【文献】
山川育生、「副生物利用:コラーゲンの利用例」、北海道大学大学院農学研究科技術部研究・技術報告、2004年3月、[2017年1月19日検索]、No.11、pp.4-7、インターネット<URL: http://hdl.handle.net/2115/35458>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可能性は示されているものの、細胞含有移植片材料の臨床での実現は遅れている。細胞を細胞成長基質と結合させてこれらが患者の体内で生き残り多くの場合は増殖するようにするための、より簡便および/または有効な方法または材料が必要とされている。本発明は本発明のある局面においてこれら需要に応える。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、その実施の形態のいくつかにおいて、患者に投与するための細胞含有移植片材料の調製に有用な方法、細胞成長基質、および装置を提供する。本発明の細胞成長基質は、この基質と細胞懸濁液との結合を強化することができる特徴を含み得る。ある実施の形態において、このような特徴は、細胞成長基質内に定められ細胞懸濁液を基質に投与している間の細胞の分散を促進する、筒状通路を含む。本明細書に開示されるさらなる実施の形態は、細胞が播種された流動性マトリクス移植片組成物を調製するための方法および装置、細胞組成物を細胞成長基質に適用する前にこの基質をプレコンディショニングするための方法および装置、細胞組成物と、たとえば細胞を基質材料の体積全体に分散させるための特徴を含む基質材料とを結合させることにより、細胞が播種された移植可能な移植片を調製するための、自動化された方法および装置、ならびに、粒状形態の細胞成長基質およびこれを用いて流動性細胞移植材料を調製することに、関する。
【0007】
ある特定の実施の形態において、細胞の成長をサポートするための細胞成長基質が提供される。この細胞成長基質は、少なくとも1つの細長い筒状通路を含み、この細長い筒状通路は管腔を定める通路壁を有し、この管腔は、細胞成長基質本体の表面にある第1の管腔開口から細胞成長基質の内部領域内に延びる。この管腔は、細胞含有液体培地の流れを
受けて細胞を細胞成長基質の内部領域内に分散させるように構成してもよい。細胞成長基質は細胞成長マトリクスでもよい。この基質は、コラーゲンを含んでいてもよく、および/または基質の外側にあり管腔開口に流動結合された合成ポリマー筒状要素も含んでいてもよい。基質は複数の筒状通路を含んでいてもよい。上記少なくとも1つの筒状通路は、少なくとも1つの一次筒状通路と、一次筒状通路から分岐した少なくとも1つの二次筒状通路とを含んでいてもよい。基質は、リモデリング可能なコラーゲン性細胞外マトリクスシート材料を含んでいてもよく、シート材料は、このシート材料のための動物ソース組織由来の成長因子、グリコサミノグリカン、および/またはプロテオグリカンを保持していてもよい。
【0008】
別の実施の形態において、上記段落に記載されたもののような細胞成長基質を細胞の液体懸濁液のソースに接続するステップであって、この接続するステップは、上記細長い通路を上記ソースの輸送管腔と流動連結することを含む、細胞が播種された材料を調製するための方法が提供される。この方法はまた、ある量の細胞の液体懸濁液を輸送管腔を通して細長い通路の中に輸送することにより、細胞を基質の内部領域に送達するステップを含む。この接続するステップは、細胞の液体懸濁液のソースに流動接続された投入チューブを有する細胞播種チャンバに基質を挿入し、投入チューブを基質の第1の管腔開口に流動結合するステップを含んでいてもよい。
【0009】
さらなる実施の形態において、患者に送達するための細胞が播種された組成物を調製するための方法が提供される。この方法は、細胞外マトリクスの粒子と液体培地とを含む流体細胞外マトリクス粒状組成物を液体細胞懸濁液と結合させて細胞流体組成物を形成するステップとを含む。この方法はまた、細胞流体組成物を混合するステップおよび/または細胞流体組成物をゲル化するステップを含んでいてもよい。このゲル化するステップは、細胞流体組成物のpHを変えるステップおよび/または細胞流体組成物の温度を変えるステップを含んでいてもよい。
【0010】
さらなる実施の形態は、細胞移植片を調製し投与するための方法を提供する。この方法は、血清タンパク質組成物を、患者に投与するのに適した生体適合性基質に適用することにより、血清タンパク質組成物と生体適合性基質とを含むプレコンディショニングされた基質を調製するステップを含む。プレコンディショニングされた基質に細胞を加えることによって細胞移植片を調製し、この細胞移植片を患者に投与する。血清タンパク質組成物を適用するステップは、この組成物を吹付けにより適用するステップを含んでいてもよい。細胞を加えるステップは、液体細胞懸濁液をプレコンディショニングされた基質に吹付けるステップおよび/または液体細胞懸濁液を基質の筒状通路の中に流すステップを含んでいてもよい。
【0011】
別の実施の形態において、マトリクスに細胞を播種するための装置が提供される。この装置は、細胞の液体懸濁液を収容するための第1のチャンバと、細胞が播種される細胞成長マトリクス材料を収容するための第2のチャンバとを含む。この播種装置はさらに、ある量の細胞の液体懸濁液を第1のチャンバから第2のチャンバに移送するための通路と、細胞の液体懸濁液の少なくとも1つの状態を検出するための装置と、ある量の細胞の液体懸濁液を第2のチャンバに収容されているマトリクス材料に適用するための適用装置とをさらに含む。この適用装置は、少なくとも1つのスプレーノズル、または、管腔を有する少なくとも1つのカニューレを含んでいてもよい。播種装置はまた、スプレーノズルまたはカニューレを移動させるための機構を含んでいてもよい。適用装置がカニューレを含む場合、上記移動させるための機構は、液体細胞懸濁液を最遠位端開口といったカニューレの開口から分散させている間にカニューレを近位方向に後退させるように機能してもよい。播種装置はまた、マトリクス材料を、適用装置に対して予め定められた位置で保持するための位置合わせ構造も含んでいてもよい。播種装置はまた、第2のチャンバに付随し、
かつ、適用装置によって細胞をマトリクス材料に適用した後マトリクス材料内での細胞の分散を容易にするように機能する、分散支援装置を含んでいてもよい。この分散支援装置は、マトリクス材料に磁界を発生させるように機能してもよく、第2のチャンバに収容された液体に流れを生じさせるように機能するミキサであってもよく、第2のチャンバ内で圧力傾斜を発生させるように機能してもよく、第2のチャンバに収容された細胞成長基質を動かすように機能してもよく、および/または第2のチャンバを回転させて細胞を少なくとも部分的に遠心力によって細胞成長マトリクス材料内で分散させるように機能してもよい。ミキサがある場合、流れを生じさせるように機能するミキサは、第2のチャンバに収容された液体の中でパルス状の双方向の流れを生じさせるように機能してもよい。
【0012】
さらなる実施の形態は、流動性の、細胞が播種された移植片を調製するための装置を提供する。この装置は、細胞の液体懸濁液を含む第1のチャンバと、細胞の液体懸濁液が流動性細胞成長基質材料と結合することによって、流動性の、細胞が播種された移植片材料を形成できるように、第1のチャンバに流動接続され、細胞が播種される流動性細胞成長基質材料を含む第2のチャンバとを含む。この装置はまた、流動性の、細胞が播種された移植片材料を混合するように機能するミキサを含む。このミキサは、上記流動性の、細胞が播種された移植片材料の流路の中に配置された静止ミキサ、または回転ミキサを含んでいてもよい。第1および/または第2のチャンバは通路であってもよい。
【0013】
別の実施の形態において、ヒトの患者を含む患者を治療するための細胞が播種された基質を調製するための方法、および場合によってはその患者を治療するための方法が提供される。この方法は、患者の組織サンプルを処理してその患者の細胞の懸濁液を得るステップと、細胞成長基質を細胞播種装置のインキュベーションチャンバ内に入れるステップとを含む。この方法はまた、細胞播種装置の動作を開始させるステップを含み、この動作により、細胞の懸濁液の少なくとも1つの状態を検出し、懸濁液の細胞を細胞成長基質と結合させることにより、細胞が播種された基質を形成する。患者を治療するための方法において、この方法は、細胞が播種された基質を患者に投与するステップも含む。
【0014】
細胞を第1の粘度を有するゲル化可能な組成物と混合することによりゲル化可能な細胞混合物を形成するステップと、ゲル化可能な細胞混合物を細胞成長基質に適用するステップとを含む、細胞が播種されたマトリクスを調製するための方法も提供される。この方法はまた、ゲル化可能な細胞混合物をゲル化して上記細胞成長基質と接触する細胞ゲルを形成するステップを含む。このゲルは第1の粘度よりも大きい第2の粘度を有していてもよい。上記混合物のゲル化は、たとえば混合物のpHを変化させる(たとえば上げるまたは下げる)および/または混合物の温度を変化させる(たとえば上げるまたは下げる)ことを含む任意の適切な方策またはその組合せによって生じさせてもよい。この混合物を基質と接触させることにより、基質の外面上に層を与えることができ、および/またはこの混合物を基質全体(たとえば基質が多孔質の場合)または基質の少なくとも一部において実質的に均質的に分散させることができる。その後の混合物のゲル化によって、外部に細胞化されたゲル層が与えられる、および/または細胞化されたゲルが基質の全体または一部に実質的に均質的に分散する。
【0015】
さらなる実施の形態において、細胞外マトリクス基質材料と、基質材料に適用されたコラーゲン性ゲルと、基質材料に、ゲルに、またはこれら双方に付着した細胞とを含む、細胞が播種された移植片が提供される。コラーゲン性ゲルは、天然コラーゲンと、細胞外マトリクス水解物のためのソース組織由来の少なくとも1つのさらなる天然生物活性物質とを含む、細胞外マトリクス水解物からなるものであってもよい。上記少なくとも1つのさらなる天然生物活性物質は、成長因子、グリコサミノグリカン、および/またはプロテオグリカンを含んでいてもよい。
【0016】
さらなる実施の形態は、ヒトの患者を含む患者を治療するための細胞移植片を調製するための方法、および場合によってはその患者を治療するための方法を提供する。この方法は、患者から血清を採取するステップと、患者の組織サンプルを処理することにより患者の細胞群を得るステップとを含む。この方法はさらに、血清をマトリクス基質に適用することにより、血清がプレコンディショニングされたマトリクス基質を調製するステップと、細胞群をプレコンディショニングされたマトリクス基質に適用することにより、細胞移植片を形成するステップとを含む。患者を治療するための方法において、この方法は、細胞移植片を患者に投与するステップも含んでいてもよい。
【0017】
さらに他の実施の形態において、患者を治療するための材料を調製する方法、および場合によってはその患者を治療する方法も提供される。この方法は、細胞の懸濁液を粒状細胞成長基質と結合させるステップと、細胞の数が大幅に増えない程度の期間および条件で、粒状細胞成長基質と接触させて細胞の懸濁液をインキュベートすることにより、粒状細胞成長基質の粒子に付着した細胞を有する、細胞化された粒状体を形成するステップとを含む。患者を治療するための方法において、この方法は、細胞化された粒状体を患者に投与するステップも含んでいてもよい。いくつかの形態において、この方法のインキュベートするステップは、懸濁液内の細胞の少なくとも20%は粒子に付着するが細胞の数は増えない程度の期間および条件で行なわれてもよい。
【0018】
別の実施の形態は、患者を治療するための細胞移植片を提供し、場合によっては、患者をこの細胞移植片で治療するための方法におけるおよび/または患者の治療のための材料を製造するための方法におけるこの細胞移植片の使用も提供する。この細胞移植片は、細胞外マトリクス粒子に付着した細胞からなる、細胞化された粒状体を含む。治療に使用する場合、細胞移植片を患者の体内に導入してもよい。
【0019】
別の実施の形態は、粒状細胞成長基質材料と、細胞成長基質材料の粒子に付着した細胞とを含む細胞移植片材料を提供する。細胞は、血管内皮前駆細胞、筋肉由来細胞、またはその組合せを含む。粒子は、動物ソースから分離させられ任意で処理されることにより内因性成長因子、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンを保持する、天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子であってもよい。このような天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子は、シート材料を粉砕することによりランダムに発生した粒子を形成することによって、および/またはシート材料を切断して規則的な形状(たとえば円形、卵型および/または多角形)の粒子を形成することによって、調製してもよい。
【0020】
さらなる実施の形態は、細胞外マトリクス材料からなるフィラメントと、フィラメントに付着した細胞群とを含む細胞移植片を提供する。フィラメントは、動物ソースから分離させられ処理されることにより内因性成長因子、グリコサミノグリカン、および/またはプロテオグリカンを保持する、天然由来細胞外マトリクスシート材料のセグメントであってもよい。
【0021】
別の実施の形態は、フィラメントの形態の細胞成長基質と、フィラメントに付着した細胞群とを含む細胞移植片を提供する。細胞は血管内皮前駆細胞を含む。この細胞移植片は、細胞の組織の血管新生のための方法を提供する本発明のさらなる実施の形態において患者の組織内に導入してもよい。
【0022】
別の実施の形態は、細胞移植片を調製するための方法を提供する。この方法は、第1の細胞成長基質シートを調製するステップと、最初に、細胞組成物を第1の細胞成長基質シートの表面に適用することにより、第1の細胞播種面を形成するステップとを含む。上記最初の適用の後、この方法は、第2の細胞成長基質シートを前記第1の細胞播種面の上に積層するステップを含む。この方法は、次に、細胞組成物を第2の細胞成長基質シートの
表面に適用するステップも含んでいてもよい。
【0023】
別の実施の形態は、第1の細胞成長基質シートと、第1のシートの上に積層させた第2の細胞成長基質シートとを含む細胞移植片を提供する。この移植片はまた、第1のシートと第2のシートとの間にある、細胞が播種された層を含む。
【0024】
別の実施の形態は、細胞が播種された移植片を調製するための装置を提供する。この装置は、細胞成長基質を収容するためのインキュベーションチャンバと、ある量の懸濁液を供給するための複数のカニューレを含む、液体細胞懸濁液を細胞成長基質に適用するための適用装置とを含む。この装置は、上記ある量の懸濁液を複数のカニューレから供給している間にこれらカニューレを後退させるように構成してもよい。
【0025】
さらに別の実施の形態において、小型形状を有するシート形態細胞成長基質粒子を有する粒状材料を含む細胞成長基質組成物が提供される。いくつかの形態において、シート形態基質粒子の少なくとも25%は、シートの面で考えたとき、第1の最大断面寸法軸を有し、この最大断面寸法軸は、この軸に対して垂直でありかつこの軸を中心とする線上の第2の断面軸の長さの約2倍以下である。基質粒子の最大断面寸法は、約20ミクロン〜約2000ミクロンの範囲であってもよい。基質粒子は、動物ソースから分離させられ任意で処理されることにより内因性成長因子、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンを保持する、天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子であってもよい。このような天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子は、たとえばシート材料を切断して小型形状(たとえば円形、卵型および/または多角形)の粒子を形成することによって調製してもよい。
【0026】
別の実施の形態は、小型形状を有するシート形態細胞外マトリクス粒子を有する粒状細胞外マトリクス材料を含む細胞外マトリクス組成物を提供する。シート形態細胞外マトリクス粒子の少なくとも25%は、シートの面で考えたとき、第1の最大断面寸法軸を有していてもよく、この最大断面寸法軸は、この軸に対して垂直でありかつこの軸を中心とする線上の第2の断面軸の長さの約2倍以下であってもよい。細胞外マトリクス粒子の最大断面寸法は、約20ミクロン〜約2000ミクロンの範囲であってもよい。細胞外マトリクス粒子は、動物ソースから分離させられ任意で処理されることにより内因性成長因子、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンを保持する、天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子であってもよい。このような天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子は、たとえば、シート材料を切断することにより小型形状(たとえば円形、卵型および/または多角形)の粒子を形成することによって調製してもよい。細胞外マトリクス組成物はまた、粒子に付着した細胞を含んでいてもよく、この細胞は、いくつかの実施の形態では、粒子の外面の実質的に全体を覆いおよび/または粒子の表面上に実質的にコンフルエントな単一層を形成する。この細胞は、内皮細胞、血管内皮前駆細胞、またはその混合物を含んでいてもよく、および/またはクローンであってもよい。いくつかの形態では、細胞は、内皮細胞、血管内皮前駆細胞、またはその混合物からなるものであってもよい。
