表面処理及び/又は溶媒をベースとする処理(水、過酸化水素又はいずれかの有機溶媒)であってもよい。これらの処理のいくつかを組み合わせてもよい。
【0061】
本明細書に使用される場合、エネルギー種(及び/又は反応種)は、特に、1〜300eV、好ましくは1〜150eV、より好ましくは10〜150eV、さらにより好ましくは40〜150eVの範囲のエネルギーを有するイオン種を意味するものとして意図される。エネルギー種は、イオン又はラジカル、或いは光子又は電子などの種などの化学種であってよい。
【0062】
活性化処理は、酸又は塩基表面処理、好ましくは湿式処理、又は溶媒若しくは溶媒の組み合わせを使用する処理であってもよい。
【0063】
その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、好ましくは、シリカをベースとする(シリカを含んでなる)低屈折率層であり、一般に気相堆積によって得られるシリカ(SiO
2)をベースとする層からなる。
【0064】
上記シリカをベースとする層は、シリカに加えて、薄層を製造するために従来から使用される1種又は複数種の他の材料、例えば、本明細書に以下に記載される誘電体物質から選択される1種又は複数種の材料が含まれてもよい。このSiO
2をベースとする層は、好ましくはAl
2O
3を含まない。
【0065】
本発明者らは、層がシリカをベースとする層である場合、特に蒸発によって得られる場合、表面処理を実行することは必須ではないことを観察した。
【0066】
その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、好ましくは、少なくとも70重量%のSiO
2、より好ましくは少なくとも80重量%のSiO
2、なおより好ましくは少なくとも90重量%のSiO
2を含んでなる。上記のとおり、最も好ましい実施形態において、100重量%のシリカを含んでなる。
【0067】
その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、アルコキシシラン、例えばテトラエトキシシラン、又はオルガノシラン、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシランをベースとするソルゲルコーティングであってもよい。そのようなコーティングは、シラン加水分解物及び高(>1.55、好ましくは>1.60、より好ましくは>1.70)、又は低(≦1.55)屈折率を有する任意のコロイド状材料を含んでなる液体組成物を使用することによって、湿式堆積によって得られる。層がシランをベースとするハイブリッド有機/無機マトリックスを含んでなり、各層の屈折率を調節するためにコロイド状材料が分散される、そのようなコーティングは、例えば、仏国特許第2858420号明細書に記載される。
【0068】
本発明の一実施形態において、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、耐摩耗性コーティング上に堆積され、好ましくは、この耐摩耗性コーティング上に直接堆積されたシリカをベースとする層である。
【0069】
上記シリカをベースとする(シリカを含んでなる)層は、好ましくは、一般に化学蒸着によって得られるシリカをベースとする層である。これは、好ましくは500nm以下、より好ましくは5〜20nmの範囲、なおより好ましくは10〜20nmの範囲の厚さを有する。
【0070】
好ましくは、上記シリカをベースとする層の堆積は、典型的に5.10
−5〜5.10
−4mbarの範囲の圧力で圧力を調節することによって実行され、これは、堆積チャンバーに非イオン型の気体を添加すること、好ましくは酸素を添加することを意味する。
【0071】
最も好ましい実施形態である本発明の別の実施形態において、本発明による光学物品は、反射防止コーティングを含んでなる。そのようなコーティングが存在する場合、一般に、本発明の意味の範囲内のその表面にシラノール基を含んでなるコーティングを意味する。この反射防止コーティングは、光学分野、特に眼科光学の分野で従来から使用されるいずれかの反射防止コーティングであってよいが、ただし、その表面にシラノール基を含んでなることを条件とする。
【0072】
反射防止コーティングは、光学物品の表面に堆積されるコーティングとして定義され、最終光学物品の反射防止特性を改善する。これによって、可視スペクトルの比較的広い部分で物品−空気界面における光の反射を低下させることが可能となる。
【0073】
また周知であるように、反射防止コーティングは、従来は、誘電体物質から構成される単層又は多層スタックを含んでなる。これらは好ましくは多層膜コーティングであり、高い屈折率(HI)を有する層と低い屈折率(LI)を有する層を含んでなる。
【0074】
