(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記缶ボディ用アルミニウム合金板について、以下詳説する。
【0013】
<Mg>
上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、1.0〜1.5%のMgを含有している。Mgはアルミニウムに固溶し、固溶強化により上記アルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。また、MgとCuやSiとが共存することにより、冷間圧延の途中において温度が150℃前後となっている間に、MgとCuやSiとの化合物を微細に析出させることができる。上記アルミニウム合金板は、これらの微細な析出物による析出強化のため、より強度の高いものとなりやすい。
【0014】
また、Mgを含有するアルミニウム合金は、冷間圧延やDI加工等の冷間加工における加工硬化による強度向上を大きくしやすいものとなる。そのため、上記アルミニウム合金板は、DI加工における絞りしわやボトムしわを抑制しやすいものとなる。また、上記アルミニウム合金板から形成した缶ボディは、缶壁強度、つまり缶胴突き刺し強度や座屈強度についても強度が高いものとなりやすい。
【0015】
Mgの含有量は、上記アルミニウム合金板の強度を向上させるため1.0%以上であり、1.2%以上がより好ましい。Mgの含有量が1.0%以上の場合には、上記アルミニウム合金板の強度が十分に高いものとなり、缶ボディの薄肉化をより容易に行うことができる。また、この場合には、DI加工の際の加工硬化を大きくしやすいため、絞りしわやボトムしわの発生を低減しやすくなる。
【0016】
Mgの含有量が1.0%未満の場合には、アルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。また、この場合には、DI加工の際の加工硬化が不十分となりやすく、絞りしわやボトムしわが発生しやすくなる場合がある。
【0017】
Mgの含有量は、多いほどアルミニウム合金板の強度を向上させやすくなるが、Mgの含有量が1.5%を超える場合には、アルミニウム合金板をカップ状にプレス加工する際の圧延方向の耳(0−180°耳)が過度に大きくなるおそれがある。そのため、プレス加工後やDI加工後の上記アルミニウム合金板を次工程に搬送する際に搬送トラブルが発生しやすくなるおそれがある。
【0018】
また、この場合には、冷間加工の際の加工硬化が過度に大きくなるおそれがある。そのため、例えばDI加工の際に上記アルミニウム合金板に加わる力が過度に大きくなるおそれがあり、場合によってはDI加工中に上記アルミニウム合金板が破断したり、スコアリングが発生したりすることが考えられる。
【0019】
また、この場合には、均質化処理の際にスラブ表面へ拡散するMgの量が増大する。そのため、スラブ表面に形成されるMg酸化皮膜が厚くなりやすく、フローマークの発生等の表面品質の低下を招来するおそれがある。さらに、この場合には、マトリクスとの電位差の大きいMg
2Si相が析出しやすくなるため、アルミニウム合金板の耐食性を低下させるおそれがある。
【0020】
以上のように、Mgの含有量は、強度の向上と、成形性や耐食性の向上とを両立させる観点から、1.0〜1.5%であり、1.2〜1.5%がより好ましい。
【0021】
<Mn>
上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、0.8〜1.2%のMnを含有している。Mnはアルミニウムに固溶し、固溶強化により上記アルミニウム合金板の強度を高める作用を有する。また、Mnは、塗装焼付け工程等における加熱により冷間加工の際に生成した加工組織が回復することを遅延させ、軟化を抑制する作用を有する。また、MnはFeやSiと共存することにより、Al
6(Mn,Fe)の微細な晶出物やα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)を生成し、DI加工の際に上記アルミニウム合金板とダイスとが焼き付くことを防止する作用を有する。
【0022】
Mnの含有量は、上記アルミニウム合金板の強度向上及び焼き付き防止効果を得やすくするため、0.8%以上であり、1.0%以上がより好ましい。Mnの含有量が0.8%以上の場合には、上記アルミニウム合金板の強度が十分に高いものとなりやすい。また、この場合には、Al
6(Mn,Fe)の微細な晶出物やα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)が十分多く生成されるため、DI加工の際に上記アルミニウム合金板とダイスとが焼き付くことをより確実に防止できる。
【0023】
Mnの含有量が0.8%未満の場合には、アルミニウム合金板の強度が低下するおそれがあるほか、焼き付き防止効果が低くなるおそれがある。
【0024】
Mnの含有量は、DI加工等の冷間加工における成形性を向上させるとともに、冷間加工後の回復を遅延させる効果を得やすくするため、1.2%以下である。Mnの含有量が1.2%以下の場合には、アルミニウム合金中のMnの固溶量を十分多くさせやすくなる。そのため、上記アルミニウム合金板は、固溶Mnの効果により塗装焼付け工程等における加熱による加工組織の回復を遅延させ、軟化を抑制しやすいものとなる。
【0025】
Mnの含有量が1.2%を越える場合には、Al