【0027】
別の実施の形態において、細胞成長基質材料と、細胞成長基質材料を封入し、基質材料を通して流体培地の流れを導くように構成された、封入材料とを含む、細胞成長基質物が提供される。この封入材料は、少なくとも第1の開口と、第1の開口から間隔をあけて設けられた少なくとも第2の開口とを定めるものであってもよい。
【0028】
別の実施の形態は、脂肪組織由来の混合された細胞群を含み、幹細胞、血管内皮前駆細胞、白血球、内皮細胞、および血管平滑筋細胞を含む、細胞移植片を提供する。この細胞移植片はまた、細胞外マトリクス材料からなる、および/または粒子の形態の、細胞成長
基質を含む。細胞外マトリクス材料は、細胞外マトリクス材料のためのソース組織由来の、保持された生物活性成分を含んでもよい。この保持された生物活性成分は、成長因子、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンであってもよい。使用されるとき、粒状細胞成長基質はシート形態粒子を含んでいてもよい。これらの目的のために、天然由来細胞外マトリクスシート材料からなるシート形態粒子は、たとえば、シート材料を切断することによりたとえば小型形状(たとえば円形、卵型および/または多角形)の粒子を形成することによって調製してもよい。
【0029】
さらなる実施の形態において、血管内皮前駆細胞群と粒状細胞成長基質とを含む細胞移植片が提供される。粒状細胞成長基質は、シート形態粒子を含んでいてもよく、および/または細胞外マトリクス材料を含んでいてもよい。細胞外マトリクス粒子は、これらの目的のために、動物ソースから分離させられ任意で処理されることにより内因性成長因子、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンを保持する、天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子であってもよい。このような天然由来細胞外マトリクスシート材料の粒子は、たとえば、シート材料を切断することにより小型形状(たとえば円形、卵型および/または多角形)の粒子を形成することによって調製してもよく、または、たとえばシート材料をランダムに粉砕することによって生成されたシート材料の破片であってもよい。
【0030】
別の実施の形態は、マトリクスに細胞を播種するためのシステムを提供する。このシステムは、これから細胞で播種される細胞成長基質と細胞を結合させるためのチャンバを含む。このシステムはまた、細胞の基質への付着を評価するための機構を含む。この評価するための機構は、細胞カウンタを含んでいてもよい。関連するマトリクス播種方法は、これから細胞で播種される細胞成長基質と細胞を結合させるステップと、細胞の基質への付着を評価するステップとを含む。治療方法において、上記方法はまた、付着した細胞が播種された基質を、ヒトの患者を含む患者に投与するステップを含んでいてもよい。
【0031】
本発明のさらなる実施の形態ならびにその特徴および利点は、本明細書におけるさらなる説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の原理の理解を促すために、そのいくつかは図面に示されている実施の形態を参照する。これら実施の形態については特定の表現を用いて説明する。しかしながら、これは本発明の範囲を限定することを意図しているのではないことが理解されるであろう。記載された実施の形態における任意の変更およびさらなる変形、ならびに本明細書に記載の発明の原理のさらなる任意の応用は、本発明に関連する技術の当業者が通常想到するものであると、考えられる。
【0034】
ここまでの開示されてきたように、本発明の局面は、細胞を基質材料と結合させることにより、患者に対する医療用移植組織としていくつかの実施の形態で使用可能な組成物を調製するための方法、材料およびシステムに関する。
【0035】
定められた内部通路を有する細胞成長基質
次に
図1〜
図8を参照して、細胞組成物と結合させて細胞含有移植片材料を形成するのに特に有用な細胞成長基質構造体のさまざまな実施の形態を示す。
【0036】
具体的に、
図1は、マトリクス基質20の側面図を示す。基質20は、好ましくは細胞成長をサポートするのに適した多孔性マトリクス材料からなる基質体21を含む。基質体21は内部に定められた通路22を含み、この通路は基質体21の内部領域に延在する。ここで示されている実施の形態20において、基質体21は第1のシート23および第2のシート24を含み、シート23は、シート23とシート24との間において通路22を定めるようにシート24に接続される。シート23およびシート24は、通路22を囲む領域において接続領域25に沿って互いに接続される。接続領域25は、たとえば、接着、融着、糊付け、架橋、縫合、または他の方法によって、シート23およびシート24の対向する面同士を密に接続したものであってもよい。したがって、筒状通路22は、シート23の面によって定められた部分26と対向するシート24の面によって定められた部分27とを有する通路壁を含む。ここで示されている実施の形態では、領域26および27は、おおむね丸くされ、実質的に円形または卵型の断面を通路22に与えている。多角形のまたは不規則な断面形状を有する通路を含めて他の構成も適切であることが理解されるであろう。接続領域25は、通路22の管腔において終端領域28および29を有する。終端領域28および29はしたがって、通路22の壁に沿う継ぎ目として生じ得る。
【0037】
基質20を調製するためには、1つまたは複数の通路形成要素を、シート23とシート24との間に配置し、次に、これらのシートを接続領域25において互いに接続することにより、これらシートの間に上記1つまたは複数の通路形成要素を挟めばよい。上記のように、この接続は、接着、融着、糊付けまたはその他の方法によるものでよい。通路22が基質20の最外端で開口していることが望ましい場合、1つまたは複数の通路形成要素
は、シート23および24を重ねたときにこれらのシートの最外端までまたはこの最外端を越えて延びることにより最終製品において上記開口を提供するものであってもよい。このような調製の方法において、1つまたは複数の通路形成要素は、シート23とシート24との間において空間を維持することにより通路を完成品に与えるのに適した、ロッド、棒、櫛型構造、ワイヤ、筒、またはその他任意の要素であってもよい。1つまたは複数の通路形成要素が接続領域25の形成後に除去される実施の形態においては、通路形成要素の外面が、シート23および24の対向する面同士が互いに張付かないようにまたは結合しないようにするのに足りるものであることによって、接続領域25の形成後通路22を傷つけずに通路形成要素を除去できることが、望ましい。
【0038】
いくつかの実施の形態において、通路形成要素またはその少なくとも一部は、最終製品の中に残されたままである。次に
図2を参照して、1つのこのような実施の形態が示されている。基質30は、マトリクス20と同じ特徴を含み、通常は同じやり方で構成できる。したがって、基質30は、本体31と、本体31の内部領域への通路32と、互いに接続されたシート33および34とを含む。加えて、基質30の中には、シート33と34との間に収容された筒状要素35が残されている。筒状要素35は、生体適合性ポリマーまたは他の適切な材料で作られていてもよく、基質30内に残されたままで患者に移植されてもよい。筒状要素35は、難分解性ポリマー(非生体吸収性)または生体吸収性ポリマーを含むものであってもよい。いくつかの実施の形態において、筒状要素35は、生体吸収性ポリマーを含み患者への移植後に完全に吸収されるものであってもよい。基質30の製造においては、筒状要素35をシート33と34との間に置き、次に、これらシートを基質20(
図1)について述べたように接続すればよい。これに代えて、基質20のような要素をまず調製し、その後、筒状要素を通路22に挿入してもよい。筒状要素35は、多孔性の壁、またはその壁における穴もしくは穿孔を含むことにより、流動性細胞懸濁液が筒状要素35の壁を通過し周囲にある、移植片本体31の領域に入ることができるようにするものであってもよい。いくつかの形態において、筒状要素35は、水性細胞懸濁液に対する吸収性が本体31の材料よりも低いことによっておよび/または濡れたときに本体31の材料よりも堅い状態を保つことによって開放された通路を維持する材料で構成され、したがって、水性細胞懸濁液の流れを通路32に沿って一層良好に送ることによりこの液が基質31の内側領域に到達するようにできる。筒状要素35の多孔性または穿孔を制御することによって、水性細胞懸濁液の流れを通路32の中に投入したときの濡れ性および基質31の細胞播種を最適にできる。
【0039】
次に
図3を参照して、
図1の基質要素20の上面図が示されている。通路22は架空の線(点線)で示されている。示されている基質20は、おおむね平行な側面40および41からなる第1の対とこれらに対して垂直であるおおむね平行な側面42および43からなる第2の対とを含む、おおむね矩形の構造である。通路22は、基質20の側面40において露出した開口を有する。示されている実施の形態の通路22は、めくら穴であり、本体21の内部において、本体21の側面41から距離「d」だけ離れた位置にある終端44を有する。このようにして、水性細胞懸濁液のような流体組成物を、側面40から通路22の中に通すことができ、この流体組成物は、通路22によって反対側41まで運ばれることはない。これにより、流体圧力を通路22の中で生み出すことにより、より速やかに基質プレコンディショニング培地のような細胞懸濁液および/または別の流体を、本体21の隣接領域の中に分散させることができる。いくつかの使用モードでは、めくら穴通路22に対し、側面40にある通路22の開口を通して導入された流体から圧力が加わることにより、この流体および溶解または懸濁した(たとえば細胞)材料を、本体21の体積の中におよびこれを通して流すことができる。
【0040】
図4〜
図8を参照して、内部通路を定める基質要素の代替の実施の形態が示されている。具体的には
図4を参照して、通路が基質の第1の縁から第2の縁まで全体的に延びてい
ることを除いて
図1および
図3の基質20と同様の特徴を有する細胞成長基質50が示されている。具体的に、基質50は、第1の側面52と、側面52に対しておおむね平行である第2の側面53と、第3の側面54と、側面54に対しておおむね平行である第4の側面55とを有するおおむね矩形の本体51を含む。基質50は、本体51の材料を通して延びる複数の通路22を含む。通路22は、基質50の側面52における第1の開口56群と、側面52の反対側の基質50の側面53における第2の開口57群とを有する。このようにして、通路22は、基質本体51において間隔があいた場所であって示されている実施の形態では対向する側面52および53にある、開口56および57を示す。細胞を含む流動性組成物を開口56から開口57まで通路22を通して流すことにより、細胞が本体51の材料を通りこれに接触し付着するようにして、基質50に細胞を植付けることができる。
【0041】
図5を参照して、第1の組の通路と第2の組の通路が交差していることを除いて
図4の基質50と同様の細胞成長基質60が示されている。したがって、基質60は、第1の側面62、第2の側面63、第3の側面64、および第4の側面65を有する基質本体61を含む。基質60は第1の複数の通路22を含み、これら通路は、本体61の側面62における開口66と本体61の側面63における反対側の開口67とを有する。基質60は第2の複数の通路68を含み、これら通路は、本体61を通して、通路22の方向を横断する方向に、示されている実施の形態では通路22の方向に対して実質的に垂直に延びている。通路68は、側面64にある開口69と、側面65にある対向する開口70とを含む。いくつかの実施の形態では、通路68は、通路22に流動結合され、本体61全体に分散している通路交点71で通路22と交差する。使用時には、細胞組成物を通路22および通路68を通して流すことによって、基質60に細胞を植付けることができる。この点に関し、流体細胞組成物は、通路22および68に、同時に流しても時間をずらして流してもよく、または、細胞植付け作業中においてこれらを組合せて流してもよい。通路22および68が互いに交差ししたがって流動結合される実施の形態では、細胞組成物またはその他の流体を通路22および68に同時に流すことにより、交点71において、乱流、渦、または通路22にも68にも一致しないベクトルに沿う実際の流れの部分的な方向変化といった、流体の流れの状態を生じさせることができる。これにより、容易に流体を通路から外に出して基質本体61を構成する周囲の材料の体積の中に流すことができる。これにより、細胞またはその他の物質を、基質本体61の体積を通して、より速やかにまたは効率的に分散させることができる。
【0042】
図6を参照して、一般的なマニホールド構造によって与えられる複数の通路22を有する細胞成長基質80が示されている。具体的には、基質80は本体81を含み、本体81には、この本体を通して延びる複数の通路22がある。共通する供給通路82は複数の通路22に流動結合する。共通する供給通路82は、本体81の外部に対する開口84を有する投入通路83に流動結合される。通路22は各々、本体81の外部に対する開口85を有する。使用時には、細胞組成物といった流体を、開口84を通して投入経路83の中に流すことができ、そうすると、流体組成物は共通する通路82の中に流れ、これが、流体組成物を通路22の中に流しこれを通して分散させ、流体組成物は開口85を介して外に出る。このようにして、流体細胞組成物またはその他の組成物を基質80を通して循環させ場合によっては再循環させることにより、基質に細胞を植付けることができる。本明細書に記載の他の実施の形態と同様、このためには、通路22および場合によっては通路82および83もこの組成物に対する透過性を有することによって、この組成物が隣接する本体81の体積の中に流れ出すようにすればよい。
【0043】
次に
図7を参照して、別の細胞成長基質90が示されている。基質90は、本体91と、第1、第2、第3および第4の側面92、93、94、95とを含む。本体91は、本体91の材料を通して延び、第1の外部開口97とこれに対して間隔があいた位置にある
第2の外部開口98とを有する曲がりくねった通路96を含む。示されている実施の形態において、曲がりくねった内部通路96は、第1の屈曲部99とその反対側にある第2の屈曲部100とを含み、屈曲部99および100は反対方向に位置する。おおむね直線状の通路部分101は、屈曲部99と100とを互いに接続する。このように、曲がりくねった通路96は、開口97から開口98にかけて、概ね繰返される正弦波の形状を有する。細胞を含有する流体を開口97から曲がりくねった通路96を通して開口98へと循環させ、その間に、細胞および流体が通路96から出るようにすることによって、基質91の体積に細胞を播種することができる。
【0044】
次に
図8を参照して、上記基質90と共通する多くの特徴を有する細胞成長基質110が示されており、これら特徴には対応する番号が付されている。しかしながら、基質110は、一次通路116に流動結合されかつ一次通路116から出て延びている複数の二次通路122も含んでいる。二次通路の直径または断面積は、曲がりくねった通路116よりも小さい。したがって、二次通路122は、一次通路116を通る細胞流体の流れを受けて、この流体およびこの流体に伴う細胞の基質本体111における分散を助けることができる。
【0045】
図1および
図3〜
図8に示される細胞成長基質のさらなる実施の形態では、
図2に関して先に述べたように、別個の筒状要素が、定められた内部通路の一部またはすべてに収容されるようにしてもよい。加えて、好ましい実施の形態において、示された基質を調製するために使用されるシート(たとえば23および24)は、以下で説明するように、脱細胞化されたECM組織のシート、望ましくは天然(内因性)生物活性成分を保持するもので構成されていてもよい。また、
図1〜
図8に示される基質の本体は、多孔性スポンジまたは発泡体マトリクスからなるまたはこれで構成されるものであってもよい。この多孔性スポンジまたは発泡体マトリクスは、例として、たとえば本明細書に記載のもののうちいずれかのマトリクス形成材料を通路の周りにおいて鋳造することによって形成することができ、上記のようにこれをその後取出すかまたは最終製品の中に残すことによって通路を与えることができる。
【0046】
細胞/基質処理システムおよび方法
本発明のさらなる局面において、細胞を基質に自動的に播種するための装置が提供される。