本願において、反射防止コーティングの層は、その屈折率が1.55より高い、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.8以上、なおより好ましくは2.0以上である場合、高い屈折率を有する層であると記載される。反射防止コーティングの層は、その屈折率が1.55以下、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.45以下である場合、低い屈折率を有する層であると記載される。特に明記されない限り、本発明で引用される屈折率は、550nmの波長において25℃で表される。
【0075】
HI及びLI層は当該技術において周知の従来の層であり、一般に1種又は複数種の金属酸化物を含んでなり、限定されないが、国際公開第2011/080472号パンフレットに開示される物質から選択されてよい。
【0076】
SiO
2及びAl
2O
3の混合物を含んでなるLI層が使用される場合、これは、この層のSiO
2+Al
2O
3全重量に対して、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%、そしてなおより好ましくは1〜5重量%のAl
2O
3を含んでなる。
【0077】
典型的に、HI層は10〜120nmの範囲の物理的厚さを有し、そしてLI層は10〜100nmの範囲の物理的厚さを有する。
【0078】
好ましくは、反射防止コーティングの全体の厚さは1ミクロン未満、より好ましくは800nm以下、なおより好ましくは500nm以下である。反射防止コーティングの全体の厚さは、一般に100nmより厚く、好ましくは150nmより厚い。
【0079】
なおより好ましくは、反射防止コーティングは、低屈折率(LI)を有する少なくとも2層及び高屈折率(HI)を有する少なくとも2層を含んでなる。好ましくは、反射防止コーティングの全体の層の数は8層以下、より好ましくは6層以下である。
【0080】
HI及びLI層は、反射防止コーティングにおいて交互になる必要はないが、本発明の一実施形態によると、交互になっていてもよい。2層(又は3層以上)のHI層が互いの上に堆積してもよく、同様に2層(又は3層以上)のLI層が互いの上に堆積してもよい。
【0081】
参照によって本明細書に組み込まれる国際公開第2011/080472号パンフレットに開示される方法のいずれか1つによって、反射防止コーティングの様々な層が堆積されてもよい。特に推薦される方法は、真空下での蒸発である。
【0082】
それらの表面にシラノール基を含んでなるコーティングが反射防止コーティングである場合、そのような反射防止コーティングでコーティングされる物品の視感反射率Rvは、好ましくは物品表面あたり2.5%未満である。そのようなRv値を達成する手段は、当業者に周知である。
【0083】
本願において、「視感反射率」は、ISO規格13666:1998において定義されるようなものであり、そしてISO 8980−4規格に従って測定され、すなわち、それは、380〜780nmの全可視スペクトル波長範囲内の分光反射率の加重平均である。
【0084】
その表面にシラノール基を含んでなるコーティング、例えば反射防止コーティングにおける防曇コーティングの前駆体形成の前に、防曇コーティングの前駆体の接着力を増加させることが意図された物理的又は化学的活性化処理をそのようなコーティングの表面に行うことが標準的である。これらの処理は、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングの活性化に関して上記されたものから選択されてよい。
【0085】
本発明によると、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングは、以下で説明される防曇コーティングの前駆体コーティングと直接接触する。
【0086】
本明細書に使用される場合、「防曇コーティングの前駆体」は、フィルムを形成するために界面活性剤含有液体溶液がその表面に適用される場合、本発明の意味の範囲内の防曇コーティングに相当するコーティングを意味するものとして意図される。前駆体コーティングと界面活性剤をベースとする溶液のフィルムの系は、そのような防曇コーティングに相当する。
【0087】
防曇コーティング前駆体コーティングは、好ましくは5nm以下、好ましくは4nm以下、より好ましくは3nm以下、そしてなおより好ましくは2nm以下の厚さを有し、好ましくは10°より大きく、50°未満の水に対する静的接触角を有し、ポリオキシアルキレン基と、少なくとも1個の加水分解性基を有する少なくとも1個のケイ素原子とを有する、少なくとも1種のオルガノシラン化合物の永続的なグラフト化によって得られるコーティングである。
【0088】
本発明の一実施形態において、コーティングは、ポリオキシアルキレン基と、少なくとも1個の加水分解性基を有する少なくとも1個のケイ素原子とを有するオルガノシラン化合物の加水分解物を含んでなる組成物を適用することによって堆積される。
【0089】
光学物品の表面上へのこれらの化合物のグラフト化を促進するため、そしてグラフト化の前にシロキサンプレポリマーの形成を制限するため、それらが可能な限りシラノール官能基を自由に反応させることを保つことができるように、加水分解されたオルガノシラン化合物のいずれの縮合も回避することが勧められる。このことは、堆積されるオルガノシラン化合物の厚さが薄いことの理由である。
