(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板は、管類、流体バッグ、隔壁、二方コック、クランプ、フィルター、カテーテル、静脈カテーテル、尿路カテーテル、フォーリーカテーテル、尿道内カテーテル、動脈内カテーテル、骨内カテーテル、くも膜下腔内カテーテル、肺内カテーテル、疼痛管理カテーテル、気管チューブ、鼻腔チューブ、透析セット、透析コネクタ、ステント、腹部プラグ、栄養管、留置デバイス、手術道具、針、カニューレ、医療用ポンプ、ポンプ筐体、ガスケット、シリコーンOリング、シリンジ、縫合糸、濾過デバイス、薬再構築デバイス、移植片、金属ねじ、および金属板からなる群より選択される医療用デバイスまたは医療用デバイス構成要素の表面を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
前記基板は、金属基板、無機酸化物基板、セラミック基板、重合体基板、半導体基板、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
前記活性作用剤は、キトサン、直鎖ポリエチレングリコール、ループ状ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、分画ヘパリン、未分画ヘパリン、ヘパリン誘導体、第四級アンモニウム重合体、アルブミン、ポリエチレンイミン、4−ヒドロキシクマリン誘導体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
表面に活性作用剤が固定された基板であって、該基板は該基板表面に求核基含有プライマー化合物の層を含み、該プライマー化合物の該層は、該プライマー化合物とカップリングしたトリヒドロキシフェニル基を有する化合物を含み、かつ該トリヒドロキシフェニル基を有する化合物は、該化合物とカップリングした求核基含有活性作用剤を含み、それにより該表面に活性作用剤が固定された基板を形成しており、かつ該トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、没食子酸、ガルアミド、5−メチル−ベンゼン−1,2,3−トリオール、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒド、2,3,4−トリヒドロキシベンズアルデヒド、ガルアセトフェノン、3,4,5−トリヒドロキシベンズアミド、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシドーパミン塩酸塩、没食子酸メチル、ピロガロール、それらの塩、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、基板。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、活性作用剤が有利にかつしっかりと表面に固定されている基板、およびそれを形成する方法を提供する。活性作用剤が固定されている基板は、特に、ペプチド・DOPA共重合体に由来する接着性重合体で被覆された先行技術の基板と比べて、比較的安価に製造することができるという点で、特に有利である。活性作用剤が固定されている基板はまた、特に、DOPA系接着性重合体を用いて被覆された先行技術の基板と比べて、低い毒性を示すという点でも特に有利となり得る。
【0017】
本発明は、基板表面に活性作用剤を固定する方法を提供し、本方法は、基板にプライマー化合物(概して求核基を有する)を沈着させ、それによりプライマー被覆基板を形成する工程、プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液を接触させてトリヒドロキシフェニル基含有化合物と基板をカップリングさせ、それによりトリヒドロキシフェニル基と基板をカップリングさせてトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とする工程、およびトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤の溶液を接触させて活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせ、それにより活性作用剤を基板表面に固定する工程を含む。本方法は、さらに、トリヒドロキシフェニル処理した基板を活性作用剤と接触させる前に、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とリンカー化合物の溶液を接触させ、それによりリンカー化合物とトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板のトリヒドロキシフェニル基および/またはプライマー化合物をカップリングさせる工程を含むことができる。
【0018】
本明細書中使用される場合、「固定する」または「固定された」は、基板表面に対して活性作用剤を、動かないようにすること、取り付けること、貼付けること、接続すること、および/または係合させることのいずれかを包含する。基板表面への活性作用剤の固定は、多数の様々な技法により確認することができる。例えば、実施例で実証されるとおり、活性作用剤の固定は、当該分野で既知のアッセイを用いて、活性作用剤の活性が存在することを実証することにより、確認することができる。活性作用剤の活性は、機能アッセイで査定することができる。例えば、血栓形成アッセイを用いて、ヘパリン、4−ヒドロキシクマリンなどの抗血栓剤を検出することができる。さらに、例えば、活性作用剤は、活性作用剤が基板に固定されている場合に、基板上で検出することが可能な、蛍光色素、同位体標識、放射標識で標識してもよい。活性作用剤の存在は、X線光電子分光法(XPS)、フーリエ変換赤外反射吸収分光法(FTIRRAS)、およびラマン分光法などの表面分光法によっても、確定することができる。さらに、カチオン性染色を用いて、アニオン性活性作用剤の存在を確認/検出することができ、例えば、アルシアンブルーおよびトルイジンブルーは、ヘパリンなどのアニオン性活性作用剤と複合体を形成する。
【0019】
本明細書中使用される場合、「カップリング」および「カップリングする」は、例えば、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が、プライマー層またはリンカー化合物/と吸着/と接着/とカップリング/と会合することができ、および活性作用剤が、トリヒドロキシフェニル基含有化合物またはリンカー化合物/と吸着/に接着/とカップリング/と会合することができる、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成(例えば、静電引力)、およびファン・デル・ワールス相互作用のいずれかであることを包含する。
【0020】
本明細書中使用される場合、「トリヒドロキシフェニル基含有化合物」は、小分子化合物、トリヒドロキシフェニル基を有する重合体、およびトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体を包含する。トリヒドロキシフェニル基を有する重合体は、トリヒドロキシフェニル基が重合体鎖中にある重合体、およびペンダント型のトリヒドロキシフェニル基を有する少なくとも1種の単量体を含む重合体を含む。
【0021】
本明細書中使用される場合、「トリヒドロキシフェニル基」は、少なくとも3つのヒドロキシルで置換されたフェニル環を有する化合物を示す。したがって、トリヒドロキシフェニル基は、3つのヒドロキシルで置換されたフェニル環、さらには4つのヒドロキシルで置換されたフェニル環を有する化合物も含む。一般に、少なくとも3つのヒドロキシルで置換されたフェニル環を有する化合物が好ましい。3つのヒドロキシルで置換されたフェニル環を有する化合物が有利である。なぜなら、そのような化合物は、3つのヒドロキシル基に加えて、反応する可能性がある部位を3つ利用することができるからであり、それらの部位は、無置換の炭素および反応性基から選択することができるが、これらに限定されない。例えば、2つの無置換炭素および/または反応性基は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物を、プライマー化合物および活性作用剤と、プライマー化合物およびリンカー化合物と、またはさらなるトリヒドロキシフェニル基の反応性部位を介して2つのさらなるトリヒドロキシフェニル基含有化合物と(すなわち、重合体形成をもたらす)カップリングさせることができる。第三の反応性部位を持つ化合物は、2つの反応性部位で行うことができるカップリングに加えて、有利なことに、リンカー化合物、活性作用剤、または別のトリヒドロキシフェニル基含有化合物ともカップリングすることができ、トリヒドロキシフェニル基を有する重合体の架橋に特に有利となり得る。さらに、特に具体的な理論に縛られることを意図するつもりはないが、3つのヒドロキシルで置換されたフェニル環を有する化合物は、ヒドロキシルを1つまたは2つ有する化合物よりも有利であると思われる。なぜなら、3つのヒドロキシルを有する化合物の無置換炭素は、大抵、相対的に反応性が高いからである。例えば、フェニル環のヒドロキシルの個数が増えるほど、酸化速度は一般に上昇し、したがって、大抵、トリヒドロキシフェニル基を有する化合物は、ヒドロキシルを1つまたは2つしか有さない相当化合物よりも、相対的にキノン様化学種を形成しやすくなる。結果的に、少なくとも3つのヒドロキシルで置換されたフェニル環を有する化合物は、大抵、ヒドロキシルを1つまたは2つしか有さない該当化合物の無置換炭素よりも相対的に反応性が高い無置換炭素を有する。
【0022】
本明細書中使用される場合、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の「反応性の部位」または「反応性部位」は、ヒドロキシル部分自身を示すのではなく、活性作用剤、プライマー化合物、リンカー化合物、またはさらなるトリヒドロキシフェニル基含有化合物がこのトリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングすることができる、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の任意の他の部位を示す。例えば、反応性の部位は、無置換炭素および反応性基を含むことが可能であり、反応性基として、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、ケトン、およびエステルを挙げることができるが、これらに限定されない。もちろん、トリヒドロキシフェニル基含有化合物のヒドロキシル部分も、例えば、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(グルタミン酸)、およびポリ(リンゴ酸)などの酸側鎖を有するプライマー化合物とエステル結合を形成することにより、反応性を示すことができる。
【0023】
本明細書中使用される場合、「重合体」は、2つ以上の繰返し単位を持つ任意の化合物、例えば、二量体、三量体、およびそれより多いオリゴマーを包含する。繰返し単位は、同一であって同種重合体をもたらすことも可能であるし、異なっていて共重合体をもたらすことも可能である。
【0024】
本明細書中使用される場合、「活性作用剤」は、活性作用剤(本明細書中具体的に述べられるものを含む)および活性作用剤・リンカー複合体を包含する。
【0025】
本明細書中使用される場合、「リンカー化合物」は、リンカー化合物が2つの別個の分子とカップリングすることができ、それによりそれらを接続することができるような、少なくとも2つの末端基を有する任意の化合物を包含する。例えば、リンカー化合物は、第一の末端基を通じてトリヒドロキシフェニル基の反応性基および/または無置換炭素いずれかとカップリングすることができ、さらに重合性単量体を形成するように、第二の末端基を通じて重合性部分とカップリングすることができる。あるいは、リンカー化合物は、第一の末端基を通じてトリヒドロキシフェニル基の反応性基および/または無置換炭素いずれかとカップリングすることができ、さらにトリヒドロキシフェニル・リンカー・活性作用剤複合体を形成するように、第二の末端基を通じて活性作用剤とカップリングすることができる。
【0026】
関連態様において、本発明はさらに、基板に活性作用剤を固定する方法を提供し、本方法は、基板にプライマー化合物を沈着させて、それによりプライマー被覆基板を形成する工程、トリヒドロキシフェニル基含有化合物および活性作用剤を溶液でひとまとめにしてトリヒドロキシフェニル基含有化合物と活性作用剤をカップリングさせ、それにより活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液を形成する工程、およびプライマー被覆基板と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液を接触させ、それにより活性作用剤を基板に固定する工程を含む。トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、トリヒドロキシフェニル基を有する、小分子または重合体が可能である。重合体は、重合体鎖中にトリヒドロキシフェニル基を有する重合体が可能であり、そうでなければ、ペンダント型のトリヒドロキシフェニル基を有する少なくとも1種の単量体を含む重合体が可能である。活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、リンカー化合物とカップリングした活性作用剤を含むことができ、このリンカー化合物がトリヒドロキシフェニル複合体とさらにカップリングしている。ひとまとめにする工程および接触させる工程は、トリヒドロキシフェニル基を有する化合物および活性作用剤がプライマー被覆基板の存在下でひとまとめにされるように、同時に行うことが可能であり、そうでなければ、別々に順番に行うことができる。
【0027】
本明細書中使用される場合、「複合体」は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物、リンカー化合物、および/または活性作用剤のうちの2種以上がカップリングで一つになることから生じる化学種を示す。複合した化学種は、「複合体」という用語の直前に並べられる。複合体は、上記で定義されるとおり、複合体を形成させようとする2種の化学種のカップリングにより形成させることができる。
【0028】
関連態様において、本発明はさらに、基板表面に活性作用剤を固定する方法を提供し、本方法は、基板にプライマー化合物を沈着させ、それによりプライマー被覆基板を形成する工程、プライマー被覆基板と没食子酸の溶液を接触させて没食子酸のトリヒドロキシフェニル基とプライマー化合物をカップリングさせ、それにより没食子酸処理したプライマー被覆基板を形成する工程、および没食子酸処理したプライマー被覆基板と活性作用剤の溶液を接触させて活性作用剤と没食子酸のトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせ、それにより活性作用剤を基板表面に固定する工程を含む。本方法はさらに、トリヒドロキシフェニル処理した基板と活性作用剤の溶液を接触させる前に、没食子酸処理したプライマー被覆基板とリンカー化合物の溶液を接触させ、それによりリンカー化合物と没食子酸処理したプライマー被覆基板のトリヒドロキシフェニル基および/またはプライマー化合物をカップリングさせる工程をさらに含むことができる。
【0029】
別の関連態様において、本発明は、表面に活性作用剤が固定されている基板を提供し、本基板は、基板表面上にプライマー化合物の層を含み、このプライマー化合物の層は、層とカップリングしているトリヒドロキシフェニル基を含み、かつこのトリヒドロキシフェニル基は、この基とカップリングし、それにより基板表面に固定されている活性作用剤を有する。トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、トリヒドロキシフェニル基を有する、小分子または重合体が可能である。重合体は、重合体鎖中にトリヒドロキシフェニル基を有する重合体が可能であり、そうでなければ、ペンダント型のトリヒドロキシフェニル基を有する少なくとも1種の単量体を含む重合体が可能である。活性作用剤を基板に固定するために、活性作用剤を、リンカー化合物を介してトリヒドロキシフェニル基および/またはプライマー化合物とカップリングさせることができる。
【0030】
別の関連態様において、本発明は、本発明による基板を含む医療用デバイスを提供する。本発明による基板を含む医療用デバイスおよび医療用デバイス構成要素は、医療用デバイスまたは医療用デバイス構成要素を有利に抗細菌性、防汚性、および/または抗血栓形成性にする活性作用剤を含むことができる。もちろん、活性作用剤は、他の治療活性または有効性を示すことができる。
【0031】
固定されている活性作用剤を含む医療用デバイスおよび医療用デバイス構成要素は、特に有利である可能性がある。なぜなら、医療用デバイスまたはデバイス構成要素は、活性作用剤が(基板)表面の上に/に対して固定されることにより効果的に「被覆され」ており、それにより患者を(同じまたは同様な)活性作用剤で処置する必要をへらすことができる可能性があるからである。例えば、治療に体外血液循環路(血液透析、アフェレシス、または冠動脈バイパス用など)を必要とする患者は、血液循環ポンプおよび管類に血栓が形成されるのを防ぐために、手術前にヘパリン(または同様に作用する活性作用剤)を投与されることが多い。しかしながら、ヘパリンを相当な量で投与することは、血栓形成を阻害するだけでなく、患者を処置後に出血しやすくする可能性がある。したがって、ヘパリンが固定されている血液循環装置を使用し、それにより手術前の処置に必要とされるヘパリンの量を減らすとともに患者が出血という問題を経験するおよび/または手術に続いて長期の入院または手当を必要とするという随伴の危険性を低下させることは有利であるだろう。
【0032】
一般に、本発明による方法は、基板表面とカップリングしたおよび/または基板表面に沈着したプライマー層とカップリングすることができるトリヒドロキシフェニル基含有化合物の使用を通じて、基板表面に固定された活性作用剤をもたらす。本明細書中記載される方法は、プライマー化合物の溶液およびプラズマ、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液(例えば、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の溶液、没食子酸などトリヒドロキシフェニル基を有する小分子化合物の溶液、およびポリ没食子酸などトリヒドロキシフェニル基を有する重合体の溶液)、リンカー化合物の溶液、活性作用剤の溶液(活性作用剤・リンカー複合体の溶液を含む)、および活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液の使用を含むことができる。プライマー化合物の溶液、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液、リンカー化合物の溶液、活性作用剤の溶液、および活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液を調製するのに使用される溶媒は、プライマー化合物、トリヒドロキシフェニル基を有する化合物、リンカー化合物、活性作用剤、および/または活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の担体として作用するのに適した任意の溶媒が可能である。例えば、本明細書中記載される溶液は、水溶液、他の溶媒を含むことができ、他の溶媒として、アルコール類、ジオール類、有機硫黄類(スルホランなど)、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)、アルカン類、芳香族類、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。「溶液」という用語が本明細書中使用される場合、そこに含まれる成分が完全に溶解していることは必ずしも必要ではない。したがって、本明細書中使用される場合、「溶液」という用語は、成分が分散している分散液および成分が実質的にまたはさらには完全に溶解している溶液の両方を包含する。一般に、成分が完全に溶解することが好ましい。さらに、本明細書中使用される場合、「溶液」という用語は、エーロゾル化溶液を含む。
【0033】
本発明の1つの態様において、基板表面に活性作用剤を固定する方法は、以下の工程を含む:
(a)基板とプライマー化合物を接触させ、それによりプライマー被覆基板を形成する工程;
(b)プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル基含有化合物を接触させ、それによりトリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせて、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とする工程;および
(c)トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤を接触させて、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせ、それにより基板に活性作用剤を固定する工程。
【0034】
本発明の別の態様において、基板表面に活性作用剤を固定する方法は、以下の工程を含む:
(a)基板とプライマー化合物を接触させ、それによりプライマー被覆基板を形成する工程;
(b)プライマー被覆基板と没食子酸を接触させて没食子酸のトリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせ、それにより没食子酸処理したプライマー被覆基板を形成する工程;および
(c)没食子酸処理した基板と活性作用剤を接触させて活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせ、それにより基板に活性作用剤を固定する工程。
【0035】
