【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、公共の有線チャネル上およびワイヤレス・チャネル上で通信装置に直接的に供給することが可能である暗号鍵を量子力学現象に基づいて生成するハードウェア・システムを提供することである。関連する目的において、本発明は、暗号化方法を提供するために係るハードウェア・システムを提供および使用するための方法をさらに提供する。請求される発明により提供される暗号強度は物理現象に由来し、数学的複雑性には由来せず、したがって計算能力の向上に対して「将来に対して万全」である。本発明により、既存のネットワーク接続された装置が地理的に画定された「保護ゾーン」内で安全に通信することが可能となる。特定的な態様では、本発明は地理的に画定された領域(すなわち「保護ゾーン」)を提供し、保護ゾーン内の受取人からの通信は同一ゾーン内の別の受取人に安全に伝送されることが可能である。
【0016】
第1の態様では、本発明は暗号化方法で使用される公開鍵を生成するためのシステムに関する。これらのシステムは、
・量子エンタングルされた2光子を生成するよう構成された光子供給源と、
・少なくとも4つの光ファイバ伝送ラインに動作可能に連結された光スイッチと、
・それぞれが光ファイバ伝送ラインのうちの1つに連結された、少なくとも4つの遠隔受信器ユニットと、
・光スイッチに動作可能に連結された第1処理コンポーネントと、
・第1処理コンポーネントに連結された第1サーバ・コンポーネントと、
・少なくとも4つのサーバ・コンポーネントからなり且つそれぞれが遠隔受信器ユニットのうちの1つに連結された、第2サーバ・コンポーネントと、
・1つまたは複数のクライアント処理システムであって、サーバ・コンポーネントにデータ要求を送り、データ要求に応答してサーバ・コンポーネントからデータを受け取ること、および受け取られたデータを使用して公開鍵を構築すること、を行うために、少なくとも4つのサーバ・コンポーネントのうちのそれぞれに動作可能にリンクされた、処理システムと、
を含む。
【0017】
以後説明されるように光スイッチは、光子供給源から2光子を受け取り、それぞれの2光子を第1量子エンタングルされた光子および第2量子エンタングルされた光子として、光スイッチが連結された別個の光ファイバ伝送ラインに沿って伝送するよう、構成される。
第1処理コンポーネントは、いずれの光ファイバ伝送ラインが第1量子エンタングルされた光子を伝送し、いずれの光ファイバ伝送ラインが第2量子エンタングルされた光子を伝送するかを判定するよう光スイッチを制御することと、係る判定を示す情報を第1処理コンポーネントに関連付けられた記憶装置に格納することと、を行うよう、構成される。
それぞれの遠隔受信器ユニットは第2処理コンポーネントを含む。第2処理コンポーネントは、第2処理コンポーネントが連結された光ファイバ伝送ライン上で受け取られた光子の1つまたは複数の量子状態を測定することと、測定された量子状態(単数または複数)を示す情報を第2処理コンポーネントに関連付けられた記憶装置に格納することと、を行うよう構成される。
第2サーバ・コンポーネントのうちのそれぞれは、第2処理コンポーネントに関連付けられた記憶装置から測定された量子状態(単数または複数)を示す情報を取得することにより、第2処理コンポーネントが連結された遠隔受信器ユニットにより測定された量子状態(単数または複数)を示す情報に関する1つまたは複数のクライアント処理システムからのデータ要求に応答することと、当該情報を1つまたは複数のクライアント処理システムに伝送することと、を行うよう構成される。
第1サーバ・コンポーネントは、1つまたは複数のクライアント処理システムから情報を受け取り、1つまたは複数のクライアント処理システムからの要求に応答し、それにより、それぞれの遠隔受信器から取得された量子状態情報が、それぞれのエンタングルされた光子対に対して準備された光スイッチと適切に相互関連されていることを確認することと、係る相互関連が確認されたことを、また係る相互関連が確認されないことを、1つまたは複数のクライアント処理システムに伝送することと、を行うよう構成される。