【0090】
したがって、加水分解の後、比較的迅速に、典型的に、加水分解を実行した後(典型的にHClをベースとする酸性水溶液を添加することによって)、2時間未満、好ましくは1時間未満、より好ましくは30分未満以内で、組成物を適用することが勧められる。
【0091】
最も好ましくは、加水分解を実行した後、組成物は、10分未満、なおより好ましくは5分未満、そして好ましくは1分未満で適用される。
【0092】
熱を供給することなく、すなわち、典型的に20〜25℃の温度で、加水分解を実行することが好ましい。
【0093】
概して、数ナノメートルの厚さの層の堆積は、縮合動力学を遅くする非常に低い乾燥物質含有量の、非常に希釈された組成物を使用することが必要とされる。
【0094】
使用されるオルガノシラン化合物は、そのケイ素含有反応性基によって、堆積されるコーティングの表面に存在するシラノール基との共有結合を確立することが可能である。
【0095】
本発明のオルガノシラン化合物は、一端又は両端で、好ましくは一端で、少なくとも1個の加水分解性基を有する少なくとも1個のケイ素原子を含んでなる基によって官能化されたポリオキシアルキレン鎖を含んでなる。このオルガノシラン化合物は、好ましくは、少なくとも2個の加水分解性基、好ましくは3個の加水分解性基を有するケイ素原子を含んでなる。好ましくは、ウレタン基を含まない。好ましくは次式:
R
1Y
mSi(X)
3−m (I)
(式中、Y基は、同一であるか、又は異なって、炭素原子を介してケイ素原子に結合した一価の有機基であり、X基は、同一であるか、又は異なって、加水分解性基であり、R
1は、ポリオキシアルキレン官能基を含んでなる基であり、そしてmは0、1又は2に等しい整数である)の化合物である。好ましくはm=0である。
【0096】
X基は、好ましくは、アルコキシ基−O−R
3、特に、C
1〜C
4アルコキシ基、R
4がアルキル基、好ましくはC
1〜C
6アルキル基、好ましくはメチル又はエチルであるアシルオキシ基−O−C(O)R
4、Cl、Br及びIなどのハロゲン、又はトリメチルシロキシ(CH
3)
3SiO−、及びこれらの基の組み合わせから選択される。好ましくは、X基は、アルコキシ基、特にメトキシ又はエトキシ基、より好ましくはエトキシ基である。
【0097】
mがゼロでない場合に存在するY基は、好ましくは、飽和又は不飽和炭化水素基、好ましくはC
1〜C
10、より好ましくはC
1〜C
4基、例えば、メチル又はエチル基などのアルキル基、ビニル基又はアリール基、例えば、任意に置換されたフェニル基であって、特に1個又は複数個のC
1〜C
4アルキル基によって置換されたものである。好ましくは、Yはメチル基に相当する。
【0098】
好ましい実施形態において、式Iの化合物は、トリエトキシシリル又はトリメトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基を含んでなる。
【0099】
オルガノシラン化合物(R
1基)のポリオキシアルキレン基は、好ましくは、80個未満の炭素原子、より好ましくは60個未満の炭素原子、さらにより好ましくは50個未満の炭素原子を含んでなる。最も好ましくは、ポリオキシアルキレン基は、40個未満の炭素原子、より好ましくは30個未満の炭素原子を含んでなる。最も好ましい化合物は、5〜20個の炭素原子を含んでなるポリオキシアルキレン基を有する。R
1基は、好ましくは同一条件を満たす。
【0100】
R
1基は、一般に式−L−R
2に相当し、式中、Lは、炭素原子を介して式I又はIIの化合物のケイ素原子に結合した二価基であり、そしてR
2は、R
2基に含まれる酸素原子を介してL基に結合した1個のポリオキシアルキレン基を含んでなる基である。L基の非限定的な例には、直鎖又は分枝状の任意に置換されたアルキレン、シクロアルキレン、アリーレン、カルボニル、アミド基又はこれらの基の組み合わせ、例えば、シクロアルキレンアルキレン、ビスシクロアルキレン、ビスシクロアルキレンアルキレン、アリーレンアルキレン、ビスフェニレン、ビスフェニレンアルキレン、アミドアルキレン基が含まれ、その中でも例えば、CONH(CH
2)
3基、又は−OCH
2CH(OH)CH
2−及び−NHC(O)−基が含まれる。好ましいL基は、アルキレン基(好ましくは直鎖)、好ましくは10個以下の炭素原子、より好ましくは5個未満の炭素原子を有するもの、例えば、エチレン及びプロピレン基である。
【0101】
好ましいR
2基は、ポリオキシエチレン基−(CH
2CH
2O)
n−、ポリオキシプロピレン基又はこれらの基の組み合わせを含んでなる。
【0102】
好ましい式Iのオルガノシランは、次式II:
Y
m(X)
3−mSi(CH
2)
n’−(L’)
m’−(OR)
n−O−(L’’)
m’’−R’ (II)
(式中、R’は、水素原子、直鎖又は分枝状の、1個又は複数個の官能基によって任意に置換され、そして1個又は複数個の二重結合をさらに含んでもよいアシル基又はアルキル基であり、Rは、直鎖又は分枝状アルキル基、好ましくは直鎖アルキル基、例えば、エチレン又はプロピレン基であり、L’及びL’’は二価基であり、X、Y及びmは上記で定義されたとおりであり、n’は1〜10、好ましくは1〜5の整数であり、nは2〜50、好ましくは5〜30、より好ましくは5〜15の整数であり、m’は0又は1、好ましくは0であり、m’’は0又は1、好ましくは0である)の化合物である。