関連態様において、基板表面に活性作用剤を固定する方法は、以下の工程を含む:
(a)基板にプライマー化合物を沈着させ、それによりプライマー被覆基板を形成する工程;
(b)トリヒドロキシフェニル基含有化合物および活性作用剤を溶液でひとまとめにして、トリヒドロキシフェニル基と活性作用剤をカップリングさせ、それにより活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液を形成する工程;および
(c)プライマー被覆基板と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液を接触させ、それにより、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体のトリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせて、活性作用剤を基板に固定する工程。
【0036】
上記の実施形態の改良形態において、本方法はさらに、プライマー被覆基板を水で洗浄し、それにより洗浄したプライマー被覆基板を形成する工程、および任意選択で、洗浄したプライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液および/または没食子酸溶液を接触させる前に、窒素などの不活性ガスを洗浄したプライマー被覆基板に流す工程を含む。
【0037】
上記実施形態の別の改良形態において、本方法はさらに、トリヒドロキシフェニルおよび/または没食子酸処理したプライマー被覆基板を水で洗浄し、それにより洗浄トリヒドロキシフェニルおよび/または没食子酸処理したプライマー被覆基板を形成する工程、および任意選択で、洗浄トリヒドロキシフェニルおよび/または没食子酸処理したプライマー被覆基板と活性作用剤の溶液を接触させる前に、窒素などの不活性ガスを洗浄トリヒドロキシフェニルおよび/または没食子酸処理したプライマー被覆基板に流す工程を含む。
【0038】
上記実施形態のさらに別の改良形態において、本方法はさらに、表面に活性作用剤が固定された基板を水で洗浄し、それにより表面に活性作用剤が固定された洗浄基板を形成する工程、および任意選択で、表面に活性作用剤が固定された洗浄基板に窒素などの不活性ガスを流す工程を含む。
【0039】
上記実施形態のさらに別の改良形態において、本方法はさらに、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤の溶液を接触させる前に、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とリンカー化合物の溶液を接触させ、それによりリンカー化合物とトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板のトリヒドロキシフェニル基および/またはプライマー化合物をカップリングさせる工程を含む。
【0040】
本方法は、基板とカップリングした活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の密度が制御できるように選択することができる。何か特定の理論により制限されることを意図するつもりはないが、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせる前にトリヒドロキシフェニル基をプライマー被覆基板とカップリングさせると、得られるトリヒドロキシフェニル処理した基板は、基板とカップリングしたトリヒドロキシフェニル基の被覆が相対的に濃厚になると思われる。さらに、トリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせる前に活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体を形成させると、得られる活性作用剤が固定された基板は、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせる前にトリヒドロキシフェニル処理した基板を調製するのと比較した場合に、表面とカップリングした活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の密度が相対的に低くなると思われる。トリヒドロキシフェニル基と基板をカップリングさせる前に活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体を形成させる場合、当業者は、活性作用剤に存在する任意の結合する可能のある部位またはトリヒドロキシフェニル基の反応性基とプライマー被覆基板のカップリングよりも、トリヒドロキシフェニル基の無置換炭素とプライマー被覆基板のカップリングの方が優先されるように、条件を容易に制御することができる。
【0041】
基板
一般に、活性作用剤を固定する(または固定しようとする)基板は、任意の基板が可能である。基板の表面は、元々疎水性でも親水性でも可能である。適切な基板として、無機酸化物基板(例えば、シリカ、ガラスとして従来既知の材料)、セラミック基板、金属酸化物を含む金属基板、半導体基板、および/または重合体基板を挙げることができるが、これらに限定されない。金属基板として、ステンレス鋼、コバルト、チタン、ニッケル、ジルコニウム、タンタル、クロム、タングステン、モリブデン、マンガン、鉄、バナジウム、ニオブ、ハフニウム、アルミニウム、スズ、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、金、銀、白金、それらの酸化物、それらの合金、およびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。適切な重合体基板として、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテル、ポリスルホン、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイソプレン、ならびにそれらのブレンドおよび共重合体を挙げることができるが、これらに限定されない。1つの態様において、基板は、最初から適切な反応性部分を含む表面を有する。本発明の基板は、均一なプライマー層の形成を促進する目的で活性化(または修飾)されている表面を有するものも含む。反応性部分は、プライマー化合物と基板表面を共有結合させるのに使用できるという点で有用である。しかしながら、基板表面に反応性部分が存在しなくてもプライマー化合物が基板に吸着/と接着/とカップリング/と会合するならば、そのような反応性部分は、必ずしも存在する必要はない。
【0042】
本発明による基板を用いて、医療用デバイスまたは医療用デバイス構成要素の1つまたは複数の表面とすることができる。医療用デバイスまたは医療用デバイス構成要素は、表面に活性作用剤が固定されることで利益を得る可能性がある任意の医療用デバイスまたは医療用デバイス構成要素、特に患者の生理学的流体と定期的に接触する医療用デバイスが可能である。医療用デバイスまたは医療用デバイス構成要素として、ヒトまたは他の動物で疾患または他の症状を診断、手当、緩和、治療、または予防するのに使用することを意図した、あるいはヒトまたは他の動物の身体の構造または任意の機能に影響を及ぼすことを意図した、器具、装置、道具、機械、仕掛け、移植片、ならびにそれらの構成要素および付属物を挙げることができるが、これらに限定されない。医療用デバイスの例として、血液透析および冠動脈バイパスポンプなどの体外血液循環路デバイス、ならびにそれらの構成要素を挙げることができるが、これらに限定されない。自家輸血、アフェレシス、血液濾過法、血漿分離交換法、および体外膜酸素添加も、患者の血液循環から血液を取り出し、それに処理を加えてから、その血液を患者の血液循環に戻す体外血液循環路の使用が関与する。
【0043】
表面に固定された活性作用剤を有することで利益を得る基板を含む具体的な医療用デバイスおよび/または医療用デバイス構成要素として、以下を挙げることができるが、それらに限定されない:管類;流体バッグ;隔壁;二方コック;クランプ;フィルター;カテーテル(静脈カテーテル、尿路カテーテル、フォーリーカテーテル、尿道内カテーテル、動脈内カテーテル、骨内カテーテル、くも膜下腔内カテーテル、肺内カテーテル、および疼痛管理カテーテルなど);気管チューブ;鼻腔チューブ;透析セット;透析コネクタ;ステント;腹部プラグ;栄養管;留置デバイス;手術道具;針;カニューレ;医療用ポンプ;ポンプ筐体;ガスケット(シリコーンOリングなど);シリンジ;縫合糸;濾過デバイス;薬再構築デバイス;移植片;金属ねじ;および金属板。医療用デバイスのさらなる例として、侵襲性医療用デバイス、耐久性医療用デバイス、医療用流体容器、医療用流体流通システム、輸液ポンプ、患者モニター、および患者の生理学的流体と定期的に接触することになる任意の他の医療用デバイスを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0044】
耐久性医療用デバイスの例として、静脈内(I.V.)ポンプ、患者モニターなどが挙げられる。医療用流体流通システムの例として、I.V.セット、腹腔内セット、およびそれらの構成要素、例えば、ルアー接続デバイスなどが挙げられる。典型的なI.V.セットは、プラスチック管類を用いて、静脈切開した対象を1つまたは複数の医療用流体供給源(静脈内溶液または医薬容器)と接続する。I.V.セットは、任意選択で、流体流路への接続を提供して流体がIV管類に流されるまたはそこから引き出されるようにする1つまたは複数の接続デバイスを含む。接続デバイスは、周知のとおり、有利なことに、対象を繰返し静脈切開する必要性を排除し、かつ対象への医薬または他の流体の即時投与を可能にする。接続デバイスは、標準的なルアーを採用した接続装置とともに使用されるように設計することができ、そのようなデバイスは、一般的に、「ルアー接続デバイス」、「ルアー作動デバイス」、または「LAD」と称される。LADは、防腐性指示デバイスなどの1つまたは複数の特徴で修飾することができる。様々なLADが、米国特許第5,242,432号明細書、同第5,360,413号明細書、同第5,730,418号明細書、同第5,782,816号明細書、同第6,039,302号明細書、同第6,669,681号明細書、および同第6,682,509号明細書、ならびに米国特許出願公開第2003/0141477号明細書、同第2003/0208165号明細書、同第2008/0021381号明細書、および同第2008/0021392号明細書に示されており、これらの開示は、その全体が参照として本明細書により援用される。
【0045】
I.V.セットまたは腹腔内セットは、さらなる任意選択構成要素を組み込むことができ、そのような構成要素として、例えば、隔壁、共栓、二方コック、コネクタ、コネクタ保護キャップ、コネクタクロージャ、アダプタ、クランプ、延長セット、フィルターなどが挙げられる。したがって、本発明から利益を得る可能性があるさらなる適切な医療用デバイスおよび医療用デバイス構成要素として、以下を挙げることができるが、それらに限定されない:I.V.管類、I.V.流体バッグ、I.V.セット接続デバイス、隔壁、二方コック、I.V.セットコネクタ、I.V.セットコネクタキャップ、I.V.セットコネクタクロージャ、I.V.セットアダプタ、クランプ、I.V.フィルター、I.V.ポンプ、I.V.極、カテーテル、針、カニューレ、聴診器、患者モニター、腹腔内管類、腹腔内流体バッグ、腹腔内セット用接続デバイス、腹腔内セットコネクタ、腹腔内セットアダプタ、および腹腔内フィルター。代表的な接続デバイスとして、以下を挙げることができるが、それらに限定されない:ルアー接続デバイス、このデバイスとして無針ルアー接続デバイスを挙げることができるが、これに限定されない。医療用デバイスの表面は、本明細書中記載されるとおりの基板のいずれも可能である。
【0046】
プライマー化合物
一般に、プライマー化合物は、基板に沈着させたときに基板表面に層を形成し、トリヒドロキシフェニル基がプライマーと結合することを可能にする、任意の化合物が可能である。本明細書中使用される場合、「プライマー化合物」という用語は、小分子および重合体の両方を含む。トリヒドロキシフェニル基は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはこれらの組み合わせを通じて、プライマー化合物に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、プライマーと1つまたは複数の共有結合を形成することにより、プライマーとカップリングする。一般に、プライマー化合物は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とともに「ネットワーク」を形成すると思われる。本明細書中使用される場合、「ネットワーク」という用語は、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素と、プライマー化合物、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の第二のトリヒドロキシフェニル基(これは、トリヒドロキシフェニル基を有する小分子および/またはトリヒドロキシフェニル基を有する重合体のトリヒドロキシフェニル基であってもよい)、および/またはこれらの組み合わせから選択される任意の2つ以上の化合物の間に形成される共有結合を示す。比較的高密度でプライマー化合物および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物が共有結合している実施形態では、架橋したネットワークが形成され得る。比較的低密度でプライマー化合物および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物が共有結合で結合している実施形態では、生じるネットワークは架橋していないかもしれない。
【0047】
適切なプライマー化合物は、求核基を有する。適切な求核基は、当該分野で周知であり、そのような求核基として、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、チオラート、イミダゾール、およびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。適切なプライマー化合物として、オリゴ糖類(キトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖など)、ポリアミン類(エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、テトラエチルメチレンジアミン、スペルミン、スペルミジン、およびポリエチレンアミンなど)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(リンゴ酸)、アルコキシアミノシランを含むアミノ基導入シラン類(アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジエトキシメチルシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、およびアミノプロピルトリメトキシシランなど)、およびメルカプトシラン類(メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびメルカプトプロピルメチルジメトキシシランなど)を挙げることができるが、それらに限定されない。オリゴ糖類の求核基として、アミン基およびヒドロキシル基が挙げられ;ポリアミンの求核基として、アミン基が挙げられる。もちろん、他の求核基も可能であり、上記の基は本発明の態様を例示するために提示するにすぎない。
【0048】
プライマー化合物は小分子または重合体であることが可能なため、プライマー化合物の分子量は、広範囲の分子量にわたって適切に変化させることができる。以下に記載するとおり、プライマー化合物の分子量は、典型的には、選択した溶媒にプライマー化合物が完全に溶解する(すなわち、好ましくは、プライマー化合物の飽和溶液を形成しない)ように選択される。あるいは、基板にプライマー化合物を沈着させるのにプラズマを用いる場合、プライマー化合物は、任意の分子量のものが可能であるが、ただし、この化合物は適切に揮発して気相に分散されるものである。
【0049】
以下の実施例でキトオリゴ糖で記載されるとおり、プライマー化合物(キトオリゴ糖)は、プライマー化合物の求核試薬を通じてトリヒドロキシフェニル基含有化合物と結合することができ、この求核試薬はトリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素と共有結合すると思われる。他のプライマー化合物は、上記と同様な求核基を有する必要があり、それにより、キトオリゴ糖と同様な様式でトリヒドロキシフェニル基含有化合物と結合できる。プライマー化合物は、他の機構を通じても同様に、トリヒドロキシフェニル基含有化合物と結合することができる。例えば、キトオリゴ糖に存在するアミンは、カルボニル部分を有するトリヒドロキシフェニル基含有化合物、例えば、没食子酸とシッフ塩基を形成することができる。求核基としてアミンを有する他のプライマー化合物は、カルボニル部分を有するトリヒドロキシフェニル基含有化合物と、同様な様式で結合することができる。
【0050】
本発明の実施形態において、プライマー化合物は、二次活性作用剤(抗菌剤、防汚剤、抗炎症剤、抗血栓形成剤、例えば、抗凝固剤、およびそれらの組み合わせなど)としても機能することができる。例えば、キトオリゴ糖などのオリゴ糖類は、有利なことに、第一目的であるプライマー化合物としての機能に加えて、抗菌剤としても機能する。別の例として、第四級アミン基が導入されているキトサンは、有利なことに抗菌性も基板に付与することができるプライマー化合物として、用いることができる。
【0051】
一般に、プライマー化合物は、基板表面に実質的に均一な層を形成する。本明細書中使用される場合、「均一」は、基板表面上のプライマー化合物の、基板表面単位面積あたりの量/数密度の均一性を示す。典型的には、この用語は、基板が実質的に切れ目無く覆われていることを示す。実質的に切れ目無く覆われていることとは、プライマー化合物が、基板表面の少なくとも約20%〜約100%を覆って存在すること、例えば、基板表面の約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、および/または約100%を覆って存在することを示す。基板をプライマー化合物が実質的に切れ目無く覆っていることは、有利なことに、基板に最終的に固定される活性作用剤の間隔が実質的に整然とし/制御されている状態をもたらす。所定のプライマー化合物層の均一性は、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、フーリエ変換赤外(FTIR)画像化、ラマン画像化、偏光解析画像化、深度解析と組み合わせたX線光電子分光測定(XPS)、および/または深度解析と組み合わせた静的もしくは動的二次イオン質量分析(SIMS)画像化などの既知の技法を用いて確認することができる。また、上記のとおり、プライマー化合物およびトリヒドロキシフェニル基含有化合物は、例えば、互いにネットワークを形成することにより、基板とカップリングすることができる(例えば、基板の存在下で、プライマー化合物およびトリヒドロキシ基を有する化合物を順番にまたは組み合わせて導入することができる)。ネットワーク層の均一性も、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、フーリエ変換赤外(FTIR)画像化、ラマン画像化、偏光解析画像化、深度解析と組み合わせたX線光電子分光測定(XPS)、および/または深度解析と組み合わせた静的もしくは動的二次イオン質量分析(SIMS)画像化などの既知の技法で確認することができる。
【0052】
本明細書中、範囲は、「約」または「およそ」である1つの特定の値から「約」または「およそ」である別の特定の値までとして、表現することができる。そのような範囲が示される場合、本発明による別の実施形態は、1つの特定の値からおよび/または別の特定の値までを含む。同様に、特定の値が近似として、ただし「約」、「少なくとも約」、または「約〜未満」などの先行詞を使用して表現される場合、当然のことながら、その特定の値は、別の実施形態を形成する。
【0053】
特に具体的な理論に縛られることを意図するつもりはないが、基板表面に沈着するプライマー層の均一性は、基板表面およびプライマー化合物両方の疎水性/親水性、ならびにプライマー層が基板表面と接触する時間の長さに依存すると思われる。例えば、親水性プライマー化合物の実質的に均一な層は、疎水性表面でよりも親水性表面での方が、より速く形成されると思われる。
【0054】
均一なプライマー層の形成を促進する目的で、プライマー化合物を基板表面に接触させる前に、基板表面を、基板の親水性/疎水性が変化するように修飾することができる。プラズマ処理(アルゴンまたはコロナ処理が挙げられるが、これらに限定されない)、化学処理(酸処理、塩基処理などが挙げられるが、これらに限定されない)を用いて、無極性、疎水性基板表面をより極性/親水性であるように活性化または修飾することができる。例えば、1つの実施形態において、基板表面の酸化により、表面を修飾してヒドロキシル基を持たせることができる。基板表面を酸化する適切な方法は、当該分野で既知であり、そのような方法として、例えば、任意の酸化剤を用いた基板表面処理を挙げることができ、そのような酸化剤として、過酸化水素、無機過酸化物、過マンガン酸塩(カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、およびカルシウム塩を含む)、四酸化オスミウム、およびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。別の例として、ポリエステル基板を酸処理、塩基処理、またはアルゴンプラズマで処理することで、ヒドロキシル基を有するように基板を活性化または修飾することができる。アミンを有するように基板を活性化または修飾する適切な方法として、ポリアミド基板を酸処理、塩基処理、またはアルゴンプラズマで処理することが挙げられる。チオールを有するように基板を修飾する適切な方法として、ポリチオエステル基板を酸処理、塩基処理、またはアルゴンプラズマで処理することが挙げられる。プラズマ処理に続いて、プラズマ処理した基板を、気体と接触させて反応性部分を生成させることができる。例えば、プラズマを用いてラジカルを発生させることができ、続いて酸素、アンモニア、および硫化水素などの気体と接触させて反応性部分を生成させ、それにより、それぞれ、ヒドロキシル、アミン、およびチオールを生成させることができる。
