(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
ヒスタミンH4受容体は、ヒト及び動物の皮膚並びに肺及び胃腸の組織において発現されていることが知られている。ヒスタミンH4受容体は骨髄においても発現されており、例えば顆粒球減少症のような重大な副作用は強力なヒスタミンH4受容体阻害剤の活性に関係すると考えられている。理論にとらわれるものではないが、全身性の副作用は、特異的な作用部位の器官又は組織に選択的に分布する化合物であって前記器官又は組織において全身の血漿中濃度より高い濃度で蓄積しうる化合物については、それほど顕著ではなくなると考えられる。そのような化合物は、特異的な器官又は組織において局所的にヒスタミンH4受容体を阻害する濃度に達することにより、全身的な曝露及び全身性副作用の発生率を低減する。よって、ヒスタミンH4受容体リガンドの効力又は用量を増大させるのではなく、疾患の作用部位に蓄積するヒスタミンH4受容体阻害剤を使用することが有利となりうる。そのような化合物は、蓄積された場所においてヒスタミンH4受容体インバースアゴニスト活性を選択的に発現する一方で、ヒスタミンH4受容体に対する高い親和性を備えたリガンドの均等な分布による副作用を回避することになろう。
【0010】
本明細書中で使用されるように、作用部位という用語は薬物がその治療活性を発現する部位を指す。例えば、受容体が皮膚の障害に関連している場合、作用部位は皮膚である。
本明細書中で使用されるように、強力なヒスタミンH4受容体インバースアゴニストは3.0E−7M未満のKiを有する一方、中程度の活性の化合物は3.0E−6M〜3.0E−7MのKiを有する。
【0011】
中程度のヒスタミンH4受容体活性を備えた化合物が、該化合物が解剖学的に治療上活性である場所に蓄積すれば極めて好都合であり;その中程度の活性は例えば顆粒球減少症などのような全身性の副作用を発現しないであろう。そのような化合物は本明細書中において、作用部位選択的なヒスタミンH4受容体リガンド又は作用部位選択的なヒスタミンH4阻害剤又は作用部位選択的なヒスタミンH4インバースアゴニストと呼ばれる。
【0012】
経口投与の後、ラセミ体ノルケトチフェン(RS−ノルケトチフェン)及びその異性体(R−ノルケトチフェン、S−ノルケトチフェン)は皮膚に蓄積することが具体的に見出されている。皮膚は皮膚疾患の作用部位であり、この作用部位におけるノルケトチフェンの薬物動態学的な曝露パラメータ(曲線下面積、半減期及び平均滞留時間)は、体循環における対応パラメータを有意に上回ることが見出された(例えば実施例4を参照されたい)。皮膚における高濃度の上記化合物(例えば実施例4を参照)は、特にこれらの化合物が作用部位において利用可能なヒスタミンの濃度を強力に低下させるので(例えば実施例1を参照)、ヒスタミンH4受容体を阻害することになる(例えば実施例2及び3を参照)。よって、皮膚に高濃度で分布するRS−、R−及びS−ノルケトチフェン並びにその他のヒスタミンH4受容体阻害剤は、皮膚のヒスタミンH4受容体に関連した疾患又は医学的状態を治療するために有利に使用可能である。
【0013】
さらに、ノルケトチフェン及びその異性体はヒスタミンH4受容体について中程度の親和性を有している。この中程度の親和性と皮膚及び肺の作用部位における局在化とが組み合わさると、全身的に活性なヒスタミンH4受容体阻害剤によって誘発される副作用を回避する。
【0014】
1つの実施形態では、本明細書中に開示されるのは、ヒスタミンH4受容体に関係した掻痒の治療を必要とする哺乳動物を治療する方法であって、投与を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の作用部位特異的なH4受容体阻害剤を経口投与することを含んでなる方法である。具体的な実施形態において、作用部位選択的なヒスタミンH4受容体阻害剤はRS−、R−若しくはS−ノルケトチフェン、又はこれらの薬学的に許容可能な塩、具体的にはRS−ノルケトチフェン又はその薬学的に許容可能な塩である。1つの態様では、ヒスタミンH4受容体に関係した障害はヒスタミンH1には関係していない。
【0015】