【0103】
L’及びL’’基は、存在する場合、上記の二価の基Lから選択されてよく、そして好ましくは−OCH
2CH(OH)CH
2−基又は−NHC(O)−基に相当する。この場合、−OCH
2CH(OH)CH
2−又は−NHC(O)−基は、それらの酸素原子−OCH
2CH(OH)CH
2−基に関して)又はそれらの窒素原子(−NHC(O)−基に関して)を介して、隣接する基(CH
2)
n’(L’基の場合)及びR’(L’’基の場合)に結合する。
【0104】
一実施形態において、m=0であり、加水分解性基Xはメトキシ又はエトキシ基に相当する。n’は、好ましくは3である。別の実施形態において、R’は、5個未満の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基に相当する。R’は、脂肪族又は芳香族アシル基、特にアセチル基に相当してもよい。
【0105】
最後に、R’は、R
5が上記で定義されるX基などの加水分解性基であり、そしてn’’が上記で定義されるn’などの整数である−(CH
2)
n’’Si(R
5)
3などのトリアルコキシシリルアルキレン基又はトリハロシリルアルキレン基に相当してよい。そのようなR’基の例は−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3基である。本実施形態において、オルガノシラン化合物は、少なくとも1個の加水分解性基を有する2個のケイ素原子を含んでなる。
【0106】
好ましい実施形態において、nは3であるか、又は6〜9、9〜12、21〜24、25〜30、好ましくは6〜9の範囲である。
【0107】
式IIの化合物の例として、Gelest,Inc.又はABCRから市販される式CH
3O−(CH
2CH
2O)
6−9−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3(III)及びCH
3O−(CH
2CH
2O)
9−12−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3(IV)の2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン化合物、式CH
3O−(CH
2CH
2O)
3−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3(VIIIa)の化合物、n=21〜24である式CH
3O−(CH
2CH
2O)
n−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3の化合物、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリクロロシラン、式CH
3C(O)O−(CH
2CH
2O)
6−9−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3の2−[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、式CH
3C(O)O−(CH
2CH
2O)
6−9−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3の2−[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、式HO−(CH
2CH
2O)
6−9−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3の2−[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、式HO−(CH
2CH
2O)
6−9−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3の2−[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、式HO−(CH
2CH
2O)
8−12−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3及びHO−(CH
2CH
2O)
8−12−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3の化合物、ポリプロピレン−ビス[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]オキシド及び2個のシロキサン頭部を含んでなる化合物、例えば、式(V)のポリエチレン−ビス[3−(トリエトキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロポキシ]オキシド、n=10〜15である式(VI)のポリエチレン−ビス[N−(トリエトキシシリルプロピル)アミノカルボニル]オキシド及び式(VII)のポリエチレン−ビス(トリエトキシシリルプロピル)オキシド:
【0108】
【化1】
が記載される。
【0109】
式IIの好ましい化合物は、[アルコキシ(ポリアルキレンオキシ)アルキル]トリアルコキシシラン又はそれらのトリハロゲン化類似物(m=m’=m’’=0、R’=アルコキシ)である。
【0110】
好ましくは、本発明のオルガノシラン化合物はフッ素原子を有さない。典型的に、防曇コーティング前駆体コーティングに対するフッ素の重量比は、5重量%未満、好ましくは1重量%未満、そしてより好ましくは0重量%である。
【0111】
好ましくは、本発明によるオルガノシラン化合物の分子量は、400〜4000g/mol、好ましくは400〜1500g/mol、より好ましくは400〜1200g/mol、なおより好ましくは400〜1000g/molの範囲である。
【0112】
式I又は式IIの化合物の混合物、例えば、異なるポリオキシアルキレンRO鎖長を有する化合物の混合物をグラフト化することは、もちろん可能である。
【0113】
本発明の一実施形態において、防曇コーティング前駆体は、防曇コーティング前駆体の全重量に対して、80重量%より多く、好ましくは90重量%より多く、より好ましくは95%より多く、そして最も好ましくは98%より多くの本発明によるオルガノシラン化合物を含んでなる。一実施形態において、防曇コーティング前駆体は、上記オルガノシラン化合物の層からなる。
【0114】
好ましくは、本発明の防曇コーティング前駆体は、コーティングの全重量に対して、5重量%未満の金属酸化物又はメタロイド(例えばシリカ又はアルミナ)を含んでなり、そしてより好ましくは含まない。防曇コーティングの製造のために使用されるオルガノシラン化合物が真空下で堆積される場合、好ましくは、欧州特許第1324078号明細書に記載される少なくとも1種の有機化合物と、少なくとも1種の無機化合物との同時蒸発の技術に従って、金属酸化物は同時蒸発されない。
【0115】
好ましくは、防曇コーティング前駆体コーティングは、いずれの架橋剤も含まない。このことは、架橋剤、例えばテトラエトキシシランを含んでなる組成物から形成されないことが好ましいことを意味する。
【0116】
本発明の防曇コーティング前駆体は、好ましくは、10°より大きく、そして50°未満、好ましくは45°以下、より好ましくは40°以下、なおより好ましくは30°以下、そして最も好ましくは25°以下の水に対する静的接触角を有する。この接触角は、好ましくは15°〜40°、より好ましくは20°〜30°の範囲である。
【0117】
シラノール基を含んでなるコーティング表面上へのオルガノシラン化合物の堆積は、通常の手順に従って、好ましくは、気相又は液相堆積、最も好ましくは気相堆積によって、真空蒸発によって実行してよい。
【0118】
グラフト化が気相で、例えば、真空下での蒸発によって実行される場合、必要ならば、シラノール基含有コーティングの表面上へ実際にグラフト化されたオルガノシラン化合物のみを保持するため、堆積したオルガノシラン化合物の過剰量を除去するための工程が続いて行われてよい。グラフト化されていない分子は、そのようにして除去される。そのような除去工程は、好ましくは、最初に堆積した防曇コーティング前駆体の厚さが5nmより厚い場合に実行されるべきである。
【0119】
しかしながら、オルガノシラン化合物の過剰量を除去するためのこの工程は、グラフト化された層を形成するためにオルガノシラン化合物を堆積させることが可能であるから、すなわち、堆積した厚さが2、3ナノメートルを越えないことを一旦確実にしたら、場合によっては省略することができる。そのような厚さを得ることの堆積パラメーターを調節することは、いずれの当業者の通常の能力に属する。
【0120】
それにもかかわらず、シラノール基を含んでなるコーティングの表面上へ、いくつかのオルガノシラン化合物の過剰量を堆積させ、そして、その後、この堆積したが、グラフト化されなかった化合物の過剰量を除去することによって防曇コーティング前駆体コーティングを形成することが好ましい。実際に、本発明者らは、グラフト化されたオルガノシラン化合物の層が5nm以下の厚さで直接形成される場合、オルガノシラン化合物の過剰量のいずれの除去も必要とせず、その表面が、少なくとも1種の界面活性剤を含んでなる液体溶液に対して十分な親和性を有さない防曇コーティングの前駆体コーティングを得ることが可能であり、それによって所望の防曇特性を有さないコーティングが導かれる場合もあることを観察した。
【0121】
驚くべきことに、オルガノシラン化合物が、上記のように過剰量で堆積され、そしてそのような過剰量は後ほど除去される場合には、これは観察されない。過剰量で堆積したオルガノシラン化合物層の実際の物理的厚さは、好ましくは20nm以下である。
【0122】
過剰量で堆積したオルガノシラン化合物の除去は、例えば、石鹸水溶液を使用することによるすすぎ(湿式プロセス)及び/又は拭き取り(乾燥したプロセス)によって実行されてもよい。好ましくは、除去工程は、拭き取り操作後に続いて行われる、すすぎ操作を含んでなる。
