特許第6336713号(P6336713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6336713生体組織情報を可視化する光ファイバが搭載された装置の作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336713
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】生体組織情報を可視化する光ファイバが搭載された装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/01 20060101AFI20180528BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180528BHJP
   G01K 11/12 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   A61B5/00 101H
   G01N21/64 F
   G01K11/12 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-105462(P2013-105462)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-226163(P2014-226163A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】513124411
【氏名又は名称】アジアメディカルセンター,プライベート リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100140626
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 美和子
(72)【発明者】
【氏名】中山 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】槇尾 晴之
(72)【発明者】
【氏名】畦崎 崇
(72)【発明者】
【氏名】松居 成和
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−124768(JP,A)
【文献】 特開平02−293635(JP,A)
【文献】 特表昭62−501448(JP,A)
【文献】 特表2013−506482(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0135881(US,A1)
【文献】 特開平11−258159(JP,A)
【文献】 米国特許第04652143(US,A)
【文献】 特開平03−120446(JP,A)
【文献】 特開平02−193027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/01
G01K 11/12
G01N 21/62−21/74
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に固定化されている環境応答性色素を封入した有機高分子微粒子を備える光ファイバが搭載された装置により、生体組織情報を可視化する、光ファイバが搭載された装置の作動方法であって、
前記光ファイバの先端に固定化されている前記環境応答性蛍光色素が、前記生体組織情報に応じた蛍光の発色をする工程と、
前記発色に基づいて、前記生体組織情報を可視化する工程と、
を含むことを特徴とする光ファイバが搭載された装置の作動方法。
【請求項2】
生体の温度を1℃の1.0%以上の感度で検出できる超高感度、マイクロメーターの解像度で、正確な生体組織情報と容態をセンシングすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバが搭載された装置の作動方法。
【請求項3】
前記有機高分子粒子は、体積50%平均粒径が1〜35nmの均質な高分子粒子であること、またはバインダーにより固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバが搭載された装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の温度等を測定・解析すること、患部を診断するための装置、及びその装置の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体情報を取得する方法として、内視鏡検査、X線撮影、CT検査、超音波検査など様々な技術が実用化されている。このうち、内視鏡技術は人間に様々な部位に適用できる極めて重要な計測法のひとつであり、内視鏡先端部に多様な機能を搭載することにより患者の負担がかからない様々な診断、治療法の確立が可能となり、ロボット手術等応用範囲が広い技術である。更に、MRI下での診断、治療も患者の負担軽減とともに、術中リアルタイムにダイナミックな状況をモニタリングできるメリットがあり、診断と治療の質向上に大きく貢献できるものである。しかしながら、内視鏡に関しては、外径1.7mmの壁がなかなか超えられないのと、現在の極細径内視鏡(外径2mm前後)、その他非侵襲性診断方法の空間分解能は必ずしも十分なものでなく、病巣部特定の精度向上や、細胞レベルでの診断や治療のための診断、治療方法確立が要求されている。
【0003】
体温測定は、バイタルサインの1つとして、古くから用いられている生体の状態を知るための基本的な手法である。細胞分子レベルにおいても多くの反応に温度変化があることは科学的に証明されているが、細胞レベルでの温度測定を診断や治療に役立てたり、環境応答性を利用した生体機能計測に応用されるには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明において、環境応答性色素のうち、温度感受性色素を用いて有機高分子に封入(カプセル化)し、このカプセル化された色素を光ファイバ先端に固定化させることにより、接触部位での温度計測が可能となり、例えば脳表面や生体内深部などの温度を計測することもできるようになる。有機高分子の種類を変えることにより温度領域、感度を制御できる。色素団の種類を変えることにより感度、色調を変えることもできる。本計測機器が0.1℃以下温度変化を検出できる場合、組織や細胞の構造を温度マップを通して可視化することができる。また、脳神経系においては神経活動計測が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる生体組織情報をセンシングする機能を搭載した複合型光ファイバ装置は、環境応答性色素を包含した有機高分子を先端に固定化した光ファイバがパーツとして用いられていることを特徴としている。この環境応答性色素に与えられた生体内の情報を光ファイバを通じて解析することができる。