6(Mn,Fe)晶出物が粗大なものとなりやすく、DI加工における成形性や、DI加工の後工程であるネッキングやフランジ加工における成形性を低下させるおそれがある。また、この場合には、アルミニウム合金中にMnが過度に多く含まれるため、Mnがアルミニウム合金中に晶出あるいは析出しやすくなる。Mnの晶出物や析出物が増加すると、相対的にMnの固溶量が減少するため、冷間加工後の回復を遅延させる効果が不十分となる。そのため、空焼き時の回復サイトの増加が起こるおそれがあり、場合によっては製缶工程中に強度が低下することが考えられる。また、Mnの晶出や析出に伴って、Siや、固溶限の低いFeが晶出や析出しやすくなることが考えられ、アルミニウム合金板の強度の低下を招来するおそれがある。
【0026】
以上のように、Mnの含有量は、上記アルミニウム合金板の強度向上と、冷間加工時の成形性や軟化抑制効果との双方を両立させる観点から0.8〜1.2%であり、1.0〜1.2%がより好ましい。
【0027】
<Cu>
上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、0.20〜0.30%のCuを含有している。Cuはアルミニウムに固溶し、固溶強化により上記アルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。また、CuはMgと共存することにより、冷間圧延時の加工発熱等により温度が150℃前後となっている間に、Al−Mg−Cu系の微細な析出物を生成する。上記アルミニウム合金板は、これらの微細な析出物による析出強化のため、より強度の高いものとなりやすい。また、Cuは、塗装焼付け工程等における加熱による加工組織の回復を遅延させ、軟化を抑制する作用を有する。
【0028】
Cuの含有量は、上記アルミニウム合金板の強度向上の観点から、0.20%以上である。この場合には、固溶強化や析出強化により、上記アルミニウム合金板の強度を十分に向上させることができる。
【0029】
Cuの含有量が0.20%未満の場合には、析出強化による強度向上効果が不十分となるおそれがあり、アルミニウム合金板の強度が低くなるおそれがある。
【0030】
Cuの含有量は、多いほどアルミニウム合金板の強度を向上させやすくなるが、Cuの含有量が0.30%を超える場合には、冷間加工の際の加工硬化が過度に大きくなるおそれがある。そのため、DI加工の際にアルミニウム合金板に加える力を大きくする必要が生じ、場合によってはDI加工中にアルミニウム合金板が破断したり、スコアリングが発生したりすることが考えられる。また、Cuの含有量が0.30%を超える場合には、アルミニウム合金板の耐食性が低下するおそれがある。
【0031】
以上のように、Cuの含有量は、上記アルミニウム合金板の強度向上と加工硬化の制御との双方を両立させるとともに、耐食性を向上させる観点から0.20〜0.30%である。
【0032】
<Fe>
上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、0.25〜0.60%のFeを含有している。Feは、MnやSiと共存することにより、Al
6(Mn,Fe)の微細な晶出物やα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)を生成し、DI加工の際に上記アルミニウム合金板とダイスとが焼き付くことを防止する作用を有する。
【0033】
Feの含有量は、焼き付き防止効果を得やすくするとともに成形性を向上させるため、0.25%以上であり、0.40%以上がより好ましい。Feが0.25%以上含有されている場合には、上述したAl
6(Mn,Fe)の微細な晶出物やα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)が十分多く生成されるため、DI加工の際の焼き付きをより確実に防止することができる。また、上述した金属間化合物が生成されることにより、上記アルミニウム合金板をカップ状にプレス加工する際の圧延方向の耳(0−180°耳)を小さくしやすくなる。その結果、プレス加工後やDI加工後の上記アルミニウム合金板を次工程に搬送する際のトラブルを低減しやすくなる。また、Feが0.25%以上含有されている場合には、ネッキング工程におけるしわの発生を抑制しやすくなる。
【0034】
Feの含有量が0.25%未満の場合には、焼き付き防止効果が得られにくくなるおそれがある。また、この場合には、圧延方向の耳が過度に大きくなり、これに起因する搬送時のトラブルが起こりやすくなるおそれがあるほか、ネッキング工程においてしわが発生しやすくなるおそれがある。また、Feの含有量が0.25%未満の場合には、アルミニウム合金板の製造に用いる地金に純度の高いものを用いる必要が生じるため、コストアップを招くおそれがある。
【0035】
また、Feの含有量は、上述した金属間化合物の制御の観点から0.60%以下である。Feの含有量が0.60%を超える場合には、Mnとの間に粗大な金属間化合物が生成されやすくなる。当該金属間化合物は、成形加工の際に破断の起点となり得るため、好ましくない。
【0036】
このように、Feの含有量は、DI加工時の成形性やコスト、焼き付き防止効果のいずれも満足させるため、0.25〜0.60%であり、0.40%〜0.60%がより好ましい。
【0037】
<Si>