【0123】
好ましくは、すすぎ操作は、スポンジを使用して、いくらかの石鹸水(界面活性剤を含んでなる)を用いて、物品をクリーニングすることによって実行される。その後、すすぎ操作は脱イオン水を用いて実行され、そして任意に、その後、アルコール、典型的にイソプロピルアルコールで含浸したCEMOI(商標)又はSelvith(商標)によって、レンズに典型的に20秒未満、好ましくは5〜20秒の拭き取り操作を行う。次いで、脱イオン水によるもう1回のすすぎ操作、次いで拭き取り布による拭き取り操作を繰り返してもよい。全てのこれらの工程は手で実行されてもよく、又は部分的に、若しくは完全に自動化されてもよい。
【0124】
過剰量のオルガノシラン化合物を除去する工程によって、一般に、そして好ましくは5nm以下の厚さを有するオルガノシラン化合物層が導かれる。この場合、光学物品の表面上に堆積したオルガノシラン化合物は、単分子又は準単分子層を形成する。
【0125】
蒸発速度及び堆積速度をより良好に制御するために、オルガノシラン化合物を、蒸発させる前に、溶媒に予め溶解してもよい。フィルムの厚さは、この溶解のおかげで、そして蒸発させる溶液の量を調節することによってこのように制御されてもよい。
【0126】
湿式プロセスを使用して、例えば、浸漬又はスピンコーティングによって、グラフト化が実行される場合、一般に、過剰量で堆積したオルガノシラン化合物を除去するための工程を実行する必要はない。
【0127】
本発明による防曇コーティング前駆体コーティングは、低い粗さを有する。典型的に、気相によって堆積したオルガノシラン化合物に関して、粗さ平均値Raは、2nm未満、典型的に約1nmである。Raは、国際公開第2011/080472号パンフレットでなどで定義される。
【0128】
本発明による一時的な防曇コーティングは、式F(CF
2)
y−(CH
2−CH
2O)
x+1H(VIII)(式中、yは10以下の整数であり、そしてy=6である式(VIII)の化合物が、組成物に存在する式(VIII)の化合物の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、そしてより好ましくは100重量%を占め、xは1〜14、そして別の実施形態においては2〜14の整数である)の少なくとも1種の界面活性剤を含んでなる組成物、好ましくは液体溶液を、防曇コーティング前駆体コーティング上に堆積させることによって得られる。
【0129】
この溶液は、光学物品の表面上で水液滴を分散させ、いずれの目に見える曇りも形成しないようにすることに関与する均一な層をそれらの表面上に生じさせることによって、光学物品、好ましくは眼鏡用レンズに一時的な防曇保護を提供する。
【0130】
界面活性剤溶液の適用は、いずれかの既知の方法によって、特に浸漬又はスピンコーティングによって実行されてもよい。
【0131】
界面活性剤溶液は、好ましくは、この溶液滴を防曇コーティング前駆体の表面上に堆積させ、次いで、好ましくは前駆体コーティング全体を被覆するように拡散することによって適用される。
【0132】
適用される界面活性剤溶液は、一般に水溶液であり、液体溶液の重量に対して、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは2〜8重量%の式VIIIを有する界面活性剤を含んでなる。溶液は、エタノール又はイソプロピルアルコールなどのアルコールを、一般に10重量%未満の量で含んでなってもよい。
【0133】
式(VIII)の化合物をベースとする界面活性剤組成物は、驚くべきことに、長期にわたる防曇特性を提供することに関して著しくより効率的であり、従来技術の界面活性剤と比較して少ない量で、典型的に、組成物の重量に対して、2〜5重量%、より好ましくは2〜4重量%の範囲の量で使用されてもよい。
【0134】
より好ましい実施形態において、ティッシュ又は布は、本発明の式(VIII)の化合物をベースとする界面活性剤含有組成物によって含浸され、そしてティッシュは、前駆体コーティングでコーティングされた光学物品に防曇特性を与えるために、上記布で拭き取ることによって直接使用される。
【0135】
次いで、式(VIII)の化合物の界面活性剤溶液の液滴をあらかじめ堆積させる必要はない。
【0136】
その構造が、式(VIII)の化合物をベースとする界面活性剤組成物によって含浸された親水性ポリマー及び疎水性ポリマーを含んでなる不織ティッシュは、透明性及び耐久性に関して優れた結果をもたらすことがわかった。
【0137】
そのようなティッシュの例は、Ahlstrom companyによって製造されるティッシュ「wetlaid」である。
【0138】
実際に、理論によって制限されることは望まないが、本発明者らは、片面の親水性ポリマーは界面活性剤組成物を吸収し、貯蔵効果をもたらすことが可能であり、そして反対面の疎水性ポリマーは界面活性剤組成物を放出すると考える。
【0139】
好ましい親水性ポリマーは、セルロース単位を含んでなるポリマーである。
【0140】