図9は、自動化された細胞播種システム200のある実施の形態の概略図を示す。システム200は、任意で、未処理のまたは初期段階の組織サンプルを処理してこの組織サンプルから得られた単細胞懸濁液を与える未処理組織処理モジュール201を含んでいてもよい。処理モジュール201はしたがって、この目的に共通する1つ以上の機能として、たとえば、組織の物理的な破壊(たとえば液浸軟化)、組織の酵素(たとえばコラゲナーゼ、トリプシン)によりまたはその他の化学的切断、および/または組織もしくは細胞成分を食塩水もしくはその他適切な洗浄媒体で洗浄することを含む機能を果たすように動作してもよい。組織処理モジュール201はまた、たとえば、特定の細胞種または群の免疫化学的選択、分別、ろ過、沈降またはその他同様の作業を含む、細胞分離または濃度を高める工程を行なってもよい。モジュール201はまた、たとえば、成長基質または成長培地および細胞数を増すのに適切なインキュベート条件を提供する、細胞数増大のための特徴を含んでいてもよい。細胞懸濁液を提供する組織処理のためのシステムの例は、2005年2月3日に公開された米国特許出願公開US2005/0025755、2007年1月18日に公開された国際公報WO2007/009036、2008年1月17日に公開された米国特許出願公開US2008/0014181、および2006年7月29日に公開された米国特許出願公開US2006/0141623に開示されている。これら公報は各々、システム200のモジュール201で使用するのに適した単細胞懸濁液を得るための組織処理方法および機器を教示しているものとして、その全体が本明細書に引用により援用される。
【0047】
モジュール201から提供された細胞懸濁液は、導管202を介して細胞懸濁液チャンバ203に移される。細胞懸濁液の少なくとも1つの状態を検出するための装置204が、場合によっては細胞懸濁液を基質に与える前に調節するため、および/または細胞懸濁液を基質に与えるためのパラメータを最適化するための入力を与えるために、設けられる。たとえば、装置204は、チャンバ203内の細胞懸濁液における細胞の濃度を求めるように機能できるものであってもよく、かつチャンバ203に機能的に付随する。非制限的な例として、装置204は、細胞が液体で満たされたチャネルを通過している間のこのチャネルの電気抵抗の変化に基づいて細胞カウント値を得るコールターカウンタのような細胞カウント装置であってもよい。この抵抗の変化は電流または電圧パルスとして検知することができ、これを細胞懸濁液内の細胞の濃度と関連付けることできる。装置204はまた、レーザを用いて前方への光の分散といった光の分散を利用して細胞の濃度の値を算出する装置であってもよい。また、装置204は、流動細胞分析法(flow cytometry)用いて細胞懸濁液内の細胞の濃度を求める装置であってもよい。細胞濃度を測定するための他の手段は当業者にとって明らかであろう。また、細胞濃度を測定するための特定の手段は本明細書に開示されているシステムおよび方法にとって極めて重要なものではないことが理解されるであろう。
【0048】
細胞濃度の解析を容易にするために、装置204は、解析のために導管205を介して細胞懸濁液のサンプルを抜取ることができる。任意で、装置204は、チャンバ203内の細胞懸濁液に望ましくない汚染が生じないのであれば、この細胞サンプルを解析後に導管206を介してチャンバ203に戻してもよい。汚染が生じるのであれば抜取ったサンプルは廃棄ライン(図示せず)を介して破棄すればよい。装置204および/またはチャンバ203は、導管205、206を通して細胞サンプルを移動させるのに適したバルブおよび任意のポンプ(図示せず)を含んでいてもよく、これは当業者には明らかであろう。このようなバルブおよび/またはポンプは、以下でより詳細に述べるように、プロセスコントローラ229によって制御されてもよい。
【0049】
システム200はまた、導管208を介してチャンバ203に流動結合された処理培地ユニット250を含んでいてもよい。システム200内において流体培地を移送するための他のすべての導管と同様、導管208を、任意のバルブ(図示せず)と、流体を培地ユニット250からチャンバ203に移送するための動力を与えるように機能するポンプ209とに、付随させてもよい。ポンプ209は、システム200のさまざまなチャンバまたは他の構成要素のうちいくつかまたはすべての間において流体を移送するための動力を1つのポンプが与える、共有ポンプ機能によって提供されてもよいことが、理解されるであろう。したがって、システム200に関しては別個のいくつかのポンプについて述べているが、これらポンプ機能はシステム200の機能の中で共有されるものであっても別々のものであってもこれらを組合せたものであってもよいことが理解されるであろう。このようなバルブおよび/またはポンプは、以下でより詳細に説明するプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。処理培地ユニット250は、モジュール201から与えられた細胞懸濁液組成物を加工または処理するためのさまざまな培地のうちいずれかを含むまたはいずれかで満たされた1つ以上のチャンバを含んでいてもよい。これら培地は、例として、たとえば細胞増殖相の異なる段階に対する異なる培地を含め、細胞成長基質に適用するための準備を細胞に対して行なうための、洗浄媒体、細胞培養培地、またはその他の材料を含み得る。
【0050】
システム200はまた、導管211を介して第1の細胞懸濁液チャンバ203と流動連通する最適化細胞調合チャンバ210と、任意のバルブ(図示せず)と、付随するポンプ212とを含む。このようなバルブおよび/またはポンプ212は、以下でより詳細に述べるようにプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。このように、チャン
バ203において何らかの初期処理を行なった後、細胞懸濁液組成物を、ポンプ212の動作によって導管211を通して移送することによって、さらなる処理のためにチャンバ210に移送してもよい。チャンバ210内の最適化された細胞調合物内の細胞の濃度を求めるための装置213が設けられる。装置213の設計は上記装置204と同様であってもよい。導管214は、細胞懸濁液組成物のサンプルをチャンバ210から解析のために装置213に移送するのに役立つものであってもよい。導管215は、任意で、適切であればサンプルをチャンバ210に戻すために設けてもよい。上記のようにその代わりにサンプルを解析後に廃棄ラインを介して廃棄してもよい。
【0051】
調合培地ユニット216は、導管217を介してチャンバ210に流動結合される。ユニット216の1つ以上のチャンバからチャンバ210への材料の移送は、任意のバルブ(図示せず)およびポンプ218によって容易になるようにしてもよい。このようなバルブおよび/またはポンプ218は、以下でより詳細に述べるようにプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。調合培地ユニット216は、細胞懸濁液と組合される、生理学的に患者に投与可能な材料を含んでいてもよい。調合培地は、たとえば、食塩水、細胞培養培地、抗生物質といった薬物、分化または休止といった特定の細胞反応を禁止するように設計された物質、または他の材料を含み得る。ある用途では、装置213を、チャンバ210内の細胞懸濁液の細胞濃度を求めるために使用する。細胞の濃度が細胞成長基質に与えるのに望ましい濃度よりも高い場合、調合培地をチャンバ216から追加して細胞懸濁液を希釈することにより、所望の細胞濃度を得てもよい。追加する調合培地の体積は、チャンバ210内の組成物の全体積および装置213によって求められた細胞濃度に基づいて算出してもよい。細胞成長基質に与える、最適化された細胞調合物にとって有益な細胞濃度値は、約10
5〜約10
8細胞/mlの範囲でもよいが、他の濃度を使用してもよい。これとは異なり細胞濃度が所望の濃度よりも低い場合、たとえばある量の培地を取除くことによって細胞濃度を高めるための手段と、チャンバ210とを、機能的に関連付けてもよい。ある実施の形態では、チャンバ210からの出口238にフィルタ239を設けてもよく、このフィルタの穴の大きさとして、細胞は通さないが細胞懸濁流体培地は通す大きさが選択される。任意のバルブ(図示せず)およびポンプ240を設けて、ある量の細胞懸濁液をこのフィルタに抵抗して押すまたは引くことにより、ある量の流体培地を選択的にチャンバ210から除去して、チャンバ210内の細胞懸濁液を濃縮してもよい。必要であれば振動装置241を与えることによって振動をフィルタに与え作業中フィルタが細胞で詰らないようにしてもよい。これに加えてまたはその代わりに、このシステムを適切なポンプおよび/またはバルブで構成することにより、上記フィルタを通して液体を逆流させることにより、フィルタを逆流モードで洗浄してもよい。このような機能およびそれに伴う値、ポンプ240および/または振動装置241は、以下でより詳細に述べるようにプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。出口238を介してチャンバ210から除去された材料は、たとえば廃棄ユニット(「W」)に送られてもよい。必要に応じ、廃棄ユニットWは、チャンバ203にまたはシステム200内の他の流体ソースにも流動結合されて、このチャンバまたは流体ソースから1つの廃棄チャンバまたは別々の廃棄チャンバへの廃棄物を受けてもよい。先に開始された濃度測定の結果、またはそうでなければチャンバ210に培地を導入したもしくはチャンバ210から培地を除去した結果として、チャンバ210内の細胞濃度を高めるまたは下げる調節を行なった後、さらなるサンプルを抜取って装置213に入れて評価することにより、細胞懸濁液が所望の濃度範囲にあることを確認してもよい。必要に応じてさらに調節を行なうことにより、所望の細胞濃度を得てもよい。細胞懸濁液が所望の細胞濃度を有することが確認された後、細胞懸濁液を、チャンバ210から適用装置221に、任意のバルブ(図示せず)を用いポンプ220による動力の供給を受けて移送することができる。このようなバルブおよび/またはポンプ220は、以下でより詳細に述べるようにプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。
【0052】
適用装置221は、細胞懸濁液組成物を播種チャンバ222内に収容されている細胞成長基質223に与えるためのさまざまな装置のうちいずれかでよい。適用装置221は、動作中静止していてもよく、または、動作中、静止していれば実現可能なより広い面積または体積に材料を与えるように移動できるものであってもよい。適用装置221は、以下でより詳細に述べるようにプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。ある実施の形態において、適用装置221は、スプレー装置、たとえばインクジェットプリンタにおいて見られるのと同様のスプレーノズルまたはジェットスプレー装置であってもよい。このようなスプレー装置は、静止位置から、または1、2、もしくは3次元で移動することにより、細胞懸濁液組成物を基質に対して噴射することによって、この組成物を基質に与えるように配置すればよい。別の実施の形態では、適用装置221は、静止位置から、または1、2、もしくは3次元で移動している間に細胞組成物を細胞成長基質223の表面におよび/またはその中に与える、少なくとも1つのカニューレおよび好ましくは複数のカニューレを有するカニューレ状装置であってもよい。いくつかの実施の形態は、細胞組成物を与えている間基質223に挿入される1つのカニューレまたは複数のカニューレを有するカニューレ状の適用装置223を取入れ、細胞組成物は、たとえばカニューレが基質223の体積内の遠位位置で挿入されてから抜取られている間にカニューレから押出される。特定の実施の形態において、このような適用装置は、細胞組成物を基質223に与えるための線形のまたは他のアレイの針を含む。さらに他の適用モードは当業者には明らかであろう。
【0053】
適用装置221は、望ましくは細胞組成物を実質的に均一に基質の表面にまたは基質の体積を通して与える。しかしながら、他の実施の形態では、適用装置221は基質のある部分に選択的に播種してもよく、したがって、適用装置221は、細胞組成物を基質223の特定領域に与えながら基質の他の領域には細胞組成物がない状態にしておくように構成してもよい。異なる種類の適用装置221を組合せてシステム200に組込んでもよく、この場合、たとえば、システムはスプレー適用装置およびカニューレ状適用装置双方を含む。
【0054】
本発明の特定の実施の形態において、システム200は、たとえば
図1〜
図8に示されるような基質である、細胞組成物の流れを受けるための内部通路を定める細胞成長基質の上および/または中に細胞を播種するように構成された適用装置221を有する。このような実施の形態の適用装置221は、望ましくは、少なくとも1つのカニューレ、好ましくは複数のカニューレを含む。ある実施の形態において、カニューレは、基質内に定められた通路(たとえば
図1〜
図8の通路22、68、83、84、96、および/または116)に流動結合され、ある量の細胞組成物をこの通路の中に送るように機能する。さらなる実施の形態では、カニューレは、適用装置221において、細胞成長基質の外側への通路の各開口に設けられ、この場合のカニューレは、このような開口に対応し、かつ位置合わせされる。細胞組成物を与えている間静止している適用装置221において、カニューレは、細胞組成物を圧力をかけて通路の中に導いてもよく、これにより、細胞組成物は、通路を通って流れ、通路の側壁から外に出て、周囲にある基質の材料の体積の中に入る。たとえば、
図4の間隔をあけて配置された開口56および57を有する基質の通路22、
図5の間隔をあけて配置された開口対66、67および69、70をそれぞれ有する基質の通路22および68、
図6の間隔をあけて配置された開口84および85を有する基質の通路83、84および22、ならびに、
図7および
図8の間隔をあけて配置された開口対97、98および117、118をそれぞれ有する基質の通路96および116といった、間隔をあけて基質に配置された開口を有する個々の通路を含む細胞成長基質の場合、適用装置221のカニューレは、各開口に流動接続されていてもよい。このような適用装置221は、たとえば、貫流モード、対向流モード、またはその組合せで機能してもよい。貫流モードでは、投入カニューレが、細胞組成物を通路への第1の開口の中に押出し、排出カニューレが、通路を通過し、投入された組成物の細胞の少なくとも一部を細胞成
長基質の中に置いた後の流体を受ける。対向流モードでは、投入カニューレが、細胞組成物を通路への第1の開口および第2の開口双方の中に押出し、投入された流れはそれぞれ通路において逆方向に流れる。このようにして通路の中で圧力を生じさせることにより、細胞流体を通路から押出して周囲にある基質材料の体積の中に入れることによって、簡単により均一な播種動作を行なうことができる。
【0055】
上記貫流モードでは、基質を通る細胞組成物の通路は1つだけであってもよいが、好都合な実施の形態は、排出カニューレが受けた材料を少なくとも1度基質通路に戻してさらに細胞を播種するように、実施されるであろう。これは、たとえば、排出された流体を集めて通路における流れを逆にすることによって、および/または排出された流体を再び同じ投入カニューレに導き基質の通路を通して排出カニューレに戻す再循環ループを設けることによって、実現してもよい。多くの実施の形態において、播種されていない細胞を含む元の排出流体を、複数回基質通路に戻して、細胞組成物の、より高い割合の元の細胞を、基質に播種することができる。
【0056】
この点に関しては、
図9とともに
図9Aを参照すると、この図は、
図4に示されるような内部に管がある細胞成長基質50に対する播種に有用な循環ループ適用装置221の1つの実施の形態を示している。適用装置221は、複数の投入カニューレ221aと複数の排出カニューレ221bとを有し、投入カニューレ221aは基質50の開口56に流動結合され、排出カニューレ221bは基質50の開口57に流動結合されている。投入カニューレ221aは投入マニホールド221cに設けられ、これは開口221eを有する内部投入マニホールド通路221dを定め、マニホールド通路221dはカニューレ221a各々に流動結合されこれに対する供給を行なう。開口221eは、チャンバ210から細胞組成物を供給する導管219(
図9)に流動接続されている。排出カニューレ221bは排出開口221hを有する内部排出マニホールド通路221gを定める排出マニホールド221fに設けられ、排出カニューレ221bは、排出マニホールド通路221gに流動結合されこれに対する供給を行なう。循環ループ221iは、投入マニホールド221cの投入開口221eと排出マニホールド221fの排出開口221hとを流動接続するように設けられる。コールター原理、光散乱、または流動細胞分析法を利用するカウンタのような細胞カウンタ221jを循環ループ221iに流動結合してもよい。細胞カウンタ221jは、上記のように、インラインでまたはサンプルを抜出して評価することによってループ221内で循環する流体における細胞濃度を求めることができる。任意のバルブ(図示せず)およびポンプ221kを設けて適用装置221における循環を促して基質50に播種する。このような細胞カウンタ221j、バルブ、および/またはポンプ221kは、以下でより詳細に述べるようにプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。
【0057】