ヒスタミンH4受容体に関係した典型的な皮膚障害には、ヒスタミンH4受容体に関係した掻痒性障害が挙げられる。ヒスタミン又はその他の内因性H4受容体アゴニスト、例えばCCL16などによる皮膚のヒスタミンH4受容体の活性化は、ヒスタミンH4受容体によって調節される掻痒のメカニズムを原因とする掻痒をもたらす。
【0016】
1つの態様では、ヒスタミンH4受容体に関係した掻痒の治療を必要とする哺乳動物を治療する方法は、投与を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の作用部位選択的なヒスタミンH4受容体阻害剤を経口投与することを含んでなり、作用部位選択的なヒスタミンH4受容体阻害剤はノルケトチフェン、ノルケトチフェンの異性体、又はこれらの薬学的に許容可能な塩である。1つの実施形態では、ヒスタミンH4受容体に関係した掻痒はヒスタミンH1受容体阻害剤を用いた治療に抵抗性である。
【0017】
掻痒(かゆみ)とは、(痛みとは違って)掻破したいという願望を生じさせる不快な感覚である。ヒスタミンH4受容体に関係した掻痒は、様々な障害及び状態、例えば
「処方薬の副作用」:抗生物質、抗真菌剤、鎮痛剤;
「皮膚障害」:自己免疫性の皮膚炎、接触性皮膚炎、皮膚の強皮症、毛包炎、特発性皮膚炎、感染症、昆虫刺傷、黒色腫、寄生虫、疥癬、日焼け、疣贅、乾皮症、並びに、ほくろ、色素過剰症、低色素症及び発疹のような皮膚の状態;
「全身性の障害」:貧血、胆汁うっ滞、糖尿病、ホジキンリンパ腫、鉄欠乏症、慢性腎不全、全身性強皮症、多発性硬化症、尿毒症、及び、妊娠のような状態;
「神経障害」:多発性硬化症、神経障害性の掻痒、瘢痕、帯状疱疹;
「精神障害」:不安、抑うつ、情緒的ストレス、神経皮膚炎、精神的トラウマ、精神病;
並びに
「特発性の掻痒」:かゆみの原因がうまく確定されていない、様々な形の掻痒、に関連している可能性がある。
【0018】
掻破行動は掻痒の表れであり、ヒスタミンの皮内注射後のヒト及びマウスにおいて研究することが可能である。ヒスタミン注射後の掻痒は、ヒスタミンH1阻害剤、例えば、デスロラタジン(Clarinex(登録商標)、メルクシャープアンドドーム(Merck Sharp and Dohme)社)、ジフェンヒドラミン(Benadryl(登録商標)、マクニール(McNeil)社)又はフェキソフェナジン(Allegra(登録商標)、サノフィ・アベンティス(Sanofi Aventis)社)などによっては阻害されない。ヒスタミン誘発性の掻痒は、ヒスタミンH4阻害剤、例えばJNJ7777120及びノルケトチフェンなどによって強く阻害される(実施例5)。
【0019】
本明細書中に開示された、掻痒の治療のための方法は、ヒトと同様にヒト以外の治療にも有用である。ヒトのヒスタミンH4受容体が構成的な活性を発現することは良く知られているが、ヒト以外のヒスタミンH4受容体は構成的な活性を発現しない可能性がある。イヌ及びネコのヒスタミンH4受容体が構成的な活性を発現しないこと、並びに従ってノルケトチフェンはイヌのヒスタミンH4受容体に対するヒスタミンH4受容体インバースアゴニストではないと判明すること、のうち少なくともいずれかが確認される場合は、本明細書中における正確な技術用語は「インバースアゴニスト」ではなく「アンタゴニスト」又は「阻害剤」であるものとする。従って、かつヒスタミンH4受容体に関して明瞭さを高めるために、アンタゴニスト、阻害剤及びインバースアゴニストという用語は本明細書中では相同物(homolog)と見なされることになり、かつ同じ意味で(alternatingly)使用されることになる。ヒトのヒスタミンH4受容体はイヌのヒスタミンH4受容体との高い相同性を有し、相同性は71パーセントである。
【0020】
ノルケトチフェン及びその異性体の使用についての別の利点は、それらの化合物がヒスタミンH1受容体及びヒスタミンH4受容体の両方において阻害活性を発現するということである。ヒスタミンH1及びヒスタミンH4受容体阻害剤の同時投与は、例えば高いヒスタミン皮内濃度を伴う種類の掻痒などの一部の掻痒作用を完全に阻害することが可能であるので、H1及びH4いずれの受容体の活性も阻害することには有益性がある。ヒスタミンH4受容体を介した掻痒活性は、掻痒発生性のメディエータがニューロンのC線維上の受容体を活性化する場である皮膚の中で局所的に始まると考えられている。しかしながら、ヒスタミンH1受容体阻害剤及びヒスタミンH4受容体阻害剤の増強された抗掻痒活性のメカニズムは、現在のところ理解されていない。
