特許第6336712号(P6336712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6336712圧電薄膜共振器、フィルタおよびデュプレクサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336712
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタおよびデュプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20180528BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20180528BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   H03H9/17 F
   H03H9/54 Z
   H03H9/70
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-104567(P2013-104567)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-161001(P2014-161001A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-13415(P2013-13415)
(32)【優先日】2013年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】西原 時弘
(72)【発明者】
【氏名】坂下 武
【審査官】 石川 雄太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0218060(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0135144(US,A1)
【文献】 米国特許第06081171(US,A)
【文献】 特開2012−100029(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/028027(WO,A1)
【文献】 特開2006−319796(JP,A)
【文献】 特開2007−049302(JP,A)
【文献】 特開2007−110281(JP,A)
【文献】 特開2011−091639(JP,A)
【文献】 特開2005−117641(JP,A)
【文献】 特開2011−082681(JP,A)
【文献】 特開2009−290369(JP,A)
【文献】 OHTA, Satoshi, et al.,Temperature characteristics of solidly mounted piezoelectric thin film resonators.,In: Ultrasonics, 2003 IEEE Symposium on. IEEE,2003年,p. 2011-2015.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/007−3/06
H03H 9/00−9/135
H03H 9/15−9/24
H03H 9/30−9/40
H03H 9/46−9/62
H03H 9/66
H03H 9/70
H03H 9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、第1圧電膜と第2圧電膜とが積層された圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極および上部電極と、
前記第1圧電膜と前記第2圧電膜との間に挿入され、前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域内の外周領域の少なくとも一部に設けられ、前記共振領域の中央領域には設けられていない挿入膜と、
を具備し、
前記圧電膜は、窒化アルミニウムを主成分とし、
前記挿入膜は、Alおよび酸化シリコンの少なくとも一つを主成分とし、
前記基板と前記下部電極または前記下部電極に接する絶縁膜との間に、平面視において前記共振領域を含むように空隙が形成されている、または、前記下部電極下に、平面視において前記共振領域を含むように、前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を具備し、
前記挿入膜の膜厚をT1、前記中央領域の前記下部電極、前記圧電膜および前記上部電極の合計の膜厚をT2としたとき、
0.03≦T1/T2≦0.2であり、
前記挿入膜は、前記共振領域の外周に沿って前記中央領域を囲むように設けられ、
前記共振領域内の前記外周に直交する方向の前記挿入膜の幅は、前記共振領域内の厚み縦振動の弾性波の波長の0.3倍以上かつ2.5倍以下である、ことを特徴とする圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記挿入膜の前記共振領域内における前記挿入膜の幅は、前記圧電薄膜共振器の厚み縦振動の弾性波の波長の1.5倍以下であることを特徴とする請求項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記挿入膜は、平面視において前記共振領域以外には設けられていないことを特徴とする請求項1または2記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記挿入膜は、前記外周領域の少なくとも一部から前記共振領域外にかけて設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記挿入膜は、Al膜であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
前記挿入膜は、酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項7】