上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、0.20〜0.40%のSiを含有している。Siは、MnやFeと共存することによりα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)を生成し、DI加工の際に上記アルミニウム合金板とダイスとが焼き付くことを防止する作用を有する。また、Siは、MgやCuと共存することにより、冷間圧延の途中において温度が150℃前後となっている間に微細な金属間化合物を析出させ、析出強化により上記アルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。
【0038】
Siの含有量は、強度を向上させるため0.20%以上である。Siが0.20%以上含有されている場合には、MgやCuとの微細な金属間化合物が十分多く析出するため、上記アルミニウム合金板の強度を向上させやすくなる。
【0039】
Siの含有量が0.20%未満の場合には、上述した金属間化合物の析出が不十分となるおそれがあり、アルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。また、この場合には、アルミニウム合金板の製造に用いる地金に純度の高いものを用いる必要が生じるため、コストアップを招くおそれがある。
【0040】
また、Siの含有量は、多いほど焼き付き防止効果を得やすくなるが、0.40%を超える場合には、オストワルド成長により粒径0.1μm以上のAl−Mn−Si相が析出しやすくなる。これに伴い、SiとMgやCuとの微細な金属間化合物の析出が不十分となるおそれがあり、アルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。また、この場合には、Mnの固溶量も低下しやすくなるため、空焼き等の加熱による加工組織の回復が起こりやすくなり、製缶工程中に強度が低下するおそれがある。
【0041】
また、Siの含有量が0.40%を超える場合において、さらにMgの含有量が多い場合には、Mg
2Si相の粗大な晶出物が形成されるおそれがある。この粗大な晶出物が形成されると、SiとMgやCuとの微細な金属間化合物が析出しにくくなる。これにより、強度低下や耐食性の低下を招来するおそれがあるため、好ましくない。このように、Siの含有量は、上記アルミニウム合金板の強度、コスト、焼き付き防止効果や耐食性のいずれも満足させるため、0.20〜0.40%である。
【0042】
<導電率>
また、上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、導電率が37.0〜40.0%IACSである。導電率はMnの固溶量の指標として利用される測定値であり、導電率が低いほどMnの固溶量が多くなることを示す。上記アルミニウム合金板は、25℃の温度条件で測定して得られる導電率を上記特定の範囲に制御することにより、Mnの固溶強化による強度向上効果を得やすく、かつ、α相化合物等の析出による焼き付き防止効果を得やすいものとなる。
【0043】
導電率が40.0%IACSを超える場合には、Mnの固溶量が不十分となるため、アルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。一方、導電率が37.0%IACS未満の場合には、Mnの固溶量が多くなるため、アルミニウム合金板の強度は向上するものの、α相化合物の析出が不十分となりやすく、焼き付き防止効果を得にくくなるおそれがある。
【0044】
導電率は、例えば、熱間圧延の開始温度や、均質化処理の後、熱間圧延を開始するまでの冷却条件を調節することにより上記特定の範囲に制御することができる。
【0045】
また、導電率が上記特定の範囲である場合には、さらにAl−Mn−Si系析出物の密度及びサイズを制御することにより、より大きな強度向上効果を得ることができる。すなわち、上記アルミニウム合金板は、0.1〜2.0μmのAl−Mn−Si系析出物が10000個/mm
3以下含まれていることが好ましい。Al−Mn−Si系析出物は、冷間加工の際に転位を蓄積する作用を有する。そのため、上記アルミニウム合金板は、上記特定の密度及びサイズに制御されたAl−Mn−Si系析出物を含むことにより、加工硬化によって強度をより向上させやすくなる。
【0046】
Al−Mn−Si系析出物のサイズが0.1μm未満の場合には、冷間圧延や冷間加工(プレス加工、DI加工等)の際に転位の蓄積が起こりにくくなるため、強度向上効果が得られにくくなる。一方、Al−Mn−Si系析出物のサイズが2.0μmより大きい場合には、製缶工程における加熱により加工組織の回復が起こりやすくなるため、強度向上効果が得られにくくなる。
【0047】
また、Al−Mn−Si系析出物の密度が10000個/mm
3を超える場合には、均質化処理が十分でなく、Al−Mn−Si系析出物が偏析している可能性がある。そのため、後述する耳率の制御や製缶工程における成形性の制御のために必要な異方性が得られにくくなる。また、Al−Mn−Si系析出物が偏析している場合には、化合物の相互関係により冷間加工における転位の蓄積はなされるものの、転位が蓄積された析出物が密に配置された領域と、疎に配置された領域とが混在することとなる。そのため、加熱による加工組織の回復が過大なものとなることが考えられ、強度向上効果が得られにくくなるおそれがある。
【0048】
<時効特性>
また、上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、
冷間圧延の最終パス直前における材料を150℃の温度で10時間時効処理したときの引張強さσB(10)及び耐力σ0.2(10)と、150℃の温度で1時間時効処理したときの引張強さσB(1)及び耐力σ0.2(1)とが、