【0018】
このシステムにより生成される量子エンタングルされた2光子は、2光子の偏光状態、2光子の運動量、2光子のスペクトル特性(すなわち「色」)、2光子の空間自由度、または2光子の時間特性に関してエンタングルされ得る。係るエンタングルされた光子対を生成するための装置および方法は当該技術分野で周知であり、様々な事例については後で説明する。複数の2光子対が暗号鍵を確立するために使用されるシステムでは、それぞれの2光子対は同一の特性に関してエンタングルされ得るが、必ずしも同一の特性に関してエンタングルされる必要はない。
【0019】
上述のように、本明細書で説明されるシステムは地理的に画定された「保護ゾーン」について説明し得る。なお「保護ゾーン」は、光スイッチから各サーバ・コンポーネントまでの距離に基づく。特定的な実施形態では、少なくとも1つのサーバ・コンポーネントは、好適には各サーバ・コンポーネントは、光スイッチから、少なくとも1キロメートル、好適には少なくとも2キロメートル、さらに好適には少なくとも5キロメートル、さらに好適には10キロメートル、さらに好適には少なくとも25キロメートル、またはそれ以上の距離に分散される。1つまたは複数のクライアント処理システムは好適にはこの「保護ゾーン」内に(例えば光スイッチから、各サーバ・コンポーネントが光スイッチから分散されている距離より小さい距離に)分散される。
【0020】
光ファイバ伝送ラインは、2光子対の量子エンタングルメントを保持することに関して難点を生じさせ得る。例えば、理想的な光ファイバは完璧に円形の断面を有する。この場合、基本モードは、同一の速さで移動する2つの直行する偏光を有する。しかし現実世界では、光ファイバが理想的であることは、仮にあったとしても、まれである。ケーブル内のランダムな欠陥および応力は、円形の対称性を破壊し得、それにより光ファイバを通って伝搬する偏光に変化が生じ得る。この場合、信号の2つの偏光成分は緩やかに分離するであろう。システムは、光ファイバ内の偏光回転の検知または緩和を行うための能動的な偏光補償を含み得る。能動的な偏光補償は、伝送プロセスの全体にわたる偏光状態における変化を周期的に測定し、変化が補償されるよう、光路に沿って「回転子」を調節することができる。
【0021】
暗号化とは元のメッセージを未認証の個人に対して読み取り不可能な形態に変換するプロセスを指し、復号とは暗号化されたメッセージを容易に読み取り可能なメッセージに変換するプロセスを指す。本明細書で説明されるように、1つまたは複数のクライアント処理システムは、メッセージを暗号化および/または復号するために必要なプログラム・ステップを実行するよう構成される。係るプログラム・ステップは、暗号化方法のためにデータを暗号化および/または復号する際に使用するための暗号鍵を生成することを含むが、これらに限定されない。これは、1つまたは複数のクライアント処理システム上に格納された共有秘密鍵とともに公開鍵をブール関数を使用して処理することを含む。以下の箇所では暗号鍵を生成する際にOR関数およびXOR関数を使用すること(および逆XOR関数または逆OR関数を使用してデータを復号すること)に関して説明されているが、これは本発明を限定することを意図するものではない。
【0022】
関連する態様では本発明は、第1処理コンポーネントから第2処理コンポーネントへと送られる通信の暗号化および復号を行う方法であって、第1処理コンポーネントおよび第2処理コンポーネントはそれぞれが共有秘密鍵を含む、方法を提供する。これらの方法は、
・第1処理コンポーネントからのデータに対する要求、および第2処理コンポーネントからのデータに対する要求を、量子エンタングルされた2光子からデータを生成するために、システムに提出することであって、前記システムは、
前記量子エンタングルされた2光子を生成するよう構成された光子供給源と、
少なくとも4つの光ファイバ伝送ラインに動作可能に連結された光スイッチと、