【0055】
本発明の実施形態においては、基板表面とプライマー化合物の溶液を接触させることにより、プライマー化合物を、基板表面に沈着させる。沈着方法として、例えば、浸漬塗装により、基板をプライマー化合物の溶液に完全に浸漬することを挙げることができる。あるいは、沈着方法として、例えば、スピン塗装または溶液(エーロゾル化溶液など)の噴霧により、プライマー化合物の溶液を基板表面に噴霧またはその溶液で塗装することを挙げることができる。内腔を有する基板(管類など)の場合、溶液を内腔に流し込んでその内部を被覆することができる。溶媒は、プライマー化合物の担体として機能することができる任意の溶媒が可能である。例えば、水を溶媒として用いることが最も多いが、有機溶媒を用いることも可能であり、そのような有機溶媒として、アルコール類、ジオール類、有機硫黄類(スルホランなど)、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。水は、一般に、より小さいおよび/または電荷を帯びたプライマー化合物にとって好適であるが、従来の有機溶媒は、重合体プライマー化合物の場合に特に用いることができる。本明細書中開示される方法の実施形態において、プライマー化合物を含有する溶液は、pHが、約7.5〜約9.5、または約8〜約9、または約8.5の範囲にある。プライマー化合物の溶液はさらに、緩衝剤を含むことができ、そのような緩衝剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPS)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、およびN−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)が挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、比較的高いpH値を維持するための1種または複数の炭酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も使用することができる。
【0056】
本発明はさらに、基板表面に活性作用剤を固定する方法を提供し、本方法は、プラズマ沈着により、基板にプライマー化合物を沈着させる工程を含む。「プラズマ」という用語は、本明細書中使用される場合、イオン、電子、および中性種で構成される部分的または完全にイオン化された気体を示す。例えば、軽度から中度の減圧下で高周波を加えることにより生成したアリルアミンを含むプラズマ処理を用いて、反応性アミン基の層を基板表面に沈着することができる。この例では、プラズマ処理は、基板の表面でラジカル種の形成をもたらし、このラジカル種が基板表面でのアリルアミンのラジカル重合を開始させる。また、プラズマの蒸気相中で形成されたたラジカルは、基板表面で形成されたラジカルと相互作用して、基板とカップリングすることができる。
【0057】
様々な不活性ガスおよび反応性ガス、ならびに不活性ガス混合物、反応性ガス混合物、および/または不活性ガスと反応性ガスの混合物から、適切なプラズマを発生させることができる。本方法に従って使用されるプラズマは、様々な既知の方法により、例えば電場および/または磁場を加えることにより、発生させることができる。様々な種類の電源を用いて、開示される方法で使用するのに適したプラズマを発生させることができる;典型的な電源として、直流電気(DC)、高周波(RF)、マイクロ波、およびレーザー電源が挙げられる。平行板プラズマ源は、例えば、RF電源を用いて、ガス放電を通じてプラズマを発生させる。RF電源の別の例は、誘導結合プラズマ源であり、これは誘導結合したRF源を用いてプラズマを発生させる。RF電源は、13.56MHzまたは当業者により容易に決定される別の適切な周波数で操作することができる。マイクロ波出力源として、例えば、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源が挙げられる。マイクロ波周波数は、2.45GHzまたは当業者により容易に決定される別の適切な周波数が可能である。
【0058】
プラズマは、様々な圧で発生させることができ、適切なプラズマ圧は、当業者により容易に決定することができる。プラズマは、例えば、大気圧でまたは減圧で発生させることができる。基板に対する損傷は、低圧よりも高圧の方がより蔓延する可能性がある。したがって、採用する圧を下げるほど、基板に対する損傷を防止または減少させることができ、それにより、より長い接触時間および/またはより高い電力レベルを採用することが可能になる。プラズマを発生させることができる典型的な圧として、約0.001Torr〜約760Torr、例えば、約0.01Torr〜約100Torr、約0.05Torr〜約50Torr、および/または約0.1Torr〜約10Torrが挙げられるが、これより高いまたは低い圧も採用することができる。
【0059】
本発明のさらなる実施形態において、基板表面は、基板の表面にラジカルを生成させる開始剤が存在する状態で、基板にUV照射および/または熱処理(例えば、約40〜約110℃)を行うことにより、反応性部分としてラジカルを有するように修飾することができる。開始剤は、UV照射および/または温度上昇(例えば、約40〜約110℃)を受けた場合に、ラジカルを形成することができる、当該分野で既知の任意の開始剤が可能である。適切な開始剤として、ベンゾフェノン、過酸化物(過酸化水素、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウリル、過酢酸t−ブチル、t−ブチルヒドロペルオキシド、および過酸化ジ−t−ブチルが挙げられるが、これらに限定されない)、二酸化窒素、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、および2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPA)が挙げられるが、これらに限定されない。基板表面に生成したラジカルは、酸素、アンモニア、および硫化水素などの気体と接触することにより、それぞれヒドロキシル、アミン、およびチオールなどの反応性部分に変換することができる。
【0060】
いったん基板表面を修飾してヒドロキシルなどの反応性部分を有するようにしたら、1つの反応性部分が異なる反応性部分に置換されているように、基板表面をさらに修飾することができる。例えば、チオールをヒドロキシルに置換することができ、その逆もまた可能である。
【0061】
プライマー化合物は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、基板表面に吸着/と接着/とカップリング/と会合する;反応性部分が基板表面に存在する場合、プライマー化合物は、有利なことに、反応性部分に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。プライマー化合物はさらに、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングし、トリヒドロキシフェニル基含有化合物はさらに、トリヒドロキシフェニル基の無置換炭素またはトリヒドロキシフェニル基の反応性基を通じて活性作用剤とカップリングし(トリヒドロキシフェニル基含有化合物と基板をカップリングする前後いずれかで)、最終的に、活性作用剤が固定された基板を形成する。トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、活性作用剤に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、活性作用剤と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、活性作用剤とカップリングする。
【0062】
基板表面とプライマー化合物の溶液を接触させることによりプライマー化合物を基板表面に沈着させる場合、プライマー化合物の溶液中のプライマー化合物濃度は、一般に、任意の濃度が可能である。濃度は、典型的には、プライマー化合物の飽和溶液を形成することなく、プライマー化合物が選択した溶媒に完全に溶解するように、選択される。別の考慮事項は、高い濃度を採用するほど沈着を行う時間の長さが一般に短くなるということである。プライマー化合物濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、約0.05〜約3mg/ml、約0.05〜約2mg/ml、および/または約0.1〜約1.5mg/mlの範囲、例えば、約0.1mg/ml、および/または約1mg/mlが可能である。
【0063】
基板表面は、所望のプライマー化合物密度でプライマー化合物を基板表面に沈着させるのに適した任意の期間、プライマー化合物の溶液と接触および/または溶液に浸漬することができる。基板にプライマー化合物が沈着する速度は、部分的には、プライマー化合物溶液中のプライマー化合物濃度、基板表面対溶液体積の比、溶液のイオン強度、溶液のpH、および温度に依存する可能性がある。基板とプライマー化合物の溶液を接触させる期間は、基板に最終的に層を提供する任意の適切な時間の長さにすることができ、例えば、浸漬塗装を用いる場合、約10秒〜約24時間である。基板とプライマー化合物の溶液を接触させる期間が24時間より長い(かつ上記に例示されるプライマー化合物濃度のうち1種が採用される)場合、沈着するプライマー化合物の量およびプライマー層の均一性にはほとんど差異が生じないと予想される(24時間の接触時間と比較して)。理論に縛られるつもりはないが、プライマー化合物の沈着は24時間以後も継続している可能性があると思われるものの、24時間以後に沈着するプライマー化合物の量は、基板表面に最終的に固定される活性作用剤の量にほとんど影響しないと予測される。
【0064】
別の実施形態において、プライマー化合物、例えば、ポリアミンは、プラズマ処理により基板表面に沈着する。基板表面は、様々な長さの時間、プラズマに曝すことができる。プラズマ曝露の長さは、当業者により容易に決定することができ、上記のプライマー化合物層の均一性を確定するための分光測定技法を用いて確認することができる。さらに、曝露の長さは、プラズマの反応性に依存して変えることができる。基板に対する損傷は、曝露時間が短い場合と比較して、長くなるほど蔓延する可能性がある。したがって、短い曝露時間を採用するほど、基板の損傷を予防または減少させることができ、それにより、より高い圧および/またはより高い電力レベルを採用することが可能になる。典型的には、基板表面は約1秒〜約2時間曝露されるが、それより短いおよび長い曝露期間を採用することも可能である。一般に、基板表面は、プラズマに、約5秒〜約1時間、約10秒〜約30分、約30秒〜約20分、および/または約1分〜約10分間曝される。
【0065】
基板表面は、ある連続した長さの時間、プラズマに曝すことができる。基板表面はまたは、断続的な(すなわち「パルス状」の)長さの時間、プラズマに曝すこともできる、すなわち、プラズマ沈着プロセスは、基板表面を、ある長さの時間、プラズマに曝すこと、続いて基板表面をプラズマに曝さない期間を含むことができる。そのような曝露期間および非曝露期間は、複数回繰り返すことができる。基板または基板被膜に対する損傷は、パルス状曝露プロセスに比べて連続曝露プロセス後のほうがより蔓延する可能性がある。したがって、パルス状曝露プロセスの採用は、基板または基板被膜に対する損傷を予防または減少させることができ、それにより、より高い圧および/またはより高い電力レベルを採用することが可能になる。パルス状の期間にわたるより高い電力レベルは、有利なことに、基板がプラズマに曝される時間の量を減らす可能性があり、それにより部品のサイクル時間を短縮および製造効率を向上させることができる。
【0066】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物
トリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせる目的で、プライマー被覆基板をトリヒドロキシフェニル基含有化合物と接触させる。既に記載したとおり、トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、プライマー化合物と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、トリヒドロキシフェニル基は、プライマーと1つまたは複数の共有結合を形成することにより、プライマーとカップリングする。上記のとおり、トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、小分子化合物、トリヒドロキシフェニル基を有する重合体、およびトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体を包含する。トリヒドロキシフェニル基を有する重合体として、トリヒドロキシフェニル基が重合体鎖中にある重合体、ならびにペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する重合体が挙げられる。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体として、リンカー化合物とカップリングした、トリヒドロキシフェニル基を有する、小分子または重合体化合物が挙げられる。
【0067】
一般に、適切なトリヒドロキシフェニル基は、トリヒドロキシフェニル基がプライマー層により/層上に/層内に存在する反応性部分と結合して、それにより、プライマー化合物・トリヒドロキシフェニル基ネットワークを形成できるように、ならびに活性作用剤、別のトリヒドロキシフェニル基含有化合物、リンカー化合物、および/またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つとも結合できるように、少なくとも2つの反応性の部位を有する。適切なトリヒドロキシフェニル基含有小分子化合物として、没食子酸、フロログルシノール、カルボン酸、ガルアミド、5−メチル−ベンゼン−1,2,3−トリオール、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒド、2,3,4−トリヒドロキシベンズアルデヒド、ガルアセトフェノン、3,4,5−トリヒドロキシベンズアミド、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシドーパミン塩酸塩、没食子酸メチル、ピロガロール、それらの誘導体、およびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。上記の小分子化合物は、トリヒドロキシフェニル基を有する重合体を調製するのにも用いることができる。没食子酸は、そのトリヒドロキシフェニル基フェニル環にある少なくとも2個の無置換炭素を通じて、プライマー化合物、活性作用剤、別の没食子酸、リンカー化合物、およびそれらの組み合わせのうちの2つと結合することができ、それにより基板表面に活性作用剤を固定する。没食子酸はまた、リンカー化合物について以下で記載するとおり、そのカルボン酸部分を介して、プライマー化合物、活性作用剤、別の没食子酸、またはリンカー化合物と結合することもできる。したがって、没食子酸は、有利なことに、基板表面に活性作用剤を固定するのに関与およびそれを促進する可能性がある、3つのヒドロキシルならびに3つの反応性の部位を有する。他のトリヒドロキシフェニル基含有化合物は、同じくプライマー化合物、活性作用剤、別のトリヒドロキシフェニル基含有化合物、リンカー化合物、およびそれらの組み合わせのうちの2つと結合することができ、それにより基板表面に活性作用剤を固定できるようにする目的で、少なくとも2つの反応性部位、例えば、フェニル環の少なくとも2個の無置換炭素および/または少なくとも2つの反応性基(上記のカルボン酸部分など)を有する必要がある。トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の適切な反応性基として、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、ケトン、およびエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
リンカー化合物
トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、リンカー化合物とカップリングすることができ、それによりトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体を形成することができる。トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、リンカー化合物に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、トリヒドロキシフェニル基は、トリヒドロキシフェニル基の無置換炭素を通じて、またはトリヒドロキシフェニル基の反応性基を通じて、リンカー化合物と共有結合を形成することにより、リンカー化合物とカップリングする。トリヒドロキシフェニル基の反応性基は、リンカー化合物の求核試薬と反応することができる任意の反応性基が可能である。トリヒドロキシフェニル基の適切な反応性基として、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルが挙げられるが、これらに限定されない。トリヒドロキシフェニル基の反応性基は、例えば、エステル転移反応またはアミド転移反応により、リンカー化合物とカップリングすることができる。エステル転移反応またはアミド転移反応は、任意選択で、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、または1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)などの活性化剤化合物により促進することができる。もちろん、リンカー化合物と同様に、求核基を有する活性作用剤も、エステル転移反応またはアミド転移反応により、トリヒドロキシフェニル基の反応性基とカップリングすることができる。
【0069】
リンカー化合物は、リンカーが、重合性単量体を形成するように、トリヒドロキシフェニル基の反応性基および/または無置換炭素のいずれかおよび重合性部分とカップリングすることができる、あるいはトリヒドロキシフェニル・リンカー・活性作用剤複合体を形成するように、トリヒドロキシフェニル基の反応性基および/または無置換炭素のいずれかおよび活性作用剤とカップリングすることができるように、第一の末端基および第二の末端基を有する適切な化合物であれば何でも可能である。ポリエチレングリコール、ジアミン、ジオール、およびジチオールは、全て有用なリンカー化合物の代表である。1つの態様において、適切なリンカー化合物は、式(I)に従う化合物であるが、これらに限定されない:
【0071】
式中、nは、少なくとも1の整数であり、Rは任意の求核基であって、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、チオラート、イミダゾール、およびアミノオキシが挙げられるが、これらに限定されず、R’’は、Rまたは反応性基であって、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルが挙げられるが、これらに限定されず、および式中、各R’は、同一であるか異なっていて、Hおよび置換または無置換低級アルキル、例えば、C1〜約C5アルキルからなる群より選択することができる。水溶液が用いられる場合、nは、典型的には、約1〜5であり(選択した水系で溶解性が得られる限りにおいて);有機溶媒が用いられる場合、nは、約1〜10が可能である。例えば、適切なリンカー化合物として、第一および第二のアミン末端基を有する直鎖ビス−アミン、例えば、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、および/または1,6−ジアミノヘキサンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0072】
適切なリンカー化合物としてさらに、トリヒドロキシフェニル基の反応性基および/または無置換炭素、重合性部分、および/または活性作用剤のいずれかとカップリング可能な末端官能基を2つ以上有する任意の化合物が挙げられる。本明細書中使用される場合、「末端の」は、任意の炭素鎖または枝の最後の官能基を示し、そのような最後の基として、直鎖化合物の末端基、および分岐鎖化合物の任意の枝の末端が挙げられる。典型的には、官能基は求核試薬となる。求核基は、当該分野で既知であり、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、チオラート、イミダゾール、アミノおよびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、適切なリンカー化合物として、各枝の末端に求核基がある分岐鎖ポリエチレングリコール分子(8腕PEG−アミノオキシ、8腕PEG−チオール、8腕PEG−アミン、8腕PEG−ヒドロキシル、4腕PEG−アミノオキシ、4腕PEG−チオール、4腕PEG−アミン、4腕PEG−ヒドロキシル、などが挙げられるが、これらに限定されない)、ジチオール、ビスアミン、および他のポリ求核試薬を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0073】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物とリンカー化合物を溶液で接触させると、トリヒドロキシフェニル基の任意の反応性基および/または無置換炭素がリンカー化合物とカップリングすることができ、それによりトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体を形成することができると思われる。リンカー化合物は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、トリヒドロキシフェニル基に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、リンカー化合物は、トリヒドロキシフェニル基と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、トリヒドロキシフェニル基とカップリングする。一般的なトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体は、式(IIa)、(IIb)、および(IIc)により表すことができる:
【0075】
式中、Xは、ハロゲン、アミン、チオール、アルデヒド、カルボン酸、カルボキシラート、アシルハライド、エステル、アクリラート、ビニル、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアミン、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルチオール、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアルデヒド、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルカルボン酸、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルカルボキシラート、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアシルハライド、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルエステル、あるいは分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアクリラートが可能であり、およびRはリンカー化合物である。列挙される置換基の炭素鎖の長さに関して、鎖長は、水溶液が用いられる場合、典型的には、C1−C5であり(選択した水系で溶解性が得られる限りにおいて);有機溶媒が用いられる場合、鎖長は、C1−C10が可能である。化合物(IIa)、(IIb)、および(IIc)によれば、3つのヒドロキシル基は、C
2、C
3、C
4、C
5、およびC
6のうち任意の3カ所に配置することが可能である。例えば、トリヒドロキシフェニル基含有化合物がカルボン酸、例えば没食子酸(つまり、Xはカルボキシルである)である場合、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体は、式(IIa)または式(IIb)のものが可能である:
【0077】
式中、上記のとおり、Rはリンカー化合物である。さらに、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体が式(IIa)および(IIb)による没食子酸・リンカー複合体である場合、3つのヒドロキシル基は、C
3、C
4、およびC
5に配置され、リンカー、すなわちR、は、カルボキシル基(IIa)またはC
2もしくはC
6の1つ(IIb)に配置される。トリヒドロキシフェニル基含有化合物がピロガロールである場合、ピロガロール・リンカー複合体は、式(IIc)のものが可能である:
【0079】
式中、Rはリンカー化合物であり、3つのヒドロキシル基は、C
2、C
3、C
4、C
5、およびC
6のうち任意の連続する3カ所に配置することができる。
【0080】
リンカー化合物は、プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル基含有化合物を接触させる前に、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングさせることができる。あるいは、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とリンカー化合物の溶液を接触させ、それにより、リンカー化合物とトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせてもよい。リンカー化合物は、例えば、オリゴ糖の還元末端とカップリングさせることにより、プライマー化合物(これはすでにトリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングしている)とカップリングさせることもできる。トリヒドロキシフェニル基から遠位にあるリンカー末端基は、活性作用剤とカップリングすることができ、それによりトリヒドロキシフェニル・リンカー・活性作用剤複合体を形成することができる、または重合性単量体を形成するように、重合性部分とカップリングすることができる。
【0081】
ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する、重合性単量体/重合体
トリヒドロキシフェニル基含有化合物が重合体である実施形態において、重合体は、ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する単量体を少なくとも1つ含むことができる。ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する重合体は、重合性部分を有するリンカー化合物を含むように修飾されているトリヒドロキシフェニル基含有小分子化合物から調製された重合性単量体が重合したものが可能である。
【0082】
重合性単量体は、重合性部分とトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体をカップリングさせることで形成することができる。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体は、トリヒドロキシフェニル基から遠位にリンカー末端基を有する。リンカーの遠位末端基は、重合性部分と共有結合を形成することができる。
【0083】
一般に、重合性部分は、重合性α,β不飽和末端基を有する任意の官能基が可能である。適切な重合性部分として、アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、およびそれらのエステルが挙げられるが、これらに限定されない。リンカー化合物と重合性部分の共有結合は、エステル転移反応またはアミド転移反応により形成することができ、活性化剤化合物(N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、または1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)など)により促進することができる。
【0084】
いくつかの実施形態において、トリヒドロキシフェニル基を有する重合性単量体は、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の反応性基および/または無置換炭素と、第一末端基および第二末端基を有するリンカー化合物をカップリングすることでも形成することができ、この場合、第一末端基は求核基であり、第二末端基は重合性α,β不飽和末端基である。この実施形態の適切なリンカー化合物として、2−ヒドロキシエチル=アクリラート、2−ヒドロキシエチル=メタクリラート、3−ヒドロキシプロピル=アクリラート、3−ヒドロキシプロピル=メタクリラート、4−ヒドロキシブチル=アクリラート、4−ヒドロキシブチル=メタクリラート、6−ヒドロキシヘキシル=アクリラート、6−ヒドロキシヘキシル=メタクリラート、N−(3−ヒドロキシ−プロピル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)−アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)メタクリルアミド、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N−メチル−N−(3−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−メチル−N−(3−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−メチル−N−(4−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−メチル−N−(4−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−メチル−N−(6−ヒドロキシヘキシル)アクリルアミド、N−メチル−N−(6−ヒドロキシヘキシル)メタクリルアミド、および4−アミノブチルアクリルアミドが挙げられるが、これらに限定されない。一般に、この実施形態の適切なリンカー化合物として、式(III)に従う化合物を挙げることができるが、それらに限定されない:
【0086】
式中、nは、0であるかまたは少なくとも1の整数であり、Rは任意の求核基であって、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、およびチオラートが挙げられるが、これらに限定されず、ならびにR’は、酸素、NR’’、およびCR
2’’からなる群より選択することができ、各R’’は、同一であっても異なっていてもよく、H、および置換または無置換の低級アルキル、例えば、C1〜約C5アルキルからなる群より選択することができる。
【0087】
トリヒドロキシフェニル基を有する一般的な重合性単量体は、式(IVa)、(IVb)、および(VIc)で表される:
【0089】
Xは、ハロゲン、アミン、チオール、アルデヒド、カルボン酸、カルボキシラート、アシルハライド、エステル、アクリラート、ビニル、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアミン、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルチオール、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアルデヒド、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルカルボン酸、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルカルボキシラート、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアシルハライド、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルエステル、あるいは分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアクリラートが可能であり、Yは、アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、およびそれらのエステルなどの重合性部分が可能であり、およびRはリンカー化合物である。列挙される置換基の炭素鎖の長さに関して、鎖長は、水溶液が用いられる場合、典型的には、C1−C5であり(選択した水系で溶解性が得られる限りにおいて);有機溶媒が用いられる場合、鎖長は、C1−C10が可能である。化合物(IVa)、(IVb)、および(IVc)によれば、3つのヒドロキシル基は、C
2、C
3、C
4、C
5、およびC
6のうち任意の3カ所に配置することが可能である。例えば、トリヒドロキシフェニル基含有化合物がカルボン酸、例えば没食子酸(つまり、Xはカルボキシルである)である場合、トリヒドロキシフェニル基を有する重合性単量体は、式(IIa)または式(IIb)のものが可能である:
【0091】
式中、Rはリンカー化合物であり、およびYは重合性部分である。さらに、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が没食子酸である場合、(IVa)および(IVb)に従う重合性単量体は、C
3、C
4、およびC
5に3つのヒドロキシル基を有し、かつリンカー、すなわちR、は、カルボキシル基(IVa)にまたはC
2もしくはC
6の一方(IVb)に配置される。トリヒドロキシフェニル基含有化合物がピロガロールである場合、重合性単量体は、式(IVc)のものが可能である:
【0093】
式中、Rはリンカー化合物であり、Yは重合性部分であり、および3つのヒドロキシル基は、C2、C3、C4、C5、およびC6のうち任意の連続する3カ所に配置される。
【0094】
トリヒドロキシフェニル基を有する重合性単量体は、重合して同種重合体を形成するか、1種または複数の第二の重合性単量体(重合性基を有する)と共重合して、ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する少なくとも1つの単量体を含む重合体を形成する。ペンダント型トリヒドロキシフェニル基および1種または複数の第二の重合性単量体を含む共重合体は、当該分野で既知のとおり、ランダム共重合体および/またはブロック共重合体を形成するように重合することができる。適切な第二の重合性単量体は、重合性部分を有する任意の単量体が可能である。あるいは、第二の重合性単量体が、ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する少なくとも1つの単量体を有する重合体に組み込まれた場合に、ペンダント型反応性基が活性作用剤とカップリングすることができ、それにより活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体を形成することができる、またはペンダント型反応性基が基板とカップリングすることができ、それによりトリヒドロキシフェニル処理した基板を形成することができるように、第二の単量体は、ペンダント型反応性基(すなわち、重合後に単量体からペンダントとしてぶら下がる反応性基)を有していてもよく、そのような単量体として、N−ヒドロキシスクシンイミド、スクシンイミドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
トリヒドロキシフェニル基を有する重合性単量体、および任意選択で第二の単量体の重合を開始させるのに適切なラジカル開始剤として、アゾ化合物、有機過酸化物、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。適切なアゾ化合物として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、および1,1−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)が挙げられるが、これらに限定されない。適切な有機過酸化物として、環状過酸化物、ジアシル過酸化物、ジアルキル過酸化物、ヒドロペルオキシド、ペルオキシカルボナート、ペルオキシジカルボナート、ペルオキシエステル、およびペルオキシケタールが挙げられるが、これらに限定されない。適切な環状過酸化物として、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリペルオキソナンが挙げられるが、これに限定されない。適切なジアシル過酸化物として、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシドが挙げられるが、これに限定されない。適切なジアルキル過酸化物として、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3;ジ−tert−アミルペルオキシド;ジ−tert−ブチルペルオキシド;およびtert−ブチルクミルペルオキシドが挙げられるが、これらに限定されない。適切なヒドロペルオキシドとして、tert−アミルヒドロペルオキシド;および1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシドが挙げられるが、これらに限定されない。適切なペルオキシカルボナートとして、tert−ブチルペルオキシ=2−エチルヘキシル=カルボナート;tert−アミルペルオキシ=2−エチルヘキシル=カルボナート;およびtert−ブチルペルオキシ=イソプロピル=カルボナートが挙げられるが、これらに限定されない。適切なペルオキシジカルボナートとして、ジ(2−エチルヘキシル)=ペルオキシジカルボナート;およびジ−sec−ブチル=ペルオキシジカルボナートが挙げられるが、これらに限定されない。適切なペルオキシエステルとして、tert−アミル=ペルオキシ−2−エチルヘキサノアート;tert−アミル=ペルオキシネオデカノアート;tert−アミル=ペルオキシピバラート;tert−アミル=ペルオキシベンゾアート;tert−アミル=ペルオキシアセタート;2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン;tert−ブチル=ペルオキシ−2−エチルヘキサノアート;tert−ブチル=ペルオキシネオデカノアート;tert−ブチル=ペルオキシネオヘプタノアート;tert−ブチル=ペルオキシピバラート;tert−ブチル=ペルオキシジエチルアセタート;tert−ブチル=ペルオキシイソブチラート;1,1,3,3−テトラメチルブチル=ペルオキシ−2−エチルヘキサノアート;1,1,3,3−テトラメチルブチル=ペルオキシネオデカノアート;1,1,3,3−テトラメチルブチル=ペルオキシピバラート;tert−ブチル=ペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノアート;クミル=ペルオキシネオデカノアート;tert−ブチル=ペルオキシベンゾアート;およびtert−ブチル=ペルオキシアセタートが挙げられるが、これらに限定されない。適切なペルオキシケタールとして、1,1−ジ(tert−アミルペルオキシ)シクロヘキサン;1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン;1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン;および2,2−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ブタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
任意選択の第二の単量体は、上限約95モル%、例えば、約0.5〜約95モル%、約0.5〜約90モル%、約1〜約90モル%、約1〜約85モル%、約5〜約85モル%、約5〜約80モル%、約10〜約80モル%、約10〜約75モル%、約15〜約75モル%、約5〜約70モル%、約10〜約70モル%、約15〜約70モル%、約15〜約65モル%、約20〜約65モル%、約20〜約60モル%、約25〜約60モル%、約25〜約55モル%、約30〜約55モル%、約30〜約50モル%、約35〜約50モル%、約35〜約45モル%、および/または約35〜約40モル%の量で、トリヒドロキシフェニル基を有する単量体を含む共重合体に、含まれることが可能である。
【0097】
ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する重合体は、末端に反応性基を有することができ、その反応性基を通じて活性作用剤が重合体とカップリングできる。反応性基は、本明細書中先に記載したとおりの任意の反応性基が可能であり、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルが挙げられるが、これらに限定されない。反応性基は、重合で鎖転移剤として作用することができる化合物に含まれていることができる。反応性基を持つ適切な鎖転移剤として、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸イソオクチル、およびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。あるいは、活性作用剤は、ペンダント型トリヒドロキシフェニル基の無置換炭素と通じて重合体とカップリングし、したがって重合体鎖の末端は、活性作用剤とカップリングする能力がなくてもよい。
【0098】
上記のとおり、ペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する少なくとも1つの単量体を有する重合体であるトリヒドロキシフェニル基含有化合物は、さらなるリンカー化合物とカップリングすることができ、それにより、活性作用剤とカップリングできるトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体を形成することができる。リンカー化合物は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、トリヒドロキシフェニル基に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、リンカー化合物は、トリヒドロキシフェニル基の無置換炭素と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、トリヒドロキシフェニル基とカップリングする。
【0099】
鎖中にトリヒドロキシフェニル基を有する重合体