【0021】
ヒスタミンH1受容体を阻害する化合物とH4受容体を阻害する化合物との組み合わせの利点にもかかわらず、ヒスタミンH1受容体及びヒスタミンH4受容体の阻害活性の組み合わせを備えた化合物は我々の知る限りではこれまで記述されたことがない。ノルケトチフェン及びその異性体にはそのような組み合わせ活性を有している。
【0022】
全ての種類の掻痒がヒスタミンH4受容体の阻害によって阻害されるとは限らない。このように、例えば、選択的なヒスタミン4受容体阻害剤であるJNJ7777120は、最近の研究ではインターロイキン−31(IL−31)によって誘発された掻痒を阻害しなかった。
【0023】
ノルケトチフェンは、米国特許第3,682,930号明細書に記載されているように、当分野で既知の方法から作製可能である(前記文献の開示内容はノルケトチフェンの合成の教示に関して参照により本願に組込まれる)。
【0025】
ノルケトチフェン異性体は、米国特許第7,226,934号明細書及び米国特許第7,557,128号明細書に記載されているようにして作製可能であり、前記文献の開示内容はノルケトチフェン異性体の合成についての該文献の教示に関して参照により本願に組込まれる。
【0026】
ノルケトチフェンは、第1世代の抗ヒスタミン剤であるケトチフェンの活性代謝物である。ケトチフェンはこれまでに販売された最も強力な抗ヒスタミン剤かもしれないが、全ての販売された抗ヒスタミン剤のうち最も鎮静性の強いものでもある。ケトチフェンの鎮静効果は厳密に用量制限的であり、1mg、1日2回を超える用量はほとんど使用されない。現在、ヒトの体内では投与されるケトチフェン1mgごとにおよそ0.5mgのノルケトチフェンが形成されると考えられている。代謝(ピペリジン窒素の脱メチル化)は肝臓内で生じる。ケトチフェンによる鎮静はケトチフェンそれ自体(「プロドラッグ」)によって引き起こされるが、該薬物の疾患修飾効果は代謝産物ノルケトチフェンによるものと考えられている。現在用いられているケトチフェンの治療用量(ヒトに対して1mgを1日2回)は、ヒスタミンH4受容体活性の阻害によって治療活性を示すほどは高くない。(例えば実施例3、表3を参照)。
【0027】
ここで反復投与の薬理学的かつ毒物学的研究がイヌにおいて実施され、驚くべきことに、最大で20mg/kg/日の1日量のラセミ体又は異性体ノルケトチフェンを、鎮静又はその他の有害事象を引き起こすことなくイヌに慢性的に与えることが可能であることが見出された。最大28mg/kg/日の用量は鎮静を引き起こさずかつイヌによって忍容されたが、イヌの肺及び皮膚におけるH4受容体の阻害を達成するには4mg/kg〜20mg/kgのノルケトチフェンの単回経口用量が好ましい。イヌは、様々な良性の理由で(自身の胃から望ましくない内容物を追い出すために)、胃の刺激の結果として、又は結腸の刺激に応じて、自然に嘔吐する。イヌにおける異性体ノルケトチフェンを含む様々な薬物の最近の毒物学的研究では、嘔吐は対照群及び薬物群の両方に生じ、薬物に関係するというよりむしろ処置に関係していた可能性がある。ノルケトチフェン及びその異性体の予想外に低い全身毒性は、ノルケトチフェン及びその異性体が血漿中は循環していないが身体で最大の器官である皮膚に蓄積しているという事実によって引き起こされた、低い全身(血漿)濃度に起因すると考えられる。
【0028】
同様に、ヒトにおける5mg及び10mgのノルケトチフェン用量も、ヒト被験者で試験された場合に鎮静を生じないことが見出されている。
現在の推定では、ヒスタミンH4受容体に関係した皮膚又は肺の障害に罹患している哺乳動物の作用部位におけるヒスタミンH4受容体活性の阻害は、およそ2mg/日〜およそ500mg/日のノルケトチフェン又はその異性体の経口用量で生じることになり、これは広い安全域を残している。前記障害に罹患しているヒト患者へのラセミ体又は異性体ノルケトチフェンの有用な用量は2mg/日〜500mg/日である。より好ましいのはヒト患者に対して2mg/日〜40mg/日の経口1日量であり、最も好ましいのは、ヒスタミンH4受容体に関係した皮膚又は肺の疾患に罹患しているヒト患者に対するノルケトチフェン又はその異性体の2mg/日〜20mg/日のヒト用量である。