前記圧電膜は窒化アルミニウム膜であり、前記挿入膜はAl膜または酸化シリコン膜である請求項1から4のいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項8】
前記挿入膜の側面は、前記挿入膜の上面が下面より小さくなるテーパーを有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項9】
前記挿入膜の下面と側面とのなす角度は60°以下であることを特徴とする請求項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項記載の圧電薄膜共振器を含むことを特徴とするフィルタ。
【請求項11】
送信フィルタと受信フィルタとを具備し、
前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方が請求項10記載のフィルタであることを特徴とするデュプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタおよびデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびデュプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有している。
【0003】
無線システムの急速な普及にともない、多くの周波数帯が使用されている。その結果、フィルタやデュプレクサのスカート特性を急峻化する要求が強まっている。スカート特性を急峻化する対策の一つに圧電薄膜共振器のQ値を高めることがある。圧電薄膜共振器のQ値が劣化する要因の一つに、弾性波エネルギーが共振領域から外部へ漏洩することが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、下部電極または上部電極の表面に環帯を設けることにより、Q値を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−109472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、共振領域から外部に漏洩する弾性波エネルギーを十分に抑制することができない。よって、Q値の向上が不十分である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、圧電薄膜共振器のQ値を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、第1圧電膜と第2圧電膜とが積層された圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極および上部電極と、前記第1圧電膜と前記第2圧電膜との間に挿入され、前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域内の外周領域の少なくとも一部に設けられ、前記共振領域の中央領域には設けられていない挿入膜と、を具備し、前記圧電膜は、窒化アルミニウムを主成分とし、前記挿入膜は、Alおよび酸化シリコンの少なくとも一つを主成分とし、前記基板と前記下部電極または前記下部電極に接する絶縁膜との間に、平面視において前記共振領域を含むように空隙が形成されている、または、前記下部電極下に、平面視において前記共振領域を含むように、前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を具備し、前記挿入膜の膜厚をT1、前記中央領域の前記下部電極、前記圧電膜および前記上部電極の合計の膜厚をT2としたとき、0.03≦T1/T2≦0.2であり、前記挿入膜は、前記共振領域の外周に沿って前記中央領域を囲むように設けられ、前記共振領域内の前記外周に直交する方向の前記挿入膜の幅は、前記共振領域内の厚み縦振動の弾性波の波長の0.3倍以上かつ2.5倍以下である、ことを特徴とする圧電薄膜共振器である。本発明によれば、圧電薄膜共振器のQ値を向上させることができる。
【0009】
上記構成において、前記挿入膜は、前記外周領域の少なくとも一部から前記共振領域外にかけて設けられている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記挿入膜のヤング率は前記圧電膜より小さい構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電膜は、窒化アルミニウムを主成分とする構成とすることができる。
【0012】
前記挿入膜は、Al、Au、Cu、Ti、Pt、Ta、Crおよび酸化シリコンの少なくとも一つを主成分とする構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記挿入膜は、金属膜である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記挿入膜の膜厚をT1、前記中央領域の積層膜の膜厚をT2としたとき、T1/T2≦0.2である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記挿入膜の前記共振領域内における前記挿入膜の幅は、前記圧電薄膜共振器の厚み縦振動の弾性波の波長の2.5倍以下である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記挿入膜の前記共振領域内における前記挿入膜の幅は、前記圧電薄膜共振器の厚み縦振動の弾性波の波長の1.5倍以下である構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記共振領域において、前記基板と前記下部電極または前記下部電極に接する絶縁膜との間に空隙が形成されている構成とすることができる。
【0018】
上記構成において、前記共振領域において、前記下部電極下に前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を具備する構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記挿入膜の側面は、前記挿入膜の上面が下面より小さくなるテーパーを有する構成とすることができる。