トリヒドロキシフェニル基含有化合物が重合体である代替実施形態において、トリヒドロキシフェニル基は、重合体鎖中にあることが可能である。鎖中にトリヒドロキシフェニル基を有する重合体は、少なくとも2つの反応性の部位を有するトリヒドロキシフェニル基含有小分子化合物が重合したものが可能である。特に具体的な理論に縛られることを意図するつもりはないが、トリヒドロキシフェニル基含有小分子化合物は、以下に示すキノン様種から、2つ以上の隣接するトリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素原子間に共有結合を形成することにより、自己重合することが可能であると思われる。
【0100】
本発明のトリヒドロキシフェニル基含有化合物のトリヒドロキシフェニル基は、一般に、溶液中では、キノン様種とpH依存性の平衡状態にあると考えられている。例えば、没食子酸(化合物A)とキノン様種(化合物B)の平衡を以下に示す。この平衡は、酸性pHになるほど、トリヒドロキシルになった種、すなわち化合物Aに偏ると思われる。
【0102】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物がプライマー層と接触した状態になった後、トリヒドロキシフェニル基は、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素を通じて、プライマー化合物の層により/層上に/層内に存在する反応性部分と共有結合することができ、それによりトリヒドロキシフェニル処理した基板を形成することができる。
【0103】
トリヒドロキシフェニル基を有する小分子化合物はまた、in situでも自己重合して、重合体鎖中にトリヒドロキシフェニル基の繰返し単位を有する重合体を形成することができる。特に具体的な理論に縛られることを意図するつもりはないが、トリヒドロキシフェニル基は、2つ以上の隣接するトリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素原子間で共有結合を形成することにより、キノン様種から自己重合することができると思われる。したがって、1つの実施形態において、活性作用剤がカップリングすることができるフェニル環の無置換炭素は、基板表面とカップリングした重合体鎖の末端トリヒドロキシフェニル基であることが可能である。
【0104】
さらに、トリヒドロキシフェニル基含有化合物がペンダント型トリヒドロキシフェニル基を有する重合体である場合、ペンダント型トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素は、重合体鎖上の他のペンダント型トリヒドロキシフェニル基と非常に接近しているならば重合体鎖内で架橋することができ、そうでなければ複数の重合体鎖で架橋することができると思われる。
【0105】
さらにその上、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤の溶液を接触させると、トリヒドロキシフェニル基の任意の空いている結合部位、またはその上のリンカー化合物は、活性作用剤とカップリングすることができ、それにより活性作用剤を基板表面に固定することができると思われる。活性作用剤は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、トリヒドロキシフェニル基に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、活性作用剤は、トリヒドロキシフェニル基と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、トリヒドロキシフェニル基(これはプライマー化合物の層と既にカップリングしている)とカップリングする。トリヒドロキシフェニル基は、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素原子を通じて、活性作用剤の反応性基と共有結合できると思われる。さらに、活性作用剤の反応性基が求核試薬である場合、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素と活性作用剤の反応性基の共有結合は、マイケル付加により形成される可能性があると思われる。以下でヘパリンを用いて例示されるとおり、活性作用剤は、活性作用剤上の求核試薬を通じて、トリヒドロキシフェニル基と結合し、求核試薬はトリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素と共有結合する。他の活性作用剤は、以下に記載するのと同様な求核基を有する必要があり、それにより、ヘパリンと同様な様式でトリヒドロキシフェニル基と結合できる。
【0106】
活性作用剤は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、トリヒドロキシフェニル基とカップリングしたリンカーに吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、活性作用剤は、反応性末端基と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、トリヒドロキシフェニル基(これはプライマー化合物の層と既にカップリングしている)とカップリングする。活性作用剤とカップリングするリンカー化合物の反応性基が、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルなどを含む(これらに限定されないが)反応性基である場合、リンカーは、リンカーの反応性基および活性作用剤の求核基を通じて、活性作用剤とカップリングすると思われる。活性作用剤とカップリングするリンカーの反応性基が求核試薬である場合、リンカーは、リンカー化合物の残りの反応性基を通じて、活性作用剤の還元末端とカップリングすることができるとさらに思われ、そのような活性作用剤としてヘパリン、キトサン、第四級キトサンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物とプライマー被覆基板のカップリング。
本発明の1つの実施形態において、トリヒドロキシフェニル基含有化合物は、プライマー被覆基板表面とトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液を接触させることにより、プライマー被覆基板表面とカップリングする。プライマー被覆基板は、例えば、浸漬塗装により、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液に完全に浸漬することができる。あるいは、例えば、スピン塗装または溶液(エーロゾル化溶液など)の噴霧により、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液をプライマー被覆基板に噴霧またはその溶液で塗装することができる。内腔を有する基板(管類など)については、溶液を内腔に流し込んでその内部を被覆することができる。溶媒は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の担体として機能することができる任意の溶媒が可能である。例えば、水を溶媒として用いることが最も多いが、有機溶媒を用いることも可能であり、そのような有機溶媒として、アルコール類、ジオール類、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中開示される方法の実施形態において、トリヒドロキシフェニル基含有化合物を含む溶液は、pHが約7.5〜約9.5、約8〜約9、および/または約8.5の範囲にあって、平衡が、上記のとおり、どちらか一方に偏らないようになっている。トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液は、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができ、そのような緩衝剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPS)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、1つまたは複数の、クエン酸系、炭酸系、乳酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も用いることができる。もちろん、pH値を比較的高く維持するための1つまたは複数の、炭酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も用いることができる。
【0108】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物溶液中のトリヒドロキシフェニル基含有化合物の濃度は、一般に、任意の濃度が可能である。濃度は、典型的には、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。さらに、トリヒドロキシフェニル基含有化合物はin situで自己重合できるため、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の濃度は、典型的には、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が、望ましくは過剰な自己重合化または架橋、従って溶液のゲル化を起こすことなく、許容できる速度で、プライマー被覆基板とカップリングするように選択される。溶液中のトリヒドロキシフェニル基含有化合物の濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約5mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、および/または約5mg/mlが可能である。
【0109】
プライマー被覆基板は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の期間、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液と接触および/または溶液中に浸漬させることができる。本発明の実施形態において、この期間は、プライマー化合物とトリヒドロキシフェニル基含有化合物のネットワークを形成するのに適した任意の期間が可能である。トリヒドロキシフェニル基含有化合物がプライマー被覆基板に沈着する速度は、部分的には、トリヒドロキシフェニル基含有化合物溶液のトリヒドロキシフェニル基含有化合物濃度、基板表面対溶液体積の比、溶液のイオン強度、溶液のpH、および温度に依存する可能性がある。プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液を接触させる期間は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の長さの時間、例えば、浸漬塗装を用いる場合は、約10秒〜約24時間まで様々な長さの時間が可能である。プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル基含有化合物溶液を接触させる期間が24時間より長くなる(かつトリヒドロキシフェニル基含有化合物の濃度について上記の例示のうち1種を用いる)場合、(接触時間が24時間の場合と比較して)プライマー化合物と反応するトリヒドロキシフェニル基含有化合物の量はほとんど変わらないことが予想される。理論に縛られるつもりはないが、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とプライマー被覆基板のカップリングは24時間以後も継続する可能性があると思われるものの、24時間以後にもたらされるトリヒドロキシフェニル基含有化合物の量は、基板表面に最終的に固定される活性作用剤の量にほとんど影響しないと予測され、しかも、溶液中のトリヒドロキシフェニル基含有化合物が自己重合する可能性は、たとえ低濃度であったとしても、時間とともに高まると思われる。
【0110】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物としてトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体が含まれる本発明の実施形態においては、トリヒドロキシフェニル基を有する小分子または重合体化合物のトリヒドロキシフェニル基とリンカー化合物の求核試薬を、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素または反応性基を介してカップリングさせることで、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体を最初に形成し、典型的には、続いて基板とトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の溶液を接触させる。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とリンカー化合物を溶液でひとまとめにすることにより、形成することができる。トリヒドロキシフェニル基含有化合物および/またはリンカー化合物の溶液は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物および/またはリンカー化合物の担体として作用することができる任意の溶媒で調製することができる。例えば、水を溶媒として用いることが最も多いが、他の溶媒を用いることも可能であり、そのような溶媒として、アルコール類、ジオール類、有機硫黄類(スルホランなど)、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)、アルカン類、芳香族類、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
上記実施形態の改良形態において、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液およびリンカー化合物の溶液は、pHが約7.5〜約9.5、または約8〜約9、または約8.5の範囲である。トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液および/またはリンカー化合物の溶液はさらに、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができ、そのような緩衝剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPS)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、およびN−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)が挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、1つまたは複数の、炭酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も用いることができる。
【0112】
溶液中のトリヒドロキシフェニル基含有化合物およびリンカー化合物の濃度は、任意の濃度が可能である。濃度は、典型的には、トリヒドロキシフェニル基含有化合物および/またはリンカー化合物が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。トリヒドロキシフェニル基含有化合物および/またはリンカー化合物の濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、および/または約3mg/mlが可能である。トリヒドロキシフェニル基含有化合物対リンカー化合物の比は、約1:8〜約8:1、約1:7〜約7:1、約1:6〜約6:1、約1:5〜約5:1、約1:4〜約4:1、約1:3〜約3:1、および/または約1:2〜約2:1の範囲、例えば、約1:1が可能である。
【0113】
トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体は、プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の溶液を接触させることにより、プライマー被覆基板とカップリングすることができる。プライマー被覆基板は、例えば、浸漬塗装により、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の溶液に完全に浸漬することができる。あるいは、例えば、スピン塗装または溶液(エーロゾル化溶液など)の噴霧により、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の溶液をプライマー被覆基板に噴霧またはその溶液で塗装することができる。内腔を有する基板(管類など)については、溶液を内腔に流し込んでその内部を被覆することができる。
【0114】
トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体溶液中のトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の濃度は、任意の濃度が可能である。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の濃度は、典型的には、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、または約3mg/mlが可能である。
【0115】
プライマー被覆基板は、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体とプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の期間、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の溶液と接触および/または溶液に浸漬させることができる。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体は、トリヒドロキシフェニル基から遠位のリンカー化合物の末端基の一方または両方いずれかおよびトリヒドロキシフェニル基の任意の残りの反応性基を通じて、プライマー被覆基板とカップリングすることができると思われる。本発明の実施形態において、接触期間は、1つまたは複数のリンカーまたはトリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板表面上の反応性部分(存在する場合)の間に共有結合が形成されるのに適した任意の期間が可能である。トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体とプライマー被覆基板のカップリング速度は、部分的には、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体溶液の濃度、基板表面対溶液体積の比、溶液のイオン強度、溶液のpH、および温度に依存する可能性がある。プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体溶液の接触期間は、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体とプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の長さの時間、例えば、浸漬塗装を用いる場合、約10秒〜約24時間まで様々な長さの時間が可能である。プライマー被覆基板とトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体溶液を接触させる期間が24時間より長くなる(かつトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の濃度について上記の例示のうち1種を用いる)場合、(接触時間が24時間の場合と比較して)プライマー被覆基板表面とカップリングするトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の量はほとんど変わらないことが予想される。理論に縛られるつもりはないが、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体とプライマー被覆基板のカップリングは24時間以後も継続する可能性があると思われるものの、24時間以後にもたらされるトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体の量は、基板表面に最終的に固定される活性作用剤の量にほとんど影響しないと予測され、しかも、トリヒドロキシフェニル基が自己重合または架橋し、そのため溶液がゲル化する可能性は、たとえ低濃度であったとしても、時間とともに高まると思われる。
【0116】
活性作用剤