【0029】
ラセミ体のノルケトチフェン又はその異性体の有用な経口用量は、掻痒性の疾患に罹患しているイヌに対しては2mg/kg/日〜28mg/kg/日である。より好ましいのは、掻痒性の疾患に罹患しているイヌに対して、ラセミ体のノルケトチフェン、又はその異性体の、4mg/kg/日〜20mg/kg/日の範囲の経口用量である。
【0030】
本明細書中に開示された実施形態はさらに、医薬品組成物であって、1以上の薬学的に許容可能な担体と共に調合された、化合物ノルケトチフェン、その異性体、及び塩を含んでなる組成物も提供する。
【0031】
固体投薬形態の経口投与用医薬品組成物には、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤及び錠剤が挙げられる。固体投薬形態では、活性化合物は、1以上の薬学的に許容可能な賦形剤又は担体(例えばクエン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなど)、充填剤又は増量剤(例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、ケイ酸など)、結合剤(例えばカルボキシメチルセルロース、アルギナート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、アラビアゴムなど)、保湿剤(例えばグリセロールなど)、溶解遅延剤(solution retarding agent)(例えばパラフィンなど)、崩壊剤(例えば寒天、炭酸カルシウム、デンプン、アルギン酸、ケイ酸塩、炭酸ナトリウムなど)、吸収加速剤(例えば第四アンモニウム化合物など)、湿潤剤(例えばセチルアルコール、モノステアリン酸グリセロールなど)、吸収剤(例えばカオリン、ベントナイト粘土など)、滑沢剤(例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、及び、例えば緩衝剤などのようなその他の賦形剤、のうち少なくともいずれかと混合されうる。
【0032】
固体形態のカプセル剤、顆粒剤、丸剤、及び錠剤は当分野で既知のコーティング及びシェルのうち少なくともいずれか(例えば腸溶コーティングなど)を有することが可能である。組成物は、胃腸管のある特定部分において、又は制御放出、持続放出若しくは遅延放出の方式で、活性成分を放出するように設計される場合もある。活性化合物は、上述の賦形剤又はその他の適切な賦形剤のうち1以上とともにマイクロカプセル化されることも可能である。
【0033】
経口投与のための液体投薬形態は、掻痒に苦しむ小児への好ましい投与形態となりうる。そのような調合物には、例えば薬学的に許容可能な溶液、乳剤、溶液、懸濁液、シロップ剤およびエリキシル剤が挙げられる。液体投薬形態はさらに、製剤の当業者に既知の賦形剤、例えば希釈剤(例えば常水、その他の溶媒及び可溶化剤、並びにこれらの混合物など)、並びに乳化剤(例えばエタノール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、オレイン酸、グリセロール、ポリエチレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、及びこれらの混合物など)も含有しうる。経口組成物はさらに、当業者に既知のその他の賦形剤を含む場合もある。
【0034】
ここで説明される組成物はさらに、抗掻痒活性を備えた他の薬物、例を挙げるとコルチコステロイド、を含むことも可能である。ノルケトチフェン又はその異性体の抗掻痒活性により、様々な種類の掻痒性障害に罹患している患者を治療する時の有益なステロイド回避効果が見込まれることになる。
【実施例】
【0035】
本発明について、次の非限定的な実施例によってさらに例証する。
実施例1.炎症誘発性細胞からのヒスタミン放出の阻害