二官能性アルコールより低分子量を有する単官能性アルコールと、二官能性アルコールとを含んでなる上記界面活性剤水性組成物を使用することも好ましい。
【0141】
単官能性アルコールは、1個の単一ヒドロキシ基、典型的にエタノール又はイソプロピルアルコールを含んでなる。二官能性アルコールは、2個のヒドロキシ基のみを含んでなる。特に好ましい二官能性アルコールの例は、プロピレングリコール(プロパン−1,2−ジオール)である。
【0142】
また本発明は、その構造が親水性ポリマー、好ましくはセルロース単位を含んでなる親水性ポリマーと疎水性ポリマーとを含んでなる不織湿式ティッシュであって、上記式(VIII)の化合物をベースとする界面活性剤含有組成物によって含浸されたティッシュに関する。
【0143】
別の好ましい実施形態において、上記前駆体コーティング上での界面活性剤含有組成物の適用は、上記式(VIII)の化合物をベースとする界面活性剤含有組成物によって、ポリエステル単位及びポリアミド単位を含んでなるポリマーから製造されたマイクロファイバーを含んでなるマイクロファイバーティッシュを含浸すること、続いて乾燥工程によって得られた乾燥マイクロファイバーティッシュによって、上記前駆体コーティングによってコーティングされた光学物品を拭き取ることによって行われる。
【0144】
本発明で使用されるマイクロファイバーティッシュは、好ましくは、ポリエステルのマイクロファイバー及びポリアミドのマイクロファイバー、並びに/又はポリエステル/ポリアミドコポリマーを含んでなるマイクロファイバーを含んでなる。
【0145】
当該技術において既知であるように、マイクロファイバーティッシュ又は布はマイクロファイバーから製造される。マイクロファイバーは、フィラメントあたり1.3未満のデシテックス(Dtex)、好ましくはフィラメントあたり1未満のデシテックスを有する繊維である。デシテックスは直鎖密度の尺度であって、繊維又はフィラメントの径を記載するために一般に使用される。1デシテックス繊維の1万メートルは、1グラムの重量である。マイクロファイバーティッシュにおいて、繊維を組み合わせてヤーンが生じ、これは様々な構造で編まれるか、織られる。
【0146】
ポリエステル単位とポリアミド単位とを含んでなるポリマーから製造されたマイクロファイバーを含んでなる好ましいマイクロファイバーティッシュの例は、組成がポリエステル70%/Nylon(商標)30%であるCEMOI(商標)ティッシュ(製造業者:KB SEIREN Company−小売業者:Facol)であり、これはレンズのクリーニングに一般に使用される。上記のマイクロファイバーティッシュは、一般に、含浸パッドを使用して界面活性剤含有組成物によって含浸される。
【0147】
乾燥マイクロファイバーティッシュの調製における乾燥工程の目的は、界面活性剤含有組成物に存在する溶媒を除去することである。これは一般に加熱工程である。加熱工程は、好ましくは、60℃〜200℃、より好ましくは80℃〜150℃の範囲の温度における加熱を含んでなる。
【0148】
加熱工程の後、ポリエステル単位とポリアミド単位とを含んでなるポリマーから製造されたマイクロファイバーを含んでなるマイクロファイバーティッシュは乾燥しており、そして上記マイクロファイバーティッシュを含浸している式(VIII)の界面活性剤の重量含有量は、好ましくは、乾燥含浸マイクロファイバーティッシュ(ティッシュ及び界面活性剤)の全重量に対して、10%〜45%、より好ましくは14%〜40%、なお良好には20〜40%、そして最適には20%〜30%の範囲である。加えて、y=6である式(VIII)の化合物は、含浸されたマイクロファイバーティッシュ中の化合物(VIII)の重量に対して、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは100重量%の量で存在する。
【0149】
驚くべきことに、ポリエステル単位とポリアミド単位とを含んでなるポリマーから製造されたマイクロファイバーを含んでなる乾燥マイクロファイバーティッシュであって、式(VIII)の界面活性剤をベースとする界面活性剤含有組成物によって含浸されたものは、同時に、長期間永続的な効果によって防曇特性をもたらしながらも、光学物品の表面から汚れを除去することがなお可能であることが決定された。
【0150】
また本発明は、式(VIII)の化合物をベースとする界面活性剤含有組成物によって、ポリエステル単位とポリアミド単位とを含んでなるポリマーから製造されたマイクロファイバーを含んでなるマイクロファイバーティッシュを含浸すること、それに続いて乾燥工程によって調製された乾燥マイクロファイバーティッシュにも関する。したがって、ポリエステル及びポリアミド単位を有するポリマーから製造されたマイクロファイバーを含んでなる上記乾燥マイクロファイバーティッシュは、式(VIII)の少なくとも1種の界面活性剤によって含浸され、y=6である式(VIII)の化合物は、マイクロファイバーティッシュに含浸された化合物(VIII)の重量に対して、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは100重量%の量で存在する。