活性作用剤として、抗微生物剤(抗菌剤など)、防汚剤、抗炎症剤(補体阻害剤など、補体阻害剤として、C1阻害剤、例えば、エクリズマブ、およびC5阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない)、抗血栓形成剤(抗凝固剤など)、およびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、活性作用剤として、キトサン、デキストラン、直鎖ポリエチレングリコール(PEG)、ループ状ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコール誘導体(チオール末端PEG、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)末端PEG、およびアミン末端PEGなどが挙げられるが、これらに限定されない)、ポリ(N−ビニルピロリドン)(PVP)およびPVP誘導体(チオール末端PVP、アミン末端PVP、およびカルボキシル末端PVPが挙げられるが、これらに限定されない)、ヘパリン、分画ヘパリン、および未分画ヘパリン、ならびにヘパリン誘導体(ヘパリン誘導体として、エノキサパリン、ダルテパリン、およびチンザパリンが挙げられるが、これらに限定されない)、第四級アンモニウム重合体、アルブミン、ポリエチレンイミン、4−ヒドロキシクマリン誘導体(ワルファリン、クマテトラリル、フェンプロクモン、アセノクマロール、ジクマロール、チオクロマロール、およびブロディファコウムなど)、ならびにそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコール、キトサン、またはヘパリンを含む実施形態において、分子量は、約500Da〜約1,000,000Da、または約1000Da〜約500,000Da、約2000Da〜約500,000Da、約2000Da〜約250,000Da、および/または約2000Da〜約100,000Daの範囲が可能である。一般に、活性作用剤は官能基を有する。適切な官能基として、求核基が挙げられるが、これらに限定されない。求核基は、当該分野で既知であり、そのような基として、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、チオラート、イミダゾール、およびそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。キトサンの求核基として、アミン基およびヒドロキシル基が挙げられる;PEGおよび/またはPEG誘導体の求核基として、ヒドロキシル基、チオール基、アミン基が挙げられる;PVP誘導体の反応性基として、カルボキシル基、チオール基、アミン基が挙げられる;ヘパリンおよびヘパリン誘導体の求核基として、ヒドロキシル、カルボキシラート、スルファートが挙げられる。チオール、アミン、およびカルボキシル末端PVP誘導体は、PVP重合を、適切な鎖転移剤(例えば、メルカプト酢酸またはメルカプトエチルアミンなど)により終了させることにより、またはカルボキシル末端PVPをさらに誘導することにより、例えば、カルボキシル末端PVPをシステアミンと反応させ、続いてトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)またはジチオトレイトール(DTT)などの還元剤と反応させることにより、調製することができる。
【0117】
トリヒドロキシフェニル処理した基板と活性作用剤を接触させると、トリヒドロキシフェニル基上の利用可能な任意の反応性の部位(すなわち、フェニル環の反応性基および/または無置換炭素)、またはその上のリンカー化合物が、活性作用剤とカップリングすることができ、それにより基板表面に活性作用剤を固定することができると思われる。活性作用剤は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、トリヒドロキシフェニル基に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。典型的には、活性作用剤は、トリヒドロキシフェニル基の無置換炭素と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、またはトリヒドロキシフェニル基の反応性基を通じて、トリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングする。トリヒドロキシフェニル基の反応性基は、活性作用剤の求核試薬と反応することができる任意の反応性基が可能である。トリヒドロキシフェニル基の適切な反応性基として、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルが挙げられるが、これらに限定されない。トリヒドロキシフェニル基の反応性基は、例えば、エステル転移反応またはアミド転移反応により、リンカー化合物とカップリングすることができる。エステル転移反応またはアミド転移反応は、任意選択で、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、または1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)などの活性化剤化合物により促進することができる。活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素の間に共有結合が形成される実施形態において、共有結合はマイケル付加により形成される可能性があると思われる。例えば、活性作用剤キトサンは、活性作用剤のヒドロキシルまたはアミン基を通じてトリヒドロキシフェニル基とカップリングすることができ、ヒドロキシルまたはアミン基が、トリヒドロキシフェニル基のフェニル環の無置換炭素と共有結合する。他の適切な活性作用剤は、必ず同様な求核基を有しており、それにより、それらもキトサンと同様な様式でトリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングすることができる。
【0118】
本発明の1つの実施形態において、活性作用剤は、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板表面と活性作用剤を接触させることにより、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板表面とカップリングさせられる。活性作用剤は、溶液で提供することができ、もし活性作用剤が液体であれば、無溶媒で提供することもできる。トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板は、例えば、浸漬塗装により、活性作用剤の溶液に完全に浸漬することができる。あるいは、例えば、スピン塗装または溶液(エーロゾル化溶液など)の噴霧により、プライマー化合物の溶液をトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板に噴霧またはその溶液で塗装することができる。内腔を有する基板(管類など)については、溶液を内腔に流し込んでその内部を被覆することができる。
【0119】
活性作用剤溶液の溶媒は、活性作用剤の担体として機能することができる任意の溶媒が可能である。例えば、水を溶媒として用いることが最も多いが、他の溶媒を用いることも可能であり、そのような溶媒として、アルコール類、ジオール類、有機硫黄類(スルホランなど)、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中開示される方法の1つの実施形態において、活性作用剤の溶液は、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基またはリンカー化合物をカップリングさせる時点で、pHが約5.5〜約8.5、または約6〜約8、または約7.5の範囲にある。活性作用剤の溶液は、当該分野で既知であるとおり、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができる。そのようなpHを維持するのに適切な緩衝剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPS)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、およびN−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)が挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、pH値を比較的高く維持するための1つまたは複数の、炭酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も用いることができる。
【0120】
代替実施形態において、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板は、もっと低いpHを有する活性作用剤溶液と接触させることができる。例えば、活性作用剤の溶液は、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基またはリンカー化合物をカップリングさせる時点で、pHが約4〜約5.5の範囲、例えば、約4.0、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、および/または約5.5であることが可能である。もっと低いpHでカップリングするのに適切な活性作用剤として、ヘパリンおよびキトサンが挙げられるが、これらに限定されない。活性作用剤の溶液は、当該分野で既知であるとおり、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができる。そのようなpHを維持するのに適切な緩衝剤として、1つまたは複数の、酢酸系、クエン酸系、乳酸系、リン酸系、および同じく使用することができる他の既知の緩衝剤系が挙げられる。
【0121】
活性作用剤溶液中の活性作用剤の濃度は、一般に、任意の濃度が可能である。活性作用剤の濃度は、典型的には、活性作用剤が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。濃度が高い方が、一般に、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル基をカップリングするのに要する時間を縮小するので、好適である。活性作用剤濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、および/または約3mg/mlが可能である。
【0122】
トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板は、活性作用剤とトリヒドロキシフェニル処理した基板のトリヒドロキシフェニル基をカップリングさせるのに適した任意の期間、活性作用剤または活性作用剤溶液と接触および/またはそれに浸漬することができる。活性作用剤とトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板がカップリングする速度は、部分的には、活性作用剤溶液の活性作用剤濃度、基板表面対溶液体積比、溶液のイオン強度、および温度に依存する可能性がある。トリヒドロキシフェニル処理した基板と活性作用剤または活性作用剤溶液の接触期間は、基板に層を提供するのに適した任意の長さの時間、例えば、浸漬塗装を用いる場合、約10秒〜約24時間まで様々な長さの時間が可能である。トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤溶液を接触させる期間が24時間より長くなる(かつ活性作用剤の濃度について上記の例示のうち1種を用いる)場合、(接触時間が24時間の場合と比較して)基板表面に固定される活性作用剤の量はほとんど変わらないことが予想される。理論に縛られるつもりはないが、活性作用剤がトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板に固定されるのは継続する可能性があると思われるものの、24時間以後に固定される活性作用剤の量は、得られる活性作用剤が固定された基板の活性(抗菌性、抗微生物性など)にほとんど影響しないことが予想される。
【0123】
トリヒドロキシフェニル基含有化合物としてトリヒドロキシフェニル・リンカー複合体が含まれる本発明の実施形態において、活性作用剤は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、トリヒドロキシフェニル基とカップリングしたリンカーに吸着/と接着/とカップリング/と会合することができる。典型的には、活性作用剤は、トリヒドロキシフェニル基から遠位のリンカー化合物の末端基と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、トリヒドロキシフェニル基とカップリングしたリンカーとカップリングする。活性作用剤とカップリングするリンカー化合物の基が、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルを含む(しかしこれらに限定されない)反応性基である場合、リンカーは、リンカーの反応性基および活性作用剤の求核基を通じて、活性作用剤とカップリングすると思われる。活性作用剤とカップリングするリンカー末端基が、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、およびチオラートなどの求核試薬である場合、さらに、リンカーは、ヘパリン、キトサン、第四級キトサンなどの活性作用剤(しかしこれらに限定されない)とカップリングすることができると思われる。
【0124】
上記のとおり、「活性作用剤」は、活性作用剤・リンカー複合体を包含する。活性作用剤として活性作用剤・リンカー複合体が含まれる本発明の実施形態においては、リンカー化合物の求核試薬と活性作用剤の反応性基をカップリングさせることにより、または活性作用剤の求核試薬とリンカー化合物の反応性基をカップリングさせることにより、活性作用剤・リンカー複合体を最初に形成させ、続いてトリヒドロキシフェニル処理した基板と活性作用剤・リンカー複合体の溶液を接触させる。活性作用剤は、共有結合形成、水素結合形成、イオン結合形成、ファン・デル・ワールス相互作用、またはそれらの組み合わせを通じて、リンカー化合物に吸着/と接着/とカップリング/と会合する。リンカー化合物は、本明細書中先に記載されたとおりの任意のリンカー化合物が可能である。典型的には、活性作用剤は、リンカー化合物の末端基と1つまたは複数の共有結合を形成することにより、リンカー化合物とカップリングする。リンカーが、カルボキシル、カルボキシラート、アミド、アシルハライド、アルデヒド、およびエステルを含む(しかしこれらに限定されない)反応性基を通じて活性作用剤とカップリングする場合、リンカーは、リンカーの反応性基および活性作用剤の求核基を通じて、活性作用剤とカップリングすると思われる。リンカーの反応性基が、ヒドロキシル、アルコキシド、アミン、ナイトライト、チオール、およびチオラートなどの求核試薬である場合、さらに、リンカーは、リンカー化合物の求核基を通じて、ヘパリン、キトサン、第四級キトサンなどの活性作用剤(しかしこれらに限定されない)の反応性基とカップリングすることができると思われる。
【0125】
活性作用剤・リンカー複合体は、リンカー化合物および活性作用剤を溶液でひとまとめにすることにより、形成することができる。活性作用剤および/またはリンカー化合物の溶液は、活性作用剤および/またはリンカー化合物の担体として作用することができる任意の溶媒で調製することができる。例えば、水を溶媒として用いることが最も多いが、他の溶媒を用いることも可能であり、そのような溶媒として、アルコール類、ジオール類、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
上記実施形態の改良形態において、活性作用剤および/またはリンカー化合物の溶液は、pHが約5.5〜約9.5、または約8〜約9、または約8.5または約6〜約8、または約7.5の範囲にある。活性作用剤の溶液および/またはリンカー化合物の溶液は、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができ、そのような緩衝剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPS)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、およびN−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)が挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、1つまたは複数の、クエン酸系、炭酸系、乳酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も用いることができる。
【0127】
代替実施形態において、活性作用剤および/またはリンカー化合物の溶液は、もっと低いpHに維持されることが可能である。例えば、活性作用剤とリンカー化合物をカップリングさせて活性作用剤・リンカー複合体を形成する場合、pHが約4〜約5.5、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、および/または約5.5の範囲にある酢酸緩衝溶液を用いることができる。もっと低いpHでリンカー化合物とカップリングさせるのに適切な活性作用剤として、ヘパリンおよびキトサンが挙げられるが、これらに限定されない。活性作用剤および/またはリンカー化合物の溶液は、当該分野で周知であるとおり、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができる。そのようなpHを維持するのに適切な緩衝剤として、1つまたは複数の、酢酸系、クエン酸系、乳酸系、リン酸系、および同じく使用することができる他の既知の緩衝剤系が挙げられる。
【0128】
溶液中の活性作用剤およびリンカー化合物の濃度は、任意の濃度が可能である。いくつかの実施形態において、活性作用剤は、活性作用剤溶液を最初に形成することなく、リンカー化合物の溶液に直接加えることができる。代替実施形態において、活性作用剤は、活性作用剤溶液として、リンカー化合物の溶液に提供することができる。濃度は、典型的には、活性作用剤および/またはリンカー化合物が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。活性作用剤および/またはリンカー化合物濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、および/または約3mg/mlが可能である。活性作用剤対リンカー化合物の比は、約1:8〜約8:1、約1:7〜約7:1、約1:6〜約6:1、約1:5〜約5:1、約1:4〜約4:1、約1:3〜約3:1、および/または約1:2〜約2:1、例えば、約1:1の範囲にあることが可能である。
【0129】
活性作用剤・リンカー複合体は、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤・リンカー複合体の溶液を接触させることにより、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とカップリングさせることができる。トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板は、例えば、浸漬塗装により、活性作用剤・リンカー複合体の溶液に完全に浸漬することができる。あるいは、例えば、スピン塗装または溶液(エーロゾル化溶液など)の噴霧により、活性作用剤・リンカー複合体の溶液をプライマー被覆基板に噴霧またはその溶液で塗装することができる。内腔を有する基板(管類など)については、溶液を内腔に流し込んでその内部を被覆することができる。
【0130】
活性作用剤・リンカー複合体溶液中の活性作用剤・リンカー複合体濃度は、任意の濃度が可能である。活性作用剤・リンカー複合体の濃度は、典型的には、活性作用剤・リンカー複合体が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。活性作用剤・リンカー複合体濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、および/または約3mg/mlが可能である。
【0131】
トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板は、活性作用剤・リンカー複合体とトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の期間、活性作用剤・リンカー複合体の溶液と接触および/または溶液に浸漬させることができる。活性作用剤・リンカー複合体は、活性作用剤から遠位のリンカー化合物の末端基の一方または両方および活性作用剤の残りの求核基を通じて、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板とカップリングすることができると思われる。さらに、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板のトリヒドロキシフェニル基およびプライマー化合物の一方または両方とカップリングすることができると思われる。本発明の実施形態において、接触期間は、リンカーまたは活性作用剤の1つまたは複数と、トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板のプライマー化合物および/またはトリヒドロキシフェニル基の1つまたは複数との間に共有結合を形成するのに適した任意の期間が可能である。活性作用剤・リンカー複合体とトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板がカップリングする速度は、部分的には、活性作用剤・リンカー複合体溶液の活性作用剤・リンカー複合体濃度、基板表面対溶液体積の比、溶液のイオン強度、溶液のpH、および温度に依存する可能性がある。トリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板と活性作用剤・リンカー複合体の溶液の接触期間は、活性作用剤・リンカー複合体とトリヒドロキシフェニル処理したプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の長さの時間、例えば、浸漬塗装を用いる場合、約10秒〜約24時間まで様々な長さの時間が可能である。基板と活性作用剤・リンカー複合体溶液を接触させる期間が24時間より長くなる(かつ活性作用剤・リンカー複合体の濃度について上記の例示のうち1種を用いる)場合、(接触時間が24時間の場合と比較して)基板表面に固定される活性作用剤の量はほとんど変わらないことが予想される。理論に縛られるつもりはないが、活性作用剤・リンカー複合体が基板に固定されるのは継続する可能性があると思われるものの、24時間以後に固定される活性作用剤の量は、得られる活性作用剤が固定された基板の活性(抗菌性、抗微生物性、など)にほとんど影響しないことが予想される。
【0132】
任意選択のリンカーを持つ活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体