それぞれが光ファイバ伝送ラインのうちの1つに連結された、少なくとも4つの遠隔受信器ユニットと、
光スイッチに動作可能に連結された第3処理コンポーネントと、
第3処理コンポーネントに連結された第1サーバ・コンポーネントと、
少なくとも4つのサーバ・コンポーネントに連結され且つそれぞれが遠隔受信器ユニットのうちの1つに連結された、第2サーバ・コンポーネントと、
を含み、
光スイッチは、光子供給源から2光子を受け取り、それぞれの2光子を第1量子エンタングルされた光子および第2量子エンタングルされた光子として、光スイッチが連結された別個の光ファイバ伝送ラインに沿って伝送するよう、構成され、
第3処理コンポーネントは、いずれの光ファイバ伝送ラインが第1量子エンタングルされた光子を伝送し、いずれの光ファイバ伝送ラインが第2量子エンタングルされた光子を伝送するかを判定するよう光スイッチを制御することと、その判定を示す情報を第3処理コンポーネントに関連付けられた記憶装置に格納することと、を行うよう、構成され、
それぞれの遠隔受信器ユニットは第4処理コンポーネントを含み、第4処理コンポーネントは、第4処理コンポーネントが連結された光ファイバ伝送ライン上で受け取られた光子の1つまたは複数の量子状態を測定することと、測定された量子状態(単数または複数)を示す情報を第4処理コンポーネントに関連付けられた記憶装置に格納することと、を行うよう構成され、
第1サーバ・コンポーネントは、1つまたは複数のクライアント処理システムから情報を受け取り、1つまたは複数のクライアント処理システムからの要求に応答し、それにより、それぞれの遠隔受信器から取得された量子状態情報が、それぞれのエンタングルされた光子対に対して準備された光スイッチと適切に相互関連されていることを確認することと、その確認または非確認を、1つまたは複数のクライアント処理システムに伝送することと、を行うよう構成される、
ことと、
・データに対する要求に応答して、第1処理コンポーネントにおいて、システム内のそれぞれのサーバ・コンポーネントから、第1処理コンポーネントが連結された遠隔受信器ユニットにより測定された量子状態(単数または複数)を示す情報を受け取ることと、
・第1処理コンポーネントおよび第2処理コンポーネントから、遠隔受信器ユニットからの情報を、第1サーバ・コンポーネントに伝送することと、
・第1サーバ・コンポーネントにおいて、第1処理システムおよび/または第2処理システムからの情報を受け取り、受け取られた量子状態が、それぞれのエンタングルされた光子対に対して準備された光スイッチの構成と相互関連されていることを確認し、受け取られた情報の確認、または非確認を、第1処理システムおよび/または第2処理システムに伝送することと、
・公開鍵の確認を第1サーバ・コンポーネントから受け取り、受け取られたデータを使用して第1処理コンポーネントにおいて公開鍵を生成することと、
・公開鍵の確認を第1サーバ・コンポーネントから受け取り、受け取られたデータを使用して第2処理コンポーネントにおいて公開鍵を生成することと、
・通信を、第1処理コンポーネントにおいて、共有秘密鍵とともに、公開鍵を処理することにより生成された暗号鍵を使用して、非可逆性ブール関数を使用して暗号化し、この結果的に生成された鍵を使用し、可逆性ブール関数を使用して、送出されるデータを暗号化することと、
・暗号化された通信を第1処理コンポーネントから第2処理コンポーネントへと伝送することと、
・暗号化された通信を、第2処理コンポーネントにおいて、非可逆性ブール関数を使用して、共有秘密鍵とともに、公開鍵を処理することにより生成された暗号鍵を使用して復号し、可逆性ブール関数の逆関数を使用して、入信するデータを復号することと、
を含む。
【0023】
本発明に関する前述の特徴および他の特徴は、添付の図面を参照しつつ本発明の以下の説明について検討することにより、本発明に関連する分野の当業者に明らかとなることであろう。本発明の他の実施形態は、以下の詳細な説明、図面、および請求項から明らかになるであろう。