【0151】
界面活性剤溶液は、光学物品、特に眼鏡レンズの表面の水に対する静的接触角を低下させる。本発明の防曇コーティングは、好ましくは、10°以下、より好ましくは5°以下の水に対する静的接触角を有する。
【0152】
界面活性剤組成物が適用されるとすぐに、即座に機能を果たす防曇コーティングが得られ、このことは本発明の重大な利点の1つに相当する。したがって、従来技術の製品の場合のように、防曇効果を得るために何回も界面活性剤溶液を適用する必要はない。
【0153】
加えて、防曇コーティングによって提供される防曇効果は長期にわたる。この耐久性は、実験項に記載される手順において、曇り及び防曇サイクルの間に試験される。
【0154】
防曇コーティングは、防曇コーティング前駆体の表面上へ吸着された十分な界面活性剤分子がない場合に界面活性剤の新たな塗布を実行する必要があるのみであるため、一時的であるが容易に再生可能である。したがって、後者は、全ての状況において「活性化可能」のままである。
【0155】
また本発明は、より好ましくは上記式(VIII)の界面活性剤をベースとする界面活性剤組成物によって含浸されたティッシュ又は布、そして特に上記不織湿式ティッシュ又は乾燥マイクロファイバーティッシュを使用して、好ましくは液体溶液である上記で定義された界面活性剤含有組成物を上記光学物品の主表面上へ適用することを含んでなる、防曇特性を光学物品、好ましくは眼鏡用レンズに与える方法にも関する。
【0156】
好ましくは、上記組成物が適用される光学物品の主表面は、100°以下、好ましくは90°以下、より好ましくは10°より大きく、そして50°未満の水に対する静的接触角を有する。上記主表面は、一般に、光学物品の基材上に適用されたコーティング、例えば防曇コーティングの前駆体コーティングの表面である。好ましくは、上記主表面は、疎水性及び/又は撥油性コーティングの表面でない。上記主表面は、光学物品の基材のコーティングされていない表面であることができる。
【0157】
本開示において、ブレス試験に首尾よく合格した場合、レンズは防曇特性を有する。この試験に関して、試験者は、口から約2cm離れた位置に評価するレンズを配置する。試験者は、3秒間、レンズの暴露表面上に息を吹きかける。試験者は、結露曇り/歪みの存在又は不在を視覚的に観察することができる。
【0158】
レンズは、ブレス試験終了後に曇りから生じる曇り効果を抑制する場合、防曇特性を有すると考えられる(しかし、これは視力<6/10を導く視覚歪みを示し得るため、請求項1の意味の範囲内の防曇レンズに必ずしも相当するというわけではない)。
【0159】
したがって、本発明の方法によって、一般に、物品が防曇コーティング前駆体コーティングを有するかどうかに関係なく、防曇特性をいずれかの種類の光学物品、好ましくは眼鏡用レンズに提供することが可能である。この方法は、特に、裸のレンズ、又は好ましくはポリシロキサン含有型の耐摩耗性コーティングによってのみコーティングされたレンズを処理するために推薦される。
【0160】
本発明は、最後に、その表面にシラノール基を含んでなるコーティングが提供される基材を含んでなる光学物品、好ましくは眼鏡用レンズであって、その表面にシラノール基を含んでなる上記コーティングの表面の一部が上記で定義された防曇コーティング前駆体コーティングと直接接触し、そしてその表面にシラノール基を含んでなる上記コーティングの表面の他の部分、好ましくはその表面の残りの部分が、疎水性及び/又は撥油性コーティングと直接接触して接着している、光学物品、好ましくは眼鏡用レンズに関する。これらの部分は連続的であっても、又は不連続であってもよい。
【0161】
そのような光学物品は、特に、少なくとも1種の界面活性剤及び/又は上記で定義された表面活性特性を有さない1種の親水性化合物を含んでなる液体溶液をその表面に適用した後、次いで、物品に曇りを生じる条件(ブレス、冷蔵庫、沸騰水蒸気...)にさらすか、又は曇りを生じる条件に暴露する前にその表面に1回又は複数回の拭き取り操作を行なうことによって、防曇特性を示す証明として使用することができる。
【0162】
光学物品は、疎水性及び/又は撥油性コーティングで被覆された表面部分においては曇って、防曇コーティングを含んでなる領域においては透明のままである。
【0163】
この光学物品で適切に使用することができる疎水性及び/又は撥油性コーティング、或いは防汚トップコートは、特に国際公開第2010/055261号パンフレットに記載される。それらは、本発明の防曇コーティングとは本質的に異なる。
【0164】
好ましくは使用される疎水性及び/又は撥油性コーティングは、国際公開第2010/055261号パンフレットに参照される文献に記載されるOwens Wendt法に従って、14mJ/m
2以下、好ましくは12mJ/m
2以下の表面エネルギーを有する。
【0165】
そのような光学物品は、参照によって本明細書に組み込まれる国際公開第2011/080472号パンフレットに開示される方法のいずれか1つに従って製造することができる。
【0166】
以下の実施例によって、より詳細であるが非限定的な様式で本発明を説明する。