本発明の実施形態においては、活性作用剤の求核試薬とトリヒドロキシフェニル基の反応性基をカップリングさせることにより、またはトリヒドロキシフェニル基の求核試薬と活性作用剤の反応性基をカップリングさせることにより、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体を最初に形成させ、続いて、プライマー被覆基板と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液を接触させる。活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、トリヒドロキシフェニル基含有化合物および活性作用剤を溶液でひとまとめにすることにより、形成することができる。既に記載したとおり、トリヒドロキシフェニル基含有化合物として、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体が挙げられる。したがって、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、トリヒドロキシフェニル基とさらにカップリングしているリンカー化合物とカップリングしている活性作用剤を包含する。リンカー化合物とカップリングした活性作用剤は、活性作用剤・リンカー複合体について上記で記載したとおりに形成することができ、リンカー化合物とカップリングしたトリヒドロキシフェニル基含有化合物は、トリヒドロキシフェニル・リンカー複合体について上記で記載したとおりに形成することができる。次いで、それらをさらに、それぞれ、トリヒドロキシフェニル基含有化合物または活性作用剤と反応させて、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体を形成する。一般的な活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、式(Va−c)および式(VIa−c)で表すことができる:
【0133】
【化12】
式中、Xは、ハロゲン、アミン、チオール、アルデヒド、カルボン酸、カルボキシラート、アシルハライド、エステル、アクリラート、ビニル、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアミン、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルチオール、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアルデヒド、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルカルボン酸、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルカルボキシラート、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアシルハライド、分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルエステル、または分岐鎖または直鎖のC1−C10アルキルアクリラートが可能であり、Rはリンカー化合物である。列挙される置換基の炭素鎖の長さに関して、鎖長は、水溶液が用いられる場合、典型的には、C1−C5であり(選択した水系で溶解性が得られる限りにおいて);有機溶媒が用いられる場合、鎖長は、C1−C10が可能である。化合物(Va−c)および(VIa−c)によれば、3つのヒドロキシル基は、C
2、C
3、C
4、C
5、およびC
6のうち任意の3カ所に配置することが可能である。例えば、トリヒドロキシフェニル基含有化合物がカルボン酸、例えば没食子酸(つまり、Xはカルボキシルである)である場合、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、式(Va)、(Vb)、(VIa)、または(VIb)のものが可能である:
【0134】
【化13】
式中、Rはリンカー化合物であり、活性作用剤は、活性作用剤を示す。さらに、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が没食子酸である場合、(Va)、(Vb)、(VIa)、および(VIb)に従う活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体と一致して、3つのヒドロキシル基は、C
3、C
4、およびC
5に配置され、リンカーは、カルボキシル基(IVa)またはC
2もしくはC
6のうち1つ(IVb)に配置される。トリヒドロキシフェニル基含有化合物がピロガロールである場合、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、式(Vc)または(VIc)のものであることが可能である:
【0135】
【化14】
式中、Rはリンカー化合物であり、3つのヒドロキシル基は、C
2、C
3、C
4、C
5、およびC
6の任意の連続する3カ所に配置することが可能である。
【0136】
活性作用剤が無溶媒の液体として提供される本発明の実施形態において、活性作用剤は、溶媒となって活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体をその中で形成させることが可能である。活性作用剤の溶液をトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液とひとまとめにする本発明の実施形態において、活性作用剤および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液は、活性作用剤および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物の担体として機能することができる任意の溶媒で調製することができる。例えば、水を溶媒として用いることが最も多いが、有機溶媒を用いることも可能であり、有機溶媒として、アルコール類、ジオール類、有機硫黄類(スルホランなど)、エーテル類(ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなど)アルカン類、芳香族類、ハロカーボン類(クロロホルムおよびジクロロメタンなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
上記実施形態の改良形態において、活性作用剤の溶液および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液は、pHが約7.5〜約9.5、または約8〜約9、または約8.5の範囲にある。活性作用剤の溶液および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液は、pHを上記範囲内に維持する目的で緩衝剤をさらに含むことができ、そのような緩衝剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)、3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPS)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン(トリス)、およびN−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(トリシン)が挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、1つまたは複数の、クエン酸系、炭酸系、乳酸系、リン酸系、および他の既知の緩衝剤系も用いることができる。代替実施形態において、活性作用剤の溶液および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液は、もっと低いpHを有することができる。例えば、約4〜約5.5、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、および/または約5.5の範囲のpHで活性作用剤を沈着させるために、酢酸緩衝溶液を用いることができる。もっと低いpHの溶液でトリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングするのに適切な活性作用剤として、ヘパリンが挙げられるが、これに限定されない。
【0138】
溶液中の活性作用剤およびトリヒドロキシフェニル基含有化合物の濃度は、一般に、任意の濃度が可能である。いくつかの実施形態において、活性作用剤は、活性作用剤溶液を最初に形成することなく、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液に直接加えることができる。代替実施形態において、活性作用剤は、活性作用剤溶液として、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の溶液に提供することができる。濃度は、典型的には、活性作用剤および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。活性作用剤および/またはトリヒドロキシフェニル基含有化合物濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、および/または約3mg/mlが可能である。活性作用剤対トリヒドロキシフェニル基含有化合物の比は、活性作用剤が小分子であるか重合体であるか、ならびにトリヒドロキシフェニル基含有化合物が小分子であるか重合体であるかに依存して変わる可能性がある。例えば、活性作用剤が重合体であり、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が小分子である場合、1つの活性作用剤は数千のトリヒドロキシフェニル基含有化合物とカップリングできるだろう。あるいは、活性作用剤が小分子であり、トリヒドロキシフェニル基含有化合物が重合体である場合、1つのトリヒドロキシフェニル基含有化合物は、数千の活性作用剤とカップリングできるだろう。活性作用剤対トリヒドロキシフェニル含有化合物の適切な比は、したがって、約1:5,000〜約5,000:1の範囲が可能であり、全ての中間範囲、例えば、約1:5〜約5:1、約1:4〜約4:1、約1:3〜約3:1、および/または約1:2〜約2:1、例えば、約1:1などが含まれる。
【0139】
活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体は、プライマー被覆基板と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体溶液を接触させることにより、プライマー被覆基板とカップリングさせることができる。プライマー被覆基板は、例えば、浸漬塗装により、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液に完全に浸漬することができる。あるいは、例えば、スピン塗装または溶液(エーロゾル化溶液など)を用いた噴霧により、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液をプライマー被覆基板に噴霧またはその溶液で塗装することができる。内腔を有する基板(管類など)については、溶液を内腔に流し込んでその内部を被覆することができる。
【0140】
活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体溶液中の活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の濃度は、任意の濃度が可能である。活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の濃度は、典型的には、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体が、飽和溶液を形成することなく、選択した溶媒に十分溶解するように、選択される。活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体濃度の例として、約0.0001〜約100mg/ml、約0.001〜約100mg/ml、約0.01〜約100mg/ml、約0.05〜約100mg/ml、0.0001〜約90mg/ml、約0.0001〜約80mg/ml、約0.0001〜約70mg/ml、約0.0001〜約60mg/ml、約0.0001〜約50mg/ml、約0.001〜約50mg/ml、約0.001〜約40mg/ml、約0.001〜約30mg/ml、約0.01〜約30mg/ml、約0.01〜約20mg/ml、約0.01〜約15mg/ml、約0.01〜約10mg/ml、約0.01〜約5mg/ml、約0.05〜約5mg/ml、および/または約0.05〜約3mg/mlの範囲、例えば、約1mg/ml、約1.5mg/ml、および/または約3mg/mlが可能である。
【0141】
プライマー被覆基板は、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体のトリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の期間、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の溶液と接触および/または溶液に浸漬させることができる。本発明の実施形態において、この期間は、プライマー化合物と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体のトリヒドロキシフェニルのネットワークを形成するのに適切な任意の長さの時間が可能である。活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体とプライマー被覆基板のカップリング速度は、部分的には、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体溶液中の活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の濃度、基板表面対溶液体積の比、溶液のイオン強度、溶液のpH、および温度に依存する可能性がある。プライマー被覆基板と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体溶液の接触期間は、トリヒドロキシフェニル基とプライマー被覆基板をカップリングさせるのに適した任意の長さの時間、例えば、浸漬塗装を用いる場合、約10秒〜約24時間まで様々な長さの時間が可能である。基板と活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体溶液を接触させる期間が24時間より長くなる(かつ活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体の濃度について上記の例示のうち1種を用いる)場合、(接触時間が24時間の場合と比較して)基板表面に固定される活性作用剤の量はほとんど変わらないことが予想される。理論に縛られるつもりはないが、活性作用剤・トリヒドロキシフェニル複合体が基板に固定されるのは継続する可能性があると思われるものの、24時間以後に固定される活性作用剤の量は、得られる活性作用剤が固定された基板の活性(抗菌性、抗微生物性、など)にほとんど影響しないことが予想される。
【0142】
以下の実施例に照らすことで、本発明による方法、基板、および医療用デバイスをより良く理解することができるだろう。実施例は、方法、基板、および医療用デバイスを例示することを意図するにすぎず、いかなる方法においてもそれらの範囲を制限することを意味しない。
【実施例】
【0143】
実施例1
ヘパリンをポリスルホン基板に固定する際のヘパリン濃度の影響
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリスルホン基板に固定した。ヘパリンをポリスルホン基板に固定する際のヘパリン濃度の影響を、ヘパリン溶液中のヘパリン濃度を変えることにより、分析した。ヘパリン溶液中のヘパリン濃度は、0.1mg/mL、1.0mg/mL、または5.0mg/mLいずれかであった。基板は、以下のとおり調製した。
【0144】
キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン(pH8.5)に溶解させた溶液に、ポリスルホン基板を浸漬した。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(1mg/mL)を10mMのビシン(pH8.5)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、600mMのNaClを補充した10mM〜300mMの酢酸塩(pH4.5)にヘパリンを溶解させた溶液(0.1mg/mL、1.0mg/mL、または5.0mg/mLのヘパリン)に浸漬した。没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を24時間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にヘパリンが固定されたポリスルホン基板を得た。
【0145】
すなわち、実施例1は、本発明によるヘパリンのポリスルホン基板への固定を示す。ヘパリンの固定は、XPSを用いて、および基板表面に固定されたアニオン性ヘパリンのアルシアンブルー染色を通じて確認した。
【0146】
図1は、キトオリゴ糖、没食子酸、および様々な濃度のヘパリンで修飾されたポリスルホン表面のX線光電子分光測定サーベイスペクトルを示す。「PS」は未処理のポリスルホン表面であり、「GA」は、実施例1に従って調製された、キトオリゴ糖および没食子酸を持つポリスルホン基板である。「0.1」は、実施例1に従って調製された、キトオリゴ糖、没食子酸、および0.1mg/mLのヘパリン溶液で修飾されたポリスルホン基板である。「1.0」は、実施例1に従って調製された、キトオリゴ糖、没食子酸、および1.0mg/mLのヘパリン溶液で修飾されたポリスルホン基板である。「5.0」は、実施例1に従って調製された、キトオリゴ糖、没食子酸、および5.0mg/mLのヘパリン溶液で修飾されたポリスルホン基板である。O1sは酸素シグナルを指定し、N1sは窒素シグナルを指定し、C1sは炭素シグナルを指定し、S2sおよびS2pは硫黄シグナルを指定する。N1sシグナルは、キトオリゴ糖・没食子酸層を有する全ての表面で観測される。S1sおよびS2pピークは、「GA」トレースには存在せず、キトオリゴ糖および没食子酸の層が基板表面に沈着したことを示している。「0.1」、「1.0」、および「5.0」トレースに存在するS1sおよびS2pピークにより、ヘパリンが基板に固定されたことが確認される。
【0147】
元素組成は、XPS分析から得ることができ、組成データを以下の表に示する。
【0148】
【表1】
【0149】
組成データはさらに、ヘパリン溶液に24時間沈められた基板に固定されたヘパリンの量は、検出された硫黄のパーセンテージから確定されるとおり、調べた範囲において、ヘパリン溶液中のヘパリン濃度に、それほど依存しないことを示唆する。
【0150】
実施例2
ポリスルホン基板へのヘパリンの固定
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリスルホン基板に固定した。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.4)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で90分間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(1.5mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.6)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で90分間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(1mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液に溶解した溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を約12時間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にヘパリンが固定されたポリスルホン基板を得た。ヘパリンの固定は、実施例10に記載のとおり、基板に固定されたアニオン性ヘパリンのアルシアンブルー染色を用いて確認した。
【0151】
すなわち、実施例2は、本発明によるヘパリンのポリスルホン基板への固定を示す。
【0152】
実施例3
ヘパリンが固定されたポリスルホン基板の抗血栓活性
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリスルホン基板に固定した。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1.3mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.4)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で15分間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(3.5mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.7)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で30分間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(1.1mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液に溶解させた溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を30分間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、乾燥させて、表面にヘパリンが固定されたポリスルホン基板を得た。