ヒスタミンは、掻痒性の疾患の患者において顆粒球から過剰に放出される。被験物質によるヒトの顆粒球(白血球;バフィコート)からのヒスタミン放出の阻害について研究がなされた。白血球は健康なヒトボランティア由来の血液から得られ、ヒスタミンの放出は、バフィコートを被験物質の存在下又は不在下でカルシウムイオノフォアA23187(5μM)とともにインキュベーション(20分/37℃)することによって誘発された。ヒスタミンは、市販のキット及びマイクロプレートリーダ(MRX、ダイナテック(Dynatech)社)を使用して酵素免疫測定法によって解析された。被験物質は、5種類の濃度において二連で評価された。
【0036】
【表1】
【0037】
ノルケトチフェンはヒトの炎症細胞からのヒスタミン放出の阻害剤としてケトチフェンよりもおよそ10倍強力であった。よって、ノルケトチフェンは、炎症組織におけるヒスタミンの濃度を強力に減少させるであろう。
【0038】
実施例2.ヒスタミンH1受容体への結合
末梢のヒトのヒスタミンH1受容体に対する試験化合物の親和性は、受容体結合アッセイを使用して評価された。受容体への放射性リガンドの特異的結合は、過剰量の非標識リガンドの存在下で決定される、全結合と非特異的結合との間の差として定義された。Ki値はチェン−プルソフ式に従って決定された。
【0039】
【表2】
【0040】
ノルケトチフェン及びその異性体は、デスロラタジンに類似し、かつジフェンヒドラミンよりも優れた、ヒスタミンH1受容体に対する高い親和性を有していた。
標準化合物(ケトチフェン、ロラタジン、デスロラタジン及びジフェンヒドラミン)の効果は、上記化合物のこれまで知られていた受容体結合活性を実証することにより、試験の方法論を立証している。
【0041】
実施例3.ヒスタミンH4受容体への結合
末梢のヒトのヒスタミンH4受容体に対する試験化合物の親和性は受容体結合アッセイを使用して評価された。受容体への放射性リガンドの特異的結合は、過剰量の非標識リガンドの存在下で決定される、全結合と非特異的結合との間の差として定義された。本研究ではリガンドとして[
3H]−ヒスタミンが使用され、親和性の値はチェン−プルソフ式によって決定された。
【0042】
【表3】
【0043】
RS−、S−及びR−ノルケトチフェンは、極めて強力かつ全身的な活性を有する選択的なH4受容体活性化合物(例えばJNJ7777120など)についての公表された対応値より低い親和性であるとはいえ、H4受容体に対する親和性を有していた。RS−、S−及びR−ノルケトチフェンは、該化合物が受容体部位において高濃度で出現しないかぎり、H4受容体の活性の全身的な反転(systemic reversal)を示すであろうとは考えられない。
【0044】
薬理学分野の当業者に知られているように、チェン−プルソフ式は低濃度のアゴニストでは誤った値を生じるので、本研究には高いアゴニスト濃度が必要である。
当分野で述べられかつ本結果によって示されるように(実施例5;
図1)、ヒスタミンH1阻害単独では抗掻痒効果がないにもかかわらず、ヒスタミンH1の阻害によるヒスタミンH4阻害の抗掻痒活性の増強作用が当分野で報告されているので、ノルケトチフェンがヒスタミンH4及びヒスタミンH1受容体の両方を阻害することは治療上重要であると考えられる。
【0045】
実施例4.経口投与後の皮膚への薬物の蓄積
体重が11.2〜13.9kgの5匹のオスのビーグル犬(2〜4歳)が研究に用いられた。全ての動物に、フマル酸水素塩として経口用量の被験物質8.0mg/kg/日(5.6mg/kg/日の遊離塩基に等しい)を含有しているゼラチンカプセル剤が投与された。動物は1日1回連続4週間投薬され、その後さらに2週間の休薬期間について毎日観察された。
【0046】
複数の血漿試料及び皮膚生検が薬物投与の1日目及び28日目にそれぞれのイヌから採取された。血漿及び皮膚の試料採取は、投薬前、並びに投薬後2、6、12及び24時間において実施された。血漿及び皮膚の試料は、28日間の投薬期間及び42日目である本研究の最終日までの間にも、所定間隔で断続的に採取された。血液試料は前腕橈側皮静脈(v.cephalica antebrachii)から採取された。皮膚生検は、腹中〜腹側部間の領域から、6mm(直径)の皮膚生検デバイス(Acu−Punch(登録商標)、Acuderm(登録商標)社、米国フロリダ州33309のフォートローダーデール)を使用して採取された。複数の血漿試料及び生検試料が4匹又は5匹のイヌそれぞれから得られた。皮下の脂肪沈着物が皮膚試料から注意深く切り取られ、皮膚試料の計量がなされた。全ての血漿試料及び皮膚試料が保存された。