【0020】
上記構成において、前記挿入膜の下面と側面とのなす角度は60°以下である構成とすることができる。
【0021】
本発明は、上記圧電薄膜共振器を含むことを特徴とするフィルタである。
【0022】
本発明は、送信フィルタと受信フィルタとを具備し、前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方が上記フィルタであることを特徴とするデュプレクサである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧電薄膜共振器のQ値を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図1(b)は、挿入膜の平面図、図1(c)および図1(d)は、図1(a)のA−A断面図である。
図2図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図3図3(a)は、ヤング率に対する反共振点のQ値、図3(b)は、ヤング率に対する実効的電気機械結合係数keffを示す図である。
図4図4は、T1/T2に対するFOMを示す図である。
図5図5は、T1/T2に対するFOMを示す図である。
図6図6は、挿入膜の正規化した幅に対するFOMを示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、共振領域の端部近傍の拡大模式図である。
図8図8(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、図8(b)は、挿入膜の平面図、図8(c)および図8(d)は、図8(a)のA−A断面図である。
図9図9(a)は、実施例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、図9(b)は、挿入膜の平面図、図9(c)は、図9(a)のA−A断面図である。
図10図10(a)は、実施例4に係る圧電薄膜共振器の平面図、図10(b)は、挿入膜および付加膜の平面図、図10(c)および図10(d)は、図10(a)のA−A断面図である。
図11図11(a)は、実施例5に係る圧電薄膜共振器の平面図、図11(b)は、挿入膜および開口の平面図、図11(c)および図11(d)は、図11(a)のA−A断面図である。
図12図12(a)は、実施例6に係る圧電薄膜共振器の断面図、図12(b)は、実施例6の変形例に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図13図13は、実施例7に係るデュプレクサの回路図である。
図14図14(a)は、送信フィルタの平面図および断面図、図14(b)は、図14(a)のA−A断面図である。
図15図15は、送信フィルタの挿入膜の平面図である。
図16図16は、作製した実施例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図17図17は、周波数に対するQ値をクラック有無について示した図である。
図18図18(a)および図18(b)は、それぞれ比較例4および実施例8に係る挿入膜の端部の拡大図である。
図19図19は、角度αに対するクラック発生率を示す図である。
図20図20は、αが30°と75°のときの周波数に対するQ値を示す図である。
図21図21(a)から図21(c)は、圧電薄膜共振器の平面図(その1)である。
図22図22(a)および図22(b)は、圧電薄膜共振器の平面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0026】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図1(b)は、挿入膜の平面図、図1(c)および図1(d)は、図1(a)のA−A断面図である。図1(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、図1(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0027】
図1(a)および図1(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aは例えばCr(クロム)膜であり、上層12bは例えばRu(ルテニウム)膜である。
【0028】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14内に挿入膜28が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。
【0029】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0030】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0031】
図1(a)および図1(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16と周波数調整膜24との間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの図1(c)と同じであり説明を省略する。
【0032】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0033】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr膜からなる下層12aの膜厚は100nm、Ru膜からなる上層12bの膜厚は250nmである。AlN膜からなる圧電膜14の膜厚は1100nmである。Al(アルミニウム)膜からなる挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの膜厚は250nm、Cr膜からなる上層16bの膜厚は50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の膜厚は50nmである。Ti膜からなる質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0034】