σB(10)−σB(1)≧5(MPa)、σ0.2(10)−σ0.2(1)≧1(MPa)となる特定の時効特性を有している。上記時効特性は、析出強化による強度向上効果の指標として用いられる値であり、主としてAl−Cu−Mg系析出物の析出に起因する強度向上効果の指標である。Al−Cu−Mg系析出物は、プレス加工における耳率の変化を伴わず、また、熱処理等の工程を追加することなく強度向上効果を得やすい性質を有する。そのため、当該析出物を利用することにより上記アルミニウム合金板の生産性を容易に向上させることができる。
【0049】
冷間圧延の最終パス直前における材料を150℃の温度で10時間時効処理したときの引張強さσ
B(10)及び耐力σ
0.2(10)と、150℃の温度で1時間時効処理したときの引張強さσ
B(1)及び耐力σ
0.2(1)とが、
σ
B(10)−σ
B(1)≧5(MPa)、σ
0.2(10)−σ
0.2(1)≧1(MPa)
の関係を満たす場合には、Al−Cu−Mg系析出物を含めた種々の析出物によって、上記アルミニウム合金板を用いて製造された缶ボディの強度をより向上させることができる。
【0050】
また、上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、圧延方向における耐力が300MPa以上であ
る。そのため、上記アルミニウム合金板を用いて作製した缶ボディにおける缶底耐圧や座屈強度、缶胴突き刺し強度等の各種強度をより向上させることができる。その結果、上記アルミニウム合金板を用いることにより、得られる缶ボディをより薄肉化することが容易となる。
【0051】
また、上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、加工硬化指数が0.07以上であ
る。加工硬化指数の値は、圧延方向における引張試験により得ることができる。加工硬化指数が0.07以上の場合には、上記アルミニウム合金板を用いて缶ボディを製造する際のしわ(プレス加工時の口部しわ、DI加工時の口部しわ及び缶底部しわ)の発生をより低減することができる。
【0052】
すなわち、この場合には、冷間加工における加工硬化が大きくなるため、材料強度の低い状態で冷間加工を開始することができる。冷間加工により発生するしわは、材料とダイス等の加工具との間に生じる力により材料が座屈することが原因となる場合が多く、材料強度が低いほど発生しにくくなる。そのため、加工硬化指数を0.07以上とすることにより、強度の低い状態で冷間加工を行うことができ、しわの発生をより低減することができる。
【0053】
また、ブランク径が55mmであり、かつ、絞り比を1.67とした条件で絞り成形を行った成形カップの下記式(1)より算出される耳率Rが4%以下であ
る。
R=(M
45−V
45)/((M
45+V
45)/2)×100 ・・・(1)
【0054】
上記式(1)において、M
45は下記式(2)より算出される値であり、V
45は下記式(3)より算出される値である。
【0055】
M
45=(A+B+C+D)/4 ・・・・(2)
【0056】
上記式(2)において、Aは45°(圧延方向を0°としたときの角度、以下同様)耳高さであり、Bは135°耳高さであり、Cは225°耳高さであり、Dは315°耳高さである。
【0057】
V
45=(E+F+G+H)/4 ・・・(3)
【0058】
上記式(3)において、Eは45°方向と135°方向との間の谷の最小高さであり、Fは135°方向と225°方向との間の谷の最小高さであり、Gは225°方向と315°方向との間の谷の最小高さであり、Hは315°方向と45°方向との間の谷の最小高さである。
【0059】
耳率Rが4%を超える場合には、アルミニウム合金板をプレス加工した後に形成される耳部の大きさが過度に大きくなる場合がある。耳部の大きさが過度に大きいと、搬送中のトラブルや、DI加工後のトリミング高さ不足、あるいはネッキング工程におけるフランジ部のばらつきに起因する巻き締め不良等、製缶工程における種々のトラブルの原因となることが考えられ、好ましくない。
【0060】
耳率Rは、熱間圧延後の再結晶状態及び冷間圧延の総圧下率により制御することができる。熱間圧延後の再結晶が不十分な場合は、圧延集合組織が残存しやすくなる。この場合には、その後の冷間圧延により圧延集合組織がさらに成長するため、耳率Rが過大となりやすい。また、冷間圧延の総圧下率は、アルミニウム合金板の強度を向上させる観点からは高い方が好ましいが、総圧下率を過度に高くすると耳率Rが過大となるおそれがある。
【0061】
次に、上記缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法について詳説する。まず、上記特定の化学成分を有するアルミニウム合金を鋳造し、スラブを作製する。スラブの鋳造方法としては、連続鋳造や半連続鋳造等の公知の方法を採用することができる。
【0062】
次いで、上記スラブの両圧延面及び両側面を面削し、スラブ表層の不均質部を除去する。不均質部の厚みはアルミニウム合金の化学成分によって変化するが、通常は5mm程度である。不均質部がスラブ表面に残留する場合には、残留した不均質部が原因となって表面品質の低下や圧延時の耳割れが起こるおそれがあるため、好ましくない。
【0063】
その後、上記スラブを600〜620℃で1〜24時間加熱する均質化処理を行う。均質化処理を行うことにより、スラブの鋳造時に晶出あるいは偏析したMn、Mg、Si、Fe等の添加元素を固溶させる。また、均質化処理により、Al