【0047】
血漿試料及び皮膚生検試料はLC/MS/MS法を用いて解析された。薬物動態学的解析はすべてファーサイト(Pharsight)社のWinNonlin(登録商標)プロフェッショナルv5.2.1ソフトウェアを使用して実施された。
【0048】
【表4】
【0049】
ノルケトチフェンが炎症誘発性細胞からのヒスタミンの放出を強力に阻害し(実施例1)、かつヒスタミンH4受容体においてインバースアゴニストとして働くので(実施例3)、またノルケトチフェンは皮膚に蓄積されるので(表4)、当業者は、ヒスタミンの利用可能性の減少がヒスタミンH4受容体部位における阻害活性と共に相乗的に作用して、皮膚のヒスタミンH4受容体からのGタンパク質を介したシグナル伝達を低減することになるということに気付くであろう。
【0050】
実施例5.抗掻痒活性
抗掻痒効果は、当分野で既知の方法に従って、CD−1マウス(雌、10〜12週齢)においてin vivoで試験された。投薬の1日前に、マウスの肩甲骨間吻側背部の表面に除毛がなされた。試験の前に、マウスは順化のために個別の透明なプラスチックケージ内に少なくとも1時間置かれた。1.5時間の絶食後、動物は、1%メチルセルロース/水で構成されているビヒクルに溶解された被験物質を、体重1kgあたり10mLとして経口投薬された。経口投薬の60分後、ヒスタミン(20μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4中に300nmol)の皮内注射が施された。ヒスタミン注射の直後、掻破の発作が40分間計数された。ヒスタミンのビヒクルのPBSにより誘発された掻破は対照としての役割を果たした。
【0051】
ノルケトチフェンは、漸増用量及び最大量を超える用量(supramaximal dose)100mg/kgで試験された。JNJ7777120及びデスロラタジンは、当分野でこれらの化合物について使用されるネズミ科動物の用量範囲内にある20mg/kgで経口投薬された。標準化合物JNJ7777120のビヒクルは20%ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン/水であった。標準化合物デスロラタジンのビヒクルは、ノルケトチフェンのビヒクルと同じ(1%メチルセルロース/水を10mL/kg)であった。試験結果は
図1に示されている。掻痒発作の数はビヒクルに対する百分率で表されている(100%は112回の掻痒発作に相当する)。JNJ7777120のビヒクルの試験は112回の掻痒発作を実証し(
図1には示されていない)、これは偶然にもメチルセルロースビヒクルについて得られた発作の数と正確に一致した。標準化合物デスロラタジンは選択的なヒスタミンH1阻害剤であり、標準化合物JNJ7777120は選択的なヒスタミンH4阻害剤である。
【0052】
ノルケトチフェンは、ヒスタミン誘発性の掻痒を用量依存的に阻害しており、最大量を超える用量(100mg/kg)では完全な阻害を実証した。ヒスタミンを含まないビヒクルのPBSによって誘発された掻破(
図1には示されていない)は対照としての役割を果たした(4±2回の掻破発作;n=6)。
【0053】
ノルケトチフェンはヒスタミン誘発性の掻痒を強力かつ用量依存的に減少させることが結論付けられた。選択的ヒスタミン4阻害剤及び選択的ヒスタミン1阻害剤の試験からの結果は、ヒスタミンH4阻害はヒスタミン誘発性の掻痒を阻止するが、ヒスタミンH1阻害は阻止しないことを実証している。ノルケトチフェンによる予想外に強力な掻痒の阻害は、一部にはノルケトチフェンによるヒスタミンH1及びヒスタミンH4両方の受容体阻害が同時に現われていることにより引き起こされた増強作用に起因するのかもしれない。
【0054】
実施例6.典型的な経口投薬調合物
ノルケトチフェンの経口投与のための調合物(例えば錠剤、カプセル剤及びシロップ剤など)が開発されている。
【0055】
【表5】
【0056】