【0006】
1) 環境応答性色素
請求項1〜5に記載の環境応答性色素として、例えば、温度感受性蛍光色素、圧力感受性蛍光色素、酸素感受性蛍光色素、金属(金属イオン)感受性蛍光色素、pH(酸、塩基)感受性蛍光色素などが挙げられる。代表例として温度感受性蛍光色素について説明する。
【0007】
[温度感受性蛍光色素]
本発明で用いる温度感受性蛍光色素としては、温度に対して線形的に蛍光強度が変化する化合物が挙げられる。好ましくは、所定の温度範囲において、0.1%/1℃以上、さらに好ましくは1.0%/1℃以上の蛍光強度変化を示す物が好ましい。好適にはユウロピウム(Eu)、ランタン(La)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)、イットリビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)から選ばれる希土類元素とβ−ジケトンキレート類との錯体化合物、あるいはイリジウム(Ir)と芳香族類との錯体化合物が用いられる。この内、ユウロピウムとβ−ジケトンキレート類との錯体化合物、イリジウム(Ir)と芳香族類との錯体化合物が好ましい。具体的には、トリス(テノイルトリフルオロアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(TTA))またはその誘導体(水和物等)、トリス(ベンゾイルアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(bac))、トリス(ジベンゾイルメタナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(dbm))、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu
(III)(hfacac))、トリス(アセチルアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(acac))、(1,10−フェナントロリン)トリス(テノイルトリフルオロアセテート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(TTA)PHEN)、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(III)(ppy))が挙げられ、特に室温付近での蛍光の収率が高いことなどから、トリス(テノイルトリフルオロアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(TTA))またはその誘導体(水和物等)が最も好適に用いられる。
【0008】
温度感受性蛍光色素含有共重合体粒子が濃度差を持って封入、固定化された場合、蛍光強度にばらつきが生じ、温度検出素子として誤差を生じる。そのばらつきに対し、リファレンスとして非温度感受性蛍光色素を同時封入させることにより補正することが出来る。非温度感受性蛍光色素としては、用いる温度感受性蛍光色素の蛍光の波長分布と重ならないことが好ましい。Eu錯体は300nm付近の波長で励起した場合、600nm付近(赤色光)のエネルギー放出が見られる。この場合、リファレンスとしては500nm以下(青〜緑色光)に発色が観察される蛍光色素が好ましく、フルオレセリンやその誘導体、ローダミン誘導体、シアニン誘導体などが挙げられ、具体的にはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンB等挙げられる。
【0009】
2)有機高分子
請求項2記載の有機高分子の好ましい例として、例えば、Poly(ethylene); Poly(propylene); Poly(ethylene-co-propylene); Poly(ethylene-co-butene); Poly(ethylene-co-hexene); Poly(ethylene-co-octene); Poly(4-methyl-1-pentene); Poly(acrylic acid); Poly(acrylamide); amphiphilic derivative of dextran; Poly(acrylonitrile); Poly(butyl acrylate); Poly(n-butyl cyanoacrylate); Poly(butyl methacrylate); Poly(methacrylic acid); polymeric surfactant based on carboxymethyl cellulose and alkyl poly(etheroxy)acrylate; Carboxymethylated poly(ethylene glycol); Poly(chloromethyl styrene); Poly(styrene); Poly(methyl methacrylate); Poly(isobutyl methacrylate); Poly(dodecyl methacrylate); Poly((dimethylamino)ethyl methacrylate); Poly(ethyl cyanoacrylate); Poly(ethylene glycol); Poly(glycidyl methacrylate); Poly(hydroxylethyl methacrylate); Poly(hexyl methacrylate); Poly(ethylene-co-butylene); Poly(ethylene-co-butylene)-b-poly(ethylene oxide); Poly(lauryl methacrylate); monomethoxy-poly(ethylene glycol); monomethoxy-poly(ethylene oxide)-poly(lactic acid); Poly(N-methylolacrylamide); Poly(N-vinyl