6(Mn,Fe)晶出物をα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系化合物)へ変態させることができる。α相化合物は、Al
6(Mn,Fe)晶出物に比べてより優れた焼き付き防止効果を有する。そのため、上記特定の範囲の温度で均質化処理を行うことにより、焼き付き防止効果をより向上させることができる。添加元素を固溶させ、α相化合物を生成させるためには、均質化処理を高温かつ長時間行うことが好ましい。
【0064】
均質化処理の温度が600℃未満の場合には、スラブの中心部まで均質化を行うために処理時間が長くなり、生産性が低下しやすくなる。一方、均質化処理の温度が620℃を超える場合には、スラブの一部に共晶融解が生じるおそれがあり、スラブ表面の品質が低下するおそれがある。また、均質化処理の処理時間が1時間未満の場合には、均質化が十分になされず、得られるアルミニウム合金板の強度低下や焼き付き防止効果の低下等を招来するおそれがある。均質化処理の処理時間は、通常10時間以下で均質化が十分なされた状態となり、24時間を越えて行ってもそれに見合った効果を得ることが難しい。
【0065】
均質化処理の後、上記スラブを40℃/時間以上の冷却速度で500〜550℃まで冷却した後に熱間粗圧延を行う。熱間粗圧延の開始温度が500℃未満の場合には、Al−Mn−Si系化合物の析出が促進されるため、Mnの固溶量が減少し、得られるアルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。一方、熱間粗圧延の開始温度が550℃を超える場合には、Mgの酸化が促進されるため、表面品質の低下を招来するおそれがある。また、Al−Mn−Si系化合物の析出は、均質化処理後の高温状態が長時間継続されることによっても起こる。そのため、冷却速度を40℃/時間以上とすることが好ましく、均質化処理後にできるだけ早く冷却を開始することがより好ましい。なお、冷却速度を40℃/時間以上とするためには、水冷やシャワー冷却等の冷却手段を採用することができる。
【0066】
熱間粗圧延の後、出側温度が330〜360℃となるように熱間仕上圧延を行って熱延板を作製する。熱間仕上圧延の出側温度が330℃未満の場合には、再結晶が不十分となるおそれがある。これにより、得られるアルミニウム合金板をプレス加工した際に45°耳が大きくなりすぎたり、耳がちぎれたりするおそれがあり、搬送トラブルの原因となるおそれがある。また、この場合には、DI加工後のトリミング工程において耳欠け等が発生するおそれがあり、生産性の低下を招来するおそれがある。一方、出側温度が360℃を超える場合には、熱延中の素材の一部が圧延ロールに凝着するおそれがある。そのため、熱延板の表面品質の低下や、外観異常が起こるおそれがある。
【0067】
なお、熱間仕上圧延は、例えば、3スタンド以上のタンデム式熱間圧延機を用いて行うことができる。この場合には、熱間仕上圧延における圧下率を88〜94%とすることが好ましい。該圧下率が88%未満の場合には、熱間仕上圧延中に蓄積されるひずみ量が少なく、圧延終了後の再結晶が不十分となるおそれがある。一方、上記圧下率が94%を超える場合には、熱延中の素材の一部が圧延ロールに凝着するおそれがあり、熱延板の表面品質の低下や外観異常が起こるおそれがある。
【0068】
次いで、熱延板を40℃/時間以下の冷却速度で150℃まで冷却する処理または熱延板を300℃以上の温度で1時間以上保持する処理のいずれか一方を行う。これらの処理は、いずれも、熱延板を再結晶させる作用を有している。つまり、熱延板を40℃/時間以下の冷却速度で150℃まで冷却する処理または熱延板を300℃以上の温度で1時間以上保持する処理のいずれの処理を選択しても、熱延板を十分に再結晶させることができ、耳率Rが上記特定の範囲に入るよう制御しやすくなる。上述のいずれの処理も行われない場合には、熱延板の再結晶が不十分となり、耳率Rの制御が困難となるおそれがある。
【0069】
上述のいずれかの処理を行った後、冷間圧延時の温度制御を的確に行うために得られた熱延板を温度が80℃以下となるまで冷却する。この時の冷却速度は特に制限されるものではないが、過度に冷却が遅くなると、次の工程までの時間を要するため生産性の悪化を招来するおそれがある。従ってファン冷却などの強制的な冷却手段を用いて冷却することが望ましい。
【0070】
その後、温度を80℃以下とした上記熱延板を冷間圧延して温度が140℃以上の中間冷延板を作製する。これにより、上記中間冷延板は、冷間圧延中に析出するAl−Cu−Mg系化合物を含むものとなる。Al−Cu−Mg系化合物は、冷間加工による加工ひずみが付与され、かつ、温度が90℃以上である状態で析出し始める化合物であり、析出強化により得られるアルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。さらに、Al−Cu−Mg系化合物は、その後の冷間加工によって付与される加工ひずみを蓄積する性質を有するため、得られるアルミニウム合金板の強度をより向上させることができる。
【0071】
Al−Cu−Mg系化合物を上記中間冷延板中に十分に析出させるためには、中間冷延板の温度が140℃以上となるように冷間圧延の途中パスを設定することが好ましい。中間冷延板の温度が140℃以上であれば、Al−Cu−Mg系化合物を析出させることができる。中間冷延板の温度が170℃を超える場合には、強度低下につながる加工組織の回復が起こるおそれがある。
【0072】