図1(b)に示すように、挿入膜28は、共振領域50内の外周領域52に設けられ中央領域54に設けられていない。外周領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52は、例えば帯状およびリング状である。中央領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、外周領域52から共振領域50外まで連続して設けられている。挿入膜28には、孔部35に対応する孔部34が設けられている。
【0035】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。上部電極16を積層膜とした場合、積層膜の界面に挿入膜28を配置してもよい。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素としてSc(スカンジウム)を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上するため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。
【0036】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0037】
図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO、ZnO、GeまたはSiO等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0038】
図2(b)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0039】
図2(c)に示すように、圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。圧電膜14aおよび14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0040】
なお、図1(d)に示す並列共振器においては、下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上層16bを形成する。
【0041】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0042】
その後、孔部35および導入路33(図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(図1(c)、図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、図1(a)および図1(c)に示した直列共振器S、および図1(a)および1(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0043】
挿入膜28の材料を変え、反共振点のQ値について有限要素法を用いシミュレーションした。有限要素法は、図1(c)のような断面の2次元解析により行なった。積層膜18の各膜厚および材料は図1(a)から図1(d)の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示したものとした。すなわち、圧電膜14をAlNとした。挿入膜28の膜厚を150nmとし、共振領域50と挿入膜28との重なる幅Wを2μmとした。軸の長さが挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向の中間位置に設けられているとした。
【0044】
図3(a)は、ヤング率に対する反共振点のQ値、図3(b)は、ヤング率に対する実効的電気機械結合係数keffを示す図である。比較例1は、挿入膜28を設けない共振器に対応する。挿入膜28の材料として、Al、SiO、Ti、Cr,AlN、RuおよびWについて計算した。
【0045】
図3(a)を参照し、ヤング率が小さい材料を挿入膜28とすることにより反共振点のQ値が高くなる。ヤング率がAlNより小さくなると、Q値が比較例1より高くなる。これは、以下の理由による。すなわち、外周領域52にヤング率が小さい挿入膜28が設けられることにより、共振領域50の外周領域52において弾性波の振動が小さくなる。これにより、共振領域50の外周が固定端として弾性波が固定端反射される。よって、弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏れることを抑制する。これにより、Q値が高くなる。挿入膜28のヤング率は、圧電膜14のヤング率より小さいことが好ましく、圧電膜14のヤング率の90%以下がより好ましく、80%以下がより好ましい。
【0046】
図3(b)を参照し、実効的電気機械結合係数keffは、挿入膜28を金属とすると高くなる。挿入膜28を金属とすることにより共振領域50における弾性波の電界分布が揃うためと推測される。
【0047】
図4および図5は、T1/T2に対するFOMを示す図である。横軸は、挿入膜28の膜厚T1、共振領域50内の中央領域54における積層膜18の膜厚T2のときのT1/T2である。縦軸のFOMは、実効的電気機械結合係数×√(共振点のQ値×反共振点のQ値)から導出される。図4を参照し、挿入膜28をAlまたはSiOとした場合についてシミュレーションした。FOMが高くなるとフィルタの損失が小さくなる。T1/T2を0.2以下とすることにより、FOMを比較例1より大きくできる。T1/T2は、0.15以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。また、0.03以上であることが好ましい。
【0048】