使用時、バッチ操作で、連続的に、または間欠的に導管219から適用装置221の循環ループに供給された細胞組成物は、投入マニホールド221c、投入カニューレ221a、基質50、排出カニューレ221b、排出マニホールド221f、および循環ループ221iを通って繰返し循環する。この動作中に、細胞は基質50に播種されいくつかの細胞は循環する流体の中に残るであろう。細胞カウンタ221jを用いて、循環ループ221i内で循環している流体の細胞濃度を連続的にまたは周期的に求めることができる。最初に与えられた細胞のうち許容できる割合の細胞が基質50に播種されたことは、細胞カウンタ221jが検出する細胞濃度が所望のまたは予め定められた低い値に達したときに、システム200によって判断され、および/またはたとえば以下でより詳細に説明するプロセスコントローラ229を用いることによってユーザに伝えられる。その後、適用装置221内の循環を終了させてもよく、基質50を、直ちにまたはさらなるインキュベーションもしくは培養期間後に患者に投与するように調製してもよい。
【0058】
先に開示したように、他の実施の形態において、適用装置221は、細胞組成物を基質に適用している間動くように構成される。
図9と合わせて
図9Bを参照すると、(
図9Bの点線で示される)
図3の基質20または
図4の基質50のような管が予め設けられた細胞成長基質に細胞組成物を与えるのに有用な、このような1つの適用装置221が示されている。
図9Bの適用装置221は、投入マニホールド台221lに装着された複数のカニューレ221kを含む。投入マニホールド台221lは、投入開口221nを有する内部マニホールド通路221mを定め、マニホールド通路221mは、カニューレ221kに流動結合されこれに対する供給を行なう。投入開口221nは、システム200の導管219に流動接続され、これはチャンバ210からの細胞組成物を供給する。投入マニホールド台221lは、台の柱221oに装着され、この柱は、柱供給台221pの開口において、移動可能な状態で収容される。電気モータ、ソレノイド、またはその他の動力機構(図示せず)が、柱221oに機械的に結合され、好ましくは一定の速度でまたは別の予め定められたやり方で、柱221oを台221pを通して後退させることにより、マニホールド台221lおよびこれに関連付けられたカニューレ221kを引戻す動作を生じさせる。基質20、50は、この引戻す動作の間、基質20、50の周囲の少なくとも一部と係合するクランプ部材224aによって、または、適用装置221に対して位置合わせされた基質の位置を保つための他の適切な機構によって、最初の位置で安定して保持される(位置合わせ装置224に関する以下のさらなる説明参照)。カニューレ221kは、最初は基質20または50の通路22の中に収容されており、その遠位端はこの通路内における遠位位置にあり、自動化された引戻し動作が開始されると、その間に細胞組成物は予め定められた速度でポンピングされカニューレ221kの先端から押出される。このようにして、引戻す速度およびカニューレ221kからの流量を制御することにより、システム200は、細胞成長基質に所与の流動性細胞組成物を非常に効果的に播種できる。
【0059】
引続き
図9を参照して、上記のように、システム200は、細胞成長基質223を、適用装置221のまたはチャンバ222内の最初のまたは処理中の位置に対する予め定められた位置で保持するための、位置合わせ装置224を含んでいてもよい。このようにして、所望のやり方で細胞組成物を基質223に植付けるように装置221を確実に機能させてもよい。位置合わせ装置224は、たとえば、基質223の材料または形状と連携して基質223をチャンバ222内の適所で保持する、直立する壁、クランプ、ピン、またはその他の特徴を含み得る。さらに、基質223は、チャンバ222内に供給されている間位置合わせ装置224と協働する機械要素を備えていてもよい。たとえば、基質223は、一時的に装着される(移植不能な)または永久的に装着される(移植可能な)比較的堅いプラスチックのストリップまたはバーを有することにより、位置合わせ装置224の堅い構造体と確実に協働して、チャンバ222内で安定して配置されるようにしてもよい。播種後、移植の前に、このような機械要素は、移植することが意図されていなければまたは移植に適さなければ、基質223から外してもよい。
【0060】
システム200はまた、細胞を基質223全体にまたは基質223を通して分散させることを容易にするための分散支援装置225を有していてもよい。したがって、分散支援装置225は、チャンバ222内のおよび/または基質223上にある細胞組成物に力を加えるように機能するものであってもよい。分散支援装置225は、たとえば真空を生成して細胞組成物をしたがって細胞を基質223の厚みを通して引張ることによって細胞を基質223の中で一層均一に分散させるように機能してもよい。これに代えて、分散支援装置225は、永久磁石または電磁石といった磁石でもよく、基質223を囲む磁界を与えてもよい。これは、細胞に付随する磁性材料とともに、たとえば、細胞が付着するリポゾームを磁化するものであって、細胞を基質223を通しておよび/または基質223に沿って動かして分散させるために使用してもよい。これに代えて、分散支援装置225は、振動または回転といった動きを基質223に与えて、細胞組成物の基質223における
分散を支援するように機能してもよい。ある実施の形態において、分散支援装置225は高速回転を与えることによって求心力で細胞組成物を動かしてもよく、基質223は動かされる細胞組成物の経路に(たとえば水平面における回転の場合は実質的に鉛直方向のまたは直立する壁に沿って)配置すればよい。この仕組みを用いて細胞組成物を基質223に対して動かして基質223の中に入れることができる。たとえばパルス状および/または双方向性の流れをチャンバ222の中の液体に与えることができる装置225を含め、力を細胞組成物および/または基質223に加えることによりこれら2つの連結を強化するさらに他の装置225を用いてもよい。ある実施の形態において、シート状の基質223をチャンバ222内に置いてチャンバ222を第1および第2の体積に分割してもよく、第1および第2の体積は基板の部分を除いて互いに流体封止される。次に、分散装置225の助けを借りて圧力差を生じさせることにより指向性の流れをチャンバ222内に作ることによって、基質223に細胞懸濁液の貫壁性の流れを作り、細胞を基質223の上に、場合によっては基質223の中に分散させる。チャンバ222の機能はすべて、以下でより詳細に述べるプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。
【0061】
他の実施の形態において、たとえば本明細書に記載のものを含む細胞外マトリクス水解物またはゲル材料を、細胞とともにチャンバ222に入れ、固体の立体的に安定した細胞成長基質を、この水解物/ゲルおよび細胞の混合物の中で、これを含みながらもその中に完全に浸漬された状態で、インキュベートしてもよい。結合した材料は、本明細書に記載のように撹拌してもよい。上記固体の立体的に安定した基質は、好ましくは本明細書に記載の少なくとも1つの天然(内因性)生物活性成分またはその組合せを保持する、本明細書に記載のECM材料であってもよく、および/またはシート状、フィラメント状、糸状、または粒状であってもよい。本明細書に記載のように結合した材料をインキュベートした後で患者に投与してもよい。
【0062】
さらに他の実施の形態において、適用装置221は、本明細書に記載の1つ以上のカニューレを有していてもよく、このカニューレの排出開口は、スポンジ、発泡体またはその他同様の繊維状基質等の固体細胞成長基質223の体積の中に配置してもよい。次に、細胞流体を基質材料223の内部体積に注入してもよく、そうすると、この細胞流体は圧力を受けて基質223の外面に向かって(場合によっては基質の外面の外に)移動し、その途中で細胞を基質の中に植付ける。ある実施の形態において、カニューレおよびその/それらの開口ならびに基質223を、流体材料が基質223全体において基質内のほぼ中央の位置から全方向に向かって実質的に均一に流れるように構成することにより、容易に細胞を基質223内で均一的に分散させてもよい。
【0063】
本明細書に記載の基質223に対する播種および一定時間のインキュベートの間におよび/またはその後、システム200は、播種が行なわれた基質223を評価することにより、相当数の付着していない細胞が基質223の上またはその中に残っているか否か判断してもよい。これは、たとえば、基質223のすべてまたは一部に液体の検査パルスを流すことによって、付着していないまたは付着状態が悪い細胞を強制的に移動させた後、この液体パルスを収集して細胞の有無を評価することによって行なってもよい。この評価は、いくつかの実施の形態では定量的評価を含む。検査パルスは、たとえば、(以下でさらに説明する)培地ユニット226内のチャンバからライン227を介してチャンバ222に送ってもよく、または、別の独立したソースおよび供給ラインを設けてもよい。上記試験パルス液は、たとえば、生理食塩水、プレコンディショニング培地、細胞培養培地、または、基質223上の付着していないまたは付着状態が悪い細胞を移動させてから検出できるようにする他の液体であってもよい。ある実施の形態において、本明細書に記載のように、移動させた細胞を伴う収集されたパルス体積を、除去された細胞を検出器213に送ってもよく、この検出器はたとえばコールター原理を利用する細胞カウント装置または細胞をカウントする別の手段であってもよい。検査パルスによって過度に多い数の細胞が
移動させられた場合、基質223および細胞をさらなる期間インキュベートすることにより、細胞が付着するようにしてもよい。テストパルスにおいて収集された細胞がない場合または収集された細胞の数が十分に少ない場合、播種が行なわれた基質223をチャンバ222から取出して患者に投与してもよい。システム200は、任意で視覚信号および/または可聴信号といった信号を生成することにより、チャンバ222内の播種が行なわれた基質223は患者に投与できる状態であることを示してもよい。これら機能はすべて、以下でさらに説明するプロセスコントローラ229の指示に従うものであってもよい。
【0064】
システム200はまた、適用装置221に導管227を介して流動結合されポンプ228から動力を与えられる1つまたは複数のチャンバを有するプレコンディショニング培地ユニット226を含んでいてもよい。適用装置221は、細胞組成物およびプレコンディショニング培地を基質223に与えるという役目を共有してもよく、または、別の適用装置が組込まれていてもよい。プレコンディショニングユニット226は、基質223を前処理して細胞組成物を受けるためにコンディショニングするための培地を含み供給してもよい。チャンバ226内のプレコンディショニング培地は、たとえば細胞培養培地でもよく、または、細胞にとって有益なもしくは基質223を細胞の生存により適したものにするタンパク質もしくはその他の物質を含有していてもよい。ある実施の形態において、ユニット226内のプレコンディショニング培地は、システム200を用いて生成された細胞移植片を受ける血清、好ましくは患者由来の自家血清を含む。プレコンディショニング培地は適用装置221を用いて基質223に与えてもよい。任意で、プレコンディショニングユニット226またはシステム200のその他の構成要素が、基質の検査またはその他の作業のために他のプレコンディショニング培地による処理が行なわれた後で基質223をすすぐための材料を取入れてもよい。これら目的のために、ある実施の形態ではチャンバ222が廃棄ラインに接続されたドレーンを含んでいてもよい。
【0065】
システム200は、好ましくは自動化され、したがってプロセスコントローラ229を含み、このコントローラは、ポンプ、バルブ、温度制御ユニット、装置204および213といった検出器、適用装置221、分散支援装置225、およびシステム200のその他の構成要素といったシステム200内のさまざまな機構を制御することによって本明細書に記載の機能を実現するように動作することができる。プロセスコントローラ229は、システム200のさまざまな機構をすべて、完全に自動的にまたはユーザ制御を支援することにより制御するための、プロセッサに基づくシステムであってもよい。
図9には明確にするために示されていないが、プロセスコントローラ229は、コントローラ229が制御するまたは適切な入力および/または出力通信経路によって検知データをコントローラ229に与えるシステム200のさまざまな機構に結合される。これは当業者には明らかであろう。
【0066】
プロセスコントローラ229は、接続231を介して接続されたキーボードおよび/またはマウスといった電子ユーザ入力装置230を含んでいてもよい。接続233を介して接続されたディスプレイ232を設けて、状態エントリ、解析結果、ユーザに対する注意、および要望に応じた他の情報を、表示してもよい。接続243を介して接続されたプリンタ装置242を設けて、解析結果の印刷記録、細胞播種作業の現在の状況、および/または細胞播種作業中にシステム200が完了した作業の記録、および要望に応じた他の情報を、生成してもよい。これら装置は、ユーザ制御指示がプロセスコントローラ229に与えられてシステム200が必要に応じて現在の細胞播種作業のために動作するように、かつ、さまざまな形態の情報が表示、印刷され、またはユーザによって操作されるように、結合される。
【0067】
プロセスコントローラ229は、パーソナルコンピュータ、ワークステーションコンピュータ、ラップトップコンピュータ、パームトップコンピュータ、タブレットコンピュー
タ、計算機能を有する無線端末(たとえばウインドウズ(登録商標)CE、パームオペレーティングシステム等を備えた携帯電話または携帯情報端末(PDA))上で実現されてもよく、または、システム200に組込まれたマイクロコントローラで実現されてもよい。これら以外のコンピュータシステムアーキテクチャも採用できること、および、選択された特定のアーキテクチャは本明細書に開示されているシステムおよび方法にとって極めて重要なものではないことは、当業者にとって明らかであろう。
【0068】
一般的に、このようなプロセスコントローラ229は、コンピュータを用いて実現される場合、情報を伝達するためのバス、このバスに結合され情報を処理するためのプロセッサ、このバスに結合され情報およびプロセッサに対する命令を格納するためのメインメモリ、ならびに、このバスに結合され静的情報およびプロセッサに対する命令を格納するための読出専用メモリを含む。表示装置232はこのバスに結合されシステム200のユーザに対して情報を表示し、入力装置230はバスに結合され情報およびユーザの命令選択をプロセッサに伝える。デジタル情報を含むデータ記憶装置と通信するための大容量記憶装置インターフェイスも、ネットワークと通信するためのネットワークインターフェイスとともに、プロセスコントローラ229に含まれていてもよい。
【0069】
プロセッサは、インテル社(Intel Corporation)が製造するPENTIUM(登録商
標)、CORE(登録商標)およびXEON(登録商標)マイクロプロセッサ、IBM社(IBM Corporation)が製造するPOWER PCまたはPOWER ISA、サン社(Sun Corporation)が製造するSPARCプロセッサ等の、広範囲にわたる汎用プロセッサまたはマイクロプロセッサのうちいずれであってもよい。しかしながら、その他のさまざまなプロセッサも任意の特定のコンピュータシステムで使用できることは、当業者には明らかであろう。表示装置232は、液晶装置(LCD)、陰極線管(CRT)、プラズマモニタ、発光ダイオード(LEC)装置、またはその他適切な表示装置であってもよい。大容量記憶装置インターフェイスは、プロセッサがバスを介してデータ記憶装置のデジタル情報にアクセスできるようにする。大容量記憶装置インターフェイスは、バスに結合され情報および命令を送信するための、ユニバーサルシリアルバス(USB)インターフェイス、集積ドライブエレクトロニクス(IDE)インターフェイス、シリアルアドバンストテクノロジーアタッチメント(SATA)インターフェイス等であってもよい。データ記憶装置は、従来のハードディスクドライブ、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、フラッシュ装置(ジャンプドライブまたはSDカード等)、コンパクトディスク(CD)ドライブ、デジタル多目的ディスク(DVD)ドライブ、HD DVDドライブ、ブルーレイ(登録商標)DVDドライブ等の光学ドライブ、または別の磁気、ソリッドステート、または光データ記憶装置に、関連する媒体(フロッピーディスク、CD−ROM、DVDなど)を伴うものであってもよい。
【0070】
一般的に、プロセッサは、大容量記憶装置インターフェイスを用いてデータ記憶装置から処理命令およびデータを取出し、この情報を実行のためにランダムアクセスメモリにダウンロードする。次に、プロセッサはランダムアクセスメモリまたは読出専用メモリからの命令ストリームを実行する。入力装置230で入力された命令選択および情報を用いて、プロセッサが実行する命令の流れを導く。次に、この処理実行結果を用いてシステム200内のさまざまな機構を制御してもよい。
【0071】
プロセスコントローラ229は、表示装置232上で表示するためおよび/またはプリンタ242を駆動してハードコピーを印刷するための出力を生成するように構成される。好ましくは、表示装置232は、ユーザが表示された情報と対話できるようにするためのグラフィカルユーザインターフェイスでもある。
【0072】
プロセスコントローラ229はまた、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイド
エリアネットワーク(WAN)またはインターネットといったネットワークを介して1つ以上の外部システム(図示せず)と通信できるように構成されてもよい。プロセスコントローラ229および外部システムはともに、ウェブサーバとして、クライアントとして、またはウェブサーバおよびクライアントとして機能するように構成されてもよく、かつ、ブラウザによって使用可能にされてもよい。このように、システム200は、遠隔から情報アクセスおよび/または情報格納を行なってもよく、遠隔から制御および/またはモニタされてもよく、プロセスコントローラ229と他のシステムとの間でデータの交換が行なわれてもよい。
【0073】
細胞の移送作業中の損失を最小にするために、細胞懸濁液の処理において使用するチャンバの数はできる限り少ない方が望ましいであろう。このため、ある実施の形態では、システム200に最適化細胞調合チャンバ210およびこれに関連する検出器213を設けず、その代わりに、第1のチャンバ203内で細胞懸濁液を基質に与えるのに望ましい状態になるように処理してもよい。したがって、この代替の実施の形態において、点線で示されている導管234が、チャンバ203を適用装置221に流動接続する。導管234は、ポンプ235から動力を受けて、最適化された細胞懸濁液を装置221に移送してもよい。このより簡略化されたタイプのシステム200はまた、調合培地チャンバ216から細胞懸濁液チャンバ203への供給を行ないポンプ218によって動力が与えられる導管236を含んでいてもよい。したがって、細胞懸濁液組成物は、チャンバ250からの処理培地、およびチャンバ216からの調合培地を用いて、すべて1つのチャンバ203の中で処理してもよい。さまざまな培地を用いる後続の処理ステップのために、チャンバ203は、上記フィルタのような与えられた培地を除去するための手段、または、加工培地をチャンバ250および/または216から与えた後で液体を除去できるまたは細胞の濃度を高めることができる他の装置を備えていてもよい。チャンバ203内で細胞懸濁液組成物を処理および調節した後、装置204を用いて、この細胞懸濁液組成物の細胞濃度が所望の範囲内であることを確認してもよく、その後、この組成物を基質223に与えるために適用装置221に送ってもよい。取扱いおよび作業の便宜上、システム200は、本明細書に記載の構成要素のうちいくつかまたはすべてを収容するハウジング237を含んでいてもよい。
【0074】
図10を参照して、もう1つの自動化された細胞播種システム250の概略図が示されている。システム250を用いて流動性細胞移植片を調製してもよく、この流動性細胞移植片は、ある実施の形態では、貫通針、カテーテル、またはその他の経皮的導入送達装置といった低侵襲技術によって送達してもよい。システム250は、上記システム200(
図9)と共通する多くの構成要素を含み、これらは
図10において同じ番号が付されその説明を繰返す必要はない。他の構成要素に関しては、システム250は、粒状形態の基質、ゲル形態の基質もしくはその前駆物質材料、またはこれらの組合せを、場合によっては移植片のためのその他の材料とともに収容するための、細胞成長基質投入チャンバ251を含む。処理された細胞懸濁液組成物は、任意のバルブ(図示せず)を用いポンプ220から動力を受けて導管219を介してチャンバ251内の細胞成長基質と結合する。細胞および基質材料を含む、調製された組成物は、チャンバ251から、任意のバルブ(図示せず)を用いポンプ253から動力を受けて導管252を介した流れによって容器254に移送される。このようなバルブおよび/またはポンプ220および253は、プロセスコントローラ229によって制御されてもよい。容器254は、導管252に一時的に装着され流動接続されたチャンバ装置であってもよく、これを取外して細胞移植片材料をシステム250から搬送してもよい。容器254はしたがって、導管252に流動接続されたバイアル、袋、またはその他の容器でもよい。ある実施の形態において、容器254は、細胞移植片組成物またはその構成要素を患者に送るための送達装置を含んでいてもよい。1つの実施の形態において、容器254は、チャンバ、例としてシリンジバレルを含み、ここから、細胞移植片組成物は、流動結合された針、カテーテルまたはその他低侵襲装
置によって強制的に排出されて患者の組織に送られる。システム250は、このような容器254が導管252に流動結合して調整された流動性細胞移植片材料を受けることができるように容器254を挿入および係合させるための構造的係合機能を含んでいてもよい。
【0075】
チャンバ251は、チャンバ251内で材料を混合する装置255を備えていてもよい。装置255は、完全にチャンバ251の外に位置するがチャンバ251またはその部品に対して動きを与えてその中にある成分を混合する機構で構成されていてもよい。たとえば、このような装置は、振動器、攪拌器、渦発生器といった回転要素、または混合する成分のための流路に位置する静止混合器を含んでいてもよい。装置255はまた、パドル、撹拌棒またはインペラーといったチャンバ251内に位置する機構で構成されていてもよい。このような機構はモータまたはその他の手段によって駆動されてチャンバ251内に収容された流動性組成物をかき混ぜる。装置255はまた、磁気結合されたパドルを駆動する外部移動(たとえば回転)磁石、チャンバ251内の攪拌棒またはその他の要素のように、チャンバ251の内部の要素およびその外部の要素双方で構成されていてもよい。装置255はプロセスコントローラ229によって制御されてもよい。
【0076】
チャンバ251内に混合機能を与えることに加えて、システム250は、チャンバ251と関連付けられた熱制御装置256および/または容器254と関連付けられた熱制御装置257を含んでいてもよく、これら装置は上記チャンバおよび容器内のそれぞれの材料の温度を制御するように機能する。熱制御装置256、257はプロセスコントローラ229によって制御されてもよく、温度フィードバック測定値を与えて温度の管理を容易にする適切な温度検知要素を含んでいてもよい。熱制御装置256は、加熱要素および/または冷却要素であってもよい。あるモードでは、熱制御装置256を、チャンバ251内の材料の温度を制御することによりその粘度を管理するように機能させてもよい。一例として、チャンバ251内に収容される細胞成長基質組成物は、ゲル化可能な材料を含んでいてもよく、熱制御装置256は、ゲル化可能な材料が導管219から供給された細胞懸濁液と結合する前および結合している間はこの材料をゲル化していない状態で保つように、機能させてもよい。このようにして、基質材料の粘度がより低粘度の状態であることにより、細胞懸濁液材料との混合がさらに容易になるであろう。この用途において、温度の低下に伴って粘度が増大するゲル化可能な材料に対し、熱制御装置256は、チャンバ251内の材料を加熱するように機能する。この点に関し、加熱は、たとえば細胞が存在するときには約42℃未満の温度に加熱するといったように、細胞が熱によって大きな損傷を受けないように行なうことが望ましい。ある実施の形態では、基質組成物内のゲル化可能な材料として、37℃またはそれよりもわずかに高い温度でゲル化するものを選択する。細胞懸濁液と混合して実質的に均質的な組成物を得るために、ゲル化可能な材料を、そのゲル化点を上回る温度であるが細胞に大きな損傷を与える温度よりも低い温度(たとえば約42℃未満)で加熱してもよい。混合後、細胞/基質組成物を、患者に投与する前および患者に投与している間は、たとえば熱制御装置257を用いて、基質材料のゲル温度を上回る温度に保ってもよい。このようにして、この材料は、たとえば針またはその他のカニューレを用いて送達されている間は粘度がより低い(かつより流動性が高い)送達状態にされるが、患者(たとえば平熱が約37℃であるヒトの患者)に送達された後はゲル化しそれに伴って粘度が増す。こうすれば、送達された移植片材料を投与部位で維持し易くなる。これに代えて、混合されて実質的に均質的な状態にされた後で、細胞/基質材料が、患者の外で(たとえば装置256および/または257を用いた冷却によって)ゲル化するまたはゲル化させられることにより、粘度がより高い移植片として送達されてもよい。
【0077】
温度の上昇に伴ってゲル化するかそうでなければ粘度が増すゲル化可能な基質材料に対しては、熱制御装置256を、チャンバ251内の材料を冷却するように機能させてもよ
い。この点に関し、冷却は、たとえば約0℃よりも高い温度まで冷却するといったように、凍結による大きな損傷が細胞に生じないように行なうことが望ましい。ある実施の形態では、基質組成物内のゲル化可能な材料として、たとえばおおむね室温(約25℃)以下の温度といった、より低い温度に対し、約37℃という温度でゲル化するかそうでなければ粘度が増す材料を選択する。細胞懸濁液との混合により実質的に均質的な組成物を得るために、この材料を装置256を用いて冷却して粘度が低い状態を保ってもよい。混合後、細胞/基質組成物を、送達前および送達中は、熱制御装置256および/または257を用いて冷却状態に保ってもよい。このようにして、この材料は、たとえば針またはその他のカニューレを通して送達されている間はより流動性が高い状態にされるが、患者(たとえば平熱が約37℃のヒトの患者)に送達された後はその粘度が増すことで、送達された移植片材料を投与部位で維持し易くなる。これに代えて、混合して実質的に均質的な状態にした後で、細胞/基質材料を、たとえば装置256および/または257を用いて温めて、または周囲の設定において温まるようにして、粘度がより高い移植片として送達してもよい。
【0078】
温度以外の条件を用いて、細胞成長基質材料を、望ましいとき(たとえば細胞との混合後)に、ゲル化してもよい。たとえば、pHの上昇によってゲル化するコラーゲン性材料を選択してもよい。チャンバ251内での混合作業中、基質/細胞組成物のpHは、少なくとも混合期間中は、組成物の流動性はより高いままであるが細胞が生存できる比較的低いレベルで保ってもよい。一例として、このようなpHは約4〜約6.5の範囲にあってもよい。混合後、組成物のpHを高めることにより、コラーゲン性材料がゲル化し移植片材料の粘度が増すようにしてもよい。このようなpHの調節は、生体適合性塩基または緩衝剤または双方を追加することによって行なってもよい。これら添加剤は、ユニット226内のチャンバから与えられてもよく、または、システム250内に設けられたもう1つの試薬チャンバから与えられてもよい。混合後の組成物のpHは、たとえば約6.5〜約8の範囲にあってもよい。混合後のpHは、患者に対する投与に適したものでかつ特定の実施の形態では約7〜約7.5であることが望ましい。
【0079】
上記のようにシステム200または250内で細胞成長基質材料を細胞組成物と結合させた後、直ちに播種された移植片材料を患者に投与してもよい。他の実施の形態では、細胞が播種された移植片材料を、体外で、細胞の少なくとも一部を細胞成長基質に付着させるのに少なくとも十分な期間、インキュベートしてもよい。細胞成長基質に付着させる細胞は、望ましくは相当な割合の細胞であり、たとえば最初に与えられた細胞の約20%を上回る割合の細胞である。このような細胞を付着させるインキュベート相が継続される時間は、1分〜約5時間であり、特定の実施の形態では約5分〜約3時間までである。この期間中、組成物は、この組成物内の細胞の少なくとも一部がその天然の性質によって表面に付着し、組合された組成物内の、細胞成長基質シート、粒子またはその他の材料に付着する状態に、保たれる。細胞付着相またはサイクルが行なわれている間は、最初に与えられた細胞の数が大幅に増えないようにしてもよく、たとえば、この組成物の生存可能な細胞の割合は、最初に細胞成長基質と結合された細胞の10%以下であり、ある実施の形態では、組成物の細胞の数は、細胞成長基質と最初に結合された細胞の数と実質的に同一であるかそれよりも少ない。
【0080】
自動化されたシステム250において流動性移植片材料を調製するに当たり、組成物は、任意で、上記細胞付着相の間、たとえばミキサ装置255を用いて、連続的にまたは周期的に攪拌してもよい。特定の実施の形態において、細胞付着サイクル中、ミキサ装置255を用いて周期的に静かに組成物を攪拌する。比較的静かな細胞付着相は、攪拌相と攪拌相との間において生じる。たとえば、複数の非撹拌相の期間各々を約3分〜約20分にし、その間にたとえば約10秒〜5分のより短い攪拌相を挟んでもよい。この攪拌は、静かに行なうことにより、懸濁している自由細胞をさらに細胞成長基質粒子または材料と接
触させるがすでに基質材料に付着している細胞の顕著な移動が発生しないようにする。
【0081】
本明細書に記載のチャンバ251内での基質に対する播種および一定期間のインキュベートの間および/またはその後、システム250は、流動性基質細胞/基質混合物を評価することにより、基質に付着していない相当数の細胞が混合物の懸濁培地内に残っているか否か判断してもよい。これは、たとえば、サンプルを収集してろ過することにより細胞が付着した基質材料を除去し懸濁培地内で自由に懸濁している細胞のみを残すことによって行なってもよい。次に、この懸濁している自由細胞を検出器213または別の独立した検出器に送り、細胞を本明細書に記載の細胞をカウントするためのコールター原理、光散乱または別の手段を利用してカウントする。別のモードでは、(たとえば粒状基質、懸濁培地および細胞を含む)チャンバ251からの培地全体をサンプリングし、コールター原理、光散乱または別の手段を利用して検査してもよい。培地に対する評価値(たとえば散乱または電気抵抗)は、自由に懸濁している細胞に対する(たとえば基質粒子に)付着した細胞の割合に応じて変化するため、評価値を、基質に対する細胞付着の許容できるレベルと関連付けてもよい。懸濁培地に自由状態で残っている細胞の数が過度に多ければ、基質および細胞をさらなる期間インキュベートすることによって細胞が付着するようにしてもよい。懸濁培地の中で自由状態で残っている細胞がなければまたはそのような細胞の数が非常に少なければ、播種された基質材料をチャンバ251から取出して患者に投与してもよい。システム200と同様、システム250は、任意で(たとえばディスプレイ232上の)視覚信号および/または可聴信号といった信号を生成することにより、チャンバ251内の播種が行なわれた基質材料は患者に投与できる状態であることを示してもよい。これら機能はすべて、プロセスコントローラ229の指示に従うものであってもよい。
【0082】
上記開示されたシステム200および250において、記載されているチャンバは、たとえば、袋、バイアル、通路、プラスチック容器などを含む任意の適切な構成によって与えてもよい。記載されている導管は、管材料、このシステムのより大きなプラスチック構造体を通る管腔、または任意のその他適切な構成によって与えてもよい。また、バルブをチャンバおよび/または導管内に設けることによってポンプまたはその他の材料移送手段との連携により状況に応じて選択的に流れを通したり止めたりできることが、理解されるであろう。当業者は、本明細書の開示を与えられると、上記およびその他の物理的なシステムの特徴に容易に想到するであろう。
【0083】
システム200および250は、患者への移植前の細胞移植片材料の滞留時間が、たとえば最長約3時間といったように比較的短くなるように構成してもよい。このような構成は、典型的には、細胞の数を大幅に増やすことなく(たとえば細胞数は増加しないかまたはその増加が10%未満)細胞を基質に付着させるように設計されるであろう。しかしながら、ある実施の形態では、システム200および250を、細胞移植片材料のインキュベートおよび培養期間がより長くなるように構成して、細胞の数が、最初に基質上に播種された細胞の数と比較してたとえば20%を上回る増加を示しいくつかの実施の形態では100%を上回る増加を示すようにしてもよい。これら目的のために、システム200および250は、力、たとえば剪断力、歪、または張力を、培養期間中に基質に与えるための機構も含んでいてもよい。これらの力は、インキュベート/培養期間中、播種された細胞の成長および分別に影響を与えることができ、結果として、力を加えずにインキュベート/培養した場合の同じ細胞とは異なるタンパク質発現パターンが示される。このようにして、細胞移植片を患者の体内における所与の最終用途に合わせて改善することができる。
【0084】
また、ある実施の形態において、システム200または250は、チャンバ222から独立した二次細胞インキュベーションチャンバを含んでいてもよい。チャンバ222内でインキュベートされた細胞とは異なる細胞を、二次チャンバ内で培養することにより、チ
ャンバ222に移送される、ホルモン、サイトカイン、成長因子等のシグナル分子が分泌されるようにしてもよい。このシグナル分子は、チャンバ222内での培養時の細胞と接触することにより、たとえばその細胞の成長または分化を調整することができる。二次インキュベーションチャンバからチャンバ222へのシグナル分子の移送は、たとえば、導管を通してこれら分子をポンピングすることにより、膜を通る流れにより、またはその他の手段により、行なってもよい。いくつかの形態では、シグナル分子は、チャンバ222において培養された、より高い割合の幹細胞または前駆細胞を、所与の分化通路に送るのに有効であろう。二次細胞インキュベーションチャンバの制御は、プロセスコントローラ229によって、または任意で上記プロセスコントローラ229と通信する別のプロセスコントローラによって行なってもよい。
【0085】
粒状多細胞/基質移植片材料