次いで、得られた中間冷延板を120℃以上の温度で2時間以上保持することにより、中間冷延板中にAl−Cu−Mg系化合物を十分に時効析出させることができる。上記中間冷延板を120℃以上に保持する時間が10時間を超える場合には、過時効となり、得られるアルミニウム合金板の強度が低下するおそれがあるほか、生産性の低下を招くため、好ましくない。
【0073】
その後、得られた中間冷延板に対して、冷間圧延の最終パスを圧下率48〜56%となるように行う。これにより、冷間圧延の総圧下率が87〜90%であり、かつ、温度が150℃以上である冷延板を得る。該冷延板の温度を150℃以上とすることにより、得られるアルミニウム合金板の加工ひずみを適度に回復させ、その後のプレス加工やDI加工等における成形性を向上させることができる。得られる冷延板の温度に上限はないが、少なくとも190℃までは製品特性上の問題は生じず、成形性がより向上する。
【0074】
また、冷間圧延における上記冷延板の総圧下率を上記特定の範囲とすることにより、加工硬化を十分大きくすることができ、上記アルミニウム合金板の強度を向上させることができる。総圧下率が87%未満の場合には、加工硬化が不十分となり、得られるアルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。一方、総圧下率が90%を超える場合には、耳率Rが増加するおそれがあるため、好ましくない。
【0075】
上記冷延板は、上記中間冷延板の温度及び冷間圧延の最終パスにおける圧下率により最終パス後の温度を制御することができる。すなわち、圧下率が48%未満の場合には、加工発熱が小さくなるため、冷延板の温度が150℃未満となるおそれがある。一方、圧下率が56%を超える場合には、圧延後の圧延面のひずみが過度に大きくなり、板切れの発生や、塗油ムラの発生、あるいは製缶工程におけるカップ成形時の通板で引っ掛かるなどの問題の原因となるおそれがある。
【0076】
このように、冷間圧延の最終パスにおける圧下率は、上記冷延板の温度の制御と、圧延面ひずみの低減との双方を満足させるため、48〜56%であり、50〜54%がより好ましい。
【0077】
その後、上記冷延板を冷却速度15〜30℃/時間で80℃まで冷却することにより、上記缶ボディ用アルミニウム合金板を得ることができる。上記冷延板の冷却を上述の条件にて行うことにより、Al−Cu−Mg系化合物を時効析出させ、上記アルミニウム合金板の加工硬化をより大きくすることができる。また、この場合には、加工組織の回復が起こるため、その後の製缶工程における成形性をより向上させることができる。冷却速度が15℃/時間未満の場合には、加工組織の回復が過剰となりやすく、また、過時効となるため得られるアルミニウム合金板の強度が低下するおそれがある。一方、冷却速度が30℃/時間を超える場合には、加工組織の回復が不十分となりやすく、成形性が低下するおそれがある。
【0078】
以上の方法により製造された上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、引張矯正を行わずに製缶工程へ供給されることが好ましい。上記缶ボディ用アルミニウム合金板は、上述したように、Al−Cu−Mg系化合物等の作用により、冷間加工の際に起こる加工硬化が大きなものとなる。そのため、製缶工程に供給される前に引張矯正を行うことにより、プレス加工やDI加工に供給する素材の強度が意図せず高くなるおそれがあり、これらの工程においてしわが発生しやすくなるおそれがある。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
上記缶ボディ用アルミニウム合金板の実施例について、以下説明する。
【0080】
<スラブ作製>
まず、DC鋳造により表1に示す化学成分を含有するアルミニウム合金(合金No.1〜No.9)を用いてスラブを作製した。次いで、該スラブの両圧延面を10mm面削し、両側面を5mm面削した。その後、上記スラブを605℃で2時間加熱して均質化処理を行った。均質化処理の後、上記スラブを45℃/時間の冷却速度で515℃まで冷却し、この温度を2時間保持してスラブ全体の温度を均一化させた。
【0081】
<熱間圧延>
次いで、スラブの温度が515℃である状態からリバース式の圧延機を用いて上記スラブの熱間粗圧延を開始し、複数回の圧延パスにより板厚を30mmとした状態で熱間粗圧延を完了した。熱間粗圧延完了時の上記スラブの温度は465℃であった。熱間粗圧延の後、4タンデムの熱間仕上圧延機を用いて、圧下率を92%として熱間仕上圧延を行った、これにより、板厚2.4mmの熱延板を作製した。熱延板の出側温度は340℃であった。
【0082】
<冷間圧延>
上述のようにして得られた熱延板を25℃/時間の冷却速度で150℃まで冷却した後、さらにファン冷却により55℃まで冷却した。その後、シングル圧延機を用いた2パスの冷間圧延を行って中間冷延板を得た。得られた中間冷延板の板厚は0.58mmであり、温度は155℃であった。
【0083】
次いで、上記中間冷延板を、温度が120℃以上の状態に140分間保持した。その後、シングル圧延機を用いて、上記中間冷延板の温度が118℃の状態から、圧下率53.4%として冷間圧延の最終パスを行い、冷延板を得た。得られた冷延板は、板厚が0.27mmであり、温度が165℃であった。また、冷間圧延における総圧下率は88.8%であった。
【0084】
<仕上げ>
その後、上記冷延板を22℃/時間の冷却速度で80℃まで冷却し、引張矯正を行うことなく圧延油の洗浄及びリオイル油の塗布を行い、表2及び表3に示すアルミニウム合金板(試験材No.1〜No.9)を得た。なお、リオイル油の塗布は静電塗布により行い、その塗布量は100mg/m