活性成分は、ラクトース及びセルロースとともに均一な混成物が形成されるまで混ぜ合わされる。青色レーキが加えられてさらに混ぜ合わされる。最後に、ステアリン酸カルシウムが混ぜ合わされ、結果として生じる混合物は、例えば9/32インチ(7mm)の浅型凹面パンチを使用して圧縮されて錠剤となされる。活性成分と、賦形剤又は錠剤の最終重量との比率の変更により、他の含量の錠剤が調製されてもよい。
【0057】
当業者は、経口調合物が例えば錠剤、カプセル剤、イヌ用おやつ、ネコ用おやつ、シロップ剤又は別の形態の液体調合物の形をとることが可能であることを理解している。
本明細書中で使用されるように、「薬学的に許容可能な塩」又は「その薬学的に許容可能な塩」という用語は、薬学的に許容可能な無毒な酸から調製されたノルケトチフェン塩を指す。本発明の化合物の典型的な薬学的に許容可能な酸付加塩には、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩(ベシラート)、安息香酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、イセチオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、ムチン酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩などが挙げられる。塩酸塩及びフマル酸水素塩は特に好ましい。
【0058】
用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」並びに「その(the)」及び同様の指示語の(特に添付の特許請求の範囲の文脈における)使用は、本明細書中に別途記載されるか又は文脈から明白に否定されないかぎり、単数及び複数の両方を対象とするように解釈されることになっている。本明細書中で使用されるような第1、第2などの用語は、いかなる特定の順序も示すようには意図されておらず、単に複数の、例えば層を、示す便宜のためのものである。用語「含んでなる(comprising)」、「有している(having)」、「備えて(含んで)いる(including)」、及び「含有している(containing)」は、別途記載のないかぎり、オープンエンドの用語(すなわち「含んでいるが、それに限定されない(including,but not limited to)」を意味している)として解釈されることになっている。本明細書中で使用されるように、哺乳動物という用語にはヒト、イヌ及びネコが含まれる。値の範囲の記述は、別途記載のないかぎり、単にその範囲内にある各々別個の値を個々に参照する簡便な方法としての役割を果たすように意図されており、各々別個の値はあたかもその値が本明細書中で個々に記述されるかのように本明細書中に組み込まれる。すべての範囲の端点はその範囲内に含まれ、かつ独立に組み合わせることが可能である。本明細書中に記載された方法はすべて、別途記載されるか又は文脈から明白に否定されないかぎり、適切な順序で実施されることが可能である。いかなる例又は典型的な語法(例えば「例えば〜など」)の使用も、単に本発明をより十分に例証するように意図されたものであって、別途主張のないかぎり本発明の範囲に対する限定を提示するものではない。本明細書中の言葉は、特許請求の範囲に記載のないいかなる要素についても、本明細書中で使用されるような本発明の実行に不可欠であると示していると解釈されるべきではない。
【0059】
本発明について好ましい実施形態に関して説明がなされてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされうること、及びその実施形態の要素の代わりに等価物が用いられうることは、当業者には理解されるであろう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適応させるために、数多くの改変がなされてもよい。したがって、本発明は本発明を実行するために企図された最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されないが、本発明は添付の特許請求の範囲の範囲内にある全ての実施形態を含むことになることが、意図されている。