本発明のある実施の形態において、提供される流動性細胞移植片材料は、液体培地の中で懸濁している多細胞体を含み、多細胞体は各々、細胞が付着した細胞成長基質粒子からなる。基質粒子の最大断面寸法は約20ミクロン〜約2000ミクロンであってもよく、ある実施の形態では約100ミクロン〜約1000ミクロンであってもよい。基質粒子は、その大きさが互いに実質的に均一であってもよく、たとえば最大断面寸法が互いの約20%または10%以内であってもよく、または大きさが互いに異なっていてもよい(たとえば相対的に小さな粒子と大きな粒子があり、場合によっては、大きさが互いに異なる粒子群の中で実質的に均一な粒子群を2つ以上混合することにより、制御された1つの全体的な粒子群を形成する)。好都合な変形では、基質粒子はシート状であり、このシートの厚みは約20〜約2000ミクロン、より好ましくは約20〜約500ミクロンであってもよく、および/またはこのシートの面(たとえば高さまたは幅)で考えたときの最大断面軸長さは、シートの厚みよりも大きく約25〜約2500ミクロンの範囲、より好ましくは約100〜約1000ミクロンの範囲である。このシートの厚みは、ある実施の形態において、約20〜約1000ミクロンであってもよく、および/またはこのシートの面で考えたときの最大断面軸長さは約100〜約1500ミクロンの範囲であってもよい。これに加えてまたはその代わりに、基質粒子は、シートの面で考えたときに、長く繊維状であるのではなく比較的丸く小さくてもよい。基質粒子の形状は互いに規則的であってもよくまたは互いに不規則であってもよい。ある実施の形態において、粒子はおおむね円形、卵型および/または多角形(たとえば辺の数が3〜10、たとえば三角形、正方形もしくは矩形、五角形、六角形など)のシート状粒子であってもよい。たとえば、基質粒子、またはシートの面で考えたときの組成物における相当な割合(たとえば約25%を上回る割合)の基質粒子の、最大断面寸法軸は、最大断面寸法軸に対して垂直でありこの最大断面寸法軸を中心とするライン上の断面寸法軸の長さの約2倍以下であり、好ましくは、少なくとも約50%の基質粒子がこの特徴を有し、より好ましくは少なくとも約70%の基質粒子がこの特徴を有する。このような粒状細胞成長基質材料も、単独で(たとえば細胞のない組織移植片材料として)または本明細書に記載の細胞組成物と組合されて使用される本発明の実施の形態を構成する。
【0086】
上記小さくシート状の基質粒子は、より大きな基質材料シートから切出してもよい。ある実施の形態において、このより大きな基質材料シートは、本明細書に記載の、組織ソースから採取され脱細胞化された細胞外マトリクスシートである。上記特徴を有するシート状粒子は、パンチまたはダイといった機械工具を用いて、またはレーザを用いた切断によって、または他の適切な手段を用いて、より大きなECMシートから切出してもよい。所望の実施の形態において、使用される切断方法は、本明細書でより詳細に説明するように、天然生物活性ECM特徴または天然生物活性ECM分子が、処理されるより大きな出発ECMシート材料にある場合、この特徴または分子を排除しない。加えて、処理されているECMシート、および結果として得られるECMシート粒子は、シート材料の片側または両側において保持された天然上皮基底膜を有していてもよく、および/またはこのシー
トの片側または両側において生合成により堆積させた基底膜成分を有していてもよい。シートの両側に天然上皮基底膜を与えるためには、各々が1つの基底膜側とその反対側を有する分離された脱細胞化ECM層を2層、積重ね、基底膜側が外側を向くようにして互いに融着または接着すればよい。次に、結果として得られる2層からなるシートを処理して上記シート状粒子を形成すればよい。天然でない基底膜成分が堆積した粒子を調製するためには、脱細胞化されたECMシートを、外皮、内皮、またはその他の細胞を両側において成長させることによって処理して、基底膜成分を堆積させてもよい。次に、細胞を、基底膜成分を残しながら除去してもよく、その後シートを処理することにより上記シート状粒子を調製することができる。
【0087】
図11は、より大きなECMシートからレーザで切出した非常に小さい例示としてのECM「ドット」のデジタル画像を示す。この特定の例において利用されたECMシートは、米国インディアナ州ウエストラファイアエットのクックバイオテック社(Cook Biotech
Incorporated)から入手可能な、単層のブタ小腸粘膜下組織であった。このシートの面
における最大断面軸の長さは約505ミクロンであり、この最大断面軸に対して垂直でありこの軸を中心とする断面軸の長さは約413ミクロンであることがわかる。したがって、これら2つの長さ寸法は互いの約25%内であり、小さなシート粒子構造をもたらす。ECM粒子組成物の約50%を超える粒子の長さ寸法にこの程度の相関関係があることは、使用時において特に有益であり、とりわけ、約50%を上回る粒子の、シートの面における最大断面軸の範囲が、約100〜約1000ミクロンであるときに、有益である。
【0088】
細胞が播種された移植片組成物を調製するためには、上記粒状成長基質を、たとえば上記システム250を用いて細胞調製物と結合させればよい。流動性移植片については、粒状成長基質を、水溶性培地といった液体培地の中で懸濁させればよい。投与前に、移植片組成物を、上記のもののうちいずれかのような細胞付着サイクルの間、インキュベートしてもよい。粒状細胞成長基質の大きさおよびその形状が比較的平坦で小さいことにより、好都合な懸濁および細胞付着特性が得られ、これは、細胞外マトリクスシート材料といった可撓性基質材料を用いてより向上させることもできる。患者に投与するために、流動性の細胞が播種された移植片をシリンジまたはその他の送達装置に入れ、移植片を移植の対象組織に送達してもよい。一例として、
図11を参照して、シリンジ302内に入れられた流動性細胞移植片組成物301を含む医療装置300が示されている。細胞移植片組成物301は、ここでのおよび先の説明にあるように、マトリクス粒子304を含む複数の細胞化体303を含み、細胞305の群が各マトリクス粒子304に付着している。ある実施の形態において、細胞305は、マトリクス粒子304を覆うおおむねコンフルエントな層を形成する。細胞化体303は、任意で細胞のための養分を含有しヒトまたはその他の患者に対して生理的に適合する水溶性培地といった液体培地306において懸濁している。細胞移植片組成物301は、流動性であり、シリンジ302のバレル307内に収容される。プランジャ308は、バレル307に収容され、直線状に操作されることによって組成物301を、流動結合された針309を通して押出してその開口310の外に出す。このように、医療装置300を用いて組成物301を患者の組織の中に投与できる。ある好ましい実施の形態において、ターゲット組織は血管再生が必要であり、細胞移植片体303は、たとえばある実施の形態では本明細書に記載の内皮コロニー形成細胞を含む内皮細胞または血管内皮前駆細胞である、血管を形成可能な細胞305を含む。マトリクス粒子304は、ターゲット組織に注入されると、ターゲット領域における細胞305の保持を支援する。特に好ましい実施の形態において、粒子304は本明細書に記載の細胞外マトリクス粒子である。
【0089】
ゲルでコーティングされたマトリクス基質を有する細胞移植片
本発明の細胞移植片は、細胞外マトリクスゲルといったゲルで少なくとも一部がコーティングされた多孔性マトリクス細胞成長基質を有していてもよい。この場合の細胞は、ゲ
ルの中、ゲルの表面上、または双方にある。このゲルを、細胞と混合する前、細胞と混合した後、細胞との混合中、またはこれらのうちいくつかを組合せたタイミングで、多孔性マトリクス基質に与えてもよい。このゲルは、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンI、またはその他の材料といった、細胞が基質に付着する性質を強化する物質を含んでいてもよい。ゲルまたはゲルの前駆材料は、細胞と混合されて与えられる場合、その粘度が低い(たとえばゲル化していない)状態で与えることによって、基質に与え易くしてもよく、所望されるのであれば細胞とともに基質の多孔性ネットワークの中に浸透してもよい。次に、ゲルまたはゲル化可能な前駆物質がゲル化するようにするまたはこれをゲル化させるまたはその粘度を高めることによって、ゲルおよびその中にある細胞が直ちに多孔性マトリクス基質に付着するよう促してもよい。ある実施の形態では、ゲルは、たとえばその全体を本明細書に引用により援用する、2007年4月12日に公開された米国特許出願公開US20070082060、2004年8月25日に出願された米国特許出願第10/569,218号に記載の細胞外マトリクスゲルからなる。したがって、ゲルは、本明細書に記載のようなECM組織を酸および/または酵素で分解させることによって調製したECM水解組成物を含み得る。この組成物は、pHを約6.8〜約8まで高めると、および/または材料の温度を約37℃まで高めるとゲル化することができる。このような組成物は、成長因子、グルコサミノグリカン、プロテオグリカン、および/または以下でECM材料に関して述べる他の材料といった、出発ECM材料の天然コラーゲンおよび天然(内因性)生物活性非コラーゲン成分を含み得る。
【0090】
上記システム200を用いて、ゲルでコーティングされたマトリクス基質を有するこれら細胞移植片を調製してもよい。たとえば、ゲルまたはゲル前駆物質を、適用装置221を用いて基質223に適用してもよい。細胞の前にゲル材料を適用するために、ゲルまたはゲル前駆物質を、プレコンディショニング培地ユニット226から供給し基質223に適用してもよい。基質に適用する前に細胞をゲルまたはゲル前駆物質と結合させるために、細胞およびゲル材料を、インラインで、適用装置221から放出する前に導管219および227から与えられたものを結合させることによって、混合すればよい。または、細胞材料を、適用装置221に与える前に、プレコンディショニング培地ユニット226のチャンバまたは別のチャンバ内で、ゲルまたはゲル前駆物質と結合させてもよい。必要に応じて、温度および/またはpH制御をシステム220によって行なうことにより、適用された材料の、基質223と接触した後の粘度を、容易に高めることができる。一例として、pHの調節のために、NaOHといった塩基性物質を一定量、基質223に適用する直前に、細胞/ゲル前駆物質組成物と結合させることにより、材料の完全なゲル化を十分に遅延させて基質223に適用しその後安定させてもよい。これに代えて、基質223を、塩基性または緩衝物質でプレコンディショニングすることにより、より酸性度の高い細胞/ゲル前駆物質材料の、基質223と接触したときのpHを、中和するかまたは高めてもよい。さらに、細胞/ゲル前駆物質材料の温度を、基質223に適用する前および/または適用した後に加熱要素によって上昇させてもよい。ゲルを形成するための上記およびその他の調節を、システム200によって自動化してもよい。
【0091】
細胞移植片フィラメント
さらなる実施の形態において、本発明は、細長いフィラメントの形態の細胞成長基質を含み細胞群がこのフィラメントに沿って付着した、細胞移植片を提供する。これら実施の形態において、フィラメントの長さは、少なくとも約1mmでもよく、たとえばある実施の形態では約1mm〜約30mmまたは約5mm〜約30mmの範囲であってもよい。また、このフィラメントの最大断面寸法は、約20ミクロン〜約2mm、または約100ミクロン〜約1mmであってもよい。これら目的のためには本明細書に記載の細胞外マトリクス基質が好ましい。こういった細胞移植片を調製するためには、細長い基質を、所望の細胞を含有する細胞懸濁液の存在下で、少なくとも細胞が基質に付着するのに十分な期間、たとえば本明細書に記載のシステム200またはシステム250等の自動化されたシス
テムの中で、インキュベートしてもよい。
図12を参照して、細胞化されたフィラメント移植片が数個概略的に示されている。細胞化されたフィラメント移植片230は各々、細長い細胞成長基質321と、基質321に付着した細胞322群とを含む。細胞322は、ある実施の形態において、細胞成長基質321を覆うおおむねコンフルエントな層を形成してもよい。これを得るために、最初に与えられた十分な細胞を基質321に付着させて層を形成してもよく、または、基質フィラメント320に播種した後これをおおむねコンフルエントな層を形成するのに十分なだけ培養してもよい。使用時、細胞化されたフィラメント移植片320を個々に、たとえば、各細胞化フィラメント移植片320を長手方向に針の管腔の中に配置し、針を所望のターゲット組織に挿入し、移植片320を流体圧力を用いて針から押出すことによって、治療部位に導入してもよい。これにより、移植片320はターゲット組織の細長い領域を通して細胞322を分散させる。これはたとえばその領域の1つまたは複数の血管の発達が望ましい場合には有用であろう。これら目的のためには、上記ECFC細胞を含む、内皮細胞または血管内皮前駆細胞といった血管形成細胞を使用してもよい。代替の実施の形態において、複数の細長いフィラメント移植片320を含む流動性細胞移植片懸濁液を、シリンジの中に入れてターゲット組織に注入してもよい。このような懸濁液およびその送達のための医療製品は、相対的により小さく粒状の細胞移植片体303の代わりにまたはこれに加えて細長い移植片320を用いることを除いて、
図11に示される製品300と同様である。
【0092】
次に
図12Aを参照して、本発明のもう1つの細胞化フィラメント移植片320Aが示されている。移植片320Aは、細長いフィラメント基質321Aおよびこの基質に付着した細胞322A群を含めて上記移植片320と同じ特徴を有し得る。移植片320Aはさらに、患者の組織と係合する固定要素を含み、この固定要素は、例示の実施の形態では、軸部分324Aと、組織と係合する棘端部325Aとを有する、棘またはフック323Aとして示されている。この棘323Aまたはその他の固定要素は、この例示の実施の形態において、フィラメント基質321Aの端部にまたはその近くに装着される。この装着は、結び付けることによって、溶着によって、接着によって、一体的な形成によって、またはその他適切な手段によって行なってもよい。ある実施の形態におけるこの棘323Aといった固定要素は、組織におけるある方向の通過に対し、その反対方向の通過よりも強く抵抗する。これはたとえば方向性のある棘325Aによって実現してもよい。棘323Aまたはその他の固定要素は、永続性材料で、または生体吸収性材料で作ってもよい。一例として、持続性または生体吸収性材料は、金属またはポリマー材料で形成できる。適切な生体吸収性ポリマーは、グリコール酸のポリマー、乳酸のポリマー、またはグリコール酸と乳酸のコポリマーと、ポリカプロラクトン、およびその他公知の材料を含む。使用時に、棘323Aまたはその他の固定要素は、患者の筋肉またはその他の組織といった組織に移植片320Aが一旦移植されると、移植片320Aの移動に抵抗する。
【0093】
次に
図12Bを参照して、ある使用モードでは、移植片320Aを針カニューレといった送達カニューレ326Aと組合せてもよい。ある形態では、移植片320Aのフィラメント基質321Aのすべてまたは一部がカニューレ326Aの管腔328Aに収容されていてもよい。同様に、棘要素323Aは、一部または全体がカニューレ326Aに収容されてもよく、または、棘323Aはたとえばその遠位に設けられてカニューレ326Aの完全に外にあってもよい。例示されている実施の形態では、軸324Aまたはその少なくとも一部がカニューレ326Aの遠位領域の管腔に収容され、棘端部325Aはカニューレ326Aの組織に通された遠位端327A(たとえば針の先端)を超えた場所に位置する。この状態で組合された装置を用いて、カニューレ326Aおよび棘325Aを、移植片320Aを受ける患者の組織に、患者の皮膚「S」に刺し下にある組織の所望の深さまで押出すことによって、挿入してもよい。その後、カニューレ326Aを後退させる力を加え、棘の先端325Aが患者の組織と係合しこの後退に抵抗している間に、カニューレ326Aを後退させることによって、移植片320Aをカニューレ326Aを後退させて
いる間に管腔328Aから送達する。移植片320Aはその後そのまま患者に移植され、細胞群322Aはある実施の形態では患者の治療において増殖してもよい。この発明のある変形では、細胞群322Aは、たとえば本明細書に記載の細胞を形成する内皮コロニーを含む内皮細胞および/または血管内皮前駆細胞を含む。治療の対象であり移植片320Aが移植される組織は、たとえば心筋層の虚血組織または重大な肢虚血を原因とする虚血組織である、血管発生を必要とする組織であってもよい。このような用途では、細胞群322Aを基質321Aに沿う細長い領域に移植すると、細長い移植領域に沿って1つまたは複数の血管を生成できる。しかしながら、他の種類の細胞群322Aおよびその他の疾患、欠陥、または病気をフィラメント移植片320Aを用いて治療できる。
【0094】
積層された基質層を有する細胞移植片
本発明の細胞移植片は、積層構成の複数の細胞成長基質シートを含むものであってもよく、細胞群はこれら積層されたシートとシートの間にあり、場合によってはこの構造体の最外層も形成する。このような移植片を調製するためには、たとえば細胞懸濁液を含む液体膜をシートの少なくとも片側に与えることによって、第1の細胞成長基質層に細胞を播種すればよい。次に、第2の基質層を、第1の基質層の上記液体膜が設けられた側の上に積重ね、続いて別の細胞液体膜を第2の基質層の露出している側に与えればよい。要求があればこのプロセスを繰返すことによって積層された基質からなる構造体を形成してもよく、細胞はこの構造体の厚み全体を通して均等にまたは局所的に分散している。