2であった。
【0085】
【表1】
【0086】
上述のようにして得られた各試験材について、導電率測定及び時効特性の評価を行った結果を表2に示す。なお、時効特性の評価には、JIS Z2241に準拠して測定した圧延方向の引張強さ及び耐力の値を用いた。具体的には、冷間圧延の最終パス直前における材料(中間冷延板)を採取し、これを150℃の温度で10時間時効処理したときの引張強さσ
B(10)及び耐力σ
0.2(10)を測定した。同様に、冷間圧延の最終パス直前における材料を採取し、これを150℃の温度で1時間時効処理したときの引張強さσ
B(1)及び耐力σ
0.2(1)を測定した。そして、σ
B(10)とσ
B(1)との差及びσ
0.2(10)とσ
0.2(1)との差を算出した。また、導電率測定は、導電率測定器(フェルスター社製「シグマテスト2.069」)を用いて行い、測定時の試験材の温度は25℃とした。
【0087】
【表2】
【0088】
表3に、以下の方法により評価した各試験材の機械的特性及び耳率Rを示した。
【0089】
<機械的特性>
JIS Z2241に準拠して圧延方向の引張試験を行い、各試験材の引張強さσ
B及び耐力σ
0.2を測定した。耐力σ
0.2の値は300MPa以上であることが好ましい。耐力σ
0.2が300MPa未満となる試験材については、表3において下線を付して示した。
【0090】
また、この引張試験結果から加工硬化指数(n値)を算出した。n値は0.07以上であることが好ましい。n値が0.07未満となる試料については、表3において下線を付して示した。
【0091】
<耳率R>
各試験材から55mm径のブランクを採取し、絞り比を1.67とした条件で絞り成形を行ってカップ状に成形した。このカップの耳率Rを上記式(1)〜式(3)を用いて算出した。耳率Rは4%以下であることが好ましい。耳率Rが4%を超える試験材については、表3において下線を付して示した。
【0092】
次に、各試験材からDI缶を成形し、205℃で10分の空焼きを施して缶状の試験体を作製した。この試験体を用いて、以下の方法により缶底耐圧、DI成形性、フランジ成形性の評価を行った結果を表3に示した。
【0093】
<缶底耐圧>
上記試験体(DI缶)の缶底形状を缶底接地径が48mm、ドーム深さが9.8mmとし、このときの缶底耐圧を測定した。缶底耐圧は600kPa以上であることが好ましい。缶底耐圧が600kPa未満となる試験材については、表3において下線を付して示した。
【0094】
<DI成形性>
上記試験体を壁厚0.105mm狙いで100缶ずつ製缶し、その時の製缶成功率と外観の目視観察により評価した。なお、表3中、◎は全缶(100缶)成形が成功して外観不良のないことを示す記号であり、○は全缶(100缶)成形が成功したが外観不良が生じたことを示す記号であり、△は1〜5缶破断したことを示す記号であり、×は6缶以上破断したことを示す記号である。DI成形性は、全缶成形が成功して外観不良のないこと(◎にて表示)が好ましい。外観不良が生じたり(○にて表示)、破断が起こった(△及び×にて表示)試験材については、表3において下線を付して示した。
【0095】
<フランジ成形性>
上記試験体を100缶ずつ成形した後、耳部のトリミングを行い、204径までスムースダイネック成形を行った。その後、開口端部にフランジ厚が157μm、フランジ幅が2.4mmとなるフランジを形成し、フランジ端部の割れの有無を目視観察により評価した。なお、表3中、○は全缶(100缶)成功してフランジ割れのないものを示し、×は1缶以上フランジ割れが発生したものを示す。フランジ成形性は、全缶成形が成功してフランジ割れのないこと(○にて表示)が好ましい。フランジ割れが発生した(×にて表示)試験材については、表3において下線を付して示した。
【0096】
次に、
図1に示すDI加工途中の再絞りカップ1(ドーム成形無し)を各試験材から5缶ずつ作製した。この再絞りカップ1を用いて、以下の方法によりボトムしわ高さの評価を行った結果を表3に示した。
【0097】
<ボトムしわ高さ>
図1に示すように、真円度計2(株式会社ミツトヨ製、型式EC−1010A)を用いて個々の再絞りカップ1におけるチャイム部11のしわ12を測定し、しわ高さ測定チャートを得た。しわ高さ測定チャートの一例を
図2に示す。このチャートは、点Oを中心とした円座標であり、周方向に角度を、径方向にしわ12の凹凸をとったものである。得られたチャートにおいて、隣り合う山部3と谷部4について、(点Oから山部3の頂点までの距離31の値−点Oから谷部4の頂点までの距離41の値)により算出される値をしわ高さHとした。このしわ高さHをチャイム部11の全周における各々の山部3について算出し、そのうち最大の値を最大しわ高さH
maxとした。そして、同一の試験材から作製した5缶のそれぞれについて求めた最大しわ高さH
maxの平均値を算出し、この値をボトムしわ高さH
bとして表3に示した。ボトムしわ高さH
bは、200μm以下であることが好ましい。ボトムしわ高さH
bが200μmを超える試験体については、表3において下線を付して示した。
【0098】
【表3】
【0099】
表1より知られるように、試験材No.1〜No.3は、上記特定の化学成分を有する合金(合金No.1〜No.3)から形成されている。また、表2より知られるように試験材No.1〜No.3は上記特定の範囲の導電率を示し、かつ、上記特定の時効特性を備えている。そのため、試験材No.1〜No.3は、表3より知られるように、機械的特性や成形性に優れるとともに、当該試料を用いて作製した試験体の製品特性が優れたものとなる。一方、試験材No.4〜No.9は、表1に示すように、化学成分のうち少なくとも1つの添加元素が上記特定の範囲外となっているため、表3に示すように機械的特性等において劣る点があった。