図5は、挿入膜28をAlとした場合についてシミュレーションした。比較例2は、圧電膜14と下部電極12との間の界面に挿入膜28を設けた場合の例である。比較例3は、圧電膜14と上部電極16との間の界面に挿入膜28を設けた場合の例である。実施例1のように、挿入膜28を圧電膜14の膜厚方向の中間位置に設けることで、FOMを大きくできる。挿入膜28は圧電膜14の中間位置に設けることにより、FOMを最も大きくできる。挿入膜28は圧電膜14の中間位置でなくても圧電膜14内に設けられることが好ましい。これにより、比較例2および3よりFOMを大きくできる。
【0049】
図6は、挿入膜の正規化した幅に対するFOMを示す図である。挿入膜28の幅Wは、共振領域50内の外周に直交する方向の幅である(図1(b)参照)。図6を参照し、挿入膜28をAlとし、膜厚を150nmとした場合についてシミュレーションした。幅Wは厚み振動の弾性波の波長λで正規化した。ここで、波長λは共振領域50内の中央領域54における積層膜の膜厚T2の2倍に等しい。W/λが2.5以下において、FOMが比較例1より大きくなる。このように、挿入膜28の共振領域50内における挿入膜28の幅Wは、弾性波の波長λの2.5倍以下が好ましい。幅Wは波長λの0.3倍以上かつ1.7倍以下がより好ましい。1.5倍以下がさらに好ましい。
【0050】
実施例1によれば、挿入膜28が圧電膜14中に挿入され、共振領域50内の外周領域52の少なくとも一部に設けられる。一方、共振領域50の中央領域54には設けられていない。これにより、横方向に伝搬する弾性波が共振領域50外に漏れることが抑制される。よって、Q値を改善できる。また、図5のように、下部電極12または上部電極16と圧電膜14との界面に挿入膜28を設ける場合に比べFOMを改善できる。
【0051】
図7(a)および図7(b)は、共振領域50の端部近傍の拡大模式図である。図7(a)においては、挿入膜28を設けていない。共振領域50外の圧電膜14を除去することにより、共振領域50からの弾性波の漏洩を抑制している。図7(b)は、実施例1に対応する。図7(a)および図7(b)のように、空隙30は、Q値向上のため、共振領域50より大きい。このため、図7(a)において、圧電膜14を除去した領域58は下部電極12により共振領域50の積層膜が支持される。よって、下部電極12に亀裂が生じ易い。特に、高周波数に対応した圧電薄膜共振器においては、下部電極12が薄くなるため亀裂が生じ易い。
【0052】
図7(b)のように、挿入膜28を設けることにより、領域58には、下部電極12に加え圧電膜14および挿入膜28が設けられる。よって、下部電極12の亀裂を抑制できる。さらに、領域58に、挿入膜28が設けられず、圧電膜14が設けられる場合に比べても圧電膜14の亀裂を抑制できる。
【0053】
このように、挿入膜28は、外周領域52の少なくとも一部から共振領域59外にかけて設けられていることが好ましい。これにより、共振領域50の外周における圧電膜14のクラックを抑制できる。挿入膜28は、共振領域50外であって空隙30上に設けられることが好ましい。以上のようなクラック抑制効果は、特に2.5GHz以上の高周波帯向けに膜厚が薄くなる場合に有効である。
【0054】
図3(a)のように、挿入膜28のヤング率は圧電膜14より小さいことが好ましい。これにより、Q値を向上できる。また、図3(b)のように、挿入膜28を金属膜とすることにより実効的電気機械結合係数を向上できる。さらに、圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、挿入膜28は、Al、Au、Cu、Ti、Pt、Ta、Crおよび酸化シリコンの少なくとも一つを主成分とすることが好ましい。
【実施例2】
【0055】
図8(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、図8(b)は、挿入膜の平面図、図8(c)および図8(d)は、図8(a)のA−A断面図である。図8(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、図8(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。図8(a)から図8(d)に示すように、挿入膜28は、共振領域50内に設けられ共振領域50外には設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0056】
実施例2のように、共振領域50外に挿入膜28が設けられていなくともQ値を改善することができる。
【実施例3】
【0057】
図9(a)は、実施例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、図9(b)は、挿入膜の平面図、図9(c)は、図9(a)のA−A断面図である。図9(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器の断面図を示している。図9(a)から図9(c)に示すように、挿入膜28は、外周領域52の一部に設けられ、外周領域52の一部55には挿入膜28が設けられていない。また、挿入膜28は、外周領域52に加え共振領域50を囲む領域56に設けられている。その他の構成は実施例2と同じであり説明を省略する。
【0058】
実施例3のように、挿入膜28は外周領域52の一部に設けられていればよい。挿入膜28が外周領域52の一部に設けられていても弾性波の共振領域50外への漏洩を抑制できる。挿入膜28は共振領域50の外周の少なくとも50%以上に設けられていることが好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。挿入膜28は、共振領域50外の空隙30の領域を含むように設けられることが好ましい。これにより、圧電膜14または下部電極1の亀裂を抑制できる。
【実施例4】
【0059】
図10(a)は、実施例4に係る圧電薄膜共振器の平面図、図10(b)は、挿入膜および付加膜の平面図、図10(c)および図10(d)は、図10(a)のA−A断面図である。図10(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、図10(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。図10(a)から図10(d)に示すように、下部電極12と重なる外周領域52に挿入膜28が設けられている。上部電極16上に付加膜26が設けられている。付加膜26は、例えば下からTi膜およびAu膜である。付加膜26は弾性波が共振領域50の外に漏洩することを抑制する。付加膜26は、他の金属を用いてもよい。