図13は、このような積層移植片構造体330の概略図を示す。構造体330は、望ましくは本明細書に記載の、採取され、純化された細胞外マトリクス組織シートである、積重ねられた複数の細胞成長基質層331を含む。これら積重ねられた層331は部分的にまたは完全に重なり合っていてもよい。各々が1群の細胞333からなる細胞層332は、シート331の間に設けられ、任意で、構造体330の最外面にも設けられる。移植前に、構造体330を、細胞がシート331に付着するのに少なくとも十分な時間インキュベートしてもよく、これは、一体化された移植片ユニットとしての構造体の安定性に寄与し得る。これに代わる例では、構造体330を、培養期間の間インキュベートすることにより、最初に播種された細胞群を増殖させる。また、構造体330の作成中に細胞333をシート331に与える前に、シート331を、血清または血清タンパク質といった血液成分および/または他の培養培地成分、たとえば養分、塩等で、プレコンディショニングしてもよい。
【0095】
構造体330のような積層細胞移植片構造体は、
図9のシステム200のような自動化されたシステムの中で調製してもよい。そのためには、第1の基質シート331をチャンバ222の中に置き、適用装置221を用いて、処理された細胞懸濁液をシート331の上面に与えればよい。次に、第2の基質シート331を第1のシートの上に載せ、適用装置221を用いて、さらなる量の細胞懸濁液を第2のシート331に与えればよい。このプロセスは複数回、たとえば2回、3回、4回、または5回繰返してもよい。加えて、プレコンディショニング培地を、培地ユニット226から供給し、細胞懸濁液を与える前にそれぞれのシート331に与えてもよい。第1、第2、およびそれ以降のシートを、ユーザによる手作業でまたはシステム200が提供する自動供給機構を利用して、チャンバ222内で順次配置してもよい。
【0096】
図17は、積層された成長基質シートを有する本発明の細胞移植片の別の実施の形態を示す。細胞移植片380は、望ましくは本明細書で同定された細胞外マトリクス層のうちいずれかである、第1の細胞成長基質シート381と、シート381の表面上に積層された細胞材料382とを含む。細胞材料382は、本明細書で同定された細胞のいずれかを、流動性細胞成長材料もしくは基質、たとえば本明細書に記載の粒状細胞成長基質、および/または本明細書に記載のゲル細胞成長基質材料とともに、含み得る。材料382をシート381の表面上に堆積させた後、第2の細胞成長基質シート383を材料382の上
に積層することにより、積層されたまたは挟まれた細胞移植片を作る。
【0097】
図18は、本発明の細胞移植片のさらに別の実施の形態を示す。移植片390は第1の細胞成長基質シート391を含み、このシートは、その内部に定められシート391の厚みの一部のみにおいて延びている複数のウェル392を有する。細胞材料393をウェル392の中に堆積させている。細胞材料393は、たとえば、単に細胞群であってもよく、または、以下でさらに説明するように、細胞に、粒状基質もしくはゲルが形成された基質もしくはその組合せ等の流動性細胞成長材料を、組合せたものであってもよい。第2の細胞成長基質シート394が、第1のシート391の上に積層されて、充填されたウェル392を覆い、任意で細胞材料391を少なくとも一時的にウェル392内に閉込める。細胞成長基質シート391および/または394ならびにいくつかの実施の形態は、本明細書に記載のECM層のいずれかである。
【0098】
流れを導く層を有する細胞成長基質製品
本発明はまた、細胞成長基質材料が第2の材料で覆われまたは包まれている製品を提供する。第2の材料は、細胞成長基質材料よりも、水性細胞組成物といった流体に対する透過性が低い。この覆っているまたは包んでいる材料は、細胞成長基質材料の長さまたは厚みを通して細胞流体の流れを導き易くすることにより、この材料における細胞の分散を促進することができる。
図14を参照して、本明細書に記載のいずれかの材料のような細胞成長基質材料341と、細胞基質材料341を囲む透過性または半透過性の封入材料342とを含む細胞成長基質製品340が示されている。この封入材料342は、第1の開口343と、第1の開口343から間隔をあけて設けられた第2の開口344とを定めてもよい。ある実施の形態において、開口343および344はそれぞれ、細胞成長基質材料341の互いに対向する側にある。さらに、代替の実施の形態では複数の開口343および/または344を設けてもよい。使用時には、製品340を液体細胞懸濁液のソースに接続し、圧力で懸濁液を開口343の中に送ることにより、細胞懸濁液材料を細胞成長基質341を通して流して、細胞を基質341に付着させるかまたは細胞が基質341の中に埋込まれるようにしてもよい。細胞懸濁液の流体は、最初にあった細胞のうち少なくともいくつかが失われた状態で、開口344を介して外に出てもよい。任意で、開口344から出た流体を、開口343を通して再循環させて、残っている少なくともいくつかの細胞を基質341に播種してもよい。細胞成長基質材料341は、本明細書に記載の、モノリシック、粒状、またはその他の細胞成長基質材料であってもよい。封入材料342は、患者に移植可能なものであってもよく、または、移植を意図しない材料であって細胞播種後の細胞成長基質341の移植前に除去してもよい。封入材料342は、たとえば、永続性または移植時に生体吸収性である天然または合成ポリマー材料であってもよい。本明細書のいずれかに開示されているもののような生体吸収性合成ポリマーを用いて材料342を封入すればよい。
【0099】
図15を参照して、本発明の別の細胞成長基質製品が示されている。この製品350は、本明細書に開示されている基質のいずれかのような細胞成長基質351と、材料351を収容する第1の封入材料352とを含む。細胞が懸濁しているまたは細胞がこれから懸濁する液体、たとえば水または別の水溶性培地に対する、封入材料352の透過性は、基質材料351よりも低く、たとえば水またはその他水溶性培地の中で懸濁されるまたはこれから懸濁される。封入材料352は、材料351が収容される、たとえばプラスチックまたはその他のポリマーのトレイであってもよい。このトレイまたはその他の封入材料352は、第1の開口353と、第1の開口353から間隔をあけて設けられた第2の開口354とを定めてもよい。第2の封入材料355が、トレイまたはその他の材料352によって定められた開口を覆い封止する。封入材料355は、たとえば、トレイまたはその他の封入材料352から引きはがすことができるポリマーフィルムであってもよい。これらの目的のために、フィルムまたはその他の材料355は、望ましくはその周辺部に、露
出し把持可能な部分356を含んでいてもよく、この部分を掴んで材料355をトレイまたはその他の材料352から引き剥がすのに用いることにより、トレイまたはその他の材料352によって定められる開口を開き、細胞成長基質351を取出すために露出させてもよい。このように、
図14との関連で先に述べたような細胞播種作業中、材料355は、材料352に対する封止を保ちしたがって細胞成長基質351を閉込めることにより、流体が開口353から開口354に案内され細胞が材料351の体積を通して播種されることを支援する。この播種プロセスの後、封入材料355を材料352から剥がし、播種された基質351を取出して患者に移植すればよい。
【0100】
次に
図16を参照して、細胞成長基質製品360の別の実施の形態が示されている。製品360は多くの点について上記製品350と似ているため、「360」から始まる番号を付したこと以外は同様に番号が付された特徴を有する。製品360はさらに、少なくとも流体入口開口363に、好ましくはこの開口と流体出口開口364双方とに関連する、流体分散機能を含む。望ましくは、これらの機能が、製品360を通る流体の実質的に栓流を容易にする。この「栓」の断面寸法は実質的に基質361の断面形状である。これは、基質361を通した細胞の均一的な分散を助けるであろう。これらの目的のために、トレイまたはその他の封入材料362は、開口363から細胞成長基質361の周囲に向かいながら分岐している分岐壁367および368を定める。望ましくは、分岐壁367および368の内面の終端は、細胞成長基質361の実質的に外周にある2つのポイントにある。このように、開口363から入った流体が基質361の近位側に定められた空隙369を満たした後、開口363から入った流体の圧力は均一に分布し、基質361の断面寸法を通して実質的な栓流が生じる。次に、基質361を通って流れる流体は、出口開口364の方向に収束する壁371および372によって定められた空隙373に集められる。本発明では、製品360内の基質361を通した実質的な栓流を容易にするための上記およびその他の特徴が意図されている。
【0101】
本発明の実施の形態で使用される細胞成長基質材料
上記のように、本発明で使用される細胞成長基質は、細胞外マトリクス(ECM)組織を含んでいてもよい。このECM組織は、ヒツジ、ウシ、またはブタといった温血脊椎動物から得てもよい。たとえば、適切なECM組織は、粘膜下組織、腎被膜、真皮コラーゲン、硬脳膜、心膜、太腿筋膜、漿膜、腹膜、または肝臓基底膜を含む基底膜層を含む。上記目的にとって適切な粘膜下組織材料は、たとえば、小腸粘膜下組織を含む腸粘膜下組織、胃粘膜下組織、膀胱粘膜下組織、および子宮粘膜下組織を含む。本発明に有用な粘膜下組織を(場合によってはその他関連する組織とともに)含むECM組織は、このような組織ソースを採取し、粘膜下組織を含むマトリクスを、平滑筋層、粘膜層、および/またはこの組織ソースの中にある他の層から、層状剥離させることによって、得てもよい。ブタ組織ソースは、粘膜下組織を含むECM組織を含むECM組織を採取するための好ましいソースである。
【0102】
ECM組織は、本発明で使用される場合、好ましくは、たとえばその全体を本明細書に引用により援用する、クック(Cook)他の米国特許第6,206,931号または2008年11月20日付米国特許出願公開第US2008/286268号、2008年7月23日出願の米国特許出願第12/178,321号に記載されているように、脱細胞化され高度に純化される。好ましいECM組織材料は、エンドトキシンレベルが約12エンドトキシン単位(EU)/g、より好ましくは約5EU/g、最も好ましくは約1EU/g未満である。さらに好ましくは、粘膜下組織またはその他のECM材料のバイオベーデンは、約1コロニー形成単位(CFU)/g未満、より好ましくは約0.5CFU/g未満であってもよい。真菌レベルは、望ましくは同様に低く、たとえば約1CFU/g未満、より好ましくは約0.5CFU/g未満である。核酸レベルは、好ましくは約5μg/mg未満、より好ましくは約2μg/mg未満であり、ウイルスレベルは、好ましくは約
50プラーク形成単位(PFU)/g未満、より好ましくは約5PFU/g未満である。上記およびさらなる粘膜下組織またはその他ECM組織の特性は米国特許第6,206,931号または米国特許出願公開第US2008286268号において教示されており、これらは本発明で使用されるECM組織の特徴であってもよい。
【0103】
ある実施の形態において、細胞成長基質としてまたは細胞成長基質の中で使用されるECM組織材料は、組織ソースから分離されてシート構造を有する膜状組織であろう。ECM組織の、分離されたときの層の厚みの範囲は、完全に水和した状態で約50〜約250ミクロン、より典型的には完全に水和した状態で約50〜約200ミクロンであってもよいが、分離された、他の厚みを有する層も、得られ使用されるであろう。これら層の厚みは、組織ソースとして使用される動物の種類および年齢によって異なり得る。同じく、これら層の厚みは、動物ソースから得る組織のソースによっても異なり得る。
【0104】
利用されるECM組織材料は、非ランダム配向のコラーゲンおよび/またはエラスチンといった構造繊維タンパク質を含むソース組織由来の構造マイクロアーキテクチャを保っていることが望ましい。このような非ランダムコラーゲンおよび/またはその他の構造タンパク質繊維は、ある実施の形態において、引張り強度に関して異方性であるECM組織を提供することができ、したがって、ある方向における引張り強度は他の少なくとも1つの方向における引張り強度と異なる。
【0105】
ECM組織材料は、ECM組織材料のソースに由来しかつ処理を通してECM組織材料の中で保持される1つ以上の生物活性剤を含み得る。たとえば、粘膜下組織またはリモデリング可能なECM組織材料は、1つ以上の天然成長因子を含み得る。天然成長因子の例としては、塩基性フィブロブラスト成長因子(FGF−2)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)、表皮成長因子(EGF)、軟骨由来成長因子(CDGF)、および/または血小板由来成長因子(PDGF)が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。同様に、粘膜下組織またはその他ECM材料は、本発明で使用される場合、その他の天然生物活性剤を含み得る。この生物活性材の例としては、タンパク質、糖タンパク質、プロテオグリカン、およびグリコサミノグリカンが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。たとえば、ECM材料は、ヘパリン、硫酸ヘパリン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、サイトカインなどを含み得る。このように、一般的に言えば、粘膜下組織またはその他ECM材料は、ソース組織由来の、細胞の形態、増殖、成長、タンパク質または遺伝子発現の変化といった細胞性応答を直接的または間接的に誘発する、1つ以上の生物活性成分を保持し得る。
【0106】
本発明で使用される粘膜下組織を含むまたはその他のECM材料は、任意の適切な臓器またはその他の組織ソース、通常は結合組織を含むソースから得ることができる。本発明で使用するために処理されるECM材料は、典型的には大量のコラーゲンを含み、最も一般的には乾燥重量で少なくとも約80重量%のコラーゲンで構成されるであろう。このような天然由来のECM材料は、大抵の場合、非ランダム配向、たとえば全体的に単軸または多軸であるが規則的に配向するファイバとして発生する、コラーゲンファイバを含む。ECM材料は、処理されて天然生物活性因子を保持する場合、固体としてコラーゲン繊維の上および/または中に散在するこれら因子を含むことができる。特に望ましい天然由来のECM材料であって本発明で使用されるものは、適切に染色して光学顕微鏡検査で容易に識別できるこのような散在した非コラーゲン性の固体を大量含むであろう。このような非コラーゲン性固体は、本発明のある実施の形態では、ECM材料の乾燥重量の相当な割合を構成することができ、たとえば本発明のさまざまな実施の形態では、少なくとも約1重量%、少なくとも約3重量%、および少なくとも約5重量%である。
【0107】
本発明で使用される粘膜下組織を含有するまたはその他のECM材料は、血管新生特性
を示すこともあり、したがって、この材料で、移植された受容者に血管新生を誘発するのに有効である。この点に関し、血管新生とは、身体が新たな血管を作り、より多くの血液の組織への供給を行なうプロセスである。よって、血管新生材料は、受容者の組織と接触すると、新たな血管の形成を促進または高める。生体材料の移植による血管新生のin vivo測定方法が最近開発された。たとえば、このような方法の1つは、皮下移植モデルを使
用して材料の血管新生特性を求める。C.ヒーシェン(C. Heeschen)他、Nature Medicine 7 (2001), No. 7, 833-839参照。このモデルは、蛍光ミクロ血管造影技術と組合され
て、生体材料への血管新生の定量的尺度および定性的尺度双方を提供することができる。C.ジョンソン(C. Johnson)他、Circulation Research 94 (2004), No. 2, 262-268。
【0108】
さらに、このような天然生物活性成分の包含に加えてまたはこれに代えて、組換技術またはその他の方法で合成によって製造されたもの等の非天然生物活性成分(たとえばDNA等の遺伝物質)を、本発明で使用されるECM材料に組込んでもよい。こういった非天然生物活性成分は、ECM組織内で自然に発生するがおそらく異なる種のものに相当する、天然由来のまたは組換技術で製造されるタンパク質であってもよい。この非天然生物活性成分は、薬物であってもよい。材料に追加できる薬物の例には、たとえば、ヘパリン等の抗凝固剤、抗生物質、抗炎症剤、血栓促進物質としてたとえばトロンビン、フィブリノゲン等の血液凝固因子、および抗増殖剤としてパクリタキセル等のタキソール誘導体が、含まれる。このような非天然生物活性成分は、たとえば、2、3の例を挙げると表面処理(例として吹付け)および/または含浸(例として浸漬)といった、任意の適切な方法で、ECM材料の中におよび/または上に組込むことができる。また、これら物質は、ECM材料に、製造前段階として、処置の直前に(たとえばこの材料をセファゾリン等の適切な抗生物質を含む溶液の中に浸漬させることによって)、または、材料が患者の中に生着している間またはその後に、適用してもよい。
【0109】