pyrrolidone); Poly(oligo(ethylene oxide) monomethyl ether methacrylate); Pullulan acetate; Polyaniline-poly(styrenesulfonic acid); Poly(γ-benzyl-l-glutamate)-b-poly(ethylene oxide); Poly(ε-caprolactum); Poly(N,N-dimethylacrylamide) with a reactive trithiocarbonate; Poly(oxyethylene)-poly(oxypropylene) copolymer; Poly(hydroxyl butyrate); Poly(heptadecafluorodecylacrylate); Poly(hydroxyethyl methacrylate); Poly(lactide-fumarate); Poly(d,l-lactic acid-co-glycolic acid); Poly(lactide-co-glycolide fumarate); Poly(l-lactic acid); Poly(α,β-l-malic acid); Poly(methacrylic acid-co-styrene); Poly(N-isopropylacrylamide); Poly(N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid); Poly(ethylene oxide)-poly(propylene oxide) ethylene diamine co-polymer; Poly(organophosphazene); Poly[2-(3-thienyl) acetyl-3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-tridecafluorooctanoate]; Poly(styrenesulfonic acid); Poly(trimethylene carbonate); Poly(vinyl alcohol); SHOA, Poly(stearyl methacrylate); 5-sulfoisophthalic acid dimethyl ester sodium salt modified tetracarboxylic acid-terminated polyester; Poly(vinyl acetate) などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0010】
3)バインダー
本発明において、請求項5記載のバインダーの好ましい例として、有機高分子化合物、珪素酸化物などの無機酸化物、珪素系高分子化合物などが挙げられるが、これに限定されるものでない。
【0011】
バインダーによる、ファイバ先端への刺激応答性色素が封入された有機高分子微粒子の固定化方法としては、バインダーまたはその前駆体、及び環境応答性色素が封入された有機高分子微粒子が溶解または分散した液をファイバ先端に塗布し、乾燥固化する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
外径〜1mmを維持した状態で固定化されたナノ粒子は、脳組織の構造やトラクト構造を可視化できた。脳深部に挿入することにより脳内構造を容易に可視化できると同時に、細胞構造まで同定が可能であった。
【0013】
本発明により、例えば、感度の高い温度感受性色素を用いて、体内深部の温度変化を感知することで内視鏡診断のスピードや精度の向上が期待できる。また、本発明を治療用内視鏡と複合したり、MRIと併用することにより、従来より正確な診断・治療が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0015】
〈環境応答性蛍光色素含有共重合体粒子水分散液の調整〉
有機高分子微粒子15重量部と温度感受性蛍光色素であるトリス(テノイルトリフルオロアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(TTA)3)0.03重量部、非温度感受性蛍光色素であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)0.00001重量部、蒸留水85重量部を100mlのオートクレーブに装入し、135℃、800rpmの速度で30分間加熱撹拌の後、撹拌を保ったまま室温まで冷却して、環境応答性蛍光色素含有共重合体粒子水分散液を得た。
【0016】
[実施例1]
上記で得られた環境応答性蛍光色素含有重合体粒子水分散液を50重量部、10%TMOS/メタノール溶液を25重量部、1%NH3溶液を3重量部を混合した液を調製し、診断装置のプローブとなる光ファイバ先端に塗布後に、100度のオーブンで30分間加熱することで、環境応答性蛍光色素を光ファイバ先端に固定化させた。
【0017】
[実施例2]
トリス(テノイルトリフルオロアセトナート)ユウロピウム(III)(Eu(III)(TTA)3)0.23重量部、非温度感受性蛍光色素であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)0.000077重量部、10%TMOS/メタノール溶液を25重量部、1%NH3溶液3重量部を混合した液を調製し、診断装置のプローブとなる光ファイバ先端に塗布後に、100度のオーブンで30分間加熱することで、環境応答性蛍光色素を光ファイバ先端に固定化させた。
【0018】
[実施例3]
Eu-TTAとFITCを封入したナノ粒子を用い、マウス急性脳切片の温度計測を行った。一番左は小脳切片、残りの2つは大脳部位である。赤が濃い部分は相対的に温度が高く、緑が濃い部分は温度が低い。温度マップを利用することにより組織構造と神経線維が観察できることが解る。Eu-TTAの蛍光強度を、23〜37℃付近で温度依存的蛍光強度変化を受けないFITCに対し相対比(レシオ)をとることにより生体温度差をより明確に示す事ができる。数値化も可能である。
マウス矢状切片が、95%O2/5%CO2で飽和されたKrebs-Ringer液内中で、250mmの厚みで調整された。Eu-TTAとFITCを封入した実施例1で用いた微粒子を超純水に融解し、微粒子を直接脳切片に適用した。下記はそれを顕微鏡下で観察したものである。