【0060】
実施例4のように、挿入膜28は外周領域52の一部に設けられ、付加膜26が外周領域52の他の領域に設けられていてもよい。挿入膜28および付加膜26が中央領域54の外周の全てを囲んでいることが好ましい。挿入膜28および付加膜26が中央領域54の外周の一部を囲んでいてもよい。
【実施例5】
【0061】
図11(a)は、実施例5に係る圧電薄膜共振器の平面図、図11(b)は、挿入膜および開口の平面図、図11(c)および図11(d)は、図11(a)のA−A断面図である。図11(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、図11(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。図11(a)から図11(d)に示すように、上部電極16と重なる外周領域52に挿入膜28が設けられている。下部電極12上の圧電膜14が除去され開口36が形成されている。圧電膜14は、上部電極16が庇になるように除去されている。開口36は弾性波が共振領域50の外に漏洩することを抑制する。開口36は、共振領域50の外に設けられていれば、下部電極12上以外に設けられていてもよい。
【0062】
実施例5のように、挿入膜28は外周領域52の一部に設けられ、外周領域52の他の領域の外に圧電膜14の開口36が設けられていてもよい。挿入膜28および開口36が中央領域54の外周の全てを囲んでいることが好ましい。挿入膜28および開口36が中央領域54の外周の一部を囲んでいてもよい。
【実施例6】
【0063】
実施例6は、空隙の構成を変えた例である。図12(a)は、実施例6に係る圧電薄膜共振器の断面図、図12(b)は、実施例6の変形例に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図12(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0064】
図12(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0065】
なお、実施例6およびその変形例において、実施例2と同様に共振領域50内にのみ挿入膜28が設けられていてもよい。また、実施例3のように、外周領域52の一部にのみ挿入膜28が設けられていてもよい。実施例4のように、付加膜26が設けられていてもよく、実施例5のように開口36が設けられていてもよい。
【0066】
実施例1から6のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例6の変形例のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。
【0067】
実施例1から実施例6およびその変形例において、共振領域50が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域50は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【実施例7】
【0068】
実施例7はデュプレクサの例である。図13は、実施例7に係るデュプレクサの回路図である。図13に示すように、デュプレクサは、送信フィルタ40および受信フィルタ42を備えている。送信フィルタ40は、共通端子Antと送信端子Txとの間に接続されている。受信フィルタ42は、共通端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。共通端子Antとグランドとの間には、整合回路としてインダクタL1が設けられている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL1は、送信フィルタ40を通過した送信信号が受信フィルタ42に漏れず共通端子Antから出力されるようにインピーダンスを整合させる。
【0069】
送信フィルタ40は、ラダー型フィルタである。送信端子Tx(入力端子)と共通端子Ant(出力端子)との間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。送信端子Txと共通端子Antとの間に1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。並列共振器P1からP3のグランド側は共通にインダクタL2を介し接地されている。直列共振器、並列共振器およびインダクタ等の個数や接続は所望の送信フィルタ特性を得るため適宜変更可能である。直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3の少なくとも1つを実施例1から6および変形例の圧電薄膜共振器とすることができる。
【0070】
図14(a)は、送信フィルタの平面図および断面図、図14(b)は、図14(a)のA−A断面図である。図15は、送信フィルタの挿入膜の平面図である。図14(a)および図14(b)に示すように、実施例1に係る圧電薄膜共振器を同一基板10に形成し、ラダー型フィルタとすることができる。圧電膜14に開口36が形成され、挿入膜28に開口37が設けられている。開口36および37を介し下部電極12と電気的に接続することができる。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。各共振器S1からS4およびP1からP3の共振領域50の大きさおよび形状は、適宜変更可能である。
【0071】