本明細書における本発明の移植片組成物は、異種移植片ECM材料(すなわち、ヒトでないドナーからヒトであるレシピエントに提供される組織材料といった異種間材料)、同種移植片ECM材料(すなわち、レシピエントと同種のドナーから提供される組織材料である種間材料)、および/または自家移植ECM材料(すなわち、ドナーとレシピエントが同じ個人)を組込んでもよい。さらに、ECM材料に組込まれる外因性生物活性物質は、ECM材料を採取した動物と同じ種から提供されるもの(たとえばECM材料に対して自家または同種)であってもよく、またはECM材料ソースと異なる種から提供されるもの(ECM材料に対して異種間)であってもよい。ある実施の形態では、ECM組織材料は、移植片を受ける患者にとって異種であり、追加される細胞またはその他外因性材料は、移植片を受ける患者と同種から提供されるもの(たとえば自家または同種)である。一例として、ヒトである患者を、本明細書に記載の、外因性ヒト細胞および/または血清タンパク質および/または他の材料で修正された異種間ECM材料(たとえばブタ、ウシ、またはヒツジ由来)で治療してもよい。これら外因性材料は天然由来および/または組換で製造されたものである。
【0110】
ECM材料は、本発明で使用されるとき、さらなる非天然架橋はなくてもまたは実質的になくてもよく、またはさらなる架橋を含んでいてもよい。このようなさらなる架橋は、光架橋技術によって、または、化学的架橋剤によって、または、脱水もしくはそれ以外の手段によって生じるタンパク質の架橋によって、得てもよい。しかしながら、ある架橋技術、ある架橋剤、および/またはある架橋の程度により、リモデリング可能な材料のリモデリング特性が損なわれることがあり、リモデリング特性を保つことが望まれる場合は、リモデリング可能なECM材料の何らかの架橋を、材料がそのリモデリング可能な特性の少なくとも一部を保持する程度にまたはそのようにするやり方で、行なってもよい。使用できる化学的架橋剤は、たとえば、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類、カルボジイミド、たとえば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等
のジイミド類、リボースまたはそれ以外の糖、アシルアジ化物、スルホ−N−ヒドロキシコハク酸アミド、またはポリエポキシド化合物を含み、これは、たとえばナガセケムテックス株式会社(日本、大阪)のデナコール(DENACOL)EX810の商標名で入手可能な
エチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類、およびこれもナガセケムテックス株式会社から入手可能なデナコールEX313の商標名で入手可能なグリセロールポリグリセロールエーテルを含む。典型的には、ポリグリセロールエーテル類またはその他のポリエポキシド化合物は、使用される場合、1分子当たり2〜約10のエポキシド基を有するであろう。
【0111】
さらに他の実施の形態では、ECMのまたはその他のコラーゲン性材料に対しこの材料を拡張させる処理を施したものから、本発明の基質を作ってもよい。いくつかの形態では、このように拡張させた材料は、ECM材料を、この材料が拡張するまで1つまたはそれ以上のアルカリ性物質等の変性剤と接触させることによって形成できる。例として、この接触は、ECM材料を、当初の体積の少なくとも120%(すなわち1.2倍)に、または、形態によっては当初の体積の少なくとも約2倍に拡張させるのに十分でありうる。その後、拡張させた材料を、任意で、たとえば中和および/または濯ぎ落しによってアルカリ性媒体から分離することができる。この収集された拡張させた材料は、任意の適切なやり方で基質の調製に使用することができる。例として、拡張させた材料に対し、所望の形状または構成の基質の形成において、生物活性成分の富化、乾燥、および/または成形などを行なうことができる。いくつかの実施の形態では、拡張させたECM材料を用いて形成された乾燥基質は、高い圧縮性および/または拡張性を有することができる。
【0112】
ECM材料をアルカリ性材料等の変性剤で処理することにより、この材料の物理的構造の変化を生じさせ、その結果、これを拡張させてもよい。このような変化は、この材料内のコラーゲンの変性を含み得る。ある実施の形態では、この材料を、最初の体積の少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、または少なくとも約6倍以上に拡張することが好ましい。拡張の程度が、たとえば、特に、アルカリ性培地の濃度またはpH、アルカリ性培地の材料に対する露出時間、および拡張させる材料の処理温度が含まれる、いくつかの要因に関連することは、当業者には明らかであろう。本明細書の開示に基づき、これら要因を通常の実験を通して変化させることにより、所望の拡張レベルを有する材料を得ることができる。
【0113】
コラーゲン原繊維は、トロポコラーゲンが4分の1ずつジグザグに配置されたアレイからなる。トロポコラーゲン分子自体は、共有結合分子内結合および水素結合によって結合されて三重螺旋を形成する3つのポリペプチド鎖から形成される。加えて、共有結合分子内結合は、コラーゲン原繊維内の異なるトロポコラーゲン分子間に形成される。しばしば、複数のコラーゲン原繊維が互いに組合さってコラーゲン繊維を形成することがある。この材料にアルカリ性物質を本明細書に記載のように追加することにより、分子内および分子間結合が大きく破壊されないようにし、それでもなお材料を、この材料の処理後の厚みが増すように、たとえば自然発生する厚みの少なくとも2倍となるように変性させることもできると考えられている。基質として使用するために処理されて拡張した材料を作るECM材料は、本明細書に開示されたもののうちいずれかまたは他の適切なECM材料を含み得る。典型的なこのようなECM材料は、自然発生した分子間架橋および自然発生した分子内架橋を有するコラーゲン原繊維のネットワークを含むであろう。本明細書に記載のように拡張する処理を行なうと、自然発生した分子内架橋および自然発生した分子間架橋を、処理されたコラーゲン性マトリクス材料の中で十分に保持することにより、コラーゲン性マトリクス材料を、そのままのコラーゲン性シート材料として維持することができる。しかしながら、コラーゲン性シート材料内のコラーゲン原繊維は変性する可能性があり、コラーゲン性シート材料のアルカリ処理された厚みは、出発材料の厚みよりも大きく、たとえば当初の厚みの少なくとも120%、または当初の厚みの少なくとも2倍になり得
る。次に、拡張させたECM材料を処理して、たとえば細かく砕くこと、鋳造、および処理された材料の乾燥により、発泡体またはスポンジ基質を提供してもよい。拡張させたECM材料およびその調製に関するさらなる情報は、本明細書にその全体を引用により援用する、2009年12月31日公開の米国特許出願公開第US20090326577号、2009年6月22日出願の米国特許出願第12/489,199号に記載されている。
【0114】
ECM材料に加えてまたはその代わりとして、本発明で使用される細胞成長基質は、他の適切な材料からなるものであってもよい。例示としての材料は、たとえば合成によって製造された、天然または合成ポリマーからなる基質を含む。例示としての合成ポリマーは、酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、ポリエチレンテレフタラート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、またはその混合物もしくは共重合体等の非吸収性合成生体適合性ポリマー、または、ポリ乳酸、ポリグリコール酸もしくはその共重合体、ポリ無水物、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートバレレート、ポリヒドロキシアルカノエート等の吸収性合成ポリマー材料、または、別の成分解析ポリマーまたはその混合物を含み得る。上記またはその他の材料からなる好ましい細胞成長基質は、細胞の侵入およびマトリクスへの内殖を可能にするように構成された多孔性マトリクス材料であろう。
【0115】
本発明の実施の形態で使用される細胞
広範囲にわたる細胞の種類のうちいずれか1つまたはいずれかの組合せを、本発明の細胞移植片に関する組成物および方法で使用してもよい。たとえば、細胞は、皮膚細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、肺細胞、腸間膜細胞、または脂肪細胞であってもよい。脂肪細胞は、大網脂肪、腹膜前脂肪、腎周囲脂肪、心筋脂肪、皮下脂肪、胸部脂肪、または精巣上体脂肪に由来するものであってもよい。ある実施の形態において、細胞は、間質細胞、幹細胞、またはその組合せを含む。本明細書で使用される「幹細胞」という用語は、広い意味で使用され、従来の幹細胞、脂肪由来幹細胞、前駆細胞、前前駆細胞(preprogenitor cell)、貯蔵細胞等を含む。代表的な幹細胞は、胚性幹細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、神経幹細胞、肝臓幹細胞、筋肉幹細胞、筋肉前駆体幹細胞、血管内皮前駆細胞、骨髄幹細胞、軟骨形成幹細胞、リンパ球系幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、中央神経系幹細胞、末梢神経系幹細胞等を含む。使用できるさらなる細胞の例には肝細胞、上皮細胞、クッパー細胞、繊維芽細胞、ニューロン、心筋細胞、筋細胞、軟骨細胞、膵腺房細胞、ランゲルハンス島、骨細胞、筋芽細胞、随伴細胞、内皮細胞、脂肪細胞、前脂肪細胞、胆管上皮細胞、およびこれらの細胞種のいずれかの前駆細胞が、含まれる。
【0116】
いくつかの実施の形態において、細胞移植片に組込まれる細胞は、血管内皮前駆細胞(EPC)であるまたはこれを含む。本発明で使用するのに好ましいEPCは、内皮コロニー形成細胞(ECFC)、特に増殖ポテンシャルが高いECFCである。こういった細胞として好ましいものは、たとえばその全体を本明細書に引用により援用する、2005年12月1日公開の米国特許出願公開第20050266556号、2005年2月9日出願の米国特許出願第11/055,182号、および2008年1月1日公開の米国特許出願公開第20080025956号、2007年8月13日出願の米国特許出願第11/837,999号に記載されている。このようなECFC細胞は、クローン群であってもよく、および/またはヒトもしくはその他の動物の臍帯血液から得たものであってもよい。それに加えてまたはその代わりに、内皮コロニー形成細胞には以下の特徴がある。(a)細胞表面抗原CD31、CD105、CD146、およびCD144を発現し、および/または(b)CD45およびCD14を発言せず、および/または(c)摂取アセチル化LDL、および/または(d)単細胞から培養されたとき少なくとも2000の細胞の少なくとも二次コロニーに置き換わる、および/または(e)高レベルのテロメラーゼ
を発現、その少なくとも34%はHeLa細胞によって発現される、および/または核の細胞質に対する比率が0.8よりも高い、および/または(g)細胞の直径が約22ミクロン未満である。これらの特徴(a)〜(g)のうちいくつかの任意の組合せ、またはすべては、本発明で使用されるECFCを特徴付けるであろう。
【0117】
他の実施の形態において、細胞移植片に組込まれる細胞は、筋肉由来の筋芽細胞および/または筋肉由来の幹細胞を含む筋肉由来細胞である、またはこれを含む。適切なこのような幹細胞およびこれらを得るための方法は、たとえば各々の全体を本明細書に引用により援用する米国特許第6,866,842号および米国特許第7,155,417号に記載されている。筋肉由来細胞は、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34、および/またはBcl−2を発現することができ、CD45またはc−Kit細胞マーカーの発現はないことがある。
【0118】
さらに他の実施形態において、細胞移植片に組込まれる細胞は、脂肪組織由来の幹細胞である、またはこれを含む。適切なこのような細胞およびこれらを得るための方法は、たとえば各々の全体を本明細書に引用により援用する、米国特許第6,777,231号および米国特許第7,595,043号に記載されている。細胞群は、脂肪由来の幹および再生細胞を含んでいてもよく、これらの細胞は、間質血管細胞群と呼ばれることもあり、成体由来の細胞であってもよい、幹細胞、血管内皮前駆細胞、白血球、内皮細胞、および血管平滑筋細胞を含む混合群であってもよい。ある形態において、本発明の細胞移植片は、骨細胞、軟骨細胞、神経細胞、または筋肉細胞のうち2つ以上に分化し得る脂肪由来細胞で調製されてもよくこれらを含んでいてもよい。
【0119】
細胞移植片を用いた医療
本発明の、本発明に従い調製された細胞移植片は、損傷を受けた、疾患のある、または不十分な組織を治療するために、広範囲にわたる臨床応用で使用でき、かつ、ヒトまたは非ヒト動物に対して使用できる。治療するこのような組織は、たとえば、筋肉組織、神経組織、脳組織、血液、心筋組織、軟骨組織、肺、肝臓または腎臓組織といった臓器組織、骨組織、動脈または静脈血管組織、皮膚組織などであってもよい。
【0120】
ある実施の形態では、細胞移植片を用いて、患者の血管形成を強化することにより、たとえば組織内の局所貧血を緩和することができる。たとえば内皮コロニー形成細胞またはその他の血管内皮前駆細胞を含む移植片である、血管形成細胞移植片を、局所貧血部位に直接投与することにより、疾患のある領域における新たな血管の形成を促し、血流またはその他の結果を改善することができる。治療する局所貧血組織は、たとえば梗塞後の局所貧血心筋組織、または、深刻な四肢の局所貧血で生じるもののような脚部またはその他の四肢の局所貧血組織かもしれない。局所貧血組織に投与される細胞移植片は、流動性移植片材料であってもよく、特に本明細書に記載の注入可能な移植片材料であってもよい。
【0121】
細胞移植片は、皮膚潰瘍、例として糖尿病性潰瘍および火傷等の、皮膚の厚みの一部または全体にわたる傷の治療にも使用できる。一例として、内皮コロニー形成細胞またはその他の血管内皮前駆細胞を含む移植片をこのような傷に投与することにより、傷の治療を改善することができる。
【0122】
他の応用例では、細胞移植片を用いて、たとえば骨格筋組織、平滑筋組織、心筋組織または他の組織の治療においてターゲット部位に筋肉組織を生成するのに使用できる。一例として、筋肉由来の筋芽細胞を含む本発明の細胞移植片を、たとえば注射によって、膀胱括約筋といった括約筋の筋肉組織に送達することにより失禁の治療を行なうことができる。
【0123】
本明細書に記載の細胞含有移植片材料の実施の形態、および本明細書に記載の方法の実施の形態はすべて、本明細書に記載の細胞播種装置およびシステムを用いて調製し行なうことができることが理解されるであろう。たとえば、この装置およびシステムは概して、基質材料を細胞播種装置に投入するステップと、細胞組成物を細胞播種装置に投入するステップと、基質材料と細胞とを少なくとも部分的に場合によっては完全に細胞播種装置の動作によって組合せるステップとを含む。プレコンディショニング培地、ゲルまたはゲル化可能な材料等、本明細書に記載の他の組成物を使用する場合は、これらを、一般的に説明されているように、細胞播種装置の機能によって、他の材料との作用および組合せのために、細胞播種装置の適切なチャンバまたは通路に投入すればよい。本明細書に記載の特徴および実施の形態の上記組合せが本発明のさらなる局面を構成することを、当業者は容易に理解するであろう。よって、細胞が播種された移植材料を、細胞播種装置から得て、たとえば本明細書に示した医療適用のために、任意でヒトの患者を含む患者に投与することができる。
【0124】
本発明の記載の文脈において(特に以下の請求項の文脈において)使用される「1つの(“a”と“an”)」および「この(“the”)」ならびに類似する指示語は、本明細書で
特に明記しない限りまたは明らかに文脈と矛盾しない限り、単一のものおよび複数のもの双方を含むと解釈されねばならない。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書で特に明記しない限り、その範囲に含まれる個々の値を個別に示すための簡略方法を意図しているに過ぎず、個々の値は、本明細書において個別に記載された場合と同じように明細書に含まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で特に明記しない限りまたは明らかに文脈と矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行できる。本明細書で使用されるすべての例または例示を示す表現(たとえば「等(“such as”)」)は、本発明をより明らかにすることを意図しているに過ぎず、特に請求項に記載しない限り本発明の範囲を限定しない。本明細書の表現は請求項に記載されていない要素が本発明の実施に不可欠であることを示すものではないと理解されねばならない。
【0125】
本発明について図面および上述の記載において詳細に示し説明してきたが、これは例示であって制限的な性質のものではないとみなされるべきものであり、好ましい実施の形態のみが示され説明されていることおよび本発明の精神に含まれるすべての変更および変形の保護が望まれていることが理解される。加えて、本明細書で挙げられたすべての引用は、当業者のレベルを示すものであって、その全体が本明細書に引用により援用される。