【0100】
(実施例2)
本例は、実施例1における合金No.1を用いてスラブを作製した後、製造条件を種々変更して上記缶ボディ用アルミニウム合金板を作製した例である。すなわち、本例においては、実施例1の製造条件に替えて表4に示す種々の製造条件(製造条件A〜M)を用いてスラブ作製、熱間圧延、冷間圧延及び仕上げの各工程を順次行い、表5及び表6に示すアルミニウム合金板(試験材No.11〜23)を作製した。
【0101】
【表4】
【0102】
実施例1と同様の方法により、各試験材の導電率測定及び時効特性の評価を行った結果を表5に示す。
【0103】
【表5】
【0104】
実施例1と同様の方法により、各試験材の機械的特性等を評価した結果を表6に示す。
【0105】
【表6】
【0106】
試験材No.11〜No.13において採用した製造条件(製造条件A〜C)は、上記特定の範囲に含まれている。また、表5より知られるように試験材No.11〜No.13は上記特定の範囲の導電率を示し、かつ、上記特定の時効特性を備えている。そのため、試験材No.11〜No.13は、表6より知られるように、機械的特性や成形性に優れるとともに、当該試験材を用いて作製した試験体の製品特性が優れたものとなる。
【0107】
また、本例の製造方法によれば、スラブに均質化処理を行った後、追加の熱処理工程を行うことなく上記缶ボディ用アルミニウム合金板を製造することができる。そのため、上記缶ボディ用アルミニウム合金板をより容易に製造できるとともに、製造コストをより低減する効果も期待することができる。
【0108】
試験材No.14は、上記特定の範囲に含まれる製造条件を用いて作製したものであるが、引張矯正を行ったため、加工硬化が起こり、成形性に劣るものとなった。これは、引張矯正における矯正力が大きすぎたためと考えられ、矯正力を調節することにより成形性の改善が可能と推測される。
【0109】
試験材No.15〜No.23は、表4に示すように、製造条件の各項目のうち少なくとも1つの項目が上記特定の範囲外となっているため、表6に示すように機械的特性等において劣る点があった。
【0110】
(実施例3)
本例は、実施例2における熱間仕上圧延の後、得られた熱延板に熱処理を行って作成したアルミニウム合金板の例である。本例における製造方法を以下に説明する。
【0111】
<スラブ作製>
まず、実施例1における合金No.1を用いてDC鋳造によりスラブを作製した。次いで、該スラブの両圧延面を10mm面削し、両側面を5mm面削した。その後、上記スラブを605℃で2時間加熱して均質化処理を行った。均質化処理の後、上記スラブを45℃/時間の冷却速度で530℃まで冷却し、この温度を2時間保持してスラブ全体の温度を均一化させた。
【0112】
<熱間圧延>
次いで、スラブの温度が530℃である状態からリバース式の圧延機を用いて上記スラブの熱間粗圧延を開始し、複数回の圧延パスにより板厚を30mmとした状態で熱間粗圧延を完了した。熱間粗圧延完了時の上記スラブの温度は465℃であった。熱間粗圧延の後、4タンデムの熱間仕上圧延機を用いて、圧下率を91.3%として熱間仕上圧延を行った。これにより、板厚2.6mmの熱延板を作製した。熱延板の出側温度は335℃であった。
【0113】
<冷間圧延前の熱処理>
上述のようにして得られた熱延板に対し、330℃の温度で2時間保持する熱処理を行った後、ファン冷却により75℃まで冷却した。その後、シングル圧延機を用いた2パスの冷間圧延を行って中間冷延板を得た。得られた中間冷延板の板厚は0.58mmであり、温度は160℃であった。
【0114】
次いで、上記中間冷延板を、温度が120℃以上の状態に4.8時間保持した。その後、シングル圧延機を用いて、圧下率53.4%として冷間圧延の最終パスを行い、冷延板を得た。得られた冷延板は、板厚が0.27mmであり、温度が172℃であった。また、冷間圧延における総圧下率は89.6%であった。
【0115】
<仕上げ>
その後、上記冷延板を24℃/時間の冷却速度で80℃まで冷却し、引張矯正を行うことなく圧延油の洗浄及びリオイル油の塗布を行い、表7及び表8に示すアルミニウム合金板(試験材No.24)を得た。なお、リオイル油の塗布は静電塗布により行い、その塗布量は100mg/m
2であった。
【0116】
実施例1と同様の方法により、試験材No.24の導電率測定及び時効特性の評価を行った結果を表7に示す。
【0117】
【表7】
【0118】
実施例1と同様の方法により、試験材No.24の機械的特性等を評価した結果を表8に示す。
【0119】
【表8】
【0120】
表7及び表8より知られるように、熱間圧延後の熱延板に対して300℃以上で1時間以上保持する熱処理を行うことにより、熱延板を40℃/時間以下の冷却速度で150℃まで冷却する場合と同様に、機械的特性や成形性に優れた試験材を得ることができる。また、当該試験材を用いて作製した試験体の製品特性が優れたものとなる。
【0121】
なお、本例において示した300℃以上かつ1時間以上の熱処理は、熱間圧延後から冷間圧延前のいずれの時点で行ってもよい。すなわち、例えば40℃/時間超えの冷却速度で熱延板が冷却された後に、熱延板を再度加熱して上記熱処理を行ってもよく、熱延板の作製直後に上記熱処理を行ってもよい。