【0153】
ヘパリンが固定されたポリスルホン基板の抗血栓形成活性を、血液試料におけるプロトロンビンからトロンビンへの変換を測定することにより評価した。被覆していないポリスルホン基板を含む血液試料(PSで指定)、没食子酸処理したプライマー被覆対照基板(実施例5の没食子酸処理したプライマー被覆基板を形成する手順に従って調製、COS/GAで指定)、および本発明に従って活性作用剤ヘパリンが固定されたポリスルホン基板を含む試料(1mg/mLヘパリンで指定)におけるプロトロンビンからトロンビンへの変換を測定し、対照血液試料(血液で指定)におけるトロンビン変換と比較した。
図2に示すとおり、ポリスルホン基板を血液中でインキュベートする場合、被覆していないポリスルホン基板を含む血液試料は、対照血液試料と比較して低下したトロンビン変換を示すことはない。対照的に、ヘパリンが固定されたポリスルホン基板(1mg/mLヘパリン)を含む血液試料は、被覆していないポリスルホン基板を含む試料および対照血液試料の両方と比較して向上した抗血栓形成活性を示す。
【0154】
シーメンスエンザイグノスト(登録商標)F1+2(モノクローナル)アッセイキットを用いて、F1+2を測定した。F1+2フラグメントは、凝固カスケードにおいて、プロトロンビンから活性トロンビンへの変換中に形成される。F1+2フラグメントの測定により、形成されたトロンビンの定量化が可能になる。ポリスルホン基板を、ヘパリン0.4U/mLを含有するヒト血液2mLに入れて、少し撹拌を加えながら2時間インキュベートすることにより、F1+2レベルを測定した。2時間にわたり、血液試料から一定量を分取して、経時的にトロンビン変換を測定した。次いで、シーメンスエンザイグノスト(登録商標)F1+2(モノクローナル)アッセイキットの添付文書に従って、血液試料でF1+2の測定を行った。
【0155】
すなわち、実施例3は、ポリスルホン基板にヘパリンが固定されることおよび固定後もヘパリンの活性が保持されていることを実証する。ヘパリンを持たないポリスルホン基板(PS)はトロンビンで汚れてしまい、没食子酸処理したプライマー被覆対照基板(COS/GA)もトロンビンで汚れてしまったが、ヘパリンで処理したポリスルホン基板(1mg/mLヘパリン)は、有利なことに、PSと比較して低下したトロンビン変換を実証し、それにより、ヘパリン、すなわち抗血栓形成剤が、基板表面に固定されたこと、および表面に固定された後もその活性を保持したことが確かめられた。
【0156】
実施例4
ヘパリンが固定されたポリスルホン基板の抗血栓活性
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリスルホン基板に固定した。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(0.1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.4)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で10分間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出した。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(1mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.7)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で30分間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(5mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液に溶解させた溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を30分間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にヘパリンが固定されたポリスルホン基板を得た。
【0157】
ヘパリンが固定されたポリスルホン基板の抗血栓形成活性を、血液試料におけるプロトロンビンからトロンビンへの変換を測定することにより評価した。被覆していないポリスルホン基板を含む血液試料(PSで指定)、没食子酸処理したプライマー被覆対照基板(実施例5の没食子酸処理したプライマー被覆基板を形成する手順に従って調製、COS/GAで指定)、および本発明に従って活性作用剤ヘパリンが固定されたポリスルホン基板を含む試料(5mg/mLヘパリンで指定)におけるプロトロンビンからトロンビンへの変換を測定し、対照血液試料(血液で指定)におけるトロンビン変換と比較した。
図2に示すとおり、ポリスルホン基板を血液中でインキュベートする場合、処理していないポリスルホン基板を含む血液試料は、低下したトロンビン変換を示すことはない。対照的に、ヘパリンが固定されたポリスルホン基板を含む血液試料は、被覆していないポリスルホン基板を含む試料および対照血液試料の両方と比較して向上した抗血栓形成活性を示す。
【0158】
実施例3に記載のとおり、シーメンスエンザイグノスト(登録商標)F1+2(モノクローナル)アッセイキットを用いて、F1+2を測定した。
【0159】
すなわち、実施例4は、ポリスルホン基板にヘパリンが固定されることおよび固定後もヘパリンの活性が保持されていることを実証する。ヘパリンを持たないポリスルホン基板(PS)はトロンビンで汚れてしまい、没食子酸処理したプライマー被覆対照基板(COS/GA)もトロンビンで汚れてしまったが、ヘパリンで処理したポリスルホン基板(5mg/mLヘパリン)は、有利なことに、PSと比較して低下したトロンビン変換を実証し、それにより、ヘパリン、すなわち抗血栓形成剤が、基板表面に固定されたこと、および表面に固定された後もその活性を保持したことが確かめられた。
【0160】
実施例5
ヘパリンが固定されたポリスルホン基板の抗血栓活性
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリスルホン基板に固定した。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(5mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.4)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出した。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2.5mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.7)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で20時間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(1mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液(pH5.17)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を24時間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすぎ、層流フード中で乾燥させて、表面にヘパリンが固定されたポリスルホン基板を得た。
【0161】
本発明に従って活性作用剤ヘパリンが固定されたポリスルホン基板の抗血栓形成活性を、血液試料におけるプロトロンビンからトロンビンへの変換を測定することにより評価した。被覆していないポリスルホン基板を含む血液試料(PSで指定)、没食子酸処理したプライマー被覆対照基板(COS/GAで指定)、および活性作用剤ヘパリンが固定されたポリスルホン基板を含む試料(24hヘパリンで指定)におけるプロトロンビンからトロンビンへの変換を測定した。これらの基板それぞれを、対照血液試料(血液で指定)におけるトロンビン変換と比較した。基板を血液中でインキュベートし、トロンビン変換を測定した。
図2に示すとおり、被覆していないポリスルホン基板および没食子酸処理したプライマー被覆基板は、対照血液試料と比較して向上した抗血栓形成活性(すなわち、トロンビン変換の減少)を示すことはなかったが、しかしながら、ヘパリンが固定されたポリスルホン基板(24hヘパリン)は、有利なことに、被覆していないポリスルホン基板と比較して減少したトロンビン変換を示し、それにより、ヘパリン、すなわち抗血栓形成剤が、基板表面に固定されたことが確かめられた。さらに、
図2は、同濃度のヘパリンを用いてただしもっと短い浸漬時間でヘパリンが固定された基板(1mg/mL、30分、実施例3)が、24時間の浸漬時間を用いてヘパリンが固定された基板(24hヘパリン、実施例5)と比較して、同様な抗血栓形成活性を有したことを示す。
【0162】
すなわち、実施例5は、ポリスルホン基板にヘパリンが固定されることおよび固定後もヘパリンの活性が保持されていることを示す。
【0163】
実施例6
ポリスルホン/ポリイソプレン基板に固定されたヘパリンの、血液および洗浄に対する安定性
本発明に従ってヘパリンが固定された多成分ポリスルホンおよびポリイソプレンフローセルを、実施例5に記載のとおり調製したが、ただし、濃HCL:30%H
2O
2(1:1)の混合液を用いて基板を前処理して濡れ性を向上させた。フローセルをHCL:過酸化水素溶液で満たして、約5分間静置した。次いでフローセルを蒸留水で洗い流した。次いで、実施例5に記載のとおり、ヘパリンを基板に固定した。本発明に従って活性作用剤ヘパリンが固定されたポリスルホン/ポリイソプレン基板の抗血栓形成活性を、目視観察および顕微鏡観察により評価した。この実験は、血栓形成について、未修飾ポリスルホン/ポリイソプレンフローセルとヘパリンが固定されたポリスルホン/ポリイソプレンフローセルを比較するために設定された。2つの血液ループを、シリコーン管類、血液リザーバー、およびポリスルホン/ポリイソプレンフローセルとともに組み立て、一方のループは未修飾のフローセルと、他方のループはヘパリン修飾フローセルとつなげた。ローラーポンプを用いて、連続ループ内に50mL/分の流速をもたらした。ループを血液約175mLで満たして、2時間再循環させて予備刺激を与えた。ドナーによるばらつきを排除するため、どちらのループにも同一血液源を用いた。再循環完了後、ループを生理食塩水ですすぎ、次いで85℃に加熱した水を>400mL/分で60分間以上流して洗浄した。2つのフローセルを分析し、次いでこのプロセスを3サイクル繰り返した。最後のサイクルが完了した後、光学分析したところ、ヘパリン修飾したフローセルには視認できる血栓はなかった。対照的に、未修飾フローセルには裸眼で視認できる血栓が広い範囲で存在した。SEMを用いて分析したところ、未修飾フローセルに非常に高密度のフィブリン構造体が存在した。対照的に、ヘパリン修飾したフローセルは、少量のフィブリン構造体しか含有せず、この構造体はSEMで高倍率下でなければ視認できなかった。
【0164】
すなわち、実施例6は、本発明に従って活性作用剤ヘパリンが固定された基板が、有利なことに、洗浄および再利用可能であることを実証する。
【0165】
実施例7
プライマー化合物としてキトオリゴ糖を用いた、ポリカーボネート基板へのヘパリンの固定
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリカーボネート基板に固定した。ポリカーボネート基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.0)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリカーボネート基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.5)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(1mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液に溶解させた溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を24時間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にヘパリンが固定されたポリカーボネート基板を得た。
【0166】
すなわち、実施例7は、本発明に従ってポリカーボネート基板にヘパリンが固定されることを示す。ヘパリンの固定は、実施例10に記載のとおり、基板に固定されたアニオン性ヘパリンのアルシアンブルー染色を用いて確認した。
【0167】
実施例8
プライマー化合物としてポリエチレンイミンを用いた、ポリカーボネート基板へのヘパリンの固定
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリカーボネート基板に固定した。ポリカーボネート基板を、ポリエチレンイミン(PEI)プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.0)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリカーボネート基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.5)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(1mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液に溶解させた溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を24時間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にヘパリンが固定されたポリカーボネート基板を得た。
【0168】
すなわち、実施例8は、本発明に従ってポリカーボネート基板にヘパリンが固定されることを示す。ヘパリンの固定は、実施例10に記載のとおり、基板に固定されたアニオン性ヘパリンのアルシアンブルー染色を用いて確認した。
【0169】
実施例9
トリヒドロキシフェニル基含有化合物とプライマー化合物のカップリングを確認するための硝酸銀試験
様々なトリヒドロキシフェニル基含有化合物(THP)をプライマー被覆ポリスルホン基板とカップリングさせ、THPの基板への固定を硝酸銀試験で確認した。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.0)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2mg/mL)、ピロガロール(2mg/mL)、または2,4,6−トリヒドロキシベンズアルデヒド(2mg/mL)から選択される1種類のトリヒドロキシフェニル基含有化合物(THP)を100mMのビシン緩衝液(pH7.5)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、THP溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板をTHP溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるTHP処理したプライマー被覆基板を、硝酸銀の50mM溶液に約16時間浸漬し、その間穏やかに撹拌した。基板を硝酸銀溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。THPがプライマー被覆基板とカップリングしていれば、トリヒドロキシフェニル基含有化合物の還元基は、どんな還元基であっても、硝酸銀を還元することが予想される。THPは銀イオンを還元して銀微粒子にし、その結果ポリスルホン基板に褐色が生じることがわかった。
【0170】
すなわち、実施例9は、本発明に従って、取り揃えたTHP基が、その反応性を維持しながら、キトオリゴ糖とのカップリングを介して、ポリスルホン基板に固定されることの確認を裏付ける。
【0171】
実施例10
基板へのヘパリンの固定を確認するためのアルシアンブルー試験
抗血栓形成剤であるヘパリンを、ポリカーボネート基板に固定した。ポリカーボネート基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.0)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にポリカーボネート基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.5)に溶解させた溶液に浸漬した。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で24時間穏やかに撹拌した。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、ヘパリン(1mg/mL)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液に溶解させた溶液に浸漬した。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、ヘパリン溶液を24時間穏やかに撹拌した。基板をヘパリン溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。得られる表面にヘパリンが固定されたポリカーボネート基板を、アルシアンブルー溶液に約3時間浸漬し、その間穏やかに撹拌した。基板をアルシアンブルー溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいだ。基板に固定されたアニオン性活性作用剤(ヘパリンなど)は、それが何であっても、カチオン性アルシアンブルー染料と複合することが予想される。ヘパリンはアルシアンブルーと複合体を形成し、その結果、ポリスルホン基板が青く染色されることがわかった。
【0172】
すなわち、実施例10は、本発明に従ってポリカーボネート基板にヘパリンが固定されることの確認を示す。
【0173】
実施例11
ポリエチレングリコールのポリスルホン基板への固定
防汚剤であるポリエチレングリコール(PEG)を、ポリスルホン基板に固定する。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.4)に溶解させた溶液に浸漬する。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌する。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすぐ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2.5mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.7)に溶解させた溶液に浸漬する。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で24時間穏やかに撹拌する。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすぐ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、NH2末端PEG、SH末端PEG、および/またはNHS末端PEG(1mg/mL、5,000MW)を0.3Mの酢酸ナトリウムおよび0.6Mの塩化ナトリウムの溶液(pH5.17)に溶解させた溶液に浸漬する。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、PEG溶液を24時間穏やかに撹拌する。基板をPEG溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にPEGが固定されたポリスルホン基板を得る。
【0174】
すなわち、実施例11は、本発明に従ってポリエチレングリコールのポリスルホン基板への固定を達成する方法を示す。
【0175】
実施例12
ポリビニルピロリドンのポリスルホン基板への固定
防汚剤であるポリビニルピロリドン(PVP)を、ポリスルホン基板に固定する。ポリスルホン基板を、キトオリゴ糖プライマー化合物(1mg/mL、10,000Mw)を10mMのビシン緩衝液(pH8.4)に溶解させた溶液に浸漬する。溶液にポリスルホン基板を浸漬した状態で、溶液を室温で24時間穏やかに撹拌する。基板を溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすぐ。得られるプライマー被覆基板を、没食子酸(2.5mg/mL)を100mMのビシン緩衝液(pH7.7)に溶解させた溶液に浸漬する。溶液にプライマー被覆基板を浸漬した状態で、没食子酸溶液を室温で24時間穏やかに撹拌する。基板を没食子酸溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすぐ。得られる没食子酸処理したプライマー被覆基板を、NH2末端PVP(1mg/mL、5,000MW)を10mMのビシン(pH8.5)に溶解させた溶液に浸漬する。溶液に没食子酸処理したプライマー被覆基板を浸漬した状態で、PVP溶液を周辺温度で24時間穏やかに撹拌する。基板をPVP溶液から取り出し、濾過した蒸留水ですすいで、表面にPVPが固定されたポリスルホン基板を得る。
【0176】
すなわち、実施例12は、ポリビニルピロリドンのポリスルホン基板への固定を本発明に従ってどうやって達成することができるかを示す。
【0177】
もちろん、他の活性作用剤、リンカー化合物、およびトリヒドロキシフェニル基含有化合物を、上記の手順に用いることができる。