受信フィルタ42は、ラダー型フィルタでもよく、多重モードフィルタでもよい。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方をラダー型フィルタまたはラティス型フィルタとすることができる。また、送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方の少なくとも1つの共振器を実施例1から6および変形例の圧電薄膜共振器とすることができる。
【0072】
フィルタが実施例1から6および変形例の圧電薄膜共振器を含む。これにより、共振器のQ値が向上し、フィルタのスカート特性を向上できる。
【0073】
また、送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例1から6および変形例の圧電薄膜共振器を含むフィルタとすることができる。
【実施例8】
【0074】
実施例8は、挿入膜28の側面をテーパーとする例である。図16は、作製した実施例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。各層の膜厚は以下である。下部電極12のCr膜からなる下層12aの膜厚は100nm、Ru膜からなる上層12bの膜厚は200nmである。AlN膜からなる圧電膜14の膜厚は1200nmである。酸化シリコン膜からなる挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの膜厚は250nm、Cr膜からなる上層16bの膜厚は50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の膜厚は50nmである。圧電膜14に、挿入膜28の端を起点にクラック60が発生した。
【0075】
クラックの影響を調査するため、図16の構造において、クラック60の有る場合とない場合のQ値をシミュレーションした。シミュレーションは有限要素法を用いた。図17は、周波数に対するQ値をクラック有無について示した図である。図17を参照し、クラックがある場合、無い場合よりQ値が低くなる。特に、共振点以上の周波数において、クラックによりQ値が低くなる。
【0076】
図18(a)および図18(b)は、それぞれ比較例4および実施例8に係る挿入膜の端部の拡大図である。図18(a)を参照し、挿入膜28の側面74が、下面70および上面72に対しほぼ直角に形成されている場合、側面74と上面72との交わる角76を起点にクラック60が発生してしまう。図18(b)を参照し、側面74を上面72が下面70より小さくなるテーパーを有するように形成する。側面74と下面とのなすテーパー角αは鋭角となる。すなわち、側面74と上面72とのなす角度が鈍角となる。よって、角76を起点としたクラックの発生を抑制できる。
【0077】
図2(b)において挿入膜28を加工するときに、挿入膜28の側面74がテーパーを有するように加工する。加工方法は、例えばドライエッチングまたはウェットエッチングを用いる。エッチング条件および/またはエッチングマスクの条件を適宜変更することにより、テーパー角αを任意に設定できる。
【0078】
図19は、角度αに対するクラック発生率を示す図である。テーパー角αのサンプルを作製し、作製したサンプルの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用い観察した。サンプルのうちクラックが観察されるサンプルをクラックが発生したサンプルとした。観察したサンプルに対するクラックの発生したサンプルの割合をクラック発生率とした。図19の実線は、測定点を近似した線である。図19を参照し、テーパー角αが60°を越えるとクラック発生率が80%を越える。よって、テーパー角αは60°以下が好ましい。テーパー角が40°以下ではクラック発生率はほぼ0%である。よって、テーパー角αは40°以下がより好ましい。
【0079】
テーパー角αを30°と75°とした図16の構造の圧電薄膜共振器を作製しQ値を測定した。テーパー角αが75°のサンプルはクラックが発生しており、テーパー角αが30°のサンプルはクラックが発生していない。各膜厚は図16において説明したとおりである。共振領域50は主軸が225μm、副軸が140μmの楕円形状である。W/λは0.7である。図20は、αが30°と75°のときの周波数に対するQ値を示す図である。図20を参照し、テーパー角αが30°のサンプルは、75°に比べQ値が高い。特に、共振点以上において、30°サンプルはQ値が改善している。このように、テーパー角αを60°以下とすることにより、クラックの発生が抑制され、Q値が向上する。
【0080】
図21(a)から図22(b)は、圧電薄膜共振器の平面図である。図21(a)から図22(b)は、それぞれ実施例1の図1(b)、実施例2の図8(b)、実施例3の図9(b)、実施例4の図10(b)および実施例5の図11(b)に相当する図である。太い実線62は、挿入膜28の側面がテーパーを有することを示している。図21(a)を参照し、実施例1に実施例8を適用し、挿入膜28に形成された開口に沿った側面をテーパーとする。図21(b)を参照し、実施例2において、挿入膜28に形成された開口に沿った側面に加え、挿入膜の外周に沿った側面をテーパーとする。図21(c)を参照し、実施例3において、挿入膜28が設けられていない一部55の沿った側面をテーパーとする。図22(a)を参照し、実施例4において、挿入膜28の側面をテーパーとする。図22(b)を参照し、実施例5において、挿入膜28の側面をテーパーとする。
【0081】
以上のように、実施例8を実施例1から6に適用することができる。なお、主に共振領域50内および近傍に発生したクラックが問題となる。このため、共振領域50内および近傍の挿入膜28の側面がテーパーを有し、その他の挿入膜28の側面はテーパーを有さなくてもよい。また、実施例8に係る圧電薄膜共振器をフィルタまたはデュプレクサに用いることもできる。
【0082】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
16 上部電極
28 挿入膜
30 空隙
31 音響反射膜
50 共振領域
52 外周領域
54 中央領域
70 下面
72 上面
74 側面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図22